説明

ペプチド及びその使用

細胞又は組織におけるカテプシンL様プロテアーゼ活性の阻害方法、並びに癌及び炎症性疾患などの疾患の治療における該方法の使用が記載される。該方法は、カテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸の投与を含む。特定の実施形態では、プロペプチドはカテプシンSプロペプチドである。さらに、Fcタンパク質を有するプロペプチドの使用が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ペプチド及び治療方法におけるその使用に関する。特に、本出願は、カテプシンプロペプチド、この製造方法及び該プロペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼは、全遺伝子産物の約2%を占めるタンパク質の大きな集団である(Rawlings及びBarrett、1999年)。プロテアーゼは、ペプチド結合の加水分解を触媒し、全ての細胞及び生物が適切に機能するために不可欠である。タンパク質分解処理事象は、骨形成、創傷治癒、血管新生及びアポトーシスを含む様々な細胞プロセスにおいて重要である。
【0003】
リソソームシステインプロテアーゼは、当初、リソソームでのタンパク質の非選択的分解を司る酵素であると考えられた。通常はリソソームでの局在化に関連することから、これらのプロテアーゼは、最初、エンドソーム区画でのタンパク質の非選択的分解に関与するのみであると考えられた。しかし、これらは今では、幾つかの特定の細胞プロセスにおいて説明することができ、抗原提示(Honey及びRudensky、2003年;Bryant及びPloegh、2004年)アポトーシス(Zhengら、2005年;Brokerら、2005年)、プロホルモンプロセシング(Hookら、2004年)及び細胞外マトリックスリモデリング(Chapmanら、1994年;Chapmanら、1997年)において役割を果たすことが知られている。
【0004】
カテプシンは、タンパク質分解酵素である。今までに、11種類のヒトカテプシンが同定されているが、各々のインビボでの特異的役割は、未だに決定されていない(Katunumaら、2003年)。カテプシンB、L、H、F、O、X及びCは、ほとんどの細胞で発現され、タンパク質代謝回転の制御に役割を果たす可能性が示唆されているのに対し、カテプシンS、K、W及びVは、特定の細胞及び組織に限定されており、これらはより特異的な役割を果たす可能性が示されている(Kosら、2001年;Berdowska、2004年)。カテプシンL様プロテアーゼ(CatL、S及びKを含む)は、システインプロテアーゼのCA族に属するタンパク質分解酵素である。これらのリソソームプロテアーゼの各々は、様々な腫瘍の進行に関与している。腫瘍細胞からのこれらの異常に高い分泌は、細胞外マトリックス(ECM)の分解をもたらすと考えられる。エラスチン及びコラーゲンなどのECM構成成分のこの異常分解は、周辺正常組織へのこれらの異常細胞の浸透及び浸潤を加速する。
【0005】
カテプシンL様プロテアーゼは、N末端プロペプチドドメインを含有する不活性前駆体として生成される。このプロペプチドは、新生プロテアーゼのフォールディングのためのシャペロンとしても、活性種の阻害物質としても作用し、未成熟リソソームにおける該プロテアーゼの活性部位に結合することが以前に示されている。阻害試験は、CatSプロペプチド(CatSPP)が活性化CatSに対する低ナノモル範囲のKを有すること、並びに恐らく驚くべきことに、CatK及びCatLに対する同様の特性も有することを示したが、相同性の低いCatB、CatH又はパパインには影響しないことも示された。さらに、K及びLのプロペプチドが、同族ファミリーメンバーの各々に対し同様の均一な阻害プロファイルを持たないという点で、CatSPPのこの特性は独特である。
【0006】
CatS(カテプシンS)は、元々、ウシのリンパ節及び脾臓から同定され、ヒト型は、ヒトマクロファージcDNAライブラリーからクローニングされた(Shiら、1992年)。CatSをコードする遺伝子は、ヒト染色体1q21に位置する。CatS遺伝子にコードされた996塩基対転写物は、最初に分子量37.5kDaを有するプロセシングされていない前駆体タンパク質に翻訳される。プロセシングされていないタンパク質は、331個のアミノ酸から成り、15個のアミノ酸はシグナルペプチド、99個のアミノ酸はプロペプチド配列及び217個のアミノ酸はペプチドである。CatSは初めにシグナルペプチドにより発現され、シグナルペプチドは小胞体内腔に入った後除去される。プロペプチド配列は、プロテアーゼの活性部位に結合し、酸性のエンドソーム区画へ輸送されるまでこれを不活化する。この後、プロペプチド配列は除去され、プロテアーゼは活性化される(Bakerら、2003年)。
【0007】
CatSは、抗原添加前のインバリアント鎖の切断により、主要組織適合複合体クラスII(MHC−II)によって媒介される抗原提示における重要な酵素として同定された。複数の研究が、CatSが欠損したマウスは、APCによる外因性タンパク質を提示する能力が損なわれることを示している(Nakagawaら、1999年)。インバリアント鎖IiのプロセシングにおけるCatSの特異性は、喘息及び自己免疫障害などの状態の治療においてCatS特異的治療標的を可能にする(Chapmanら、1997年)。
【0008】
カテプシンLは、元々、ラット肝臓リソソームから単離された後、1988年にヒト型が同定された(Gal及びGottesman、1988年;Josephら、1988年)。CatLをコードする遺伝子は、ヒト染色体9q21〜22にマッピングされ(Fanら、1989年;Chauhanら、1993年)、8つのエキソン及び7つのイントロンから成る。遺伝子産物は、分子量39kDaを有するプレプロタンパク質に翻訳され、2つの酵素活性アイソフォーム、すなわち31kDaの一本鎖型、並びに24kDaの重鎖及び5kDaの軽鎖から成る二本鎖型にプロセシングされる(Masonら、1989年)。成熟活性酵素へのプロCatLのプロセシングは、自己触媒的活性(Salminen及びGottesman、1990年)を含む様々な機構を介して、及びCatD(Nishimuraら、1989年;Wiederanders及びKirschke、1989年)又はメタロエンドペプチダーゼ(Haraら、1988年)の活性により起こり得る。
【0009】
CatLは、エンドペプチダーゼ活性を有し、P2及びP3位置で疎水性アミノ酸残基とのペプチド結合を優先的に切断する(Kargelら、1980年、1981年)。CatLは、幾つかのタンパク質をカテプシンSと同じ特異的活性により加水分解することが示されている(Kirschkeら、1989年)。しかし、CatLは、P2位置では芳香族残基を好み、密接に関連したカテプシンS及びKとは異なる(McGrath、1999年)。
【0010】
CatLは、リソソームタンパク質分解及び骨吸収を含む多くの生物学的プロセス、並びに関節炎及び悪性腫瘍などの幾つかの疾患で主要な役割を果たすと提唱されている(Rukamp及びPowers、2002年)。抗原提示におけるリソソームシステインプロテアーゼの役割は、過去数年間で広く研究が行われた。CatLは、このプロセスに、皮質胸腺上皮細胞でIiタンパク質分解の最終ステップを行うCatLの能力を介して関与している。さらなるエビデンスは、Ii鎖のp41アイソフォームが、成熟CatLタンパク質と相互作用することができ、この活性を阻害しこれを中性pH環境に安定させることを示した(Organicら、1993年;Bevecら、1996年)。CatL欠損マウスに関する複数の研究は、胸腺の皮質上皮細胞ではインバリアント鎖を分解できないことが観察され(Nakagawaら、1998年)、CD4+T細胞選択において明らかな欠陥を示した(Rothら、2000年)。カテプシンLを欠くマウスは、毛包の形態形成の変化により周期的な脱毛及び表皮過形成も発症した。
【0011】
腫瘍浸潤及び転移におけるCatLの役割も、CatLの普遍的な発現並びに細胞外マトリックス及び基底膜のコンポーネントを分解する能力のため、極めて詳細に研究されている。CatL発現レベルの上昇は、乳癌、結腸癌、前立腺癌、腎臓癌及び星状細胞腫を含む様々な悪性腫瘍と関連している。
【0012】
最近のエビデンスは、CatLが転写活性化因子として機能する可能性があることも示唆した。CatLの別のアイソフォームが以前に報告されているが(Rescheleitら、1996年;Sethら、2003年)、N末端シグナルペプチドを欠いたアイソフォームは核に局在化することが示され、CDP/Cux転写因子のプロセシングにおけるCatLの役割を示唆している。この理論は、CDP/Cuxプロセシングが著しく低下するように思われた、CatL欠損線維芽細胞に関する研究により強化された(Gouletら、2004年)。
【0013】
カテプシンKは、1994年にウサギcDNAから初めてクローニングされた(Tezukaら、1994年)後、幾つかの独立グループによりこの翌年にヒトオルソログが記述された(Brommeら、1995年;Shiら、1995年;Inaokaら、1995年)。CatKをコードする遺伝子は、CatSと同じ遺伝子座であるヒト染色体1q21に位置しており、これら2つのプロテアーゼが共通起源を有する可能性があることを示唆している。CatKのプロモーター構造は、TATAボックスは無いが2つのAP−1部位があるCatSのプロモーター構造と類似しており、両者は限定された発現パターンを示す遺伝子の共通の特徴を有する。ヒトCatK発現は限局的であることが示されており、大部分は破骨細胞及び卵巣で見出される(Brommeら、1995年;Drakeら、1996年)。
【0014】
CatKのアミノ酸配列は、カテプシンS及びLと高い配列類似性を示し(それぞれ52%及び46%)、これら3つの遺伝子は共に、哺乳動物リソソームシステインプロテアーゼ内で小さなサブファミリーを形成する。CatKは、pH5.5で膵エラスターゼよりも大きな活性を有する、最も強力なエラスチン分解酵素の1つとして特徴付けられている(Brommeら、1996年;Chapmanら、1997年)。CatKは、コラーゲンタイプI、II及びIVの加水分解を触媒することもできる(Kafienahら、1998年)。
【0015】
CatKのコラーゲン分解活性の生理的関連性は、骨障害である濃化異骨症との関連を通じて説明される(Gelbら、1996年)。濃化異骨症は、骨硬化症及び重度の骨異形成を特徴とする常染色体劣性形態である。骨粗鬆症は、骨吸収及び骨形成の間のバランスが乱され、吸収が有利に働く場合に起こる。吸収は、結合部位に酸性環境をもたらす破骨細胞により媒介され、破骨細胞の結合部位では、基質のタンパク質分解が生じる。CatKは、濃化異骨症患者におけるナンセンス変異、ミスセンス変異及びストップコドン変異の同定により、このプロセスに関与していた(Gelbら、1996年)。CatKノックアウトマウスも、破骨細胞における基質分解活性の低下を示すが、マウス表現型はヒト条件より重度ではない(Saftigら、1998年)。
【0016】
