説明

プロトン伝導性電解質膜及びその製造方法、ならびにその用途

【課題】燃料電池用プロトン伝導膜に好適な、メタノール透過性が低くかつイオン伝導性に優れた高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂と酸性基を有する水溶性樹脂からなる膜であって、該膜が架橋剤によって、架橋されたプロトン伝導性電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用高分子固体電解質膜として有用な、水溶性ポリマーを原料とするプロトン伝導性電解質膜及びその製造方法、更にはこれを用いた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用高分子固体電解質膜として、高いプロトン導電率を有すると共に化学的、熱的、電気化学的及び力学的に十分安定なものとしては、主に米デュポン社製の「NAFION(登録商標)」を代表例とするパーフルオロカーボンスルホン酸膜等が知られている。しかしながら、これら従来のものでは、100℃以上の温度では性能低下が起こり、耐熱性、含水性および高温度でのイオン伝導性という観点では十分な性能を発揮することができず、また、膜のコストが高すぎることが燃料電池技術確立の障害として指摘されている。
【0003】
一方、最近では、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾールのようなエンプラ系ポリマーにスルホン酸基などの酸性基を導入した、いわゆる炭化水素系ポリマー電解質が盛んに検討されているが、パーフルオロカーボンスルホン酸膜に比べて、低湿度条件下でのイオン伝導性が小さいという問題があり、なおかつコストが高い。
【0004】
このような問題点を解消するために、本発明者等は、先に、水酸基を有するポリビニルアルコール、酸性基を有するポリマー並びに水溶性高分子を含むブレンド架橋型高分子電解質膜、及び、水酸基を有するポリビニルアルコール、酸性基を有するポリマー並びにポリビニルアルコールの水酸基と反応する2種類の架橋剤による架橋構造を導入したブレンド架橋型高分子電解質膜を提案した(例えば、非特許文献1〜4参照)。
このプロトン伝導性電解質膜は、合成が容易であること、高イオン伝導性を示すこと、メタノール透過性がパーフルオロカーボンスルホン酸膜と比較して半分以下であることなどの利点を有するものであった。
【0005】
【非特許文献1】T. Hamaya, S. Inoue, J. Qiao, and T.Okada: Novel Proton-conducting Polymer Electrolyte Membrane Based onPVA/PAMPS/PEG400 Blend. J. Power Sources, Available online 11 August2005.
【非特許文献2】J. Qiao, T. Hamaya, and T. Okada: Chemically Modified Poly(vinylalcohol)/2-Acrylamido-2-methyl-1-propanesulfonic acid (PVA-PAMPS) as novelProton-conducting Fuel Cell Membranes. Chem. Mater. 17, 2413-2421(2005).
【非特許文献3】J. Qiao, T. Hamaya, and T. Okada: New Highly Proton ConductivePolymer Blend Membranes Poly(VinylAlcohol)/2-Acrylamido-2-Methyl-1-Propanesulfonic Acid (PVA-PAMPS) based onBinary Chemical Cross-linking. J. Materials Chemistry, 15,4414-4423 (2005).
【非特許文献4】J. Qiao, T. Hamaya, and T. Okada: New Highly Proton-conductingMembrane poly(Vinylpyrrolidone) (PVP) modified poly(Vinyl Alcohol)/2-Acrylamido-2-Methyl-1-Propanesulfonic Acid (PVA-PAMPS) for Low Temperature Direct Methanol FuelCells (DMFCs). Polymer 46, 10809-10816 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年における要求性能は高く、上記文献開示技術で得られるプロトン伝導性電解質膜を更に改良する必要があった。
【0007】
そこで、本発明は、燃料電池用プロトン交換膜に好適な、イオン伝導性と力学的特性に優れ、膨潤性が抑制され、メタノール透過抑制能を持ち、かつコストの安い、新たなプロトン伝導性電解質膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系樹脂として、アセト酢酸エステル基含有のポリビニルアルコール系樹脂を使用すると、意外にも、該基を有しない未変性のポリビニルアルコール系樹脂を使用した場合に比べて遙かに優れたイオン伝導性と力学的特性を示し、更に膨潤性が非常に低くメタノール透過抑制能に優れた膜を与えることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りの発明に関するものである。
