説明

プローブ針及びプローブ針の製造方法

【課題】繰り返し使用しても導通性が低下し難いプローブ針と、大掛かりな設備を必要とせず,製造コストを安くすることが可能なプローブ針の製造方法を提供する。
【解決手段】プローブ針1は、タングステン又はベリリウム銅などからなる略L字状の線材であり、ニッケル,銅,銀,金,亜鉛,鉛,白金,パラジウム及びこれらを含む合金のうちの少なくとも1種類の金属によって形成される陽極板とともに、ニッケル,銅,銀,金,スズ,亜鉛,鉛,クロム,白金,パラジウム,イリジウム及びロジウムのうちの少なくとも1種類を含むめっき液に陰極となるように浸漬され、ON−OFF周期のパルス波形の電流を印加されることにより、先端部1aに複数の微小な粒状突起2が形成された構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路の通電検査等に用いられるプローブ針及びプローブ針の製造方法に係り、特に、検査精度が低下し難く、繰り返し使用可能なプローブ針と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体ウェハの製造工程では、集積回路の電極等にプローブ針を接触させるようにして通電状態の検査が行われる。このような電極の表面には、通常、アルミニウム等のスパッタ膜が施されているため、パッド部表面の酸化アルミを何度も削り取ると、酸化したアルミのスパッタ膜がはがれてプローブ針の先端に付着することがある。この付着物はプローブ針の電気抵抗を増大させ、検査精度の著しい低下を招くため、例えば、定期的に研磨を行うなどしてプローブ針の先端から付着物を除去する必要がある。しかしながら、この作業は多大な時間を要することから、その頻度はできるだけ少ない方が良い。そこで、近年、酸化したアルミの皮膜等が付着し難いプローブ針について盛んに研究や開発がなされている。そして、それに関して幾つかの発明や考案が既に開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「プローブ針とその製造方法」という名称で、半導体ウェハ上の集積回路チップの通電検査をするためのプローブカードに用いられるプローブ針において、先端部へ酸化アルミニウムの付着を低減させることで、メンテナンス作業の回数を大幅に低減し、その寿命を向上させる技術に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、母材がタングステン、レニウムタングステン、ベリリウム銅等の硬くて弾力性の高い材料からなり、先端部が尖頭加工されたプローブ針において、先端部にダイヤモンド、セラミック、立晶窒化ホウ素等の硬質粒子が金属メッキによって固着された構造となっている。
このような構造によれば、電極パッド上をプローブ針の先端で引っ掻いて、表面に形成された酸化アルミニウム層を削り取るようにして集積回路の通電検査を行う場合でも、短いスクラブマーク量で所望深さの削り取りが可能であるため、プローブ針先端に対するアルミニウムの付着量が低減する。
【0004】
特許文献2には、「プローブカード用接触子及びその製造方法」という名称で、シリコンウェハ上に作成された集積回路の良否判定を行うためのプローブカードに用いられ、集積回路の電極パッドと電気的に接触した状態で使用される接触子及びその製造方法に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明であるプローブカード用接触子は、電極パッドとの接触部分を、気相成長法により不純物をドーピングしながら成長させた導電性ダイヤモンドの多結晶体からなる皮膜でコーティングしたことを特徴とする。
このような構造によれば、電極パッドとの接触部分をコーティングするダイヤモンド皮膜が極めて摩耗し難い上、導電性を有することから、電極パットとの電気的な接触状態を長期間にわたって安定して確保することができる。また、ダイヤモンド皮膜は電極屑等の汚れが付着し難いため、プローブカードの交換や、接触子先端のクリーニング等の頻度を少なくして、メンテナンスに要するコストを低減することが可能である。
【0005】
