説明

ヘリコバクター・ピロリ及び/又はクラリスロマイシン抵抗性を検出するためのペプチド核酸プローブ、キット及び方法、及びその使用

本発明は、ヘリコバクター・ピロリの検出及び/又はクラリスロマイシンに対するヘリコバクター・ピロリの反応解析のための4つのペプチド核酸(PNA)プローブに関する。これらプローブは、分子生物学的手法、すなわち蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)に基づき、臨床分離株や生検を含む数種の試料のヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン感受性診断に用いられる。
その構造に固有の物理的及び化学的特性によって、これらプローブは、より早くそしてより鋭敏にハイブリダイゼーションできる。
本発明の第2の特徴として、ここに記載した1又は数種のプローブを使用できるキット、及び検出と定量の工程の開発に関する。このキットの目的は、臨床試料中のヘリコバクター・ピロリとクラリスロマイシンに対する反応性を同定することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床に関連する微生物の検出工程と抗生物質抵抗性に関する。4つのペプチド核酸(peptide nucleic acid, PNA)プローブが、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)及び/又はクラリスロマイシンの存在に対し反応性(抵抗性/感受性)を有する菌株を検出するために開発された。
【0002】
本発明の他の側面は、これらプローブの適用、及び生物学的試料中のヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン抵抗性の検出のためのキットの検出工程、そして臨床適用である。
【背景技術】
【0003】
ヘリコバクター・ピロリは、ヒト胃粘膜に定着する病原性細菌であり、慢性胃炎、消化性潰瘍、萎縮性胃炎、及び胃がんのような胃の感染症に関連する。
【0004】
ヘリコバクター・ピロリ感染の診断は、胃生検(内視鏡検査)のような侵襲的方法、あるいは尿素呼気検査、血清学的検査、便中抗原検査のような非侵襲的方法に基づいて行うことができる。後者は、より費用がかからず、患者により便利であるため、臨床業務において、より頻繁に用いられている。
【0005】
最も一般的に用いられている検査/キットはヘリコバクター・ピロリの酵素、ウレアーゼを特異的に検出できる(特許文献1、2)。しかしながら、侵襲的方法は、標準的方法が検出感度/特異性に欠けるために、より詳細な診断に好んで用いられる。
【0006】
実際に、内視鏡バイオプシーとともに、E−テストや寒天希釈法のような培養に基づく検査、あるいは、PCR(Polymerase Chain reaction)に基づく分子的方法によって、ヘリコバクター・ピロリ陽性に関するより信頼性のある情報を得ることができる。しかしながら、前者は選好性があり、時間がかかり、後者は、擬陽性あるいは擬陰性につながり得るDNAコンタミネーションの可能性を避けるために格別の注意を必要とする。
【0007】
最近になって、ペプチド核酸(peptide nucleic acid, PNA)プローブが開発され、細菌検出に最適化されてきた。PNA分子はDNA擬態物であり、負に帯電する糖リン酸骨格構造が、(2−アミノエチル)グリシン単位の反復により形成されるアキラルかつ電気的に中性な構造に置換されている。
【0008】
PNA分子は、ペントースを欠いているが、PNAと相補的なDNA配列間でワトソン−クリックの法則に従った水素結合による特異的なハイブリダイゼーションが生じ得る。
【0009】
PNAの電気的に中性な性質は、従来用いられていた典型的なDNAプローブに比べ、PNAと標的配列(rRNAや二重鎖DNA)間のより強固なハイブリダイゼーションの原因となる。その高親和性のために、PNAプローブは、ヌクレオチド配列が比較的短い(8〜17ヌクレオチド)。DNAプローブは、弱い安定性と低い融解温度(Tm)のために、通常少なくとも18ヌクレオチドであって、付加的な固定及び酵素や他の薬剤を用いた膜透過工程を必要とする。
【0010】
PNAプローブは、顕微鏡やフローサイトメトリ、蛍光色素が付加されたときは蛍光in situハイブリダイゼーション技術(FISH)によって検出される。
【0011】
従来の培養方法と比較して、この技術は、臨床検体においてより早い結果を、また、改良された有効性、感受性及び特異性をもたらす。それは、幅広い応用を提示し、ヒト、環境、食物中の微生物の検出のような異なる微生物学分野に適用し得る。
【0012】
すでに考案され、公開/特許された、サルモネラ(Salmonella)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)以外のブドウ球菌種、ヒトパピローマウイルス(Papillomavirus)及びカンジダ(Candida)属のような臨床の微生物の検出のためのプローブのいくつかの用例が、この技術の増加する関心を示している。
