説明

ベルト及び画像形成装置

【課題】画像形成装置の転写ベルト上に付着するトナーのクリーニングを、クリーニング部材によって、効果的に且つ長期にわたって安定したクリーニング性能を維持して行なうのが困難であった。
【解決手段】ベルト22の表面に当接してベルトに付着するトナー等の付着物を除去するクリーニンブレード24を備えた画像形成装置1に備えられるベルト22において、ベルト22の表面に対するn−ドデカンの接触角θを10°≦θ≦45°とし、且つベルト22の表面の鏡面度を60≦M≦200とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト及びベルトに当接するクリーニング部材を備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年電子写真方式の画像形成装置において、フルカラー画質に対して銀塩写真に近い高画質品位が望まれており、それを達成する手段として、トナーの小粒径化、球状化、ワックス等の離型剤を内包したものが提案されている。従来、このようなトナーを使用し、クリーニング部材を用いて、ベルト上に付着するトナーのクリーニングを効果的に、且つ長期にわたって安定したクリーニング性能を維持して行なう方法として、ベルト表面の10点平均粗さRzが0.2μm以下であり、その鏡面度が100以上であるベルトを使用するものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−225969号公報(第11頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の技術においては、クリーニング性能を向上させることはできるが、クリーニング部材の劣化によって、クリーニング不良が生じる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるベルトは、ベルトの表面に当接して前記ベルトの付着物を除去するクリーニング部材を備えた画像形成装置に備えられる前記ベルトであって、
前記表面に対するn−ドデカンの接触角θが10°≦θ≦45°であり、
前記表面の鏡面度が60≦M≦200であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ベルトに接触するクリーニング部材のメクレ、及び接触部でのベルト付着物のすり抜けを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に基づく実施の形態1のベルトを採用する画像形成装置の要部構成を示す概略構成図である。
【図2】テンションローラの、ベルトの片側部のみに蛇行防止ガイドを形成した例を示すベルトユニットの平面図である。
【図3】接触角の説明に供する図である。
【図4】実施の形態1において、各試料のベルトを装着しておこなった試験でのクリーニングブレードメクレの評価結果、及びクリーニング性能評価結果を記した分布図である。
【図5】実施の形態2において、ベルトによる感光体ドラム26への汚染の影響を試験するための保管試験治具の概略図である。
【図6】実施の形態2において、添加剤の添加量と、n−ドデカンの接触角θの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は、本発明に基づく実施の形態1のベルトを採用する画像形成装置の要部構成を示す概略構成図である。
【0009】
同図に示す画像形成装置1は、直接転写方式のタンデム型カラー電子写真プリンタとしての構成を備え、装置内部には、記録媒体としての記録用紙25を収納する給紙カセット23が装着され、記録用紙25を給紙カセット23から取り出す給紙ローラ33、記録用紙25を画像形成部まで搬送する搬送ローラ31が配置される。また、画像形成装置1内には、画像形成部として、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の各色の現像剤としてのトナーの画像を形成するトナー画像形成部11〜14が、記録用紙25の搬送経路に沿って、上流側から順に配置されている。これらのトナー画像形成部は、所定色のトナーを使用する外は同じ構成を有する。
【0010】
例えばブラック(K)のトナーを使用するトナー画像形成部11に示すように、各トナー画像形成部は、静電潜像担持体としての感光体ドラム51、感光体ドラム51の表面に電荷を供給して帯電させる帯電部52、帯電された感光体ドラム51の表面に画像データをもとに選択的に光を照射して静電潜像を形成する露光部53、感光体ドラム51に形成された静電潜像を前記トナーにより現像してトナー画像を形成する現像部54、及び感光体ドラム51の表面に残留したトナーを除去すべく、感光体ドラム51に接触して配置されるクリーニングブレード56を備える。
