説明

ペロブスカイト型酸化触媒およびその製造方法

【課題】 優れた触媒性能を有するペロブスカイト型酸化触媒を提供する。
【解決手段】 ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体からなる球状粒子であって、該粒子の平均粒子径が10〜50μmの範囲、比表面積が10m2/g〜40m2/gの範囲にある。前記球状粒子をX線光電子分光分析法(XPS)で測定して得られるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、ダブレット分裂して低エネルギー側領域に現われるピークの強度(A)と、高エネルギー側の領域に現われるピークの強度(B)の強度比(A/B)は、1.0〜2.0の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペロブスカイト型酸化物の球状粒子からなる酸化触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(以下、「VOC」と称する。)はシックハウス症候群の原因物質として、また、大気を汚染する浮遊粒子状物質(SPM)や光化学オキシダント(OX)の原因物質であると考えられており、塗装工場などで、VOC排出規制が始まっている。
VOCの除去についてはPt/アルミナ系触媒を用いて接触燃焼除去する方法が一般的にとられている。また、自動車排ガス触媒についてもアルミナ系の担体に各種貴金属を担持した触媒が実用化されている。しかし、アルミナ担体は高活性であるが、600℃以上の温度雰囲気にさらされると相転移を起こし始め、失活してしまう。
【0003】
一方、ペロブスカイト化合物を担体として用いた触媒は耐熱性に優れているが、表面積が小さく、所望の活性を得られにくいと云う問題があった。また、ペロブスカイト型酸化物は焼成に1000〜1200℃もの高温を必要とし、製造コストの高い製造方法となっていた。
【0004】
特開昭63−222014号公報には、Pb、Zr、Tiの各金属イオンを含む硝酸溶液と、尿素を溶解させた水溶液とを混合し、加熱して共沈物を生成させたのち、該共沈物を乾燥し、500〜1000℃にて仮焼してつくることを特徴とするペロブスカイト型酸化物微粉末の製造方法が開示されている。しかしながら、このペロブスカイト型酸化物微粉末を触媒としたものは、必ずしも十分な触媒性能を有するものではなかった。
【特許文献1】特開昭63−222014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のペロブスカイト型酸化触媒に比べて、優れた触媒性能を有するペロブスカイト型酸化触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のペロブスカイト型酸化触媒は、ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体からなる球状粒子であって、該粒子の平均粒子径が10〜50μmの範囲、比表面積が10m2/g〜40m2/gの範囲にあることを特徴とするものである。
前記ペロブスカイト型酸化触媒は、前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体からなる球状粒子のX線光電子分光分析法(XPS)測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、ダブレット分裂して低エネルギー側領域に現われるピークの強度(A)と、高エネルギー側の領域に現われるピークの強度(B)の強度比(A/B)が1.0〜2.0の範囲にあることが好ましい。
【0007】
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体は、CaMnO3、LaCoO3またはLaFeO3から選ばれる1種以上であることが好ましい。
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体からなる球状粒子は、噴霧乾燥により造粒された粒子の焼成体であることが好ましい。
【0008】
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体がCaMnO3であり、X線光電子分光分析法(XPS)測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、527.0〜529.0eVの領域に現われるピークの強度(A)と530.0〜532.0eVの領域に現われるピークの強度(B)の強度比(A/B)が1.0〜2.0の範囲にあることが好ましい。
【0009】
本発明のペロブスカイト型酸化触媒の製造方法は、金属元素が異なる2種類の化学種を10〜30℃にて水系溶媒中に混合して固形物含有スラリーを調製し、該固形物を湿式粉砕した後、このスラリーを噴霧乾燥し、700〜1000℃にて焼成することを特徴とするものである。
前記湿式粉砕により平均粒子径0.6μm以下の固形物とし、前記噴霧乾燥により、平均粒子径10〜40μmの球状粒子を調製することが好ましい。
