ペプチド及び自然細胞性免疫促進剤
【課題】自然細胞性免疫促進作用を有するペプチド及びこれを有効成分とする自然細胞性免疫促進剤を提供すること。
【解決手段】下記のアミノ酸配列(配列番号1又は2)を有するペプチド;該ペプチドを有効成分として含有する自然細胞性免疫促進剤。
Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Lys-Ser-His-Gly-Gly-Arg(配列番号1)
Lys-Gln-Gly-Gln-His-Gln-Gln-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu(配列番号2)
【解決手段】下記のアミノ酸配列(配列番号1又は2)を有するペプチド;該ペプチドを有効成分として含有する自然細胞性免疫促進剤。
Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Lys-Ser-His-Gly-Gly-Arg(配列番号1)
Lys-Gln-Gly-Gln-His-Gln-Gln-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu(配列番号2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド及びこれを含有する自然細胞性免疫促進剤に関する。さらに詳細には、大豆たんぱく質の酵素消化により生じる新規の免疫賦活ペプチドの機能に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで大豆たんぱく質や大豆たんぱく質の酵素消化物には免疫調節作用があることが報告されているが、大豆たんぱく質由来の免疫調節ペプチドの単離および特性付けに関する報告は少なく、各種免疫担当細胞の増殖や分泌機能に及ぼす影響は明らかになっていない。
従来の免疫賦活作用を有する大豆たんぱく質消化物およびペプチドに関連する公知例として特許文献1〜4などが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、大豆蛋白質に蛋白質分解酵素を作用させてマクロファージ活性化能を有する大豆蛋白質酵素分解物を製造する方法が記載されている。特許文献2には、大豆蛋白をペプシン様酵素及びトリプシン様酵素で加水分解して得られる免疫活性化性ペプチド混合物及びその製造方法が記載されている。しかし、特許文献1及び2には、免疫賦活作用を有する消化物のペプチド構造については全く記載されていない。
特許文献3には、H-Gln-Arg-Pro-Arg-OH(配列番号3)で示されるペプチドがマクロファージ及び多形核白血球などの貪食能を有し、免疫増強剤として有用であることが、特許文献4には、Gln-Arg-Pro-Arg (配列番号3)(I)または/およびHis-Cys-Gln-Arg-Pro-Arg(配列番号4)(II)で示されるペプチドが抗体産生増強作用を有することが記載されている。特許文献3および4に記載されている免疫調節ペプチドは、免疫グロブリンG(IgG)から派生する食作用促進ペプチド、タフトシンおよびリギンの一次構造を大豆たんぱく質中に探索したものであり、その構造および活性はタフトシンと極めて類似している。
このように、大豆たんぱく質の消化により生じる免疫賦活ペプチドの特性付けに関する報告は少ない。
【0004】
本発明者らは先に、Rhizopus oryzaeのペプチダーゼで消化した大豆たんぱく質(Ro-消化物)からマウス脾臓細胞培養系において自然細胞性免疫促進ペプチドの特性付けを行った(非特許文献1)。非特許文献1には、Rhizopus oryzae由来のペプチダーゼにより消化した酸沈殿大豆たんぱく画分の消化物から、各種クロマトグラフィーにより、自然細胞性免疫を促進するペプチドとしてグリシニンA3サブユニットのGln202〜Gly231域に相当するペプチドを分離したことが記載されている。しかし、非特許文献1に記載された「グリシニンA3サブユニットのGln202〜Gly231域」は、現在では「グリシニンG4サブユニットのGln202〜Glu223域」が正しい配列であるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開平4-229189公報
【特許文献2】特開平9-255699公報
【特許文献3】特開平1-249800公報
