説明

ペルフルオロシクロブタン架橋ハイドロゲル

【課題】股、ひざ、脊椎、指、足首、肘、手首、または肩の各関節の関節表面または支持表面などの埋込関節修復材料に好適の水膨潤性物品およびハイドロゲルを提供する。
【解決手段】親水性ポリマーとペルフルオロシクロブタン架橋セグメントより構成されたハイドロゲルであり、ペルフルオロシクロブタン架橋セグメントは、最初に1つ以上の置換芳香族トリフルオロビニルまたは芳香族トリフルオロビニルエーテル基を親水性ポリマーに結合させ、変性ポリマーを形成し、次いで変性ポリマーを高められた温度に加熱し、トリフルオロビニルまたはトリフルオロビニルエーテル基からペルフルオロシクロブタンセグメントを形成された架橋ハイドロゲル及びそを製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2005年12月22日に出願された米国仮特許出願第60/752,991号(現在係属中であり、参照によりその全てを本明細書に明確に援用する)の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、バイオメディカルまたはその他の用途への使用に好適であり得る2価のペルフルオロシクロブタン基で架橋されたハイドロゲルに関するものである。
【背景技術】
【0003】
ハイドロゲルは、その構造が親水性のホモポリマーまたはコポリマーの架橋された網状組織によって画定される水膨潤性または水で膨潤された材料である。この親水性のホモポリマーまたはコポリマーは、フリーの形態では水溶性であり得るが、ハイドロゲルにおいては、共有結合性、イオン性または物理的な架橋の存在により不溶性にされる。物理的な架橋の場合においては、結合は、絡み合い、結晶子(クリスタライト、crystallites)、または水素結合された構造の形態をとり得る。ハイドロゲルにおける架橋は、網状組織に構造および物理的な一体性を与える。
【0004】
ハイドロゲルは、無定形、半結晶状、水素結合構造、超分子構造またはハイドロコロイド状凝集体として分類することができる。空孔率、空孔サイズ、ゲルポリマーの性質、ゲルポリマーの分子量および架橋密度を含む多くのパラメーターがハイドロゲルの物理的な性質に影響を与える。架橋密度は、例えば膨潤率、圧縮強度または網目サイズなどのハイドロゲルの巨視的な特性に影響を与える。空孔のサイズおよび形状、空孔密度ならびにその他の要素は、ハイドロゲルの表面特性、光学的特性、および機械的特性に影響を及ぼす。
【0005】
ハイドロゲルは、多種多様の機械的特性を達成することができる。しかしながら、一般にハイドロゲルは、潤滑性表面をもち、柔軟であるか、または弾性があることが認められる。ハイドロゲルは、表面における水分含量および水放出特性による低い摩擦係数によって一般に特徴付けられる。ハイドロゲルの摩擦挙動は、摩擦力は垂直の(例えば運動の平面に対して直交の)力に比例するということを表しているアモントンの法則(Amonton's law)に従わない。ハイドロゲルの摩擦係数については、独特の荷重依存性が観察されている:すなわち、荷重が増加するにつれて、摩擦係数が減少する。ハイドロゲルは、荷重下で変形した場合、水分の一部は、嵩高いゲルから搾り出され、潤滑剤として作用し、境界潤滑または流体潤滑をもたらす。
【0006】
ハイドロゲルは、さまざまな親水性ポリマーまたはコポリマーから製造されてきた。ハイドロゲルが製造されてきたポリマーの例としては、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリアクリルアミドおよびポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)ならびにこれらのコポリマーが挙げられる。さらに、例えばキトサン、アガロース、ヒアルロン酸、ゼラチン、コラーゲン、またはこれらのタイプの天然材料の混合物などの天然由来のポリマーもハイドロゲルを作り出すためにその他の合成ポリマーと共に使用することができる。
【0007】
ハイドロゲルは、ポリマー鎖上のペンダント基の電荷のタイプに基づいて中性またはイオン性であり得る。ハイドロゲルは外部環境に左右され、応答する膨潤挙動を示すことができる。時々「知的な」ハイドロゲルと称される、環境的にまたは生理学的に応答するハイドロゲルは、外部のpH、温度、及びイオン強度の変化、膨潤剤の性質、および電磁放射線への暴露によって膨潤率の劇的な変化を示しうる。pH依存性の膨潤挙動を示すハイドロゲルは、一般的に酸性または塩基性のいずれかのペンダント基を含む。適切なpHおよびイオン強度の水性媒体中で、ペンダント基はイオン化して、ゲル上に固定された電荷を生じさせることができる。
【0008】
過去3〜40年にわたって、ハイドロゲルは、主にこれらの高水分含量およびゴムのようなまたは柔軟な性質のために天然の組織をまねることができるバイオメディカルおよび医薬の用途に有望なことが示されてきた。生体適合性のハイドロゲルは、分解性であるか、または分解に対して耐性があるように設計することができる。最近になってようやく認識されてきた、ハイドロゲルのさらなる利点は、これらは放出部位近辺における潜在的に厳しい環境からの、薬剤、ペプチドおよび特にタンパク質の望ましい保護を提供し得るということである。したがって、そのようなハイドロゲルは、口、直腸またはin situでの配置を含めたさまざまな手段によるタンパク質またはペプチドのデリバリー(送達)のキャリヤー(担体)として使用することができる。ハイドロゲルを通しての、またはハイドロゲルからの溶離剤の移動は、空孔のサイズおよび形状、空孔密度、ポリマーの性質、水和の程度および他の要素によって影響される。また、ハイドロゲルは、サイズ排除現象により、移動バリアとして作用し得る。また、ドラッグデリバリー用途において関連するものは、いくつかのイオン性のポリマーまたはイオン化できるポリマーのハイドロゲルによって示されるように、pHおよびイオン強度感受性である。
【0009】
ハイドロゲルは、多種多様なバイオメディカルおよびドラッグデリバリー用途のために使用され、提案されてきた。例えば、ハイドロゲルは、長時間にわたる薬剤またはタンパク質のデリバリーを達成するために徐放性デバイスに用いられ、ハイドロゲルはコンタクトレンズの製造に広く使用されてきた。ハイドロゲルは、軟骨と同様の特性を有するように製造することができ、半月板および関節軟骨の置換のための最も有望な材料の1つである。ハイドロゲルの生物学的および医学的な用途に関する考察の概要は、Peppas他のAnn.Rev.Biomed.Eng.2(2000)、9頁(参照によってその全てを本明細書に援用する)に見出すことができる。
【0010】
ポリ(ビニルアルコール)(「PVA」)は、潜在的なバイオメディカル用途のために広範に研究されてきたポリマーである。例えば、PVAハイドロゲルは、結晶のオーダーを増加させる、繰り返される凍結融解サイクルを経て水溶液から製造することができ、その結果、ポリマーの溶解特性、網目サイズおよび拡散特性を変えることができる。PVAハイドロゲルにおける開発の概要は、Peppas他のAdv.Polymer Sci.153(2000)、37頁(参照によってその全てを本明細書に援用する)に見出すことができる。
【0011】
バイオメディカル用途のためのPVAハイドロゲルの1つの望ましい特徴は、ハイドロゲルが非常に吸収性であるということである。多くの場合、PVAハイドロゲルは、70%以上の含水率を有することができる。対照的に、埋め込み可能なデバイスにおいて一般的に使用されるポリウレタンハイドロゲルは、通常数パーセントのオーダーの低含水率によって特徴付けられる。
【特許文献1】米国仮特許出願第60/752,991号
【非特許文献1】Peppas他、Ann.Rev.Biomed.Eng.2(2000)、9頁
【非特許文献2】Peppas他、Adv.Polymer Sci.153(2000)、37頁
【非特許文献3】International Union of Pure and Applied Chemistry(「IUPAC」)によって公表された「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」、Pure Appl.Chem.68(1996)、2287〜2311頁
【非特許文献4】Noguchi他、J.Appl.Biomat.2(1991)、101頁
【特許文献2】米国特許第5,047,055号
【特許文献3】米国特許第6,733,533号
【特許文献4】米国特許第6,180,606号
【特許文献5】米国特許第5,723,331号
【特許文献6】国際特許出願第2004/069296号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般的に望ましい吸収特性を有するハイドロゲルに関連する問題には、低い機械的強度および低い剪断強度が含まれる。PVAハイドロゲルから作られたデバイスは、例えば引裂き、損耗などの摩耗、または細断のために破損することが観察されている。したがって、PVAハイドロゲルから作られた埋込物(インプラント)のための改良された機械的強度およびその他の物理的特性を達成することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、親水性ポリマーおよびペルフルオロシクロブタン架橋セグメントを含む水膨潤性物品およびハイドロゲルを提供するものである。このペルフルオロシクロブタン架橋セグメントは、親水性ポリマーのポリマー鎖に共有結合し、前記ポリマー鎖は、架橋セグメントを介して互いに化学的に結合される。
