ヘッドアップディスプレイ
【課題】
フロントウインドウに対して表示像の奥行き位置を自由に制御でき、インパクトのある表示が可能なヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【解決手段】
ヘッドアップディスプレイは、車輌のダッシュボード上面に配置される表示装置であって、ダッシュボード内部に配置される被観察物と、ダッシュボード上面に配置され観察者側の空間からダッシュボード内部の空間を仕切り且つ対称面を含む半透過性の基盤を有し且つ基盤を介して該観察者側の空間に被観察物の実像を結像させる実鏡映像結像光学系と、観察者側の空間に配置され且つ実鏡映像結像光学系からの被観察物の実像の光を反射して該観察者へと導き該観察者へ観察像を供給する反射部材と、を含む。
フロントウインドウに対して表示像の奥行き位置を自由に制御でき、インパクトのある表示が可能なヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【解決手段】
ヘッドアップディスプレイは、車輌のダッシュボード上面に配置される表示装置であって、ダッシュボード内部に配置される被観察物と、ダッシュボード上面に配置され観察者側の空間からダッシュボード内部の空間を仕切り且つ対称面を含む半透過性の基盤を有し且つ基盤を介して該観察者側の空間に被観察物の実像を結像させる実鏡映像結像光学系と、観察者側の空間に配置され且つ実鏡映像結像光学系からの被観察物の実像の光を反射して該観察者へと導き該観察者へ観察像を供給する反射部材と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌における運転者に対する情報表示手段としての表示装置に関し、特に、ヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車など車輌においては、計器情報、例えば、速度、エンジン回転数などを示す各種表示がスピードメータや回転計などにより、運転者に伝えられており、例えば、ダッシュボード上にいわゆるメータクラスタ(計器盤)が設置されている。また、最近ではダッシュボード上のフロントウインドウにこれらの情報を表示する、いわゆるヘッドアップディスプレイが利用されるようになっている(例えば特許文献1、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−15555公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のヘッドアップディスプレイでは、運転者が観察する表示像はフロントウインドウに反射した虚像である。従って、フロントウインドウを隔てて運転者とは反対側の空間、つまり車外に表示像があるように運転者は観察することになる。
【0005】
表示像を観察する位置は被観察物とフロントウインドウとの距離やその間に配置される鏡面の曲率半径によって決まることになるが、何れにしても運転者には車外(フロントウインドウより外側)に表示像を観察することになり、決して車内(フロントウインドウより内側)に表示像を観察することはできない。
【0006】
このように、虚像を用いた従来のヘッドアップディスプレイでは、フロントウインドウの外側(車外)と内側(車内)の両方の空間に表示像を運転者が観察することは不可能である。
【0007】
そこで本発明は、フロントウインドウに対して表示像の位置(奥行き)を自由にコントロールでき、インパクトのある表示が可能なヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車輌のダッシュボード上面に配置される表示装置であって、ダッシュボード内部に配置される被観察物と、ダッシュボード上面に配置され観察者側の空間からダッシュボード内部の空間を仕切り且つ対称面を含む半透過性の基盤を有し且つ基盤を介して該観察者側の空間に被観察物の実像を結像させる実鏡映像結像光学系と、観察者側の空間に配置され且つ実鏡映像結像光学系からの被観察物の実像の光を反射して該観察者へと導き該観察者へ観察像を供給する反射部材と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明は、例えば反射部材としてのフロントウインドウの外側(車外)と内側(車内)の両方の空間に表示像を観察することが可能なヘッドアップディスプレイを実現するものであり、具体的には、車輌のダッシュボード上面に配置される被観察物の実像(実鏡映像)を観察者側(ヘッドアップディスプレイの場合は運転者)の空間に結像させる実鏡映像結像光学系と、実鏡映像結像光学系の観察者側とは反対側の空間に配置される実像(実鏡映像)を形成するための被観察物と、実鏡映像結像光学系に対して観察者と同じ側に配置され実鏡映像結像光学系からの光の一部を反射して該観察者へと導く反射部材を具備したヘッドアップディスプレイを使用することにより実現するものである。
【0010】
フロントウインドウがこの反射部材を兼ねている場合、もしくは、この反射部材がフロントウインドウ表面に形成されている場合はヘッドアップディスプレイとして実現される。
【0011】
また、反射部材がフロントウインドウ表面に貼着されていても本発明は、実現できる。
【0012】
被観察物と実鏡映像結像光学系の距離が、反射部材(フロントウインドウ)と実鏡映像結像光学系の距離より短い場合は、運転者は反射部材(フロントウインドウ)の外側(車外)に虚像として観察像を観察することになる。逆に、被観察物と実鏡映像結像光学系の距離が、反射部材(フロントウインドウ)と実鏡映像結像光学系の距離より長い場合は、運転者は反射部材(フロントウインドウ)の内側(車内)に実像として観察像を観察することになる。よって、このヘッドアップディスプレイにおいては、実鏡映像結像光学系に対する被観察物の位置を変化させる手段を有することができる。さらに、被観察物と実鏡映像結像光学系を結ぶ直線上で被観察物を動かす手段を有することもできる。
【0013】
つまり、被観察物と実鏡映像結像光学系の距離によって、運転者は反射部材(フロントヴインドー)に対して観察像の位置を車内もしくは車外、さらにフロントウインドウ上(観察像が突き刺さって見える)に見ることができる。よって、このヘッドアップディスプレイにおいては、観察像が反射部材を横切る状態、観察像が反射部材の鏡面内の虚像となる状態、及び、反射部材の鏡面外の実像となる状態のうち少なくとも2つの状態をとるように、被観察物の位置を変化させることができる。このように、被観察物と実鏡映像結像光学系の距離を制御するには、複数の位置に配置させた複数の被観察物を用意して適宜使用する被観察物を選択すれば良い。
【0014】
被観察物と実鏡映像結像光学系の矩離を制御する別の方法としては、被観察物と実鏡映像結像光学系を結ぶ直線上で被観察物を動かすことが考えられる。この場合は、被観察物を動かす距離を、観察者(運転者)が、実鏡映像結像光学系と反射部材によって形成される実像と、実鏡映像結像光学系により結像された実像の反射部材によって形成される虚像の、両方の像を観察できるまでの範囲に渡る範囲に設定することにより実現するものである。
【0015】
実鏡映像結像光学系の基盤を形成する構成材が前記ダッシュボードと一体に形成されていることが望ましい。また、実鏡映像結像光学系の基盤を形成する構成材の上面を前記ダッシュボードと同じ色に着色することが望ましい。
【0016】
本発明において実鏡映像結像光学系とは、対称面(基盤)に対して斜め方向からの視点から被観察物の実鏡映像を観察することができるものであり、その一つの具体例としては、2面コーナーリフレクタアレイからなる実鏡映像結像光学系を挙げることができる。2面コーナーリフレクタアレイは、2つの直交する鏡面により構成される2面コーナーリフレクタを複数、平面的に集合させたものであり、全ての鏡面に対して垂直となる共通な平面を、被観察物と実像との対称面となる素子面としたものである。この2面コーナーリフレクタアレイは、被観察物から発せられる光を各2面コーナーリフレクタの2つの鏡面で1回ずつ反射させ且つその素子面を透過させることにより、2面コーナーリフレクタアレイの素子面を対称面として被観察物の面対称位置に、その被観察物の実鏡映像を結像させる作用を有している。
【0017】
ここで、2面コーナーリフレクタアレイについて考察すると、光線を各2面コーナーリフレクタにおいて適切に屈曲させつつ素子面を透過させるには、2面コーナーリフレクタを、素子面を貫通する方向に想定される光学的な穴の内壁を鏡面として利用するものと考えればよい。ただし、このような2面コーナーリフレクタは概念的なものであり、必ずしも物理的な境界などにより決定される形状を反映している必要は無く、例えぱ光学的な穴は相互に独立させることなく連結させたものとすることができる。
【0018】
2面コーナーリフレクタアレイの構造は、単純に述べれば、素子面にほぼ垂直な鏡面を、素子面上に多数並べたものである。構造として問題となるのは、この鏡面をどのように素子面に支持固定するかということになる。鏡面形成のより具体的な方法としては、例えば2面コーナーリフレクタアレイを、所定の空間を区画する基盤を具備するものとして、当該基盤を通る1つの平面を素子面としてとして規定し、各2面コーナーリフレクタを、素子面を貫通する方向に想定される光学的な穴として、基盤に形成された穴の内壁を鏡面として利用するものとすることができる。この基盤に形成された穴は、光が透過するように透明でありさえすればよく、例えば内部が真空もしくは透明な気体もしくは液体で満たしたものでもよい。また穴の形状についても、その内壁に単位光学素子として働くための1枚もしくは複数の同一平面に含まれない鏡面を具備し、且つ、鏡面で反射した光が穴を透過できる限り、任意の形状を取ることが可能であり、各穴が連結していたり、一部が欠損している複雑な形状であってもよい。例えば、基盤の表面に個々の独立した鏡面が林立する態様などは、基盤に形成された穴が連結しているものと理解できる。
【0019】
あるいは、2面コーナーリフレクタは、光学的な穴として透明なガラスや樹脂のような固体によって形成された筒状体を利用するものであってもよい。なお、固体によって個々の筒状体が形成されている場合、これらの筒状体は、相互に密着させて素子の支持部材として働かせてもよく、基盤を具備するものとして当該基盤の表面から突出した態様をとってもよい。また筒状体の形状についても、その内壁に2面コーナーリフレクタとして働くための1枚又は複数の同一平面に含まれない鏡面を具備し、且つ、鏡面で反射した光が筒状体を透過できる限り、任意の形状を取ることが可能であり、筒状体と称してはいるが各筒状体が連結していたり、一部が欠損している複雑な形状であってもよい。
【0020】
ここで、前記光学的な穴として、立方体又は直方体のように隣接する内壁面が全て直交する形状を考えることができる。この場合、2面コーナーリフレクタ相互の間隔を最小化することができ、高密度な配置が可能となる。ただし、被観察物方向を向く2面コーナーリフレクタ以外の面は、反射を抑制することが望ましい。
【0021】
