説明

ベクター系

標的部位に対して形質導入するためのベクター系の使用であって、このベクター系は拡散によって該標的部位へ移動するものとし、およびこのベクター系は狂犬病ウイルスG外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片あるいはCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これを含むものとし、さらにこの標的部位は中枢神経系の少なくとも一部であるものとする使用。広範な態様として、本発明は対象物質(「EOI」)の逆行性輸送をもたらすことができるベクター系に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はベクター系に関する。特に、本発明は、中枢神経系(CNS)を冒す疾患の治療などのために、対象とする物質(「EOI」)−例えば、対象とするヌクレオチド配列(「NOI」)−を標的部位に送達させることができるベクター系に関する。
【0002】
好ましい一態様として、本発明は、対象とするヌクレオチド配列(「NOI」)を標的部位に送達させることができるウイルス・ベクター系に関する。
【0003】
さらに好ましい一態様として、本発明は、対象とするヌクレオチド配列(「NOI」)を標的部位に送達させることができるレンチウイルス・ベクター系に関する。
【0004】
さらに特に、本発明は、遺伝子治療に有用なレトロウイルス・ベクターに関する。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
遺伝子治療は、例えば、1つ以上の標的部位−標的細胞など−における1種以上のヌクレオチド配列の追加、置換、除去、補充、操作などのうちの任意の1つ以上を含む。標的部位が標的細胞である場合、こうした細胞は組織もしくは器官の一部とすることができる。遺伝子治療に関する概略については、モレキュラー・バイオロジー(Molecular Biology)(ロバート・マイヤーズ(Robert Meyers)編、パブ(Pub)VCH社、p556−558他)に教示されている。
【0006】
また、別の例として、遺伝子治療は、以下のうちの任意の1つ以上を行うことができる手段ともなる:遺伝子などのヌクレオチド配列の使用による欠陥遺伝子の置換もしくは補完;病原遺伝子もしくは遺伝子産物の除去;新たな遺伝子を追加することによる、例えば、より好ましい表現型の創出;分子レベルで細胞を操作することによる癌の治療(シュミット−ウォルフ(Schmidt−Wolf)、シュミット−ウォルフ(Schmidt−Wolf)、1994年、アナルズ・オブ・ヘマトロジー(Annals of Hematology)69;p273−279)または他の状態−例えば、免疫、心血管、神経系、炎症性もしくは感染性疾患−の治療;抗原の操作および/または導入による免疫反応の誘起−例えば、遺伝子ワクチン接種。
【0007】
近年、遺伝子治療にレトロウイルスを用いることが提案されている。本質的には、レトロウイルスは溶菌ウイルスとは異なる生活環を有するRNAウイルスである。なお、レトロウイルスが細胞に感染すると、そのゲノムがDNA型に転換する。換言すれば、レトロウイルスは、DNA中間体を経由して複製する感染性物質である。レトロウイルス感染などに関しては、追ってさらに詳細に説明する。
【0008】
ウイルス・ベクターの遺伝子構造に関しては、遺伝子envがビリオンの表面(SU)糖蛋白質および貫膜(TM)蛋白質をコードしており、これらは細胞の受容体蛋白質と特異的に相互作用する複合体を形成する。この相互作用によって、最終的には、ウイルス膜が細胞膜と融合する。
【0009】
env蛋白質は分割されなくても上記受容体に結合可能であるが、分割事象それ自体はこの蛋白質の潜在的融合能を活性化するのに必要であり、また、この活性化はウイルスの宿主細胞内への侵入に必要である。一般に、SU蛋白質およびTM蛋白質は共に、複数の部位でグリコシル化されているが、MLVに代表される一部のウイルスではTMはグリコシル化されていない。
【0010】
SU蛋白質およびTM蛋白質は、外皮を有するビリオン粒子の構築自体には必ずしも必要ではないが、上記侵入過程では重要な役割を果たしている。その際、SUドメインは標的細胞の受容体分子−多くの場合、特異的な受容体分子−に結合する。この結合事象によりTM蛋白質の潜在的な膜融合誘導能が活性化され、その後、ウイルス膜と細胞膜とが融合すると考えられている。一部のウイルス、特にMLVでは、分割事象−TMの細胞質側尾部の短い部分の除去をもたらす−は、この蛋白質の融合作用を完全に解明するのに鍵となる役割を果たすものと考えられている(ブロディほか(Brody,et al.)、1994年、ジャーナル・オブ・バイロロジー(J.Virol.)68:p4620−4627、レインほか(Rein,et al.)、1994年、ジャーナル・オブ・バイロロジー(J.Virol.)68:p1773−1781)。TMの膜貫通セグメントに対して末端側のこの細胞質側「尾部」は、ウイルス膜の内側に留まり、その長さは種々のレトロウイルスでかなりの変動がある。
【0011】
従って、このSU/受容体相互作用の特異性によってレトロウイルスの宿主範囲および組織親和性が決まり得る。場合によっては、この特異性のために、組換えレトロウイルス・ベクターの潜在的な形質導入能が制限を受けることがある。従って、これまで遺伝子治療実験ではMLVを用いることが多かった。4070Aという外皮蛋白質を有する特定のMLVは両種性ウイルスと呼ばれるが、このウイルスは、その外皮蛋白質がヒトとマウスとの間で保存されているリン酸輸送蛋白質と「合体」するため、ヒト細胞に感染することもできる。この輸送体は遍在しており、従って、こうしたウイルスは多くの細胞種に感染することができる。しかしながら、限られた細胞を特異的に標的とすることは、特に安全性の観点から、有益と考えられる場合もある。このために、いくつかの研究グループは、近縁の両種性のものと異なり通常マウス細胞にのみ感染するマウスの同種指向性レトロウイルスに対し、特定のヒト細胞に特異的に感染するよう操作している。即ち、外皮蛋白質をエリスロポエチン・セグメントで置換することによって組換えレトロウイルスを作製し、これを、赤血球前駆細胞などの、表面にエリスロポエチン受容体を発現しているヒト細胞に特異的に結合させた(マウリク(Maulik)、パテル(Patel)、1997年、「モレキュラー・バイオテクノロジー:テラピューティック・アプリケーションズ・アンド・ストラテジーズ(Molecular Biotechnology:Therapeutic Applications and Strategies)、1997年、ワイリー−リス社(Wiley−Liss Inc.)、p45」。
【0012】
env遺伝子の異種env遺伝子による置換は、シュードタイピングと呼ばれる技術もしくは方法の一例である。シュードタイピングを行うと、1つ以上の利点を得ることができる。例えば、レンチウイルスの場合、このHIV由来ベクターのenv遺伝子産物により、このベクターの感染はCD4と呼ばれる蛋白質を発現している細胞にのみ限定されることになる。しかし、このベクターのenv遺伝子を他のRNAウイルスからのenv配列で置換した場合には、このベクターは、より広い感染スペクトルを有するものと考えられる(ヴェルマ(Verma)、ソニア(Somia)、1997年、ネイチャー(Nature)389:p239−242)。
【0013】
より一般的には、CNSに治療分子を送達させることは、神経変性疾患の治療の重要な課題となっている。克服すべき制約としては、(i)脳血液関門の存在、(ii)全身投与に伴う副作用、および(iii)この分子の不安定性が挙げられる。
【0014】
例えば、パーキンソン病の治療における遺伝子治療法の1つの問題点は、脳というものが、標的とするには困難で複雑な器官であることにある(レイモン、H.K.ほか(Raymon,H.K.et al.)(1997年)、エクスペリメンタル・ニューロロジー(Exp.Neur.)144:p82−91)。通常の投与法は、ベクターの線条体への注入(ビラング−ブロイエルほか(Bilang−Bleuel et al)(1997年)プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro.Natl.Acad.Sci.)USA、94:p8818−8823;チョイ・ランドバーグほか(Choi−Lundberg,et al.)(1998年)、エクスペリメンタル・ニューロロジー(Exp.Neur.)154:p261−275)もしくは黒質近傍への注入(チョイ・ランドバーグほか(Choi−Lundberg,et al.)(1997年)サイエンス(Science)275:p838−841;マンデルほか(Mandel,et al.)(1997年)プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro.Natl.Acad.Sci.)USA、94:p14083−14088)によるものである。脳のこうした一部の部位に対しては、例えば、それらの位置および/または大きさが障害となって、直接注入することが技術的に困難である。黒質は脳の深部にあるので、この領域に直接注入すると、軸索が損傷を受け、傷害が起こる。線条体、特に尾状核被殻は、黒質に比し、より大きく、より背側にあるので、比較的扱いやすい標的である。これは、パーキンソン病における移植のために広く用いられてきており、現在、その施行に係わる危険率は1%未満であると考えられている。同様な問題点は、CNSの他の部位に関しても存在する。
【0015】
従って、直接注入により到達させることが困難な脳の各部位その他のCNSの各部位に対して形質導入するためのメカニズムを見出すことが望まれる。また、脳内注入の回数および複雑性をできるだけ少なくする頭部遺伝子治療のための投与方法を見出すことも望まれる。さらに、投与後、神経系全体への十分な浸透および分布を達成することも望まれる。
【0016】
シュードタイピングは上記問題を多少とも解決できると考えられてきたが、シュードタイプ化ベクターの形質導入および発現の特徴についてはまだ十分に明らかにされておらず、現在もなお、別の改良されたベクターが必要とされている。
【0017】
例えば、マザラキスほか(Mazarakis,et al.)(2001年)ヒューマン・モレキュラー・ジェネティクス(Human Molecular Genetics)10(19):p2109−2121では、VSV Gでシュードタイプ化したレンチウイルス・ベクターは注入部位周辺の筋肉細胞に対し形質導入したが、脊髄のどの細胞においても発現をもたらさなかったと報告されている。
【0018】
世界特許第02/36170号では、逆行性輸送、特にTH陽性神経に対する形質導入を達成するための野性型狂犬病ウイルスG蛋白質の利用について開示している。我々は、狂犬病ウイルスG蛋白質およびCVS(対抗ウイルス・スタンダード(ChallengeVirus Standard))の外皮蛋白質を用いる逆行性輸送以外のメカニズムにより対象物質(EOI)の良好な体内分布を達成することが可能であることを見出した。従って、これによって、逆行性輸送メカニズムにより利用可能な部位以外の投与部位を介して部位を標的とすることが可能になることを理解されたい。いかなる理論にも拘束されたくはないが、この高レベルの分布は拡散メカニズムによって達成され得ると考える。これとは対照的に、VSV Gシュードタイピングでは、そのような体内分布は生じないことが分かり、本明細書に示した結果が意外なものであることが裏付けられた。中枢神経系の種々の部位へのアクセスは限定された投与部位を介して行うことができるので、体内分布が良好であることは重要な点であることを理解されたい。このことは、特に、容易にはアクセス可能でない部位へEOIを浸透させることが必要な場合には有益である。また、シュードタイプ化EIAVベクターでは特に良好な効果が得られることも分かった。
【0019】
また、我々は、CVS(対抗ウイルス・スタンダード)の外皮蛋白質を用いて逆行性輸送およびCNSの細胞に対する形質導入を達成することができることを見出した。CVS蛋白質を用いたレンチウイルス・シュードタイピングのメリットを明らかにしたのは我々が最初であると確信している。
【0020】
さらに、我々は、狂犬病ウイルスG外皮蛋白質およびCVS外皮蛋白質を用いたシュードタイピングにより、子宮内投与、もしくは新生仔への投与で特段のメリットが得られることを見出した。こうした場合では、筋肉細胞で良好な形質導入を達成することができることが分かったが、このことは、成熟細胞では形質導入が不良であることを考えると、驚くべきことである。また、逆行性輸送などによる運動神経および感覚神経への輸送が向上することも分かった。こうした結果は、例えば、脊髄性筋萎縮症の場合など、生涯の早い段階で治療を施す必要のある場合に特に好都合である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の説明
広範な態様として、本発明は対象物質(「EOI」)の逆行性輸送をもたらすことができるベクター系に関する。
【0022】
本明細書に用いている「ベクター系」という用語は、EOIを用いて受容細胞に感染することができ、またはこれに対して形質導入もしくは形質転換もしくは改変をもたらすことができる任意のベクターを含む。
【0023】
EOIは化学的化合物、生物学的化合物もしくはこれらの組合せとすることができる。例えば、EOIは、(成長因子などの)蛋白質、ヌクレオチド配列、(鎮痛剤、抗炎症剤、ホルモン剤、脂質剤などの)無機および/または有機医薬、あるいはこれらの組合せとすることができる。
【0024】
本発明のベクター系はある部位にEOIを送達することができ、その後、この部位のEOIは、例えば、拡散もしくは逆行性輸送によって分散され、および/または遠隔部位に浸透することができる。
【0025】
また、一般に、このベクター系はEOIを含むこともできる。
【0026】
本発明の一態様では、ベクター系が拡散によって標的部位へ移動し、およびこのベクター系が狂犬病ウイルスG外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片あるいはCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これらのいずれかを含み、さらにその標的部位が中枢神経系の少なくとも一部であることを特徴とする、標的部位に対して形質導入するためのベクター系の使用を提供する。
【0027】
本発明の別の態様では、ベクター系が狂犬病ウイルスG外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片あるいはCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これを含むことを特徴とする、EOIを体内分散させるためのEOIを含むベクター系の使用を提供する。
【0028】
本発明のさらに別の態様では、ベクター系が逆行性輸送によって標的部位へ移動し、およびこのベクター系がCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これらのいずれかを含み、さらにその標的部位が中枢神経系の少なくとも一部であることを特徴とする、標的部位に対して形質導入するためのベクター系の使用を提供する。
【0029】
本発明のさらに別の態様では、ベクター系が狂犬病ウイルスG外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片あるいはCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これを含むことを特徴とする、子宮内標的部位もしくは新生仔体内標的部位に対して形質導入するためのベクター系の使用を提供する。
【0030】
上記ベクター系は非ウイルス系もしくはウイルス系またはこれらの組合せとすることができる。さらに、このベクター系自体は、ウイルス利用もしくはウイルス非利用の方法により送達することができる。
【0031】
ウイルス・ベクターもしくはウイルス送達系としては、アデノウイルス・ベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)・ベクター、単純疱疹ウイルス・ベクター、レトロウイルス・ベクターおよびバキュロウイルス・ベクターが挙げられるが、これらに限定されるものではない。非ウイルス送達系もしくは非ウイルス・ベクター系としては、脂質媒介性トランスフェクション、リポソーム、イムノリポソーム、リポフェクチン、陽イオン性フェイシャル(facial)両親媒性物質およびこれらの組合せが挙げられる。
【0032】
本発明の非ウイルス・ベクター系では、狂犬病ウイルスG蛋白質(またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片)の少なくとも一部および/またはCVS蛋白質(またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片)の少なくとも一部は、EOIを封入し、もしくは包み込むために用いることができる。従って、一部の実施態様では、狂犬病ウイルスG蛋白質(またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片)の少なくとも一部、あるいはCVS蛋白質(またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片)の少なくとも一部は、EOIを包み込んでいるマトリクスを形成することができる。この場合、このマトリクスはリポソーム・タイプの物質などの他の成分を含むことができる。
【0033】
一部の好ましい態様として、上記ベクター系はウイルス・ベクター系である。
【0034】
一部のさらに好ましい態様として、このベクター系はレトロウイルス・ベクター系、好ましくはレンチウイルス・ベクター系である。
【0035】
また、特定のタイプのベクター系−例えば、ウイルス・ベクター系、好ましくはレトロウイルス・ベクター系、より好ましくはレンチウイルス・ベクター系−は、このベクター系の逆行性輸送によって、投与部位から遠く離れた1箇所以上の部位に対し形質導入することができることも分かった。
【0036】
単一の標的部位に投与すると、複数の標的部位に対し形質導入することができる。本ベクター系は、必要に応じて順行性輸送を併用した逆行性輸送、拡散もしくは体内分布(biodistribution)によりその標的または各標的に移動させることができる。
【0037】
別の広範な態様として、本発明は:
(i)前記のようなベクター系を用いて疾患を治療および/または予防する方法;
(ii)疾患を治療および/または予防するための薬学的組成物の製造におけるこのベクター系の使用;
(iii)このベクター系を用いて細胞における対象蛋白質の効果を解析する方法;
(iv)このベクター系を用いて遺伝子もしくは蛋白質の機能を解析する方法;
(v)このベクター系を用いて形質導入された細胞;
(vi)このベクター系を用いる形質導入により作製された不死化細胞;
(vii)治療剤の製造におけるこのような不死化細胞の使用;ならびに
(viii)この不死化細胞を用いる移植方法
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
発明の詳細な説明
本発明はベクター系の新規な使用に関する。
【0039】
本ベクター系は非ウイルス系もしくはウイルス系とすることができる。
【0040】
一部の好ましい態様として、本ベクター系はウイルス・ベクター系である。
【0041】
一部のさらに好ましい態様として、本ベクター系はレトロウイルス・ベクター系、好ましくはレンチウイルス・ベクター系である。
レトロウイルス
遺伝子治療のためにウイルス・ベクターを用いるという概念は公知である(ヴェルマ(Verma)、ソミア(Somia)、(1997年)ネイチャー(Nature)389:p239−242)。
【0042】
レトロウイルスには多くの種類がある。本出願では、「レトロウイルス」という用語は、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤波肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo−MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo−MSV)、エーベルソンマウス白血病ウイルス(A−MLV)、トリ骨髄球腫症ウイルス−29(MC29)、およびニワトリ赤芽球症ウイルス(AEV)、ならびにレンチウイルスを含む他の全てのレトロウイルス類(retroviridiae)を含む。
【0043】
レトロウイルスに関する詳細なリストについては、コフィンほか(Coffin,et al.)の文献(「レトロバイラシズ(Retroviruses)」1997年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbour Laboratory Press)、J.M.コフィン(J.M.Coffin)、S.M.ヒューズ(S.M.Hughes)、H.E.バーマス(H.E.Varmus)編、p758−763)に掲載されている。
【0044】
好ましい実施態様として、このレトロウイルス・ベクター系はレンチウイルスから誘導することができる。また、レンチウイルスはレトロウイルス・ファミリーに属するが、分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染することができる(ルイスほか(Lewis,et al.)(1992年)EMBOジャーナル(EMBO J.)、p3053−3058)。
【0045】
レンチウイルス群は、「霊長類」および「非霊長類」に分類することができる。霊長類レンチウイルスの例としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原体、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。非霊長類レンチウイルス群には原型「遅発性ウイルス」ビスナ/マエディウイルス(VMV)と共に、同類のヤギ関節炎−脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)ならびに最近になって報告されたネコ免疫不全ウイルス(FIV)およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が含まれる。
【0046】
一部のレンチウイルスのゲノム構造の詳細については、当該分野で求めることができる。例えば、HIVおよびEIAVに関する詳細については、NCBIジェンバンク(Genbank)データベース(即ち、それぞれ、ゲノム・アセッション番号AF033819およびAF033820)から求めることができる。また、HIV変異株の詳細についてはhttn://hiv−web.lanl.gov.で求めることもできる。EIAV変異株の詳細についてはhttp://www.nebi.nlm.nih.gov.から求めることができる。
【0047】
感染の過程では、レトロウイルスは最初に特定の細胞表面受容体に結合する。次に、受容性の宿主細胞に侵入すると、レトロウイルスRNAゲノムは、元のウイルス内に保有されている、ウイルスによりコードされた逆転写酵素によってDNAの形にコピーされる。このDNAは宿主細胞の核へ移送され、この核で、その後宿主ゲノムに組み込まれる。この段階では、通常これをプロウイルスと呼ぶ。このプロウイルスは、細胞分裂過程の宿主染色体内で安定であり、その他の細胞遺伝子と同様に転写される。このプロウイルスはウイルスを増殖させるのに必要な蛋白質その他の因子をコードしており、増殖したウイルスは「出芽」と呼ばれることもあるプロセスにより細胞から出て行くことができる。
【0048】
各レトロウイルス・ゲノムは、ビリオン蛋白質および酵素をコードしているgag、polおよびenvと呼ばれる遺伝子を含む。これらの遺伝子は、両端で、末端反復配列(LTR)と呼ばれる領域により挟まれている。これらのLTRはプロウイルスの組込み、および転写に関与している。また、これらはエンハンサ−プロモータ配列としての機能も果たしている。換言すれば、これらのLTRはウイルス遺伝子の発現を制御することができる。レトロウイルスRNAのキャプシド形成は、このウイルスゲノムの5’末端にあるpsi配列によって行われる。
【0049】
これらのLTR自体は、同一の配列であり、U3、RおよびU5と呼ばれる3つのエレメントに区分することができる。U3はこのRNAの3’末端に特有の配列に由来する。RはこのRNAの両端の反復配列に由来し、U5はこのRNAの5’末端に特有の配列に由来する。この3つのエレメントの大きさは種々のレトロウイルス間でかなり異なることがある。
【0050】
このウイルスゲノムでは、転写開始部位は一方のLTR内のU3およびR間の境界にあり、ポリ(A)付加(終結)部位は他方のLTR内のRおよびU5間の境界にある。U3はこのプロウイルスの転写制御エレメントの大部分を含有し、これらのエレメントには、細胞の、および場合によってはウイルスの転写活性化蛋白質に反応性のプロモータおよび複数のエンハンサ配列が含まれている。一部のレトロウイルスは、遺伝子発現の調節に関与する蛋白質をコードしている遺伝子、即ち、tat、rev、taxおよびrexのうちの任意の1種以上を有する。
【0051】
構造遺伝子gag、polおよびenv自体に関して言えば、gagはこのウイルスの内部構造蛋白質をコードしている。gag蛋白質は、蛋白分解性にプロセッシングを受けて、成熟蛋白質MA(マトリクス)、CA(キャプシド)およびNC(ヌクレオキャプシド)になる。pol遺伝子は逆転写酵素(RT)をコードしており、この酵素は、ゲノムの複製を媒介するDNAポリメラーゼ、関連RNアーゼHおよびインテグラーゼ(IN)を含む。env遺伝子はこのビリオンの表面(SU)糖蛋白質および膜貫通(TM)蛋白質をコードしており、これらは細胞受容体蛋白質と特異的に相互作用する複合体を形成する。この相互作用により、最終的には、ウイルス膜と細胞膜とが融合して感染が成立する。
【0052】
また、レトロウイルスは、gag、polおよびenv以外の蛋白質をコードしている「別の」遺伝子をも含んでいる。別の遺伝子の例としては、HIVではvif、vpr、vpx、vpu、tat、revおよびnefのうちの1種以上が挙げられる。EIAVは(特に)別の遺伝子としてS2を有する。
【0053】
別の遺伝子によりコードされている蛋白質は、種々の機能を果たしており、その一部は細胞蛋白質の有する機能に匹敵し得る。例えば、EIAVでは、tatはウイルスLTRの転写活性化因子の機能を果たしている。これは、TARと呼ばれる安定なステムループRNA二次構造に結合する。revは、rev反応性エレメント(RRE)を介してウイルス遺伝子の発現を調節・調整している。これら2種の蛋白質の作用メカニズムは、霊長類ウイルスにおける類似のメカニズムに概ね似ていると考えられる。S2の機能は知られていない。さらに、膜貫通蛋白質の最初のenvコーディング配列に繋ぎ合わされるtatの最初のエクソンがコードしているEIAV蛋白質Ttmが同定されている。
【0054】