[1] アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)と酸性基を有する水溶性樹脂(B)からなる膜であって、該膜が架橋剤(C)によって、架橋されたものであることを特徴とするプロトン伝導性電解質膜。
【0010】
[2] アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度が90モル%以上であることを特徴とする上記[1]記載のプロトン伝導性電解質膜。
【0011】
[3] 酸性基を有する水溶性樹脂(B)が、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のプロトン伝導性電解質膜。
【0012】
[4] 架橋剤(C)が1種又は2種以上のアルデヒド基含有化合物であることを特徴とする上記[1]〜[3]いずれか記載のプロトン伝導性電解質膜。
【0013】
[5] アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)と酸性基を有する水溶性樹脂(B)を含有する水溶液を製膜して得られる膜を、架橋剤(C)を含む溶液中に浸漬し架橋させることを特徴とする上記[1]〜[4]いずれか記載のプロトン伝導性電解質膜の製造方法。
【0014】
[6] 上記[1]〜[4]いずれか記載のプロトン伝導性電解質膜を用いた燃料電池用膜。
【0015】
[7] 上記[1]〜[4]いずれか記載のプロトン伝導性電解質膜を用いた電極接合体。
【0016】
[8] 上記[6]記載の燃料電池用膜または上記[7]記載の電極接合体を備えた燃料電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、燃料電池用のプロトン交換膜に好適な、イオン伝導性と力学的特性に優れ、膨潤性が抑制され、メタノール透過抑制能を持ち、かつコストの安い高分子電解質膜が提供され、また、これを用いた燃料電池が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)(以下、AA化PVAと略記する。)は、ポリビニルアルコールにアセト酢酸エステル基が導入された構造をもつ樹脂である。
【0019】
なお、ポリビニルアルコールは、常法に従って酢酸ビニルを重合開始剤の存在下で重合させて得たポリ酢酸ビニルをケン化することにより製造される。
【0020】
AA化PVA中のアセト酢酸エステル基の含有量に特に制限はないが、好ましくは0.1〜30モル%、更に好ましくは0.3〜20モル%、特に好ましくは0.5〜10モル%である。アセト酢酸エステル基含有量が下限値未満では最終的に得られるプロトン伝導性電解質膜の耐久性が不足する傾向があり、上限値を超えるとAA化PVA自体の水溶性が低下する他、混合液の安定性が不足し、製膜不良を招く傾向がある。
【0021】
また、AA化PVAのケン化度は、90モル%以上、更には95モル%、特には98モル%以上であることが好ましい。ケン化度が下限値未満ではプロトン伝導性電解質膜の膨潤度が高くなり、耐久性が不足する傾向がある。
【0022】
更に、AA化PVA(A)の平均重合度は、JIS K6726に準拠して測定するものであり、好ましくは300〜5000、更に好ましくは400〜5000、特に好ましくは500〜4500である。AA化PVAの平均重合度が下限値未満ではプロトン伝導性電解質膜の膨潤度が大きくなり耐久性が不足する傾向があり、上限値を超えると混合液の粘度が高くなりすぎて脱泡がしづらくなったり、塗工性が悪化したりして、製膜不良を招く傾向がある。
【0023】
このようなAA化PVAは公知の製造法により得ることができ、代表的には特許第3766457号に記載される方法で容易に得ることが出来る。すなわち、ポリビニルアルコールとジケテンを反応させる方法、ポリビニルアルコールとアセト酢酸エステルを反応させエステル交換する方法、酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルの共重合体をケン化させる方法等により製造することができるが、ポリビニルアルコール(粉末)とジケテンを反応させる方法で製造するのが好ましい。以下、かかる方法について説明するが、これに限定されるものではない。
【0024】
原料となるポリビニルアルコール系樹脂としては、一般的にはポリ酢酸ビニルの低級アルコール溶液をアルカリや酸などのケン化触媒によってケン化したケン化物又はその誘導体が用いられ、更には酢酸ビニルと共重合性を有する単量体と酢酸ビニルとの共重合体のケン化物等を用いることもできる。
【0025】
かかるポリビニルアルコール系樹脂とジケテンを反応させるには、ポリビニルアルコール系樹脂とガス状或いは液状のジケテンを直接反応させても良いし、有機酸をポリビニルアルコール系樹脂に予め吸着吸蔵せしめた後、不活性ガス雰囲気下でガス状または液状のジケテンを噴霧、反応するか、またはポリビニルアルコール系樹脂に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応する等の方法が用いられる。
【0026】
上記の反応を実施する際の反応装置としては、加温可能で撹拌機の付いた装置であれば充分である。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダー、撹拌乾燥装置等を用いることができる。
【0027】
酸性基を有する水溶性樹脂(B)の種類としては、プロトン交換能を有する官能基を有するものであれば特に限定されない。このような官能基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基が好ましく、中でもスルホン酸基がより好ましい。これらの官能基は樹脂中に2種類以上含まれていても良い。
【0028】
