説明

プロポリス抽出成分組成物およびその使用方法

【課題】 プロポリス含有食品の製造工程で生じる、食品として不要なワックス成分や溶媒不溶成分を有効活用し、新規なプロポリス抽出成分組成物およびその使用方法を提供する。
【解決手段】 プロポリスの原塊を液化炭酸ガスなどで抽出処理したときに得られるワックス画分と、前記抽出処理によって得られた液化炭酸ガス不溶画分をエタノールなどで溶媒抽出したときに残存するエタノール不溶画分とを含有する組成物である。この組成物を60℃〜160℃で加熱することでリラクセーション効果等を有する有効成分を空気中に拡散させる。また、煙状微粒子の発生する120℃〜160℃で加熱することでさらなる有効成分を空気中に拡散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロポリスを抽出する際に得られる各種成分を含有する新規なプロポリス抽出成分組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
蜂が採集した植物の樹脂成分や蜂が産生する唾液分泌物の複合物であるプロポリスは、伝統的に抗菌物質や健康増進物質を含む食品として利用されてきた。プロポリスを食品として利用するにあたっては、非水溶性のワックス成分が独特な風味を持っているためプロポリス原塊の状態では食品として供しにくいという問題があり、各種の溶媒抽出法による加工がなされている(特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、上記従来のプロポリスの加工では、食品加工工程において食品としては不適なヤニ状のワックス画分や、食品として有用な成分を抽出した後に残る溶媒不溶画分を廃棄物として処理しており、これら画分中に残存する成分の詳細な探索は行われておらず、その有効活用は図られていなかった。
【0004】
また、下記特許文献2においては、エタノールや液化炭酸ガス抽出後に残るプロポリス抽出残渣を利用した雰囲気改良剤が提案されている。しかしこの文献においても、エタノールや液化炭酸ガスでは溶出されてしまう上記ワックス成分は利用されていない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−321093号公報
【特許文献2】特開平11−89921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、これらプロポリス含有食品の製造工程で生じる上記ワックス成分や溶媒不溶成分を有効活用した新規なプロポリス抽出成分組成物、ならびにその有効な使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述のように廃棄物として処理されていた前記ワックス画分等の中に、例えばストレス性疾患等の治療に用いられる森林浴成分(フィトンチッド)として知られる有用な物質が残存していることを見出し、この知見に基づいてこれを含む組成物の有効な使用方法についても鋭意研究した結果本発明に至った。
【0008】
本発明のプロポリス抽出成分組成物は、プロポリスを抽出処理したときに得られるワックス画分や不溶画分の有効活用を図るために、プロポリスを抽出処理したときに得られるワックス画分と、前記抽出処理によって得られた不溶画分を溶媒抽出したときに残存する溶媒不溶画分とを含むことを特徴とする。
【0009】
また本発明の組成物の使用方法は、前記プロポリス抽出成分組成物を60℃〜160℃で加熱し、フィトンチッド成分等の少なくともリラクセーション効果を有する健康回復または増進に有効な成分を空気中に拡散させることを特徴とする。このフィトンチッド成分としては、1,8−シネオール、シトラール、シトロネラール、α−ピネン、β−ピネン等が挙げられる。
さらに、前記プロポリス抽出成分組成物を煙状微粒子が発生する120℃〜160℃に加熱し、催眠効果、精神安定効果および喘息症状緩和効果のうちの少なくとも一つの効果を有する健康回復または増進に有効な成分を空気中に拡散させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来はプロポリスの食品加工工程において廃棄処理されていた食品としての不要成分を、プロポリス抽出成分組成物として有効活用を図ることができる。本発明のプロポリス抽出成分組成物にはフィトンチッド等のリラクセーション効果等を示す有効な成分が含まれているため、これら成分を利用して健康回復または増進を図ることができる。
これらの有効な成分は加熱によって空気中に拡散させることができるが、煙状微粒子が発生する温度で加熱して拡散させることで、さらに喘息症状の緩和、不眠症の解消、イライラ・クヨクヨ気分の消失という新たな効果、あるいは煙状微粒子の発生温度以下で加熱した場合に得られる効果を増強させる効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明に係るプロポリス抽出成分組成物の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
本発明の原料に用いられるプロポリス原塊は特に限定されるものではなく、例えばブラジル産、ヨーロッパ産、中国産、オーストラリア産、ニュージーランド産、キューバ産のもの等が利用できる。中でもブラジル産が好ましく利用できる。
【0012】
