説明

プロトン伝導性固体高分子電解質膜および燃料電池

【課題】100℃から300℃程度の作動温度において、無加湿あるいは相対湿度50%以下の作動条件で良好な発電性能を示す固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】水素原子、アルキル基、アリル基、スルホン酸基、水酸基、ニトロ基、アミノ基のいずれか1種以上の置換基を有するとともに、モル数で10〜10000の繰り返し単位を有する下記式に示すポリピリドビスイミダゾール類と、1種類以上の酸とからなるプロトン伝導性固体高分子電解質膜を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は100℃以上300℃以下の作動温度下において、無加湿あるいは相対湿度50%以下であっても良好な発電性能を長期間安定的に示す固体高分子型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することによりイオンが移動するイオン伝導体が知られている。このイオン伝導体は電池や電気化学センサー等の電気化学デバイスとして広く利用されている。
例えば燃料電池においては、発電効率、システム効率、構成部材の長期耐久性の観点から、100℃から300℃程度の作動温度において、無加湿あるいは相対湿度50%以下の低加湿な作動条件で良好なプロトン伝導性を長期安定的にしめすプロトン伝導体が望まれている。従来の固体高分子型燃料電池の開発において、上記要求に鑑みて検討されてきたが、パーフルオロカーボンスルホン酸膜を電解質膜として用いた固体高分子型燃料電池では100℃以上300℃以下の作動温度下、相対湿度50%以下では十分な発電性能を得る事が出来ない欠点があった。
【0003】
また、プロトン伝導性付与剤を含有させたもの(特許文献1)、シリカ分散膜を使用したもの(特許文献2)、無機−有機複合膜を使用したもの(特許文献3)、リン酸ドープグラフト膜を使用したもの(特許文献4)、あるいはイオン性液体複合膜を使用したもの(特許文献5、特許文献6)がある。
【0004】
しかし、これらはいずれも100℃以上300℃以下の作動温度下、無加湿あるいは相対湿度50%以下の使用環境下では十分な発電性能性を長期間安定的に発揮することはできないという問題があった。また、リン酸型燃料電池、固体酸化物型燃料電池、溶融塩型燃料電池においては作動温度が300℃を大きく超えてしまうため、構成部材の長期安定性に問題が生じるなど、コストの観点から要求を十分満たすものではなかった。
【0005】
唯一、特許文献7に開示されているリン酸などの強酸をドープさせたポリベンズイミダゾールからなる高分子電解質膜を用いることによって、200℃までの高温であっても十分な発電性能を示す固体高分子型燃料電池を得る事が出来るが、リン酸をドーパントに用いた場合においては、高分子繰り返し単位に対して600mol%以上の多量のリン酸をドープしなければ発電に必要なイオン伝導度を発現することはできないことが知られている。リン酸を多く必要とすることは即ち、電解質膜中の高分子含有比率が低下することを示し、電解質膜の機械的強度を低下することになる。
【特許文献1】特開2001−035509号公報
【特許文献2】特開平6−111827号公報
【特許文献3】特開2000−090946号公報
【特許文献4】特開2001−213987号公報
【特許文献5】特開2001−167629号公報
【特許文献6】特開2003−123791号公報
【特許文献7】米国特許第5525436号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料電池の発電効率、システム効率、構成部材の長期耐久性の観点から、100℃から300℃程度の作動温度において、無加湿あるいは相対湿度50%以下の低加湿な作動条件で良好な発電性能を示す燃料電池が望まれているが、従来の技術では困難で未だ充分な性能は得られていない。
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、100℃から300℃程度の作動温度において、無加湿あるいは相対湿度50%以下の作動条件で良好な発電性能を示す固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用した。
本発明のプロトン伝導性固体高分子電解質膜は、下記(a)に示す一般式(式(a)中、R、R、R、Rは、水素原子、アルキル基、アリル基、スルホン酸基、水酸基、ニトロ基、アミノ基のいずれか1種以上の置換基であり、nは10〜10000である)で表される繰り返し単位を有するポリピリドビスイミダゾール類と、1種類以上の酸とからなることを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
上記のプロトン伝導性固体高分子電解質膜に含まれるポリピリドビスイミダゾール類には、その分子構造中に塩基性のピリジン環が含まれており、従来のポリベンズイミダゾール類に比べて酸のドープ能力に優れるとともに、酸の解離を促す効果もある。これにより、酸の量が少ない場合でも高いプロトン伝導度を得ることができる。
また、酸の量を減らせることで、相対的に電解質膜におけるポリピリドビスイミダゾール類の含有量を高くすることができ、電解質膜の耐熱性および機械的強度を向上させることができる。
更に、R〜Rで表される置換基を備えており、これらの置換基によって、ポリピリドビスイミダゾールの主鎖同士の分子間の相互作用を高めることができる。これにより、電解質膜の耐熱性および機械的強度を更に向上させることができる。
