説明

プロトン伝導性高分子電解質膜とそれを用いた膜−電極接合体および高分子電解質型燃料電池

【課題】ポリイミド系のプロトン伝導性高分子電解質膜であって、耐メタノール透過特性(メタノール遮断特性)に優れる電解質膜を提供する。
【解決手段】テトラカルボン酸二無水物と、プロトン伝導基を有する第1の芳香族ジアミンと、プロトン伝導基を有さない第2の芳香族ジアミンと、の重縮合により形成されたポリイミド樹脂を主成分とし、前記第2の芳香族ジアミンが3以上の環からなる縮合環骨格を有するプロトン伝導性高分子電解質膜とする。このような電解質膜は、高分子電解質型燃料電池(PEFC)、特にダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性高分子電解質膜と、それを用いた膜−電極接合体および高分子電解質型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代のエネルギー源として燃料電池が脚光を浴びている。特に、プロトン伝導性を有する高分子膜を電解質に使用した高分子電解質型燃料電池(PEFC)は、エネルギー密度が高く、家庭用コージェネレーションシステム、携帯機器用電源、自動車用電源などの幅広い分野での使用が期待される。PEFCの電解質膜には、燃料極と酸化極との間でプロトンを伝導する電解質としての機能とともに、燃料極に供給される燃料と、酸化極に供給される酸化剤とを分離する隔壁としての機能が求められる。電解質および隔壁のいずれか一方としての機能が不十分であると燃料電池の発電効率が低下する。このため、プロトン伝導性、電気化学的安定性および機械的強度に優れ、燃料および酸化剤の透過性が低い高分子電解質膜が望まれる。
【0003】
現在、PEFCの電解質膜には、プロトン伝導基としてスルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸(例えば、デュポン社製「ナフィオン(登録商標)」)が広く用いられている。パーフルオロカーボンスルホン酸膜は電気化学的な安定性に優れるものの、原料となるフッ素樹脂は汎用品ではなく、その合成過程も複雑であることから非常に高価である。電解質膜が高価であることは、PEFCの実用化に対する大きな障害となる。また、PEFCの1種に、メタノールを含む溶液が燃料極に供給されるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)があり、燃料の供給性、携帯性に優れることから今後の実用化が注目されているが、パーフルオロカーボンスルホン酸膜はメタノールを透過しやすく、DMFCへの使用は難しい。
【0004】
ところで、パーフルオロカーボンスルホン酸膜の代替として、炭化水素系高分子電解質膜の開発が進められている。炭化水素系電解質膜の原料となる樹脂はフッ素樹脂に比べて安価であり、上記電解質膜の使用により、低コストのPEFCの実現が期待される。
【0005】
特表2000-510511号公報には、炭化水素系高分子電解質膜として、テトラカルボン酸二無水物と、プロトン伝導基を有する芳香族ジアミンと、プロトン伝導基を有さない芳香族ジアミンとの重縮合により形成されたポリイミド樹脂を含んでなる電解質膜が開示されており、この電解質膜が、機械的および電気化学的安定性に優れるとともに、パーフルオロカーボンスルホン酸膜よりも低コストに製造できることが記載されている。しかし、特表2000-510511号公報では、電解質膜の耐メタノール透過特性(メタノール遮断特性)について考慮されておらず、当該公報に開示の電解質膜は必ずしも耐メタノール透過特性に優れていない。
【0006】
同様のポリイミド系高分子電解質膜は特開2003-68326号公報にも開示があり、当該公報では、イミド結合が加水分解されやすい点を克服し、耐加水分解特性(長期耐水性)に優れるポリイミド系電解質膜の製造が試みられている。しかし、特開2003-68326号公報の技術においても電解質膜の耐メタノール透過特性は考慮されておらず、当該公報に開示の電解質膜は必ずしも耐メタノール透過特性に優れていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2000-510511号公報
【特許文献2】特開2003-68326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリイミド系のプロトン伝導性高分子電解質膜であって、高い耐メタノール透過特性を有する電解質膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜は、テトラカルボン酸二無水物と、プロトン伝導基を有する第1の芳香族ジアミンと、プロトン伝導基を有さない第2の芳香族ジアミンとの重縮合により形成されたポリイミド樹脂を主成分とし、前記第2の芳香族ジアミンが、3以上の環からなる縮合環骨格を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、テトラカルボン酸二無水物と重縮合させる芳香族ジアミンとして、プロトン伝導基を有する第1の芳香族ジアミンと、3以上の環からなる縮合環骨格を有するとともにプロトン伝導基を有さない第2の芳香族ジアミンを用いることにより、高い耐メタノール透過特性を示す、ポリイミド系プロトン伝導性高分子電解質膜が得られる。また、このような電解質膜は、従来のパーフルオロカーボンスルホン酸からなる電解質膜よりも低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の膜−電極接合体の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の燃料電池の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ポリイミド樹脂)
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜が主成分として含むポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物と、プロトン伝導基を有する第1の芳香族ジアミンと、プロトン伝導基を有さない第2の芳香族ジアミンとの重縮合により形成された樹脂である。第2の芳香族ジアミンは、3以上の環からなる縮合環骨格(D)を有する。ポリイミド樹脂(A)は、耐メタノール透過特性に優れる。
【0013】
ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸二無水物と第1の芳香族ジアミンとの重縮合により形成される構成単位(B)ならびにテトラカルボン酸二無水物と第2の芳香族ジアミンとの重縮合により形成される構成単位(C)を有する。構成単位(B)を以下の式(1)に、構成単位(C)を以下の式(2)に示す。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)のR1は、テトラカルボン酸二無水物における無水カルボン酸以外の部分に対応し、R2は、第1の芳香族ジアミンにおけるアミノ基以外の部分に対応する。
【0016】
【化2】