【0014】
本発明のさまざまな実施形態において、ペルフルオロシクロブタン架橋セグメントは式:-X1-L1-(シクロ-C4F6)-L2-X2-
(上記式中、L1およびL2は、同じか又は異なり、置換芳香族基または置換芳香族エーテル基であり;
X1およびX2は、同じか又は異なり、L1またはL2と親水性ポリマーとに共有結合しているエーテル、アミノ、シリル、エステル、アミド、サルフェート、またはホスフェート基である)
によって表される2価残基である。
【0015】
上記ペルフルオロシクロブタンセグメントは、芳香族トリフルオロビニル基または芳香族トリフルオロビニルエーテル基のいずれかである架橋性前駆体の2+2環化付加反応によって形成される。
【0016】
本発明の選択された実施形態において、これらの水膨潤性物品およびハイドロゲルは、バイオメディカルおよび医薬の用途に使用することができ、埋込まれる関節修復材料に好適であり得る。本発明の特別な実施形態は、埋込まれる、股、ひざ、脊椎、指、足首、肘、手首または肩の関節において関節表面または支持表面として使用することができる水膨潤性物品およびハイドロゲルを提供する。
【0017】
また、本発明は、架橋ハイドロゲルの製造方法を提供する。この架橋ハイドロゲルの実施形態は、最初に1つ以上の置換芳香族トリフルオロビニルまたは芳香族トリフルオロビニルエーテル基を親水性ポリマーに結合させて変性ポリマーを形成し、次いでこの変性ポリマーを上昇させた温度に加熱して、トリフルオロビニルまたはトリフルオロビニルエーテル基からペルフルオロシクロブタンセグメントを形成させるステップによって製造することができる。加熱ステップは、親水性ポリマーを分解させない温度で行うことができる。ある実施形態において、加熱の温度は、室温から約240℃の範囲内であり得る。他の実施形態においては、加熱温度は、約80℃〜約180℃の範囲内であり得る。
【0018】
さらに、本発明は、1つまたは複数の置換芳香族トリフルオロビニルまたは芳香族トリフルオロビニルエーテル基を親水性ポリマーに結合させて変性ポリマーを形成し;次いでこの変性ポリマーを所定の形状に形成してハイドロゲル物品前駆体を与え;このハイドロゲル物品前駆体を上昇させた温度に加熱してトリフルオロビニルまたはトリフルオロビニルエーテル基からペルフルオロシクロブタンセグメントを形成させて架橋ハイドロゲル物品前駆体を形成し;この架橋ハイドロゲル物品前駆体を水和して架橋されたハイドロゲル物品を与える、各ステップを含むハイドロゲル物品の製造方法を提供する。
【0019】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、親水性ポリマーおよびペルフルオロシクロブタン架橋セグメントを含む水膨潤性物品およびハイドロゲルを提供するものである。これらの水膨潤性物品およびハイドロゲルを製造および使用する方法も提供される。本発明の水膨潤性物品およびハイドロゲルは、組織の置換または増大、その他のバイオメディカル用途および非バイオメディカル用途を含む多種多様な用途における使用に好適であり得る。
【0020】
本明細書で使用される用語「水膨潤性」または「ハイドロゲル」は、物品がポリマーの網状組織中に水を吸収し、かつ保持することができることを示し、水和の際に物品の体積の変化が必ず起こることを意味しない。
【0021】
ポリマーに関する用語のいかなるものもその定義を明確にするには、the International Union of Pure and Applied Chemistry(「IUPAC」)によって公表された「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」Pure Appl.Chem.68(1996)、2287〜2311頁を参照されたい。しかしながら、本明細書で明示して説明した全ての定義は支配的であると考えられるべきである。
【0022】
文脈が別のことを示さないならば、用語のコポリマー、モノマー、および同様の用語は、そのような材料の混合物および組合せも含む。さらに、用語の「コポリマー」は、ターポリマーなどを含むと解釈されるべきである。別に特定されていない場合、全てのパーセンテージおよび比率は、重量によって与えられる。
【0023】
〔親水性ポリマー〕
本発明の水膨潤性物品およびハイドロゲルは、親水性ポリマーを含む。例えば親水性ポリマーは、ポリ(ビニルアルコール)であり得る。例示のみとして、その他の好適な親水性ポリマーには、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、加水分解されたポリ(アクリロニトリル)、ポリ(エチレンイミン)、エトキシル化されたポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(グリコール)、並びにこれらの親水性ポリマーの任意のもののブレンド物または混合物が含まれる。
【0024】
本発明のある実施形態においては、ハイドロゲルの1つの成分が、親水性ポリマーとしてのポリ(ビニルアルコール)である。商業的な使用のためのポリ(ビニルアルコール)は、ビニルアセテートのフリーラジカル重合によってポリ(ビニルアセテート)を形成し、続いて加水分解してPVAを生成することによって一般的に製造される。この加水分解反応は完全に進行せず、ポリマー鎖に沿って幾つかのポイントでペンダントのアセテート基を残す。したがって、実際には、PVAは、ある部分、ビニルアセテートおよびビニルアルコールのコポリマーと考えることができる。加水分解反応の程度は、PVAの加水分解度を決定する。いくつかの場合、商業的に利用可能なPVAは、98%を超える加水分解度を有することができる。
【0025】
加水分解度(残存するペンダントアセテート基に対するビニルアルコール基のパーセンテージとして表される計算比率を示す)は、PVAの溶解牲、化学的特性、および結晶形成性に影響を及ぼす。非常に高い加水分解度(95%より大)をもつPVAは、水酸基による高程度の鎖内水素結合のために、より低い加水分解度のPVAよりも実際は水に対して可溶性ではない。より低い加水分解度を有するPVAについては、残存するアセテート基が分子内および分子間の水素結合を弱くし、水による溶媒和を可能にする。
【0026】
また、同様に、残りのアセテート基の存在は、PVAの結晶性に影響を及ぼす。高い加水分解度を有するPVAは、より低い加水分解度を有するPVAよりも結晶化がもっと難しい。結晶性PVAは、約85℃のガラス転移温度を有し、220℃〜240℃の範囲内で溶融すると報告されている。報告によれば、結晶性PVA中の水または他の溶剤の存在は、純粋のPVAのものよりガラス転移温度を著しく押し下げる。Peppas他、Adv.Polymer Sci 153(2000)、37頁を参照されたい。
【0027】
一般に、商業的に利用可能なPVAは、かなり広い分子量分布によって特徴付けられる。市販のPVAについては、2〜2.5の多分散度指数が一般的であり、最大5までの多分散度指数は珍しくない。PVAの分子量分布は、結晶性、接着性、機械的強度、および拡散率などの特性に影響を及ぼす。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態については、PVAが50kDaより大きい平均分子量および70%より高い加水分解度を有することが望まれる。より一般的には、PVAは、80kDaより大きい平均分子量および90%より高い加水分解度を有する。1つの実施形態において、PVAは、約86kDa〜186kDaの範囲の平均分子量によって特徴付けられる。本発明のいくつかの実施形態においては、親水性ポリマーは、PVAと、疎水性の繰り返し単位および親水性の繰り返し単位を有する第2のポリマーとを含むハイドロゲルブレンド物であり得る。第2のポリマーは、例えばポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)である。限定されない例として、その他の好適なポリマーには、ジオール末端のポリ(ヘキサメチレンフタレート)およびポリ(スチレン-co-アリルアルコール)が含まれる。
【0029】
1つの実施形態において、前記ブレンド物は、約5〜約95重量%の親水性ポリマーおよび約5〜約95重量%の第2のポリマーを含む。もう1つの実施形態においては、前記ブレンド物は、約30〜約95重量%の親水性ポリマーおよび約5〜約70重量%の第2のポリマーを含む。もう1つの実施形態においては、前記ブレンド物は、約50〜約95重量%の親水性ポリマーおよび約5〜約50重量%の第2のポリマーを含む。
【0030】
PVAを含む実施形態において、前記ブレンド物は、約5〜約95重量%のPVAおよび約5〜約95重量%のポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)を含む。もう1つの実施形態においては、前記ブレンド物は、約30〜約95重量%のPVAおよび約5〜約70重量%のポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)を含む。
【0031】
その他の実施形態において、前記ブレンド物は、本質的に約5〜約95重量%のPVAおよび約5〜約95重量%の第2のポリマーとしてのポリ(スチレン-co-アリルアルコール)からなるか、またはこれらを含む。さらにその他の実施形態において、前記ブレンド物は、本質的に約5〜約95重量%のPVAおよび約5〜約95重量%の第2のポリマーとしてのジオール末端ポリ(ヘキサメチレンフタレート)からなるか、またはこれらを含む。
