説明

ペプチド脂質を含んだキャリア及びそれを用いた化合物の細胞内導入法

本発明は、下記式:


(式中、Rはアミノ酸残基数1〜10のアミノ酸もしくはペプチドを示し、Rは任意のアミノ酸側鎖を示し、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示す。但し、Rがカルボキシル基を有する場合、該カルボキシル基は炭素数1〜30の炭化水素基とのエステルであってもよい)で表わされるペプチド脂質を含有する細胞毒性が低く、かつ高効率で化合物を細胞内に導入することのできる、化合物の細胞内導入用キャリア、および該キャリアを用いた化合物の細胞内導入方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸等の化合物を効率よく細胞内に導入するのに適した、ペプチド脂質複合化リポソームからなるキャリア、並びに該キャリアを用いた化合物の細胞内導入方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脳疾患、AIDS、遺伝子疾患などの様々な疾病の解明が精力的に行われ、多くの原因遺伝子および関連遺伝子が明らかにされつつある。それに伴って、基礎研究分野における標的遺伝子の機能解明を目的とする遺伝子導入法や、先端医療分野における疾病に対する遺伝子治療法が大きな期待を集めている。
【0003】
培養細胞への遺伝子導入のために従来市販されている試薬として、リン酸カルシウム試薬、DEAE-デキストラン試薬、リポソーム試薬(例えば、Lipofectamine2000、Lipofectin等)などが知られているが、多くの場合において細胞毒性がみられ、また、正常細胞に対する導入効率は低く、血清存在下における導入効率の低下などの問題も認められる。さらに、これらの試薬は、その強い毒性のために、実験動物やヒトに対する遺伝子導入には利用できない。マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、遺伝子銃(パーティクルガン)法等の機器を用いる方法は、導入効率が比較的高い反面、高価な機器を必要とする、操作に熟練を要する、スループットが低い等の問題がある。ウイルスベクターを利用した遺伝子導入技術は、正常細胞に対しても非常に優れた導入効率と遺伝子発現能力を有しており、遺伝子治療において最も注目されている。しかし、ウイルスのもつ病原性(腫瘍の誘発など)や生体内での抗原性(中和抗体による不活性化)等の問題から、より安全性の高い遺伝子導入技術の提供が切望されている。
【0004】
本発明者らは、これまでに、培養細胞や初代細胞にプラスミドDNAやsiRNAを高効率で導入し得るカチオン性脂質の研究開発を行い、独自に保有するカチオン性脂質のレパートリー(特許第1984767号公報)の中から、プラスミド導入に適したもの(国際出願公開第2005/054486号パンフレット)およびsiRNA導入に適したもの(特願2004−356071出願明細書)を報告してきた。さらに、本発明者らは、糖脂質を用いて培養細胞に高効率で遺伝子を導入し得ることを見出した(特願2005−080759出願明細書)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、特殊な機器を必要とせず、安価に、簡便且つ安全に、効率よく且つ低毒性で細胞内に化合物を導入することができる新規な化合物キャリアを提供することであり、該キャリアを用いた化合物の細胞内導入法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、ペプチド脂質(ペプチド部分を連結した合成脂質)のレパートリーを独自に設計・合成し、該レパートリーの中から、プラスミドDNAの導入に適したもの、siRNAの導入に適したものを見出した。これらの核酸導入に適したペプチド脂質は、既存の複合リン脂質を用いた導入試薬と比較して、10%血清存在下においても優れた導入能力と低い細胞毒性を示した。本発明者らはこれらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、
(1)下記式(I):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Rはアミノ酸残基数1〜10のアミノ酸もしくはペプチドを示し、Rは任意のアミノ酸側鎖を示し、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示す。但し、Rがカルボキシル基を有する場合、該カルボキシル基は炭素数1〜30の炭化水素基とのエステルであってもよい)
で表わされる化合物;
(2)Rがアミノ酸残基数1〜5のアミノ酸もしくはペプチドである、上記(1)記載の化合物;
(3)RがArg、Lys、Cys、Met、His、Tyr、GluおよびAspからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基を1個以上含む、上記(1)または(2)記載の化合物;
(4)RのN末端アミノ酸がArg、Lys、Cys、Met、His、Tyr、GluおよびAspからなる群より選択される、上記(3)記載の化合物;
(5)RのN末端アミノ酸がArgもしくはLysである、上記(4)記載の化合物;
(6)Rが−CHCOORもしくは−CCOOR(式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示す)である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の化合物;
(7)Rが炭素数10〜20の直鎖アルキル基もしくは直鎖不飽和炭化水素基である、上記(6)記載の化合物;
(8)Rが炭素数10〜20の直鎖アルキル基もしくは直鎖不飽和炭化水素基である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の化合物;
(9)上記(1)〜(8)に記載の化合物を少なくとも1種含有してなる、導入化合物の細胞内導入用キャリア;
(10)導入化合物が核酸である、上記(9)記載のキャリア;
(11)核酸がプラスミドDNA、cDNAもしくはアンチセンスDNA、またはsiRNA、miRNA、shRNA、mRNA、アンチセンスRNAもしくはRNAレプリコンである、上記(10)記載のキャリア;
(12)導入化合物がペプチドまたはタンパク質である、上記(9)記載のキャリア;
(13)上記(9)〜(12)のいずれかに記載のキャリアと導入化合物との複合体;
(14)上記(13)記載の複合体と細胞とを接触させることを含む、導入化合物の該細胞内への導入方法;および
(15)上記(13)記載の複合体を、ヒトまたはヒト以外の対象に投与することを含む、該対象内で導入化合物を細胞内へ導入する方法;
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の化合物の細胞内導入キャリアを用いれば、血清存在下においても、非常に高い効率で化合物を細胞内に導入することが可能である。また、本発明のペプチド脂質は、細胞内や生体組織内で分解されうる分子構造を取り(生体分解性)、細胞毒性が低いことから、安全性の点においても、ウイルスベクター並びに市販の導入試薬よりも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の化合物の細胞内導入用キャリア(以下、「本発明のキャリア」と略称する場合がある)は、任意のアミノ酸もしくはペプチドからなるヘッド(head)部分と任意の炭化水素鎖からなるテイル(tail)部分が、任意のアミノ酸からなるコネクタ(connector)部分を介して連結されたペプチド脂質を含有することを特徴とする。より具体的には、本発明のキャリアは、下記式(I):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rはアミノ酸残基数1〜10のアミノ酸もしくはペプチドを示し、Rは任意のアミノ酸側鎖を示し、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示す。但し、Rがカルボキシル基を有する場合、該カルボキシル基は炭素数1〜30の炭化水素基とのエステルであってもよい)
で表わされる化合物を含有することを特徴とする。即ち、Rがヘッド、−NHCH(R)CO−がコネクタ、ORがテイル部分に相当する。
【0014】
