説明

ペーシング信号のルーティング法

【課題】検知ユニット及び制御回路を有する装置を提供する。
【解決手段】検知ユニットは、心臓カテーテルからの電気生理学的(EP)信号をEP記録システムに、EP記録システムからのペーシング信号をカテーテルに伝送する伝送路に、接続される。検知ユニットは、ペーシング信号が伝送される時間インターバルを自動的に特定するように構成される。制御回路は、伝送路上のEP信号を、ペーシング信号に悪影響を及ぼす介在システムを介してカテーテルからEP記録システムへとルーティングし、伝送路を、前記特定された時間インターバルにおいて介在システムを迂回する代替経路に切り換え、更にEP記録システムからのペーシング信号を心臓カテーテルへと代替経路を通ってルーティングするように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には医療用のプローブに関し、詳細には医療用プローブへの信号、及び医療用プローブからの信号をルーティングするための方法並びにシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓電気生理学(EP)の検査法においては、例えば心臓カテーテルを使用して患者の心臓からのEP信号を検知及び記録することが行われる。一部のEP検査法では、ペーシング信号を印可することによって患者の心臓ペーシングを行う。EP検査は、心臓表面の特定の領域にアブレーション信号を印可するアブレーション処置と、時折組み合わせて行われる。
【0003】
こうした処置を行う際にEP信号、ペーシング信号及び/又はアブレーション信号を調整するための方法及びシステムが当該技術分野において幾つか知られている。例えば、その開示内容を本明細書に参照により援用する国際特許出願公開第WO 1997/06729号は、増幅システム、アブレーション装置、フィルターボックス、ディスプレイモニター、及びチャート記録装置を含むEPシステムを開示している。この増幅システムは、EP検査及びアブレーション処置の両方においてアブレーションカテーテルからの心内信号を受信する。増幅システム、アブレーション装置、及びアブレーションカテーテルはフィルターボックスに相互連結されているため、心内信号及び高エネルギーのアブレーション信号がフィルターボックスを通じて流れてフィルターボックスによって濾過される。
【0004】
その開示内容を本明細書に参照により援用する国際特許出願公開第WO 1994/10904号は、低インピーダンスの結合を介してアブレーション電源と結合されたアブレーション電極をその末端に有するアブレーションカテーテルについて述べている。このアブレーション電極は、アブレーション処置の間の心内信号、好ましくは更に組織インピーダンスを監視するための検知電極としても機能する。アブレーション電極は、高インピーダンス結合を介して電極モニターと結合される。タイミング要素が、複数の反復した重なり合わないアブレーションインターバル及び休止インターバルの間に異なる信号経路を選択的に分離、減衰又は相互接続するように、複数のスイッチを作動させる。アブレーションインターバルでは、高周波(RF)エネルギーがアブレーション部位に供給される。休止インターバルでは、局所的心内信号が測定される。
【0005】
その開示内容を本明細書に参照により援用する米国特許出願公開第2008/0281312号は、多チャンネル型高周波アブレーションジェネレーター、ECGインターフェース、少なくとも3個のアブレーションカテーテルのアセンブリ、並びにカテーテルをECGユニット及びRFアブレーションジェネレーターの両方に動作可能に結合かつインターフェースするECGインターフェースを含むアブレーション治療システムについて述べている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において述べる本発明の一実施形態では、
心臓カテーテルからの電気生理学的(EP)信号をEP記録システムに、該EP記録システムからのペーシング信号をカテーテルに伝送する伝送路に接続され、ペーシング信号が伝送される時間インターバルを自動的に特定するように構成された検知ユニットと、
伝送路上のEP信号を、ペーシング信号に悪影響を及ぼす介在システムを介してカテーテルからEP記録システムへとルーティングし、伝送路を、特定された時間インターバルにおいて介在システムを迂回する代替経路に切り換え、更にEP記録システムからのペーシング信号を代替経路を通って心臓カテーテルへとルーティングするように構成された制御回路と、を備えた装置が提供される。
