説明

ペダル装置

【課題】ダッシュパネルのみに固定される支持板からなる取付ブラケットの端材発生を防止して、ペダル装置のコスト増を回避する。
【解決手段】前縁に上取付フランジ112を設けた上支持板111を後方に向けて降ろし、前縁に下取付フランジ122を設けた下支持板121を後方に向けて持ち上げ、前記上支持板111及び下支持板121の交差範囲で両者を接合し、かつペダルアーム2の揺動軸21を設けて取付ブラケット1を構成したことを特徴とするペダル装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体側部材に固定する取付ブラケットにペダルアームを軸着して構成されるペダル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の加減速や制動、クラッチの接続解除を操作するペダル装置(アクセルペダル、ブレーキペダル、クラッチペダル等)は、様々な構成のものが存在し、例えば車体側部材に固定する取付ブラケットにペダルアームを軸着して構成される。取付ブラケットは、車体側部材に固定される左右一対の支持板間にペダルアームの揺動軸を備えた構成が一般的で、ペダルアームの揺動面がぶれないように、前記支持板の剛性を高くする必要から、例えば特許文献1に見られるように、車体側部材に対して離れた2点で前記支持板それぞれを位置固定している。
【0003】
特許文献1が開示するペダル装置は、車体側部材であるダッシュパネル(ダッシュロアパネル、主に前後方向に向いた面を有する)と上面側ダッシュパネル(ダッシュアッパパネル、主に上下方向に向いた面を有する)とに架け渡した取付ブラケット(ペダルブラケット)を用いている(特許文献1・[0028])。取付ブラケットは、所定形状に整形された金属板を、中間面の両縁から折り曲げて左右一対の支持板を形成した断面コ字状の板金部材で、中間面を上面側ダッシュパネルに、左右の支持板の前縁に設けた取付フランジをそれぞれダッシュパネルに接面させて、ボルト止めされる(特許文献1・[図1])。ペダルアームは、前記支持板間に架設される揺動軸(ピン)に軸着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-005517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ペダル装置における取付ブラケットは、車体側部材に固定する2点が離れている程好ましいが、常にダッシュパネルと上面側ダッシュパネルとに架け渡せるとは限らず、ダッシュパネルに前記2点が設定されることも少なくない。この場合、上下に離れた取付フランジを前縁に設けた支持板は、前記取付フランジとペダルアームの揺動軸とを結ぶ側面視三角形となり、取付ブラケットの重量増を招く問題が発生する。特許文献1が開示するペダル装置は、ダッシュパネルと上面側ダッシュパネルとに架け渡す支持板を、細幅の側面視長方形にすることにより、前記重量増を回避している。
【0006】
これから、上下に並ぶ取付フランジを前縁に設けた支持板からなる取付ブラケットは、側面視三角形となり、揺動軸を除く支持板に適宜開口を設け、前記開口の周縁にリブを形成して軽量化と剛性の向上を図っている。これは、三角形となる側面視形状と前記開口とにより端材が発生することを意味し、結果としてペダル装置のコスト増を招いていた。そこで、ダッシュパネルのみに固定される支持板からなる側面視三角形状の取付ブラケットの端材発生を抑制、できれば防止して、ペダル装置のコスト増を回避するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
検討の結果開発したものが、自動車の車体側部材に固定する取付ブラケットにペダルアームを軸着して構成されるペダル装置において、前縁に上取付フランジを設けた上支持板を後方に向けて降ろし、前縁に下取付フランジを設けた下支持板を後方に向けて持ち上げ、前記上支持板及び下支持板の交差範囲で両者を接合し、かつペダルアームの揺動軸を設けて取付ブラケットを構成したことを特徴とするペダル装置である。上支持板又は下支持板は、それぞれ降ろした方向又は持ち上げた方向(延在方向)に長尺な部材で、前記延在方向に略同幅で延びる側面視長方形を基本とする。
【0008】
上支持板及び下支持板は、両者の交差範囲で接合し、かつ揺動軸を設ける構成であれば、例えばブロック様の厚い板材で構成された上支持板及び下支持板を1枚つずつ延ばして交差させて接合することにより取付ブラケットを構成してもよいが、従来同様、左右一対の上支持板及び下支持板をそれぞれ交差させて接合することにより取付ブラケットを構成することが好ましい。揺動軸は、上支持板及び下支持板の交差範囲の重心又は重心近傍(正確に重心ではなくても交差範囲の中心と呼べる部分)に設けることが望ましく、上支持板及び下支持板の接合は前記交差範囲における揺動軸を除いた部分であればよい。