のアミノ酸残基数は、好ましくはアミノ酸残基数1〜5のアミノ酸もしくはペプチドである。Rを構成するアミノ酸は、20種類の天然アミノ酸(Gly、Ara、Leu、Ile、Val、Arg、Lys、Glu、Gln、Asp、Asn、Cys、Met、His、Pro、Phe、Tyr、Thr、Ser、Trp)あるいは修飾もしくは非天然アミノ酸(例えば、2−アミノアジピン酸、3−アミノアジピン酸、β−アラニン、2−アミノ酪酸、4−アミノ酪酸、6−アミノカプロン酸、2−アミノヘプタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、N−エチルグリシン、N−エチルアスパラギン、ヒドロキシリジン、ノルバリン、ノルロイシン、オルニチン等)であってよい。また、該アミノ酸がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルなどのC1-6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6-12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1-2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基、ピバロイルオキシメチル基などが挙げられる。
さらに、RのN末端アミノ酸もしくは任意の構成アミノ酸のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されていたり、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されていてもよい。
【0015】
また、Rは直鎖ペプチドであっても分枝鎖(デンドリマー型)ペプチドであってもよい。例えば、RがArgやLysなどの側鎖にアミノ基を有するアミノ酸を含有する場合、該アミノ基と他のアミノ酸もしくはペプチドのカルボキシル基とを結合させることにより、分枝鎖を形成することができる。例えば、負荷電を有する核酸やタンパク質と直接結合する場合、デンドリマー型ペプチドはN末端にArgやLysを2つ以上配置させることができ、より多くの正荷電を有することができ、有利である。また、RがGluやAspなどの側鎖にカルボキシル基を有するアミノ酸を含有する場合、該カルボキシル基と他のアミノ酸もしくはペプチドのアミノ基とを結合させることにより、分枝鎖を形成することができる。さらに、RがCysを含有する場合には、他のCysもしくはそれを含むペプチドとのジスルフィド結合を介して分枝鎖を形成することもできる。
【0016】
好ましい一実施態様においては、Rは、負荷電を有する核酸やタンパク質と直接結合し得る点で、ArgやLys等の正荷電を有するアミノ酸を含み得る。
別の好ましい実施態様においては、Rは、チオール化された核酸やタンパク質とジスルフィド結合を介して結合し得る点で、Cys等のチオール基を側鎖に有するアミノ酸を含み得る。該ジスルフィド結合は細胞内で還元され、容易に導入化合物である核酸やタンパク質を遊離することができる。また、Cys等のチオール基を蛍光物質(FITC、ローダミン、Cy3など)で修飾することにより、キャリア自身の組織内や細胞内での挙動ならびに核酸などの導入化合物との結合時のキャリアの構造変化などを観察することもできる。
別の好ましい実施態様においては、Rは、金属で修飾(例:キレート化)された核酸等と結合し得る点で、金属との結合性に優れたアミノ酸(MetやHis等)を含み得る。
別の好ましい実施態様においては、Rは、導入化合物である核酸やタンパク質の側鎖の官能基と水素結合などにより結合し得る点で、ヒドロキシル基を側鎖に有するアミノ酸(Thy、Thr、Ser等)を含み得る。
また別の好ましい実施態様においては、Rは、結合タンパク質により正荷電を有する、ヒストンなどの核酸結合タンパク質等で修飾された核酸と結合し得る点で、負荷電を有するアミノ酸(GluやAsp等)を含み得る。
必要に応じて、上記以外のアミノ酸を使用することもまた好ましい。例えば、細胞認識のためのシグナルペプチドや、神経伝達物質であるγ−アミノ酪酸(GABA)等を利用して、キャリアと標的細胞との相互作用を向上させることができる。
【0017】
好ましくは、Rは、Arg、Lys、Cys、Met、His、Tyr、GluおよびAspからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基を1個以上含む。これらのアミノ酸は、導入化合物である核酸やタンパク質、あるいは標的細胞と相互作用し得る限り、Rのどの位置に配置されてもよいが、少なくともその1つはN末端に配置されることが望ましい。したがって、Rは、N末端アミノ酸がArg、Lys、Cys、Met、His、Tyr、GluおよびAspのいずれかであることが好ましく、ArgもしくはLysであることがより好ましい。
【0018】
としては、具体的には、Rにおいて上記した天然あるいは修飾もしくは非天然のアミノ酸の側鎖が例示されるが、好ましくは、Glu、Asp等の側鎖上にカルボキシル基を有するアミノ酸が挙げられる。より好ましくは、本発明のペプチド脂質は、該側鎖上のカルボキシル基が、炭素数1〜30の飽和もしくは不飽和アルコールとのエステルである化合物である。即ち、Rは−CHCOORもしくは−CCOOR(式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示す)であることが望ましい。
【0019】
本明細書中で使用する用語「炭化水素基」としては、例えば、「アルキル基」、「シクロアルキル基」、「アルケニル基」、「シクロアルケニル基」、「アルキニル基」、「アリール基」、「アラルキル基」、「シクロアルキルアルキル基」などの炭素数1〜30の炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基は、1または2以上の適当な置換基で置換されていてもよい。そのような適当な置換基としては、C−Cアルキル、C−Cアルケニル、C−Cアルキニル、Cアリール、C−Cヘテロアリール、C−Cシクロアルキル、C−Cアルコキシ、CN、OH、オキソ、ハロ、COOH、NH、NH(C−Cアルキル)、N(C−Cアルキル)、NH(Cアリール)、N(Cアリール)、CHO、CO(C−Cアルキル)、CO(Cアリール)、COO(C−Cアルキル)、COO(Cアリール)などが挙げられるが、これらに限定されない。
「アルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコサニル、ヘニコサニル、ドコサニル、トリコサニル、テトラコサニル、ペンタコサニル、ヘキサコサニル、ヘプタコサニル、オクタコサニル、ノナコサニル、トリアコンチルなどの「直鎖状または分枝鎖状のC1−30アルキル基」が挙げられるが、これらに限定されない。
「シクロアルキル基」としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどの「C3−8シクロアルキル基」が挙げられるが、これらに限定されない。
「アルケニル基」としては、例えば、ビニル、アリル、イソプロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、イコセニル、ヘニコセニル、ドコセニル、トリコセニル、テトラコセニル、ペンタコセニル、ヘキサコセニル、ヘプタコセニル、オクタコセニル、ノナコセニル、トリアコンテニルなどの「直鎖または分枝鎖状のC2−30アルケニル基」が挙げられるが、これらに限定されない。
「シクロアルケニル基」としては、例えば、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニルなどの「C3−8シクロアルケニル基」が挙げられるが、これらに限定されない。
「アルキニル基」としては、例えば、エチニル、プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニル、トリデシニル、テトラデシニル、ペンタデシニル、ヘキサデシニル、ヘプタデシニル、オクタデシニル、ノナデシニル、イコシニル、ヘニコシニル、ドコシニル、トリコシニル、テトラコシニル、ペンタコシニル、ヘキサコシニル、ヘプタコシニル、オクタコシニル、ノナコシニル、トリアコンチニルなどの「直鎖または分枝鎖状のC2−30アルキニル基」が挙げられるが、これらに限定されない。
「アリール基」としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、フェナントリル、アントリルなどの「C6−14アリール基」が挙げられるが、これらに限定されない。
「アラルキル基」としては、例えば、ベンジル、フェネチル、3−フェニルプロピル、4−フェニルブチル、(1−ナフチル)メチル、2−(1−ナフチル)エチル、2−(2−ナフチル)エチルなどの「C7−30アラルキル基(すなわち、C6−24アリール−C1−6アルキル基)」が挙げられるが、これらに限定されない。