CatK発現は、破骨細胞系では炎症部位で及びレチノイン酸によりアップレギュレートされるように思われる(Saneshigeら、1995年)。CatK発現は、骨癌、前立腺癌及び乳癌の巨細胞腫(Brubakerら、2003年;Littlewood−Evansら、1997年)並びに関節リウマチ患者の滑膜線維芽細胞(Hummelら、1998年)で検出されている。
【0017】
カテプシンVは、CatLとの相同性が極めて高い(78%)システインプロテアーゼとしてヒト脳cDNAライブラリーから初めて同定された(Santamariaら、1998年)。さらに、CatVをコードする遺伝子は、ヒト染色体9q21〜22に、CatLに隣接してマッピングされた。CatLとV遺伝子との間の高い相同性及び近い近接性は、2つのプロテアーゼが共通の先祖の前駆体から進化した可能性があることを示唆する(Itohら、1999年;Brommeら、1999年)。しかし、CatLで観察された広範な発現パターンが、胸腺、精巣及び角膜上皮に発現が限定されるCatVに模倣されることはなかった(Adachiら、1998年、Brommeら、1999年、Tolosaら、2003年)。このプロテアーゼの限定された組織発現は、特殊化された機能を示すものであり、CatVは、特定の細胞タイプにおけるMHCクラスII抗原提示に不可欠であると考えられる(Shiら、1999年;Tolosaら、2003年)。他のヒトカテプシンとの配列アラインメントは、CatVをCatL、S及びKと同じヒトC1ペプチダーゼ系統枝に位置づけた(Buhlingら、2000年)。
【0018】
カテプシンの病理学的関連性
プロテアーゼ発現パターンの変化は、多くのヒト病理過程の基礎をなす。カテプシンの脱制御された(deregulated)発現及び活性は、神経変性障害、自己免疫疾患及び腫瘍形成を含む一連の状態と関連があった。
【0019】
CatSアップレギュレーションは、幾つかの神経変性障害と関連があった。CatSは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)からのβペプチド(Aβ)産生に関与すると考えられ(Mungerら、1995年)、CatSの発現は、アルツハイマー病及びダウン症候群の両方でアップレギュレートされることが示された(Lemereら、1995年)。CatSは、多発性硬化症の病因に関与している可能性のある自己抗原である、ミエリン塩基性タンパク質を分解するCatSの能力を介して多発性硬化症(Beckら、2001)及びクロイツフェルト−ヤコブ病にも関与している可能性があり、クロイツフェルト−ヤコブ病患者では、CatS発現は、4倍を超えて増加することが示された(Bakerら、2002年)。
【0020】
異常CatS発現は、アテローム性動脈硬化症とも関連があった。CatS発現は、正常な動脈ではごくわずかであるが、ヒトアテロームは強力な免疫反応性を示す(Sukhovaら、1998年)。CatS及びLDL受容体の両方が欠損した、ノックアウトマウスを用いたさらなる研究は、アテローム性動脈硬化症の発症が有意に少ないことを示した(Sukhovaら、2003年)。さらなる研究は、炎症性筋疾患及び関節リウマチとCatS発現を関連づけた。炎症性筋疾患患者由来の筋生検標本は、対照筋切片と比べてCatS発現が10倍に増加しており(Wiendlら、2003年)、CatS発現レベルは、変形性関節症患者と比べて関節リウマチ患者由来の滑液で有意に高かった(Hashimotoら、2001年)。
【0021】
CatSの役割は、特定の悪性腫瘍においても研究された。CatS発現は、正常組織と比べて肺腫瘍切片及び前立腺癌切片で有意に高いことが示され(Kosら、2001年、Fernandezら、2001年)、CatSが腫瘍浸潤及び疾患進行に関与している可能性のあることが示唆された。
【0022】
本研究所でのCatSに関する最近の研究は、ヒト星状細胞腫におけるCatS発現の重要性を立証した(Flanneryら、2003年;Flanneryら、2006年)。免疫組織化学分析は、WHOグレードI〜IV由来のヒト星状細胞腫生検標本パネルでCatS発現を示したが、正常な星状膠細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト及び内皮細胞を欠如するように思われた。CatS発現は、グレードIV腫瘍で最も高いように思われ、細胞外活性レベルは、グレードIV腫瘍由来の培養物において最大であった。
【0023】
CatSは、ラミニン、コラーゲン、エラスチン及びコンドロイチン硫酸プロテオグリカンなどのECM巨大分子の分解に活性であることが示され(Liuzzoら、1999年)、U251MGグレードIVグリア芽腫細胞系を用いた浸潤アッセイは、CatS阻害剤LHVS29の存在下では浸潤が最大61%減少することを示した(Flanneryら、2003年)。これは、CatSが、星状細胞腫における腫瘍浸潤プロセスで重要な役割を果たしている可能性があり、したがって抗浸潤治療の標的となり得ることを示唆する。
【0024】
CatLもまた、腫瘍形成を含む一連の異なる病的状態において重要な役割を果たすことが見出された。CatLノックアウトマウスの作製は、表皮恒常性、毛周期の調節、及び胸腺の皮質上皮細胞でのMHCクラスII媒介抗原提示における重大な役割を明らかにした。
【0025】
CatK発現は、以前に、骨粗鬆症及び特定の悪性腫瘍を含む一連の異なる病態と関連づけられた。稀な骨格状態である、濃化異骨症は、CatKの欠損が原因である。CatKは通常、タイプ1コラーゲン及び他の骨タンパク質を分解するために機能する(Motyckova及びFisher、2002年)。濃化異骨症患者由来の破骨細胞は、カテプシンK遺伝子内の突然変異による機能障害である(Gelbら、1996年)。
【0026】
CatK発現は、肺腺癌と関連しているが、非浸潤性気管支肺胞癌を欠いており、肺癌の浸潤性増殖の潜在的マーカーの役目をする(Rapaら、2006年)。さらに、CatKもまた、骨の巨大細胞腫における主要なプロテアーゼとして同定され(Lindemanら、2004年)、乳癌との関連(Littlewood−Evansら、1997年)が示された。したがって、CatK阻害剤の開発は、特に骨粗鬆症、骨転移及び多発性骨髄腫など、過剰な破骨細胞活性化及び骨吸収を来す病的状態において大きな可能性を有する。
【0027】
CatVは、元々、CatLとの相同性が極めて高い(78%)システインプロテアーゼとして結腸直腸癌及び乳癌、並びに特定の卵巣癌及び腎細胞癌で同定された(Santamariaら、1998年)。さらに、CatVの遺伝子は、ヒト染色体9q21〜22に、CatLに隣接してマッピングされた。これらのコード遺伝子の高い相同性及び近い近接性は、2つのプロテアーゼが共通の先祖の前駆体から進化した可能性があることを示唆する(Itohら、1999年;Brommeら、1999年)。しかし、CatLが広範な組織発現を有するのに対し、CatVは通常、胸腺、精巣及び角膜上皮に限定される(Adachiら、1998年、Brommeら、1999年)。このプロテアーゼの限定された組織発現は、特殊化された機能を示すものであり、CatVは、特定の細胞タイプにおけるMHCクラスII抗原提示に不可欠であると考えられる(Shiら、1999年;Tolosaら、2003年)。
【0028】
カテプシンL様プロテアーゼの発現及び活性の増加は、一連の疾患で観察されており、これらの病因に関与していた。したがって、これらのプロテアーゼを特異的に標的にする阻害剤の生成は、治療薬としての可能性を有する。
【0029】
カテプシンL様プロテアーゼの阻害
プロテアーゼが過剰発現されている場合、治療戦略はこの酵素活性を遮断する阻害剤の開発が中心であった。カテプシンに対する特定の小分子阻害剤の生成は、選択性及び特異性の問題のため困難であることが過去に判明している。CatSに対する強力な可逆的阻害剤としてWalkerらにより開発されたジペプチドα−ケト−β−アルデヒドは、CatB及びLの阻害能力を有してはいたが、効率が低く(Walkerら、2000年)、CatS阻害剤4−モルホリンウレア−Leu−HomoPhe−ビニルスルホン(LHVS)も、高濃度で使用した場合、他のカテプシンを阻害することが示された(Palmerら、1995年)。
【0030】
CatL様プロテアーゼ向けの小分子阻害剤の開発は、可逆的阻害剤及び不可逆的阻害剤のいずれも十分に記述されている。こうした化合物の臨床応用は、乏しい特異性、正常組織でのプロテアーゼ阻害、及びバイスタンダータンパク質に反応する可能性のため問題がある(Turkら、2004年)。したがって、分泌されたタンパク質分解活性のみを標的にできる代替戦略が魅力的である。さらに、プロテアーゼのこのサブファミリーに高い選択性を有するが、このグループ内での特異性が幅広い阻害剤は、遺伝子ノックアウト試験から明らかになった機能の重複のため、より有用であることが判明する可能性がある(Saftigら、1998年;Nakagawaら、1998年;Nakagawaら、1999年)。
【0031】
特徴付けられた全プロペプチドのうち、CatSPPは、CatSに加えてCatL及びCatK双方の同様に効果的な阻害剤であることから、最も興味深い阻害動態プロファイルを有する。Maubach及び共同研究者は競合的酵素結合アッセイにおいて、CatSPPが、CatS(K0.27nM)及びCatL(K0.36nM)の等効力の阻害剤であることを示した(Maubachら、1997年)のに対し、より最近の研究は、CatSPPが実際はCatS(K7.6nM)よりもCatL(K0.46nM)のより強力な阻害剤であり、CatK(K7.0nM)に対しほぼ同じ効果を有することを示唆している(Guayら、2000年)。
【0032】
上述の通り、通常では、天然プロペプチドであるカテプシンの活性化は、コンフォメーション変化を受け、放出される。放出後、プロペプチドは不要になると推測される。
【発明の開示】
【0033】
本発明者らは、驚くべきことに、外因的に適用したカテプシンSプロペプチド(CatSPP)が、浸潤癌モデルにおいてカテプシンL様プロテアーゼ活性に対し強力な特異的阻害作用を有することを示した。システインカテプシンプロテアーゼがインビボで活性化されると、レムナントプロペプチドフラグメントは不要となり、該プロテアーゼに対しもはや効果をもたらすことはできないと考えられることから、この結果は特に予想外であった。インビボでの同じ条件下では、外因的に付加したプロペプチドは、なんの効果も持たないと考えられている。さらに、プロペプチドは本来塩基性であることから、細胞内及び細胞上に存在するトリプシン様活性は、いずれの外因性プロペプチドも分解すると予想されよう。
【0034】
これらの結果は、予測に反して、カテプシンプロペプチドが癌細胞の浸潤又は転移の進行を弱めるのに使用でき、故に治療の状況で使用できることを示している。
【0035】
したがって、本発明の第1の態様では、細胞又は組織におけるカテプシンL様プロテアーゼ活性の阻害方法であって、前記細胞又は組織へのカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸の投与を含む前記方法が提供される。
【0036】
1つの実施形態では、方法はインビトロである。別の実施形態では、方法はインビボである。
