説明

ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液及びその製法

【課題】ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液において、前記リポソーム懸濁液の血管内投与後の血漿中のリポソームの凝集防止のみならず、投与開始直後の一過性の血圧低下を防止する前記ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を提供する。
【解決手段】前記ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液作成後にPEG結合リン脂質の水溶液を添加して、リポソーム表面にPEG結合リン脂質を固定化させる方法において、血漿中でのリポソーム凝集防止効果が得られる必要十分量以上のPEG結合リン脂質をリポソーム懸濁液に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の血管内投与開始直後の一過性の血圧低下を防止し、より安全性を高める為の、リポソームの表面修飾に関するものである。本発明のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液は、人工酸素運搬体として出血ショック時の治療又は血栓、栓塞等で血流が阻害された為、低酸素状態となった組織
への酸素供給等に使用される。
【背景技術】
【0002】
リポソームを水溶性或いは脂溶性の薬剤の担体として利用しようとする試みは、広く行われて来た。また、リポソームの内水相に酸素運搬体であるヘモグロビンを含有させ、リポソームを人工酸素運搬体として出血ショック時の治療又は血栓、栓塞等で血流が阻害された為、低酸素状態となった組織への酸素供給等に利用する試みも行われている。これらのリポソームを血管内に投与した場合、投与開始直後に一過性の血圧低下が起こる可能性がある事が一般に知られている。この投与開始直後の一過性の血圧低下を防止し、より安全性を高める検討は十分には行われていなかった。
【特許文献1】特公平7-20857号公報
【特許文献2】特許第3466516号公報
【非特許文献1】人工血液.1995;3(2):54-59
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リポソームを薬剤等の運搬体として利用する場合、リポソームを生体の血管内に投与する必要がある。生体内投与時の一つの課題として、脂質のみから成るリポソームは血漿中でリポソーム同士が凝集すると言う課題があった。血漿成分の蛋白質がリポソームに吸着し、吸着された蛋白を介してリポソーム同士が凝集するものと思われる。リポソームの凝集塊は血管を栓塞し、血流を阻害してしまう危険がある。この課題解決の為、本発明者らはリポソームの表面にポリエチレングリコール結合リン脂質(以下、PEG結合リン脂質と言う)を固定化させ、血漿中でのリポソームの凝集を防止する方法を鋭意検討してきた(特公平7-20857)。この方法はリポソームの血漿中での凝集防止に効果的である。しかし、リポソーム製剤には、もう一つの課題として、血管内投与した場合、投与開始直後に一過性の血圧低下が起きる可能性がある事が知られている。これは既に市販されている「DOXIL」(悪性腫瘍治療剤、ドキシルビシン含有リポソーム)或いは「アンビソーム」(真菌感染治療剤、アムホテリシンB含有リポソーム)においても報告されている。これらの血圧低下の反応の可能性は、リポソーム製剤投与時の反応として、一般的なものであり、特にイヌが高感度な種であり、過敏に反応を示すと言われているが、詳しいメカニズムは不明である。上述の「DOXIL」、「アンビソーム」は少量投与で一過性の血圧低下が発生しており、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の様に、人工酸素運搬体として、出血ショック時の治療に大量投与も想定される場合、一般のリポソーム製剤と比較して、数十〜数百倍オーダーの投与量となるので、なおさら懸念されるべき課題となる。単に血漿中でのリポソームの凝集防止を解決しただけでは、この一過性の血圧低下は解決せず、この一過性の血圧低下の可能性を防止した、より安全性を高めたヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を提供する必要がある。本発明の目的は、血漿中のリポソーム凝集防止のみならず、リポソームの血管内投与開始直後の一過性の血圧低下をも防止したヘモグロビン含有リポソームの懸濁液及びその製造方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決する為、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、リポソームの懸濁液作成後にPEG結合リン脂質の水溶液を添加して、リポソーム表面にPEG結合リン脂質を固定化する方法において、血漿中でのリポソーム凝集防止効果が得られる必要十分量以上(後述)のPEG結合リン脂質をリポソーム懸濁液に添加する事によって、以下の様な、リポソームを血管内に投与した時の血漿中のリポソームの凝集防止のみならず、投与開始直後の一過性の血圧低下の可能性をも防止したリポソーム懸濁液及びその製造方法を提供する事が出来る。
【0005】
1) ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液であって、前記リポソームの懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度が3.05〜5.10w/v%であり、ポリエチレングリコール結合リン脂質の濃度が0.26〜0.45w/v%であるヘモグロビン含有リポソーム懸濁液。
