説明

ペロブスカイトまたは派生構造のチタン酸塩およびその用途

【課題】ペロブスカイトまたは派生構造のチタン酸塩型の新規材料および電極の製造のためのその使用、より具体的には、SOFCセル(固体酸化物型燃料電池)のセルエレメントまたはSOEC(固体酸化物電解セル)におけるその使用。
【解決手段】チタンの部位が、遷移元素、例えば、金属状態に変化するように水素下で還元し得るニッケルなどで置換されたペロブスカイト構造のチタン酸塩型の新規材料の開発。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一主題は、ペロブスカイトまたは派生構造のチタン酸塩型の新規材料および電極の製造のためのその使用、より具体的には、SOFCセル(固体酸化物型燃料電池)のセルエレメントまたはSOEC(固体酸化物電解セル)という名前でも知られている高温水蒸気電解セル(HTSEC)のセルエレメントにおけるその使用である。これらの新規材料は、SOFCカソード材料、SOECアノード材料として、部分的還元後はSOFCアノード材料またはSOECカソード材料としても使用することが可能であるという、特有の特性を有する。
【背景技術】
【0002】
SOFCセルエレメントは、高収率で環境を害さずに発電するための最先端システムの1種を構成する。それは、水素またはメタンなどの炭化水素を燃料として使用し得る。
【0003】
各セルエレメントは、電解質によって分けられた2個の電極、アノードおよびカソードを含む。
【0004】
各電極コンパートメントは、セルエレメントの製造および使用の間、微細構造が安定でなければならない、セルエレメントの様々な構成要素が化学的適合性を有し類似の熱膨張係数を有していなければならない、多孔性および触媒活性によってセルエレメントが良好な性能を示さなければならない、といういくつかの制約を満たす材料によって構成されなければならない。より具体的には、アノードおよびカソードが高電子伝導率を賦与されていなければならない。
【0005】
さらにそれらは、アノードについては還元状態で、カソードについては酸化状態で安定でなければならない。電極材料がイオン伝導率を有することも望ましい。
【0006】
電解質の製造のための通常の材料は、酸化イットリウムで安定化させた酸化ジルコニウム(YSZまたはイットリア安定化ジルコニア)である。
【0007】
SOFCセルのアノードは、通常、セラミック/金属(サーメット)混合物からなる。ニッケル系サーメット、具体的には、Niおよびイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を基にしたサーメットが開発されており、燃料として水素を用いると顕著に機能する。炭化水素で機能するセルエレメントについては、Ni/セリン(cerine)またはCu/セリンサーメットが最近になって開発されてきた。
【0008】
Ni/YSZサーメットは、それでも多くの欠点を有している。それは、そのシステムが炭化水素で機能する場合、高温でニッケル粒子の焼結、硫黄被毒および炭素の析出を引き起こす。炭素の析出を防ぐために多量の水をセルエレメントの頂部に導入すると、ニッケル粒の成長の加速、最終的には電極の性能の損失につながる。
【0009】
HTSECセルエレメントの場合、Ni/YSZサーメットを使用すると、ニッケルが特にNiOおよび/またはNi(OH)に酸化され、電極が劣化しかねない事態を避けるために、特にシステムの運転停止段階中に、燃料として使用される水中の水素をカソードの入口で多量に使用することが必要である。
【0010】
SOFCセルのセルエレメント中のサーメットを代替する目的で、いくつかの方針が研究されてきた。
【0011】
部位Aでランタン(La)によってのみ置換されたストロンチウム単独のチタン酸塩は、Q.X.Fuら、Journal of the Electrochemical Society、153(4)D74−D83(2006)およびOlga A.Marinaら、Solid State Ionics、149(2002)、21〜28頁で説明されているように、好適ではない。
【0012】
他の遷移金属によって置換されたチタン酸ストロンチウムは、有望な方針を構成するように見えるが、その開発には、その材料の配合における改良が必要である。
【0013】
電極/電解質界面で観察される早すぎるエージングを制限するために考えられた解決策の1つは、カソードおよびアノードの両方として使用してよい新規材料を開発することである。これは、何よりも同一の電極材料の採用が、セルエレメント内で制御されるべき電解質との化学的および熱機械的適合性が単一で済むことを意味するからである。対称的な構造が、特定数の重要な単純化をさらに可能にする。
【0014】
具体的には、電極のための同一の材料の採用が、セルエレメント内の機械的応力の低減を容易にするはずである。それは、セルエレメント内で相互拡散現象を制限し得る電極の同時焼結の使用によってその製造方法の単純化も可能にするはずであり、一方でその製造費を低下させ、時には注意を要するその取扱いを容易にすることを可能にする。したがって、より頑強でより信頼性が高く、潜在的により安価なセルエレメントが製造できるはずである。