【0007】
特定の実施形態では、検知ユニットは、伝送路上を伝送されるペーシングパルスを検知することによって時間インターバルを特定するように構成される。一実施形態では、伝送路上でペーシング信号が検知されることに応じて制御回路がペーシング信号を代替経路を通るようにルーティングし、伝送路上にペーシング信号が存在しないことが検知されることに応じて制御回路がEP信号を介在システムを介してルーティングするように、検知ユニットが構成される。
【0008】
開示される一実施形態では、制御回路は、伝送路を切り換えるように検知ユニットによって制御される1又は2以上のスイッチを有する。例示的な一実施形態では、1又は2以上のスイッチは第1及び第2のスイッチを含み、検知ユニットは、第1のスイッチを開きかつ第2のスイッチを閉じることによってペーシング信号を代替経路を通るようにルーティングし、第1のスイッチを閉じかつ第2のスイッチを開くことによってEP信号を介在システムを介してルーティングするように構成される。別の実施形態では、ペーシング信号が所定のパルス幅を有するパルスを含み、1又は2以上のスイッチは所定のパルス幅の10%を超えないスイッチング時間を有する。更なる別の実施形態では、介在システムは心臓カテーテルの位置を測定する位置追跡システムを含む。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、更に、
伝送路によって電気生理学的(EP)記録システムに接続された心臓カテーテルを含むシステムにおいて、伝送路上のEP信号を、ペーシング信号に悪影響を及ぼす介在システムを介してカテーテルからEP記録システムへとルーティングすることと、
ペーシング信号が伝送される時間インターバルを自動的に特定することと、
特定された時間インターバルにおいて介在システムを迂回する代替経路に伝送路を切り換えることと、
ペーシング信号を、EP記録システムから心臓カテーテルへと代替経路を通ってルーティングすることと、を含む方法が提供される。
【0010】
以下の実施形態の詳細な説明を図面と併せ読むことによって本発明のより完全な理解がなされるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に基づく、EP検査、ペーシング及びアブレーションのためのシステムを概略的に示したブロック図。
【図2】本発明の一実施形態に基づく、ケーブル接続を通るようにルーティングされたペーシング信号を示すタイミング図。
【図3】本発明の一実施形態に基づくペーシング信号及びEP信号のルーティングのための方法を概略的に示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
概論
一般的なEP検査法では、心内膜表面の電位をマッピングするために医師が患者の心室腔内でカテーテルを操作する。カテーテルは、表面と接触して局所電位を示すEP信号を生成する1又は2以上の電極を備えている。EP信号は、カテーテルから伝送路(例えばケーブル接続)を通じてEP記録システムへと伝送され、EP記録システムが、検知された電位を記録して医師に対して提示する。特定の場合では、EP検査法において更に、EP記録システムからカテーテルの電極へと伝送路を通じてペーシング信号を伝送することによって患者の心臓のペーシングを行う。
【0013】
特定のシステム構成では、カテーテルとEP記録システムとの間の伝送路は、心臓内におけるカテーテルの位置を測定して表示する位置追跡システムのような介在システムを横断する。介在システムは一般的に、カテーテルによって生成されたEP信号がほとんど、あるいはまったく劣化することなくEP記録システムにまで伝送されるように構成されている。しかしながら、介在システムは、逆方向には、EP記録システムからカテーテルへと伝送されるペーシング信号をしばしば遮断又は歪ませる。
【0014】
以下に述べる本発明の各実施形態は、EP記録システムとカテーテルとの間においてEP信号及びペーシング信号をルーティングするための改良された方法並びにシステムを提供するものである。特定の実施形態では、カテーテルとEP記録システムとの間の伝送路は、介在システムを横断する直接経路と、介在システムを迂回する代替経路の2つの経路を有する。信号ルーティングシステムがこれら2つの経路間の切り換えを行う。特定の実施形態では、信号ルーティングシステムは、ページング信号がEP記録システムから送信される時間のインターバルを、例えばケーブル接続上のペーシング信号を検知することによって自動的に特定する。特定された時間のインターバルに基づいて、信号ルーティングシステムは、EP記録システムとカテーテルとを直接経路を介して接続するか、あるいは代替経路を介して接続するかを選択する。