【0011】
また、画像形成装置1内には、ベルトユニットとして、記録用紙25を搬送する無端状のベルト22、図示せぬ駆動部より回転されてベルト22を矢印方向に駆動するドライブローラ20、ドライブローラ20と対を成してベルト22を張架するテンションローラ21、及びベルト22上に付着したトナーを掻き取りクリーニングするクリーニング部材としてのクリーニングブレード24が配置され、更に転写部として、前記トナーにより静電潜像を可視化した像である、感光体ドラム51上に形成されたトナー画像を記録用紙25上に転写すべく、ベルト22を挟むように各感光体ドラム51に対向して転写ローラ26が配置されている。
【0012】
そして、前記記録用紙25上に形成されたトナー画像を、熱及び圧力を加えることによって定着させる定着装置30、定着装置30を通過した記録用紙25を搬送し、画像が定着された記録用紙25を貯留する排出部34に排出する搬送ローラ32が配置される。
【0013】
尚、ドライブローラ20及び、テンションローラ21の片方又は両方において、ベルト22の側面部と係合して、その蛇行を矯正する為の蛇行防止ガイド20a,21aを必要に応じて設けることが好ましい。これらの蛇行防止ガイドは、ベルトの片側部に設けて蛇行を防止するようにしても良いし、両側部に設けるようにしても良い。図2は、テンションローラ21の、ベルト22の片側部のみに蛇行防止ガイド20aを形成した例を示す。同図に示すように、蛇行防止ガイド21aは、ベルト22の側面部に当接する傾斜部を備えたフランジ状部材であり、その傾斜部でベルト22の側面部をガイドして横方向異動を規制し、ベルト22の蛇行を防止する。
【0014】
ここでは、ベルト22を、ドライブローラ20とテンションローラ21の2つのローラで張架し、駆動した例を示したが、3つ以上のローラによって張架し、駆動するように構成してもよい。
【0015】
以上の構成において、画像形成装置1の動作について、図1を参照しながら説明する。
尚、同図中の点線矢印は、搬送される記録用紙25の搬送方向を示す。
【0016】
各トナー画像形成部11〜14の感光体ドラム51の表面は、図示しない電源装置により電圧が印加された帯電部52により帯電される。続いて、感光体ドラム51が矢印方向に回転することによって、帯電された感光体ドラム51表面が露光部53の付近に到達すると、露光部53によって露光され、感光体ドラム51表面に静電潜像が形成される。この静電潜像は、現像部54により現像され、感光体ドラム51の表面にトナー画像が形成される。
【0017】
一方、給紙カセット23に収納された記録用紙25は、給紙ローラ33によって給紙カセット23から取り出され、搬送ローラ31及びベルト22により、転写ローラ26の付近に搬送される。そして、感光体ドラム51が回転することによって、現像によって得られた感光体ドラム51の表面上のトナー画像が転写ローラ26及びベルト22の付近に到達すると、図示しない電源装置により電圧が印加されている転写ローラ26とベルト22によって、感光体ドラム51表面上のトナー画像が記録用紙25上に転写される。以上のトナー画像の記録用紙25上への転写が、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の各色のトナー画像を形成するトナー画像形成部11〜14を通過する毎に順次重ねて行われ、記録用紙25上に各色のトナーによるカラー画像が形成される。
【0018】
続いて、表面に各色のトナー画像が重ねて形成された記録用紙25は、ベルト22の回転によって、定着装置30に搬送される。記録用紙25上のトナー画像は、定着装置30によって加圧しながら加熱することにより溶融し、記録用紙25上に固定される。更に、記録用紙25は、搬送ローラ32により、排出部34に排出され、画像形成の動作が終了する。この間、記録用紙25を分離した後のベルト22は、ベルト22上に残留したトナーやその他の異物を除去するクリーニングブレード24により清掃される。
【0019】
次に上記した画像形成装置1で使用される無端状のベルト22について詳しく説明する。本実施の形態によるベルト22は、後述する連続印刷試験による評価結果に基づいて設定した鏡面度及び接触角を備えるものである。尚、ベルトについて、本実施の形態の画像形成装置1で使用するベルトを特定する場合には符号22を付すが、特に特定するものでない場合には符号を付さない。