ベクター系
本ベクター系は非ウイルス系もしくはウイルス系とすることができる。
【0055】
一部の好ましい態様として、本ベクター系はウイルス・ベクター系である。
【0056】
一部のさらに好ましい態様として、本ベクター系はレトロウイルス・ベクター系、好ましくはレンチルウイルス・ベクター系である。
【0057】
本ベクター系は対象とする1箇所以上の部位へEOIを移送するのに用いることができる。この移送はインビトロ(in vitro)、エクスビボ(ex vivo)、インビボ(in vivo)、もしくはこれらの組合せにおいて行わせることができる。
【0058】
極めて好ましい態様として、この送達系は、レンチウイルス・ベクター系であるレトロウイルス送達系である。
【0059】
レトロウイルス・ベクター系は、とりわけ、対象とする1箇所以上の部位へNOIを移送するための送達系として提案されている。この移送はインビトロ、エクスビボ、インビボ、もしくはこれらの組合せにおいて行わせることができる。レトロウイルス・ベクター系は、レトロウイルスの生活環の様々な側面、例えば、受容体利用、逆転写およびRNAパッケージングに関する研究にも利用されている(ミラー(Miller)、1992年、カレント・トピックス・イン・マイクロバイオロジー・アンド・イムノロジー(Curr Top Microbiol Immunol)158:1−24に概説されている)。
【0060】
また、本明細書に用いている「ベクター系」という用語には、受容細胞に対し、NOIを形質導入することができるベクター粒子も含めることができる。
【0061】
ベクター粒子は、以下の構成部分、即ち、1種以上のNOIを含むことができるベクター・ゲノム、核酸を包み込むヌクレオキャプシド、およびこのヌクレオキャプシドを取り囲む膜を含むものである。
【0062】
「ヌクレオキャプシド」という用語は、少なくとも、群特異的ウイルス・コア蛋白質(gag)およびレトロウイルス・ゲノムのウイルス・ポリメラーゼ(pol)のことを意味する。これらの蛋白質は、詰込み可能な配列に対するキャプシドを形成し、さらにこれら自体が外皮糖蛋白質を含有する膜によって取り囲まれている。
【0063】
レトロウイルス・ベクター粒子のRNAゲノムは、一旦細胞内に入ると、DNAの形に逆転写され、受容細胞のDNA中に組み込まれる。
【0064】
「ベクター・ゲノム」という用語は、レトロウイルス・ベクター粒子内のRNA構造体および上記の組み込まれたDNA構造体の両者のことを意味する。また、この用語は、そのようなRNAゲノムをコードすることができる単独の(separate)、もしくは単離された(isolated)DNA構造体をも包含する。レトロウイルスもしくはレンチウイルスのゲノムは、レトロウイルスもしくはレンチウイルスから誘導可能な少なくとも1つの構成部分を含む必要がある。「誘導可能な」という用語は、レンチウイルスなどのウイルスから得られることが必ずしも必要であるのではなく、これらからの誘導が可能であるヌクレオチド配列もしくはその一部を意味する通常の意味で用いている。例えば、この配列は、合成的に、もしくは組換えDNA技術を用いることによって作製することができる。このゲノムは、psi領域(もしくは、キャプシド形成をもたらすことができる類似の構成部分)を有することが好ましい。
【0065】
好ましくは、このウイルス・ベクター・ゲノムは、このゲノムが単独で十分な遺伝情報を含まないため、独立した複製により受容細胞内に感染性ウイルス粒子を産生することができないことを意味する「複製欠陥型」である。好ましい実施態様として、このゲノムは機能性env、gagもしくはpol遺伝子を欠損する。極めて好ましい実施態様として、このゲノムはenv、gagおよびpol遺伝子を欠損する。
【0066】
このウイルス・ベクターのゲノムは、複数の末端反復配列(LTR)の一部もしくは全部を含むことができる。好ましくは、このゲノムは、これらのLTRの少なくとも一部、もしくはプロウイルス組込みおよび転写を媒介することができる類似の配列を含む。また、この配列はエンハンサ−プロモータ配列を含むか、その機能を果たすこともできる。
【0067】
同一細胞内に同時導入した異なるDNA配列を用いてレトロウイルス・ベクター粒子を産生させるのに必要な構成部分を別々に発現させると、治療的遺伝子を含む欠陥レトロウイルス・ゲノムを有するレトロウイルス粒子が得られることは公知である(例えば、ミラー(Miller)、1992年の総説)。この細胞はプロデューサー細胞(下記参照)と呼ばれる。
【0068】
プロデューサー細胞を作製するには一般に2つの方法が用いられている。その1つに、レトロウイルスのGag、PolおよびEnv蛋白質をコードしている配列を細胞内に導入し、この細胞のゲノム内に安定的に組み込む方法があり、パッケージング細胞株と呼ばれる安定な細胞株が得られる。このパッケージング細胞株は、レトロウイルスRNAを詰め込むのに必要な蛋白質を産生するが、psi領域を欠くため、キャプシド形成をもたらすことはできない。しかしながら、このパッケージング細胞株に(psi領域を有する)ベクター・ゲノムを導入すると、このヘルパー蛋白質にpsi−ポジティブ組換えベクターRNAが詰め込まれて組換えウイルス・ストックが得られる。これは、NOIを受容細胞内に形質導入するのに用いることができる。ゲノムがウイルス蛋白質を産生するのに必要な遺伝子を全て欠くこの組換えウイルスは、一度しか感染することができないため、増殖することができない。従って、上記NOIを宿主細胞のゲノムに導入しても有害となる可能性のあるレトロウイルスは産生されない。利用可能なパッケージング株の概要については、「レトロバイラシズ(Retroviruses)」(1997年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbour Laboratory Press)、J.M.コフィン(JM Coffin)、S.M.ヒューズ(SM Hughes)、H.E.バーマス(HE Varmus)編、p449)に記載されている。
【0069】
また、本発明は、本発明の第1の態様に有用なベクター系をもたらすことができるウイルス・ベクター・ゲノムを含むパッケージング細胞株を提供する。例えば、このパッケージング細胞株は、このゲノムを含むウイルス・ベクター系を用いて形質導入し、もしくはこのRNAゲノムをコードすることができるDNA構造体を有するプラスミドを用いてトランスフェクションすることができる。また、本発明は、パッケージング細胞およびレトロウイルス・ベクター・ゲノムを含む本発明の第1の態様に有用なレトロウイルス・ベクター系を作製するためのキットを提供する。
【0070】
第2の方法は、レトロウイルス・ベクター粒子を産生させるのに必要な3種のDNA配列、即ち、envコーディング配列、gag−polコーディング配列、および1種以上のNOIを含む前記欠陥レトロウイルス・ゲノムを一時的トランスフェクションにより同時に細胞に導入するものであり、この方法は一時的三種同時トランスフェクション(transient triple transfection)と呼ばれている(ランドー(Landau)、リットマン(Littman)、1992年;ピアーほか(Pear et al)、1993年)。この三種同時トランスフェクション法は最適なものに改善されている(ソネオカほか(Soneoka et al)、1995年;ファイナーほか(Finer et al)、1994年)。世界特許第94/29438号では、この複数DNAの一時的トランスフェクション法を用いたインビトロ(in vitro)によるプロデューサー細胞の作製法が開示されている。世界特許第97/27310号では、再移植用にインビボもしくはインビトロでレトロウイルス・プロデューサー細胞を作製するための一連のDNA配列が開示されている。
【0071】
ベクター・ゲノムを補完するのに必要な本ウイルス系の構成部分は、細胞内にトランスフェクションさせるための1種以上の「プロデューサー・プラスミド」上に存在させることができる。
【0072】
また、本発明は、
(i)ベクター粒子を産生するのに必要な1種以上の蛋白質をコードすることができないウイルス・ベクター・ゲノム、
(ii)(i)によってコードされない上記蛋白質をコードすることができる1種以上のプロデューサー・プラスミド、および任意選択的に
(iii)プロデューサー細胞への転換に適した細胞
を含む、本発明の第1の態様に有用なレトロウイルス・ベクター系を作製するためのキットを提供する。
【0073】
好ましい態様として、このウイルス・ベクター・ゲノムは蛋白質gag、polおよびenvをコードする能力を欠くものである。好ましくは、このキットは、env、gagおよびpolをコードしている1種以上のプロデューサー・プラスミド、例えば、envをコードしているプロデューサー・プラスミドおよびgag−polをコードしているものを含む。このgag−pol配列は、特定のプロデューサー細胞(下記参照)に用いるのに最適化されたコドンであることが好ましい。
【0074】
また、本発明は、本発明に有用なレトロウイルス・ベクター系をもたらすことができる上記ベクター・ゲノムおよび上記プロデューサー・プラスミドを発現するプロデューサー細胞を提供する。
【0075】
本発明の第1の態様に用いるレトロウイルス・ベクター系は自己不活性化(SIN)ベクター系であることが好ましい。
【0076】
自己不活性化レトロウイルス・ベクター系は、例えば、3’LTRのU3領域内にある転写エンハンサもしくはこのエンハンサおよびプロモータを除去することにより構築されている。ベクターの逆転写および組込みが1回行われた後、これらの変更が5’LTRおよび3’LTRの両者内にコピーされ、転写活性のないプロウイルスが得られる。しかしながら、このようなベクター内のこれらLTR内部のどのプロモータも、なお転写活性を有するであろう。この方法は、内部に配置されている遺伝子からの転写に対するウイルスLTR内のエンハンサおよびプロモータの影響をなくすために用いられてきた。このような影響としては、転写の増強もしくは転写の抑制が挙げられる。また、この方法は、3’LTRからゲノムDNA内への下流方向の転写をなくすためにも用いることができる。このことは、内在性癌遺伝子の偶発的な活性化を阻止することが重要と考えられるヒトの遺伝子治療では特に関心が持たれる。
【0077】
好ましくは、本発明のプロデューサー細胞からの高力価に調整されたレンチウイルスの産生を促進するリコンビナーゼ・アシスト機構(recombinase assisted mechanism)を用いる。
【0078】
本明細書に用いている「リコンビナーゼ・アシスト系」という用語には、バクテリオファージP1のCreリコンビナーゼ/loxP認識部位、もしくは34bpFLP認識標的(FRT)間の組換え事象を触媒するS.セルヴィシエの部位特異的FLPリコンビナーゼを用いる系が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0079】
リコンビナーゼ・アシスト組換え事象を利用する高レベルのプロデューサー細胞株を作製するために、34bpFLP認識標的(FRT)間の組換え事象を触媒するS.セルヴィシエの部位特異的FLPリコンビナーゼはDNA構造体中に配置されてきた(カーレマンほか(Karreman et al)(1996年)NAR24:p1616−1624)。同様な系が、バクテリオファージP1のCreリコンビナーゼ/loxP認識部位を用いて開発されている(PCT/GB00/03837;ヴァニンほか(Vanin et al)(1997年)ジャーナル・オブ・バイロロジー(J.Virol)71:p7820−7826参照)。これをレンチウイルス・ゲノム中に配置することにより、高力価レンチウイルス・プロデューサー細胞株が作製された。
【0080】
プロデューサー/パッケージング細胞株を用いることによって、大量のレンチウイルス・ベクター粒子を増殖させて単離し(例えば、適切な力価のこのレンチウイルス・ベクター粒子を作製し)、次いでこれを、例えば、(成熟脳組織などの)対象部位に対して形質導入することが出来る。通常、プロデューサー細胞株はベクター粒子の大量生産に向いている。
【0081】
一時的トランスフェクション法にはパッケージング細胞法に対して数々の利点がある。これについて言えば、一時的トランスフェクション法では、安定なベクター産生細胞株を作製するのに要する時間が長くなるのを回避することができ、また、ベクター・ゲノムもしくはレトロウイルス・パッケージング構成部分が細胞に対して有害である場合にこれを用いることができる。ベクター・ゲノムが有害な遺伝子、即ち、細胞周期を阻害するなど宿主細胞の複製を妨げる遺伝子、またはアポトーシスを誘発する遺伝子をコードしている場合、安定なベクター産生細胞株を作製するのは困難と考えられるが、一時的トランスフェクション法によれば、細胞が死ぬ前にベクターを産生させることができる。また、安定なベクター産生細胞株で得られるレベルに匹敵するベクターの力価レベルをもたらす一時的感染を利用した細胞株も開発されている(ピアーほか(Pear et al)1993年、PNAS90:p8392−8396)。
【0082】
プロデューサー細胞/パッケージング細胞は、任意の適切な細胞種のものとすることができる。プロデューサー細胞は、通常、哺乳動物の細胞であるが、例えば、昆虫の細胞であってもよい。
【0083】
本明細書に用いている「プロデューサー細胞」もしくは「ベクター産生細胞」という用語は、レトロウイルス・ベクター粒子の産生に必要な全てのエレメントを含む細胞のことを意味する。
【0084】
このプロデューサー細胞は、安定なプロデューサー細胞株から得られることが好ましい。
【0085】
また、このプロデューサー細胞は、誘導した安定なプロデューサー細胞株から得られることが好ましい。
【0086】
さらに、このプロデューサー細胞は、誘導したプロデューサー細胞から得られることが好ましい。
【0087】
本明細書に用いている「誘導したプロデューサー細胞株」という用語は、標識遺伝子が高発現を示すものとしてスクリーニングされ、選ばれた形質導入プロデューサー細胞のことを意味する。このような細胞株ではレトロウイルス・ゲノムからの高レベルの発現が可能である。「誘導したプロデューサー細胞株」という用語は、「誘導した安定なプロデューサー細胞株」という用語および「安定なプロデューサー細胞株」という用語と同義で用いている。
【0088】
好ましくは、この誘導したプロデューサー細胞株として、レトロウイルス・プロデューサー細胞および/またはレンチウイルス・プロデューサー細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
この誘導したプロデューサー細胞株は、好ましくはHIVもしくはEIAVプロデューサー細胞株、より好ましくはEIAVプロデューサー細胞株である。
【0090】
外皮蛋白質の配列およびヌクレオキャプシドの配列は全て、プロデューサーおよび/またはパッケージング細胞内に安定的に組み込まれることが好ましい。しかしながら、これらの配列のうちの1種以上をエピソームとして存在させることも可能であり、このエピソームから遺伝子発現させることができる。
【0091】
本明細書に用いている「パッケージング細胞」という用語は、RNAゲノムを欠く、感染性組換えウイルスの産生に必要なエレメントを含む細胞のことを意味する。通常、このようなパッケージング細胞は、(コドンが最適化されていてもよいgag−polおよびenvなどの)ウイルス構造蛋白質を発現することができる1種以上のプロデューサ・プラスミド含むが、パッケージング・シグナルを含まない。
【0092】
「パッケージング・シグナル」という用語は、「パッケージング配列」もしくは「psi」とも呼ばれるが、ウイルス粒子形成の過程でレトロウイルスRNA鎖のキャプシド形成に必要な非コーディング・シス作用配列に関して用いている。HIV−1では、この配列は、主要スプライス供与部位(SD)の上流から少なくともgag出発コドンに至る遺伝子座にマップされている。
【0093】
パッケージング細胞株は容易に調製することができ(世界特許第92/05266号も参照されたい)、レトロウイルス・ベクター粒子を産生させるためのプロデューサー細胞株の作製に利用することができる。既述のように、利用可能なパッケージング株の概要については(前記の)「レトロバイラシズ(Retroviruses)」に記載されている。
【0094】
また、前述のように、パッケージング・シグナルが除去されたプロウイルスを含む単純なパッケージング細胞株では、組換えにより、好ましくない複製能を有するウイルスが急速に産生されることが分かった。安全性を向上させるために、このプロウイルスの3’LTRを除去した第二世代の細胞株を作製した。このような細胞では、野性型ウイルスを産生するのに2回の組換えが必要になると思われる。さらに安全性を向上させるには、第3世代パッケージング細胞株と呼ばれている別の構築体を用いてgag−pol遺伝子およびenv遺伝子を導入することが必要となる。こうした構築体を順次導入することによりトランスフェクション過程の組換えが防止される。
【0095】
好ましくは、パッケージング細胞株は、第二世代パッケージング細胞株である。
【0096】
好ましくは、パッケージング細胞株は、第三世代パッケージング細胞株である。
【0097】
この分断構築体(split−construct)第三世代パッケージング細胞株では、コドンを変更することによってさらに組換えを低減させることができる。遺伝子コードの重複性に基づくこの方法は、異なる構築体間、例えば、gag−polおよびenv読み取り枠内の重複領域間の相同性を低減させることを目的としたものである。
【0098】
このパッケージング細胞株は、キャプシド形成に必要な遺伝子産物を得るのに有用であり、高力価ベクター粒子形成のための膜蛋白質を産生する。このパッケージング細胞は、組織培養細胞株などのインビトロで培養した細胞とすることができる。好適な細胞株としては、マウス線維芽細胞由来細胞株もしくはヒト細胞株などの哺乳動物の細胞が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、このパッケージング細胞株は、例えば、HEK293、293−T、TE671、HT1080などのヒト細胞株である。
【0099】
あるいは、このパッケージング細胞株は、単核細胞、マクロファージ、血液細胞もしくは線維芽細胞などの、治療すべき個体由来の細胞とすることができる。この細胞を個体から単離し、これに前記パッケージングおよびベクター構成部分をエクスビボで投与した後、この自家パッケージング細胞を再投与することができる。
【0100】
実験的用途および実際の用途のいずれにおいても高力価のウイルス製剤を使用することが極めて望ましい。ウイルス力価を増大させる方法としては、psiおよび上記パッケージング・シグナルならびに濃縮ウイルス・ストックを用いる方法が挙げられる。
【0101】
本明細書に用いている「高力価」という用語は、細胞などの標的部位に対して形質導入することができるレトロウイルス・ベクターもしくは粒子の有効量のことを意味する。
【0102】
本明細書に用いている「有効量」という用語は、標的部位においてNOIの発現を誘導するのに十分な、調整された(regulated)レトロウイルスもしくはレンチウイルス・ベクターまたはベクター粒子の量のことを意味する。
【0103】
プロデューサー/パッケージング細胞用の高力価製剤は、通常、ml当たり10乃至10t.u.程度である。(この力価は、標準D17細胞株を用いて定量されるml当たりの形質導入単位(t.uu./ml)で表される)。脳などの組織に対して形質導入するには、極めて少ない容量を用いる必要があり、従って、このウイルス製剤は超遠心によって濃縮する。これにより得られる製剤は、少なくとも10t.u./ml、好ましくは10乃至10t.u./ml、より好ましくは少なくとも10t.u./mlの力価を有する必要がある。
【0104】
NOIによってコードされる発現産物は、細胞から分泌される蛋白質とすることができる。あるいは、NOI発現産物は、分泌されずに細胞内で活性を示すものである。一部の用途では、NOI発現産物は空間的な間接効果(bystander effect)もしくは遠隔への間接効果(distant bystander effect)を示すことが好ましく、これは、ある細胞内でこの発現産物が産生されることによって、共通の表現型を有する近傍もしくは遠隔の(例えば、転移している)別の関連細胞が調節を受けることを意味する。
【0105】
セントラル・ポリプリン・トラクト(cPPT)と呼ばれる配列が存在すると、非分裂細胞への遺伝子送達の効率を向上させることができる(世界特許第00/31200号)。このシス作用性エレメントは、例えば、EIAVポリメラーゼ・コーディング領域エレメント内にある。本発明に用いるベクター系のゲノムにはcPPT配列を含ませることが好ましい。
【0106】
さらに、または別の選択肢として、このウイルス・ゲノムには翻訳後調節エレメントおよび/または翻訳エンハンサを含ませることができる。
【0107】
NOIは1つ以上のプロモータ/エンハンサ・エレメントに動作可能なように結合させることができる。1つ以上のNOIの転写をウイルスLTRの制御下に置くことができ、あるいはプロモータ−エンハンサ・エレメントをこの導入遺伝子を用いて設計することができる。このプロモータはCMVなどの強力なプロモータであることが好ましい。このプロモータは調節的(regulated)プロモータとすることができる。このプロモータは組織特異的なものとすることができる。好ましい実施態様として、このプロモータはグリア細胞特異的である。別の好ましい実施態様として、このプロモータは神経特異的である。
【0108】