特許文献3には、「プローブカード用測定針、プローブカード及び測定針形成方法」という名称で、シンプルな構成であって、プローブカードの使用効率を低減させることなく、導通性等の機能維持を行うことが可能なプローブカード用測定針やその形成方法等に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示された発明であるプローブカード用測定針は、基板上に形成された電極を介して基板の電気特性を測定するプローブカードに配置されて、電極と接触するものであって、ホウ化チタン等からなる異物付着防止層によりコーティングされた構造となっている。
このような構造のプローブカード用測定針においては、異物の付着を防止できるため、異物除去動作が不要、あるいはその頻度が著しく少なくなる。従って、プローブカード等の使用効率を低下させることなく、導通性等の機能を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−249449号公報
【特許文献2】特開2008−128650号公報
【特許文献3】特開2002−5958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の従来技術である特許文献1に開示された発明では、金属メッキによる硬質粒子の固着力が弱いため、繰り返し使用している間に硬質粒子がプローブ針から欠落するおそれがあった。また、硬質粒子の大きさや密度の調節が困難であるため、プローブ針の品質にばらつきが生じるという課題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示された発明においては、化学気相成長法等によりダイヤモンド皮膜を形成するとともに、その成長中にホウ素等の不純物をドーピングする必要があるため、多くの製造設備を必要とし、電解メッキ等によって金属皮膜を形成する場合に比べて製造コストが高いという課題があった。
【0009】
特許文献3に開示された発明においては、例えば、レーザアブレーション法等により測定針の表面にホウ化チタンの粒子を付着・堆積させて異物付着防止層を形成する必要があるため、製造設備が大掛かりなものとなり、製造コストが高くなるという課題があった。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、繰り返し使用しても導通性が低下し難いプローブ針と、大掛かりな設備を必要とせず,製造コストを安くすることが可能なプローブ針の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、電子回路の通電検査に用いられるプローブ針において、電子回路の一部に接触させる先端部に,メッキ皮膜からなる複数の粒状突起を有することを特徴とするものである。
このような構造のプローブ針においては、通電検査を行うために電子回路の一部に形成された電極上を引っ掻いて削り取った酸化アルミの皮膜や屑等が、先端部に一旦付着した場合でもはがれ易いという作用を有する。
【0012】
また、請求項2記載の発明であるプローブ針の製造方法は、ニッケル,銅,銀,金,スズ,亜鉛,鉛,クロム,白金,パラジウム,イリジウム及びロジウムのうちの少なくとも1種類を含むめっき液に、ニッケル,銅,銀,金,亜鉛,鉛,白金,パラジウム及びこれらを含む合金のうちの少なくとも1種類の金属体とともに,タングステンやベリリウム銅からなるプローブ針を浸漬し、このプローブ針が陰極となり,金属体が陽極となるように、ON−OFF周期のパルス波形の電流を印加して、プローブ針の表面にメッキ皮膜からなる複数の粒状突起を形成することを特徴とするものである。
このようなプローブ針の製造方法によれば、直流電流を印加する場合とは異なり、プローブ針の周辺における金属イオンの濃度低下が逐次回復されるとともに、瞬間的に大きな電流が断続的に印加されるという作用を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1記載のプローブ針によれば、繰り返し使用しても導通性が損なわれないため、長期間にわたって高い検査精度を維持することが可能である。
【0014】
また、本発明の請求項2記載のプローブ針の製造方法によれば、プローブ針の表面に略球面形の複数の粒状突起を形成することができる。また、大掛かりな製造設備を用いる必要がないため、製造コストを安くすることが可能である。さらに、パルス波形の電流値やON−OFF周期を変更することにより、粒状突起の大きさや密度を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の実施の形態に係るプローブ針の実施例の形状を模式的に示した外観図であり、(b)は同図(a)の先端部を拡大したレーザー顕微鏡写真である。