「シクロアルキルアルキル基」としては、例えば、シクロプロピルメチル、シクロブチルメチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロヘプチルメチル、シクロオクチルメチル、2−シクロプロピルエチル、2−シクロブチルエチル、2−シクロペンチルエチル、2−シクロヘキシルエチル、2−シクロヘプチルエチル、2−シクロオクチルエチルなどの「C3−8シクロアルキル−C1−6アルキル基」が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
およびRは、好ましくは炭素数10〜20の直鎖飽和炭化水素基(即ち、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−ノナデシル、n−エイコサニル、n−ヘニコサニル、n−ドコサニル、n−トリコサニル、n−テトラコサニル、n−ペンタコサニル、n−ヘキサコサニル、n−ヘプタコサニル、n−オクタコサニル、n−ノナコサニル、n−トリアコンチル)または直鎖不飽和炭化水素基(例えば、トランス−2−ブテン−1−イル、シス−9−テトラデセン−1−イル、シス−9−ヘキサデセン−1−イル、シス−9−オクタデセン−1−イル、シス−9−オクタデセン−1−イル、シス−11−オクタデセン−1−イル、シス−9−エイコサエン−1−イル、シス−13−ドコサエン−1−イル、シス−15−テトラコサエン−1−イル等のモノ不飽和炭化水素基、シス−9−シス−12−オクタデスジエン−1−イル等のジ不飽和炭化水素基、シス−9−シス−12−シス−15−オクタデストリエン−1−イル、シス−9−シス−11−シス−13−オクタデストリエン−1−イル等のトリ不飽和炭化水素基、シス−4−シス−8−シス−12−シス−15−オクタデステトラエン−1−イル、シス−5−シス−8−シス−11−シス−14−エイコサテトラエン−1−イル等のテトラ不飽和炭化水素基、シス−7−シス−10−シス−13−シス−16−シス−19−ドコサペンタエン−1−イル等のペンタ不飽和炭化水素基、シス−4−シス−7−シス−10−シス−13−シス−16−シス−19−ドコサヘキサエン−1−イル等のヘキサ不飽和炭化水素基など)である。より好ましくは、RおよびRは炭素数12〜16の直鎖アルキル基(即ち、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル)もしくは炭素数10〜20の直鎖不飽和炭化水素基(例えば、シス−9−テトラデセン−1−イル、シス−9−ヘキサデセン−1−イル、シス−9−オクタデセン−1−イル、シス−9−オクタデセン−1−イル、シス−11−オクタデセン−1−イル、シス−9−エイコサエン−1−イル、シス−13−ドコサエン−1−イル、シス−9−シス−12−オクタデスジエン−1−イル、シス−9−シス−12−シス−15−オクタデストリエン−1−イル、シス−9−シス−11−シス−13−オクタデストリエン−1−イル、シス−4−シス−8−シス−12−シス−15−オクタデステトラエン−1−イル、シス−5−シス−8−シス−11−シス−14−エイコサテトラエン−1−イル、シス−7−シス−10−シス−13−シス−16−シス−19−ドコサペンタエン−1−イル、シス−4−シス−7−シス−10−シス−13−シス−16−シス−19−ドコサヘキサエン−1−イル等)である。RおよびRは同一の基であり得る。
【0021】
式(I)で表される化合物の具体例として、以下の化合物:
【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
【化12】

【0032】
【化13】

【0033】
【化14】

【0034】
等が例示されるが、これらに限定されない。
【0035】
式(I)で表される化合物は、公知のペプチド合成法とエステル化法を組み合わせて製造することができる。例えば、コネクタ部分のアミノ酸(NH−CH(R)−COOH)のα−カルボキシル基を所望のアルコール類(R−OH)と縮合しアミノ酸エステルとした後、該アミノ酸エステルのアミノ基側にRペプチド鎖を伸長させてもよいし、予め合成したRペプチドと該アミノ酸エステルとを縮合させてもよい。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによってもよい。すなわち、Rを構成する部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することによりR部分を製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下の(i)および(ii)に記載された方法が挙げられる。
(i)M. Bodanszky および M.A. Ondetti、ペプチド・シンセシス (Peptide Synthesis),Interscience Publishers, New York (1966年)
(ii)SchroederおよびLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide), Academic Press, New York
(1965年)
具体的には、例えば、鐘ヶ江と赤尾(「アダマンタン基を有する人工ペプチド脂質の設計と合成」、福岡県工業技術センター1998年度研究報告p.113-116)により開示される方法に準じて合成することができる。
【0036】
本発明のキャリアは、上記ペプチド脂質分子のいずれか1種を含有する。あるいは、上記ペプチド脂質分子の2種以上を組み合わせて含有してもよい。あるいはまた、該キャリアは、導入化合物の細胞内導入効率や低細胞毒性などの本発明の利点を損なわない範囲であれば、上記ペプチド脂質分子以外の分子、例えば、両親媒性分子(例えば、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン等の生体膜由来のリン脂質など)、カチオン性脂質分子、界面活性剤(例えば、CHAPS、コール酸ナトリウム、オクチルグルコシド、N−D−グルコ−N−メチルアルカンアミド類など)、ポリエチレングリコール、糖脂質、ペプチド脂質、蛋白質などをさらに含有してもよい。
【0037】
本発明のキャリアは、上記ペプチド脂質分子が組織化された集合体として、あるいは上記ペプチド脂質分子が分散媒中で完全に分散した状態(即ち、溶液もしくは懸濁液)で提供される。「組織化」とは、ペプチド脂質を含むキャリア構成分子同士が疎水結合等の非共有結合を介して集合することをいう。組織化された集合体としては、キャリア構成分子の疎水部同士が疎水結合し形成される二重膜、リポソーム、多重ベシクル、ひも状会合体、ディスク状会合体、ラメラ状会合体、ロッド状会合体等及びこれらの混合物が含まれる。該キャリア構成分子を完全に分散した状態とするための分散媒としては、エタノール、メタノール、DMSOなどの有機溶媒が挙げられる。
【0038】
本発明のキャリアは、上記ペプチド脂質分子を適当な分散媒、例えば、水性溶媒中に分散させ、必要に応じて組織化を誘導する操作を行って、分子集合体を形成させた状態で調製することができる。「組織化を誘導する操作」としては、例えば、超音波処理、加熱、ボルテックス、エーテル注入法、フレンチ・プレス法、コール酸法、Ca2+融合法、凍結−融解法、逆相蒸発法等などの自体公知の各種方法が挙げられるが[これらの各方法についての詳細は、例えば、野島、砂本、井上編「リポソーム」(南江堂,1988年発行)の“第2章 リポソームの調製”(砂本、岩本著)等に記載されている]、それらに限定されない。また、一定条件下では、ペプチド脂質を含むキャリア構成分子同士が、上記のような人為的に組織化を誘導する操作を行うことなく、水性溶媒中で自律的に集合して集合体を形成(自己組織化)することもできる。自己組織化により得られる集合体は、通常、上記の各種形態の混合物であるが、上記のような組織化を誘導する操作を一定条件下で行うことにより、単一の形態を有する集合体を形成することも可能である。
あるいは、本発明のキャリアは、エタノール、メタノール、DMSOなどの有機溶媒を含む溶液中で、上記ペプチド脂質分子を溶解することにより、完全に分散した分子状態に調製することができる。
【0039】
上記ペプチド脂質分子は、導入する化合物(本明細書において「導入化合物」という場合もある)により適宜選択することができ、例えばプラスミドDNAを導入する場合には上記RE−C12、RGE−C12、RE−C14、RE−C16、KE−C14、KE−oleyl等が、siRNAを導入する場合にはRE−C12、RGE−C12、RGGE−C12、RE−C14、RGD−C12等が選択され得るが、これらに限定されない。
【0040】