【0017】
式(2)のR3は、式(1)のR1と同様に、テトラカルボン酸二無水物における無水カルボン酸以外の部分に対応し、R4は、第2の芳香族ジアミンにおけるアミノ基以外の部分に対応する。R4は、3以上の環からなる縮合環骨格を有する。
【0018】
構成単位(B)は、主に、ポリイミド樹脂(A)および当該樹脂を主成分とする高分子電解質膜のプロトン伝導性に寄与する。構成単位(C)は、主に、ポリイミド樹脂(A)および当該樹脂を主成分とする高分子電解質膜の耐メタノール透過特性に寄与する。
【0019】
テトラカルボン酸二無水物は、芳香族ジアミンとの重縮合によりポリイミド樹脂が形成される構造を有する限り特に限定されず、例えば、パラ−ターフェニル−3,4,3'',4''−テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,4'−ケトジナフタレン−1,1',8,8'−テトラカルボン酸二無水物、4,4'−ビナフチル−1,1',8,8'−テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4'−スルホニルジフタル酸二無水物、3,3',4,4'−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、メタ−ターフェニル−3,3'',4,4''−テトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、1−(2,3−ジカルボキシフェニル)−3−(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオンである。
【0020】
高分子電解質膜としての耐水性、耐酸化性、電気化学的安定性を考慮すると、テトラカルボン酸二無水物は、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,4'−ケトジナフタレン−1,1',8,8'−テトラカルボン酸二無水物および4,4'−ビナフチル−1,1',8,8'−テトラカルボン酸二無水物から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0021】
ポリイミド樹脂(A)は、第1および第2の芳香族ジアミンと、2種以上のテトラカルボン酸二無水物との重縮合により形成されていてもよい。
【0022】
第1の芳香族ジアミンは、テトラカルボン酸二無水物との重縮合によりポリイミド樹脂が形成される構造を有するとともに、プロトン伝導基を有する限り特に限定されない。
【0023】
プロトン伝導基は、例えば、スルホン酸基、リン酸基もしくはカルボキシル基であり、高いプロトン伝導性を示すことから、スルホン酸基が好ましい。スルホン酸基およびリン酸基には、ナトリウム塩、アンモニウム塩などの塩の状態にある基(例えばスルホン酸ナトリウム基)を含む。ただし、スルホン酸基およびリン酸基が塩の状態にある場合、最終的に電解質膜とする前に、酸処理などにより当該基をプロトン型に変化させる(プロトン交換する)ことが好ましい。
【0024】
第1の芳香族ジアミンは、例えば、特表2000-510511号公報および特開2003-68326号公報に記載されている、スルホン酸基含有芳香族ジアミンである。より具体的な例は、以下の式(3)〜(10)に示す芳香族ジアミンである。
【0025】
【化3】

【0026】
なお、芳香族ジアミンとは、少なくとも1つのアミノ基が芳香族基に結合したジアミンである。典型的には、2つのアミノ基が芳香族基に結合した構造を有するが、この場合、各々のアミノ基が結合する芳香族基は同一であっても、異なっていてもよい。芳香族基は、単環式であっても多環式であってもよく、多環式の場合、縮合環を有していてもよい。また、芳香族基は、芳香族炭化水素基であっても複素芳香族基であってもよいし、芳香環中の一部の水素原子が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、フェニル基などの置換基によって置換されていてもよい。置換基は、典型的には、炭素数1〜6のアルキル基(例えばメチル基)、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基(例えばCF3基)、フェニル基である。
【0027】
第2の芳香族ジアミンは、テトラカルボン酸二無水物との重縮合によりポリイミド樹脂が形成される構造を有するとともに、3以上の環からなる縮合環骨格(D)を有する限り、特に限定されない。第2の芳香族ジアミンが縮合環骨格(D)を有することにより、耐メタノール透過特性(メタノール遮断特性)に優れるポリイミド樹脂(A)が得られる理由は明確ではないが、本発明者らは、ポリイミド分子の平面性が非常に高くなることで、当該分子が電解質膜の面方向に平行な状態で積み重なるように配置されやすくなり、膜厚方向へのメタノールの透過が遮断されやすくなることが原因であると推定する。
【0028】
第2の芳香族ジアミンは、縮合環骨格(D)に2つのアミノ基が直接結合した構造を有することが好ましく、この場合、ポリイミド樹脂(A)の耐メタノール透過特性がより向上する。
【0029】
縮合環骨格(D)は、例えば、9位の炭素原子が酸素原子、窒素原子または硫黄原子によって置換されていてもよいフルオレン骨格である。9位以外の炭素原子に結合した水素原子は、芳香族基の説明において例示した置換基によって置換されていてもよい。
【0030】
当該フルオレン骨格を、以下の式(11)に示す。式(11)において9位の原子、即ちX1、が炭素原子の場合、R5、R6は互いに独立して、水素原子、ヒドロキシ基、カルボニル基、フェニル基(水素原子がメチル基、CF3基、ヒドロキシ基によって置換されていてもよい)、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基である。X1が酸素原子の場合、R5、R6は存在しない。X1が窒素原子の場合、R5は、水素原子であり、R6は存在しない。X1が硫黄原子の場合、R5およびR6は酸素原子である。
【0031】
【化4】