【0037】
活性は完全に又は部分的に阻害され得る。故に方法は、正常活性に対する異常活性を減少させるのに使用され得る。
【0038】
本発明の第2の態様では、細胞又は組織におけるカテプシンL様プロテアーゼの過剰発現の阻害方法であって、前記細胞又は組織へのカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸の投与を含む前記方法が提供される。
【0039】
さらなる態様では、カテプシンL様プロテアーゼの過剰発現及び/又は異常活性に関連した状態の治療を必要とする患者におけるこの状態の治療方法であって、カテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸の投与を含む前記方法が提供される。
【0040】
さらに、医薬に使用するためのカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸が提供される。
【0041】
本発明はさらに、カテプシンL様プロテアーゼの過剰発現及び/又は異常活性に関連した状態の治療に使用するためのカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸を提供する。
【0042】
また、カテプシンL様プロテアーゼの過剰発現及び/又は異常活性に関連した状態を治療するための医薬品の製造におけるカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸の使用も提供される。
【0043】
さらなる態様では、本発明は、カテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸を含む医薬組成物を提供する。
【0044】
カテプシンL様プロテアーゼは、カテプシンLプロテアーゼ、カテプシンSプロテアーゼ、カテプシンKプロテアーゼ及びカテプシンVプロテアーゼから成る。
【0045】
本発明で使用するためのカテプシンプロペプチドは、任意の種のカテプシンプロペプチドであってもよい。1つの実施形態では、種は、例えば、マウス、ラット、ヒトなどの哺乳動物種である。1つの実施形態では、カテプシンプロペプチドは、例えばアクセッション番号M90696に開示されているカテプシンSプロテアーゼのアミノ酸残基17から113に相当するアミノ酸配列を有する(図3に示されたアミノ酸配列のアミノ酸残基13から109として再現された)ヒトカテプシンプロペプチドなどのヒトカテプシンプロペプチドである。
【0046】
本発明の状況では、カテプシンプロペプチドには、野生型哺乳動物カテプシンプロペプチドのアミノ酸配列又はこのフラグメント若しくは誘導体を含むカテプシンプロペプチドが含まれる。1つの実施形態では、カテプシンプロペプチドは、野生型哺乳動物カテプシンプロペプチドのアミノ酸配列を有するペプチドから成る。
【0047】
1つの実施形態では、本発明で使用するためのカテプシンプロペプチド又はこの誘導体若しくはフラグメントは、例えば、アクセッション番号M90696に開示されているカテプシンSプロテアーゼのアミノ酸17から113から成る(図3bに示されたアミノ酸配列のアミノ酸残基13から109として再現された)カテプシンSプロペプチドである。
【0048】
カテプシンプロペプチドは、例えばポリHisタグなどのタグを組み込み得る。1つの実施形態では、カテプシンプロペプチドは、図3bのアミノ酸配列1〜118として示されたようなポリHisタグを有するカテプシンプロペプチドである。
【0049】
実施例に記載の通り、抗体Fc部分に融合されたカテプシンプロペプチドを用いる場合、腫瘍浸潤の特に強力な阻害は、腫瘍浸潤アッセイで立証された。カテプシンプロペプチドをFc部分との融合ペプチドとして提供することで、分子の形は変化すると予測されたことから、カテプシンプロペプチドが浸潤を阻害する能力を保持しただけでなく、この阻害活性がFc部分の無いカテプシンプロペプチドの活性よりも有意に高かったことは特に驚きであった。
【0050】
したがって、本発明の1つの実施形態では、カテプシンプロペプチドは抗体Fc部分を含む。1つのこうした実施形態では、Fc部分は、例えばマウスIgGタイプb Fc部分などのIgGタイプb Fc部分である。
【0051】
本発明で使用するためのカテプシンプロペプチドは、カテプシンL様プロテアーゼの異常発現が関連した任意の状態の治療において使用され得る。例えば、本発明が使用され得る状態には、腫瘍性疾患、炎症性障害、神経変性障害、自己免疫障害、喘息、又はアテローム性動脈硬化症が含まれるが、これらに限定されない。本発明の1つの実施形態では、状態は、カテプシンSの過剰発現及び/又は異常活性に関連した状態である。
【0052】
各々の他の態様に関しては、状況が特に求めない限り必要に応じて変更を加えることが、本発明の各態様の好ましい特徴である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
上述の通り、及び実施例で立証されている通り、本発明者らは、予想に反して、カテプシンプロペプチドがカテプシンL型プロテアーゼ活性を、特にCatS、CatL、CatV及びCatKの活性を強力に阻害する働きがあることを腫瘍浸潤アッセイで示し、並びにカテプシンプロペプチドが、修正ボイデンチャンバー浸潤アッセイ(modified Boyden chamber invasion assay)を用いた乳癌、結腸癌、前立腺癌及び星状細胞腫モデルにおいて腫瘍浸潤を強力に遮断することを示した。これらの結果は、この分子が腫瘍形成に対し、浸潤性又は転移性癌細胞の進行を減弱する効果を有することを立証するものである。
【0054】
カテプシンプロペプチド
本発明で使用するためのカテプシンプロペプチドは、例えば哺乳動物種など、任意の種のカテプシンプロペプチドであってよい。1つの実施形態では、カテプシンプロペプチドは、例えばM90696のアミノ酸残基17から113の配列に相当する配列を有するアミノ酸(図3bに示されたアミノ酸配列のアミノ酸残基13から109として再現された)を含むカテプシンプロペプチドなどの、ヒトカテプシンプロペプチドである。
【0055】
本発明の状況では、カテプシンプロペプチドには、野生型哺乳動物カテプシンプロペプチドのアミノ酸配列又はこのフラグメント若しくは誘導体を含むカテプシンプロペプチドが含まれる。1つの実施形態では、カテプシンプロペプチドは、野生型哺乳動物カテプシンプロペプチドのアミノ酸配列を有するペプチドから成る。
【0056】
1つの実施形態では、本発明で使用するためのカテプシンプロペプチド又はこの誘導体若しくはフラグメントは、カテプシンL型プロテアーゼプロペプチドである。例えば、本発明で使用するためのカテプシンプロペプチド又はこの誘導体若しくはフラグメントは、カテプシンSプロペプチドであってよい。
【0057】
本発明で使用するためのカテプシンプロペプチドのフラグメントとは、一般に少なくとも10個の隣接するアミノ酸の、例えば、野生型カテプシンプロペプチドの少なくとも50個以上の連続するアミノ酸といった、少なくとも30個など、典型的には少なくとも20個の隣接するアミノ酸の、アミノ酸残基の一続きを意味する。
【0058】
本発明で使用するためのカテプシンプロペプチドの「誘導体」とは、典型的には、野生型カテプシンプロペプチドと比べ、アミノ酸配列を改変することで、例えば、該タンパク質をコードする核酸の操作により、又は該タンパク質自体を変化させて修飾されるポリペプチドを意味する。こうした誘導体は、1個又は複数個のアミノ酸の挿入、付加、欠失及び/又は置換を伴い得る。1つの実施形態では、誘導体は、例えば15個以下など25個以下のアミノ酸の、例えば1個又は2個のアミノ酸のみなど5個以下のアミノ酸といった、典型的には10個以下のアミノ酸の、挿入、付加、欠失及び/又は置換を含み得る。カテプシンプロペプチドペプチドの誘導体は、天然アミノ酸以外のアミノ酸又は置換アミノ酸を含有し得る。例えば、誘導体はペプチド模倣剤から得ることができる。
【0059】
本発明の1つの実施形態では、カテプシンプロペプチドはFc部分を含む。
【0060】
本発明で使用され得るカテプシンプロペプチドのフラグメント又は誘導体は、好ましくはカテプシンプロペプチド機能活性を保持する。前記活性は、例えば修正ボイデンチャンバー浸潤アッセイを用いる、例えば腫瘍モデルにおいて、腫瘍浸潤を阻害する能力である。1つの実施形態では、カテプシンプロペプチドフラグメント又は誘導体は、野生型ヒトカテプシンプロペプチドの腫瘍浸潤阻害活性の少なくとも50%、例えば少なくとも75%、少なくとも85%、又は少なくとも90%を保持する。
【0061】
本発明で使用するためのカテプシンプロペプチド、フラグメント及び誘導体は、当技術分野で既知の任意の方法を用いて生成され得る。
【0062】
しかし、本発明者らは、カテプシンプロペプチドの簡易化組換え製造のための新規な簡易化方法を開発した。実施例に示された通り、本発明者らは、組換えカテプシンプロペプチドが、N末端ヘキサヒスチジンタグによりうまく発現され得、リフォールド金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)を用いて精製され得ることを立証した。
【0063】
したがって、本発明の1つの態様では、カテプシンプロペプチドは、金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)を含む精製ステップを伴う方法により製造される。
【0064】
実際、本発明のさらなる独立した態様では、カテプシンプロペプチドの組換え製造方法が提供される。前記方法は、N末端ポリヒスチジンタグによるカテプシンプロペプチドの発現、及び金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)を用いた発現プロペプチドの精製を含む。1つの実施形態では、プロペプチドは尿素含有緩衝液の存在下で精製される。
【0065】
IMACの原理は、一般に当業者に理解されている。吸着は、吸着マトリックスでのキレート化により固定化された金属イオンと、結合するタンパク質表面の接近可能な電子供与アミノ酸との間の金属配位複合体の形成が前提になると考えられる。
【0066】
同様に、組換えタンパク質へのポリヒスチジンタグの付加は、当技術分野でよく知られている(例えば、米国特許第4,569,794号を参照のこと)。
【0067】
核酸
本発明の、及び本発明で使用するための核酸は、DNA又はRNAを含み得る。核酸は、組換え的に、合成的に、又は標準的方法を用いたクローニングを含む、当業者に利用可能な任意の手段により製造され得る。
【0068】
核酸は、任意の適切なベクターに挿入され得る。1つの実施形態では、ベクターは発現ベクターであり、核酸は、宿主細胞での核酸発現を提供できる対照配列に操作可能に結合される。様々なベクターが使用され得る。例えば、適切なベクターには、ウイルス(例えばワクシニアウイルス、アデノウイルス、バキュロウイルスなど);酵母ベクター、ファージ、染色体、人工染色体、プラスミド、又はコスミドDNAが含まれる。
【0069】