2面コーナーリフレクタ内に複数の鏡面が存在する場合には、想定された回数以上の反射を起こす多重反射の透過光が存在する可能性がある。この多重反射対策として、光学的な穴の内壁に相互に直交する2つの鏡面を形成する場合は、これら2鏡面以外の面を、非鏡面として光が反射しないようにしたり、素子面に対して垂直とならないように角度を付けて設けたり曲面としたりすることで、3回以上の反射を起こす多重反射光を軽減又は除去できる。非鏡面とするには、その面を反射防止用の塗料や薄膜で覆う構成や、面粗さを粗くして乱反射を生じさせる構成を採用することができる。なお、透明で平坦な基盤としても光学素子の働きを阻害するものではないので、基盤を任意に支持部材・保護部材として用いることが可能である。
【0022】
さらに、映像の実鏡映像の高輝度化を図るには、複数の2面コーナーリフレクタを、素子面上においてできるだけ間隔を空けずに配置することが望ましく、例えば格子状に配置することが有効である。またこの場合、製造も容易になるという利点がある。2面コーナーリフレクタにおける鏡面としては、固体であるか液体であるかに関わらず金属や樹脂などの光沢のある物質によって形成された平坦面で反射するもの、あるいは異なる屈折率を持つ透明媒質同士の平坦な境界面において反射又は全反射するものなどを利用することができる。また、鏡面を全反射によって構成した場合には、複数の鏡面による望まない多重反射は、全反射の臨界角を超える可能性が高くなることから、自然に抑制されることが期待できる。また、鏡面は、機能的に問題ない限り、光学的な穴の内壁のごく一部分に形成されていてもよく、平行に配置される複数の単位鏡面により構成されても構わない。後者の態様を換言すれば、1つの鏡面が複数の単位鏡面に分割されても構わないことを意味する。またこの場合、各単位鏡面は、必ずしも同一平面に存在していなくてもよく、それぞれが平行であればよい。さらに、各単位鏡面は、当接している態様、離れている態様のいずれもが許容される。
【0023】
さらに、本発明において実鏡映像結像光学系として適用可能な他の具体例としては、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射および透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備する光学系である。この実鏡映像結像光学系においては、ハーフミラー面を対称面とし、被観察物から出た光線のうちハーフミラーで反射又は透過した光線を再帰反射し得る位置にレトロリフレクタアレイを配置しているものを挙げることができる。なお、レトロリフレクタアレイは、ハーフミラーに対して被観察物と同じ側の空間にのみ配置され、ハーフミラーで反射した光を再帰反射する位置に設けられる。ここでレトロリフレクタの作用である「再帰反射」とは、反射光を入射光が入射してきた方向へ反射(逆反射)する現象をいい、入射光と反射光とは平行であり且つ逆向きとなる。このようなレトロリフレクタの複数をアレイ状に配置したものがレトロリフレクタアレイであり、個々のレトロリフレクタが十分に小さい場合は、入射光と反射光の経路は重なると見なすことができる。このレトロリフレクタアレイにおいてレトロリフレクタは平面上に存在している必要はなく、曲面上にあってもよく、さらには同一面上に存在している必要はなく、各レトロリフレクタは3次元的に散在していても構わない。また、ハーフミラーは、光線を透過させる機能と反射させる機能の両方を備えているものをいい、好ましくは透過率と反射率がほぼ1:1のものが理想的である。
【0024】
レトロリフレクタには、3つの隣接する鏡面から構成されるもの(広義には「コーナーリフレクタ」と呼ぶことができる)や、キャッツアイレトロリフレクタを利用することができる。コーナーリフレクタには、相互に直交する3つの鏡面から構成されるコーナーリフレクタ、3つの隣接する鏡面がなす角度のうち2つが90度であり、且つ他の1つの角度が90/N度(ただしNは整数)をなすもの、3つの鏡面がなす角度が90度、60度および45度となる鋭角レトロリフレクタなどを採用することができる。
【0025】
このようなレトロリフレクタアレイとハーフミラーを利用する実鏡映像結像光学系の場合、被観察物から出た光はハーフミラー面で反射し、さらにレトロリフレクタアレイで再帰反財して必ず元の方向に戻り、ハーフミラー面を透過して結像するため、ハーフミラーからの反射光を受けられる位置にある限りレトロリフレクタアレイの形状や位置は限定されない。そして、結像した実像の観察は、ハーフミラー面を透過する光線に対向する方向から観察することができる。
【0026】
ここで、被観察物としてはネオンサインや表示パネル(非常灯のように光源と表示パネルを組み合わせたもの)のように固定表示の他に、液晶ディスプレイやCRTディスプレイや有機ELディスプレイのような電子ディスプレイの表示面に表示される画像、さらにはLEDのような小型光源を複数並べて発光場所を制御することにより得られるアレイ光源などが利用できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、反射部材(フロントウインドウ)に対して観察像の位置を自由にコントロールできるためインパクトのある表示が可能なヘッドアップディスプレイが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態のヘッドアップディスプレイを適用した車両の内装の一部を示す概観斜視図である。
【図2】同実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を側方から見た状態を模式的に示す概略側面図である。
【図3】同実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を観測者側から見た状態を模式的に示す概略斜視図である。
【図4】同実施形態に適用される2面コーナーリフレクタアレイ単体の結像様式を模式的に示す概略斜視図である。
【図5】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタレイの具体的構成例を模式的に示す概略平面図および部分切欠斜視図である。
【図6】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタアレイによる結像様式を模式的に示す概略平面図である。
【図7】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタアレイによる結像様式を模式的に示す概略側面図である。
【図8】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタアレイにハーフミラーを組合せた場合の結像様式を模式的に示す概略平面図である。
【図9】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタアレイにハーフミラーを組合せた場合の結像様式を模式的に示す概略側面図である。
【図10】本発明の他の実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を側方から見た状態を模式的に示す概略側面図である。
【図11】本発明の他の実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を側方から見た状態を模式的に示す概略側面図である。
【図12】本発明の他の実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を側方から見た状態を模式的に示す概略側面図である。
【図13】本発明の他の実施形態を示す実鏡映像結像光学系に適用されるレトロリフレクタアレイおよびレトロリフレクタの他の例による光線の再帰反射の態様を模式的に示す概略側面図である。
【図14】同実鏡映像結像光学系に適用されるレトロリフレクタアレイの概略部分平面図および該レトロリフレクタの一例による光線の再帰反射の態様を模式的に示す概概略部分平面図である。
【図15】同実鏡映像結像光学系に適用される他のレトロリフレクタアレイの概略部分平面図および該レトロリフレクタの他の例による光線の再帰反射の態様を模式的に示す概概略部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明による一実施形態のヘッドアップディスプレイについて、図面を用いて説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態であるヘッドアップディスプレイ1を含む自動車などの車両のダッシュボード周りを示す概観斜視図である。図2は、当該ヘッドアップディスプレイ1の動作を説明するための概略断面図である。図3は、当該ヘッドアップディスプレイ1の動作を説明するための運転者側から見た概略斜視図である。
【0031】
このヘッドアップディスプレイ1は、自動車などの運転席前方のダッシュボード2上部(すなわち上面側の空間:観察者側)のフロントウインドウ7を反射部材として配置して用いた場合に本発明を適用したものである。具体的にヘッドアップディスプレイ1は、ダッシュボード2上(一体的)に実鏡映像結像光学系として2面コーナーリフレクタアレイ6を設け、さらに、ダッシュボード2内の空間(すなわち下面側の空間:被観察物側)に被観察物4を配置している。図2(a)では被観察物4から発せられた光は2面コーナーリフレクタアレイ6で反射され、フロントウインドウ7でさらに反射されて、フロントウインドウ7の手前側に空中映像5を実鏡映像5で結像する。すなわち、観察者である運転者はフロントウインドウ7の手前に空中映像5を観察することができる。
【0032】
図2(b)は観察者がフロントウインドウ7の奥側、つまり車外の空間に空中像5を観察できる場合を示したものである。図2(a)と同(b)の違いは2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4との距離だけであり、図2(b)では図2(a)に比べてこの距離が短くなっている。2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の距離が2面コーナーリフレクタアレイ6とフロントウインドウ7の矩離より短い場合は、被観察物の実鏡映像5はフロントウインドウ7の手前側の空間に形成されるが観察者はこの実鏡映像5を直接観察することはできず、フロントウインドウ7に映り込んだ虚像をフロントウインドウ7の外側の空間に虚像の時の空中像5’として観察する。
【0033】
図3に示すように、2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の例えば液晶ディスプレイとの距離が遠い場合、液晶ディスプレイの表示面に表示される被観察物であるスピードメータなどの画像を上下逆にした画像6とすることで、ダッシュボード2の上部空間に、その画像の観察像5として浮かび上がらせるようにしている(図2(a))。
【0034】
図1〜図3に示すように、本発明のヘッドアップディスプレイ1は、実鏡映像結像光学系としての2面コーナーリフレクタアレイ6と、2面コーナーリフレクタアレイ6を挟んで観察者Vとは反対側の空間(ダッシュボード2内側)に設けられた被観察物4とを有し、さらに、2面コーナーリフレクタアレイ6の観察者V側の空間にフロントウインドウ7が配置されている。被観察物4から発せられた光は2面コーナーリフレクタアレイ6で2回の反射を伴って2面コーナーリフレクタアレイ6を通過し、次いでフロントウインドウ7で反射され、観察者Vの視線上に空中像5を実鏡映像で結像する(図2(a))。なお、フロントウインドウ7は2面コーナーリフレクタアレイ6に対して、その通過光を観察者Vに導くのに適度な角度に設定されている。すなわち、被観察物4、2面コーナーリフレクタアレイ6およびフロントウインドウ7は、被観察物4から発せられた光が2面コーナーリフレクタアレイ6で反射され、次にフロントウインドウ7に向かうように、配置されている。