【0006】
2) 前記ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中の前記ポリエチレングリコール結合リン脂質量の85%以上が前記リポソーム表面に固定化されて存在する事を特徴とする1)に記載のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液。
【0007】
3) 前記ポリエチレングリコール結合リン脂質が存在しない前記リポソーム懸濁液に対して、前記ポリエチレングリコール結合リン脂質を前記リポソーム懸濁液中の濃度が0.26〜0.45w/v%となる様に添加し、30〜50℃、2〜30時間インキュベーションする事を特徴とする1)〜2)のいずれかに記載のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の製法。
【発明の効果】
【0008】
以上、詳述した様に、本発明はヘモグロビン含有リポソーム懸濁液作成後にPEG結合リン脂質の水溶液を添加して、リポソーム表面にPEG結合リン脂質を固定化する 方法において、血漿中でのリポソーム凝集防止効果が得られる必要十分量以上(後述)のPEG結合リン脂質をリポソーム懸濁液に添加する事によって、リポソームの血漿中での凝集を防止し、且つ、リポソームの血管内投与開始直後野の一過性の血圧低下をも防止したヘモグロビン含有リポソーム懸濁液及びその製造方法を提供する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体的に説明する。
<リポソーム膜形成脂質>
発明におけるリポソーム膜形成脂質は天然又は合成の脂質が使用可能である。特にリン脂質が好適に使用され、これらを常法に従って水素添加したものが挙げられる。更にリポソーム膜形成脂質には所望によりステロール等の膜構造強化物質や荷電物質として高級飽和脂肪酸を添加しても良い。リン脂質として水素添加大豆リン脂質、膜構造強化剤としてコレステロール、荷電物質としてステアリン酸が好適に使用される。
【0010】
<リポソーム内水相に含有されるヘモグロビン>
本発明のリポソーム内水相に含有されるヘモグロビンは、公知の方法により、ヒト期限切れ濃厚赤血球製剤より白血球、血小板、血漿及び赤血球膜を除去した後、濃縮したヒト由来濃厚ヘモグロビンが用いられる。
【0011】
<リポソーム凝集抑制剤>
本発明におけるリポソーム表面への蛋白吸着抑制剤又はリポソーム凝集抑制剤は、一端に疎水性部を有し、且つ、他端に親水性高分子鎖を有する化合物である。疎水性部の好適な例としては、前述のリポソーム膜構成脂質と同様のリン脂質が使用され、親水性高分子鎖の好適な例としてはポリエチレングリコールが使用され、ポリエチレングリコールとリン脂質が共有結合したPEG結合リン脂質が好適に使用される。
【0012】
<PEG結合リン脂質のリポソーム表面への固定化処理>
ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液に、PEG結合リン脂質の水溶液を添加した後、一定の表面固定化処理温度及び一定の表面固定化処理時間にて処理する事により、PEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、或いは、外水相にも分散して存在する、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を製造出来る。
【0013】
<リポソーム懸濁液の外水相の種類>
本発明のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液に採用される外水相媒体は生体適合性を有する液体が好ましく、生理食塩水が好適に使用され、所望により亜硫酸塩等の抗酸化剤が添加される。
【0014】
<リポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質濃度>
ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度が高すぎると、リポソーム懸濁液の粘度が高くなるので、血管中に投与した場合、循環器系に負担をかける事になり、また、投与される総脂質量が多くなるので安全性の面で懸念がある。リポソーム膜形成脂質の濃度が低過ぎると、必然的に含有されるヘモグロビンの濃度も低くなり、
用途に対する効果が期待できなくなる。従って、本発明において設定されたリポソーム懸濁液中のリポソーム膜構成脂質の濃度の適正値は3.05〜5.10w/v%であり、好ましくは3.25〜4.87w/v%である。
【0015】
<血漿中でのリポソーム凝集防止>
リポソーム表面にPEG結合リン脂質を固定化する為、PEG結合リン脂質を水溶液としてリポソーム懸濁液に添加する場合、リポソームの懸濁液中のPEG結合リン脂質の濃度が低いと、リポソーム表面への固定化量が不十分となり、血漿中でのリポソーム凝集防止効果が低下する。PEG結合リン脂質の濃度が高過ぎる場合は、PEG結合リン脂質の安全性は、従来からの検討により比較的高いと考えられるが、一種の界面活性剤であり、生体にとって異物である事には変わりないので、必要最小限度の量に止めるべきであり、また、PEG結合リン脂質は高価であるため、コストアップに繋がる。以上により、血漿中でのリポソーム凝集防止の為の必要十分なPEG結合リン脂質濃度に設定する必要がある。従って、血漿中でのリポソーム凝集防止の為の、リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の濃度は0.08〜0.25w/v%であり、より好ましくは0.11〜0.17w/v%である。
