説明

ペルオキシダーゼおよびニトロキシ基による炭水化物の酸化

【解決手段】 本発明は、炭水化物および/または炭水化物誘導体を含有する反応媒体をニトロキシ基媒介物およびペルオキシダーゼ酵素と接触させることを含む、少なくとも1つの第一アルコール基を持つ炭水化物および/または炭水化物誘導体を酸化する方法において、初期反応媒体が少なくとも10重量%の炭水化物および/または炭水化物誘導体を含有しており、ペルオキシダーゼ酵素がオイルシード・ペルオキシダーゼでありそしてヒドロペルオキシドおよびアルカリ化合物を反応媒体に、それのpHが3.5〜10.0の間に維持されるように徐々に添加することを特徴とする、上記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭水化物および/または炭水化物誘導体をペルオキシダーゼ酵素およびニトロキシ基媒介物で酸化する方法に関する。特に本発明は第一アルコール基をカルボキシル基に選択的に酸化することに関する。
【背景技術】
【0002】
炭水化物(および炭水化物誘導体)の第一アルコール基の酸化はアルデヒド(R’−CHO)および/またはカルボニル(R’−COOH)基の形成をもたらす。
【0003】
アルデヒドおよびカルボニル基の形成は、得られる化合物の反応性、転用性および溶解性を高め、それ故に該化合物は非常に沢山の工業的用途(例えば食品、繊維および製紙工業)がある。結果として第一アルコール基の選択的酸化を可能とする方法を開発することに多大な興味が持たれている。かゝる方法の1つはニトロキシ基媒介物を用いるものである。
【0004】
沢山のニトロキシ基-媒介酸化法が従来、報告されてきた。かゝる方法の例は以下の特許出願に見ることができる: 国際特許出願公開第00/50621(A1)号明細書、同第01/00681(A1)号明細書、米国特許出願公開第2003−0029588(A1)号明細書およびヨーロッパ特許出願公開第1077221(A1)号明細書。
【0005】
残念ながら、存在する方法の全てが沢山の欠点を有している。例えば 米国特許出願公開第2003−0029588(A1)号明細書およびヨーロッパ特許出願公開第1077221(A1)号明細書は環境に有害なハロゲン化化合物を使用することを必要としている。しかしながら存在する方法の主な欠点はどんな時でも実際に酸化できる炭水化物基材の量に関して性能が悪いことである。例えば国際特許出願公開第00/50621(A1)号明細書および同第01/00681(A1)号明細書の両方では、記載された反応媒体に添加できる炭水化物の量は1〜2%(固形分含有量)より多くない量に制限されている(実際には固形分含有量は0.05%を大抵、超えない)。
【0006】
このように、得るべき酸化炭水化物のあらゆる実用量のために、非常に多量の反応薬が必要とされそして生じる排水の量は相当なものである。例えば、酸化の水準を高めるために多量の酵素を使用しなければならないことが示唆されている。これは反応の費用を予想以上に増加させるだけでなく、効力がないこともわかっている。従って既存の方法は経済的でないか、工業的規模で使用するのには適していない。
【0007】
それ故に改善されたニトロキシ基媒介酸化法が必要とされている。
【特許文献1】国際特許出願公開第00/50621(A1)号明細書
【特許文献2】国際特許出願公開第01/00681(A1)号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003−0029588(A1)号明細書
【特許文献4】ヨーロッパ特許出願公開第1077221(A1)号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかゝる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの面は、炭水化物および/または炭水化物誘導体を含有する反応媒体をニトロキシ基媒介物およびペルオキシダーゼ酵素と接触させることを含む、少なくとも1つの第一アルコール基を持つ炭水化物および/または炭水化物誘導体を酸化する方法において、初期反応媒体が少なくとも10重量%の炭水化物および/または炭水化物誘導体を含有しており、ペルオキシダーゼ酵素がオイルシード(oilseed)・ペルオキシダーゼでありそしてヒドロペルオキシドおよびアルカリ化合物(例えばNaOH)を反応媒体に、それのpHが3.5〜10.0の間に維持されるように徐々に添加することを特徴とする、上記方法に関する。
【0010】
有利な一つの実施態様においては、少なくとも10%の第一アルコール基が酸化される。更に好ましくは酸化される第一アルコール基の少なくとも50%がカルボニル基にまで酸化される。
【0011】
