説明

プロトン伝導性高分子

【課題】乾燥状態であってもプロトン伝導性に優れる高分子を構成する。
【解決手段】プロトン伝導性高分子10は、主鎖12と、該主鎖12から放射状に延在する複数個の分岐状側鎖14とを有する。分岐状側鎖14の末端には、プロトン伝導性の塩24が存在する。プロトン伝導性高分子10においては、主鎖12の延在方向に直交する方向中の該主鎖の断面を中心とし、且つ前記塩24同士に外接する仮想円Cを作成することが可能である。すなわち、プロトン伝導性高分子10は略円柱体形状であり、前記塩24は、略円柱体の側周壁位置に存在する。隣接する塩24同士の間でプロトンが授受されることにより、前記円柱体の側周壁位置に伝導チャネルが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素燃料電池やダイレクトメタノール型燃料電池等の電解質として好適なプロトン伝導性高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、アノード側電極とカソード側電極との間に電解質が介装された電極・電解質接合体を1組のセパレータで挟持した単位セルを有し、これら単位セル同士が所定数だけ積層されることで構成されている。なお、前記電解質には、例えば、プロトン伝導性高分子が採用され、アノード側電極で生成したプロトンをカソード側電極へと伝導させる。
【0003】
この種のプロトン伝導性高分子としては、パーフルオロ系ポリマーないし芳香族炭化水素にスルホン酸を付与した有機物が知られているが、このようなスルホン酸付与有機物単独ではプロトン伝導度が十分ではなく、湿潤状態が保たれることではじめて実用に適する程度のプロトン伝導度が発現する。従って、スルホン酸付与有機物からなるプロトン伝導性高分子を電解質として燃料電池を構成する場合、該電解質の湿潤状態を保つために加湿器を設け、アノード側電極に供給する燃料ガス、カソード側電極に供給する酸化剤ガスの両ガス(反応ガス)に加湿を行うようにしている。
【0004】
なお、反応ガスへの水分付与量が過剰であると、水分が反応ガス流路を閉塞して反応ガスの各電極への供給量が減少し、このために燃料電池の発電性能が低下するという不具合を招く。そこで、特許文献1では、水分付与量を適切量に設定するための制御方法が提案されている。
【0005】
ところで、使用環境温度が氷点下以下では、反応ガスに付与した水分が凍結してしまう。このような場合、凍結を回避するべく大型の外部ヒータを設けて燃料電池を加温し、その後に運転することが一般的である(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−280029号公報
【特許文献2】特開2006−260962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記から諒解されるように、スルホン酸付与有機物からなる電解質を使用した燃料電池を運転する際には、反応ガスの湿度及び運転温度を厳密に管理する必要がある。さらに、加湿器やヒータを外部機器として設けるために燃料電池システムが大規模化する上、設備投資が高騰するという不都合がある。
【0008】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、反応ガスの湿度管理が不要であり、しかも、燃料電池システムを簡素化したり設備投資を低廉化したりすることも可能なプロトン伝導性高分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明は、直線状に延在する主鎖と、各々の一端が前記主鎖に結合し且つ他端にプロトン伝導性の塩が存在する複数個の分岐状側鎖とを有するプロトン伝導性高分子であって、
複数個の前記分岐状側鎖が前記主鎖から放射状に延在するとともに、
前記主鎖の延在方向に直交する方向中の該主鎖の断面を中心とし、且つ異なる前記分岐状側鎖に存在する前記塩に外接する仮想円が形成されることを特徴とする。
【0010】
このような構成の高分子は、結局、前記仮想円が主鎖の延在方向に沿って延在する略円柱体形状となる。この略円柱体の側周壁位置に存在する前記塩同士の間でプロトンが授受されることにより、プロトン伝導が発現する。
【0011】
すなわち、本発明においては、プロトン伝導の際に水分を特に必要としない。換言すれば、乾燥状態であっても優れたプロトン伝導度を示すプロトン伝導性高分子となる。
【0012】
このため、該プロトン伝導性高分子を電解質として燃料電池を構成した場合、該燃料電池では、反応ガスを加湿する必要がない。必然的に、反応ガス流路が閉塞する懸念も払拭される。また、反応ガスの湿度を厳密に管理することも不要となる。さらに、水分を付与する必要がないので、反応ガス中の水分が凍結することもない。このため、燃料電池を氷点下以下の使用環境温度で運転する場合であっても、該燃料電池を加温する必要がない。
【0013】
以上のような理由から、燃料電池に加湿器やヒータを付設する必要もない。従って、燃料電池システムを簡素化することができるとともに、設備投資の低廉化を図ることもできる。
【0014】
なお、前記塩は、該塩を形成する酸又は塩基の少なくともいずれか一方が前記分岐状側鎖に結合していることが好ましい。この場合、該塩が強固に分岐状側鎖に結合するのでプロトン伝導度が安定する。また、該塩が密に存在することになるので、プロトン伝導度も向上する。
【0015】
前記分岐状側鎖の好適な例としては、繰り返し単位が複数回繰り返されたデンドリマーを挙げることができる。この場合、プロトン伝導性高分子を得ることが容易である。また、繰り返し単位を複数回繰り返すことによって、隣接する塩同士の距離が短くなる。その結果、塩同士の間のプロトン授受が容易となり、このためにプロトン伝導度が一層向上する。
【0016】
また、前記塩は、スルホン酸と第1級アミンの塩、又はスルホン酸と第2級アミンの塩であることが好ましい。この場合、プロトン伝導度に優れ、且つ耐熱性が良好なプロトン伝導性高分子となるからである。
【0017】
ここで、分岐状側鎖の全ての末端に前記塩が存在する必要は特になく、一部の末端は酸又は塩基であってもよい。ただし、酸又は塩基を塩にするための対応塩基又は対応酸が遊離した状態で過度に存在する場合、蒸気圧が高くなる。このため、本発明に係るプロトン伝導性高分子を電解質として燃料電池を設けると、該燃料電池の高温での動作安定性が低下する懸念がある。これを回避するために、対応塩基又は対応酸の割合は、分岐状側鎖の末端に存在する酸又は塩基に対して1当量以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、主鎖の延在方向に直交する方向中の該主鎖の断面を中心とし、且つ分岐状側鎖の末端に存在する塩に外接する仮想円が前記主鎖の延在方向に沿って延在する略円柱体形状の構成となるので、前記略円柱体の側周壁位置に存在する前記塩同士の間でプロトンが授受され、プロトン伝導が発現する。すなわち、プロトン伝導の際に水分を特に必要とすることがないので、乾燥状態であっても優れたプロトン伝導度を示すプロトン伝導性高分子を構成することができる。
【0019】