【0032】
縮合環骨格(D)が上記フルオレン骨格である場合、以下の式(12)に示すように、当該フルオレン骨格に2つのアミノ基が直接結合していることが好ましく、この場合、ポリイミド樹脂(A)の耐メタノール透過特性がさらに向上する。このときアミノ基は、式(12)に示すように、1〜4位の炭素原子に1つ、5〜8位の炭素原子に1つ結合していることが好ましい。このような縮合環骨格(D)を有する第2の芳香族ジアミンの例を以下の式(13)、(14)に示す。
【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
式(13)に示す芳香族ジアミンは、2,7−ジアミノフルオレン(DAF)であり、式(14)に示す芳香族ジアミンは、3,7−ジアミノ−2,8−ジメチルジベンゾチオフェンスルホン(DDBT)である。
【0037】
上記フルオレン骨格とは異なる縮合環骨格(D)の例は、オルトペリ縮合した環を有する縮合環骨格である。縮合環骨格(D)がオルトペリ縮合した環を有する場合、オルト縮合した環のみからなる縮合環骨格に比べて、その平面性がより高くなる。このため、ポリイミド樹脂(A)の耐メタノール透過特性がより向上する。
【0038】
オルトペリ縮合した環を有する縮合環骨格(D)は、例えば、ピレン骨格、フェナレン骨格である。また、当該縮合環骨格(D)に2つのアミノ基が直接結合していることが好ましく、この場合、ポリイミド樹脂(A)の耐メタノール透過特性がさらに向上する。このような縮合環骨格(D)を有する第2の芳香族ジアミンの例を、以下の式(15)に示す。
【0039】
【化8】

【0040】
式(15)に示す芳香族ジアミンは、1,6−ジアミノピレン(DAP)である。
【0041】
縮合環骨格(D)はフェナントリジン骨格であってもよく、このとき、フェナントリジン骨格に2つのアミノ基が直接結合していることが好ましい。これにより、ポリイミド樹脂(A)の耐メタノール透過特性がさらに向上する。このような縮合環骨格(D)を有する第2の芳香族ジアミンの例を、以下の式(16)に示す。
【0042】
【化9】

