説明

プロトン交換膜用のポリマー、プロトン交換膜、及びそれらの製造方法

本発明は、主鎖と、当該主鎖と結合する分岐鎖とを含むポリマーを有するプロトン交換膜であって、上記分岐鎖の化学式が、


(式中、nは3〜6の整数である)であり、且つ上記主鎖が、脂肪族ポリマー、脂肪族ブロックポリマー及び脂肪族ランダムコポリマーから成る群から選択されるポリマーである、プロトン交換膜に関する。上記ポリマーの製造方法は、分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーを、スルホ−アルキル化化学試薬及び触媒と、無水溶媒中、不活性雰囲気下で反応させる工程と;得られるスルホ−アルキル化ポリマーを分離する工程と;酸性化する工程であって、それにより製造されたポリマーを得る、酸性化する工程とを含む。これらのポリマーを用いて製造されるプロトン交換膜は、柔軟であり、湿潤条件下であまり膨張することなく、化学的に、加水分解において、寸法において且つ熱的に安定である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン交換膜に使用することができる新たなタイプの分岐鎖構造を有するポリマー、プロトン交換膜、及びそれらの製造方法に関する。詳細には、本発明は、スルホン酸ラジカルを含有するポリマーを含むポリマー、及び当該ポリマーを含むプロトン交換膜に関する。
【0002】
本願は、中国出願第200410097037.7号を有する2004年12月21日付けで出願された"Polymers and Proton Exchange Membranes with these Polymers"と題される中国特許出願により優先権を主張する。この出願は、参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
燃料電池は、電気化学原理に従い、水素及びアルコール等の燃料並びに酸素等の酸化剤中に蓄積した化学エネルギーを、電気エネルギーに変換するエネルギー変換装置である。燃料電池は高エネルギー変換率を有しており、環境にやさしい。プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)は低温で作動させることができ、高い比出力を有するため、民生用途及び軍事用途の両方に対する新たな電源である。例えば、プロトン交換膜燃料電池は、独立した発電所、並びに電気自動車及び潜水艦用の移動電源に使用することができる。
【0004】
プロトン交換膜は、PEMFCにおける重要な構成要素である。PEMFCの作動条件には、以下の特性:(1)高プロトン伝導性能(プロトン伝導体として、プロトン膜は、良好なプロトン伝導性能を0.1S/cm以上で有さなければならない。さらに、プロトン膜は電子を絶縁するものでなければならない);(2)良好な機械特性(プロトン膜は、燃料電池作動時のガス圧における揺動(fluctuations)に耐えるくらい十分に強く、且つ破断も断裂もしないものでなければならない);及び(3)化学安定性、加水分解安定性、寸法安定性及び熱安定性を有するような、プロトン交換膜の性能及び安定性が要求される。
【0005】
過去に、一般的に使用されたプロトン交換膜は、E. I. DuPont de Nemours and Company (米国)製のNafionシリーズの膜であった。Nafionシリーズの膜は、ペルフルオロスルホン酸構造を有する膜である。ペルフルオロスルホン酸構造は、極めて安定なC−F化学結合を有するため、化学的に安定である。しかしながら、これらの膜は、特定の製造プロセスを必要とするため、高価である。したがって、これらの膜を燃料電池の市販製品において使用することは、経済的ではない。さらに、大量のフッ化物が、Nafion膜の製造において使用される。その結果、製造用の反応設備は、ストリンジェントで高価な仕様を必要とする。加えて、この製造プロセスは有害な環境汚染物質を発生する。したがって、コストが安く且つフッ化物を含有しないか又は部分的にしか含有しない、プロトン交換膜用の材料を探す必要がある。
【0006】
米国特許第5795496号は、プロトン伝導特性を改良するためにポリマーを処理する方法を開示している。この方法は、必要なプロトン伝導特性を有する材料を形成することができる処理されたポリマー材料を入手する(obtaining)工程と;スルホン化法を用いて当該ポリマー材料を処理する工程であって、それによりそのプロトン伝導性能を高める、処理する工程と;及びこのスルホン酸ラジカルを架橋する工程であって、それにより、非対称なバランスの表面密度を有する材料を得る、架橋する工程を含む。この方法は、スルホン化ポリエーテル−エーテル−ケトン(S−PEEK)プロトン交換膜を製造することができる。さらに、この膜を加熱処理することにより、架橋構造を有するプロトン交換膜が製造される。この方法を用いて製造される膜は、より高いプロトン伝導特性を有し、熱的に安定である。しかしながら、これらの膜は、吸水後に著しく膨張し、乏しい寸法安定性及び加水分解安定性を有する。ベンゼン環と直接結合するスルホン酸ラジカル(−SO3H)の構造は不安定である。このため、スルホン酸濃度を減少させ、温度を上げると、スルホン酸ラジカルは、ベンゼン環から容易に分離するおそれがあり、乏しい加水分解特性をもたらし、膜の耐用年数が限定されてしまう。
【0007】
欧州公開特許第1296398号(A2)、カナダ特許第2394674号、米国特許第6670065号(B2)及び米国特許第20030096149号(A1)は、アルキル−スルホン酸分岐鎖と芳香族主鎖とを有するポリマー、及び良好な耐加水分解安定性を有するそれらのプロトン交換膜を開示している。米国特許第6670065号(B2)は、ポリエーテル−スルホンを有する、電解質用の固体ポリマーを開示している。このポリエーテル−スルホンは、化学式:−(CH2n−SO3H(式中、nは1〜6の整数である)を有する結合スルホ−アルキルラジカルを有する。この電解質は、良好な耐加水分解安定性を有する。しかしながら、乾燥条件下において、このポリマーから成るプロトン膜は、脆性であり、容易に断裂するおそれがある。また、吸水後に、湿ったプロトン膜は著しく膨張し、乏しい寸法安定性及び乏しい機械強度を有する湿った膜となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、従来技術の限定から、化学的に、加水分解において、寸法において且つ熱的に安定な、プロトン交換膜用の新規のポリマーを有することが望まれる。
本発明の目的は、プロトン交換膜として使用することができる新規のポリマーを提供することである。
本発明の別の目的は、柔軟であり、化学的に、加水分解において、寸法において且つ熱的に安定なプロトン交換膜を提供することである。
本発明の別の目的は、コストが安いプロトン交換膜用のポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、主鎖と、当該主鎖と結合する分岐鎖とを含むポリマーを有するプロトン交換膜であって、上記分岐鎖の化学式が、
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、nは3〜6の整数である)であり、且つ上記主鎖が、脂肪族ポリマー、脂肪族ブロックポリマー及び脂肪族ランダムコポリマーから成る群から選択されるポリマーである、プロトン交換膜に関する。上記ポリマーの製造方法は、分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーを、スルホ−アルキル化化学試薬及び触媒と、無水溶媒中、不活性雰囲気下で反応させる工程と;得られるスルホ−アルキル化ポリマーを分離する工程と;酸性化する工程であって、それにより製造されたポリマーを得る、酸性化する工程とを含む。
【0012】
本発明の利点は、本発明のポリマーを用いて製造されるプロトン交換膜が、柔軟であり、湿潤条件下であまり膨張することなく、化学的に、加水分解において、寸法において且つ熱的に安定なことである。
【0013】
本発明の別の利点は、本発明のポリマーのコストが安いことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の目下好ましい実施形態は、主鎖と、当該主鎖と結合する分岐鎖とから成るポリマー(「プロトン交換膜ポリマー」)である。上記分岐鎖の化学式は、
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、nは3〜6の整数である)である。主鎖と分岐鎖とは、当該分岐鎖中のベンゼン環の1つの化学結合位置で結合する。nについての好ましい選択は、3又は4のいずれかである。上記主鎖は、脂肪族ポリマー、脂肪族ブロックポリマー及び脂肪族ランダムコポリマーの群から選択されるポリマー(第1のポリマー)である。
【0017】
上記分岐鎖中のラジカル−(CH2n−SO3Hは、主鎖と結合するベンゼン環の化学結合のパラ位、メタ位又はオルト位の位置で、分岐鎖中のベンゼン環と結合し得る。
【0018】
上記プロトン交換膜ポリマーの数平均分子量は、100000〜600000である。数平均分子量の最適値は200000〜400000である。
【0019】
[SO3H]ラジカルを含有するポリマーの当量(EW)は、[SO3H]ラジカル1molを有するポリマーの重量である。この当量は、イオン交換当量に相当するものである。ポリマーのイオン交換能(IEC)は、乾燥プロトン交換膜ポリマー1g当たりの[SO3H]ラジカルのモル数である。ポリマーの当量の値が小さいほど、そのIECは大きく、且つ上記乾燥ポリマー1g当たりの[SO3H]ラジカルのモル数が大きい。
【0020】
上記プロトン交換膜ポリマーの当量は400〜3000である。当量の最適値は、600〜1500である。ポリマーの当量は、塩基滴定法によって測定することができる。測定の工程は、ポリマーを110℃で24時間真空乾燥すること:この乾燥されたポリマーをM(g)で秤量すると共に、それを所定量の1mol/Lの塩化ナトリウム溶液中に24時間浸して完全にイオン交換させること;フェノールフタレインを指示薬として使用すると共に、0.025mol/Lの濃水酸化ナトリウム溶液で滴定すること;水酸化ナトリウム溶液の消費量V(ml)を記録すること;及び以下の式を用いて上記ポリマーの当量を計算することを含む。
【0021】
【数1】