【0013】
ヘリコバクター・ピロリを特異的に検出するPNAプローブはすでに入手可能である(Azevedo N.F.ら、2003)。さらに、別のプローブの特許が請求されている(特許文献3、4)。後者は非常に高い特異性と感受性を示し、使用されている標準的方法(Guimaraes N. ら、2007)を上回っている。ヘリコバクター・ピロリの検出は重要であるが、上述のプローブを用いるのみでは検出できない、ヘリコバクター・ピロリの抗生物質抵抗性を検出することが望まれている。
【0014】
実際に、最も一般的に用いられるヘリコバクター・ピロリの根絶処置は、7日から14日間のプロトンポンプ阻害剤と2種の抗生物質(例えば、クラリスロマイシン、メトロジナゾール(metrodinazole)、アモキシシリン)からなる三剤療法である。この治療は、抗生物質の過剰の使用量やそれらによる副作用によって、患者に不快感を与える。
【0015】
さらに、この治療の成功は、これらのケースで卓越して用いられている抗生物質であるクラリスロマイシンへのヘリコバクター・ピロリの抵抗性の増加によって妨げられている。現在は、クラリスロマイシン抵抗性は、培養を用いる方法やPCRによって検出される。しかし、これらの方法は、ヘリコバクター・ピロリの検出と同様に上述のとおり限界がある。したがって、迅速で信頼性があり実際的な方法がないために、ヘリコバクター・ピロリの各株のクラリスロマイシン抵抗性は、通常治療開始後、又はその効果がなかったことが証明された後に得られる。
【0016】
本発明は、抵抗性株の同定において、信頼性があり、実際的で、強固な適用法を説明し、患者の適切な治療方法の選択、不快、危険、処置時間、及び費用の軽減のために重要な貢献を提示する。
【0017】
FISH技術は、ヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン抵抗性を検出する代替方法である、実際に、ヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン抵抗性を検出するDNAプローブに関するいくつかの研究がある(Trebesius ら、 2000)。クラリスロマイシン抵抗性は、ヘリコバクター・ピロリの23S rRNAのペプチド転移酵素領域のドメインVの点突然変異と関連性がある。研究で言及されている最も頻度の高い点突然変異は、A2143Gであり、A2142GとA2142Cが続いている。一つの研究では、2、3の国のデータが集められ、これら3つの点突然変異が、84%のクラリスロマイシン抵抗性と関連していることを示すことが計算された(Megraud, 2004)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0006856号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0920531号明細書
【特許文献3】国際公開第2008/155742号
【特許文献4】ポルトガル特許出願公開103767号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の検出(同定/定量)及び/又はそのクラリスロマイシンに対する反応性(抵抗性/感受性)のためのペプチド核酸(PNA)プローブ又はPNAプローブセットについて述べる。そのようなプローブは、微生物の23S rRNA又は前述のrRNAに一致するゲノム配列を認識し得る。
【0020】
PNAプローブは、その構造に特有の物理化学的特性を有し、FISHに基づく方法に適用したときには、DNAプローブに比べ、より迅速で、強固で、そして特異的な解析ができる。この要因は、ヘリコバクター・ピロリの抵抗性、感受性株間の相違が1塩基であり得ることから、非常に重要である。
【0021】
本発明によって解決される課題の1つは、ヘリコバクター・ピロリ、及び/又はクラリスロマイシン反応性(感受性/抵抗性)の検出/定量である。生物学的試料中のヘリコバクター・ピロリの存在を検出する信頼性のある迅速な方法を提供し、迅速で安全な最も良い処置を決定するために、クラリスロマイシンに対する反応性を定量し、決定する方法を提供する。本発明の他の側面は、これらプローブを蛍光in situハイブリダイゼション(fluorescence in situ hybridization (FISH))に適用することに基づく、迅速かつ簡便な方法によって、生物学的試料中のヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン抵抗性を検出可能とするキットの開発に関する。プローブは、複合的に、又は個別に用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、配列番号1−4と少なくとも86%構造的に相同な少なくとも1つのヌクレオチド配列を含むヘリコバクター・ピロリの存在を同定/測定する、又はクラリスロマイシンに対するヘリコバクター・ピロリの反応性を検出する、又は、ヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性を検出するPNAプローブのセットに関する。