【0015】
達成することが所望されている目的の別のものは、混合(イオン/電子)伝導性であり、その上、塩基性であるセラミック基材と結合して純粋に触媒的な役割を有する、すなわち少量のHOおよび/またはCOの存在下で高い「デコ―キング」能を有する、微量のニッケルを含有している新規の型のサーメットの合成である。
【0016】
非常に高度に細分化され、それゆえ非常に活性があり、空隙/セラミック界面で均一に分布した、非常に少量の触媒を含む塩基性化合物を得ることが特に求められてきた。
【0017】
これらの問題の全てを解決するために、セルエレメント内の熱的、化学的および機械的適合性の問題を解決するために、およびセルエレメントの製造条件を単純化するために、アノードとカソードの製造に使用し得る材料を開発する努力がなされてきた。
【0018】
同じ材料をアノード材料およびカソード材料として使用する対称的なセルエレメントが、先行技術で知られており、D.M.Bastidasら、Journal of Material Chemistry、16、(2006)、1603〜1605頁は、ペロブスカイト型化合物(La0.75Sr0.25)Cr0.5Mn0.5(LSCM)を、対称的なセルエレメントを開発するためにアノードおよびカソードの両方として使用し得るSOFC用電極材料として使用する可能性を強調した。対称的なセルエレメント(LSCM/YSZ/LSCM)に関して実施した最初の試験では、900℃で、H下では300mW.cm−2、CH下では225mW.cm−2の相対的に良好な性能を示している。まさにこの場合では、SOFC用アノードおよびカソード材料として推奨されるのは、レドックスサイクルの下で安定な同じ材料である。
【0019】
J.C.Ruiz−Moralezら、Electrochimica Acta、52、(2006)、278〜284頁では、LSCM/YSZ/LSCMセルエレメントの性能を増大させるためにLSCM系電極の微細構造を最適化する努力がされてきた。彼らは、950℃で、H下で550mW.cm−2、CH下で350mW.cm−2の出力を得た。これらの値は既に注目に値するにも関わらず、運転温度を考えると未だ十分に高くはない。
【0020】
対称的なセルエレメントの別の型La0.75Sr0.25Cr0.5X’0.53−δ/La0.9Sr0.1Ga0.9Mg0.22.85/La0.75Sr0.25Cr0.5X’0.53−δ(X’=Mn、FeおよびAl)は、最近このチーム(J.Pena−Martinezら、Electrochimica Acta、52、(2007)、2950〜2958頁)によって開発された。彼らは、La0.75Sr0.25Cr0.5M’0.53−δ/La0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.22.85/La0.75Sr0.25Cr0.5Mn’0.53−δのセルエレメントについて800℃で(5%)加湿Ar/H下で最大出力54mW.cm−2を達成した。これらの最近の研究によれば、対称的なセルエレメントの技術開発の有益性が示されている。
【0021】
国際公開第03/094268号文書は、ドープされたチタン酸ストロンチウム、ならびに電気化学セルエレメントの電極およびSOFC、SOECなどのデバイスの電極を製造するためのその使用について開示している。
【0022】
チタンは、最大で20%のレベルまでNiで置換し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第03/094268号
【特許文献2】米国特許第3,330,697号
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Q.X.Fuら、Journal of the Electrochemical Society、153(4)D74−D83(2006)
【非特許文献2】Olga A.Marinaら、Solid State Ionics、149(2002)、21〜28頁
【非特許文献3】D.M.Bastidasら、Journal of Material Chemistry、16、(2006)、1603〜1605頁
【非特許文献4】J.C.Ruiz−Moralezら、Electrochimica Acta、52、(2006)、278〜284頁
【非特許文献5】J.Pena−Martinezら、Electrochimica Acta、52、(2007)、2950〜2958頁
【非特許文献6】K.S.Aleksandrovら、K.S.Aleksandrov and V.V.Berznosikov、Hierarchies of perovskite−like crystals(review)、Phys.Solid State、39、(1997)、695〜714頁