【0022】
本発明によるプロトン交換膜として使用されるポリマーとしては、限定するものではないが、以下のポリマーが挙げられる。
【0023】
実施形態A
本実施形態Aのポリマー、すなわちスルホ−アルキル化ポリスチレンの分子(化学)式は、
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、mは1000〜6000の整数である。mの最適値は2000〜4000の整数である。)。
【0026】
実施形態B
本実施形態Bは、以下の分子式:
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、m1及びm3は0〜3000の整数であり、m1+m3>0である)を有するポリマーである。m1及びm3の最適値は、500〜1500の整数である。m2は0〜5000の整数であり、m2の最適値は1500〜3500である。m1≠0、m2≠0及びm3≠0である場合、本実施形態におけるポリマーは、スルホ−アルキル化スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックポリマー(SEBS)である。
【0029】
実施形態C
本実施形態Cは、以下の分子式:
【0030】
【化5】

【0031】
(式中、m4は300〜3000の整数であり、m5は1000〜10000の整数である)を有するポリマーである。m4の最適値は、500〜1500の整数であり、m5の最適値は2000〜6000の整数である。m5≠0である場合、ポリマーはスルホ−アルキル化スチレン−エチレンブロックポリマー(SE)である。
【0032】
実施形態D
本実施形態Dは、以下の分子式:
【0033】
【化6】

【0034】
(式中、m6は300〜3000の整数であり、m7は1000〜10000の整数である)を有するスルホ−アルキル化スチレン−エチレンコポリマーである。m6の最適値は、500〜1500の整数であり、m7の最適値は2000〜6000の整数である。
【0035】
実施形態E
本実施形態Eは、以下の分子式:
【0036】
【化7】

【0037】
(式中、m8は300〜3000の整数であり、m9は1000〜6000の整数である)を有するスルホ−アルキル化スチレン−ブチレンコポリマーである。m8の最適値は、500〜1500の整数であり、m9の最適値は2000〜3000の整数である。m9≠0である場合、ポリマーはスルホ−アルキル化スチレン−ブチレンコポリマーである。
【0038】
実施形態F
本実施形態Fのポリマーは、以下の分子式:
【0039】
【化8】

【0040】
(式中、pは1000〜5000の整数である)を有するスルホ−アルキル化ポリ(α−メチル−スチレン)であり、pの最適値は2000〜3000の整数である。
【0041】
実施形態G
本実施形態Gのポリマーは、以下の分子式:
【0042】
【化9】

