説明

ベクターシステム

【課題】パーキンソン病治療のための満足できる遺伝子治療システムを提供する。
【解決手段】TH陽性ニューロンを形質導入するための狂犬病Gタンパク質の少なくとも一部分を含むベクターシステムの使用が提供される。さらにまた標的部位へ形質導入するための該狂犬病Gベクターシステムの使用が提供されるが、このときベクターシステムは逆行性輸送によって標的部位へ移動し、この使用は標的部位から離れている投与部位へ前記ベクターシステムを投与するステップを含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、ベクターシステムに関する。詳細には、本発明は、例えば目的とするヌクレオチド配列(「NOI」; nucleotide sequence of interest)のような目的とする構成要素(「EOI」;entity of interest)をニューロンに送達することのできるベクターシステムに関する。
【0002】
ある好ましい態様では、本発明は、例えばパーキンソン病を治療するために、TH陽性ニューロンにEOIを送達できるウイルスベクターシステムに関する。
【0003】
また別の態様では、本発明は、逆行性輸送によって標的部位へ移動することのできるベクターシステムに関する。詳細には、本発明は、神経系内の遠位の関連部位に導入するためのこのようなベクターシステムの使用に関する。このベクターシステムは、例えば末梢筋肉内送達によって末梢投与することができる。
【背景技術】
【0004】
[発明の背景]
パーキンソン病
パーキンソン病の原因は不明であるが、運動障害を誘発するドーパミン作動性(チロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性)中脳ニューロンの進行的な死と関連している。パーキンソン病の特徴的な症状は、TH陽性黒質線条体ニューロンが70%まで変性したときに出現する。
【0005】
現時点ではパーキンソン病のための満足できる治療法はない。疾患関連性運動障害の対症療法は、L−DOPAの経口投与を含む。L−DOPAは、部分的には、残留ドーパミン作動性ニューロンによって、血液脳関門を越えて輸送されてドーパミンへ変換され、運動機能の実質的な改善をもたらす。しかし数年後には、ドーパミン作動性ニューロンの変性が進行し、L−DOPAの作用が低下し、再び副作用が現れる。このためパーキンソン病のためのより優れた治療法が必要である。
【0006】
代替的な治療戦略は、線条体内に移植された細胞から供給されたドーパミンが失われた黒質線条体細胞に取って代わることができるという発想に基づく神経移植術である。臨床試験では、ヒト胎児死体(流産した胎児)から入手した中脳TH陽性ニューロンがパーキンソン病患者の脳内で生存かつ機能できることが証明されてきた。しかし機能的回復は部分的にすぎず、この手技の有効性および再現性は限定されている。さらに、流産したヒト胎児に由来する組織を使用することに関連する倫理的、実際的および安全性の問題がある。その上、治療効果を生じさせるために必要な大量の組織はおそらく法外に高額な金額になると思われる。(倫理的および実際的問題の一部を回避するために)他の種からのTH陽性ニューロンを使用することも試みられてきた。だが異種移植には免疫抑制療法が必要になり、さらに例えば感染性物質の異種間移入の潜在的リスクを原因として議論の余地がある。また別の短所は、現在の移植術プロトコルでは、移植されたTH陽性ニューロンの期待数の5〜20%以下しか生残しないことにある。そこで実際的かつ有効な移植プロトコルを開発するためには、TH陽性ニューロンの代替起源が必要とされる。
【0007】
また別の代替治療戦略は遺伝子療法である。パーキンソン病には遺伝子療法を2通りの方法で使用できることが提案されてきた。L−DOPAもしくはドーパミン合成の原因となる酵素(例、チロシンヒドロキシラーゼ)を導入することによって罹患線条体中のドーパミンを置換する。TH陽性ニューロンが乾燥するのを防止できる、または損傷した黒質線条体系における再生および機能的回復を刺激できる潜在的神経保護分子を導入する(Dunnet S.B.and Bjoerklund A.,(1999),Nature,399,A32−A39)。
【0008】
しかしラット胎児腹側中脳(典型的には4%TH陽性ニューロンを含有)からの一次ニューロン培養がハイブリッドアデノ随伴ウイルス(AAV)/単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターを用いて形質導入されてきたが(Constantini L.C.ら、(1999),Human Gene Therapy,10:2481−2494)、これは、TH陽性部分母集団の有意な形質導入を反映していないことが証明された。TH陽性ニューロンは、AAVベクター、HSVベクター、およびハイブリッドHSV/AAVベクターを用いた形質導入に対して極めて不応性であることが証明されている。アデノウイルスベクターの成功は、極めて高いmoi(感染多重度)の場合にのみ限られていた(moiが400の場合に、40%形質導入効率が達成されている)。線条体黒質ドーパミン作動性ニューロンに対するこれらのベクターのインビボ形質導入能力もまた不良である、もしくは明確には特徴付けられていない。
【0009】
パーキンソン病の治療における遺伝子療法アプローチに関連するまた別の問題は、脳が標的とするには困難かつ複雑な器官である点である(Raymon H.K.ら、(1997),Exp.Neur.144:82−91)。通常の経路は、線条体(Bilang−Bleuelら、(1997),Proc.Acad.Natl.Sci.USA94:8818−8823;Choi Lundbergら、(1998),Exp.Neurol.154:261−275)または黒質の近傍(Choi−Lundbergら、(1997),Science 275:838−841;Mandelら、(1997),Proc.Acad.Natl.Sci.USA,94:14083−14088)へのベクターの注入による。脳の一部分へ直接注射することは、例えばそれらの場所および/またはサイズのために技術的に困難である。黒質は脳内の深部に所在し、この領域への直接注射は軸索傷害を引き起こして損傷を生じさせる可能性がある。線条体(特に尾状殻)は、黒質より大きくより背側にあるため、比較的容易な標的である。線条体は、パーキンソン病における移植のために広範に使用されており、現在では手術に伴うリスクは1%未満であると考えられている。
【0010】
そこで、直接注射によって到達するのが困難な脳の部分に形質導入するための機序を発見することが望ましい。さらにまた、脳内注射の回数および複雑性を最小限に抑える脳遺伝子療法のために投与戦略を発見することが望ましい。
【0011】
さらにまた、TH陽性ニューロンを形質導入するための機序を発見することが望ましい。
【0012】
さらにまた、移植のためのTH陽性ニューロンの代替および改良起源を提供することが望ましい。
【0013】
最後に、パーキンソン病の治療および/または予防のためのより優れた治療アプローチを提供することが望ましい。
【0014】
CNS遺伝子療法
パーキンソン病に加えて、体細胞遺伝子導入は中枢神経系(CNS)の多数の遺伝性および変性性障害の研究および治療にとっての将来性を提供する。
【0015】
しかしCNS遺伝子療法は、遺伝子送達に関連する困難によって制限されている。これらの困難は、(a)血液が運ぶ分子の輸送を相当にわずかしか許容しない毛細管関門である血液脳関門、(b)別個の機能的細胞群および細胞路内へのCNSの複雑な分画化、(c)ウイルス類および核酸による直接注射に対する重大なCNS組織の脆弱性、の結果として生じる。
【0016】
このため、(a)血液脳関門を越える必要を回避し、(b)必要な細胞群を標的にすることができ、(c)投与ステップ中にCNS組織が損傷するのを回避する、CNS内の細胞に形質導入するための方法を提供することが望ましい。
【0017】
CNS組織は、直接注入に対して脆弱であることに加えて、アクセスするのが厄介である。場合によっては、例えば対麻痺と疑われる症例では、傷害から3週間後まで脊髄へ直接アクセスすることは不可能である。この期間中に硬膜外注入を実施することは不可能であるので、経口経路を通して何らかの薬剤(例えば、鎮痛剤や抗炎症薬)を投与することが必要である。
【0018】
このため、CNS内の細胞に形質導入するための直接注入の代替法を提供することが望ましい。
【発明の開示】
【0019】
[本発明の態様の要約]
広範囲の態様では、本発明は目的とする構成要素(EOI)を輸送することのできるベクターシステムに関する。
【0020】
ここで使用する用語「ベクターシステム」は、EOIを含むレシピエント細胞を感染または形質導入または形質転換または修飾することができるあらゆるベクターを含む。
【0021】
このベクターシステムは、狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片である、またはそれを含む。典型的には、ベクターシステムはさらにまた1つのEOIを含むであろう。
【0022】
ベクターシステムは、非ウイルスシステムもしくはウイルスシステム、またはその組み合わせであってよい。さらに、ベクターシステム自体がウイルス法もしくは非ウイルス法によって送達されてよい。
【0023】
本発明の非ウイルスベクターシステムでは、狂犬病Gタンパク質(またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片)の少なくとも一部を使用してEOIを被包もしくは被覆することができる。従って、一部の実施形態では、狂犬病Gタンパク質(またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片)の少なくとも一部はEOIの周囲のマトリックスを形成することができる。ここで、マトリックスは例えばリポソーム型実体のような他の成分を含むことができる。
【0024】
一部の好ましい態様では、ベクターシステムはウイルスベクターシステムである。
【0025】
また別の一部の好ましい態様では、ベクターシステムはレトロウイルスベクターシステムである。
【0026】
ベクターシステムがウイルスベクターシステム、詳細にはレトロウイルスベクターシステムである場合は、典型的にはベクターシステムは狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片の少なくとも一部を用いてシュードタイピングされる。
【0027】
ある好ましい態様では、特定タイプのベクターシステム−特にウイルスベクターシステム(例えば、レトロウイルスベクターシステム)は、形質導入に対して不応性であることがよく知られているニューロンのサブセットであるTH陽性ニューロンを形質導入できることが発見されている。
【0028】
ある実施形態では、本発明は、TH陽性ニューロンを形質導入するための、例えばウイルスベクターシステム、好ましくはレトロウイルスベクターシステムのようなベクターシステムの使用を提供するが、ウイルスベクターシステムは狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片の少なくとも一部であるか、またはそれらを含む(例えばそれを用いてシュードタイピングされている)。
【0029】
さらにまた、本発明に従った、例えばウイルスベクターシステム、好ましくはレトロウイルスベクターシステムのような特定タイプのベクターシステムを、このベクターシステムの逆行性輸送によって、投与部位から離れている1つ以上の部位に形質導入できることも発見されている。
【0030】
また別の実施形態では、本発明は、標的部位に形質導入するためのベクターシステム、好ましくはウイルスベクター送達システム、より好ましくはレトロウイルスベクターシステムの使用を提供するが、この使用ではベクターシステムは逆行性輸送によって標的部位へ移動し、さらにこの使用ではベクターシステムは狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片の少なくとも一部であるか、またはそれらを含む(例えばそれを用いてシュードタイピングされている)。
【0031】
さらにまた、標的部位へ形質導入するための例えばウイルスベクターシステム、好ましくはレトロウイルスベクターシステムのようなベクターシステムの使用が提供されるが、この使用は標的部位から離れている投与部位へレトロウイルスベクターシステムを投与するステップを含んでおり、さらにこの使用ではレトロウイルスベクターシステムは狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片の少なくとも一部であるか、またはそれらを含む(例えばそれを用いてシュードタイピングされている)。
【0032】
単一標的部位への投与は、複数の標的部位への形質導入を引き起こすことができる。ベクターシステムは、逆行性輸送によって、任意で順行性輸送と組み合わせてその標的部位または各標的部位へ進行することがある。
【0033】
また別の広範囲の態様では、本発明は下記に関する。
(i)このようなベクターシステムを使用して疾患を治療および/または予防する方法;
(ii)疾患を治療および/または予防するための医薬組成物の製造におけるこのようなベクターシステムの使用;
(iii)このようなベクターシステムを使用して細胞内の対象のタンパク質の作用を分析する方法;
(iv)このようなベクターシステムを使用して遺伝子またはタンパク質の機能を分析する方法;
(v)このようなベクターシステムを用いて形質導入された細胞;
(vi)このようなベクターシステムを用いた形質導入によって作製される遺伝的に修飾(例えば不死化)された細胞;
(vii)薬剤の製造における遺伝的に修飾(例えば不死化)された細胞の使用;および
(viii)このような遺伝的に修飾(例えば不死化)された細胞を使用する移植法。
【0034】
標的部位から離れている部位へのベクターシステムの投与は、それに対する直接投与には問題が多い標的部位へアクセスする可能性をもたらす。上記で指摘したように、直接注射によるCNS内の部位へアクセスすることに関連する多数の問題があるが、これらはベクターシステムの逆行性輸送を使用すると回避できる。
【0035】
また別の実施形態では、本発明はCNS内にニューロンを形質導入するための、下記のステップ、すなわち、
(i)末梢部位へのベクターシステム(例えばウイルスベクターシステム、好ましくはレトロウイルスベクターシステム)の投与、
(ii)狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片の少なくとも一部である、またはそれを含む(例えばそれを用いてシュードタイピングされている)ベクターシステムもしくはその一部によるニューロンへの逆行性輸送。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
[発明の詳細な説明]
本発明は、ベクターシステムの新規使用に関する。
【0037】
ベクターシステムは、非ウイルスシステムまたはウイルスシステムであってよい。
【0038】
ウイルスベクターまたはウイルス送達システムには、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびバキュロウイルスベクターが含まれるが、それらに限定されない。非ウイルス送達システムもしくは非ウイルスベクターシステムには、脂質媒介性トランスフェクション、リポソーム類、イムノリポソーム類、リポフェクチン、カチオン性顔面両親媒性物質類(CFA;cationic facial amphiphile)およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0039】
一部の好ましい態様では、ベクターシステムはウイルスベクターシステムである。
【0040】
また別の一部の好ましい態様では、ベクターシステムはレトロウイルスベクターシステムである。
【0041】
レトロウイルス類
遺伝子療法のためにウイルスベクター類を使用する構想はよく知られている(Verma and Somia,(1997),Nature,389:239−242)。
【0042】
多数のレトロウイルス類がある。本特許出願では、用語「レトロウイルス」は下記を含む。マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤波肉腫ウイルス(FuSV)、モロニー(Moloney)マウス白血病ウイルス(Mo−MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo−MSV)、エイベルソン(Abelson)マウス白血病ウイルス(A−MLV)、ニワトリ骨髄球腫症ウイルス29(MC29)、およびニワトリ赤芽球症ウイルス(AEV)並びにレンチウイルス類を含むその他すべてのレトロウイルス類。
【0043】
レトロウイルス類の詳細なリストはCoffinら(「Retroviruses(レトロウイルス類)」,1997,Cold Spring Harbour Laboratory Press 編集:JM Coffin,SM Hughes,HE Vamus,第758〜763頁)の中に見出すことができる。
【0044】
ある好ましい実施形態では、レトロウイルスベクターシステムはレンチウイルスに由来することができる。レンチウイルス類もまたレトロウイルスファミリーに属するが、これらは分裂細胞および非分裂細胞の両方を感染させることができる(Lewisら、(1992),EMBO J.,3053−3058)。
【0045】
レンチウイルス群は、「霊長類」と「非霊長類」とに分けることができる。霊長類レンチウイルス類の例には、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因物質、およびサル免疫不全症ウイルス(SIV)が含まれる。非霊長類レンチウイルス群には、原型「スローウイルス」ビスナ/マエディウイルス(VMV)、並びに関連ヤギ関節炎−脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)およびより最近に報告されたネコ免疫不全症ウイルス(FIV)およびウシ免疫不全症ウイルス(BIV)が含まれる。ある好ましい実施形態では、レトロウイルスベクターシステムはEIVAから引き出すことができる。
【0046】
一部のレンチウイルス類のゲノム構造に関する詳細は先行技術において見出すことができる。例えば、HIVおよびEIAVに関する詳細はNCBI Genbankデータベースから見出すことができる(即ち、各々ゲノムアクセッション番号第AF033819号および第AF033820号)。HIVの変種の詳細については、http://hiv−web.lanl.gov.から見出すことができる。EIAVの変種の詳細については、http://www.nicbi.nlm.nih.gov.から見出すことができる。
【0047】
感染の進行中には、レトロウイルスは、まず最初に特定の細胞表面レセプターに付着する。感受性のある宿主細胞内に進入すると、レトロウイルスRNAゲノムはその後ウイルスによってコードされた親ウイルスの内側に運ばれる逆転写酵素によってDNAへコピーされる。このDNAは宿主細胞核へ運ばれ、そこで引き続いて宿主ゲノム内に組み込まれる。この段階では、これは典型的にはプロウイルスと呼ばれている。プロウイルスは、細胞分割中は宿主染色体中で安定性であり、他の細胞遺伝子と同様に転写される。プロウイルスは、より多くのウイルスを作製するために必要なタンパク質およびその他の因子類をコードし、ときどき「出芽」と呼ばれるプロセスによって細胞を離れることができる。
【0048】
各レトロウイルスゲノムは、ビリオンタンパク質および酵素に対してコードするgag、polおよびenvと呼ばれる遺伝子を含む。これらの遺伝子は、両末端で長い末端反復(LTR)と呼ばれる領域によってフランクされている。LTRは、プロウイルス組込み、および転写に対して責任を負っている。それらはさらにまたエンハンサー−プロモーター配列としても役立つ。言い換えると、LTRはウイルス遺伝子の発現を制御することができる。レトロウイルスRNAのタンパク質のカプシド形成は、ウイルスゲノムの5’末端に位置するpsi配列によって発生する。
【0049】
LTR自体は、U3、RおよびU5と呼ばれる3つのエレメントに分割できる同一配列である。U3は、RNAの3’末端に特有の配列から引き出される。Rは、RNAの両端で繰り返される配列から引き出され、U5はRNAの5’末端に特有の配列から引き出される。3つのエレメントのサイズは、種々のレトロウイルス間で相当に相違する可能性がある。
【0050】
ウイルスゲノムについては、転写開始部位は1つのLTRにおけるU3とRとの間の境界にあり、ポリ(A)付加の部位(末端)は別のLTRにおけるRとU5との間の境界にある。U3は、プロウイルスの転写調節エレメントのほとんどを含んでおり、それらは細胞および一部の場合にはウイルス転写アクチベータータンパク質に反応するプロモーターおよび複数のエンハンサー配列を含む。一部のレトロウイルスは、遺伝子発現の調節に含まれるタンパク質をコードする下記の遺伝子のうちのいずれか1つ以上を有する。tat、rev、taxおよびrex。
【0051】
構造的遺伝子gag、polおよびenv自体に関しては、gagはウイルスの内部構造タンパク質をコードする。Gagタンパク質は、タンパク質分解によって成熟タンパク質MA(マトリックス)、CA(カプシド)およびNC(ヌクレオカプシド)へ処理される。pol遺伝子は、ゲノムの複製を媒介するRNase Hおよびインテグラーゼ(IN)に関連するDNAポリメラーゼを含有する逆転写酵素(RT)をコードする。env遺伝子は、特に細胞レセプタータンパク質と相互作用する複合体を形成するビリオンの表面(SU)糖タンパク質および膜貫通(TM)タンパク質をコードする。この相互作用は最終的にはウイルス膜と細胞膜との融合により感染をもたらす。
【0052】
レトロウイルス類は、さらにまたgag、polおよびenv以外のタンパク質をコードする「追加の」遺伝子を含有することもある。追加の遺伝子の例には、HIVではvif、vpr、vpx、vpu、tat、revおよびnefのうちの1つ以上が含まれる。EIAVは(特に)追加の遺伝子S2を有する。
【0053】
追加の遺伝子によってコードされたタンパク質類は様々な機能を果たすが、その一部は細胞タンパク質によって提供される機能の複製であることがある。例えばEIAVでは、tatはウイルスLTRの転写アクチベーターとして機能する。tatは、TARと呼ばれる安定性のステムループRNA二次構造に結合する。revはrev応答エレメント(RRE)を通してウイルス遺伝子の発現を調節かつ調整する。これらの2種のタンパク質の作用機序は、霊長類ウイルス類における類似機序と大まかには類似していると思われる。S2の機能は不明である。さらに、EIAVタンパク質であるTtmは、膜貫通タンパク質の開始時にenvコーディング配列へスプライシングされるtatの第1エキソンによってコードされることが確認されている。