ベクターは、核酸を宿主細胞に導入するのに使用され得る。様々な宿主細胞が、本発明で使用するための核酸の発現に使用され得る。本発明で使用するための適切な宿主細胞は、原核生物又は真核生物であってよい。これらには、例えば大腸菌などの細菌、酵母、昆虫細胞及び哺乳動物細胞が含まれる。使用され得る哺乳動物細胞系には、チャイニーズハムスター卵巣細胞、ベビーハムスター腎細胞、NSOマウスメラノーマ細胞、サル及びヒト細胞系及びこの誘導体並びに多くの他の細胞系が含まれる。
【0070】
遺伝子産物の発現を調節し、修飾し、及び/又は特異的に処理する宿主細胞株が使用され得る。こうしたプロセシングは、グリコシル化、ユビキネーション、ジスルフィド結合形成及び一般的な翻訳後修飾を伴い得る。
【0071】
例えば、核酸構築物の調製、突然変異誘発、シークエンシング、細胞へのDNA導入及び遺伝子発現などにおける核酸操作、並びにタンパク質分析のための既知の方法及びプロトコルに関する詳細は、例えば、Current Protocols in Molecular Biology、第2版、Ausubelら編、John Wiley & Sons、1992年及び、Molecular Cloning: a Laboratory Manual: 第3版 Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2000年などを参照のこと。
【0072】
治療
「治療」には、ヒト又はヒト以外の動物に利益をもたらすことができる任意のレジメンが含まれる。治療は、既存状態に関するものであり得、又は予防(予防治療)であり得る。治療には、治癒的、緩和的又は予防的効果が含まれ得る。
【0073】
本発明の、並びに本発明で使用するためのカテプシンプロペプチド、核酸及び方法は、幾つかの病状の治療において使用され得る。これらには、炎症性障害、神経変性障害、自己免疫障害、癌、喘息及びアテローム性動脈硬化症が含まれる。特に、これらは、カテプシンプロテアーゼの過剰発現(すなわち、類似した同等の正常な健常細胞での発現よりも多い)及び/又は異常活性(例えば類似した同等の正常な健常細胞での活性よりも大きい)に関連した状態の治療において使用され得る。
【0074】
本発明の、並びに本発明で使用するためのプロペプチド、核酸及び方法は、癌治療において使用され得る。「癌治療」には、癌性増殖が原因である状態の治療が含まれ、腫瘍性増殖又は腫瘍の治療が含まれる。本発明は、特に既存の癌の治療、及び初期治療又は手術後の癌の再発予防において有用であり得る。
【0075】
本発明を用いて治療することができる腫瘍の例には、例えば、骨肉腫及び軟部組織肉腫を含む肉腫、例えば、乳癌、肺癌、膀胱癌、甲状腺癌、前立腺癌、結腸癌、直腸癌、膵臓癌、胃癌、肝臓癌、子宮癌、前立腺癌、子宮頸癌及び卵巣癌などの悪性腫瘍、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫、神経芽腫、メラノーマ、骨髄腫、ウイルムス腫瘍、並びに急性リンパ性白血病及び急性骨髄性白血病を含む白血病、星状細胞腫、神経膠腫並びに網膜芽細胞腫などが含まれる。
【0076】
1つの実施形態では、癌は、乳癌、結腸癌、前立腺癌及び星状細胞腫から選択される。
【0077】
本発明を用いて治療され得る炎症性及び/又は自己免疫障害には、多発性硬化症、グレーブス病、炎症性筋疾患及び関節リウマチが含まれる。
【0078】
本発明の結合メンバー、核酸及び方法を用いて治療され得る神経変性障害には、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症及びクロイツフェルト−ヤコブ病が含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
本発明の方法を用いて治療され得る他の状態には、アテローム性動脈硬化症及び結核が含まれる。アテローム性動脈硬化症及び肥満を異常CatSと結びつけるエビデンスが示されている。カテプシンLは、感染においてTB抗原を処理することが示されており、故に恐らくこの適正な処理を妨げる。
【0080】
医薬組成物
本発明の、並びに本発明で使用するためのプロペプチド及び核酸は、医薬組成物として投与され得る。本発明による、及び本発明に従って使用するための医薬組成物は、活性成分に加えて医薬的に許容な可能な賦形剤、キャリア、緩衝液、安定剤又は当業者によく知られた他の物質を含み得る(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、Gennaro ARら編、Lippincott Williams & Wilkins、2005年を参照のこと)。こうした物質には、酢酸、トリス、リン酸、クエン酸、及びその他の有機酸などの緩衝液;抗酸化剤;防腐剤;血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;炭水化物;キレート剤;等張化剤;又は界面活性剤が含まれる。
【0081】
組成物は、好ましくは本発明のプロペプチド、核酸又は組成物の活性に悪影響を与えない補助活性を有する、特定の治療適応のため必要に応じて選択された1つ又は複数のさらなる活性化合物を含有することもできる。例えば、癌治療では、カテプシンプロペプチドに加えて、製剤は、1つ又は複数のカテプシンL様プロテアーゼに結合する抗体、又は例えば特定の癌の増殖に影響を与える増殖因子など、幾つかの他の標的に対する抗体、及び/又は化学療法剤を含んでよい。
【0082】
活性成分(例えば、プロペプチド及び/又は化学療法剤)は、マイクロスフェア、マイクロカプセルリポソーム、その他の微粒子送達システムを介して投与され得る。例えば、活性成分は、例えば、コアセルベーション技術若しくは界面重合(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ−(メチルメタクリレートマイクロカプセル)により調製され得るマイクロカプセル内、コロイド薬物送達システム中(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョン中に封入することができる。さらなる詳細については、Remington: The Science and Practice of Pharmacy、第21版、Gennaro ARら、編、Lippincott Williams & Wilkins、2005年を参照のこと。
【0083】
持続放出製剤は、活性剤の送達に使用され得る。持続放出製剤の適切な例には、マトリックスが、例えばフィルム、座薬又はマイクロカプセルなどの造形品の形態である、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが含まれる。持続放出マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸及びγ−エチル−L−グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、並びにポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。
【0084】
本明細書に記載のプロペプチドは、少なくとも幾つかの実施形態では、内科的治療のためヒト又は他の哺乳動物に投与されることが意図される。
【0085】
ペプチドは、典型的には非経口的に投与され、血漿プロテアーゼにより容易に代謝され得る。恐らく最も魅力的な投与経路である経口投与は、より問題となり得る。胃では、酸がペプチドを分解し、酵素がペプチドを破壊する。残存して腸管に入るペプチドは、胃及び膵酵素、エキソ及びエンドペプチダーゼ、並びに刷子縁ペプチダーゼを含む、様々な酵素により絶えず攻撃されるため、別のタンパク質分解を受ける。この結果、腸管腔から血流へのペプチドの通過は、著しく制限され得る。しかし、治療ペプチドの非経口及び経口投与を可能にする様々なプロドラッグが開発されている。
【0086】
ペプチドは、ポリマー部分など様々な部分に結合して、例えば、酸及び酵素分解耐性を増加し、こうした薬剤の粘膜貫通を増大するなど、ペプチド剤の生理化学特性を修飾することができる。例えば、Abuchowski及びDavisは、水溶性の、非免疫原性の、インビボで安定化したプロドラッグを得るために酵素を誘導体化する様々な方法を記載している(「Soluble polymer−Enzyme adducts」、Enzymes as Drugs、編Holcenberg及びRoberts、J.Wiley及びSons、ニューヨーク、N.Y.(1981年))。Abuchowski及びDavisは、デキストラン、ポリビニルピロリドン、グリコペプチド、ポリエチレングリコール及びポリアミノ酸などのポリマー材料と酵素を結合させる様々な方法を考察している。得られた結合ポリペプチドは、非経口適用のための生物活性及び水への可溶性を保持する。米国特許第4,179,337号は、生理学的に活性な非免疫原性の水溶性ポリペプチド組成物を得るため、分子量500から20,000ダルトンを有するポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールにペプチドを結合することを教示する。ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールは、ポリペプチドが活性を喪失するのを防ぎ、実質的な免疫原性応答なしに組成物を哺乳動物循環系に注入することができる。
【0087】
米国特許第5,681,811号、米国特許第5,438,040号及び米国特許第5,359,030号は、親油性及び親水性部分を含むオリゴマーに結合した治療剤を含む、安定化した、結合ポリペプチド複合体を開示する。Garmenらは、タンパク質−PEGプロドラッグを記載する(Garman,A.J.及びKalindjian,S.B.、FEBS Lett.、1987年、223、361〜365頁)。プロドラッグは、先ず多分散MPEG5000から無水マレイン酸試薬を調製し、次いでこの試薬を本明細書に開示されたペプチドに結合して、この化学を用いて調製することができる。無水マレイン酸とのアミノ酸の反応はよく知られている。アミン含有薬剤を改良するためのマレイル−アミド結合の加水分解は、隣接した遊離カルボキシル基の存在、及び二重結合により生じた攻撃の形状により助長される。ペプチドは、生理学的条件下で(プロドラッグの加水分解により)放出され得る。
【0088】
このような戦略は、本発明で使用するためのプロペプチドを送達するのに使用することができる。
【0089】
ペプチドはまた、分解可能な結合、例えば、Roberts,M.J.ら、Adv.Drug Delivery Rev.、2002年、54、459〜476頁に(ペグ化インターフェロンα−2bに関して)示された分解可能な結合などを介して、多分散PEGなどのポリマーに結合することもできる。
【0090】
