説明

ペダルシミュレータ

【課題】ブレーキペダルに設けられる電動アクチュエータを小型化・小容量化しながらもブレーキペダルの位置調整を確実に行うことができるブレーキ装置を提供する。
【解決手段】シリンダ機構11は、ハウジング70と、ハウジング70内に摺動可能に保持され、作動液が導かれる液室73を形成するピストン72と、ピストン72を液室73側に付勢する複数の皿ばね90、92とを備える。これら複数の皿ばね90、92のうち、少なくとも2つの皿ばね90、92の底面が互いに向かい合わせに配置されると共に、該底面が向かい合わせに配置された皿ばね90、92の内側斜面90a、92aに対して円弧で当接するリング94が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の皿ばねにより、作動液が導かれる液室を形成するピストンを該液室側に付勢するように構成されたシリンダ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のECUに入力されたブレーキペダル(以下、単にペダルともいう)の踏力等の操作情報に基づき、車輪に設けられた制動力発生部に液圧を与えるためのモータシリンダや液圧ポンプを電気的に駆動制御するブレーキ装置が提案されている。
【0003】
この種の電気信号によりブレーキを電子制御するシステム、いわゆるブレーキバイワイヤでは、従来から広範に採用されているペダルとマスタシリンダとが直結された液圧制御システムに比べて、ペダル操作に一層忠実な制動が可能となり、スムーズなブレーキングを実現することができる。
【0004】
ブレーキバイワイヤを採用したブレーキ装置では、ペダルの踏み込みに対する反力を得るためのペダルシミュレータ(ストロークシミュレータ)が設けられ、これにより、ペダル踏み込み量(ストローク、操作量)と踏力との間に、所定の特性(ストローク−踏力特性)を付与している。
【0005】
特許文献1には、前記のようなペダルシミュレータとして、作動液が導かれる液室を形成(画定)するピストンと、該ピストンを前記液室側に付勢する複数の皿ばねとを備えるシリンダ機構が開示されている。この場合、前記皿ばねの特性により、ストロークと踏力の特性を非線形、すなわち、ペダルの踏み始めにはペダルの操作トルク(踏み剛性)を小さく、ペダルを踏み込むに従って操作トルク(踏み剛性)を大きくすることができ、運転者に違和感のないペダル操作感を与えることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−211124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載のペダルシミュレータを構成するシリンダ機構では、前記各皿ばねの大部分を同一方向に積層している。このため、ピストンの摺動距離を十分なものとするためには、相当な数の皿ばねを配置する必要があり、コストが増大することになる。
【0008】
そこで、このようなシリンダ機構において皿ばねの使用数を減らすために、図9Aに示すように、ハウジング100内で各皿ばねの底面同士を互いに向かい合わせて配置する方法が考えられる。すなわち、皿ばね102をその円錐形状が上向きとなるように配置し、皿ばね104をその円錐形状が下向き(逆向き)となるように配置する。そうすると、皿ばねの積層数を減らすことができると共に、ピストン106の十分な摺動距離を得ることができる。
【0009】
ところが、通常、皿ばね102、104とハウジング100や軸体108との間には、該皿ばね102、104の撓みを考慮して、多少のクリアランスCが必要である(図9A参照)。従って、図9Bに示すように、ピストン106が押し込まれ、皿ばね102、104が収縮した後、図9Cに示すように、再び伸長された際には、前記クリアランスC部分で各皿ばね102、104が直径方向にずれを生じる可能性がある。すなわち、各皿ばね102、104間の各所で前記クリアランスCに起因したずれAが生じる可能性がある(図9C参照)。
【0010】
前記ずれAが生じた部分では、収縮及び伸長の都度、各皿ばね同士で不規則な摺動抵抗を生じるため、ペダルのストロークと踏力の特性が皿ばねの収縮の都度複雑に変化することになり、安定したストローク−踏力特性を得ることが困難となる。すなわち、各皿ばねを単に向かい合わせに配置した場合には、各皿ばねの重ね合わせの状態を一定に管理(保持)することが難しく、収縮及び伸長の都度そのばね特性が変化して、シリンダ機構毎での個体差の原因となる。