【0020】
本実施の形態で用いるベルト材料の母材として、ポリアミドイミド(以下、PAIと称す)を使用し、導電性発現のために、カーボンブラックを適量配合し、N−メチルピロリドン(以下、NMPと称す)溶液中にて攪拌混合し、回転成型により、膜厚100μm、内径φ198mmの寸法に成型した後、230mmの幅長に適宜切断したベルトを得る。この時、金型内面の仕上げ加工具合を適宜調整することで、後述する鏡面度の異なる無端状のベルトを得ることができる。
【0021】
本実施の形態では、ベルトの表面性状の指標として、鏡面度を用いた。鏡面度は、撮像パターン評価法にて計測しており、対象物の反射像、写像性の良し悪しを定量的に評価して、表面性状を評価することが可能である。また測定範囲も200mm広測定域で表面性状が評価できる手法であり、鏡面度測定機は、触針式粗さ測定機による測定とは異なり、先端の尖った触針で表面をなぞって測定するわけではないので、ベルト表面を傷つけることなく評価することができ、且つ、数mmの範囲で計測される触針式粗さ測定機と比較して、広範囲にわたって評価することができるため、表面性状を評価する方法として有用である。
【0022】
また鏡面度とは表面性状の写像性を数値化したものであり、被測定物表面に写る基準パターン(反射像)の鮮明さを、輝度値(明るさ)分布のばらつきを元に、基準片と対象物との相対値で算出したものである。基準となる理想表面の鏡面度1000に対して、鏡面度の数値が大きいほど表面性状が良い、つまり鏡面性が高いことを示す。
【0023】
ベルト表面の鏡面度は、アークハリマ製の鏡面度計(SPOT AHS−100S)を用いて測定を行った。その具体的な測定方法については、例えば、特開2007−225969の段落0028〜0036を参照できるのでここでの詳細な説明は省略する。ベルトの表面形状は、回転成型で使用される金型表面輝度に依存しており、金型表面を適宜、研磨することで、任意の鏡面度を有するベルトを得た。尚、金型表面の輝度を高く保つためには、適宜メンテナンスが必要になるため、ベルト鏡面度は200以下が望ましい。
【0024】
また、これらの金型を使用し、且つ表面の活性状態に応じて適宜、撥油性能を向上させるため、PAI樹脂中にフルオロアルキル基を主鎖として有する添加剤を添加し、ベルト表面の撥油性の調整を行った。ここでは、フルオロアルキル基を主鎖とする添加剤としてベルト基材との相溶性の高い添加剤を選定し、ベルト表面の撥油性能の水準を撥油成分の添加量を変化させることで後述する接触角の異なるベルトを得ることができる。
【0025】
しかしながら、後述するように、添加剤の添加量を樹脂固形分に対し、0.17重量部以上添加しても、後述するn−ドデカンの接触角は有意に変化せず、最大で45°であることが分かった。従って、n−ドデカンの接触角を45°以上とすることは加工上困難な領域である。また、撥油性能付与剤としては、フルオロアルキル基を含む添加剤に限定されるものではなく、シリコン系のシリコン系の添加剤や、その他の表面活性剤を使用してもよく、ベルト基材を構成する樹脂の持つ材料特性を利用し、撥油性能を発現させたベルトを用いても良い。
【0026】
ベルトの材料としては、本実施の形態で使用した上記PAIに限定されるものではなく、耐久性や機械的特性の観点から、ベルト駆動時の張力変形が一定範囲であることが望ましく、また蛇行防止ガイド20aのような蛇行防止手段との摺動を繰り返し受けることによる、端部磨耗、端部オレ、ワレ等のダメージを受けにくい材料であることが望ましく、例えば本実施の形態で使用したPAI同様に、ヤング率が2000Mpa以上、好ましくは3000Mpa以上である、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂、或いはこれらを混合した樹脂系のものであっても良い。
【0027】
また、無端状のベルトを回転成型にて製造するにあたり、その溶媒は使用される材料によって適宜決定されるが、非プロトン性極性溶媒が好適に用いられ、特にN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルスルホキシド、先に挙げたNMPや、ピリジン、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、混合溶媒として使用しても良い。
【0028】