ペプチドはまた、1,6又は1,4ベンジル脱離(BE)戦略(Lee,S.ら、Bioconjugate Chem.、(2001年)、12、163〜169頁;Greenwald,R.B.ら、米国特許第6,180,095号、2001年;Greenwald,R.B.ら、J.Med.Chem.、1999年、42、3657〜3667頁を参照のこと。);トリメチルロックラクトン化(TML)の使用(Greenwald,R.B.ら、J.Med.Chem.、2000年、43、475〜487頁);水酸基末端カルボン酸リンカーへのPEGカルボン酸リンカーの結合(Roberts,M.J.、J.Pharm.Sci.、1998年、87(11)、1440〜1445頁)、並びにカルバミン酸塩及びPEGアミド又はエーテル間のメタ関係を伴うプロドラッグ構造(米国特許第6,413,507号);及び加水分解機構とは反対の還元機構を伴うプロドラッグ(Zalipsky,S.ら、Bioconjugate Chem.、1999年、10(5)、703〜707号)を含め、カルバミン酸アリルを介してアミン含有薬剤に結合したMPEGフェニルエーテル及びMPEGベンズアミドのファミリーを含むPEGプロドラッグ(Roberts,M.J.ら、Adv.Drug Delivery Rev.、2002年、54、459〜476頁)を用いてPEGなどのポリマーに結合することもできる。
【0091】
幾つかのアプローチは、胃腸管でのタンパク質及びペプチドの分解速度を遅くする酵素阻害剤の使用を伴い、本明細書に記載のプロペプチドに使用することができる。これらには、局所消化酵素を不活化するpH操作;傍細胞輸送及び経細胞輸送の増加によるペプチド吸収を改善する透過促進剤の使用;腸上皮、特に、パイエル板によるインタクトな吸収を促進し酵素分解耐性を増加する微粒子キャリアとしてのナノ粒子の使用;腸管腔での化学及び酵素分解から薬剤を保護する乳濁液;並びに水溶化しにくい薬剤のためのミセル製剤が挙げられる。
【0092】
幾つかのケースでは、ペプチドは、ペプチドが胃で放出されないように、腸溶コーティングされた適切なカプセル又は錠剤で提供され得る。或は、又はさらに、ペプチドは、プロドラッグとして提供され得る。1つの実施形態では、ペプチドは、プロドラッグとしてこれらの薬剤送達デバイス中に存在する。
【0093】
ペプチドの遊離アミノ基、ヒドロキシル基、又はカルボン酸基は、ペプチドをプロドラッグに変換するのに使用することができる。プロドラッグには、1個のアミノ酸残基、又は2個以上(例えば、2、3又は4個)のアミノ酸残基のポリペプチド鎖が、様々なポリマー、例えば、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールの遊離アミノ基、ヒドロキシ基若しくはカルボン酸基にペプチド結合を介して共有結合した化合物が含まれる。プロドラッグには、炭酸塩、カルバミン酸塩、アミド及びアルキルエステルが、C末端カルボン酸を介して上記ペプチドに共有結合した化合物も含まれる。
【0094】
本発明のペプチド(プロペプチド)を含むプロドラッグ、又は本発明のペプチド(アナログ及びフラグメントを含む)を放出する若しくは放出可能なプロドラッグは、本発明の誘導体とみなされる。
【0095】
ペプチド模倣剤
本発明は、さらに、治療ペプチドとして使用することができる模倣プロペプチドの使用を包含する。模倣プロペプチドは、本明細書に記載のカテプシンプロペプチドの生物活性を模倣する短いペプチドである。このような模倣ペプチドは、ファージディスプレイ又はコンビナトリアルケミストリーなど当技術分野で既知の、だがこれらに限定されない方法から得ることができる。例えば、Wrightonら、Scince 273:458〜463頁(1996年)により開示された方法は、模倣QUB698.8ペプチドを生成するのに使用することができる。
【0096】
上述の通り、カテプシンプロペプチドをコードする核酸は、治療方法に使用することもできる。こうした核酸は、当技術分野で既知の任意の適切な方法を用いて目的とする細胞に送達され得る。核酸(場合によりベクターに含有される)は、インビボ又はエクスビボ方法を用いて患者の細胞に送達され得る。インビボ方法では、ウイルスベクター(アデノウイルス、単純ヘルペスIウイルス、又はアデノ随伴ウイルスなど)によるトランスフェクション、及び脂質ベース系(遺伝子の脂質媒介導入のための有用な脂質は、例えば、DOTMA、DOPE及びDC−Chol)が使用され得る(Andersonら、Science 256: 808〜813頁(1992年)を参照のこと。国際公開93/25673号パンフレットも参照のこと)。
【0097】
エクスビボ方法では、核酸は、患者に直接投与される又は、例えば、患者に移植される多孔質膜内に封入して投与される修飾細胞により、患者の単離細胞に導入される(例えば米国特許第4,892,538号及び5,283,187号を参照のこと)。核酸を生存細胞に導入するのに利用可能な技法には、レトロウイルスベクター、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿方法などの使用が含まれ得る。
【0098】
プロペプチド、核酸、薬剤、生成物若しくは組成物は、局在化した方法で腫瘍又は他の所望の部位に投与することができ、又は腫瘍若しくは他の細胞を標的にする方法で送達することができる。ターゲティング治療は、抗体又は細胞特異的リガンドなどの標的系の使用により、活性薬剤を特定の細胞タイプへより特異的に送達するのに使用することができる。ターゲティングは、例えば薬剤が許容し難いほど毒性がある場合、又はそうしなければあまりに高用量を必要とすることになる場合、又はそうしなければ標的細胞に侵入できなくなる場合など、様々な理由のため望ましい場合がある。
【0099】
用量
本発明のプロペプチド、核酸又は組成物は、好ましくは、個体に対する利益を示すのに十分な量である、「治療有効量」で個体に投与される。実際の投与レジメンは、治療する状態、この重症度、治療する患者、使用する薬剤を含む幾つかの要因に依存し、医師の裁量によるであろう。
【0100】
最適量は、例えば、年齢、性別、体重、治療する状態の重症度、投与する活性成分及び投与経路を含む幾つかのパラメータを基に、医師により決定され得る。
【0101】
本発明は、これより、以下の非限定例においてさらに記載される。添付図を参照する。
【実施例】
【0102】
材料及び方法
CatSPPのクローニング及び発現
残基17〜113のヒトCatSPPを、それぞれBamHI及びSalI制限部位(下線)を含有するプライマーCATSPPF(5’ TTT TTTGGATCCCAGTTGCATAAAGATCCTAC)及びCATSPPR(5’ TTTTTTGTCGACCCGATTAGGGTTTGA)を用いて、ヒト脾臓cDNAライブラリー(Origene社)から増幅した。330bpの予測バンドを、アガロース電気泳動で視覚化した。このバンドをゲル精製し、下流操作のためN末端ヘキサヒスチジンタグを組み込んだpQE30(Qiagen社)にBamHI及びSalIを用いてクローニングした。陽性クローンをコロニーPCRで同定し、配列をアクセッション番号M90696にアラインメントした。単一の確認したクローンを後の実験で使用した。
【0103】
CatSPP−Fcのクローニング及び発現
pRSET−FcベクターへのCatSPPのクローニングでは、やはりそれぞれBamHI及びSalI制限酵素部位(下線)を有する、プライマーCATSPPFCF(5’ TTTTTTGGATCCCAGTTGCATAAA GAT)及びCATSPPFCR(5’ TTTTTTGTCGACTATCCGATTAGGGTT)を用いて、DNA配列を増幅した。増幅したバンドをゲル切除し、IgG Fcドメインを含有するように前もって改変したpRSET細菌発現ベクターにクローニングした。陽性クローンをコロニーPCRで同定し、配列をアクセッション番号M90696にアラインメントした。単一の確認したクローンを全ての後の実験で使用した。
【0104】
CatSPP及びCatSPP−Fcのタンパク質発現及び精製
発現分析では、CatSPP陽性クローンをTOP10F’細胞に形質転換し、対数増殖期中期(A550 0.5、37℃)に達するまで振盪フラスコ(500ml)で培養した。CatSPP−Fc陽性クローンの発現分析を、大腸菌のBL21(DE3)plysS株を用いて形質転換により行った。組換えタンパク質の発現はいずれも、イソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG、1mM)を細菌培養物に添加して誘導し、回収前にさらに4時間増殖させた。細胞ペレットを再懸濁し、8M尿素含有50mM NaHPO pH8.0、300mM NaCl及び10mMイミダゾールで溶解した。粗変性溶解物を遠心分離(10,000g、4℃で60分間)により清澄にした後、Ni2+イオンを負荷したIMACカラム(HiTrap 1mlカラム、GE Healcare社)に適用した。非特異的結合物質を8M尿素含有50mM NaHPO pH8.0、300mM NaCl及び20mMイミダゾールを用いてカラムから洗浄した後、200カラム容量にわたって尿素を8Mから0Mに減らしてオンカラムリフォールディングした。リフォールディングしたカラム結合物質を、さらに20カラム容量の50mM NaHPO pH8.0、300mM NaCl及び20mMイミダゾールで洗浄した後、50mM NaHPO pH8.0、300mM NaCl及び250mMイミダゾールで溶出した。タンパク質画分を回収し、PBSで脱塩し、SDS−PAGE及びウェスタンブロッティングにより分析して純度及び完全性を判定した。精製組換えタンパク質のストックを、使用前に−20℃で貯蔵した。
【0105】
rCatSPPによるシステインカテプシンの阻害
酵素アッセイを使用して、ヒトカテプシンS、L、K、V及びB(Calbiochem社)のペプチド分解活性を阻害するrCatSPPの能力を確認した。アッセイは、100mM酢酸ナトリウム、1mMエチレンジアミンテトラアセテート(EDTA)、0.1% Brij及び1mMジチオスレイトール(DTT)(pH5.5)の存在下、96ウェルマイクロタイタープレートで3連で行った。CatS活性を、蛍光発生基質カルボベンジルオキシ−L−バリニル−L−バリニル−L−アルギニルアミド−4−メチルクマリン(Z−Val−Val−Arg−AMC、25μM)を用いてモニターし、カテプシンL、K及びVのアッセイは、カルボベンジルオキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニルアミド−4−メチルクマリン(Z−Phe−Arg−AMC、25μM)を用いて行い、CatBのアッセイは、基質としてカルボベンジルオキシ−L−アルギニルアミド−L−アルギニルアミド−4−メチルクマリン(Z−Arg−Arg−AMC、25μM)を用いて行った。精製rCatSPPを、様々な濃度(0〜1000nM)で必要に応じてアッセイに添加した。全ての実験は、395nmの励起及び460nmの発光を有するCytofluor(登録商標)4000蛍光光度計を用いて行った。rCatSPP−Fcもまた、CatSの活性を阻害する能力を有することを確かめるため、蛍光分析を、rCatSPP−Fc(0nM〜200nM)の存在下でCatS(Z−Val−Val−Arg−AMC、25μM)を用いて行った。
【0106】
システインカテプシン発現のRT−PCR分析