【0043】
(式中、qは1000〜5000の整数であり、qの最適値は1500〜3000の整数である)を有するスルホ−アルキル化ポリ−トリフルオロ−スチレンである。
【0044】
これらの実施形態は、既存のポリマーをスルホ−アルキル化することによって製造することができる。代替的には、これらの実施形態は、初めに分岐鎖の官能性ユニットを生成し、その後重合化することによって製造することができる。
【0045】
本発明の実施形態であるポリマーの好ましい製造方法は、分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマー(第2のポリマー)を、無水溶媒中でスルホ−アルキル化化学試薬と、不活性雰囲気下で触媒と接触させて反応させる工程と、得られたスルホ−アルキル化ポリマーを分離する工程と、酸性化する工程であって、それにより生成されたポリマーを得る、酸性化する工程を含む。上記接触させて反応させる工程の反応温度は、0〜150℃である。好ましい反応温度は20〜120℃である。上記接触させて反応させる工程の反応時間は1〜200時間である。好ましい反応時間は5〜50時間である。
【0046】
使用される触媒は、無水三塩化アルミニウム、無水塩化亜鉛、無水塩化第二鉄、リン酸塩固体、フッ化水素、ケイ酸アルミニウム及びBF3−H3PO4の1つ又は複数から選択することができる。触媒の好ましい選択は、無水三塩化アルミニウム、無水塩化亜鉛及びフッ化水素の1つ又は複数である。
【0047】
スルホ−アルキル化化学試薬は、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,5−ペンタンスルトン及び1,6−ヘキサンスルトン(sullactone)の1つ又は複数であり得る。好ましくは、スルホ−アルキル化化学試薬は、1,3−プロパンスルトン又は1,4−ブタンスルトンである。当該スルホ−アルキル化化学試薬、触媒、ベンゼン環を有するポリマー及び溶媒のモル比は、1:0.1〜3:0.01〜2:2〜30である。好ましい比率は1:0.5〜2:0.3〜1.5:3〜15である。
【0048】
上記無水溶媒は、ベンゼン環を有する分岐鎖を含む上記ポリマー、触媒及びスルホ−アルキル化試薬を溶解することができる無水溶媒であり、使用後に除去することができる。無水溶媒は、以下の無水溶媒:無水ニトロベンゼン、無水オルト−ニトロベンゼン、無水クロロホルム、無水ジクロロエタン、無水シクロヘキサン、無水ジメチルスルホキシド、無水N,N−ジメチルホルムアミド、無水N−メチルピロリジノン、無水アセトン、無水ブタノン、無水シクロヘキサノンの1つ又は複数であり得る。好ましくは、無水溶媒は、無水ニトロベンゼン、無水クロロホルム、無水ジクロロエタン、無水シクロヘキサン及び無水ジメチルスルホキシドの1つ又は複数である。
【0049】
上記不活性雰囲気は、製造プロセスにおける反応物質又は生成物のいずれとも反応しない任意のガスであり、窒素、又は元素周期表の0族の1つ若しくは複数のガス、又は上記のガスの混合物であり得る。好ましい不活性雰囲気は窒素及び/又はアルゴンのいずれかである。
【0050】
上記分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーは、ベンゼン環を有するポリマーと結合する脂肪族ポリマーの構造ユニットから選択することができる。例えば、分子式:
【0051】
【化10】

【0052】
(式中、mは1000〜6000の整数である)を有するポリスチレンである。mの最適値は2000〜4000の整数である。上記分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーは、以下の分子式:
【0053】
【化11】

【0054】
(式中、m1及びm3は0〜3000の整数であり、m1+m3>0である)を有するポリマーであり得る。m1及びm3の最適値は、500〜1500である。m2は0〜5000の整数であり、m2の最適値は、1500〜3500である。m1≠0、m2≠0及びm3≠0である場合、本実施形態におけるポリマーは、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックポリマー(SEBS)である。
【0055】
分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーはまた、以下の分子式:
【0056】
【化12】

【0057】
(式中、m4は300〜3000の整数であり、m5は1000〜10000の整数である)を有するポリマーであり得る。m4の最適値は、500〜1500の整数であり、m5の最適値は2000〜6000の整数である。m5≠0である場合、ポリマーはスチレン−エチレンブロックポリマー(SE)である。
【0058】
上記分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーはまた、以下の分子式:
【0059】
【化13】

【0060】
(式中、m6は300〜3000の整数であり、m7は1000〜10000の整数である)を有するスチレン−エチレンコポリマーであり得る。m6の最適値は、500〜1500の整数であり、m7の最適値は2000〜6000の整数である。m7≠0である場合、ポリマーはスチレン−エチレンコポリマーである。
【0061】
上記分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーはまた、以下の分子式:
【0062】
【化14】

【0063】
(式中、m8は300〜3000の整数であり、m9は1000〜6000の整数である)を有するスチレン−ブチレンコポリマーであり得る。m8の最適値は、500〜1500の整数であり、m9の最適値は2000〜3000の整数である。m9≠0である場合、ポリマーはスチレン−ブチレンコポリマーである。
【0064】
上記分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーはまた、以下の分子式:
【0065】
【化15】

【0066】
(式中、pは1000〜5000の整数であり、pの最適値は2000〜3000の整数である)を有するポリ(α−メチル−スチレン)であり得る。
【0067】
上記分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーはまた、以下の分子式:
【0068】
【化16】

【0069】
(式中、qは1000〜5000の整数であり、qの最適値は1500〜3000の整数である)を有するポリ−トリフルオロ−スチレンであり得る。
【0070】
分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーは、商業用ポリマーから購入され得る。分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーはまた、既存の製造方法を用いてユニットから製造され得る。
【0071】
上記ポリマーの酸性化は、得られるポリマーと1種類の酸溶液とを混合してイオン交換させると共に、脱イオン水による洗浄により中和すること等の従来方法によって達成することができる。使用される酸の量は通常、ポリマーのスルホン酸ラジカル(SO3H)のモル量の10〜10000倍である。好ましくは、酸の量は100〜5000倍である。
【0072】
スルホン酸ラジカルが、スルホ−アルキル化反応によりポリマーに導入されるため、本発明によって提供される得られるポリマーは、スルホン酸ラジカルを有するポリマーであり、スルホン酸ラジカル(SO3H)の特徴的な分子振動スペクトルを有する。1211cm-1及び1032cm-1におけるピークは、(O=S=O)の対称振動吸収ピーク及び非対称振動吸収ピークである。718cm-1におけるピークは、(S−O)振動吸収ピークである。したがって、赤外スペクトル法を用いて、本発明の実施形態であるポリマーの構造を確認することができる。
【0073】
上記ポリマーの製造における化学反応の例を、実施形態Aにおけるスルホ−アルキル化ポリスチレンポリマーの製造における化学反応を記載する以下の式で示す。
【0074】
【化17】