【0032】
ある実施形態において、第2のポリマーは、疎水性および親水性の両方の特徴を有する。一般的には、第2のポリマーは、疎水性の繰り返し単位および親水性の繰り返し単位を含む。このポリマーは、例えばコポリマーであり得る。ポリマーの全体的な疎水性または親水性を変えることによって、水和から生じる水膨潤性物品またはハイドロゲルの「剛性」を変え、または調整することが可能であり得る。これは、架橋部位の数がより多かったり、またはより少なかったりすることによるものである。
【0033】
いくつかの実施形態において、疎水性の繰り返し単位は、脂肪族炭化水素セグメントを含む。脂肪族炭化水素繰り返し単位は、例えば-[CH2CH2-]または-[CH2CH(CH3)-]の形をとり得る。他の実施形態において、疎水性の繰り返し単位は、脂肪族、環状、または芳香族の炭化水素ペンダント基(例えばペンダントフェニル基)あるいは複素環式または複素芳香族ペンダント基を含むことができる。例のみとして、疎水性領域は、また、フルオロカーボンセグメント、シアノペンダント基を含むセグメント、またはイミド基を含むセグメントを含むか、またはこれらからなることができる。
【0034】
1つの実施形態において、疎水性の繰り返し単位の多くは、-[CH2CH2-]の形である。本明細書において使用される「主に、主として、多くは」という用語は、少なくとも50%を意味する。別の実施形態において、疎水性の繰り返し単位は、大部分-[CH2CH2-]の形である。本明細書において使用される「大部分」という用語は、一般的に少なくとも90%の高い比率を意味する。
【0035】
ポリマーの親水性の繰り返し単位には、ポリマーバックボーン中の、またはペンダント基としての、例えばヒドロキシルペンダント基、カルボン酸またはスルホン酸ペンダント基などの親水性基、例えばピロリドンペンダント基などの親水性複素環基、またはアルキレンオキシド基(例えば(C1〜C6)アルキレンオキシド基、より典型的には例えば-[CH2O-]、-[CH2CH2O-]、-[CH(CH3)O-]、-[CH2CH2CH2O-]、-[CH(CH3)CH2O-]、-[CH2CH(CH3)O-]などの(C1〜C3)アルキレンオキシド基)を有する繰り返し単位が含まれうる。
【0036】
1つの実施形態において、親水性の繰り返し単位の多くは、ペンダント-OH基を含む。別の実施形態においては、親水性の繰り返し単位は、大部分、ペンダント-OH基含む。1つの実施形態においては、親水性の繰り返し単位の多くが-[CH2CH(OH)-]の形である。別の実施形態においては、親水性の繰り返し単位は、大部分、-[CH2CH(OH)-]の形である。
【0037】
疎水性モノマーおよび親水性モノマーから誘導されたコポリマーは、例えばポリマーとして好適であり得る。1つの好適なコポリマーは、例えば、-[CH2CH2-]の形の繰り返し単位および-[CH2CH(OH)-]の形の繰り返し単位を含む。1つの実施形態においては、前記コポリマーは、-[CH2CH2-]の形の繰り返し単位および-[CH2CH(OH)-]の形の繰り返し単位を約1:1〜約1:3の範囲内の比率で含む。
【0038】
好適なコポリマーの1つの具体例は、「EVAL」、「PEVAL」または「EVOH」としても知られているポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)である。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、硬い結晶性固体を形成することができ、食品包装および他の用途で商業的に使用されている。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)の商業的に利用できるグレードは、ハイドロゲルの製造での使用に好適である。商業的に利用できるグレードは、モル%として表して26%、27%、28%、29%、32%、35%、44%および48%のエチレン含有量を有するものが利用できる。
【0039】
好適であり得る親水性の繰り返し単位および疎水性の繰り返し単位を有する他のコポリマーには、ポリ(エチレン-co-アクリル酸)、およびポリ(エチレン-co-メタクリル酸)が含まれる。好適なコポリマーの具体例には、ポリ(スチレン-co-アリルアルコール)(例えば〜1600の平均分子量を有するポリ(スチレン-co-アリルアルコール)など)が含まれる。
【0040】
また、疎水性ブロックおよび親水性ブロックを有するブロックコポリマーも前記ポリマーとして好適であり得る。好適なブロックコポリマーは、疎水性および親水性のセグメントを有するオリゴマーまたはプレポリマーから誘導することができる。
【0041】
また、親水性の末端基を有する疎水性のポリマーまたはオリゴマーも、第2のポリマーとして好適であり得る。親水性の末端基を有する好適なオリゴマーの具体例は、ジオール末端ポリ(ヘキサメチレンフタレート)(例えば〜1000の平均分子量を有するジオール末端ポリ(ヘキサメチレンフタレート)など)である。
【0042】
例示のみとして、好適であり得る、親水性および疎水性の特徴を有する他のポリマーには、ジカルボキシ末端(アクリロニトリル-co-ブタジエン)、ポリ(3, 3', 4, 4'-ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物-co-1, 4-フェニレンジアミン)アミド酸、ポリ(3, 3', 4, 4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物-co-4, 4'-オキシジアニリン/1, 3-フェニレンジアミン)アミド酸、ポリ(ビスフェノールA-co-4-ニトロフタル酸無水物-co-l, 3フェニレンジアミン)、エポキシ/ヒドロキシル官能基化ポリブタジエン、ヒドロキシ末端ポリブタジエン、ポリ(エチレン-co-1, 2-ブチレン)ジオール、ヒドロキシル末端ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキシド)、およびグリシジル基末端封鎖ポリ(ビスフェノールA-co-エピクロロヒドリン)が含まれる。
【0043】
〔ペルフルオロシクロブタン架橋セグメント〕
ペルフルオロシクロブタン架橋セグメントは、下記式:
-X1-L1-(シクロ-C4F6)-L2-X2-
(上記式中、L1およびL2は、同じかまたは異なり、置換芳香族基または置換芳香族エーテル基であり;
X1およびX2は、同じかまたは異なり、親水性ポリマーと、L1またはL2とに共有結合で結合しているエーテル、アミノ、シリル、エステル、アミド、サルフェートまたは、ホスフェート基である)
によって表される2価残基である。
【0044】
1つの実施形態において、架橋セグメントは、式:-X1-C6H4-O-(シクロ-C4F6)-O-C6H4-X2-によって表される2価残基である。別の実施形態において、架橋セグメントは、式:-X1-C6H4-(シクロ-C4F6)-O-C6H4-X2-によって表される2価残基である。別の実施形態において、架橋セグメントは、式:-X1-C6H4-(シクロ-C4F6)-C6H4-X2-によって表される2価残基である。
【0045】
ペルフルオロシクロブタンセグメントは、親水性ポリマーに共有結合された芳香族トリフルオロビニル基または芳香族トリフルオロビニルエーテル基のいずれかの2+2環化付加反応によって形成される。この環化付加反応は、親水性ポリマーのポリマー鎖分解温度より低い温度において簡単にできるジラジカル中間体を経て起こる。芳香族トリフルオロビニルエーテル基についてのこの環化付加反応は、スキーム1に示される。
【0046】
【化1】

【0047】
スキーム1において、上側および下側の1、4-二置換芳香族トリフルオロビニル基は、(エーテル酸素原子と結合した炭素原子が1-置換位置であると仮定して)4-置換位置で親水性ポリマーの別のポリマー鎖に共有結合する。ジラジカル中間体は括弧内に示される。2+2環化付加反応が完結した後に、生成したペルフルオロシクロブタンセグメントは、親水性ポリマーのそれぞれのポリマー鎖を架橋する。
【0048】
〔トリフルオロビニル芳香族基の親水性ポリマーへの結合〕
トリフルオロビニル芳香族基を親水性ポリマーへ結合するための多数の合成化学ルートおよびプロセスが存在する。一般に、適切に置換された芳香族トリフルオロビニルエーテルまたは芳香族トリフルオロビニル化合物を、親水性ポリマーの適切な反応性部位と反応させる。例えば、ハロゲン置換芳香族トリフルオロビニルエーテル化合物は、対応する安息香酸誘導体に容易に変換することができる。次いで、この安息香酸誘導体は、エステル化またはエステル形成反応によって例えばポリ(ビニルアルコール)のヒドロキシル基に共有結合で結合することができる。この例示の2段階反応手順は、以下のスキーム2に示される。
【0049】
【化2】

【0050】
注記:トリフルオロビニルエーテルは、スチレニルトリフルオロビニル基によって容易に置換され、同じ化学(反応)を成し遂げることができる。あるいは、ペルフルオロシクロブタン架橋ハイドロゲルを形成するために、トリフルオロビニルエーテル基およびスチレニルトリフルオロビニル基の両方を使用することができる。
【0051】