【0043】
式(16)に示す芳香族ジアミンは、3,8−ジアミノ−6−フェニルフェナントリジン(D6PPT)である。
【0044】
ポリイミド樹脂(A)の全構成単位に占める構成単位(B)、(C)の割合(ポリイミド樹脂(A)における構成単位(B)、(C)の含有率)は特に限定されず、例えば、構成単位(B)が50〜95モル%、構成単位(C)が5〜50モル%である。本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜では、そのバランスを従来になく良好に(例えば、メタノール透過率MCOに対するプロトン伝導度κの比[κ/MCO]を従来になく高く)できる。
【0045】
ポリイミド樹脂(A)のイオン交換容量は、0.5〜3.0meq/gが好ましく、1.0〜2.5meq/gがより好ましい。イオン交換容量が過度に大きいと、使用時における電解質膜の膨潤度が高くなることで膜が変形したり、耐メタノール透過特性が低下する。一方、イオン交換容量が過度に小さいと、電解質膜のプロトン伝導性が低下して、電解質膜として十分な発電特性が得られない。ポリイミド樹脂(A)のイオン交換容量は、第1の芳香族ジアミンの種類ならびに構成単位(B)、(C)の含有率によって調整できる。
【0046】
ポリイミド樹脂(A)の製造には、公知のポリイミド樹脂の製造方法を適用できる。このとき、重合系における第1および第2の芳香族ジアミンの量を調整することによって、得られたポリイミド樹脂(A)における構成単位(B)、(C)の含有率を制御できる。
【0047】
(プロトン伝導性高分子電解質膜)
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜は、ポリイミド樹脂(A)を主成分として含む。ここで主成分とは、電解質膜における含有率が最大の成分をいい、当該含有率は典型的には50重量%以上であり、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜は、ポリイミド樹脂(A)からなってもよい。
【0048】
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜は、高い耐メタノール透過特性を有し、例えば、60℃におけるメタノール透過率(MCO)が0.025mmol/Hr/cm以下である。ポリイミド樹脂(A)における構成単位(C)の構造(第2の芳香族ジアミンの種類)およびその含有率によっては、0.020mmol/Hr/cm以下となる。
【0049】
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜は、高いプロトン伝導性を有し、例えば、実施例において測定したプロトン伝導度κにして0.13S/cm以上である。ポリイミド樹脂(A)の構成によっては、κは0.15S/cm以上となる。
【0050】
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜は、耐メタノール透過特性とプロトン伝導性とのバランスを従来になく良好にでき、例えば、実施例において測定したメタノール透過率(MCO)に対するプロトン伝導度κの比(κ/MCO)が7000S・Hr/mol以上であり、ポリイミド樹脂(A)の構成によっては、7500S・Hr/mol以上、8000S・Hr/mol以上、さらには8500S・Hr/mol以上となる。
【0051】
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜の厚さは、その用途にもよるが、DMFCを含む一般的なPEFCに用いる場合には10〜200μmが好ましく、機械的強度、プロトン伝導性および耐メタノール透過特性のバランスを考慮すると、20〜100μmが好ましい。電解質膜の厚さが過小になると、プロトン伝導性は向上するものの、それ以上に機械的強度および耐メタノール透過特性の低下が大きくなることで電解質膜としての実用性が低下する。一方、厚さが過大になると、機械的強度および耐メタノール透過特性は向上するものの、プロトン伝導性が低下してPEFCおよびDMFCへの使用が困難となる。
【0052】
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜は、ポリイミド樹脂(A)が主成分であるとともに、本発明の効果が得られる限り、ポリイミド樹脂(A)以外の樹脂あるいは添加剤を含んでいてもよい。ポリイミド樹脂(A)以外の樹脂は、例えば、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂である。添加剤は、例えば、架橋剤、酸化防止剤、ラジカルクエンチャー、シリカゲルなどの無機フィラーである。
【0053】
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜の構造は、本発明の効果が得られる限り、特に限定されない。
【0054】
本発明の電解質膜の用途は特に限定されないが、PEFCの高分子電解質膜(PEM)としての用途、特に燃料にメタノールを含む溶液を用いるDMFCのPEMとしての用途に好適である。
【0055】
(膜−電極接合体)
本発明の膜−電極接合体(MEA)の一例を、図1に示す。
【0056】
図1に示すMEA1は、電解質膜2と、電解質膜2を狭持するように配置された一対の電極(アノード電極3、カソード電極4)とを備え、電解質膜2と電極3,4とは互いに接合されている。ここで、電解質膜2は上述した本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜である。MEA1をPEFCに組み込むことにより、PEFC、特に燃料にメタノールを含む溶液を用いるDMFCの発電特性を向上できる。
【0057】
アノード電極(燃料極)3およびカソード電極(酸化極)4の構成は、それぞれ、一般的なMEAのアノード電極、カソード電極と同様であればよい。
【0058】
MEA1は、電解質膜2と電極3,4とを熱プレスするなど、公知の手法により形成できる。
【0059】
(高分子電解質型燃料電池)
本発明の高分子電解質型燃料電池の一例を、図2に示す。
【0060】
図2に示す燃料電池11は、電解質膜2と、電解質膜2を狭持するように配置された一対の電極(アノード電極3、カソード電極4)と、上記一対の電極を狭持するように配置された一対のセパレータ(アノードセパレータ5、カソードセパレータ6)とを備え、各部材は、当該部材の主面に垂直な方向に圧力が印加された状態で接合されている。電解質膜2と電極3,4とは、MEA1を構成している。ここで、電解質膜2は上述した本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜であり、発電特性に優れる(特に燃料にメタノールを含む溶液を用いるDMFCとしたときの発電特性に優れる)燃料電池11とすることができる。
【0061】
アノード電極(燃料極)3、カソード電極(酸化極)4、アノードセパレータ5およびカソードセパレータ6の構成は、それぞれ、一般的なPEFCにおける各部材と同様であればよい。