【0015】
通常、信号ルーティングシステムは、特定された時間インターバルの間は代替経路を選択し、それ以外では直接経路を選択する。したがって、ペーシング信号は代替経路を通るようにルーティングされ、介在システムによって遮断又は歪ませられない。特定された時間インターバルの外側では、EP信号は介在システムを介して直接経路を通るようにルーティングされるため、介在システムはこれらの信号を利用することができる。
【0016】
本明細書において述べる方法及びシステムは、EP記録システムと介在システムの共存を可能とする一方で、EP信号及びペーシング信号の妨害されない伝送を可能とするものである。スイッチングプロセスの全体が自動的に行われるため、プロセスは、必要な場合にいつでもペーシングを行いうる医師に対して透明性を有する。開示される技術はまた、EP検査法の間にEP信号の継続的な監視を行うことを求めた病院規則の順守を単純化するものである。
【0017】
システムの説明
図1は、本発明の一実施形態に基づく、EP検査、ペーシング及びアブレーションを行うためのシステム20を概略的に示したブロック図である。システム20は、患者の心室腔内に挿入された心臓カテーテル28に接続されたEP記録システム24を有している。カテーテル28の末端部32は、1又は2以上の電極36を有している。電極36は、EP検知(局所電位の検知)、ペーシング及び/又はアブレーションを行うために使用することができる。特定の実施形態では、それぞれの機能(EP検知、ペーシング、アブレーション)は別々の電極によって行われる。また、所定の電極をこれらの機能のうちの2つ以上、例えばEP検知及びペーシングを行うために用いることもできる。
【0018】
EP記録システム24は信号伝送路を用いてカテーテル28の電極36に接続されている。本明細書において述べる実施形態では、伝送路はケーブル接続40からなるものである。しかしながら、一般的に伝送路は、カテーテルの電極とEP記録システムとの間の信号の伝送を可能とする他の任意の適当な接続から少なくとも部分的になるものでよい。伝送路は例えば、コネクター、回路配線又は他の任意の適当な接続の種類からなるものでよい。特定の実施形態では、伝送路は、患者に取り付けられた体表面心電図(ECG)電極に接続するためにも使用される。
【0019】
EP記録システム24は、電極36によって検知された局所電位を示すEP信号をカテーテル28から受信する。EP記録システムは通常、検知された電位をEP検査法の一部として医師に提示する。EP記録システム24は、後で分析を行うために検知された電位を記録することもできる。システム20の一部として使用することができるEP記録システムは例えば、ジー・イー・ヘルスケア社(GE Healthcare)、ジーメンス社(Siemens AG)によって供されるシステム、又は他の任意の適当なシステムを含む。
【0020】
特定の実施形態では、ペーサー44がEP記録システム24に接続される。ペーサー44は、カテーテル28の電極36によって患者の心臓に印可されるペーシング信号(ペーシングパルスとも呼ばれる)を発生する。例えばバイオトロニク社(BioTronik)によって製造されるUHS 3000心臓刺激装置、マイクロペース・イー・ピー社(Micropace EP, Inc.)(カリフォルニア州サンタバーバラ)によって製造されるEPS320心臓刺激装置、又はフィッシャー・メディカル・テクノロジーズ社(Fischer Medical Technologies, Inc.)(コロラド州ブルームフィールド)によって供されるBloom EP刺激装置などの任意の適当なペーサーをこの目的で使用することができる。この目的で使用することが可能な幾つかの更なる心臓刺激装置が、マクローリン(McLaughlin)らによる表題が「Review of Seven Cardiac Electrophysiology Stimulators」(Physiological Measurement,volume 14,no.1,February,1993)である論文に述べられており、当該文献を本明細書に参照により援用するものである。ペーサー44によって発生されたペーシング信号は、ケーブル接続40を通ってEP記録システム24からカテーテル28に伝送される。