【0023】
本発明の好ましい実施態様として、ここで説明するPNAプローブは、ヘリコバクター・ピロリのrRNA、rDNA、又はrRNAの相補的な配列中の標的配列を検出する。
【0024】
本発明のさらに好ましい実施態様において、PNAプローブは以下の配列を含む:
―ヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン抵抗性を検出する、配列番号1−3と少なくとも86%の構造的に相同するヌクレオチド配列の少なくとも1つ;
―ヘリコバクター・ピロリとそのクラリスロマイシン感受性を検出する、配列番号1−4と少なくとも86%の構造的に相同するヌクレオチド配列の少なくとも1つ。
【0025】
本発明のより好ましい実施態様において、配列は少なくとも一種の検出可能画分と結合される。用いる検出可能画分の種類として、以下の群から1つを選択することができる:共役複合体(conjugate)、分岐した検出システム(branched detection system)、発色団、蛍光団、放射性同位体、酵素、ハプテン、又は発光化合物等。
【0026】
本発明のさらにより好ましい実施態様としては、蛍光団は少なくとも以下の1つであり得る:Alexaシリーズの蛍光団、Alexa fluor シリーズ、シアニン、5−(and−6)Carboxy−2´,7´−dichlorofluorescein,5−ROX(5−carboxy−X−rhodamine,triethylammonium salt)等。
【0027】
本発明において、先に記載した少なくとも1つのプローブを含む、生物学的試料中でのヘリコバクター・ピロリの検出、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン反応性の検出、又はヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン反応性の検出のためのキットもまた対象となる。
【0028】
本発明のより好ましい実施態様としては、キットは以下の溶液の少なくとも1つを備えてもよい:固定液、ハイブリダイゼーション溶液、及び洗浄液。
【0029】
本発明の他のより好ましい実施態様としては、固定液はパラフォルムアルデヒドとエタノール、すなわち、2−8%(wt/vol)のパラフォルムアルデヒドと25−75%(vol/vol)のエタノールを含むことができ、及び/又はハイブリダイゼーション溶液はフォルムアミドを含んで良い。
【0030】
本発明のさらなる対象は、前記PNAプローブを少なくとも1つ用い、生物学的試料中でのヘリコバクター・ピロリの検出、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンの反応性の検出、又はヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン反応性の検出方法であり、下記の工程を含む:
―PNAプローブを生物学的試料に接触させる;
―PNAプローブと、生物学的試料中の微生物の標的配列とのハイブリダイゼーション;
―生物学的試料中の検出と定量の指標として、ハイブリダイゼーションの検出。
【0031】
生物学的試料は、血液、大気、食物、水、生検試料等から由来し得る。
【0032】
本発明のさらなる実施態様は、ハイブリダイゼーションは蛍光によって、行い得る。
【0033】
本発明のさらなる対象は、生物学的試料中でのヘリコバクター・ピロリの検出、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン反応性の検出、又はヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン反応性の検出について、前記PNAプローブ、前記キット及び方法の使用である。
【0034】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリ菌株を検出及び定量するための、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性を検出及び定量するための、又はヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性(抵抗性及び感受性)を検出及び定量するためのPNAプローブ、試薬、方法及びキットを含む。PNAプローブの最高の特異性(DNAプローブと比較して)は1又は2ヌクレオチド異なる関連するヌクレオチド配列をよりよく識別し得る。本発明において、この側面は、ヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン感受性と抵抗性菌株の違いがまさに1塩基であることから、特に重要である。
【0035】