また、カーボンブラックは、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられ、これらは単独使用することもでき、または複数種類のカーボンブラックを併用しても良い。これらのカーボンブラックの種類は、目的とする導電性により適宜選択することができるが、本願における画像形成装置に使用されるベルトには、特にチャンネルブラック、ファーネスブラックが、所定の抵抗を得るために好適に用いられ、その用途によっては、酸化処理、グラフト処理等の酸化劣化防止したものや、溶媒への分散性を向上させたものを用いると好ましい。本実施の形態における画像形成装置に使用されるベルトのカーボンブラック含有量については、その機械的強度等から、その樹脂固形分に対し、3〜40重量%、より好ましくは3〜30重量%である。
【0029】
また、導電性を付加する手段としては、カーボンブラック等を利用した電子導電手法に限定されるものではなく、イオン導電化剤を添加することで所定の導電性を付与してもよい。
【0030】
次に、本実施の形態のベルトの撥油性能の評価方法について説明する。ここでは、ベルトの撥油性能を、極性が低く、トナーに含まれるパラフィン系のwax成分とも類似した骨格を有するn−ドデガンを使用し、n−ドデカンとベルト表面との接触角θを測定することで、ベルト表面の撥油性能を評価した。
【0031】
懸滴法における接触角θは、θ/2法によって算出した。すなわち、図3に示すように、接触角θ(液面と個体表面とのなす角)は、形成された液滴(n−ドデガン)101が微小球体の一部と仮定した場合、固体22(ベルト試験片)に接している液滴101の左右端点と液滴の頂点Pとを結ぶ直線と個体表面とのなす角度θ1から求められ、幾何の定理より、θ=2×θ1が成り立ち、固体に対する接触角θが算出できる。また、このθ/2法は、取り込んだ液滴の幅2rと高さhから接触角θを算出することにより、接触角θは左右の平均値として算出される。
【0032】
この接触角θの実際の測定に際しては、先ずベルト試験片の周方向と観察方向が90°となるようにベルト試験片を試料台へ固定し、n−ドデカンを、テフロンコートされた内径が0.8mmのシリンジ針(18Gテフロンコート製針:協和界面科学(株)社製)が取り付けられたシリンジに適量を吸い取り、これを接触角測定器へ設置する。そして温度25℃/湿度50%環境下において、1.0μlのn−ドデカンを試験片上に滴下し、液体が試験片に滴下された直後における液滴の形状を観察し、接触角θを上記したθ/2法に基づいて接触角計(協和界面科学(株)社製接触角計 CA−X型)用いて測定した。
【0033】
以上のようにして形成した鏡面度M及び接触角θの異なる複数の無端状のベルトを試料として用意し、例えば画像形成装置1に装着して行なった、連続試験印刷とその印刷結果に基づくクリーニングブレードのメクレの連続印字評価について説明する。尚、前記した理由から、ここで試料として用いたベルトの、鏡面度Mの上限を200とし、接触角の上限を45°とした。
【0034】
連続印刷試験に用いるトナーは、主構成組成としてスチレンーアクリル共重合体を用い、乳化重合法によりパラフィンワックスを9重量部内包し、平均粒径7μmで真球度0.95のものを使用した。これは、転写効率向上、定着の離型剤レス、及びドット再現性や解像度に優れた現像を行なう事により、画像のシャープネス、高画像品位を得ることができることより選択した。
【0035】
また、ベルトのクリーニング手段であるクリーングブレード24としては、ゴム硬度JIS A83°、厚さ1.5mmのウレタンゴムにより、線圧4.3g/mmになるように設定したクリーングブレードを用いた。これは、ウレタンゴム等の弾性材からなるブレード方式が、前記残留トナーや異物等を除去する機能に優れ、その構成が簡単かつコンパクトで低コストであるからである。また、ゴム材料を用いたのは、高硬度でしかも弾性に富み、耐磨耗性、機械的強度、耐油性、耐オゾン性等に卓越しているウレタンゴムが適しているからである。本実施の形態の画像形成装置1で使用するクリーングブレードを特定する場合には符号24を付すが、特に特定するものでない場合には符号を付さない。
【0036】
クリーニングブレードメクレの連続印字評価のための連続印刷試験では、記録用紙としてA4サイズのPPC(Plain Paper Copy)用紙を用い、試験環境は、HH環境(温度28℃/湿度80%)、NN環境(温度23℃/湿度50%)、LL環境(温度10℃/湿度20%)を選択した。印字パターンとしては、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の4色の1%横帯パターンの両面連続印字をベルトの寿命程度まで行った。その際に初期的または耐刷経時でクリーニングブレードメクレの発生有無を評価した。