【0062】
本発明の燃料電池は、必要に応じて、図2に示す部材以外の部材を備えていてもよい。また、図2に示すPEFC11はいわゆる単セルであるが、本発明の燃料電池は、このような単セルを複数積層したスタックであってもよい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0064】
最初に、本実施例において作製した電解質膜の評価方法を示す。
【0065】
[イオン交換容量:IEC]
作製した電解質膜(面積が約12cm2)を濃度3モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、ウォーターバスにより水溶液を60℃に昇温して12時間以上保持した。次に、水溶液を室温まで冷却した後、電解質膜を水溶液から取り出してイオン交換水で十分に洗浄した。洗浄に用いたイオン交換水は全て、電解質膜を取り出した後の水溶液に加えた。次に、電解質膜を取り出した後の水溶液に含まれるプロトン(水素イオン)量を、電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、AT-510)を用いて、濃度0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定して求め、求めたプロトン量と、塩化ナトリウム水溶液に浸漬する前に予め測定しておいた電解質膜の重量とから、作製した電解質膜のイオン交換容量(meq/g)を求めた。
【0066】
[プロトン伝導度:κ]
作製した電解質膜の膜厚方向の膜抵抗Rmを、当該電解質膜を濃度1Mの硫酸水溶液に浸漬した状態で測定した。膜抵抗Rmは、電解質膜の膜厚方向に0〜0.3Aの範囲で電流を印加し、その際に測定された、電解質膜による電圧降下(電解質膜の膜厚方向に生じる電位差)の傾き(印加電流に対する傾き)から求めることができる。なお、測定に用いた電解質膜は、硫酸水溶液に浸漬させる前に、予め25℃の水に1時間以上浸漬し膨潤させた。プロトン伝導度κ(S/cm)は、以下の式(17)により求めることができる。
κ(S/cm)=1/Rm・d/A ・・・(17)
【0067】
式(17)におけるdは、測定した電解質膜の厚さ(cm)、Aは、電解質膜における測定面積(cm2)である。
【0068】
[メタノール透過率:MCO]
作製した電解質膜を隔壁として、同一形状の一対のガラス容器を、その開口部において互いに連結した。次に、一方のガラス容器に、当該容器における上記とは別の開口部から濃度3モル/Lのメタノール水溶液(温度60℃)を、他方のガラス容器に、当該容器における上記とは別の開口部から蒸留水(温度60℃)を注ぎ入れた後、電解質膜を介して蒸留水側に透過したメタノールの量を、容器全体をウォーターバスにより60℃に保持した状態で一定時間ごとに定量した。メタノールの定量はガスクロマトグラフィ(GC)により行い、定量には、所定の濃度のメタノール水溶液に対するGC測定から作成した検量線を使用した。定量したメタノール量を経過時間に対してプロットし、当該プロットの傾きから、以下の式(18)により電解質膜のメタノール透過率(mmol/hr/cm)を求めた。
メタノール透過率=プロットの傾き(mmol/hr)/S×t2 ・・・(18)
【0069】
なお、式(18)におけるS、t2は、それぞれ、電解質膜における隔壁部分の面積、およびMCOを評価した直後に測定した、膨潤した電解質膜の厚さである。
【0070】
[水膨潤時の重量変化率]
作製した電解質膜を温度23℃、相対湿度55%の雰囲気に1時間以上放置した後、その重量(Dry重量)を測定した。これとは別に、作製した電解質膜を温度25℃のイオン交換水に浸漬して1時間以上保持した後、その重量(Wet重量)を測定した。測定した双方の重量から、以下の式(19)により、電解質膜における水膨潤時の重量変化率(%)を求めた。
重量変化率(%)=(Wet重量/Dry重量−1)×100 ・・・(19)
【0071】
[水膨潤時の面積変化率]
作製した電解質膜を50mm×55mmの長方形に裁断し、得られた試験片を温度23℃、相対湿度55%の雰囲気に1時間以上放置した後、その4辺の長さ(Dry長さ)を測定した。これとは別に、作製した電解質膜を50mm×55mmの長方形に裁断し、得られた試験片を温度25℃のイオン交換水に浸漬して1時間以上保持した後、その4辺の長さ(Wet長さ)を測定した。膜片の長さの測定は、そのMDおよびTD方向(本実施例において、電解質膜はキャスト法により作製した)に注意して行った。測定後、以下の式(20)により、電解質膜における水膨潤時の面積変化率(%)を求めた。
面積変化率(%)={[(MD方向の2辺のWet長さの合計)×(TD方向の2辺のWet長さの合計)]/[(MD方向の2辺のDry長さの合計)×(TD方向の2辺のDry長さの合計)]−1}×100 ・・・(20)
【0072】
[水膨潤時の厚さ変化率]
作製した電解質膜を温度23℃、相対湿度55%の雰囲気に1時間以上放置した後、その厚さを試験片の4隅と中央の5点測定して、その平均(Dry平均厚さ)を求めた。これとは別に、作製した電解質膜を温度25℃のイオン交換水に浸漬して1時間以上保持した後、その厚さを試験片の4隅と中央の5点測定して、その平均(Wet平均厚さ)を求めた。求めた双方の平均厚さから、以下の式(21)により、電解質膜における水膨潤時の厚さ変化率(%)を求めた。
厚さ変化率(%)=(Wet平均厚さ/Dry平均厚さ−1)×100 ・・・(21)
【0073】
(実施例1)
第1の芳香族ジアミンとして、以下の式(22)に示す4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル−3,3'−ジスルホン酸(BAPBDS)を2.43g、第2の芳香族ジアミンとして、以下の式(13)に示す2,7−ジアミノフルオレン(DAF)を0.451g、重合溶媒としてm−クレゾールを15mL、ならびにトリエチルアミンを1.32mLを内容積100mLの四つ口フラスコに加え、窒素気流下、内温80℃にて撹拌しながら、全体を均一に溶解させた。溶解後、テトラカルボン酸二無水物として、1.85gのナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物(NTDA)と、反応触媒として1.32gの安息香酸を四つ口フラスコに加え、そのままフラスコ内に窒素を流すとともに内容物を攪拌しながら、180℃で20時間重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトンに滴下し、滴下によって析出した固形物を濾別して乾燥させた。次に、得られた固形物をm−クレゾ−ルに溶解させて濃度8重量%のキャスト溶液とし、当該溶液をガラス板上に800μmの厚さでキャストした。キャスト後、全体を120℃で12時間乾燥させた後、得られたキャスト膜を濃度1mol/Lの硫酸に60℃で24時間浸漬させてプロトン交換した。次に、プロトン交換後のキャスト膜を純水で洗浄した後、150℃で12時間真空乾燥させて、電解質膜を得た。
【0074】
【化10】