本発明の別の面は、上記方法に従ってグルコースを酸化してグルコン酸および/またはグルカル酸を製造する方法に関する。
【0012】
本発明の更に別の面は、a)上記の方法に従ってトレハロースを酸化し;b)場合によってはニトロキシ基媒介物を回収し;c)段階a)の反応の酸化生成物を加水分解し;d)段階c)の加水分解反応の生成物をラクトン化し;そしてe)段階d)の生成物を結晶化する
各段階を含むD−グルクロノラクトンの製造方法に関する。好ましくは上記トレハロースの少なくとも15%がD−グルクロノラクトンに転化される。
【0013】
本発明は、炭水化物および/または炭水化物誘導体を含有する反応媒体をニトロキシ基媒介物およびペルオキシダーゼ酵素と接触させることを含む、少なくとも1つの第一アルコール基を持つ炭水化物および/または炭水化物誘導体を酸化する方法において、初期反応媒体が少なくとも10重量%の炭水化物および/または炭水化物誘導体を含有しており、ペルオキシダーゼ酵素がオイルシード・ペルオキシダーゼでありそしてヒドロペルオキシドおよびアルカリ化合物を反応媒体に、それのpHが3.5〜10.0の間に維持されるように徐々に添加することを特徴とする、上記方法に関する。
【0014】
炭水化物および/または炭水化物誘導体:
“炭水化物”とは少なくとも1つの炭水化物サブユニットを含有するあらゆる化合物を言う。1つまたは複数の非炭水化物サブユニット(例えば脂質残余部分、蛋白質残余部分等)を含有していてもよい。
【0015】
少なくとも1つの炭水化物サブユニット(例えばグルコースまたはフルクトース)、二糖類(例えば蔗糖、マルトース、ラクトースまたはトレハロース)またはオリゴ糖または多糖類(即ち、それぞれ3〜10または10以上の重合度を有する分子)でもよい。
【0016】
オリゴ糖および多糖類はあらゆる種類でもよく、ガラクタン類、(ガラクト)マンナン類、フラノフルクタン類およびキシラン類;α−グルカン類、例えばプルラン、澱粉、澱粉成分(即ち、アミロースまたはアミロペクチン)または澱粉誘導体(例えばデキストリン類、マルトデキストリン類またはシクロデキストリン類);β−グルカン類、例えばセルロースまたはキチン;フルクタン類、例えばイヌリン;天然または合成ゴム、例えばキサンタン、グア、アラビアゴム、寒天、カラゲナン等が含まれるが、これらに限らない。
【0017】
本発明の方法は、上記のあらゆる炭水化物の誘導体または塩を酸化するのにも使用することができる。全くの参考までに、かゝる化合物は“炭水化物誘導体”と称する。誘導体は化学的に、酵素的におよび/または熱的に変性された炭水化物化合物を含む。本発明の方法で使用するのに適する有利な炭水化物誘導体の例には、還元された炭水化物(例えばグリセロール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、ラクチトール、マルチトール、エリスリトールグリセロール、トレイトール、アラビニトール、リビトール、イソマルトおよびイソマルチトール)、アミノ炭水化物類、グリコナミド類、グリコシラミン類、含窒素炭水化物誘導体、デオキシ炭水化物類、チオ炭水化物類、チオ還元炭水化物類、不飽和炭水化物類、炭水化物のアンヒドロ誘導体、還元炭水化物のアンヒドロ誘導体、炭水化物グリコシド類、炭水化物エーテル類、炭水化物エーテル類および炭水化物エステル類(カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、硼酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステル、炭酸エステル、チオ炭酸エステルおよびカルマミン酸エステルが含まれる)がある。
【0018】
有利には炭水化物または炭水化物誘導体は澱粉、グルコース、トレハロース、マルト−オリゴ糖類、イソマルト−オリゴ糖、グルコースシロップ類、マルトデキストリン、グリセロールおよびソルビトールまたはこれらのうちの二種以上の混合物から選択される。
【0019】
反応媒体:
炭水化物および/または炭水化物誘導体の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、更に好ましくは少なくとも30重量%、なかでも少なくとも40重量%(固形分含有量)を初期反応媒体に添加する。その際“初期”反応媒体とは酸化反応を開始する前の反応媒体を言う。
【0020】
反応媒体は水性媒体、均一に混合された媒体(例えばアルコール/水またはエーテル/水−混合物)または不均一媒体(例えば水と水非混和性有機溶剤、例えば疎水性エーテル、炭化水素またはハロゲン化炭化水素との混合物)でもよい。
【0021】
