説明

ヘッドマウントディスプレイ装置

【課題】広範囲な視野を確保しつつ,活動を良好に行うことができるようにする。
【課題を解決するための手段】ヘッドマウントディスプレイ装置は、円周魚眼レンズを介して現実空間を外部映像Gとして撮影する。外部映像Gの中央部から主画像GCを、その周辺から左画像GL、右画像GR、上画像GU、下画像GDを副画像として取り出す。主画像GCは広角レンズの歪曲収差を補正されて中央に表示され、その周囲に各副画像を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部に装着した状態で画像を見ることができるヘッドマウントディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
頭部に装着して装着者の眼前に映像を表示するヘッドマウントディスプレイ装置(以下、HMDという)が知られている。このHMDの利用用途には様々なものがあるが、その1つには現実空間(外部の景色)に各種の付加情報(以下、AR情報という)を重ねて表示することによって情報を提供するものがある。このような用途で使用されるHMDとしては、光透過型、ビデオ透過型がある。光透過型のHMDでは、現実空間と液晶などに表示されるAR情報とを、例えばハーフミラーで重ねて観察できるようにしている。一方のビデオ透過型では、使用者の視点からビデオカメラで現実空間を撮影し、その撮影で得られる外部映像にAR情報を合成したものを使用者に観察させるようにしている。
【0003】
上記ビデオ透過型のHMDでは、装着者の観察できる視野がビデオカメラの撮影画角で制限されるため、通常では非装着状態に比べて視野が狭くなってしまう。しかしながら、このようなHMDを装着した状態で装着者が活動する場合には、視野の制限の影響を受けて周囲、特に視野から外れる左右方向などの障害物に接触する可能性が高くなるという問題があった。
【0004】
眼の前方に配される画像出力部と外部の障害物との距離を測定する探知センサを設け、探知センサの検出結果に基づいて、障害物が画像出力部と接触する可能性が高い距離まで近づいたときに、画像出力部を保持したアームを後退させて障害物との接触を回避するようにしたHMDが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−233948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のようにHMDの一部を移動させることでは、障害物を避けることができず、装着者自身が回避しなければならないことも多い。したがって、ビデオ透過型のHMDを装着した状態でも広い視野を確保することが好ましい。そこで、視野を広くするために、焦点距離が短く広い範囲を撮影できる広角レンズを用いて現実空間を撮影することが考えられる。しかし、このような広角レンズでは撮影される画像に歪みの程度が大きい。このため、広角レンズを用いた場合では、装着者に広い視野を提供できるが、観察される現実空間が歪んでしまい、装着者の活動に支障をきたすという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、広範囲な視野を確保しつつ,活動を良好に行うことができるヘッドマウントディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために請求項1記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、装着者と略同一の視点から広角レンズを介して現実空間を外部映像として撮影する撮影手段と、外部映像の一部を主画像として、また主画像の周囲の外部映像をまたは外部映像の周辺画像を副画像として取り出す画像分割手段と、主画像に対する広角レンズの歪曲収差を補正する歪み補正手段と、装着者の眼の前方に主画像を表示するとともに、主画像の周囲に副画像を表示する表示手段とを備えたものである。
【0009】
請求項2記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、画像分割手段を、主画像の一部と重複させて外部映像から副画像を取り出すようにしたものである。
【0010】
請求項3記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、画像分割手段を、副画像を主画像の左側及び右側から、または外部映像の左側周辺部及び右側周辺部から取り出し、表示手段を、主画像の左右に、それぞれ対応する副画像を表示するようにしたものである。