本発明のキャリアの調製に用いられる上記ペプチド脂質分子の配合比率は特に限定されないが、例えば、キャリア構成分子全体に対するモル比として約0.01〜10であり、好ましくは約0.1〜1である。
【0041】
好ましい一実施態様においては、本発明のキャリアの調製に用いられる上記ペプチド脂質分子は固体、ゲル、液体等であるが、それらに限定されない。該ペプチド脂質分子を分散させる分散媒は、特に限定されないが、例えば、水(脱イオン水等)、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、当業者が通常の細胞培養で用いる培地(例えばRPMI1640、DMEM、HAM F−12、イーグル培地等)等の水性溶媒やエタノール、メタノール、DMSOなどの有機溶媒および水性溶媒と有機溶媒の混合溶媒等が挙げられる。当該水性溶媒は血清等の蛋白質成分を含有しないことが好ましいが、ポリリジン処理などで蛋白質成分を予め除去することにより、ペプチド脂質分子を含むキャリア構成分子の組織化またはその後の細胞内導入される化合物とペプチド脂質分子集合体との複合体形成の阻害を防ぐこともできる。また、細胞内導入される化合物がRNAやDNAなどの核酸、オリゴペプチドや蛋白質などのペプチド性化合物である場合などは、RNaseやDNaseなどの核酸分解酵素、ペプチダーゼやプロテアーゼなどの蛋白質(ペプチド)分解酵素の混入により導入化合物の安定性が低下するので、水性溶媒は、ペプチド脂質分子を分散させる前にそれら酵素を失活させるために、加熱処理を施されることが好ましい。加熱処理としては、例えば、約50〜約100℃で約5分〜約3時間行うことができるが、それに限定されない。従って、水性溶媒は当該加熱処理が可能なものであることが好ましい。従来、核酸の細胞内導入に用いられている各種培養液ではRNaseなどの酵素除去が不可能な場合が多いが、本発明におけるペプチド脂質分子は、例えば、NaCl、塩化カリウムなどの化合物を含有する水溶液中に分散させた場合にも、その後の細胞内導入操作において高い導入効率を示す。従って、核酸やペプチド性化合物などの化合物を細胞内に導入する場合には、水性溶媒として、上記の化合物を含有する水溶液等が好ましく例示される。
水性溶媒のpHは特に限定されないが、pH4〜10の範囲であることが好ましく、より好ましくはpH6〜8の範囲である。
【0042】
好ましい実施態様として、(1)超音波処理、(2)加熱処理によるペプチド脂質複合化リポソームの調製について以下により具体的に説明する。
(1)超音波処理法
まず上記ペプチド脂質分子を、有機溶媒(例えば、クロロホルム等)に溶解し、ナス型フラスコ等の容器に入れ、ロータリーエバポレーターなどを用いて溶媒を減圧除去して、容器壁面に脂質薄膜を形成させる。これに水性溶媒(例えば、リン酸緩衝液(pH7.0)等)を加えて振とう膨潤させ、例えばボルテックスミキサーなどを用いて薄膜を剥離させることにより、多重層リポソームの懸濁液が得られる。尚、分解した脂質等を除去するために、セファデックス2B、4BまたはG−50カラムなどを用いてゲル濾過を行うこともできる。
【0043】
上記のようにして得られる多重層リポソームの懸濁液に、超音波処理装置(プローブ型、浴槽型など)を用いて、氷浴もしくは水浴上、高い出力(例えば、約100〜約200W)の超音波を、約1〜約2分間照射(例えば、1分間照射、30秒間インターバルのサイクルを約2〜4回繰り返すなど)することにより、ほぼ均一な単層リポソームを調製することができる。
【0044】
本発明のペプチド脂質分子においては、その粉末をそれぞれ適当量チューブに取り、MiliQ水などを加えて(最終濃度が約20mMとなるように)混合し、上記と同様の超音波処理を行うだけでも、容易にペプチド脂質複合化リポソームを調製することができる。
【0045】
(2)加熱処理法
上記ペプチド脂質分子の粉末を適当量チューブに取り、MiliQ水などを加えて(最終濃度が約20mMとなるように)、約90℃で約15分間加熱することにより、ペプチド脂質複合化リポソームを調製することができる。
【0046】
得られるペプチド脂質複合化リポソーム中のペプチド脂質分子の濃度は、用いるペプチド脂質分子の種類等を考慮し適宜設定できるが、通常1〜200mM、好ましくは1〜100mM、より好ましくは1〜50mMの範囲である。
濃度が低すぎると充分量のペプチド脂質複合化リポソームが形成されず、濃度が高すぎるとペプチド脂質分子が析出することがある。
【0047】
本発明のキャリアは、化合物の細胞内導入効率や低細胞毒性などの本発明の利点を損なわない範囲で、適当な添加剤を含んでいてもよい。本発明のキャリアを、化合物を生体内の細胞に導入する目的で使用する場合には、該添加剤は医薬上許容されるものであることが必要である。例えば、従来公知のリポソーム製剤に配合される各種医薬添加物を用いることができる。
【0048】
以上のようにして得られうる、本発明のキャリアは、化合物を低毒性で効率よく細胞内に導入するための薬剤として有用である。任意の化合物が本発明のキャリアにより細胞内へ導入され、例えば、核酸、ペプチド、脂質、ペプチド脂質、糖、生理活性物質、薬物(Doxorubicin(抗腫瘍薬)、Daunorubicin(抗腫瘍薬)、Vincristine(抗腫瘍薬)、Vinblastine(抗腫瘍薬)、Idarubicin(抗腫瘍薬)、Dibucaine(局所麻酔薬)、Propranolol(β遮断薬)、Quinidine(不整脈治療薬)、Dopamine(強心・昇圧薬)、Imipramine(抗うつ薬)、Diphenhydramine(抗ヒスタミン薬)、Quinine(抗マラリア薬)、Chloroquine(抗マラリア薬)、Diclofenac(抗炎症薬)等)、化粧品等用の保湿剤(マンニトール等)、その他の合成もしくは天然化合物等が挙げられる。
【0049】
本発明のキャリアにより細胞内に導入され得る特に好ましい化合物は核酸である。任意の核酸が用いられ、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラ核酸、DNA/RNAのハイブリッド等いかなるものであってもよい。また、核酸は1〜3本鎖のいずれも用いることができるが、好ましくは1本鎖又は2本鎖である。核酸は、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のオリゴマー(例えば、市販のペプチド核酸(PNA)等)または特殊な結合を含有するその他のオリゴマー(但し、該オリゴマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などであってもよい。さらに該核酸は、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。
【0050】
例えば、任意の種類のDNAを、使用の目的に応じて適宜選択することができ、例えばプラスミドDNA、cDNA、アンチセンスDNA、染色体DNA、PAC、BAC等が挙げられ、好ましくはプラスミドDNA、cDNA、アンチセンスDNAであり、より好ましくはプラスミドDNAである。プラスミドDNA等の環状DNAは適宜制限酵素等により消化され、線形DNAとして用いることもできる。また、任意の種類のRNAを、使用の目的に応じて適宜選択することができ、例えばsiRNA、miRNA、shRNA、アンチセンスRNA、メッセンジャーRNA、一本鎖RNAゲノム、二本鎖RNAゲノム、RNAレプリコン、トランスファーRNA、リボゾーマルRNA等が挙げられ、好ましくはsiRNA、miRNA、shRNA、mRNA、アンチセンスRNA、RNAレプリコンである。
【0051】
核酸の大きさは、特に限定されず、染色体(人工染色体等)等の巨大な核酸分子(例えば約10kbpの大きさ)から、低分子核酸(例えば約5bpの大きさ)を導入することが可能であるが、細胞内への核酸導入効率を考慮すると、15kbp以下であることが好ましい。例えばプラスミドDNAのような高分子核酸の大きさとしては、2〜15kbp、好ましくは2〜10kbpが例示される。また、siRNAのような低分子核酸の大きさとしては5〜1000bp、好ましくは5〜500bp、さらに好ましくは5〜200bpが例示される。
【0052】
核酸は天然に存在するもの又は合成されたもののいずれでもよいが、100bp程度以下の大きさのものであれば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられる核酸自動合成装置を利用して合成することが可能である。
本発明において用いられる核酸は、特に限定されないが、当業者が通常用いる方法により精製されていることが好ましい。
【0053】
