説明

ベーンポンプ

【課題】空気が含まれる作動流体に対する吸込性能が維持されるベーンポンプを提供すること。
【解決手段】流体圧供給源として用いられるベーンポンプ1であって、ベーン室7が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて、作動流体に含まれる空気をベーン室7から逃がすベーン室ドレン通路12と、を備え、このベーン室ドレン通路12は、ベーン室7を画成するロータ外周部20とロータ端面2cとに開口する複数のロータ側ドレン通路13と、ロータ端面2cが摺接する部位に開口するケーシング側ドレン通路15と、ロータ2の回転に伴ってロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とが互いに対峙して連通する前にロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とを連通する先行連通路40とによって構成されるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧供給源として用いられるベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のベーンポンプは、ロータが回転するのに伴って複数のベーンが往復動してベーン室が拡縮し、ベーン室が拡張する吸込領域にて作動油が吸込ポートからベーン室に吸い込まれ、ベーン室が収縮する吐出領域にて作動油がベーン室から吐出ポートへと吐出される。
【0003】
この種のベーンポンプは、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−266978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のベーンポンプにあっては、作動油が回転体に触れて撹拌され、作動油中に空気(気泡)が含まれる運転状態において、作動油中の空気含有量が増加すると、ベーンポンプのポンプ作用が損なわれる可能性があった。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、空気が含まれる作動流体に対する吸込性能が維持されるベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、流体圧供給源として用いられるベーンポンプであって、回転駆動されるロータと、このロータに放射状に開口する複数のスリットと、このスリットから摺動可能に突出する複数のベーンと、このベーンの先端を摺接させる内周カム面と、この内周カム面とベーンとロータとの間に画成されるベーン室と、このベーン室が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて、ベーン室に連通するベーン室ドレン通路と、を備え、ロータは、ベーン室を画成するロータ外周部と、その回転中心軸に直交するロータ端面と、を有し、ベーン室ドレン通路は、ロータ外周部とロータ端面とに開口する複数のロータ側ドレン通路と、ロータ端面が摺接する部位に開口するケーシング側ドレン通路と、ロータの回転に伴ってロータ側ドレン通路とケーシング側ドレン通路とが互いに対峙して連通する前にロータ側ドレン通路とケーシング側ドレン通路とを連通する先行連通路と、を有するものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、ベーン室に供給される作動流体に空気が含まれる場合には、ベーン室が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて、作動流体の一部と共に圧縮された空気がベーン室からベーン室ドレン通路を通ってベーン室の外側へと逃がされる。これにより、ベーン室によって作動流体と共に圧縮された空気が吸込領域へと運ばれることを抑えられ、吸込領域において作動流体の吸込みが円滑に行われ、ベーンポンプの吸込性能が維持される。
【0009】
ロータの回転に伴って、ロータ側ドレン通路とケーシング側ドレン通路とが先行連通路を介して連通した後に、ロータ側ドレン通路とケーシング側ドレン通路とが互いに対峙して連通して、ベーン室ドレン通路の開口面積が段階的に増加することにより、ベーン室の圧力が緩やかに低下し、ベーンポンプに振動及び騒音が生じることを抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態を示すベーンポンプのポンプカバーを外した状態を示す正面図。
【図2】同じくサイドプレートの正面図。
【図3】同じくポンプカバーの正面図。
【図4】同じくロータの正面図。
【図5】同じくロータの一部を拡大した正面図。
【図6】同じくベーンポンプの作動状態を示す正面図。
【図7】本発明の他の実施形態を示すロータの正面図。
【図8】本発明の他の実施形態を示すポンプカバーの正面図。