【0011】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、作動液が導かれる液室を形成するピストンの付勢を皿ばねで行う場合であっても、該皿ばねの使用数を有効に減らすことができ、しかも安定したばね特性を得ることができるシリンダ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るシリンダ機構は、ハウジングと、該ハウジング内に摺動可能に保持され、作動液が導かれる液室を形成するピストンと、該ピストンを前記液室側に付勢する複数の皿ばねとを備えるシリンダ機構であって、前記複数の皿ばねのうち、少なくとも2つの皿ばねの底面を互いに向かい合わせに配置すると共に、該底面が向かい合わせに配置された皿ばねの内面に対して円弧で当接する円形部材を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るシリンダ機構は、ハウジングと、該ハウジング内に摺動可能に保持され、作動液が導かれる液室を形成するピストンと、該ピストンを前記液室側に付勢する複数の皿ばねとを備えるシリンダ機構であって、前記複数の皿ばねのうち、少なくとも2つの皿ばねの底面を互いに向かい合わせに配置すると共に、該底面が向かい合わせに配置された皿ばねの軸線方向に直交する方向への移動を阻止する移動阻止手段を設けたことを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、前記複数の皿ばねのうち、少なくとも2つの皿ばねの底面を互いに向かい合わせに配置することにより、各皿ばねを同方向に積層した場合に比べ、1つの皿ばねの上面側が他の皿ばねの底面側に埋没することを防止して、皿ばねの使用枚数を低減しながらも十分なストロークを得ることができる。さらに、底面が向かい合わせに配置された皿ばねの軸線方向に直交する方向への移動(ずれ)を、前記円形部材や前記移動阻止手段によって阻止することができるため、例えば、各皿ばねの伸縮の都度その特性が変化することを有効に防止でき、安定した所望のばね特性を得ることができる。特に、前記円形部材の場合には、前記底面が向かい合わせに配置された各皿ばねの内面が、該円形部材の外周側の前記円弧と当接していることから、各皿ばねを互いに同心に配置することが可能となる。このため、各皿ばねを軸線方向と直交する直径方向に対して相互に保持することが可能となり、該直径方向への移動(ずれ)を有効に防止することができる。
【0015】
さらにまた、前記円形部材が、軸線方向に移動自在であり、該軸線方向に直交する方向に移動を規制された状態で配置されていると、円形部材自体の前記直径方向への移動(ずれ)の発生を抑えることができるため、底面を向かい合わせに配置した皿ばねを複数セット用いた場合に、各セット間でのずれを有効に防止することができるため好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、作動液が導かれる液室を形成するピストンを該液室側に付勢する複数の皿ばねのうち、少なくとも2つの皿ばねの底面を互いに向かい合わせに配置している。これにより、1つの皿ばねの上面側が他の皿ばねの底面側に埋没することが防止され、皿ばねの使用枚数を低減しながらも十分なストロークを得ることが可能となる。また、底面が向かい合わせに配置された皿ばねの軸線方向に直交する方向への移動が、前記円形部材や前記移動阻止手段によって阻止されるため、各皿ばねの伸縮の都度その特性が変化することを有効に防止でき、安定した所望のばね特性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るシリンダ機構が適用されたペダルシミュレータを搭載するブレーキ装置のブロック回路図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るシリンダ機構の軸線方向に沿う概略断面図である。
【図3】図3Aは、図2に示すシリンダ機構の第1ばね部材の構造を模式的に示す断面図であり、図3Bは、図3Aに示す第1ばね部材を収縮させた状態を示す断面図である。