このようなプロトン伝導性高分子を電解質として燃料電池を構成した場合、該燃料電池では、反応ガスを加湿する必要がない。このため、反応ガス流路が閉塞する懸念が払拭される上、反応ガスの湿度管理も不要となる。さらに、反応ガス中の水分が凍結することがないので、燃料電池を氷点下以下の使用環境温度で運転する場合であっても、該燃料電池を加温する必要がない。結局、燃料電池に加湿器やヒータを付設することが不要となり、燃料電池システムを簡素化することができる上、設備投資の低廉化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るプロトン伝導性高分子につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係るプロトン伝導性高分子10の長手方向に沿う模式構造説明図であり、図2は、その正面図である。このプロトン伝導性高分子10は、主鎖12と、該主鎖12に結合した複数個の分岐状側鎖14とを有する。
【0022】
主鎖12は、直線状に延在して分岐状側鎖14を結合可能な高分子であればよく、特に限定されるものではないが、炭化水素系高分子を好適な例として挙げることができる。具体的には、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリメタクリル樹脂、ポリビニル樹脂、ポリアリル樹脂等、2重結合を有するモノマーを重合させて得られる脂肪族炭化水素系高分子が例示される。
【0023】
主鎖12は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂等の主鎖12にヘテロ原始を含む樹脂や、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフルオロビニリデン樹脂等の含フッ素樹脂であってもよい。さらに、ポリフェニレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンアミド樹脂、ポリフェニレンエステル樹脂等の芳香族系高分子であってもよく、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂等のヘテロ環高分子であってもよい。
【0024】
この場合、分岐状側鎖14は、主鎖12に直接結合した第1世代分岐枝16と、該第1世代分岐枝16から枝分かれ分岐して結合した第2世代分岐枝18と、該第2世代分岐枝18からさらに枝分かれ分岐して結合した第3世代分岐枝20と、該第3世代分岐枝20からさらに枝分かれ分岐して結合した第4世代分岐枝22とを有する。第1世代分岐枝16、第2世代分岐枝18、第3世代分岐枝20、第4世代分岐枝22は、少なくとも1個が相違する構造であってもよいが、同一であることが好ましい。すなわち、この場合、分岐状側鎖14は、同一の繰り返し単位が繰り返されたデンドリマーである。
【0025】
各分岐枝16、18、20、22の好適な例としては、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族アミン、脂肪族エーテル、芳香族エーテル、脂肪族アミド、芳香族アミド、飽和炭化水素、フッ化炭素を挙げることができる。また、世代が異なる分岐枝同士は、炭素、窒素、ケイ素、リン等の多価の原子や、ベンゼン核等の芳香環、イミダゾール等のヘテロ環、シクロヘキサン等の脂肪族環を介して結合していてもよい。
【0026】
このような構成の分岐状側鎖14において、第4世代分岐枝22の末端には、プロトン伝導性の塩24が結合している。すなわち、分岐状側鎖14は、第1世代分岐枝16の一端を介して主鎖12に結合する一方、第4世代分岐枝22の末端にプロトン伝導性の塩24を具備する。
【0027】
塩24の好適な例としては、ブレンステッド酸とアミンからなる塩を挙げることができる。なお、ブレンステッド酸としてはスルホン酸、リン酸、ホスホン酸が例示され、アミンとしてはアンモニア、脂肪族アミン、脂環式アミン、又はイミダゾール、トリアゾール、ピリジン等の含窒素ヘテロ環化合物が例示される。なお、プロトン伝導性と耐熱性が良好なプロトン伝導性高分子10が得られることから、スルホン酸と第1級アミンからなる塩、又はスルホン酸と第2級アミンからなる塩であることが好ましい。
【0028】
各分岐状側鎖14の第1世代分岐枝16の一端は、主鎖12の任意の位置に結合している。このため、分岐状側鎖14は、特定方向ではなく互いにランダムに延在する。換言すれば、複数個の分岐状側鎖14は、図2に示すように、主鎖12から放射状に延在するようにして結合している。また、分岐枝18、20、22は、三次元的に分岐拡開している。
【0029】
そして、塩24同士を結ぶと仮想円Cが形成される。すなわち、この仮想円Cは、主鎖12の断面を中心とし、塩24に外接する。プロトン伝導性高分子10では、この仮想円Cが主鎖12の延在方向に連続することによって略円柱体が形成される。結局、プロトン伝導性高分子10は、底面の中心に主鎖12の断面が位置し、且つ側周壁位置に塩24が存在する略円柱体形状である。
【0030】
塩24は、第4世代分岐枝22(分岐状側鎖14)の全ての末端に存在する必要は特にない。すなわち、第4世代分岐枝22(分岐状側鎖14)の一部の末端は、酸又は塩基であってもよい。ただし、酸又は塩基を塩にするための対応塩基又は対応酸が遊離した状態で過度に存在すると蒸気圧が高くなる。このため、例えば、プロトン伝導性高分子10を電解質として燃料電池を設けた場合、該燃料電池の高温での動作安定性が低下する懸念がある。これを回避するべく、対応塩基又は対応酸の割合は、第4世代分岐枝22の末端に存在する酸又は塩基に対して1当量以下であることが好ましい。
【0031】
このような構成のプロトン伝導性高分子10においては、隣接する塩24同士の間でプロトンが逐次的に授受され、その結果、プロトン伝導が生じる。すなわち、仮想的な略円柱体形状の側周壁位置に伝導チャネルが形成される。
【0032】
上記から諒解されるように、このプロトン伝導の際には水分を特に必要としない。従って、反応ガスに水分付与(加湿)を行う必要がなく、必然的に、反応ガス流路が閉塞する懸念が払拭されるので反応ガスの湿度を厳密に管理する必要もない。
【0033】
また、水分を付与する必要がないので、反応ガス中の水分が凍結することもない。このため、プロトン伝導性高分子10を組み込んだ燃料電池を氷点下以下の使用環境温度で運転する場合であっても該燃料電池を加温する必要がない。
【0034】
その上、加湿器やヒータを付設することが不要となる。従って、燃料電池システムを簡素化することができるとともに、設備投資が低廉化する。
【0035】
なお、分岐枝の世代数は、図1及び図2に示す4世代に特に限定されるものではないが、世代数が大きいほど隣接する分岐枝同士の距離が短くなり、プロトンの伝導が容易となる。従って、分岐枝は少なくとも2世代以上とすることが好ましい。
【0036】
上記したプロトン伝導性高分子は、例えば、以下の第1〜第3の製法によって作製することができる。
【0037】
はじめに、主鎖12に対して分岐状側鎖14を結合する第1の製法につき、2,2−ビスヒドロキシメチルプロピオン酸(bis−MPA)を分岐状側鎖14とし、且つ該分岐状側鎖14の末端の塩24をスルホン酸のメチルアミン塩とする場合を例示して説明する。なお、bis−MPAの構造式は、下記の通りである。
【0038】
【化1】