【0037】
また、クリーニング性能の連続印字評価(耐刷評価)は、記録用紙としてA4サイズのPPC用紙を用い、試験環境は、LL環境(温度10℃/湿度20%)環境を選択した。評価環境にLL環境を選択した理由は、低温なほどブレードの弾性率が大きくなり、より高温な環境に比べて、ベルトへの追従性に乏しくなり、ベルト上異物(主にトナー)がブレードをすり抜け易いからである。印字パターンとしては、クリーニングブレード評価と同様、ブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)の4色の1%横帯パターンの両面連続印字をベルトの寿命程度まで行った。その際に発生するスジ状の汚れ(すり抜け)の有無を目視判定して評価した。このすり抜け線は、ブレードのクリーニング不良によりベルト上に残ったトナーが、後続する印刷媒体の裏面に付着することによって発生する。
【0038】
図4は、各試料のベルトを装着しておこなった試験でのクリーニングブレードメクレの評価結果、及びクリーニング性能評価結果を記した分布図である。尚、クリーニングブレードメクレ及びクリーニング性能の判定は、図4の分布図に「◎」、「▲」、「□」、「■」、「×」を用いて評価した。
「◎」は、クリーニングブレードメクレ及びすり抜けが共に発生しなかったことを示す。
「▲」は、クリーニングブレードメクレは発生しなかったが、すり抜けが発生したことを示す。
「□」は、クリーニングブレードメクレがHH環境下で発生したが、NN及びLL環境では発生せず、すり抜けは発生しなかったことを示す。
「■」は、クリーニングブレードメクレが発生したが、すり抜けが発生しなかったことを示す。
「×」は、クリーニングブレードメクレ及びすり抜けが共に発生したことを示す。
【0039】
ベルト表面の鏡面度に関わらず、n−ドデカンの接触角θが5°未満、すなわち液体が試験片上で液滴を成さず(θ≒0°)であると、ブレードのメクレを引き起こしやすい。n−ドデカンの接触角θ<5°であるものに関しては、鏡面度の大小に関わらず、たとえ鏡面度Mが60以下の比較的粗面のベルトであっても、ブレードメクレが発生した。一方で、n−ドデカンの接触角θが10°以上であるベルトにおいては、ベルトの鏡面度Mが60以上95未満のベルトの場合に、ブレードメクレは発生せず、安定したベルトの走行が確認された。また、鏡面度Mが95以上のベルトでは、HH環境下においてブレードメクレが発生したものの(領域D部)、NN、LL環境では、ブレードメクレは発生しなかった。
一方、ベルトに対するn−ドデカンの接触角θが25°以上である場合には、鏡面度Mが95以上の非常に平滑な表面を持つベルトにおいても環境に関係なく、ブレードメクレは発生せず、安定してベルトを走行させることができることが分かった(領域E、F部)。
【0040】
また、鏡面度Mが60未満のベルトに関しては、n−ドデカンの接触角の大小に関わらず、耐刷経時でクリーニング不良(トナーのすり抜け)が発生し、印字した媒体の裏面にスジ状の線が確認された(領域A,C部)。
【0041】
クリーニングブレードメクレが発生する要因、及びn−ドデカンの接触角が10°以上である場合にブレードメクレに対して有効である理由について以下に説明する。
【0042】
第一に鏡面度が高いほど、ベルトとクリーニングブレードとの接触面積が大きくなるため、ベルトとクリーニングブレードとの摩擦力が大きくなり、ブレードのメクレが発生しやすくなる。
第二にベルトに対して、n−ドデカンが完全に濡れてしまうベルト、すなわち接触角θが5°未満のベルト(θ≒0°)は、n−ドデカンの接触角θが0°であるウレタンゴム製のブレードとの付着力が強くなるため、ベルトとブレードが馴染みやすく、2つの部材当接部において摩擦力が大きくなり、ブレードメクレを引き起こしやすくなる。
第三にn−ドデカンが濡れやすいベルトの中には、ベルト1本内に摩擦係数のムラが大きいものがあり、摩擦係数の差が大きい部位でブレードへの応力が集中し、耐刷経時でブレードにねじれが生じることで、結果的にブレードメクレが発生する。
【0043】
一方で、臨界表面張力γlが25mN/m(23°C)という非常に濡れやすい液体であるn−ドデカンの接触角が10°以上、好ましくは25°以上の撥油性能を有していることは、ベルトが他の接触する有機成分と付着し難く、引き離しやすいことを間接的に示しており、n−ドデカンの接触角が大きいほど、ブレードがはり付き難く、また引き離しやすいことを示している。このことは、n−ドデカンの接触角が10°≦θ<25°であある場合、鏡面度Mが95未満のベルトではブレードメクレが発生せず、更に鏡面度Mが95以上のベルトにおいても、HH環境以外では、ブレードメクレが発生しないことからも示唆される。