このような酸性基を有する水溶性樹脂(B)は、たとえば常法により、アクリル酸、メタアクリル酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、エチレングリコールメタクリレートホスフェート等の酸性基含有モノマーを単独若しくは共重合して得ることが可能である。
【0029】
このような重合体もしくは共重合体の好ましい具体例としては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単独重合体(PAMPS)、アクリルアミド/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、スチレンスルホン酸重合体、スチレン/スチレンスルホン酸共重合体、アクリロニトリル/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、スチレン/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、スチレンスルホン酸/(メタ)アクリル酸共重合体などがあげられる。
【0030】
水溶性樹脂(B)中における、酸性基含有モノマー由来構造の含有量としては、通常3〜100モル%であり、特には30〜100モル%、更には50〜100モル%のものが好ましい。
【0031】
中でも他の水溶性ポリマーとの相溶性がよく、イオン伝導性に優れたポリマーとして、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)の単独重合体(PAMPS)、もしくは、特開昭62−127309に示されるような、各種共重合組成比のアクリルアミド/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)共重合体が好ましい。
【0032】
また、ポリマーに対して高分子反応によって上述の酸性基を導入することも可能である。例えばクロロスルホン酸のようなスルホン化剤を反応させたり、濃硫酸や発煙硫酸を用いてスルホン化する等の手法も可能である。
【0033】
なお、これら酸性基を有する水溶性樹脂(B)自体も公知のものであり、市販品があるので、通常市販品を採用することができる。
【0034】
AA化PVA(A)/酸性基を有する水溶性樹脂(B)の混合比率は、固形分重量比で、好ましくはAA化PVA(A)/酸性基を有する水溶性樹脂(B)=0.1〜10、更には0.2〜5、特には0.3〜3であることが好ましい。(A)/(B)の割合が下限値未満では膜の強度が不足する傾向があり、上限値を超えるとプロトン伝導性が不足する傾向がある。
【0035】
架橋剤(C)としては、多価金属化合物、ホウ素化合物、アミン化合物、ヒドラジン化合物、シラン化合物、メチロール基含有化合物、アルデヒド基含有化合物、エポキシ化合物、チオール化合物、イソシアネート化合物等が挙げられ、これらは単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0036】
本発明で好ましく使用される架橋剤はアルデヒド基含有化合物である。アルデヒド基含有化合物の例としては、グリオキザール、グルタルアルデヒド等の脂肪族ジアルデヒド、テレフタルアルデヒド等の芳香族ジアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、オクチルアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、イソペンチルアルデヒド等の炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル基を有する脂肪族アルデヒド、アクロレイン(2−プロペナール)、クロトンアルデヒド、フルフラール、5−ヒドロキシメチルフルフラール等の不飽和基含有アルデヒドなどが挙げられ、これらは単独で用いても2種類以上を用いても良い。特にグルタルアルデヒド、オクチルアルデヒド、テレフタルアルデヒド等を1種又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0037】
本発明の架橋剤を作用させる際の溶媒としては、膜を少しだけ膨潤させることのできる非プロトン溶媒、例えばN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキサイド(DMSO)、アセトンなどを使用することができる。
【0038】
本発明のプロトン伝導性電解質膜は、たとえば、〔1〕AA化PVA(A)、酸性基を有する水溶性樹脂(B)、および架橋剤(C)を均一混合した溶液を平滑な表面に流延した後、乾燥して架橋膜を得る方法や、〔2〕AA化PVA(A)、および酸性基を有する水溶性樹脂(B)を均一混合した溶液を、平滑な表面に流延した後、乾燥して得られた混合膜を、架橋剤(C)を含む溶液に浸漬し、架橋せしめる方法、などによって簡単に合成することができるが、ポットライフの面などの取り扱いやすさの点から後者の方法が望ましい。
【0039】
上記〔1〕の方法、即ち、本発明のプロトン伝導性電解質膜を、AA化PVA(A)、酸性基を有する水溶性樹脂(B)、および架橋剤(C)を均一混合した溶液を平滑な表面に流延した後、乾燥する方法によって得る場合の、架橋剤(C)の使用量は、AA化PVA(A)の固形分に対し、架橋剤の重量比で通常0.1〜50重量%、特には1〜30重量%、更には1〜20重量%であることが好ましい。
【0040】