【0039】
bis−MPAは、1個のカルボキシル基と2個の水酸基を有する。従って、脱水縮合を行うと繰り返し単位が分岐しながら結合し、その結果、一端にカルボキシル基が結合したデンドリマーが形成される。該デンドリマーにおける分岐枝の世代数は、脱水縮合の繰り返し回数に対応する。
【0040】
次に、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)を用意する。PVAにはOH基が側鎖として存在するので、前記のデンドリマーとともに脱水縮合を進行させることにより、PVAを主鎖12とし、且つ繰り返し単位がbis−MPAであるデンドリマーを分岐状側鎖14とする高分子が得られる。
【0041】
次に、前記分岐状側鎖14の末端の水酸基をスルホン酸とする。この場合、前記高分子をスルホ酢酸とともに脱水縮合させれば、分岐状側鎖14の末端に存在する水酸基とスルホ酢酸中のカルボキシル基とがエステル結合により結合し、その結果、分岐状側鎖14の末端がスルホン酸となる。その後、メチルアミンを添加してこのスルホン酸と反応させれば、分岐状側鎖14の末端がスルホン酸メチルアミン塩となる。
【0042】
又は、前記高分子をスルホ酢酸メチルアミン塩とともに脱水縮合させ、分岐状側鎖14の末端の水酸基とスルホ酢酸メチルアミン塩とをエステル結合により結合させるようにしてもよい。勿論、分岐状側鎖14の末端を先ずアミンとし、その後、該アミンをメタンスルホン酸と反応させてメタンスルホン酸アミン塩とするようにしてもよい。
【0043】
以上により、プロトン伝導性高分子10が得られるに至る。
【0044】
第2の製法は、主鎖12に側鎖を先ず設け、その後、この側鎖を延伸させることで分岐状側鎖14を形成し、さらに、該分岐状側鎖14の末端に塩24を設ける製法である。この第2の製法につき、ポリヒドロキシエチルメタクリレート(PHEMA)を主鎖12、繰り返し単位がbis−MPAであるデンドリマーを分岐状側鎖14とする場合を例示して説明する。なお、PHEMAの構造式は下記の通りである。
【0045】
【化2】