前記化学種は、塩基性炭酸塩、炭酸塩、酸化物、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、水酸化物、金属アルコキシド、単体金属から選ばれるものであることが好ましい。
【0010】
本発明の排気ガス除去用触媒は、前記した何れかの球状粒子に、Pt、Pd、Rh、Cu、Cr、TeまたはBから選ばれる少なくとも1種の金属成分が担持されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るペロブスカイト型酸化触媒は、従来の沈殿法などで調製されたペロブスカイト型酸化触媒に比べて、格段に優れた触媒性能を示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[ペロブスカイト型酸化触媒]
本発明に係るペロブスカイト型酸化触媒は、ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体からなる球状粒子であって、該粒子の平均粒子径が10〜50μmの範囲、比表面積が10m2/g〜40m2/gの範囲にあることを特徴とするものである。
平均粒子径および比表面積がこの範囲にあるペロブスカイト型酸化触媒は、酸化触媒として好適に使用することができる。
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体は、単一結晶相であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るペロブスカイト型酸化触媒は、X線光電子分光分析法(XPS)測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、ダブレット分裂して低エネルギー側領域に現われるピークの強度(A)と、高エネルギー側の領域に現われるピークの強度(B)の強度比(A/B)が1.0〜2.0の範囲にあることが好ましい。
【0014】
一般的なペロブスカイト化合物は、X線光電子分光分析法(XPS)測定した場合、O1sシグナルが、ダブレット分裂することが報告されており、高エネルギー側のO1sシグナル(O1s(B))と低エネルギー側のO1sシグナル(O1s(A))に分裂する。この現象は表面酸素(吸着酸素や表面水酸基等)と結晶構造内の酸素の存在に由来するものと考えられることが多い。
ピーク強度比が1未満の場合は、酸化活性が低下する傾向が強くなる。他方、ピーク強度比が2以上である場合を排除するものではないが、通常は1.0〜2.0の範囲にあれば優れた酸化活性を示すことができる。
【0015】
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体の種類については、格別に限定されるものではなく、例えば、後記した原料から生成するペロブスカイト型酸化物を挙げることができる。特に好適には、CaMnO3、LaCoO3またはLaFeO3から選ばれるペロブスカイト型酸化物を挙げることができる。
【0016】
ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体がCaMnO3の場合については、前記X線光電子分光分析法(XPS)測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、527.0〜529.0eVの領域に現われるピークの強度(A)と530.0〜532.0eVの領域に現われるピークの強度(B)の強度比(A/B)が1.0〜2.0の範囲にあることが好ましい。
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体からなる球状粒子は、後記した製造方法に示す通り、噴霧乾燥により造粒された粒子の焼成体である。
【0017】
[ペロブスカイト型酸化触媒の製造方法]
本発明に係るペロブスカイト型酸化物の製造方法は、例えば、炭酸カルシウムと炭酸マンガンなどの様にペロブスカイト型酸化物を形成可能な2種類の化学種を水系で混合してスラリーを調製し、これを湿式粉砕処理した後、該スラリーを噴霧乾燥処理することにより球状粒子を調製し、該球状粒子を焼成するものである。
この様な製造方法により、従来の沈殿法(共沈法)により調製されたペロブスカイト型酸化物に比べて比表面積が高いペロブスカイト型酸化物を得ることができる。また、本発明に係る製造方法により調製されたペロブスカイト型酸化物は、沈殿法により調製されたペロブスカイト型酸化物に比べて、均一性の高いものとなった。
【0018】
本発明のペロブスカイト型酸化触媒を調製するための原料としては、ABO3構造のペロブスカイト型化合物を構成可能なAに相当する原子とBに相当する原子をそれぞれ有する化合物であれば、格別限定されるものではない。原子A、Bとして、La、Co、Fe、Ca、Mnを挙げることができる。また、これらの化合物として、炭酸塩、塩基性炭酸塩、酸化物、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、水酸化物、オキシ水酸化物、金属アルコキシド、単体金属などが使用される。以下に、本発明のペロブスカイト型酸化触媒を調製するための原料として使用可能な化合物について例示するが、これらに限定されるものではない。