本発明に記載されているPNAプローブは、rRNA、rRNAに相当するゲノム配列(rDNA)又はその相補的配列を検出することができ、標的種を特異的に検出し、さらに抗生物質への反応性を決定することさえ可能とする。
【0036】
本発明のプローブは、in situハイブリダイゼーション、好ましくは、蛍光in situハイブリダイゼーションによって、試料中のヘリコバクター・ピロリの解析のために使用される。
【0037】
本発明に記載されているPNAプローブのヌクレオチド配列は、以下の配列と少なくとも86%構造的に相同する群から選択される:
5’− GGG TCT CTC CGT CTT −3’ (配列番号1);
5’− GGG TCT TCC CGT CTT −3’ (配列番号2);
5’− GGG TCT TGC CGT CTT −3’ (配列番号3);
5’− GGG TCT TTC CGT CTT −3’ (配列番号4)。
【0038】
新しいPNA−FISHプローブの開発は、これまでのところ経験的に行われている。特にこのケースでは、プローブへの適用が望ましい多数の塩基が、まず、テストされた。
【0039】
プローブのヌクレオチドが数少ないと、ハイブリダイゼーションが生じるための自由エネルギーが十分ではないけれども、多数のヌクレオチドは標的に対し、高親和性を有することができ、非常に高温で作用する。このケースでは、最良の結果は12〜18ヌクレオチドで達成された。
【0040】
さらに、突然変異を検出するための最良の配列が選択された。注目されている突然変異がプローブ配列の中央にある場合には、これらプローブが突然変異をより正確に識別し得るかを検証された。しかしながら、あるヌクレオチドの右又は左への移転は、プローブの良い成果にほとんど影響しない。
【0041】
プローブのハイブリダイゼーションの成功は、固定/膜透過処理、及び洗浄工程と同様、ハイブリダイゼーションの条件に依存するため、各事例において、実験的に最良のFISHの条件が調べられた。まず、先行技術(特許文献3、4)で言及されているヘリコバクター・ピロリの検出のため条件を考慮した。同じ微生物を標的としているので、固定/膜透過処理は先に記載されているのと同様、すなわち、4%パラフィルムアルデヒド及び50%エタノールで実施され得ることが予測された。したがって、主として調べられるパラメータは、温度、フォルムアミド濃度、及びハイブリダイゼーションと洗浄の時間であった。なぜならば、これら条件は従来のプローブに特徴的であって、この新しいプローブセットにはあてはめることができないからである。
【0042】
どのパラメータがPNA−FISH法に悪影響を与えるかを知らずに、これらパラメータを同時に最適化する必要があるために、この手法は複雑で、多大な時間を必要とする。他の著者らによって公表されている研究報告に述べられているいくつかのプローブでの低親和性は、PNA−FISH法には使用できない。このケースでは、最良の時間、温度、フォルムアミド濃度は、60分のハイブリダイゼーション、55℃、50%フォルムアミド、又は70℃、30%フォルムアミドで30分の洗浄工程であると特定された。温度とフォルムアミド濃度は相関があるという事実から、中間のフォルムアミド濃度でのハイブリダイゼーション温度は55−70℃の間であろうということに言及することは重要である。
【0043】
成功したハイブリダイゼーションの後には、蛍光顕微鏡、フローサイトメトリ、又はリアルタイムPCRによって、その存在/非存在、濃度及び特定の微生物の抗生物質への感受性に関する特徴を評価することができる。
【0044】
本件において、安定なプローブ/標的複合体の存在を検出/同定し得るPNAプローブ画分を考慮することもまた重要である。この検出可能画分は、以下の群から1つ選択される:共役複合体(conjugate)、分岐した検出システム(branched detection system)、発色団、蛍光団、放射性同位体、酵素、ハプテン、又は発光化合物。
【0045】
複数の異なるプローブは、ヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン抵抗性株を検出するために、同じ検出群(例えば、蛍光団)に結合することができ、一方で、他の任意のプローブを異なる検出分子に結合させ、例えば、クラリスロマイシン感受性株を同定できる。
【0046】
また、本発明の範囲に基づいて、検出可能画分を有さないブロッキングプローブを所望の配列以外とのPNAプローブのハイブリダイゼーションを減少、又は除去するために用い得る。
【0047】
本発明に記載された方法は、試料を前記1つあるいは複数のPNAプローブと接触させることを含む。その方法にしたがって、試料中の微生物は、適切なハイブリダイゼーション条件に基づくPNA配列と標的配列のハイブリダイゼーションに相関するクラリスロマイシン特性(すなわち、感受性又は抵抗性)が検出され、同定され、又は測定される。それゆえに、解析は、信頼性のある判定を伴う唯一の検査に基づいている。これに対して、現在、微生物の解析に用いられている従来法は、複数の表現型特性に基づく、いくつかの検査を含む。
【0048】