【図9】本発明の他の実施形態を示すサイドプレートの一部を拡大した正面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1〜3に示すベーンポンプ1は、車両に搭載される油圧機器、例えば、変速機やパワーステアリング装置等の油圧供給源として用いられるものである。
【0013】
ベーンポンプ1は、作動流体として、作動油(オイル)を用いるが、作動油の代わりに例えば水溶性代替液等の作動液を用いてもよい。
【0014】
ベーンポンプ1は、駆動シャフト9の端部にエンジン(図示せず)の動力が伝達され、駆動シャフト9に連結されたロータ2が回転する。ロータ2は、各図において矢印で示す方向に回転する。
【0015】
駆動シャフト9は、ポンプボディ10とポンプカバー50に回転自在に支持される。ポンプボディ10には、ロータ2、カムリング4、及びサイドプレート30等が収容されるポンプ収容凹部10aが形成される。ポンプボディ10にはポンプカバー50が締結され、このポンプカバー50によってポンプ収容凹部10aが封止される。
【0016】
ポンプボディ10のポンプ収容凹部10aの底部とサイドプレート30の間には図示しない高圧室が画成される。この高圧室に導かれるポンプ吐出圧によってサイドプレート30がカムリング4の後側の端面に押し付けられる。
【0017】
カムリング4とロータ2の間には複数のベーン3が介装される。ロータ2には、複数のスリット5が所定間隔をもって放射状に形成される。ベーン3は、矩形の板状をしており、スリット5に摺動自在に挿入される。
【0018】
スリット5の奥側には、ベーン3の基端部との間に背圧室6が画成され、この背圧室6にポンプ吐出圧が導かれる。ベーン3は、その基端部を押圧する背圧室6の圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力とによって、スリット5から突出する方向に付勢され、その先端部がカムリング4の内周カム面4aに摺接する。
【0019】
カムリング4は、内周カム面4aが略長円形状をした環状の部材である。ロータ2が1回転するのに伴って、内周カム面4aに追従する各ベーン3が2回往復動する。
【0020】
カムリング4の内側には、カムリング4の内周カム面4aと、ロータ2の外周と、隣り合うベーン3とによって複数のベーン室7が画成される。
【0021】
図2に示すように、ベーンポンプ1は、ベーン3が1回目の往復動をする第一の吸込領域及び第一の吐出領域と、ベーン3が2回目の往復動をする第二の吸込領域及び第二の吐出領域領域とに分けられる。第一、第二の吸込領域では、ロータ2の回転に伴ってベーン室7の容積が拡張する。第一、第二の吐出領域では、ロータ2の回転に伴ってベーン室7の容積が収縮する。
【0022】
このように、ベーンポンプ1は、二つの吸込領域及び二つの吐出領域を有するが、これに限らず、一つの吸込領域及び一つの吐出領域を有する構成としてもよく、また、三つ以上の吸込領域及び三つ以上の吐出領域を有する構成としてもよい。
【0023】
ロータ2は、その回転中心軸に直交する二つのロータ端面2cを有する。図1、図4に示す前側のロータ端面は、ポンプカバー50の端面55に摺接する。後側のロータ端面2cは、サイドプレート30の端面35に摺接する。
【0024】
図2に示すように、サイドプレート30の端面35には、第一の吸込領域に第一の吸込ポート31が開口し、第一の吐出領域に第一の吐出ポート32が開口し、第二の吸込領域に第二の吸込ポート33が開口し、第二の吐出領域に第二の吐出ポート34が開口する。
【0025】
図3に示すように、ポンプカバー50におけるロータ2が摺接する端面55には、第一の吸込領域に第一の吸込ポート51が開口し、第一の吐出領域に第一の吐出ポート52が開口し、第二の吸込領域に第二の吸込ポート53が開口し、第二の吐出領域に第二の吐出ポート54が開口する。
【0026】
第一の吸込ポート31、第二の吸込ポート33、第一の吸込ポート51、第二の吸込ポート53は、吸込通路25を介して図示しないタンクに連通し、タンクからの作動油が導かれる。
【0027】
第一の吐出ポート32、第二の吐出ポート34は、図示しないポンプ吐出通路を介して油圧機器に連通し、第一の吐出ポート32、第二の吐出ポート34から吐出される加圧作動油が油圧機器へと供給される。
【0028】
図4に示すように、ロータ2のベーン室7を画成するロータ外周部20は、各スリット5が開口するロータ外周凸部24と、このロータ外周凸部24に対して凹状に窪むロータ外周えぐり部21を有する。
【0029】
ロータ外周凸部24は、ロータ2の外周から山形に突出する部位であり、その中央部にスリット5の一端が開口される。
【0030】
ロータ外周凸部24は、ロータ2の回転中心軸を中心とする円筒面状に形成され、後述する吸込領域と吐出領域間の遷移領域においてカムリング4の内周カム面4aに所定の最小間隙を持って対峙する(図6参照)。
【0031】