上記〔2〕の方法、即ち、本発明のプロトン伝導性電解質膜を、AA化PVA(A)、および酸性基を有する水溶性樹脂(B)を均一混合した溶液を、平滑な表面に流延した後、乾燥して得られた混合膜を、架橋剤(C)を含む溶液に浸漬し、架橋せしめる方法によって得る場合の、架橋剤(C)を含む溶液の濃度は、通常0.1〜50重量%、特には0.5〜40重量%、更には0.5〜30重量%であることが好ましい。浸漬する際の架橋剤(C)を含む溶液の温度は、通常0〜80℃、特には10〜60℃、更には20〜50℃であることが好ましい。また、浸漬時間は、通常1分〜10時間、特には3分〜5時間、更には10分〜3時間であることが好ましい。
【0041】
流延する基板にはポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチック板や、ガラス板、テフロン(登録商標)板あるいはテフロン(登録商標)シートなどを用いることができる。流延する際の混合溶液の厚みは特に制限されないが、10〜1000μmであることが好ましい。薄すぎると膜の形態が保てなくなり、厚すぎると不均一な膜ができやすくなる傾向がある。より好ましくは50〜300μmである。
【0042】
混合溶液の流延厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。たとえば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレやテフロン(登録商標)シャーレなどを用いてキャスト面積を一定にして混合溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。
【0043】
本発明のプロトン伝導性電解質膜は、目的に応じて任意の膜厚にすることができるがイオン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的に200μm以下であることが好ましく、30〜100μmの膜厚が特に好ましい。
【0044】
かくして本発明に係るプロトン伝導性電解質膜は、含水率が低く膜の膨潤性を抑えることができ、しかもメタノール、エタノールやギ酸などの液体燃料の透過性が低く、かつイオン伝導性と力学特性に優れ、更には廉価なコストで生産が可能なものである。
【0045】
したがって、このプロトン伝導性電解質膜は、水素・酸素燃料電池、水素・空気燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、ダイレクトエタノール型燃料電池やダイレクトギ酸型燃料電池における燃料電池用膜または電極接合体として極めて有用なものである。
【0046】
本発明においては、AA化PVA(A)を使用することにより上記のような優れた効果が得られる詳細な理由については不明であるが、AA化PVA(A)中のアセト酢酸エステル基による架橋効果により、膜の膨潤性が抑制され、かつ強靱性が向上したものと推測される。
【0047】
本発明のプロトン伝導性電解質膜を燃料電池として用いる際のプロトン伝導性電解質膜と電極の接合法については特に制限はなく、化学メッキによる方法、ガス拡散性電極を熱プレスによって接合する方法、プロトン伝導性電解質膜に、電極触媒をバインダー樹脂中に分散したインクをコーティングする方法などが好ましく用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0049】
各種測定は次のように行った。
(イオン伝導度σ)
自作測定用セル(テフロン(登録商標)製)を用い、25℃において単一正弦波測定方式による交流インピーダンス測定により伝導度を測定した。5×10mmの穴のあいた2枚のテフロン(登録商標)製ブロック間に膜試料をはさみ、膜の両端を白金箔で接触させ、AC電圧振幅0.02V、周波数0.001〜10Hzにおける交流インピーダンスを湿潤状態で周波数応答分析器により測定した。
【0050】
(含水率)
膜を純水中に24時間浸漬した後、取り出して膜表面をティッシュペーパーで軽く拭いて重量を測定する。その後、膜を110℃、24時間真空乾燥した後、重量をはかり次式により含水率を計算する。
【0051】
含水率(WU)=(純水中浸漬後の重量/真空乾燥後の重量)−1
【0052】
(メタノール透過性)
容量80mlで側面に断面積5.72cmの穴のあいたガラスセル2つからなる1対のH型セル(メタノール透過セル)の穴の部分に膜をセットし、一方のセルに10%メタノール水溶液、他方のセルに純水を注入した後、メタノール水溶液側から純水側に透過してくるメタノール量を、赤外吸収法で10秒ごとに濃度変化を測定することでメタノール透過係数Pを計算した。
【0053】
(選択性)
上記で測定されたイオン伝導度s(Scm−1)をメタノール透過係数P(10cm−1)で割った値で表されるものである。
選択性の値が高いほど、イオン伝導度が優れかつメタノール透過抑制能に優れた高性能の電解質膜である。
【0054】
(耐ラジカル性)
硫酸第1鉄2ppm、過酸化水素3%を含む60℃の水溶液中に膜を浸漬し、30分ごとに経過後の膜の重量減少を測定し、試験前の膜の初期重量の97%を切った時点の経過時間により、耐ラジカル分解性を評価した(フェントン試験法)。
【0055】
実施例1
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000部、メタノール200部、およびアゾビスイソブチロニトリル0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)を仕込み、窒素気流下で撹拌しながら温度を上昇させ、沸点下で3時間重合を行った。酢酸ビニルの重合率が50%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、減圧蒸留により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し、重合体のメタノール溶液を得た。これに水酸化ナトリウムをポリマー中の酢酸ビニル単位1モルに対して50ミリモル加えてケン化し、析出物をろ別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、さらに80℃で60分熱処理してPVA系樹脂を得た。
