説明

ヘッドマウントディスプレイ

【課題】レンズから使用者の眼までの物理的な距離を光学的距離に設定することができない場合でも、使用者に対して所望画像を視認させることが可能な光学透過型のヘッドマウントディスプレイを提供する。
【解決手段】ヘッドマウントディスプレイ(HMD)1は、液晶表示部103に表示された画像の光を、レンズ112,およびハーフミラー8によって使用者の左眼83の瞳孔84に導くことによって、使用者に画像を視認させることができる。レンズ112からハーフミラー8を介して使用者の瞳孔84に至るまでの光軸上の物理的な距離ERmは、レンズ112の中心部分を通過する光の中心軸と、縁部分を通過する光の中心軸との間の距離A、光の幅ω、瞳孔84の直径r、および画角θを用いて、(A/tan(θ/2)) < ERm < (A+(r+ω)/2)/tan(θ/2))の関係を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学透過型のヘッドマウントディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
光学透過型のヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display、HMD)が知られている。光学透過型のHMDは、使用者の眼前の景色に所望画像を重ね、使用者に認識させることができる。光学透過型のHMDでは、使用者の眼前からの光を使用者の眼に直接導く必要があるため、HMD本体を使用者の眼前に配置できない。理由は、HMD本体が使用者の眼前に配置された場合、使用者の眼前からの光がHMD本体によって遮蔽されるためである。これに対して特許文献1には、所望画像の光を使用者の眼に導く光学系、具体的には、小型の接眼レンズを保持した保持部材を、使用者の眼の正面から横方向に配置することによって、使用者の眼前からの光が遮蔽されることを防止する光学透過型のHMDが提案されている。
【0003】
通常、所望画像の中心から周辺部分までを明確に使用者に視認させるために、HMDでは、所望画像の光が出射されるレンズから使用者の眼までの物理的な距離が所定距離(以下、光学的距離ともいう。)に設定されている。所定距離とは、例えば、所望画像の光がレンズを介して使用者の眼に出射される場合に、出射される光の方向によらずすべての光を使用者の網膜に結像させることが可能な距離である。光学的距離は、レンズ径および画角に基づいて算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−3879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に記載されたように、光学透過型のHMDの光学系を使用者の眼の正面から横方向に配置した場合、使用者の視界に光学系が入らないように、光学系を眼から離して配置する必要がある。勿論、光学透過型のHMDの光学系を使用者の眼の正面から上下や斜め方向に配置した場合であっても同様に、使用者の視界に光学系が入らないように、光学系を眼から離して配置する必要がある。また、光学系を構成するレンズ等の配置上の制約もある。これらが原因で、光が出射されるレンズから使用者の眼までの物理的な距離を、光学的距離に設定することができない場合があるという問題点がある。
【0006】
本発明の目的は、レンズから使用者の眼までの物理的な距離を光学的距離に設定することができない場合でも、使用者に対して所望画像を視認させることが可能な光学透過型のヘッドマウントディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のヘッドマウントディスプレイは、光学透過型のヘッドマウントディスプレイであって、使用者に視認させる画像を形成する画像形成部と、前記画像形成部に形成された前記画像の光を使用者の瞳孔に導くレンズであって、前記使用者が前記ヘッドマウントディスプレイを装着した状態で、光軸方向が、前記使用者の前後方向に対して交差するように配置されるレンズと、前記使用者の眼前に配置され、前記レンズを通過した前記画像の光を反射させることによって、前記画像の光を前記使用者の瞳孔に導く反射部材とを備え、前記レンズから前記反射部材を介して前記使用者の瞳孔に至るまでの光軸上の物理的な距離である物理的距離をERm、前記レンズを通過した前記画像の光における前記光軸と直交する方向の幅をω、前記使用者の瞳孔の直径をr、画角をθ、および、前記レンズの中心を通過する前記画像の光の中心部分に対応する中心軸と、前記レンズの縁を通過する前記画像の光の中心部分に対応する中心軸との距離をAとした場合に、