【0054】
ベクターシステム
ベクターシステムは、非ウイルスシステムであってもウイルスシステムであってもよい。
【0055】
一部の好ましい態様では、ベクターシステムはウイルスベクターシステムである。
【0056】
さらに一部の好ましい態様では、ベクターシステムはレトロウイルスベクターシステムである。
【0057】
ベクターシステムは、1つ以上の対象の部位へEOIを移動させるために使用できる。この移動はインビトロ、エクスビボ、インビボまたはその組み合わせにおいて発生することができる。
【0058】
高度に好ましい態様では、送達システムはレトロウイルス送達システムである。
【0059】
レトロウイルスベクターシステムは、特に1つ以上の対象の部位へEOIを移動させるための送達システムとして提案されてきた。この移動は、インビトロ、エクスビボ、インビボまたはその組み合わせにおいて発生することができる。レトロウイルスベクターシステムはまさに、レセプターの使用、逆転写およびRNAパッケージングを含むレトロウイルス生活環の様々な態様を研究するために利用されてきた(Miller,1992 Curr Top Microbiol Immunol,158:1−24において論評されている)。
【0060】
ここで使用する用語「ベクターシステム」には、さらにまたNOIを有するレシピエント細胞を形質導入することのできるベクター粒子も含まれる。
【0061】
ベクター粒子は、下記の構成要素を含む。1つ以上のNOIを含有している可能性があるベクターゲノム、核酸をカプシドで包んでいるヌクレオカプシド、およびヌクレオカプシドを取り囲んでいる膜。
【0062】
用語「ヌクレオカプシド」は、少なくともグループ特異的ウイルスコアタンパク質(gag)およびレトロウイルスゲノムのウイルスポリメラーゼ(pol)に関する。これらのタンパク質は、パッケージ可能な配列をカプシドで包んでおり、それ自体がさらにエンベロープ糖タンパク質を含む膜によって取り囲まれている。
【0063】
細胞内に侵入すると、レトロウイルスベクター粒子からのRNAゲノムはDNA内へ逆転写され、レシピエント細胞のDNA内に組み込まれる。
【0064】
用語「ベクターゲノム」は、レトロウイルスベクター粒子内に存在するRNA構築物および組み込まれたDNA構築物のどちらにも関する。この用語はさらにまた、このようなRNAゲノムをコードすることができる個別もしくは単離DNA構築物も含んでいる。レトロウイルスゲノムもしくはレンチウイルスゲノムは、レトロウイルスもしくはレンチウイルスに由来することができる少なくとも1つの構成要素部分を含んでいなければならない。用語「由来することができる」は必ずしも例えばレンチウイルスのようなウイルスから入手する必要はないが、その代わりにそれから由来することのできるヌクレオチド配列またはその一部を意味するように、その通常の意味で使用する。例えば、配列は合成的に、または組換えDNA技術を使用することによって調製することができる。好ましくは、ゲノムはpsi領域(またはカプシド形成を誘導できる類似構成要素)を含む。
【0065】
ウイルスベクターゲノムは、好ましくは、ゲノムがレシピエント細胞内で感染性ウイルス粒子を産生させるために単独で独立複製を可能にするために十分な遺伝情報を備えていないという意味で「複製欠損性」である。ある好ましい実施形態では、このゲノムには機能的env、gagまたはpol遺伝子が欠けている。高度に好ましい実施形態であれば、ゲノムはenv、gagおよびpol遺伝子が欠けている。
【0066】
ウイルスベクターゲノムは、長い末端反復(LTR)の一部または全部を備えていてよい。好ましくは、このゲノムは、LTRの少なくとも一部またはプロウイルス組込みおよび転写を媒介することのできる類似配列を含む。この配列は、さらにまたエンハンサー−プロモーター配列を含む、またはエンハンサー−プロモーター配列として機能することができる。
【0067】
同一細胞内へ共導入された個別DNA配列上でレトロウイルスベクター粒子を産生するために必要な構成要素の個別発現が、治療的遺伝子を持つ欠陥のあるレトロウイルスゲノムを持つレトロウイルス粒子を産生することは知られている(例、1992にMillerによって論評されている)。この細胞はプロデューサー細胞と呼ばれている(下記参照)。
【0068】
プロデューサー細胞を生成するためには2種の一般的方法がある。1つの方法では、レトロウイルスGag、PolおよびEnvタンパク質をコードする配列がその細胞内に導入され、細胞ゲノム内に安定性で組み込まれる。パッケージング細胞系と呼ばれる安定性細胞系が作製される。このパッケージング細胞系はレトロウイルスRNAをパッケージするために必要なタンパク質を産生するが、psi領域が欠如しているためにカプシド形成を惹起することはできない。しかし、このパッケージング細胞系内にベクターゲノム(psi領域を有する)が導入されると、ヘルパータンパク質がpsi陽性組換えベクターRNAをパッケージして組換えウイルス株を産生させることができる。これを使用するとNOIをレシピエント細胞内に形質導入することができる。だがそのゲノムがウイルスタンパク質を作製するために必要なすべての遺伝子を欠如している組換えウイルスは、1回しか感染させることができず、遺伝させることはできない。従って、NOIが宿主細胞ゲノム内に導入されても潜在的に有害なレトロウイルスの生成は生じない。利用できるパッケージング細胞系の概要は、「Retroviruses(レトロウイルス類)」(1997,Cold Spring Harbour Laboratory Press 編集:Jm Coffin,SM Hughes,HE Varmus,第449頁)に提示されている。
【0069】
本発明はさらにまた、本発明の第1態様において有用なベクターシステムを産生できるウイルスベクターゲノムを含むパッケージング細胞系を提供する。例えば、パッケージング細胞系は、ゲノムを含むウイルスベクターシステムを用いて形質導入することができる、またはRNAゲノムをコードできるDNA構築物を有するプラスミドを用いてトランスフェクトすることができる。本発明は、さらにまたパッケージング細胞およびレトロウイルスベクターゲノムを含む本発明の第1態様において有用なレトロウイルスベクターシステムを産生するためのキットを提供する。
【0070】
第2のアプローチは、レトロウイルスベクター粒子を産生するために必要な3種のDNA配列、即ちenvコーディング配列、gag−polコーディング配列および1つ以上のNOIを含有する欠陥のあるレトロウイルスゲノムを一過性トランスフェクションによって同時に細胞内に導入することであり、この方法は一過性トリプルトランスフェクションと呼ばれている(Landau & Littman 1992;Pearら 1993)。トリプルトランスフェクション法は最適化されてきた(Soneokaら、1995;Finerら、1994)。国際公開第94/29438号明細書は、この複数DNA一過性トランスフェクション法を使用したインビトロでプロデューサー細胞を産生する方法を開示している。国際公開第97/27310号明細書は、再移植のためにインビボまたはインビトロのいずれかでレトロウイルスプロデューサー細胞を作製するための一連のDNA配列を開示している。
【0071】
ベクターゲノムを完成するために必要なウイルス系の構成要素は、細胞内へトランスフェクトするための1種以上の「プロデューサープラスミド」上に存在することがある。
【0072】
そこで本発明は、本発明の第1態様において有用なレトロウイルスベクターシステムを作製するための、
(i)ベクター粒子を産生するために必要とされる1種以上のタンパク質をコードすることができないウイルスベクターゲノムと
(ii)(i)によってコードされないタンパク質をコードすることができる1種以上のプロデューサープラスミドと、および任意選択により、
(iii)プロデューサー細胞へ変換させるために適切な細胞と
を含むキットをも提供する。
【0073】
ある好ましい実施形態では、ウイルスベクターゲノムはタンパク質gag、polおよびenvをコードすることができない。好ましくは、このキットは、1つのプロデューサープラスミドがenvをコードし、1つはgag−polをコードする、例えばenv、gagおよびpolをコードする1種以上のプロデューサープラスミドを含む。好ましくは、gag−pol配列は、特定プロデューサー細胞内で使用するために最適化されたコドンである(下記参照)。
【0074】
本発明はさらにまた、ベクターゲノムを発現するプロデューサー細胞および本発明において有用なレトロウイルスベクターシステムを作製できるプロデューサープラスミドを提供する。
【0075】
好ましくは、本発明の第1態様において使用されるレトロウイルスベクターシステムは自己不活性化(SIN)ベクターシステムである。
【0076】
例えば、自己不活性化レトロウイルスベクターシステムは、3’LTRのU3領域における転写エンハンサーまたはエンハンサーおよびプロモーターを欠失させることによって構築されてきた。多数回のベクター逆転写および組込みの後、これらの変化は転写的に不活性なプロウイルスを作製することで5’および3’LTRの両方にコピーされる。しかし、このようなベクター内のLTRの内側にあるあらゆるプロモーターはまだ転写的に活性である。この戦略は、内部に配置された遺伝子からの転写にウイルスLTR内のエンハンサーおよびプロモーターが及ぼす作用を排除するために使用されてきた。このような作用は、転写の増加または転写の抑制を含む。この戦略は、さらにまた3’LTRからゲノムDNA内への下流転写を排除するためにも使用できる。これは、内因性癌遺伝子の偶発性活性化を防止するために重要な可能性があるヒト遺伝子療法において特に重要である。
【0077】
好ましくは、本発明のプロデューサー細胞からの高力価調節レンチウイルスベクターの産生を容易にするリコンビナーゼ補助機序が使用される。
【0078】
ここで使用する用語「リコンビナーゼ補助系」には、バクテリオファージP1のCreリコンビナーゼ/loxP認識部位または34bp FLP認識票的(FRT)間の組換え事象を触媒するサッカロミセス・セレビジエの部位特異的FLPリコンビナーゼを使用する系が含まれるがそれらに限定されない。
【0079】
34bpのFLP認識票的(FRT)間の組換え事象を触媒するサッカロミセス・セレビジエの部位特異的FLPリコンビナーゼは、リコンビナーゼ補助組換え事象を使用して高レベルプロデューサー細胞系を生成させるためにDNA構築物に構築されてきた(Karremanら(1996)NAR 24:1616−1624)。類似した系は、バクテリオファージP1のCreリコンビナーゼ/loxP認識部位を使用して開発されている(PCT/GB00/03837号;Vaninら、(1997),J.Virol,71:7820−7826を参照)。これは、高力価調節レンチウイルスプロデューサー細胞系が生成されるように、レンチウイルスゲノム内に構築された。
【0080】
プロデューサー/パッケージング細胞系を使用することによって、例えば目的とする部位(例えば成人の脳組織)において引き続いて形質導入するために大量のレトロウイルスベクター粒子を伝播させて(例えば、レトロウイルスベクター粒子の適切な力価を調製するために)単離することが可能である。大規模生産またはベクター粒子のためには、通例はプロデューサー細胞系の方が優れている。
【0081】
一過性トランスフェクションは、パッケージング細胞法に比較して多数の長所を有する。これに関して、一過性トランスフェクションを使用すると安定性のベクター産生細胞系を生成するために必要な長い時間が回避され、さらにベクターゲノムまたはレトロウイルスパッケージング構成要素が細胞にとって毒性である場合に使用される。ベクターゲノムが例えば細胞周期の阻害剤またはアポトーシスを誘発する遺伝子のような毒性遺伝子または宿主細胞の複製を妨害する遺伝子をコードする場合は、安定性のベクター産生細胞系を生成するのは困難な可能性があるが、一過性トランスフェクションを使用するとその細胞が死ぬ前にベクターを作製することができる。同様に、安定性ベクター産生細胞系から入手されるレベルに匹敵するベクター力価レベルを産生する細胞系が一過性感染を使用して開発されてきた(Pearら、1993,PNAS,90:8392−8396)。
【0082】
プロデューサー細胞/パッケージング細胞は、あらゆる適切な細胞型であってよい。プロデューサー細胞は、一般には哺乳類細胞であるが、例えば昆虫細胞であってもよい。
【0083】
ここで使用する用語「プロデューサー細胞」または「ベクター産生細胞」は、レトロウイルスベクター粒子産生のために必要なすべての要素を含有する細胞を意味する。
【0084】
好ましくは、プロデューサー細胞は安定性プロデューサー細胞系から入手できる。
【0085】
好ましくは、プロデューサー細胞は、生成された安定性プロデューサー細胞系から入手できる。
【0086】
好ましくは、プロデューサー細胞は生成されたプロデューサー細胞系から入手できる。
【0087】
ここで使用する用語「生成されたプロデューサー細胞系」は、マーカー遺伝子の高度の発現のためにスクリーニングかつ選択されている形質導入プロデューサー細胞系である。このような細胞系は、レトロウイルスゲノムからの高レベル発現を支援する。用語「生成されたプロデューサー細胞系」は、用語「生成された安定性プロデューサー細胞系」および用語「安定性プロデューサー細胞系」と相互に交換可能に使用される。
【0088】
好ましくは、生成されたプロデューサー細胞系には、レトロウイルスおよび/またはレンチウイルスプロデューサー細胞が含まれるが、それらに限定されない。
【0089】
好ましくは、生成されたプロデューサー細胞系は、HIVもしくはEIAVプロデューサー細胞系、より好ましくはEIAVプロデューサー細胞系である。
【0090】
好ましくは、エンベロープタンパク質配列、およびヌクレオカプシド配列は、プロデューサーおよび/またはパッケージング細胞にすべて安定性で組み込まれている。しかし、これらの配列中1つ以上はエピソーム形で存在していてよく、さらにそのエピソームから遺伝子発現が発生することもあろう。
【0091】
ここで使用する用語「パッケージング細胞」は、RNAゲノム内に欠如している感染性組換えウイルスを産生させるために必要な要素を含む細胞を意味する。典型的には、このようなパッケージング細胞は、ウイルス構造タンパク質(例えば、コドン最適化できるgag−polおよびenv)を発現することのできる1つ以上のプロデューサープラスミドを含むが、それらはパッケージングシグナルを含有していない。
【0092】
「パッケージング配列」または「psi」と相互に交換可能に言うことのできる用語「パッケージングシグナル」は、ウイルス粒子形成中のレトロウイルスRNA鎖のカプシド形成のために必要な非コーディングシス作用性配列に関連して使用される。HIV−1では、この配列は主要スプライスドナー部位(SD)の上流から少なくともgag開始コドンまで伸びる遺伝子座にマッピングされている。
【0093】
パッケージング細胞系は、容易に調製することができ(国際公開第92/05266号も参照)、レトロウイルスベクター粒子を産生するためのプロデューサー細胞系を作製するために利用できる。既に上記のように、利用できるパッケージング細胞系の要約は、「Retroviruses(レトロウイルス)」(上述)に記載されている。
【0094】
同様に上記で述べたように、パッケージングシグナルが欠失しているプロウイルスを含む単純なパッケージング細胞系は、組換えを通して望ましくない複製コンピーテントウイルスの迅速な産生をもたらすことが発見されている。安全性を向上させるために、プロウイルスの3’LTRが欠失している第二世代細胞系が作製されてきた。このような細胞では、2つの組換えは野生型ウイルスを作製する必要がありうる。また別の改良は、いわゆる第三世代パッケージング細胞系である個別構築物上でのgag−pol遺伝子およびenv遺伝子の導入を含む。これらの構築物は、トランスフェクション中の組換えを防止するために連続的に導入される。
【0095】
好ましくは、パッケージング細胞系は、第二世代パッケージング細胞系である。
【0096】
好ましくは、パッケージング細胞系は、第三世代パッケージング細胞系である。
【0097】
これらの分割構築物第三世代細胞系では、組換えにおけるこれ以上の減少はコドンを変化させることによって達成できる。この技術は、遺伝暗号の冗長性に基づいて、個別構築物間、例えばgag−polおよびenvオープンリーディングフレームにおける重複領域間の相同性を減少させることを目的としている。
【0098】
パッケージング細胞系は、カプシド形成するために必要な遺伝子産物を提供するために有用であり、高力価ベクター粒子産生のために膜タンパク質をして提供する。パッケージング細胞は、例えば組織培養細胞系のようなインビトロで培養された細胞であってよい。適切な細胞系には、例えばマウス線維芽細胞由来細胞系またはヒト細胞系のような哺乳類細胞が含まれるが、それらに限定されない。好ましくは、パッケージング細胞系は、例えばHEK293、293−T、TE671、HT1080のようなヒト細胞系である。
【0099】
あるいはまた、パッケージング細胞は、例えば単球、マクロファージ、血球もしくは線維芽細胞のような治療される個体から取り出された細胞であってよい。細胞は、個体から単離することができ、パッケージング細胞およびベクター構成要素がエクスビボで投与され、その後自家パッケージング細胞の再投与が行われる。
【0100】
実験および実際の両方の適用において、高力価ウイルス調製物を使用することが高度に望ましい。ウイルス力価を増加させるための技術には、上記のようなpsi+パッケージングシグナルを使用することおよびウイルス株の濃縮が含まれる。
【0101】
ここで使用する用語「高力価」は、例えば1つの細胞のような標的部位に形質導入できる有効量のレトロウイルスベクターもしくは粒子を意味する。
【0102】
ここで使用する用語「有効量」は、標的部位でNOIの発現を誘導するために十分な調節されたレトロウイルスもしくはレンチウイルスベクターもしくはベクター粒子の量を意味する。
【0103】
プロデューサー/パッケージング細胞のための高力価ウイルス調製物は、通例は1mL当たり約10〜10t.u.である(力価は標準D17細胞系上で滴定されるような1mL当たりの形質導入単位(t.u./mL)で表示される)。例えば脳のような組織内への形質導入のためには、極めて少量を使用することが不可欠であるので、ウイルス調製物は超遠心分離によって濃縮させられる。結果として生じる調製物は、少なくとも10t.u./mL、好ましくは10〜10t.u./mL、より好ましくは少なくとも10t.u./mLを有していなければならない。
【0104】
NOIによってコードされる発現産物は、その細胞から分泌されるタンパク質であってよい。あるいはまた、NOI発現産物は分泌されず、細胞内で活性である。一部の適用のためには、NOI発現産物がバイスタンダー効果または遠隔バイスタンダー効果、即ち共通表現型を有する隣接もしくは遠隔(例、転移性)いずれかの追加の関連細胞の調節をもたらす1つの細胞内での発現産物の産生を証明することが好ましい。
【0105】
中央ポリプリン経路(cPPT)と呼ばれる配列の存在は、非分裂細胞への遺伝子送達の有効性を向上させる可能性がある(国際公開第00/31200号明細書を参照)。このシス作用性エレメントは、例えばEIAVポリメラーゼコーディング領域エレメント内に位置している。好ましくは、本発明で使用されるベクターシステムのゲノムはcPPT配列を含む。
【0106】
さらに、あるいはまた、ウイルスゲノムは転写後調節エレメントおよび/または翻訳エンハンサーを備えていてよい。
【0107】
NOIは、作動可能に1つ以上のプロモーター/エンハンサーエレメントに連結させることができる。1つ以上のNOIの転写はウイルスLTRの制御下で行われてよい、あるいはまた導入遺伝子を用いてプロモーター/エンハンサーエレメントを技術的に設計することができる。好ましくは、プロモーターは例えばCMVのような強力なプロモーターである。プロモーターは調節されたプロモーターであってよい。プロモーターは組織特異的であってよい。ある好ましい実施形態では、プロモーターはグリア細胞特異的である。また別の好ましい実施形態では、プロモーターはニューロン特異的である。
【0108】
最小系
ベクター産生または分裂細胞および非分裂細胞の形質導入のどちらのためにもHIV/SIVの追加の遺伝子vif、vpr、vpx、vpu、tat、revおよびnefのいずれも必要としない霊長類レンチウイルス最小系を構築できることが証明されている。さらにまた、ベクター産生または分裂細胞および非分裂細胞の形質導入のどちらのためにもS2を必要としないEIAV最小ベクターシステムを構築できることも証明されている。追加の遺伝子の欠失は、高度に有益である。第1に、これはレンチウイルス(例、HIV)感染における疾患に関連する遺伝子を含まないベクター類の産生を許容する。特に、tatが疾患に関連している。第2に、追加の遺伝子の欠失はベクターがより異種のDNAをパッケージングすることを許容する。第3に、機能が不明である例えばS2のような遺伝子を除外できるので、従って望ましくない作用を惹起するリスクが減少する。最小レンチウイルスベクターの例は、国際公開第99/32646号明細書および国際公開第98/17815号明細書に開示されている。
【0109】
従って、好ましくは、本発明で使用される送達系には少なくともtatおよびS2(それがEIAVベクターシステムである場合)、およびもしかするとさらにvif、vpr、vpx、vpuおよびnefも欠けている。より好ましくは、本発明の系にはさらにまたrevも欠けている。revは、以前に一部のレトロウイルスゲノムにおいては効率的なウイルス産生のために必須であると考えられていた。例えば、HIVの場合には、revおよびPRE配列が包含されていなければならないと考えられていた。しかし、revおよびRREの要件はコドン最適化(下記を参照)または例えばMPMV系のような他の機能的に等価の系と置換することによって減少または排除できることが発見されている。コドン最適化gag−polの発現はREVには依存していないので、RREをgag−pol発現カセットから除去することができ、従ってベクターゲノム上に含まれるいずれかのRREとの組換えの可能性が取り除かれる。
【0110】