【0075】
この反応式において、(1)は第2のポリマー、すなわち分岐鎖中にベンゼン環を有するポリマーであり、(2)はスルホ−アルキル化試薬であり、(3)は触媒であり、(4)は実施形態Aである、製造されるプロトン交換膜ポリマーである。本発明の実施形態であるポリマーを有するプロトン交換膜は、従来のプロトン交換膜中の従来のポリマーを本発明の実施形態であるポリマーで置き換える以外、従来の方法で製造することができる。例えば、溶液流延(solution casting)法を用いて、本発明の実施形態であるポリマーを有するプロトン交換膜を製造することができる。この方法は、得られるポリマー濃度が0.1重量%〜20重量%となり、好ましくは濃度が3〜10重量%となるように、本発明の実施形態であるポリマーを溶液中に溶解する工程と;水平(horizontal)容器中で当該溶液を蒸発させる工程とを含む。
【0076】
上記ポリマーを溶解するのに使用される溶媒については特に限定されないが、この溶媒は使用後に除去できるものとする。溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、トルエン、ニトロベンゼン、オルト−ニトロベンゼン、クロロホルム、ジクロロエタン、シクロヘキサン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、アセトン、ブタノン及びシクロヘキサノンの1つ又は複数から選択することができる。
【0077】
溶媒を蒸発させる温度は、常温〜170℃であり得る。好ましい蒸発温度は、30〜120℃である。蒸発前のポリマーの濃度は0.1〜20重量%であり、最適濃度は、厚さ10〜500μmのプロトン交換膜を得るために3〜10重量%である。
【0078】
実施形態であるポリマーを有するプロトン交換膜の厚さは、従来のプロトン交換膜と同じ厚さであり得る。一般的に言えば、プロトン交換膜の厚さは、10〜500μmであり得る。好ましくは、この厚さは20〜100μmである。
【実施例】
【0079】
以下の実施形態は、本発明のポリマー及びプロトン交換膜をさらに説明及び記載している。
【0080】
実施形態1
スルホ−アルキル化ポリスチレンの製造
スルホ−アルキル化ポリスチレンの製造は、
ポリスチレン樹脂(PS、ポリスチロール(登録商標)143E、BASF(中国)Co. Ltd. 製)13gを窒素保護した(nitrogen protected)4つ口フラスコに加える工程と、
無水ニトロベンゼン50ml及び1,3−プロパン−硫黄−ラクトン12.2gを加える工程と、
ポリスチレン樹脂を完全に溶解させた後に、無水三塩化アルミニウム14.7gをゆっくり加える工程と、
反応温度を80℃に維持すると共に、凝縮還流(condensation reflux)状態で30時間反応させる工程と、
反応を停止させるために、反応溶液を濃塩酸50mlを含む氷水混合物500mlに注ぐ工程と、
粒子状のポリマーを濾過する工程と、
ポリマーを0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液200mlに加える工程と、
一晩、浸漬させる工程と、
樹脂中に残存する塩酸を中和する工程と、
水が中性になるまで、大量の脱イオン水でポリマー粒子を洗浄する工程と、
濾過して、三塩化アルミニウムの加水分解産物を取り除く、濾過する工程と、
0.5mol/Lの希硫酸を使用することによって、樹脂を酸性に戻す工程(使用する希硫酸(0.5mol/L)の量は、このポリマーのスルホン酸ラジカルのモル量の200倍である)と、
脱イオン水で中性になるまで洗浄する工程と、
110℃で真空乾燥して、本実施形態におけるポリマーを得る、真空乾燥する工程と
を含む。
【0081】
このポリマーのEW値は986である。この数平均分子量は300000である。この赤外スペクトルは、1211cm-1及び1032cm-1における(O=S=O)の対称振動吸収ピーク及び非対称振動吸収ピークが存在し、710cm-1における(S−O)の振動吸収ピークが存在することを示す。
【0082】
浸透圧法を使用することによって、数平均分子量を測定する。臭化カリウムコーティング法を使用して、Nicolet(米国)製のNEXUS470フーリエ変換赤外分光光度計から赤外スペクトルを得る。
【0083】
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
トルエン/メタノール溶媒混合物95g中に工程(1)から得られた本実施形態のポリマー5gを溶解する工程(ここで、5重量%含量のポリマー溶液を得るためのトルエン/メタノールの重量比は1:1である)と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液20mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で50℃で水平に(horizontally)加熱することにより、溶媒を蒸発させ、厚さ100μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0084】
実施形態2
スルホ−アルキル化スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックポリマーの製造
スルホ−アルキル化スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックポリマーの製造は、以下の:
スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックポリマー(KRATON Polymers Company製であるSEBS、G1650、及びKRATONポリマー)8gを窒素保護した4つ口フラスコに加える工程と、
無水1,2−ジクロロエタン50ml及び1,3−プロパンスルトン12.2gを加える工程と、
SEBSを完全に溶解させた後に、無水三塩化アルミニウム14.7gをゆっくり加える工程と、
反応温度を80℃に維持すると共に、凝縮還流状態で20時間反応させる工程と、
反応を停止させるために、反応溶液を濃塩酸50mlを含む氷水混合物500mlに注ぐ工程と、
粒子状のポリマーを濾過する工程と、
ポリマーを0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液200mlに加える工程と、
一晩、浸漬させる工程と、
樹脂中に残存する塩酸を中和する工程と、
水が中性になるまで、大量の脱イオン水でポリマー粒子を洗浄する工程と、
濾過して、三塩化アルミニウムの加水分解産物を取り除く、濾過する工程と、
0.5mol/Lの希硫酸を使用することによって、樹脂を酸性に戻す工程(使用する希硫酸(0.5mol/L)の量は、このポリマーのスルホン酸ラジカルのモル量の1000倍である)と、
脱イオン水で中性になるまで洗浄する工程と、
110℃で真空乾燥して、本実施形態におけるポリマーを得る、真空乾燥する工程と
を含む。
【0085】
このポリマーのEW値は1027である。この数平均分子量は290000である。このポリマーの赤外スペクトルは、1211cm-1及び1032cm-1における(O=S=O)の対称振動吸収ピーク及び非対称振動吸収ピークが存在し、710cm-1における(S−O)の振動吸収ピークが存在することを示す。
【0086】
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
1,2−ジクロロエタン/イソプロパノール混合物95g中に工程(1)から得られた本実施形態の樹脂5gを溶解する工程(ここで、5重量%の溶液を製造するための1,2−ジクロロエタン/イソプロパノールの重量比は1:1である)と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液20mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で60℃で水平に加熱することにより、溶媒を蒸発させ、本実施形態の厚さ100μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0087】
実施形態3
スルホ−アルキル化スチレン−エチレンブロックポリマーの製造
スルホ−アルキル化スチレン−エチレンブロックポリマーの製造は、以下の:
スチレン−エチレンブロックポリマー(Dow Chemical Company製のSE)8.5gを窒素保護した4つ口フラスコに加える工程と、
無水1,2−ジクロロエタン50ml及び1,3−プロパンスルトン12.2gを加える工程と、
ポリスチレン−エチレンブロックポリマー樹脂を完全に溶解させた後に、無水三塩化アルミニウム14.7gをゆっくり加える工程と、
反応温度を80℃に維持すると共に、凝縮還流状態で30時間反応させる工程と、
反応を停止させるために、反応溶液を濃塩酸50mlを含む氷水混合物500mlに注ぐ工程と、
粒子状のポリマーを濾過する工程と、
ポリマーを0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液200mlに加える工程と、
一晩、浸漬させる工程と、
樹脂中に残存する塩酸を中和する工程と、
水が中性になるまで、大量の脱イオン水でポリマー粒子を繰り返し洗浄する工程と、
濾過して、三塩化アルミニウムの加水分解産物を取り除く、濾過する工程と、