【0044】
鏡面度Mが95以上のベルトにおいて、HH環境下でブレードメクレが発生したのは、鏡面度Mが95以上の非常に平滑なベルトの場合、ブレードとベルトとの接触面積の増加に伴う摩擦力が上昇するのに加え、温度が高いことによって、ブレードの弾性率が他の環境に比べて低くなることで、ブレード自身が変形しやすくなり、更に、高湿度下であるため、トナーやトナー由来のベルト上の異物が水分を吸収することで流動性が低下し、ブレードで異物をかきとる際に局所的に過剰な力が発生し、撥油性(10°≦θ<25°)の効果を上回ってブレードメクレが発生したと考えられる。
【0045】
但し、n−ドデカンの接触角が25°≦θ≦45°の場合には、ベルト表面の鏡面度や試験環境に関係なく、鏡面度Mが95以上のベルトに対しても、ブレードメクレに対して十分有効であることが確認された。
【0046】
一方、鏡面度が低い場合にトナーすり抜けが発生し易い理由について以下に説明する。
【0047】
鏡面度が低いとクリーニングブレードがベルトに対して均一な線圧を確保することが難しく、トナーがすり抜けやすい状態になる。またトナーの粒径が小さくなるにつれて、先に挙げた理由で高画像品質を得やすくなるが、比表面積が大きくなるために、単位重量当りのトナーのベルトに対する付着力が大きくなり、ベルトのクリーニング性が悪化する恐れがある。更にトナーの粒径が小さくなるにつれて流動性も悪化するため、これを解消するためにより多くの添加剤を必要とするが、鏡面度が低いほどベルト表面にトナーおよびトナー由来の残留物が残留しやすくなり、すり抜けやすくなる。
【0048】
以上の結果から、ベルト表面に対するn−ドデガンの接触角θが10°≦θ、好ましくは25°≦θ≦45°以下である場合には、ベルト表面の鏡面度が大きく、ブレードとベルトとの接触面積が大きい場合であっても、ベルトとウレタンコム製ブレードとの間に発生する摩擦力が、ブレードのメクレを引き起こす際に必要な応力よりも小さくなる。また、ベルト表面の鏡面度Mが60以上である場合には、クリーニングに必要なベルトとブレードとの接触面積が確保できるため、鏡面度Mが60以上の平滑な表面を有するベルトに対しては、n−ドデカンの接触角の大小に関わらず、トナーやトナー由来の残留物を効果的に際去することが可能になる。更に、接触角θが10°以上であることによって、n−ドデカンと類似したパラフィン系のwaxである油脂成分を含有するトナーの離形性も良好になり、結果としてブレードによってベルト上に残存したトナーを効果的にクリーニングすることが可能になる。
【0049】
以上のように、図4に示すように、クリーニングブレードのメクレ傾向は、n−ドデカンの接触角が大きいほど、或いは鏡面度が小さいほどメクレ難くなり、トナーのすり抜け傾向は、鏡面度が大きいほどすり抜け難くなる。
【0050】
従って、図4に示す評価結果から、n−ドデカンの接触角θが10°≦θ≦45°であるとき、常温常湿環境下、低温低湿環境下においては、鏡面度Mが60≦M≦200であればブレードめくれ及びすり抜けがともに発生しないため、画像形成装置の使用条件によっては、n−ドデカンの接触角θ及び鏡面度Mの範囲を上記範囲として良い。
【0051】
更に、画像形成装置の使用条件を問わずにブレードめくれ及びすり抜けを発生しないようにする必要がある場合は、鏡面度Mが60≦M<95であるときは、n−ドデカンの接触角θを10°≦θ≦45°とし、鏡面度Mが95≦M≦<200であるときは、n−ドデカンの接触角θを25°≦θ≦45°とすることが好ましい。
【0052】
以上のように、ベルト表面に対するn−ドデカンの接触角θが10°≦θであり、且つ鏡面度Mが60≦M<95のベルトを使用することで、ベルトとブレードの付着力を低減させ、ベルトとブレード間の摩擦力を抑え、ブレードのメクレを抑制することが可能になる。さらに、試験データからわかるように、n−ドデカンの接触角θを25°≦θ≦45°にすることで、環境に関係なく、鏡面度Mが95以上の非常に平滑な表面性を有するベルトに対しても、クリーニングブレードメクレを抑制することが出来る。これによって、ブレードのメクレに起因するクリーニング不良を防止することができる。
【0053】
また、常温常湿環境下、低温低湿環境下においては、n−ドデカンの接触角θを10°以上にすることで、ブレードの故障の発生を抑制し、且つ鏡面度Mが60以上のベルトを使用することによって、クリーニングに必要なブレードとベルトとの接触面積を確保できるため、ベルト上に残存したトナーをブレードによって効果的にクリーニングすることも可能となる。