ヒト悪性細胞系パネルにおけるシステインカテプシンS、L、K及びVの相対発現レベルは、RT−PCR分析により判定した。Absolutely RNA(商標)RT−PCR Miniprepキットを用いて、RNAをU251mg、MDA−MB−231、HCT116及びPC3細胞系から抽出し、分光光度計を用いて定量した。RT−PCRは、One−Step RT−PCRキットを用いて以下の条件下で行った:50℃で30分間、95℃で15分間、並びに94℃で1分間、55℃で1分間及び72℃で1分30秒間を35サイクル、続いて72℃で10分間又は本文に詳述した通り。一連のシステインカテプシン増幅は、以下の表に詳述したプライマーを用いて行った。β−アクチン遺伝子増幅を、同等のローディングを立証するための内部対照として使用した。RT−PCR産物をアガロースゲル電気泳動で分析し、コダック1D 3.4 USBソフトウェア及びデジタルカメラを用いてUV光下で画像を撮影した。
【0107】
遺伝子RT−PCRプライマー配列
CatS(F) GGG TAC CTC ATG TGA CAA G
CatS(R) TAC CTT CTT CAC TGG TCA TG
CatL(F) ATG AAT CCT ACA CTC ATC CTT GC
CatL(R) TCA CAC AGT GGG GTA GCT GGC TGC TG
CatK(F) ATG TGG GGG CTC AAG GTT CTG C
CatK(R) TCA CAT CTT GGG GAA GCT GGC C
CatV(F) ATG AAT CTT TCG CTC GTC CTG GC
CatV(R) TCA CAC ATT GGG GTA GCT GGC
アクチン(F) ATC TGG CAC CAC ACC TTC TAC AAT GAG CTG CG
アクチン(R) CGT CAT ACT CCT GCT TGC TGA TCC ACA TCT GC
【0108】
インビトロ浸潤アッセイ
インビトロ浸潤アッセイは、12μm細孔膜を有する修正ボイデンチャンバー(Costar Transwellプレート、Corning Costar社、ケンブリッジ、MA、USA)を用いて行った。膜をマトリゲル(100μg/cm)(Becton Dickinson社、オックスフォード、UK)でコートし、層流フードで一晩乾燥させた。
【0109】
細胞を、所定濃度のrCatSPPの存在下、無血清培地500μlの各ウェルに添加した。アッセイは全て3連で行い、浸潤プレートは、37℃及び5%COで24時間インキュベートした後、膜の上表面に残っている細胞を除去し、浸潤細胞をカルノワ固定液で15分間固定した。乾燥後、浸潤細胞の核を、ヘキスト33258(50ng/ml)のPBS溶液で30分間室温にて染色した。チャンバーインサートをPBSで2度洗浄し、Citifluorにマウントし、浸潤細胞をニコンEclipse TE300蛍光顕微鏡で眺めた。3連での各膜からの代表的な視野のデジタル画像を、ニコンDXM1200デジタルカメラを用いて倍率×20で撮影した。結果を、Laboratory Imaging社によるLucia GF 4.60を用いて分析し、浸潤細胞のパーセンテージで表した。
【0110】
細胞生存アッセイ
rCatSPPの細胞毒性効果又は増殖効果は、HCT116結腸直腸癌細胞系を用いてMTTアッセイにより判定した。細胞を、200μlあたり1×10細胞の濃度で96ウェルプレートに添加した。200nM rCatSPP、同一条件下で同じベクターから生成した対照タンパク質及びビークルのみの対照を、細胞に添加し、24、48、及び72時間、37℃及び5%COでインキュベートした。この後、培地を慎重に除去し、0.5mg/ml 3−4,5−ジメチルチアゾール−2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)200μlを添加し、37℃で2時間インキュベートした。MTT試薬を除去し、不溶性ホルマザン結晶をDMSO100μlで溶解した。吸光度を570nmで測定し、結果を各ビークルのみの対照と比較した細胞生存又は増殖のパーセンテージで表した。テストは全て5連で行った。
【0111】
結果及び考察
これまで、CatSPPの精製は、幾つかの異なるアプローチにより達成されてきた。Maubach及び共同研究者らは、GdnHCl濃度勾配に対するリフォールディングにより封入体から、残基16〜114に相当するペプチドを単離して、大腸菌発現系からCatSPPを生成した(Maubachら、1997年)。Guay及び同僚らも、PP(残基17〜114)を、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)C末端融合として生成する別のアプローチを用いて、大腸菌で生成した。組換えタンパク質は、封入体において再度生成した。封入体はこの後、GdnHCl濃度勾配に対してリフォールディングした後、GST−セファロースカラムでアフィニティー精製し、トロンビン切断ステップによりPPをGST融合から除去した(Guayら、2000年)。この後者の手順は、CatKPP及びCatLPPの生成にも使用されている。これらの従来の方法はいずれも、生物活性タンパク質を生成したが、特に封入体の単離及びリフォールディングに手間と時間を要する。CatSPP生成のためのより迅速な簡易化方法を決定するため、本発明者らは、N末端ヘキサヒスチジンタグでペプチド(残基17〜113)を発現させ、リフォールドIMACによりこのタンパク質を精製した。
【0112】
詳述した遺伝子特異的プライマーCATSPPF及びCATSPPRを用いて、プロペプチド領域(残基17〜113)をコードするオープンリーディングフレームを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により市販のcDNAライブラリーから増幅した。アガロース電気泳動により分析した場合、予測サイズのバンドを視覚化した(図1)。ゲル抽出後、バンドを市販のベクター(pQE30)にクローニングした。コロニーPCRによる16クローンの分析は、コロニー10から増幅した約650bpのバンドを明らかにする(図2a)。これは、コロニー10のみが、pQE30細菌発現ベクターに首尾よくクローニングされたCatSPP cDNA配列を含有している可能性を示唆するものであろう。
【0113】
DNAを完全な検証のため配列決定した(アクセッション番号M90696にアラインメントした配列)(図2bを参照のこと)。選択したクローンは、さらなる試験のためrCatSPP種を単離する、さらなる増殖及び発酵の全てに使用した。
【0114】
次いで、先ずタンパク質の過剰発現について、並びにタンパク質がN末端ヒスタグを含有し予測分子量16kDaであること、及びタンパク質発現がIPTGで誘導可能な、T5プロモーターの支配下にあることを検証するため、検証したクローンからのrCatSPP発現を分析した。
【0115】
rCatSPPを、pQE30細菌発現ベクターから発現させ、オンカラムリフォールディングIMACを用いて精製した。図3a)に示した通り、rCatSPPの溶出プロファイルは、幾つかのピーク、すなわち185分後の急激な最初のピーク、続く190分から195分の間の幅広いピークを含有する。図3bに矢印で示した第2の幅広いピークからの画分をSDS−PAGEで分離し、(His)6タグ付きrCatSPPの予測分子量に相当する、分子量約16kDaを有する単一の高純度なバンドの存在を明らかにした。図3c)は、抗ポリヒスチジンタグ抗体を用いた精製画分の免疫ブロッティングが、約16kDaでhisタグ付き種の存在を確認することを示している。
【0116】
IPTGによるrCatSPP発現の誘導性を、SDS−PAGE及びウェスタンブロッティングにより立証した(図4)。SDS−PAGE及びクマシーブルー染色による細菌溶解物の分析は、レーンbの約16kDaでrCatSPPの存在を示す。これはレーンbでは誘導されたが、非誘導レーン(uninduced lane)aでは誘導されなかった(図4a)。ニトロセルロース膜への細菌溶解物の移行、及び抗ポリヒスチジンタグ抗体によるブロッティングは、誘導レーンbのみでこのタンパク質発現を確認する(図4b)。分子量マーカーを各画像の左に示す(kDa)。
【0117】
PBSでの最終脱塩後、次いでプロペプチドを生物活性についてテストした。rCatSPPタンパク質の生物活性は、所定濃度のrCatSPPの存在下(0nMから500nM)、CatS及び蛍光発生基質Cbz−Val−Val−Arg−AMCを用いて蛍光分析により確認した。rCatSPP存在下のCbz−Val−Val−Arg−AMCの加水分解に関するプログレス曲線をプロットし、CatS活性の用量依存阻害を観察した(図5)。同じベクターから生成し同じ方法で精製した対照(His)6タグ付きタンパク質を対照(500nM)に用いて、CatS活性の摂動がrCatSPPによるものであることを確認した(挿入図)。アッセイは全て3連で行った。
【0118】
プログレス曲線は、遅延結合性可逆的阻害剤(slow−binding reversible inhibitor)の作用を示す。作成された見かけの一次反応速度曲線に、次いで、経時的な蛍光の生成[P]を以下の方程式で表すことができる非線形回帰分析を行った(Morrison及びWalsh、1998年)。
[P]=vt−(v−v)(1−exp(−kobst))/kobs+d (1)
【0119】
GraFit(登録商標)ソフトウェアを用いて、図7aに示したプログレス曲線の値を、非線形回帰分析により方程式(1)に合わせ、Kobserved)を判定する、[I]に対するvのグラフを作成した。次いでこれを、方程式(2)に示した通り、競合基質を説明するため修正した。
{K=Ki(observed)/(1+[S]/K)} (2)
【0120】
この分析を用いて、rCatSPPによるCatSの阻害についてK値を算出した(図6)。
【0121】
さらに、図7に示した通り、所定濃度のrCatSPPの存在下でカテプシンK、V、L及びB(それぞれ、a〜d)を用いて蛍光分析を行った。蛍光は30分間モニターし、RFUを経時的にプロットして蛍光分析プログレス曲線を作成した。rCatSPPによるカテプシン阻害により作成された見かけの一次反応速度定数に非線形回帰分析を行い(挿入図)、阻害定数(K)をそれぞれ、17.6nM(±1.3)、4.8nM(±0.6)、及び0.62nM(±0.14)に決定することが可能となった。蛍光分析は全て、3回繰り返した。
【0122】
抗ペプチド分解活性の確立を確認したことで、本発明者らは、次いでCatSのエラスチン分解活性を遮断するrCatSPPの能力を立証するのにrCatSPPを使用した。蛍光発生基質エラスチン−DQを、60分間のインキュベーションの間、CatSPP(50〜500nM)の存在下でCatSのエラスチン分解代謝をモニターするのに使用し、本発明者らは、この活性の阻害を立証することができた(図8)。
【0123】
4つのヒト悪性細胞系におけるCatS、L、K及びVの発現を、RT−PCRにより評価した。各々のカテプシンは4つの細胞系で発現するように思われ、アクチンの増幅は、内部対照として使用した(図9)。
【0124】