【0035】
以上の関係をさらに詳しく説明するために、まずは2面コーナーリフレクタアレイ単体の構成および作用について説明し、次いで、反射部材を追加した場合の作用について述べる。
【0036】
2面コーナーリフレクタアレイ6単体は、図4に模式的に示すように、2つの相互に直交する鏡面61a,61bから構成される2面コーナーリフレクタ61の多数の集合であり、全2面コーナーリフレクタ61を構成するそれぞれ2つの鏡面61a,61bに対してほぼ垂直な平面を素子面6Sとし、この素子面6Sを対称面とする面対称位置に被観察物4の実鏡映像5を結像させることができるものである。なお、本実施形態において2面コーナーリフレクタ61は2面コーナーリフレクタアレイ6の全体の大きさ(cmオーダ)と比べて非常に微小(μmオーダ)であるので、図3、図4では2面コーナーリフレクタ61の集合全体をグレーで表し、鏡面の開く内角の向きをV字形状で表し2面コーナーリフレクタ61を誇張して表現してある。そして、図5では、2面コーナーリフレクタアレイ6の模式的な平面図を図5(a)に、同(b)に部分的な斜視図を示す。但し、図5では、2面コーナーリフレクタアレイ6の全体に比して、2面コーナーリフレクタ61および鏡面61a,61bを大きく誇張して表している。
【0037】
2面コーナーリフレクタアレイ6は、例えば光線を屈曲しつつ透過し得るように、平板状の基盤60に、その平らな表面に対して垂直に肉厚を貫通する物理的・光学的な穴を多数形成し、各穴の内壁面を2面コーナーリフレクタ61として利用するために、穴の内壁面のうち直交する2つにそれぞれ鏡面61a,61bを形成したものを採用することができる。したがって、基盤60が少なくとも半透過性となるように、図5に示すように、薄い平板状の基盤60に平面視ほぼ矩形状(例えば正方形状)の光線が透過する物理的・光学的な穴(例えば一辺が例えば50〜200μm)を多数形成し、各穴のうち隣接して直交する2つの内壁面に平滑鏡面処理を施して鏡面61a,61bとすれば、これら2つの鏡面61a,61bが反射面として機能する2面コーナーリフレクタ61を得ることができる。なお、穴の内壁面のうち2面コーナーリフレクタ61を構成しない部分には鏡面処理を施さず光が反射不能な面とするか、又は角度をつけるなどして多重反射光を抑制することが好ましい。また、各2面コーナーリフレクタ61は、基盤60上において鏡面61a,61bがなす内角が全て同じ向きとなるように、規則的な格子点上に整列させて形成することが好ましい。よって、各2面コーナーリフレクタでは、2つの直交する鏡面の交線CLが素子面6Sに直交することが好ましい。以下、この鏡面61a,61bの内角の向きを、2面コーナーリフレクタ61の向き(方向)と称することがある。
【0038】
鏡面61a,61bの形成にあたっては、例えば金属製の金型をまず作成し、鏡面61a,61bを形成すべき内壁面をナノスケールの切削加工処理や、金型を用いたプレス工法をナノスケールに応用したナノインプリント工法又は電鋳工法による処理をすることによって鏡面形成を行い、これらの面粗さを10nm以下とし、可視光スペクトル域に対して一様に鏡面となるようにするとよい。なお、電鋳工法によりアルミニウムやニッケルなどの金属で基盤60を形成した場合、鏡面61a,61bは、金型の面粗さが十分小さければ、それによって自然に鏡面となるが、ナノインプリント工法を用いて、基盤60を樹脂製などとした場合には、鏡面61a,61bを作成するには、スパッタリングなどによって、鏡面コーティングを施す必要がある。また、隣り合う2面コーナーリフレクタ6同士の離間寸法を極力小さく設定することで、透過率を向上させることができる。また、このような2面コーナーリフレクタアレイ6の上面(観察者から見える側の面)には、低反射剤を塗布するなどの処理を行うことが好ましい。但し、2面コーナーリフレクタアレイ6の構成は上述のものに限定されず、直交する2つの鏡面61a,61bにより2面コーナーリフレクタ61が多数形成され、且つ各2面コーナーリフレクタ61が光学的な穴として光を透過するものであれば、適宜の構成および製造方法を採用することができる。
【0039】
そして、2面コーナーリフレクタアレイ6では、各2面コーナーリフレクタ61は、裏面側から穴に入った光を一方の鏡面61a(又は61b)で反射させ、さらにその反射光を他方の鏡面61b(又は61a)で反射させて表面側へと通過させる機能を有し、この光の進入経路と射出経路とが素子面6Sを挟んで面対称をなすこととなる。すなわち、2面コーナーリフレクタアレイ6の素子面6S(各鏡面の高さ方向中央部を通り且つ各鏡面と直交する面を仮定)は、被観察物4の実像を、面対称位置に空中像(実鏡映像)5として結像させる対称面となる。
【0040】
ここで、2面コーナーリフレクタアレイ6による結像様式について、被観察物として点光源oから発せられた光の経路とともに簡単に説明する。
【0041】
図6に平面的な模式図で、図7に模式的な側面図でそれぞれ示すように、点光源oから発せられる光(一点鎖線矢印で示す。図6において3次元的には紙面奥側から紙面手前側へ進行する)は、2面コーナーリフレクタアレイ6を通過する際に、2面コーナーリフレクタ61を構成する一方の鏡面61a(又は61b)で反射して更に他方の鏡面61b(又は61a)で反射した後に素子面6S(図7、図4、図5(b))を通過し、2面コーナーリフレクタアレイ6の素子面6Sに対して点光源oの面対称位置を広がりながら通過する。図6では入射光と反射光とが平行をなすように表されているが、これは同図では点光源oに対して2面コーナーリフレクタ61を誇張して大きく記載しているためであり、実際には各2面コーナーリフレクタ61は極めて微小なものであるため、同図のように2面コーナーリフレクタアレイ6を上方から見た場合には、入射光と反射光とは殆ど重なってみえる(図6では2面コーナーリフレクタ61の2つの鏡面(61a,61b)それぞれに最初に当たる光の経路、つまり2本の経路を描いて説明しているが、図7では煩雑さを避けるためにどちらか一方の鏡面に最初に当たる光のみを描いている)。すなわち、結局は点光源oの素子面6Sに対する面対称位置に透過光が集まり、図6、図7においてpの位置に実鏡映像として結像することになる。
【0042】
次いで、観察者側の空間に配置された反射部材8を追加した場合の作用について図8および図9(図6および図7にそれぞれ対応する)を用いて述べる。図6では2面コーナーリフレクタ61の2つの鏡面(61a,61b)それぞれに最初に当たる光の経路、つまり2本の経路を描いて説明しているが、図8では煩雑さを避けるためにどちらか一方の鏡面に最初に当たる光のみを描いている。基本的な考え方は光源oから発せられた光はまず2面コーナーリフレクタ61を2回の反射を伴って通過し、観察者Vに向かう光の経路上に配置された平面の反射部材8により、光の経路を折り返すことによりpの位置に実鏡映像を結像させるということである。つまり図6および図7の実鏡映像pの位置と、図8および図9の実鏡映像pの位置が反射部材8を2面コーナーリフレクタアレイ6の方向から見た場合に物体(図8および図9の実鏡映像pに対応)と虚像(図6および図7の実鏡映像pに対応〉の関係に位置することになる。図8の反射部材8の配置(角度)は実鏡映像pを観察者から観察できるように設置すればよい。フロントウインドウ7を反射部材8として用いた場合は、フロントウインドウ7の角度を自由に設定できないため、2面コーナーリフレクタアレイ6や被観察物4の位置関係を調整することにより、実鏡映像pを観察者から観察できるように設置する。
【0043】
次いで、2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の距離を変化させた場合について述べる。
【0044】
図10を用いて2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の距離が、2面コーナーリフレクタアレイ6と反射部材8の距離より短い場合を説明する。この場合は、実鏡映像5は2面コーナーリフレクタアレイ6と反射部材8の間の空間に結像し、観察者は実鏡映像を反射部材8の反射による虚像5’として観察することになる。
【0045】
図10に示すように、被観察物4から発せられた光は2面コーナーリフレクタアレイ6で2回の反射を伴って通過し、被観察物4の実像(実鏡映像)を、2面コーナーリフレクタアレイ6の対称面として面対称位置に空中像の実鏡映像5として結像させる。観察者Vはこの実鏡映像5を直接観察することはできない。観察者Vはこの実鏡映像5を反射部材8で反射させ虚像5’を観察することになる。すなわち観察者は反射部材8の背後(反射面より奥の空間;フロントウインドウ7を反射部材8として用いた場合は車外の空間)に空中像として実鏡映像5の虚像5’を観察することになる。
【0046】
続いて2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の距離と、2面コーナーリフレクタアレイ6と反射部材8の距離とほぼ同じにして、実鏡映像を反射部材8の位置に結像させた場合に関して図11を用いて説明する。図11に示すように、この場合は、被観察物に有限の大きさがあるため観察者は実鏡映像を実像5と、反射部材8による虚像5’の両方として観察することになる。
【0047】
被観察物4から発せられた光は2面コーナーリフレクタアレイ6で2回の反射を伴って通過し、被観察物4の実像(実鏡映像)を、2面コーナーリフレクタアレイ6の対称面として面対称位置に空中像(実鏡映像)として結像させる。本例の場合は空中像のほぼ中央付近に反射部材8が配置されているため、被観察物の部分のうち2面コーナーリフレクタアレイ6から遠い部分は実像5として、また、2面コーナーリフレクタアレイ6に近い部分は虚像5’として観察者Vに観察されることになる。すなわち、反射部材8が被観察物の実像5を横切るように配置されれば、観察者は反射部材8の鏡面(フロントウインドウ7を反射部材8として用いた場合はフロントウインドウ)に突き刺さったような像を空間像として観察することになる。
【0048】
このように、被観察物4と2面コーナーリフレクタアレイ6と反射部材8を様々な配置とすることで観察者Vに対して反射部材8の鏡面を基準として、手前や奥、場合によっては鏡面上(突き刺さった像)に空間像を提供することができる。
【0049】
この特性を積極的に利用するために、これらの位置関係を時間的に変化させる方法がさらに考えられる。他の実施形態として、被観察物と実鏡映像結像光学系を結ぶ直線上でガイドレールとモーターとラック&ピニオンやウォーム&ナットなどのガイド並進機構RPの組み合わせを用いて、被観察物を機械的に動かす方法を図12を用いて説明する。
【0050】