簡潔に言えば、図示したブロモトリフルオロビニル化合物は、試薬、すなわちリチウム金属および二酸化炭素を使用し、次いで酸性での加水分解によって対応する安息香酸誘導体へ変換される。次いで、安息香酸誘導体は、ポリマー鎖、例えばポリ(ビニルアルコール)に、エステル連結またはエステル結合を形成するためにポリマー鎖のヒドロキシル基を利用して、容易に取り付けられるかまたは結合される。最後に、熱を加えることによってペルフルオロシクロブタン環が形成される。
【0052】
当業者に知られているように、親水性ポリマーのポリマー鎖にその他のタイプの共有結合を形成するために、その他の周知の反応手順を使用することができる。芳香族トリフルオロビニル化合物および親水性ポリマーの間にエーテル、アミノ、シリル、エステル、アミド、サルフェートまたはホスフェートの結合(これらに限定されないが)を与える好適な試薬は周知である。適切な試薬および反応条件は、さまざまな出版された化学書籍および雑誌論文において容易に入手可能である。
【0053】
親水性ポリマーに結合され得る芳香族トリフルオロビニル化合物の数は、それぞれのポリマー鎖の間での所望の架橋の量によって、容易に決定することができる。所望の架橋の量は、使用される親水性ポリマーのタイプ、および得られる架橋水膨潤性物品またはハイドロゲルの所望の機械的および物理的な特徴を含む多くの変数に左右されるだろう。例えば、親水性ポリマーのそれぞれのポリマー鎖に結合された芳香族トリフルオロビニル化合物の数の増加およびそれによるポリマー鎖間の架橋量の増加は、従来のハイドロゲルに通常伴うクリープを減少させるだろう。
【0054】
〔トリフルオロビニル芳香族基の架橋〕
適当な芳香族トリフルオロビニル化合物がいったん親水性ポリマーのポリマー鎖に共有結合されると、比較的低い温度でその変性された親水性ポリマーを加熱することによって、前記鎖は容易に互いに架橋される。変性された親水性ポリマーの加熱は、2+2環化付加によるペルフルオロシクロブタンセグメントの形成をもたらす。一般に、約130℃未満の温度が、環化付加を開始し、完結するために十分である。これらの低い環化加反応温度の使用は、架橋ハイドロゲルの機械的および物理的な性質に有益である。これらの低い温度は、いかなるポリマー鎖の破壊または鎖切断およびその結果起こる親水性ポリマー分子量の分解(例えば電子線またはガンマ放射線などの従来の架橋方法に典型的に伴う)も発生させない。しかしながら、より速い架橋時間を促進するために、より高い温度を用いることができる。
【0055】
〔水膨潤性物品〕
本発明は、部分的には、親水性ポリマーとペルフルオロシクロブタン架橋セグメントとを含む水膨潤性物品を提供する。例示のみとして、そのような水膨潤性物品のために好適であり得る親水性ポリマーには、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、加水分解されたポリ(アクリロニトリル)、ポリ(エチレンイミン)、エトキシル化されたポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミン)、およびポリ(グリコール)が含まれる。
【0056】
1つの実施形態において、本発明は、ポリ(ビニルアルコール)と、疎水性の繰り返し単位および親水性の繰り返し単位を有している第2のポリマーとを含むハイドロゲルブレンド物を含む水膨潤性物品を提供する。いくつかの実施形態において、水膨潤性物品は、熱可塑性である。
【0057】
また、水膨潤性物品は、追加のポリマー、または例えば可塑剤などの従来の添加剤、クラックの発生または成長を防止または減少させる成分、クリープを防止または減少させる成分、あるいは物品に放射線不透過性を付与するための微粒状物または他の添加剤を含んでもよい。例示のみとして、放射線不透過性を付与する添加剤は、金属酸化物、金属リン酸塩、および金属硫酸塩、例えば硫酸バリウム、チタン酸バリウム、ジルコニウム酸化物、イッテルビウムフッ化物、リン酸バリウム、および酸化イッテルビウムなどを含むことができる。
【0058】
所望の形状またはサイズの水膨潤性物品を得るための加工方法には、溶液キャスティング、射出成形、または圧縮成形が含まれうる。一般に、これらの方法は、架橋前、架橋中または、架橋後に用いることができる。
【0059】
いくつかの実施形態において、本水膨潤性物品は熱可塑性であり、その水膨潤性の特徴を失わないで、それは溶融され、再固化されることができる。水膨潤性物品の熱可塑性の品質は、容易な加工性および最終用途を可能にする。溶融時にこの物品は流動性になり、したがって押出、射出、成形、または成型することができる。
【0060】
キャスティングで使用するための溶液を調製するために、適切なポリマー(および場合により何らかの添加剤)を溶剤中に溶解する。 溶剤の加熱は、ポリマーの溶解を促進することができる。溶剤に対するポリマーの比率は、広く変えることができる。例示として、PVAハイドロゲルは、報告されているように2〜50重量%のポリマー濃度を使用して製造されてきた。本方法の1つの実施形態において、前記溶液は、溶剤1重量部あたりポリマーブレンド約0.5重量部を含む。
【0061】
圧縮成型または射出成型のための材料を調製するには、適切なポリマー(および場合により何らかの添加剤)を適切な希釈剤/可塑剤と共に二軸スクリュー式混合機などの加熱混合装置中で混合することができる。混合装置の加熱は、その加工処理を促進する。好適な温度は、希釈剤/可塑剤、および選択されたポリマー系に左右される。希釈剤に対するポリマーの比率は、広く変えることができる。前記方法の1つの実施形態において、ブレンド材料は、溶剤1重量部あたりポリマーブレンド約0.5重量部を含む。
【0062】
〔熱可塑性水膨潤性材料のin vivoデリバリー〕
上で議論したように、本発明の水膨潤性材料は、いくつかの実施形態において熱可塑性であり、水膨潤性の特徴を保持しつつ、溶融し、再固化することができる。水膨潤性材料の熱可塑性の品質は、容易な加工性を可能にする。溶融時にこの材料は流動性になり、所望の形状に押出、成形、または成型することができる。
【0063】
いくつかの実施形態において、水膨潤性材料は、低い熱容量または低い熱伝導率のどちらかで特徴付けられ、加熱された流動状態で特別な用心をせずに手で取り扱うことができることが観察された。溶融加工性は、本水膨潤性材料を、in vivoデリバリーおよび成形が達成できるように扱うことを可能にする。したがって、熱可塑性の水膨潤性材料を直接患者の体に注入することができ、in situでハイドロゲル材料の形成および/または水和を可能にすると思われる。そのような技法は、さらに以下に記載されるように、いくつかの侵襲性が非常に低い外科的手法において実際の用途を有することができる。
【0064】
別の実施形態において、本発明は、材料の加熱およびin vivoデリバリーに関連する熱可塑性の水膨潤性材料の使用に供するものである。加熱は、水膨潤性材料をそれが流動しうる温度まで加熱することを可能にする任意の従来の加熱源で行うことができる。加熱の好適な手段の例は、ホットガンである。in vivoデリバリーは、例えばデリバリーチューブまたは針などの任意の好適なデバイスを用いて実施することができる。いくつかの実施形態において、加熱の手段およびデリバリーの手段を1個の物理的なデバイス中に結合することができる。例として、加熱されたデリバリーチューブは、両方の機能を提供するのに役立つことができる。
【0065】
〔本発明の水膨潤性物品およびハイドロゲルのin vivo使用〕
PVAハイドロゲルを含むハイドロゲルが、軟骨の置換または増大、ならびに椎間板の置換、増大、または機能回復を含む多くのバイオメディカル用途における使用のために使用され、または提案されてきた。
【0066】
本発明のハイドロゲルは、ユニークな一組の機械的特性を有する。ある実施形態において、この材料は、可撓性および低い弾性率を維持しながら、PVAベースのハイドロゲルを含む他のハイドロゲルに匹敵するかまたはそれより優れた強度を示す。これらの改良された特性の例は、増大した引張り強度、増大した剪断抵抗、および改良された弾性である。その上、ハイドロゲルの特性は、特定の使用のための要求に合致するように適合させることができる。
【0067】
本発明のハイドロゲルは、また、高度に水和することができ、いくつかの実施形態において、典型的なPVAハイドロゲルと比較してより高い強度およびより大きな引裂き抵抗性を示す。このハイドロゲルは、体内組織のような構造および特性を示すように設計することができる。したがって、本発明のハイドロゲルは、バイオメディカル用途に好適に使用することができる。水膨潤性材料が熱可塑性である場合、in situでの成形性の利点は、上記のような使用に向けることができる。そのような用途に対して、水膨潤性材料は、デリバリーおよび成形後にin vivoで水和され、ハイドロゲルを与えることができる。外部で水膨潤性材料を形成するか、または成形することができる用途については、水膨潤性材料は、in vivo、in situ、ex vivo、またはin vitroのいずれかで水和することができる。
【0068】
バイオメディカル用途のための1つの考慮すべき事柄は、材料が、例えば溶剤、未架橋のポリマー鎖、および架橋剤などの、身体に有害反応を引き起こすことがある望ましくない物質を一般的に含んではならないということである。本発明の水膨潤性材料およびハイドロゲルは、望ましくない成分を除去するために処理することができる。さらに、水膨潤性材料およびハイドロゲルは、いかなる溶剤などの存在への有害反応も打ち消すための阻害剤を含むことができる。
【0069】