さらに、本発明の対象は判定、すなわち、試料中のヘリコバクター・ピロリの存在を検出、同定、又は測定、及び/又はクラリスロマイシン反応性(感受性/抵抗性)の判定を実施するために適したキットである。キットは、1又は複数のPNAプローブと他の選択された試薬、又はin situハイブリダイゼーションテストを実施するために必要とされる化合物を含む。
【0049】
より好ましい実施態様において、ヘリコバクター・ピロリの検出、同定、又は測定を実施するために適したキットは、固定、ハイブリダイゼーション、及び洗浄液を含む。
【0050】
方法は、患者試料から得られた検査結果及びクラリスロマイシンに対し抵抗性/感受性であるヘリコバクター・ピロリの同定にしたがって、より適切な処置を導く診断、治療上の疾病の補助的手段となる。
【0051】
PNAプローブは、直接スライド上の試料に適用できる。なぜならば、プローブの適用は、試薬又はハイブリダイゼーション前の細胞膜の膜透過処理のための酵素を必要としないからである。しかしながら、ハイブリダイゼーションにおいてしばしば要求される2,3の化合物は必要とされる。したがって、通常プローブは、よりユーザーフレンドリーなキットに含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
I−定義
a)ここで用いる「ヌクレオチド」の語は、核酸、それによって生じる核酸に特異的に結合するポリマーに関する技術を使用する者によって一般的に知られている自然及び人工的分子を含む;
b)「ヌクレオチド配列」の語を用いるときには、サブユニットを含むポリマー断片、この場合はヌクレオチド断片(nucleotides)、と同一のものを指す;
c)「標的配列」の語は、検査によって検出されることが意図されているヘリコバクター・ピロリのヌクレオチド配列であって、ヌクレオチドプローブの部分がハイブリダイズするように設計されている配列を指す;
d)「PNAプローブ」の語は、ヌクレオチド配列を有し、特異的に関心対象の微生物の標的配列とハイブリダイズするPNAのサブユニットのポリマーを指す。PNA分子は、負に帯電した糖リン酸骨格構造が、N−(2−アミノエチル)グリシン単位の反復によって形成されるアキラル及び電気的に中性な構造によって置換されている、DNA擬態物である;
e)「検出可能画分」という語を用いるときは、プローブに結合し得る分子であり、これによってプローブが機器又は方法によって検出可能であることを意味する;
f)本発明で、「クラリスロマイシンに対する抵抗性」の語は、クラリスロマイシンの抵抗性と感受性に関連する特定の遺伝子と突然変異に基づく微生物のクラリスロマイシンに対する感受性の解析と相関する;
g)「試料」の語は、微生物、又は検出のための標的配列を含み得る、いかなる生物学的試料をも意味する。好ましくは、生物学的試料は、液体(例えば、食物、水、血液、尿等)、又は、組織試料(例えば、胃生検を含む生検試料)である。
【0053】
II説明
PNAプローブの概念:
本発明のPNAプローブは、ヘリコバクター・ピロリの標的配列として、クラリスロマイシン抵抗性に関する突然変異の原因となる領域を備える。したがって、様々なデータベースの23S rRNA配列のアラインメントを行った。アデニンヌクレオチドがシトシン又はグアニンに置換されている2142位の点突然変異、あるいは2143位のアデニンがグアニンに置換されている3つの点突然変異(Taylor et al., 1997)が、23S rRNA遺伝子のドメインVにコードされるペプチジルトランスフェラーゼ領域に位置していた。これらの突然変異はこの微生物でのクラリスロマイシン抵抗性の機構に関連している。付加的なプローブは、上述と同じ標的位置に、いかなる点突然変異も含まずに設計され、クラリスロマイシン感受性株を検出することができる。
【0054】
本発明のPNAプローブは、15ヌクレオチド配列を含む。これらの基準に従って、配列は、少なくとも86%、以下の配列に相同な配列を選択した。
【0055】
5’− GGG TCT CTC CGT CTT −3’ (配列番号1);
5’− GGG TCT TCC CGT CTT −3’ (配列番号2);
5’− GGG TCT TGC CGT CTT −3’ (配列番号3);
5’− GGG TCT TTC CGT CTT −3’ (配列番号4)。
【0056】
これらプローブは、ヘリコバクター・ピロリ、又はこれらの抵抗性について記載されているが、この場合のみに特異的であることを要さない。
【0057】
他に、本発明ではプローブヌクレオチド配列の変異体もまた考慮している。そのような変異体は欠失、挿入等を含み得る。結果として、述べたように、プローブヌクレオチド配列は、少なくとも86%前記配列と相同である。
【0058】
PNAプローブの検出可能画分:
以下の実施例に限ることなく、PNAプローブの検出可能画分は、デキストラン、発色団、蛍光団、放射性同位体、酵素、ハプテン、化学発光化合物等に結合した様々な種類の分子を含むことができる。
【0059】