本発明の一つの有利な態様によれば、反応媒体は固体/液体−混合物でもよく、その際に本発明のニトロキシ基媒介物および/またはペルオキシダーゼ酵素は担体に固定化されている。媒介物および/または酵素は従来公知の如何なる方法(例えば化学的共役結合、ゲルでの閉じ込め、吸着、半透明な膜でのカプセル化、架橋等)を用いて固定化されていてもよい。
【0022】
ニトロキシ基媒介物:
その形状に係わりなく、初期反応媒体はニトロキシ基媒介物と第一アルコール基とを1:4〜1:150、好ましくは約1:40〜1:70のモル比で含有しているのが有利である。ニトロキシ基媒介物は、例としてであるが、ジ第三ニトロキシル化合物、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、α−水素原子が欠けている有機系ニトロキシル化合物、例えば2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−N−オキシル(PROXYL)、4−ヒドロキシ、4−メトキシ、4−アルコキシル、4−アセトキシ、4−ホスホノオキシまたは4−ベンゾイルオキシ−TEMPO、それのアシル化誘導体、例えば4−アセトアミド−および4−マレイミド−TEMPOまたはデヒドロ−TEMPO(1,2,3,6−テトラヒドロ−2,2,6,6−テトラメチルピリジン−1−オキシル)でもよい。ニトロキシ基媒介物は好ましくはTENPOまたは4−メトキシTEMPOである。
【0023】
ニトロキシ基媒介物の活性な酸化種はニトロソニウムイオン(>N=O)であり、“ニトロキシ基媒介物”とはニトロキシル化合物の活性化された状態および不活性状態の両方に関する。活性化されたニトロキシ基媒介物は反応媒体に直接的に添加してもよいが、好ましくはその場で酸化によって製造される。
【0024】
ニトロキシ基媒介物は上述の誘導体または何らかの類似物または2種類以上の組合せでもよい。理想を言えば、使用後にニトロキシ基媒介物は回収されそして公知の何らかの方法(例えば国際特許出願公開第96−36621A1に記載した方法)を用いて反応媒体に戻す。
【0025】
ペルオキシダーゼ酵素:
ペルオキシダーゼ酵素は好ましくは1モルの第一アルコール当たり2000〜540,000単位の量で、特に好ましくは1モルの第一アルコール当たり約5000単位の量で添加される。ペルオキシダーゼ酵素単位は、例えばChance, B. およびMaehly, A.C. (1955) Methods in Enzymology II、第 773〜775頁に説明されているような 技術分野で標準の方法を用いて測定することができる。
【0026】
本発明の方法で使用されるペルオキシダーゼはオイルシード誘導されたペルオキシダーゼ酵素であり、好ましくは酵素分類EC1.11.1から、更に好ましくはEC1.11.1.7から選択される。かゝる酵素の適する出所は大豆、菜種、向日葵、亜麻、綿、からし、油菜科ハマナス属植物(または他の油菜属の他の植物)、パーム油および落花生が含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
pH制御:
ペルオキシダーゼ酵素を用いることは電子受容体の存在を必要とする。本発明の方法で使用される電子受容体はヒドロペルオキシドでもよい。 ヒドロペルオキシドは好ましくは過酸化水素またはそれの出所、例えば過酸化水素前駆体、例えば過硼酸塩または過炭酸塩;過酸化水素発生酵素;ペルオキシカルボン酸またはそれの塩である。1モルの第一アルコール当たり、0.5〜4ミリモルのヒドロペルオキシドを反応媒体に添加する。この添加はゆっくり行うべきでありそして反応媒体のpHが3.5〜10.0の間に維持されるように制御するべきである。
【0028】
反応媒体の最適pHはある程度、酸化すべき基体に依存している。こうして最も良好な炭水化物、特にトレハロースのためには有利なpHは3.5〜8.0の間にある。更に有利には4.0〜7.5の間、なかでも約7である。しかしながらある種の炭水化物誘導体(例えば還元された炭水化物および特にグリセロール)のためには有利なpHは5.0〜10.0の間にある。
【0029】
ヒドロペルオキシドに加えて、反応媒体のpHは更にアルカリ化合物を徐々に添加することによって維持される。こうして、1つの第一アルコール基には0.1〜1.1ミリモル/分のアルカリ化合物が反応媒体に添加される。アルカリ化合物は水酸化ナトリウム(NaOH)であるのが好ましい。ヒドロペルオキシドおよびアルカリ化合物の添加は無電pH(pH stat.)法を用いて制御する。
【0030】
反応媒体のpHの他に反応媒体の温度も理想的に制御する。こうして反応媒体は有利には15〜50℃、好ましくは20〜30℃、特に好ましくは約25℃に維持する。一つの実施態様によれば、反応時間は20時間ほどである。別の実施態様によれば、100時間までまたはそれ以上でもよい。しかしながら好ましくは40〜55時間、更に好ましくは45〜52時間である。