(A/tan(θ/2)) < ERm
であり、且つ
ERm < (A+(r+ω)/2)/tan(θ/2))
の関係を満たすことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、物理的距離ERmを上述の範囲の値とした場合、使用者の眼からヘッドマウントディスプレイを離して配置することができ、且つ、画像形成部に形成された画像の光の少なくとも一部を、使用者の網膜上に結像させることができる。これによって、使用者の眼前からの光をヘッドマウントが遮蔽することを抑止して眼前の景色を使用者に視認させ、且つ、所望画像を使用者に視認させることができる。
【0009】
本発明において、前記物理的距離は、前記画像形成部の中心に形成された前記画像の光を前記使用者が視認する場合の光量に対する、前記画像形成部の縁部に形成された前記画像の光を前記使用者が視認する場合の光量の比に基づいて決定されてもよい。これによって、画像形成部に形成された画像の縁部を、使用者が十分な光量で視認できるように、物理的距離を決定することができる。また、使用者がヘッドマウントディスプレイを使用する場合の用途に応じた光量に合わせて最適な物理的距離を定め、ヘッドマウントディスプレイを設計することができる。
【0010】
本発明において、前記ヘッドマウントディスプレイは、前記使用者の頭部に装着される装着具に取り付けられ、前記装着具には、前記ヘッドマウントディスプレイが前記装着具に取り付けられた状態で、前記反射部材と前記使用者との間に透明部材が設けられ、前記物理的距離は、前記レンズから前記反射部材、前記反射部材から前記透明部材、および、前記透明部材から前記使用者の瞳までの前記光軸上の物理的な距離の総和であってもよい。これによって、使用者に装着される着用具にヘッドマウントディスプレイが取り付けられる場合であっても、使用者の眼前からの光をヘッドマウントが遮蔽することを抑止しつつ、所望画像を使用者に視認させることができる。
【0011】
本発明において、前記レンズは、前記使用者が前記ヘッドマウントディスプレイを装着した状態で、前記使用者の顔に前記レンズが接触しない位置に配置されてもよい。これによって、使用者がヘッドマウントディスプレイを装着した状態で、レンズが使用者の顔に接触することを防止できる。このため使用者は、ヘッドマウントディスプレイを快適に使用することができる。
【0012】
本発明において、前記レンズは、前記ヘッドマウントディスプレイが前記装着具に取り付けられた状態で、前記装着具に前記レンズが接触しない位置に配置されてもよい。これによって、ヘッドマウントディスプレイが装着具に取り付けられた状態で、ヘッドマウントディスプレイが装着具を傷つけることを防止できる。
【0013】
本発明において、前記画角は、前記レンズの半径および前記レンズのアイリリーフ長によって特定されてもよい。これによって、画角を画一的に特定し、物理的距離を正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】HMD1の正面図である。
【図2】HMD1および眼鏡型フレーム91の平面図である。
【図3】図2のI−I線矢視方向断面図である。
【図4】投影ユニット10を上側から見た場合の透視図である。
【図5】物理的距離ERmを説明するための図である。
【図6】物理的距離ERmを説明するための図である。
【図7】物理的距離ERmを説明するための図である。
【図8】物理的距離ERmを説明するための図である。
【図9】物理的距離ERmを説明するための図である。
【図10】物理的距離ERmを説明するための図である。
【図11】物理的距離ERmを説明するための図である。
【図12】各種パラメータを示す表である。
【図13】シミュレーションによって算出された光量を示す図である。
【図14】物理的距離ERmと光量比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態であるヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display、HMD)1について、図面を参照して説明する。以下説明において、図1の手前方向、奥行き方向、左方向、右方向、上方向、下方向が、夫々、HMD1の前方向、後方向、左方向、右方向、上方向、下方向である。
【0016】