例えば、蛍光団の種類として好ましく用いられるのは(これに限られないが):Alexa Fluorシリーズ、シアニン、5−(and−6)Carboxy−2´,7´−dichlorofluorescein,5−ROX(5−carboxy−X−rhodamine,triethylammonium salt)である。
【0060】
方法:
本発明では、ヘリコバクター・ピロリの決定及びそのクラリスロマイシン抵抗性の決定方法を開示する。用いられるPNAプローブは、配列番号1−4と構造的に少なくとも86%相同なヌクレオチド配列を少なくとも1つ含む。
【0061】
方法は、本明細書に記載した1又はそれ以上のPNAプローブを備える試料と細菌の標的配列を適切なハイブリダイゼーション条件、又は適切なin situハイブリダイゼーション条件で(実施例1参照)接触させることを意図する。蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH、又はPNA−FISH)、又はリアルタイムPCRは、ヘリコバクター・ピロリ解析の検査様式である。
【0062】
したがって、方法は、以下の工程に分けることができる:試料調整、細胞固定、ハイブリダイゼーション、洗浄、及び結果の可視化(実施例1参照)。本方法は付着、又は懸濁させた細胞で実施し得る。
【0063】
ハイブリダイゼーション条件:
PNAプローブハイブリダイゼーションの標的配列に対するストリンジェンシーを課す、又は調節する、いくつかの要因がある。これらには、用いられるフォルムアミド(又は他の変性剤)の割合、塩濃度及び結果的にイオン強度、ハイブリダイゼーション温度、界面活性剤濃度、pH等を含む。ハイブリダイゼーションの最適条件を決定するために、異なる要因を固定して、各要因を所望の判別程度が達成されるまで変えていくことが必要である。
【0064】
試料中の他の標的ではない配列と近似している標的配列では、ハイブリダイゼーションに影響を与える様々な要因を決定するために、より厳密なストリンジェンシーの程度が必要とされた。本発明では、非標的配列は標的配列と1つのヌクレオチドが異なるのみであり(なぜならば、抵抗性は感受性株と抵抗性株の間の1ヌクレオチドの変化と相関しているからである)、PNAプローブと非標的配列の非特異的ハイブリダイゼーションを避けるための増加した識別レベルが必要である。ヘリコバクター・ピロリ感受性株とハイブリダイズする本発明のプローブは、クラリスロマイシン抵抗性を検出することができる残りの3つのプローブとともに用いることができる。しかしながら、プローブは、ハイブリダイゼーション条件を最適化するとともに、1ヌクレオチドが異なるのみの非標的配列に対する残りのプローブとの非特異的結合を競合を通して消滅させるために、任意に、プロッキングプローブのように検出可能画分なしで用いることができる(実施例2に概説)。
【0065】
1つのブロッキングプローブは、PNAプローブと同一の配列間、検出可能画分を備えたPNAプローブの非標的間で形成されるよりも、熱力学的に安定な複合体を形成すると一般に受け入れられており、後者の結合を回避し、擬陽性の可能性を排除する。
【0066】
試料調整:
解析される試料は、生検、血液、水、食物等から得られる。生検では、試料は3〜5μmに薄切し、スライド上に載置する。水、大気及び血液試料のような懸濁液中のヘリコバクター・ピロリの場合には、黒色ポリカーボネート膜、又は同等のものを通してろ過する。ろ過後、膜をスライドに載置する。食物試料では、試料を水又は滅菌済み緩衝液中に浸漬後、超音波処理、又はストマッカー(stomacher)パドルブレンダーで再調整し、食物材料からヘリコバクター・ピロリを抽出する必要がある。ヘリコバクター・ピロリが懸濁液中に存在する時点で、適用される技術は水、大気、又は血液の場合と同様である。代わりに、ヘリコバクター・ピロリ懸濁液試料は、直接ハイブリダイゼーション工程に送られ得る。
【0067】
キット:
本発明はまた、ヘリコバクター・ピロリ及びそのクラリスロマイシン抵抗性を検査するキットに関する。
【0068】
このキットに用いられるPNAプローブは、その特性及び方法に関し、ここですでに述べられている。
【0069】
本発明のキットは、少なくとも1つの配列番号1−4と少なくとも86%構造的に相同なヌクレオチド配列、及び他の試薬、又は検査を実施するために選択された組成物を含む。
【0070】
本発明のPNAプローブ、その特性、方法及びキットは、関心対象の生物の細胞の中に存在する、あるいは存在しない核酸配列の解析に適している。そのため、本発明は、生物の解析、抽出されたあるいは関心対象の生物から由来した核酸の解析の両方に用いることができ、本発明における標的配列の起源は限定されないことを意味する。
【0071】
実施例
実施例1:ヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシン感受性及び抵抗性株の検出。
【0072】
【表1】

【0073】
細菌株:
PCRによって確認されたクラリスロマイシン抵抗性のいくつかの単離菌株が使用された。参照菌株はAmerican Type Culture Collection, Manassas (ATCC)から得た。各株の培養液は1滴、8mm−ウェル スライドに点着され、55℃で乾燥された。