ロータ外周えぐり部21は、隣り合うロータ外周凸部24の間で凹状に窪む部位であり、各ロータ外周凸部24から傾斜して延びる傾斜部22と、この傾斜部22からロータ2の回転中心軸を中心とする円筒面状に延びる底部23とを有する。
【0032】
ベーン室7は、ロータ外周えぐり部21によって画成される部位が、吸込ポート31、33、51、53に対峙することによって、吸込ポート31、33、51、53に対する開口面積が増やされる。これにより、ロータ2の高速回転時にも、作動油が吸込ポート31、33、51、53からベーン室7へと円滑に吸込まれ、キャビテーション等の発生を抑えられる。
【0033】
ところで、例えば変速機ケース内部の作動油が回転体に触れて撹拌され、作動油中に空気(気泡)が含まれる運転状態において、作動油中の空気含有量が増加すると、ベーンポンプ1のポンプ作用が損なわれる可能性があった。
【0034】
特に、ロータ2がロータ外周えぐり部21を有するベーンポンプ1にあっては、吐出領域にて圧縮された空気を含有する作動油が、吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にてロータ外周えぐり部21によって画成されるベーン室7に一旦閉じ込められた後に、吸込領域にて開放され、作動油に含有されていた空気が膨張するため、吸込ポート31、33、51、53における空気の含有率が増大し、ベーンポンプ1のポンプ作用が損なわれる可能性があった。
【0035】
これに対処して本発明は、ベーン室7が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて、ベーン室7の内側とベーン室7の外側とを連通するベーン室ドレン通路12を備え、遷移領域にてベーン室7に閉じ込められた圧縮された空気を含む作動油をベーン室ドレン通路12を通して外部へ逃がす構成とする。
【0036】
ベーン室ドレン通路12は、ロータ外周部20(ロータ外周えぐり部21)と前側のロータ端面2cとに開口して各ベーン室7に連通する複数のロータ側ドレン通路13と、ポンプカバー50の端面55におけるロータ2が摺接する端面55に開口するケーシング側ドレン通路15と、ロータ2の回転に伴ってロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とが互いに対峙して連通する前にロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とを連通する先行連通路40とによって構成される。
【0037】
図4は、ロータ2を前側から見た正面図である。ロータ2の前側のロータ端面2cには、ベーン室7と同数のロータ側ドレン通路13が形成される。
【0038】
ロータ側ドレン通路13は、ロータ端面2cに開口するエア逃がし溝14によって画成される。
【0039】
エア逃がし溝14は、ロータ2の周方向について等間隔をもってロータ2の回転径方向に延びる放射状に形成される。
【0040】
エア逃がし溝14の一端は、ロータ外周部20(ロータ外周えぐり部21の底部23)に開口し、ロータ側ドレン通路13をベーン室7に連通させる。
【0041】
先行連通路40は、ロータ端面2cに開口する絞り溝41によって画成される。この絞り溝41は、その基端がエア逃がし溝14に開口し、その先端が矢印で示すようにロータ2の回転方向について前方に配置される。
【0042】
図5の(a)図は、ロータ端面2cのロータ側ドレン通路13が開口する部位を拡大した正面図である。絞り溝(ノッチ)41は、その断面形状が略三角形をして、その断面積がその基端から先端にかけて次第に減少するテーパ状に形成される。
【0043】
絞り溝41の断面積は、その基端で最大となる。絞り溝41の最大断面積は、ロータ側ドレン通路13(エア逃がし溝14)の最大断面積及びケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)の最大断面積より小さく設定される。これにより、ベーン室ドレン通路12を通る作動油の流れは、先行連通路40(絞り溝41)を通る過程で絞られる構成とする。
【0044】
図3に示すように、ケーシング側ドレン通路15は、ポンプカバー50の端面55に開口する二つのエア逃がし穴16によって画成される。このエア逃がし穴16はベーンポンプ1の外部に連通している。
【0045】
一つのエア逃がし穴16は、第二の吐出領域と第一の吸込領域の境界部に開口し、ベーン室7が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて吐出ポート34、54に連通せず、かつ吸込ポート31、51に連通しないときに、各エア逃がし溝14と対峙して連通する構成とする。
【0046】
一つのエア逃がし穴16は、第一の吐出領域と第二の吸込領域の境界部に開口し、ベーン室7が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて吐出ポート32、52に連通せず、かつ吸込ポート33、53に連通しないときに、各エア逃がし溝14と対峙して連通する構成とする。