【図4】図2に示すシリンダ機構の第1ばね部材の一部省略断面斜視図である。
【図5】図3Aに示す第1ばね部材において、皿ばねのセット間でずれが生じた状態を模式的に示す断面図である。
【図6】図6Aは、図3Aに示す第1ばね部材の変形例に係る第1ばね部材を模式的に示す断面図であり、図6Bは、図6Aに示す第1ばね部材を収縮させた状態を模式的に示す断面図である。
【図7】図7Aは、図2に示すシリンダ機構において、液圧によりピストンが退動し、液室が形成された状態を示す概略断面図であり、図7Bは、図7Aに示す状態からさらにピストンが退動された状態を示す概略断面図である。
【図8】ペダルの踏力とストロークとの関係を示すグラフである。
【図9】図9Aは、リングを設けずに各皿ばねの底面同士を互いに向かい合わせて配置した状態を模式的に示す断面図であり、図9Bは、図9Aに示す状態から皿ばねを収縮させた状態を模式的に示す断面模式図であり、図9Cは、図9Bに示す状態から皿ばねを再び伸張させた状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るシリンダ機構について、このシリンダ機構の適用例であるペダルシミュレータを搭載したブレーキ装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明に係るシリンダ機構が適用されたペダルシミュレータを搭載する車両用のブレーキ装置について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るシリンダ機構11が適用されたペダルシミュレータ13L、13Rを搭載するブレーキ装置10のブロック回路図である。
【0020】
ブレーキ装置10は自動車等の車両に搭載され、運転者(操作者)によるペダル(ブレーキペダル)12の操作に基づき左車輪LWや右車輪RWに備えられた制動力発生部(キャリパ、ホイールシリンダ、ブレーキシリンダ)14L、14Rでディスク15L、15Rを狭持して制動力を発生させ、車両を制動する装置である。図1では、自動車の前輪側を構成する左車輪LWや右車輪RWのみを図示しており、後輪側については図示を省略しているが、該後輪側についても前輪側(左車輪LWや右車輪RW)と同様な構成や他の構成を備えることができる。また、ブレーキ装置10において、左車輪LW側に備えられるものの参照符号には「L」を付し、右車輪RW側に備えられるものの参照符号には「R」を付し、左車輪LW側及び右車輪RW側をまとめて説明する場合には前記の「L」や「R」を省略する。
【0021】
ブレーキ装置10は、運転者が運転状況等に応じて操作するペダル12と、該ペダル12の操作に連動して駆動されるマスタシリンダ16と、前記制動力発生部14L、14Rで制動力を発生するための液圧を付与するモータシリンダ(液圧発生部、キャリパシリンダ)18L、18Rとを備える。ブレーキ装置10の各構成部品は、制御部であるECU20に電気的に接続され、該ECU20により制御される。
【0022】
すなわち、ブレーキ装置10は、各構成部品間を液圧(油圧)を伝達可能に接続する液圧(油圧)系統と、各構成部品間とECU20とを電気的に接続する電気系統とから構成される。図1中、前記液圧系統を構成する経路(流路)を実線で示し、前記電気系統を構成する経路(信号線)を破線で示している。前記液圧系統に充填される液体としては、例えば、ブレーキフルードが挙げられる。
【0023】
図1に示すように、ペダル12には、運転者がペダル12を踏み込む力(踏力)や運転者によりペダル12が操作された量(操作量、ストローク)を検出するペダル操作情報検出部22が設けられ、該ペダル操作情報検出部22の検出値はECU20に入力される。前記踏力の検出には、例えばペダル12の踏面に設けられるトルクセンサが用いられ、前記ストロークの検出には、例えばポテンショメータ(ロータリポテンショメータ)が用いられる。なお、ペダル操作情報検出部22は、踏力のみを検出するように構成してもよい。
【0024】
ペダル12の基端側の揺動軸近傍には、電動アクチュエータ(アクチュエータ、反力モータ)24が連結される。電動アクチュエータ24は、ECU20の制御下に、運転者のペダル12の踏み込みに対する反力の調整と、ペダル12の位置調整とを行うものである。該電動アクチュエータ24は、ペダル12にトルクを与えることが可能であり、すなわち、電動アクチュエータ24にペダル12の踏力を検出するペダル操作情報検出部22の機能を兼ねさせてもよい。