ある好ましい実施形態では、本発明の第1態様のウイルスゲノムにはRev応答性エレメント(RRE)が欠けている。
【0111】
ある好ましい実施形態では、本発明で使用される系は、追加の遺伝子の一部または全部が取り除かれているいわゆる「最小」系に基づいている。
【0112】
コドン最適化
コドン最適化については、以前に国際公開第99/41397号に記載されている。種々の細胞は特定コドンの使用法が相違している。このコドンの偏りは、細胞型における特定tRNAの相対存在比における偏りに一致する。対応するtRNAの相対存在比と適合するように調製できるように配列内のコドンを変化させることによって、発現を増加させることが可能である。同様の理由で、対応するtRNAが特定細胞型にほとんど含まれないことが知られているコドンを意図的に選択することによって発現を減少させることも可能である。従って、追加の翻訳調節度を利用することができる。
【0113】
HIVおよびその他のレンチウイルス類を含む多くのウイルス類は、極めて多数の珍しいコドンを使用し、これらを一般に使用される哺乳類コドンへ対応するように変化させることによって哺乳類プロデューサー細胞内のパッケージング構成要素の発現増加を達成できる。哺乳類細胞並びに多種多様な他の生物についてのコドン使用頻度表は当分野で知られている。
【0114】
コドン最適化には多数の他の長所がある。それらの配列における変化によって、プロデューサー細胞/パッケージング細胞におけるウイルス粒子の構築のために必要なウイルス粒子のパッケージング構成要素をコードするヌクレオチド配列はそれらから排除されたRNA不安定配列(INS)を有する。同時に、パッケージング構成要素のための配列をコードするアミノ酸配列は配列によってコードされたウイルス構成要素が同一、または少なくとも十分に似ているままであるように保持されているので、パッケージング構成要素の機能は弱められていない。コドン最適化はさらにまた輸送のためのRev/RRE要件を克服するので、最適化された配列をRev非依存性にさせる。コドン最適化はさらにまた、ベクターシステム内の相違する構築物間(例えば、gag−polおよびenvオープンリーディングフレームにおける重複領域間)の同種組換えも減少させる。このためコドン最適化の総合的作用は、ウイルス力価における顕著な増加および安全性の向上である。
【0115】
ある実施形態では、INSに関連するコドンだけがコドン最適化される。しかし、はるかにより好ましい実際的な実施形態では、配列はフレームシフト部位を含む配列を除くそれらの全体に関してコドン最適化される。
【0116】
gag−pol遺伝子は、gag−polタンパク質をコードする2つの重複リーディングフレームを含む。これら2種のタンパク質の発現は翻訳中のフレームシフトに左右される。このフレームシフトは翻訳中のリボソーム「スリップ」の結果として発生する。このスリップは、少なくとも一部にはリボソーム停止RNA二次構造によって惹起されると考えられている。このような二次構造は、gag−pol遺伝子におけるフレームシフト部位の下流に存在する。HIVについては、重複領域はgagの始端のヌクレオチド1222下流からgagの終端(nt 1503)へ伸びている(このときヌクレオチド1はgagATGのAである)。その結果として、フレームシフト部位および2つのリーディングフレームの重複領域に渡る281bpフラグメントは、好ましくはコドン最適化されない。このフラグメントを維持すると、gag−polタンパク質のより効率的な発現が可能になるであろう。
【0117】
EIAVについては、重複の始端はnt 1262であると考えられてきた(このときヌクレオチド1はgagATGのAである)。重複の終端は1461bpである。フレームシフト部位およびgag−pol重複が保存されることを保証するために、nt 1156〜1465へ野生型配列が維持されている。
【0118】
例えば好都合な制限部位に適合するためには、最適コドン使用から逸脱することができ、さらにgag−polタンパク質内に保存的アミノ酸変化を導入することができる。
【0119】
高度に好ましい実施形態では、コドン最適化は軽度に発現した哺乳類細胞に基づいた。第3並びにときには第2および第3塩基を変化させることができる。
【0120】
遺伝暗号は変性する性質を有するので、当業者は極めて多数のgag−pol配列を達成できることを理解するであろう。さらにコドン最適化gag−pol配列を生成するための開始点として使用できる多数のレトロウイルス変種が報告されている。レンチウイルスゲノムは極めて変動性である。例えば、依然として機能的であるHIV−1の多数の疑似種が存在する。これはEIAVにも当てはまる。これらの変種もまた形質導入プロセスの特定部分を強化するために使用できる。HIV−1変種の例は、http://hiv−web.lanl.gov.から見出すことができる。EIAVクローンの変種の詳細については、NCBIデータベースhttp://www.nicbi.nlm.nih.gov.から見出すことができる。
【0121】
コドン最適化gag−pol配列のための戦略は、あらゆるレトロウイルス類に関連して使用できる。これはEIAV、FIV、BIV、CAEV、VMR、SIV、HIV−1およびHIV−2を含むあらゆるレンチウイルス類に当てはまるであろう。さらに、この方法は、HTLV−1、HTLV−2、HFV、HSRVおよびヒト内因性レトロウイルス類(HERV)、MLVおよびその他のレトロウイルス類からの遺伝子発現を増加させるために使用できよう。
【0122】
コドン最適化は、gag−pol発現をRev非依存性にすることができる。しかしレトロウイルスベクター内の抗revまたはRRE因子の使用を可能にするためには、ウイルスベクター生成系を総合的にRev/RRE非依存性にすることが必要になるであろう。従って、ゲノムもまた修飾される必要がある。これはベクターゲノム構成要素を最適化することによって達成される。有益にも、これらの修飾は、さらにまたプロデューサー細胞および形質導入細胞の両方においてすべての追加のタンパク質が欠如するより安全な系の産生をもたらす。
【0123】
上記のように、レトロウイルスベクターのためのパッケージング構成要素はgag、polおよびenv遺伝子の発現産物を含む。さらに、効率的なパッケージングは、gagおよびenvからの部分配列が従う4ステムループの短い配列に依存している(「パッケージングシグナル」)。従って、レトロウイルスベクターゲノムへ(パッケージング構築物上の完全gag配列に加えて)欠失gag配列を含めると、ベクター力価が最適化されるであろう。現在までの所、まだenv配列を保持しているベクター内のgagの255〜360ヌクレオチド、またはスプライスドナー突然変異、gagおよびenv欠失の特定組み合わせにおけるgagの約40ヌクレオチドを必要とする効率的パッケージングが報告されている。驚くべきことに、gagにおけるN末端360位を除く全ヌクレオチドの欠失はベクター力価の増加をもたらすことが発見されている。従って、好ましくは、レトロウイルスベクターゲノムは1つ以上の欠失を含むgag配列を含む、より好ましくはgag配列はN末端から取り出すことのできる約360ヌクレオチドを含む。
【0124】
シュードタイピング
レトロウイルスベクターシステムの設計においは、遺伝物質を広範な、もしくは別の範囲の細胞型へ送達することを可能にするために、天然ウイルスへの様々な標的細胞特異性を有する粒子を遺伝子工学で作製することが望ましい。これを達成するための1つの方法は、その特異性を変化させるためにウイルスエンベロープタンパク質を遺伝子工学で作製することによるものである。また別のアプローチは、ウイルスの天然エンベロープタンパク質を置換または追加するためにベクター粒子内へ同種エンベロープタンパク質を導入することである。
【0125】
用語のシュードタイピングとは、例えば他のウイルスからのenv遺伝子のような同種env遺伝子を用いてウイルスゲノムのenv遺伝子の少なくとも一部分に組み込むこと、またはその一部を置換すること、またはその全部を取り替えることを意味する。シュードタイピングは、新規の現象ではなく、国際公開第99/61639号明細書、国際公開第98/05759号明細書、国際公開第98/05754号明細書、国際公開第97/17457号明細書、国際公開第96/09400号明細書、国際公開第91/00047号明細書およびMebatsionら、1997,Cell,90:841−847の中に見出すことができる。
【0126】
シュードタイピングは、レトロウイルスベクターの安定性および形質導入効率を改良することができる。リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)を用いてパッケージングされたマウス白血病ウイルスのシュードタイプが報告されており(Mileticら、(1999),J.Vorol.73:6114−6116)、超遠心分離中に安定性であり、様々な種からの数種の細胞系を感染させられることが証明されている。
【0127】
本発明では、ベクターシステムは狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくはフラグメントの少なくとも一部を用いてシュードタイピングすることができる。
【0128】
従って、本発明の第1態様において使用されるレトロウイルス送達系は、エンベロープタンパク質の少なくとも一部をコードする第1ヌクレオチド配列;およびレトロウイルス送達系による形質導入を保証するレトロウイルスから取り出すことのできる1つ以上の別のヌクレオチド配列を含む;第1ヌクレオチド配列は別のヌクレオチド配列の少なくとも1つと異種である;および第1ヌクレオチド配列は狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくはフラグメントの少なくとも一部をコードする。
【0129】
従って同種env領域を含むレトロウイルス送達系の使用が提供されるが、同種env領域は狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくはフラグメントの少なくとも一部を含む。
【0130】
異種env領域は、プロデューサープラスミド上に存在する遺伝子によってコードされてよい。プロデューサープラスミドは、本発明の第1態様において使用されるために適切なレトロウイルスベクター粒子を作製するためのキットの一部として存在していてよい。
【0131】
狂犬病Gタンパク質
本発明では、ベクターシステムは狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくはフラグメントの少なくとも一部を用いてシュードタイピングすることができる。
【0132】
狂犬病Gタンパク質並びにその突然変異体に関する教示は、国際公開第99/61639号明細書並びにRoseら、1982,J.Virol.,43:361−364;Hanhamら、1993,J.Virol.,65,530−542;Tuffereauら、1998,J.Virol.,72,1085−1091;Kuceraら、1985,J.Virol.,55,158−162;Dietzscholdら、1983,PNAS,80,70−74;Seifら、1985,J.Virol.,53,926−934;Coulonら、1988 J.Virol.,72,273−278;Tuffereauら、1998,J.Virol.,72,1085−10910;Burgerら、1991,J.Gen.Virol.72,359−367;Gaudinら、1995,J.Virol.69,5528−5534;Benmansourら、1991,J.Viol.,65,4198−4203;Luoら、1998,Microbiol.Immunol.42,187−193;Coll,1997,Arch.Virol.,142,2089−2097;Luoら、1998,Virus Res.,51,35−41、Luoら;1998,Microbiol.Immunol.,42,187−193;Coll,1995,Arch.Virol.,140,827−851;Tuchiyaら、1992,Virus Res.,25,1−13;Morimotoら、1992,Virology 189,203−216;Gaudinら、1992,Virology 187,627−632;Whittら、1991,Virology,185,681−688;Dietzscholdら、1978,J.Gen Virol.,40,131−139;Dietzscholdら、1978,Dev.Biol.Stand,40,45−55;Dietzscholdら、1997,J.Virol.,23,286−293およびOtvosら、1994,Biochim.Biophys.Acta.,1224,68−76の中に見出すことができる。狂犬病Gタンパク質は、欧州特許出願第0445625号にも記載されている。
【0133】
本発明は、配列番号3に示したアミノ酸配列を有する狂犬病Gタンパク質を提供する。本発明はさらにまた、このような狂犬病Gタンパク質をコードすることのできるヌクレオチド配列も提供する。好ましくは、ヌクレオチド配列は配列番号4に示した配列を含む。
【0134】
これらの配列は、下記に示すようにGenBank配列とは相違している。
【化1】

【0135】
ある好ましい実施形態では、本発明のベクターシステムは配列番号3に示したアミノ酸配列を有する狂犬病Gタンパク質の少なくとも一部である、または配列番号3に示したアミノ酸配列を有する狂犬病Gタンパク質の少なくとも一部を含む。
【0136】
狂犬病Gタンパク質の使用は、狂犬病ウイルスに優先的に感染する標的細胞にインビボで優先的に形質導入する。これは特にインビボの神経標的細胞を含む。ニューロン標的ベクターのためには、例えばERAのような狂犬病の病原性株からの狂犬病Gが特に有効な可能性がある。他方、狂犬病Gタンパク質は試験されたほぼすべての哺乳類および家禽類細胞型を含むインビトロでの幅広い標的細胞範囲を与える(Segantiら、1990,Arch Virol.,34,155−163;Fieldsら、1996,Fields Virology,第3版、第2巻、Lippincott−Raven Publishers,フィラデルフィア、ニューヨーク州)。
【0137】
シュードタイピングベクター粒子の親和性は、細胞外ドメイン内で修飾される変異体狂犬病Gの使用によって修飾することができる。狂犬病Gタンパク質は、標的細胞範囲を制限するために突然変異させることのできる長所を有する。標的細胞によるインビボでの狂犬病ウイルスの取り込みはアセチルコリンレセプター(AchR)によって媒介されると考えられているが、インビボで結合する他のレセプターが存在する可能性がある(Hanhamら、1993,J.Virol.,67,530−542;Tuffereauら、1998,J.Virol.,72,1085−1091)。ウイルス侵入のためには、NCAM(Thoulouzeら、1998,J.Virol.,72(9):7181−90)およびp75ニューロトロフィンレセプター(Tuffereau Cら、1998,Embo J.17(24)7250−9)を含む、神経系において複数のレセプターが使用されると考えられる。
【0138】
狂犬病Gタンパク質の抗原性部位IIIにおける突然変異がウイルス親和性に及ぼす作用が調査されてきたが、この領域はアセチルコリンレセプターへのウイルスの結合には関係していないと思われる(Kuceraら、1985,J.Virol.,55,158−162;Dietzscholdら、1983,Proc.Natl.Acad.Sci.80,70−84;Seifら、1985,J.Virol.,53,926−934;Coulonら、1998,J.Virol.,72,273−278;Tuffereauら、1998,J.Virol.,72,1085−10910)。例えば、成熟タンパク質におけるアミノ酸333でのアルギニンからグルタミンへの突然変異を使用すると、中枢神経系への伝播を減少させながらインビボでの嗅覚および末梢ニューロンへのウイルス侵入を制限することができる。これらのウイルスは、野生型ウイルスと同様に効率的に運動ニューロンおよび感覚ニューロンに貫通することができたが、経ニューロン移動は発生しなかった(Coulonら、1989,J.Virol.63,3550−3554)。その中で333番目のアミノ酸が突然変異しているウイルスは、筋肉内注射後に運動ニューロンまたは感覚ニューロンのどちらにも感染することができないようにさらに弱毒化される(Coulonら、1989,J.Virol.72,273−278)。
【0139】
あるいはまた、または追加して、狂犬病の実験的継代培養株からの狂犬病Gタンパク質を使用することができる。これらは親和性変性をスクリーニングしうる。このような株は下記を含む。
【0140】
【表1】

【0141】
例えば、ERA株は狂犬病の病原性株であり、この株からの狂犬病Gタンパク質はニューロン細胞の形質導入に使用できる。ERA株からの狂犬病Gの配列はGenBankデータベース内にある(アクセッション番号J02293)。このタンパク質は19アミノ酸のシグナルペプチドを有しており、成熟タンパク質は翻訳開始メチオニンから20アミノ酸のリシン残基で始まる。HEP−Flury株は、成熟タンパク質内のアミノ酸位置333でアルギニンからグルタミンへの突然変異を含むが、これは病原性の低下と相関しており、ウイルスエンベロープの親和性を制限するために使用できる。
【0142】
国際公開第99/61639号明細書は、狂犬病ウイルス株ERAについての核酸およびアミノ酸配列を開示している(GenBank RAVGPLS座、アクセッション番号M38452)。
【0143】
突然変異体、変種、ホモログおよびフラグメント
ベクターシステムは、狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくはフラグメントの少なくとも一部である、またはそれらを含む。
【0144】
用語「野生型」は、天然タンパク質(即ち、ウイルスタンパク質)と同一である一次アミノ酸配列を有するポリペプチドを意味するために使用される。
【0145】
用語「突然変異体」は、1つ以上のアミノ酸付加、置換または欠失によって野生型配列とは相違する一次アミノ酸配列を有するポリペプチドを意味するために使用される。突然変異体は、自然に発生することがある、または人工的に作製することができる(例えば、部位特異的突然変異誘発)。好ましくは、突然変異体は野生型配列と少なくとも90%の配列同一性を有する。好ましくは、突然変異体は野生型配列全体に渡って20以下の突然変異を有する。より好ましくは、突然変異体は野生型配列全体に渡って10以下の突然変異、最も好ましくは5以下の突然変異を有する。
【0146】
用語「変種」は、野生型配列とは相違する天然型ポリペプチドを意味するために使用される。変種は、同一ウイルス株内で見つけることができる(即ち、タンパク質の2つ以上のアイソフォームがある場合)、または相違する株内で見つけることができる。好ましくは、変種は野生型配列と少なくとも90%の配列同一性を有する。好ましくは、変種は野生型配列全体に渡って20以下の突然変異を有する。より好ましくは、変種は野生型配列全体に渡って10以下の突然変異、最も好ましくは5以下の突然変異を有する。
【0147】
ここで、用語「ホモログ」は、野生型アミノ酸配列および野生型ヌクレオチド配列との一定の相同性を有する実体を意味する。ここで、用語「相同性」は「同一性」と同等視することができる。
【0148】
この状況では、相同配列は対象配列と少なくとも75、85もしくは90%同一、好ましくは少なくとも95もしくは98%同一であってよいアミノ酸配列を含むと考えられる。典型的には、ホモログは対象アミノ酸配列と同一の活性部位等を含むであろう。相同性は類似性(即ち、類似の化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)の観点から考察することができるが、本発明の状況では相同性を配列同一性の観点から述べることが好ましい。
【0149】
この状況では、相同配列は対象配列と少なくとも75、85もしくは90%同一性、好ましくは少なくとも95もしくは98%同一性であってよいヌクレオチド配列を含むと考えられる。典型的には、ホモログは対象配列と同一の活性部位等をコードする配列を含むであろう。相同性は類似性(即ち、類似の化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)の観点から考察することができるが、本発明の状況では相同性を配列同一性の観点から述べることが好ましい。
【0150】
相同性の比較は、目で見て、または通常は容易に利用できる配列比較プログラムを用いて実施できる。これらの市販で入手できるコンピュータープログラムは2つ以上の配列間の相同性率(%)を計算することができる。
【0151】
相同性率(%)は、隣接配列に渡って計算することができる、即ち1つの配列が他の配列とアラインされ、1度に1残基ずつ、1つの配列内の各アミノ酸が他の配列内の対応するアミノ酸と直接に比較される。これは「ギャップを入れない」アライメントと呼ばれている。典型的には、このようなギャップを入れないアライメントは相当に短い残基数に渡ってのみ実施される。
【0152】
これは極めて単純で一貫性のある方法であるが、例えばその他の点では同一の配列対において1つの挿入もしくは欠失がその後のアミノ酸残基がアライメントから取り出されることを引き起こすことを考慮に入れることができないので、従って潜在的に全体的なアライメントが実施されるときには相同性率(%)に大きな低下が生じる。その結果として、大多数の配列比較法は、総合的相同性スコアを過度にペナルティを科すことなく可能性のある挿入および欠失を考慮に入れた最適アライメントを作り出すように設計されている。これは、局所的相同性を最大化することを試みるために配列アライメントに「ギャップ」を挿入することによって達成される。
【0153】
しかしこれらのより複雑な方法はアライメントにおいて発生する各ギャップに「ギャップペナルティ」を指定するので、その結果、同一数の同一アミノ酸に対しては、2つの比較配列間における高度の相関度を反映してできる限り少数のギャップを含む配列アライメントの方が多数のギャップを含む配列アライメントより高いスコアを達成するであろう。典型的にはギャップの存在に対する相当に高いコストおよびギャップにおけるそれに続く各残基に対する小さなペナルティを課する「アフィンギャップコスト」が使用される。これは最も一般的に使用されるギャップスコアリング系である。高いギャップペナルティは当然ながらギャップが少数である最適化されたアライメントを作り出すであろう。大多数のアライメントプログラムはギャップペナルティの変更を許容する。しかし、配列比較のためにそのようなソフトウエアを使用する場合は、デフォルト値を使用するのが好ましい。例えばGCGウィスコンシン・ベストフィット(Wisconsin Bestfit)パッケージを使用する場合は、アミノ酸配列に対するデフォルトギャップペナルティは、ギャップについては−12、および各伸長については−4である。