本発明のキャリアを生体内の細胞へ化合物を導入するために用いる態様としては、例えば、疾患の予防および/または治療(以下、「予防・治療」と略記する)を目的とした、いわゆる遺伝子治療をはじめとする予防・治療用化合物の生体内(in vivo)投与における使用が挙げられる。従って、本発明の好ましい一実施態様においては、本発明のキャリアにより細胞内へ導入される化合物は、ある所定の疾患に対して予防・治療活性を有するものである。そのような化合物としては、例えば、核酸、ペプチド、脂質、糖、生理活性物質、薬物、その他の天然または合成の化合物が挙げられる。
【0054】
遺伝子治療は、前記のように、欠損した遺伝情報を補うことを目的とするものと、疾病の原因遺伝子(標的遺伝子)の発現制御を目的とするものとに大別することができる。
【0055】
例えば、標的遺伝子の発現を制御し得る化合物が低分子核酸である場合、該低分子核酸としては、例えば、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、デコイオリゴヌクレオチド(例えば、転写因子もしくは転写抑制因子が認識して結合し得る塩基配列を含むオリゴヌクレオチド)等が挙げられる。
【0056】
標的遺伝子の発現を制御し得る化合物がペプチドまたは蛋白質である場合、該ペプチド/蛋白質には、例えば、標的遺伝子に結合して該遺伝子の転写を制御するか、あるいは標的遺伝子のmRNAもしくは初期転写産物に結合して蛋白質への翻訳を制御するペプチド/蛋白質、あるいは標的遺伝子の発現を制御する受容体からのシグナルを増強し得るペプチド性リガンド、もしくは該シグナルを遮断し得るアンタゴニスト様ペプチド/蛋白質などが挙げられる。
【0057】
あるいは、疾患予防・治療活性を有する化合物は、疾病の原因蛋白質の活性を制御し得るものであってもよい。そのような例としては、標的である受容体蛋白質のリガンドであるペプチド/蛋白質や非ペプチド性化合物(例えば、脂肪酸、ステロイドホルモンなど)、アゴニストまたはアンタゴニスト活性を有する種々の天然もしくは合成化合物、キナーゼのリン酸化部位の部分アミノ酸配列をミミックしたペプチドなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0058】
本発明はまた、本発明のキャリアと細胞内に導入されるべき化合物、好ましくは、本明細書において既に言及したような化合物との複合体を提供する。
上記キャリアを化合物の細胞内への導入に用いるためには、当該キャリアと導入化合物とを接触させることにより、当該キャリアと導入化合物との複合体(以下単に「複合体」と称する場合がある)を形成させる。複合体は、当該複合体が安定に存在し、例えば、ヌクレアーゼやペプチダーゼなどによる導入化合物(核酸、ペプチドなど)の分解を抑制し得る限り、いかなる相互作用によって形成されてもよい。例えば、導入化合物が核酸、ペプチド等の負に荷電した化合物である場合、正に荷電したペプチド脂質を含むキャリアを用いて、静電的相互作用による非共有結合を介して複合体を形成させることができる。また、導入化合物が正に荷電しているか非荷電の場合には、負に荷電したペプチド脂質を含むキャリアを用いて静電的相互作用よる非共有結合を介して複合体を形成させることができる。あるいは、他の相互作用を介するか、導入化合物を負に荷電した化合物と予め結合させることにより、キャリアとの複合体を形成させることもできる。他の相互作用としては、Rの構成アミノ酸の好ましい態様において上記したような相互作用が例示されるが、それらに限定されない。
複合体の形態としては、例えば、該キャリアがリポソームの場合、化合物は該リポソームに結合した形態であっても、内に取り込まれた形態であってもよく、好ましくはリポソーム内に取り込まれた形態である。
【0059】
キャリアと導入化合物との上記複合体は、当該キャリアを含む水性溶媒と導入化合物とを混合し、インキュベーションすることにより得られる。当該水性溶媒の種類は、上述と同様である。
また、当該インキュベーション時の温度は、上記ペプチド脂質複合化リポソームの調製方法における温度と同様の範囲で設定されることが好ましい。
【0060】
当該混合液中の上記キャリアの濃度は、用いられるペプチド脂質分子の種類等を考慮して適宜設定できるが、通常1〜200mM、好ましくは1〜100mM、より好ましくは1〜50mM、更に好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの範囲である。
濃度が低すぎると充分量の安定な複合体が形成されず、濃度が高すぎるとキャリアが析出することがある。
【0061】
混合物中の導入化合物の濃度は、用いる化合物の種類、サイズ(分子量)等を考慮し適宜設定できるが、該化合物が核酸である場合は、通常約0.01〜約100ng/μLの範囲である。
【0062】
該化合物がDNAである場合は通常3〜100ng/μLの範囲である。たとえばDNAが通常のプラスミドDNA(サイズが3kbp程度)である場合は、当該混合液中のDNA濃度は好ましくは10〜90ng/μL、より好ましくは20〜80ng/μL、更に好ましくは30〜70ng/μL、最も好ましくは40〜60ng/μLの範囲である。
濃度が低すぎると細胞へ導入されたDNAが期待された機能を発現することができず、濃度が高すぎるとかえって核酸導入効率が低下する。
【0063】
該化合物がRNAである場合も、RNAのサイズ等を考慮し、濃度を適宜設定できるが、RNAのサイズが数kbp程度である場合は、上記混合液中のRNA濃度は、通常3〜100ng/μL、好ましくは10〜90ng/μL、より好ましくは20〜80ng/μL、更に好ましくは30〜70ng/μL、最も好ましくは40〜60ng/μLの範囲である。
特に核酸がsiRNAのように約20〜約200bpの非常に小さいものである場合、該核酸の濃度は、通常1〜500nM、好ましくは20〜400nM、より好ましくは20〜300nM、更に好ましくは20〜200nM、最も好ましくは20〜100nMの範囲である。
濃度が低すぎると細胞へ導入されたRNAが期待された機能を発現することができず、濃度が高すぎるとかえって核酸導入効率が低下する。
【0064】
当該キャリアを含む水性溶媒と導入化合物とを混合した後のインキュベーションの時間は、用いる試薬の種類等の条件を考慮し適宜設定することが可能であるが、通常0.5〜500分間、好ましくは0.5〜200分間、より好ましくは0.5〜120分間、更に好ましくは0.5〜60分間、最も好ましくは1〜45分間の範囲である。
インキュベーション時間が短すぎると、導入化合物とキャリアとの複合体形成が不十分となり、インキュベーション時間が長すぎると、形成された複合体が不安定化する場合があり、いずれも導入化合物の導入効率が低下する。
上記工程によって、導入化合物の細胞内への導入に用いるキャリアと該化合物との複合体を含む混合液(以下「複合体含有溶液」と記載することがある)を得ることができる。
【0065】
更に、上記工程で得られた複合体と細胞とを接触させることで、複合体に含まれる導入化合物を細胞内へ導入することができる。
上記「細胞」の種類は、特に限定されず、原核生物及び真核生物の細胞を用いることができるが、好ましくは真核生物である。真核生物の種類も、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(カエル等)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ等)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエ等)などの非脊椎動物、植物、酵母等の微生物等が挙げられる。より好ましくは、本発明で対象とされる細胞は、動物もしくは植物細胞、さらに好ましくは哺乳動物細胞である。
当該細胞は、癌細胞を含む培養細胞株であっても、個体や組織より単離された細胞、あるいは組織もしくは組織片の細胞であってもよい。また、細胞は接着細胞であっても、非接着細胞であってもよい。
【0066】
複合体と細胞とを接触させる工程を以下においてより具体的に説明し得る。
即ち、細胞は当該複合体との接触の数日前に適当な培地に懸濁され、適切な条件で培養される。当該複合体との接触時において、細胞は増殖期にあってもよいし、そうでなくてもよい。
【0067】
当該接触時の培養液は、血清含培地であっても血清不含培地であってもよいが、培地中の血清濃度は30%以下が好ましく、20%以下であることがより好ましい。培地中に過剰な血清等の蛋白質が含まれていると、複合体と細胞との接触が阻害される可能性があるからである。
【0068】