【0016】
<血管内投与における一過性の血圧低下防止>
しかしながら、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の濃度を、血漿中でのリポソーム凝集防止効果に必要十分な値に設定しても、リポソームの血管内投与開始直後に起きる可能性のある一過性の血圧低下は解決されないままであった。既述の様に、この一過性の血圧低下は既に市販されている「DOXIL」(悪性腫瘍治療薬、ドキシルビシン含有リポソーム)或いは「アンビソーム」(真菌感染治療薬、アムホテリシンB含有リポソーム)でも報告されている。リポソームは細胞膜と同様にリン脂質を主要構成成分としているので、安全且つ生体適合性に優れていると考えられている。しかし、生体にとって異物である事には変わりなく、生体から、様々な異物認識反応を受けると考えられる。ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の様に、人工酸素運搬体として出血ショック時の治療に大量投与が想定される場合はなおさらである。本発明における一過性の血圧低下も異物認識反応の一つと考えられる。「DOXIL」にはPEG誘導体によるリポソーム表面修飾がされており、「アンビソーム」にはPEG誘導体による表面修飾がされていない。「DOXIL」、「アンビソーム」共にある確率で、一過性の血圧低下が観察される為、PEG誘導体による修飾は一過性の血圧低下に関係しないかに考えられた。この異物認識反応に影響を与えると考えられる因子は非常に多く、次の因子が考えられる。リポソーム構成成分の種類、構成比、粒子径、表面荷電、投与量、投与速度、投与方法、投与される動物種などである。鋭意検討の結果、リポソーム凝集防止効果に必要十分量なPEG結合リン脂質濃度に止まらず、更に十分量のPEG結合リン脂質濃度を設定する事により、驚くべき事に、血漿中でのリポソーム防止効果のみならず、人工酸素運搬体として、輸血療法時の投与速度、投与量、投与方法における一過性の血圧低下をも防止し得る事を見出した。なお、一過性の血圧低下防止効果は、高感度な種であり過敏に反応すると言われているイヌへの血管内投与により評価した。ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の濃度が低過ぎると、一過性の血圧低下の防止効果が不十分となる。PEG結合リン脂質の濃度が高過ぎる場合は、リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、リポソーム表面に固定化される割合が低くなり、保存中にリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量が徐々に増加し(外水相中に存在するPEG結合リン脂質が移行する)、保存安定性における品質管理上の問題がある。また、記述の様にPEG結合リン脂質の安全性は、従来からの検討により比較的高いと考えられるが、一種の界面活性剤であり、生体にとって異物である事には変わりないので、必要最小限度の量に止めるべきであり、また、PEG結合リン脂質は高価であるため、コストアップに繋がる。以上を考慮して、血漿中でのリポソーム凝集防止効果には十分量な、且つ、一過性の血圧低下防止には必要十分量なPEG結合リン脂質濃度に設定した。従って、本発明におけるリポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の濃度の適正値は0.26〜0.45w/v%であり、好ましくは0.30〜0.40w/v%である。
【0017】
<リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の存在形態>
本発明のリポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、表面固定化処理終了時に何%がリポソーム表面に固定化されて存在し、何%が外水相中に存在するかは、リポソームの懸濁液作成後にPEG結合リン脂質を水溶液として添加してリポソーム表面にPEG結合リン脂質を固定化する方法において、リポソーム膜形成脂質濃度及びPEG結合リン脂質濃度を適切に設定した後、表面固定化処理温度及び表面固定化処理時間の条件設定により調節される。
【0018】
表面固定化処理温度が高い程、或いは表面固定化処理時間が長い程、リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、リポソーム表面に固定化されて存在する割合は大きくなる。 また、外水相中に存在するPEG結合リン脂質を完全に除去し、リポソーム表面にのみPEG結合リン脂質が固定化されて存在する様にするには、生理食塩水を使った遠心洗浄又は限外濾過洗浄或いはカラム樹脂による吸着除去等による外水相置換操作が必要である。これは大量製造時に大掛かりな工程になり、コストアップに繋がってしまい経済的ではない。従って、本発明においては外水相置換操作は採用せず、表面固定化処理終了時に、外水相には一定量のPEG結合リン脂質が存在する場合を含む。
【0019】
表面固定化処理温度が低い程、或いは表面固定化処理時間が短い程、リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、リポソーム表面に存在する割合が小さくなる。リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、リポソーム表面に固定化されて存在する割合が小さ過ぎると、リポソームの血管内投与後の一過性の血圧低下防止効果が不十分となる懸念があるばかりでなく、保存中にリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量が徐々に増加し(外水相中に存在するPEG結合リン脂質が移行する)、製剤の品質管理上の問題があった。