【0019】
酸化物としては、La23、CoO、Co34、FeO、Fe23、α−Fe23、Fe34、Fe(OH)(CH3COO)2、CaO、MnO、MnO2、Mn23、Mn34、を挙げることができる。
炭酸塩は特に好適であり、La2(CO33・8H2O、CaCO3、MnCO3・nH2 等を挙げることができる。
【0020】
硝酸塩としては、La2(NO33・6H2O、Co(NO32・6H2O、Fe(NO33・9H2O、Ca(NO32・4H2O、Mn(NO32・6H2O、を挙げることができる。
蓚酸塩としては、La2(C243・9H2O、CoC24、CaC24、MnC24、を挙げることができる。
【0021】
水酸化物としては、La(OH)3、Co(OH)2、Fe(OH)3、Ca(OH)2、を挙げることができる。
オキシ水酸化物としては、CoOOH、FeOOH、を挙げることができる。
塩基性炭酸塩としては、2CoCO3・3Co(OH)2・xH2O、を挙げることができる。
酢酸塩としては、Co(C2322・4H2O、Ca(C2322・H2O、Mn(C2322・4H2O、を挙げることができる。
また、CaC2も使用することができる。
【0022】
前記スラリーの固形分濃度については、特に制限されるものではないが、例えば、固形分濃度10〜30質量%となるように調製される。混合温度については、通常は10〜30℃の範囲で混合される。
この様なスラリーについて湿式粉砕処理を行う。
湿式粉砕とは、強力剪断力を加えることができる粉砕機または分散機を用い、スラリー成分のアグロメレーション(塊状化)を防ぎながら分散または粉砕させる操作を意味する。スラリーに含まれる溶媒成分としては、例えば、水、アルコール、ヘキサン、トルエン、塩化メチレン、シリコーン等を挙げることができる。
【0023】
湿式粉砕に使用する装置としては、本発明の目的を達成できるものであれば格別に限定されるものではないが、例えば、バスケットミル等のバッチ式ビーズミル、横型・縦型・アニュラー型の連続式のビーズミル、サンドグラインダーミル、ボールミル等の湿式媒体攪拌ミル(湿式粉砕機)が例示される。湿式媒体攪拌ミルに用いるビーズとしては、ガラス、アルミナ、ジルコニア、スチール、フリント石等を原料としたビーズが使用可能である。
本発明においては、湿式粉砕処理によりスラリー中の粒子の平均粒子径が0.6μm以下にまで処理することが好ましい。0.6μm以上の場合、後の工程に適用しても本発明に係るペロブスカイト型酸化触媒を得ることが容易ではない。
【0024】
湿式粉砕を終了したスラリーについては、更に噴霧乾燥処理を行うことにより、平均粒子径が10〜40μmの球状粒子を調製する。
前記スラリーの噴霧乾燥処理としては、回転ディスク法、加圧ノズル法、2流体ノズル法など従来公知の方法を採用することができる。特に、特公平2−61406号公報に開示された2流体ノズル方法は、粒子径分布の均一な球状酸化物微粒子集合体を得ることができ、また平均粒子径をコントロールすることが容易であるので好ましい。
【0025】
このときの乾燥温度は、スラリー濃度、処理速度等によっても異なるが、スプレードライヤーを使用する場合、例えば、スプレードライヤーの入口温度としては100〜300℃、出口温度40〜200℃などの条件が好ましい。
噴霧速度については、格別に制限されるものではないが、通常は噴霧速度0.5〜3L/分の範囲で行われる。なお、アトマイザー式噴霧乾燥機を使用する場合は、例えば、10000〜40000rpm(回転数/分)で処理されるが、この範囲に限定されるものではない。
【0026】
噴霧乾燥処理により得られた球状粒子を温度が700〜1000℃で焼成することにより本発明に係るペロブスカイト型酸化触媒を調製することができる。なお、焼成温度については、好適には700〜900℃の範囲が推奨される。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のペロブスカイト型酸化触媒は、自動車排ガス浄化触媒や揮発性有機化合物(VOC)除去用酸化触媒として有用である。
【実施例】
【0028】
初めに、本発明で使用した分析方法または測定方法を以下に記す。
【0029】
[平均粒子径の測定方法]
レーザー回折/散乱方式粒度分布測定装置(堀場製作所製:LA−700)にイオン交換水を投入し、試料(ペロブスカイト型酸化触媒)を透過率75〜95%となるよう加えた。その後、2wt%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液約20mlを加えて1分間超音波分散を行い、平均粒子径を測定した。
【0030】
[比表面積の測定方法]
試料(酸化物焼成粉末)を比表面積測定装置(ユアサアイオニクス製、型番マルチソーブ12)を用いて窒素吸着法(BET法)を用いて、窒素の吸着量から、BET1点法により比表面積を算出した。
【0031】
[X線光電子分光分析(XPS)測定方法]
試料(酸化物焼成粉末)をサンプルステージ上のカーボンテープに付着させ、日本電子製JPS−9000MCでX線源AlKα線、電圧10kV、電流10mAの条件で測定した。得られたスペクトルはC1s(284.0eV)でピーク位置を補正した。