【0011】
請求項4記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、画像分割手段を、副画像を主画像の上下左右から、または外部映像の上下左右の周辺部から取り出し、表示手段を、主画像の上下左右に、それぞれ対応する副画像を表示するようにしたものである。
【0012】
請求項5記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、装着者の頭部の動きを検出する動き検出手段と、動き検出手段の検出結果に応じて、主画像による現実空間の表示範囲の広狭を変化させる広狭調節手段を備えたものである。
【0013】
請求項6記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、広狭調節手段を、動き検出手段によって動きが検出されている場合に、動きが検出されていない場合よりも、主画像による現実空間の表示範囲を広くするようにしたものである。
【0014】
請求項7記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、広狭調節手段を、動き検出手段によって検出される動きの速度が所定値以上である場合に、動きの速度が所定値未満である場合よりも主画像による現実空間の表示範囲を広くするようにしたものである。
【0015】
請求項8記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、画像分割手段を、主画像の中心を撮影手段によって撮影される外部映像の中心と一致させ、外部映像の中央部を主画像として取り出すようにしたものである。
【0016】
請求項9記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、主画像または副画像上での装着者の視点位置を検出する視点検出手段と、この視点検出手段の検出結果に基づいて、外部映像上での装着者の注視位置を検知し、検知される注視位置を中心として主画像を取り出すように画像分割手段を制御する中心制御手段とを備えたものである。
【0017】
請求項10記載ヘッドマウントディスプレイ装置では、歪み補正手段が、外部映像に歪み補正を行い、画像分割手段が、歪み補正手段によって歪みが補正された外部映像から主画像を取り出すようにしたものである。
【0018】
請求項11記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、撮影手段は、その広角レンズが円周魚眼レンズとなっているものである。
【0019】
請求項12記載のヘッドマウントディスプレイ装置では、主画像または副画像に付加情報を重畳させて表示させる付加情報合成手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、広角レンズを介して現実空間を撮影した外部映像から主画像と、その周辺の副画像とを取り出し、主画像には広角レンズの歪曲収差を補正して、その主画像とともに、主画像の周囲に副画像を表示するようにしたから、装着者が主画像を観察しながら活動を良好に行えるとともに、副画像によりの周辺視野を提供することができ、障害物との接触の回避等を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を実施したHMDの外観の構成を示す斜視図である。
【図2】HMDの構成を示すブロック図である。
【図3】画像処理ユニットの構成を示すブロック図である。
【図4】外部映像から主画像及び各副画像を生成する状態を示す説明図である。
【図5】主画像及び副画像の表示例を示す説明図である。
【図6】装着者の動きに応じて主画像が表示する現実空間の範囲を変化させる例を示す画像処理ユニットのブロック図である。
【図7】装着者の動きに応じて主画像が表示する現実空間の範囲を変化させる際の制御の概略を示すフローチャートである。
【図8】広角モードと標準モードでの主画像及び副画像の表示例を示す説明図である。
【図9】注視位置に応じて主画像の表示範囲を変化させる例を示す画像処理ユニットのブロック図である。
【図10】注視位置に応じて主画像の表示範囲を変化させる際の制御の概略を示すフローチャートである。
【図11】主画像の表示範囲が変化した主画像及び副画像の表示例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