【0046】
この場合、PHEMAに対してbis−MPAを脱水縮合によってエステル結合させ、bis−MPAを側鎖とする。この脱水縮合を繰り返すことにより、bis−MPA同士がエステル結合を介して逐次的に結合する。その結果、分岐状側鎖14が形成される。
【0047】
その後、第1の製法と同様にして分岐状側鎖14の末端に塩24を形成すれば、プロトン伝導性高分子10が得られる。
【0048】
第3の製法は、モノマーに分岐状側鎖14を先ず結合し、その後、このモノマーを重合して主鎖12とする製法である。この種のモノマーの好適な例としてはヒドロキシエチルメタクリル酸が挙げられ、分岐状側鎖14の好適な例としては繰り返し単位がbis−MPAであるデンドリマーが挙げられる。
【0049】
この場合、先ず、第1の製法と同様にして前記デンドリマーを調製する。次に、このデンドリマーを、脱水縮合によってヒドロキシエチルメタクリル酸にエステル結合させ、分岐状側鎖14を有するモノマー(マクロマー)とする。
【0050】
そして、適切な重合開始剤の作用下に前記マクロマーを重合させれば、ヒドロキシエチルメタクリル酸の重合体であるPHEMAを主鎖12とし、繰り返し単位がbis−MPAであるデンドリマーを分岐状側鎖14とする高分子が得られる。さらに、第1の製法と同様にして分岐状側鎖14の末端に塩24を形成すれば、プロトン伝導性高分子10が得られる。
【0051】
なお、図1及び図2においては、分岐状側鎖14の全てが主鎖12の延在方向に直交する方向に沿って分岐拡開するように図示しているが、特にこれに限定されるものではなく、分岐状側鎖14が主鎖12の延在方向に沿って分岐拡開していてもよい。さらに、これらの状態が混在していてもよい。
【実施例1】
【0052】
10gのPHEMAと3.8gのジメチルアミノピリジンを、30gのピリジンに溶解した。その一方で、PHEMAの水酸基に対して1.5倍当量となる41.3gのbis−MPA無水物をジクロロメタン150mlに溶解した溶液を調製し、前記ピリジン溶液に混合した。その後、室温で撹拌することでPHEMAとbis−MPA無水物を反応させた。なお、bis−MPA無水物の構造式は下記の通りである。
【0053】
【化3】