最小の系
ベクターの産生あるいは分裂および非分裂細胞に対する形質導入のためにHIV/SIV遺伝子vif、vpr、vpx、vpu、tat、revおよびnefの追加を必要としない霊長類レンチウイルスの最小の系を構築することができることが明らかにされている。また、ベクターの産生あるいは分裂および非分裂細胞に対する形質導入のためにS2を必要としないEIAVの最小のベクター系を構築することができることも明らかにされている。遺伝子の追加を除外できることは極めて有利である。第一に、これにより、レンチウイルス(例えば、HIV)感染の疾患と関連のある遺伝子を有しないベクターを産生させることができる。特に、tatは疾患との関連がある。第二に、遺伝子の追加を除外できることにより、ベクターにさらに多くの異種DNAを詰め込むことが可能になる。第三に、S2などの機能が未知の遺伝子を除外できることにより、好ましくない結果をもたらすリスクを低減させることができる。最小のレンチウイルス・ベクターの例については、世界特許第99/32646号Aおよび第98/17815号Aに開示されている。
【0109】
従って、本発明に用いる送達系は、(これがEIAVベクター系である場合)少なくともtatおよびS2、また可能であればvif、vpr、vpx、vpuおよびnefも有しないことが好ましい。より好ましくは、本発明の系はrevも有しないものである。これまで、revは、一部のレトロウイルス・ゲノムでは効率的なウイルス産生に不可欠であると考えられていた。例えば、HIVの場合、revおよびRRE配列を含める必要があると考えられていた。しかしながら、revおよびRREに対する必要性は、コドンの最適化(下記参照)、もしくはMPMV系などの他の機能的に同等な系による置換によって少なくなるか、なくなることが分かった。コドンを最適化したgag−polの発現はREV非依存性であるので、このgag−pol発現カセットからRREを除去することができ、従って、ベクター・ゲノム上のどんなRREによる組換えの可能性もなくすことができる。
【0110】
好ましい実施態様として、本発明の第一の態様のウイルス・ゲノムはRev応答配列(Rev response element)を欠くものである。
【0111】
好ましい実施態様として、本発明に用いるこの系は、上記遺伝子の追加を部分的もしくは完全になくした、いわゆる「最小」系をベースとしたものである。
【0112】

コドンの最適化
コドンの最適化については、既に、世界特許第99/41397号に開示されている。細胞が異なると、特定コドンの利用のされ方も異なる。このコドンの偏りは、その細胞種における特定のtRNAの相対的存在度の偏りと一致している。配列内のコドンを変更することによって対応するtRNAの相対的存在度と一致するようにこれを調整することにより、発現を増強させることが可能である。同じ理由で、特定の細胞種において対応するtRNAが希少であることが知られているコドンを意図的に選定することによって発現を低減させることが可能である。従って、翻訳の制御の程度を高めることが可能である。
【0113】
HIVその他のレンチウイルスをはじめ多くのウイルスは、多数の希少コドンを利用しているが、これらを一般的な哺乳類コドンに対応するように変更することによって、哺乳動物のプロデューサ細胞におけるパッケージング成分の発現を増大させることができる。哺乳動物細胞および種々の他の生物のコドン使用表については当該分野で公知である。
【0114】
コドンの最適化には、他にも多くの利点がある。その配列を変更することにより、プロデューサ細胞/パッケージング細胞においてウイルス粒子の構築に必要なウイルス粒子のパッケージング成分をコードするヌクレオチド配列からRNA不安定性配列(INS)をなくすことができる。同時に、このパッケージング成分のアミノ酸配列コーディング配列は、この配列によりコードされているウイルス成分が、変化を受けないか、少なくともこのパッケージング成分の機能が損なわれない程度に十分な類似性を維持するように、保持される。また、コドンの最適化により、輸出のためのRev/RREの必要性が覆され、最適化配列はRev非依存性になる。また、コドンの最適化によって、このベクター系内の種々の構築物間(例えば、gaa−polおよびenv読み取り枠内の重複領域間)の相同的組換えが低減する。従って、コドン最適化の総体的な効果は、ウイルス力価が顕著に増加すると共に、安全性が向上することにある。
【0115】
一実施態様として、コドンの最適化をINSに関係するコドンに対してのみ行う。しかしながら、さらに好ましく実用的な実施態様として、コドンの最適化は、フレームシフト部位を含む配列を除き、配列全体にわたって行う。
【0116】
gag−pol遺伝子は、gag−pol蛋白質をコードしている2つの重複読み枠を含んでいる。両蛋白質の発現は翻訳過程のフレームシフトに依存している。このフレームシフトは翻訳過程のリボソームの「ずれ(slippage)」の結果として生じる。このずれは、少なくとも部分的に、リボソームの機能を停止させる(ribosome−stalling)RNA二次構造によって引き起こされると考えられる。このような二次構造は、gag−pol遺伝子内のフレームシフト部位の下流に存在する。HIVの場合、重複領域は、gag開始点の下流の1222番目ヌクレオチド(この場合、1番目ヌクレオチドはgagATGのAである)からgagの終点(1503番目nt)に及ぶ。従って、このフレームシフト部位および上記2つの読み枠の重複領域をカバーする281bp断片については、コドン最適化を行わないことが好ましい。この断片をそのままにしておくことにより、gag−pol蛋白質発現の効率化が可能になる。
【0117】
EIAVの場合、重複の開始点は1262番目ヌクレオチド(この場合、1番目ヌクレオチドはgagATGのAである)とされている。重複の終点は1461番目bpにある。フレームシフト部位およびgag−pol重複領域の保存を確実にするために、1156乃至1465番目ntの野性型配列をそのまま維持した。
【0118】
例えば、都合の良い制限酵素認識部位を組み込むために、最適コドン利用からの誘導を行うことができ、gag−pol蛋白質内に保存的アミノ酸の変更を導入することができる。
【0119】
極めて好ましい実施態様として、コドン最適化には、容易に発現される哺乳動物の遺伝子を用いた。3番目の塩基、場合によっては2番目と3番目の塩基を変更することができる。
【0120】
遺伝コードの縮重性のため、熟練技術者であれば数多くのgag−pol配列を得ることができることを理解されたい。また、コドンを最適化したgag−pol配列を作製するための出発点として用いることができる多くのレトロウイルス変異株も報告されている。レンチウイルス・ゲノムはかなり変異性であってもよい。例えば、HIV−1には機能性を維持している多くの準種が存在する。また、このことはEIAVについても言える。これらの変異株を用いて形質導入過程の特定部分を強化することができる。HIV−1変異株の例については、http://hiv−web.lanl.gov.に掲載されている。EIAVクローンの詳細については、NCBIデータベース:http://www.nebi.nfm.nih.gov.に掲載されている。
【0121】
gag−pol配列のコドンを最適化する方法はあらゆるレトロウイルスに関して用いることができる。これは、EIAV、FIV、BIV、CAEV、VMR、SIV、HIV−1およびHIV−2をはじめ、全てのレンチウイルスに適用できる。さらに、この方法は、HTLV−1、HTLV−2、HFV、HSRV、ならびにヒトに内在するレトロウイルス(HERV)、MLVおよび他のレトロウイルスの遺伝子の発現を強化するのに用いることができよう。
【0122】
コドン最適化により、gag−polの発現をRev非依存性にすることができる。しかしながら、レトロウイルス・ベクターにおいて抗revもしくはRREファクターの使用を可能にするためには、ウイルス・ベクター生成系を完全にRev/RRE非依存性にする必要があろう。従って、そのゲノムも修飾する必要がある。これはベクター・ゲノム成分を最適化することによって達成される。また、有利なことに、こうした修飾によって、プロデューサおよび形質導入細胞に余計な蛋白質が全く存在しない安全性の高い系が得られる。
【0123】
前述のレトロウイルス・ベクターのパッケージング成分としては、gag、polおよびenv遺伝子の発現産物が挙げられる。さらに、パッケージングの効率は、4つのステムループからなる短い配列とこれに続くgagおよびenvからの部分配列(「パッケージング・シグナル」)によって決まる。従って、(パッケージング構築物のgag配列が完全なものであることに加えて)このレトロウイルス・ベクター・ゲノム内のgag配列が削除されていることにより、ベクターの力価が最適化されることになる。現在までに、パッケージングの効率化のためには、env配列をなお保持しているベクターではgagの255乃至360個のヌクレオチド、またはスプライス供与突然変異(splice donor mutation)、gagおよびenv欠失の特定の組合せではgagの約40ヌクレオチドが必要であると報告されている。驚いたことに、gag内のN末端側約360個以外の全てのヌクレオチドを削除すると、ベクター力価が増大することが分かった。従って、レトロウイルス・ベクター・ゲノムは1つ以上の欠失を有するgag配列を含むことが好ましく、このgag配列はそのN末端から得られる約360個のヌクレオチドを含むことがより好ましい。
【0124】

シュードタイピング
レトロウイルス・ベクター系の設計に際しては、野性型ウイルスに対して種々の標的細胞特異性を有する粒子を考案して遺伝物質の広範な、もしくは別の範囲の細胞種への送達を可能にすることが望ましい。これを実現する1つの方法は、ウイルス外皮蛋白質をその特異性を変えるように設計することである。別の方法は、異種の外皮蛋白質をベクター粒子に導入してウイルスの野性型外皮蛋白質と置換するか、これに付加することである。
【0125】
シュードタイピングという用語は、異種のenv遺伝子、例えば、別のウイルスからのenv遺伝子をウイルス・ゲノムの少なくとも一部に組み込むか、これでこのゲノムの一部もしくは全部を置換することを意味する。シュードタイピングは新規な事柄ではなく、その例については世界特許第99/61639号、世界特許第98/05759号A、世界特許第98/05754号A、世界特許第97/17457号A、世界特許第96/09400号A、世界特許第91/00047号Aおよびメバションほか(Mebatsion et al.)1997年セル(Cell)90:p841−847に記載されている。
【0126】
シュードタイピングによれば、レトロウイルス・ベクターの安定性および形質導入効率を向上させることができる。リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスに詰め込んだシュードタイプのマウス白血病ウイルスについては報告(ミレチティッチほか(Miletic et al)(1999年)ジャーナル・オブ・バイロロジー(J.Virol.)73:p6114−6116)があり、遠心中に安定で、異なる種からの数種の細胞株に感染可能であることが明らかにされている。
【0127】
本発明のベクター系は、突然変異型狂犬病ウイルスG外皮蛋白質あるいはCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部を用いてシュードタイプ化することができる。
【0128】
本発明の第一の態様に用いるレトロウイルス送達系は、外皮蛋白質の少なくとも一部をコードしている第1のヌクレオチド配列、およびこのレトロウイルス送達系による形質導入を確実なものにする、レトロウイルスから得られる1種以上の他のヌクレオチド配列を含む。この場合、上記第1のヌクレオチド配列は、上記他のヌクレオチド配列のうちの少なくとも1種に対して異種であるものとし、および上記第1のヌクレオチド配列は、狂犬病ウイルスG外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部、あるいはCVS蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部をコードしているものとする。
【0129】
従って、異種env領域を含み、この異種env領域は狂犬病ウイルスG蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部、あるいはCVS蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部を含むものとするレトロウイルス送達系の使用を提供する。
【0130】
上記異種env領域は、プロデューサ・プラスミド上に存在する遺伝子にコードさせることができる。このプロデューサ・プラスミドは、本発明の第一の態様に用いるのに適したレトロウイルス・ベクター粒子を作製するためのキットの一部とすることができる。
【0131】

狂犬病ウイルスG蛋白質
本発明のベクター系は、突然変異型狂犬病ウイルスG蛋白質またはその変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部を用いてシュードタイプ化することができる。
【0132】
狂犬病ウイルスG蛋白質およびその突然変異体に関しては、世界特許第99/61639号、およびローズほか(Rose et al.)、1982年ジャーナル・オブ・バイロロジー(J.Virol.)43:p361−364、ハンハムほか(Hanham et al.)、1993年ジャーナル・オブ・バイロロジー(J.Virol.)67:p530−542、テュッフエロほか(Tuffereau et al.)、1998年ジャーナル・オブ・バイロロジー72:p1085−1091、クセラほか(Kucera et al.)、1985年ジャーナル・オブ・バイロロジー55:p158−162、ディーツショルドほか(Dietzschold et al.)、1983年PNAS80:p70−74、セイフほか(Seif et al.)、1985年ジャーナル・オブ・バイロロジー53:p926−934、クロンほか(Coulon et al.)1998年、ジャーナル・オブ・バイロロジー72:p273−278、テュッフエロほか(Tuffereau et al.)、1998年ジャーナル・オブ・バイロロジー72:p1085−10910、バーガーほか(Burger et al.)、1991年ジャーナル・オブ・ジェネラル・バイロロジー(J.Gen.Virol.)72:p273−278、ゴーダンほか(Gaudin et al)、1995年ジャーナル・オブ・バイロロジー69:p5528−5534、ベンマンスールほか(Benmansour et al)、1991年ジャーナル・オブ・バイロロジー65:p4198−4203、ルオほか(Luo et al.)、1998年マイクロバイオロジー・アンド・イムノロジー(Microbiol.Immunol.)42:p187−193、コレクション・1997・アーカイブズ・オブ・バイロロジー(Coll 1997 Arch Virol)142:p2089−2097、ルオほか(Luo et al.)、1997年バイラス・リサーチ(Virus Res)51:p35−41、ルオほか(Luo et al.)、1998年マイクロバイオロジー・アンド・イムノロジー42:p187−193、コレクション・1995・アーカイブズ・オブ・バイロロジー(Coll 1995 Arch Virol)140:p827−851、ツチヤほか(Tuchiya et al)、1992年バイラス・リサーチ25:p1−13、モリモトほか(Morimoto et al)、1992年バイロロジー(Virology)189:p203−216、ゴーダンほか(Gaudin et al)、1992年バイロロジー187:p627−632、ウィットほか(Whitt et al)、1991年バイロロジー185:p681−688、ディーツショルドほか(Dietzschold et al.)、1978年ジャーナル・オブ・ジェネラル・バイロロジー40:p131−139、ディーツショルドほか(Dietzschold et al.)、1978年デベロップメンツ・イン・バイオロジカル・スタンダーダイゼーション(Dev Biol Stand)40:p45−55、ディーツショルドほか(Dietzschold et al.)、1977年ジャーナル・オブ・バイロロジー23:p286−293、およびオトヴォスほか(Otvos et al)、1994年バイオキミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochim Biophys Acta)1224:p68−76に記載されている。また、狂犬病ウイルスG蛋白質については欧州特許第0445625号Aにも記載されている。
【0133】
狂犬病ウイルスG蛋白質を用いることにより、狂犬病ウイルスが選択的に感染する標的細胞に対してインビボで選択的に形質導入するベクターが得られる。こうした細胞としては、特にインビボの神経標的細胞が挙げられる。神経を標的とするベクターの場合、ERAなどの狂犬病ウイルスの病原菌株からの狂犬病ウイルスGが特に有効と考えられる。一方で、狂犬病ウイルスG蛋白質のインビトロでの標的細胞は、試験された殆ど全ての哺乳動物および鳥類細胞種を含むさらに広い範囲のものとなる(セガンチほか(Seganti et al.)、1990年アーカイブズ・オブ・バイロロジー(Arch Virol.)34:p155−163;フィールズほか(Fields et al.)、1996年フィールズ・バイロロジー(Fields Virology)第3版、第2巻、リッピンコット−レイヴン出版社(Lippincott−Raven Publishers)、フィラデルフィア(Philadelphia)、ニューヨーク)。
【0134】
シュードタイプ化ベクター粒子の指向性は、細胞外ドメインが修飾されている突然変異型狂犬病ウイルスGを用いることによって改良することができる。狂犬病ウイルスG蛋白質には、突然変異によって標的細胞の範囲が限定されたものになり得るという利点がある。インビボでの標的細胞による狂犬病ウイルスの取り込みはアセチルコリン受容体(AchR)により媒介されると考えられているが、インビボで結合する受容体は他にもあると考えられる(ハンハムほか(Hanham et al.)、1993年ジャーナル・オブ・バイロロジー(J.Virol.)67:p530−542;テュッフエロほか(Tuffereau et al.)、1998年ジャーナル・オブ・バイロロジー72:p1085−1091)。中枢神経系におけるウイルス侵入には、NCAM(サウルーズほか(Thoulouze et al.)(1998年)ジャーナル・オブ・バイロロジー72(9):p7181−90)およびp75ニューロトロフィン受容体(C.テュッフエロほか(Tuffereau C et al.)(1998年)EMBOジャーナル(EMBO J)17(24):p7250−9)をはじめとする複数の受容体が利用されていると考えられる。
【0135】
狂犬病ウイルスG蛋白質の抗原部位IIIの突然変異がウイルス指向性に及ぼす影響について検討された結果、この領域は、このウイルスのアセチルコリン受容体への結合に関与していないと考えられると報告されている(クセラほか(Kucera et al.)、1985年ジャーナル・オブ・バイロロジー55:p158−162; ディーツショルドほか(Dietzschold et al.)、1983年プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro.Natl.Acad.Sci.)80:p70−74;セイフほか(Seif et al.)、1985年ジャーナル・オブ・バイロロジー53:p926−934;クロンほか(Coulon et al.)1998年、ジャーナル・オブ・バイロロジー72:p273−278;テュッフエロほか(Tuffereau et al.)、1998年ジャーナル・オブ・バイロロジー72:p1085−10910)。例えば、この成熟蛋白質の333番目アミノ酸アルギニンをグルタミンへ突然変異させる(即ち、ERAsm)ことにより、インビボでのウイルスの侵入を嗅覚神経細胞および末梢神経細胞に限定すると同時に、中枢神経系への伝播を低減させることができると報告されている。また、こうしたウイルスは、野性型ウイルスと同じ位効率的に運動神経および感覚神経に侵入することができたが、経神経細胞性移入は起こらなかったとも報告されている(クロンほか(Coulon et al.)1989年、ジャーナル・オブ・バイロロジー63:p3550−3554)。330番目のアミノ酸を突然変異させたウイルスはさらに弱毒化されており(即ち、ERAdm)、筋肉内注入後、運動神経にも感覚神経にも感染できなかったと報告された(クロンほか(Coulon et al.)1998年、ジャーナル・オブ・バイロロジー72:p273−278)。
【0136】
もう一つの選択肢として、もしくはさらに、実験室で継代させた狂犬病ウイルス株からの狂犬病ウイルスG蛋白質を用いることができる。こうした蛋白質については指向性の変化に関してスクリーニングすることができる。このような株としては、下表のものが挙げられる:
【0137】
【化1】