【0025】
前記マスタシリンダ16は、軸方向に順に配置された2つのピストン26L、26Rと、後端がペダル12に連結されてピストン26L、26Rを進退駆動するロッド28と、シリンダ16a内が前記ピストン26L、26Rで仕切られ形成された2つの加圧室30L、30Rとから構成される。加圧室30L、30Rには、ペダル12の踏み込みで進動したピストン26L、26Rを原位置に戻す復帰ばね(弾性部材)32L、32Rが配設される。
【0026】
前記加圧室30L、30Rは、主経路33L、33Rによって前記制動力発生部14L、14Rに連結される。
【0027】
前記モータシリンダ18L、18Rは、ロッド34L、34Rの後端がブレーキモータ(キャリパモータ)36L、36Rに連結されることで、ピストン38L、38Rをシリンダ40L、40R内で進退駆動可能である。該モータシリンダ18L、18Rを構成する加圧室42L、42Rは、経路44L、44Rを介して前記主経路33L、33Rに連結される。すなわち、モータシリンダ18の加圧室42は、制動力発生部14に連結されている。
【0028】
前記主経路33L、33Rにおいて、前記経路44L、44Rよりもマスタシリンダ16側には、経路46L、46Rを介して、本実施形態に係るシリンダ機構11が適用されたペダルシミュレータ(P.S.)13L、13Rが連結されている。
【0029】
また、マスタシリンダ16の加圧室30L、30Rには、リザーブタンク52へと連結される経路54L、54Rが連通している。リザーブタンク52は、ブレーキ装置10の液圧系統の液圧(液量)を調節する機能を果たす。さらに、リザーブタンク52には、モータシリンダ18L、18Rの加圧室42L、42Rに連通する補助経路56L、56Rが連結される。これら経路54L、54R及び補助経路56L、56Rは、リザーブタンク52に連結される手前でそれぞれ合流している。
【0030】
リザーブタンク52へと連結される経路54において、加圧室30に連通する開口部は、ピストン26の原位置に近接して形成される。これにより、ピストン26L、26Rが原位置から進動すると同時に(僅かでも動くと)前記開口部は閉塞され、すなわち、加圧室30L、30Rとリザーブタンク52との間で経路54L、54Rが遮断される。補助経路56においても前記の経路54と略同様に構成される。すなわち、ピストン38L、38Rが原位置から進動すると同時に、加圧室42L、42Rとリザーブタンク52との間で補助経路56L、56Rが遮断される。
【0031】
このようなブレーキ装置10において、主経路33L、33Rには、加圧室30L、30R側から順に、マスタシリンダ圧力センサ58L、58Rと、フェイルセーフバルブ60L、60Rと、ブレーキ圧力センサ(キャリパ圧力センサ)62L、62Rとが配設される。経路44L、44Rには、ブレーキバルブ(キャリパバルブ)64L、64Rが配設される。経路46L、46Rには、シミュレータバルブ(PSバルブ)66L、66Rが配設される。
【0032】
前記フェイルセーフバルブ60は、主経路33と、経路44の連結部及び経路46の連結部との間に設けられており、ECU20の制御下にソレノイド60aが励磁されると主経路33を連通又は遮断する。同様に、ECU20の制御下に、前記ブレーキバルブ64はソレノイド64aが励磁されると経路44を連通又は遮断し、前記シミュレータバルブ66はソレノイド66aが励磁されると経路46を連通又は遮断する。
【0033】
なお、図1では簡単のため、マスタシリンダ圧力センサ58及びブレーキ圧力センサ62からECU20へと接続される信号線と、ソレノイド60a、64a、66aからECU20へと接続される信号線等を省略している。
【0034】
以上のように構成されるブレーキ装置10では、通常時、ペダル12の操作情報がペダル操作情報検出部22で検出されると共に、ECU20へと入力される。そして、ECU20からの指令に基づきモータシリンダ18が駆動されて、制動力発生部14で制動力が発生し、ブレーキ動作が行われる。すなわち、ブレーキ装置10は、バイワイヤ技術を採用したシステム(ブレーキバイワイヤ)として構成されている。
【0035】