【0047】
図6の(a)図は、一つのベーン室7が第二の吐出領域にある作動状態を示す。このとき、ベーン室7は、吐出ポート34と連通し、ロータ側ドレン通路13(エア逃がし溝14)は、ケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)に連通せず、ロータ外周えぐり部21によって画成されるベーン室7に第二の吐出領域にて圧縮された空気を含む作動油が充填される。
【0048】
上記した図6の(a)図は、先行連通路40(絞り溝41)が、ケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)に連通する前の作動状態を示している。この作動状態から矢印で示すようにロータ2が回転するのに伴って、先行連通路40(絞り溝41)が、ケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)に連通すると、先行連通路40(絞り溝41)を介してベーン室ドレン通路12が開通する。こうしてベーン室ドレン通路12が開通すると、ベーン室7にて圧縮された空気を含む作動油が、ロータ側ドレン通路13(エア逃がし溝14)と先行連通路40(絞り溝41)とケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)を通ってベーンポンプ1の外部へと流出し始める。この状態から矢印で示すようにロータ2が回転するのに伴って、先行連通路40(絞り溝41)がケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)に対峙して連通する開口断面積が次第に増加することにより、ベーン室7から先行連通路40(絞り溝41)を通って流出する作動油の流量が次第に増加し、ベーン室7の圧力が徐々に低下する。
【0049】
こうして、ベーン室ドレン通路12が先行連通路40(絞り溝41)を介して開通することにより、ベーン室7の圧力が緩やかに低下し、ベーンポンプ1の振動が抑えられる。
【0050】
図6の(b)図は、矢印で示すようにロータ2が回転するのに伴って、上記のベーン室7が第二の吐出領域と第一の吸込領域の境界部にある作動状態を示す。このとき、ベーン室7は、ベーン3によって吐出ポート34との連通が遮断され、ロータ側ドレン通路13(エア逃がし溝14)が、ケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)に対峙して連通する。これにより、ベーン室7にて圧縮された空気を含む作動油が、ロータ側ドレン通路13(エア逃がし溝14)とケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)を通ってベーンポンプ1の外部へと流出し、ベーン室7の圧力が大気圧近くまで低下する。
【0051】
上記の図6の(b)図に示す作動状態において、作動油がこれに働く遠心力によってベーン室7の外周側に集まり、作動油中に含まれる空気(気泡)がベーン室7の内周側に集まる。エア逃がし溝14の一端は、ロータ外周えぐり部21の底部23に開口するため、ベーン室7の内周側に集まった空気がエア逃がし溝14に流入することが促され、作動油中に含まれる空気を効率よくベーン室ドレン通路12を通して排出することができる。
【0052】
さらにロータ2が回転するのに伴って、上記のベーン室7が第一の吸込領域の境界部に移動すると、ベーン室7は、ロータ側ドレン通路13(エア逃がし溝14)とケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)の連通が遮断され、ベーン室ドレン通路12が閉塞されるとともに、吸込ポート31、51に連通する。このとき、ベーン室7には空気含有率の低い作動油が残されており、ベーン室7によって作動油と共に圧縮された空気が第一の吸込領域へと運ばれることが抑えられる。ベーン室7の圧力が大気圧近くまで低下しているため、第一の吸込領域にて作動油中の空気の膨張が抑えられ、作動油の吸込みが円滑に行われ、ベーンポンプ1の吸込性能が維持される。
【0053】
このとき、第一の吐出領域から第二の吸込領域へと移動するベーン室7においても、同様にベーン室ドレン通路12が開通し、ベーン室7にて圧縮された空気を含む作動油がベーンポンプ1の外部へと流出し、第二の吸込領域にて作動油の吸込みが円滑に行われる。
【0054】
ベーンポンプ1は、例えば変速機ケース内に収容されており、ベーン室ドレン通路12から流出する作動油は変速機ケース内に戻されて貯留される。
【0055】
本実施形態では、ロータ2がロータ外周えぐり部21を有することにより、ベーン室7の吸込ポート31、33、51、53に対する開口面積が確保され、ロータ2の高速回転時にも、ベーンポンプ1の吸込性能が確保される。