HMD1の概要について説明する。HMD1の表示形式は光学透過型である。使用者の眼前の景色の光は、ハーフミラー8(図1参照、後述)を透過することによって使用者の眼に直接導かれる。HMD1の投影形式は虚像投影型である。HMD1が備える液晶装置101(図3参照、後述)に表示された画像の光は、ハーフミラー8を反射することによってユーザの眼に導かれる。これらによってHMD1は、眼前の景色に、作成した画像を重ねて使用者に認識させることができる。
【0017】
図1および図2に示すように、HMD1は筐体2を備える。筐体2は、眼鏡型フレーム91に着脱可能に取り付けられる。眼鏡型フレーム91は使用者の頭部に装着される。眼鏡型フレーム91は、左フレーム部92(図2参照)、右フレーム部93、中央フレーム部94、およびHMD支持部96を備える。左フレーム部92は使用者の左耳に掛けられる。右フレーム部93は使用者の右耳に掛けられる。中央フレーム部94は、左フレーム部92の前端部と、右フレーム部93の前端部との間に設けられている。中央フレーム部94は、長手方向中央部から左側且つ下側に、眼鏡レンズ81を備えている。中央フレーム部94は、長手方向中央部から右側且つ下側に、眼鏡レンズ82を備えている。眼鏡レンズ81、82は、ディオプトリ値が「0」の透明な平板である。眼鏡レンズ81、82は、筐体2に衝撃が加わった際に、筐体2が使用者の顔へ接触することを防止するために設けられる。勿論、使用者の視力に合わせて、眼鏡レンズ81、82が所定のディオプトリ値を有してもよい。中央フレーム部94は、長手方向中央部に一対の鼻当て部95を備えている。HMD支持部96は、中央フレーム部94の上面右端側(使用者側から見て左端側)に設けられている。HMD支持部96は下方延出部98(図1参照)を備えている。下方延出部98は上下方向に延びている。
【0018】
筐体2の面のうち眼鏡型フレーム91に対向する面に、被保持部(図示略)が設けられている。被保持部は、上下方向に沿ったU字溝を備える。U字溝には下方延出部98が嵌められる。U字溝の底部には摩擦部材が設けられているため、HMD1の上下方向の位置決めが可能となる。
【0019】
HMD1の筐体2について説明する。筐体2は四角筒状である。筐体2は、左右略中央から右端までの部分が上下方向に突出している。筐体2の材料は樹脂である。筐体2は、左側から右側に向かって順に、ミラーホルダ5、左筐体11、中筐体12、および右筐体13を備えている。
【0020】
ミラーホルダ5は、左筐体11の左端に固定されている。ミラーホルダ5は上下一対の挟み板6,7(図1参照)を備えている。挟み板6,7はハーフミラー8を上下方向から保持する。ハーフミラー8は、挟み板6,7によって保持されている部分を軸として揺動する。使用者は、眼の位置に応じてハーフミラー8の角度を調整することができる。
【0021】
左筐体11および中筐体12は、其々、左右方向に延びる筒体である。左筐体11と中筐体12とは、対向する端部同士が接触した状態で、同軸上に固定されている。左筐体11の上面は、左右方向中央から右斜め上方に傾斜して一段高くなっている。左筐体11の下面は、左右方向中央から右斜め下方に傾斜して一段低くなっている。左筐体11の前面且つ右端側に、切り欠き状のスリット部9Aが設けられている。スリット部9Aは、アジャスタ16の一部を外部に露出させている。アジャスタ16は、上下に回転させることができる。使用者は、アジャスタ16を回転させることによって、視認する画像のピントを調整することができる。右筐体13は、蓋状のカバー部材である。右筐体13は、中筐体12の開口する右端側を閉塞するように固定される。
【0022】
図3を参照し、筐体2の内部について説明する。左筐体11および中筐体12内に、投影ユニット10が格納されている。右筐体13内に、投影ユニット10を電気的に制御する制御基板20が格納されている。
【0023】
投影ユニット10について説明する。投影ユニット10は、左側から右側に向かって順に、レンズホルダ15、液晶ホルダ17、および液晶装置101を備えている。レンズホルダ15は略筒状である。レンズホルダ15は、筒状内部の左右略中央から左側部分に接眼光学系102を保持する。レンズホルダ15の左右略中央から右側部分は空洞になっている。接眼光学系102は、複数のレンズ111を備えている。複数のレンズ111の光軸は、筒状内部の中心を左右方向に延びる軸線上に配置されている。複数のレンズ111は左右方向に並べられ、レンズホルダ15に固定されている。複数のレンズ111のうち、レンズホルダ15の最も左側に固定されているレンズ、即ち、使用者の眼に最も近い側のレンズを、レンズ112という。レンズ112の半径は、複数のレンズ111の中で最も大きい。
【0024】