そこで、ブレーキ装置10がブレーキバイワイヤとして駆動制御される通常時(システムオン時)には、先ず、ECU20の制御下に、ブレーキバルブ64及びシミュレータバルブ66を開弁し、フェイルセーフバルブ60を閉弁する。
【0036】
この状態で、運転者がペダル12を操作すると、該ペダル12の操作によりマスタシリンダ16の加圧室30で発生する液圧がペダルシミュレータ13(シリンダ機構11)に与えられ、該ペダルシミュレータ13で反力を得ることができる。
【0037】
同時に、ペダル操作情報検出部22からペダル12の操作情報(踏力やストローク)がECU20に入力され、ECU20によって前記操作情報に基づきモータシリンダ18が駆動制御される。これにより、モータシリンダ18で発生する液圧が制動力発生部14に与えられ、該制動力発生部14で制動力が発生し、左車輪LWや右車輪RWが制動される。
【0038】
一方、ブレーキ装置10がブレーキバイワイヤとして駆動制御されない状態(システムオフ時)、例えば、イグニッションオフとされたシステム停止時等、いわゆる失陥時には、先ず、ECU20の制御下に、フェイルセーフバルブ60を開弁し、ブレーキバルブ64及びシミュレータバルブ66を閉弁する(図1参照)。
【0039】
この状態で、運転者がペダル12を操作すると、該ペダル12の操作によりマスタシリンダ16の加圧室30で発生する液圧が制動力発生部14に与えられ、該制動力発生部14で制動力が発生し、左車輪LWや右車輪RWが制動される。この際、ペダル12への反力は、マスタシリンダ16により得ることができる。
【0040】
さらに、ブレーキ装置10では、ペダル12の初期位置を変更することも可能である。すなわち、ペダル12の初期位置変更時には、先ず、運転者が位置変更スイッチ68をオンすると、ECU20の制御下に、フェイルセーフバルブ60及びブレーキバルブ64が開弁され、シミュレータバルブ66が閉弁される。
【0041】
この状態で、運転者が前記位置変更スイッチ68を操作すると、ECU20の制御下に、電動アクチュエータ24が駆動されてペダル12を移動させることができる。しかも、このようなペダル12の初期位置変更時には、電動アクチュエータ24によりペダル12が移動されるに伴い、移動したマスタシリンダ16を構成するピストン26の移動分の液圧(液量)は、主経路33からブレーキバルブ64を経てモータシリンダ18の加圧室42へと送られる。これにより、前記移動分の液圧は、補助経路56を介してリザーブタンク52へと戻される。
【0042】
このようにブレーキ装置10では、前記システムオン時でのペダル12での反力は、ペダルシミュレータ13により付与される。すなわち、ペダル12の踏力とストロークの特性は、ペダルシミュレータ13を構成するシリンダ機構11の特性を反映する。従って、シリンダ機構11には、例えば、ブレーキ装置10が搭載される同一車種では略同一であり且つ経時的に変化しない安定した特性と、ストロークと踏力の特性が非線形、すなわち、ペダル12の踏み始めには操作トルク(踏み剛性)を小さく、ペダル12を踏み込むに従って操作トルク(踏み剛性)を大きくすることができ、運転者に違和感のないペダル操作感を与えることとが重要となる。
【0043】
そこで、次に、本実施形態に係るシリンダ機構11について図2〜図8を参照して説明する。図2は、本実施形態に係るシリンダ機構11の軸線方向に沿う概略断面図である。
【0044】
図2に示すように、シリンダ機構11は、円筒形状からなるハウジング70と、該ハウジング70内に摺動可能に保持されたピストン72とを備える。ハウジング70の一端側(矢印X1側)の開口部70aは、軸線方向(図2中の矢印X方向)に連通孔74aが形成されたプラグ(蓋部材)74が嵌挿されることにより閉塞されている。連通孔74aは、矢印X2方向で該連通孔74aより大径の孔部74bに開口(連通)しており、該孔部74b内にはピストン72が軸線方向(図2中の矢印X方向)に摺動可能に挿入されている。すなわち、前記孔部74bはピストン72を進退駆動させるシリンダとして機能するものであり、プラグ74の外端面に連結された経路75から連通孔74aへと作動液(例えば、ブレーキ装置10のブレーキフルード)が導入されると、該作動液の液圧がピストン72の先端面(作用面)72aに伝達される。これにより、ピストン72は、連通孔74aから供給される作動液の液圧により矢印X2方向に退動され、又は後述する第1及び第2ばね部材82a、84aの付勢力により矢印X1方向に進動されることで、先端面72aとプラグ74との間に作動液が導入される液室73を形成(画定)する(図7A参照)。