【0154】
このため最高相同性率(%)の計算には、最初にギャップペナルティを考慮に入れて最適アライメントを作ることが必要である。このようなアライメントを実施するために適切なコンピュータープログラムは、GCGウィスコンシン・ベストフィット(Wisconsin Bestfit)パッケージ(米国ウィスコンシン大学;Devereuxら、1984,Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を実施できるその他のソフトウエアの例には、BLASTパッケージ(Ausubelら、1999、上記の箇所−第18章参照)、FASTA(Atschulら、1990,J.Mol.Biol.,403−410)および比較ツールのGENEWORKS一式が含まれるが、それらに限定されない。BLASTおよびFASTAは、どちらもオフラインおよびオンライン検索のために利用できる(Ausubelら、1999、前記の箇所に−第7−58〜7−60頁参照)。しかし一部の用途には、GCG Bestfitプログラムを使用するのが好ましい。BLAST 2 Sequencesと呼ばれる新規のツールもまた、タンパク質およびヌクレオチド配列を比較するために利用できる(FEMS Microbiol Lett,1999,174(2):247−50;FEMS Microbiol Lett、1999,177(1):187−8およびtatiana@ncbi.nlm.nih.govを参照)。
【0155】
最終相同性率(%)は同一性に関して測定できるが、アライメントプロセス自体は典型的には全か無かの対比較には基づいていない。その代わりに、化学的類似性または進化的距離に基づいて各対比較へスコアを指定する類似性計量スコアマトリックスが使用されている。このような一般に使用されているマトリックスの例は、BLOSUM62マトリックス−BLASTプログラム一式のためのデフォルトマトリックスである。GCG Wisconsinプログラムは、一般にパブリックデフォルト値、または提供された場合はカスタムシンボル比較表のどちらかを使用する(詳細についてはユーザーマニュアルを参照)。一部の用途には、GCGパッケージのためのパブリックデフォルト値を使用するのが好ましいが、例えばBLOSUM62のような他のソフトウエアの場合はデフォルトマトリックスを使用するのが好ましい。
【0156】
ソフトウエアが最適アライメントを作り出すと、相同性率(%)、好ましくは配列同一性率(%)を計算することができる。ソフトウエアは、典型的にはこれを配列比較の一部として実行し、数値による結果を作成する。
【0157】
配列はさらにまた、サイレントな変化を作り出して機能的に等価の配列を生じさせるアミノ酸残基の欠失、挿入または置換を有することがある。意図的なアミノ酸置換は、極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/またはその物質の二次結合活性が維持されている限り残基の両親媒性に基づいて行うことができる。例えば、負電荷アミノ酸にはアスパラギン酸およびグルタミン酸;正電荷アミノ酸にはリシンおよびアルギニン;および類似の親水性値を有する非電荷極性頭基を含むアミノ酸にはロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンが含まれる。
【0158】
保存的置換は、例えば下記の表に従って行うことができる。第2欄の同一ブロックおよび好ましくは第3欄の同一行に含まれるアミノ酸は相互に置換させることができる。
【0159】
【表2】

【0160】
本発明は、さらにまた例えば塩基性対塩基性、酸性対酸性、極性対極性等のような同種置換を発生させることのできる相同置換(ここでは置換(substitution)および置換(replacement)はどちらも既存アミノ酸残基を代替残基と取り替えることを意味するために使用されている)を含む。非相同置換は、さらにまたあるクラスの残基から別のクラスの残基への、あるいはまた例えばオルニチン(以下ではZと呼ぶ)、ジアミノブチル酸オルニチン(以下ではBと呼ぶ)、ノルロイシンオルニチン(以下ではOと呼ぶ)、ピリルアラニン、チエニルアラニン、ナフチルアラニンおよびフェニルグリシンのような非天然アミノ酸の包含を含めて発生することができる。
【0161】
置換はさらにまた下記を含む非天然アミノ酸によっても行うことができる;アルファおよびアルファ−二基置換アミノ酸類、N−アルキルアミノ酸類、乳酸、例えばトリフルオロチロシン、p−Cl−フェニルアラニン、p−Br−フェニルアラニン、p−l−フェニルアラニン、L−アリル−グリシン、β−アラニン、L−α−アミノブチル酸、L−γ−アミノブチル酸、L−α−イソアミノブチル酸、L−ε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタノン酸、L−メチオニンスルホン#*、L−ノルロイシン、L−ノルバリン、p−ニトロ−L−フェニルアラニン、L−ヒドロキシプロリン、L−チオプロリンのような天然アミノ酸類のハロゲン化物誘導体類、例えば4−メチル−Phe、ペンタメチル−Phe、L−Phe(4−アミノ)#、L−Tyr(メチル)、L−Phe(4−イソプロピル)、L−Tic(1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボキシル酸)、L−ジアミノプロピオン酸#およびL−Phe(4−ベンジル)のようなフェニルアラニン(Phe)のメチル誘導体類。記号は上記の(相同または非相同置換に関連する)考察のために、誘導体の疎水性の性質を示すために利用されており、#は誘導体の親水性の性質を示すために利用されており、#は両親媒性の特徴を示している。
【0162】
変種アミノ酸配列は、例えばグリシンもしくはβ−アラニン残基のようなアミノ酸スペーサーに加えて例えばメチル、エチルもしくはプロピル基のようなアルキル基を含む配列のいずれか2つのアミノ酸残基間に挿入できる適切なスペーサー基を含んでいてよい。また別の変種の形は、ペプトイド形の1つ以上のアミノ酸残基の存在を含むが、当業者には明確に理解されるであろう。疑念が生じるのを回避するために、「ペプトイド形」は、α−カルボン置換基がα−カルボンではなくむしろ残基の窒素原子上に存在する変種アミノ酸残基を意味するために使用されている。ペプトイド形のペプチド類を調製するためのプロセスは、当分野で知られているが、例えばSimon RJら、PNAS(1992),89(2),9367−9371およびHorwell DC,Trends Biotechnol.,(1995),13(4),132−134を参照されたい。
【0163】
用語「フラグメント」は、ポリペプチドが野生型アミノ酸配列の1部分を含むことを示している。フラグメントは、配列の1つ以上の大きな連続区間または複数の小区間を含むことができる。ポリペプチドは、さらにまた配列の他のエレメントを備えていてよいが、例えばそれは他のタンパク質との融合タンパク質であってよい。好ましくは、ポリペプチドは野生型配列の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも65%、最も好ましくは少なくとも80%を含む。
【0164】
機能に関して、突然変異体、変種、ホモログもしくはフラグメントは、適切なベクターをシュードタイピングするために使用したときにTH陽性ニューロンを形質導入することができなければならない。
【0165】
狂犬病G配列の突然変異体、変種、ホモログもしくはフラグメントは、あるいはまた、または追加してベクターシステム上での逆行性輸送の能力を付与することができなければならない。
【0166】
本発明で使用するベクター送達系は、ここに提示するヌクレオチド配列へハイブリダイズすることのできるヌクレオチド配列(ここに提示する配列の相補的配列を含む)を備えていてよい。ある好ましい態様では、本発明は、ストリンジェントな条件(例、65℃および0.1SSC)下で本発明のヌクレオチド配列をここに提示したヌクレオチド配列(ここに提示する配列の相補的配列を含む)へハイブリダイズできるヌクレオチド配列を包括している。
【0167】
狂犬病糖タンパク質を使用することの1つの潜在的長所は、狂犬病ワクチンが広範に使用されているためにヒトおよびその他の動物にとっての毒性に関する詳細な知識が得られていることにある。特定第1相において、臨床試験ではヒト用ワクチンとしてのカナリア疱瘡組換えウイルスから発現させた狂犬病糖タンパク質の使用に関して報告されており(Friesら、1996,Vaccine 14,428−434)、これらの試験はこのワクチンがヒトにおいて使用するのに安全であると結論付けた。
【0168】
TH陽性ニューロンを形質導入するための狂犬病Gシュードタイピングベクターを使用するもう1つの長所は、逆行性輸送が可能な点にある(下記参照)。
【0169】
狂犬病GおよびVSV−Gシュードタイピングベクターシステムは、どちらもTH陽性ニューロンを形質導入できることが証明されている。
【0170】
TH陽性ニューロン
ここで使用する用語「TH陽性ニューロン」は、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)を産生できる神経細胞である。チロシンヒドロキシラーゼの産生は、チロシンヒドロキシラーゼmRNA(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ノーザンブロッティング法)またはタンパク質(免疫標識、放射標識、ELISAに基づく方法、)の産生を測定するよく知られた方法によって測定できる。さらに、代謝産物の産生は、電気化学的検出法を用いるHPLCを含むよく知られた方法によって測定できる。THは、ドーパミン作動性ニューロン、ノルアドレナリン作動性ニューロンおよび副腎細胞によって発現する。
【0171】
中脳カテコールアミン作動性TH陽性細胞は、ドーパミンを産生することができる。ドーパミンおよびノルアドレナリンの産生について下記に要約する。
チロシン−1→L−DOPA−2→ドーパミン−3→ノルアドレナリン
1=チロシンヒドロキシラーゼ
2=DOPAデカルボキシラーゼ
3=ドーパミン−βヒドロキシラーゼ
【0172】
ノルアドレナリン作動性ニューロンは全3種の酵素を発現するが、ドーパミン作動性ニューロンはチロシンヒドロキシラーゼおよびDOPAデカルボキシラーゼを発現するが、ドーパミン−βヒドロキシラーゼを発現しない。
【0173】
チロシンヒドロキシラーゼは、ドーパミン産生のための生化学的経路における律速酵素であり、一般に当分野ではドーパミン作動性ニューロンのマーカーとして使用されている。ドーパミン作動性ニューロンは、細胞内のドーパミン−βヒドロキシラーゼ欠如によってノルアドレナリン作動性ニューロンと識別することができる。
【0174】
TH陽性細胞は、ドーパミン作動性神経組織内で発見できる、または単離できる。ドーパミン作動性神経組織は、成熟状態では相当に多数のドーパミン作動性細胞体を含有しているCNSの領域から取り出すことができる。ドーパミン作動性神経組織は、網膜、嗅球、視床下部、台形体背側核、孤束核、水道周囲灰白質、腹側被蓋、および黒質の領域で発見される。
【0175】
EOI/NOI
幅広い態様で、本発明は目的とする構成要素(「EOI」)を輸送できるベクターシステムに関する。
【0176】
EOIは、化学的化合物、生物学的化合物またはその組み合わせであってよい。例えば、EOIはタンパク質(例、成長因子)、ヌクレオチド配列、有機および/または無機医薬品(例、鎮痛剤、抗炎症薬、ホルモン、脂質)、またはその組み合わせであってよい。
【0177】
好ましくは、EOIは1つ以上のNOI(対象のヌクレオチド配列)であるが、前記NOIはインビボもしくはインビトロで標的細胞へ送達できる。
【0178】
本発明のベクターシステムがウイルスベクターシステムである場合、そのベクターシステムはウイルス遺伝子が異種NOIであってよい1つ以上のNOIと置換される、またはそれが補われるようにウイルスゲノムを操作することができる。
【0179】
用語「異種」は、それに自然には連結されていない核酸もしくはタンパク質配列へ連結されている核酸もしくはタンパク質配列を意味する。
【0180】
本発明では、用語NOIには必ずしも完全に自然に発生するDNAもしくはRNA配列である必要はないあらゆる適切なヌクレオチド配列が含まれている。従って、NOIは例えば合成RNA/DNA配列、組換えRNA/DNA配列(即ち、組換えDNA法の使用によって調製される)、cDNA配列または部分ゲノムDNA配列であってよく、その組み合わせを含む。配列は、コーディング領域である必要はない。コーディング領域である場合は、完全コーディング領域である必要はない。さらに、RNA/DNA配列は、センス方向またはアンチセンス方向にあってよい。好ましくは、RNA/DNA配列はセンス方向にある。好ましくは、この配列はcDNAである、cDNAを含む、またはcDNAから転写されている。
【0181】
レトロウイルスベクターゲノムは、一般に1つ以上のNOI(s)を挿入するために適切な挿入部位である5’および3’末端でのLTR、および/またはプロデューサー細胞内のベクター粒子内にゲノムをパッケージングできるためのパッケージングシグナルを備えていてよい。さらにベクターRNAからDNAへの逆転写およびプロウイルスDNAの標的細胞ゲノム内への組込みを許容する適切なプライマー結合部位および組込み部位があってもよい。ある好ましい実施形態では、レトロウイルスベクター粒子は逆転写系(適合する逆転写およびプライマー結合部位)および組込み系(適合するインテグラーゼおよび組込み部位)を有する。
【0182】
EOI/NOIは、対象タンパク質(「POI」)であってよい、またはコードすることができる。この方法で、ベクター送達系を使用すると、標的細胞(例、TH陽性ニューロン)上の外来遺伝子の発現の作用を調査することができよう。例えば、レトロウイルス送達系を使用すると、TH陽性ニューロンへの特定作用についてcDNAライブラリーをスクリーニングすることができよう。
【0183】
例えば、トランスフェクトされたTH+細胞がアポトーシス誘発因子の存在下で生き残ることを可能にするであろうドーパミン作動性ニューロンに対する新規の生存/神経保護因子を同定できよう。
【0184】
EOI/NOIは、標的細胞のゲノム内に組み込むことができる。
【0185】
EOI/NOIは、標的細胞(TH陽性ニューロンであってよい)中の遺伝子の発現を遮断もしくは阻害できる可能性がある。例えば、NOIはアンチセンス配列であってよい。アンチセンス技術を使用した遺伝子発現の阻害はよく知られている。
【0186】
EOI/NOIもしくはNOI由来の配列は、標的細胞(例えば、TH陽性ニューロンであってよい)中の特定遺伝子の発現を「ノックアウト」することができよう。当分野で知られた数種の「ノックアウト」戦略がある。例えば、NOIは、特定遺伝子の発現を中断させることができるようにTH陽性ニューロンのゲノム内に組み込むことができよう。NOIは、例えば未熟停止コドンを導入することによって、下流コーディング配列をフレームから取り除くことによって、またはコードされたタンパク質の折り畳み能力に影響を及ぼすことによって(それによりその機能に影響を及ぼす)発現を中断させることができよう。
【0187】
あるいはまた、EOI/NOIは、標的細胞(TH陽性ニューロンであってよい)中の遺伝子の異所性発現を増強または誘発することができよう。NOIもしくはそれに由来する配列は特定遺伝子の発現を「ノックイン」することができよう。
【0188】
特定遺伝子を発現する、または特定遺伝子の発現が欠如する形質導入されたTH陽性ニューロンは薬物送達および標的バリデーションにおいて用途がある。この発現系を使用すると、例えば細胞内のアポトーシスの誘発を防止または無効にすることのできる遺伝子もしくはタンパク質のような、どの遺伝子がTH陽性ニューロンに所望の作用を有するのかを判定できよう。同様に、特定遺伝子の発現の阻害もしくは遮断はTH陽性ニューロンに望ましくない作用を及ぼすことが発見されており、これは遺伝子の発現が消失しないことを保証する治療戦略の可能性を開くことができよう。
【0189】
ベクター送達系によって送達されたEOI/NOIは、標的細胞を不死化することができよう。当分野で多数の不死化技術が知られている(例えば、Katakura Y.ら、1998,Methods Cell Biol.,57:69−91を参照)。
【0190】
用語「不死化」は、ここでは約2ヵ月間を越えて連続培養中で維持でき、10継代を越えて培養内で増殖することのできる細胞について使用される。
【0191】
不死化TH陽性ニューロンは、実験方法、スクリーニングプログラムおよび治療適用において有用である。例えば、不死化TH+ニューロンは、特にパーキンソン病を治療するための移植術に使用できよう。
【0192】
ベクター送達系によって送達されたEOI/NOIは、選択またはマーカー目的に使用できよう。例えば、NOIは選択遺伝子、もしくはマーカー遺伝子であってよい。レトロウイルスベクターでは多数の様々に選択可能なマーカーが使用されて良好な結果が得られてきた。これらは「Retroviruses(レトロウイルス類)」(1997 Cold Spring Harbour Laboratory Press 編集:JM Coffin,SM Hughes,HE Vamus,第444頁)に論評されており、下記を含むが、それらに限定されない。G418およびヒグロマイシン各々に耐性を付与する細菌ネオマイシンおよびヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子;メトトレキセートに耐性を付与する突然変異体マウスジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子;細胞がミコフェノール酸を含有する培地中で増殖することを可能にする細菌gpt遺伝子;キサンチンおよびアミノプテリン;ヒスチジンは含まないがヒスチジノールは含有する培地中で細胞が増殖することを可能にする細菌ヒスD遺伝子;様々な薬剤に耐性を付与する多剤耐性遺伝子(mdr);およびピューロマイシンもしくはフレオマイシンに耐性を付与する細菌遺伝子。これらのマーカーは全部が優性選択可能であり、これらの遺伝子を発現する大多数の細胞の化学的選択を許容する。
【0193】
EOIは、治療作用を有するタンパク質を有する、またはコードすることができる。例えば、ベクター送達系によって送達されたNOIは遺伝子自体が治療作用を引き出すことができる、または治療作用を引き出すことのできる生成物をコードすることができるという意味において、治療遺伝子であってよい。
【0194】
ある好ましい実施形態では、EOIは(またはNOIがコードすることができる)神経保護分子である。詳細には、EOI(s)は(またはNOI(s)がコードすることができる)損傷した黒質線条体系内でTH陽性ニューロンが死ぬのを防止する、または再生および機能修復を刺激する分子であってよい。また別の実施形態では、EOI(s)は(またはNOI(s)がコードすることができる)例えばチロシンヒドロキシラーゼのようなL−DOPAもしくはドーパミン合成に対して責任を負う1種もしくは複数の酵素であってよい。
【0195】
本発明によれば、適切なEOIには、例えば下記を含むがそれらに限定されないような治療適用および/または診断適用の構成成分である(または構成成分を作製できる)構成成分が含まれる。サイトカイン類、ケモカイン類、ホルモン類、抗体類、抗酸化分子類、工学的イムノグロブリン様分子、一本鎖抗体、融合タンパク質類、酵素類、免疫共刺激分子類、免疫調節分子類、アンチセンスRNA、標的タンパク質のトランスドミナントネガティブ変異体、毒素、条件付き毒素、抗原、腫瘍抑制タンパク質および成長因子類、膜タンパク質類、血管作用性タンパク質類およびペプチド類、抗ウイルスタンパク質類およびリボザイム類、およびその誘導体類(例えば、関連レポーター基)。EOIは、プロドラッグ活性化酵素であってよい。EOIは、このリストのメンバーをコードするNOIであってよい。
【0196】
ここで使用する「抗体」には、免疫グロブリン分子全体もしくはその一部または生体同配体もしくはその模倣物またはその誘導体またはその組み合わせが含まれる。その一部の例には下記が含まれる。Fab、F(ab)’およびFv。生体同配体の例には一本鎖Fv(ScFv)フラグメント類、キメラ抗体類、二官能抗体類が含まれる。
【0197】
用語「模倣物」は、その抗体と同一結合特異性を有するペプチド、ポリペプチド、抗体もしくはその他の有機化学物質であってよい。
【0198】
ここで使用する用語「誘導体」には、抗体の化学修飾が含まれる。このような修飾の例はアルキル、アシル、またはアミノ基による水素の置換であろう。
【0199】
EOI/NOIは、さらにまた抗アポトーシス因子もしくは神経保護分子であってよい、またはコードすることができる。プログラムされた細胞死中の細胞の生存は、臨界的にそれらが主として他の細胞との相互作用の結果引き出される「栄養」分子シグナルに近づく能力に依存している。例えば、NOIは、例えば毛様体神経栄養因子(CNTF)もしくはグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)のような神経栄養因子をコードすることができる、または細胞死カスケードの調節に含まれる遺伝子(例、Bcl−2)であってよい。これはヒトにおける傷害、疾患、および/または老化によって誘発されるニューロンおよびグリア細胞死を停止させることを含む治療戦略において有用な可能性がある。
【0200】
さらにまた別の実施形態では、本発明は
(i)複数の候補化合物をコードすることができるcDNAライブラリーをTH陽性ニューロンに形質導入するステップと、
(ii)形質導入されたTH陽性ニューロンをアポトーシス誘発物質に暴露させるステップと、
(iii)候補化合物が発現されるTH陽性ニューロンがステップ(ii)中のアポトーシスを回避させることができる候補化合物を選択するステップと
を含むTH陽性ニューロンに対する神経保護および/または生存因子をスクリーニングするための方法を提供する。
【0201】
TH陽性細胞は、本発明の第1態様の使用と結び付けて説明される系を使用して形質導入することができる。
【0202】
本発明は、さらにまた上記の方法によって同定されたTH陽性ニューロンに対する神経保護および/または生存因子を提供する。
【0203】