本発明の材料は、この分野で知られているように、侵襲性が非常に低い外科的手法を含むさまざまな用途において使用することができる。例として、ハイドロゲルは、例えばNoguchi他、J.Appl.Biomat.2(1991)、101頁に記載されているように人工関節の軟骨を提供するために使用することができる。また、ハイドロゲルは、人工の半月板または関節の支持成分として使用することができる。また、ハイドロゲルは、顎関節、近位指節間、中手指節関節、中足骨指節骨、股関節部カプセル、または他の関節の補修において使用することができる。
【0070】
また、本発明の水膨潤性材料またはハイドロゲルは、椎間板の髄核を取り替えるか、または修復するために使用することができる。腰の脊椎の椎間板変性疾患は、椎間板の脱水および脊椎のユニットの生体力学的な機能の喪失によって特徴付けられる。最近のアプローチは、髄核と称される椎間板の中央部分だけを取り替えることであった。このアプローチは、侵襲性がより低い後方外科手術を必要とし、かなりすばやく行うことができる。米国特許第5,047,055号に記載されているように、Bao氏およびHigham氏は、髄核の置換に好適なPVAハイドロゲルを開発した。約70%の水を含むこのハイドロゲル材料は、適用される荷重に応じて水を吸収し、および水を放出するということにおいて、天然の核と同様に作用する。
【0071】
本発明のハイドロゲルは、本明細書に記載されたように、またはこの分野で知られている他の用途において同様に使用することができる。また、本発明の水膨潤性材料は、置換方法において使用することができる。水膨潤性材料が熱可塑性である場合、in situ形成性の利点を前記の使用に向けることができる。そのような用途について、水膨潤性物品は、デリバリー後および形成後にin vivoで水和し、ハイドロゲルを与えることができる。
【0072】
また、本発明のハイドロゲルは、本来のヒトの脊椎椎間板の一部または全てを置き換えるために使用される脊椎椎間板の人工補綴物において使用することができる。例として、脊椎椎間板の人工補綴物は、可撓性核、可撓性編組み繊維環状部、および終板を含むことができる。ハイドロゲルは、例えば可撓性核で使用することができる。脊椎の椎間板人工補綴物は、例えば、Lozier氏の米国特許第6,733,533号に記載されている。
【0073】
ハイドロゲルが治療薬剤または他の活性剤を保持および/または放出する能力が報告されている。本発明のハイドロゲルは、ハイドロゲルの中に含浸されているかまたはハイドロゲルの表面に担持されている、タンパク質、薬剤、または他の薬理学または生理活性の薬剤の溶離を提供するために、好適にin vivoで使用することができる。また、本発明のハイドロゲルは、生存細胞の成長および/または維持においてデリバリーを助けるために好適に使用することができる。例えば骨形成剤および骨誘導剤を報告している米国特許第6,180,606号、軟骨形成剤および軟骨誘導剤を報告している米国特許第5,723,331号、ならびに好適な生理活性剤および細胞の例を報告している国際特許出願第2004/069296号における生物学的システムを参照されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
[実施例]
本発明に使用できるハイドロゲルブレンド物のさまざまな実施形態を、次の例において説明する。
【0075】
〔ヒドロゲルブレンド物の例〕
(ブレンド合成例1)
機械式スターラを備えた2000mLのビーカーにポリ(ビニルアルコール)100g、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)100g、およびDMSO 1100mLを加えた。ポリ(ビニルアルコール)は、124kDa〜186kDaの平均分子量を有する99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich)(セントルイス(ミズーリ州))から入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、44モル%のエチレンを含む。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。この溶液を90℃で3時間加熱した。
【0076】
この溶液を3時間後に、80℃に加熱した9"×13"パイレックス(登録商標)皿へ注ぎ入れた。この溶液をゆっくりと室温に冷却し、次いでこの皿を-30℃の冷凍庫中に3時間入れた。この皿を冷凍庫から取り出した。
【0077】
得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。DMSOを抽出するために、得られた材料に試薬グレードのアルコール(エタノール)700mLを加えた。次いで、この材料を室温までゆっくりと暖めた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟なままであった。
【0078】
(ブレンド合成例2)
機械式スターラを備えた2000mLのビーカーにジオール末端(ヘキサメチレンフタレート)100g、ポリ(ビニルアルコール)100g、およびDMSO 1100mLを加えた。ポリ(ビニルアルコール)は、124kDa〜186kDaの平均分子量を有する99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ジオール末端(ヘキサメチレンフタレート)は、平均分子量1000 Daを有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。この溶液を90℃で1.5時間加熱した。
【0079】
この溶液を1.5時間後に、9"×13"パイレックス(登録商標)皿へ注ぎ入れ、カバーをして60℃のオーブン中に12時間入れた。次いで、この皿を-30℃の冷凍庫中に3時間入れた。この皿を冷凍庫から取り出した。
【0080】
得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。DMSOを抽出するために、得られた材料に試薬グレードのアルコール(エタノール)700mLを加えた。次いで、この材料を室温にゆっくりと暖めた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟なままであった。
【0081】
(ブレンド合成例3)
機械式スターラを備えた2000mLのビーカーにポリ(スチレン-co-アリルアルコール)100g、ポリ(ビニルアルコール)100g、およびDMSO 1100mLを加えた。ポリ(ビニルアルコール)は、124kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ポリ(スチレン-co-アリルアルコール)は、平均分子量1200 Daを有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。この溶液を90℃で3時間加熱した。
【0082】
この溶液を3時間後に、9"×13"パイレックス(登録商標)皿へ注ぎ入れ、室温に冷却した。次いで、この皿を-30℃の冷凍庫中に24時間入れた。この皿を冷凍庫から取り出した。
【0083】
得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。DMSOを抽出するために、得られた材料に試薬グレードのアルコール(エタノール)700mLを加えた。次いで、この材料を室温にゆっくりと暖めた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟なままであった。
【0084】
(ブレンド合成例4)
機械式スターラを備えた2000mLのビーカーにポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)100g、ポリ(ビニルアルコール)100g、およびDMSO 1100mLを加えた。ポリ(ビニルアルコール)は、124kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、27モル%のエチレンを有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。この溶液を90℃で3時間加熱した。
【0085】
この溶液を3時間後に、80℃に加熱された9"×13"パイレックス(登録商標)皿へ注ぎ入れ、室温に冷却し、次いでこの皿を-30℃の冷凍庫中に12時間入れた。この皿を冷凍庫から取り出した。
【0086】
得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。DMSOを抽出するために、得られた材料に試薬グレードのアルコール(エタノール)700mLを加えた。次いで、この材料を室温にゆっくりと暖めさせた。得られた材料は、半透明で、可撓性かつ柔軟なままであった。
【0087】
(ブレンド合成例5)
機械式スターラを備えた2000mLのビーカーに、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)100g、ポリ(ビニルアルコール)200g、脱イオン水200mL、およびDMSO 800mLを加えた。ポリ(ビニルアルコール)は、86kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、アクロス・オーガニック(Acros Organics)(ニュージャージー州)から入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、27モル%のエチレンを有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。この溶液を90℃で3時間加熱した。