rCatSPPについて算出した完全なペプチド分解阻害プロファイル、及び少なくともCatSのエラスチン分解活性が示され得たエビデンスを基に、本発明者らは次に、浸潤癌モデルにおいてこれらのプロテアーゼの活性を遮断するペプチドの有効性を分析した。この実験では、本発明者らは、マトリゲルでコートした修正ボイデンチャンバーを介して腫瘍細胞浸潤を調べる試験を用いた(Flannyら、2003年)。この実験は、一般的なタイプの癌を代表する細胞系で行った。具体的には、これらはPC3(前立腺細胞系)、HCT116(結腸直腸癌)、U251MG(星状細胞腫)MDA−MB−231(乳癌)及びMCF7(乳癌)であり、結果を図10に示す。図10aは、インビトロ浸潤アッセイにおける4つのヒト悪性細胞系の分析を示す。a〜d:HCT116、U251mg、MDA−MB−231及びPC3。各細胞系は、CatSPPの存在下では腫瘍細胞浸潤の有意な減少を示した(=p:≦0.001、**=p:≦0.001、***=p:≦0.0001)。全ての変数(variable)は、腫瘍細胞浸潤について記録し分析した10画像により3連で行った。標準誤差は、平均±誤差としてプロットした。統計的有意性は、スチューデントt−検定を用いて算出した。図10bは、CatSPP存在下でのMCF7腫瘍細胞浸潤の有意な減少(63%)を示すヒストグラムを示す。
【0125】
rCatSPPタンパク質の細胞毒性及び増殖効果を評価するため、MTTアッセイを行った。MTTアッセイは、200nMのrCatSPP、対照タンパク質及びビークルのみの対照と共にインキュベートした、HCT116結腸直腸癌細胞を用いて行った。結果(図11)は、組換えタンパク質が、細胞増殖に対し有意な効果をもたらさないことを示している。全ての変数は、5連で繰り返した。
【0126】
本発明者らは次に、カテプシンプロペプチドのFc部分の提供が、浸潤癌モデルにおけるL型カテプシンプロテアーゼの阻害に与える影響を検討した。
【0127】
C末端Fc部分(CatSPP Fc)を含むカテプシンSプロペプチドを、上記CatSPPについて記載した通りの方法を用いてクローニングし発現させた。CatSPPのcDNA配列を、pRSET A−Fcベクターにクローニングした。陽性形質転換プレートからの8コロニーのセレクションに、ベクター特異的プライマーを用いてコロニーPCR分析を行った。8コロニーは全て、約1100bpのバンドの増幅により陽性であるように見える(図12)。pRSET AベクターからのrCatSPP−Fcの発現を、IPTGの添加により誘導した。結果を図13に示す。レーンA、B、C及びDの試料は、非誘導及び誘導試料を含有する(それぞれB=0.2、C=0.5及びD=0.7 OD(A550nm))。試料を、SDS−PAGE及び抗ポリヒスチジンタグ抗体を用いて行ったウェスタンブロッティングで分離した。rCatSPP−Fcの予測サイズに等しい、約46kDaの分子量を有するHisタグ付きタンパク質種を検出した。ODが0.2の培養物での発現誘導が、タンパク質生成には最適であるように思われた。
【0128】
rCatSPP−Fcは、N末端HisタグであるためIMACを用いて精製した。結果を図14に示す。a)精製プロファイルは、2つの明白なピーク、約200分後の急激なピーク及び225分から250分の間の第2の幅広いピークを示す。b)精製から溶出した画分の分析は、第1のピークが、カラムからの非特異的結合タンパク質の溶出を表すのに対し(画分1〜5)、幅広い第2のピークは、rCatSPP−Fcの予測サイズと一致する、約46kDaの種の溶出を示す(画分6〜15)。c)抗ポリヒスチジンタグモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングによる精製画分の分析は、rCatSPP−Fcに関する予測通り約46kDaのhisタグ付き種の存在を示す。
【0129】
CatSPP FcによるCatSペプチド分解活性の阻害を測定した。rCatSPP−Fcを、蛍光発生基質Z−VVR−AMCを用いて蛍光分析により評価し、この種が、Fcドメインの付加後、動態に何ら負の影響をもたらすことなくCatSの阻害を保持する能力を有するかどうかを判定した。結果を図15a)に示す。プログレス曲線は、増加する濃度(0nMから200nM)のrCatSPP−Fc存在下でのCatS活性の阻害を示す。a、挿入図)Fc対照タンパク質(200nM)は、CatS活性に対する識別可能な効果をもたらさなかった。b)速度はプログレス曲線から外挿し、阻害動態は8.9nM(±2.5)として算出した。アッセイは3度繰り返した。
【0130】
CatS PPの安定性対CatS PP−Fcの安定性は、以下の通りに評価した。rCatSPP及びrCatSPP−Fcタンパク質を、HCT116結腸直腸癌細胞と共にインキュベートし、抗体IgG Fcドメインの付加による組換えタンパク質の安定性を評価した。上清試料をウェスタンブロッティングにより評価し(図16)、細胞上清内の安定性を判定した。rCatSPPは、0時間目でのみ検出できたのに対し、rCatSPP−Fcの安定性は、24時間後に検出されたことから改善したように思われる。対照として、添加タンパク質を含有しない(−)細胞上清も評価し、上清の同等の負荷を確認するため膜をポンソーレッドで染色した。実験は3連で実施した。
【0131】
前立腺PC3細胞を用いたインビトロ浸潤アッセイでのカテプシンSに対するCatSPP Fcの効果を、次いでテストした。結果を図17に示す。ヒストグラムは、CatSPP Fc存在下(0〜32nM)でのPC3浸潤アッセイの定量的概要を示す。各アッセイは3連で行い、10個の視野をアッセイ毎にカウントした。
【0132】
他の腫瘍細胞系を用いたインビトロ浸潤アッセイでのカテプシンSに対するCatSPP Fcの効果を、次いでテストした(図18)。rCatSPP及びrCatSPP−Fcタンパク質を、HCT116結腸直腸細胞系を用いたインビトロ浸潤アッセイに適用した。アッセイは、増加する濃度のrCatSPP(0nMから250nM)又はrCatSPP−Fc(0nMから50nM)の存在下、及び最大濃度の適切な対照タンパク質の存在下でも行った。標準偏差は、誤差バーとしてプロットする。アッセイを、各々から記録した10画像により3連で繰り返した。平均腫瘍細胞浸潤における標準偏差を、±誤差バーとしてプロットする。
【0133】
同様の結果は、MDA−MB−231細胞を用いて行った浸潤アッセイで見られた。図19は、rCatS PP及びrCatS PP−Fcの相対EC50値を示す。様々な濃度のrCatSPP又はrCatSPP−Fcの存在下でのMDA−MB−231腫瘍細胞浸潤の相対速度に、非線形回帰分析を行い、S字用量依存曲線を作成した。得られたEC50値は、(a)rCatSPP及び(b)rCatSPP−Fcについてそれぞれ78.0nM及び8.3nMであることが分かった。
【0134】
以上の通り、CatSPP Fcは、Fc部分の無いCatSPPで生成したものより最大阻害が有意に大きく、阻害濃度は有意に低く、浸潤アッセイにおけるカテプシンSの強力な阻害剤として作用した。CatSPP分子の安定性が、程度は小さいながらFc部分により増大することは予測し得たが、それでもなおFc部分の包含が、阻害効果をこれほど大幅に高めたことは非常に驚きである。故に、結果は、カテプシンプロペプチドによるFc部分の包含が、腫瘍浸潤モデルにおけるカテプシンL型プロテアーゼ活性の阻害を高めることを立証するものである。他の試験は、腫瘍形成モデルにおいてカテプシンの広域スペクトル小分子阻害剤を用いて行い、同様の効果を立証した。Joyce及び同僚らは、トランスジェニックRIP−Tag2マウスでの研究において、広域スペクトルシステインカテプシン阻害剤E64の細胞透過性アナログである、JPM−OEtの使用を用いた(Joyceら、2004年)。このマウスは、発癌性SV40 T抗原の存在のため12〜14週で膵島腫瘍を発症する。彼らは、このマウスへのこの広域スペクトル阻害剤の投与が、この動物の組織学的分析における高浸潤癌の発生を含む、腫瘍発生の複数の段階を著しく阻害できることを立証した。別の研究では、Flannery及び共同研究者らは、星状細胞腫浸潤の遮断における4−モルホリンウレア−Leu−homoPhe−ビニルスルホン(LHVS)の使用を調べた。本発明者らが本明細書で使用したのと同じ浸潤モデルを用いて、CatS及び程度は低いもののCatを強力に阻害するLHVSが、50nM濃度で最大60%のU25IMG細胞浸潤を遮断できることを立証した(Flanneryら、2003年)。まとめると、これらの過去の研究は、第1に、CatL様プロテアーゼがこれらの細胞系の浸潤プロセスにおいて果たす役割、及び第2に、癌治療のための治療標的としての可能性を明らかに立証している。
【0135】
かなりの研究努力にもかかわらず、これらのプロテアーゼの各々が腫瘍形成に果たす役割の程度は、まだ十分に理解されていない。これらがひとたび発癌性細胞により分泌された場合、エラスチン、コラーゲン及び細胞外マトリックスの他の構成成分の分解におけるこれらの役割を、相当量のエビデンスが示していることは明らかである。しかし、これらの酵素がお互いの、及びメタロプロテアーゼなど、他のあまり密接に関係しないプロテアーゼの活性化及び制御に果たす役割が、現在新たに浮上している(Kobayashiら、1993年)。さらに、新たなエビデンスは、マトリックス由来抗血管新生因子の分解、及び腫瘍進行中の血管新生促進因子(proangiogenic factor)の産生におけるCatSの役割に脚光を当てるようになった(Wangら、2005年)。これは、これらのプロテアーゼが、周辺ECMの単純な消化よりも、腫瘍の進行及び転移を可能にする多くの役割を有し得ることを示している。
【0136】
結論
本明細書で本発明者らは、例えばCatSPPなど、カテプシンプロペプチドを生成するための新規な発現及び精製方法を記載した。本発明者らは、例えばrCatSPPなど、カテプシンプロペプチドを用いたカテプシンL型プロテアーゼの阻害により、腫瘍形成が減弱され得ることを立証した。本発明者らが、様々な異なる腫瘍細胞系を用いたインビトロ浸潤アッセイにおいて見た阻害プロファイルから、CatL様プロテアーゼの幅広い阻害が、癌の臨床治療に明らかな治療効果を有することは明らかである。特に生体における第2の部位への腫瘍の広がりを遮断することができる薬剤を開発する能力は、細胞毒性剤レジメンの併用にとって魅力的となろう。細菌培養物からrCatSPPを迅速に生成し、これらの腫瘍浸潤モデルにうまく適用する能力は、これが、治療プロテアーゼ阻害剤のデザインに対する新規のアプローチを提示し得ることを示唆するものである。
【0137】
この本明細書で言及された文献は全て、参照により本明細書に組み込まれている。本発明の記載された実施形態に対する様々な修正形態及び変形形態は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者に理解されよう。本発明は、特定の好ましい実施形態に関連して記載されているが、請求された本発明は、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解すべきである。実際、当業者には明らかな、本発明の記載された実施形態の様々な修正は、本発明により網羅されることが意図される。
【0138】
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【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】CatSPPの増幅を示す図である。CatSPPのcDNA配列は、ヒト脾臓cDNAライブラリーから増幅された。CatSPP cDNA配列の予測サイズに等しい、約330bpの単一バンドが生成された。