【0075】
【化11】

【0076】
(実施例2)
第1の芳香族ジアミンとしてBAPBDSを2.11g、第2の芳香族ジアミンとして、以下の式(15)に示す1,6−ジアミノピレン(DAP)を0.465g、重合溶媒としてm−クレゾールを25mL、ならびにトリエチルアミンを1.15mLを内容積100mLの四つ口フラスコに加え、窒素気流下、内温80℃にて撹拌しながら、全体を均一に溶解させた。溶解後、テトラカルボン酸二無水物として1.61gのNTDAと、反応触媒として1.15gの安息香酸を四つ口フラスコに加え、そのままフラスコ内に窒素を流すとともに内容物を攪拌しながら、180℃で20時間重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトンに滴下し、滴下によって析出した固形物を濾別して乾燥させた。次に、得られた固形物をm−クレゾ−ルに溶解させて濃度6.5重量%のキャスト溶液とし、当該溶液をガラス板上に900μmの厚さでキャストした。キャスト後、全体を120℃で12時間乾燥させた後、得られたキャスト膜を濃度1mol/Lの硫酸に60℃で24時間浸漬させてプロトン交換した。次に、プロトン交換後のキャスト膜を純水で洗浄した後、150℃で12時間真空乾燥させて、電解質膜を得た。
【0077】
【化12】

【0078】
(実施例3)
第1の芳香族ジアミンとしてBAPBDSを2.43g、第2の芳香族ジアミンとして、以下の式(14)に示す3,7−ジアミノ−2,8−ジメチルジベンゾチオフェンスルホン(DDBT)を0.63g、重合溶媒としてm−クレゾールを25mL、ならびにトリエチルアミンを1.32mLを内容積100mLの四つ口フラスコに加え、窒素気流下、内温80℃にて撹拌しながら、全体を均一に溶解させた。溶解後、テトラカルボン酸二無水物として1.85gのNTDAと、反応触媒として1.32gの安息香酸を四つ口フラスコに加え、そのままフラスコ内に窒素を流すとともに内容物を攪拌しながら、180℃で20時間重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトンに滴下し、滴下によって析出した固形物を濾別して乾燥させた。次に、得られた固形物をm−クレゾ−ルに溶解させて濃度8重量%のキャスト溶液とし、当該溶液をガラス板上に800μmの厚さでキャストした。キャスト後、全体を120℃で12時間乾燥させた後、得られたキャスト膜を濃度1mol/Lの硫酸に60℃で24時間浸漬させてプロトン交換した。次に、プロトン交換後のキャスト膜を純水で洗浄した後、150℃で12時間真空乾燥させて、電解質膜を得た。
【0079】
【化13】

【0080】
(実施例4)
第1の芳香族ジアミンとしてBAPBDSを2.43g、第2の芳香族ジアミンとして、以下の式(16)に示す3,8-ジアミノ-6-フェニルペンチルフェナンチリジン(D6PPT)を0.656g、重合溶媒としてm−クレゾールを25mL、ならびにトリエチルアミンを1.32mLを内容積100mLの四つ口フラスコに加え、窒素気流下、内温80℃にて撹拌しながら、全体を均一に溶解させた。溶解後、テトラカルボン酸二無水物として1.85gのNTDAと、反応触媒として1.32gの安息香酸を四つ口フラスコに加え、そのままフラスコ内に窒素を流すとともに内容物を攪拌しながら、180℃で20時間重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトンに滴下し、滴下によって析出した固形物を濾別して乾燥させた。次に、得られた固形物をm−クレゾ−ルに溶解させて濃度5重量%のキャスト溶液とし、当該溶液をガラス板上に800μmの厚さでキャストした。キャスト後、全体を120℃で12時間乾燥させた後、得られたキャスト膜を濃度1mol/Lの硫酸に60℃で24時間浸漬させてプロトン交換した。次に、プロトン交換後のキャスト膜を純水で洗浄した後、150℃で12時間真空乾燥させて、電解質膜を得た。
【0081】
【化14】