液晶ホルダ17は、筒状の周壁部171を備えている。周壁部171の右端に、開口を閉塞する右壁部172が設けられている。右壁部172の中心に、開口窓173が設けられている。右壁部172の右面に液晶装置101が保持されている。液晶装置101は、左面の中心部分に液晶表示部103を備えている。液晶表示部103には、ユーザの眼前の景色に重ねる画像が表示される。
【0025】
図4に示すように、複数のレンズ111の光軸115は左右方向に延びている。複数のレンズ111の光軸115は、使用者の前後方向(図4の上下方向)と直交する。ハーフミラー8は、使用者の左眼83の正面に配置する。投影ユニット10は、使用者の視界に筐体2(図1〜図3参照)ができるだけ入らないように、使用者の左眼83の正面に対して右側(使用者から見て左側)に設けられている。また、HMD1の筐体2が眼鏡レンズ82に接触しないように、筐体2は眼鏡型フレーム91から前方に離間した位置に固定される。従って投影ユニット10は、眼鏡型フレーム91から前方に離間した位置に配置している。なお、投影ユニット10のレンズホルダ15に固定された複数のレンズ111の光軸115の向きは、左右方向に限定される。またレンズ112は、複数のレンズ111の中で最も大きい。このため、レンズ112の前後端部が複数のレンズ111の中で前後方向に最も張り出した状態になる。このため、眼鏡レンズ82に筐体2が接触しないようにするためには、少なくとも、眼鏡レンズ82の前端からレンズ112の光軸115までの間の距離Yが、レンズ112の半径よりも大きくなるように、眼鏡型フレーム91に対する筐体2の位置を調整する必要がある。これによって、筐体2が眼鏡レンズ82に接触して眼鏡レンズ82を傷つけることを抑止している。
【0026】
液晶表示部103に表示された画像の光は、開口窓173(図3参照)を左側に通過し、レンズホルダ15の筒状内部を左方向に向かって進み、レンズ112を含む複数のレンズ111を通過してハーフミラー8に到達する。ハーフミラー8は、画像の光を後方(使用者側の方向)に向けて反射する。反射した画像の光は、眼鏡レンズ82を前方から後方に向けて透過し、使用者の左眼83の瞳孔84に入射する。瞳孔84に入射した光は、網膜上に結像する。
【0027】
レンズ112からハーフミラー8を介して使用者の左眼83の瞳孔84に至るまでの光軸上の物理的な距離(以下、物理的距離という。)は、以下の式(1)によって表すことができる。但し、物理的距離をERm、レンズ112の左面からハーフミラー8までの光軸上の物理的な距離をX、ハーフミラー8から眼鏡レンズ82の前面までの光軸上の物理的な距離をY、眼鏡レンズ82の前面から使用者の左眼83の瞳孔84の前後方向中央までの光軸上の物理的な距離をZと表している。
ERm = X+Y+Z ・・・(1)
【0028】
同時に、使用者の眼前の景色の光は、ハーフミラー8を前方から後方に向けて透過する。ハーフミラー8を透過した景色の光は、さらに眼鏡レンズ82を透過し、使用者の左眼83の瞳孔84に入射する。瞳孔84に入射した光は、網膜上に結像する。これによって使用者は、HMD1によって作成された画像が眼前の景色に重ねられた状態で、双方を同時に視認することができる。
【0029】
画像の光を瞳孔84内に入射させて網膜上に結像させるためには、物理的距離ERmの値を所定範囲内とする必要がある。図5〜図11を参照し、物理的距離ERmのとりうる範囲について説明する。なお図5〜図11では、説明を容易化するために、ハーフミラー8を省略している。また複数のレンズ111のうち、使用者の左眼83に最も近接するレンズ112のみを示している。従って図5〜11では、液晶表示部103に表示された画像の光は、レンズ112を通過し、そのまま左眼83の瞳孔84に入射している。図5〜図11において示される物理的距離ERmと、ハーフミラー8を介した実際の系(図1〜図4参照)における物理的距離ERmとは等しい。図5〜図7は、液晶表示部103の一点に表示された画像の光が、レンズ112を通過する場合において、光の光軸に直交する方向の幅ωが、瞳孔84の直径rと等しい場合を想定している。図8および図9は、幅ωが直径rよりも大きい場合を想定している。図10および図11は、幅ωが直径rよりも小さい場合を想定している。
【0030】
図5では、複数のレンズ111によるアイポイントに使用者の左眼83の瞳孔84が配置した状態を示している。この場合、液晶表示部103に表示された画像の中心部分の光71は、レンズ112の中心部分を通過して瞳孔84に入射する。瞳孔84に入射した光71は、網膜上の点72において結像する。また、液晶表示部103に表示された画像の縁部分の光73は、レンズ112の縁部分を通過し、瞳孔84に入射する。瞳孔84に入射した光73は、網膜上の点74において結像する。使用者は、液晶表示部103に表示された画像の中心部分と、液晶表示部103に表示された画像の縁部分との両方を、良好に視認することができる。以下、液晶表示部103に表示された画像を、表示画像ともいう。