EOI/NOIは、ドーパミン合成に含まれる酵素であってよい、またはコードすることができる。例えば、この酵素は下記の内の1つであってよい。チロシンヒドロキシラーゼ、GTP−シクロヒドロラーゼ1および/または芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼ。全3種の遺伝子の配列を入手できる。登録番号は各々、X05290、U19523およびM76180。
【0204】
あるいはまたEOI/NOIは、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT 2)であってよい、またはコードすることができる。ある好ましい実施形態では、ウイルスゲノムは芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼをコードするNOIおよびVMAT 2をコードするNOIを含む。このようなゲノムは、特にL−DOPAの末梢投与と結び付けて、パーキンソン病の治療において使用できる。
【0205】
あるいはまたEOI/NOIは、黒質線条体系における変性を遮断もしくは阻害することのできる因子であってよい、またはコードすることができる。このような因子の例は神経栄養因子である。このような因子の例は、神経栄養因子である。例えば、NOIはグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)または脳由来神経栄養因子(BDNF)をコードすることができる。
【0206】
例えばパーキンソン病の治療において特に有用であるのは、2種以上の因子をコードするマルチシストロニックレンチウイルスベクター類である。このようなベクターは、チロシンヒドロキシラーゼ、GTP−シクロヒドロラーゼ1および/または芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼをコードすることができる。
【0207】
この疾患にTH+ニューロンの死が関連している場合は、EOI/NOIはTH陽性ニューロンが死亡するのを防止するため、および/またはニューロンの分割および/または神経を再生させる目的で神経前駆物質の分化を刺激するように機能することができる。
【0208】
この疾患にTH陽性ニューロンの機能損傷が関連している場合は、EOI/NOIはこのような機能を回復または置換するために機能することができる。例えば、TH+ニューロンのドーパミン産生活性が一定の遺伝子の制限された活性のために損傷した場合、EOI/NOIは特定遺伝子を活性化または置換するために役立つことができる。
【0209】
スクリーニング法
また別の態様では、本発明は、さらにまた多数のスクリーニング法、そのような方法によって単離可能な因子類、およびそのような因子類の使用を提供する。下記ではナンバリングした段落により本発明のこれらの態様を提示する。
【0210】
1.(i)複数の候補化合物をコードすることができるcDNAライブラリーをエクスプレッサー細胞に形質導入するステップと、
(ii)複数の候補化合物を発現させ、発現した化合物をTH陽性ニューロンと接触させるステップと、
(iii)移動および/またはTH陽性ニューロンの形態における変化を惹起する候補化合物を選択するステップと
を含む、TH陽性ニューロンに対する栄養因子をスクリーニングするための方法。
【0211】
エクスプレッサー細胞は、TH陽性ニューロン細胞、例えばグリア細胞であってよい。
【0212】
エクスプレッサー細胞は、レンチウイルスベクターシステム、例えば本発明の第1態様で使用される系を使用して形質導入することができる。
【0213】
2.第1段落の方法によって同定されたTH陽性ニューロンに対する栄養因子。
【0214】
3.(i)複数の候補化合物をコードすることができるcDNAライブラリーをTH陽性ニューロンに形質導入するステップと、
(ii)形質導入されたTH陽性ニューロンをアポトーシス誘発物質に暴露させるステップと、
(iii)その中でそれが発現するTH陽性ニューロンにステップ(ii)中のアポトーシスを回避させる候補化合物を選択するステップと
を含む、TH陽性ニューロンに対する神経保護および/または生存因子をスクリーニングするための方法。
【0215】
TH陽性細胞は、本発明の第1態様の使用と結び付けて説明される系を使用して形質導入することができる。
【0216】
4.第3段落の方法によって同定されたTH陽性ニューロンに対する神経保護および/または生存因子。
【0217】
5.(i)複数の候補化合物をコードすることができるcDNAライブラリーを神経前駆細胞に形質導入するステップと、
(ii)複数の候補化合物を発現させ、発現した化合物を神経前駆細胞と接触させるステップと、
(iii)神経前駆細胞の分化を惹起する候補化合物を選択するステップと
を含む、神経前駆細胞の分化を刺激することのできる分化因子をスクリーニングするための方法。
【0218】
エクスプレッサー細胞は、TH陰性ニューロン細胞、例えばグリア細胞であってよい。エクスプレッサー細胞は、細胞の混合物の一部、例えば一般中脳細胞であってよい。
【0219】
エクスプレッサー細胞は、レンチウイルスベクターシステム、例えば本発明の第1態様で使用される系を使用して形質導入することができる。
【0220】
6.ステップ(iii)において分化がTH陽性細胞の外観を測定することによって監視される第5段落に記載の方法。
【0221】
7.第5または6段落の方法によって同定された分化因子。
【0222】
8.移植後に神経前駆細胞の移植片を分化させる際に使用するための第7段落に記載の分化因子。
【0223】
9.(i)前記対象に神経前駆細胞を移植するステップと、
(ii)第8段落に記載の分化因子を使用して移植された細胞を分化させるステップと
を含む、治療および/または予防が必要な対象において疾患を治療および/または予防するための方法。
【0224】
医薬組成物
本発明はさらにまた、医薬組成物の製造におけるベクター送達系の使用を提供する。この医薬組成物は、例えばNOIのようなEOIを必要とする標的細胞へ送達するために使用できる。標的細胞は、例えばTH陽性ニューロンであってよい。
【0225】
ベクター送達系は、非ウイルス送達系またはウイルス送達系であってよい。
【0226】
一部の好ましい態様では、ベクター送達系はウイルスベクター送達系である。
【0227】
さらにまた別の一部の好ましい態様では、ベクター送達系はレトロウイルスベクター送達系である。
【0228】
この医薬組成物は遺伝子療法によって個体を治療するために使用でき、この組成物は本発明に記載の治療有効量のベクターシステムを含む、またはそれを産生することができる。
【0229】
本発明の方法および医薬組成物は、ヒトまたは動物対象を治療するために使用できる。好ましくは、対象は哺乳類対象である。より好ましくは、対象はヒトである。典型的には、医師が個々の対象のために最も適切な実際用量を決定し、それは特定患者の年齢、体重および反応に伴って変動するであろう。
【0230】
この組成物は任意で医薬上許容される担体、希釈剤、賦形剤もしくはアジュバントを含むことができる。医薬上の担体、賦形剤もしくは希釈剤の選択は、予定される投与経路および標準医薬実践に関連して選択できる。この医薬組成物は、担体、賦形剤もしくは希釈剤として(または追加して)、あらゆる適切な結合剤、潤滑剤、懸濁剤、コーティング剤、溶解補助剤、およびその他の標的部位へのウイルス侵入を補助もしくは増加することのできる担体剤(例えば脂質送達系)を含むことができる。
【0231】
適切な場合は、医薬組成物は下記の内の1つ以上によって投与できる。吸入、坐剤もしくはペッサリーの形状で、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤もしくは粉剤の形状で局所的に、皮膚パッチの使用によって、例えばスターチもしくはラクトースのような賦形剤を含有する錠剤の形状で経口的に、または単独もしくは賦形剤と混合してカプセル剤もしくは膣坐剤で、または香料もしくは着色剤を含有するエリキシル剤、液剤もしくは懸濁剤の形状で、または例えば海綿静脈洞内、静脈内、筋肉内もしくは皮下のように非経口注射することができる。非経口投与のためには、この組成物は溶液を血液と等張性にするために十分な例えば塩類もしくは単糖類のような他の物質を含んでいてよい無菌水溶液の形状で最善に使用できる。口腔内もしくは舌下投与のためには、この組成物は従来型方法で調製できる錠剤もしくはトローチ剤の形状で投与してもよい。
【0232】
本発明で使用されるベクターシステムは、好都合にも患者への直接注射によって投与できる。例えばパーキンソン病のような神経変性障害の治療のためには、この系は脳内に注射できる。この系は脳のあらゆる標的領域(例えば、線条体もしくは黒質)に直接注射できる。あるいはまた、狂犬病Gシュードタイピングベクターを使用する場合は、この系は一定の領域内に注射でき、ベクターシステムの逆行性輸送によって標的領域に形質導入することができる。
【0233】
逆行性輸送
本発明は、標的部位に形質導入するためのベクターシステムの使用を提供するが、このときベクターシステムは逆行性輸送によってその部位へ移動する。
【0234】
細胞体は、ニューロンが新規細胞産物を合成する場所である。2種のタイプの輸送系が細胞体から軸索終末へ物質を運んだり運び戻したりする。物質を1日当たり1〜5mm移動させる緩徐な系は緩徐軸索輸送と呼ばれている。これは軸索原形質を一方向にのみ運ぶ(細胞体から軸索終末へ(順行性輸送))。さらにまた細胞体から(順行性)または細胞体へ(逆行性)1日当たり50〜200mmでの膜オルガネラの移動に責任を負っている「高速輸送」もある(Hirokawa,(1997),Curr.Opin.Neurobiol.7(5):605−614)。
【0235】
狂犬病Gタンパク質を含むベクターシステムは、逆行性輸送ができる(即ち、細胞体に向かう移動)。しかし逆行性輸送の正確な機序は不明である。おそらく内在化レセプターと関連するウイルス粒子全体の輸送を含むと考えられる。この方法で狂犬病Gを含むベクターシステムを特別に輸送できるという事実は、(ここに示すように)envタンパク質が含まれていることを示唆している。
【0236】
HSV、アデノウイルスおよびハイブリッドHSV/アデノ随伴ウイルスベクターは、すべて脳内において逆行性方法で輸送されることが証明されている(Horellou and Mallet,(1997),Mol.Neurobiol.,15(2),241−256;Ridouxら、(1994),Brain Res,648:171−175;Constantiniら、(1999),Human Gene Therapy,10:2481−2494)。グリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)を発現するアデノウイルスベクターシステムのラット線条体内への注射は、逆行性輸送によるドーパミン作動性軸索終末および細胞体の両方での発現を許容する(上記のHorellou and Mallet(1997)参照;Bilang−Bleuelら、(1997)、Proc.Natl.Acd.Sci.USA 94:8818−8823)。
【0237】
逆行性輸送は、当分野で知られている多数の機序によって検出できる。本発明の例では、異種遺伝子を発現するベクターシステムが線条体内へ注射され、その遺伝子の発現が黒質内で検出される。黒質から基底核へ伸びるニューロンに沿った逆行性輸送がこの現象の原因であることは明白である。さらにまた標識タンパク質類もしくはウイルス類を監視すること、およびそれらの逆行性移動をリアルタイム共焦点顕微鏡を使用して直接監視することも知られている(上記のHirokawa,(1997)参照)。
【0238】
逆行性輸送によって、形質導入されたニューロンの軸索終末および細胞体の両方において発現を入手することも可能である。細胞のこれらの2つの部分は、神経系の別個の領域に位置していてよい。従って、本発明のベクターシステムの単一投与(例、注射)は多数の遠隔部位に形質導入することができる。
【0239】
従って本発明は、さらにまたベクターシステムが標的部位に形質導入するために少なくとも狂犬病Gタンパク質の一部である、もしくは含むベクターシステムの使用を提供するが、この使用は標的部位から離れている投与部位へベクターシステムを投与するステップを含む。
【0240】
標的部位は、解剖学的に投与部位と結びついているあらゆる対象の部位であってよい。標的部位は、例えば順行性、もしくは(より好ましくは)逆行性輸送のような軸索輸送によって投与部位からベクターを受け入れることができなければならない。所定の投与部位に対しては、当分野で知られている方法によって逆行性トレーサーを使用して同定できる多数の潜在的標的部位が存在する可能性がある(上記のRidouxら、(1994)を参照)。
【0241】
例えば、HSV/AAVアンプリコンベクター類の線条体内注射は、黒質、皮質、数種の視床核(後核、傍室核、傍核、網様核)、赤核前野、深部中脳核、中脳灰白核、および内側縦束並びに背側縦束の間隙核におけるトランス遺伝子発現を惹起する(上記のConstantiniら(1999)を参照)。
【0242】
標的部位は、それが投与部位とは相違する領域に(または主として)位置する場合は、「投与から離れている」と見なされる。2つの部位は、それらの空間位置、形態および/または機能によって識別できる。
【0243】
脳内では、基底核は数対の核から構築され、核対の2つのメンバーは反対側の大脳半球に位置している。最大の核は、尾状核およびレンズ核から構築される線条体である。各レンズ核は、順に被核と呼ばれる外側部分と淡蒼球と呼ばれる内側部分に再分割される。中脳の黒質および赤核および間脳の視床下核は機能的に基底核に連結されている。黒質からの軸索は尾状核または被核で終了する。視床下核は淡蒼球と連絡している。ラットの基底核における導電性については、Oorschot,(1996),J.Comp.Neurol.366:580−599を参照されたい。
【0244】
ある好ましい実施形態では、投与部位は脳の線条体、特に尾状殻である。被核内への注射は例えば淡蒼球、扁桃、視床下核もしくは黒質のような脳の様々な離れた領域内に位置する標的部位を標識できる。淡蒼球における細胞の形質導入は、一般に視床における細胞の逆行性標識を惹起する。ある好ましい実施形態では、標的部位(またはその1つ)は黒質である。
【0245】
また別の好ましい実施形態では、ベクターシステムが脊髄に直接注射される。この投与部位は、脳幹および皮質における遠位接続にアクセスする。
【0246】
所定の標的部位内では、ベクターシステムは標的細胞に形質導入することができる。標的細胞は、例えばニューロン、星状細胞、希突起神経膠細胞、小神経膠細胞もしくは上位細胞のような神経組織において所見される細胞であってよい。ある好ましい実施形態では、標的細胞はニューロン、特にTH陽性ニューロンである。
【0247】
ベクターシステムは、好ましくは直接注射によって投与される。脳(特に線条体)内へ注射する方法は当分野でよく知られている(Bilang−Bleuelら、(1997),Proc.Acad.Natl.Sci.USA 94:8818−8823;Choi−Lundbergら、(1998)、Exp.Neurol.154:261−275;Choi−Lundbergら、(1997),Science 275:838−841;およびMandelら、(1997),Proc.Acad.Natl.Sci.USA 94:14083−14088)。定位注射を行うことができる。
【0248】
上記のように、例えば脳のような組織に形質導入するためには、極めて少量を使用することが不可欠であるので、ウイルス調製物は超遠心分離によって濃縮される。結果として生じた調製物は、少なくとも10t.u./mL、好ましくは10〜1010t.u./mL、より好ましくは少なくとも10t.u./mL、を有する(力価は、標準D17細胞系上で滴定されたように1mL当たりの形質導入単位(t.u./mL)で表現される)。注射部位の数を増加させて注射速度を低下させることによってトランス遺伝子発現の改良分散を入手できることが発見されている(上記のHorellou and Mallet,(1997)を参照)。通常は1〜10ヵ所の注射部位が使用され、より一般的には2〜6ヵ所の注射部位が使用される。1〜5×10t.u./mLを含む用量については、注射速度は一般に0.1〜10μL/min、通常は約1μL/minである。
【0249】
また別の実施形態では、ベクターシステムは末梢投与部位へ投与される。ベクターは、逆行性輸送によってそこから標的部位へ移動できる身体のあらゆる部分に投与することができる。言い換えると、ベクターは標的部位内のニューロンが突き出ている身体のあらゆる部分に投与することができる。
【0250】
「末梢」とはCNS(脳および脊髄)以外の身体のあらゆる部分であると見なすことができる。詳細には、末梢部位はCNSから離れている部位である。感覚ニューロンにはニューロンが分布しているあらゆる組織への投与によってアクセスできる。詳細には、これには皮膚、筋肉および坐骨神経が含まれる。
【0251】
高度に好ましい実施形態では、ベクターシステムは筋肉内投与される。この方法では、系は接種された筋肉に分布しているニューロンを通して遠隔部位へアクセスすることができる。従って、ベクターシステムはCNS(詳細には脊髄)へアクセスするために使用でき、この組織内に直接注射する必要を回避できよう。従ってCNS内のニューロンに形質導入するための非侵襲的方法が提供される。筋肉内投与もまた長期間に渡っての複数回投与を可能にする。
【0252】
この系に関わるまた別の長所は、特定投与部位を選択することによって、標的特定細胞群(例、数組のニューロン)、または特定神経管を標的とするのが可能なことである。
【0253】
ある好ましい実施形態では、ベクターシステムは投与部位に(直接的または間接的に)分布しているニューロンに形質導入するために使用される。標的ニューロンは、例えば運動ニューロンまたは感覚ニューロンであってよい。
【0254】
感覚ニューロンは、さらにまたニューロンが分布しているあらゆる組織への投与によってもアクセスできる。詳細には、これには皮膚および坐骨神経が含まれる。患者が疼痛(詳細には、緩徐な慢性痛)に苦しんでいる場合は、疼痛領域へのベクターシステムの直接投与によって疼痛を伝達することに関係している特定感覚ニューロンを標的とすることができる。
【0255】
疾患
本発明で使用されるベクターシステムは、詳細には例えばニューロンおよび/またはグリア細胞のような神経組織の細胞の死亡または機能障害に関連している疾患を治療および/または予防する際に有用である。
【0256】
詳細には、本発明で使用されるベクターシステムは、TH陽性ニューロンの死亡または機能障害に関連している疾患を治療および/または予防するために使用できよう。
【0257】
治療できる疾患には下記のものが含まれるが、それらに限定されない。パーキンソン病;運動ニューロン疾患およびハンチントン病。
【0258】
詳細には、本発明で使用されるベクターシステムは、パーキンソン病を治療および/または予防する際に有用である。
【0259】
本発明のベクターシステムは、CNSへの非侵襲的アクセスのために使用できるので、脳および/または脊髄に影響を及ぼすあらゆる疾患の治療および/または予防のために適切である。運動ニューロンを標的とできる能力は、このベクターシステムを運動ニューロン疾患の治療および/または予防のために特に適切にする。例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は抗アポトーシス因子を使用すれば治療可能である。脊髄筋萎縮症(新生児における)は、アポトーシスを回避するために生存運動ニューロン遺伝子1を置換することによって予防可能または治療可能である。
【0260】
感覚ニューロンを標的とできる能力は、疼痛緩和において使用するのにこの系を魅力的なものにする。さらにまた痛覚消失過剰における潜在的用途もある。例えば、対麻痺のような状態において感覚ニューロンを再生させるために使用できる。このベクターシステムは、標的部位にRORβ2を提供するために使用できよう。
【0261】
移植
本発明はさらにまた、遺伝的に修飾(例、不死化)されたTH陽性ニューロンおよび移植法におけるその使用を提供する。
【0262】
胎児ドーパミン作動性ニューロン、その他の種からの等価の細胞および神経前駆細胞を使用した移植術プロトコルはよく知られている(Dunnett and Bjorklund,(1999),Nature Vol.399,Supplement,第A32−39頁)。類似の方法は本発明の細胞を移植するためにも使用できよう。
【0263】
今度は実施例を使用して本発明を説明するが、これらは本発明を実行する際に当業者を支援することを目的としており、本発明の範囲を限定することは決して意図していない。実施例については図を参照されたい。
【実施例1】
【0264】
齧歯類中脳培養中の推定ドーパミン作動性(TH+)ニューロンの形質導入
方法
中脳培養 培養は、Lothariusら、(1999)(J.NeuroSci.19:1284−1294)に記載されている通りに正確に調製する。手短には、腹側中脳を胎生14日(E14)CF1マウス胎児(Charles River Laboratories製,ウィリントン、MA)から取り出した。組織を機械的に分解し、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)に溶解させた0.25%トリプシンおよび0.05%DNaseと一緒に37℃で30分間インキュベートし、その後は先のくびれたパスツール・ピペットを用いて突き砕いた。免疫細胞化学的検査のために、細胞は35mmマイクロウエルプレート当たり50,000cellsの密度でプレーティングした(1.25×10cells/mm)。全プレートは、0.5mg/mLのポリ−d−リシンを用いて一晩かけて、引き続き2.5mg/mLのラミニンを用いて室温で2時間かけてプレコーティングした。初回プレーティングはB27添加剤(Life Technologies製、ゲーサーズバーグ、MD)、6g/Lグルコース、および抗菌剤を添加したDMEM:F1中に10%ウシ胎児血清から構成される血清含有培地中で実施する。引き続いて0.5mLのL−グルタミン、0.01mg/mLのストレプトマイシン/100単位ペニシリン、および1×B27サプリメントを添加した無血清Neurobasal培地(Life Technologies製)中で細胞を維持することによって、グリア細胞数を減少させる。48時間毎に培地の半分を新鮮Neurobasal培地と取り替える。
【0265】