【特許文献4】特開平6-312939公報
【非特許文献1】2007年度日本農芸化学会大会講演要旨集、p.285
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規ペプチド、特に、自然細胞性免疫促進作用を有するペプチド及びこれを有効成分とする自然細胞性免疫促進剤を提供することである。
本発明の他の目的は、大豆たんぱく質の酵素消化物より免疫賦活ペプチドを単離し、特性付けることにより全く新規の免疫賦活ペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示す新規ペプチド及び自然細胞性免疫促進剤を提供するものである。
1.下記のアミノ酸配列(配列番号1)を有するペプチド。
Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Lys-Ser-His-Gly-Gly-Arg (QQQQQQKSHGGR)
2.下記のアミノ酸配列(配列番号2)を有するペプチド。
Lys-Gln-Gly-Gln-His-Gln-Gln-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu (KQGQHQQEEEEE)
3.上記1又は2記載のペプチドを有効成分として含有する自然細胞性免疫促進剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規ペプチドは、マクロファージの活性化能を有する。また、配列番号1のペプチドQQQQQQKSHGGRはナチュラルキラー(NK)細胞に対して活性化能を有する。従って本発明のペプチドは自然細胞性免疫促進剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者は、脱脂大豆から酸沈殿たんぱく質画分を調製し、市販食品添加酵素によりたんぱく質画分を消化した。得られた消化物を各種クロマトグラフィーに供し、C3H/HeN系マウス脾臓細胞培養系において自然細胞性免疫を促進するペプチドを単離した。この単離ペプチドは、当初、非特許文献1に記載されたグリシニンA3サブユニットのアミノ酸配列の202-225に相当すると想定されたが、グリシニンG4サブユニットのGln202〜Glu223域が正しい配列であることが判明した。
摂取時の消化(トリプシンはArgまたはLysの後を切断する)を考慮し、本発明では、単離したペプチドの活性部位と考えられる配列番号1:QQQQQQKSHGGRと配列番号2:KQGQHQQEEEEEのペプチドを化学合成し、その活性を確認した。
【0010】
本発明のペプチドを有効成分とする自然細胞性免疫促進剤は、本発明のペプチド単独でも良いし、本発明のペプチドに、免疫促進剤の調製に通常使用される大豆粉、粉乳や糖類、安定剤、緩衝剤、保存剤等の副原料を混合したものでも良い。
本発明のペプチドを有効成分とする自然細胞性免疫促進剤の剤型も特に限定されない。本発明の自然細胞性免疫促進剤は食品や医薬品の形態としても良い。例えば、飲料、粉末、カプセル等の形態が挙げられる。
本発明の自然細胞性免疫促進剤の投与量は、本発明のペプチドの量として好ましくは0.1mg/kg体重/日〜1g/kg体重/日程度である。
本発明の自然細胞性免疫促進剤中の本発明のペプチドの含有量は、投与形態により異なるが、上記投与量となるように適宜調整すれば良い。
【0011】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1 (Ro-消化物ならびに活性ペプチド(H1)の調製)
脱脂大豆100gを20倍量の0.03Mトリス-塩酸緩衝液(pH 8.0)に分散させ、室温で2時間攪拌した。上澄みを遠心分離(9000×g、30分)により回収し、0.02M HClによりpHを4.5に調整した。最終的に沈殿物を水200mlに分散させ、透析膜(透析用セルロースチューブ)を使用して透析し、凍結乾燥し、大豆酸沈殿たんぱく質画分約40gを得た。大豆酸沈殿たんぱく質画分(1g)を15mlの蒸留水に再溶解した。2分間煮沸し、水溶液をPeptidase R(アマノ社製)の至適pH 7.0に調整し、蒸留水を総量20mlになるように加えた。大豆酸沈殿たんぱく質画分酵素水溶液の反応(基質:酵素 = 50:1)は45℃で2時間行った。その後、反応を10分間の煮沸により停止し酵素を失活させ、pHを4.5に調整した。遠心分離により得られた上澄みをRo-消化物とし、透析、凍結乾燥後用いた。