本発明を実施したHMD(ヘッドマウントディスプレイ装置)の外観を図1に示す。HMD10は、ゴーグル形状にされており、眼前ユニット12と、この眼前ユニット12に一体に設けられた一対のテンプル(耳かけ)13とからなる。このHMD10は、テンプル13を用いて使用者の頭部に装着される。眼前ユニット12は、装着者の眼前を覆うように設けられた箱状の筐体14と、筐体14の前面に撮影レンズ15aが露呈されたカメラ15と、筐体14の内部に配された左側表示部17Lと右側表示部17Rや画像処理用の各種回路などから構成される。
【0023】
カメラ15は、撮影レンズ15aを介して現実空間(外部の景色)を外部映像として撮影する。各表示部17L,17Rは、左眼用、右眼用のLCD(液晶ディスプレイ)ユニット18L,18R(図2参照)や接眼光学系(図示省略)などから構成されており、それぞれ対応する左眼、右眼の前方に配されている。装着者は、LCDユニット18L,18Rに表示される画像を接眼光学系を介して観察する構成となっている。
【0024】
各表示部17L,17Rには、カメラ15で撮影された外部映像に各種画像処理を施し、またAR情報を重畳した画像が表示される。なお、この例では各眼に対して表示部17L,17Rを設けているが、左右共通の表示部を設け、これを両眼で観察する構成でもよい。
【0025】
カメラ15は、前述の撮影レンズ15aとイメージセンサ15bとからなる。撮影レンズ15aとしては、大きな撮影画角を有し広い視野を提供できる広角レンズが用いられる。この例では、撮影レンズ15aとして、撮影画角がほぼ180度であり、そのイメージサークルがイメージセンサ15bの受光面に収まる円周魚眼レンズを用いている。
【0026】
イメージセンサ15bは、CCD型やMOS型のものが用いられており、撮影レンズ15aによって結像される被写体像を光電変換して外部映像として出力する。このように構成されるカメラ15は、撮影レンズ15aが装着者の前方に向けられており、装着者とほぼ同じ視点から撮影する。これにより、装着者の前面側で、装着者の真上から真下、及び真横を含む円形の外部映像が撮影される。
【0027】
なお、撮影レンズとしては、円周魚眼レンズに限られるものではなく、対角魚眼レンズや、魚眼レンズよりも焦点距離が長い広角レンズを用いてもよい。なお、撮影レンズとしては、広い視野を提供するためにできるだけ短いものが好ましく、焦点距離20mm(35mm判換算値)以下とするのがよい。また、魚眼レンズ以外で撮影する場合にも、そのイメージサークルがイメージセンサ15bの受光面に収まるようにして円形に外部映像を撮影してもよい。さらに、現実空間の目的物を記録に残すなどの目的のために、撮影レンズ15aをズームレンズとして、その記録に必要な焦点距離を確保できるようにしてもよい。
【0028】
信号処理部21は、カメラ15からの出力信号に対してノイズ除去、信号増幅、デジタル変換などを行う。また、信号処理部21は、デジタル変換された外部映像に対して、ホワイトバランス処理などの各種処理を行う。外部映像は、信号処理部21から画像処理ユニット22に送られる。
【0029】
画像処理ユニット22は、詳細を後述するように外部映像から主画像と副画像の取り出しや、主画像の歪み補正、AR情報の合成などを行う。副画像としては、右画像、左画像、上画像、下画像が取り出される。主画像や副画像は、各表示部17L,17Rに送られる。
【0030】
情報発生部23は、カメラの位置や撮影方向(方位、仰角など)を検出するセンサを有しており、これらセンサの検出結果に基づいて、撮影中の現実空間中の被写体の説明などからなるAR情報を発生させる。このAR情報には、それを合成すべき画像上の位置などを示す合成制御情報が含まれている。AR情報は、例えば無線通信手段(図示せず)を介して、各種のAR情報を蓄積している外部サーバから取得する。この情報発生部23からのAR情報は、画像処理ユニット22に送られる。
【0031】
左側表示部17Lは、前述のようにLCDユニット18Lと接眼光学系とで構成される。LCDユニット18Lは、それぞれLCDで構成される主画面25C,左画面25L,右画面25R,上画面25U,下画面25Dからなり、各画面は、それの駆動回路(図示省略)を備えており、入力されるデータに基づいて画像を表示する。主画面25Cは、主画像を表示し、左画面25L,右画面25R,上画面25U,下画面25Dは、それぞれ対応する左画像,右画像,上画像,下画像を表示する。
【0032】