【0031】
光軸と光73とのなす角(以下、入射角という。)は、以下の式(2)の関係を満たす。但し、入射角をα、レンズ112の中心を通過する光71の中心軸、即ち光軸と、レンズ112の縁を通過する光73の中心軸との間の距離をA、レンズ112のアイリリーフ長をLと表している。
tanα = A/L ・・・(2)
表示画像の画角と入射角αとは、以下の式(3)の関係を示す。但し、画角をθと表している。
θ = 2×α ・・・(3)
式(2)(3)から、式(4)が導かれる。
tan(θ/2) = A/L
L = A/tan(θ/2) ・・・(4)
式(2)(3)(4)からも明らかなように、画角θは、レンズ111のアイリリーフ長Lと距離Aによって一義的に特定される。ここでレンズの半径は、光を漏れなく利用するため、距離Aに光71、73の幅ωの半分(ω/2)の距離分だけ加算した値となる。以下、レンズ112の半径をD(=A+ω/2)と表記する。従って画角θは、レンズ112の半径Dとレンズ111のアイリリーフ長によって特定されることになる。
【0032】
表示画像の縁部分を、表示画像の中心部分と同程度に視認させるためには、物理的距離ERmを、式(4)に示すアイリリーフ長Lと同一とする必要がある。なお以下、式(4)にて示されるアイリリーフ長Lを、光学的距離ともいう。光学的距離をER0とも表記する。しかしながら実際には、図4に示すように、物理的距離ERmは、X、Y、およびZの総和によって求められる。これらのパラメータのうちZ(眼鏡レンズ82の前面から使用者の左眼83の瞳孔84の前後方向中央までの光軸上の物理的な距離)は、周知の眼鏡においては所定値(約20mm)として定められている。またY(ハーフミラー8から眼鏡レンズ82の前面までの光軸上の物理的な距離)は、眼鏡レンズ82に筐体2が接触することを防止するために、レンズ112の半径よりも大きくする必要がある。さらにX(レンズ112の左面からハーフミラー8までの光軸上の物理的な距離)は、筐体2が使用者の視野にできるだけ入らないように、できるだけ大きくする必要がある。以上の制約により、少なくともXおよびYの値は大きくなる傾向にあるので、物理的距離ERmは、式(4)の関係を満たす値、即ち光学的距離ER0よりも大きくなる。
【0033】
図6を参照し、物理的距離ERmが図5の状態よりもΔER分大きい場合について説明する。物理的距離ERmは、以下の式(6)の関係を満たす。
ERm = ER0+ΔER
= A/tan(θ/2)+ΔER ・・・(6)
表示画像の縁部分の光73がレンズ112を介して左眼83の瞳孔84に入射する場合、表示画像の光73の幅ωのうち、レンズ112の中心側を通過した幅t分に相当する光75は、左眼83の瞳孔84に入射しない。この場合、画角θと幅tとは、以下の式(7)の関係を満たす。
t = ΔER×tan(θ/2) ・・・(7)
従って、ΔERが大きくなるに従い、幅tは大きくなるので、光73のうち瞳孔84に入射する光の量は徐々に少なくなる。このため、表示画像の縁部分を使用者が視認する場合の表示画像の光量は、ΔERの増加によって物理的距離ERmが大きくなるに従い、低下する。使用者が視認する表示画像の縁部分は、物理的距離ERmが大きくなるに従って徐々に暗くなる。
【0034】
図7に示すように、物理的距離ERmが図6の状態よりもさらに大きくなったとする。ΔERが増加し、瞳孔84に入射しない光の75の幅tと、幅ωとが等しくなっている。この場合、表示画像の縁部分の光73は、左眼83の瞳孔84に全く入らなくなる。この場合、画角θと幅ωとは、以下の式(8)の関係を満たす状態になっている。
ω = ΔER×tan(θ/2) ・・・(8)
この場合、使用者は、表示画像の縁部分を視認できなくなる。このため、使用者に表示画像の縁部分を視認させるためには、ΔERはω/tan(θ/2)よりも小さくする必要がある。従って物理的距離ERmのとりうる上限値は、式(6)との関係で、以下の式(9−1)の関係を満たす必要がある。
ERm < A/tan(θ/2)+(ω/tan(θ/2))
= (A+ω)/tan(θ/2) ・・・(9−1)
今、光71、73の幅ωは瞳孔84の直径rと等しい想定であるため、ωを(r+ω)/2のように表すこともできる。結果、式(9−1)は以下の式(9−2)とも表すことができる。