0.5mol/Lの希硫酸を使用することによって、樹脂を酸性に戻す工程(使用する希硫酸(0.5mol/L)の使用量は、このポリマーのスルホン酸ラジカルのモル量の4000倍である)と、
脱イオン水で中性になるまで洗浄する工程と、
110℃で真空乾燥して、本実施形態におけるポリマーを得る、真空乾燥する工程と
を含む。
【0088】
このポリマーのEW値は1011である。この数平均分子量は280000である。このポリマーの赤外スペクトルは、1211cm-1及び1032cm-1における(O=S=O)の対称振動吸収ピーク及び非対称振動吸収ピークが存在し、710cm-1における(S−O)の振動吸収ピークが存在することを示す。
【0089】
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
トルエン/ジメチルスルホキシド溶媒混合物95g中に工程(1)から得られた樹脂5gを溶解して、5重量%の溶液を製造する、溶解する工程と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液20mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で50℃で水平に加熱することにより、溶媒を蒸発させ、本実施形態の厚さ100μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0090】
実施形態4
スルホ−アルキル化スチレン−エチレンランダムコポリマーの製造
本実施形態でスチレン−エチレンランダムコポリマーを合成するために、"Acta Polymerica Sinica", 1, 2000, P74において参照される方法を使用し、本実施形態の乾燥樹脂スチレン−エチレンランダムコポリマーを得るために精製する。スルホ−アルキル化スチレン−エチレンランダムコポリマーの製造は、以下の:
精製した乾燥樹脂スチレン−エチレンランダムコポリマー12gを窒素保護した4つ口フラスコに加える工程と、
無水クロロホルム50ml及び1,3−プロパンスルトン12.2gを加える工程と、
スチレン−エチレンコポリマー樹脂を完全に溶解させた後に、無水三塩化アルミニウム14.7gをゆっくり加える工程と、
反応温度を40℃に維持すると共に、凝縮還流状態で40時間反応させる工程と、
反応を停止させるために、反応溶液を濃塩酸50mlを含む氷水混合物500mlに注ぐ工程と、
粒子状のポリマーを濾過する工程と、
ポリマーを0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液200mlに加える工程と、
一晩、浸漬させる工程と、
樹脂中に残存する塩酸を中和する工程と、
水が中性になるまで、大量の脱イオン水でポリマー粒子を繰り返し洗浄する工程と、
濾過して、三塩化アルミニウムの加水分解産物を取り除く、濾過する工程と、
0.5mol/Lの希硫酸を使用することによって、樹脂を酸性に戻す工程(使用する希硫酸(0.5mol/L)の量は、このポリマーのスルホン酸ラジカルのモル量の1000倍である)と、
中性になるまで脱イオン水を使用して洗浄する工程と、
110℃で真空乾燥して、本実施形態におけるポリマーを得る、真空乾燥する工程と
を含む。
【0091】
このポリマーのEW値は995である。この数平均分子量は330000である。このポリマーの赤外スペクトルは、1211cm-1及び1032cm-1における(O=S=O)の対称振動吸収ピーク及び非対称振動吸収ピークが存在し、710cm-1における(S−O)の振動吸収ピークが存在することを示す。
【0092】
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
N,N−ジメチルホルムアミド95g中に工程(1)から得られた本実施形態の樹脂5gを溶解して、5重量%の溶液を得る、溶解する工程と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液20mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で80℃で水平に加熱することにより、溶媒を蒸発させ、本実施形態の厚さ100μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0093】
実施形態5
スルホ−アルキル化スチレン−ブチレンランダムコポリマーの製造
本実施形態でスチレン−ブチレンランダムコポリマーを合成するために、"Acta Polymerica Sinica", 1, 2000, P74において参照される方法を使用し、乾燥樹脂スチレン−ブチレンランダムコポリマーを得るために精製する。スルホ−アルキル化スチレン−ブチレンランダムコポリマーの製造は、以下の:
精製した乾燥樹脂スチレン−ブチレンランダムコポリマー12.5gを窒素保護した4つ口フラスコに加える工程と、
無水クロロホルム100ml及び1,3−プロパンスルトン12.2gを加える工程と、
スチレン−エチレンコポリマー樹脂を完全に溶解させた後に、無水三塩化アルミニウム14.7gをゆっくり加える工程と、
反応温度を40℃に維持すると共に、凝縮還流状態で20時間反応させる工程と、
反応を停止させるために、反応溶液を濃塩酸50mlを含む氷水混合物500mlに注ぐ工程と、
粒子状のポリマーを濾過する工程と、
ポリマーを0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液200mlに加える工程と、
一晩、浸漬させる工程と、
樹脂中に残存する塩酸を中和する工程と、
水が中性になるまで、大量の脱イオン水でポリマー粒子を繰り返し洗浄する工程と、
濾過して、三塩化アルミニウムの加水分解産物を取り除く、濾過する工程と、
0.5mol/Lの希硫酸を使用することによって、樹脂を酸性に戻す工程(使用する希硫酸(0.5mol/L)の量は、このポリマーのスルホン酸ラジカルのモル量の1000倍である)と、
脱イオン水で中性になるまで洗浄する工程と、
110℃で真空乾燥して、本実施形態におけるポリマーを得る、真空乾燥する工程と
を含む。
【0094】
このポリマーのEW値は1016である。この数平均分子量は380000である。このポリマーの赤外スペクトルは、1211cm-1及び1032cm-1における(O=S=O)の対称振動吸収ピーク及び非対称振動吸収ピークが存在し、710cm-1における(S−O)の振動吸収ピークが存在することを示す。
【0095】
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
N−メチルピロリジノン95g中に工程(1)から得られた樹脂5gを溶解して、5重量%の溶液を製造する、溶解する工程と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液20mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で70℃で水平に加熱することにより、溶媒を蒸発させ、本実施形態の厚さ100μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0096】
実施形態6
スルホ−アルキル化ポリ(α−メチル−スチレン)の製造
スルホ−アルキル化ポリ(α−メチル−スチレン)の製造は、以下の:
ポリ(α−メチル−スチレン)(WuXi Jiasheng Hightech Modification Material LTD.製であるPMS及びM−80)15gを窒素保護した4つ口フラスコに加える工程と、
無水ニトロベンゼン50ml及び1,3−プロパンスルトン12.2gを加える工程と、
スチレン−エチレンコポリマー樹脂を完全に溶解させた後に、無水三塩化アルミニウム14.7gをゆっくり加える工程と、
反応温度を100℃に維持すると共に、凝縮還流状態で20時間反応させる工程と、
反応を停止させるために、反応溶液を濃塩酸50mlを含む氷水混合物500mlに注ぐ工程と、
粒子状のポリマーを濾過する工程と、
ポリマーを0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液200mlに加える工程と、
一晩、浸漬させる工程と、
樹脂中に残存する塩酸を中和する工程と、
水が中性になるまで、大量の脱イオン水でポリマー粒子を繰り返し洗浄する工程と、
濾過して、三塩化アルミニウムの加水分解産物を取り除く、濾過する工程と、
0.5mol/Lの希硫酸を使用することによって、樹脂を酸性に戻す工程(使用する希硫酸(0.5mol/L)の量は、このポリマーのスルホン酸ラジカルのモル量の800倍である)と、
脱イオン水で中性になるまで洗浄する工程と、
110℃で真空乾燥して、本実施形態におけるポリマーを得る、真空乾燥する工程と
を含む。
【0097】
このポリマーのEW値は1003である。この数平均分子量は290000である。このポリマーの赤外スペクトルは、1211cm-1及び1032cm-1における(O=S=O)の対称振動吸収ピーク及び非対称振動吸収ピークが存在し、710cm-1における(S−O)の振動吸収ピークが存在することを示す。
【0098】
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