例えば、ERA株は狂犬病ウイルスの病原菌株であり、この株からの狂犬病ウイルスG蛋白質は神経細胞に対する形質導入に用いることができる。このERA株からの狂犬病ウイルスGの配列はジェンバンクのデータベースに入っている(アクセッション番号J02293)。この蛋白質はアミノ酸19個のシグナル・ペプチドを有し、その成熟蛋白質は翻訳開始メチオニンから20番目アミノ酸のリジン残基から始まる。HEP−Flury株では、上記成熟蛋白質の333番目アミノ酸がアルギニンからグルタミンへ突然変異しており、この突然変異は病原性の減弱と関連を有し、このウイルスの外皮蛋白質の指向性を限定するのに利用することができる。
【0138】
世界特許第99/61639号には狂犬病ウイルス株ERAの核酸およびアミノ酸配列(ジェンバンク・ローカスRAVGPLS、アセッションM38452)が開示されている。
【0139】

CVS
本発明のベクター系は、CVS(対抗ウイルス・スタンダード(ChallengeVirus Standard))蛋白質、特にCVS糖蛋白質G、またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部を用いてシュードタイプ化することができる。
【0140】
CVSに関しては、米国特許第5,348,741号に開示されている。
【0141】
また、実験室で継代されたCVS株からのCVS糖蛋白質が使用できることも理解されたい。こうした糖蛋白質は指向性の変化についてスクリーニングすることができる。
【0142】
pKB3−JE−13とも称するATTC寄託番号40280は、本発明に都合良く用いることができる。
【0143】

突然変異体、変種、相同体および断片
本ベクター系は、野性型狂犬病ウイルスG蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片および/または野性型CVS蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これを含む。
【0144】
「野性型」という用語は、天然の蛋白質(即ち、ウイルス蛋白質)と同一の一次アミノ酸配列を有するポリペプチドという意味で用いている。
【0145】
「突然変異体」という用語は、1つ以上のアミノ酸の付加、置換もしくは欠失により野性型配列とは異なる一次アミノ酸配列を有するポリペプチドという意味で用いている。突然変異体は自然界で生じることがあり、または人工的に(例えば、部位指定変異導入によって)作製することができる。この突然変異体は、野性型配列と少なくとも90%の同一性を有することが好ましい。好ましくは、この突然変異体の突然変異の部位は、野性型配列全体に対して20箇所以下である。より好ましくはこの突然変異体の突然変異の部位は、野性型配列全体に対して10箇所以下、最も好ましくは5箇所以下である。
【0146】
「変種」という用語は、野性型配列とは異なる、自然界に存在するポリペプチドという意味で用いている。変種は、同じウイルス株の範囲内で見出すことができ(即ち、その蛋白質に1種以上のイソ型が存在する場合)、または異なる株の範囲内で見出すことができる。この変種は野性型配列と少なくとも90%の配列同一性を有することが好ましい。好ましくは、この変種の突然変異の部位は、野性型配列全体に対して20箇所以下である。より好ましくはこの変種の突然変異の部位は、野性型配列全体に対して10箇所以下、最も好ましくは5箇所以下である。
【0147】
本明細書では、「相同体」という用語は、野性型アミノ酸配列および野性型ヌクレオチド配列とある一定の相同性を有する物質のことを意味する。ここでは、「相同性」は「同一性」と同等とみなすことができる。
【0148】
本文脈において、相同配列は、対象配列との同一性が少なくとも75、85もしくは90%、好ましくは95もしくは98%とすることができるアミノ酸配列を含むものとする。通常、この相同体は対象アミノ酸配列と同じ活性部位等を含むことになる。相同性については類似性(即ち、アミノ酸残基が同様な化学的性質/機能を有すること)の点から考察することもできるが、本発明との関連では、配列同一性の点から相同性を表現することが好ましい。
【0149】
本文脈において、相同配列は、対象配列との同一性が少なくとも75、85もしくは90%、好ましくは95もしくは98%とすることができるヌクレオチド配列を含むものとする。通常、この相同体は対象配列と同じ、活性部位等をコードしている配列含むことになる。相同性については類似性(即ち、アミノ酸残基が同様な化学的性質/機能を有すること)の点から考察することもできるが、本発明との関連では、配列同一性の点から相同性を表現することが好ましい。
【0150】
相同性については、肉眼で、より普通には、いつでも利用できる配列比較プログラムを用いて比較することができる。こうした市販のコンピュータ・プログラムによれば、2種以上の配列の%相同性を算出することができる。
【0151】
%相同性は隣接した配列について算出することができる。即ち、1つの配列をもう1つの配列と平行に並べ、1つの配列の各アミノ酸をもう1つの配列の対応するアミノ酸と同時に1残基ずつ直接比較する。これを「ギャップのない(ungapped)」アラインメントという。通常、このようなギャップのないアラインメントは比較的短い残基数に対してのみ行う。
【0152】
これは、極めて単純で一貫性のある方法ではあるが、例えば、他の点では同一の配列対において1箇所に挿入もしくは欠失があると、これに続くアミノ酸残基がアラインメントから外され、従って、グローバル・アラインメントでは%相同性が大きく減少する可能性があるということを考慮に入れていない。従って、多くの配列比較方法は、挿入および欠失が起こり得ることを考慮に入れて全体としての相同性スコアを過度に不利にすることなくアラインメントを最適化するように設計されている。これは、配列のアラインメントの際に「ギャップ」を挿入してローカルな相同性を最大化することにより実現されている。
【0153】
しかしながら、こうした比較的複雑な方法では、そのアラインメントに生じる各ギャップに対して「ギャップ・ペナルティ」が割り当てられるので、アミノ酸数が同一の場合、配列アラインメントにおいてギャップが少ない場合ほど−2つの比較配列の関連性が高いことを示す−ギャップが多い場合よりも高いスコアが得られることになる。通常、ギャップの存在に対する比較的高いコストおよびギャップの各後続残基に対する比較的小さなペナルティを要求する(charge)「アフィン・ギャップ・コスト(Affine gap cost)」が用いられる。これは、最も一般的に用いられているギャップ・スコアリング・システムである。勿論、ギャップ・ペナルティが高いと、ギャップの少ないアラインメントは最適化される。多くのアラインメント・プログラムではギャップ・ペナルティを変更することができる。しかしながら、このようなソフトウェアを配列比較に用いる場合はデフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCGウィスコンシン・ベストフィット・パッケージを用いる場合、アミノ酸配列のギャップ・ペナルティのデフォルト値は、1ギャップにつき−12、各伸長(extention)につき−4である。
【0154】
従って、最大%相同性を算出するには、先ず、ギャップ・ペナルティを考慮に入れてアラインメントを最適化する必要がある。このようなアラインメントを実施するための好適なコンピュータ・プログラムが、GCGウィスコンシン・ベストフィット・パッケージ(ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)、米国;デヴェローほか(Devereux et al.)、1984年、ニュークレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.)12:p387)である。配列比較を行うことができる他のソフトウェアの例としては、BLASTパッケージ(オースベルほか(Ausubel et al.)、1999年同文献−第18章参照)、FASTA(アトシュルほか(Atschul et al.)、1990年、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.)、p403−410)およびジーンワークス(GENEWORKS)の比較ツール一式が挙げられるが、これらに限定されるものではない。BLASTおよびFASTAはオフラインおよびオンライン探索に使用できる(オースベルほか(Ausubel et al.)、1999年同文献、p7−58乃至7−60)。しかしながら、一部の用途では、GCGベストフィット・プログラムを用いるのが好ましい。また、BLAST2シークエンシズ(Sequences)と呼ばれる新しいツールも蛋白質およびヌクレオチド配列の比較に使用できる(FEMSマイクロバイオロジー・レターズ(FEMS Microbiol Lett)、1999年、174(2):p247−50;FEMSマイクロバイオロジー・レターズ、1999年、177(1):p187−8およびtatiana@ncbi.nlm.nih.gov参照)。
【0155】
最終的な%相同性は同一性に関して測定することができるが、通常、アラインメント・プロセス自体はオール・オア・ナッシングの対比較に基づくものではない。そうではなくて、一般には、化学的類似性もしくは進化距離に基づいた二つ一組の各比較にスコアを割り当てるスケール化(scaled)類似性スコアマトリクスが用いられている。一般に用いられているこのようなマトリクスの例としては、BLOSUM62マトリクス−BLASTのプログラム一式用デフォルト・マトリクスがある。一般に、GCGウィスコンシン・プログラムでは、公開(public)デフォルト値、もしくは提供されている場合、カスタム・シンボル比較表が用いられる(さらに詳細にはユーザー用マニュアル参照)。一部の用途では、GCGパッケージに対しては公開(public)デフォルト値、他のソフトウェアの場合にはBLOSUM62などのデフォルト・マトリクスを用いることが好ましい。
【0156】
一旦これらのソフトウェアによりアラインメントが最適化されれば、%相同性、好ましくは%配列同一性を算出することが可能である。通常、こうしたソフトウェアでは配列比較の一部としてこれが行われ、数値による結果が得られる。
【0157】
また、これらの配列のアミノ酸残基の欠失、挿入もしくは置換は、目立たない(silent)変化を生じることにより機能的に同等の物質をもたらすことができる。この物質の二次的結合活性が保持される限り、アミノ酸残基の極性、荷電、可溶性、疎水性、親水性および/または両親媒性の類似性に基づいてアミノ酸を意図的に置換することができる。例えば、負に荷電したアミノ酸としてはアスパラギン酸およびグルタミン酸、正に荷電したアミノ酸としてはリジンおよびアルギニン、類似の親水性値を有する非荷電極性頭基含有アミノ酸としてはロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、フェニルアラニンおよびチロシンが挙げられる。
【0158】
同類置換については、例えば、下表に従って行うことができる。2番目のカラムの同じブロック内、好ましくは3番目のカラムの同じ行内のアミノ酸は互いに置換することができる:
【0159】
【化2】

また、本発明は、相同性置換(homologous substitution)(本明細書の原文ではsubstitutionおよびreplacementは共に、既存のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基と相互交換するという意味で用いている)、即ち、塩基性基と塩基性基、酸性基と酸性基、極性基と極性基といった同種置換を行うことができることを包含している。また、非相同性置換、即ち、あるクラスの残基から別のクラスの残基への置換、もしくはオルニチン(以下、Zと称する)、ジアミノ酪酸オルニチン(以下、Bと称する)、ノルロイシンオルニチン(以下、Oと称する)、ピリイルアラニン、チエニルアラニン、ナフチルアラニンおよびフェニルグリシンなどの非天然アミノ酸を含めることを伴う置換を行うこともできる。
【0160】
また、以下の非天然アミノ酸によって置換することもできる:アルファおよびアルファ−二置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸、トリフルオロチロシン、p−Cl−フェニルアラニン、p−Br−フェニルアラニン、p−I−フェニルアラニンなどの中性アミノ酸のハライド誘導体、L−アリル−グリシン、β−アラニン、L−α−アミノ酪酸、L−γ−アミノ酪酸、L−α−アミノイソ酪酸、L−ε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、L−メチオニンスルホン#*、L−ノルロイシン、L−ノルバリン、p−ニトロ−L−フェニルアラニン、L−ヒドロキシプロリン、L−チオプロリン4−メチル−Phe、ペンタメチル−Phe、などのフェニルアラニン(Phe)のメチル誘導体、L−Phe(4−アミノ)、L−Tyr(メチル)、L−Phe(4−イソプロピル)、L−Tic(1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボキシル酸)、L−ジアミノプロピオン酸およびL−Phe(4−ベンジル)。(相同性もしくは非相同性置換に関する)上記説明において、記号*は上記誘導体が疎水性を有すること、#は上記誘導体が親水性を有すること、#*は両親媒性を有することを示すために用いている。
【0161】
変種アミノ酸の配列は、グリシンもしくはβ−アラニン残基などのアミノ酸スペーサの他に、その配列の任意の2つのアミノ酸残基間に挿入することができる適切なスペーサ基、例えば、メチル基、エチル基もしくはプロピル基などのアルキル基を含むことができる。1つ以上のアミノ酸がペプトイドの形で存在することを含む別の形の変形形態があり得ることは、当業者により十分了承されよう。不確かとならないように定義しておくが、「ペプトイドの形」は、α−炭素置換基がα−炭素ではなく残基の窒素原子に結合している変種アミノ酸残基という意味で用いている。ペプトイド型のペプチドを作製する方法は当該分野では公知であり、例えば、シモンR.J.ほか(Simon RJ et al.)、PNAS(1992年)89(20):p9367−9371およびホーウェルD.C.(Horwell DC)、トレンズ・イン・バイオテクノロジー(Trends Biotechnol.)(1995年)13(4):p132−134に記載されている。
【0162】
「断片」という用語は、ポリペプチドが野性型アミノ酸配列の一部分を含むということを意味する。これは1つ以上の連続した大きな配列セクションもしくは複数の小さなセクションを含むことができる。また、このポリペプチドは他の配列エレメントを含むこともでき、例えば、これは別の蛋白質との融合蛋白質とすることができる。好ましくは、このポリペプチドは野性型配列を少なくとも50%、より好ましくは少なくとも65%、最も好ましくは少なくとも80%含む。
【0163】
機能に関しては、前記突然変異体、変種、相同体もしくは断片は、適切なベクターをシュードタイプ化するのに用いられる場合、脳の少なくとも一部、運動神経もしくは脳脊髄液(CSF0に対して形質導入することができる必要がある。
【0164】
この突然変異体、変種、相同体もしくは断片は、別の選択肢として、またはさらに本ベクター系に逆行性輸送能を付与することができる必要がある。
【0165】
本発明に用いるベクター送達系は、本明細書に提示したヌクレオチド配列とハイブリッド形成することができるヌクレオチド配列(本明細書に提示した配列の相補性配列を含む)を含むことができる。好ましい態様として、本発明は、厳格な条件下(例えば、65℃および0.1SSC)で本発明のヌクレオチド配列と、本明細書に提示したヌクレオチド配列(本明細書に提示した配列の相補性配列を含む)とハイブリッド形成することができるヌクレオチド配列をカバーする。
【0166】