DA−遊離 ドーパミンの取り込み、遊離および含量を測定するために、16mmウエル当たり400,000cellsの密度(2×10cells/mm)で細胞をプレーティングする。DA遊離を測定するために、細胞に2.4Ci/ml 3H−DA/KRSを37℃で20分間付加し、3分間ずつ3回洗浄する。ベックマン(Beckman)シンチレーションカウンターを使用して洗浄したサンプルからの放射能計数を測定し、これを3H−DA遊離の基本レベルについてのコントロールとして使用する。その後、KRS中の30mM K+(Dalman & O‘Malley,1999,J.Neurosci.,19:5750−5757に記載されている通りに調整した)を用いて細胞を5分間処理し、この期間中に遊離した3H−DAの量を収集する。引き続き、培養を広範囲に洗浄し、凍結融解によって0.1N PCA中に溶解させ、残留している細胞内3H−DAを測定する。酸溶解液を含めて、収集した全フラクションからのトリチウム含量の合計によって総3H−DA取り込みを計算する。
【0266】
プラスミドの構成
a)ベクタープラスミド
使用したナンバリングは、Payneら、1994(J.Gen Virol.,75:425−429)に記載されている通りである。ベクターのpONYシリーズおよびそれらの様々なエンベロープを用いたシュードタイピングは以前に記載されている(国際公開第99/61639号明細書)(Mitrophanousら、1999,Gene THer.1999,6:1808−1818)。pONY8Z(図13、配列番号1)は、tatのエキソン2における83nt欠失によるTATの発現を防止し、51nt欠失によるS2発現を防止し、revのエキソン1内の単一塩基の欠失によるREV発現を防止し、さらにgagの最初の2個のATGコドンにおけるTの挿入によるgagのN末端部分の発現を防止し、それによってATGからのATTGの配列を変化させる突然変異を導入することによってpONY4.0Zから取り出した(国際公開第99/32646号明細書)。野生型EIAV配列(登録番号第U01866号)に関して、これらはnt5234〜5316、nt5346〜5396およびnt5538の欠失に対応する。pONY8.0G(図14、配列番号2)は、強化緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子とのLac Zレポーター遺伝子の交換によってpONY8Zから取り出した。これはGFP遺伝子に対応するSac II−Kpn Iフラグメントおよびフランキング配列をpONY4.0G(国際公開第99/32646号明細書)から同一酵素で切断したpONY8Z内へ移動させることにより実施した。
【0267】
b)エンベローププラスミド
狂犬病Gを用いてシュードタイピングするためにpSA91ERAwtを使用した。このプラスミドについては、「pSA91RbG」の名称を付けて以前に記載されている(国際公開第99/61639号明細書)。手短かに言えば、pSA91ERAwtはpSG5rabgp(Burgerら、1991,J.Gen.Virol.,72,359−367)から、gpt遺伝子がBamHIを用いての消化および再ライゲーションによって取り除かれているpGW1HG(Soneokaら、1995,Nucl.Acids Res.23:628−633)の誘導体であるpSA91内へ1.7kbp Bg/II狂犬病Gフラグメント(ERA株)をクローニングすることによって構築した。この構築物pSA91ERAwtは、ヒトサイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター/エンハンサーからの狂犬病Gの発現を許容する。
【0268】
狂犬病Gを用いてシュードタイピングするためにpRV67を使用した。pRV67(国際公開第99/61639号明細書に記載されている)は、pSA91ERAwtにおける狂犬病Gの代わりにヒトサイトメガロウイルスプロモーター/エンハンサーの制御下でVSV−Gが発現されたVSV−G発現プラスミドである。
【0269】
ベクター類の産生およびアッセイ ベクターストックは、16μgのベクタープラスミド、16μgのgag/polプラスミドおよび8μgのエンベローププラスミドを含む10cm径培養皿上でプレーティングしたヒト腎293T細胞のリン酸カルシウムトランスフェクションによって生成した。トランスフェクションの36〜48時間後、上清を濾過し(0.45μm)、分取し、−70℃で保存した。濃縮ベクター調製物は、4℃で16時間に渡る6000×gで最初の低速遠心(JLA−10.500)、その後の4℃で90分間に渡る20000rpm(SW40Ti ローター)での超遠心分離によって作製した。ウイルスはPBS中で3〜4時間かけて再懸濁させ、分取し、−70℃で保存した。形質導入はポリブレン(8μg/mL)の存在下で実施した。
【0270】
ウイルス形質導入 形質導入はインビトロで7日後に実施する(DIV7)。詳細には、培地を取り除き、指示されたウイルスMOIの添加後に培養へ添加し戻される小量のアリコートと一緒に保存しておく。培養皿を37℃で5時間維持し、その後ウイルスを取り除き、保存した馴化培地を用いてウエルを2回洗浄する。新鮮Neuralbasal培地を50:50の比率で添加し、さらに3日間細胞を維持する。
【0271】
免疫細胞化学的検査 ドーパミン作動性培養にウイルス形質導入が及ぼす作用を測定するために、THおよびGFP免疫反応性のためにプレートを処理する。手短かには、PBSを用いて細胞をすすぎ洗いし、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、室温(RT)で30分間に渡り1%ウシ血清アルブミン/0.1%トリトンX−100/PBS中に透過させ、さらに37℃で1時間に渡りマウスモノクローナル抗TH抗体(1:1000;Diastor製)並びにウサギポリクローナル抗GFP抗体(1:1000;Chemicon製)と一緒にインキュベートした。引き続き細胞をCY3−結合抗マウスIgG(1:250;Jackson Immunoresearch製)およびAlexa−488結合抗ウサギ二次抗体(1;250;Molecular Probes)と一緒にインキュベートした。ニューロンはフルオビュー(Fluoview)共焦点顕微鏡(Olympus America Inc.製)を用いて画像描出する。手作業による細胞計数は以前に記載された通りに実施した(Lothariusら、1999)。手短かに言えば、連続6フィールドを1培養皿当たりアッセイして、1実験当たり200〜300THニューロンの定量を行う。実験は、独立解剖から単離した培養を使用して3回繰り返す。統計学ソフトウエア(GraphPad Prism Software Inc.製)を用いて細胞計数の記述統計量(平均値±SEM)を計算する。
【0272】
結果
a)VSVGおよび狂犬病GによりシュードタイピングされたEIAVベクターを用いた形質導入の比較
ウマレンチウイルス調製物がインビトロでTH+ニューロンを形質導入させることができるかどうかを決定するために、中脳培養を調製し、DIV7上に形質導入した。この時点を選択したのは、最も特徴的なドーパミン作動性機能がその時点までに確立されると以前に決定されていたためであった(上記のLothariusら、1999;上記のDalman and O‘Malley,1999;Lotharius and O‘Malley,2000,J.BIol.Chem.e−publication(印刷に先行して),2000年8月31日)。pSA91ERAwtおよびpRV67シュードタイピングEIAVベクターは、どちらも試行した最高MOIで約10%の効率でインビトロでドーパミン作動性ニューロンを形質導入することができた(表3、図1および図15A〜D)。さらにどちらのベクターも形態学的基準で判定したように非ドーパミン作動性ニューロンおよびグリア細胞集団も形質導入した(図2)。詳細には、pRV67ベクターは推定グリア細胞/培養皿のおよそ80%を形質導入したが、pSA91ERAwtベクターは5〜10%しか形質導入しなかった。
【0273】
【表3】

【0274】
b)ドーパミンの取り込みおよび遊離アッセイを使用した形質導入された培養の機能的分析
ウイルス形質導入がドーパミン作動性特性を変化させるかどうかを測定するために、3Hドーパミン(H−DA)遊離アッセイを使用した。ドーパミントランスポーターは中脳におけるドーパミン作動性ニューロン上にのみ排他的に局在しているので(Kuharら、1998,Adn.Pharmacol.42:1042−5)、このアプローチは異種培養系の中央におけるドーパミン作動性機能の選択的分析を可能にする。データは、pSA91ERAwtおよびpRV67シュードタイピングベクターがどちらも3H−DA遊離に影響を及ぼさないことを示唆しており(表4および図15E)、これはEIAVベクター形質導入後にTH+ニューロンの機能において異常を惹起しないことを表示している。
【0275】
【表4】

【0276】
海馬および線条体ニューロン両方の一次培養もVSV−Gまたは狂犬病Gのどちらかを用いてシュードタイピングされたEIAVベクターによってインビトロで形質導入することができた。これは海馬および線条体ニューロンにおいて、レポータータンパク質β−galおよびニューロン特異的マーカーであるNeuNの両方についての抗体染色の共局在化によって証明された(各々、図15F〜HおよびI〜K)。MOIが1および10では、海馬および線条体ニューロンにおいて形質導入効率の統計的有意差は見られなかったが(MOI=1、P=0.23およびMOI=10、P=0.81、ANOVA、図15LおよびM)、中脳ドーパミン作動性ニューロンと比較した増加は観察された。同様に、ベクターをVSV−Gまたは狂犬病Gのどちらかを用いてシュードタイピングされた場合にMOI=1では形質導入効率の統計的有意差は所見されなかった(P=0.14、ANOVA)。しかし、MOI=10では、狂犬病Gシュードタイピングベクターの形質導入効率はVSV−Gシュードタイピングベクターを用いた場合より統計的有意に高かった(P<0.001、ANOVA)。
【実施例2】
【0277】
成熟ラットCNSの形質導入
方法
ラット脳内への定位注射 ウイルスによりコードされた遺伝子発現を調査するために、VSV−G(pRSV67)または狂犬病G(pSA91ERAwt)のどちらかを用いてシュードタイピングされたEIAVlacZ(pONY8Z)を下記の通りに成熟ラット線条体内へ定位的に顕微注射する。ヒプノルム(hypnorm)およびヒプノベル(hypnovel)を用いてラットに麻酔をかけ(Woodら、1994,Gene Therapy,1:283−291)、2分間をかけて上質の延伸ガラス製マイクロピペットを使用して線条体内へ2×1μLのウイルスストック(EIAVlacZについては典型的にはVSV−Gについて1〜5×10t.u./mLおよび狂犬病Gシュードタイピングベクターについては6×10t.u./mL)を次の座標で注射する。ブレグマに3.5mm外側、硬膜から4.75mm垂直、および1mm頭側、3.5mm外側、4.75mm垂直。黒質周囲(内側毛帯)注射のためには次の座標で2×1μLのウイルスストックを送達した。ブレグマに4.7mm尾側、2.2mm外側、硬膜から7mm垂直および5.4mm尾側、2.2mm外側および7.5mm垂直。ピペットを1mm引き上げ、表面へ緩徐に引き戻すまでさらに2分間置いた。動物を注射1および2週間後に分析した。ラットは、2mM MgClおよび5mMエチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸を含有する4%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて潅流する。頭蓋内注射後の種々の時間間隔でラットを屠殺し、脳を除去し、固定液の中に一晩入れ、4℃の30%スクロース中に一晩浸漬し、Tissue−TechOCT包埋化合物(Miles IN USA)上で冷凍した。凍結ミクロトーム上で50μm切片を作製し、洗浄液としての4℃のPBS−2mM MgCl中で短時間浮かばせる。これらの切片をX−gal染色液中に3〜5時間入れることによってlacZの発現を測定する。
【0278】
免疫細胞化学的検査 形質導入された細胞がニューロンまたはグリア細胞のどちらであるのかを決定するために、LacZ抗体をニューロン(NeuN)またはグリア細胞(GFAP)マーカーのどちらかを認識する抗体類と一緒に使用する。二重免疫染色法を脳切片上で実施する。切片標本をウサギポリクローナルLacZ抗体(1/100th、5プライム→3プライム)およびマウスモノクローナル神経細線維(NeuN)抗体(1/50th、Chemicon)またはマウスモノクローナルGFAP(1/50th、Chemicon)と一緒に4℃のPBS−10%ヤギ血清および0.5%トリトンX−100中で一晩かけてインキュベートする。切片標本はPBSを用いて洗浄し、その後Alexa 488結合ヤギ抗ウサギIgG(1/200th、Molecular Probes)またはテキサスレッド(Texas Red)−X結合ヤギ抗マウスIgG(1/200th、Molecular Probes)と一緒に室温で2〜3時間インキュベートする。洗浄後、切片標本を蛍光顕微鏡下で検査する。
【0279】
ポリメラーゼ連鎖反応
ウイルスDNAを検出するために、ラット線条体(n=4)内へのVSV−Gまたは狂犬病Gを用いてシュードタイピングされたpONY8Zの注射後に(上記の通りに)、動物を形質導入2週間後に屠殺する。線条体、視床および黒質からパンチ細片を取り出し、液体窒素中で冷凍する。ゲノムDNAをWizardゲノムDNA精製キットを使用して全サンプルから単離する(Promega製、Madison−Wisconsin,#A1120)。解凍した脳組織(20mg)は製造業者のプロトコルに従って低温核溶解液中でディスポーザブル型ホモジナイザーを使用して10秒間均質化する。PCR反応は、注射したベクター類によって発現した大腸菌LacZ遺伝子(GeneBankアクセッション番号V00296)を検出するためにセットする。各反応は、次の構成要素を含有する50μL容量でセットする(最終濃度):300nMフォワードプライマーCGT TGC TGC ATA AAC CGA CTA CAC(nt:638〜661)、300nMリバースプライマーTGC AGA GGA TGA TGC TCG TGA C(nt:1088〜1067)、200μMのdNTP(各々)、2mM MgCl、1×FastStart Taq DNAポリメラーゼ緩衝液および2単位FastStart Taq DNAポリメラーゼ(Roche Diagnostics、マンハイム、ドイツ)。反応1回に付き300ngのテンプレートDNAを使用する。PCR増幅は、次の熱サイクル条件下でPCR Express(Hybaid製、ハーキュリーズ、米国)上で実施する。95℃で4分間の初期変性および酵素活性化の後に、95℃で30秒間の30サイクルの変性、58℃で45秒間のアニーリングおよび72℃で45秒間の伸長、および最後に72℃で7分間の1サイクルの伸展。PCR生成物(10μL/反応)を10v/cmで2時間に渡り1.2%TBEアガロースゲル上で分解させる。
【0280】
結果
a)線条体への送達後にVSVGおよび狂犬病Gを用いてシュードタイピングされたEIAVベクターを使用した形質導入の比較
成熟ラット脳における2種のシュードタイピングベクターの発現パターンを比較するために、濃縮されたウイルスベクター調製物を尾状殻内に定位的に注射する。VSVGシュードタイピングEIAV−LacZ発現ベクターは、注射領域周囲の1mm中外側および5mm背腹方向の2.5mm前後方向(染色した50×50μm冠状切片標本)の平均領域に広がる極めて効率的な遺伝子導入を生じさせ、〜5×10個の形質導入された近似細胞量を生じさせた(図3)。これは、約29750±1488個の形質導入細胞に相当する(図16AおよびB)。形質導入された細胞は主としてニューロン形態(線条体介在ニューロン、中央有棘ニューロンおよび無棘ニューロン)を有しており、これはさらにニューロンマーカーNeuNおよびLacZマーカーの共焦点共局在化を使用して確証される(図4および図16M〜O)。一部のラットでは例えば脳梁のような白質路において形質導入されたグリア細胞が所見される。形質導入は、視床下核(SN)、外側および内側淡蒼球(図16C〜D)、大脳脚(図16E)、および黒質網状部(SNr)(図16F)へ投射している軸索へのLacZタンパク質のいくらかの順行性輸送を伴って線条体に局在化している。外側淡蒼球(GP)が共形質導入されているラットでは、網状視床核(RTN)はLacZの順行性輸送によっても強度に染色されている(図5)。
【0281】
狂犬病GシュードタイピングEIAV−LacZ発現ベクターを用いてのラット線条体の形質導入もまた尾状殻内のニューロンおよびグリア細胞両方の表現型の細胞への効率的な遺伝子導入を生じさせた(図16G〜H)。さらに、淡蒼球、視床、扁桃、腹側被蓋領域(VTA)、視床下核(STN)および黒質緻密部(SNc)および網状部(SNr)を含む注射部位への尾側の領域において形質導入されたニューロンの極めて広範囲の広がりが観察される(図6〜8、図16G〜L)。これらの構造間に解剖学的連絡が存在することはよく知られている(例えば、「Human Anatomy(ヒトの解剖学)」,1976、Carpenter M.B.,Williams and Wilkins Co.Baltimore,第7版,およびそこに記載された参考文献を参照されたい)。平均形質導入は、線条体に広がる60×50μm冠状切片並びにGPおよび視床に広がる55×50μm切片およびSNに広がる40×50μm切片におけるニューロンにおいても前後方向で所見される(注射部位に対して7.5mm前後方向)。これは、線条体における軸索終末からのこれらの領域内のニューロンへのウイルスベクターの逆行性輸送並びに細胞体が線条体にあるニューロン終末へのLacZの順行性輸送の結果である。細胞計数は、32650±1630cellsが線条体に形質導入されたが、14880±744ニューロンは視床内で、および3050±150ニューロンは黒質内で形質導入されたことを示唆している。尾状殻における染色は、VSVGベクターと比較してより青白くより点状であり、約80%のニューロンおよび約20%のグリア細胞が形質導入された(図16P〜U)。LacZで完全に染色されるのはグリア細胞だけであると思われる。例えばGP、VTAおよびSNrのような他の領域におけるニューロンと比較して、LacZを用いるとそれらの全体が染色される(図7〜8)。
【0282】
注射部位での共焦点共局在化は、形質導入されたグリア細胞が星状細胞であることを示唆している。VSV−Gシュードタイピングベクターとは対照的に、投射ニューロンは形質導入されなかった。β−galの順行性輸送は、視床網状核(外側淡蒼球ニューロンから)および黒質網状部(線条体ニューロンから)の青白い染色によって示されるように狂犬病Gシュードタイピングベクターを用いて形質導入されたニューロンにおいても存在した(図16IおよびL)。共焦点検査は、例えば黒質のNeuN陽性淡蒼球およびチロシンヒドロキシラーゼ陽性ドーパミン作動性ニューロンのように、狂犬病Gシュードタイピングベクターが尾状殻へ送達されたときの遠位へ形質導入された細胞のニューロンの性質を確証した(図17ii、D〜I)。
【0283】
ウイルスベクター自体の逆行性輸送は、視床および黒質領域から採取したパンチ片を使用したPCR実験によって、これらの領域におけるウイルスDNAは狂犬病GシュードタイピングEIAV線条体形質導入後にのみ検出できたので確証された(図17iii)。50℃で予熱したインテグラーゼ突然変異体ウイルス調製物もしくはベクター調製物を脳内に注射した場合のコントロール実験は、有意なレベルの形質導入を生じさせることができなかったので、観察された遺伝子導入の原因が疑似形質導入であったという可能性が排除された(Hassら、2000,Mol.Ther.2,71−80)。
【0284】
長期発現は、両方のタイプのベクターの尾状殻への送達後に本試験での注射1週間後から8ヵ月後までに観察された(すべてのデータは示されていない)。狂犬病Gシュードタイピングベクターの発現は、注射部位および注射1ヵ月後に形質導入された全遠位ニューロンの両方で観察された(図17i A〜C:視床および黒質だけが図示されている)。
【0285】
b)黒質へのVSVGおよび狂犬病Gを用いてシュードタイピングされたEIAVベクターを使用した形質導入の比較
2種のシュードタイピングベクターが中枢神経系ドーパミン作動性ニューロンに形質導入するための能力を比較するために、濃縮したウイルスベクター調製物を黒質の近傍(内側毛体)へ定位注射する。SNは損傷後には細胞死する傾向があるので、黒質周囲注射が好ましい。VSVGシュードタイピングEIAV−LacZ発現ベクターは、SNcおよびそれに対して尾側の視床構造の極めて効率的な形質導入を生じさせた(図9および図18AおよびB)。LacZは、黒質線条体ニューロンの軸索終末へ順行性で輸送され、線条体における染色を生じさせる(図10および図18C)。SNcからSNrへのニューロンの投射もまた染色される。LacZ染色は40×50μm冠状視床/黒質切片に広がっていた。
【0286】
これとは対照的に、狂犬病GシュードタイピングEIAVベクターの黒質周囲注射はSNcニューロンの強力な形質導入および吻側視床核のはるかに広範囲の形質導入を生じさせ、さらにSNr、STN、VTA、視床、GPおよび皮質のニューロンにおいても形質導入が観察された(図11、12)。β−gal染色はVSV−Gシュードタイピングベクターを用いた場合に観察され、さらに視床内の多数の線維も染色された。より強力なβ−gal染色が観察された外側淡蒼球および扁桃における遠位ニューロンの形質導入の原因は、各々遠心性接合部から黒質網状部および外側部へのウイルスの逆行性輸送であった(図18G〜H)。これらの黒質からのニューロン投射は、Bunney and Aghajanianの逆行性トレーサー試験によって以前に確立された(Brain Res,117,234−435)。さらに、反対側で、数種(注射されていない)の交連核およびそれらの投射について形質導入が観察され(図12Aおよび18)、さらにこのベクターを用いての逆行性輸送操作の証拠を提供している。
【実施例3】
【0287】
新規栄養因子の単離
VSV−Gシュードタイピングレンチウイルスベクターシステムを実施例1に記載した通りに構築し、cDNAライブラリーを発現するために使用する。レトロウイルスストック上清は一過性法(上記の通り)で作製し、実施例1で記載した通りに低MOI下で確立された一次ラット腹側中脳培養に形質導入するために使用する。ドーパミン作動性ニューロンに対する栄養因子として機能する分泌性因子の発現は、最小培地中での12もしくは21日後にグリッド上の1cm当たりのTHニューロンを測定することによってこれらの培養において測定する(栄養因子は自然発生アポトーシスを防止する)。さらに、THニューロンの形態変化を追跡する(例えば、広範囲の神経突起増殖および細胞体サイズの増加)。GDNFを用いて観察された類似の作用を陽性コントロールとして使用する。