【0021】
特定の実施形態では、システム20はアブレーター48を含む。アブレーターは、やはりカテーテルに伝送されるアブレーション交流信号を発生する。しかしながら、本説明文は、EP信号及びペーシング信号に主として焦点を当てたものである。アブレーション交流信号の扱いは、本開示の範囲外と考えられる。
【0022】
特定の実施形態では、ケーブル接続40(又は他の伝送路)はカテーテル28とEP記録システム24との間において介在システム52を横断する。本実施形態では、介在システムは、患者の心臓内におけるカテーテルの位置座標を測定し、測定された位置を医師に対して表示する位置追跡及び操作システムからなる。こうしたシステムの例として、バイオセンス・ウェブスター社(Biosense-Webster Inc.)(カリフォルニア州ダイアモンドバー)によって製造されるCARTO(商標)システムがある。この種の位置追跡の手法については、例えば、米国特許第5,391,199号、同第6,690,963号、同第6,484,118号、同第6,239,724号、同第6,618,612号、及び同第6,332,089号、国際特許出願公開WO 1996/005768号、並びに米国特許出願公開第2002/0065455 A1号、同第2003/0120150 A1及び号、同第2004/0068178 A1号に述べられており、これらの開示内容をすべて参照により本明細書に援用するものである。しかしながら、開示される技術は他の任意の適当な介在システムとともに使用することができる。
【0023】
通常、介在システムは、カテーテル電極、詳細にはEP信号を利用する。したがって、伝送路は常に介在システムを完全に迂回してはならない。上記で触れたCARTOシステムでは、例えばEP信号は、医師に対して表示される電気解剖学的マップを作成するために用いられる。特定の場合では、介在システムは、カテーテル電極を用いてインピーダンスに基づいた位置測定を行うことができる。
【0024】
介在システム52(本実施例における位置追跡システム)は、EP信号がその入力部からその出力部にまで(すなわち、カテーテルからEP記録システムにまで)ほとんど、あるいはまったく劣化することなく伝送されるように構成されている。詳細には、位置追跡システムは、位置追跡システムを横断するEP信号を濾過することによって、EP信号の純度を保ち、干渉する信号及びノイズを抑制することができる。その一方で、介在システムは、逆方向には(EP記録システムからカテーテルへ)信号をしばしば遮断又は歪ませる。このため、システム20が介在システムを通じてペーシング信号を(EP記録システムからカテーテルへと)伝送しようとする場合には、ペーシング信号は遮断又は歪ませられることになる。
【0025】
ペーシング信号の歪み又は遮断を回避するため、システム20は、介在システム52を迂回する経路を通ってペーシング信号を迂回させる信号迂回システム56を備えている。この迂回動作は、カテーテルからEP記録システムへのEP信号の伝送に支障をきたすことなく行われる。特定の実施形態では、ケーブル接続40(又は他の伝送路)は、カテーテル28をEP記録システム24に接続する2つの経路、すなわち介在システム52を横断する直接経路と、介在システムを迂回する代替経路72とを有する。信号迂回システム56は、ペーシング信号が存在するか否かに応じて2つの経路間で切り換えを行う。
【0026】
迂回システム56は、ペーシング信号がEP記録システム24からカテーテル24へと送信される時間インターバルを特定する検知ユニット60を有している。例示的な一実施形態では、ユニット60は振動伝送路(例えばケーブル接続40)を検知して、ペーシング信号の有無を検出する。また、ユニット60は、他の任意の適当な方法を用いて時間インターバルを特定することもできる。特定された時間インターバルに基づいて、システム56内の制御回路が、EP記録システムとカテーテルとを接続するための信号伝送路のうちの一方の経路を選択する。
【0027】
図1の実施形態では、制御回路は、いずれも検知ユニット60によって制御されるスイッチ64及びスイッチ68を有している。これらのスイッチは、例えば金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)又は他の任意の適当な種類のスイッチからなるものでよい。スイッチ64及び68を設定することにより、検知ユニット60は、EP記録システムを、直接経路あるいは代替経路のいずれを通ってカテーテルと接続するかを選択することができる。