【0045】
このようなピストン72の矢印X2側の面には、やや大径の凹部72bが開口しており、該凹部72bの底面には、該凹部72bより小径の凹部72cが開口している。
【0046】
プラグ74において、ピストン72を保持する前記孔部74bは矢印X2方向に突出する筒部74cの内周面として形成される。該筒部74cの外周面はハウジング70内を矢印X方向に仕切る伝達部材76の凹部76a内で摺動自在に保持される。伝達部材76は、矢印X2側に凹んだ前記凹部76aを有する有底円筒形状であり、凹部76aの縁部から直径方向に沿ってフランジ部76bが設けられる。
【0047】
伝達部材76を構成する凹部76aの底部には、円板型の支持部材78が着座しており、その中央部には、ピストン72方向(矢印X1方向)に支持軸(支持棒)80が突設されている。該支持軸80は、ピストン72の前記凹部72bとの間で、該ピストン72を矢印X1側に付勢する第1ばね部材82aを保持している。
【0048】
一方、伝達部材76を構成するフランジ部76bの矢印X2側には、該伝達部材76を矢印X1側に付勢する第2ばね部材84aが配設される。第2ばね部材84aは、その軸線方向端部が、ハウジング70の他端側(矢印X2側)の開口部70bを閉塞するプラグ(蓋部材)86と、前記フランジ部76bとにより保持され、その直径方向がハウジング70と、伝達部材76とにより保持される。本実施形態の場合、前記第1ばね部材82aよりも第2ばね部材84aの方がばね定数を高く設定している。プラグ86の中央には、前記伝達部材76が矢印X2側に大きく変位した際、該プラグ86への底突きによる異音や破損を抑えるための緩衝部材(ゴム部材)88が嵌め込まれている。
【0049】
ここで、ピストン72を付勢する第1及び第2ばね部材82a、84aの構造について、図3A、図3B及び図4を参照して説明する。図3Aは、第1ばね部材82aの構造を模式的に示す断面図であり、図3Bは、図3Aに示す第1ばね部材82aを収縮させた状態を模式的に示す断面図である。図4は、第1ばね部材82aの一部省略断面斜視図である。なお、第1ばね部材82aと第2ばね部材84aは、その内外径やばね定数、保持形態等が異なる以外、基本的な構造は略同一であるため、以下では第1ばね部材82aについて具体的に説明し、第2ばね部材84aの説明は省略する。
【0050】
図3A及び図4に示すように、第1ばね部材82a(第2ばね部材84a)には、上面と底面が開口した円錐台形状からなる複数枚の皿ばね90、92が、互いの底面(上面)同士が対向された状態で支持軸80(第2ばね部材84aの場合には伝達部材76)に挿通されている。すなわち、一方の皿ばね90はその円錐形状が上向きとなるように配置され、他方の皿ばね92はその円錐形状が下向き(皿ばね90に対して逆向き)に配置されており、皿ばね90と皿ばね92とのセットが複数組(本実施形態の場合、3セット)積層されている。なお、皿ばね90と皿ばね92は、配置の方向が異なる以外、形状やばね定数等は同一である。
【0051】
さらに、底面同士が対向して配置された各セットを構成する皿ばね90、92の内面側には、支持軸80に挿通されたリング(円形部材)94が設けられる。リング94は、ドーナツ状であり、その外周を構成する円弧(曲面)が、皿ばね90、92の内側斜面(内面)90a、92aに当接している。なお、リング94は、前記内側斜面90a、92aに円弧で当接可能であればよく、その断面形状は円形や楕円形以外にも、角部に曲率を有する角形であってもよい。
【0052】
従って、図3Bに示すように、第1ばね部材82aがピストン72の押圧作用により収縮されると、各セットを構成する皿ばね90、92はそれぞれリング94の外周側の前記円弧との接点を支点として軸線方向に撓むことになる。この際、前記セットを構成し、リング94と接している1組の皿ばね90、92は、該リング94の外周側の前記円弧と当接していることから、互いに同心に配置されることになり、軸線方向と直交する直径方向に対して相互に保持される。これにより、第1ばね部材82aでは、各セットでの皿ばね90、92同士での、前記直径方向での移動(ずれ)が阻止され、皿ばね90、92同士の同心度が維持されるため、伸縮が繰り返された場合であっても該伸縮の都度その特性が変化することを有効に防止でき、安定した所望のばね特性を得ることができる。換言すれば、前記リング94は、各セットでの皿ばね90、92の軸線方向と直交する直径方向に対しての移動を阻止する手段(移動阻止手段、ずれ阻止手段)として機能する。