【非特許文献7】F.Lichtenbergら、Progress in Solid State Chemistry、29、(2001)、1〜17頁
【非特許文献8】F.Lichtenbergら、Progress in Solid State Chemistry、29、(2001)、1〜18頁
【非特許文献9】W.Sugimotoら、Solid State Ionics、108、(1998)、315〜319頁
【非特許文献10】R.Shiozakiら、Stud.Surf.Sci.Catal.、110、(1997)、701〜710頁
【非特許文献11】T.Hayakawaら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.、35、(1996)、192〜195頁
【非特許文献12】K.Takehiraら、Catalysis Today、24、(1995)、237〜242頁
【非特許文献13】T.Hayakawaら、Catal.Lett.、22、(1993)、307〜317頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、チタンの部位が、遷移元素、例えば、金属状態に変化するように水素下で還元し得るニッケルなどで置換されたペロブスカイト構造のチタン酸塩型の新規材料の開発に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この特性は、SOFCセルエレメントのカソードとして、同時に、還元したときには同一のセルエレメントのためのアノードとしてもこの材料を使用することを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1の主題は、一般式(I)に対応する化合物
x1x2(Ti(1−y−z))O(3−δ)
(I)
であり、式中、
が、アルカリ土類金属から選択される原子または原子の混合物を表し、
が、希土類元素から選択される原子または原子の混合物を表し、
が、以下の遷移金属、Ni、Co、Cuから選択される原子または原子の混合物を表し、
が、Ni、Co、Cu以外の遷移金属、配位数6を受け入れる希土類元素、酸化度が(+III)の卑金属から選択される原子または原子の混合物を表し、
x=x+xが、0.9≦x≦1、0<x<1、0<x<1であり、ペロブスカイト構造ABO中のAのBに対する化学量論を表し、
yが、チタン副格子中のMのモル比率を表し、0<y<1であり、
zが、チタン副格子中のMのモル比率を表し、0≦z<1であり、
δが、ある数を表し、0≦δ≦0.5である。この係数により、その電気的中性を、特に、Tiが部分的にでも+IV未満の酸化度を採用できる還元性雰囲気下で維持するように、ペロブスカイト構造中で可能な酸素空格子点の存在を考慮に入れることが可能になる。
【0028】
「希土類元素」という表現は、第17元素のグループを意味し、ランタニド、すなわち、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、ならびにイットリウム(Y)およびスカンジウム(Sc)も含む。
【0029】
「アルカリ土類金属」という表現は、Be、Mg、Ca、Sr、BaおよびRaからなる原子の群を意味する。
【0030】
「遷移金属」という表現は、原子番号21〜30、39〜48および72〜80の原子番号を有する29種の化学元素、すなわち、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hgからなる群を意味する。
【0031】
「卑金属」という表現は、元素周期表でメタロイドに隣接している金属元素からなる群を意味する。この群は、より具体的には、以下の原子、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スズ、タリウム、鉛およびビスマスからなる。
【0032】
好ましくは、式(I)で、以下の
が、Ba、Sr、Caまたはこれらの原子の混合物から選択される、
が、La、Ce、Pr、Nd、Yまたはこれらの原子の混合物から選択される、
が、Niを表す、

(i)Ni、Co、Cu以外の、原子番号21〜30の第1遷移系列の金属、より好ましくはさらにMn、Fe、V
(ii)以下の卑金属、Al、Ga、In
から選択される原子または原子の混合物を表す、
0.95≦x≦1、
0.25≦y≦0.75、
という条件の1個または複数が満たされている。
【0033】
好ましくは、0≦x≦0.5、0.4≦x≦1。
【0034】
式(I)の化合物はペロブスカイト構造を有する。ペロブスカイトという用語は、その一般式がABOである同じ構造の鉱物の一群を意味する。理想的な立方ペロブスカイト構造では、A原子の配位数は12であり、立方晶系酸素環境を有する部位にある。B原子の配位数は6であり、8面体酸素環境を有する部位にある。したがって、ペロブスカイト構造は、3本の結晶軸に沿って頂点で結合されたBO8面体からなり、A原子が8面体によって空のまま残った部位に配置されている(図1)。
【0035】