ニトロベンゼン/ジメチルスルホキシド溶媒混合物95g中に工程(1)から得られた樹脂5gを溶解して、5重量%の溶液を製造する、溶解する工程と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液20mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で120℃で水平に加熱することにより、溶媒を蒸発させ、本実施形態の厚さ100μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0099】
実施形態7
スルホ−アルキル化ポリ−トリフルオロ−スチレンの製造
スルホ−アルキル化ポリ−トリフルオロ−スチレンの製造は、以下の:
ポリ−トリフルオロ−スチレン(Shanghai Organic Institute製のサンプルであるTFS)12.5gを窒素保護した4つ口フラスコに加える工程と、
無水ニトロベンゼン50ml及び1,3−プロパンスルトン12.2gを加える工程と、
ポリ−トリフルオロ−スチレン樹脂を完全に溶解させた後に、無水三塩化アルミニウム14.7gをゆっくり加える工程と、
反応温度を120℃に維持すると共に、凝縮還流状態で10時間反応させる工程と、
反応を停止させるために、反応溶液を濃塩酸50mlを含む氷水混合物500mlに注ぐ工程と、
粒子状のポリマーを濾過する工程と、
ポリマーを0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液200mlに加える工程と、
一晩、浸漬させる工程と、
樹脂中に残存する塩酸を中和する工程と、
水が中性になるまで、大量の脱イオン水でポリマー粒子を繰り返し洗浄する工程と、
濾過して、三塩化アルミニウムの加水分解産物を取り除く、濾過する工程と、
0.5mol/Lの希硫酸を使用することによって、樹脂を酸性に戻す工程(使用する希硫酸(0.5mol/L)の量は、このポリマーのスルホン酸ラジカルのモル量の500倍である)と、
脱イオン水で中性になるまで洗浄する工程と、
110℃で真空乾燥して、本実施形態におけるポリマーを得る、真空乾燥する工程と
を含む。
【0100】
このポリマーのEW値は1027である。この数平均分子量は300000である。このポリマーの赤外線吸収スペクトルは、1211cm-1及び1032cm-1における(O=S=O)の対称振動吸収ピーク及び非対称振動吸収ピークが存在し、710cm-1における(S−O)の振動吸収ピークが存在することを示す。
【0101】
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
N,N−ジメチルホルムアミド95g中に工程(1)から得られた本実施形態の樹脂5gを溶解して、5重量%の溶液を製造する、溶解する工程と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液20mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で50℃で水平に加熱することにより、溶媒を蒸発させ、本実施形態の厚さ100μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0102】
実施形態8
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
N,N−ジメチルホルムアミド90g中に実施形態7の工程(1)から得られた樹脂10gを溶解して、5重量%の溶液を製造する、溶解する工程と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液5mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で50℃で水平に加熱することにより、溶媒を蒸発させ、本実施形態の厚さ50μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0103】
比較例1
スルホン化ポリエーテル−エーテル−ケトンの製造
スルホン化ポリエーテル−エーテル−ケトンの製造は、以下の:
ポリエーテル−エーテル−ケトン(Jilin University High-New Material LTD.製であるPEEK)5gを撹拌器を備える窒素保護した3つ口フラスコに加える工程と、
アルゴン保護下で濃硫酸50mlを加える工程と、
反応温度を30℃に維持する工程と、
10時間反応させる工程と、
反応を停止させるために、反応溶液を氷水混合物500mlに注ぐ工程と、
樹脂を撹拌すると共に濾過する工程と、
脱イオン水で中性になるまで洗浄して、スルホン化ポリエーテル−エーテル−ケトンを得る、洗浄する工程と
を含む。
【0104】
このスルホン化ポリエーテル−エーテル−ケトンのEW値は1030であり、この数平均分子量は300000である。
【0105】
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
アセトン/水溶媒混合物95g中に工程(1)から得られたスルホン化ポリエーテル−エーテル−ケトン5gを溶解する工程(ここで、5重量%の溶液を製造するためのアセトン及び水の重量比は1:1である)と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液20mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で50℃で水平に加熱することにより、溶媒を蒸発させ、厚さ100μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0106】
比較例2
スルホ−アルキル化ポリエーテル−スルホンの製造
スルホ−アルキル化ポリエーテル−スルホンの製造は、以下の:
ポリエーテル−スルホン(Jilin University Hi-New Material LTD.製であるPES)21.6gを窒素保護した4つ口フラスコに加える工程と、
無水ニトロベンゼン50ml及び1,3−プロパンスルトン12.2gを加える工程と、
ポリエーテル−スルホン樹脂を完全に溶解させた後に、無水三塩化アルミニウム14.7gをゆっくり加える工程と、
反応温度を150℃に維持すると共に、凝縮還流状態で8時間反応させる工程と、
反応を停止させるために、反応溶液を濃塩酸50mlを含む氷水混合物500mlに注ぐ工程と、
粒子状のポリマーを濾過する工程と、
ポリマーを0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液200mlに加える工程と、
一晩、浸漬させる工程と、
樹脂中に残存する塩酸を中和する工程と、
水が中性になるまで、大量の脱イオン水でポリマー粒子を繰り返し洗浄する工程と、
濾過して、三塩化アルミニウムの加水分解産物を取り除く、濾過する工程と、
0.5mol/Lの希硫酸を使用することによって、樹脂を酸性に戻す工程(使用する希硫酸(0.5mol/L)の量は、このポリマーのスルホン酸ラジカルのモル量の500倍である)と、
脱イオン水で中性になるまで洗浄する工程と、
110℃で真空乾燥して、本比較例におけるポリマーを得る、真空乾燥する工程と
を含む。
【0107】
このポリマーのEW値は1027である。この数平均分子量は30000である。
【0108】
プロトン交換膜の製造
プロトン交換膜の製造は、以下の:
N,N−ジメチルホルムアミド95g中にスルホ−アルキル化ポリエーテル−スルホン樹脂5gを溶解して、5重量%の溶液を製造する、溶解する工程と、
面積が50cm2のガラス容器に溶液20mlを加える工程と、
平坦なプラットフォーム上で90℃で水平に加熱することにより、溶媒を蒸発させ、本比較例の厚さ100μmのプロトン交換膜を得る、蒸発させる工程と
を含む。
【0109】
実施形態1〜7並びに比較例1及び比較例2におけるプロトン交換膜の加水分解安定性の試験
実施形態1〜7並びに比較例1及び比較例2で得られたプロトン膜のプロトン交換膜の加水分解安定性を試験する。90℃の蒸留水にこれらのプロトン交換膜を浸漬し、流動パラフィンを使用して封入した。浸漬前後のプロトン交換膜のEW値を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
表1は、浸漬後の実施形態1〜7におけるプロトン交換膜のEW値が、浸漬前のEW値より1%未満高いことを示している。しかしながら、比較例1におけるスルホン化ポリエーテル−エーテル−ケトンのプロトン交換膜のEW値は217%増加し、比較例2におけるスルホ−アルキル化ポリエーテル−スルホンのEW値は1.5%増加している。これらの試験は、本発明の実施形態であるプロトン交換膜の加水分解安定性がスルホン酸ラジカルが直接ベンゼン環と結合するスルホン化(sulfonate)ポリエーテル−エーテル−ケトンよりも良好であることを示している。これらは、スルホ−アルキル化ポリエーテル−スルホンを用いて製造したプロトン交換膜の加水分解安定性よりも概ね良好である。
【0112】
実施形態1〜7並びに比較例1及び比較例2におけるプロトン交換膜の柔軟性の試験
実施形態1〜7並びに比較例1及び比較例2で製造されるプロトン交換膜の柔軟性を試験する。上記実施形態及び上記比較例のプロトン交換膜を長さ5cm、幅1cmの長方形に切断する。それから、これらの長方形を送風乾燥器に入れ、110℃で24時間乾燥させる。2つの厚さ1cmのステンレススチールプレートの間に長さ2cmの乾燥した膜をそれぞれおいて、プレートの間でプレスする。次に、残りのプレスする前の長さのそれぞれの膜を前後に90度、手で折り重ねる。膜に割れ目が現れるのに必要な折り重ね回数を記録し、その結果を表2に示す。
【0113】
【表2】