【0088】
この溶液を3時間後に、9"×13"パイレックス(登録商標)皿および28mmの股関節臼蓋型へ注ぎ入れた。この材料を室温に冷却させた。次いでこの皿を-30℃の冷凍庫中に12時間入れた。この皿を冷凍庫から取り出した。
【0089】
この材料を室温に暖めた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。DMSOを抽出するために、得られた材料に試薬グレードのアルコール(エタノール)700mLを加えた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟なままであった。
【0090】
(ブレンド合成例6)
機械式スターラを備えた1000mLのビーカーにポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)[エチレン44モル%]10g、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)[エチレン27モル%]10g、ポリ(ビニルアルコール)20g、NANODENT 3.8g、およびDMSO 220mLを加えた。ポリ(ビニルアルコール)は、86kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、アクロスから入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、示したように27モル%および44モル%のエチレンを有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。NANODENTは、放射線不透過剤であり、ナノソリューション(NanoSolution)(ハンブルグ、ドイツ)から入手したものをそのまま使用した。この溶液を90℃で3時間加熱した。
【0091】
この溶液を3時間後に、9"×13"パイレックス(登録商標)皿および28mmの股関節臼蓋型へ注ぎ入れた。この材料を室温に冷却した。次いでこの皿を-30℃の冷凍庫中に12時間入れた。この皿を冷凍庫から取り出した。
【0092】
この材料を室温に暖めた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。DMSOを抽出するために、得られた材料にプロパノール700mLを加えた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟なままであった。
【0093】
(ブレンド合成例7)
圧縮成形機/射出成形機のための材料を調製するために、レオミックス(RheoMix)を備えたHAAKE Polylab(登録商標)システムを115℃に加熱した。このシステムに、DMSO 45mL、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)17.5g、およびポリ(ビニルアルコール)17.5gを加えた。ポリ(ビニルアルコール)は、146kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、44モル%のエチレンを有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。
【0094】
このブレンド物を10分間混合した。このブレンド物をミキサーから取り出し、室温に冷却し、細かく切断した。得られた材料は、半透明で、柔軟であった。
【0095】
(ブレンド合成例8)
ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)が、エチレン含有量27モル%を有していたことを除いてブレンド合成例7のようにブレンド物を調製した。
【0096】
このブレンド物を10分間混合した。このブレンド物をミキサーから取り出し、室温に冷却させ、細かく切断した。得られた材料は、半透明で、柔軟であった。
【0097】
(ブレンド合成例9)
機械式スターラを備えた2000mLのビーカーにポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)100g、およびDMSO 700mLを加えた。ポリ(ビニルアルコール)は、146kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、エチレン含有量44モル%を有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。この溶液を90℃で12時間加熱した。
【0098】
次いでポリ(ビニルアルコール)100g、DMSO 200mL、およびp-トルエンスルホン酸一水和物5gをpH調整剤として前記溶液に加えた。p-トルエンスルホン酸一水和物は、98.5%の純粋なACS試薬グレードであり、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。この溶液を90℃に3時間加熱した。
【0099】
この溶液を3時間後に、5"ポリエチレンボールへ注ぎ入れ、メタノール/液体窒素のスラッシュ浴を使用して約30分間で-55℃に冷却した。白色の凍結材料が生成した。
【0100】
(ブレンド合成例10)
機械式スターラを備えた2000mLのビーカーに、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)150g、ポリ(ビニルアルコール)50g、脱イオン水 200mL、およびDMSO 800mLを加えた。ポリ(ビニルアルコール)は、146kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、エチレン含有量44モル%を有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。この溶液を90℃で3時間加熱した。
【0101】
この溶液を3時間後に、9"×13"パイレックス(登録商標)皿および28mmの股関節臼蓋型へ注ぎ入れた。この材料を室温に冷却した。次いでこの皿を-30℃の冷凍庫中に12時間入れた。この皿を冷凍庫から取り出した。
【0102】
この材料を室温に暖めた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。DMSOを抽出するために、得られた材料にメタノール700mLを加えた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟なままであった。
【0103】
(ブレンド合成例11)
機械式スターラを備えた1000mLのビーカーに、ポリ(ビニルアルコール)20g、ジメチルスルホキシド175mL、および水10mLを加えた。この溶液を80℃に2時間加熱した。この溶液に、ポリ(無水トリメリト酸塩化物-co-4,4'-メチレン-ジアニリン)20gを加え、120℃で1時間攪拌した。ポリ(ビニルアルコール)は、146kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ポリ(無水トリメリト酸塩化物-co-4、4'-メチレン-ジアニリン)は、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、4、4'-メチレンジアニリンの量は1%未満であった。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。この溶液を90℃で3時間加熱した。
【0104】
この溶液を、8"×8"×0.05"カラス板の間に注ぎ入れた。この材料を室温に冷却した。次いでこの皿を-30℃の冷凍庫中に12時間入れた。この皿を冷凍庫から取り出した。
【0105】
この材料を室温に暖めた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。DMSOを抽出するために、得られた材料にメタノール 700mLを加えた。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟なままであった。
【0106】
(ブレンド合成例12)
3mmの繊維ダイを取り付けた1ガロンのジャイゴ(Jaygo)(ユニオン、ニュージャージー)シグマミキサー/押出機にポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)625.89g、水100mL、ジメチルスルホニド1350g、およびポリ(ビニルアルコール)626.79gを加えた。この材料を240゜Fで70分間混合した。ポリ(ビニルアルコール)は、146kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、エチレン含有量44モル%を有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。
【0107】
70分後に、3mm繊維ダイを通してドローレート(draw rate)4×で、アルコール50%/水50%の冷却浴中に、滞留時間1〜3秒間で試料を押し出した。この繊維を冷却し、繊維チョッパーを使用して細かなペレットに切断した。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。