【0031】
上述の反応条件のもとでは、驚くべきことに、高い炭水化物(および/または炭水化物誘導体)濃度(固形分含有量)が初期反応媒体中に含まれていてもよいことを見出した。初期反応媒体中に存在する第一アルコール基の10%以上、好ましくは少なくとも20%、更に好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、特に好ましくは少なくとも50%、なかでも少なくとも60%、殊に少なくとも70%、特に少なくとも80%、更になかでも少なくとも90%が酸化されることを見出した。有利な一つの実施態様によれば、酸化される第一アルコール基はカルボキシル基にまで酸化される。特に有利な一つの実施態様によれば、酸化される第一アルコール基の少なくとも50%がカルボキシル基に酸化される。理想的には、酸化される第一アルコール基の少なくとも50%がカルボニル基に酸化される。
【0032】
グルコン酸および/またはグルカル酸の製造:
酸化反応の実際の生成物は、勿論、基材として使用される炭水化物および/または炭水化物誘導体に依存している。初期反応媒体に添加される炭水化物がグルコースである一つの可能な実施態様においては、反応生成物はグルコン酸(C酸化)またはグルカル酸(CおよびC酸化)である。こうして本発明はグルコースを酸化することによってグルコン酸またはグルカル酸を製造する方法にも関する。
【0033】
D−グルクロノラクトンの製造:
本発明の生成物は更に例えば付加的酸化、ヒドロキシアルキル化、カルボキシメチル化、カチオン化、アミド化、エステル化、架橋または加水分解によっても変性できる。
【0034】
このように例えば本発明は、a)上記の方法に従ってトレハロースを酸化し;b)場合によってはニトロキシ基媒介物を回収し;c)段階a)の反応の酸化生成物を加水分解し;d)段階c)の加水分解反応の生成物をラクトン化し;そしてe)段階d)の生成物を結晶化する
各段階を含むD−グルクロノラクトンの製造方法に関する。好ましくは上記トレハロースの少なくとも15%がD−グルクロノラクトンに転化される。
【0035】
トレハロースは構成糖類としてD−グルコースを含む非還元の二糖類である。このものは植物、バクテリア、菌類、藻類または昆虫から抽出することができるしまたは例えばマルトースまたは澱粉から誘導できる。酸化されたトレハロースは酸類、例えば塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、過酸および/またはカチオン交換樹脂から選択される1種類以上の加水分解剤と反応させることによって加水分解されうる。
【0036】
更に好ましくは、酸化トレハロースは酵素で加水分解される。適するヒドロラーゼ酵素はO−グリコシル化合物加水分解酵素、例えばガラクチュロナーゼ酵素を含むが、これに制限されない。加水分解酵素は好ましくはエクソ−ポリガラクチュラーゼである。この酵素は反応媒体に0.05〜30重量%、好ましくは2〜20重量%の量で添加される。この酵素は溶液中に遊離していてもまたは何らかの公知の方法を用いて不活性担体に固定化されていてもよい。
【0037】
加水分解は好ましくは液相、例えば水、溶剤、例えば直鎖状のまたは分岐した低級アルコール(例えばメタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールおよびイソプロパノール)中でまたはそれらの二種類以上の混合物中で実施してもよい。反応時間は1〜150時間、好ましくは5〜80時間、更に好ましくは5〜10時間の間で変動してもよい。pHは、加水分解グルクロナート生成物をグルクロン酸に酸化できるように好ましくは3〜6に維持し、更に好ましくは約4〜5に維持する。インキュベーション温度は30〜50℃、好ましくは約40℃に調整することができる。
【0038】
ラクトン化段階はグルクロン酸を(例えば塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸のような酸で)グルクロノラクトンに転化するために使用される。D−グルクロノラクトンは次いで以下の方法のいずれか一つ以上によって結晶化させることによって反応生成物から分離することができる:濾過、抽出、固液分離、分別沈殿、透析蒸留など。高純度のD−グルクロノラクトンが必要な場合には、糖類または糖類誘導体の精製に従来技術で一般に使用される技術、例えば薄層クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、蒸留および結晶化を使用してもよい。本発明の方法に従って製造されるD−グルクロノラクトンは例えば栄養補助剤、エネルギー食品または飲み物および医薬品において使用することができる。