当該接触時の細胞密度は、特に限定されず、細胞の種類等を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常0.1×10〜5×10細胞/mL、好ましくは0.1×10〜4×10細胞/mL、より好ましくは0.1×10〜3×10細胞/mL、更に好ましくは0.2×10〜3×10細胞/mL、最も好ましくは0.2×10〜2×10細胞/mLの範囲である。
【0069】
このように調製された細胞を含む培地に、上述の複合体含有溶液を添加する。複合体含有溶液の添加量は、特に限定されず、細胞数等を考慮して適宜設定することが可能であるが、培地1mLにつき、通常1〜1000μL、好ましくは1〜500μL、より好ましくは1〜300μL、更に好ましくは1〜200μL、最も好ましくは1〜100μLの範囲である。
【0070】
培地に複合体含有溶液を添加後、細胞を培養する、培養時の温度、湿度、CO濃度等は、細胞の種類を考慮して適宜設定する。哺乳動物の細胞の場合は、通常約37℃、湿度約95%、CO濃度は約5%である。
また、培養時間も用いる細胞の種類等の条件を考慮して適宜設定することが可能であるが、通常1〜72時間、好ましくは1〜60時間、より好ましくは1〜48時間、更に好ましくは1〜40時間、最も好ましくは1〜32時間の範囲である。
上記培養時間が短すぎると、導入化合物が十分細胞内へ導入されず、培養時間が長すぎると、細胞が弱ることがある。
【0071】
上記培養により、化合物が細胞内へ導入されるが、好ましくは培地を新鮮な培地と交換するか、培地に新鮮な培地を添加して更に培養を続ける。細胞が哺乳動物由来の細胞である場合は、新鮮な培地は血清又は栄養因子を含むことが好ましい。
更なる培養の時間は、導入された化合物に期待される機能等を考慮して、適宜設定することが可能であるが、該化合物が発現ベクター等のプラスミドDNAである場合は、通常8〜72時間、好ましくは8〜60時間、より好ましくは8〜48時間、更に好ましくは8〜36時間、最も好ましくは12〜32時間の範囲である。該化合物がsiRNAなどの標的遺伝子の発現を制御し得る低分子核酸である場合には、通常0〜72時間、好ましくは0〜60時間、より好ましくは0〜48時間、更に好ましくは0〜36時間、最も好ましくは0〜32時間の範囲である。
【0072】
また、上記の通り、本発明のキャリアと化合物との複合体を用いることで、試験管内(in vitro)のみならず、生体内(in vivo)においても該化合物を細胞内へ導入することが可能である。即ち、該複合体を対象に投与することにより、該複合体が標的細胞へ到達・接触し、生体内で該複合体に含まれる化合物が細胞内へ導入される。
該複合体を投与可能な対象としては、特に限定されず、例えば、ヒトを含む哺乳類(ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウシ等)、鳥類(ニワトリ、ダチョウ等)、両生類(カエル等)、魚類(ゼブラフィッシュ、メダカ等)などの脊椎動物、昆虫(蚕、蛾、ショウジョウバエ等)などの無脊椎動物、植物等を挙げることが出来る。好ましくは、該複合体の投与対象としては、ヒトまたは他の哺乳動物が挙げられる。
【0073】
また、該複合体の投与方法は、標的細胞へ該複合体が到達・接触し、該複合体に含まれる導入化合物を細胞内へ導入可能な範囲で特に限定されず、導入化合物の種類や、ターゲット細胞の種類や部位等を考慮して、自体公知の投与方法(経口投与、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、局所投与、経皮投与、皮下投与、腹腔内投与、スプレー等)等)を適宜選択することができる。
該複合体の投与量は、化合物の細胞内への導入を達成可能な範囲で特に限定されず、投与対象の種類、投与方法、導入化合物の種類、ターゲット細胞の種類や部位等を考慮して適宜選択することができるが、経口投与の場合、一般的に例えばヒト(60kgとして)においては、その1回投与量は複合体として約0.001mg〜10000mgである。
非経口的に投与する場合(例えば静脈内投与等)は、一般的に例えばヒト(60kgとして)においては、その1回投与量は複合体として約0.0001mg〜3000mgである。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0074】
本発明のキャリアを用いれば、極めて高い効率で化合物を細胞内へ導入することが可能であるので、本発明は、該キャリアを含む、生体外又は生体内で化合物を細胞内へ導入するための剤を提供する。該剤は研究用試薬、医薬等として提供され得る。該剤を上述の方法において用いることによって、容易に所望の化合物を細胞内へ導入することが可能である。
【0075】
本発明のキャリアを、化合物を細胞内へ導入するための剤として使用する場合は、常套手段に従って製剤化することができる。
【0076】
該剤が研究用試薬として提供される場合は、本発明のキャリアは、そのままで、あるいは例えば水もしくはそれ以外の生理学的に許容し得る液(例えば、上述の水溶性溶媒、エタノール、メタノール、DMSOなどの有機溶媒もしくは水溶性溶媒と有機溶媒との混合液等)との無菌性溶液もしくは懸濁液として提供され得る。該剤は適宜、自体公知の生理学的に許容し得る、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤等を含むことが出来る。
【0077】
また、該剤が医薬として提供される場合は、本発明のキャリアは、そのままで、あるいは担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などのような医薬上許容される公知の添加剤とともに、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって経口剤(例えば錠剤、カプセル剤等)あるいは非経口剤(例えば注射剤、スプレー剤等)として製造することができる。
【0078】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射剤用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例:エタノール)、ポリアルコール(例:プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例:ポリソルベート80TM、HCO−50)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤である安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。
【0079】
また、上記剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤(例えばアスコルビン酸など)などと配合してもよい。
【0080】
これらの剤に含まれる本発明のキャリアの含有量は、上記方法において用いられたときに化合物の細胞内への導入が達成されうる範囲において特に限定されず、剤型の種類、導入される化合物の種類等に応じて適宜選択することが可能である。
あるいは、本発明の剤に含まれるキャリアは、細胞内への導入が所望される化合物との複合体であってもよい。
【0081】
本発明のキャリアは、化合物を細胞内へ導入するためのキットとして提供することもできる。当該キットは、本発明のキャリアを用いた化合物の細胞内導入方法において用いられ得るあらゆる試薬等(例えば、上記水性溶媒、調製プロトコールが記載された指示書、反応容器等)を更に含むことが出来る。該キットを用いることにより、上述の方法に従い、容易に所望の化合物を細胞内へ導入することが可能である。
【実施例】
【0082】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれらに限定されない。
【0083】
実施例1 ペプチド脂質の合成および調製
(1)ペプチド脂質の合成(RE−C12の合成方法)
アミノ酸(L−グルタミン酸;E)、脂肪アルコール(ドデシルアルコール;C12−OH)、p−トルエンスルホン酸をトルエン溶媒中で混合し、Dean-Starkトラップ付き反応容器で加熱還流させ、脱水縮合にてエステル結合を形成させた。冷却(4℃)によって、E−C12のパラトルエンスルホン酸塩の結晶を析出させ、これを濾過し冷トルエン洗浄により白色結晶を得た。次に、E−C12をBoc保護されたアミノ酸(Boc−Arg(Boc)−OH)をジメチルホルムアミド溶媒中で、HOBt、WSC、TEA共存下で縮合反応を行った。次に、合成物(Boc−Arg(Boc)−Glu−C12)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、Boc保護をトリフルオロ酢酸によって脱保護を行い、Arg−Glu−C12(RE−C12)を得た。同定はNMRにて行った。他のペプチド脂質も同様の方法を用いて合成した。