図12に示すように、観察者Vの視線(光軸AX)上に被観察物の空間像が移動するように、光軸AXに平行なガイドレールG上を摺動自在な摺動部に被観察物4が取り付けられ、被観察物4はモーターMとガイド並進機構RPにより直線に移動することができる。例えば、2面コーナーリフレクタアレイ6から遠い位置に被観察物4bがある場合は反射部材8と観察者Vの間の空間に実鏡映像が結像し、観察者は実像5を観察することになる。また、2面コーナーリフレクタアレイ6から近い位置に被観察物4がある場合は反射部材8と2面コーナーリフレクタアレイ6の間の空間に実鏡映像が結像し、観察者は反射部材8の中に虚像5’を観察することになる。このように、これらの被観察物、2面コーナーリフレクタアレイ6および反射部材8の相互の位置の関係を時間的に変化させる手段を用いれば、観察者Vは反射部材8の鏡面を挟んで奥から手前の空間で連続的に移動する空間像を観察することができる。
【0051】
反射部材8上の所定点Aと実鏡映像結像光学系6上の所定点Bの間の所定空間距離(図12に示すAB間)を基準として、実鏡映像結像光学系6上の所定点Bから該反射部材8上の所定点Aの面対称位置(図12に示す光軸の被観察物4の位置C)までの距離が等しくなるような光軸上において、被観察物4と実鏡映像結像光学系6の距離(図12に示すBC間)が、第1に、AB間より短くなる、第2に、AB間と同じになる、第3に、AB間より長くなる、の3つの関係のうち少なくとも2つの関係を満足する被観察物の位置を選択的に変位させれば、運転者は反射部材(フロントウインドウ)に対して観察像の位置を車内(実像)もしくは車外(虚像)、さらにフロントウインドウ上(観察像(実像、虚像)が突き刺さって見える)で変化させて観察することができる。よって、図12に示すように連続的に変化させる他に、観察像が反射部材を横切る状態、観察像が反射部材の鏡面内の鏡像となる状態、及び、反射部材の鏡面外の実像となる状態のうち少なくとも2つの状態をとるように、被観察物の位置を選択的に変化させることもできる。
【0052】
また、複数の被観察物を例えばLEDのような小型光源(図示せず)を直線上に並べ順次点灯させて発光場所を制御するような駆動をすれば、被観察物自体を実際に動かすことなく同様の空間像の移動を観察できることになる。
【0053】
図13は、本発明が適用されるヘッドアップディスプレイの更なる他の実施形態を示す概観図である。ヘッドアップディスプレイ1’は、実鏡映像結像光学系のみが上述した実施形態のヘッドアップディスプレイ1と異なる。したがって、ヘッドアップディスプレイ1と同一の構成については同一の名称および符号を用いて説明するものとする。
【0054】
本実施形態で適用される実鏡映像結像光学系9は、ハーフミラー91とレトロリフレクタアレイ92とを組み合わせたものである。そして、対称面となる素子面91Sはハーフミラー91の表面となる。ハーフミラー91を挟んで観察者Vと反対側の空間(ダッシュボード内側)に設けられた被観察物4及びレトロリフレクタアレイ92を配置し、ダッシュボード上面(観察者側空間)にはフロントウインドウ7が配置されている。被観察物4から発せられた光はハーフミラー91で反射され、次にレトロリフレクタアレイ92へと導かれる。レトロリフレクタアレイ92はハーフミラー91からの光を再帰反射させる機能を有しているので、再びハーフミラー91に向かうことになる。そして今度はハーフミラー91を透過して、観察者V側の空間に配置されたフロントウインドウ7に向かい、フロントウインドウ7により折り返されて実鏡映像5を観察者Vの視線上の空間に結像する。なお、フロントウインドウ7はハーフミラー91からの光を観察者Vに導くのに適度な角度に設定されている。
【0055】
ハーフミラー91も、例えば透明樹脂やガラスなどの透明薄板の一方の面に薄い反射膜をコーティングしたものを利用することができる。この透明薄板の反対側の面には、無反射処理(ARコート〉を施すことで、観察される実鏡映像5が2重になるのを防止することができる。なお、ハーフミラー91の上面には、それぞれ特定方向の光線を透過し且つ別の特定方向の光線を遮断するか、あるいは特定方向の光線のみを拡散する視線制御手段として、視界制御フィルム又は視野角調整フィルムなどの光学フィルム(図示せず)を貼り付けて設けることができる。具体的にはこの光学フィルムにより、ハーフミラー91を直接透過した光が視点V以外の位置には届かないようにすることで、ハーフミラー91を通じて視点V以外からフロントウインドウ7に写った被観察像が直接観察できるようになることを防止する一方で、後述するハーフミラー91で一旦反射してレトロリフレクタアレイ92で再帰反射した後にハーフミラー91を透過する方向の光線のみを透過させることで、実鏡映像5のみを特定の視点Vから観察できるようにしている。
【0056】
一方、レトロリフレクタアレイ92には、入射光を厳密に逆反射させるものであればあらゆる種類のものを適用することができ、素材表面への再帰反射膜や再帰反射塗料のコーティングなども考えられる。また、その形状も曲面としてもよいし、平面とすることもできる。例えば、図14(a)に正面図の一部を拡大して示すレトロリフレクタアレイ92は、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ92Aは、3つの同形同大の直角二等辺三角形をなす鏡面92Aa,92Ab,92Acを1点に集合させて正面視した場合に正三角形を形成するものであり、これら3つの鏡面92Aa,92Ab,92Acは互いに直交してコーナーキューブを構成している(図14(b))。
【0057】
また、図15(a)に正面図の一部を拡大して示すレトロリフレクタアレイ92も、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ92Bは、3つの同形同大の正方形をなす鏡面92Ba,92Bb,92Bcを1点に集合させて正面視した場合に正六角形を形成するものであり、これら3つの鏡面92Ba,92Bb,92Bcは互いに直交している(図15(b))。
【0058】
図15のレトロリフレクタアレイ92は、図14(a)のレトロリフレクタアレイ92とは形状が異なるだけで再帰反射の原理は同じである。図14(b)および図15(b)に、図14(a)および図15(a)にそれぞれ示したレトロリフレクタアレイ92を例にして説明すると、各レトロリフレクタ92A,92Bの鏡面のうちの一つ(例えば92Aa,92Ba)に入射した光は、他の鏡面(92Ab,92Bb)、さらに他の鏡面(92Ac,92Bc)で順次反射することで、レトロリフレクタ92A,92Bへ光が入射してきた元の方向へ反射する。なおレトロリフレクタアレイ92に対する入射光と出射光の経路は、厳密には重ならず平行であるが、レトロリフレクタ92A,92Bがレトロリフレクタアレイ92と比べて十分小さい場合には、入射光と出射光の経路が重なっているとみなしてもよい。これら2種類のコーナーキューブアレイの違いは、鏡面が二等辺三角形のものは比較的作成しやすいが反射率が若干低くなり、鏡面が正方形のものは二等辺三角形のものと比較して作成がやや難しい反面、反射率が高い、ということである。
【0059】
なお、レトロリフレクタアレイ92には、上述したコーナーキューブアレイの他にも、3つの鏡面により光線を再帰反射させるもの(広義には「コーナーリフレクタ」)を採用することができる。図示しないが、例えば、単位再帰反射素子として、3つの鏡面のうち2つの鏡面同士が直交し、且つ他の1つの鏡面が他の2つの鏡面に対して90/N度(ただしNは整数とする)をなすものや、3つの鏡面がそれぞれ隣接する鏡面となす角度が90度、60度および45度となる鋭角レトロリフレクタが、本実施形態に適用される再帰反射素子3として適している。その他にも、キャッツアイレトロリフレクタなども単位再帰反射素子として利用することができる。これらのレトロリフレクタアレイは、平面的なものであっても、屈曲又は湾曲していてもよい。また、レトロリフレクタアレイの配置位置も、画像72から発してハーフミラー91で反射した光を再帰反射することができるのであれば、適宜に設定することができる。
【0060】
このようなハーフミラー91とレトロリフレクタアレイ92を備えた実鏡映像結像光学系9を適用したこの実施形態のヘッドアップディスプレイ1’でも、2面コーナーリフレクタアレイを適用したヘッドアップディスプレイ1と同様に、ハーフミラー面91に対して斜め方向から見る観察者の視線上の空間に実鏡映像5が浮かんで見えることになる。また、このヘッドアップディスプレイ1’においても、観察像の表示位置や大きさを変化させることで、実鏡映像5に変化を持たせることも可能である。
【0061】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でヘッドアップディスプレイを構成する各部の具体的構成は適宜に変更することができ、他の表示装置の適用例として、その表示部の手前に空中映像を浮かび上がらせる表示装置として本発明を適宜構成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、広告の表示装置や、乗り物用の情報表示装置として利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1,1’…ヘッドアップディスプレイ
2…ダッシュボード
4…被観察物
5…空中映像(実鏡映像)
5’…空中像(虚像)
6…2面コーナーリフレクタアレイ(実鏡映像結像光学系)
6S…素子面(対称面)
8…反射部材
60…基盤
61…2面コーナーリフレクタ
61a,61b…鏡面
91…ハーフミラー
91S…ハーフミラー面(対称面)
92…レトロリフレクタアレイ
92A,92B…レトロリフレクタ
92Aa,92Ab,92Ac,92Ba,92Bb,92bc…鏡面
CL…鏡面の交線
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌における運転者に対する情報表示手段としての表示装置に関し、特に、ヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車など車輌においては、計器情報、例えば、速度、エンジン回転数などを示す各種表示がスピードメータや回転計などにより、運転者に伝えられており、例えば、ダッシュボード上にいわゆるメータクラスタ(計器盤)が設置されている。また、最近ではダッシュボード上のフロントウインドウにこれらの情報を表示する、いわゆるヘッドアップディスプレイが利用されるようになっている(例えば特許文献1、参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−15555公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のヘッドアップディスプレイでは、運転者が観察する表示像はフロントウインドウに反射した虚像である。従って、フロントウインドウを隔てて運転者とは反対側の空間、つまり車外に表示像があるように運転者は観察することになる。
【0005】
表示像を観察する位置は被観察物とフロントウインドウとの距離やその間に配置される鏡面の曲率半径によって決まることになるが、何れにしても運転者には車外(フロントウインドウより外側)に表示像を観察することになり、決して車内(フロントウインドウより内側)に表示像を観察することはできない。
【0006】
このように、虚像を用いた従来のヘッドアップディスプレイでは、フロントウインドウの外側(車外)と内側(車内)の両方の空間に表示像を運転者が観察することは不可能である。
【0007】