【図2】(a)は本発明の実施の形態に係るプローブ針の製造方法の実施例に用いるメッキ装置の構成を示す模式図であり、(b)は同図(a)のメッキ装置で使用される電流波形の一例を示す図である。
【図3】(a)乃至(d)は本実施例のプローブ針の先端部を拡大したレーザー顕微鏡写真である。
【図4】(a)及び(b)はそれぞれ従来技術に係るプローブ針の先端部のレーザー顕微鏡写真及び3次元形状測定結果の出力図であり、(c)は同図(b)のA−A断面における2次元形状を示すプロファイル図である。
【図5】(a)及び(b)はそれぞれ本実施例のプローブ針の先端部のレーザー顕微鏡写真及び3次元形状測定結果の出力図であり、(c)は同図(b)のB−B断面における2次元形状を示すプロファイル図である。
【図6】(a)及び(b)はそれぞれ本実施例のプローブ針の先端部のレーザー顕微鏡写真及び3次元形状測定結果の出力図であり、(c)は同図(b)のC−C断面における2次元形状を示すプロファイル図である。
【図7】(a)及び(b)はそれぞれ従来技術に係るプローブ針におけるコンタクト試験の結果を示すグラフ及び試験後の先端部の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
【図8】(a)及び(b)はそれぞれ本実施例のプローブ針におけるコンタクト試験の結果を示すグラフ及び試験後の先端部の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
【図9】(a)及び(b)はそれぞれ本実施例のプローブ針におけるコンタクト試験の結果を示すグラフ及び試験後の先端部の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
半導体ウェハの製造工程において集積回路の通電検査を行う場合、複数の探針(プローブ針)が取り付けられたプローブカード(probe card)と呼ばれる基板が用いられることがある。以下、本発明のプローブ針について、プローブカードに用いられるプローブ針を例にとって従来技術と比較しながら図1乃至図9を用いて具体的に説明する。
【実施例】
【0017】
図1(a)は本発明の実施の形態に係るプローブ針の実施例の形状を模式的に示した外観図であり、(b)は同図(a)の先端部を拡大したレーザー顕微鏡写真である。
図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施例のプローブ針1はタングステン又はベリリウム銅などからなり、線径0.15mm、長さ6.0mmの線材を先端部1aから0.1mmの位置で略L字をなすように折り曲げられた形状をしている。そして、先端部1aには、電解メッキによって複数の微小な粒状突起2が形成されている。なお、本発明のプローブ針は図1に示す形状に限定されるものではなく、例えば、L字状の代わりに直線状であっても良い。
【0018】
次に、本実施例のプローブ針1において、先端部1aに微小な粒状突起2を形成する方法について説明する。
図2(a)は本発明の実施の形態に係るプローブ針の製造方法の実施例に用いるメッキ装置の構成を示す模式図であり、図2(b)は図2(a)のメッキ装置で使用される電流波形の一例を示す図である。なお、図1に示した構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。
図2(a)に示すように、本実施例のメッキ装置3は、ニッケル,銅,銀,金,スズ,亜鉛,鉛,クロム,白金,パラジウム,イリジウム及びロジウムのうちの少なくとも1種類を含むめっき液4が充たされたメッキ浴5と、メッキ液4に浸漬されるプローブ針1及び陽極板6と、プローブ針1及び陽極板6がそれぞれマイナス端子7a及びプラス端子7bに電気的に接続され,ON−OFF周期のパルス波形の電流(以下、パルス電流という。)を発生させるパルス発生装置7と、交流電源(図示せず)とパルス発生装置7の間に介装される整流器8とからなる。また、陽極板6は、ニッケル,銅,銀,金,亜鉛,鉛,白金,パラジウム及びこれらを含む合金のうちの少なくとも1種類の金属によって形成されている。そして、パルスON電流9a、パルスOFF電流9b、パルスON時間10a及びパルスOFF時間10bは、パルス発生装置7によって制御されている。