【0056】
ロータ2がロータ外周えぐり部21を有することにより、ベーン室7の容積が大きくなるため、ベーン室7に残る作動流体の量が増えるが、空気を含む作動流体がベーン室7からベーン室ドレン通路12を通って逃がされることにより、圧縮された空気を含む作動流体が吸込領域へと運ばれることを抑えられるため、ベーンポンプ1の吸込性能が維持される。
【0057】
なお、本発明は、ロータ外周えぐり部21を持つロータ2を備えるベーンポンプ1に限らず、ロータ外周えぐり部を持たない円盤状のロータを備えるベーンポンプにも適用できる。
【0058】
以下、本実施形態の要旨と作用、効果を説明する。
【0059】
本実施形態では、流体圧供給源として用いられるベーンポンプ1であって、回転駆動されるロータ2と、このロータ2に放射状に開口する複数のスリット5と、このスリット5から摺動可能に突出する複数のベーン3と、このベーン3の先端を摺接させる内周カム面4aと、この内周カム面4aとベーン3とロータ2との間に画成されるベーン室7と、このベーン室7が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて、ベーン室7に連通するベーン室ドレン通路12と、を備え、ロータ2は、ベーン室7を画成するロータ外周部20と、その回転中心軸に直交するロータ端面2cと、を有し、ベーン室ドレン通路12は、ベーン室7を画成するロータ外周部20とロータ端面2cとに開口する複数のロータ側ドレン通路13と、ロータ2のロータ端面2cが摺接する部位(ポンプカバー50の端面55)に開口するケーシング側ドレン通路15と、ロータ2の回転に伴ってロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とが互いに対峙して連通する前にロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とを連通する先行連通路40とによって構成される。
【0060】
上記構成に基づき、ベーン室7に供給される作動流体に空気が含まれる場合には、ベーン室7が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて、作動流体の一部と共に圧縮された空気がベーン室7からベーン室ドレン通路12を通ってベーン室7の外側へと逃がされる。これにより、ベーン室7にて圧縮された空気を含有する作動流体が吸込領域へと運ばれることを抑えられ、吸込領域において作動流体の吸込みが円滑に行われ、ベーンポンプ1の吸込性能が維持される。
【0061】
ロータ2の回転に伴って、ロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とが先行連通路40を介して連通した後に、ロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とが互いに対峙して連通する。こうして、ベーン室ドレン通路12の開口面積が段階的に増加することにより、ベーン室7の圧力が緩やかに低下し、ベーンポンプ1に振動及び騒音が生じることを抑えられる。
【0062】
本実施形態では、ロータ側ドレン通路13は、ロータ外周部20とロータ端面2cとに渡って開口するエア逃がし溝14によって構成され、先行連通路40は、エア逃がし溝14とロータ端面2cとに渡って開口する絞り溝41によって構成画成される。
【0063】
上記構成に基づき、ロータ2の回転に伴ってエア逃がし溝14が絞り溝41を介してケーシング側ドレン通路15に連通することにより、ベーン室ドレン通路12の開口面積が段階的に増加し、ベーン室7の圧力が緩やかに低下する。
【0064】
絞り溝41は、ロータ2の成型時に用いられる型によって一体形成することが可能であり、製品のコストアップを抑えられる。
【0065】
図5の(b)図は、他の実施形態として、ロータ端面2cのロータ側ドレン通路13が形成される部位を拡大した正面図である。この実施形態では、ロータ端面2cに開口する絞り溝41と絞り溝46が形成され、両者がエア逃がし溝14を挟んで互いに対向するように配置される。絞り溝46は、その基端がエア逃がし溝14に開口し、その先端が矢印で示すようにロータ2の回転方向について後方に配置される。
【0066】
絞り溝46は、ロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とが互いに対峙して連通する角度範囲を超えてロータ2が回転するのに伴ってロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とを連通する延長連通路45を構成する。
【0067】