本発明のプロポリス抽出成分組成物は、例えば、図1に示されるような抽出処理の工程を経て得ることができる。図1にはプロポリスの原塊を、液化炭酸ガスを用いて抽出処理する工程(第1工程)と、液化炭酸ガスで抽出処理した際に得られる不溶画分をエタノールで抽出処理する工程(第2工程)とが示されている。なおこれらの工程は、それぞれ液化炭酸ガスまたはエタノール以外の親水性極性溶媒等を用いて抽出処理することも可能であり、抽出方法についても公知の方法を適宜選択して行うことができる。
たとえばワックス画分は、前記特許文献1に示されるようにヘキサンを用いて抽出することが可能である。
【0013】
ワックス画分の抽出
プロポリスのワックス画分は、プロポリスの原塊を液化炭酸ガスによって抽出処理した時に、食品としては好ましくない画分として分取される(第1工程)。プロポリス原塊は産地の起源植物種によりその成分含有量に差異があるので、適宜温度および圧力条件を選択し(例えば約25℃、7.0MPa程度で行う)、このワックス画分を分取する。抽出されたワックス画分には、テルペン類、フェノール類等のフィトンチッド成分、具体的には1,8−シネオール、シトラール、シトロネラール、α−ピネン、β−ピネン等が含まれる。例えば、ブラジル産プロポリスを用いた場合、この第1工程により得られるワックス画分は原塊重量の2〜4W/W%程度である。なお、このワックス画分はエタノールに可溶である。
【0014】
エタノール不溶画分の採取
エタノール不溶画分は、上記の抽出処理によって分取された液化炭酸ガス不溶画分に、エタノールを適量加えて攪拌・混合した後、抽出液とエタノール不溶画分とを分離することで採取される(第2工程)。なお、この工程で得られる抽出液(エタノール可溶画分)は食品原料として利用できる。ブラジル産プロポリスを用いた場合、この第2工程により得られるエタノール不溶画分は原塊重量の40〜50W/W%程度である。この不溶画分には各溶媒に不溶な繊維質が含まれ、また微量のフィトンチット成分が残存している。
【0015】
プロポリス抽出成分組成物の調製
上記第2工程で得られたエタノール不溶画分に、第1工程で得られたワックス画分を加え、ミキサーなど公知の手段を用いて攪拌・混合する(第3工程)。これら二つの画分の混合比は、ワックス画分の組成比や臭いの強さなどを考慮して適宜選択することができるが、臭いの強さを考慮すると、エタノール不溶画分に対してワックス画分を10W/W%以下に抑えることが好ましい。前記エタノール不溶画分には、上述のように微量のフィトンチット成分が残存しているので、この成分も有効に使用することができる。また、エタノール不溶画分には繊維質が含まれるため、これ自体に賦形剤としての機能を持たせることができる。このようにして混合された組成物に、成形する態様に応じてさらにリンゴ酸ジイソステアリル等の公知のバインダーを適宜混ぜることで成形しやすくなる。
【0016】
プロポリス抽出成分組成物の製剤化
上記第3工程で得られた組成物は、ボソボソした半ペースト状物として得ることができる。そこで、これを利用し易くするために、例えばマット状にしたり、線香のように棒状に練り固めたり、金属製トレイの凹部に半ペースト状の組成物を充填するなどして製剤化する。また、組成物を金属製トレイに充填すれば型くずれがなくなるので取り扱い易くなる。
【0017】
組成物の使用方法
本発明の組成物は例えば上記のように製剤化し、これを加熱して使用することが望ましい。例えば、上記製剤を60℃〜160℃に加熱することで、森林浴成分として知られるフィトンチッド成分などを空気中に拡散させる。
この製剤を特に有効に使用するには、およそ120℃以上の、煙状微粒子が発生する温度で加熱する。この煙状微粒子を拡散させた状態で吸い込むことで、煙状微粒子発生温度未満では得られない、不眠症の解消、イライラ・クヨクヨ気分の消失、喘息症状の緩和等の効果、あるいは煙状微粒子発生温度未満で単に気化させた場合以上のリラクセーション効果等を得ることができる。
これは、煙状微粒子が発生する温度以上で加熱することにより生じた新たな有効成分、すなわち煙状微粒子に含まれる成分や、あるいはこの温度未満では拡散しにくい有効成分が拡散するため、と考えられる。なお、160℃を超えて加熱すると不快な焦げ臭が発生することがあり、好ましくない。
加熱方法として例えば温度調整が可能な加熱器を用いることができる。加熱器のプレート上にマット状に成形した製剤を載置し、又はプレートの代わりに設けた金属製トレイに製剤を充填し、プレートや金属製トレイを所定の温度に加熱することで間接的に製剤を加熱し、有効成分を拡散させる。又、線香のように棒状に練り固めた製剤に対しては、直接製剤に着火してお香のように煙をくゆらせることもできる。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明に係るプロポリス抽出成分組成物を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0019】
(製剤の調製)
ブラジル産プロポリスの原塊を液化炭酸ガスによって温度25℃、圧力7.0MPaの条件で抽出処理し、ワックス画分と液化炭酸ガス不溶画分とに分離した。次いで、この液化炭酸ガス不溶画分にエタノールを加えて攪拌・混合し、エタノール可溶画分とエタノール不溶画分とに分離した。これらの工程により、プロポリス原塊の重量に対して、3W/W%のワックス画分と43W/W%のエタノール不溶画分とが得られた。また、得られたワックス画分中のシネオール含有量をガスクロマトグラフィーで測定したところ、約40ppmであった。次いで、前記のワックス画分とエタノール不溶画分とを混合し、バインダーとしてリンゴ酸ジイソステアリルをエタノール不溶画分に対して3W/W%加えて、1,8−シネオールが3ppm程度含有される組成物を調製した。最後にこの組成物を縦2cm、横3cm、厚さ0.5cmの金属製トレイに充填して、試験用製剤を作成した。