なお、図2(b)に示すパルスON電流9a及びパルスOFF電流9bとは、それぞれパルス電流におけるハイレベル及びローレベルの状態の電流値のことであり、パルスON時間10a及びパルスOFF時間10bとは、それぞれパルスON電流9a及びパルスOFF電流9bが印加されている時間のことである。また、パルスOFF電流9bは0(A)以外に設定される場合もあるため、以下、0(A)の場合も含めて「パルスOFF電流9bを印加する」と表記する。
【0019】
メッキ装置3において、交流電源、パルス発生装置7及び整流器8を作動させ、メッキ液4にパルスON電流9aを印加すると、プローブ針1の表面に金属イオンが析出し、メッキ皮膜が形成される。このとき、メッキ液4中の金属イオンが消費されるため、プローブ針1の周辺では金属イオンの濃度が低下する。次に、パルスON電流9aをパルスOFF電流9bに切り替えると、金属イオンが析出しないため、メッキ液4中の金属イオンが消費されなくなる。この場合、プローブ針1の周辺における金属イオンの濃度は、周囲から金属イオンが移動することによって、再び高くなる。従って、この状態でパルスOFF電流9bをパルスON電流9aに切り替えると、メッキ液4からプローブ針1へ瞬間的に大きな電流が流れることになる。これにより、プローブ針1の表面に金属イオンが析出し、前述のメッキ皮膜が大きく成長する。
【0020】
ここで、メッキ皮膜の形成過程について図3を用いて説明する。
図3(a)乃至図3(d)は本実施例のプローブ針1の先端部1aを拡大したレーザー顕微鏡写真である。なお、顕微鏡の倍率は3000倍である。また、図1及び図2に示した構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。
図2(a)に示したメッキ装置3において、メッキ液4にプローブ針1の先端部1aを浸漬させ、パルス発生装置7を用いて瞬間的に大きなパルスON電流9aを印加すると、プローブ針1の先端部1aにメッキ皮膜が部分的に形成される。そして、メッキ皮膜がプローブ針1の先端部1aの全体に形成される前にパルスON電流9aをパルスOFF電流9bに切り替えると、メッキ皮膜の成長が停止する。これにより、プローブ針1の先端部1aにメッキ皮膜からなる無数の微小な粒状突起2(図1参照)が部分的に形成される(図3(a))。前述のとおり、パルスON時間10aに低下した先端部1aの周辺における金属イオンの濃度が、パルスOFF時間10bに回復するため、この状態で再びパルスON電流9aを印加すると、メッキ液4からプローブ針1の先端部1aへ瞬間的に大きな電流が流れる。加えて、この電流は粒状突起2に集中し易いことから、粒状突起2を核としてメッキ皮膜が大きく成長する(図3(b))。
その後、パルスON電流9aとパルスOFF電流9bの切り替えを順次繰り返すことにより、プローブ針1の先端部1aの表面において粒状突起2が成長する(図3(c))。また、図3(d)は、図3(c)の状態でパルス電流をさらに印加して粒状突起2を成長させた状態を示している。なお、図3(c)及び図3(d)では、粒状突起2が形成されていないように見える箇所があるが、実際には、カメラの焦点深度の関係でピントが合い難い無数の小さな粒状突起2がその箇所に形成されている。
【0021】
図3には、パルス電流の印加回数のみを変えた場合を示しているが、例えば、パルスON電流9a、パルスOFF電流9b、パルスON時間10a及びパルスOFF時間10bを変えることによっても、粒状突起2の大きさや密度が変化する。ただし、パルスON電流9aとパルスOFF電流9bの差が小さすぎる場合やパルスON時間10a及びパルスOFF時間10bが短すぎたり、長すぎたりする場合には、実質的に直流電流と変わらなくなり、後述する本発明の作用及び効果が十分に発揮されないおそれがあるため、パルスON電流9aとパルスOFF電流9bの差は少なくとも0.1mA以上に設定するとともに、パルスON時間10a及びパルスOFF時間10はいずれも2s〜0.1sの範囲内に設定する必要がある。また、少なくともパルスON電流9aは0.1mA以上に設定し、パルスOFF電流9bは−0.01mA〜+0.1mAの範囲内に設定することが望ましい。
【0022】
次に、プローブ針1の先端部1aの形状を測定した結果について、従来技術と比較しながら図4乃至図6を用いて説明する。