上記構成に基づき、ロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とが互いに対峙して連通する角度範囲を超えてロータ2が回転すると、絞り溝46がロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とを連通する。こうして、ロータ2の回転に伴って、ベーン室ドレン通路12の開口面積が段階的に減少することにより、ベーン室7の急激な圧力変動が抑えられ、ベーンポンプ1に振動及び騒音が生じることを抑えられる。
【0068】
他の実施形態として、図7に示すように、ロータ側ドレン通路13を、ロータ外周部20とロータ端面2cとに開口する穴状のエア逃がし通孔18によって画成してもよい。
【0069】
エア逃がし通孔18は、一方の開口端18aがロータ外周えぐり部21の底部23に開口し、その他方の開口端18bがロータ端面2cに開口する。
【0070】
先行連通路40は、ロータ端面2cに開口する絞り溝(ノッチ)42によって画成される。この絞り溝42は、その基端がエア逃がし通孔18に開口し、その先端が矢印で示すようにロータ2の回転方向について前方に配置される。
【0071】
ベーン室7が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて、エア逃がし通孔18の開口端18bが絞り溝42を介してポンプカバー50のエア逃がし穴16に連通する。
【0072】
さらに他の実施形態として、二つのケーシング側ドレン通路15がロータ2の前後に設けられる構成としてもよい。
【0073】
具体的には、一方のケーシング側ドレン通路15は、サイドプレート30の端面35に開口するエア逃がし穴17によって構成される。他方のケーシング側ドレン通路15は、ポンプカバー50の端面55に開口するエア逃がし穴16によって構成される。
【0074】
この場合には、図8に示すように、ロータ側ドレン通路13をロータ外周部20と二つのロータ端面2cとに渡ってスリット状に開口するエア逃がしスリット19によって画成してもよい。
【0075】
このエア逃がしスリット19は、ロータ外周えぐり部21の底部23に開口する開口部19aと、二つのロータ端面2cにそれぞれ開口する開口部19bとを有する。
【0076】
先行連通路40は、二つのロータ端面2cにそれぞれ開口する絞り溝(ノッチ)43によって画成される。この絞り溝43は、その基端がエア逃がしスリット19に開口し、その先端が矢印で示すようにロータ2の回転方向について前方に配置される。
【0077】
ベーン室7が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて、エア逃がしスリット19の開口部19bが絞り溝43を介してサイドプレート30のエア逃がし穴17とポンプカバー50のエア逃がし穴16のそれぞれに連通する。
【0078】
こうしてロータ2の前後に二つのケーシング側ドレン通路15が設けられることにより、空気を含む作動流体が速やかにベーンポンプ1の外部へと逃がされる。
【0079】
なお、エア逃がしスリット19にかえてロータ2の前後の端面2cに開口する複数対のエア逃がし溝14、エア逃がし通孔18を形成してもよい。
【0080】
遷移領域の角度範囲が小さいため、エア逃がしスリット19、エア逃がし通孔18は切削加工によって形成して、加工精度を確保する必要がある。これに対して、エア逃がし溝14は、溝の開口幅が小さくても、溝の深さが小さいため、ロータ2の成型時に用いられる型によって一体形成することが可能であり、製品のコストアップを抑えられる。
【0081】
他の実施形態として、図2に2点鎖線でも示すように、ケーシング側ドレン通路15として、サイドプレート30の端面35に開口するエア逃がし穴17を形成してもよい。この場合に、ケーシング側ドレン通路15は、サイドプレート30の端面35に開口する二つのエア逃がし穴17と、このエア逃がし穴17をベーンポンプ1の外部に連通させるポンプボディ10の通孔(図示せず)とによって構成される。この場合には、ロータ側ドレン通路13は、ロータ2のサイドプレート30に摺接する後側のロータ端面2cに開口する構成とする。
【0082】
図9の(a)図は、サイドプレート30の端面35の一部を拡大した正面図である。この実施形態では、サイドプレート30の端面35に先行連通路40として絞り溝(ノッチ)47が形成される。この絞り溝47は、その基端がエア逃がし穴17に開口し、その先端が矢印で示すようにロータ2の回転方向について前方に配置される。
【0083】
上記構成に基づき、ロータ2の回転に伴って、ロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とが絞り溝47を介して連通した後に、ロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15のエア逃がし穴17とが互いに対峙して連通する。こうして、ケーシング側ドレン通路15の開口面積が段階的に増加することにより、ベーン室7の圧力が緩やかに低下し、ベーンポンプ1に振動及び騒音が生じることを抑えられる。
【0084】