Ro-消化物をSP-Sepharoseカラムを装着したイオン交換クロマトグラフィーに供し、溶媒中の塩濃度を変えることにより、消化物を溶出させた。活性画分をTSK-Gel ODS-80 TMを装着した逆相高速液体クロマトグラフィーに供し、アセトニトリル濃度35%〜51.4%、30分のリニアグラジェントにより溶出させ、主要ピークH1を回収した。クロマトグラムを図1に示す。
【0012】
実施例2(配列番号1のペプチドの合成)
グリシニンG4サブユニットのアミノ酸配列の202-213に相当する配列番号1:Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Lys-Ser-His-Gly-Gly-Arg (QQQQQQKSHGGR)のペプチドをFmoc固相法により合成した。MASSおよびHPLCスペクトルデータからこの合成品は、純度80%以上であることを確認した。
実施例3(配列番号2のペプチドの合成)
実施例2と同様にして、グリシニンG4サブユニットのアミノ酸配列の214-223に相当する(但し、特徴的なアミノ酸配列の連続Gluを2個追加している)配列番号2:Lys-Gln-Gly-Gln-His-Gln-Gln-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu (KQGQHQQEEEEE)のペプチドを合成した。
【0013】
試験例1
4週齢C3H/HeN系マウス(雄)を市販飼料で1週間予備飼育後、この5週齢マウスを、実施例1〜3のペプチドを含むRo-消化物12.5質量%を含む飼料又はこれを含まない対照飼料で5週間飼育した。各試験群は6匹とした。飼料組成は以下のとおりである。
【0014】
飼育後、脾臓中の免疫担当細胞数(CD11b+およびIL-12+CD11b+細胞数)を蛍光免疫染色法により解析した。結果を図2に示す。
また、ヒト白血病患者由来NKターゲット細胞であるK562細胞に対する脾臓細胞の細胞傷害性(K562細胞の生存率)を蛍光免疫染色法により測定した。結果を図3に示す。図3において、横軸Spleen/K562は、K562細胞数に対する添加した脾臓細胞数の比を示す。
【0015】
試験例2
C3H/HeN系マウスから脾臓細胞を摘出し、5%牛胎児血清、100単位/mlペニシリンおよび100単位/mlストレプトマイシンを含むRPMI-1640 培地に5×106 個/mlの濃度で加え、上記単離ペプチドH1を終濃度0〜50μg/mlとなるように添加し、24穴プレートを用い、37℃で72時間、5% CO2インキュベーター内で培養した。培養後の脾臓細胞を回収し、蛍光免疫染色法により各種免疫担当細胞数(CD8+、CD11b+およびCD49b+細胞数)を測定した。結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
試験例3
化学合成したペプチド、配列番号1:QQQQQQKSHGGRと配列番号2:KQGQHQQEEEEEを終濃度0〜50μmol/Lとなるように添加し、脾臓細胞と48時間培養し、免疫担当細胞数(CD49b+、IL-12+CD11b+、IL-2+CD4+、IFN-γ+CD4+およびIL-4+CD4+細胞数)を蛍光免疫染色法により測定した。結果を表2に示す。
【0017】
【表2】
さらに、同様に化学合成したペプチドと培養した脾臓細胞のヒト白血病患者由来K562細胞に対する細胞傷害性を蛍光免疫染色法により測定した。結果を図4に示す。
【0018】
Ro-消化物添加飼料での飼育により脾臓中のCD11b+およびIL-12+CD11b+細胞数は有意に増加した(図2)。
また、ヒト白血病細胞株K562に対する脾臓細胞の細胞傷害性はRo-消化物添加飼料で飼育したマウスの脾臓細胞において有意に高くなった(図3)。しかし、両飼料群においてCD49b+細胞数には殆んど違いは見られなかった。
上記単離ペプチドH1と培養した脾臓細胞中のCD8+、CD11b+およびCD49b+細胞数は無添加の場合と比較して有意に増加した(表1)。
化学合成したペプチドと培養した脾臓細胞中のIL-12+CD11b+細胞数は両ペプチド存在下において有意に増加した。CD49b+、IL-2+CD4+およびIFN-γ+CD4+細胞数は配列番号1のペプチドの存在下においてのみ有意に増加した。IL-4+CD4+細胞は両ペプチド存在下において有意な差は見られなかった(表2)。