【0108】
(ブレンド合成例13)
3mmの繊維ダイを取り付けた1ガロンのジャイゴ(Jaygo)シグマミキサー/押出機にポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)626.66g、水128.2mL、ジメチルスルホキシド1438.2g、およびポリ(ビニルアルコール)625.73gを加えた。この材料を228゜Fで90分間混合した。ポリ(ビニルアルコール)は、146kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、エチレン含有量32モル%を有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。
【0109】
90分後に、3mm繊維ダイを通してドローレート(draw rate)4×で、アルコール50%/水50%の冷却浴中に滞留時間1〜3秒間で試料を押し出した。この繊維を冷却し、繊維チョッパーを使用して細かなペレットに切断した。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。
【0110】
(ブレンド合成例14)
3mmの繊維抜き型を取り付けた1ガロンのジャイゴ(Jaygo)シグマミキサー/押出機にポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)402.44g、水97.84mL、ジメチルスルホキシド1400g、およびポリ(ビニルアルコール)850.02gを加えた。この材料を228゜Fで50分間混合した。ポリ(ビニルアルコール)は、146kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されており、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、エチレン含有量32モル%を有し、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、水分量は0.4%以下である。
【0111】
50分後に、3mm繊維ダイを通してドローレート(draw rate)4×で、アルコール50%/水50%の冷却浴中に滞留時間1〜3秒間で試料を押し出した。この繊維を冷却し、繊維チョッパーを使用して細かなペレットに切断した。得られた材料は、半透明で、可撓性で、かつ柔軟であった。
【0112】
〔ブレンドされたハイドロゲルおよびそれらの機械的特性〕
ブレンド合成例1〜6、9、10および11から得られた水膨潤性材料を水に浸漬した。ブレンド合成例9からの水膨潤性材料については、冷凍された材料をまだ冷たい間に水に浸漬したが、その他のものは室温で浸漬した。それぞれの場合において、材料は水を取り込み、白色の、不透明で、可撓性のハイドロゲルになった。
【0113】
ブレンド合成例12〜14から得られた水膨潤性材料を240〜280°Fのノズル温度および室温の型を有するバテンフィールド(Battenfield)BA 100CD射出成形機で加工した。射出成形からの試料をアルコール中に最低20分間浸漬し、続いて水中に浸漬した。それぞれの場合において、材料は水を取り込み、白色の、不透明で、可撓性のハイドロゲルになった。
【0114】
TAインスツルメントの2950 TGA機器での熱重量分析によって、得られたハイドロゲル中の水分濃度を測定した。例えば、ブレンド合成例1からの材料を使用して得られたハイドロゲルは、固形分15重量%/水分85重量%であった。
【0115】
インストロン・コーポレーション(Instron Corporation)からのモデル3345機器上で従来の技法を使用して、ASTM D638 タイプIV試験片として、選択されたハイドロゲルの機械的な性能特性を測定した。測定された値を表1および2に報告する。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
試料の架橋の手段として放射線照射を使用することができる。ブレンド14からの射出成形された引張り試料の2セットを26.3kGy〜34.0kGyの放射線量でガンマ線を照射した。照射された試料の強度を表3に示す。
【0119】
【表3】

【0120】
〔特性評価〕
ブレンド合成例1および10からの材料を使用して調製されたハイドロゲルを標準のショルダーヘッドを備えたMATCO負荷フレーム上で試験した。175 lbsの負荷の下での剪断力についてハイドロゲルを試験した。
【0121】
ブレンド合成1からのハイドロゲルを、1年間をシミュレーションした期間および2mmの移動について試験したが、剪断の兆候を全く示さなかった。いくらかのクリープを観察した。
【0122】
ブレンド10からのハイドロゲルを、7.5年をシミュレーションした期間および1mmの移動について試験したが、剪断の兆候を全く示さなかった。いくらかのクリープを観察した。
【0123】
平行な板の幾何学的配置および直径25mm厚さ1.5mmを有する膨潤されたハイドロゲル円板を使用して、TAインスツルメントAR-1000レオメーター上でレオロジー特性試験を行った。他に示さない限り、全ての試験は室温で行った。1〜2Nの垂直力を適用した。最初、直線的な領域(0.01〜0.03%)を見出すために歪み掃引試験を行い、次いで0.01%の歪みを用いて周波数走査(1〜50Hz)を実行した。ブレンド合成物1は、髄核より高いが、関節軟骨より低い剛性率(G*)を有している。
【0124】
【表4】

【0125】
圧力皿および10℃/分の昇温速度を使用して、TAインスツルメントDSC Q1000機器で結晶化度および相分離を分析した。分析は、ブレンド物が唯一のガラス転移温度を有し、結晶化のピークがなく均質であることを示した。水和後、ブレンドは結晶化のピークを示す。例えばブレンド合成物1は、乾燥状態において48℃のTgを有し、明白な結晶化のピークはなかった。水和状態においては、ブレンド合成物1は、2.03%の結晶化を示す発熱領域と共に98℃に溶融ピークを有している。98℃の融点は、ポリエチレンの融点に対応する。
【0126】
〔熱可塑性材料の使用〕
ブレンド合成例1に定めた手順にしたがって得られた水膨潤性材料を成形して、ADHESIVE TECH(登録商標)Model 229 低温グルーガン(Glue Gun)の中に入れた。グルーガンの運転温度は127℃であった。この材料を、紙の上、外気中、および水中(室温)などを含めた、さまざまな基材および環境へガンから押し出した。
【0127】
材料は、100℃を超える温度で押し出されたけれども、特別な用心なしに手で取り扱うことができることが観察された。この材料は、室温近くまで急速に冷えた。
【0128】
押出し後のまだ熱い間、材料は、半透明、無色であり、形状は、例えば材料を塗り広げる手段としてのヘラを使用して修正することができた。押し出した材料は、次に水または水溶液との接触またはその中への浸漬によって水和することができる。材料を水和するとき、それは徐々に半透明から乳白色に変わる。白色の発現が、結晶領域の形成を示すと考えられる。
【0129】
〔引裂き可能な超極細繊維〕
ブレンド物12〜14から得られた水膨潤性材料は、押出しプロセスの間、引き裂き可能な超極細繊維を自然発生的に形成した。ストランドは、走査電子顕微鏡で測定すると、直径2〜9nmを有する個々の繊維からなり直径2〜4mmであった。個々の繊維ストランドは、機械的または熱的な処理を用いて分離することができた。さらに、ストランドは、ハイドロゲル超極細繊維を作り出すために、アルコール処理、それに続く水との交換を利用して加工することができた。
【0130】
〔繊維強化ハイドロゲルの実施例〕
(繊維強化ハイドロゲルの実施例1〜23の基本手順およびプロセス)
表5は実施例で使用されるそれぞれの材料の量を示す。PVAおよびPVA繊維の量はグラムで、水およびDMSOはミリリットルで、および繊維の直径はデニールで、および長さはミリメートルで与えられる。繊維を、ステリンゲニクス(Sterigenics)(シャーロット、ノースカロライナ州)で、ガンマ線を使用して25+/-3 kGyまたは50+/-3 kGy照射量で照射した。
【0131】
Haake Polylab(登録商標)2軸スクリュー式レオメーターに、PVA、水、DMSO、およびPVA繊維を加えた。この材料を120℃で5分間混合した。PVAは、シグマ-アルドリッチから得たもので、146kDa〜186kDaの平均分子量を有し、99+%加水分解されていた。ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)は、シグマ-アルドリッチから入手したものをそのまま使用し、エチレン含有量44モル%を含む。使用したPVA繊維は、クラレ社(Kuraray Co.Ltd.)(日本)から入手できるKuralon(登録商標)RECシリーズであった。PVA繊維は、使用前に放射線照射した。DMSOはシグマ-アルドリッチから入手したもので、水分量は0.4%以下であった。
【0132】
5分間混合した後に、試料を取り出し、室温に冷却し、バテンフェルド(Battenfeld)BA 100 CD射出成形機で用いるためにフレーク形状に細かく切断した。得られた材料は半透明で、可撓性で、柔軟なままであった。
【0133】
【表5】

【0134】
(実施例1〜14)