(2)ペプチド脂質水溶液の調製
1.3mMの各種ペプチド脂質水溶液(1.0ml)となるように溶解し、超音波処理により分散調製した。
【0084】
実施例2 種々のヘッド長を有するペプチド脂質を用いた培養細胞へのプラスミドDNA導入
培養細胞(CHO細胞、HC細胞)1×10細胞/ウェルを、24ウェルプレート中で、24時間前培養(CHO細胞;10%FBS含有DMEM培地、HC細胞;10%FBS含有DMEM/F−12培地)した後、導入時に、新しく0.5mlの10%FBS含有培地に交換した。
1ウェルあたり1μgのプラスミドDNA(pCMV-IE-hsGFP;日本ジーン社から入手)を25μlの150mM NaCl溶液に混合し、1.3mMの各種ペプチド脂質(RE−C12、RGE−C12、RGGE−C12、RGGGE−C12、RE−C14、RGE−C14、RGGE−C14、RGGGE−C14)各5μlを上記のプラスミドDNA溶液に混合し、5分間インキュベート後、ペプチド脂質−DNA複合体を得た。これを上記の細胞に加え、5%COインキュベーター中で37℃で24時間培養した。翌日、蛍光顕微鏡により細胞を観察し、フローサイトメーターにより蛍光細胞を測定した。結果を図1に示す。ペプチド脂質をキャリアとして用いた場合に、GFPが高頻度に細胞内で発現され、プラスミドDNAが高効率で細胞内に導入されていることが分かった。
【0085】
実施例3 種々の濃度のペプチド脂質を用いた培養細胞へのsiRNA導入における細胞毒性
培養細胞(CHO−EGFP細胞;恒常的に蛍光タンパク質EGFPを発現するCHO細胞であり、常法により作製した。)1×10細胞/ウェルを、24ウェルプレート中で、24時間前培養(10%FBS含有DMEM培地)した後、導入時に、新しく0.5mlの10%FBS含有培地に交換した。
1ウェルあたり50pmolの抗EGFP−siRNA(日本ジーン社から入手)を、ペプチド脂質の試験区については25μlの150mM NaCl溶液およびLipofectamine2000の試験区についてはDMEM培地125μlに混合し、1.3mMの各種ペプチド脂質(RE−C12、RGE−C12)各2−6μlおよびLipofectamine2000(インビトロジェン社から入手;LipoA2000)1−5μlを上記のsiRNA溶液に混合し、5分間インキュベート後、RE−C12−RNA複合体、RGE−C12−RNA複合体およびLipofectamine2000−RNA複合体を得た。これを上記の細胞に加え、5%COインキュベーター中で37℃で24時間培養した。翌日、顕微鏡により細胞を観察し、トリパンブルー染色法により細胞死を測定した。結果を図2に示す。ペプチド脂質をキャリアとして用いた場合に、細胞毒性は全く観察されず、細胞生存率において、非導入細胞と有意な差は認められず、ペプチド脂質が低い細胞毒性を持つことが分かった。さらに、ペプチド脂質をキャリアとして用いた場合に、siRNAによりEGFP発現が顕著に抑えられ、その能力は、Lipofectamine2000の能力と同等かそれ以上のものであり、高効率にsiRNAが細胞内に導入されていることが分かった。
【0086】
実施例4 種々のヘッド長を有するペプチド脂質を用いた培養細胞へのsiRNA導入
培養細胞(CHO−EGFP細胞;恒常的に蛍光タンパク質EGFPを発現するCHO細胞であり、常法により作製した。)1×10細胞/ウェルを、24ウェルプレート中で、24時間前培養(10%FBS含有DMEM培地)した後、導入時に、新しく0.5mlの10%FBS含有培地に交換した。
1ウェルあたり50pmolの抗EGFP−siRNA(日本ジーン社から入手)を25μlの150mM NaCl溶液に混合し、1.3mMの各種ペプチド脂質(RE−C12、RGE−C12、RGGE−C12、RGGGE−C12、RE−C14、RGE−C14、RGGE−C14、RGGGE−C14)各5μlを上記のsiRNA溶液に混合し、5分間インキュベート後、ペプチド脂質−RNA複合体を得た。これを上記の細胞に加え、5%COインキュベーター中で37℃で24時間培養した。翌日、蛍光顕微鏡により細胞を観察し、フローサイトメーターにより蛍光細胞を測定した。結果を図3に示す。ペプチド脂質をキャリアとして用いた場合に、siRNAによりEGFP発現が顕著に抑えられ、高効率にsiRNAが細胞内に導入されていることが分かった。
【0087】
実施例5 塩基性アミノ酸ヘッドを有するペプチド脂質を用いた培養細胞へのプラスミドDNA導入
培養細胞(CHO細胞)1×10細胞/ウェルを、24ウェルプレート中で、24時間前培養(10%FBS含有DMEM培地)した後、導入時に、新しく0.5mlの10%FBS含有培地に交換した。
1ウェルあたり1μgのプラスミドDNA(pCMV-IE-hsGFP;日本ジーン社から入手)を25μlの150mM NaCl溶液に混合し、1.3mMの各種ペプチド脂質(RE−C14、KE−C14)各5μlを上記のプラスミドDNA溶液に混合し、5分間インキュベート後、ペプチド脂質−DNA複合体を得た。これを上記の細胞に加え、5%COインキュベーター中で37℃で24時間培養した。翌日、蛍光顕微鏡により細胞を観察し、フローサイトメーターにより蛍光細胞を測定した。結果を図4に示す。ArgやLysをヘッドとして設計したペプチド脂質を用いた場合に、どちらにおいてもGFPが高頻度に細胞内で発現され、プラスミドDNAが高効率で細胞内に導入されていることが分かった。
【0088】
実施例6 種々のコネクタを有するペプチド脂質を用いた培養細胞へのsiRNA導入
培養細胞(CHO―EGFP細胞;恒常的に蛍光タンパク質EGFPを発現するCHO細胞であり、常法により作製した。)1×10細胞/ウェルを、24ウェルプレート中で、24時間前培養(10%FBS含有DMEM培地)した後、導入時に、新しく0.5mlの10%FBS含有培地に交換した。
1ウェルあたり50pmolの抗EGFP−siRNA(日本ジーン社から入手)を25μlの150mM NaCl溶液に混合し、1.3mMの各種ペプチド脂質(RGE−C12、RGD−C12)各5μlおよびLipofectamine2000(インビトロジェン社から入手;LipoA2000)5μlを上記のsiRNA溶液に混合し、5分間インキュベート後、RGE−C12−RNA複合体、RGD−C12−RNA複合体およびLipofectamine2000−RNA複合体を得た。これを上記の細胞に加え、5%COインキュベーター中で37℃で24時間培養した。翌日、蛍光顕微鏡により細胞を観察し、フローサイトメーターにより蛍光細胞を測定した。結果を図5に示す。GluやAspをコネクタとして設計したペプチド脂質を用いた場合に、どちらにおいてもsiRNAによりEGFP発現が顕著に抑えられ、高効率にsiRNAが細胞内に導入され、それらの能力はLipofectamine2000よりも高く、細胞毒性の面でも優れていることが分かった。
【0089】
実施例7 種々のテイル長を有するペプチド脂質を用いた培養細胞へのプラスミドDNA導入
培養細胞(CHO細胞、HC細胞)1×10細胞/ウェルを、24ウェルプレート中で、24時間前培養(CHO細胞;10%FBS含有DMEM培地、HC細胞;10%FBS含有DMEM/F−12培地)した後、導入時に、新しく0.5mlの10%FBS含有培地に交換した。
1ウェルあたり1μgのプラスミドDNA(pCMV-IE-hsGFP;日本ジーン社から入手)をペプチド脂質の試験区については25μlの150mM NaCl溶液およびLipofectamine2000の試験区についてはDMEM培地125μlに混合し、1.3mMの各種ペプチド脂質(RE−C10、RE−C12、RE―C14、RE―C16)各5μlおよびLipofectamine2000(インビトロジェン社から入手;LipoA2000)2.5μl(プロトコールに準じて)を上記のプラスミドDNA溶液に混合し、5分間インキュベート後、RE−C10―DNA複合体、RE−C12―DNA複合体、RE―C14―DNA複合体、RE―C16―DNA複合体およびLipofectamine2000−DNA複合体を得た。これを上記の細胞に加え、5%COインキュベーター中で37℃で24時間培養した。翌日、蛍光顕微鏡により細胞を観察し、フローサイトメーターにより蛍光細胞を測定した。結果を図6に示す。C10からC16までのテイル長として設計したペプチド脂質を用いた場合に、どれもGFPが細胞内で発現され、プラスミドDNAが高効率で細胞内に導入されていることが分かった。
【0090】