【0082】
(比較例1)
第1の芳香族ジアミンとしてBAPBDSを3.65g、重合溶媒としてm−クレゾールを15mL、ならびにトリエチルアミンを1.32mLを内容積100mLの四つ口フラスコに加え、窒素気流下、内温80℃にて撹拌しながら、全体を均一に溶解させた。溶解後、テトラカルボン酸二無水物として1.85gのNTDAと、反応触媒として1.32gの安息香酸を四つ口フラスコに加え、そのままフラスコ内に窒素を流すとともに内容物を攪拌しながら、180℃で20時間重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトンに滴下し、滴下によって析出した固形物を濾別して乾燥させた。次に、得られた固形物をm−クレゾ−ルに溶解させて濃度8重量%のキャスト溶液とし、当該溶液をガラス板上に800μmの厚さでキャストした。キャスト後、全体を120℃で12時間乾燥させた後、得られたキャスト膜を濃度1mol/Lの硫酸に60℃で24時間浸漬させてプロトン交換した。次に、プロトン交換後のキャスト膜を純水で洗浄した後、150℃で12時間真空乾燥させて、電解質膜を得た。
【0083】
(比較例2)
第1の芳香族ジアミンとしてBAPBDSを2.43g、プロトン伝導基を有さない芳香族ジアミンとして、以下の式(23)に示す1,4−フェニレンジアミン(PPD)を0.249g、重合溶媒としてm−クレゾールを25mL、ならびにトリエチルアミンを1.32mLを内容積100mLの四つ口フラスコに加え、窒素気流下、内温80℃にて撹拌しながら、全体を均一に溶解させた。溶解後、テトラカルボン酸二無水物として、1.85gのNTDAと、反応触媒として1.32gの安息香酸を四つ口フラスコに加え、そのままフラスコ内に窒素を流すとともに内容物を攪拌しながら、180℃で20時間重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトンに滴下し、滴下によって析出した固形物を濾別して乾燥させた。次に、得られた固形物をm−クレゾ−ルに溶解させて濃度8重量%のキャスト溶液とし、当該溶液をガラス板上に800μmの厚さでキャストした。キャスト後、全体を120℃で12時間乾燥させた後、得られたキャスト膜を濃度1mol/Lの硫酸に60℃で24時間浸漬させてプロトン交換した。次に、プロトン交換後のキャスト膜を純水で洗浄した後、150℃で12時間真空乾燥させて、電解質膜を得た。
【0084】
【化15】

【0085】
(比較例3)
第1の芳香族ジアミンとしてBAPBDSを2.43g、プロトン伝導基を有さない芳香族ジアミンとして、以下の式(24)に示す1,5−ナフタレンジアミン(15ND)を0.364g、重合溶媒としてm−クレゾールを15mL、ならびにトリエチルアミンを1.32mLを内容積100mLの四つ口フラスコに加え、窒素気流下、内温80℃にて撹拌しながら、全体を均一に溶解させた。溶解後、テトラカルボン酸二無水物として、1.85gのNTDAと、反応触媒として1.32gの安息香酸を四つ口フラスコに加え、そのままフラスコ内に窒素を流すとともに内容物を攪拌しながら、180℃で20時間重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトンに滴下し、滴下によって析出した固形物を濾別して乾燥させた。次に、得られた固形物をm−クレゾ−ルに溶解させて濃度8重量%のキャスト溶液とし、当該溶液をガラス板上に800μmの厚さでキャストした。キャスト後、全体を120℃で12時間乾燥させた後、得られたキャスト膜を濃度1mol/Lの硫酸に60℃で24時間浸漬させてプロトン交換した。次に、プロトン交換後のキャスト膜を純水で洗浄した後、150℃で12時間真空乾燥させて、電解質膜を得た。
【0086】
【化16】

【0087】
(比較例4)
第1の芳香族ジアミンとして、以下の式(25)に示す2,2'−ベンジジンジスルホン酸(BDSA)を1.21g、プロトン伝導基を有さない芳香族ジアミンとしてPPDを0.378g、重合溶媒としてm−クレゾールを25mL、ならびにトリエチルアミンを1.0mLを内容積100mLの四つ口フラスコに加え、窒素気流下、内温80℃にて撹拌しながら、全体を均一に溶解させた。溶解後、テトラカルボン酸二無水物として、1.88gのNTDAと、反応触媒として1.0gの安息香酸を四つ口フラスコに加え、そのままフラスコ内に窒素を流すとともに内容物を攪拌しながら、180℃で20時間重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトンに滴下し、滴下によって析出した固形物を濾別して乾燥させた。次に、得られた固形物をm−クレゾ−ルに溶解させて濃度6重量%のキャスト溶液とし、当該溶液をガラス板上に900μmの厚さでキャストした。キャスト後、全体を120℃で12時間乾燥させた後、得られたキャスト膜を濃度1mol/Lの硫酸に60℃で24時間浸漬させてプロトン交換した。次に、プロトン交換後のキャスト膜を純水で洗浄した後、150℃で12時間真空乾燥させて、電解質膜を得た。
【0088】
【化17】