上記LCDユニット18Lは、主画面25Cを中心に、その左側に左画面25Lが、右側に右画面25Rが、上側に上画面25Uが、下側に下画面25Dがそれぞれ配されている。このように構成されるLCDユニット18Lを接眼光学系を介して観察することにより、左眼のほぼ正面に主画像を観察することができ、その主画像の右側に右画像を、左側に左画像を観察することができる。同様に、主画像の上側に上画像を、下側に下画像を観察することができる。
【0033】
右側表示部17Rは、左側表示部17Lと同じ構成であり、LCDユニット18Rと接眼光学系で構成され、LCDユニット18Rは、主画像,左画像,右画像,上画像,下画像が表示される主画面26C,右画面26R,左画面26L,上画面26U,下画面26Dから構成される。LCDユニット18Rに表示される画像は、接眼光学系を介して右眼で観察される。
【0034】
主画像及び左画像,右画像,上画像,下画像が観察されるサイズや装着者の視野に対する位置などは、主画像が明確に観察で、また左画像,右画像,上画像,下画像が明確には観察できないが視野内にほぼ観察されるように、LCDユニット18L,18Rの各画面のサイズや配置,接眼光学系の倍率などによって調整されている。主画像については、人が片眼で明確に見ることができる視野にほぼ一致して観察されるように調整されていることが好ましい。この例では、明確に見ることができる視野を46度として、そのように主画像が観察されるようにしてある。また、このような明確に見ることができる視野の外側に左画像,右画像,上画像,下画像が観察されるにように、各画面25L,25R,25U,25D、26R,26L,26U,26Dのサイズや主画面25C,26Cとの位置関係、接眼光学系が調整されている。
【0035】
なお、この例では、複数の画面を用いて主画像、及び各副画像を表示しているが、例えば1個のLCDの表示面を分割して主画像、及び副画像を表示し、同様に観察されるようにしてもよい。
【0036】
図3に示すように、画像処理ユニット22は、画像分割部31,歪み補正部32,画像合成部33から構成される。画像分割部31は、外部映像から主画像と、副画像とを取り出す。この画像分割部31は、外部映像の中央部を主画像として取り出し、外部映像の左右上下の各周辺画像を左画像,右画像,上画像,下画像として取り出す。左画像,右画像,上画像,下画像を取り出す際には、それら各画像の範囲の一部が主画像の範囲と重複するように取り出される。
【0037】
歪み補正部32には、画像分割部31からの主画像が入力される。この歪み補正部32は、主画像に対して撮影レンズ15aの歪曲収差をなく補正を行う。歪み補正部32には、撮影レンズ15aの歪曲収差による画像の歪みをなくすための補正パラメータが設定されており、この補正パラメータを用いて主画像に対する歪み補正が行われる。補正パラメータは、例えば撮影レンズ15aの仕様に基づいて予め決められている。
【0038】
各副画像には主画像のような補正を行わないこれは画像を限られたサイズの表示画面に表示しながら、見易い画像のサイズを確保し、また表示される現実空間の情報量の欠落をなくすためである。
【0039】
画像合成部33には、歪み補正部32で歪み補正された主画像と、情報発生部23からのAR情報とが入力される。この画像合成部33は、AR情報を、それに含まれる合成制御情報に基づいて主画像に合成し、各種のAR情報を重畳した主画像を生成する。
【0040】
画像合成部33からの主画像は、主画面25C,26Cに送られて、これら主画面25C,26Cにそれぞれ表示される。また、画像分割部31で取り出される左画像は、左画面25L,26Lに、右画像は右画面25R,26Rにそれぞれ送られて表示される。さらに、上画像は、上画面25U,26Uに、下画像は下画面25D,26Dにそれぞれ送られて表示される。これにより、主画像の左右上下に左画像,右画像,上画像,下画像を配した画像を表示する。
【0041】
外部映像から主画像及び各副画像を生成する状態を図4に模式的に示す。撮影される外部映像Gは円形となっている(図4(a))。この外部映像Gから、画像分割部31によって主画像GC0が取り出され(図4(b))、また左画像GL,右画像GR,上画像GU,下画像GDが取り出される(図4(c))。主画像GC0は、歪み補正部32によって補正されて矩形の主画像GCとされる(図4(d))。
【0042】
図4(a)に破線で示す境界線の内側が主画像GC0を取り出す主画像領域C1となっている。この主画像領域C1は、その中心位置Pが外部映像Gの中心位置(撮影レンズ15aの光軸の位置)となるようにしてあり、主画像GC0及び補正後の主画像GCと外部映像Gとの各中心位置が一致するようにしてある。また、主画像領域C1は、矩形よりも外側に膨らんだ樽型状になっている。これは、歪み補正部32での補正後の主画像GCを矩形とするためである。