【0039】
本発明を以下の実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
実施例:
【実施例1】
【0041】
グルコン酸およびグルカル酸の製造:
15gのD−グルコース( 製造元:Aldrich)を21.5mLの脱塩水に溶解する(固形分含有量39.9%)。1.056gのTEMPO(製造元:Aldrich)をグルコース溶液に添加する。0.0206gの大豆ペルオキシダーゼ (SIGMATM)を添加しそして反応を攪拌下に25℃で24時間行う。過酸化水素(30 % 濃度PerhydrolTM :製造元 Merck) を0.138ミリモル/分の供給速度で連続的に添加する。pHは4MのNaOH(製造元:Merck)を添加することによって一定に維持する。
【0042】
24時間後に反応混合物をHPLCによって分析する。各サンプルを75℃、1mL/分で2つの別個のカラム、即ち、水の入った Shodex K-S-801 (Na+ 型)カラムおよび0.01モルのHSOの入ったShodex KC-811 (H+ 型)カラムで分析する。得られる2つのクロマトグラムを使用して、酸化反応によって生成されるグルクロン酸(4.4%)、グルコン酸(86.5%)およびグルカル酸(6.8%)の濃度を測定した。
【実施例2】
【0043】
酸化されたトラハロース中のアルデヒド含有量の測定(試験1):
酸化操作:
20gのD−トレハロース (ASCENDTM ;製造元:Cargill)の選択的C6−酸化を大豆ペルオキシダーゼ/過酸化水素および媒介物としてのTEMPO(製造元:Aldrich)を用いて実験室試験で行う。以下の条件を使用する:
− D−トレハロースの固形分含有量:40%(固形分含有量)
− TEMPO/第一アルコール基−モル比:1/40
− 大豆ペルオキシダーゼ(OrganicTecTM): 10,000単位/1モルの第一OH
− 過酸化水素(30%濃度PerhydrolTM): 0.01mL/分
− pH7に無電pH制御するための水酸化ナトリウム4モル溶液
− 反応温度:25℃。
* 上記の第一アルコール基は化学式−CH−OHで表されるが、“第一OH”と略してもよい。
【0044】
反応媒体をマグネットスタラーで連続的に攪拌する。サンプルを17、42、60および74モル%(NaOH)/第一OHの水酸化ナトリウム消費量に相応して反応時間(10、21、28および36時間)を増やした後に採取する。これが酸化度の目安である。
【0045】
アルデヒド測定:
水酸化ナトリウムでのヒドロキシアミン−ヒドロクロライド滴定は、ヨーロッパ特許出願公開第1077221号(A1)明細書“酸化法によって製造される多糖類アルデヒドおよび製紙における強化添加物(strength additives)としての用途”に説明された方法をベースとする。
【0046】
15ミリモルの第一OHを含有するサンプルのpHを1モルHClでpH3.2に調整する。即ちこのpHはHClの当量点にある。
【0047】
過剰のヒドロキシアミン−ヒドロクロライドを添加する(Merckから入手の1.5モル溶液)。
【0048】
下記の反応機構に従うオキシム誘導体化によって、HClを生じさせそしてMetrohm pH Stat 718 Titrinoによって0.1モルNaOHを添加してpH値を3.2に維持する。添加するNaOHのモル量は存在するアルデヒド基数の目安である。
【0049】
反応機構:: R-CHO + NH2OH.HCl → RCHNOH + HCl
測定結果を下記の表1に示す:
【0050】
【表1】

【0051】
表1:アルデヒド測定
D−トレハロースの第一OHを、カルボン酸を生成する前にアルデヒドに酸化する。異なる酸化度でアルデヒドを測定すると、高い酸化度ではアルデヒドの値が低いことがわかる。17、42、60および74モル%のウロン酸/第一OHの酸化度に相応するアルデヒド含有量はそれぞれ13、10、6および5モル%(アルデヒド)/第一OHである。
【実施例3】
【0052】

酸化されたトレハロース中のアルデヒド含有量の測定(試験2)
酸化操作:
20gのD−トレハロースの選択的C6−酸化を大豆ペルオキシダーゼ/過酸化水素および媒介物としてのTEMPO(製造元:Aldrich)を用いて実験室試験で行う。以下の条件を使用する:
− D−トレハロースの固形分含有量 :40%(固形分含有量)
− TEMPO/第一アルコール基−モル比:1/40
− 大豆ペルオキシダーゼ(OrganicTecTM): 5,000単位/1モルの第一OH
− 過酸化水素(30%濃度PerhydrolTM) : 0.01mL/分
− pH5、pH6、pH7およびpH8に無電pH制御するための水酸化ナトリウム4モル溶液