【0053】
なお、このようなリング94を有する第1ばね部材82a(第2ばね部材84a)では、各セットを構成する皿ばね90、92同士での軸線方向と直交する直径方向への移動(ずれ)は、リング94により阻止されるが、各セット間で多少のずれを生じる可能性がある。すなわち、第1ばね部材82aや第2ばね部材84aが収縮した際には、各セットに内装されたリング94自体が前記直径方向に多少移動する。図5に示すように、例えば、1つのセットを構成する皿ばね92と、それに接する他のセットを構成する皿ばね90との接触部分において、ずれAが生じる可能性がある。
【0054】
そこで、本実施形態に係るシリンダ機構11では、図6A及び図6Bに示すように、リング94をやや扁平なリング(円形部材)96に代えた第1ばね部材82bや第2ばね部材84bとすることも可能である。
【0055】
第1ばね部材82b(第2ばね部材84b)を構成するリング96は、支持軸80(第2ばね部材84aの場合には伝達部材76)が挿通される内孔96aが前記リング94のものよりも小径とされる。これにより、リング96は軸線方向と直交する直径方向への移動(ずれ)が確実に規制された状態で皿ばね90、92の内側に配置されている。従って、第1ばね部材82b(第2ばね部材84b)では、リング96により各セット間での直径方向へのずれを確実に阻止することができ、皿ばね90、92との組み合わせを複数セット積層して用いる場合において、伸縮が繰り返されても安定した所望のばね特性を得ることができるため、特に有効である。
【0056】
なお、リング96において、前記内孔96aは支持軸80(第2ばね部材84aの場合には伝達部材76)に対して最小のクリアランス、すなわち、第1ばね部材82bが収縮した際に支持軸80に対して摺動可能なクリアランスを有しておく必要がある。この意味で、リング96は前記直径方向に実質的にずれることがなければよく、第1ばね部材82b等のばね特性に大きな影響を与えることのない程度に前記クリアランスにより前記直径方向への移動が許容されていてもよい。
【0057】
基本的には以上のように構成されるシリンダ機構11では、経路75から連通孔74a内へと作動液が供給され、該作動液の液圧がピストン72の先端面72aに伝達されると、ピストン72は第1ばね部材82a(第1ばね部材82b)の付勢力に抗して矢印X2方向に退動(摺動)する。そして、ピストン72の前記退動に伴って、先端面72aとプラグ74との間には、作動液が導入される液室73が形成される(図7A参照)。なお、前記作動液とは、例えば、ブレーキ装置10の場合、マスタシリンダ16からの液圧であり、この場合には経路75は経路46(図1参照)に相当する。
【0058】
続けて、前記作動液の液圧によりピストン72が矢印X2方向にさらに退動され、ピストン72が支持部材78に当接(底突き)すると(図7A参照)、今度は、第2ばね部材84a(第2ばね部材84b)の付勢力が作用し、ピストン72は第2ばね部材84aの付勢力に抗して矢印X2方向に退動(摺動)することになる(図7B参照)。
【0059】
従って、本実施形態に係るシリンダ機構11によれば、第1ばね部材82a等において、単品であっても非線形の特性を有する皿ばね90、92を、さらに複数枚積層している。これにより、各皿ばね90、92が撓む際には、各皿ばね90、92による反発力に加えて、各皿ばね90、92が収縮するほどに皿ばね90、92同士での摺動抵抗が増加することになる。このため、ブレーキ装置10のように、シリンダ機構11をペダルシミュレータ13として適用した場合には、ペダル12のストロークが大きくなるほどペダル12の踏力(反力)を増加させることができる(図8の線B1参照)。また、ペダル12を戻す際にも、各皿ばね90、92が伸長するほどに皿ばね90、92同士での摺動抵抗が減少する。これにより、ペダル12の戻し操作時には、ストロークと踏力の特性にヒステリシス特性が加えられる(図8線B2参照)。これにより、シリンダ機構11を適用したペダルシミュレータ13によれば、ストロークと踏力の特性が図8に示すような最適な非線形となり、運転者に違和感のないペダル操作感を与えることができる。