【0043】
二点鎖線で示す境界線の外側が各副画像を取り出する副画像領域C2〜C5となっており、外部映像Gの周辺部の左側、右側、上側、下側のそれぞれ設けられている。これら副画像領域C2〜C5のそれぞれは、主画像領域C1と一部が重複するように区画されており、図4(a)では、その重複している部分をハッチングで示してある。これにより、表示された主画像中の被写体像と各副画像中の被写体像との対応関係を把握しやすくしている。なお、この例では、外部映像の周辺部から取り出される副画像は、主画像の周囲から取り出される副画像でもある。
【0044】
図5に撮影状態と表示状態の一例を示す。図5(a)は撮影された外部映像を示しており、図5(b)は、この外部映像に対応する表示状態を示している。円形の外部映像G内の被写体像は、撮影レンズ15aの歪曲収差によって歪んでいる。この外部映像Gの中央部から取り出されて補正された主画像GCが主画面25C,26Cに表示される。この主画像GCは、歪みが補正されて表示されるとともに、建物の名称を示すAR情報F1や道路の名称を示すAR情報F2、近隣の駅の方向を示すAR情報F3などが合成されて表示される。
【0045】
また、外部映像Gの周辺部から取り出された左画像GLが左画面25L,26Lに、右画像GRが右画面25R,26Rに、上画像GUが上画面25U,26Uに、下画像GDが下画面25D,26Dにそれぞれ表示されている。これら副画像は、歪みが補正されることなく表示される。また、各副画像は、その一部が主画像と重複して表示される。図示した例では、例えば左画像GLに自動車の被写体像T1aが表示され、その自動車の先端部分の被写体像T1bが主画面GCに表示されている。また、下画像GDに横断歩道の一部の被写体像T2aが表示されるとともに、その横断歩道の被写体像T2bが主画面GCに表示されている。
【0046】
次に上記構成の作用について説明する。HMD10を装着して電源をオンとすると、カメラ15による撮影が開始される。撮影レンズ15aを通して現実空間が円形の外部映像として動画で撮影され、撮影される外部映像が1フレーム分ごとに信号処理部21を介して画像処理ユニット22に順次に送られる。
【0047】
画像処理ユニット22では、画像分割部31によって、外部映像から主画像と、左画像,右画像,上画像,下画像とがそれぞれ取り出される。このときに、各副画像のそれぞれは、主画像と画像の一部が重複するようにして取り出される。取り出された主画像は、歪み補正部32に送られ、各副画像は、LCDユニット25,26に送られる。歪み補正部32では、入力される主画像に対して撮影レンズ15aの歪曲収差の補正を行い、収差をなくした主画像が画像合成部33に送られる。
【0048】
一方、情報発生部23では、それに内蔵したセンサにより、カメラ15の位置や撮影方向などが検出され、その検出結果に基づいてカメラ15で現在撮影されている現実空間の建物や道などの特定が行われて、それらのAR情報が発生される。そして、そのAR情報が画像合成部33に送られる。
【0049】
AR情報が画像合成部33に入力されると、それに含まれる合成制御情報に基づいた主画像上の合成位置にAR情報が合成される。複数のAR情報が入力されているときには、それぞれのAR情報が主画像に合成される。そして、AR情報が合成された主画像がLCDユニット25,26に送られる。なお、副画像にもAR情報を合成するなどしてもよい。
【0050】
上記のようにして得られる主画像と各副画像とがLCDユニット25,26に送られ、主画面25C,26Cに主画像が表示される。また、この主画面25C,26Cの周囲に配された左画面25L,26Lに左画像が表示され、右画面25R,26Rに右画像が表示される。さらに、上画面25U,26Uに上画像が表示され、下画面25D,26Dに下画像が表示される。これにより、装着者は、接眼光学系を通して、図5(b)に一例が示されるような主画像GC、左画像GL,右画像GR,上画像GU,下画像GDを観察することができる。
【0051】
カメラ15の撮影に同期して、各画面に表示される主画像及び各副画像が更新されるので、装着者は、主画像及び各副画像を動画として観察することができ、装着者が向いている方向を変化させれば、それに応じて変化する主画像、各副画像を観察することができる。
【0052】
歪み補正された主画像により、装着者は、装着者が向いている方向の現実空間を観察することができ、またそれに合成されているAR情報を観察することができる。したがって、装着者は、主画像を観察しながら移動や作業などを良好に行うことができる。