それにもかかわらず、K.S.Aleksandrovら(K.S.AleksandrovおよびV.V.Berznosikov、Hierarchies of perovskite−like crystals(review)、Phys.Solid State、39、(1997)、695〜714頁)によって記載されているように、その構造がこれほど対称的なままであることは稀であり、大抵は多くの歪みが観察される(極性変位(polar displacement)、有理変位(rational displacement)またはイオンのヤーン・テラー効果の下での変位(displacement))。
【0036】
本発明の別の主題は、式(I)の化合物の製造方法である。
【0037】
式(I)の化合物は、原則として、空気の存在下で調製する。Ti、M、M、MおよびMの金属炭酸塩および/または酸化物は、予想した式(I)に応じて、適切な化学量論比、すなわち選択したこの式の化学量論比で選択する。
【0038】
構成要素(金属炭酸塩および/または酸化物)に、好ましくは溶媒、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの例えば軽質炭化水素、またはエタノール型の軽質アルコールまたはアセトンなどのケトンの存在下、空気の存在下で数分から数時間磨砕操作を施す。次いで、その溶媒を蒸発させ、その粉末をペレット化し、好ましくは1000℃を超える温度、有利には1000℃と1400℃の間で、空気中で数時間焼成する。
【0039】
一変形によると、本発明の一主題は、一般式(II)の化合物
(Mx1x2(m+1)(Ti(1−y−z)3m+1−δ
(II)
であり、式中、M、M、M、M、x、x、y、zおよびδは式(I)中と同じ意味を有し、mは1以上の整数である。
【0040】
この変形によると、式(II)の化合物は、ペロブスカイトから派生し、F.Lichtenbergら(Progress in Solid State Chemistry、29、(2001)、1〜17頁)によって例示されたものに類似した、ルドルスデン・ポッパー(Ruddlesden−Popper)構造として知られている構造を有し、F.Lichtenbergら(Progress in Solid State Chemistry、29、(2001)、1〜18頁)およびW.Sugimotoら(Solid State Ionics、108、(1998)、315〜319頁)の先行技術の教示に従って手順を適合させることによって、式(I)の化合物を得るために使用したものと類似の方法に従って得ることができる。
【0041】
好ましくは、式(II)で、以下の
が、Ba、Sr、Caまたはこれらの原子の混合物から選択される、
が、La、Ce、Pr、Nd、Yまたはこれらの原子の混合物から選択される、
が、Niを表す、

(i)Ni、Co、Cu以外の原子番号21〜30の第1遷移系列の金属、より好ましくはさらにMn、Fe、Vから選択される原子または原子の混合物
(ii)以下の卑金属、Al、Ga、In
から選択される原子または原子の混合物を表す、
m=1、
0.95≦x≦1、
0.25≦y≦0.75、
という条件の1個または複数が満たされている。
【0042】
好ましくは、0.20≦x≦0.80、0.20≦x≦0.80。
【0043】
式(I)または(II)の本発明の新規のペロブスカイト材料は、SOFCセルのカソードまたはHTSECセルエレメントのアノードを製造するために使用し得る。
【0044】
式(I)または(II)の本発明の新規のペロブスカイト材料は、SOFCセルのアノードまたはHTSECセルエレメントのカソードの材料を製造するために使用することもできる。このために、支持材料の表面で金属化合物Mの非常に均一なディスパーションを有する複合材料を生じる、部分的還元のステップにそれらをかける。
【0045】
水素極の構成サーメットを形成するためのカソード材料の還元は、離溶法に基づいている。離溶によりサーメットを形成することは、触媒担体の表面で金属触媒の非常に均一なディスパーションを有する複合材を得るため、および触媒と触媒基質の間の近接性を向上させるために、触媒作用の分野で大いに発展してきた。結晶構造から金属元素を完全又は部分的に取り除き、次いでサーメットを形成するために金属元素(通常はニッケル)を含有する化合物をしばしばその場で還元することであるこの方法は、R.Shiozakiら、(Stud.Surf.Sci.Catal.、110、(1997)、701〜710頁)によって、SPC(固相結晶化)法と名づけられた。次いで、部分的酸化によって合成ガス(合成ガス)を生成するために、形成したサーメットをCHの存在下における温度で使用する。この方法は、サーメットの調製について、ニッケルナノ粒子のこのように均一な分布を得ることを可能にしない含浸技術よりも有益である。
【0046】