【0054】
3日間経過後、反応混合物に水を加えて過剰のbis−MPA無水物を加水分解し、さらに、溶媒を留去して得られた残留物を水で洗浄して乾燥したところ、縮合生成物の前駆体が22.2g得られた。
【0055】
この前駆体の全量を1リットルのメタノールに溶解して溶液を調製し、次に、該溶液にアンバーライト(米国ロームアンドハース社製のイオン交換樹脂)30ミリリットルを添加した後、7日間40℃に保持した。さらに、アンバーライトを除去した後に残留物を濃縮し、ジクロロメタンで洗浄した後に乾燥した。これにより、PHEMAの主鎖と、bis−MPAを基本構成とする第1世代分岐枝からなる分岐状側鎖とを有する下記構造式の高分子が14.4g得られた。以下においては、主鎖をPHEMA、分岐状側鎖の基本構成をbis−MPAとする高分子をPHEMA−PEDと表し、さらに、分岐枝の世代数を意味する表記を括弧書きで付加する。すなわち、例えば、PHEMA−PED(G1)の表記は分岐枝として第1世代のもののみが存在することを表し、同様に、PHEMA−PED(G3)の表記は分岐枝として第3世代のものが存在することを表す。
【0056】
【化4】

【0057】
なお、この構造式における破線は、主鎖と第1世代分岐枝とを明確に区別し得るように便宜的に付したものであり、何らかの官能基ないし繰り返し単位等が結合していることを意味するものではない。以下においても同様である。
【0058】
次に、上記のようにして得られたPHEMA−PED(G1)の1gと、下記構造式のスルホ酢酸ジメチルアミン塩4gとを混合し、140℃で10時間減圧することで両者を反応させた。
【0059】
【化5】

【0060】
次に、得られた反応生成物を10ミリリットルの水に溶解し、この水溶液を200ミリリットルのエタノールに混合して再沈生成を行い、沈殿物を乾燥させたところ、下記に構造式を示すように、分岐状側鎖(第1世代分岐枝)の末端にスルホン酸のジメチルアミン塩が結合した高分子が得られた。これを実施例1とする。
【0061】
【化6】

【実施例2】
【0062】
実施例1において得られたPHEMA−PED(G1)中の13gと、4.8gのジメチルアミノピリジンとを39gのピリジンに溶解した。その一方で、PHEMA−PED(G1)の水酸基に対して1.5倍当量となる52.9gのbis−MPA無水物をジクロロメタン150mlに溶解した溶液を調製し、前記ピリジン溶液に混合した。その後、室温で撹拌することでPHEMAとbis−MPA無水物を反応させた。
【0063】
3日間経過後、反応混合物に水を加えて過剰のbis−MPA無水物を加水分解し、さらに、溶媒を留去して得られた残留物を水で洗浄して乾燥して、32.2gの縮合生成物の前駆体を得た。この前駆体の全量を1リットルのメタノールに溶解して溶液を調製し、次に、該溶液に30ミリリットルのアンバーライトを添加した後、7日間40℃に保持した。さらに、アンバーライトを除去した後に残留物を濃縮し、ジクロロメタンで洗浄した後に乾燥した。これにより、PHEMAの主鎖と、bis−MPAを基本構成として第2世代分岐枝が存在する分岐状側鎖とを有する下記構造式のPHEMA−PED(G2)が15g得られた。
【0064】
【化7】

【0065】
このPHEMA−PED(G2)中の2gと、前記スルホ酢酸ジメチルアミン塩2gとを混合し、140℃で10時間減圧することで両者を反応させた。得られた反応生成物を10ミリリットルの水に溶解し、この水溶液を200ミリリットルのエタノールに混合して再沈生成を行い、沈殿物を乾燥させたところ、下記に構造式を示すように、分岐状側鎖(第2世代分岐枝)の末端にスルホン酸のジメチルアミン塩が結合した高分子が得られた。これを実施例2とする。
【0066】
【化8】