ERm <(A+(r+ω)/2)/tan(θ/2) ・・・(9−2)
【0035】
式(4)に基づき、ERmの下限値を、光学的距離ER0(=A/tan(θ/2))超に設定する。これらの結果、瞳孔の直径rと光71、73の幅ωとが等しい場合における物理的距離ERmのとりうる範囲は、以下の式(10)によって示される。
A/tan(θ/2) < ERm < (A+(r+ω)/2)/tan(θ/2) ・・・(10)
【0036】
図8および図9を参照し、光71、73の幅ωが、瞳孔84の直径rよりも大きい場合について説明する。図8では、複数のレンズ111(図3、4参照)によるアイポイントに、使用者の左眼83の瞳孔84が配置した状態を示している。表示画像の光71、73の幅ωが、瞳孔84の直径rよりも大きいので、光71、73は、瞳孔84から上下に各(ω−r)/2ずつはみ出ている。
【0037】
図9では、ΔERが増加することによって物理的距離ERmが大きくなった結果、表示画像の縁部分の光73が、左眼83の瞳孔84に全く入らなくなっている。この場合、画角θと幅ωとは、瞳孔84からはみ出た分の光の幅(ω−r)/2(図8参照)を式(8)の左辺から減算した、以下の式(11)の関係を満たす。
ω−(ω−r)/2 = ΔER×tan(θ/2) ・・・(11)
使用者に表示画像の縁部分を視認させるためには、ΔERは(ω−(ω−r)/2)/tan(θ/2)よりも小さくする必要がある。従って物理的距離ERmのとりうる上限値は、式(6)との関係で、以下の式(12)の関係を満たす必要がある。
ERm < A/tan(θ/2)+((ω−(ω−r)/2)/tan(θ/2))
= (A+(r+ω)/2)/tan(θ/2) ・・・(12)
【0038】
式(4)に基づき、ERmの下限値を、光学的距離ER0(=A/tan(θ/2))超に設定する。これらの結果、光71、73の幅ωが瞳孔の直径rよりも大きい場合における物理的距離ERmのとりうる範囲は、以下の式(13)によって示される。
A/tan(θ/2) < ERm < (A+(r+ω)/2)/tan(θ/2) ・・・(13)
【0039】
式(13)は、式(9−2)と同一表記であるが、式(13)の上限値は、式(9−2)の上限値よりも大きい。光71、73の幅ωが瞳孔の直径rよりも大きい場合、光71、73の幅ωと瞳孔の直径rとが等しい場合よりもωの値が大きくなるためである。なお、瞳孔の直径rは一定と仮定する。
【0040】
図10および図11を参照し、光71、73の幅ωが、瞳孔84の直径rよりも小さい場合について説明する。図10では、複数のレンズ111(図3、4参照)によるアイポイントに、使用者の左眼83の瞳孔84が配置した状態を示している。表示画像の光71、73の幅ωが、瞳孔84の直径rよりも小さいので、光71、73は、瞳孔84の内側に上下各(r−ω)/2ずつ入り込んでいる。
【0041】
図11では、ΔERが増加することによって物理的距離ERmが大きくなった結果、表示画像の縁部分の光73が、左眼83の瞳孔84に全く入らなくなっている。この場合、画角θと幅ωとは、瞳孔84の内側に入り込んだ分の光の幅(r−ω)/2(図10参照)を式(8)の左辺に加算した、以下の式(14)の関係を満たす。
ω+(r−ω)/2 = ΔER×tan(θ/2) ・・・(14)
使用者に表示画像の縁部分を視認させるためには、ΔERは(ω+(r−ω)/2)/tan(θ/2)よりも小さくする必要がある。従って物理的距離ERmのとりうる上限値は、式(6)との関係で、以下の式(15)の関係を満たす必要がある。
ERm < A/tan(θ/2)+((ω+(r−ω)/2)/tan(θ/2))
= (A+(r+ω)/2)/tan(θ/2) ・・・(15)
【0042】
式(4)に基づき、ERmの下限値を、光学的距離ER0(=A/tan(θ/2))超に設定する。これらの結果、光71、73の幅ωが瞳孔の直径rよりも小さい場合における物理的距離ERmのとりうる範囲は、以下の式(16)によって示される。
A/tan(θ/2) < ERm < (A+(r+ω)/2)/tan(θ/2) ・・・(16)
【0043】
式(16)は、式(9−2)と同一表記であるが、式(16)の上限値は、式(9−2)の上限値よりも小さい。光71、73の幅ωが瞳孔の直径rよりも小さい場合、光71、73の幅ωと瞳孔の直径rとが等しい場合よりも、ωの値が小さくなるためである。なお、瞳孔の直径rは一定と仮定する。
【0044】