【0020】
従って、本発明におけるリポソームの懸濁液においては、PEG結合リン脂質量の85%以上がリポソーム表面に固定化されて存在する事が好ましく、このリポソームの懸濁液を製造する為の表面固定化処理温度は30〜50℃であり、表面固定化処理時間は2〜30時間である。より好ましくは、リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量の90%以上がリポソーム表面に固定化されて存在する事であり、このリポソームの懸濁液を製造する為の表面固定化処理温度は35〜50℃であり、表面固定化処理時間は6〜30時間である。
【実施例1】
【0021】
次に本発明の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の製造は無菌的操作により実施は無菌的操作により実施は無菌的操作により実施的操作により実施した。
【0022】
水素添加大豆ホスファチジルコリン182g、コレステロール89g、ステアリン酸65gからなる均一混合脂質に水336gを加えて、85℃で30分間加温して水和膨潤均一混合脂質を調整した。期限切れ濃厚赤血球製剤からヘモグロビンを精製、濃縮し、イノシトールヘキサリン酸をヘモグロビンに対して等モル添加したヘモグロビン濃度42.6w/w%の濃厚高純度ヘモグロビン溶液を調整した。前記水和膨潤均一混合脂質672gに前記濃厚高純度ヘモグロビン溶液2,400gを添加し、45℃以下の温度で、高速攪拌法により乳化し、ヘモグロビン含有リポソーム混合乳化液を得た。前記乳化液を生理食塩水により希釈して、孔径0.45μmの膜による循環濾過により粒子径の制御を行った。更に分画分子量30万の言外濾過による循環濾過システムを用いて、生理食塩水による加水濃縮操作で、リポソームに含有されなかったヘモグロビン及びイノシトールヘキサリン酸を除去、濃縮し、ヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を得た。
【0023】
このヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液に、PEG結合リン脂質としてDSPE-PE5000(日本油脂製)を生理食塩水に溶解させたPEG結合リン脂質水溶液を添加して、ヘモグロビン含有リポソーム及びPEG結合リン脂質を含有し、生理食塩水による懸濁液中のリポソーム膜構成脂質濃度が4.06w/v%であり、PEG結合リン脂質濃度が0.30w/v%である様に調製した。前記のPEG結合リン脂質を添加したヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液を、表面固定化処理温度37℃、表面固定化処理時間24時間で処理し、前記リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量の90%がリポソーム表面に固定化されて存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液4,260mlを得た。
【0024】
リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質の測定法を次に示す。ヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液(懸濁液Aとする)を10℃で超遠心分離(50,000xg、120分)した後、上清を取り除き、取り除いた上清と同量の生理食塩水を加えて懸濁し、外水相にPEG結合リン脂質が存在せず、リポソーム表面にのみPEG結合リン脂質が存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液を得た(懸濁液Bとする)。懸濁液A、懸濁液Bそれぞれを内部標準液とクロロホルムの混合液でPEG結合リン脂質及びリポソーム膜形成脂質を抽出した。これを液体クロマトグラフ法によって、PEG結合リン脂質の標準物質のピーク面積に対して算出し、懸濁液A中のPEG結合リン脂質量及び懸濁液B中のPEG結合リン脂質量(後者はリポソーム表面に固定化されたPEG結合リン脂質量に相当する)を測定した。懸濁液Aで得たPEG結合リン脂質量(リポソーム表面に存在するPEG結合リン脂質量+外水相中に存在するPEG結合リン脂質量)と懸濁液Bで得たPEG結合リン脂質量(リポソーム表面にのみ存在するPEG結合リン脂質量)から、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中のPEG結合リン脂質量のうち、リポソーム表面に固定化されて存在するPEG結合リン脂質の割合を求めた。
【0025】
<一過性の血圧低下の評価>
一過性の血圧低下の評価は、イヌへの血管内投与により評価した。
(1)麻酔及びカテーテル留置
ビーグル犬(株式会社日本医科学動物資材研究所)に、チオペンタールナトリウム(田辺製薬株式会社)25mg/kgを静脈内投与し、人工呼吸の為の気管カテーテル(テルモ株式会社)を挿入した。臭化パンクロニウム0.1mg/kg(第一三共株式会社)を右橈側皮静脈に留置した25G翼付静注針(テルモ株式会社)を介してシリンジポンプ(テルモ株式会社)を用いて静脈内投与し、自発呼吸が消失したのを確認した後、1.0〜2.5%イソフルランの吸入麻酔薬を混合したガス(酸素:笑気=1:1)を用いた人工呼吸による維持麻酔を開始した。その後、術中の不感蒸泄分の水分の補充を目的とした乳酸リンゲル液(テルモ株式会社)10ml/kg/hrの持続投与を開始した。乳酸リンゲルの投与は左橈側皮静脈に留置した25G翼付静脈針(テルモ株式会社)を介して輸液ポンプを(テルモ株式会社)輸液ポンプを(テルモ株式会社)用いて静脈内投与した。麻酔下のイヌに、右大腿動脈及び右大腿静脈を外科的に剥離確保し、それぞれ1IU/mlのヘパリン加生理食塩水によりプライミングした5Fr.カテーテル(テルモ株式会社)を留置した。それぞれ右大腿動脈を動脈圧測定ライン、右大腿静脈を検体投与ラインとした。