NOI
本発明において、EOIは、好ましくは、インビトロもしくはインビボで標的細胞に送達することができる1種以上のNOI(対象とするヌクレオチド配列)である。
【0167】
本発明のベクター系がウイルス・ベクター系である場合、このウイルスのゲノムを操作することによって、異種NOIであってもよい1種以上のNOIでウイルス遺伝子を置換もしくは補完することが可能である。
【0168】
「異種の」という用語は、自然界では結合しない核酸もしくは蛋白質配列に結合した核酸もしくは蛋白質配列のことを意味する。
【0169】
本発明において、NOIという用語は、必ずしも完全な天然のDNAもしくはRNA配列である必要がない任意のヌクレオチド配列を含む。従って、NOIは、例えば、合成RNA/DNA配列、(組換えDNA技術により作製された)組換えRNA/DNA配列、cDNA配列もしくは部分的ゲノムDNA配列、またはこれらの組合せであってもよい。この配列はコーディング領域である必要はない。これがコーディング領域であっても、完全なコーディング領域である必要はない。さらに、上記RNA/DNA配列はセンス配向をとるものであってもアンチセンス配向をとるものであってもよい。好ましくは、センス配向をとるものである。この配列は、cDNAであるか、これを含み、またはこれから転写されるものであることが好ましい。
【0170】
通常、前記レトロウイルス・ベクター・ゲノムは、その5’および3’末端のLTR、1種以上のNOIを挿入するための適切な挿入部位、および/またはプロデューサ細胞内のベクター粒子へのこのゲノムの詰め込みを可能にするパッケージング・シグナルを含む。場合によっては、ベクターRNAのDNAへの逆転写および標的細胞のゲノムへのプロウイルスDNAの組み込みを可能にする適切なプライマー結合部位および組み込み部位も含むことができる。好ましい実施態様として、このレトロウイルス・ベクター粒子は、逆転写系(共存可能な逆転写およびプライマー結合部位)ならびに組み込み系(共存可能なインテグラーゼおよび組み込み部位)を有する。
【0171】
NOIは対象とする蛋白質(「POI」)をコードすることができる。このことにより、本ベクター送達系を用いて(TH陽性神経細胞などの)標的細胞に対する外来遺伝子発現の効果を調べることができよう。例えば、本レトロウイルス送達系を用い、脳、運動神経もしくはCSFに対する特定の効果についてcDNAライブラリをスクリーニングすることができよう。
【0172】
例えば、トランスフェクションしたTH+細胞がアポトーシス誘導因子の存在下に存続することを可能にすることができる、ドーパミン作動性神経細胞の新規な生存/神経保護因子を同定することができよう。
【0173】
本発明による好適なNOIとしては治療および/または診断用途のものが挙げられ、こうしたものにはサイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化剤分子、遺伝子操作により改変された免疫グロブリン様分子、一本鎖抗体、融合蛋白質、酵素、免疫共刺激分子、免疫調節性分子、アンチセンスRNA、標的蛋白質の転写優性(transdominant)ネガティブ突然変異体、毒素、条件(conditional)毒素、抗原、腫瘍抑制蛋白質、成長因子、膜蛋白質、血管作用性蛋白質・ペプチド、抗ウイルス性蛋白質およびリボザイムならびに(結合レポータ基含有等の)これらの誘導体をコードしている配列などがあるが、これらに限定されるものではない。また、これらのNOIはプロドラッグ活性化酵素をコードすることもできる。
【0174】
NOIによってコードされる発現産物は細胞から分泌される蛋白質とすることができる。あるいは、NOI発現産物は、分泌されず、細胞内で活性を示すものである。いずれの場合でも、NOI発現産物は空間的な間接効果(bystander effect)もしくは遠隔への間接効果(distant bystander effect)を示すことが好ましく、これは、ある細胞内でこの発現産物が産生されることによって、共通の表現型を有する近傍もしくは遠隔の(例えば、転移している)別の関連細胞が殺傷されることを意味する。
【0175】
NOIもしくはその発現産物は、化合物または経路の生物活性を調節するように作用することができる。本明細書に用いている「調節する」という用語は、例えば、生物活性を増強もしくは阻害するという意味を含む。このような調節は、(例えば、蛋白質の切断、もしくは蛋白質への別の物質の競合的結合を含む)直接的なもの、または(例えば、蛋白質産生の開始をブロックすることによる)間接的なものとすることができる。
【0176】
NOIは、標的細胞の遺伝子の発現に対してブロックもしくは抑制可能なものとすることができる。例えば、NOIはアンチセンス配列とすることができる。アンチセンス技術による遺伝子発現の抑制については公知である。
【0177】
NOIもしくはこれから誘導される配列は、標的細胞の特定遺伝子の発現に対して「ノックアウト」可能なものとすることができる。いくつかの「ノックアウト」の方法については当該分野では公知である。例えば、NOIは、ニューロンのゲノム内に組み込むことによって特定遺伝子の発現を阻害することが可能なものとすることができる。NOIは、例えば、未成熟終止コドンを導入することによって、もしくは下流のコーディング配列をフレーム同期から外すことによって、またはコードされている蛋白質の折り畳み能に影響を与える(従って、その機能に影響を与える)ことによって発現を阻害することができる。
【0178】
あるいは、NOIは、標的細胞の遺伝子の異所性発現を増強もしくは誘導することが可能なものとすることができる。NOIもしくはこれから誘導される配列は、特定遺伝子の発現に対して「ノックイン」することが可能なものとすることができる。
【0179】
好ましい一実施態様として、NOIはリボザイムをコードする。リボザイムは、蛋白質の関与を必須とすることなく細胞内の特定の化学反応を触媒する働きをすることができるRNA分子である。例えば、グループIリボザイムは、セルフ・スプライシング前駆体RNAからの自己の切り出しを媒介することができるイントロンの形をとるものである。他のリボザイムは、ウイルスRNA分子の複製に不可欠な自己切断性RNA構造から誘導される。蛋白質酵素と同様に、リボザイムは、折り畳まれて、基質および金属イオンなどの補因子に特異的な結合部位となる二次および三次構造を形成することができる。このような構造の例としては、ハンマーヘッド、ヘアピンもしくはステムループ、シュードノットが挙げられ、デルタ肝炎アンチゲノム・リボザイムが報告されている。
【0180】
個々のリボザイムには標的RNAの認識部位を認識し、結合するモチーフがある。このモチーフは1つ以上の「結合アーム」の形をとるが、一般には2つの結合アームである。ハンマーヘッド型リボザイムの結合アームは、ヘリックスIIの両端に位置するフランキング配列ヘリックスIおよびヘリックスIIIである。これらの長さは可変であり、通常はそれぞれ6乃至10ヌクレオチド長であるが、これよりさらに短くしたり、長くしたりすることができる。これらのフランキング配列の長さは切断速度に影響を及ぼすことができる。例えば、フランキング配列のヌクレオチド総数を20から12に減少させると、HIV配列を切断するリボザイムの代謝回転速度は10倍増加する(グッドチャイルドJVK(Goodchild,JVK)、1991年、アーカイブズ・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス(Arch Biochem Biophys)284:p386−391)。ハンマーヘッド型リボザイムのリボザイム・ヘリックスII内の触媒性モチーフは、切断部位と呼ばれる部位で標的RNAを切断する。リボザイムが所与のRNAを切断することができるかどうかは、適切な切断部位を含むリボザイムの認識部位の有無によって決まる。
【0181】
各タイプのリボザイムは自らの切断部位を認識する。ハンマーヘッド型リボザイムの切断部位は、すぐ上流にヌクレオチド塩基トリプレットGUX(但し、Gはグアニン、Uはウラシル、Xは任意のヌクレオチド塩基である)を有する。ヘアピン型リボザイムにはBCUGNYRの切断部位があり、この場合、Bはアデニン以外の任意のヌクレオチド塩基、Nは任意のヌクレオチド、Yはシトシンもしくはチミン、Rはグアニンもしくはアデニンである。ヘアピン型リボザイムによる切断は、その切断部位内のGとNとの間で行われる。
【0182】
リボザイムに関する詳細については、「モレキュラー・バイオロジー・アンド・バイオテクノロジー(Molecular Biology and Biotechnology)」(RAマイヤーズ(RA Meyers)編、1995年、VCH出版社(VCH Publishers Inc)、p831−8320および「レトロバイラシズ(Retroviruses)」(JMコフィンほか(JM Coffin et al.)編、1997年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbour Laboratory Press)、p683)に記載されている。
【0183】
リボザイムの発現はあらゆる細胞で誘導することができるが、これが効果を発揮するのは標的遺伝子の転写物が存在する細胞内においてのみである。
【0184】
あるいは、この物質は、成分間の結合を直接妨げるのではなく、本発明のポリペプチドの生物学的に利用可能な量を低下させることができる。これは、例えば、転写、転写物安定性、翻訳もしくは翻訳後安定性のレベルにおいて、この成分の発現を抑制することによるものと考えられる。このような物質の例としては、アンチセンスRNA、もしくはmRNA生合成の量を抑制する二本鎖干渉性RNAがある。
【0185】
別の好ましい実施態様として、NOIはsiRNAを含む。二本鎖RNA(dsRNA)により媒介される転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)は、外来遺伝子の発現を制御するために保存されている細胞防御機構である。トランスポゾンなどのエレメントもしくはウイルスがランダムに組み込まれることによって相同性一本鎖mRNAもしくはウイルス・ゲノムRNAの配列特異的分解を賦活化するdsRNAの発現が引き起こされると考えられている。このサイレンシング効果はRNA干渉(RNAi)と呼ばれている。RNAiのメカニズムは、長いdsRNAを21乃至25ヌクレオチド(nt)RNAのデュプレックスにプロセッシングするものである。こうした産物は、小干渉性RNAもしくはサイレンシングRNA(siRNA)と呼ばれ、mRNA分解の配列特異的媒介物質である。分化した哺乳動物細胞では、>30bpのdsRNAは、インターフェロン反応を賦活化して蛋白質合成の停止およびmRNAの非特異的な分解をもたらすことが分かっている。
【0186】
しかしながら、この反応は、21nt siRNAデュプレックスを使用することにより回避することができ、このため、培養哺乳動物細胞において遺伝子機能を解析することが可能になる。
【0187】
一実施態様として、テトラサイクリンの添加により活性を調節できるU6などのRNAポリメラーゼIIIプロモータを用いることによって、siRNAの発現を調節することができる。
【0188】
別の実施態様として、NOIはミクロRNAを含む。ミクロRNAは、通常生体内で産生される極めて大きな小RNA群であり、これらの少なくとも一部は標的遺伝子の発現を調節する。ミクロRNAファミリー構成の端緒となった(founding)メンバは、let−7およびlin−4である。Let−7遺伝子は、虫の発生過程で内在性蛋白質コーディング遺伝子の発現を調節する小さいが高度に保存されたRNA種をコードしている。この活動性RNA種は最初に約70ntの前駆体の形に転写され、転写後、約21ntの成熟型にプロセッシングされる。let−7およびlin−4は共に、ヘアピン型RNA前駆体の形に転写された後、ダイサー(Dicer)酵素により成熟型にプロセッシングされる。
【0189】
別の実施態様として、NOIは、ヘアピン状の二本鎖干渉性RNAを含む。この短いヘアピンは、単一のプロモータ、例えば、U6から発現させることができる。別の実施態様として、2つのプロモータ、例えば、センスの領域を発現するU6プロモータとこの標的の同じ配列の逆相補体を発現するU6プロモータとを組み込むことにより、RNAiを効果的に媒介することができる。別の実施態様として、2つの対立するプロモータを用いてこの発現カセットのフォワード鎖および相補鎖から標的のセンスおよびアンチセンス領域を転写することにより、RNAの効果、即ち二本鎖干渉性を媒介することができる。
【0190】
別の実施態様として、NOIは、スプライシングの過程を変えたり(「エクソン−スキッピング」)、ポリアデニル化の過程を変え、または翻訳を阻害するように作用することが可能な短いRNAをコードすることができる。
【0191】
また、NOIは抗体とすることができる。本明細書に用いている「抗体」は、免疫グロブリン分子全体もしくはその一部、またはその生物学的同配体(bioisostere)もしくは模倣体、またはその誘導体、あるいはこれらの組合せを含む。免疫グロブリン分子の一部の例としては、Fab、F(ab)’およびFvが挙げられる。生物学的同配体の例としては、一本鎖Fv(ScFv)断片、キメラ抗体、二価抗体が挙げられる。
【0192】
特定遺伝子を発現し、または特定遺伝子の発現を欠く形質導入標的細胞は、創薬および標的の確認に用途を有する。その発現系は、細胞のアポトーシスの誘発を防止し、もしくは阻止することができる遺伝子もしくは蛋白質など、どの遺伝子が標的細胞に望ましい効果を有するかを明らかにするのに用いることができよう。同様に、特定遺伝子の発現の防止もしくはブロックが標的細胞に望ましくない影響を与えることが分かった場合、このことが、その遺伝子の発現が損なわれないようにすることができる治療法を見出すきっかけとなる場合がある。
【0193】
従って、本発明は、多発性硬化症の動物モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎、ならびに急性および慢性炎症性脱髄性多発神経障害の動物モデルである実験的自己免疫性神経炎などの疾患モデルと組み合わせて用いることができる。他の疾患モデルについても当業者に知られている。
【0194】
本ベクター送達系により送達させるNOIは、標的細胞を不死化させることが可能なものとすることができる。いくつかの不死化技術については当該分野で公知である(例えば、カタクラ、Y.ほか(Katakura Y et al)(1998年)メソッズ・イン・セル・バイオロジー(Methods Cell Biol.)57:p69−91参照)。
【0195】
本ベクター送達系は、非ウイルス送達系もしくはウイルス送達系のいずれであってもよい。
【0196】
一部の好ましい態様として、本ベクター送達系はウイルス性送達ベクター系である。
【0197】
一部の別の好ましい態様として、本ベクター送達系はレトロウイルス・ベクター送達系である。
【0198】
本明細書では、「不死化された」という用語は、約2ヶ月間を越える連続培養で維持可能な、11継代以上培養増殖させることができる細胞に対して用いている。
【0199】
不死化された運動および感覚神経細胞ならびに脳細胞は、実験手技、スクリーニング・プログラムにおいて、および治療的用途において有用である。例えば、不死化ドーパミン作動性ニューロンは、パーキンソン病治療などのための移植に用いることができる。
【0200】
本ベクター送達系により送達させるNOIは、選択遺伝子もしくは標識遺伝子とすることができる。さまざまの選択可能な標識が首尾良くレトロウイルス・ベクターに用いられてきた。これらについては、「レトロバイラシズ(Retroviruses)」(1997年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス社(Cold Spring Harbour Laboratory Press)、J.M.コフィン(J.M.Coffin)、S.M.ヒューズ(S.M.Hughes)、H.E.バーマス(H.E.Varmus)編、p444)に概説されており、その例としては、それぞれG418およびハイグロマイシンに対する耐性を付与する細菌性ネオマイシンおよびハイグロマイシン・リン酸転移酵素遺伝子;メソトレキサート耐性を付与する突然変異型マウス・ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子;ミコフェノール酸、キサンチンおよびアミノプテリンを含有する培地中での細胞の増殖を可能にする細菌性gpt遺伝子;ヒスチジンを含まないがヒスチジノールを含む培地での細胞の増殖を可能にする細菌性hisD遺伝子;各種薬剤に対する耐性を付与する多剤耐性遺伝子(mdr);ならびにピューロマイシンもしくはフレオマイシンに対する耐性を付与する細菌性遺伝子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。こうした標識は全て、優性選択可能なものであり、これらを用いることにより、これらの遺伝子を発現している細胞の多くを化学的に選択することが可能になる。
【0201】
本ベクター送達系により送達させるNOIは、治療的遺伝子−遺伝子自体が治療効果を誘起することが可能とすることができ、または遺伝子が治療効果を誘起することが可能な産物をコードすることができるという意味で−とすることが出来る。
【0202】
「模倣体」という用語は、ペプチド、ポリペプチド、抗体、もしくは抗体と同様な結合特異性を有する他の有機化学物質とすることができる任意の化学物質のことを意味する。
【0203】
本明細書に用いている「誘導体」という用語には、抗体の化学的修飾を含めている。このような修飾の例としては、アルキル、アシルもしくはアミノ基による水素の置換がある。
【0204】

疾患
一般的に言えば、本発明は発現蛋白質の分布を良好にするのに有用であり、例えば、ある部位に本ベクターを投与すると、この蛋白質が放出されることによりこれを脳および神経系の別の部分に作用させることができる。
【0205】
本発明に用いるベクター系は、ニューロン、CSF、および/またはグリア細胞を含む脳細胞などの神経組織の細胞の死もしくは機能障害を伴う疾患を治療および/または予防するのに特に有用である。従って、本ベクター系は、神経変性疾患の治療および/または予防に有用である。
【0206】
特に、本発明に用いるベクター系は、運動もしくは感覚神経細胞の死もしくは機能障害を伴う疾患を治療および/または予防するのに使用することができる。
【0207】
治療可能な疾患としては、疼痛;パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALSもしくはルー・ゲーリック病)を含む運動ニューロン疾患およびハンチントン病などの運動性疾患;アルツハイマー病;棘筋萎縮およびリソソーム蓄積症が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0208】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は年間発生率が100,000人当たり1乃至2人の運動ニューロン変性疾患である。この疾患は、るいそうおよび四肢筋、延髄筋および呼吸筋の脱力をもたらす脊髄、脳幹および運動皮質の運動ニューロンの変性を特徴としている。ALSの約5乃至10%は家族性である。突然変異もしくはハロタイプが疾病素因に関係していると考えらる遺伝子としては、SOD1、ALS2およびVEGFが挙げられる(ランブレヒツほか(Lambrechts et al.)ネイチャー・ジェネティックス(Nature Genetics)2003年;2003年6月6日オンライン出版;オーストイスほか(Oosthuyse et al.)ネイチャー・ジェネティックス(Nature Genetics)2001年;6月;第28巻p131−138)。
【0209】
特に、本発明に用いるベクター系は、ALSの治療および/または予防に有用である。この実施態様では、NOIはSOD1発現の抑制が可能なものとすることができる。
【0210】
別のNOI(群)は、アポトーシスを阻止し、従って細胞死を防止する分子群をコードすることができる。好適な分子としてはXIAPおよびNAIPが挙げられる。あるいは、NOI(群)は、IGF−1、GDNF、VEGFおよびカルジオトロフィン(CT1)などの再生を促進する神経栄養分子群をコードすることができる。
【0211】
リソソーム蓄積症もしくは糖脂質蓄積症は、糖脂質の合成速度が細胞内分解速度に対してバランスがとれていない場合に生じる遺伝的疾患である。このため、未分解の糖脂質がリソソーム内に蓄積する。このような疾患としては、ファブリー病、ニーマン・ピック病、ガングリオシドーシス、異染性大脳白質萎縮症および数多くのタイプのムコ多糖症が挙げられる。
【0212】
脊髄筋萎縮症(SMA)は、前角細胞性障害であり、常染色体劣性疾患である。前角細胞は脊髄内にある。SMAは、爬行、歩行、頭頚部制御およびえん下などの活動のための随意筋を冒す。SMAのカテゴリーには、ウェルドニッヒ・ホフマン病とも呼ばれるI型SMA、II型、クーゲルベルク・ヴェランデル病もしくは若年性脊髄筋萎縮症と呼ばれることが多いIII型、IV型(成人発症型)および成人発症型X連鎖SMAが含まれる。また、このタイプはケネディ症候群もしくは球脊髄型筋萎縮症とも呼ばれている。SMAはヒトによく見られる運動ニューロン疾患であり、その最も重篤なタイプは2歳までに死をもたらす。この疾患は、テロメアの運動ニューロン生存遺伝子SMN1が突然変異したことによるものである。特に、本発明に用いるベクター系は、SMAの治療および/または予防に有用である。この実施態様として、NOIは欠陥SMN1遺伝子と置換させるための遺伝子をコードすることが可能なものとすることができる。別のNOI(群)はアポトーシスを阻止することにより細胞死を防止する分子群をコードすることができる。好適な分子としてはXIAPおよびNAIPが挙げられる。あるいは、NOI(群)は、IGF−1、GDNF、ニューロトロフィン−3(NT−3)、VEGFおよびカルジオトロフィン(CT1)などの再生を促進する神経栄養分子群をコードすることができる。
【0213】
別の実施態様として、本発明に用いるベクター系はパーキンソン病の治療および/または予防に有用である。この実施態様として、NOIは神経保護分子をコードすることが可能なものとすることができる。特に、NOI(群)はTH陽性ニューロンの死を防止し、または損傷された黒質線状体系の再生および機能回復を促進する分子群をコードすることができる。別の実施態様として、こうしたNOIは、チロシン水酸化酵素、GTPシクロヒドラーゼI、芳香族酸ドーパ脱炭酸酵素および小胞モノアミン輸送体2などのL−DOPAもしくはドーパミン合成に関与する酵素もしくは酵素群をコードすることができる。
【0214】
また、本発明のベクター系は、自己免疫性神経系疾患を含む炎症性神経疾患の治療および/または予防に用いることもできる。
【0215】
炎症反応は外傷および感染に対して生体を防御するために発達したものである。外傷もしくは感染が生じると、一連の事象の複雑なカスケードを経て血液由来の白血球が傷害部位へ運ばれることにより、潜在的な病原体が殺傷され、組織修復が促進される。しかしながら、この強力な炎症反応は正常組織を損傷する可能性があり、また、先天性免疫応答の調節を障害すると、種々の病変をもたらす。多発性硬化症(MS)は脳の炎症性疾患であることが知られているが、現在では、炎症は、脳卒中、外傷性脳損傷、HIV関連の痴呆、アルツハイマー病およびプリオン病などの疾患の大きな一因となることがあることが示唆されている。
【0216】
前述のように、MSはCNSの慢性炎症性疾患であり、その病因は自己免疫性であると推定されている。MSは、CNS抗原に特異的な血液由来T細胞によって引き起こされると考えられている。このT細胞は、CNSにおいて、直接、および/またはミエリンに対して毒性を示す物質を放出することにより乏突起神経膠細胞を破壊することができる抗原非特異的単核細胞の産生を誘導する。
【0217】
他の自己免疫性神経系疾患としては、ギラン−バレー症候群、重症筋無力症、急性散在性脳脊髄炎、スティフマン症候群、自己免疫性神経炎、運動機能不全、慢性炎症性脱髄性多発性神経障害、多病巣性運動神経障害、パラプロテイン血症性(paraproteinaemic)ニューロパシー、神経筋接合部の自己免疫性疾患その他の運動単位の疾患、炎症性筋障害、自己免疫性筋炎、腫瘍随伴性(parameoplastic)神経疾患、結合組織障害および血管炎の神経系合併症が挙げられる。
【0218】
炎症性疾患の治療および/または予防に関連した別の実施態様として、本発明に用いるベクター系により送達させる対象ヌクレオチドは、抗炎症性サイトカインなどの抗炎症分子、もしくはこの抗炎症性分子を上方制御することができる分子をコードする。従って、本発明の一実施態様は、抗炎症性分子を直接CNSに送達させることを含む、MSなどの神経系炎症性疾患の治療法に関する。
【0219】
MSの治療、および場合によっては他の疾患の治療にも有用と考えられるサイトカインとしては、IL−1β、IL−2、IL−4、IL−6、IL−1n、IFN−β、IFN−γ、TNF−α、p55TNFR−Ig、p75dTNFR、TGF−β、PDGF−αおよびNGFが挙げられる。より一般的に言えば、抗炎症性サイトカインは、神経系炎症性疾患の治療および/または予防において、本発明により有効に送達させることができることを理解されたい。
【0220】
別の方法は、炎症性サイトカインなどの炎症性分子を阻害する、もしくは阻害する分子をコードする対象ヌクレオチドの送達に係わるものである。即ち、前記のような阻害物質、例えば、リボザイム、siRNA、抗体およびアンチセンス配列を使用することを想定している。
【0221】
さらに別の方法は、損傷を受けた神経ミエリン鞘を回復および/または再生させるミエリン蛋白質および/または成長因子の送達に係わるものである。
【0222】
下表は、本発明の方法およびベクターを用いて治療することができるいくつかの疾患例、および提唱されている治療メカニズム、ならびにこれらの疾患を治療するために調節することができる遺伝子の例をまとめたものである。
【0223】
【化3】