そこで本発明は、フロントウインドウに対して表示像の位置(奥行き)を自由にコントロールでき、インパクトのある表示が可能なヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車輌のダッシュボード上面に配置される表示装置であって、ダッシュボード内部に配置される被観察物と、ダッシュボード上面に配置され観察者側の空間からダッシュボード内部の空間を仕切り且つ対称面を含む半透過性の基盤を有し且つ基盤を介して該観察者側の空間に被観察物の実像を結像させる実鏡映像結像光学系と、観察者側の空間に配置され且つ実鏡映像結像光学系からの被観察物の実像の光を反射して該観察者へと導き該観察者へ観察像を供給する反射部材と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明は、例えば反射部材としてのフロントウインドウの外側(車外)と内側(車内)の両方の空間に表示像を観察することが可能なヘッドアップディスプレイを実現するものであり、具体的には、車輌のダッシュボード上面に配置される被観察物の実像(実鏡映像)を観察者側(ヘッドアップディスプレイの場合は運転者)の空間に結像させる実鏡映像結像光学系と、実鏡映像結像光学系の観察者側とは反対側の空間に配置される実像(実鏡映像)を形成するための被観察物と、実鏡映像結像光学系に対して観察者と同じ側に配置され実鏡映像結像光学系からの光の一部を反射して該観察者へと導く反射部材を具備したヘッドアップディスプレイを使用することにより実現するものである。
【0010】
フロントウインドウがこの反射部材を兼ねている場合、もしくは、この反射部材がフロントウインドウ表面に形成されている場合はヘッドアップディスプレイとして実現される。
【0011】
また、反射部材がフロントウインドウ表面に貼着されていても本発明は、実現できる。
【0012】
被観察物と実鏡映像結像光学系の距離が、反射部材(フロントウインドウ)と実鏡映像結像光学系の距離より短い場合は、運転者は反射部材(フロントウインドウ)の外側(車外)に虚像として観察像を観察することになる。逆に、被観察物と実鏡映像結像光学系の距離が、反射部材(フロントウインドウ)と実鏡映像結像光学系の距離より長い場合は、運転者は反射部材(フロントウインドウ)の内側(車内)に実像として観察像を観察することになる。よって、このヘッドアップディスプレイにおいては、実鏡映像結像光学系に対する被観察物の位置を変化させる手段を有することができる。さらに、被観察物と実鏡映像結像光学系を結ぶ直線上で被観察物を動かす手段を有することもできる。
【0013】
つまり、被観察物と実鏡映像結像光学系の距離によって、運転者は反射部材(フロントヴインドー)に対して観察像の位置を車内もしくは車外、さらにフロントウインドウ上(観察像が突き刺さって見える)に見ることができる。よって、このヘッドアップディスプレイにおいては、観察像が反射部材を横切る状態、観察像が反射部材の鏡面内の虚像となる状態、及び、反射部材の鏡面外の実像となる状態のうち少なくとも2つの状態をとるように、被観察物の位置を変化させることができる。このように、被観察物と実鏡映像結像光学系の距離を制御するには、複数の位置に配置させた複数の被観察物を用意して適宜使用する被観察物を選択すれば良い。
【0014】
被観察物と実鏡映像結像光学系の矩離を制御する別の方法としては、被観察物と実鏡映像結像光学系を結ぶ直線上で被観察物を動かすことが考えられる。この場合は、被観察物を動かす距離を、観察者(運転者)が、実鏡映像結像光学系と反射部材によって形成される実像と、実鏡映像結像光学系により結像された実像の反射部材によって形成される虚像の、両方の像を観察できるまでの範囲に渡る範囲に設定することにより実現するものである。
【0015】
実鏡映像結像光学系の基盤を形成する構成材が前記ダッシュボードと一体に形成されていることが望ましい。また、実鏡映像結像光学系の基盤を形成する構成材の上面を前記ダッシュボードと同じ色に着色することが望ましい。
【0016】
本発明において実鏡映像結像光学系とは、対称面(基盤)に対して斜め方向からの視点から被観察物の実鏡映像を観察することができるものであり、その一つの具体例としては、2面コーナーリフレクタアレイからなる実鏡映像結像光学系を挙げることができる。2面コーナーリフレクタアレイは、2つの直交する鏡面により構成される2面コーナーリフレクタを複数、平面的に集合させたものであり、全ての鏡面に対して垂直となる共通な平面を、被観察物と実像との対称面となる素子面としたものである。この2面コーナーリフレクタアレイは、被観察物から発せられる光を各2面コーナーリフレクタの2つの鏡面で1回ずつ反射させ且つその素子面を透過させることにより、2面コーナーリフレクタアレイの素子面を対称面として被観察物の面対称位置に、その被観察物の実鏡映像を結像させる作用を有している。
【0017】
ここで、2面コーナーリフレクタアレイについて考察すると、光線を各2面コーナーリフレクタにおいて適切に屈曲させつつ素子面を透過させるには、2面コーナーリフレクタを、素子面を貫通する方向に想定される光学的な穴の内壁を鏡面として利用するものと考えればよい。ただし、このような2面コーナーリフレクタは概念的なものであり、必ずしも物理的な境界などにより決定される形状を反映している必要は無く、例えぱ光学的な穴は相互に独立させることなく連結させたものとすることができる。
【0018】
2面コーナーリフレクタアレイの構造は、単純に述べれば、素子面にほぼ垂直な鏡面を、素子面上に多数並べたものである。構造として問題となるのは、この鏡面をどのように素子面に支持固定するかということになる。鏡面形成のより具体的な方法としては、例えば2面コーナーリフレクタアレイを、所定の空間を区画する基盤を具備するものとして、当該基盤を通る1つの平面を素子面としてとして規定し、各2面コーナーリフレクタを、素子面を貫通する方向に想定される光学的な穴として、基盤に形成された穴の内壁を鏡面として利用するものとすることができる。この基盤に形成された穴は、光が透過するように透明でありさえすればよく、例えば内部が真空もしくは透明な気体もしくは液体で満たしたものでもよい。また穴の形状についても、その内壁に単位光学素子として働くための1枚もしくは複数の同一平面に含まれない鏡面を具備し、且つ、鏡面で反射した光が穴を透過できる限り、任意の形状を取ることが可能であり、各穴が連結していたり、一部が欠損している複雑な形状であってもよい。例えば、基盤の表面に個々の独立した鏡面が林立する態様などは、基盤に形成された穴が連結しているものと理解できる。
【0019】
あるいは、2面コーナーリフレクタは、光学的な穴として透明なガラスや樹脂のような固体によって形成された筒状体を利用するものであってもよい。なお、固体によって個々の筒状体が形成されている場合、これらの筒状体は、相互に密着させて素子の支持部材として働かせてもよく、基盤を具備するものとして当該基盤の表面から突出した態様をとってもよい。また筒状体の形状についても、その内壁に2面コーナーリフレクタとして働くための1枚又は複数の同一平面に含まれない鏡面を具備し、且つ、鏡面で反射した光が筒状体を透過できる限り、任意の形状を取ることが可能であり、筒状体と称してはいるが各筒状体が連結していたり、一部が欠損している複雑な形状であってもよい。
【0020】
ここで、前記光学的な穴として、立方体又は直方体のように隣接する内壁面が全て直交する形状を考えることができる。この場合、2面コーナーリフレクタ相互の間隔を最小化することができ、高密度な配置が可能となる。ただし、被観察物方向を向く2面コーナーリフレクタ以外の面は、反射を抑制することが望ましい。
【0021】
2面コーナーリフレクタ内に複数の鏡面が存在する場合には、想定された回数以上の反射を起こす多重反射の透過光が存在する可能性がある。この多重反射対策として、光学的な穴の内壁に相互に直交する2つの鏡面を形成する場合は、これら2鏡面以外の面を、非鏡面として光が反射しないようにしたり、素子面に対して垂直とならないように角度を付けて設けたり曲面としたりすることで、3回以上の反射を起こす多重反射光を軽減又は除去できる。非鏡面とするには、その面を反射防止用の塗料や薄膜で覆う構成や、面粗さを粗くして乱反射を生じさせる構成を採用することができる。なお、透明で平坦な基盤としても光学素子の働きを阻害するものではないので、基盤を任意に支持部材・保護部材として用いることが可能である。
【0022】
さらに、映像の実鏡映像の高輝度化を図るには、複数の2面コーナーリフレクタを、素子面上においてできるだけ間隔を空けずに配置することが望ましく、例えば格子状に配置することが有効である。またこの場合、製造も容易になるという利点がある。2面コーナーリフレクタにおける鏡面としては、固体であるか液体であるかに関わらず金属や樹脂などの光沢のある物質によって形成された平坦面で反射するもの、あるいは異なる屈折率を持つ透明媒質同士の平坦な境界面において反射又は全反射するものなどを利用することができる。また、鏡面を全反射によって構成した場合には、複数の鏡面による望まない多重反射は、全反射の臨界角を超える可能性が高くなることから、自然に抑制されることが期待できる。また、鏡面は、機能的に問題ない限り、光学的な穴の内壁のごく一部分に形成されていてもよく、平行に配置される複数の単位鏡面により構成されても構わない。後者の態様を換言すれば、1つの鏡面が複数の単位鏡面に分割されても構わないことを意味する。またこの場合、各単位鏡面は、必ずしも同一平面に存在していなくてもよく、それぞれが平行であればよい。さらに、各単位鏡面は、当接している態様、離れている態様のいずれもが許容される。
【0023】
さらに、本発明において実鏡映像結像光学系として適用可能な他の具体例としては、光線を再帰反射させるレトロリフレクタアレイと光線を反射および透過させるハーフミラー面を有するハーフミラーとを具備する光学系である。この実鏡映像結像光学系においては、ハーフミラー面を対称面とし、被観察物から出た光線のうちハーフミラーで反射又は透過した光線を再帰反射し得る位置にレトロリフレクタアレイを配置しているものを挙げることができる。なお、レトロリフレクタアレイは、ハーフミラーに対して被観察物と同じ側の空間にのみ配置され、ハーフミラーで反射した光を再帰反射する位置に設けられる。ここでレトロリフレクタの作用である「再帰反射」とは、反射光を入射光が入射してきた方向へ反射(逆反射)する現象をいい、入射光と反射光とは平行であり且つ逆向きとなる。このようなレトロリフレクタの複数をアレイ状に配置したものがレトロリフレクタアレイであり、個々のレトロリフレクタが十分に小さい場合は、入射光と反射光の経路は重なると見なすことができる。このレトロリフレクタアレイにおいてレトロリフレクタは平面上に存在している必要はなく、曲面上にあってもよく、さらには同一面上に存在している必要はなく、各レトロリフレクタは3次元的に散在していても構わない。また、ハーフミラーは、光線を透過させる機能と反射させる機能の両方を備えているものをいい、好ましくは透過率と反射率がほぼ1:1のものが理想的である。
【0024】
レトロリフレクタには、3つの隣接する鏡面から構成されるもの(広義には「コーナーリフレクタ」と呼ぶことができる)や、キャッツアイレトロリフレクタを利用することができる。コーナーリフレクタには、相互に直交する3つの鏡面から構成されるコーナーリフレクタ、3つの隣接する鏡面がなす角度のうち2つが90度であり、且つ他の1つの角度が90/N度(ただしNは整数)をなすもの、3つの鏡面がなす角度が90度、60度および45度となる鋭角レトロリフレクタなどを採用することができる。