【実施例3】
【0067】
実施例2で得られたPHEMA−PED(G2)中の12.1gと、4.9gのジメチルアミノピリジンとを40gのピリジンに溶解した。その一方で、PHEMA−PED(G2)の水酸基に対して1.5倍当量となる54.4gのbis−MPA無水物をジクロロメタン150mlに溶解した溶液を調製し、前記ピリジン溶液に混合した。その後は実施例1、2と同様に室温で3日間撹拌後、反応混合物中の過剰bis−MPA無水物を加水分解し、溶媒を留去して得られた残留物を水で洗浄して乾燥した。これにより、縮合生成物の前駆体が30.5g得られた。
【0068】
以降、実施例1、2と同様に前駆体の全量を1リットルのメタノールに溶解した後、この溶液に30ミリリットルのアンバーライトを添加し、7日間40℃に保持した。さらに、アンバーライトの除去、残留物の濃縮、ジクロロメタンによる洗浄、乾燥を行ったところ、PHEMAの主鎖と、bis−MPAを基本構成として第3世代分岐枝が存在する分岐状側鎖とを有する下記構造式のPHEMA−PED(G3)が16.9g生成した。
【0069】
【化9】

【0070】
このPHEMA−PED(G3)中の1gと、前記スルホ酢酸ジメチルアミン塩4gとを混合し、140℃で10時間減圧することで両者を反応させた。得られた反応生成物を10ミリリットルの水に溶解し、この水溶液を200ミリリットルのエタノールに混合して再沈生成を行い、沈殿物を乾燥させたところ、下記に構造式を示す、分岐状側鎖(第3世代分岐枝)の末端にスルホン酸のジメチルアミン塩が結合した高分子が得られた。これを実施例3とする。
【0071】
【化10】

【実施例4】
【0072】
実施例3で得られたPHEMA−PED(G3)を用い、実施例1〜3に準拠した操作を繰り返し行った。最終的に、第6世代分岐枝を有するPHEMA−PED(G6)を得た後、この中の2gと前記スルホ酢酸ジメチルアミン塩7gとを混合し、140℃で10時間減圧することで両者を反応させた。得られた反応生成物を10ミリリットルの水に溶解し、この水溶液を200ミリリットルのエタノールに混合して再沈生成を行い、沈殿物を乾燥させたところ、分岐状側鎖(第6世代分岐枝)の末端にスルホン酸のジメチルアミン塩が結合した高分子が得られた。これを実施例4とする。
【実施例5】
【0073】
17.2gのアジリジンを150ミリリットルのエーテルに溶解し、その一方で、76.3gの塩化トシルを350ミリリットルのエーテルに溶解した。なお、アジリジン、塩化トシルの各構造式は、下記の通りである。
【0074】
【化11】

【0075】
【化12】

【0076】
上記のようにして調製した両溶液を、10℃以下の温度が保たれるようにしながら混合し、塩を析出させた。この塩を濾過して再結晶することで、構造式が下記に示されるトシルアジリジンを53.3g得た。
【0077】
【化13】

【0078】
次に、構造式が下記に示されるポリアリルアミン(PAA)10gと、前記トシルアジリジン中の18gとを50ミリリットルのエタノールに溶解し、室温で7日間撹拌することでPAAとトシルアジリジンとを反応させた。
【0079】
【化14】

【0080】
生成した高分子をエタノールで洗浄した後に乾燥したところ、13.6gの縮合生成物の前駆体を得た。この前駆体の13.5gを脱気した濃硫酸70ミリリットルに溶解し、130℃で15時間保持した。得られた反応混合物に対し、10℃以下の温度が保たれるようにしながらエーテルを添加し、反応生成物を析出させた。この反応生成物を濾過して100ミリリットルの水に溶解して水溶液を調製し、該水溶液に20%KOH水溶液を添加してpHを12とした。さらに、溶媒を留去した後、メタノールに再溶解して不純物を析出させた。この不純物を濾過によって分離することで得られた濾液を乾燥し、構造式が下記に示されるように、PAAのN原子1個あたりに2個の−CH2−CH2−NH2が分岐状側鎖として結合した高分子を4.2g得た。以下においては、主鎖12をPAA、分岐状側鎖の基本構成を−CH2−CH2−NH2とする高分子をPAA−PEIDと表し、さらに、上記と同様に、分岐枝の世代数を意味する表記を括弧書きで付加するものとする。
【0081】
【化15】

【0082】
このPAA−PEID(G1)中の0.5gを2.5gの水に溶解して水溶液を調製し、さらに、この水溶液に対し、前記分岐状側鎖の末端に存在する第1級アミンと当量のメタンスルホン酸を含む水溶液を添加した。この混合水溶液を透析によって精製し、下記に構造式を示すように、分岐状側鎖(第1世代分岐枝)の末端にスルホン酸のアミン塩が結合した高分子が得られた。これを実施例5とする。
【0083】
【化16】