図4(a)及び図4(b)はそれぞれ従来技術に係るプローブ針の先端部のレーザー顕微鏡写真及び3次元形状測定結果の出力図であり、図4(c)は図4(b)のA−A断面における2次元形状を示すプロファイル図である。図5(a)及び図5(b)はそれぞれ本実施例のプローブ針1の先端部1aのレーザー顕微鏡写真及び3次元形状測定結果の出力図であり、図5(c)は図5(b)のB−B断面における2次元形状を示すプロファイル図である。図6(a)及び図6(b)はそれぞれ本実施例のプローブ針1の先端部1aのレーザー顕微鏡写真及び3次元形状測定結果の出力図であり、図6(c)は図6(b)のC−C断面における2次元形状を示すプロファイル図である。なお、2次元形状及び3次元形状の測定には、キーエンス社製の非接触形状測定装置(VK−9700)を使用した。また、図4に先端部の形状を示した従来技術に係るプローブ針はメッキ皮膜がない状態のものである。さらに、図5及び図6に先端部1aの形状を示した本実施例のプローブ針1は、メッキ装置3を用いてパルス発生装置7でパルス電流を印加することにより、メッキ皮膜を形成したものであるが、図6は図5の状態でパルス電流をさらに印加した場合を示している。
【0023】
メッキ装置3においてパルス発生装置7で直流電流を印加した場合、金属イオンが途切れることなく析出するため、プローブ針の先端部表面には、凹凸の少ないメッキ皮膜が形成される。これに対し、パルス発生装置7でパルス電流を印加した場合、図5に示すようにプローブ針1の先端部1aの表面にメッキ皮膜からなる直径3μm以上、高さ1μm以上の無数の粒状突起2が形成される。また、図6には、直径6μm以上、高さ3μm以上の無数の粒状突起2が示されている。さらに、図6(c)には図5(c)よりも凹凸の状態が明確で、より球形に近い粒状突起2が示されている。これは、パルス電流の印加回数を増やすと、粒状突起2が成長することを表している。
【0024】
以上説明したように、パルス電流を印加してメッキ皮膜を形成する場合には、直流電流を印加する場合とは異なり、プローブ針1の周辺における金属イオンの濃度低下が逐次回復されるとともに、瞬間的に大きな電流が断続的に印加されるという作用を有する。これにより、プローブ針1の表面に略球面形の粒状突起2が形成される。そして、このようなプローブ針の製造方法によれば、パルスON電流9a、パルスOFF電流9b、パルスON時間10a及びパルスOFF時間10bを変更することによって、粒状突起2の大きさや密度を調節することができる。また、大掛かりな製造設備を必要としないため、製造コストを安くすることが可能である。
【0025】
さらに、図4乃至図6に先端部の形状を示したプローブ針を用いて、表面に酸化アルミニウムのスパッタ等(ドライ皮膜)が被着された電極に対し、コンタクト試験を行った結果について図7乃至図9を用いて説明する。
図7(a)及び図7(b)はそれぞれ従来技術に係るプローブ針におけるコンタクト試験の結果を示すグラフ及び試験後の先端部の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。また、図8(a)及び図8(b)はそれぞれ本実施例のプローブ針1におけるコンタクト試験の結果を示すグラフ及び試験後の先端部1aの状態を示すレーザー顕微鏡写真であり、図9(a)及び図9(b)はそれぞれ本実施例のプローブ針1におけるコンタクト試験の結果を示すグラフ及び試験後の先端部1aの状態を示すレーザー顕微鏡写真である。なお、図7(a)、図8(a)及び図9(a)において、横軸はプローブ針の先端部を電極の表面に接触させた回数(コンタクト回数)を示し、縦軸はプローブ針の先端部の抵抗値を示している。
【0026】
従来技術に係るプローブ針(図4参照)では、図7(a)に示すようにコンタクト回数が400回を超えたあたりから、先端部の抵抗値が20Ωに達している。また、図7(b)に示すように試験後のプローブ針の先端部には酸化アルミニウム屑が付着している。このように、従来技術に係るプローブ針は、表面に電極の皮膜(酸化アルミニウム)が付着すると、はがれ難いため、少ないコンタクト回数で故障するおそれがある。
【0027】