【0053】
一方で、左画像,右画像,上画像、下画像は、装着者の左右上下方向の現実空間の情報を多く含み、上述のように歪み補正せずに表示されているが、現実空間における装着者の左右上下方向の気配を感じるには十分であり、例えば接近してくる自動車などを早期に気づくことができる。また、このときに表示されている各副画像の一部が主画像と重複して表示されているから、副画像中の被写体像と主画像中の被写体像との対応関係を把握しやすい。
【0054】
[第2実施形態]
装着者の頭部の動きに応じて、主画像による現実空間の表示範囲の広狭を変化させる第2実施形態について説明する。なお、以下に説明する他は、第1実施形態と同様であり、実質的に同じ構成部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0055】
この例では、図6に示すように、動きセンサ51が設けられるとともに、電子ズーム部52が設けられている。動きセンサ51は、加速度センサや角速度センサ等から構成されており、装着者の頭部の動きを検出する。頭部の動きとして検出されるのは、例えば装着者の頭部自体の動き(回転や直線運動等)の他、頭部の移動をともなう装着者自身の動きがある。
【0056】
動きセンサ51の検出結果は、電子ズーム部52に送られる。電子ズーム部52には、歪み補正部32で歪み補正された主画像が入力される。この電子ズーム部52は、広狭調節手段として機能し、動きセンサ51の検出結果に応じたサイズの範囲に主画像をトリミングし、そのトリミングが施された主画像を元の主画像のサイズに拡大する。これにより、あたかも主画像を撮影する撮影レンズがズーミングされるようにして、主画像が表示する現実空間の範囲の広狭を調節して主画面25C,26Cに表示させる。なお、主画像をトリミングする際には、トリミングの前後で主画像の中心が変わらないようにしている。
【0057】
この例では、広角モードと標準モードとがある。広角モードは、主画像で現実空間を広く表示するためのモードであり、電子ズーム部52は、例えば80°の撮影画角に相当する主画像をトリミング・拡大により生成して出力する。標準モードは、広角モードよりも狭い範囲の現実空間を主画像で表示するモードであり、電子ズーム部52は、例えば50°の撮影画角に相当する主画像をトリミング・拡大により生成して出力する。
【0058】
図7に示すように、電子ズーム部52は、装着者の頭部が予め設定されている規定値以上の速度、例えば通常に歩く程度の速度以上で移動していることを、動きセンサ51の検出結果から検知しているときに、広角モードとし、規定値未満の速度での動きの場合には標準モードする。
【0059】
この例によれば、装着者が例えば規定値以上の速度で歩行しているときには、広角モードとなり、図8(a)に示すように、主画面25C,26Cには、外部映像内で広く範囲設定された主画像GCが表示され、移動のために十分な広範囲の現実空間が歪みない状態で観察できる。
【0060】
これに対して、装着者が規定値未満の速度でゆっくりと歩行しているときや、静止しているときには、標準モードとなり、主画面25C,26Cには、外部映像内で狭く範囲設定された主画像GCが表示され、現実空間の建物などを注視するのに適した状態となる。
【0061】
上記の例では、規定値以上の速度で動いているか否かによって、主画像が表示する現実空間の範囲の広狭を調節しているが、これに限らず、例えば動いている否かで調節してもよい。また、一定時間以上の動きがあったとき、また動きが止まってから一定時間以上が経過したときに、主画像が表示する現実空間の範囲の広狭を変化するようにしてもよい。さらに、主画像が表示する現実空間の範囲の広狭を変化させるときには、徐々にその範囲を広くし、あるいは狭くするのがよい。
【0062】
また、上記の例では、主画像が表示する現実空間の範囲の広狭を変化させるときに各副画像が表示する範囲の広狭を変化させていないが、各副画像によって表示される現実空間の範囲の広狭を、主画像に対応させて変化させてもよい。このときに、主画像が表示する現実空間の範囲の広狭と同じように、すなわち例えば主画像が表示する現実空間の範囲を狭くしたときに、各副画像が表示する現実空間の範囲をも狭くするように制御し、あるいは主画像が表示する現実空間の範囲の広狭と逆向きに、すなわち例えば主画像が表示する現実空間の範囲を狭くしたときに、各副画像が表示する現実空間の範囲を広くするように制御することもできる。前者のように制御する場合では、電子ズーム部に代えて、ズームタイプの撮影レンズ15aを用いて、その焦点距離の増減で行うこともできる。