加えて、ヒト白血病細胞株K562に対する細胞傷害性は配列番号1のペプチドと培養した脾臓細胞の存在下において、配列番号2のペプチドおよびコントロールと比較して有意に高かった。(図4)
【0019】
表1に示した単離ペプチド(H1)と表2に示した合成ペプチドは同一実験系ではないものの、免疫担当細胞数に有意差が見られる有効濃度は、単離ペプチドでは50μg/ml、合成ペプチドでは約12μg/mlとなり、合成ペプチドの方が低濃度においても活性を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】Ro-消化物を逆相高速液体クロマトグラフィーにより分画した際のクロマトグラムを示す。
【図2】Ro-消化物添加飼料で飼育したマウスの脾臓細胞中の免疫担当細胞数を蛍光免疫染色法により解析した結果を示す。
【図3】Ro-消化物添加飼料で飼育したマウスの脾臓細胞のヒト白血病細胞株K562に対する脾臓細胞傷害性を蛍光免疫染色法により測定した結果を示す。
【図4】化学合成したペプチドと培養した脾臓細胞のK562細胞に対する細胞傷害性を蛍光免疫染色法により測定した結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド及びこれを含有する自然細胞性免疫促進剤に関する。さらに詳細には、大豆たんぱく質の酵素消化により生じる新規の免疫賦活ペプチドの機能に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで大豆たんぱく質や大豆たんぱく質の酵素消化物には免疫調節作用があることが報告されているが、大豆たんぱく質由来の免疫調節ペプチドの単離および特性付けに関する報告は少なく、各種免疫担当細胞の増殖や分泌機能に及ぼす影響は明らかになっていない。
従来の免疫賦活作用を有する大豆たんぱく質消化物およびペプチドに関連する公知例として特許文献1〜4などが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、大豆蛋白質に蛋白質分解酵素を作用させてマクロファージ活性化能を有する大豆蛋白質酵素分解物を製造する方法が記載されている。特許文献2には、大豆蛋白をペプシン様酵素及びトリプシン様酵素で加水分解して得られる免疫活性化性ペプチド混合物及びその製造方法が記載されている。しかし、特許文献1及び2には、免疫賦活作用を有する消化物のペプチド構造については全く記載されていない。
特許文献3には、H-Gln-Arg-Pro-Arg-OH(配列番号3)で示されるペプチドがマクロファージ及び多形核白血球などの貪食能を有し、免疫増強剤として有用であることが、特許文献4には、Gln-Arg-Pro-Arg (配列番号3)(I)または/およびHis-Cys-Gln-Arg-Pro-Arg(配列番号4)(II)で示されるペプチドが抗体産生増強作用を有することが記載されている。特許文献3および4に記載されている免疫調節ペプチドは、免疫グロブリンG(IgG)から派生する食作用促進ペプチド、タフトシンおよびリギンの一次構造を大豆たんぱく質中に探索したものであり、その構造および活性はタフトシンと極めて類似している。
このように、大豆たんぱく質の消化により生じる免疫賦活ペプチドの特性付けに関する報告は少ない。
【0004】
本発明者らは先に、Rhizopus oryzaeのペプチダーゼで消化した大豆たんぱく質(Ro-消化物)からマウス脾臓細胞培養系において自然細胞性免疫促進ペプチドの特性付けを行った(非特許文献1)。非特許文献1には、Rhizopus oryzae由来のペプチダーゼにより消化した酸沈殿大豆たんぱく画分の消化物から、各種クロマトグラフィーにより、自然細胞性免疫を促進するペプチドとしてグリシニンA3サブユニットのGln202〜Gly231域に相当するペプチドを分離したことが記載されている。しかし、非特許文献1に記載された「グリシニンA3サブユニットのGln202〜Gly231域」は、現在では「グリシニンG4サブユニットのGln202〜Glu223域」が正しい配列であるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開平4-229189公報
【特許文献2】特開平9-255699公報
【特許文献3】特開平1-249800公報
【特許文献4】特開平6-312939公報