【0010】
また、本発明のプロトン伝導性固体高分子電解質膜においては、前記酸が、リン酸あるいはホスホン酸またはこれらの混合物であることが好ましい。
【0011】
次に本発明の燃料電池は、酸素極と、燃料極と、該酸素極および該燃料極の間に挟持された電解質膜と、前記酸素極の外側に配置された酸化剤流路を有する酸化剤配流板と、前記燃料極の外側に配置された燃料流路を有する燃料配流板とから構成される単位セルを具備してなり、前記電解質膜が、先に記載のプロトン伝導性固体高分子電解質膜であることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、プロトン伝導度に優れた電解質膜を備えているので、発電能力に優れた高出力の燃料電池が実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作動温度が100℃以上300℃以下で、無加湿あるいは相対湿度50%以下であっても良好な発電性能を示す固体高分子型燃料電池を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1には、本実施形態の燃料電池を構成する単セルの模式図を示す。図1に示す単セル1は、酸素極2と、燃料極3と、酸素極2および燃料極3の間に挟持されたプロトン伝導性固体高分子電解質膜4(以下、電解質膜4と表記する)、酸素極2の外側に配置された酸化剤流路5aを有する酸化剤配流板5と、燃料極3の外側に配置された燃料流路6aを有する燃料配流板6とから構成され、100℃〜300℃の温度で作動するものである。
【0015】
燃料極3及び酸素極2は、活性炭等の電極物質と、この電極物質を固化成形するためのバインダとが含まれてそれぞれ構成されている。バインダは、耐熱性に優れたフッ素樹脂を用いても良く、本発明に係る電解質膜を構成するポリピリドビスイミダゾール類を用いても良い。バインダとしてポリピリドビスイミダゾール類を用いることで、電極内部のプロトン拡散を効率よく行なうことができ、電極のインピーダンスが低下して燃料電池の出力が向上する。
【0016】
酸化剤配流板5および燃料配流板6は導電性を有する金属等から構成されており、酸素極2および燃料極3にそれぞれ接合することで、集電体として機能するとともに、酸素極2および燃料極3に対して、酸素および燃料を供給する。すなわち、燃料極3には、燃料配流板6の燃料流路6aを介して燃料である水素が供給され、また酸素極2には、酸化剤配流板5の酸化剤流路5aを介して酸化剤としての酸素が供給される。なお、燃料として供給される水素は、炭化水素若しくはアルコールの改質により発生された水素が供給されるものでも良く、また、酸化剤として供給される酸素は、空気に含まれる状態で供給されても良い。
【0017】
この単セル1においては、燃料極3側で水素が酸化されてプロトンが生じ、このプロトンが電解質膜4を伝導して酸素極2に到達し、酸素極2においてプロトンと酸素が電気化学的に反応して水を生成するとともに、電気エネルギーを発生させる。
【0018】
電解質膜4は、上記の(a)式により示される構造のポリピリドビスイミダゾール類と、1種類以上の酸とが含有されて構成されている。上記(a)式において、R、R、R、Rは水素原子、アルキル基、アリル基、スルホン酸基、水酸基、ニトロ基、アミノ基のうちのいずれか1種以上の置換基であり、R〜Rの全てが同じ種類の置換基でも良く、全て異なる置換基でも良い。これらの置換基によって、ポリピリドビスイミダゾールの主鎖同士の分子間の相互作用を高めることができる。これにより、電解質膜の耐熱性および機械的強度を更に向上させることができる。
なお、主査同士の相互作用を高めて耐熱性および機械的強度を高めるためには、R〜Rのうちの少なくとも1つを、スルホン酸基、水酸基、ニトロ基、アミノ基のうちのいずれか1種以上の置換基とすることがより好ましく、RおよびRを水酸基とし、RおよびRを水素原子とすることが特に好ましい。
【0019】
また、(a)式におけるnは、10〜10000の範囲とすることが好ましい。nが10以上であれば機械的強度を十分に高めることができるので好ましく、またnが10000以下であれば溶媒等への溶解性を適度に高く制御することができ、電解質膜の成形性が向上するので好ましい。
【0020】
ポリピリドビスイミダゾール類は、公知の技術により合成する事が出来る。例えば、polymer,vol.39,No.24(1998)p.5981−5986に記載の合成方法により製造することができる。
【0021】
また、本発明における酸とは、リン酸、ホスホン酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホイミド酸、リンタングステン酸等を示すが、耐熱性、腐食性、揮発性、導電性の観点から、リン酸およびホスホン酸またはこれらの混合物が好ましい。
【0022】
以上の構成により、作動温度が100℃以上300℃以下で、無加湿あるいは相対湿度50%以下であっても良好な発電性能を長期間安定的に示す固体高分子型燃料電池となり、自動車用や家庭発電用として有用である。
【実施例】
【0023】
以下に本発明の好適な実施の形態を説明する。
なお、燃料電池特性の測定は、電解質膜を市販の燃料電池用電極(Electrochem社)で挟持して膜電極接合体とし、130℃、無加湿の条件下、水素/空気で燃料電池運転を行った。水素および酸素の供給量はそれぞれ100mL/分および200mL/分とした。
【0024】
(実施例1)