【0032】
[EPMAの測定方法]
試料(CaMnO3の酸化物焼成体からなる粒子)約0.005gについて、島津製作所株式会社製、EPMA-8705を用いて以下の条件にて、粒子表面におけるMn原子及びCa原子の濃度を測定した。
測定条件:加速電圧15kv、試料電流0.02μA、測定時間(1ドット辺り)0.007sec、倍率4000倍
EPMAによるMn原子またはCa原子の濃度測定を50個の試料(約0.005g)について行い、特にMn原子の表面濃度のばらつきを調べた。
【0033】
[実施例1]
174.98gのCaCO3と217.77gのMnCO3・nH2Oおよび2225.54gのイオン交換水を25℃にて混合し、2618.3gのスラリーを調製した。
得られたスラリーをビーズ径0.5mmのZrビーズ430ccを充填した循環方式型湿式粉砕機(アシザワ・ファインテック(株)、LABSTAR)を用い、回転数2480rpm、循環量1L/minの条件でスラリー中の固形物の平均粒子径が0.3μm以下になるまで粉砕した。
【0034】
その後、循環方式型湿式粉砕機からスラリーを回収し、スラリー中の固形物が沈降しないよう攪拌機で攪拌しながらチューブポンプでスラリーをスプレードライヤー(大川原化工機(株)製、LB−8型)に供し、入口温度230℃、出口温度110℃、アトマイザー回転数30000rpmの条件で噴霧乾燥を実施し、平均粒子径が16μmの球状粒子を得た。なお、得られた球状粒子を以下、「触媒前躯体」と称する。
触媒前躯体をマッフル炉で大気下800℃、5時間焼成してCaMnO3からなるペロブスカイト型酸化触媒を得た。
このペロブスカイト型酸化触媒の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0035】
続いて、このCaMnO3触媒をXRD、BETおよびXPSで分析した。
図1にCaMnO3触媒の粉末X線回折パターンを示す。図1にはCaMnO3固有の粉末X線回折図形が示されており、800℃、5時間という低温短時間焼成にもかかわらず単一相のペロブスカイト型酸化物の生成が確認された。
BET法により測定された比表面積は10.8m2/g、平均粒子径は13μmであった。
【0036】
図2にX線光電子分光分析法(XPS)測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図を示す。
図2に示すXPS測定結果より、得られたCaMnO3のO1s準位の結合エネルギーのスペクトルは二つに分裂する特徴を持つことが確認された。
低エネルギー側のピーク[O1s(A)](ピークトップ:528.2eV、強度:8906)と高エネルギー側のピーク[O1s(B)](ピークトップ:530.6eV、強度:6942)から、ピーク強度比(O1s(A)/O1s(B))は1.28と計算された。
また、前記EPMAにより、Mn原子の表面濃度のばらつきを確認したところ、50個の試料について、Mn原子表面濃度のばらつきは殆ど見られなかった。
【0037】
[触媒性能試験]
CaMnO3触媒ついて流通式触媒反応装置を用いて、プロピレンの酸化反応を行った。反応系に2ccの触媒を充填し、室温から600℃まで昇温速度5℃/分で昇温しながら、空間速度50000h-1で400ppmのプロピレンを接触させて、出口でガス分析装置を用いてこれらガス成分の濃度測定を行った。
プロピレンの転化率の変化を図4に示した。この結果、後記する比較例1の場合に比べて、優れた転化率を示すことが確認された。
【0038】
[比較例1]
炭酸ナトリウム286.17gを3370gのイオン交換水に溶解し、60℃に保持した。また、硝酸カルシウム四水和物177.11gと硝酸マンガン218.18gを60℃に保持したイオン交換水2606gに溶解し、前記炭酸ナトリウム水溶液に45分で注加した。注加が終了した後、60℃で1時間沈殿を熟成し、40℃以下まで冷却した。濾過洗浄を3〜4回繰り返し、濾液伝導度を100μS/cm以下とした。沈殿物を120℃で一晩乾燥し、触媒前躯体を得た。
この触媒前躯体を800℃、5時間焼成してCaMnO3からなるペロブスカイト型酸化触媒を得た。このペロブスカイト型酸化触媒の走査型電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0039】
続いて、このCaMnO3触媒を実施例1と同様に、XRD、BETおよびXPSで分析した。
図1に示す粉末X線回折パターンより、このCaMnO3触媒はほぼCaMnO3相であるが、僅かに他成分化合物のピークが確認された。比表面積は2.66m2/gであり、その形状は粒子状ではなく、不定形であった。
【0040】
図2に示すXPS測定結果より、得られたCaMnO3のO1s準位の結合エネルギーのスペクトルは二つに分裂する特徴を持つことが確認された。
低エネルギー側のピーク[O1s(A)](ピークトップ:528.2eV、強度:5958)と高エネルギー側のピーク[O1s(B)](ピークトップ:530.6eV、強度:6169)から、ピーク強度比(O1s(A)/O1s(B))は0.97と計算された。