【非特許文献1】2007年度日本農芸化学会大会講演要旨集、p.285
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規ペプチド、特に、自然細胞性免疫促進作用を有するペプチド及びこれを有効成分とする自然細胞性免疫促進剤を提供することである。
本発明の他の目的は、大豆たんぱく質の酵素消化物より免疫賦活ペプチドを単離し、特性付けることにより全く新規の免疫賦活ペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示す新規ペプチド及び自然細胞性免疫促進剤を提供するものである。
1.下記のアミノ酸配列(配列番号1)を有するペプチド。
Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Lys-Ser-His-Gly-Gly-Arg (QQQQQQKSHGGR)
2.下記のアミノ酸配列(配列番号2)を有するペプチド。
Lys-Gln-Gly-Gln-His-Gln-Gln-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu (KQGQHQQEEEEE)
3.上記1又は2記載のペプチドを有効成分として含有する自然細胞性免疫促進剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規ペプチドは、マクロファージの活性化能を有する。また、配列番号1のペプチドQQQQQQKSHGGRはナチュラルキラー(NK)細胞に対して活性化能を有する。従って本発明のペプチドは自然細胞性免疫促進剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者は、脱脂大豆から酸沈殿たんぱく質画分を調製し、市販食品添加酵素によりたんぱく質画分を消化した。得られた消化物を各種クロマトグラフィーに供し、C3H/HeN系マウス脾臓細胞培養系において自然細胞性免疫を促進するペプチドを単離した。この単離ペプチドは、当初、非特許文献1に記載されたグリシニンA3サブユニットのアミノ酸配列の202-225に相当すると想定されたが、グリシニンG4サブユニットのGln202〜Glu223域が正しい配列であることが判明した。
摂取時の消化(トリプシンはArgまたはLysの後を切断する)を考慮し、本発明では、単離したペプチドの活性部位と考えられる配列番号1:QQQQQQKSHGGRと配列番号2:KQGQHQQEEEEEのペプチドを化学合成し、その活性を確認した。
【0010】
本発明のペプチドを有効成分とする自然細胞性免疫促進剤は、本発明のペプチド単独でも良いし、本発明のペプチドに、免疫促進剤の調製に通常使用される大豆粉、粉乳や糖類、安定剤、緩衝剤、保存剤等の副原料を混合したものでも良い。
本発明のペプチドを有効成分とする自然細胞性免疫促進剤の剤型も特に限定されない。本発明の自然細胞性免疫促進剤は食品や医薬品の形態としても良い。例えば、飲料、粉末、カプセル等の形態が挙げられる。
本発明の自然細胞性免疫促進剤の投与量は、本発明のペプチドの量として好ましくは0.1mg/kg体重/日〜1g/kg体重/日程度である。
本発明の自然細胞性免疫促進剤中の本発明のペプチドの含有量は、投与形態により異なるが、上記投与量となるように適宜調整すれば良い。
【0011】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1 (Ro-消化物ならびに活性ペプチド(H1)の調製)
脱脂大豆100gを20倍量の0.03Mトリス-塩酸緩衝液(pH 8.0)に分散させ、室温で2時間攪拌した。上澄みを遠心分離(9000×g、30分)により回収し、0.02M HClによりpHを4.5に調整した。最終的に沈殿物を水200mlに分散させ、透析膜(透析用セルロースチューブ)を使用して透析し、凍結乾燥し、大豆酸沈殿たんぱく質画分約40gを得た。大豆酸沈殿たんぱく質画分(1g)を15mlの蒸留水に再溶解した。2分間煮沸し、水溶液をPeptidase R(アマノ社製)の至適pH 7.0に調整し、蒸留水を総量20mlになるように加えた。大豆酸沈殿たんぱく質画分酵素水溶液の反応(基質:酵素 = 50:1)は45℃で2時間行った。その後、反応を10分間の煮沸により停止し酵素を失活させ、pHを4.5に調整した。遠心分離により得られた上澄みをRo-消化物とし、透析、凍結乾燥後用いた。