実施例1〜10から得られた半透明で、可撓性且つ柔軟な材料を、240〜280°Fのノズル温度と、室温の型とを有するバテンフェルド(Battenfeld)BA 100CD射出成形機でさらに加工した。射出成形からの試料を最初にアルコール中に20分間浸漬し、次に水中に浸漬した。試料1〜10は、20分間、80℃の水中に浸漬し、続いて室温の水に2日間浸漬した。図1は、試料2の走査電子顕微鏡検査法(SEM)写真を示し、残存する繊維が処理後もそのままであることを示している。同様に図2は、試料9のSEM写真を示し、これも残存する繊維が加工後もそのままであることを示している。試料11〜14は、室温水のみに2日間浸漬した。肉眼で繊維を見ることができた。いくらかの繊維の整列が、溶融フロー(メルトフロー)の方向に存在していた。
【0135】
(実施例15)
実施例2から得られた水膨潤性材料をバテンフェルド(Battenfeld)BA100CD射出成形機で加工し、引張り試験用棒および圧縮成形された試料片を形成した。試料片は、アルコール中に20分以上浸漬し、その後80℃の水に20分間浸漬した。次いで試料を、脱イオン水中、室温で2日間、溶媒交換させた。この試料を繰り返される凍結解凍サイクルに3回さらした。このサイクル中、この試料を、冷凍庫中に-30℃で12時間入れ、その後室温で12時間解凍した。
【0136】
(実施例16)
実施例3から得られた水膨潤性材料を、実施例15に記載したように処理した。
【0137】
(実施例17)
実施例1から得られた水膨潤性材料を窒素-梱包し、ステリンゲニクス(Sterigenics)にて75kGyで照射した。次いで、この試料を、試験の前に、脱イオン水中で1日間再水和した。
【0138】
(実施例18)
実施例2から得られた水膨潤性材料を、実施例17に記載したように処理した。
【0139】
(実施例19)
実施例3から得られた水膨潤性材料を、実施例17に記載したように処理した。
【0140】
(実施例20)
実施例4から得られた水膨潤性材料を、実施例17に記載したように処理した。
【0141】
(実施例21)
実施例6から得られた水膨潤性材料を、実施例17に記載したように処理した。
【0142】
(実施例22)
実施例7から得られた水膨潤性材料を、実施例17に記載したように処理した。
【0143】
(実施例23)
実施例8から得られた水膨潤性材料を、実施例17に記載したように処理した。
【0144】
〔ハイドロゲルおよびそれらの機械的特性〕
米国材料試験協会標準(ASTM D638タイプIV試験片)およびインストロン(Instron)社のModel 3345で、従来の手法を用いて、選択されたハイドロゲルの機械的な性能特性を測定した。引張り試料は、試験の間、1秒あたり60滴の速度のぜん動ポンプを使用して、水和したまま保った。圧縮試験は、Instron社からのModel 3345にて、水浴中で室温にて実施した。圧縮試験の試料は、0.25x0.25インチのシリンダー状であった。引張り特性の測定値を表6に示す。圧縮特性の測定値を表7に報告する。
【0145】
【表6】

【0146】
【表7】

【0147】
【表8】

【0148】
表6、7、および8に提示された結果は、架橋された繊維を含む試料は、対照試料よりもある程度の改良された機械的特徴を有していたことを示している。このデータは、材料が、後での放射線照射後に、より堅くなり、より少ない伸張を示し、架橋されたことを示した。
【0149】
本発明は、以下に列挙された特許請求の範囲においてさらに示される。本発明は、その精神および範囲から離れないで、さまざまな修正および変更を取り入れることができる。発明の実施形態を記載する際に、明瞭性のために特定の用語が使用される。しかしながら、本発明は、選択された特定の用語に限定されることを意図するものではなく、そのように選択されたそれぞれの用語は、同様に作用する全ての技術的な均等物を含むと解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】図1は、試料2の走査電子顕微鏡検査法(SEM)写真を示す。
【図2】図2は、試料9のSEM写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ポリマーおよび少なくとも1つのペルフルオロシクロブタン架橋セグメントを含むハイドロゲル。
【請求項2】
少なくとも1つのペルフルオロシクロブタン架橋セグメントが、式:-X1-L1-(シクロ-C4F6)-L2-X2-
(式中、L1およびL2は、同じか又は異なり、二置換芳香族基または二置換芳香族エーテル基であり;
X1およびX2は、同じか又は異なり、L1またはL2と親水性ポリマーとに共有結合している、エーテル、アミノ、シリル、エステル、アミド、サルフェート、またはホスフェート基である)
によって表される2価残基を含む請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項3】
前記親水性ポリマーが、約50 kDaより大きい分子量を有する、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
前記親水性ポリマーが、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレンイミン)、エトキシル化ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、加水分解されたポリ(アクリロニトリル)、およびポリ(グリコール)、ならびにこれらのブレンド物および組合せ物からなる群から選択される、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
前記親水性ポリマーがポリ(ビニルアルコール)である、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項6】
前記親水性ポリマーが第2のポリマーとブレンドされる、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項7】
前記の少なくとも1つのペルフルオロシクロブタン架橋セグメントが、式:-X1-C6H4-O-(シクロ-C4F6)-O-C6H4-X2-によって表される、請求項2に記載のハイドロゲル。
【請求項8】
前記の少なくとも1つのペルフルオロシクロブタン架橋セグメントが、式:-X1-C6H4-(シクロ-C4F6)-O-C6H4-X2-によって表される、請求項2に記載のハイドロゲル。
【請求項9】
前記の少なくとも1つのペルフルオロシクロブタン架橋セグメントが、式:-X1-C6H4-(シクロ-C4F6)-C6H4-X2-によって表される、請求項2に記載のハイドロゲル。
【請求項10】
1つ以上の置換芳香族トリフルオロビニル残基を親水性ポリマーに結合させて変性ポリマーを形成するステップ;および
前記変性ポリマーを加熱して、前記置換芳香族トリフルオロビニル残基からペルフルオロシクロブタンセグメントを形成するステップ
を含む、架橋されたハイドロゲルの製造方法。
【請求項11】
前記加熱が、前記親水性ポリマーを分解しない温度である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記加熱が、約室温から240℃の範囲内の温度である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記結合が、置換芳香族トリフルオロビニル残基をエーテル、アミノ、シリル、エステル、アミド、サルフェート、またはホスフェート基を介して親水性ポリマーに共有結合させる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記置換芳香族トリフルオロビニル残基が、トリフルオロビニルエーテル基であり、親水性ポリマーがポリ(ビニルアルコール)である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項15】
1つ以上の置換芳香族トリフルオロビニル残基を親水性ポリマーに結合させて変性ポリマーを形成するステップ;
前記変性ポリマーを所定の形状のハイドロゲル物品の前駆体に形成すること;および
前記ハイドロゲル物品の前駆体を加熱して、少なくとも1つのペルフルオロシクロブタン架橋セグメントを有する架橋ハイドロゲル前駆体を形成するステップ
を含む、ハイドロゲル物品の製造方法。
【請求項16】
架橋ハイドロゲル前駆体を水和することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのペルフルオロシクロブタン架橋セグメントを含む水膨潤性物品。
【請求項18】
シリンダー、涙滴、卵形または半月の形状である、請求項17に記載の水膨潤性物品。
【請求項19】
関節修復材料として使用される、請求項17に記載の水膨潤性物品。
【請求項20】
股、ひざ、脊椎、指、足首、肘、手首、または肩の各関節の関節表面または支持表面として使用される、請求項17に記載の水膨潤性物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−177244(P2007−177244A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−344663(P2006−344663)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(506364352)ズィマー・インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】