【0020】
(試験用製剤の加熱)
上記金属製トレイに充填された試験用製剤を加熱器によって加熱し、試験用製剤の表面温度が約70℃に達するまで加熱を続け、さらに表面温度70℃で保持した。表面温度の測定にはTHERMO−HUNTER PT−7LD(オプティクス社製)を用いた。試験用製剤は、表面温度が約60℃前後から芳香性の有効成分が気化し始め、70℃ではかなり気化の程度も強くなって、室内に香りが拡散した。広さが約80平方メートルの部屋の中央に加熱器をおいて試験用製剤の成分を拡散させ、その周りを20人のパネラーが取り囲んで官能試験をしたところ、全員が森林の香りを感じリラックスした気分になった、との知見を示した。
【実施例2】
【0021】
実施例1と同様にして得たワックス画分とエタノール不溶画分を、下記表1に示す重量比で混合して組成物を得、実施例1と同様にして金属製トレイに充填し試験用製剤(1)〜(3)をそれぞれ調製した。
【0022】
【表1】

【0023】
(試験用製剤の加熱試験)
上記試験用製剤(1)〜(3)を温度制御可能な平板状の加熱器によって急激に加熱し、試験用製剤の表面温度が約120℃〜150℃になるよう温度を保持した。表面温度は実施例1と同様にして測定した。各試験用製剤の表面からは微白色の煙が発生し、広さ約80平方メートルの室内の中央に加熱器をおいて煙を拡散させた。実施例1同様20人のパネラーによって官能試験をしたところ、全員が森林様の香りと煙の香ばしい香りを感じ、試験用製剤(2)、試験用製剤(1)の順にリラックスした気分になったという全員一致した知見が得られた。試験用製剤(3)は臭いが強すぎることからあまり好ましくないという全員一致した知見が得られた。
なお、これら試験用製剤表面から立ち上る煙の中に、酸化チタン製釉薬で焼成された白色のタイルを差し込んだところ、その表面に茶褐色で粒径0.5mm程度の点が多数吸着され、煙状微粒子の存在が目視確認された。
さらに、試験用製剤(2)を用いた同様の加熱実験を、不眠症のパネラー、イライラ、クヨクヨ気分等の精神不安定的症状を呈するパネラー、喘息症状を呈するパネラーに対して3〜7日間続けた結果、症状の軽減あるいは改善が見られたとの報告があった。
【0024】
(煙成分の分析)
閉鎖系のデシケーター内にて、実施例2で得られた試験用製剤(2)を上記加熱試験と同様に温度制御しながら加熱し容器内に充満させた煙20μlをマイクロシリンジ(米国、ハミルトン社製)で採取し、ガスクロマトグラフィーにより定性分析を行った(カラム:TC−WAX60、GL−SCIENCE社製、ガスグロマトグラフ:GC−14A、島津製作所社製)。分析はキャリアガスとして純度99.999%のヘリウムガスを用いて行い、採取した煙を注入した後、25℃〜230℃昇温モードで、FID(水素炎イオン検出器)を検出器として用いて測定した。その結果、1,8−シネオールを含む多数のピークが検出された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るプロポリス抽出成分組成物の製造工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロポリスを抽出処理したときに得られるワックス画分と、
前記抽出処理によって得られた不溶画分を溶媒抽出したときに残存する溶媒不溶画分とを含むことを特徴とするプロポリス抽出成分組成物。
【請求項2】
前記ワックス画分がプロポリスを液化炭酸ガスで抽出したときに得られる請求項1記載のプロポリス抽出成分組成物。
【請求項3】
前記溶媒がエタノールである請求項1記載のプロポリス抽出成分組成物。
【請求項4】
前記ワックス画分にフィトンチッド成分が含有される請求項1記載のプロポリス抽出成分組成物。
【請求項5】
フィトンチッド成分が1,8−シネオール、シトラ−ル、シトロネラール、α−ピネン、β−ピネンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項4記載のプロポリス抽出成分組成物。
【請求項6】
前記溶媒不溶画分に対する前記ワックス画分の混合比が10W/W%以下である請求項1〜5のいずれかに記載のプロポリス抽出成分組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のプロポリス抽出成分組成物を60℃〜160℃で加熱し、少なくともリラクセーション効果を有する健康回復または増進に有効な成分を空気中に拡散させることを特徴とするプロポリス抽出成分組成物の使用方法。
【請求項8】
前記有効な成分に、フィトンチッド成分が含まれることを特徴とする請求項7記載のプロポリス抽出成分組成物の使用方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のプロポリス抽出成分組成物を、煙状微粒子が発生する120℃〜160℃に加熱し、催眠効果、精神安定効果および喘息症状緩和効果のうちの少なくとも一つの効果を有する健康回復または増進に有効な成分を空気中に拡散させることを特徴とするプロポリス抽出成分組成物の使用方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−22301(P2006−22301A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373120(P2004−373120)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(595175301)株式会社応微研 (28)
【Fターム(参考)】