− 反応温度:25℃。
【0053】
サンプルを反応時間を増加させた後に採取する。相応する水酸化ナトリウム消費量を表2に示す。
【0054】
カルボキシル基およびアルデヒド測定:
NaOH消費量の他に、標準Blumenkrantz法(特定ウロン酸定量化法)およびHPLC法を酸化のレベルを測定するために使用する。HPLCは24℃、1mL/分で0.01モルのHSOの入った2つの連続したShodex KC-811 (H+ 型)カラムで行う。
【0055】
アルデヒド濃度は上記実施例2に記載の方法を用いて測定する。得られた結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2:
D−トレハロースの第一OHを、カルボン酸を生成する前にアルデヒドに酸化する。異なる酸化度でアルデヒドを測定すると、高い酸化度ではアルデヒドの値が低いことがわかる。
[比較例1]
pH制御せずのトレハロースの酸化:
トレハロースの酸化を大豆ペルオキシダーゼ/過酸化水素および媒介物としてのTEMPO(製造元:Aldrich)を用いて実験室試験で行う。以下の条件を使用する:
− D−トレハロースの固形分含有量:40%d.s.
− TEMPO/第一アルコール基−モル比:1/70
− 大豆ペルオキシダーゼ(OrganicTecTM): 5,000単位/1モルの第一OH
− 過酸化水素(30%濃度PerhydrolTM) :52時間に亙って供給した2.4モル/1モルの第一OH
− 反応温度:25℃。
【0058】
pH制御をしないと、トレハロースの9%しか酸化されず、溶液中に83%のトレハロースが残留することがわかった。
[比較例2]
オイルシード・ペルオキシダーゼを用いずに酸化:
40%(固形分含有量)の20gのD−トレハロース溶液に、TEMPO(製造元:Aldrich)を1/40のTEMPO/第一アルコール基−モル比で添加する。ペルオキシダーゼとしてわさび大根ペルオキシダーゼ(製造元:Fluka)を1モルの第一OH当たり10,000単位の供給量で使用する。
【0059】
酸化は25℃で実施する。過酸化水素(30%濃度PerhydrolTM)を0.01mL/分の流速で添加する。pHは4モル濃度のNaOHを添加することによってpH7に維持する。1時間反応した後に過酸化水素濃度は25ppmを越えた。反応は、全部で29.3mLの過酸化水素添加量および0.6mLのNaOH消費量にて49時間継続する。HPLC分析で0.7%の酸化がわかった。このように、わさび大根ペルオキシダーゼを使用したのでは、顕著な酸化は行われない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物および/または炭水化物誘導体を含有する反応媒体をニトロキシ基媒介物およびペルオキシダーゼ酵素と接触させることを含む、少なくとも1つの第一アルコール基を持つ炭水化物および/または炭水化物誘導体を酸化する方法において、初期反応媒体が少なくとも10重量%の炭水化物および/または炭水化物誘導体を含有しており、ペルオキシダーゼ酵素がオイルシード・ペルオキシダーゼでありそしてヒドロペルオキシドおよびアルカリ化合物を反応媒体に、それのpHが3.5〜10.0の間に維持されるように徐々に添加することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
炭水化物および/または炭水化物誘導体を澱粉、グルコース、トレハロース、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、グルコースシロップ、マルトデキストリン、グリセロール、ソルビトールおよびそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
pHを3.5〜8.0、好ましくは4.0〜7.5の間に維持する、請求項1に記載の炭水化物の酸化法。
【請求項4】
pHを5.0〜10.0の間に維持する、請求項1に記載の炭水化物誘導体の酸化法。
【請求項5】
初期反応媒体が少なくとも40重量%の炭水化物および/または炭水化物誘導体を含有する、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
第一アルコール基の少なくとも10%を酸化する、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
酸化された第一アルコール基の少なくとも50%をカルボキシル基に酸化する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ニトロキシ基媒介物がジ第三ニトロキシル化合物、好ましくは2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)およびそれの誘導体またはそれらの混合物から選択される、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