2,3,5,6−テトラアミノピリジンと2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を原料として、文献(polymer,vol.39,No.24(1998)p.5981−5986)の記載内容に従い、下記式に示す構造(ただし、式中、n=100である)を有するポリピリドビスイミダゾールを合成した。得られたポリピリドビスイミダゾールを、メタンスルホン酸に再溶解させてガラス基板上でキャストし、120℃にて2日間乾燥することで厚さ15μmの金属光沢のある濃緑色のフィルムを得た。次いで、60℃にて105%のリン酸に直接浸漬し25分かけてリン酸をドープさせて実施例1の固体高分子電解質膜とした。ドーピングレベルは重量変化から計算して、合成したポリピリドビスイミダゾールの繰り返し構造単位あたり185モル%であった。なお、重量測定の前には120℃で2時間真空乾燥を行い吸湿水分の影響を除外している。
【0025】
【化2】

【0026】
得られた固体高分子電解質膜を、直径13mmの円板形状の白金電極2枚で挟み込み、複素インピーダンスを測定した。複素インピーダンス測定より得られた溶液抵抗から図2のようにイオン伝導度の温度依存性を測定した。また、表1に、150℃におけるイオン伝導度を示す。
また、得られた固体高分子電解質膜を前述の方法により燃料電池として発電特性の測定を行った。図3に発電初期の電流密度−出力電圧の関係をグラフで示す。また表1に初期の開回路電圧と、電流密度0.3A/cmにおける出力電圧を示す。
【0027】
(実施例2)
実施例1と同様の方法によって得られた濃緑色のフィルムに、105%リン酸とホスホン酸とが重量比率3:2の割合で混合されてなる混合酸をドープさせた。ドーピングレベルは酸の平均モル数から見積もって190モル%程度であると推定された。このようにして、実施例2の固体高分子電解質膜を得た。この固体高分子電解質膜を用いて実施例1と同様に燃料電池として発電特性の測定を行った。表1に、150℃におけるイオン伝導度、開回路電圧および電流密度0.3A/cmにおける出力電圧を示す。
【0028】
(比較例1)
米国特許第5525436号公報に開示されている技術に基づき、ポリ−2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾールを製造し、これにリン酸を200モル%ドープさせて比較例1の高分子固体電解質膜を作成した。実施例1と同様にしてイオン伝導度、開回路電圧および電流密度0.3A/cmにおける出力電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、実施例1および実施例2の電解質膜は、ドープ量が比較例1とほぼ同程度であるにも関わらず、比較例1よりも高いイオン伝導度を示すことがわかる。これは、ポリピリドビスイミダゾールが分子内に塩基性のピリジン環を有しているため、ドープされたリン酸の酸解離が進んで、プロトンの伝導性が向上したためと考えられる。比較例1では、実施例1および2の場合ほどリン酸の酸解離が進まず、プロトン伝導に寄与するリン酸が不足してイオン伝導度が低下したものと考えられる。
また開回路電圧については、実施例1、2および比較例1のいずれについても大差がなかった。
更に、0.3A/cmにおける出力電圧については、実施例1および2では0.18〜0.19V程度の出力が得られた。一方、比較例1では、電解質膜のイオン伝導度が低いために、単セル全体の抵抗が高くなり、発電が全く不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本実施形態の燃料電池を構成する単セルの模式図。
【図2】図2は、実施例1のイオン伝導度の温度依存性を示すグラフ。
【図3】図3は、実施例1の発電初期の電流密度−出力電圧の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0032】
1…単セル、2…酸素極、3…燃料極、4…電解質膜(プロトン伝導性固体高分子電解質膜)、5…酸化剤配流板、5a…酸化剤流路、6…燃料配流板、6a…燃料流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)に示す一般式(式(a)中、R、R、R、Rは水素原子、アルキル基、アリル基、スルホン酸基、水酸基、ニトロ基、アミノ基のうちのいずれか1種以上の置換基であり、nは10〜10000である)で表される繰り返し単位を有するポリピリドビスイミダゾール類と、1種類以上の酸とからなることを特徴とするプロトン伝導性固体高分子電解質膜。
【化1】

【請求項2】
前記酸が、リン酸あるいはホスホン酸またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性固体高分子電解質膜。
【請求項3】
酸素極と、燃料極と、該酸素極および該燃料極の間に挟持された電解質膜と、前記酸素極の外側に配置された酸化剤流路を有する酸化剤配流板と、前記燃料極の外側に配置された燃料流路を有する燃料配流板とから構成される単位セルを具備してなり、前記電解質膜が、請求項1または2に記載のプロトン伝導性固体高分子電解質膜であることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−120405(P2006−120405A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305568(P2004−305568)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】