【0063】
[第3実施形態]
装着者の視点位置を検出し、その検出結果に基づいて、主画像が表示する現実空間の表示範囲を変化させる第3実施形態について説明する。なお、以下に説明する他は、第1実施形態と同様であり、実質的に同じ構成部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0064】
この例における画像処理ユニット22の構成を図9に示す。画像処理ユニット22に外部映像が入力されると、その外部映像は歪み補正部61と画像分割部62とに送られる。歪み補正部61は、第1実施形態の歪み補正部32と同様に、撮影レンズ15aの歪曲収差の補正を行うが、この歪み補正部61では、入力される外部映像の全部について歪み補正を行う。
【0065】
画像分割部62は、主画像分割手段62aと副画像分割手段62bからなる。主画像分割手段62aは、後述する中心制御部63に指定される外部映像上の位置を主画像領域C1の中心として主画像を外部映像から取り出す。副画像分割手段62bは、入力される外部映像からその左右上下の各周辺部を左画像,右画像,上画像,下画像として取り出す。なお、歪み補正をした外部映像から主画像の取り出しを行っているが、補正前の外部映像から主画像を取り出し、これに歪み補正を行ってもよい。
【0066】
主画像分割手段62aで取り出された主画像は、画像合成部33を介して主画面25C,26Cに送られて表示される。また、副画像分割手段62bで取り出された左画像GL,右画像GR,上画像GU,下画像GDは、各画面25L,26L、25R,26R,25U,26U,25D,26Dに送られて表示される。
【0067】
HMD10には、装着者の視点位置を検出する視点センサ64が設けられている。視点センサ64は、例えば赤外線を装着者の眼球に向けて照射する赤外線照射部と、その眼球を撮影するカメラなどから構成されており、周知の角膜反射法によって視点を検出する。なお、視点を他の手法によって検出してもよい。
【0068】
中心制御部63は、視点センサ64の検出結果に基づいて、外部映像上の主画像領域C1の中心位置を決定し、その中心位置を主画像分割手段62aに指定する。この中心制御部63は、視点センサ64によって検出される装着者の視点位置から、装着者が注視している外部映像上の注視位置を求め、その注視位置が主画像の中心となるように主画像領域C1の中心位置を決定する。
【0069】
この例では、図10に示すように、視点が所定サイズの範囲内に留まっている時間が継続して規定時間以上であるときに、その範囲の例えば中心を注視位置として注視していると判定する。そして、注視していると判定した場合に、その注視位置を主画像分割手段62aに指定する。これにより、主画面25C,26Cに注視位置を中心とした主画像を表示させる。一方、注視していないと判定された場合には、外部映像の中心を主画像の中心位置として主画像分割手段62aに指定することにより、装着者が現実空間を通常に観察する状態とする。
【0070】
例えば、注視しないと判定されて、図11(a)のようにLCDユニット18R,18Lに主画像と各副画像が表示されているときに、装着者が主画像GCの上部、あるいは上画像GUに表示されている「信号機」の被写体像T3を注視すると、図11(b)に示すように、その「信号機」の被写体像T3部分が中心となるように主画像GCの表示が変化する。
【0071】
なお、外部映像上で主画像の中心位置を移動させる場合には、主画像の中心位置を徐々に目的とする位置にまで移動させ、滑らかに主画面25C,26Cに表示される主画像の外部映像上の範囲を変化させることが好ましい。
【0072】
主画像の表示範囲が移動するときに、各副画像の表示範囲については変化させていないが、各副画像によって表示される現実空間の範囲を、主画像に対応させて移動させてもよい。この場合には、主画像の周囲の画像を副画像として取り出すようにすればよい。このときにも、副画像と主画像との範囲が一部重複するようにするのがよい。また、注視によって主画像の範囲が変わるモードと、固定されたモードとを選択できるようにするのも好ましい。
【0073】
上記各実施形態では、副画像を左右上下の各画像としたが、左右の各画像としてもよく、また上下の各画像としてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 HMD
15 カメラ
15a 撮影レンズ
17L,17R 表示部
31,62 画像分割部
32,61 歪み補正部
51 動きセンサ
52 電子ズーム部