【0060】
シリンダ機構11では、第1ばね部材82a、82bに加えて、該第1ばね部材82a、82bよりもばね定数の大きな第2ばね部材84a、84bを備え、2段階でピストン72を付勢することにより、ペダル12のストロークと踏力の特性を一層良好なものとすることができる。
【0061】
シリンダ機構11では、各セットを構成する皿ばね90、92同士の底面(上面)同士を互いに向かい合わせに配置している。このため、各皿ばねを同方向に積層した場合に比べて、各皿ばねの上面側が底面側に埋没してしまうことがなく、少ない枚数で十分なストロークを得ることができ、コストを低減することができる。
【0062】
なお、前記リング94よりもリング96の方が、その直径方向でのずれを確実に阻止することができるため好適であるが、皿ばね90、92から構成されるセットの数、例えば、1セットのみでセット間でのずれが生じない場合や、シリンダ機構11の使用条件等によっては、リング94も有効に用いることができる。
【0063】
また、本発明に係るシリンダ機構11を適用したペダルシミュレータ13を搭載するブレーキ装置10では、ペダル12の反力として該ペダルシミュレータ13で発生する反力を、例えば、ペダル操作情報検出部22で検出された踏力を基に電動アクチュエータ24で補正して、一層良好な特性とすることもできる。
【0064】
本発明に係るシリンダ機構11の適用例としては、ペダルシミュレータ13に限定されるものではなく、また、ブレーキ装置10は、図1に示すものに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0065】
以上、実施形態により本発明を説明したが、これに限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは当然可能である。
【符号の説明】
【0066】
10…ブレーキ装置 11…シリンダ機構
12…ペダル 13L、13R…ペダルシミュレータ
26L、26R、38L、38R、72…ピストン
70…ハウジング 72a…先端面
73…液室 74、86…プラグ
74a…連通孔 76…伝達部材
78…支持部材 80…支持軸
82a、82b…第1ばね部材 84a、84b…第2ばね部材
90、92…皿ばね 90a、92a…内側斜面
94、96…リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
該ハウジング内に摺動可能に保持され、作動液が導かれる液室を形成するピストンと、
該ピストンを前記液室側に付勢する複数の皿ばねとを備えるシリンダ機構であって、
前記複数の皿ばねのうち、少なくとも2つの皿ばねの底面を互いに向かい合わせに配置すると共に、該底面が向かい合わせに配置された皿ばねの内面に対して円弧で当接する円形部材を設けたことを特徴とするシリンダ機構。
【請求項2】
請求項1記載のシリンダ機構において、
前記円形部材は、軸線方向に移動自在であり、該軸線方向に直交する方向に移動を規制された状態で配置されていることを特徴とするシリンダ機構。
【請求項3】
ハウジングと、
該ハウジング内に摺動可能に保持され、作動液が導かれる液室を形成するピストンと、
該ピストンを前記液室側に付勢する複数の皿ばねとを備えるシリンダ機構であって、
前記複数の皿ばねのうち、少なくとも2つの皿ばねの底面を互いに向かい合わせに配置すると共に、該底面が向かい合わせに配置された皿ばねの軸線方向に直交する方向への移動を阻止する移動阻止手段を設けたことを特徴とするシリンダ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−153367(P2012−153367A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−115333(P2012−115333)
【出願日】平成24年5月21日(2012.5.21)
【分割の表示】特願2007−63057(P2007−63057)の分割
【原出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】