以上説明したように、ERmを式(9−2)、式(13)、および式(16)で示される範囲内の値とすることによって、使用者の眼からHMD1の筐体2を離して配置し、且つ、液晶表示部103に表示された画像の光の少なくとも一部を、使用者の網膜上に結像させることができる。これによって、使用者の眼前からの光を筐体2が遮蔽することを抑止して眼前の景色を使用者に良好に視認させ、且つ、液晶表示部103に表示した表示画像の縁部分まで使用者に視認させることができる。
【0045】
また、物理的距離ERmを光学的距離ER0よりも大きくすることができるので、図4におけるY(眼鏡レンズ82からハーフミラー8までの光軸上の物理的な距離)、およびX(ハーフミラー8からレンズ112までの光軸上の物理的な距離)の値を大きくすることができる。従って、Yの値を大きくすることによって、眼鏡レンズ82に筐体2が接触することを防止できる。また、Xの値を大きくすることによって、筐体2が使用者の視野にできるだけ入らないようにすることができる。
【0046】
なお、液晶表示部103が本発明の「画像形成部」に相当する。ハーフミラー8が本発明の「反射部材」に相当する。眼鏡型フレーム91が本発明の「装着具」に相当する。眼鏡レンズ81、82が本発明の「透明部材」に相当する。
【0047】
本発明は上述の実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。HMD1の筐体2は、使用者の左眼83の正面から右側(使用者から見て左側)以外の方向、例えば左側、上下側、斜め側に設けられていてもよい。複数のレンズ111の光軸115(図4参照)の延びる方向は、左右方向に限定されない。また光軸115と使用者の前後方向とは交差していればよく、直交していなくてもよい。眼鏡型フレーム91は、周知の眼鏡であってもよいし、眼を保護するためのゴーグル等であってもよい。ハーフミラー8の代わりにプリズムを使用してもよい。液晶表示部103に画像を表示する代わりに、レーザ光を使用者の瞳孔84に向けて出射してもよい。レーザ光走査することによって、ユーザに画像を視認させてもよい。
【0048】
HMD1は、ハーフミラー8から眼鏡レンズ82の前面までの光軸上の物理的な距離Yを、少なくともレンズ112の半径よりも大きくしていた。これに対し、眼鏡型フレーム91の中央フレーム部91の方が、眼鏡レンズ82よりも前方に突出している場合には、ハーフミラー8から中央フレーム部91の前面までの光軸上の物理的な距離を、少なくともレンズ112の半径よりも大きくしてもよい。
【0049】
HMD1は、使用者の頭部に直接装着されてもよい。この場合、レンズ112の左面からハーフミラー8までの光軸上の物理的な距離をx、ハーフミラー8から使用者の左眼83の瞳孔84の前後方向中央までの光軸上の物理的な距離をzと表した場合、物理的距離ERmは以下の式(17)の関係を満たす。
ERm = x+z (17)
この場合、少なくとも、z(ハーフミラー8から使用者の左眼83の瞳孔84の前後方向中央までの光軸上の物理的な距離)が、レンズ112の半径よりも大きくなるように、使用者に対する筐体2の位置を調整する必要がある。これによって、筐体2が使用者に接触したり、使用者に不快感を与えてしまったりすることを抑止できる。
【実施例1】
【0050】
図12から図14を参照し、本発明の実施例について説明する。実験例では、HMD1の物理的距離ERmが変化した場合に、表示画像が使用者にどのように視認されるかを検証し、適正な物理的距離ERmを特定するため、以下の評価を行った。
【0051】
使用者の瞳孔84を通過する画像の光の光量を、シミュレーションによって解析した。光学的距離ER0、入射角θ/2、X(図4参照)、Y(図4参照)、Z(図4参照)、レンズ112の半径D、瞳孔84の直径r、および、光の幅ω(図5〜図11参照)の値を、図12に示すように設定した。なおこの条件で、上述の式(13)を適用した場合、物理的距離ERmの範囲は、30mm<ERm<53mmとなった。
【0052】
物理的距離ERmを光学的距離ER0に設定した場合の円形模様の光の面積を基準とした。そして、物理的距離ERmが光学的距離ER0よりも大きい場合の円形模様の光の面積と、基準の光の面積との比を、光量比として算出した。そしてERmと光量比との関係を評価した。また、光量比が25%以上である場合、使用者によって良好に視認されることから、光量比が25%以上である場合の物理的距離ERmの範囲を特定した。
【0053】
光量ERm毎に求めた、瞳孔84を通過する画像の光の光量を、図13に示す。なお図13のうち1〜10は、其々、Dを変化させることによって、ΔERを0、3、6、9、10、11、12、13、14、および15とした場合に、瞳孔84を通過する光を示している。図13からも明らかなように、物理的距離ERmが大きくなるに従い、円形模様は徐々に小さくなった。