さらに、網膜下へ送達させた後に脳への逆行性輸送が起こるという知見を利用して遺伝子を送達することにより、視神経、視神経交叉、視神経索もしくは外側膝状体(LGN)領域の部位を冒すあらゆる疾患を治療することができる。このような疾患としては、緑内障、もしくは眼圧上昇に続発する他の疾患、多発性硬化症などの神経ジストロフィーが挙げられる(が、これらに限定されるものではない)。好適な発現遺伝子としては、脳卒中治療用のエリスロポエチンもしくはVEGFなどの成長もしくは生存因子、視神経症(例えば、レーバー先天性疾患)治療用のPEDF、GDNFもしくはニューロトロフィンなどの神経保護因子が挙げられる。
【0224】
特に、運動ニューロン疾患治療の好ましい実施態様として、本ベクター系はレンチウイルス・ベクター系である。何故なら、好都合にも狂犬病ウイルスGシュードタイプを有するレンチウイルス・ベクター系を用いると、高効率の逆行性輸送および長期間の発現が達成されるからである。アデノウイルスおよびHSV、さらには(これらほどではないにせよ)AAVも逆行性に輸送されるが、狂犬病ウイルスGシュードタイプを有するレンチウイルス・ベクター系では、ニューロンに対する選択的な形質導入により、高効率の逆行性輸送が達成される。好都合にも、狂犬病ウイルスGでシュードタイプ化したレンチウイルス・ベクターは、高効率で運動ニューロンを特異的に標的にすることができる。さらに、レンチウイルス・ベクターを用いれば、例えば、アデノウイルスおよびHSVを使用した場合によく起こる毒性の問題が解消される。逆行性輸送が筋肉内投与経路を介して、成熟筋肉細胞に対する形質導入を殆どもしくは全く伴わずに行われ(マザラキスほか(Mazarakis et al.)、前記文献)、従って運動ニューロンに対する形質導入の効率化に必要な選択性が得られることは、狂犬病ウイルス糖蛋白質Gでシュードタイプ化したレンチウイルス・ベクター系の更なる利点であり、これに対して、AAVを用いる場合、運動ニューロンに対する形質導入が筋肉における持続の長い発現をも生じる(ルーほか(Lu et al.)ニューロサイエンス・リサーチ(Neurosci.Res.)2003年1月、45(1):p33−40)という点で、さほど選択的ではないと考えられる。
【0225】

薬学的組成物
また、本発明は薬学的組成物の製造におけるベクター送達系の使用を提供する。この薬学的組成物は、NOIなどのEOIをこれを必要とする標的細胞へ送達するために用いることができる。
【0226】
本ベクター送達系は、非ウイルス送達系もしくはウイルス送達系のいずれであってもよい。
【0227】
一部の好ましい態様として、本ベクター送達系はウイルス性送達ベクター系である。
【0228】
一部の別の好ましい態様として、本ベクター送達系はレトロウイルス・ベクター送達系であり、好ましくはレンチウイルス・ベクター送達系である。
【0229】
本薬学的組成物は遺伝子治療による個体の治療に用いることができ、この場合、本組成物は本発明による治療的有効量のベクター系を含み、またはこれを生じることができる。
【0230】
本発明の方法および薬学的組成物はヒトもしくは動物を対象とした治療に用いることができる。好ましくは、この対象は哺乳動物である。より好ましくは、この対象はヒトである。通常、対象個体に最も適した実際の投与量は医師が決定することになり、その投与量は特定の患者の年齢、体重および反応によって異なる。
【0231】
本組成物は、必要に応じて、医薬用として許容可能な担体、希釈剤、賦形剤もしくは佐剤を含むことができる。医薬用担体、賦形剤もしくは希釈剤は、対象とする投与経路および調剤上の標準的な慣行を考慮して選択することができる。本薬学的組成物は、担体、賦形剤もしくは希釈剤として(またはこれらに加えて)、適切な任意の結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤および(例えば、脂質送達系などの)標的部位内へのウイルス侵入を促進もしくは増大させることができる他の担体剤を含むことができる。
【0232】
適切な場合には、本薬学的組成物は、吸入、坐剤もしくはペッサリーとしての投与、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤もしくは散粉剤としての局所投与、皮膚用パッチ剤の貼付、澱粉もしくは乳糖などの賦形剤を含む錠剤、またはカプセル剤もしくは膣坐剤単独もしくは賦形剤との混合剤、または矯味矯臭剤もしくは着色剤を含有するエリキシル剤、水剤もしくは懸濁剤としての経口投与のうちの任意の1つ以上により使用することができ、あるいは、本組成物は、全身性に、例えば海綿体内、静脈内、筋肉内もしくは皮下に注入することができる。全身投与の場合、本組成物は、他の物質、例えば、溶液を血液と等張性にするのに十分な塩類もしくは単糖類を含んでいてもよい滅菌水溶液の形で最適に用いることができる。口腔内もしくは舌下投与の場合、本組成物は、従来の方法で製剤化してもよい錠剤もしくはトローチ剤の形で投与することができる。
【0233】
好都合なことに、本発明に用いるベクター系は、患者体内に直接注入することによって投与することができる。パーキンソン病などの神経変性疾患の治療の場合、本ベクター系は脳内に注入することができる。本ベクター系は脳の任意の標的領域(例えば、線状体もしくは黒質)内に直接注入することができる。あるいは、本ベクター系を所与の領域に注入し、このベクター系の逆行性輸送によって標的領域に対し形質導入することができる。筋肉内注入は、最も侵襲の少ない投与法であるということで、特に好ましい。
【0234】
前表に、注入により治療を施行するための好適な部位を概略まとめたが、これには脊髄内、髄腔内、扁桃体、DRG、皮膚、ヘルペス性神経痛の病変部位、大脳皮質、線状体、黒質、視床下部、下垂体、神経膠腫床、網膜、硝子体、筋肉、脊髄および脳室内注入を含めている。
【0235】

輸送
本発明は、標的部位に対して形質導入するための、CVS外皮蛋白質もしくはその突然変異体、断片、相同体の変種の少なくとも一部を含むベクター系の使用であって、このベクター系は逆行性輸送によりその部位へ移動するものとする使用を提供する。
【0236】
ウイルス粒子は、神経インパルスと同一方向に、即ち、細胞体から軸索に沿って軸索終末へ移動することができる。これは順行性輸送と呼ばれる。
【0237】
本発明では、本発明の蛋白質含有ベクター系は、逆行性に輸送される、即ち、上記と反対方向に移動することができることが明らかとなった。ベクターの逆行性輸送(もしくは移動)とは、これが軸索終末に取り込まれて細胞体に向かって移動することを意味する。
【0238】
このタイプの輸送は「急速輸送(Fast transport)」と呼ばれることが多く、膜性細胞器官のシナプス方向(順行性)もしくは元の細胞体へ(逆行性)の1日当たり50乃至200mmの移動に関与している(ヒロカワ(Hirokawa)(1997年)カレント・オピニョン・イン・ニューロバイオロジー(Curr Opin Neurobiol)7(5):p605−614)。しかしながら、逆行性輸送のメカニズムの詳細については不明である。これは、恐らく内部移行した受容体と共同して、ウイルス粒子全体を輸送するものと考えられる。本発明のベクター系が(本明細書に示したように)このような方法で特異的に輸送され得るという事実は、前記env蛋白質が関与することができることを示唆している。
【0239】
HSVベクター、アデノウイルス・ベクターおよびハイブリッドHSV/アデノ関連ウイルス・ベクターは全て、脳内で逆行性に輸送されることが明らかにされている(ヘレロウ(Horellou)、マレ(Mallet)(1997年)モレキュラー・ニューロバイオロジー(Mol Neurobiol)15(2):p241−256;リドークスほか(Ridoux et al.)(1994年)ブレイン・リサーチ(Brain Res)648:p171−175;コンスタティニほか(Constantini et al.)(1999年)ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)10:p2481−2494)。グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)を発現するアデノウイルス・ベクター系をラット線状体に注入すると、逆行性輸送を介してドーパミン作動性軸索終末および細胞体における発現が可能となる(ヘレロウ(Horellou)、マレ(Mallet)(1997年)前記文献;ビラン−ブロイエルほか(Bilang−Bleuel et al)プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro.Natl.Acad Sci)USA94:p8818−8823)。
【0240】
逆行性輸送については、当該分野で公知のいくつかのメカニズムによって検出することができる。本明細書に示した例では、異種遺伝子を発現するベクター系を線状体内に注入すると、この遺伝子の発現が黒質において検出される。線状体から基底核に至るニューロンに沿った逆行性輸送がこの現象に関与していることは明らかである。また、標識した蛋白質もしくはウイルスをモニターし、実時間共焦点顕微鏡法でその逆行性移動を直接モニターする方法も公知である(ヒロカワ(Hirokawa)(1997年)前記文献)。
【0241】
逆行性輸送によって、形質導入したニューロンの軸索終末および細胞体の両者において発現させることが可能である。この細胞のこれらの2つの部分は、神経系の異なる領域に位置していると考えられる。従って、本発明のベクター系を単回投与(例えば、注入)することにより、多くの遠位部位に対して形質導入することができる。
【0242】
また、本発明は、標的部位から離れた投与部位にベクター系を投与してCNS全体へ良好に浸透および分布させる工程を含む、標的部位に対して形質導入するための本発明のベクター系の使用を提供する。例えば、脳の一領域に投与することにより、EOIを分布させることができ、脳の種々の部分および/または種々の細胞種である。
【0243】
標的部位は、対象とする任意の部位とすることができる。これは、投与部位に解剖学的に結合していてもいなくてもよい。標的部位は、軸索輸送、例えば、順行性もしくは(より好ましくは)逆行性輸送を介して、投与部位からのベクターを受け取ることが可能な部位とすることができる。
【0244】
所与の投与部位に対して、当該分野で公知の方法によりトレーサを用いて確認することができる、可能性のあるいくつかの標的部位が存在すると考えられる(リドークスほか(Ridoux et al.)(1994年)前記文献)。
【0245】
例えば、CVS/EIAVベクターを線状体内に注入すると、淡蒼球、皮質、種々の視床核、扁桃体、視床下部、視索上核、深(deep)中脳核、黒質、下丘腕の核などの脳幹の尾側領域、毛帯傍核、遺伝子(genic)核、傍小脳脚核、腹側蝸牛殻核および顔面神経核において導入遺伝子の発現が生じる。
【0246】
標的部位は、これが投与部位と異なる領域に位置する(もしくは、主として位置する)場合、「投与部位から離れて」いるとみなす。これら2箇所の部位は、これらの空間的位置、形態および/または機能によって識別することができる。
【0247】
脳の基底核は、核のいくつかの対からなり、各対の2つの核は互いに反対側の大脳半球に位置する。最大の核は、尾状核およびレンズ核からなる線状体である。さらに、各レンズ核は、被殻と呼ばれる外側部と淡蒼球と呼ばれる内側部に分けられる。中脳の黒質および赤核ならびに間脳の視床下核は、基底核と機能的に結合している。黒質からの軸索は尾状核もしくは被殻に終わっている。視床下核は淡蒼球と結合している。ラット基底核の伝導性については、オーショット(Oorschot)(1996年)ジャーナル・オブ・コンパラティブ・ニューロロジー(J.Comp.Neurol.)366:p580−599を参照されたい。
【0248】
好ましい実施態様として、投与部位は脳の線状体、特に尾状核被殻である。この被殻内に注入すると、脳の種々の遠位部位、例えば、淡蒼球、扁桃体、視床下核もしくは黒質内に位置する標的部位を標識することができる。通例、淡蒼球の細胞に対して形質導入すると、視床の細胞が逆行性に標識される。好ましい実施態様として、標的(諸)部位(もしくは、これらのうちの一部位)は黒質である。
【0249】
所与の標的部位内において、本ベクター系は、標的細胞に対して形質導入することができる。この標的細胞は、感覚もしくは運動ニューロン、星状細胞、乏突起神経膠細胞、小グリア細胞もしくは上衣細胞などの神経組織に存在する細胞とすることができる。
【0250】
本ベクター系は直接注入によって投与することが好ましい。脳(特に、線状体)内に注入する方法は、当該分野で公知である(ビラング−ブロイエルほか(Bilang−Bleuel et al)(1997年)プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro.Natl.Acad.Sci.)USA、94:p8818−8823;チョイ・ランドバーグほか(Choi−Lundberg,et al.)(1998年)、エクスペリメンタル・ニューロロジー(Exp.Neur.)154:p261−275;チョイ・ランドバーグほか(Choi−Lundberg,et al.)(1997年)サイエンス(Science)275:p838−841;マンデルほか(Mandel,et al.)(1997年)プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Pro.Natl.Acad.Sci.)USA、94:p14083−14088)。定位的注入を施行することができる。
【0251】
前述のように、脳などの組織における形質導入の場合、極めて少ない容量を使用する必要があるので、ウイルス製剤は遠心により濃縮する。得られる製剤は少なくとも10t.u./ml、好ましくは10乃至1010t.u./ml、より好ましくは少なくとも10t.u./mlの力価を有する必要がある。(この力価は、標準D17細胞株を用いて定量されるml当たりの形質導入単位(t.uu./ml)で表される)。導入遺伝子発現のばらつきは注入部位数を増加させ、注入速度を低下させることによって改善することができる(ヘレロウ(Horellou)、マレ(Mallet)(1997年)、前記文献)。注入部位数は、通常1乃至10部位、より一般的には2乃至6部位である。1乃至5×109t.u./mlを含む用量の場合、注入速度は、多くの場合0.1乃至10μl/分であり、通常約1μl/分である。
【0252】
また、我々は、例えば、髄腔内送達により、CSFに投与後、上衣・軟膜細胞、海馬、脳梁および中隔野などの脳の種々の部位ならびに脊髄でNOIの発現を検出することができることを明らかにした。
【0253】

移植
また、本発明は、感覚もしくは運動ニューロンまたは脳細胞などのCNSの不死化細胞、および移植方法におけるこれの使用を提供する。
【0254】
胎児ドーパミン作動性ニューロン、他の種(species)からの同等の細胞および神経前駆細胞を用いる移植プロトコルについては公知である(ダネット(Dunnett)、ビヨルクンド(Bjorklund)(1999年)ネイチャー(Nature)第339巻、補遺A32−39頁に概説されている)。本発明の細胞を移植するためにも同様な方法を用いることができよう。
【実施例】
【0255】
実施例
以下の実施例に用いたEIAVベクター系、その作製およびウイルス形質導入方法の詳細については、引用により本明細書に組み込まれているマザラキスほか(Mazarakis et al)(2001年)、前記文献、および世界特許第02/36170号、特にマザラキスほか(Mazarakis et al)(2001年)の「材料および方法」の項および世界特許第02/36170号の実施例の項に記載されている。
【0256】

狂犬病ウイルスG突然変異体
EIAVベクターは、ERA株の狂犬病ウイルスG外皮蛋白質の野性型および2種の変種を用いてシュードタイプ化した。狂犬病ウイルス株ERAの配列は図1および図2(配列番号:1および2)に示した。333番目のアミノ酸アルギニンをグルタミンで置換することにより、野性型ERA株(ERAwt)の一重突然変異体を作製した。自然界に存在し、成熟マウスに対して病原性のないこの突然変異体をERAsmと名付けた。さらに330番目のアミノ酸をKからNに置換することにより、ERAdmと名付けたERAwtの二重突然変異体が得られた。これら2種の外皮蛋白質は、標識遺伝子LacZを発現するEIAVベクターをシュードタイプ化するのに用いた。
【0257】
さらに詳細には、上記で2つのアミノ酸が変更されているERAwtの部分的PCR断片を以下のプライマーを用いて増幅させた:
(5’乃至3’) CTA CAA CTC AGT CAT GAC TTG GAA TGA GAT CCT CCC CTC AAA AGG GTG TTT AAG AGT TGG GGG GAG G
(5’乃至3’) CCT TTT GAG GGG AGG ATC TCA TTC CAA GTC ATG ACT GAG TTG TAG TGA GCA TCG GCT TCC ATC AAG GTC
さらに、(上記の2つのアミノ酸が変更されている)ERAdmの完全長の断片を以下のプライマーを用いて増幅した:
(5’乃至3’) ACC GTC CTT GAC ACG AAG CT
(5’乃至3’) GGG GGA GGT GTG GGA GGT TT
以上のようにして得られた断片は、適切な制限酵素を用いてpSA91中にクローニングした。首尾良く得られたクローンについて配列決定を行うと共に、これを用いて一時的形質導入法によりEIAVベクターを作製した。
【0258】
ERAdmの配列は図3(配列番号:3)に示した。
【0259】

CVS
CVS(対抗ウイルス・スタンダード)狂犬病ウイルス糖蛋白質のcDNAはATCCから入手した(ATCC番号40280記号(designation)pKB3−JE−13)。この糖蛋白質の完全なコーディング配列を含む断片をEcoRIを用いて切り取り、pSA91中にクローニングし、配列決定を行った(Bk 1092 pg 75)。得られた配列は図4(配列番号:4)に示した。
【0260】

ウイルス形質導入
D17細胞に対する形質導入効率により求めた種々のシュードタイプ化EIAVベクターの力価は以下の通りであった:
pONY8Z ERAwt 7x10TU/ml
pONY8Z ERAsm 9x10TU/ml
pONY8Z ERAdm 1x10TU/ml
pONY8Z CVS 7x10TU/ml

実施例1−狂犬病ウイルスGもしくはVSV−G外皮蛋白質でシュードタイプ化したEIAVの脳脊髄液(CSF)への注入、および遺伝子治療のために髄腔内経路を用いたMSの治療
定位的投与は、ハイプノーム(Hypnorm)およびハイプノーベル(Hypnovel)麻酔下に、先端の丸い33ゲージ針を付けた5μlハミルトン注入器を用いて行った。計8匹のラットのCSF内に、座標:AP=−0.92;L=1.4;V=3.3で10μlのウイルス・ベクター液を注入した。第1群のラット(n=4)には、VSV−G外皮蛋白質でシュードタイプ化したEIAVを注入した。第2群のラット(n=4)では、ウイルス・ベクターは全て狂犬病ウイルスGによりシュードタイプ化した。ウイルス力価は7×10TU/mlであった。このレンチウイルス溶液は、注入ポンプ(ワールド・プレシージョン・インストルメンツ社(World Precision Instruments Inc.)を用いて0.2μl/分の速度でゆっくりと注入した。ウイルス・ベクター注入後、5−0バイクリル(Vicryl)連続縫合糸を用いて皮膚を閉じ、術後のラットを完全に回復するまで保温した。全ての外科的処置は、地元の獣医師および倫理委員会から承認を受け、内務省の規制に従って実施した。
【0261】
CSF内に注入後、脳および脊髄の種々の領域で標識遺伝子LacZが発現することが分かった(図5)。狂犬病ウイルスGによりシュードタイプ化したベクターは、上衣および軟膜細胞に感染させることができた(図5A乃至図5C)。海馬(主としてCA3)、脳梁および中隔野では強い両側性の形質導入が認められた(図5D乃至図5I)。また、このウイルスは脊髄まで拡散させることができた(図6A乃至図6F)。
【0262】
これに対して、VSV−Gによるシュードタイピングでは輸送もしくは分布の徴候は認められなかった。
【0263】
以上の結果から明らかなように、本発明は炎症性神経疾患の代替的な治療法になると考えられる。本発明によってサイトカイン・コーディング遺伝子をレンチウイルスを媒介としてCSFに送達させることには、主として以下のような利点がある:i)CNS内の広範囲にわたって高濃度のサイトカインを到達させることができること;ii)宿主細胞のDNAに組み込んだ外来性遺伝子が長期間、持続性に発現すること;およびiii)このウイルス粒子に対する免疫反応が起こらないこと。
【0264】