【0074】
固定:
ハイブリダイゼーション中の23S rRNAの喪失を防ぐために、試料は4%パラフォルムアルデヒド(wt/vol)及び50%エタノール(vol/vol)溶液に、各10分間暴露した。
【0075】
ハイブリダイゼーション:
この工程で、10% (wt/vol)デキストラン硫酸、10mM 塩化カルシウム、50%(vol/vol)フォルムアミド、0.1%(wt/vol)ピロリン酸ナトリウム、0.2% (wt/vol)ポリビニルピロリドン、0.2% (wt/vol)FICOLL、5mM EDTA二ナトリウム、0.1% (vol/vol)Triton X−100、50mM Tris−Hcl及び200nMのPNAプローブを含む、1滴のハイブリダイゼーション溶液が試料に滴下された。試料はプローブが展開しているのを確認し、カバーグラスで覆われ、60分間インキュベートされた。この間に、プローブは細胞膜を透過し、23S rRNA相補的配列に結合できる。カバーグラスと試料周囲の湿った紙はハイブリダイゼーション溶液の蒸発を防ぐために不可欠である。
【0076】
洗浄:
ハイブリダイゼーション後、カバーグラスは除かれ、スライドは予め温められた5mM Tris Base、15mM 塩化ナトリウム、及び1%(vol/vol)Triton X−100(pH 10)からなる洗浄液に浸漬される。洗浄工程は30分間ハイブリダイゼーションと同じ温度で実施される。
【0077】
結果:
結果は、プローブ中の蛍光色素シグナル分子に適したフィルターを備えた蛍光顕微鏡観察(すなわち、プローブに結合した蛍光色素の蛍光波長を含む)によって得られた。標的配列が存在しないときには、いかなるシグナルも検出されなかった。
【0078】
【表2】

【0079】
フィルター488は蛍光色素Alexa488による蛍光、これはクラリスロマイシン抵抗性を示す、を捕捉する。フィルター594は蛍光色素594による蛍光、これはクラリスロマイシン感受性を示す、を捕捉する。
【0080】
実施例2:予め同定されているヘリコバクター・ピロリ菌株のクラリスロマイシン抵抗性の検出。
【0081】
本実施例は、例えば、ヘリコバクター・ピロリを検出可能なPNAプローブを言及している特許文献3や特許文献4の文献の方法を用いて、ヘリコバクター・ピロリが同定された時点で、本発明によって、ヘリコバクター・ピロリとして同定された菌株が、クラリスロマイシン抵抗性、又は感受性であるか評価できることを説明することを目的としている。
【0082】
【表3】

【0083】
ヘリコバクター・ピロリが、従来法により同定された後、菌株の感受性を調べることができる。表3に記載されているプローブを用いて、ヘリコバクター・ピロリの菌株(すでに記載されているプローブを用いて同定された)のクラリスロマイシン抵抗性が検査された。
【0084】
上述したヘリコバクター・ピロリを検出する特許文献3の方法とは異なる、前記実施例と同様のハイブリダイゼーション方法を用いた。しかしながら、同一の検査でヘリコバクター・ピロリの同定及び抵抗性を決定し、本発明のプローブとともに、上述のプローブを使用するためにいくつかの変更がなされた。
【0085】
結果:
結果は、プローブ中の蛍光色素シグナル分子に適したフィルターを備えた蛍光顕微鏡観察によって得られた。
【0086】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1−4と少なくとも86%構造的に相同な少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、
ヘリコバクター・ピロリ菌株の存在の検出、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性を検出、又はヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性を検出するPNAプローブ。
【請求項2】
請求項1記載のPNAプローブであって、
rRNA、rDNA、又はヘリコバクター・ピロリの相補的rRNA配列中の標的配列を検出できることを特徴とするPNAプローブ。
【請求項3】
請求項1記載のPNAプローブであって、
配列番号1−3と少なくとも86%構造的に相同な少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、
クラリスロマイシン抵抗性を検出できることを特徴とするプローブ。
【請求項4】
請求項1記載のPNAプローブであって、
配列番号4と少なくとも86%構造的に相同な少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、
クラリスロマイシン感受性を検出できることを特徴とするプローブ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のPNAプローブであって、