初期反応媒体がニトロキシ基媒介物と第一アルコール基とを1:4〜1:150、好ましくは1:40〜1:70のモル比で含有する、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
ペルオキシダーゼ酵素が菜種ペルオキシダーゼ、パーム油ペルオキシダーゼ、落花生ペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼおよびそれらの混合物よりなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
ペルオキシダーゼ酵素が大豆ペルオキシダーゼまたはパーム油ペルオキシダーゼである請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
初期反応媒体が1モルの第一アルコール当たりに2000〜540,000単位のペルオキシダーゼ酵素、好ましくは約5000単位のペルオキシダーゼ酵素を含有する、請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
ペルオキシダーゼ酵素が担体に固定化されている請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
1モルの第一アルコール当たりに0.5〜4ミリモル/分のヒドロペルオキシドを反応媒体に添加する、請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
ヒドロペルオキシドが過酸化水素またはそれの源物質である、請求項1〜14のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
第一アルコール基当たりに0.1〜1.1ミリモル/分のアルカリ化合物を反応媒体に添加する、請求項1〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
アルカリ化合物が水酸化ナトリウムである、請求項1〜16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
反応媒体を20〜50℃、好ましくは約25℃の温度に維持する、請求項1〜17のいずれか一つに記載の方法。
【請求項19】
反応時間が20〜55時間、好ましくは45〜52時間である、請求項1〜18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜3または5〜19のいずれか一つに記載の方法に従ってグルコースを酸化することを特徴とするグルコン酸および/またはグルカル酸の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜3または5〜19のいずれか一つに記載の方法に従ってトレハロースを酸化することを特徴とする酸化トレハロースの製造方法。
【請求項22】
a)請求項1〜3または5〜19のいずれか一つに記載の方法に従ってトレハロースを酸化し;
b)場合によってはニトロキシ基媒介物を回収し;
c)段階a)の反応の酸化生成物を加水分解し;
d)段階c)の加水分解反応の生成物をラクトン化し;そして
e)段階d)の生成物を結晶化する
各段階を含むD−グルクロノラクトンの製造方法。
【請求項23】
上記トレハロースの少なくとも15%をD−グルクロノラクトンに転化する、請求項22に従う方法。
【請求項24】
段階c)を硫酸、HClおよび/またはカチオン交換樹脂の存在下に実施する、請求項22または23に従う方法。
【請求項25】
段階c)をO-グルコシル化合物加水分解酵素の存在下に、好ましくはエクソ−ポリガラクツロナーゼの存在下に実施する、請求項22または23に従う方法。
【請求項26】
O-グルコシル化合物加水分解酵素を担体に固定化する、請求項25に従う方法。

【公表番号】特表2007−534312(P2007−534312A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544357(P2006−544357)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014406
【国際公開番号】WO2005/059152
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(506207668)セレスタール・ホールデイング・ベスローテン・フェンノートシャップ (3)
【Fターム(参考)】