【0054】
また、鏡面度Mが60≦M<95であるときは、n−ドデカンの接触角θを10°≦θ≦45°とし、鏡面度Mが95≦M≦<200であるときは、n−ドデカンの接触角θを25°≦θ≦45°とすることによって、画像形成装置の使用条件を問わずにブレードめくれ及びすり抜けの発生を抑制することができる。
【0055】
実施の形態2.
本実施の形態の無端状のベルトについて説明する。
本実施の形態のベルトは、例えば前記した実施の形態1で説明した画像形成装置1に装着して使用するが、この場合、ベルト22以外は前記した画像形成装置1と同じ構成であるため、必要に応じて画像形成装置1を参照する。
【0056】
前記した実施の形態1で説明したベルトの製造方法に基づいて、添加剤を樹脂固形分に対して、n−ドデカンの接触角θが10°以上となるように、0.05重量%〜0.40重量%添加し、鏡面度が100となるベルトを作製した。その時の添加剤の添加量と作製されたベルトの接触角θの関係を図6に示す。図6に示されるように、添加量を0.17重量部以上に増量させてもn−ドデカンの接触角θに有意な変化は認められず、n−ドデカンの接触角は、25°≦θ≦45°で安定することが確認された。
【0057】
図5は、ベルトによる感光体ドラム26への汚染の影響を試験するための保管試験治具151の概略図であり、画像形成装置1で使用される感光体ドラム51と転写ローラ26が保持部152に着脱自在に装着可能に構成されている。80mm×80mmに裁断した、撥油性付与剤(撥油成分)の添加量の異なるベルト122a,122bを、保管試験治具151に装着された転写ローラ26と感光体ドラム51の間に、一定のテンションとなるようにはさみ込み、暗室にて温度70℃/湿度90%の環境下に96時間静置する保管試験を行う。その際、温湿度の昇降時にベルト122a,122b、感光体ドラム51、及び転写ローラ26が結露しないように留意した。比較例として、撥油成分を添加していないベルト122bも同様に試験を行った。
【0058】
保管試験終了後、温度25℃/湿度50%の環境の暗室に24時間静置して環境に馴染ませた。その後、ベルト122a,122b、感光体ドラム51、転写ローラ26を保管試験治具151から取り外し、取り外した感光体ドラム51を図1に示す画像形成装置1の例えばシアン(C)用のトナー画像形成部14に装着し、これを装着した画像形成装置1にて、100%ベタ及びハーフトーンの画像を10枚連続で印字する汚染試験を実行し、印字した画像を評価した。この評価を添加量の異なる(比較例として添加量0の場合も含め)複数のベルト122a,122bに対して行ない、添加量の異なるベルトによる感光体ドラム51への汚染性を評価した。添加量差異による感光体汚染の判定は、印字した画像上に、保管試験を行った際の感光体ドラム51のベルト122a,122bとの接点部で、白抜け、または黒スジが発生する度合いを「○」、「×」で判定した。
【0059】
表1に汚染試験の評価結果を示す。
尚、「○」は、白抜けや黒スジが発生していないこと、すなわち試験したベルト122a,122bが感光体ドラム51を汚染していないことを示し、「×」は、白抜けや黒スジが発生するものの、その汚染は、印字2枚目からは消失していることを示している。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の評価結果から明らかなように、添加量0.30重量%以下のベルト122a,122bを当接させた場合、画像上に汚染痕は発生せず、過酷な環境下においても、ベルトが感光体ドラム51に対して影響を及ぼさないことが確認された。一方で、添加量が0.40重量%のベルト122a,122bを当接させた場合、その程度は小さいものの、画像上に白抜けおよび黒スジの発生が確認された。この現象は、高温高湿環境下に長時間暴露されたことによって、ベルト内に過剰に添加された撥油成分が、ベルト内部から外側へブリードし、感光体ドラム51の表面に移行したことを示唆している。
【0062】
即ち、撥油成分が感光体51の表面に付着することで、非付着部との帯電量に差が生じ、結果として画像不良を引き起こしたと考えられる。また、この現象は、常にベルトと一定圧力下で接触しているクリーニングブレード24との間にも起こりえることから、ブレード接点部に付着した撥油成分が、耐刷経時において、クリーニングによってかきとったトナーを凝集、堆積させ、クリーニング不良を誘引する原因にもなる。