【0028】
スイッチ64が閉じられ、スイッチ68が開かれている場合、EP記録システム24は、介在システム52を横断する直接経路を通ってカテーテル28と接続される。検知ユニット60は、特定された時間インターバルの外側において、すなわちペーシング信号が検出されず、カテーテルからEP記録システムへと介在システムを介してEP信号を伝送しようとする場合に、このスイッチの設定を適用する。
【0029】
スイッチ64が開かれ、スイッチ68が閉じられている場合(図に示される設定)には、EP記録システム24は、介在システム52を迂回する代替経路72を通ってカテーテル28と接続される。検知ユニット60は、特定された時間インターバルの間において、すなわちペーシング信号が検出され、検出信号をEP記録システムからカテーテルへと伝送しようとする場合にこのスイッチの設定を適用する。その結果、ペーシング信号は、介在システムによって引き起こされる遮断又は歪みを生じることなく伝送される。
【0030】
通常、ペーシング信号は一連のペーシングパルスからなる。このようなペーシング信号に応じて、検知ユニットがスイッチ64及びスイッチ68の設定を交互に切り換えることにより、ペーシングパルス中では代替(迂回)経路が選択され、ペーシングパルスの間では直接経路が選択される。
【0031】
図1のシステム20及びシステム56の構成は、あくまで概念を明確にすることを目的として選択された例示的な構成である。代替的な実施形態では、他の任意の適当な構成を用いることもできる。図1の例は、単一の信号伝送路、すなわち、単一のEP信号及び単一のペーシング信号を伝送するカテーテルとEP記録システムとの間の単一の線を示している。現実のEP記録システムは、複数の信号伝送路、例えばカテーテル1本当たり4個〜20個のカテーテル電極(更にしばしば1本よりも多いカテーテルを用いる)及び10個の体表面ECG電極を一般的に有している。また、他の任意の適当な数の伝送路を用いることもできる。特定の実施形態では、信号迂回システム56は、複数の直接経路及び複数の代替経路、例えば、各信号伝送路について直接経路と代替経路のそれぞれの組を有する。これらの実施形態では、検知ユニット60は、各伝送路の直接経路と代替経路との間でその伝送路上のペーシング信号にしたがって独立して切り換えを行う。
【0032】
信号迂回システム56は、別個の構成要素を用いて、又は特定用途向け集積回路(ASIC)若しくはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)として実施することができる。システム56の機能の一部はソフトウェアで実行することができる。特定の実施形態では、信号迂回システム56の機能は、システム20の他の要素の1つに、例えば介在システムの一部として、埋め込むことができる。
【0033】
図2は、本発明の一実施形態に基づく、ケーブル接続40を通って迂回させられたペーシング信号を示すタイミング図である。図は、スイッチ64及び68の有限スイッチング時間の影響、及び検知ユニット60の応答時間(すなわち、ケーブル接続40上にペーシングパルスが出現してから、パルスに応じてユニット60がスイッチ64とスイッチ68とを切り換える制御信号を送るまでの時間)を示している。
【0034】
一般的な実施においては、各ペーシングパルスの幅は1〜3msである。検知ユニットの応答時間、及び各スイッチのスイッチング時間は、ペーシングパルスの幅よりも一般的に大幅に短く、例えば約数マイクロ秒である。しかしながら特定の実施形態では、システムは、アブレーション周波数に対する感度を低下させるためのフィルターを有している。こうした実施形態では、検知時間及びスイッチング時間は数十マイクロ秒、例えば20〜50μs大きくなる。これらの数値はあくまで例として与えられたものであって、他の任意の適当な値を代替的な実施形態において用いることができる。
【0035】
図は、EP記録システム24からカテーテル28に伝送されるペーシングパルス76を示している。各ペーシングパルス76はパルス幅82を有している。ペーシングパルスの立ち上がりエッジは、時間80においてケーブル上に出現している。検知ユニット60の応答時間、並びにスイッチ64及び68のスイッチング時間のため、代替(迂回)経路は時間80よりもわずかに遅れた時間84においてのみ確立され得る。したがって、カテーテル28に実際に伝送されるペーシングパルスは、最初のパルス幅82よりもわずかに狭いパルス幅86を有する。本実施例では、最初のパルス幅84は1〜4msであり、より狭いパルス幅は0.95〜3.95msである。この種の劣化は通常は許容され得る。多くの場合、医師は、ペーサー44を用いてペーシングパルスの振幅を増大させることによってペーシングパルスのエネルギーの損失を補償することができる。