T.Hayakawaらは特に、SPCを介したNi/Ca1−xSrTiO型のサーメット(T.Hayakawaら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.、35、(1996)、192〜195頁、K.Takehiraら、Catalysis Today、24、(1995)、237〜242頁)ならびに複合材Ca0.8Sr0.2Ti0.8Ni0.2OおよびLa0.8Sr0.2Co0.8Ni0.2O(T.Hayakawaら、Catal.Lett.、22、(1993)、307〜317頁)の、純粋に触媒的な応用のための使用について大いに研究した。本発明のデバイスおよび方法においては、これらの化合物が対称的な電気化学系に統合され、空気極(単層のままの化合物)にも水素極(サーメットになる化合物)にも使用されるのが同じ材料であるため、用途はこれだけではない。
【0047】
先行技術の電極と比較すると、本発明の電極は、向上した電気化学的、電気的、機械的および触媒的特性を有する。該電極は、Ni/YSZ電極の欠点を示すことなく、全種の燃料と共に使用し得る。
【0048】
本発明の一主題は、SOFCデバイスまたはHTSECデバイスなどの電気化学デバイスの電極であり、この電極が式(I)および(II)の一方の材料を含む。
【0049】
本発明の別の主題は、電気化学デバイスの電極であり、この電極が式(I)および(II)の材料の還元から生じる材料を含む。
【0050】
有利には、空気極の本発明の材料の還元は、以下の条件下で実施する。還元状態、具体的にはH下で、800℃と1500℃の間の温度で、数分から数時間まで変動する時間、より有利には、1000℃と1300℃の間で1hと24hの間の期間、焼成する。
【0051】
この処理を、絶縁電極上で、または直接、セルエレメント内で実施してもよい。
【0052】
本発明によると、式(I)または(II)の材料は、電極の構成材料とし得る。本発明によると、式(I)または(II)の材料の還元から生じる材料も、電極の構成材料となり得る。
【0053】
これらの新規材料は、他の用途でも、特に電極の機能層として使用し得る。より一般的には、本発明の一主題は、一般式(I)または一般式(II)の化合物を含むことを特徴とする電気化学品の任意の構成要素、および一般式(I)または一般式(II)の化合物の還元から生じる化合物を含むことを特徴とする電気化学品の任意の構成要素である。
【0054】
「機能層」という表現は、電極(アノードまたはカソード)と電解質の間に配置した導電性材料の薄層を意味すると理解される。場合により、様々な材料のいくつかの機能層を重ねてもよい。これらの機能層は、電極自体を劣化から保護する、または電極の性能若しくは触媒活性を向上させる働きをする。機能層は、通常1〜50μm、好ましくは20〜30μmの厚さを有する。それは多孔質でよく、具体的には70%までの多孔率を示してよい。
【0055】
本発明の別の主題は、アノード、カソードおよび電解質を含む電気化学セルエレメントであり、そのアノードおよびカソードが式(I)および(II)の材料から選択される同一の材料を含む。
【0056】
本発明の別の主題は、アノード、カソードおよび電解質を含む電気化学セルエレメントであり、その電極の一方が式(I)および(II)の材料から選択される材料でできており、他方の電極が第1の電極の材料の還元から生じる材料でできている。
【0057】
本発明の別の主題は、固体酸化物型燃料電池またはSOFCであり、このセルは、層状の様式に組立てたカソード、アノードおよび電解質を含み、電解質がアノードとカソードの間に配置され、カソードが一般式(I)または一般式(II)の化合物を含み、アノードがカソードと同一の材料またはカソードの材料の還元から生じる材料を含む。
【0058】
電解質は、SOFCセルエレメントで通常使用されている任意の材料でできていてよい。具体的には、電解質として、良好な熱的および化学的安定性を有するイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を使用することが可能である。しかし、置換または非置換のセリン、Srおよび/またはMgで置換されたLaGaOなどのペロブスカイトを使用することも可能である。
【0059】
本発明の別の主題は、上述したような式(I)または式(II)の材料でできている少なくとも1個の構成要素、具体的には少なくとも1個のアノードと、アノードと同一の材料もしくはアノードの材料の還元から生じる材料を含んだカソードとを含む高温水蒸気電解セルである。
【0060】
電解質は、SOFCセルエレメントで通常使用されている任意の材料でできていてよい。具体的には、電解質として、良好な熱的および化学的安定性を有するイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を使用することが可能である。しかし、置換または非置換のセリン(cerine)、Srおよび/またはMgで置換されたLaGaOなどのペロブスカイトを使用することも可能である。
【0061】