一方、本実施例のプローブ針1のうち、図5の場合では、図8(a)に示すようにコンタクト回数が2700回を超えてはじめて抵抗値が20Ωに達している。ただし、図8(b)に示すように試験後のプローブ針1の先端部1aにはほぼ全体に酸化アルミニウム屑が付着している。すなわち、図5に示したプローブ針1は、従来技術に係るプローブ針に比べて、表面に電極の皮膜(酸化アルミニウム)が付着したとしてもはがれ易いため、故障し難いことがわかる。
【0028】
本実施例のプローブ針1のうち、図6の場合では、図9(a)に示すようにコンタクト回数が5000回を超えてもほとんど抵抗値が変化していない。なお、コンタクト回数が3000回を超えたあたりで、抵抗値が一旦高くなり、再び安定した低い状態に戻っているが、これはプローブ針1の先端部1aに酸化アルミニウム屑が一時的に付着して抵抗値が高くなったものの、酸化アルミニウム屑がすぐに脱落して抵抗値が元の状態に戻ったことを表している。また、図9(b)に示すように、試験後のプローブ針1の先端部1aには酸化アルミニウム屑がほとんど付着していないが、これは、図6に示したプローブ針1の方が図5に示したものよりも、表面に付着した電極の皮膜(酸化アルミニウム)がはがれ易いことを表している。
【0029】
以上説明したように、本発明のプローブ針においては、通電検査のために電極上を引っ掻いて削り取った酸化アルミの皮膜や屑等が、先端部に一旦付着した場合でもすぐにはがれ易いという作用を有する。従って、繰り返し使用しても導通性が損なわれず、長期間にわたって高い検査精度を維持することが可能である。
【0030】
本発明のプローブ針を用いて電極の酸化アルミニウムの皮膜を削り取った場合、皮膜屑はまず粒状突起の表面に付着する。そして、この皮膜屑は後から付着する皮膜屑によって粒状突起の凹部に押しやられ、これが順次繰り返される。その結果、凹部の皮膜屑は積層されて大きく成長し、最終的に自重により脱落する。
ただし、粒状突起が小さい場合には、凹部の皮膜屑が大きく成長しないため、自重によって脱落しないばかりか、粒状突起の凹部に皮膜屑が入り込むことで、アンカー効果によって表面での凝着が促進されるおそれがある。従って、皮膜屑の自重による脱落という上記作用を十分に発揮させるためには、粒状突起の直径を3μm以上とし、その高さを1μ以上とする必要がある(図5(c)参照)。そして、望ましくは粒状突起の直径を6μm以上とし、その高さを3μm以上とすると良い(図6(c)参照)。
【産業上の利用可能性】
【0031】
請求項1及び請求項2に記載された発明は、プローブカード用に限らず、各種電子回路の電気特性の検査に用いられるプローブ針と、その製造方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…プローブ針 1a…先端部 2…粒状突起 3…メッキ装置 4…メッキ液 5…メッキ浴 6…陽極板 7…パルス発生装置 7a…マイナス端子 7b…プラス端子 8…整流器 9a…パルスON電流 9b…パルスOFF電流 10a…パルスON時間 10b…パルスOFF時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子回路の通電検査に用いられるプローブ針において、
前記電子回路の一部に接触させる先端部に,メッキ皮膜からなる複数の粒状突起を有することを特徴とするプローブ針。
【請求項2】
ニッケル,銅,銀,金,スズ,亜鉛,鉛,クロム,白金,パラジウム,イリジウム及びロジウムのうちの少なくとも1種類を含むめっき液に、
ニッケル,銅,銀,金,亜鉛,鉛,白金,パラジウム及びこれらを含む合金のうちの少なくとも1種類の金属体とともに,タングステンやベリリウム銅からなるプローブ針を浸漬し、
このプローブ針が陰極となり,前記金属体が陽極となるように、ON−OFF周期のパルス波形の電流を印加して、
前記プローブ針の表面にメッキ皮膜からなる複数の粒状突起を形成することを特徴とするプローブ針の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−202970(P2011−202970A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67766(P2010−67766)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(300055432)中国電化工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】