【0036】
ケーブル接続40上でのペーシングパルス76の立ち下がりエッジは、時間81において生じている。検知ユニットの応答時間及びスイッチのスイッチング時間のため、直接経路(介在システムを介する)は時間88においてのみ接続され得る。この結果、実際のペーシングパルスが既に終了していたとしてもEP記録システムがインターバル90の間カテーテルからEP信号を受信しない可能性がある。(EP記録システムは、全体のパルス幅82、及びEP記録システムがペーシングパルスによって引き起こされる飽和状態から回復するのに要する更なる短い時間(例えば>20ms)の間、EP信号を受信しない点に注意されたい。有限スイッチング時間はこの時間を、EP記録システムの回復時間よりも大幅に短いインターバル90だけ延長する。)本実施例では、パルス幅86は0.95〜3.95msであり、インターバル90の長さは1.05〜4.05msである。インターバル90はEP記録システムの回復時間よりも短いため、劣化は起こらない。
【0037】
通常、スイッチのスイッチング時間はペーシング信号のパルス幅よりも大幅に小さいため、エネルギーの損失は小さい。一般的な実施形態では、スイッチング時間は、1msのペーシングパルスではペーシングパルス幅の10%を超えず、2msのペーシングパルスでは5%を超えず、といった具合である。上記の説明はあくまで一例として与えられたものである。代替的な実施形態では、他の任意の適当なパルス幅及び遅延を用いることができる。
【0038】
信号ルーティング法の説明
図3は、本発明の一実施形態に基づくペーシング信号及びEP信号のルーティングのための方法を概略的に示したフローチャートである。この方法は、EP検査法の一部としてカテーテル28を患者の心室腔内に挿入することによって開始される。医師はペーサー44を作動させて一連のペーシングパルスを印可する。同時に、カテーテル28の電極36がEP信号の測定値を収集する。両方のタイプの信号がケーブル接続40を通って伝送される。
【0039】
検知工程94において、検知ユニット60が、ペーシングパルスの有無を検出するためにケーブル接続40上の信号電圧を検知する。信号確認工程98において、検知ユニットはペーシングパルスが存在するか否かを確認する。ペーシングパルスがケーブル接続40上で検出されない場合、検知ユニット60は、直接接続工程102において、直接経路を通ってカテーテルをEP記録システムと接続するように、制御回路(本実施例においてはスイッチ64及び68)を構成する。制御回路は、直接ルーティング工程106において、カテーテルからのEP信号をEP記録システムへと、介在システム52を横断する直接経路を通ってルーティングする。
【0040】
これに対して、工程98においてペーシングパルスがケーブル接続40上で検出された場合、検知ユニット60は代替接続工程110において、代替経路を通ってカテーテルをEP記録システムと接続するように、制御回路を構成する。制御回路は、代替ルーティング工程114において、EP記録システムからのペーシング信号をカテーテルへと、介在システム52を迂回する代替経路を通ってルーティングする。この方法は上記の検知工程94に戻り、検知ユニットが引き続きケーブル接続を検知する。
【0041】
本明細書で述べた各実施形態は、カテーテル位置追跡システムの存在下でのEP信号及びペーシング信号のルーティングを主として扱ったものであるが、本明細書で述べた方法及びシステムは、他の種類の介在システムと使用することも可能である。
【0042】
したがって、上述の実施形態は一例として引用したものであり、また本発明は上記に具体的に図示及び記載したものに限定されないことは認識されるであろう。むしろ本発明の範囲には、上記に述べた様々な特徴の組み合わせ及び下位の組み合わせ、並びに上記の説明を読むことによって当業者には想到されるであろう、先行技術において開示されていない変形例及び改変例も含まれるものである。
【0043】
〔実施の態様〕
(1) 心臓カテーテルからの電気生理学的(EP)信号をEP記録システムに、該EP記録システムからのペーシング信号を前記カテーテルに伝送する伝送路に接続され、前記ペーシング信号が伝送される時間インターバルを自動的に特定するように構成された検知ユニットと、