実施例8 不飽和炭化水素基をテイル部分に有するペプチド脂質を用いた培養細胞へのプラスミドDNA導入
培養細胞(CHO細胞)1×10細胞/ウェルを、24ウェルプレート中で、24時間前培養(10%FBS含有DMEM培地)した後、導入時に、新しく0.5mlの10%FBS含有培地に交換した。
1ウェルあたり1μgのプラスミドDNA(pCMV-IE-hsGFP;日本ジーン社から入手)を25μlの150mM NaCl溶液に混合し、1.3mMの各種ペプチド脂質(KE−C14、KE−oleyl)各5μlを上記のプラスミドDNA溶液に混合し、5分間インキュベート後、ペプチド脂質−DNA複合体を得た。これを上記の細胞に加え、5%COインキュベーター中で37℃で24時間培養した。翌日、蛍光顕微鏡により細胞を観察し、フローサイトメーターにより蛍光細胞を測定した。結果を図7に示す。テイルとして不飽和炭化水素基を有するように設計したペプチド脂質を用いた場合に、どれもGFPが細胞内で発現され、プラスミドDNAが高効率で細胞内に導入されていることが分かった。
【0091】
実施例9 デンドリマー型アミノ酸配列を有するペプチド脂質を用いた培養細胞へのプラスミドDNA導入
培養細胞(CHO細胞)1×10細胞/ウェルを、24ウェルプレート中で、24時間前培養(10%FBS含有DMEM培地)した後、導入時に、新しく0.5mlの10%FBS含有培地に交換した。
1ウェルあたり1μgのプラスミドDNA(pCMV-IE-hsGFP;日本ジーン社から入手)を25μlの150mM NaCl溶液に混合し、1.3mMの各種ペプチド脂質(RE−C12、RKE−C12、(RG)KE−C12)各5μlを上記のプラスミドDNA溶液に混合し、5分間インキュベート後、ペプチド脂質−DNA複合体を得た。これを上記の細胞に加え、5%COインキュベーター中で37℃で24時間培養した。翌日、蛍光顕微鏡により細胞を観察し、フローサイトメーターにより蛍光細胞を測定した。結果を図8に示す。ヘッドとしてデンドリマー型アミノ酸配列を有するように設計したペプチド脂質を用いた場合にもGFPが細胞内で発現され、プラスミドDNAが高効率で細胞内に導入されていることが分かった。
【0092】
実施例10 ペプチド脂質を用いたマウスへのsiRNA導入
400pmolのCy3標識siRNA(ダーマコン社から入手)を200μlの150mM NaCl溶液に混合し、1.3mMのペプチド脂質(RE−C12)16μlを上記のsiRNA溶液に混合し、5分間インキュベート後、ペプチド脂質−RNA複合体を得た。これをBalb/cマウス(15週齢)の尾静脈から注射した。試験された濃度では、マウスに急性毒性は見られなかった。4時間後マウスを解剖し、各組織(心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓)を摘出し、小片にカットした後、蛍光顕微鏡で観察した。結果を表1に示す。ペプチド脂質をキャリアとして用いた場合に、生体内の各組織へsiRNAを導入することができた。特に肝臓と胸腺への導入効率が優れていた。
【0093】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のキャリアは、細胞毒性が低く、かつ化合物の細胞内導入効率が高いので、研究用および医薬用の高性能な化合物細胞内導入試薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】CHO細胞(図1A)およびHC細胞(図1B)へのプラスミドDNA導入効率におけるペプチド脂質のヘッド長の効果を示す図である。
【図2】CHO-EGFP細胞へのsiRNA導入効率および細胞毒性におけるペプチド脂質およびLipofectamine2000の濃度依存性を示す図である。図中、棒グラフは相対的EGFP発現(%)を示し、折れ線グラフは細胞生存率(%)を示す。
【図3】CHO-EGFP細胞へのsiRNA導入効率におけるペプチド脂質のヘッド長の効果を示す図である。
【図4】細胞へのプラスミドDNA導入効率における塩基性アミノ酸ヘッドを有するペプチド脂質の効果を示す図である。
【図5】CHO-EGFP細胞へのsiRNA導入効率における種々のコネクタ部分を有するペプチド脂質および細胞毒性の効果を示す図である。図中、白棒グラフは相対的EGFP発現(%)、黒棒グラフは細胞生存率(%)を示す。
【図6】CHO細胞(図6A)およびHC細胞(図6B)へのプラスミドDNA導入効率におけるペプチド脂質のテイル長の効果を示す図である。
【図7】細胞へのプラスミドDNA導入効率における不飽和炭化水素基を有するペプチド脂質の効果を示す図である。
【図8】細胞へのプラスミドDNA導入効率におけるデンドリマー型アミノ酸配列を有するペプチド脂質の効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、Rはアミノ酸残基数1〜10のアミノ酸もしくはペプチドを示し、Rは任意のアミノ酸側鎖を示し、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示す。但し、Rがカルボキシル基を有する場合、該カルボキシル基は炭素数1〜30の炭化水素基とのエステルであってもよい)
で表わされる化合物。
【請求項2】
がアミノ酸残基数1〜5のアミノ酸もしくはペプチドである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
がArg、Lys、Cys、Met、His、Tyr、GluおよびAspからなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基を1個以上含む、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
のN末端アミノ酸がArg、Lys、Cys、Met、His、Tyr、GluおよびAspからなる群より選択される、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
のN末端アミノ酸がArgもしくはLysである、請求項4記載の化合物。
【請求項6】
が−CHCOORもしくは−CCOOR(式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示す)である、請求項1〜5のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
が炭素数10〜20の直鎖アルキル基もしくは直鎖不飽和炭化水素基である、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
が炭素数10〜20の直鎖アルキル基もしくは直鎖不飽和炭化水素基である、請求項1〜7のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の化合物を少なくとも1種含有してなる、導入化合物の細胞内導入用キャリア。
【請求項10】
導入化合物が核酸である、請求項9記載のキャリア。
【請求項11】
核酸がプラスミドDNA、cDNAもしくはアンチセンスDNA、またはsiRNA、miRNA、shRNA、mRNA、アンチセンスRNAもしくはRNAレプリコンである、請求項10記載のキャリア。
【請求項12】
導入化合物がペプチドまたはタンパク質である、請求項9記載のキャリア。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載のキャリアと導入化合物との複合体。
【請求項14】
請求項13記載の複合体と細胞とを接触させることを含む、導入化合物の該細胞内への導入方法。
【請求項15】
請求項13記載の複合体を、ヒトまたはヒト以外の対象に投与することを含む、該対象内で導入化合物を細胞内へ導入する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−528258(P2009−528258A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541185(P2008−541185)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【国際出願番号】PCT/JP2006/304514
【国際公開番号】WO2007/099650
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、地域新生コンソーシアム研究開発事業、九州経済産業局委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(590005081)株式会社同仁化学研究所 (9)
【Fターム(参考)】