【0009】
本発明のペダル装置は、ダッシュパネルのみに固定される支持板を上下に分割し、上支持板は後方に向けて降ろし、下支持板は後方に向けて持ち上げ、両者を交差範囲で接合することにより側面視三角形状の取付ブラケットを構成する。上支持板及び下支持板の間は、別段端材を形成することなく開いているから、軽量化のために開口を設けていることと同じになる。また、上下に離れている上取付フランジ及び下取付フランジは、それぞれ上支持板及び下支持板の前縁に設けられていることから、両者間の距離が調整できる。
【0010】
本発明の取付ブラケットは、上支持板及び下支持板の交差範囲に揺動軸を設けたので、揺動軸を介して加わる外力により動こうとする上支持板及び下支持板が互いに相手の動きを拘束する。例えば揺動軸に下向きの外力が加わった場合、上支持板は揺動軸の下降を引き止め、下支持板は前記上支持板を下支えして上支持板が上取付フランジを軸に回動しようとすることを規制する。揺動軸に上向きの外力が加わった場合、上支持板と下支持板の働きは前述と逆になる。
【0011】
上支持板又は下支持板の一方又は双方は、それぞれの上縁又は下縁の一方又は双方に面直交方向に折り曲げた補強フランジを形成すると好ましい。これにより、上支持板及び下支持板それぞれの剛性が向上し、上述したような揺動軸に加わる外力によって上支持板又は下支持板が縒れたり、捩じれたりすることがなくなり、前記外力に対する上支持板及び下支持板の相互規制がよりよく発揮される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のペダル装置は、ダッシュパネルのみに固定される支持板からなる側面視三角形状の取付ブラケットの製造に際して端材が発生することを防止できるので、コスト増が回避できる。このほか、上支持板及び下支持板から側面視三角形状の取付ブラケットを構成することにより、次のような副次的効果が得られる。まず、上支持板及び下支持板の前縁に設けられた上取付フランジ及び下取付フランジは、両者間の距離が調整できることから、上支持板及び下支持板の寸法管理をそれほど厳しくしなくてもよく、部材加工における誤差を上支持板及び下支持板の接合に際して吸収できる。
【0013】
また、上支持板及び下支持板が互いに相手の動きを拘束するので、ペダルアームを安定して軸支できる。この場合、上支持板又は下支持板の一方又は双方は、それぞれの上縁又は下縁の一方又は双方に面直交方向に折り曲げた補強フランジを形成すると、上支持板又は下支持板が縒れたり、捩じれたりすることがなくなり、前記外力に対する上支持板及び下支持板の相互規制がよりよく発揮され、ペダルアームをより安定して軸支できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のペダル装置の一例を表す側面図である。
【図2】本例のペダル装置を表す正面図である。
【図3】本例のペダル装置を表す平面図である。
【図4】本例のペダル装置の主要部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図を参照しながら説明する。本発明のペダル装置は、例えば図1〜図4に見られるように、左右一対の上支持板111,111を後方(図1及び図3中右方向、図2中紙面手前方向)に向けて降ろす上ブラケット11の前記上支持板111それぞれに、後方に向けて持ち上げた左右別体の下支持板121を交差させて接続し、く字状に折れ曲がった外観である側面視三角形状の取付ブラケット1を構成する。本例の下支持板121は、上支持板111の外面(左側の上支持板111は左面、右側の上支持板111は右面)に接面して接合しているが、上支持板111の内面に接面させて接合してもよい。
【0016】
ペダルアーム2は、上支持板111及び下支持板121の交差範囲(図1中ハッチング部位)の重心近傍に設けた軸受孔116,116に貫通させた揺動軸21に上端を軸着し、下端にペダルパッド22を取付けている。本例の上支持板111及び下支持板121は、延在方向に長尺な側面視長方形であるため、両者の交差範囲は概略菱形になっており、揺動軸21は前記交差範囲の重心近傍に位置するように、上支持板111に軸受孔を設けている。このため、前記交差範囲で上支持板111に接合する下支持板121は、後縁を前記軸受孔116を避けるため、切り欠いている。
【0017】
上支持板111,111は、後縁に跨がる中間面114を挟む上ブラケット11のフランジ面として構成される。各上支持板111は、前縁から後方に向けて降ろした概略側面視長方形の板材部分である。上取付フランジ112は、左側の上支持板111の前縁から左方向(図2中左方向)に、また右側の上支持板111の前縁から右方向(図2中右方向)にそれぞれ張り出している。各上支持板111を後縁で結ぶ中間面114は、揺動するペダルアーム2の後方に向けたよう同範囲を規制するため、上支持板111の延在方向に交差する角度で、後方に向けて上支持板111より急勾配に降している。