【実施例4】
【0288】
新規神経保護/生存因子の単離
RbGシュードタイピングレンチウイルスベクターシステムを実施例1に記載した通りに構築し、ドーパミン作動性特異的プロモーターの制御下でcDNAライブラリーを発現するために使用する。レトロウイルスストック上清は、一過性法(上記の通り)で作製し、実施例1で記載した通りに確立された一次ラット腹側中脳培養にTH陽性細胞を形質導入するために使用する。ドーパミン作動性ニューロンに対する生存/神経保護因子として機能する因子の発現は、6−OHDAまたはMPP+への暴露12日後にグリッド上の1cm当たりのTHニューロンを測定することによってこれらの培養において測定する。これは、細胞内で機能して子アポトーシス作用を有する因子を同定する。引き続いて詳細には生存しているニューロン各々の含量をパッチクランプPCRによって増幅させて、形質導入されたcDNAの配列を測定する。さらに、このような細胞からのRNAをcDNAに変化させ、ディファレンシャル・ディスプレイ実験から入手されたcDNAを含有するマイクロアレイへハイブリダイズされたT7 RNAポリメラーゼおよびaRNAによって増幅させる(即ち、ドーパミン作動性ニューロンにおいて優先的に発現したmRNA)。これはレーザー捕捉顕微解剖の技術を使用して組織切片中のSNドーパミン作動性ニューロンにも適用できる。(上記のLuoら、1999)。
【実施例5】
【0289】
神経前駆細胞に対する鑑別因子のスクリーニング
神経前駆細胞は自然に発生し、脳傷害および神経変性疾患のための神経移植術にとっての「新しい希望」である。ヒト神経前駆細胞は市販で入手できる(Clonetics)。これらはEGF(カナダの企業NeuroSpheres社が最初に同定し、現在も取り組んでいる)に暴露させると分裂する脳室下起源のニューロスフェア(neurosphere)である。齧歯類前駆細胞もまた単離できる。
【0290】
幾つかの研究グループは、前駆細胞をドーパミン作動性ニューロンへ分化させることを試みてきたが、大きな成功は得られていない(現在までに、単独でTH表現型を誘発することのできる因子は同定されていない)。近年の論文は、未同定の星状細胞溶解因子が神経前駆細胞中でドーパミン作動性TH+表現型を誘発することに関係していることを証明している(Wagnerら、1999,Nat.Biotechnol.17:653−659;Kawasakiら、2000,Neuron,28:31−40)。このような因子が同定されてほぼ100%のドーパミン作動性分化を誘発できれば、これらが成熟神経系(このような誘導因子が発現されない、または胎児脳に比較して低レベルで発現する)における移植後にドーパミン作動性ニューロン内への神経前駆細胞の移植片を分化させるために極めて有用であることが証明されるであろう。
【0291】
RbGシュードタイピングレンチウイルスベクターシステムは、実施例1に記載した通りに構築され、E14胎児中脳からのcDNAライブラリーを発現させるために使用される。
【0292】
E14胎児中脳を切開すると中脳細胞が産生する。これらの培養が安定した第3日に、レトロウイルスライブラリーを使用して形質導入する。各1×10個の一次中脳細胞を、10μg/mLポリブレンを含有する0.5mLのウイルスストックと一緒にインキュベートする。このウイルスアリコートは200形質導入単位の等量を含有している(cDNA)。これは極めて多数の培養(5000)を必要とするので、ウイルスストック培地を適切に希釈し、凍結させ、全ライブラリーのスクリーニングが完了するまで連続培養バッチと一緒に使用する。8時間後、培養に0.5mLの新鮮増殖培地を添加し、一晩かけてインキュベートする。翌日、培地に再補給し、細胞がTHについて染色されて計数される第12日まで持続させる。TH+細胞数の統計的有意な増加が観察された場合は、ゲノムDNAを単離してレトロウイルスベクタープライマーを使用するPCRによって小量(10ng)のゲノムDNAから増幅させ、シーケンシングする。選択した候補を細胞(293)内にトランスフェクトし、その後馴化培地を使用して神経栄養因子を精製することで新鮮中脳培養上の結果を再確証する。
【0293】
また別のアプローチでは、このライブラリーをHeLa細胞内に形質導入し、抗生物質耐性について選択し、200HeLa細胞/cDNAクローン(サブライブラリー)のプールに分割し、引き続いて因子を産生して分泌した場合にニューロンと一緒に共培養する。作用が所見された場合は、クローンを選択し、対象の細胞を単離するために限界希釈クローニングを受けさせる。さらにこの作用を確証するために単一クローンからの馴化培地を用いてこの実験を繰り返す。
【0294】
必要とされる低いmoi(感染多重度)およびたった20%の効率を用いると、大多数の細胞は単一レトロウイルスしか受け入れず、複数の組込みを有する可能性があるのは細胞の10%にすぎない(Onishiら、1996)。
【0295】
クローンを単離したら、生存アッセイを使用して、またはそれがこれらの培養への神経毒(MPTPまたは6−OHDA)の作用(例、TH+ニューロンのアポトーシス)を遮断する程度を測定することによってGDNF(即ち、同一ベクターシステムから発現したGDNF)と比較することができる。
【実施例6】
【0296】
VSV−Gおよび狂犬病GシュードタイピングEIAVベクターを使用する海馬への遺伝子導入
VSV−Gおよび狂犬病GシュードタイピングEIAVベクターを基底核内に注射したときに観察される特性と類似の形質導入特性を試験するために、これらのベクターをラットの右前背側海馬内へ定位注射する。VSV−Gシュードタイピングベクターの場合は、これは海馬台への強力な、およびCA1錘体細胞層へのこれより少ない程度でのニューロンの形質導入をもたらす(図19AおよびB)。上昇層内でニューロン形態を備えた細胞も染色されるが、一部のグリア細胞形質導入は脳梁内で観察される。さらに、β−galの順行性輸送が観察され、分子層へ投射する軸索線維の弱い染色(図19B)および隔膜へ投射する少数の線維(図19C)が生じた。
【0297】
これに対して、海馬領域内への狂犬病GシュードタイピングEIAVベクターの注射は、吻側海馬の錘体細胞層内のCA1およびCA3錘体ニューロンの強力なβ−gal染色をもたらす。これは尾側面ではCA1領域に制限され始め、CA4錘体細胞層においても一部の染色が観察される(図19D〜F)。CA1ニューロンの先端樹状突起および軸索は強力に染色される。海馬台および脳梁内のβ−gal染色が観察される(図19F)。ウイルスベクターの逆行性輸送およびウイルス送達領域へ投射する遠位ニューロンの形質導入は外側視床下部内およびブロカ対角帯の垂直肢内の内側前脳束角(脳弓采を経由して背側正中隔膜領域および海馬へ投射する軸索を用いて)(図19H)、乳頭上視床下核および視床核(外背側、前背側および前腹側核)(図19G)の強力な染色を生じさせる(Segal,1974,Brain Res.,78:1−15)。反対側の海馬の染色は、おそらくこの折り畳まれた構造に沿って行われた注射中のウイルスベクターの漏れが原因であり、反対側の染色と同一だが弱いパターンが生じたと思われる。
【実施例7】
【0298】
VSV−Gまたは狂犬病GシュードタイピングEIAVベクターを使用する脊髄への遺伝子導入
方法
脊髄内注射
脊髄内注射のために、麻酔した2月齢のラットを定位固定フレーム内に配置し、脊髄アダプター(Stoelting Co.製,IL,米国)を使用してそれらの脊髄を固定し、狂犬病G(n=3)またはVSV−G(n=3)(6×10T.U./mL)を用いてシュードタイピングされた1μLのpONY8Zベクターを用いて椎弓切除術後に腰部脊髄内へ1部位で注射する。注入ポンプ(World Precision Instruments Inc.製,サラソータ、米国)によって制御した注射は、33ゲージ針を装備した10μLハミルトン(Hamilton)シリンジを通して0.1μL/minの速度で行う。注射後、針は抜去する前に5分間その場所に置いておく。ウイルス注射2週間後に、ラットにフルオロゴールド(FG)投与を行う。座骨神経を大腿中央部の高さで露出させて神経三叉路の近位5mmで切断する。生理食塩液に溶解させた4%w/vフルオロゴールド(FG)溶液を含有する小さなカップを横断切開神経の近位区間上に置く。FGの投与5日後、4%w/vパラホルムアルデヒドを用いて動物を経心臓的に灌流する。腰部脊髄を切開し、免疫組織化学検査およびX−gal反応法によって分析する。FGおよびβ−galにより二重標識した運動ニューロンの数をウイルスベクター注射3週間後に計数する。さらに、これらの動物から脳も切除し、50μm冠状切片を上記で説明した通りにX−gal溶液で染色する。
【0299】
筋肉内注射
筋肉内注射のために、30ゲージ針を装備したマイクロシリンジ(ハミルトン、スイス)を用いて露出した腓腹筋内に片側だけに注射する。2群のラットに注射する。第1群のラット(n=3)には狂犬病GシュードタイピングpONY8Zを注射し、第2群のラット(n=3)にはVSV−GシュードタイピングpONY8Zを注射した(どちらのタイプのベクターの力価も3×10T.U./mLである)。動物1匹当たり5ヵ所の部位に1部位当たり10μLを注射する。この溶液を約1μL/minの速度で注入する。各群2匹の動物を注射3週間後に屠殺する。残り2匹のラットはヒプノルム(hypnorm)/ヒプノベル(hypnovel)溶液を用いて麻酔し、FG投与は上記で説明したように実施する。FGの投与2日後に動物を屠殺する。全動物は4%w/vパラホルムアルデヒドを用いて経心臓的に灌流する。引き続いて、筋肉を切除し、液体窒素中で急速凍結する。脊髄を切除し、30%w/vスクロース中で2日間に渡り凍結保護する。筋肉および脊髄両方の横断および縦断切片(各25μm)を免疫組織化学的検査およびX−gal反応法によって分析する。形質導入されたニューロンの数を鑑定するため、運動ニューロン、腰部および胸部脊髄を分析する。NeuNを用いて二重標識したβ−gal陽性細胞の数は全3切片毎に検査する。感染した運動ニューロンの比率は、β−galを発現するフルオロゴールド逆行性標識細胞のパーセンテージとして表示されている。
【0300】
結果
EIAVベクターの形質導入効率を測定するために、β−gal発現ベクターの脊髄内および筋肉内注射をラットにおいて実施する。レンチウイルスベクターの脊髄内注射には軽度の炎症しか関連しておらず、統計的有意な細胞損傷は見られない(データは示されていない)。全ラットは、合併症を発生することなく手術およびレンチウイルスベクター注射を忍容した。さらに、手術した動物の協調および運動は全く影響を受けず、ウイルスベクターの脊髄内注射後の機能的悪化の欠如を示していた。脊髄の横断切片の検査によって、VSV−Gおよび狂犬病Gシュードタイピングレンチウイルスベクターの送達後の強固なレポーター遺伝子発現が明らかになった(図20A、B,H,I)。腰部脊髄における注射は、VSV−Gおよび狂犬病Gシュードタイピングベクターを用いた各々10260±513および16695±835cellsにおけるβ−gal発現をもたらす。狂犬病Gシュードタイピングレンチウイルスベクターは、ウイルス送達の領域(腰部脊髄)および隣接胸部脊髄における発現細胞のより広範囲の吻尾方向の広がりを生じさせる。
【0301】
脊髄内注射後に形質導入された細胞の表現型を同定するために、切片はβ−galおよびNeuNまたはGFAPのどちらかに対する抗体を用いて二重標識する。平均して形質導入された細胞の各々90%および80%が、VSV−Gおよび狂犬病Gシュードタイピングベクターの送達後にNeuNを用いて二重標識する(図20E〜Gおよび20L〜N)。レポーター遺伝子を発現する運動ニューロンの比率を評価するために、運動ニューロンはFGを用いて逆行性標識する(図20C〜D;20J〜K)。β−galを発現するFG−陽性運動ニューロンの数は腰部脊髄の縦断切片中で評価する。これらの切片の分析は、FG逆行性標識運動ニューロンの各々52および67%はVSV−Gおよび狂犬病GシュードタイピングEIAVベクターの脊髄内注射後にβ−galを発現することを証明した。
【0302】
興味深いことに、視蓋脊髄路および網様体脊髄路並びに一次運動皮質の第V層に位置する皮質脊髄運動ニューロンは狂犬病Gレンチウイルスシュードタイピングベクターの脊髄内注射後にのみ逆行性に形質導入される(図20O、P)。反対側から投射する一部の脊髄交連介在ニューロンは逆行性にも形質導入される(図20H)。興味深いことに、狂犬病シュードタイピングベクターの逆行性輸送はさらに腓腹筋内への注射後の腰椎運動ニューロンにおいても所見される(図20Q〜S)。狂犬病Gシュードタイピングレンチウイルスベクターの筋肉内注射は、FG逆行性標識運動ニューロンの27%におけるβ−gal発現をもたらした(約850±90形質導入運動ニューロン)。このベクターを用いた場合に筋肉形質導入は観察されない。それに対して、VSV−Gシュードタイピングベクターは注射部位を取り囲む筋肉細胞に低効率で形質導入するが、脊髄中の細胞は全く標識しなかった(データは示されていない)。
【実施例8】
【0303】
EIAVベクター注射後のCNSにおける最小免疫反応
方法
免疫反応の調査
ラット群に、上記で説明した定位法を使用してVSV−G(n=6)もしくは狂犬病G(n=6)のいずれかを用いてシュードタイピングされたpONY8Zベクターまたは等量のPBSの脊髄内注射を実施した。注射後第7、14および35日後に安楽死させた後、脳を切除し、OCT中で直接に急速凍結させ、分析した。ライカ(Leica製)CM3500クリオスタット(ミルトンキーンズ、英国)を使用して切片(15μm)を作製してAPES(Sigma製)塗布スライド上に載せた。10切片毎に1片を37℃で3時間かけてX−galにより染色して遺伝子導入の領域を同定し、隣接切片を選択してOX1(白血球共通抗原)、OX18(MHCクラス1)、OX42(ミクログリアおよびマクロファージ上の3型補体レセプター)およびOX62(樹状細胞)に対するモノクローナル抗体組織培養上清により染色した。これらの抗体類は、オックスフォード大学サーウィリアム・ダン病理学部MRC細胞免疫学科(MRC Cellular Immunology Unit製、Sir William Dunn School of Pathology)のご厚意により寄贈された。切片は純TCS中で一晩インキュベートし、PBS中で数回洗浄した後、HRP結合ウサギ抗マウス抗体(ダコ、英国)と一緒に1時間インキュベートした。その後陽性染色は、ジアミノベンジジン(DAB)キット(Vector Labs製、米国)を使用して褐色に可視化した。切片はヘマトキシリンを用いて対比染色し、DePeX(BDH Merck、プール、英国)を使用して脱水し、清浄化してスライド上に載せた。X−gal染色切片はカルミン酸(Sigma製、英国)を使用して対比染色し、Permount(Fisher製、米国)を用いてスライド上に載せた。
【0304】
結果
脳(線条体)への遺伝子導入後の様々な時点に、特異的抗体マーカーを使用してベクター送達後の様々な時点の注射部位での免疫応答性細胞を検出する。定位送達後に有害な脳病理が観察された例は全くなかった。PBSによるコントロール注射は、皮質および線条体における注射針路および例えば脳梁のような白室路に沿ってOX−42/ED1活性化マクロファージ/ミクログリアのわずかな浸潤から構成されるほんのわずかな免疫反応を惹起する(データは示されていない)。PBSを注射した場合には、他のマーカーのいずれについても染色は観察されない。この免疫反応性は減少するが、35日後でもまだ検出可能である。これらのマーカーを用いた場合の類似の反応は、両方のウイルスベクター調製物を用いて観察されており、これはおそらく注射手技に対する反応を表している。さらに、VSG−Gシュードタイピングベクターは同側線条体におけるOX18+ MHCクラス1陽性細胞の浸潤を生じさせ、これは全時点で現れるが、いずれの時点においても白血球または樹状細胞は観察されない(図21A〜D)。しかし、狂犬病Gベクター注射は、線条体および皮質内並びに白室路、髄膜および脳室下細胞層に沿った白血球、樹状細胞およびMHCクラス1陽性細胞の浸潤を伴うより急性の免疫反応を開始させた(図21E〜H)。一部の血管周囲カフィングおよび密集している炎症性細胞は、OX1およびOX18マーカーを使用して線条体内で観察される(図21E、F)。14日後には樹状細胞の欠如を含むもっと低いレベルの反応が検出され、35日後までにはバックグラウンドレベルへ低下する。
【実施例9】
【0305】
感覚神経系内への遺伝子導入
a)脊髄後角内へのウイルス注射
注射部位が前角の代わりに後角であることを除き、実施例7に記載した脊髄内注射を実施する。ラット群に、脊髄の後角内の後方椎弓切除部を通してpONY8ZまたはpONY8.1Z(狂犬病GまたはVSG−G)または等量のBPSを注射する。注射は、2mmずつ離れた腰椎レベルでの3ヵ所の注射部位に実施する。各ラットは0.5mmの背腹座標で1部位当たり1μLのウイルス溶液を摂取した。pONY8.1Z(VSG−G)はSallを用いた消化およびSaplを用いた部分消化によってpONY8.0Zから直接入手した。制限後、DNAの張出し末端をT4 DNAポリメラーゼを用いた処理によって平滑断端にした。結果として生じたDNAをその後再連結反応させた。この操作はLacZレポーター遺伝子と3’PPTのすぐ上流との間の配列の欠失を生じさせる。欠失の3’境界は、野生型EIAV(登録番号:U01866)と比較するとnt7895である。従ってpONY8.1ZはEIAV RREsに対応する配列を含んでいない。
【0306】
b.後根神経節内へのウイルスの直接注射
後根神経節(DRG)は、多裂筋および腰最長筋を切開して副突起および横突起の一部を除去することによって外科的に露出させる。レポーター遺伝子β−galをコードするEIAVベクター(pONY8またはpONY8.1バージョン)をDRGに直接注射する。対象は、1神経節当たり0.5μLのウイルス溶液を摂取する。全注射は、定位固定フレームおよび33ゲージ針を備えたHamiltonシリンジを使用して実施する。溶液は、約0.1μLの速度で緩徐に注入する。
【0307】
c.ウイルスの末梢投与
皮膚表面上へのウイルス投与の方法は、Wilson論文(Wilsonら、1999)に記載されている。手短には、後脚表面の背側から毛を除去する。中程度の粗さのサンドペーパーを使用して皮膚表面を傷つける。10μLのウイルス溶液を各脚へ塗布する。ピペッターチップの側面を使用してウイルスを塗り広げる。ウイルスはDRGへ逆行性輸送される。後脚内へのウイルスの皮下注射もまた実施する。各ラットは10μLのウイルス溶液の片側塗布または注射を受ける。
【0308】
d.坐骨神経内へのウイルスの直接注射
神経内注射のために、麻酔したラットの右坐骨神経を外科的に露出させる。この神経を金属プレート上に穏やかに置き、33ゲージ針ハミルトンシリンジを使用してVSG−Gまたは狂犬病Gを用いてシュードタイピングされたpONY8ZまたはpONY8.1Zを3分間かけて注射する。ラット1匹当たりの注射用量は1μLである。坐骨神経を解剖学的に再配置し、バイクリル5/0縫合糸を用いて皮膚を閉鎖する。
【0309】
結果
pONY8Zベクターを4匹のラットの後角内に注射し、形質導入5週間後に分析する(狂犬病G 3.8×10TU/mL、n=2;VSG−G 1.2×10TU/mL、n=2)。脊髄、後根およびDRGからの組織学的切片を様々な倍率で検査する。全動物は脊髄内への注射部位のすぐ近傍でマーカー遺伝子の発現を示している。脊髄内へpONY8Z狂犬病Gが注射されたラット3匹中、2匹はシュワン細胞におけるβ−galの発現を示している。軸索発現も所見される(図22A〜C)。2匹のラットは逆行性に形質導入されたDRGニューロンを示している(図22D〜E)。しかし、pONY8Z狂犬病Gが注射されたラットとは対照的に、pONY8Z VSG−Gが注射されたラットからの後根およびDRGではβ−gal反応性は検出できない。
【0310】
上記の明細書で言及したすべての出版物は、参照することにより本発明書に組み込まれる。本発明の上記に記載した方法および系の様々な修飾および変形は、本発明の範囲および精神から逸脱せずに当業者には明白であろう。本発明を特定の好ましい実施形態と結び付けて説明してきたが、主張された本発明をこのような特定の実施形態に限定すべきではないと理解されなければならない。実際に、本発明を実施するための生物学または関連分野の当業者には明白な上記の様式の様々な修飾は、請求項の範囲内に含まれることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0311】
【図1】マウスE14中脳培養のTH+ニューロン中のEIAV(pONY8 GFP)狂犬病Gウイルスベクターの発現を示している。(A)形質導入された星状細胞の層の上部でのGFP+ニューロンの画像(焦点からわずかに外れた扁平細胞)。(B)THについての染色している同一ニューロンの画像。(A、B)についての形質導入は、MOI(感染多重度)が1で行われている。(C)星状細胞の上部でのGFP+ニューロンの画像。(D)これらのGFPニューロン中2種はTHについて染色するが、他は明白に陰性である。グリア細胞はいずれもTHを染色しない。(C、D)についての形質導入はMOIが10で行われている。
【図2】マウスE14中脳培養のグリア細胞およびTHニューロンにおけるEIAV(pONY8 GFP)狂犬病Gウイルスベクターの発現を示している。(A)数種のGFP+ニューロンがTH−であることを発見できたフィールド。(B)(C)コントロール細胞はポリブレンだけを用いて処理されたが、THを発現したウイルスはなかった。(D)GFPを含まない。(E)THを発現しないGFP+星状細胞の集団。(F)これらの形質導入に対するMOIは1である。
【図3】成熟ラット線条体へのEIAV pONY8Z VSVGウイルスベクターによる形質導入の作用を示している(注射1週間後):パネルA〜CはX−galを用いて染色した3つの独立した50μm冠状切片に対応する。動物1匹に付き平均50片のこのような切片を染色したところ、形質導入がラット線条体に広がることを示している。パネルD〜Hは形質導入された細胞の多数が尾状殻(D〜F)内および側坐核(G〜H)の両方においてニューロン形態を有することを証明しているCに示した切片を高倍率で示している。