運転中、セルエレメントの両側上に見られるのは厳密に言えば同じ化合物ではなく、むしろ空気側では組成式Aの化合物であり、還元性雰囲気下では、サーメットzM/A’+A”であることになるが、このサーメットは、金属微粒子の形態の遷移元素M(Ni、Co、Cu)の離溶によってそれから誘導され、その結果、金属Mがより少ないまたは存在さえしないこともあり、通常電子伝導性である酸化化合物A’、および場合により金属Mがより少ないまたは存在さえしない通常電子絶縁性である第2の酸化物化合物A”が残る。水素極側上での還元が運転中に発生するため、形成および同時焼結の間にカソードおよびアノード側の上に存在するのは厳密に同じ材料であり、したがってこれらのステップが容易になる。続いて、水素極側上に形成したサーメットは、空気極側の化合物とのその構造的な親和に起因して、後者に類似した熱機械特徴を示すことになる。次いで、熱機械的老化は制限されることになる。
【0062】
本発明のセルエレメントは、アノードおよびカソードの製造のために単一の材料のみを使用するためより安価であり、この製造方法は、セルエレメント内の相互拡散問題を制限することを可能にする電極の同時焼結をもたらすための単一加熱処理ステップを含む。
【0063】
したがって、より信頼性があり、より頑強で潜在的により安価なセルエレメントを得ることが可能である。
【0064】
これらの新規材料により、電気化学セルエレメントを製造するための新規の方法を想定することが可能になる。電気化学セルエレメントを製造するための通常の方法の他に、式(I)または(II)の生成物中に電解質を浸漬し、この浸漬被覆により電解質の両面上に生成物を析出させることが可能になるステップ、次いで乾燥操作および同時焼結加熱処理を含む新規の方法を予想することが可能である。セルエレメントを起動した時、水素極が還元され、セルエレメントが通常運転を開始し得る。
【0065】
あるいは従来通り、本発明の材料を結合剤中で希釈することによってインキを製造し、スクリーン印刷によって電解質の片面上、好ましくは両面上にインキを付着させ、次いで、付着物の焼結を引き起こすようにそれを熱処理する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】ペロブスカイト構造は、3本の結晶軸に沿って頂点で結合されたBO8面体からなり、A原子が8面体によって空のまま残った部位に配置されている。
【図2】粉末X線回折図。
【図3】膨張計測実験。
【図4】形成した半セルエレメントには、化学拡散が認められない。
【図5】Ar/H(2%)下での熱重量分析(TGA)を、20℃〜1350℃で実施した。
【図6】1350℃で焼成した後の化合物La2xSr1−2xTi1−xNi(0.25<x<0.45)のXR図。
【0067】
実施例
【実施例1】
【0068】
固相経路を介した微粉形態のLa0.5Sr0.5Ti0.75Ni0.25化合物(約4g)の合成
La(1.53782g)、Sr(CO)(1.39350g)、TiO(1.13092g)およびNiO(0.35255g)の各前駆体を、均一化を促進するために化学量論比でメノウ乳鉢中でアセトンの存在下で手動で混合した。生じた混合物を、以下の熱処理に従って、空気中で1200℃で12h焼成した。
【0069】
【化1】

【0070】
次いで、形成した化合物を磨砕し、一軸加圧成形操作によってペレットの形態に成形した。次いで、このペレットに空気中で1350℃で24hの2回目の熱処理を施した。
【0071】
【化2】

【0072】
次いで、La0.5Sr0.5Ti0.75Ni0.25の粉末を得るために、それを手動で磨砕し、篩(20μmの篩)にかけた。次いで、合成した化合物は、図2の粉末X線回折図によって示しているように純粋であった。
【実施例2】
【0073】
固体経路を介した微粉形態のCe0.5Sr0.5Ti0.75Ni0.25化合物(約4g)の合成
Ce(CO(2.16671g)、Sr(CO)(1.38984g)、TiO(1.12545g)およびNiO(0.35161g)の各前駆体を、均一化を促進するために化学量論比でメノウ乳鉢中でアセトンの存在下で手動で混合した。生じた混合物を、以下の熱処理に従って、アルゴン気流中(7ml.h−1)で1200℃で12h焼成した。
【0074】
【化3】

【0075】
次いで、形成した化合物を磨砕し、一軸加圧成形操作によってペレットの形態に成形した。次いで、このペレットにアルゴン気流中(7ml.h−1)で1350℃で24hの2回目の熱処理を施した。
【0076】
【化4】

【0077】
次いで、Ce0.5Sr0.5Ti0.75Ni0.25の粉末を得るために、それを手動で磨砕し、篩(20μmの篩)にかけた。
【実施例3】
【0078】
La0.5Sr0.5Ti0.75Ni0.25に基づいたSOFC用アノードのスクリーン印刷による製造
粉末70wt%を、テルピネオール/エチルセルロース混合物(95/5wt%)30wt%と混合した。この配合物を、手動で、次いで、3ロール磨砕機を使用して均一化した(3回の連続的な通過により、均一なインキを得ることが可能になる)。次いで、スクリーン印刷によって、電解質を支持する(8モル%の)イットリア安定化ジルコニアの表面上に、そのインキを付着させた。次いで、炉中で100℃で15分間、形成した系を乾燥させた。電極/電解質界面に凝集力を、および付着物に機械的強度を付与するために、熱処理が必要であった。この処理のための条件は、直径10mmおよび厚さ8.86mmのLa0.5Sr0.5Ti0.75Ni0.25の円柱ロッドを垂直に形状配置して空気中で実施した膨張計測実験(図3)により求めた。