少なくとも1つの検出可能画分に結合することを特徴とするPNAプローブ。
【請求項6】
請求項5記載のPNAプローブであって、
前記プローブの検出可能画分の種類は、共役複合体、分岐した検出システム、発色団、蛍光団、放射性同位体、酵素、ハプテン、又は発光化合物の群から選択されることを特徴とするPNAプローブ。
【請求項7】
請求項6に記載のPNAプローブであって、
前記蛍光団は、Alexaシリーズの蛍光団、Alexa Fluorシリーズ、シアニン、5−(and−6)Carboxy−2´,7´−dichlorofluorescein,5−ROX(5−carboxy−X−rhodamine,triethylammonium salt)の少なくとも1つであることを特徴とするPNAプローブ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のプローブの少なくとも1つを含み、
生物学的試料中のヘリコバクター・ピロリ菌株の存在の検出、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性を検出、又はヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性を検出するキット。
【請求項9】
請求項8記載のキットであって、
1つの固定液、1つのハイブリダイゼーション溶液、及び1つの洗浄液の少なくとも1つを含むことを特徴とするキット。
【請求項10】
請求項8又は9記載のキットであって、
前記固定液は、パラフォルムアルデヒド及びエタノール、すなわち、2−8%(wt/vol)パラフォルムアルデヒド、及び25−75%(vol/vol)エタノールを含むことを特徴とするキット。
【請求項11】
請求項9記載のキットであって、
ハイブリダイゼーション溶液はフォルムアミドを含むことを特徴とするキット。
【請求項12】
生物学的試料中のヘリコバクター・ピロリの存在の検出、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性を検出、又はヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性を検出する方法であって、
請求項1〜11のいずれか1項記載の少なくとも1つのPNAプローブの使用を含み、
下記の工程を含む方法。
a.PNAプローブを前記試料に接触させる工程、
b.PNAプローブと前記試料中に存在する微生物の標的配列とのハイブリダイゼーションを行う工程、
c.前記試料の前記検出と測定の指標としてハイブリダイゼーションを検出する工程。
【請求項13】
請求項10記載の方法であって、
前記生物学的試料は血液、大気、食物、水、生検、又は胃生検に由来することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12記載の方法であって、
前記ハイブリダイゼーションが蛍光によって生じることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれか1項記載のPNAプローブの使用であって、
生物学的試料中のヘリコバクター・ピロリの存在の検出、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性の検出、又はヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性の検出のための方法に適用されるプローブの使用。
【請求項16】
請求項8〜11のいずれか1項記載のキットの使用であって、
生物学的試料中のヘリコバクター・ピロリの存在の検出、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性の検出、又はヘリコバクター・ピロリとそのクラリスロマイシンに対する反応性の検出に適用されるためのキットの使用。
【請求項17】
請求項12〜14のいずれか1項記載の方法の使用であって、
生物学的試料中のヘリコバクター・ピロリの存在の検出、又はヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性の検出、又はヘリコバクター・ピロリとヘリコバクター・ピロリのクラリスロマイシンに対する反応性の検出に適用される方法の使用。

【公表番号】特表2013−504319(P2013−504319A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528497(P2012−528497)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054108
【国際公開番号】WO2011/030319
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(506202478)ウニベルシダージ ド ミーニョ (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE DO MINHO
【Fターム(参考)】