【0054】
物理的距離ERm(単位:mm)と光量比(単位:%)との関係を表すグラフを、図14に示す。この結果から、ERmが43mm以下という条件で、光量比が25%以上となることがわかった。従って、HMD1は、物理的距離ERmを、30mm<ERm<53mm(式(13)に基づき算出した上限値)、より好ましくは、30mm<ERm<43mmの範囲(シミュレーションに基づき、光量比25%以上の条件を満たす上限値)とすることによって、使用者が液晶表示部103に表示された画像を良好に視認できることがわかった。
【符号の説明】
【0055】
2 筐体
8 ハーフミラー
10 投影ユニット
81、82 眼鏡レンズ
83 左眼
84 瞳孔
91 眼鏡型フレーム
101 液晶装置
103 液晶表示部
112 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学透過型のヘッドマウントディスプレイであって、
使用者に視認させる画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部に形成された前記画像の光を使用者の瞳孔に導くレンズであって、前記使用者が前記ヘッドマウントディスプレイを装着した状態で、光軸方向が、前記使用者の前後方向に対して交差するように配置されるレンズと、
前記使用者の眼前に配置され、前記レンズを通過した前記画像の光を反射させることによって、前記画像の光を前記使用者の瞳孔に導く反射部材と
を備え、
前記レンズから前記反射部材を介して前記使用者の瞳孔に至るまでの光軸上の物理的な距離である物理的距離をERm、前記レンズを通過した前記画像の光における前記光軸と直交する方向の幅をω、前記使用者の瞳孔の直径をr、画角をθ、および、前記レンズの中心を通過する前記画像の光の中心部分に対応する中心軸と、前記レンズの縁を通過する前記画像の光の中心部分に対応する中心軸との距離をAとした場合に、
(A/tan(θ/2)) < ERm
であり、且つ
ERm < (A+(r+ω)/2)/tan(θ/2))
の関係を満たすことを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【請求項2】
前記物理的距離は、
前記画像形成部の中心に形成された前記画像の光を前記使用者が視認する場合の光量に対する、前記画像形成部の縁部に形成された前記画像の光を前記使用者が視認する場合の光量の比に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項3】
前記ヘッドマウントディスプレイは、前記使用者の頭部に装着される装着具に取り付けられ、
前記装着具には、前記ヘッドマウントディスプレイが前記装着具に取り付けられた状態で、前記反射部材と前記使用者との間に透明部材が設けられ、
前記物理的距離は、
前記レンズから前記反射部材、前記反射部材から前記透明部材、および、前記透明部材から前記使用者の瞳までの前記光軸上の物理的な距離の総和であることを特徴とする請求項1または2に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項4】
前記レンズは、
前記使用者が前記ヘッドマウントディスプレイを装着した状態で、前記使用者の顔に前記レンズが接触しない位置に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項5】
前記レンズは、
前記ヘッドマウントディスプレイが前記装着具に取り付けられた状態で、前記装着具に前記レンズが接触しない位置に配置されることを特徴とする請求項3に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項6】
前記画角は、
前記レンズの半径および前記レンズのアイリリーフ長によって特定されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のヘッドマウントディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−44896(P2013−44896A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182004(P2011−182004)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】