(2) 検体及び投与方法
検体は実施例において作成したヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水による懸濁液とした。投与方法は、検体の入ったバッグに輸液セット(テルモ株式会社)を接続し、輸液ポンプ(テルモ株式会社)を用いて、投与量を5mL/kg、投与速度を一般の輸血開始速度の0.02mL/kg/minとし、右大腿静脈に留置した検体投与ラインを介して行った。
(3) 血圧の測定
動脈圧は右大腿動脈に留置したカテーテルを接続した圧力トランスデューサー(日本光工業株式会社)を、ひずみ圧力用アンプ(日本光電工株式会社)に接続して測定した。動脈圧は熱書記録器(日本光電工業株式会社)にて、投与中250分及び投与終了60分後まで連続して記録した。平均血圧は、収縮期圧から拡張期圧を減じたものを3で除したものに拡張期圧を加え算出した。
(4) 評価結果
評価結果を図1に示す。投与開始直後の一過性の血圧低下は観察されない。
【実施例2】
【0026】
実施例1で0023に記載のPEG結合リン脂質のリポソーム表面への固定化処理において、ヘモグロビン含有リポソーム及びPEG結合リン脂質を含有した生理食塩水による懸濁液中のリポソーム膜形成脂質が4.50w/v%であり、PEG結合リン脂質濃度が0.35w/v%である事以外は実施例1と同じ条件で、PEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、且つ、外水相にも存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液を得た。実施例1と同様の方法で一過性の血圧低下の評価を実施した。実施例1と同様、一過性の血圧低下は観察されなかった。
(比較例1)
【0027】
実施例1で0023に記載のPEG結合リン脂質のリポソーム表面への固定化処理において、ヘモグロビン含有リポソーム及びPEG結合リン脂質を含有した生理食塩水による懸濁液中のPEG結合リン脂質が0.15w/v%である様に調製する事以外は実施例1と同じ条件で、PEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、且つ、外水相に分散して存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液を得た。実施例1と同様の方法で一過性の血圧低下の評価を実施した。評価結果を図2に示す。投与開始直後に一過性の血圧低下が見られた。
(比較例2)
【0028】
実施例1で0023に記載のPEG結合リン脂質のリポソーム表面への固定化処理において、ヘモグロビン含有リポソーム及びPEG結合リン脂質を含有した生理食塩水による懸濁液中のリポソーム膜形成脂質濃度が4.50w/v%であり、PEG結合リン脂質濃度が0.10w/v%である事以外は実施例1と同じ条件で、PEG結合リン脂質がリポソーム表面に固定化されて存在し、且つ、外水相に分散して存在するヘモグロビン含有リポソームの生理食塩水懸濁液を得た。実施例1と同様の方法で一過性の血圧低下の評価を実施した。比較例1と同様に、投与開始直後に一過性の血圧低下が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】懸濁液中のPEG結合リン脂質濃度が0.30w/v%である場合の一過性の血圧低下の有無。
【図2】懸濁液中のPEG結合リン脂質濃度が0.15w/v%である場合の一過性の血圧低下の有無。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液であって、前記リポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度が3.05〜5.10w/v%であり、ポリエチレングリコール結合リン脂質の濃度が0.26〜0.45w/v%であるヘモグロビン含有リポソーム懸濁液。
【請求項2】
前記ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中の前記ポリエチレングリコール結合リン脂質量の85%以上が前記リポソーム表面に固定化されて存在する事を特徴とする請求項1に記載のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコール結合リン脂質が存在しない前記リポソーム懸濁液に対して、前記ポリエチレングリコール結合リン脂質を前記リポソーム懸濁液中の濃度が0.26〜0.45w/v%となる様に添加し、30〜50℃、2〜30時間インキュベーションする事を特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の製法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−96730(P2009−96730A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267469(P2007−267469)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】