【0025】
このようなレトロリフレクタアレイとハーフミラーを利用する実鏡映像結像光学系の場合、被観察物から出た光はハーフミラー面で反射し、さらにレトロリフレクタアレイで再帰反財して必ず元の方向に戻り、ハーフミラー面を透過して結像するため、ハーフミラーからの反射光を受けられる位置にある限りレトロリフレクタアレイの形状や位置は限定されない。そして、結像した実像の観察は、ハーフミラー面を透過する光線に対向する方向から観察することができる。
【0026】
ここで、被観察物としてはネオンサインや表示パネル(非常灯のように光源と表示パネルを組み合わせたもの)のように固定表示の他に、液晶ディスプレイやCRTディスプレイや有機ELディスプレイのような電子ディスプレイの表示面に表示される画像、さらにはLEDのような小型光源を複数並べて発光場所を制御することにより得られるアレイ光源などが利用できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、反射部材(フロントウインドウ)に対して観察像の位置を自由にコントロールできるためインパクトのある表示が可能なヘッドアップディスプレイが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態のヘッドアップディスプレイを適用した車両の内装の一部を示す概観斜視図である。
【図2】同実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を側方から見た状態を模式的に示す概略側面図である。
【図3】同実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を観測者側から見た状態を模式的に示す概略斜視図である。
【図4】同実施形態に適用される2面コーナーリフレクタアレイ単体の結像様式を模式的に示す概略斜視図である。
【図5】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタレイの具体的構成例を模式的に示す概略平面図および部分切欠斜視図である。
【図6】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタアレイによる結像様式を模式的に示す概略平面図である。
【図7】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタアレイによる結像様式を模式的に示す概略側面図である。
【図8】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタアレイにハーフミラーを組合せた場合の結像様式を模式的に示す概略平面図である。
【図9】同実施形態のヘッドアップディスプレイに適用される2面コーナーリフレクタアレイにハーフミラーを組合せた場合の結像様式を模式的に示す概略側面図である。
【図10】本発明の他の実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を側方から見た状態を模式的に示す概略側面図である。
【図11】本発明の他の実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を側方から見た状態を模式的に示す概略側面図である。
【図12】本発明の他の実施形態のヘッドアップディスプレイの要部を側方から見た状態を模式的に示す概略側面図である。
【図13】本発明の他の実施形態を示す実鏡映像結像光学系に適用されるレトロリフレクタアレイおよびレトロリフレクタの他の例による光線の再帰反射の態様を模式的に示す概略側面図である。
【図14】同実鏡映像結像光学系に適用されるレトロリフレクタアレイの概略部分平面図および該レトロリフレクタの一例による光線の再帰反射の態様を模式的に示す概概略部分平面図である。
【図15】同実鏡映像結像光学系に適用される他のレトロリフレクタアレイの概略部分平面図および該レトロリフレクタの他の例による光線の再帰反射の態様を模式的に示す概概略部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明による一実施形態のヘッドアップディスプレイについて、図面を用いて説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態であるヘッドアップディスプレイ1を含む自動車などの車両のダッシュボード周りを示す概観斜視図である。図2は、当該ヘッドアップディスプレイ1の動作を説明するための概略断面図である。図3は、当該ヘッドアップディスプレイ1の動作を説明するための運転者側から見た概略斜視図である。
【0031】
このヘッドアップディスプレイ1は、自動車などの運転席前方のダッシュボード2上部(すなわち上面側の空間:観察者側)のフロントウインドウ7を反射部材として配置して用いた場合に本発明を適用したものである。具体的にヘッドアップディスプレイ1は、ダッシュボード2上(一体的)に実鏡映像結像光学系として2面コーナーリフレクタアレイ6を設け、さらに、ダッシュボード2内の空間(すなわち下面側の空間:被観察物側)に被観察物4を配置している。図2(a)では被観察物4から発せられた光は2面コーナーリフレクタアレイ6で反射され、フロントウインドウ7でさらに反射されて、フロントウインドウ7の手前側に空中映像5を実鏡映像5で結像する。すなわち、観察者である運転者はフロントウインドウ7の手前に空中映像5を観察することができる。
【0032】
図2(b)は観察者がフロントウインドウ7の奥側、つまり車外の空間に空中像5を観察できる場合を示したものである。図2(a)と同(b)の違いは2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4との距離だけであり、図2(b)では図2(a)に比べてこの距離が短くなっている。2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の距離が2面コーナーリフレクタアレイ6とフロントウインドウ7の矩離より短い場合は、被観察物の実鏡映像5はフロントウインドウ7の手前側の空間に形成されるが観察者はこの実鏡映像5を直接観察することはできず、フロントウインドウ7に映り込んだ虚像をフロントウインドウ7の外側の空間に虚像の時の空中像5’として観察する。
【0033】
図3に示すように、2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の例えば液晶ディスプレイとの距離が遠い場合、液晶ディスプレイの表示面に表示される被観察物であるスピードメータなどの画像を上下逆にした画像6とすることで、ダッシュボード2の上部空間に、その画像の観察像5として浮かび上がらせるようにしている(図2(a))。
【0034】
図1〜図3に示すように、本発明のヘッドアップディスプレイ1は、実鏡映像結像光学系としての2面コーナーリフレクタアレイ6と、2面コーナーリフレクタアレイ6を挟んで観察者Vとは反対側の空間(ダッシュボード2内側)に設けられた被観察物4とを有し、さらに、2面コーナーリフレクタアレイ6の観察者V側の空間にフロントウインドウ7が配置されている。被観察物4から発せられた光は2面コーナーリフレクタアレイ6で2回の反射を伴って2面コーナーリフレクタアレイ6を通過し、次いでフロントウインドウ7で反射され、観察者Vの視線上に空中像5を実鏡映像で結像する(図2(a))。なお、フロントウインドウ7は2面コーナーリフレクタアレイ6に対して、その通過光を観察者Vに導くのに適度な角度に設定されている。すなわち、被観察物4、2面コーナーリフレクタアレイ6およびフロントウインドウ7は、被観察物4から発せられた光が2面コーナーリフレクタアレイ6で反射され、次にフロントウインドウ7に向かうように、配置されている。
【0035】
以上の関係をさらに詳しく説明するために、まずは2面コーナーリフレクタアレイ単体の構成および作用について説明し、次いで、反射部材を追加した場合の作用について述べる。
【0036】
2面コーナーリフレクタアレイ6単体は、図4に模式的に示すように、2つの相互に直交する鏡面61a,61bから構成される2面コーナーリフレクタ61の多数の集合であり、全2面コーナーリフレクタ61を構成するそれぞれ2つの鏡面61a,61bに対してほぼ垂直な平面を素子面6Sとし、この素子面6Sを対称面とする面対称位置に被観察物4の実鏡映像5を結像させることができるものである。なお、本実施形態において2面コーナーリフレクタ61は2面コーナーリフレクタアレイ6の全体の大きさ(cmオーダ)と比べて非常に微小(μmオーダ)であるので、図3、図4では2面コーナーリフレクタ61の集合全体をグレーで表し、鏡面の開く内角の向きをV字形状で表し2面コーナーリフレクタ61を誇張して表現してある。そして、図5では、2面コーナーリフレクタアレイ6の模式的な平面図を図5(a)に、同(b)に部分的な斜視図を示す。但し、図5では、2面コーナーリフレクタアレイ6の全体に比して、2面コーナーリフレクタ61および鏡面61a,61bを大きく誇張して表している。
【0037】
2面コーナーリフレクタアレイ6は、例えば光線を屈曲しつつ透過し得るように、平板状の基盤60に、その平らな表面に対して垂直に肉厚を貫通する物理的・光学的な穴を多数形成し、各穴の内壁面を2面コーナーリフレクタ61として利用するために、穴の内壁面のうち直交する2つにそれぞれ鏡面61a,61bを形成したものを採用することができる。したがって、基盤60が少なくとも半透過性となるように、図5に示すように、薄い平板状の基盤60に平面視ほぼ矩形状(例えば正方形状)の光線が透過する物理的・光学的な穴(例えば一辺が例えば50〜200μm)を多数形成し、各穴のうち隣接して直交する2つの内壁面に平滑鏡面処理を施して鏡面61a,61bとすれば、これら2つの鏡面61a,61bが反射面として機能する2面コーナーリフレクタ61を得ることができる。なお、穴の内壁面のうち2面コーナーリフレクタ61を構成しない部分には鏡面処理を施さず光が反射不能な面とするか、又は角度をつけるなどして多重反射光を抑制することが好ましい。また、各2面コーナーリフレクタ61は、基盤60上において鏡面61a,61bがなす内角が全て同じ向きとなるように、規則的な格子点上に整列させて形成することが好ましい。よって、各2面コーナーリフレクタでは、2つの直交する鏡面の交線CLが素子面6Sに直交することが好ましい。以下、この鏡面61a,61bの内角の向きを、2面コーナーリフレクタ61の向き(方向)と称することがある。
【0038】
鏡面61a,61bの形成にあたっては、例えば金属製の金型をまず作成し、鏡面61a,61bを形成すべき内壁面をナノスケールの切削加工処理や、金型を用いたプレス工法をナノスケールに応用したナノインプリント工法又は電鋳工法による処理をすることによって鏡面形成を行い、これらの面粗さを10nm以下とし、可視光スペクトル域に対して一様に鏡面となるようにするとよい。なお、電鋳工法によりアルミニウムやニッケルなどの金属で基盤60を形成した場合、鏡面61a,61bは、金型の面粗さが十分小さければ、それによって自然に鏡面となるが、ナノインプリント工法を用いて、基盤60を樹脂製などとした場合には、鏡面61a,61bを作成するには、スパッタリングなどによって、鏡面コーティングを施す必要がある。また、隣り合う2面コーナーリフレクタ6同士の離間寸法を極力小さく設定することで、透過率を向上させることができる。また、このような2面コーナーリフレクタアレイ6の上面(観察者から見える側の面)には、低反射剤を塗布するなどの処理を行うことが好ましい。但し、2面コーナーリフレクタアレイ6の構成は上述のものに限定されず、直交する2つの鏡面61a,61bにより2面コーナーリフレクタ61が多数形成され、且つ各2面コーナーリフレクタ61が光学的な穴として光を透過するものであれば、適宜の構成および製造方法を採用することができる。