【0063】
以上のことから、画像形成装置1に使用するベルト22を、撥油性付与剤(撥油成分)の添加量が0.05重量部以上、0.30重量部以下にすることで、n−ドデカンの接触角θを10°以上を実現し、更に過酷な環境下においても、感光体ドラム51を汚染することなく、良好な画像を長期に亘って、維持することが可能になる。
【0064】
更に、撥油成分を0.17重量部以上添加しても、接触角に有意な変化は見られないので、添加量を0.17重量部以下の所定の範囲に設定することで、感光体ドラム51の汚染などの不良を招くことなく、n−ドデカンの接触角θを25°≦θ≦45°の範囲で安定して製造することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
尚、前記した実施の形態では、本願発明を電子写真プリンタに採用した例を示したが、これに限定されるものではなく、他にも無端状ベルトを適用したMFP(Multi Function Printer)やファクシミリ、複写機等にも利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 画像形成装置、 11 トナー画像形成部、 12 トナー画像形成部、 13 トナー画像形成部、 14 トナー画像形成部、 20 ドライブローラ、 20a 蛇行防止ガイド、 21 テンションローラ、 21a 蛇行防止ガイド、 22 無端状ベルト、 23 給紙カセット、 24 クリーニングブレード、 25 記録用紙、 26 転写ローラ、 30 定着装置、 31 搬送ローラ、 32 搬送ローラ、 33 給紙ローラ、 34 排出部、 51 感光体ドラム、 52 帯電部、 53 露光部、 54 現像部、 56 クリーニングブレード、 101 液滴、 122a ベルト、 122b ベルト、 151 保管試験治具、 152 保持部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトの表面に当接して前記ベルトの付着物を除去するクリーニング部材を備えた画像形成装置に備えられる前記ベルトにおいて、
前記表面に対するn−ドデカンの接触角θが10°≦θ≦45°であり、
前記表面の鏡面度が60≦M≦200であることを特徴とするベルト。
【請求項2】
前記鏡面度Mが60≦M<95の場合には前記接触角θを10°≦θ≦45°とし、前記鏡面度Mが95≦M≦200の場合には前記接触角θを25°≦θ≦45°とすることを特徴とする請求項1記載のベルト。
【請求項3】
撥油成分の添加量が、ベルト樹脂固形分に対して0.05重量部以上、且つ0.30重量部以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のベルト。
【請求項4】
前記撥油成分の添加剤としてフルオロアルキル基を主鎖とする添加剤を用いたことを特徴とする請求項3記載のベルト。
【請求項5】
母材がポリアミドイミドであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のベルト。
【請求項6】
無端状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のベルト。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載のベルトと、
該ベルトの表面に当接して該ベルトの付着物を除去するクリーニング部材と
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
前記クリーニング部材が弾性部材からなることを特徴とする請求項7記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記弾性部材がウレタンゴムであることを特徴とする請求項8記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記付着物がトナーであることを特徴とする請求項7乃至9の何れか1項に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−197121(P2011−197121A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61290(P2010−61290)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591044164)株式会社沖データ (2,444)
【Fターム(参考)】