図9の(b)図は、他の実施形態として、サイドプレート30の端面35の一部を拡大した正面図である。この実施形態では、サイドプレート30の端面35に先行連通路40として絞り溝(ノッチ)47が形成されるとともに、延長連通路45として絞り溝(ノッチ)48が形成される。絞り溝48は、その基端がエア逃がし穴17に開口し、その先端が矢印で示すようにロータ2の回転方向について後方に配置される。絞り溝47と48は、エア逃がし穴17を挟んで互いに対向するように配置される。
【0085】
上記構成に基づき、ロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とが互いに対峙して連通する角度範囲を超えてロータ2が回転すると、絞り溝48がロータ側ドレン通路13とケーシング側ドレン通路15とを連通する。こうして、ロータ2の回転に伴って、ベーン室ドレン通路12の開口面積が段階的に減少することにより、ベーン室7の急激な圧力変動が抑えられ、ベーンポンプ1に振動及び騒音が生じることを抑えられる。
【0086】
他の実施形態として、ポンプカバー50の端面55にケーシング側ドレン通路15(エア逃がし穴16)に開口する絞り溝(ノッチ)を形成し、これによって先行連通路40、延長連通路45を構成してもよい。
【0087】
他の実施形態として、絞り溝41〜44、46〜48は、その断面積がその基端から先端にかけて次第に減少するノッチに限らず、その断面積がその基端から先端にかけて略一定のU溝状に形成される構成としてもよい。
【0088】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のベーンポンプは、車両に搭載される油圧機器に限らず、例えば建設機械、作業機械、他の機械、設備等の負荷を駆動する流体圧供給源として利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 ベーンポンプ
2 ロータ
2c ロータ端面
3 ベーン
4 カムリング
4a 内周カム面
5 スリット
6 背圧室
7 ベーン室
12 ベーン室ドレン通路
13 ロータ側ドレン通路
14 エア逃がし溝
15 ケーシング側ドレン通路
16、17 エア逃がし穴
18 エア逃がし通孔
19 エア逃がしスリット
20 ロータ外周部
21 ロータ外周えぐり部
24 ロータ外周凸部
30 サイドプレート
40 先行連通路
41〜44 絞り溝
45 延長連通路
46〜48 絞り溝
50 ポンプカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧供給源として用いられるベーンポンプであって、
回転駆動されるロータと、
前記ロータに放射状に開口する複数のスリットと、
前記スリットから摺動可能に突出する複数のベーンと、
前記ベーンの先端を摺接させる内周カム面と、
前記内周カム面と前記ベーンと前記ロータとの間に画成されるベーン室と、
前記ベーン室が吐出領域から吸込領域へと遷移する遷移領域にて、前記ベーン室に連通するベーン室ドレン通路と、を備え、
前記ロータは、
前記ベーン室を画成するロータ外周部と、
その回転中心軸に直交するロータ端面と、を有し、
前記ベーン室ドレン通路は、
前記ロータ外周部と前記ロータ端面とに開口する複数のロータ側ドレン通路と、
前記ロータ端面が摺接する部位に開口するケーシング側ドレン通路と、
前記ロータの回転に伴って前記ロータ側ドレン通路と前記ケーシング側ドレン通路とが互いに対峙して連通する前に前記ロータ側ドレン通路と前記ケーシング側ドレン通路とを連通する先行連通路と、を有することを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記先行連通路は、前記ロータ側ドレン通路と前記ロータ端面とに渡って開口する絞り溝によって画成されることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記先行連通路は、前記ケーシング側ドレン通路と前記ロータ端面が摺接する部位とに渡って開口する絞り溝によって画成されることを特徴とする請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記ベーン室ドレン通路は、前記ロータ側ドレン通路と前記ケーシング側ドレン通路とが互いに対峙して連通する角度範囲を超えて前記ロータが回転するのに伴って前記ロータ側ドレン通路と前記ケーシング側ドレン通路とを連通する延長連通路を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−60847(P2013−60847A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199061(P2011−199061)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】