【0114】
表2は、乾燥時に本発明の実施形態であるプロトン交換膜がより柔軟になることを示している。
【0115】
実施形態1〜7並びに比較例1及び比較例2におけるプロトン交換膜の寸法安定性の試験
実施形態1〜7並びに比較例1及び比較例2において製造されるプロトン交換膜の膨張特性を試験する。上記実施形態及び上記比較例のプロトン交換膜を送風乾燥器に入れ、110℃で24時間乾燥させて、乾燥した膜を得る。それから、これらの実施形態の膜をそれぞれ長方形に切断する。ノギスを使用して、乾燥膜の長さL1及び幅W1を測定し、印を付ける。次に、膜の重量の増加が止まるまで、80℃の熱湯に入れる。再びノギスを使用して、湿った膜の膨張した長さ「L1」及び膨張した幅「W1」の長さに対応する新たな長さL2及び幅W2を測定する。それにより、膜の表面膨張比(SS):SS=(L2×W2)÷(L1×W1)×100%を算出することができる。より良好な比較のために、メスを使用して、全ての膜を5cm×5cmの正方形に切断することができる。この結果を表3に示す。
【0116】
【表3】

【0117】
表3は、同程度のEW値(約1000)及び同程度の厚さ(約100μm)を有し、且つ本発明の実施形態であるプロトン交換膜の膨張特性が、既存のプロトン交換膜よりも有意に良好であることを示している。したがって、本発明の実施形態であるプロトン交換膜は、優れた寸法安定性を有している。
【0118】
本発明は或る特定の好ましい実施形態に関して記載されているが、本発明はこのような特定の実施形態に限定されるものではないことを理解すべきである。それどころか、本発明者の主張は、本発明は特許請求の範囲に反映される最も広い意味で理解、及び解釈されるというものである。このように、これらの特許請求の範囲は、本明細書に記載の好ましい実施形態だけではなく、当業者に明らかであろうこれらの他の及びさらなる代替形態及び修正形態の全てを包含するものと理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖と、前記主鎖と結合する分岐鎖とを含むプロトン交換膜ポリマーを有するプロトン交換膜であって、
前記分岐鎖の化学式が、
【化1】