【実施例6】
【0084】
実施例5で得られたPAA−PEID(G1)中の2gと、実施例5と同様にして合成したトシルアジリジン14.4gとを50ミリリットルのエタノールに溶解し、室温で7日間撹拌することでPAA−PEID(G1)とトシルアジリジンとを反応させた。
【0085】
生成した高分子をエタノールで洗浄した後に乾燥し、7.8gの縮合生成物の前駆体を得た。この前駆体の全量を脱気した濃硫酸70ミリリットルに溶解し、130℃で15時間保持した。以降は実施例5に準拠して、構造式が下記に示される、PAA−PEID(G1)における−CH2−CH2−NH2のN原子1個あたりに2個の−CH2−CH2−NH2がさらに結合したPAA−PEID(G2)を2.4g得た。
【0086】
【化17】

【0087】
さらに、得られたPAA−PEID(G2)中の0.5gを2.5gの水に溶解して水溶液を調製した後、実施例5と同様の操作を行って、分岐状側鎖(第2世代分岐枝)の末端にスルホン酸のアミン塩が結合した高分子を得た。この高分子の構造式は、下記の通りである。これを実施例6とする。
【0088】
【化18】

【実施例7】
【0089】
実施例6で得られたPAA−PEID(G2)中の1gと、実施例5と同様にして合成したトシルアジリジン7.5gとを25ミリリットルのエタノールに溶解し、室温で7日間撹拌することでPAA−PEID(G2)とトシルアジリジンとを反応させた。
【0090】
生成した高分子をエタノールで洗浄した後に乾燥し、4.6gの縮合生成物の前駆体を得た。この前駆体の全量を脱気した濃硫酸50ミリリットルに溶解し、130℃で15時間保持した。以降は実施例5、6に準拠して、構造式が下記に示される、PAA−PEID(G2)における−CH2−CH2−NH2のN原子1個あたりに2個の−CH2−CH2−NH2がさらに結合したPAA−PEID(G3)を1.5g得た。
【0091】
【化19】

【0092】
さらに、得られたPAA−PEID(G2)中の0.3gを2.5gの水に溶解して水溶液を調製した後、実施例5、6と同様の操作を行って、分岐状側鎖(第3世代分岐枝)の末端にスルホン酸のアミン塩が結合した高分子を得た。この高分子の構造式を下記に示す。これを実施例7とする。
【0093】
【化20】

【実施例8】
【0094】
メタンスルホン酸に代えてトリフルオロメタンスルホン酸を用いたこと以外は実施例5と同様の操作を行い、PAA−PEID(G1)の分岐状側鎖(第1世代分岐枝)の末端にトリフルオロメタンスルホン酸のアミン塩が結合した高分子を合成した。これを実施例8とする。
【実施例9】
【0095】
メタンスルホン酸に代えてトリフルオロメタンスルホン酸を用いたことを除いては実施例6に準拠して、PAA−PEID(G2)の分岐状側鎖(第2世代分岐枝)の末端にトリフルオロメタンスルホン酸のアミン塩が結合した高分子を得た。これを実施例9とする。
【実施例10】
【0096】
実施例7におけるメタンスルホン酸をトリフルオロメタンスルホン酸に代えたことを除いては実施例7に準拠して、PAA−PEID(G3)の分岐状側鎖(第3世代分岐枝)の末端にトリフルオロメタンスルホン酸のアミン塩が結合した高分子を合成した。これを実施例10とする。
【実施例11】
【0097】
実施例3で得られた高分子の0.3gを20ミリリットルのメタノールに溶解した溶液に対し、0.3gのダウエックス(米国ダウ・ケミカル社のイオン交換樹脂)を添加して1時間反応させた。その後、ダウエックスを除去して溶媒を留去し、さらに、乾燥を行ったところ、前記高分子の分岐状側鎖の末端に存在するスルホン酸のジメチルアミン塩の50%が塩構造を保ち、残余の50%がスルホン酸である高分子が生成した。これを実施例11とする。
【実施例12】
【0098】
実施例7と同一の操作で得られたPAA−PEID(G3)の0.2gを2.5gの水に溶解した。この水溶液に、分岐状側鎖の末端に存在する第1級アミンに対して10%当量のメタンスルホン酸を含む水溶液を添加した。さらに、透析を行うことで精製して、分岐状側鎖(第3世代分岐枝)の末端の第1級アミン中の10%にスルホン酸のアミン塩が結合し、残余の末端は第1級アミンのままである高分子を得た。これを実施例12とする。
【実施例13】
【0099】
実施例7と同一の操作で得られたPAA−PEID(G3)の0.3gを2.5gの水に溶解した。この水溶液に、分岐状側鎖の末端に存在する第1級アミンに対して20%当量のメタンスルホン酸を含む水溶液を添加した。以降は実施例12と同様にして、分岐状側鎖(第3世代分岐枝)の末端の第1級アミン中の20%にスルホン酸のアミン塩が結合し、残余の末端は第1級アミンのままである高分子を得た。これを実施例13とする。
【実施例14】
【0100】
上記実施例1〜13の各高分子に対してホットプレス成形を施し、厚みが50μmである膜を作製した。なお、プレス条件は、温度150℃、圧力10kgf/cm2、加圧時間5分とした。
【0101】
さらに、各膜から10mm×30mm×50μmの寸法の試験片を切り出し、120℃に保持することで各試験片から水分を除去した後、該試験片の各々の一端面に2個の電極を互いに所定距離で離間するように接合した。そして、両電極をソーラートロン社製のインピーダンスアナライザS−1260に電気的に接続した後、交流複素インピーダンス法に基づいて120℃における各試験片のインピーダンスを測定し、各々の測定結果と下記の(A)式とから、プロトン伝導度δ(単位:S/cm)を求めた。なお、(A)式において、Nは膜厚(=50μm)、Mは幅(=10mm)、Lは電極間距離、Rはインピーダンスを表す。
【0102】
【数1】