【図2】pQE−30へのCatS PPのクローニングからのコロニーPCRの結果を示す図である。rCatSPPの完全リーディングフレーム用のDNA及びタンパク質配列が、pQE−30への挿入結果として示されることを示す図である。
【図3】rCatSPPタンパク質の精製を示す図である: a)rCatSPPの溶出プロファイル。b)矢印で示したように、第2の幅広いピークからの画分のSDS−PAGE分析を示す。c)抗ポリヒスチジンタグ抗体を用いた精製画分の免疫ブロット。
【図4】SDS−PAGE及びウェスタンブロッティングで立証された、IPTGによるrCatSPP発現の誘導性を示す図である。a)SDS−PAGE及びクマシーブルー染色による細菌溶解物の分析。b)抗ポリヒスチジンタグ抗体によるブロッティング。分子量マーカーを各画像の左に示す(kDa)。
【図5】rCatSPP存在下のCbz−Val−Val−Arg−AMCの加水分解に関するプログレス曲線を示す図である。同じベクターから生成し同じ方法で精製した対照(His)6タグ付きタンパク質を、対照(500nM)として用いた(挿入図)。
【図6】阻害定数(K)の決定を可能にする非線形回帰分析(Morrison及びWalsh、1998年)のグラフを示す図である。
【図7】蛍光分析を用いたrCatSPPタンパク質によるカテプシンK、V、L及びBの阻害を示す図である。
【図8】CatSエラスチン分解活性の阻害を示す図である。蛍光発生基質エラスチン−DQを用いて、60分間のインキュベーションの間、CatSPP(50〜500nM)の存在下でCatSのエラスチン分解代謝をモニターした。
【図9】悪性細胞系におけるCatL様プロテアーゼの相対発現を示す図である。
【図10】(a)4つのヒト悪性細胞系(i〜iv): HCT116、U251mg、MDA−MB−231及びPC3におけるインビトロ浸潤アッセイの結果を示す図である。(b)MCF−7におけるインビトロ浸潤アッセイの結果を示す図である。
【図11】rCatSPPタンパク質の細胞毒性又は増殖効果を評価するMTTアッセイの結果を示す図である。
【図12】pRSET A−FcへのCatSPPのクローニングのコロニーPCR分析を示す図である。
【図13】pRSET AベクターからのrCatSPP−Fcの発現が、SDS−PAGE及び抗ポリヒスチジンタグ抗体を用いて行ったウェスタンブロッティングで解明された通り、IPTGの添加により誘導されたことを示す図である。
【図14】rCatSPP−Fcの精製を示す図である。a)は、精製プロファイルが2つの明白なピークである、約200分後の急激なピーク及び225分から250分の間の第2の幅広いピークを示すことを示す。b)は、精製から溶出した画分の分析を示す。c)は、抗ポリヒスチジンタグモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングによる精製画分の分析を示す。
【図15】蛍光分析を用いたrCatSPP−FcによるCatS阻害を示す図である。
【図16】CatS PPの安定性対CatS PP−Fcの安定性を立証するウェスタンブロットを示す図である。
【図17】CatSPP Fc存在下でのPC3浸潤アッセイの定量的概要を示すヒストグラムを示す図である。
【図18】CatSPP及びCatSPP−Fc組換えタンパク質の存在下でのHCT116浸潤アッセイの定量的概要を示すヒストグラムを示す図である。
【図19】MDA−MB−231腫瘍細胞におけるrCatS PP及びrCatS PP−FcのEC50値を決定するのに使用された用量依存曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は組織におけるカテプシンL様プロテアーゼ活性の阻害方法であって、前記細胞又は組織へのカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸の投与を含む前記方法。
【請求項2】
細胞又は組織におけるカテプシンL様プロテアーゼの過剰発現の阻害方法であって、前記細胞又は組織へのカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸の投与を含む前記方法。
【請求項3】
カテプシンL様プロテアーゼの異常活性及び/又は過剰発現に関連した状態の治療を必要とする患者におけるこの状態の治療方法であって、カテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸の投与を含む前記方法。
【請求項4】
カテプシンL様プロテアーゼの異常活性及び/又は過剰発現に関連した状態が、腫瘍性疾患、炎症性障害、神経変性障害、自己免疫障害、喘息、又はアテローム性動脈硬化症である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
カテプシンプロペプチドが、アクセッション番号M90696に開示されているカテプシンSプロテアーゼのアミノ酸残基17から113に相当するアミノ酸配列を含むヒトカテプシンプロペプチドである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
カテプシンプロペプチドが、図3のアミノ酸配列1〜118に相当するアミノ酸配列を有するヒトカテプシンプロペプチドである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
カテプシンプロペプチドが抗体Fc部分を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
カテプシンL様プロテアーゼがカテプシンSである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
医薬に使用するためのカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸。
【請求項10】
カテプシンL様プロテアーゼの異常活性及び/又は過剰発現に関連した状態の治療に使用するためのカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸。
【請求項11】
カテプシンL様プロテアーゼの異常活性及び/又は過剰発現に関連した状態が、腫瘍性疾患、炎症性障害、神経変性障害、自己免疫障害、喘息、又はアテローム性動脈硬化症である、請求項10に記載のプロペプチド又は核酸。
【請求項12】
カテプシンプロペプチドが、アクセッション番号M90696に開示されているカテプシンSプロテアーゼのアミノ酸残基17から113に相当するアミノ酸配列を含むヒトカテプシンプロペプチドである、請求項9〜11のいずれか一項に記載のプロペプチド又は核酸。
【請求項13】
カテプシンプロペプチドが、図3のアミノ酸配列1〜118に相当するアミノ酸配列を有するヒトカテプシンプロペプチドである、請求項9〜12のいずれか一項に記載のプロペプチド又は核酸。
【請求項14】
カテプシンプロペプチドが抗体Fc部分を含む、請求項9〜13のいずれか一項に記載のプロペプチド又は核酸。
【請求項15】
カテプシンL様プロテアーゼがカテプシンSである、請求項9〜14のいずれか一項に記載のプロペプチド又は核酸。
【請求項16】
カテプシンL様プロテアーゼの異常活性及び/又は過剰発現に関連した状態を治療するための医薬品の製造におけるカテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸の使用。
【請求項17】
カテプシンL様プロテアーゼの異常活性及び/又は過剰発現に関連した状態が、腫瘍性疾患、炎症性障害、神経変性障害、自己免疫障害、喘息、又はアテローム性動脈硬化症である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
カテプシンプロペプチドが、アクセッション番号M90696に開示されているカテプシンSプロテアーゼのアミノ酸残基17から113に相当するアミノ酸配列を含むヒトカテプシンプロペプチドである、請求項16又は17に記載の使用。
【請求項19】
カテプシンプロペプチドが、図3のアミノ酸配列1〜118に相当するアミノ酸配列を有するヒトカテプシンプロペプチドである、請求項16〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
カテプシンプロペプチドが抗体Fc部分を含む、請求項16〜19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
カテプシンL様プロテアーゼがカテプシンSである、請求項16〜20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
カテプシンプロペプチド又はカテプシンプロペプチドをコードする核酸を含む医薬組成物。
【請求項23】
カテプシンプロペプチドが、アクセッション番号M90696に開示されているカテプシンSプロテアーゼのアミノ酸残基17から113に相当するアミノ酸配列を含むヒトカテプシンプロペプチドである、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
カテプシンプロペプチドが、図3のアミノ酸配列1〜118に相当するアミノ酸配列を有するヒトカテプシンプロペプチドである、請求項22又は23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
カテプシンプロペプチドが抗体Fc部分を含む、請求項22〜24のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
カテプシンL様プロテアーゼがカテプシンSである、請求項22〜25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
カテプシンプロペプチドの組換え製造方法であって、N末端ポリヒスチジンタグを有するカテプシンプロペプチドを発現するステップと、金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)を用いて発現プロペプチドを精製するステップとを含む前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a−b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2009−528339(P2009−528339A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556854(P2008−556854)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000744
【国際公開番号】WO2007/099348
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(506180073)フージョン アンティボディーズ リミテッド (6)
【Fターム(参考)】