【0056】
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、99.7モル%であり、平均重合度は、JIS K6726に準じて分析を行ったところ、2300であり、酢酸ナトリウムの含有量は0.8%であった。
【0057】
該PVA系樹脂を、ニーダーに444部仕込み、これに酢酸100部を入れ、膨潤させ、回転数20rpmで撹拌しながら、60℃に昇温後、ジケテン62部と酢酸20部の混合液を2時間かけて滴下し、更に30分間反応させた。反応終了後メタノール500部で洗浄した後70℃で、6時間乾燥し、ケン化度99.7モル%、アセト酢酸エステル基含有量5.0モル%のAA化PVAを得た。
【0058】
得られたAA化PVAの5%水溶液と、市販のポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)(アルドリッチ社製;15%水溶液)とを、固形分重量比で1:1となる割合で混合し、イオン交換水で希釈、脱泡して、濃度4%の混合液を得た。この混合液を平坦な面に置かれたポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、静置乾燥して、膜厚100μmの膜を得た。該膜を、グルタルアルデヒドを濃度1%、オクチルアルデヒドを濃度20%で溶解したアセトン溶液中に25℃で2時間浸漬した後、イオン交換水で洗浄、乾燥して、プロトン伝導性電解質膜を得た。
【0059】
このプロトン伝導性電解質膜(1)の特性を表1に示す。
イオン伝導度は0.073Scm−1の高い値が得られ、一方、含水率は0.73の値を示した。通常は、イオン伝導度が0.08以上の膜では含水率が1.0を越えることが多く、膨潤度も高いのであるが、AA化PVAを用いることで膨潤性が押さえられ、その結果メタノール透過係数は0.499×10cm−1とパーフルオロカーボンスルホン酸膜に比べ約1/4程度の低い値を達成した。
【0060】
膜は機械的性質に優れるとともに柔軟性も有し、180度に折り曲げても割れることはなかった。また、耐ラジカル性能も優れ、フェントン試験では5.5時間までは重量減少が見られなかった
【0061】
比較例1
実施例1のAA化PVAに代えて、シグマ−アルドリッチ社製のポリビニルアルコール(JIS K6726による平均重合度2360:ケン化度99+%:平均分子量)を用いた以外は実施例1と同様にして、比較用のプロトン伝導性電解質膜(2)を得た。
【0062】
このプロトン伝導性電解質膜(2)の特性を表1に示す。
イオン伝導度は0.067Scm−1の値が得られ、一方、含水率は0.93の値を示した。
また、耐ラジカル性能において、フェントン試験では3時間後に重量減少が見られた。
【0063】
なお、比較例1において、イオン伝導度を0.1Scm−1程度まで高くするために2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の量を2倍にまで増やして得たプロトン伝導性電解質膜(2’)を用いた場合は、含水率は1.39まで大きく増大し、膨潤性が高くメタノール透過係数は1.4×10cm−1の高い値を示した。
【0064】
参考例1
パーフルオロカーボンスルホン酸膜(米デュポン社製の「NAFION(登録商標)」)を用いて、同様の評価を行った。
【0065】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)と酸性基を有する水溶性樹脂(B)からなる膜であって、該膜が架橋剤(C)によって、架橋されたものであることを特徴とするプロトン伝導性電解質膜。
【請求項2】
アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度が90モル%以上であることを特徴とする請求項1記載のプロトン伝導性電解質膜。
【請求項3】
酸性基を有する水溶性樹脂(B)が、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であることを特徴とする請求項1又は2記載のプロトン伝導性電解質膜。
【請求項4】
架橋剤(C)が1種又は2種以上のアルデヒド基含有化合物であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のプロトン伝導性電解質膜。
【請求項5】
アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(A)と酸性基を有する水溶性樹脂(B)を含有する水溶液を製膜して得られる膜を、架橋剤(C)を含む溶液中に浸漬し架橋させることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のプロトン伝導性電解質膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか記載のプロトン伝導性電解質膜を用いた燃料電池用膜。
【請求項7】
請求項1〜4いずれか記載のプロトン伝導性電解質膜を用いた電極接合体。
【請求項8】
請求項6記載の燃料電池用膜または請求項7記載の電極接合体を備えた燃料電池。

【公開番号】特開2007−311240(P2007−311240A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140212(P2006−140212)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】