【0103】
比較のため、ナフィオン112(パーフルオロ系ポリマーにスルホン酸が結合したプロトン伝導性高分子の商品名、デュポン社製)から上記と同一寸法の試験片を作製した。これを比較例とする。この比較例についても、80℃で真空乾燥した後、実施例1〜13と同様にプロトン伝導度δを求めた。
【0104】
結果を図3に一括して示す。この図3から、実施例1〜13の膜のプロトン伝導度δが比較例の膜に比して高いこと、すなわち、実施例1〜13の膜が、乾燥状態であっても十分なプロトン伝導度を示すプロトン伝導性高分子であることが明らかである。
【0105】
また、実施例1〜4同士、実施例5〜7同士、実施例8〜10同士にそれぞれ着目すると、分岐枝の世代数が大きくなるにつれてプロトン伝導度が上昇していることが分かる。この理由は、世代数が大きくなることによって隣接する末端同士の距離が小さくなり、その結果、隣接する末端同士の間でのプロトン授受が容易になるためであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本実施の形態に係るプロトン伝導性高分子の長手方向に沿う模式構造説明図である。
【図2】図1のプロトン伝導性高分子の正面図である。
【図3】実施例1〜13及び比較例の各試験片におけるプロトン伝導度を示す図表である。
【符号の説明】
【0107】
10…プロトン伝導性高分子 12…主鎖
14…分岐状側鎖 16…第1世代分岐枝
18…第2世代分岐枝 20…第3世代分岐枝
22…第4世代分岐枝 24…塩
C…仮想円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に延在する主鎖と、各々の一端が前記主鎖に結合し且つ他端にプロトン伝導性の塩が存在する複数個の分岐状側鎖とを有するプロトン伝導性高分子であって、
複数個の前記分岐状側鎖が前記主鎖から放射状に延在するとともに、
前記主鎖の延在方向に直交する方向中の該主鎖の断面を中心とし、且つ異なる前記分岐状側鎖に存在する前記塩に外接する仮想円が形成されることを特徴とするプロトン伝導性高分子。
【請求項2】
請求項1記載のプロトン伝導性高分子において、前記塩は、該塩を形成する酸又は塩基の少なくともいずれか一方が前記分岐状側鎖に結合していることを特徴とするプロトン伝導性高分子。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプロトン伝導性高分子において、前記分岐状側鎖は、繰り返し単位が複数回繰り返されたデンドリマーであることを特徴とするプロトン伝導性高分子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロトン伝導性高分子において、前記塩は、スルホン酸と第1級アミンの塩、又はスルホン酸と第2級アミンの塩であることを特徴とするプロトン伝導性高分子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロトン伝導性高分子において、前記塩を生成するための酸又は塩基に対し、該酸又は該塩基とともに前記塩を生成するための対応塩基又は対応酸が1当量以下であることを特徴とするプロトン伝導性高分子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−202025(P2008−202025A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289410(P2007−289410)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】