【0039】
そして、2面コーナーリフレクタアレイ6では、各2面コーナーリフレクタ61は、裏面側から穴に入った光を一方の鏡面61a(又は61b)で反射させ、さらにその反射光を他方の鏡面61b(又は61a)で反射させて表面側へと通過させる機能を有し、この光の進入経路と射出経路とが素子面6Sを挟んで面対称をなすこととなる。すなわち、2面コーナーリフレクタアレイ6の素子面6S(各鏡面の高さ方向中央部を通り且つ各鏡面と直交する面を仮定)は、被観察物4の実像を、面対称位置に空中像(実鏡映像)5として結像させる対称面となる。
【0040】
ここで、2面コーナーリフレクタアレイ6による結像様式について、被観察物として点光源oから発せられた光の経路とともに簡単に説明する。
【0041】
図6に平面的な模式図で、図7に模式的な側面図でそれぞれ示すように、点光源oから発せられる光(一点鎖線矢印で示す。図6において3次元的には紙面奥側から紙面手前側へ進行する)は、2面コーナーリフレクタアレイ6を通過する際に、2面コーナーリフレクタ61を構成する一方の鏡面61a(又は61b)で反射して更に他方の鏡面61b(又は61a)で反射した後に素子面6S(図7、図4、図5(b))を通過し、2面コーナーリフレクタアレイ6の素子面6Sに対して点光源oの面対称位置を広がりながら通過する。図6では入射光と反射光とが平行をなすように表されているが、これは同図では点光源oに対して2面コーナーリフレクタ61を誇張して大きく記載しているためであり、実際には各2面コーナーリフレクタ61は極めて微小なものであるため、同図のように2面コーナーリフレクタアレイ6を上方から見た場合には、入射光と反射光とは殆ど重なってみえる(図6では2面コーナーリフレクタ61の2つの鏡面(61a,61b)それぞれに最初に当たる光の経路、つまり2本の経路を描いて説明しているが、図7では煩雑さを避けるためにどちらか一方の鏡面に最初に当たる光のみを描いている)。すなわち、結局は点光源oの素子面6Sに対する面対称位置に透過光が集まり、図6、図7においてpの位置に実鏡映像として結像することになる。
【0042】
次いで、観察者側の空間に配置された反射部材8を追加した場合の作用について図8および図9(図6および図7にそれぞれ対応する)を用いて述べる。図6では2面コーナーリフレクタ61の2つの鏡面(61a,61b)それぞれに最初に当たる光の経路、つまり2本の経路を描いて説明しているが、図8では煩雑さを避けるためにどちらか一方の鏡面に最初に当たる光のみを描いている。基本的な考え方は光源oから発せられた光はまず2面コーナーリフレクタ61を2回の反射を伴って通過し、観察者Vに向かう光の経路上に配置された平面の反射部材8により、光の経路を折り返すことによりpの位置に実鏡映像を結像させるということである。つまり図6および図7の実鏡映像pの位置と、図8および図9の実鏡映像pの位置が反射部材8を2面コーナーリフレクタアレイ6の方向から見た場合に物体(図8および図9の実鏡映像pに対応)と虚像(図6および図7の実鏡映像pに対応〉の関係に位置することになる。図8の反射部材8の配置(角度)は実鏡映像pを観察者から観察できるように設置すればよい。フロントウインドウ7を反射部材8として用いた場合は、フロントウインドウ7の角度を自由に設定できないため、2面コーナーリフレクタアレイ6や被観察物4の位置関係を調整することにより、実鏡映像pを観察者から観察できるように設置する。
【0043】
次いで、2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の距離を変化させた場合について述べる。
【0044】
図10を用いて2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の距離が、2面コーナーリフレクタアレイ6と反射部材8の距離より短い場合を説明する。この場合は、実鏡映像5は2面コーナーリフレクタアレイ6と反射部材8の間の空間に結像し、観察者は実鏡映像を反射部材8の反射による虚像5’として観察することになる。
【0045】
図10に示すように、被観察物4から発せられた光は2面コーナーリフレクタアレイ6で2回の反射を伴って通過し、被観察物4の実像(実鏡映像)を、2面コーナーリフレクタアレイ6の対称面として面対称位置に空中像の実鏡映像5として結像させる。観察者Vはこの実鏡映像5を直接観察することはできない。観察者Vはこの実鏡映像5を反射部材8で反射させ虚像5’を観察することになる。すなわち観察者は反射部材8の背後(反射面より奥の空間;フロントウインドウ7を反射部材8として用いた場合は車外の空間)に空中像として実鏡映像5の虚像5’を観察することになる。
【0046】
続いて2面コーナーリフレクタアレイ6と被観察物4の距離と、2面コーナーリフレクタアレイ6と反射部材8の距離とほぼ同じにして、実鏡映像を反射部材8の位置に結像させた場合に関して図11を用いて説明する。図11に示すように、この場合は、被観察物に有限の大きさがあるため観察者は実鏡映像を実像5と、反射部材8による虚像5’の両方として観察することになる。
【0047】
被観察物4から発せられた光は2面コーナーリフレクタアレイ6で2回の反射を伴って通過し、被観察物4の実像(実鏡映像)を、2面コーナーリフレクタアレイ6の対称面として面対称位置に空中像(実鏡映像)として結像させる。本例の場合は空中像のほぼ中央付近に反射部材8が配置されているため、被観察物の部分のうち2面コーナーリフレクタアレイ6から遠い部分は実像5として、また、2面コーナーリフレクタアレイ6に近い部分は虚像5’として観察者Vに観察されることになる。すなわち、反射部材8が被観察物の実像5を横切るように配置されれば、観察者は反射部材8の鏡面(フロントウインドウ7を反射部材8として用いた場合はフロントウインドウ)に突き刺さったような像を空間像として観察することになる。
【0048】
このように、被観察物4と2面コーナーリフレクタアレイ6と反射部材8を様々な配置とすることで観察者Vに対して反射部材8の鏡面を基準として、手前や奥、場合によっては鏡面上(突き刺さった像)に空間像を提供することができる。
【0049】
この特性を積極的に利用するために、これらの位置関係を時間的に変化させる方法がさらに考えられる。他の実施形態として、被観察物と実鏡映像結像光学系を結ぶ直線上でガイドレールとモーターとラック&ピニオンやウォーム&ナットなどのガイド並進機構RPの組み合わせを用いて、被観察物を機械的に動かす方法を図12を用いて説明する。
【0050】
図12に示すように、観察者Vの視線(光軸AX)上に被観察物の空間像が移動するように、光軸AXに平行なガイドレールG上を摺動自在な摺動部に被観察物4が取り付けられ、被観察物4はモーターMとガイド並進機構RPにより直線に移動することができる。例えば、2面コーナーリフレクタアレイ6から遠い位置に被観察物4bがある場合は反射部材8と観察者Vの間の空間に実鏡映像が結像し、観察者は実像5を観察することになる。また、2面コーナーリフレクタアレイ6から近い位置に被観察物4がある場合は反射部材8と2面コーナーリフレクタアレイ6の間の空間に実鏡映像が結像し、観察者は反射部材8の中に虚像5’を観察することになる。このように、これらの被観察物、2面コーナーリフレクタアレイ6および反射部材8の相互の位置の関係を時間的に変化させる手段を用いれば、観察者Vは反射部材8の鏡面を挟んで奥から手前の空間で連続的に移動する空間像を観察することができる。
【0051】
反射部材8上の所定点Aと実鏡映像結像光学系6上の所定点Bの間の所定空間距離(図12に示すAB間)を基準として、実鏡映像結像光学系6上の所定点Bから該反射部材8上の所定点Aの面対称位置(図12に示す光軸の被観察物4の位置C)までの距離が等しくなるような光軸上において、被観察物4と実鏡映像結像光学系6の距離(図12に示すBC間)が、第1に、AB間より短くなる、第2に、AB間と同じになる、第3に、AB間より長くなる、の3つの関係のうち少なくとも2つの関係を満足する被観察物の位置を選択的に変位させれば、運転者は反射部材(フロントウインドウ)に対して観察像の位置を車内(実像)もしくは車外(虚像)、さらにフロントウインドウ上(観察像(実像、虚像)が突き刺さって見える)で変化させて観察することができる。よって、図12に示すように連続的に変化させる他に、観察像が反射部材を横切る状態、観察像が反射部材の鏡面内の鏡像となる状態、及び、反射部材の鏡面外の実像となる状態のうち少なくとも2つの状態をとるように、被観察物の位置を選択的に変化させることもできる。
【0052】
また、複数の被観察物を例えばLEDのような小型光源(図示せず)を直線上に並べ順次点灯させて発光場所を制御するような駆動をすれば、被観察物自体を実際に動かすことなく同様の空間像の移動を観察できることになる。
【0053】
図13は、本発明が適用されるヘッドアップディスプレイの更なる他の実施形態を示す概観図である。ヘッドアップディスプレイ1’は、実鏡映像結像光学系のみが上述した実施形態のヘッドアップディスプレイ1と異なる。したがって、ヘッドアップディスプレイ1と同一の構成については同一の名称および符号を用いて説明するものとする。
【0054】
本実施形態で適用される実鏡映像結像光学系9は、ハーフミラー91とレトロリフレクタアレイ92とを組み合わせたものである。そして、対称面となる素子面91Sはハーフミラー91の表面となる。ハーフミラー91を挟んで観察者Vと反対側の空間(ダッシュボード内側)に設けられた被観察物4及びレトロリフレクタアレイ92を配置し、ダッシュボード上面(観察者側空間)にはフロントウインドウ7が配置されている。被観察物4から発せられた光はハーフミラー91で反射され、次にレトロリフレクタアレイ92へと導かれる。レトロリフレクタアレイ92はハーフミラー91からの光を再帰反射させる機能を有しているので、再びハーフミラー91に向かうことになる。そして今度はハーフミラー91を透過して、観察者V側の空間に配置されたフロントウインドウ7に向かい、フロントウインドウ7により折り返されて実鏡映像5を観察者Vの視線上の空間に結像する。なお、フロントウインドウ7はハーフミラー91からの光を観察者Vに導くのに適度な角度に設定されている。
【0055】
ハーフミラー91も、例えば透明樹脂やガラスなどの透明薄板の一方の面に薄い反射膜をコーティングしたものを利用することができる。この透明薄板の反対側の面には、無反射処理(ARコート〉を施すことで、観察される実鏡映像5が2重になるのを防止することができる。なお、ハーフミラー91の上面には、それぞれ特定方向の光線を透過し且つ別の特定方向の光線を遮断するか、あるいは特定方向の光線のみを拡散する視線制御手段として、視界制御フィルム又は視野角調整フィルムなどの光学フィルム(図示せず)を貼り付けて設けることができる。具体的にはこの光学フィルムにより、ハーフミラー91を直接透過した光が視点V以外の位置には届かないようにすることで、ハーフミラー91を通じて視点V以外からフロントウインドウ7に写った被観察像が直接観察できるようになることを防止する一方で、後述するハーフミラー91で一旦反射してレトロリフレクタアレイ92で再帰反射した後にハーフミラー91を透過する方向の光線のみを透過させることで、実鏡映像5のみを特定の視点Vから観察できるようにしている。