また、前記EPMAにより、Mn原子の表面濃度のばらつきを実施例1と同様に確認したところ、実施例1の場合よりばらつきがあることが確認された。
【0041】
続いて、このCaMnO3触媒について、実施例1と同様に触媒性能試験を行い、その結果を図4に示した。
実施例1と比較例1との対比から、本発明に係るペロブスカイト型酸化物触媒は、沈殿法により調製されたペロブスカイト型酸化物触媒より優れた触媒性能(酸化活性)を示すことが判る。これは、O1s(A)のピーク強度とO1s(B)のピーク強度の比[O1s(A)/O1s(B)]の大きいペロブスカイト型酸化物触媒が、より強い酸化活性を有することから、優れた触媒性能を発揮するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1と比較例1で得られたペロブスカイト型酸化触媒の粉末X線回折パターンを示す。
【図2】実施例1と比較例1で得られたペロブスカイト型酸化触媒のX線光電子分光分析法(XPS)測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図を示す。
【図3】実施例1と比較例1で得られたペロブスカイト型酸化触媒の走査型電子顕微鏡写真(倍率4000倍)であり、図3(a)が実施例1、図3(b)が比較例1を示す。
【図4】実施例1と比較例1で得られたペロブスカイト型酸化触媒の触媒性能(プロピレン酸化反応)試験の結果であり、図4(a)が実施例1、図4(b)が比較例1を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体からなる球状粒子であって、該粒子の平均粒子径が10〜50μmの範囲、比表面積が10m2/g〜40m2/gの範囲にあることを特徴とするペロブスカイト型酸化触媒。
【請求項2】
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体からなる球状粒子のX線光電子分光分析法(XPS)測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、ダブレット分裂して低エネルギー側領域に現われるピークの強度(A)と、高エネルギー側の領域に現われるピークの強度(B)の強度比(A/B)が1.0〜2.0の範囲にあることを特徴とする請求項1記載のペロブスカイト型酸化触媒。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体が、CaMnO3、LaCoO3またはLaFeO3から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のペロブスカイト型酸化触媒。
【請求項4】
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体からなる球状粒子が噴霧乾燥により造粒された粒子の焼成体であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載のペロブスカイト型酸化触媒。
【請求項5】
前記ペロブスカイト型構造を有する酸化物焼成体がCaMnO3であり、X線光電子分光分析法(XPS)測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、527.0〜529.0eVの領域に現われるピークの強度(A)と530.0〜532.0eVの領域に現われるピークの強度(B)の強度比(A/B)が1.0〜2.0の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のペロブスカイト型酸化触媒。
【請求項6】
金属元素が異なる2種類の化学種を10〜30℃にて水系溶媒中に混合して固形物含有スラリーを調製し、該固形物を湿式粉砕した後、このスラリーを噴霧乾燥し、700〜1000℃にて焼成することを特徴とするペロブスカイト型酸化触媒の製造方法。
【請求項7】
前記湿式粉砕により平均粒子径0.6μm以下の固形物とし、前記噴霧乾燥により、平均粒子径10〜40μmの球状粒子を調製することを特徴とする請求項6記載のペロブスカイト型酸化触媒の製造方法。
【請求項8】
前記化学種が塩基性炭酸塩、炭酸塩、酸化物、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、水酸化物、金属アルコキシド、単体金属から選ばれるものであることを特徴とする請求項6または請求項7記載のペロブスカイト型酸化触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5の何れかに記載の球状粒子に、Pt、Pd、Rh、Cu、Cr、TeまたはBから選ばれる少なくとも1種の金属成分が担持されたことを特徴とする排気ガス除去用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−69451(P2010−69451A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242070(P2008−242070)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】