Ro-消化物をSP-Sepharoseカラムを装着したイオン交換クロマトグラフィーに供し、溶媒中の塩濃度を変えることにより、消化物を溶出させた。活性画分をTSK-Gel ODS-80 TMを装着した逆相高速液体クロマトグラフィーに供し、アセトニトリル濃度35%〜51.4%、30分のリニアグラジェントにより溶出させ、主要ピークH1を回収した。クロマトグラムを図1に示す。
【0012】
実施例2(配列番号1のペプチドの合成)
グリシニンG4サブユニットのアミノ酸配列の202-213に相当する配列番号1:Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Lys-Ser-His-Gly-Gly-Arg (QQQQQQKSHGGR)のペプチドをFmoc固相法により合成した。MASSおよびHPLCスペクトルデータからこの合成品は、純度80%以上であることを確認した。
実施例3(配列番号2のペプチドの合成)
実施例2と同様にして、グリシニンG4サブユニットのアミノ酸配列の214-223に相当する(但し、特徴的なアミノ酸配列の連続Gluを2個追加している)配列番号2:Lys-Gln-Gly-Gln-His-Gln-Gln-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu (KQGQHQQEEEEE)のペプチドを合成した。
【0013】
試験例1
4週齢C3H/HeN系マウス(雄)を市販飼料で1週間予備飼育後、この5週齢マウスを、実施例1〜3のペプチドを含むRo-消化物12.5質量%を含む飼料又はこれを含まない対照飼料で5週間飼育した。各試験群は6匹とした。飼料組成は以下のとおりである。
【0014】
飼育後、脾臓中の免疫担当細胞数(CD11b+およびIL-12+CD11b+細胞数)を蛍光免疫染色法により解析した。結果を図2に示す。
また、ヒト白血病患者由来NKターゲット細胞であるK562細胞に対する脾臓細胞の細胞傷害性(K562細胞の生存率)を蛍光免疫染色法により測定した。結果を図3に示す。図3において、横軸Spleen/K562は、K562細胞数に対する添加した脾臓細胞数の比を示す。
【0015】
試験例2
C3H/HeN系マウスから脾臓細胞を摘出し、5%牛胎児血清、100単位/mlペニシリンおよび100単位/mlストレプトマイシンを含むRPMI-1640 培地に5×106 個/mlの濃度で加え、上記単離ペプチドH1を終濃度0〜50μg/mlとなるように添加し、24穴プレートを用い、37℃で72時間、5% CO2インキュベーター内で培養した。培養後の脾臓細胞を回収し、蛍光免疫染色法により各種免疫担当細胞数(CD8+、CD11b+およびCD49b+細胞数)を測定した。結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
試験例3
化学合成したペプチド、配列番号1:QQQQQQKSHGGRと配列番号2:KQGQHQQEEEEEを終濃度0〜50μmol/Lとなるように添加し、脾臓細胞と48時間培養し、免疫担当細胞数(CD49b+、IL-12+CD11b+、IL-2+CD4+、IFN-γ+CD4+およびIL-4+CD4+細胞数)を蛍光免疫染色法により測定した。結果を表2に示す。
【0017】
【表2】
さらに、同様に化学合成したペプチドと培養した脾臓細胞のヒト白血病患者由来K562細胞に対する細胞傷害性を蛍光免疫染色法により測定した。結果を図4に示す。
【0018】
Ro-消化物添加飼料での飼育により脾臓中のCD11b+およびIL-12+CD11b+細胞数は有意に増加した(図2)。
また、ヒト白血病細胞株K562に対する脾臓細胞の細胞傷害性はRo-消化物添加飼料で飼育したマウスの脾臓細胞において有意に高くなった(図3)。しかし、両飼料群においてCD49b+細胞数には殆んど違いは見られなかった。
上記単離ペプチドH1と培養した脾臓細胞中のCD8+、CD11b+およびCD49b+細胞数は無添加の場合と比較して有意に増加した(表1)。
化学合成したペプチドと培養した脾臓細胞中のIL-12+CD11b+細胞数は両ペプチド存在下において有意に増加した。CD49b+、IL-2+CD4+およびIFN-γ+CD4+細胞数は配列番号1のペプチドの存在下においてのみ有意に増加した。IL-4+CD4+細胞は両ペプチド存在下において有意な差は見られなかった(表2)。