【0056】
一方、レトロリフレクタアレイ92には、入射光を厳密に逆反射させるものであればあらゆる種類のものを適用することができ、素材表面への再帰反射膜や再帰反射塗料のコーティングなども考えられる。また、その形状も曲面としてもよいし、平面とすることもできる。例えば、図14(a)に正面図の一部を拡大して示すレトロリフレクタアレイ92は、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ92Aは、3つの同形同大の直角二等辺三角形をなす鏡面92Aa,92Ab,92Acを1点に集合させて正面視した場合に正三角形を形成するものであり、これら3つの鏡面92Aa,92Ab,92Acは互いに直交してコーナーキューブを構成している(図14(b))。
【0057】
また、図15(a)に正面図の一部を拡大して示すレトロリフレクタアレイ92も、立方体内角の1つの角を利用するコーナーキューブの集合であるコーナーキューブアレイである。個々のレトロリフレクタ92Bは、3つの同形同大の正方形をなす鏡面92Ba,92Bb,92Bcを1点に集合させて正面視した場合に正六角形を形成するものであり、これら3つの鏡面92Ba,92Bb,92Bcは互いに直交している(図15(b))。
【0058】
図15のレトロリフレクタアレイ92は、図14(a)のレトロリフレクタアレイ92とは形状が異なるだけで再帰反射の原理は同じである。図14(b)および図15(b)に、図14(a)および図15(a)にそれぞれ示したレトロリフレクタアレイ92を例にして説明すると、各レトロリフレクタ92A,92Bの鏡面のうちの一つ(例えば92Aa,92Ba)に入射した光は、他の鏡面(92Ab,92Bb)、さらに他の鏡面(92Ac,92Bc)で順次反射することで、レトロリフレクタ92A,92Bへ光が入射してきた元の方向へ反射する。なおレトロリフレクタアレイ92に対する入射光と出射光の経路は、厳密には重ならず平行であるが、レトロリフレクタ92A,92Bがレトロリフレクタアレイ92と比べて十分小さい場合には、入射光と出射光の経路が重なっているとみなしてもよい。これら2種類のコーナーキューブアレイの違いは、鏡面が二等辺三角形のものは比較的作成しやすいが反射率が若干低くなり、鏡面が正方形のものは二等辺三角形のものと比較して作成がやや難しい反面、反射率が高い、ということである。
【0059】
なお、レトロリフレクタアレイ92には、上述したコーナーキューブアレイの他にも、3つの鏡面により光線を再帰反射させるもの(広義には「コーナーリフレクタ」)を採用することができる。図示しないが、例えば、単位再帰反射素子として、3つの鏡面のうち2つの鏡面同士が直交し、且つ他の1つの鏡面が他の2つの鏡面に対して90/N度(ただしNは整数とする)をなすものや、3つの鏡面がそれぞれ隣接する鏡面となす角度が90度、60度および45度となる鋭角レトロリフレクタが、本実施形態に適用される再帰反射素子3として適している。その他にも、キャッツアイレトロリフレクタなども単位再帰反射素子として利用することができる。これらのレトロリフレクタアレイは、平面的なものであっても、屈曲又は湾曲していてもよい。また、レトロリフレクタアレイの配置位置も、画像72から発してハーフミラー91で反射した光を再帰反射することができるのであれば、適宜に設定することができる。
【0060】
このようなハーフミラー91とレトロリフレクタアレイ92を備えた実鏡映像結像光学系9を適用したこの実施形態のヘッドアップディスプレイ1’でも、2面コーナーリフレクタアレイを適用したヘッドアップディスプレイ1と同様に、ハーフミラー面91に対して斜め方向から見る観察者の視線上の空間に実鏡映像5が浮かんで見えることになる。また、このヘッドアップディスプレイ1’においても、観察像の表示位置や大きさを変化させることで、実鏡映像5に変化を持たせることも可能である。
【0061】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でヘッドアップディスプレイを構成する各部の具体的構成は適宜に変更することができ、他の表示装置の適用例として、その表示部の手前に空中映像を浮かび上がらせる表示装置として本発明を適宜構成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、広告の表示装置や、乗り物用の情報表示装置として利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1,1’…ヘッドアップディスプレイ
2…ダッシュボード
4…被観察物
5…空中映像(実鏡映像)
5’…空中像(虚像)
6…2面コーナーリフレクタアレイ(実鏡映像結像光学系)
6S…素子面(対称面)
8…反射部材
60…基盤
61…2面コーナーリフレクタ
61a,61b…鏡面
91…ハーフミラー
91S…ハーフミラー面(対称面)
92…レトロリフレクタアレイ
92A,92B…レトロリフレクタ
92Aa,92Ab,92Ac,92Ba,92Bb,92bc…鏡面
CL…鏡面の交線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌のダッシュボード上面に配置されるヘッドアップディスプレイであって、
前記ダッシュボード内部に配置される被観察物と、
前記ダッシュボード上面に配置され観察者側の空間から前記ダッシュボード内部の空間を仕切り且つ対称面を含む半透過性の基盤を有し且つ前記基盤を介して該観察者側の空間に前記被観察物の実像を結像させる実鏡映像結像光学系と、
前記観察者側の空間に配置され且つ前記実鏡映像結像光学系からの前記被観察物の実像の光を反射して該観察者へと導き該観察者へ観察像を供給する反射部材と、を含むことを特徴とするヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記反射部材がフロントウインドウであることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記反射部材がフロントウインドウ表面に貼着されていることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記実鏡映像結像光学系に対する前記被観察物の位置を変化させる手段を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項5】
前記被観察物と前記実鏡映像結像光学系を結ぶ直線上で前記被観察物を動かす手段を有することを特徴とする請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項6】
前記観察像が前記反射部材を横切る状態、前記観察像が前記反射部材の鏡面内の虚像となる状態、及び、前記反射部材の鏡面外の実像となる状態のうち少なくとも2つの状態をとるように、前記被観察物の位置を変化させることを特徴とする請求項5に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項7】
前記実鏡映像結像光学系が2面コーナーリフレクタとして機能する光学素子であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項8】
前記実鏡映像結像光学系がハーフミラーとレトロリフレクタアレイの組合せにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項9】
前記基盤が前記ダッシュボードと一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項10】
前記基盤の表面が前記ダッシュボードと同じ色に着色されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項1】
車輌のダッシュボード上面に配置されるヘッドアップディスプレイであって、
前記ダッシュボード内部に配置される被観察物と、
前記ダッシュボード上面に配置され観察者側の空間から前記ダッシュボード内部の空間を仕切り且つ対称面を含む半透過性の基盤を有し且つ前記基盤を介して該観察者側の空間に前記被観察物の実像を結像させる実鏡映像結像光学系と、
前記観察者側の空間に配置され且つ前記実鏡映像結像光学系からの前記被観察物の実像の光を反射して該観察者へと導き該観察者へ観察像を供給する反射部材と、を含むことを特徴とするヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記反射部材がフロントウインドウであることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記反射部材がフロントウインドウ表面に貼着されていることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記実鏡映像結像光学系に対する前記被観察物の位置を変化させる手段を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項5】
前記被観察物と前記実鏡映像結像光学系を結ぶ直線上で前記被観察物を動かす手段を有することを特徴とする請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項6】
前記観察像が前記反射部材を横切る状態、前記観察像が前記反射部材の鏡面内の虚像となる状態、及び、前記反射部材の鏡面外の実像となる状態のうち少なくとも2つの状態をとるように、前記被観察物の位置を変化させることを特徴とする請求項5に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項7】
前記実鏡映像結像光学系が2面コーナーリフレクタとして機能する光学素子であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項8】
前記実鏡映像結像光学系がハーフミラーとレトロリフレクタアレイの組合せにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項9】
前記基盤が前記ダッシュボードと一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項10】
前記基盤の表面が前記ダッシュボードと同じ色に着色されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−70074(P2011−70074A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222342(P2009−222342)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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