実施例2−EIAV−狂犬病ウイルスGおよびEIAV−CVSを用いた新生仔マウス筋肉への遺伝子移入
狂犬病ウイルスGもしくはCVS外皮蛋白質でシュードタイプ化したEIAVベクターがマウス脊髄へ逆行性に輸送されるかどうかを明らかにするために、P6新生仔マウスにpONY8Z狂犬病Gウイルス原液(力価5.7×10TU/ml)を筋肉内注入した。pONY8Z狂犬病ウイルスG注入のマウスは7匹とした(10μl、n=2;20μl、n=2;30μl、n=3)。もう一方の群のマウスにはpONY8Z CVS(力価7×10TU/ml、n=3、注入容量=30μl)を注入した。
【0265】
結果は図7および8に示したが、この実験により、腓腹筋内に上記ウイルス粒子を注入後、多数の運動ニューロン(MN)が逆行性に形質導入されたことが分かった。この研究において、pONY8Z狂犬病ウイルスG注入マウスでは、切片当たり10乃至12MN(MNの約50%)がX−gal陽性であった(図7)。EIAV−CVS注入マウスでは、切片当たり7乃至8MNがx−gal陽性であった(図8)。形質導入された細胞は前角の片側のみに局在していることが分かった。形質導入された細胞の形態を調べたところ、この細胞は運動ニューロン(サイズの大きい細胞)であることが示唆された。また、β−gal免疫染色も実施した。筋細胞はEIAV−狂犬病ウイルスG注入マウスにおいても形質導入された(図7)。
【0266】

実施例3−EIAV−CVSを用いたラット脊髄への遺伝子移入
脊髄内注入のため、麻酔した2ヶ月令のラットを定位固定枠に設置し、脊髄アダプタ(ストールティング社(Stoelting Co.)、IL、米国)を用いてその脊髄を固定した後、椎弓切除述を施した腰髄の一箇所から、CSVでシュードタイプ化したpONY8.0Zベクター(n=3)(7×10TU/ml)を注入した。注入は、注入ポンプ(ワールド・プレシージョン・インストルメンツ社)、サラソータ(Sarasota)、米国)を用いて制御し、33ゲージ針を付けた10μlハミルトン注入器により毎分0.1μlの速度で行った。注入後、注入針は5分間留置した後に抜き取った。ウイルス注入の4週間後に、ラットを4%w/vのパラホルムアルデヒドで経心腔的に潅流した。その後、脊髄および脳を切開して、X−gal反応を調べた。
【0267】
この実験の結果は図9に示した。脊髄内へのEIAV−Lac CVSの注入により、注入部位における強い形質導入および脊髄の反対側への逆行性輸送が生じた。面白いことに、脳幹および皮質の運動ニューロンが逆行性輸送により形質導入された(図9)。
【0268】

実施例4−CVS外皮蛋白質を用いてシュードタイプ化したEIAVベクターの線状体への注入
約2×10TUの各ベクターを成熟雄性ウイスター系ラット(300g)の線状体内に、定位座標AP 0mm、ML 3.5mm、DV 4.75mmを用いてゆっくりと注入した後、2乃至4週間そのままにしておいた。その後、ラットを屠殺し、4%パラホルムアルデヒドを用いて経心腔的潅流を行った。4%パラホルムアルデヒドで一夜インキュベーションした後、脳を30%スクロースで少なくとも3日間凍結保護処理を行い、その後、凍結させて40μmの冠状断面に切断した。これを用い、X−gal染色および免疫組織化学による検討を行った。
【0269】
図10から明らかなように、CVS外皮蛋白質でシュードタイプ化したEIAVベクターを線状体内に注入すると、淡蒼球に強い発現が認められた。皮質、各種視床核、扁桃体、視床下部、視索上核、深中脳核および黒質では逆行性輸送が認められた。さらに、脳幹の尾側領域への逆行性輸送も認められた。この領域では、下丘腕の核、毛帯傍核、遺伝子核(genic nuclei)、傍小脳脚核、腹側蝸牛殻核および顔面神経核などの種々の核がX−gal染色に対して陽性であった。
【0270】

実施例5−狂犬病ウイルス外皮蛋白質でシュードタイプ化したレンチウイルス・ベクターの網膜下送達後の脳への逆行性輸送

方法
一時的三種プラスミド同時トランスフェクション(three plasmid transfection)法を用いて、狂犬病ウイルス外皮蛋白質(pSA91ERAwt)でシュードタイプ化したpONY8.0 CMV GFPゲノムをベースとするEIAVウイルス・ベクターを作製した。このウイルス(バッチ番号OBM039)の力価を生物学的に測定した結果、1×10e10TU/mlと算定された。計4μl(2×2μl)をC57/bl−6Jマウスの網膜下に注入し、遺伝子発現の解析のために組織を種々の時点で採取した。
【0271】
以上により、この狂犬病ウイルスでシュードタイプ化したEIAVベクターを網膜下に送達すると、このベクターが視神経に沿って脳底部の視神経交叉へ、およびここから視神経索に沿って皮質下視床の一部分である外側膝状体(LGN)領域へ逆行性に輸送されることが分かった(図11)。
【0272】
各眼からの視神経線維は、視神経交叉において極めて独特な様式でクロスオーバーしている−網膜の鼻側に発する線維は反対側の脳半球へクロスオーバーしているが、耳側網膜に発する線維はクロスオーバーせずに脳の同じ側に延びている。従って、単一の眼の網膜下に送達することにより、脳の両半球へ逆行性に輸送することができる。あるいは、網膜下への注入を鼻側もしくは耳側の眼の特定領域に限定すれば、脳の片側半球だけを標的にすることができる。
【0273】

実施例6−SMA線維芽細胞のインビトロでの確認
図12に示したようなSmart2SMNおよびpONY 8.7NCSMNベクターの構築については、マザラキスほか(Mazarakis et al.)により2001年に報告されている。SMN遺伝子はアーサー・バージェス博士(Dr.Arthur Burghes)(オハイオ州立大学(Ohio State University)、オハイオ、米国)から提供を受けた。このSmart2SMNベクターはERA株由来狂犬病ウイルスG外皮蛋白質でシュードタイプ化した。
【0274】
SMA線維芽細胞はSMAのインビトロ・モデルになる。これはI型のSMA患者から摘出した。
【0275】
初代培養線維芽細胞は標準的な方法(ディドナトほか(DiDonato et al.)、2003年;ヒューマン・ジーン・セラピー(Human Gene Therapy)14:p179)によりI型のSMA患者から確立した。
【0276】
この細胞ではSMN蛋白質の発現は極めて少ないか、認められない。狂犬病ウイルスG外皮蛋白質でシュードタイプ化したSmart2SMNベクターは、マザラキスほか(Mazarakis et al.)ヒューマン・モレキュラー・ジェネティクス(Human Molecular Genetics)、2001年に記載されている方法にほぼ準じて50および100のMOIでSMA線維芽細胞に対して形質導入するのに使用した。
【0277】
ネガティブ・コントロールとしてはSmart2LacZ ERAwt形質導入および非形質導入細胞を用いた。pSMT2SMN ERAwtからのSMN蛋白質発現の確認には免疫組織化学を用いた。共焦点顕微鏡法により、細胞質に強い陽性のSMN染色が示された。また、この実験から、EIAVを用いることによりSMA線維芽細胞の核内のジェム(gem)が回復されることがわかった(図13)。最良の結果はMOI 100を用いて得られた。このような染色はネガティブ・コントロールでは認められなかった。
【0278】
細胞数計算によると、SMN形質導入細胞1個当たり平均8ジェムであることが明らかとなった。スコルディスほか(Skordis et al.)(PNAS、100:p4114−4119)およびディドナトほか(DiDonato et al.)(ヒューマン・ジーン・セラピー(Hum Gen Ther)14:p179−188)によると、SMA患者からの処理線維芽細胞で平均3乃至6核ジェムが認められたとしている。
【0279】
SMNベクターの効率性を調べるために、イヌ骨肉腫細胞株D17を用いた。図14は、SMNを認識するSMN抗体(トランスダクション・ラボラトリーズ社(Transduction Laboratories)、およびSMNベクターで形質導入した上記細胞のSMN発現を証明するHAタグに対する抗体を用いたウェスタン・ブロットを示したものである。
【0280】
D17はいくらかのSMN蛋白質を発現するが、細胞に対しSMNベクターを用いて形質導入すると、LacZベクターで形質導入した対照細胞に比し、過剰発現が認められる。SMN導入遺伝子の発現はHAタグ抗体を用いて確認した。
【0281】

実施例7−SMA動物モデルにおけるSMN遺伝子置換
遺伝子治療を利用するSMN−1遺伝子置換法は、SMAの動物モデルおよびSMA患者の運動ニューロンに対して細胞死を防止するのに用いることができる。
【0282】

III型SMAのマウスモデル
III型マウスは、筋脱力、運動ニューロンの変性、およびSMN蛋白質レベルの低下(年齢をマッチングさせた対照では運動ニューロン1個当たり平均9.8核ジェムであったのに対し、III型SMAマウスでは平均4.5核ジェムと算定された)を示す。
【0283】
4匹のIII型マウスの片側脚筋内にSmart2SMNHAを注入した。その後、マウスを4%パラホルムアルデヒドで潅流し、脊髄を摘出してこれを−80℃で保存した。運動ニューロンのSMN発現はHAおよびSMN抗体を用いてモニターした。共焦点顕微鏡法では、HAタグ免疫染色(図15A)が示すように、逆行性輸送により運動ニューロンが効率的に形質導入されることが分かった。別の解析では、これらのマウスの筋肉内にSMN遺伝子が良好に移入されることが分かった(図15B)。
【0284】
III型マウスモデルへのSMN遺伝子移入により誘発される免疫反応は、図16から明らかなように、ごくわずかであった。
【0285】

I型SMAのマウスモデル
I型SMAのマウスモデルは重症型SMAのモデルとなる。このマウスは、運動ニューロン死、筋脱力を示し、生後14日までに死亡する。この実験の目的は、SMN遺伝子を発現するレンチベクター(LentiVector)(商標)の筋肉への送達により、マウスの生存期間を延長させることにあった。
【0286】
この検討では、1乃至2日令の新生仔SMNマウスを用いる。新生仔に対する注入は以下の通り行う。マウスを短時間低温麻酔する。ウイルス・ベクターは、33ゲージ針を付けたハミルトン微量注入器を用いて注入する。この検討では以下の群を用いる。
【0287】
Smart2−SMN群(n=8)
脚筋:各20μl
腹腔内:10μl
横隔膜筋:10μl
顔筋:20μl
舌:10μl
頭蓋内(脳幹):5μl
胸幹の筋肉:10μl
Smart2−GDNF群(n=4)
脚筋:各20μl
腹腔内:10μl
横隔膜筋:10μl
顔筋:20μl
舌:10μl
頭蓋内(脳幹):5μl
胸幹の筋肉:10μl
Smart2−SMN+Smart2−GDNF群(n=6)
脚筋:各20μl
腹腔内:10μl
横隔膜筋:10μl
顔筋:20μl
舌:10μl
頭蓋内(脳幹):5μl
胸幹の筋肉:10μl
Smart2−LacZ群(n=6)
脚筋:各20μl
腹腔内:10μl
横隔膜筋:10μl
顔筋:20μl
舌:10μl
頭蓋内(脳幹):5μl
胸幹の筋肉:10μl
これらの実験のためのレンチウイルス・ベクターは全て、ウイルスの逆行性輸送および運動ニューロンに対する形質導入が達成できるように、狂犬病ウイルスGでシュードタイプ化する。
【0288】
I型SMAのマウスモデルにEIAV遺伝子を移入すると、導入遺伝子が広範囲に発現し、このマウスの生存期間が延長する。SMNの免疫染色によって、脊髄運動ニューロンばかりでなく、DRGニューロンにおいても導入遺伝子が強く発現することが明らかとなり、このことから、I型マウスの筋肉内にSmart2SMNもしくはpONY8.7NCSMNを注入すると、逆行性輸送により運動ニューロンおよびDRG細胞に対する形質導入がもたらされることが示唆される(図17)。Smart2LacZを注入したマウスではこのような染色は認められなかった(図17)。I型SMAマウスにおいてレンチウイルス・ベクター媒介性にSMN遺伝子を発現させると、このマウスの生存期間は、LacZ注入対照マウスに比し35%、および非注入マウスに比し50%延長する。
【0289】

実施例8−VEGF遺伝子送達によるSOD1形質転換マウスの生存期間の延長
ALS患者の運動ニューロン変性の進行を防止もしくは阻止することを目的として、ALSマウスモデルを用い、XIAP(アエゲラ・セラピューティクス社(Aegera Therapeutics Inc.)などの抗アポトーシス分子およびVEGF、IGF−1、GDNFなどの神経保護分子を発現するレンチベクター(商標)ならびにsiRNA法の運動ニューロン生存期間に対する効果を検討する。
【0290】

SOD1形質転換マウスにおける遺伝子治療
SOD1マウスにおける機能的効率を調べるために、Smart2LacZ、Smart2VEGFおよびSmart2XIAPをそれぞれ筋肉内注入した(表1)。この実験には3群を使用した。第1群のマウスには、Smart2VEGFを注入した(n=7)。第2群には、抗アポトーシス蛋白質XIAPを発現するレンチベクター(商標)を注入した(n=6)。対照群(n=6)にはSmart2LacZベクターを注入した。標的とした筋肉は、脚筋、顔筋および横隔膜筋の3群であった(表1)。
【0291】
【表1】