加えて、ヒト白血病細胞株K562に対する細胞傷害性は配列番号1のペプチドと培養した脾臓細胞の存在下において、配列番号2のペプチドおよびコントロールと比較して有意に高かった。(図4)
【0019】
表1に示した単離ペプチド(H1)と表2に示した合成ペプチドは同一実験系ではないものの、免疫担当細胞数に有意差が見られる有効濃度は、単離ペプチドでは50μg/ml、合成ペプチドでは約12μg/mlとなり、合成ペプチドの方が低濃度においても活性を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】Ro-消化物を逆相高速液体クロマトグラフィーにより分画した際のクロマトグラムを示す。
【図2】Ro-消化物添加飼料で飼育したマウスの脾臓細胞中の免疫担当細胞数を蛍光免疫染色法により解析した結果を示す。
【図3】Ro-消化物添加飼料で飼育したマウスの脾臓細胞のヒト白血病細胞株K562に対する脾臓細胞傷害性を蛍光免疫染色法により測定した結果を示す。
【図4】化学合成したペプチドと培養した脾臓細胞のK562細胞に対する細胞傷害性を蛍光免疫染色法により測定した結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のアミノ酸配列(配列番号1)を有するペプチド。
Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Lys-Ser-His-Gly-Gly-Arg (QQQQQQKSHGGR)
【請求項2】
下記のアミノ酸配列(配列番号2)を有するペプチド。
Lys-Gln-Gly-Gln-His-Gln-Gln-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu (KQGQHQQEEEEE)
【請求項3】
請求項1又は2記載のペプチドを有効成分として含有する自然細胞性免疫促進剤。
【請求項1】
下記のアミノ酸配列(配列番号1)を有するペプチド。
Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Gln-Lys-Ser-His-Gly-Gly-Arg (QQQQQQKSHGGR)
【請求項2】
下記のアミノ酸配列(配列番号2)を有するペプチド。
Lys-Gln-Gly-Gln-His-Gln-Gln-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu (KQGQHQQEEEEE)
【請求項3】
請求項1又は2記載のペプチドを有効成分として含有する自然細胞性免疫促進剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2010−59130(P2010−59130A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228726(P2008−228726)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月5日 「社団法人 日本農芸化学会」発行 「日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会講演要旨集」 第278頁 平成20年3月28日 「社団法人 日本農芸化学会」主催 「日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会」における文書による発表
【出願人】(390022231)マルサンアイ株式会社 (5)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月5日 「社団法人 日本農芸化学会」発行 「日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会講演要旨集」 第278頁 平成20年3月28日 「社団法人 日本農芸化学会」主催 「日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会」における文書による発表
【出願人】(390022231)マルサンアイ株式会社 (5)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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