【0079】
したがって、1200℃で4hが十分であった。
【0080】
【化5】

【0081】
このようにして、厚さ約40μmの自然に多孔性となった付着物が得られた。形成した半セルエレメントには、化学拡散が認められない(図4)。
【0082】
図3の曲線から、冷却したとき、概算の熱膨張係数11.10−6−1を求めることも可能であった。この値は、ペロブスカイト構造の化合物に特有であり、8%YSZ電解質(10.10−6−1)の値と非常に近いという利点を有し、したがって、電極/電解質界面での機械的応力を制限する。
【実施例4】
【0083】
アノード材料を形成するためのLa0.5Sr0.5Ti0.75Ni0.25化合物の還元
Ni/[La1/3Sr2/3TiO、La]サーメットを形成するために、Ar/H(2%)下での焼き鈍しが必要であった。Ar/H(2%)下での熱重量分析(TGA)を、20℃〜1350℃で実施した(図5)。図5の曲線上で、約900℃から質量減少が記録され、1350℃まで続く。この変化は、還元性雰囲気下でのLa0.5Sr0.5Ti0.75Ni0.25化合物のNi、La1/3Sr2/3TiOおよびLaへの分解と関連がある。Ar/H(2%)下での1300℃で1hまたは1200℃で24hの最適な還元処理を、La0.5Sr0.5Ti0.75Ni0.25化合物について実施した。
【実施例5】
【0084】
化合物La2xSr1−2xTi1−xNi(0.25<x<0.45)を、ペチニ(Pechini)法(米国特許第3,330,697号)の変法である、硝酸/クエン酸ゲルの燃焼によって合成した。La(供給元:Rhodia、99.9%)、SrCO(供給元:Alfa Aesar、99.99%)、(CHCONi(供給元:Alfa Aesar、>99%)およびTi{OCH(CH(供給元:Alfa Aesar、99.995%)を、金属前駆体として使用した。当業者の知識に従って使用した各前駆体の量によってxを設定した。合成中の沈殿の危険性を制限するために、チタンイソプロポキシド、すなわちTi{OCH(CHをエチレングリコール/クエン酸混合物中で最初に希釈した。この溶液中のチタンイオンの濃度は、熱重量分析によって1000℃で10h測定した。
【0085】
第1に、クエン酸Cを、蒸留水/硝酸HNO(65wt%)混合物中で溶解し、次いで、金属前駆体を1種ずつ化学量論比で攪拌し、わずかに加熱(40〜50℃)しながら添加した。次いで、その混合物の体積を、ゲル化し始めるまで150℃で加熱することによって減少させた。次いで、アンモニア溶液(28vol%でのNHOH)を、それをpH=8に中和するために熱い状態で添加した。その混合物の体積を、ゲル化を開始するまで再度減少させた。次いで、そのゲルを炉中で100℃で乾燥した。乾燥操作の間にそれが膨張し、キセロゲルが得られた。この生成物は多孔質であり、見た目が黒色であった。このキセロゲルの赤外線加熱装置下での熱分解により、燃焼反応のモニターが可能となった。燃焼反応は、大量のガス(CO、HOなど)放出と共に起こり、非常に細かい粉末が生じ、これを磨砕し、600℃で焼成して、大部分の有機化合物を取り除いた。このようにして得た粉末を、それを均一化するように手動で磨砕し、次いで以下の熱処理に従って焼成した。
【0086】
【化6】

【0087】
その化合物の純度を、Bruker D8回折計を使用して粉末X線回折によって検証した(1350℃で焼成した後の化合物La2xSr1−2xTi1−xNi(0.25<x<0.45)の図6のXR図を参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の化合物
x1x2(Ti(1−y−z))O(3−δ)
(I)
であって、式中、
が、アルカリ土類金属から選択される原子または原子の混合物を表し、
が、希土類元素から選択される原子または原子の混合物を表し、
が、以下の遷移金属、Ni、Co、Cuから選択される原子または原子の混合物を表し、
が、Ni、Co、Cu以外の遷移金属、配位数6を受け入れる希土類元素、酸化度が(+III)の卑金属(poor metal)から選択される原子または原子の混合物を表し、
0.9≦x+x≦1、0<x<1、0<x<1、
0.25≦y<0.75、
0≦z<1、
0≦δ≦0.5、
である化合物。
【請求項2】
0<x≦0.5、0.4≦x<1を満たす、請求項1に記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
一般式(II)の化合物
(Mx1x2(m+1)(Ti(1−y−z)3m+1−δ
(II)
であって、式中、
が、アルカリ土類金属から選択される原子または原子の混合物を表し、