【図4】EIAV pONY8Z VSVGウイルスベクターを用いて成熟ラット線条体に形質導入された細胞型を示している。線条体ニューロンの高倍率画像:大きな無棘介在ニューロン(A、B)および中サイズの有棘ニューロン(C)が染色されている。ニューロン分裂終了マーカーNeuN(E)を用いて共局在化されたLacZ発現細胞(D)は明るい核染色を与える(F)。
【図5】淡蒼球および網状視床核の形質導入を示している。(A)EIAV pONY8Z VSVGを用いた形質導入が外側淡蒼球(LGP)へ広がっているラットでは、LacZ染色が網状視床核(RTN)においても観察される。高倍率は、RTNへの不確体に沿ってGPからRTNおよび視床までの遠心性接合部の存在を示している(B,C)。この順行性輸送は、特定順行性トレーサーを使用した他の試験で報告されている(Shammah−Lagnadoら、J.Comp.Neurol.1996,376:489−507)。
【図6】EIAV pONY8Z 狂犬病Gウイルスベクターを用いた成熟ラット線条体の形質導入を示している。(A)側脳室に隣接する尾状核における形質導入を示している脳切片の低倍率画像。同一切片の高倍率画像は発現の点状の性質(B)、および星状膠細胞形態を有する細胞の形質導入(C矢印)、並びにニューロン形態(D矢印)を示している。
【図7】成熟ラット線条体におけるEIAV pONY8Z 狂犬病Gウイルスベクターの送達後の注射領域から離れたニューロン核の形質導入を示している(注射8日後):(A)淡蒼球(LPG)および視床の傍室核(PVT)における形質導入を示している脳切片の低倍率画像。(B)形質導入された淡蒼球ニューロンの高倍率画像。(C)分界条の傍室傍中心核における染色および扁桃(腹側)における染色も示している脳切片の低倍率画像。(D)視床の傍室核の点状染色(A)の高倍率画像。(E)扁桃におけるニューロンの染色を示している(C)の高倍率画像。(F)視床傍室核における染色を示している分界条。(G)第3脳室に隣接して染色している傍室核の視床下部ニューロン。(H)網状SNにおけるニューロン染色。視床染色は、ニューロン終末からニューロン細胞体へのウイルス粒子の逆行性輸送を意味している。
【図8】EIAV pONY8Z 狂犬病Gウイルスベクターによる成熟ラット線条体の形質導入後のLacZの長期発現を示している。(A、D)線条体染色。(B)視床傍核(PFN)における染色および視床下核における弱い染色、(C)SN緻密部およびSN網状部における染色、(E)淡蒼球におけるニューロン染色、および(F)内側視床核の点状染色。(A、B、C)は3ヵ月後の発現であるが、(D,E,F)は注射6ヵ月後である。視床およびSNcの染色は、ニューロン終末からニューロン細胞体へのウイルス粒子の逆行性輸送を意味している。
【図9】EIAV pONY8Z VSVGウイルスベクターによる成熟ラット黒質の形質導入を示している。(A)SNc、内側視床および視床下部の両方における黒質周囲注射後の形質導入の広がりを示している低倍率画像。(B)標識された軸索が第3脳室(3V)へ腹側を横切って反対側の視床で終了する交連ニューロン(CN)による視床のニューロン形質導入を示している高倍率画像。LacZは、この場合には順行性法で輸送される。(C,D)SNcからSNrへの染色された神経投射を示しているSNcの形質導入の高倍率画像。形質導入は注射4週間後であった。
【図10】EIAV pONY8Z VSVGの黒質周囲注射後の黒質線条体終末の順行性染色を示している。(A)形質導入の同側での黒質線条体終末のLacZ染色を示している図9に描出された脳からの脳線条体切片の低倍率画像。(B)線条体におけるニューロン終末の青白い染色を生じさせるLacZの順行性輸送の高倍率画像。
【図11】EIAV pONY8Z 狂犬病Gウイルスベクターによる成熟ラット黒質の形質導入を示している。(A)SNcだけではなくSNr内のニューロンの強力な染色。また高範囲な広がりがSNへの視床背側で観察される。(B)視床後腹側核外側部(VPL)および視床後腹側核内側部(VPM)(内側毛帯からの入力を受け入れる)、中心正中核(CM)およびその視床線条体線維(被殻へ投射している)およびSTN(内側GPへ投射していてLPGからのインプットを受け入れる)の形質導入が同側注射で観察された。(C)被殻および皮質の点状染色(順行性で輸送されたLacZによるニューロン終末染色を示す青白い染色)。(D)淡蒼球のニューロンの広範囲の形質導入(順行性および逆行性輸送)。形質導入は注射4週間後であった。
【図12】EIAV pONY8Z 狂犬病Gウイルスベクターの黒質周囲注射後の染色を示している。(A)視床外側中心核(CLT)および視床傍核(PTN)並びにマイネルト(Maynert)交連の背側視索上交差(DSC)の細胞体の染色は、注射とは反対側の位置で染色している。マイネルト交連は注射部位の反対側のSTNから同側の淡蒼球へ投射している。GPが形質導入されているので、この染色は反対側のニューロン体へのベクターの逆行性輸送を意味している。(B)視床傍室核(PVH)の染色は、VSVGシュードタイピングベクターを用いて観察された(図7)のと同様に所見される。
【図13】pONY8Zのプラスミドマップを示している。
【図14】pONY8.0Gのプラスミドマップを示している。
【図15】EIAVレンチウイルスベクターを使用した一次ニューロン培養における遺伝子導入を示している。(A〜C)10のMOIでの狂犬病GシュードタイピングpONY8.0Gで感染させたマウスE14中脳ニューロン。これらの培養からのGFP発現ニューロンは、(A)では抗GFP抗体を用いて、(B)では抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH)抗体を用いて標識されて示されている。(C)マージした共焦点画像におけるGFPおよびTH共局在化。(D)MOIの増加は形質導入されたニューロンの数の増加をもたらすが、2つのシュードタイプ間で有意な相違は観察されない。(E)コントロールニューロンと比較して、レンチウイルス遺伝子導入後の中脳ニューロンによるH−DA遊離に形質導入が及ぼす作用は観察されない。D、E、LおよびMでは、無色バーはVSV−Gシュードタイピングベクターにより感染した細胞を示しており、黒色バーは狂犬病Gシュードタイピングベクターにより感染した細胞を示している。(F〜H)MOIが10でのβ−galを発現している狂犬病シュードタイピングEIAVベクターを用いて感染させたラットE17海馬ニューロンおよび線条体ニューロン(I〜K)。細胞は抗β−gal抗体(F、I)および抗ニューロン核(NeuN)抗体を用いて標識されている。(G,J)2種の抗原(H〜K)の共局在化を示しているマージした共焦点画像。中脳培養と同様に、MOIの増加は形質導入された海馬(L)および線条体(M)ニューロンの数の増加をもたらす。は、VSV−Gシュードタイプと比較して狂犬病Gシュードタイピングベクターを用いた場合の形質導入効率の有意な増加を示している。画像A〜C、およびF〜K:倍率×60。
【図16】注射1ヵ月後のVSV−G(A〜F)および狂犬病G(G〜L)シュードタイピングpONY8Zベクター1を用いたラット線条体におけるLacZのインビボ形質導入を示している。(A)尾状殻における注射部位での広範囲の遺伝子導入は、VSV−Gシュードタイピングベクター送達後に観察されるが、これは線条体特異的であって、それを横断する線維路特異的ではない。(B)注射部位(矢印)に近いニューロン形態を備えた細胞を示している、(A)からの高倍率画像。β−galの順行性輸送は注射された線条体から解剖学的に連結している例えば外側および内側淡蒼球(C,D)、視床下核に隣接する大脳脚(E)および黒質網状部分(F)のような投射部位へ投射しているニューロン軸索において観察される。これらの部位への線条体の投射はParentら、(2000),Trends Neurosci.23:S20〜7で論評されている。一部のβ−gal発現細胞体は外側淡蒼球でのみ観察されるが、これはこの核が注射部位へ近いために直接遺伝子導入も発生したことを意味している。 (G)線条体内での狂犬病Gシュードタイピングベクターによる遺伝子導入は尾状殻(G,H)およびさらに近くの淡蒼球(I)における広範なβ−gal染色をもたらす。淡蒼球形質導入は視床網状核への投射の順行性標識をもたらす(I)。これらの求心性神経の標識は、淡蒼球に順行性トレーサーが配置された場合に観察された。狂犬病Gシュードタイピングウイルスベクターの逆行性輸送は扁桃(I)、数種の視床核(J,K)、視床下核(K)および黒質(L)を含む解剖学的に連結された部位で遠位ニューロン核における細胞体の形質導入を生じさせる。この現象は、VSV−Gシュードタイピングベクター類の同様の送達後には観察されなかった。 VSV−G(M〜O)および狂犬病G(P〜U)シュードタイピングEIAVウイルスベクターの注射後のラット線条体に形質導入された細胞型の共焦点顕微鏡による分析。形質導入は、同一切片におけるβ−gal(MおよびP)およびNeuN抗体染色(NおよびQ)を用いて証明されたようにどちらの場合にも主としてニューロン性であった。β−galおよびNeuN発現の共局在化はマージした画像(OおよびR)において見ることができる。VSV−G(矢印)の場合には形質導入された線条体投射ニューロンが存在するが、狂犬病Gシュードタイピングベクターにより形質導入された線条体には存在しない。ニューロン(矢印)に加えて、狂犬病Gシュードタイピングベクターは抗β−gal(S)および抗−GFAP(T)共局在化(U)によって証明されたように、星状細胞(S〜U矢印)に形質導入する。A:扁桃、CP:尾状殻、cp:大脳脚、CM:中心正中視床核、ic:内包、LPG:外側淡蒼球、MGP:内側淡蒼球、PCN:中心周囲視床核、PF:線維束周囲視床核、SNc:黒質緻密部、SNr:黒質網状部、SMT:亜正中視床核、STh:視床下核、TRN:視床網状核。画像の倍率;A,C,D,E,F,G,I,J,K:×10;H:×25;B:×40;M〜O:×90;P〜R:×120;S〜U:×160。
【図17(I)】狂犬病GシュードタイピングpONY8Zベクターの線条体への注射8ヵ月後の線条体送達後に逆行性で形質導入された遠隔部位レポーター遺伝子発現を示している。(A)淡蒼球における送達部位での強力な発現。発現は、狂犬病GシュードタイピングpONY8Zベクターの逆行性輸送によって形質導入されている例えば内側視床核(B)および黒質(C)のような淡蒼球へ投射している遠隔部位でも強力なままである。形質導入された線条体遠心性神経の軸索においてβ−galから輸送された大脳脚および黒質網状部において青白い染色が観察される。CM:中心正中視床核、CP:尾状殻、cp:大脳脚、PCN:中心周囲視床核、SMT:亜正中視床核、SNc:黒質緻密部、SNr:黒質網状部。画像の倍率;A,B:×10;C:×15。
【図17(II)】線条体内への狂犬病Gシュードタイピングベクターの注射後の淡蒼球(D〜F)および黒質緻密部(G〜I)における逆行性で形質導入されたニューロンを示す共焦点分析を示している。顕微鏡写真は、抗β−gal(DおよびG)、抗NeuN(E)および抗チロシンヒドロキシラーゼ(H)抗体によるニューロンの免疫蛍光標識を示している。β−galの発現が淡蒼球ニューロンにおけるNeuN(F)および黒質ドーパミン作動性ニューロンにおけるチロシンヒドロキシラーゼ(I)と共局在化すると、明るい染色が生じる。画像の倍率;D〜I:×50。
【図17(III)】ラット線条体における狂犬病Gシュードタイピングベクターの注射部位と同側の視床および黒質におけるEIAVベクターDNAの検出を示すPCR分析を示している。レーン1:100bpラダー;レーン2、3、4:ラット1(狂犬病Gシュードタイピングベクター)線条体、視床、黒質;レーン5、6、7:ラット2(VSV−Gシュードタイピングベクター)線条体、視床、黒質;レーン8:注射していないラット5:レーン9:水。
【図18】VSV−G(A〜C)および狂犬病G(D〜I)シュードタイピングpONY8Zベクターの注射1ヵ月後のラット黒質内のLacZのインビボ形質導入を示している。(A)黒質緻密部および視床では、VSV−Gシュードタイピングベクターを用いた場合に広範囲の遺伝子導入が観察される。(B)緻密部ニューロンおよび黒質網上部へ投射しているそれらの軸索の広範な形質導入を示している黒質の高倍率画像。(C)β−galタンパク質は、黒質ニューロンの軸索終末へ順行性輸送されて同側線条体(円で囲まれている)の青白い染色を産生する。(A)における矢印は、β−galの順行性輸送および反対側へ投射している交連軸索の染色を示しているが、ニューロン細胞体の形質導入は反対側では観察されなかった。(D)狂犬病GシュードタイピングEIAVベクターの送達後には黒質および様々な視床核の両方の広範囲の形質導入が観察される。この場合には黒質緻密部および黒質網状部がどちらも形質導入される(E,F)。このベクターの逆行性輸送を原因とする遠隔部位でのニューロンの標識化は、外側淡蒼球(G,H)、扁桃(G)および反対側の視床から投射している交連ニューロン(矢印I)において観察できる。軸索に沿ったβ−galの順行性輸送は広範に広がっており、例えば視床網状核(G)(外側淡蒼球から)および尾状殻(G,H)(黒質緻密部および外側淡蒼球から)のような構造の染色をもたらす。A:扁桃、APTD:前方視蓋前視床核、CP:尾状殻、cp:大脳脚、DSC:マイネルト交連の背側視索上交差、LPG:外側淡蒼球、PCom:後交連の核、SNc:黒質緻密部、SNr:黒質網状部、TRN:視床網状核。画像の倍率;C:×3.5;A,D,E,G,I:×10;F,H:×25;B:×40。
【図19】VSV−G(A〜C)および狂犬病G(D〜H)シュードタイピングpONY8Zベクターを用いた注射1ヵ月後のラット海馬内のLacZのインビボ形質導入を示している。(A)海馬台ではVSV−Gシュードタイピングベクターを用いた場合に広範囲の、そしてCA1錘体細胞層および脳梁内ではこれより少ない程度での遺伝子導入が観察される。淡青色の染色は、分子層(AおよびB矢印)へ投射している軸索線維並びに隔膜およびブロカ対角帯(C矢印)へ投射している少数の線維のβ−gal染色の順行性輸送を表している。これらの領域で細胞体染色は全く観察されなかった。これらのニューロン投射は順行性追跡実験から確立される。(D)VSV−Gシュードタイピングベクターと比較して狂犬病Gを用いた場合にはCA1細胞の強力な形質導入が観察される。CA4錘体細胞の一部の形質導入もまた存在する。(E)錘体ニューロンの樹状突起および軸索の強力な染色を示している(D)に描出されているCA1領域からの高倍率画像。(F)海馬台、CA1錘体細胞層、脳梁および後海馬内の皮質線維における細胞のβ−gal染色。(G)前海馬における歯状回を除くCA1およびCA3錘体細胞のβ−gal染色。皮質線維は染色されており、外背側視床核の逆行性標識も観察される。(H)狂犬病Gシュードタイピングウイルスベクターの逆行性輸送を原因とする外側視床下部およびブロカ対角帯におけるニューロン核および軸索における強力な形質導入が観察される。これらの部位から海馬への求心性神経については以前に説明されている。DG:歯状回;CA1,CA3:海馬錘状態ニューロン細胞層;LDVL:外背側視床核の腹外側面;S:海馬台;Se:隔膜;VDB:ブロカ対角帯の垂直肢。画像の倍率;A,C,D,F:×10;G:×15;B,H:×25;E:×50。
【図20】pONY8Zレンチウイルスベクターの脊髄内または筋肉内送達から3週間後のラット脊髄におけるレポーター遺伝子発現を示している。VSV−G(A〜G)または狂犬病Gシュードタイピングベクター(H〜P)による脊髄内注射後の形質導入を示している前角の顕微鏡写真。どちらのベクタータイプについてもβ−gal染色により強力な形質導入が観察されている(A〜B;H〜I)。BおよびIはAおよびHに示されている形質導入の領域の高倍率画像である。β−gal(CおよびJ)を共発現している逆行性にフルオロゴールド(fluorogold)標識した運動ニューロン(DおよびK)を示している脊髄の縦断切片である。横断切片は抗β−gal抗体(E,L,Q)を用いて染色した。同一切片をニューロンマーカーNeuN(F,M,R)により染色した。NeuNおよびβ−gal(G,N,S)のニューロン共局在化を示している複合共焦点画像。狂犬病GシュードタイピングpONY8Zベクターの脊髄内注射後には、例えば脳幹(O)および脳皮質のV層(P)のような注射部位へ投射している領域で逆行性で形質導入された運動ニューロンが観察される。Hにおける矢印は、以前に確認された解剖学的連絡に沿って、注射領域とは反対側から投射している交連運動ニューロンに逆行性で形質導入されたことを示している。Pにおける矢印の先は注射部位と同側の形質導入されたV層皮質脊髄運動ニューロンを示している。(Q〜S)腓腹筋からの狂犬病GシュードタイピングpONY8Zベクターの注射後にウイルス粒子の逆行性輸送および脊髄運動ニューロン(矢印)の形質導入を示している脊髄の横断切片。抗β−gal抗体を用いて染色した切片(Q)。神経マーカーNeuNを用いて染色した同一切片(R)。NeuNおよびβ−galの共局在化を示している複合共焦点画像(S)。Vln:前庭外側核、Prf:網状橋形成。画像の倍率;A,H:×10;B〜D,I〜KおよびO:×25;P:×50;E〜G,L〜NおよびQ〜S:×60。
【図21】ラット線条体へのpONY8Zベクター送達後のラット脳中の免疫反応を示している。注射領域における免疫反応の構成要素を検出するために使用した抗体類は次の通りであった。OX1−白血球共通抗原、OX18−MHCクラス1、OX42−ミクログリアおよびマクロファージ上の3型補体レセプターおよびOX62−樹状細胞。全動物(PBS注射コントロールを含む、図示されていない)は、皮質および線条体における注射針進路の周囲でOX42/ED1活性化マクロファージ/ミクログリアの軽度の浸潤を示した(C,G,K)。この反応は時間の経過に伴って減少したが、注射35日後にもまだ部分的に明白であった(図示されていない)。VSV−Gシュードタイピングベクターを注射された動物(A〜D)は、コントロールで観察されたミクログリア浸潤に加えて、注射7日後に軽度の免疫反応を示した。同側線条体における、OX18+MHCクラス1陽性細胞の浸潤(B)が観察されたが、白血球(A)および樹状細胞(D)の浸潤はどちらもこれらの動物の脳内へのVSV−Gシュードタイピングベクターの注射後のいずれの時点にも検出できなかった。この反応は14日後までに減少した。VSV−Gシュードタイピングベクターに比較して、狂犬病Gシュードタイピングベクターの注射後にはわずかに強力な免疫反応が観察された。白血球(E)、MHCクラス1免疫陽性細胞(F)、樹状細胞(H)の浸潤および血管周囲カフィング(E,F)を注射7日後に所見できたが、注射14日後にはレベルが低下した(各々I,J,K)。画像の倍率;A〜DおよびF〜L:×25;E:×50。
【図22】感覚ニューロンへのウイルスによる遺伝子導入を示している。脊髄の後角内への狂犬病GシュードタイピングpONY8Zの注射後に後根(A〜C)およびDRG(D,E)におけるレポーター遺伝子βガラクトシダーゼの発現。ウイルス注射5週間後のβガラクトシダーゼについての免疫蛍光を示している切片。β−galの発現はシュワン細胞、軸索(ブロック矢印)、およびDRGニューロン(矢印)中で検出できる。免疫蛍光のためには、切片を1:250の希釈率でウサギポリクローナル抗β−gal(5Prime3Prime Inc.)を用いてインキュベートした。この実験で使用した二次抗体はFITC結合抗ウサギIgG(Jackson Immunoresearch製)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EOIをTH陽性ニューロンに送達するためのベクターシステムの使用であって、前記ベクターシステムは、狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片の少なくとも一部分であるか、狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片の少なくとも一部分を含むことを特徴とする使用。
【請求項2】
前記ベクターシステムが、狂犬病Gタンパク質またはその突然変異体、変種、ホモログもしくは断片の少なくとも一部分によりシュードタイプされている請求項1に記載の使用。
【請求項3】
TH陽性ニューロンの死または機能障害に関連する疾患を治療および/または予防するための請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
パーキンソン病を治療および/または予防するための請求項3に記載の使用。
【請求項5】
請求項1または2に記載のベクターシステムを使用するステップを含む、TH陽性ニューロン内のPOIの作用を分析する方法。
【請求項6】
TH陽性ニューロン内の遺伝子または遺伝子によってコードされたタンパク質の機能を分析する方法であって、請求項1または2に記載のベクターシステムを使用して、前記遺伝子の発現を阻害もしくは遮断するステップ、または前記遺伝子の過剰発現を惹起するステップを含む方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のベクターシステムにより形質導入されたTH陽性ニューロン。
【請求項8】
請求項7に記載の遺伝子操作されたTH陽性ニューロン。
【請求項9】
請求項8に記載の不死化TH陽性ニューロン。
【請求項10】
移植に使用するための薬剤の製造における請求項8または9に記載の遺伝子操作されたTH陽性ニューロンの使用。
【請求項11】
治療および/または予防が必要な被検対象において疾患を治療および/または予防するための方法であって、請求項8または9に記載の遺伝子操作されたTH陽性ニューロンを前記被検対象内に移植するステップを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17(I)】
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【図17(II)】
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【図17(III)】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−303215(P2008−303215A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131960(P2008−131960)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【分割の表示】特願2002−538979(P2002−538979)の分割
【原出願日】平成13年11月2日(2001.11.2)
【出願人】(500129007)オックスフォード バイオメディカ(ユーケイ)リミテッド (5)
【Fターム(参考)】