【0018】
本例の上支持板111は、剛性向上のため、直線状に延びる上縁から左方向又は右方向に折り曲げた補強フランジ113を設けている。更に、本例の上支持板111は、断面係数向上のため、左方向又は右方向へ膨出した補強ビード115を設けている。本例の補強ビード115は、軽量化を目的とした開口を設けているが、全体が連続した湾曲面から形成されていることから強度低下の虞はない。また、前記開口は小さいので、本発明が課題とする端材の発生に対して大きな問題とならない。
【0019】
下支持板121は、前縁から後方に向けて持ち上げた概略側面視長方形の板材である。上述した上支持板111と異なり、前記下支持板121は左右別体であるが、本例では説明の便宜上、左右の下支持板121を合わせて下ブラケット12と呼ぶ。下取付フランジ122は、左側の下支持板121の前縁から左方向に、また右側の下支持板121の前縁から右方向にそれぞれ張り出している。本例の下取付フランジ122は、上取付フランジ112が固定される上方に対して若干手前に折れ曲がったダッシュパネル3の下方に対して固定されるため、若干斜めになっているが、上取付フランジ112とほぼ同一鉛直線上で上下に離れて並んでいる。
【0020】
例えば左側の上支持板111及び下支持板121は、ペダルアーム2の揺動軸21を貫通させる軸受孔116直下の上支持板111の左面に下支持板121の右面を接面させて溶接することにより、接合する。これにより、揺動軸21は交差範囲の重心近傍に位置させることができ、ペダルアーム2に加わる外力は、揺動軸21を介して上支持板111及び下支持板121にほぼ等しく伝達できる。この結果、例えば揺動軸21に下向きの外力が加わった場合、上支持板111は揺動軸21の下降を引き止め、下支持板121は前記上支持板111を下支えして上支持板111が上取付フランジ112を軸に回動することを規制できる。
【0021】
本例のペダル装置は、上述した上支持板111及び下支持板121の相互規制をよりよく発揮させるため、上支持板111は外向き(左右一対の相手方から遠ざかる方向、右側は右方向、左側は左方向)の補強フランジ113を上縁に設け、また下支持板121も外向きの補強フランジ123を上縁に設けている。これにより、上支持板111及び下支持板121それぞれの剛性が向上し、揺動軸21に加わる外力によって上支持板111又は下支持板121が縒れたり、捩じれたりすることがなくなり、前記揺動軸21に加わる外力に対する上支持板111及び下支持板121の相互規制がよりよく発揮される。
【0022】
本例の上支持板111は、後縁に架け渡した中間面114により平面視コ字状の上ブラケット11を構成しており、また揺動軸を介して左右が繋がっているため、上縁に補強フランジ113を設けるだけで十分な剛性を確保できる。これに対し、下ブラケット12を構成する下支持板121は、左右別体であることから、上縁に設けた補強フランジ123を下取付フランジ122の上縁にまで延長している。これにより、下支持板121、下取付フランジ122及び補強フランジ123が互いに直交する3面となり、下支持板121の剛性を高めている。
【符号の説明】
【0023】
1 取付ブラケット
11 上ブラケット
111 上支持板
112 上取付フランジ
113 補強フランジ
114 中間面
115 補強ビード
116 軸受孔
12 下ブラケット
121 下支持板
122 下取付フランジ
123 補強フランジ
2 ペダルアーム
3 ダッシュパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体側部材に固定する取付ブラケットにペダルアームを軸着して構成されるペダル装置において、
前縁に上取付フランジを設けた上支持板を後方に向けて降ろし、
前縁に下取付フランジを設けた下支持板を後方に向けて持ち上げ、
前記上支持板及び下支持板の交差範囲で両者を接合し、かつペダルアームの揺動軸を設けて取付ブラケットを構成したことを特徴とするペダル装置。
【請求項2】
上支持板又は下支持板の一方又は双方は、それぞれの上縁又は下縁の一方又は双方に面直交方向に折り曲げた補強フランジを形成した請求項1記載のペダル装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−25514(P2013−25514A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158713(P2011−158713)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【出願人】(000112082)ヒルタ工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】