Smart2hVEGFを投与すると、LacZ対照マウスに比し、疾患の発症が遅延し、SOD1形質転換マウスの生存期間が延長する。疾患の発症は、平均30日間遅延した。hVEGF注入マウスはLacZ群よりも最低41日間以上長く生存する。しかしながら、Smart2XIAPは、SOD1形質転換マウスに対して全く効果を示さない。また、VEGF投与では、LacZ群に比し、SOD1マウスの運動機能が向上する。この結果はロータロッドおよびフットプリント試験によるものであった。
【0292】
上記明細書に記載した刊行物は全て、引用により本明細書に組み込まれている。本発明の範囲および精神を逸脱することなく、開示した本発明の方法および系の種々の修正および変更を行うことができることは、当業者には明瞭に理解されよう。本発明を特定の好ましい実施態様に関して説明したが、本発明の特許請求の範囲がこのような実施態様に不当に限定されるべきではないことは理解されよう。それどころか、生物学もしくはその関連分野の当業者には自明である、発明実施のために開示した実施態様の種々の修正は、以下の特許請求の範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0293】
次に、実施例により本発明をさらに説明するが、これらの実施例は、本発明の実施に当たり当業者の便をはかるのに役立つものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。これらの実施例では以下の図を参照する。
【図1】図1(配列番号:1)はERA野性型のポリヌクレチドおよびアミノ酸配列を示す。
【図2】図2(配列番号:2)はERA野性型のポリヌクレチドおよびアミノ酸配列を示す。
【図3】図3(配列番号:3)はERAdmのポリヌクレオチド配列を示す。
【図4】図4(配列番号:4)はCVS狂犬病ウイルス糖蛋白質のポリヌクレオチド配列を示す。
【図5】図5は実施例1の結果であり、CSF内への注入後の脳におけるEIAV−LacZの形質導入効率を例示する。
【図6】図6は実施例1のであり、CSF内へEIAV−LacZ注入後の脊髄における標識遺伝子LacZの発現を例示する。
【図7】図7は実施例2の結果を示す。
【図8】図8は実施例2の結果を示す。
【図9】図9は実施例3の結果を示す。
【図10】図10はCVSを用いた実施例4の結果を示したものである。
【図11】図11は、pONY8.0CMVGFPウイルスを網膜下に遺伝子送達した後、視神経交叉(A)、視神経索の軸索(B)および視神経索の細胞体(C)に見られるGFPの蛍光を示したものである。
【図12】図12aはSMN遺伝子を含む置換ベクターの略図を示す。図12bはpONY8.7NCSMNの略図を示す。
【図13】図13は、狂犬病ウイルスG外皮蛋白質を用いてシュードタイプ化したSmart2SMNベクターによるインビトロ形質導入後のSMN免疫標識の共焦点解析の結果を示す。AおよびB)SMNのレンチウイルス・ベクター媒介性発現により形質導入したSMA線維芽細胞におけるSMN蛋白質の回復。C)形質導入しなかった細胞。D)Smart2LacZにより形質導入したSMA線維芽細胞におけるb−gal免疫染色。AおよびBにおける細胞質および核の強い染色に注目されたい。
【図14】図14は、形質導入したD17線維芽細胞のSMN発現を裏付けるウェスタン・ブロットを示す。D17細胞はSmart2SMN、SMN−HAおよびLacZベクターを用いて形質導入されている。
【図15】図15は、軽度のSMAモデルにおけるSMN遺伝子治療の結果を示したものである。A)III型SMAのマウスモデルの筋肉内にSMN−HA発現レンチウイルス・ベクター(商標)を注入したことによる脊髄運動ニューロンに対する形質導入。B)抗HAタグ抗体を用いてモニターした筋肉内のSMN発現。
【図16】図16は、Smart2SMNを筋肉内注入したII型マウスの免疫反応に関する検討結果を示したものである。
【図17】図17は、I型SMAのマウスモデルにおけるSMN遺伝子の移入を示したものである。DRG細胞(A)および脊髄運動ニューロン(B)は、SMN発現ベクター(C)コントロールの筋肉内注入による逆行性輸送によって形質導入した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的部位に対して形質導入するためのベクター系の使用であって、該ベクター系は拡散によって該標的部位へ移動するものとし、および該ベクター系は狂犬病ウイルスG外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片あるいはCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これを含むものとし、さらに該標的部位は中枢神経系の少なくとも一部であるものとする使用。
【請求項2】
請求項1による使用であって、該標的部位が脳、脊髄および/または脊髄神経の少なくとも一部である使用。
【請求項3】
請求項1もしくは2による使用であって、さらに該ベクター系を該標的部位から離れている投与部位に投与する工程を含む使用。
【請求項4】
請求項3による使用であって、該投与部位が脳脊髄液である使用。
【請求項5】
請求項3による使用であって、該投与部位が脳の一部分である使用。
【請求項6】
請求項3による使用であって、投与が筋肉内に、もしくは末梢神経系を介して行われる使用。
【請求項7】
前記いずれかの請求項による使用であって、該狂犬病ウイルスG外皮蛋白質突然変異体が333番目のアミノ酸のアルギニンがグルタミンで置換されている狂犬病ウイルスG外皮蛋白質である使用。
【請求項8】
請求項1乃至6のうちの任意の1項による使用であって、狂犬病ウイルスG外皮蛋白質突然変異体が、333番目のアミノ酸のアルギニンがグルタミンで置換されており、および330番目のアミノ酸のリジンがアスパラギンで置換されている狂犬病ウイルスG外皮蛋白質、またはその変種、断片もしくは相同体である使用。
【請求項9】
前記いずれかの請求項による使用であって、該ベクター系がウイルス・ベクター系である使用。
【請求項10】
前記いずれかの請求項による使用であって、該ベクター系がレトロウイルス・ベクター系である使用。
【請求項11】
前記いずれかの請求項による使用であって、該ベクター系がEOIを送達するために用いられる使用。
【請求項12】
請求項11による使用であって、該EOIがNOIである使用。
【請求項13】
請求項11もしくは12による使用であって、該EOIが標的細胞内の遺伝子に対して置換もしくは発現の上方制御を行うことができる使用。
【請求項14】
請求項12もしくは13による使用であって、該EOIが、選択遺伝子、標識遺伝子もしくは治療的遺伝子としてのNOIである使用。
【請求項15】
請求項11もしくは12による使用であって、該EOIが標的細胞内の遺伝子の発現をブロックもしくは抑制することができる使用。
【請求項16】
請求項15による使用であって、該EOIがアンチセンスRNA、抗体、siRNA、リボザイム、短ヘアピンRNAもしくはミクロRNAである使用。
【請求項17】
請求項11乃至16のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが標的細胞のゲノム内に組み込み可能である使用。
【請求項18】
請求項11乃至17のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが治療効果を有するか、治療効果を有する蛋白質をコードしている使用。
【請求項19】
請求項11乃至18のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが対象とする蛋白質(「POI」)をコードすることができる使用。
【請求項20】
前記いずれかの請求項による使用であって、該ベクター系がレンチウイルスから誘導することができる使用。
【請求項21】
請求項20による使用であって、該ベクター系がEIAVもしくはHIVから誘導することができる使用。
【請求項22】
請求項1乃至21のうちの任意の1項に記載のベクター系をこれを必要とする患者に投与する工程を包含する、患者の疾患を治療および/または予防する方法。
【請求項23】
請求項1乃至22のうちの任意の1項に記載のベクター系、および医薬用として許容可能な担体、希釈剤もしくは賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項24】
疾患の治療および/または予防方法をこれを必要とする被験体において施行する方法であって、請求項1乃至22のうちの任意の1項に記載のベクター系を用いて標的細胞に対し形質導入する工程を包含する、方法。
【請求項25】
運動疾患を治療および/または予防するための請求項22もしくは24による方法。
【請求項26】
請求項25による方法であって、該運動疾患がパーキンソン病、運動ニューロン疾患もしくはハンチントン病である方法。
【請求項27】
リソソーム蓄積症を治療および/または予防するための請求項22もしくは24による方法。
【請求項28】
請求項27による方法であって、該リソソーム蓄積症がゴーシェ病、ファブリー病、ニーマン・ピック病、ガングリオシドーシス、ムコ多糖症もしくは異染性大脳白質萎縮症である方法。
【請求項29】
アルツハイマー病、ALSもしくは疼痛を治療および/または予防するための請求項22もしくは24による方法。
【請求項30】
SMAを治療および/または予防するための請求項22もしくは24による方法。
【請求項31】
視神経、視神経交叉、視神経索もしくはLGN領域の疾患を治療および/または予防するための請求項22もしくは24による方法。
【請求項32】
炎症性神経疾患を治療および/または予防するための請求項22もしくは24による方法。
【請求項33】
請求項32による方法であって、該疾患が自己免疫性神経系疾患である方法。
【請求項34】
請求項32もしくは33による方法であって、該疾患が多発性硬化症、脳卒中、外傷性脳損傷、HIV関連の痴呆、アルツハイマー病、プリオン病、ギラン−バレー症候群、重症筋無力症、脳脊髄炎、スティフマン症候群、自己免疫性神経炎、運動機能不全、慢性炎症性脱髄性多発性神経障害、多病巣性運動神経障害、パラプロテイン血症性(paraproteinaemic)ニューロパシー、神経筋接合部の自己免疫性疾患、炎症性筋障害、自己免疫性筋炎、腫瘍随伴性(parameoplastic)神経疾患、結合組織もしくは血管炎の神経系合併症である方法。
【請求項35】
前記請求項のうちの任意の1項に記載のベクター系を用いる工程を含む、CNFにおけるPOIの効果を解析する方法。
【請求項36】
EOIを生体内分布させるための該EOIを含むベクター系の使用であって、該ベクター系が狂犬病ウイルスG外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片あるいはCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これを含む使用。
【請求項37】
請求項36による使用であって、さらに該ベクター系を該標的部位から離れている投与部位に投与する工程を含む使用。
【請求項38】
請求項36もしくは37による使用であって、該ベクター系が筋肉内に、または脳脊髄液、脳もしくは末梢神経系を介して投与される使用。
【請求項39】
請求項36乃至38のうちの任意の1項による使用であって、該狂犬病ウイルスG外皮蛋白質突然変異体が333番目のアミノ酸のアルギニンがグルタミンで置換されている狂犬病ウイルスG外皮蛋白質である使用。
【請求項40】
請求項36乃至38のうちの任意の1項による使用であって、該狂犬病ウイルスG外皮蛋白質突然変異体が、333番目のアミノ酸のアルギニンがグルタミンで置換されており、および330番目のアミノ酸のリジンがアスパラギンで置換されている狂犬病ウイルスG外皮蛋白質、またはその変種、断片もしくは相同体である使用。
【請求項41】
請求項36乃至40のうちの任意の1項による使用であって、該ベクター系がウイルス・ベクター系である使用。
【請求項42】
請求項36乃至41のうちの任意の1項による使用であって、該ベクター系がレトロウイルス・ベクター系である使用。
【請求項43】
請求項36乃至42のうちの任意の1項による使用であって、該EOIがNOIである使用。
【請求項44】
請求項43による使用であって、該EOIが標的細胞内の遺伝子に対して置換もしくは発現の上方制御を行うことができる使用。
【請求項45】
請求項43もしくは44による使用であって、該EOIが、選択遺伝子、標識遺伝子もしくは治療的遺伝子としてのNOIである使用。
【請求項46】
請求項36乃至45のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが標的細胞内の遺伝子の発現をブロックもしくは抑制することができる使用。
【請求項47】
請求項46による使用であって、該EOIがアンチセンスRNA、抗体、siRNA、リボザイム、短ヘアピンRNAもしくはミクロRNAである使用。
【請求項48】
請求項36乃至47のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが標的細胞のゲノム内に組み込み可能である使用。
【請求項49】
請求項36乃至48のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが治療効果を有するか、治療効果を有する蛋白質をコードしている使用。
【請求項50】
請求項36乃至49のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが対象とする蛋白質(「POI」)をコードすることができる使用。
【請求項51】
請求項36乃至50のうちの任意の1項による使用であって、該ベクター系がレンチウイルスから誘導することができる使用。
【請求項52】
請求項51による使用であって、該ベクター系がEIAVもしくはHIVから誘導することができる使用。
【請求項53】
請求項36乃至52のうちの任意の1項に記載のベクター系をこれを必要とする患者に投与する工程を包含する、患者の疾患を治療および/または予防する方法。
【請求項54】
請求項36乃至53のうちの任意の1項に記載のベクター系、および医薬用として許容可能な担体、希釈剤もしくは賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項55】
疾患の治療および/または予防方法をこれを必要とする被験体において施行する方法であって、請求項36乃至53のうちの任意の1項に記載のベクター系を用いて標的細胞に対し形質導入することを含む方法。
【請求項56】
運動疾患を治療および/または予防するための請求項53もしくは55による方法。
【請求項57】
請求項56による方法であって、該運動疾患がパーキンソン病、運動ニューロン疾患もしくはハンチントン病である方法。
【請求項58】
リソソーム蓄積症を治療および/または予防するための請求項53もしくは55による方法。
【請求項59】
請求項58による方法であって、該リソソーム蓄積症がゴーシェ病、ファブリー病、ニーマン・ピック病、ガングリオシドーシス、ムコ多糖症もしくは異染性大脳白質萎縮症である方法。
【請求項60】
アルツハイマー病、ALSもしくは疼痛を治療および/または予防するための請求項53もしくは55による方法。
【請求項61】
SMAを治療および/または予防するための請求項53もしくは55による方法。
【請求項62】
視神経、視神経交叉、視神経索もしくはLGN領域の疾患を治療および/または予防するための請求項53もしくは55による方法。
【請求項63】
炎症性神経疾患を治療および/または予防するための請求項53もしくは55による方法。
【請求項64】
請求項63による方法であって、該疾患が自己免疫性神経系疾患である方法。
【請求項65】
請求項63もしくは64による方法であって、該疾患が多発性硬化症、脳卒中、外傷性脳損傷、HIV関連の痴呆、アルツハイマー病、プリオン病、ギラン−バレー症候群、重症筋無力症、脳脊髄炎、スティフマン症候群、自己免疫性神経炎、運動機能不全、慢性炎症性脱髄性多発性神経障害、多病巣性運動神経障害、パラプロテイン血症性ニューロパシー、神経筋接合部の自己免疫性疾患、炎症性筋障害、自己免疫性筋炎、腫瘍随伴性神経疾患、結合組織もしくは血管炎の神経系合併症である方法。
【請求項66】
請求項36乃至65のうちの任意の1項に記載のベクター系を用いる工程を含む、CNSにおけるPOIの効果を解析する方法。
【請求項67】
標的部位に対して形質導入するためのベクター系の使用であって、該ベクター系は逆行性輸送によって該標的部位へ移動するものとし、および該ベクター系はCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これを含むものとし、さらに該標的部位は中枢神経系の少なくとも一部であるものとする使用。
【請求項68】
請求項67による使用であって、該標的部位が脳、脊髄および/または脊髄神経の少なくとも一部である使用。
【請求項69】
請求項59もしくは60による使用であって、さらに該ベクター系を該標的部位から離れている投与部位に投与する工程を含む使用。
【請求項70】
請求項69による使用であって、該投与部位が脳脊髄液である使用。
【請求項71】
請求項69による使用であって、該投与部位が脳の一部分である使用。
【請求項72】
請求項69による使用であって、投与が筋肉内に、もしくは末梢神経系を介して行われる使用。
【請求項73】
請求項67乃至72のうちの任意の1項による使用であって、該ベクター系がウイルス・ベクター系である使用。
【請求項74】
請求項73による使用であって、該ベクター系がレトロウイルス・ベクター系である使用。
【請求項75】
請求項67乃至74のうちの任意の1項による使用であって、該ベクター系がEOIを送達するために用いられる使用。
【請求項76】
請求項75による使用であって、該EOIがNOIである使用。
【請求項77】
請求項75もしくは76による使用であって、該EOIが標的細胞内の遺伝子に対して置換もしくは発現の上方制御を行うことができる使用。
【請求項78】
請求項75乃至77のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが、選択遺伝子、標識遺伝子もしくは治療的遺伝子としてのNOIである使用。
【請求項79】
請求項75もしくは76による使用であって、該EOIが標的細胞内の遺伝子の発現をブロックもしくは抑制することができる使用。
【請求項80】
請求項79による使用であって、該EOIがアンチセンスRNA、抗体、siRNA、リボザイム、短ヘアピンRNAもしくはミクロRNAである使用。
【請求項81】
請求項75乃至80のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが標的細胞のゲノム内に組み込み可能である使用。
【請求項82】
請求項75乃至81のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが治療効果を有するか、治療効果を有する蛋白質をコードしている使用。
【請求項83】
請求項75乃至82のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが対象とする蛋白質(「POI」)をコードすることができる使用。
【請求項84】
請求項67乃至83のうちの任意の1項による使用であって、該ベクター系がレンチウイルスから誘導することができる使用。
【請求項85】
請求項84による使用であって、該ベクター系がEIAVもしくはHIVから誘導することができる使用。
【請求項86】
請求項67乃至83のうちの任意の1項に記載のベクター系をこれを必要とする患者に投与する工程を包含する、患者の疾患を治療および/または予防する方法。
【請求項87】
請求項67乃至86のうちの任意の1項に記載のベクター系、および医薬用として許容可能な担体、希釈剤もしくは賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項88】
疾患の治療および/または予防方法をこれを必要とする被験体において施行する方法であって、請求項67乃至86のうちの任意の1項に記載のベクター系を用いて標的細胞に対し形質導入することを含む方法。
【請求項89】
運動疾患を治療および/または予防するための請求項86もしくは88による方法。
【請求項90】
請求項89による方法であって、該運動疾患がパーキンソン病、運動ニューロン疾患もしくはハンチントン病である方法。
【請求項91】
リソソーム蓄積症を治療および/または予防するための請求項86もしくは88による方法。
【請求項92】
請求項91による方法であって、該リソソーム蓄積症がゴーシェ病、ファブリー病、ニーマン・ピック病、ガングリオシドーシス、ムコ多糖症もしくは異染性大脳白質萎縮症である方法。
【請求項93】
アルツハイマー病、ALSもしくは疼痛を治療および/または予防するための請求項86もしくは88による方法。
【請求項94】
SMAを治療および/または予防するための請求項86もしくは88による方法。
【請求項95】
視神経、視神経交叉、視神経索もしくはLGN領域の疾患を治療および/または予防するための請求項86もしくは88による方法。
【請求項96】
炎症性神経疾患を治療および/または予防するための請求項86もしくは88による方法。
【請求項97】
請求項96による方法であって、該疾患が自己免疫性神経系疾患である方法。
【請求項98】
請求項96もしくは97による方法であって、該疾患が多発性硬化症、脳卒中、外傷性脳損傷、HIV関連の痴呆、アルツハイマー病、プリオン病、ギラン−バレー症候群、重症筋無力症、脳脊髄炎、スティフマン症候群、自己免疫性神経炎、運動機能不全、慢性炎症性脱髄性多発性神経障害、多病巣性運動神経障害、パラプロテイン血症性ニューロパシー、神経筋接合部の自己免疫性疾患、炎症性筋障害、自己免疫性筋炎、腫瘍随伴性神経疾患、結合組織もしくは血管炎の神経系合併症である方法。
【請求項99】
請求項67乃至98のうちの任意の1項に記載のベクター系を用いる工程を含む、CNSにおけるPOIの効果を解析する方法。
【請求項100】
子宮内標的部位もしくは新生仔体内標的部位に対して形質導入を行うためのベクター系の使用であって、該ベクター系が、狂犬病ウイルスG外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片あるいはCVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部であるか、これを含む使用。
【請求項101】
請求項100による使用であって、該標的部位が脳、脊髄および/または脊髄神経の少なくとも一部である使用。
【請求項102】
請求項100もしくは101による使用であって、さらに該ベクター系を該標的部位から離れている投与部位に投与する工程を含む使用。
【請求項103】
請求項102による使用であって、該投与部位が脳脊髄液である使用。
【請求項104】
請求項102による使用であって、該投与部位が脳の一部分である使用。
【請求項105】
請求項102による使用であって、投与が筋肉内に、もしくは末梢神経系を介して行われる使用。
【請求項106】
請求項100乃至105のうちの任意の1項による使用であって、該狂犬病ウイルスG外皮蛋白質突然変異体が333番目のアミノ酸のアルギニンがグルタミンで置換されている狂犬病ウイルスG外皮蛋白質である使用。
【請求項107】
請求項100乃至105のうちの任意の1項による使用であって、該狂犬病ウイルスG外皮蛋白質突然変異体が、333番目のアミノ酸のアルギニンがグルタミンで置換されており、および330番目のアミノ酸のリジンがアスパラギンで置換されている狂犬病ウイルスG外皮蛋白質、またはその変種、断片もしくは相同体である使用。
【請求項108】
請求項100乃至107のうちの任意の1項による使用であって、該ベクター系がウイルス・ベクター系である使用。
【請求項109】
請求項108による使用であって、該ベクター系がレトロウイルス・ベクター系である使用。
【請求項110】
請求項100乃至109のうちの任意の1項による使用であって、該ベクター系がEOIを送達するために用いられる使用。
【請求項111】
請求項110による使用であって、該EOIがNOIである使用。
【請求項112】
請求項110もしくは111による使用であって、該EOIが標的細胞内の遺伝子に対して置換もしくは発現の上方制御を行うことができる使用。
【請求項113】
請求項110乃至112のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが、選択遺伝子、標識遺伝子もしくは治療的遺伝子としてのNOIである使用。
【請求項114】
請求項110もしくは111による使用であって、該EOIが標的細胞内の遺伝子の発現をブロックもしくは抑制することができる使用。
【請求項115】
請求項114による使用であって、該EOIがアンチセンスRNA、抗体、siRNA、リボザイム、短ヘアピンRNAもしくはミクロRNAである使用。
【請求項116】
請求項110乃至115のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが標的細胞のゲノム内に組み込み可能である使用。
【請求項117】
請求項110乃至116のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが治療効果を有するか、治療効果を有する蛋白質をコードしている使用。
【請求項118】
請求項110乃至117のうちの任意の1項による使用であって、該EOIが対象とする蛋白質(「POI」)をコードすることができる使用。
【請求項119】
請求項110乃至118のうちの任意の1項による使用であって、該ベクター系がレンチウイルスから誘導することができる使用。
【請求項120】
請求項119による使用であって、該ベクター系がEIAVもしくはHIVから誘導することができる使用。
【請求項121】
請求項100乃至107のうちの任意の1項に記載のベクター系をこれを必要とする患者に投与する工程を包含する、患者の疾患を治療および/または予防する方法。
【請求項122】
請求項100乃至121のうちの任意の1項に記載のベクター系、および医薬用として許容可能な担体、希釈剤もしくは賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項123】
疾患の治療および/または予防方法をこれを必要とする被験体において施行する方法であって、請求項100乃至121のうちの任意の1項に記載のベクター系を用いて標的細胞に対し形質導入することを含む方法。
【請求項124】
運動疾患を治療および/または予防するための請求項121もしくは123による方法。
【請求項125】
請求項124による方法であって、該運動疾患がパーキンソン病、運動ニューロン疾患もしくはハンチントン病である方法。
【請求項126】
リソソーム蓄積症を治療および/または予防するための請求項121もしくは123による方法。
【請求項127】
請求項126による方法であって、該リソソーム蓄積症がゴーシェ病、ファブリー病、ニーマン・ピック病、ガングリオシドーシス、ムコ多糖症もしくは異染性大脳白質萎縮症である方法。
【請求項128】
アルツハイマー病、ALSもしくは疼痛を治療および/または予防するための請求項121もしくは123による方法。
【請求項129】
SMAを治療および/または予防するための請求項121もしくは123による方法。
【請求項130】
視神経、視神経交叉、視神経索もしくはLGN領域の疾患を治療および/または予防するための請求項121もしくは123による方法。
【請求項131】
炎症性神経疾患を治療および/または予防するための請求項121もしくは123による方法。
【請求項132】
請求項131による方法であって、該疾患が自己免疫性神経系疾患である方法。
【請求項133】
請求項131もしくは132による方法であって、該疾患が多発性硬化症、脳卒中、外傷性脳損傷、HIV関連の痴呆、アルツハイマー病、プリオン病、ギラン−バレー症候群、重症筋無力症、脳脊髄炎、スティフマン症候群、自己免疫性神経炎、運動機能不全、慢性炎症性脱髄性多発性神経障害、多病巣性運動神経障害、パラプロテイン血症性ニューロパシー、神経筋接合部の自己免疫性疾患、炎症性筋障害、自己免疫性筋炎、腫瘍随伴性神経疾患、結合組織もしくは血管炎の神経系合併症である方法。
【請求項134】
請求項100乃至133のうちの任意の1項に記載のベクター系を用いる工程を含む、CNSにおけるPOIの効果を解析する方法。
【請求項135】
CVS外皮蛋白質またはその突然変異体、変種、相同体もしくは断片の少なくとも一部を含むEIAVベクター。
【請求項136】
被験体の疾患を治療および/または予防するための薬学的組成物の製造における請求項135に記載のベクターの使用。
【請求項137】
請求項135に記載のベクター系および医薬用として許容可能な担体、希釈剤もしくは賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項138】
疾患の治療および/または予防方法をこれを必要とする被験体において施行する方法であって、請求項135に記載のベクター系を用いて標的細胞に対し形質導入することを含む方法。
【請求項139】
請求項1乃至22、36乃至53、67乃至86もしくは100乃至121のうちの任意の1項に記載の使用のための請求項121に記載のベクターの使用。
【請求項140】
標的細胞の遺伝子もしくは遺伝子によりコードされている蛋白質の機能を解析する方法であって、請求項1乃至22、36乃至53、67乃至86、100乃至121、もしくは135のうちの任意の1項に記載のベクターもしくはベクター系を用いて該遺伝子の発現を抑制もしくはブロックする工程を含む方法。
【請求項141】
請求項1乃至22、36乃至53、67乃至86、100乃至121、もしくは135のうちの任意の1項に記載のベクターもしくはベクター系を用いて形質導入した細胞。
【請求項142】
請求項141による不死化脳細胞、脊髄細胞または運動もしくは感覚神経細胞。
【請求項143】
移植用治療剤の製造における請求項141による不死化細胞の使用。
【請求項144】
疾患の治療および/または予防方法をこれを必要とする被験体において施行する方法であって、請求項141による不死化細胞を該被験体内に移植する工程を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図15】
image rotate

【図17】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図14】
image rotate

【図16】
image rotate


【公表番号】特表2006−502240(P2006−502240A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500061(P2005−500061)
【出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004260
【国際公開番号】WO2004/031390
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(504237935)オックスフォード バイオメディカ (ユーケー) リミテッド (4)
【Fターム(参考)】