が、希土類元素から選択される原子または原子の混合物を表し、
が、以下の遷移金属、Ni、Co、Cuから選択される原子または原子の混合物を表し、
が、Ni、Co、Cu以外の遷移金属、配位数6を受け入れる希土類元素、酸化度が(+III)の卑金属から選択される原子または原子の混合物を表し、
0.9≦x+x≦1、0<x<1、0<x<1、
0<y<1、
0≦z<1、
0≦δ≦0.5、
mが1以上の整数である、
化合物。
【請求項4】
m=1および0.20≦x≦0.80、0.20≦x≦0.80を満たす、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
が、Ba、Sr、Caまたはこれらの原子の混合物から選択されること、
が、La、Ce、Pr、Nd、Yまたはこれらの原子の混合物から選択されること、
がNiを表すこと、

(i)Ni、Co、Cu以外の原子番号21〜30の第1遷移系列の金属、より好ましくはさらにMn、Fe、Vから選択される原子または原子の混合物;
(ii)以下の卑金属、Al、Ga、In、
から選択される原子または原子の混合物を表すこと、そして0.95≦x+x≦1、
という条件のうちの1個または複数が満たされる、請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の式(I)または(II)の化合物の製造方法であって、
Ti、M、M、MおよびMの金属炭酸塩および/または酸化物を適切な化学量論比で使用すること、
前記金属炭酸塩および/または酸化物に、溶媒存在下および空気存在下で数時間磨砕操作を施すこと、ならびに
空気中で好ましくは1000℃を超える温度で数時間、前記溶媒を蒸発させ、前記粉末をペレット化して焼成すること
を特徴とする方法。
【請求項7】
電気化学デバイスの電極であって、請求項1から5のいずれか1項の式(I)および(II)の材料から選択される材料を含む電極。
【請求項8】
電気化学デバイスの電極であって、請求項1から5のいずれか1項の式(I)および(II)の材料から選択される材料の還元から生じる材料を含む電極。
【請求項9】
以下のステップ、
還元状態、具体的にはH下で、800℃と1500℃の間の温度で、数分から数時間まで変動する時間、より有利には、1000℃と1300℃の間で1hと24hの間の期間、焼成するステップ
を含む方法によって、式(I)および(II)の材料から選択される材料の還元から生じる、請求項8に記載の電極。
【請求項10】
アノード、カソードおよび電解質を含む電気化学セルエレメントであって、前記アノードおよび前記カソードが、請求項1から5のいずれか1項の式(I)および(II)の材料から選択される同一の材料を含むセルエレメント。
【請求項11】
アノード、カソードおよび電解質を含む電気化学セルエレメントであって、前記電極の一方が請求項1から5のいずれか1項の式(I)および(II)の材料から選択される材料でできており、他方の電極が第1の電極の材料の還元から生じる材料でできている、セルエレメント。
【請求項12】
請求項10および11のいずれかの電気化学セルエレメントであって、前記セルエレメントが固体酸化物型燃料電池であり、前記セルが層状の様式に組立てたカソード、アノードおよび電解質を含み、前記カソードが一般式(I)または一般式(II)の化合物を含み、前記アノードが、前記カソードと同一の材料または前記カソードの前記材料の還元から生じる材料を含む、電気化学セルエレメント。
【請求項13】
請求項11および12のいずれかの電気化学セルエレメントであって、前記セルエレメントが、高温水蒸気電解セルであって、請求項1から5のいずれか1項の式(I)または式(II)の材料でできた少なくとも1個のアノードと、前記アノードと同一の材料または前記アノードの前記材料の還元から生じる材料とを含む前記カソードを含む、電気化学セルエレメント。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか1項の電気化学セルエレメントの製造方法であって、請求項1から5のいずれか1項の式(I)または(II)の前記生成物中に電解質を浸漬し、この浸漬被覆により電解質の両面上に生成物を析出させることが可能になるステップ、次いで乾燥操作および同時焼結加熱処理を含む、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−263225(P2009−263225A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−95964(P2009−95964)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(508358737)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25 rue Leblanc, Batiment Le Ponant D, 75015 Paris, France
【Fターム(参考)】