【0089】
(参照例)
市販のパーフルオロカーボンスルホン酸膜であるデュポン社製ナフィオン115膜を、そのまま参照例として用いた。
【0090】
実施例1〜4および比較例1〜4で作製した電解質膜ならびに参照例であるナフィオン115膜に対する特性評価結果を、以下の表1、2に示す。なお、表1における「Φ」は、電解質膜におけるメタノール透過率(MCO)に対するプロトン伝導度κの比(κ/MCO)である。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
表1に示すように実施例1〜4では、テトラカルボン酸二無水物と重縮合させる芳香族ジアミンとして、プロトン伝導基を有する第1のジアミンのみを用いた比較例1に対して、メタノール透過率を大きく低減できた。また、比較例1に対してだけではなく、プロトン伝導基を有さない第2のジアミンを第1のジアミンに併用した比較例2〜4に対しても、メタノール透過率を大きく低減できた。さらに、第2のジアミンを併用したにも関わらず、比較例1〜4に対する実施例1〜4のプロトン伝導度の低下はメタノール透過率の低下に比べて小さく(Φの値を参照。実施例1〜4では7500S/Hr/mol以上のΦが実現されている)、実施例1〜4においてメタノール透過率が優先的に低下していることがわかった。水膨潤時における重量、面積および厚さの各変化率(表2)を参照すると、実施例1〜4の当該変化率は比較例1〜4の当該変化率よりも小さく、この膨潤性の低さが、メタノール透過率の低下と関連していると考えられる。
【0094】
実施例1〜4の中で比較すると、縮合環骨格(D)としてフルオレン骨格またはフェナントリジン骨格を有する実施例1、3、4のメタノール透過率が特に低く、また、Φが特に高かった(8500S/Hr/cm以上)。
【0095】
比較例4は、テトラカルボン酸二無水物と重縮合させる芳香族ジアミンとして、プロトン伝導基を有する第1のジアミンと、プロトン伝導基を有さない第2のジアミンとを併用しているにも関わらず、メタノール透過率が非常に高く、一般に耐メタノール透過特性に劣るとされるナフィオン膜(参照例)以上にメタノールを透過した。比較例4は、第2の芳香族ジアミンが共通である比較例2に比べて約2倍のメタノール透過率を示したが、第1の芳香族ジアミンの構造が、このような高いメタノール透過率をもたらしたと推定される。詳細は今後の検討が待たれるが、例えば、第1の芳香族ジアミンであるBDSAにおいて、プロトン伝導基であるスルホン酸基が全ての芳香環に結合している点、あるいは第1の芳香族ジアミンとしてのスルホン酸基の含有率などがメタノール透過率に影響を与えた可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のプロトン伝導性高分子電解質膜は、高分子電解質型燃料電池(PEFC)、特にメタノールを含む溶液を燃料極に供給するダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)、の電解質膜に好適に使用でき、従来のパーフルオロカーボンスルホン酸膜を電解質膜に使用したときに比べて、低コストのPEFC、DMFCが実現される。
【符号の説明】
【0097】
1 膜−電極接合体(MEA)
2 高分子電解質膜(PEM)
3 アノード電極
4 カソード電極
5 アノードセパレータ
6 カソードセパレータ
11 高分子電解質型燃料電池(PEFC)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物と、プロトン伝導基を有する第1の芳香族ジアミンと、プロトン伝導基を有さない第2の芳香族ジアミンと、の重縮合により形成されたポリイミド樹脂を主成分とし、
前記第2の芳香族ジアミンが、3以上の環からなる縮合環骨格を有するプロトン伝導性高分子電解質膜。
【請求項2】
前記第2の芳香族ジアミンが、前記縮合環骨格に2つのアミノ基が直接結合した構造を有する請求項1に記載のプロトン伝導性高分子電解質膜。
【請求項3】
前記縮合環骨格が、9位の炭素原子が酸素原子、窒素原子または硫黄原子によって置換されていてもよいフルオレン骨格である請求項1に記載のプロトン伝導性高分子電解質膜。
【請求項4】
前記フルオレン骨格に2つのアミノ基が直接結合している請求項3に記載のプロトン伝導性高分子電解質膜。
【請求項5】
前記縮合環骨格が、オルトペリ縮合した環を有する請求項1に記載のプロトン伝導性高分子電解質膜。
【請求項6】
前記縮合環骨格が、フェナントリジン骨格である請求項1に記載のプロトン伝導性高分子電解質膜。
【請求項7】
前記プロトン伝導基がスルホン酸基である請求項1に記載のプロトン伝導性高分子電解質膜。
【請求項8】
温度60℃におけるメタノール透過率が0.025mmol/Hr/cm以下である請求項1に記載のプロトン伝導性高分子電解質膜。
【請求項9】
高分子電解質膜と、前記電解質膜を挟持するように配置された一対の電極とを備え、
前記電解質膜が、請求項1〜8のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子電解質膜である膜−電極接合体。
【請求項10】
高分子電解質膜と、
前記電解質膜を狭持するように配置された一対の電極と、
前記一対の電極を狭持するように配置された一対のセパレータと、を備え、
前記電解質膜が、請求項1〜8のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子電解質膜である高分子電解質型燃料電池。
【請求項11】
ダイレクトメタノール型である請求項10に記載の高分子電解質型燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−277741(P2010−277741A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127178(P2009−127178)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】