64 視点センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の頭部に装着されて使用されるヘッドマウントディスプレイ装置において、
装着者と略同一の視点から広角レンズを介して現実空間を外部映像として撮影する撮影手段と、
外部映像の一部を主画像として、また前記主画像の周囲の外部映像をまたは外部映像の周辺画像を副画像として取り出す画像分割手段と、
前記主画像に対する広角レンズの歪曲収差を補正する歪み補正手段と、
装着者の眼の前方に主画像を表示するとともに、主画像の周囲に副画像を表示する表示手段とを備えることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項2】
前記画像分割手段は、主画像の一部と重複させて外部映像から副画像を取り出すことを特徴とする請求項1記載のヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項3】
前記画像分割手段は、副画像を主画像の左側及び右側から、または外部映像の左側周辺部及び右側周辺部から取り出し、
前記表示手段は、主画像の左右に、それぞれ対応する副画像を表示することを特徴とする請求項1または2記載のヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項4】
前記画像分割手段は、副画像を主画像の上下左右から、または外部映像の上下左右の周辺部から取り出し、
前記表示手段は、主画像の上下左右に、それぞれ対応する副画像を表示することを特徴とする請求項1または2記載のヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項5】
装着者の頭部の動きを検出する動き検出手段と、
前記動き検出手段の検出結果に応じて、主画像による現実空間の表示範囲の広狭を変化させる広狭調節手段を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項6】
前記広狭調節手段は、動き検出手段によって動きが検出されている場合に、動きが検出されていない場合よりも、主画像による現実空間の表示範囲を広くすることを特徴とする請求項5記載のヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項7】
前記広狭調節手段は、動き検出手段によって検出される動きの速度が所定値以上である場合に、動きの速度が所定値未満である場合よりも主画像による現実空間の表示範囲を広くすることを特徴とする請求項5記載のヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項8】
前記画像分割手段は、主画像の中心を前記撮影手段によって撮影される外部映像の中心と一致させ、外部映像の中央部を主画像として取り出すことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項9】
主画像または副画像上での装着者の視点位置を検出する視点検出手段と、
この視点検出手段の検出結果に基づいて、外部映像上での装着者の注視位置を検知し、検知される注視位置を中心として主画像を取り出すように前記画像分割手段を制御する中心制御手段とを備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載ヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項10】
前記歪み補正手段は、外部映像に歪み補正を行い、
前記画像分割手段は、前記歪み補正手段によって歪みが補正された外部映像から主画像を取り出すことを特徴とする請求項9記載のヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項11】
前記撮影手段は、その広角レンズが円周魚眼レンズであることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ装置。
【請求項12】
主画像または副画像に付加情報を重畳させて表示させる付加情報合成手段を備えることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−203446(P2011−203446A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70053(P2010−70053)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】