(式中、nは3〜6の整数である)であり、且つ
前記主鎖が、脂肪族ポリマー、脂肪族ブロックポリマー及び脂肪族ランダムコポリマーから成る群から選択される第1のポリマーである、プロトン交換膜ポリマーを有するプロトン交換膜。
【請求項2】
前記主鎖と前記分岐鎖とが、該分岐鎖中のベンゼン環の1つの化学結合位置で結合し、
前記分岐鎖中の−(CH2n−SO3Hラジカルが、前記主鎖と結合する前記ベンゼン環の化学結合のメタ位、パラ位又はオルト位の位置で該分岐鎖中の該ベンゼン環と結合する、請求項1に記載のプロトン交換膜ポリマーを有するプロトン交換膜。
【請求項3】
前記ポリマーの数平均分子量が、100000〜600000である、請求項1に記載のプロトン交換膜ポリマーを有するプロトン交換膜。
【請求項4】
前記プロトン交換膜ポリマーの当量(EW)が、400〜3000である、請求項1に記載のプロトン交換膜ポリマーを有するプロトン交換膜。
【請求項5】
前記プロトン交換膜ポリマーが、
a)化学式
【化2】

(式中、mは1000〜6000の整数である)を有するスルホ−アルキル化ポリスチレン、
b)化学式
【化3】

(式中、m1及びm3は0〜3000の整数であり、m1+m3>0であり、m2は0〜5000の整数である)を有するポリマー、
c)化学分子式
【化4】

(式中、m4は300〜3000の整数であり、m5は1000〜10000の整数である)を有するポリマー、
d)化学式
【化5】

(式中、m6は300〜3000の整数であり、m7は1000〜10000の整数である)を有するスルホ−アルキル化スチレン−エチレンコポリマー、
e)化学式
【化6】

(式中、m8は300〜3000の整数であり、m9は1000〜6000の整数である)を有するスルホ−アルキル化スチレン−ブチレンコポリマー、
f)化学式
【化7】

(式中、pは1000〜5000の整数である)を有するスルホ−アルキル化ポリ(α−メチル−スチレン)、及び
g)化学式
【化8】

(式中、qは1000〜5000の整数である)を有するスルホ−アルキル化ポリ−トリフルオロ−スチレンから成る群から選択される1つ又は複数のポリマーである、請求項1に記載のプロトン交換膜ポリマーを有するプロトン交換膜。
【請求項6】
前記プロトン交換膜の厚さが、10μm〜500μmである、請求項1に記載のプロトン交換膜ポリマーを有するプロトン交換膜。
【請求項7】
プロトン交換膜用のプロトン交換膜ポリマーを製造する方法であって、
分岐鎖中にベンゼン環を有する第2のポリマーを、スルホ−アルキル化化学試薬及び触媒と、無水溶媒中、不活性雰囲気下、反応温度及び反応時間で反応させる工程と、
得られるスルホ−アルキル化ポリマーを分離する工程と、
前記ポリマーを得るための酸性化する工程と
を含む、プロトン交換膜用のプロトン交換膜ポリマーを製造する方法。
【請求項8】
前記反応させる工程において、前記反応温度が0℃〜150℃であり、前記反応時間が1時間〜200時間である、請求項7に記載のプロトン交換膜用のプロトン交換膜ポリマーを製造する方法。
【請求項9】
前記触媒が、無水三塩化アルミニウム、無水塩化亜鉛、無水塩化第二鉄、リン酸塩固体、フッ化水素、ケイ酸アルミニウム及びBF3−H3PO4から成る群から選択される1つ又は複数の触媒である、請求項7に記載のプロトン交換膜用のプロトン交換膜ポリマーを製造する方法。
【請求項10】
前記スルホ−アルキル化化学試薬が、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,5−ペンタンスルトン及び1,6−ヘキサンスルトン(sullactone)から成る群から選択される1つ又は複数の試薬である、請求項7に記載のプロトン交換膜用のプロトン交換膜ポリマーを製造する方法。
【請求項11】
前記スルホ−アルキル化化学試薬:触媒:前記第2のポリマー:無水溶媒のモル比が、1:0.1〜3:0.01〜2:2〜30である、請求項7に記載のプロトン交換膜用のプロトン交換膜ポリマーを製造する方法。
【請求項12】
前記無水溶媒が、無水ニトロベンゼン、無水オルト−ニトロベンゼン、無水クロロホルム、無水ジクロロエタン、無水シクロヘキサン、無水ジメチルスルホキシド、無水N,N−ジメチルホルムアミド、無水N−メチルピロリジノン、無水アセトン、無水ブタノン、無水シクロヘキサノンから成る群から選択される1つ又は複数の溶媒である、請求項7に記載のプロトン交換膜用のプロトン交換膜ポリマーを製造する方法。
【請求項13】
前記第2のポリマーが、
a)化学式
【化9】

(式中、mは1000〜6000の整数である)を有するポリスチレン、
b)化学式
【化10】

(式中、m1及びm3は0〜3000の整数であり、m1+m3>0であり、m2は0〜5000の整数である)を有するポリマー、
c)化学式
【化11】

(式中、m4は300〜3000の整数であり、m5は1000〜10000の整数である)を有するポリマー、
d)化学式
【化12】

(式中、m6は300〜3000の整数であり、m7は1000〜10000の整数である)を有するスチレン−エチレンコポリマー、
e)化学式
【化13】

(式中、m8は300〜3000の整数であり、m9は1000〜6000の整数である)を有するスチレン−ブチレンコポリマー、
f)化学式
【化14】

(式中、pは1000〜5000の整数である)を有するポリ(α−メチル−スチレン)、及び
g)化学式
【化15】

(式中、qは1000〜5000の整数である)を有するポリ−トリフルオロ−スチレン
から成る群から選択される1つ又は複数のポリマーである、請求項7に記載のプロトン交換膜用のプロトン交換膜ポリマーを製造する方法。

【公表番号】特表2008−524345(P2008−524345A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545821(P2007−545821)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【国際出願番号】PCT/CN2005/002268
【国際公開番号】WO2006/066505
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(506283031)ビーワイディー カンパニー リミテッド (16)
【氏名又は名称原語表記】BYD COMPANY LIMITED
【Fターム(参考)】