前記伝送路上の前記EP信号を、前記ペーシング信号に悪影響を及ぼす介在システムを介して前記カテーテルから前記EP記録システムへとルーティングし、前記伝送路を、前記特定された時間インターバルにおいて前記介在システムを迂回する代替経路に切り換え、更に前記EP記録システムからの前記ペーシング信号を前記代替経路を通って前記心臓カテーテルへとルーティングするように構成された制御回路と、を備えた装置。
(2) 前記検知ユニットが、前記伝送路上を伝送されるペーシングパルスを検知することによって前記時間インターバルを特定するように構成されている、実施態様1に記載の装置。
(3) 前記伝送路上で前記ペーシング信号が検知されることに応じて前記制御回路が前記ペーシング信号を前記代替経路を通るようにルーティングし、前記伝送路上に前記ペーシング信号が存在しないことが検知されることに応じて前記制御回路が前記EP信号を前記介在システムを介してルーティングするように、前記検知ユニットが構成されている、実施態様2に記載の装置。
(4) 前記制御回路が、前記伝送路を切り換えるように前記検知ユニットによって制御された1又は2以上のスイッチを有する、実施態様1に記載の装置。
(5) 前記1又は2以上のスイッチが第1及び第2のスイッチを含み、前記検知ユニットが、前記第1のスイッチを開きかつ前記第2のスイッチを閉じることによって前記ペーシング信号を前記代替経路を通るようにルーティングし、前記第1のスイッチを閉じかつ前記第2のスイッチを開くことによって前記EP信号を前記介在システムを介してルーティングするように構成されている、実施態様4に記載の装置。
(6) 前記ペーシング信号が所定のパルス幅を有するパルスを含み、前記1又は2以上のスイッチが前記所定のパルス幅の10%を超えないスイッチング時間を有する、実施態様4に記載の装置。
(7) 前記介在システムが、前記心臓カテーテルの位置を測定する位置追跡システムを含む、実施態様1に記載の装置。
(8) 伝送路によって電気生理学的(EP)記録システムに接続された心臓カテーテルを含むシステムにおいて、前記伝送路上のEP信号を、ペーシング信号に悪影響を及ぼす介在システムを介して前記カテーテルから前記EP記録システムへとルーティングすることと、
前記ペーシング信号が伝送される時間インターバルを自動的に特定することと、
前記特定された時間インターバルにおいて前記介在システムを迂回する代替経路に前記伝送路を切り換えることと、
前記ペーシング信号を、前記EP記録システムから前記心臓カテーテルへと前記代替経路を通ってルーティングすることと、を含む方法。
(9) 前記時間インターバルを自動的に特定することが、前記伝送路上を伝送されるペーシングパルスを検知することを含む、実施態様8に記載の方法。
(10) 前記伝送路を切り換えることが、前記伝送路上で前記ペーシング信号が検知されることに応じて前記ペーシング信号を前記代替経路を通るようにルーティングし、前記伝送路上に前記ペーシング信号が存在しないことが検知されることに応じて前記EP信号を前記介在システムを介してルーティングすることを含む、実施態様9に記載の方法。
【0044】
(11) 前記伝送路を切り換えることが、1又は2以上のスイッチを作動させることを含む、実施態様8に記載の方法。
(12) 前記1又は2以上のスイッチが第1及び第2のスイッチを含み、前記スイッチを作動させることが、前記第1のスイッチを開きかつ前記第2のスイッチを閉じることによって前記ペーシング信号を前記代替経路を通るようにルーティングすることと、前記第1のスイッチを閉じかつ前記第2のスイッチを開くことによって前記EP信号を前記介在システムを介してルーティングすることとを含む、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記ペーシング信号が、所定のパルス幅を有するパルスを含み、前記1又は2以上のスイッチが前記所定のパルス幅の10%を超えないスイッチング時間を有する、実施態様11に記載の方法。
(14) 前記介在システムが、前記心臓カテーテルの位置を測定する位置追跡システムを含む、実施態様8に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓カテーテルからの電気生理学的(EP)信号をEP記録システムに、該EP記録システムからのペーシング信号を前記カテーテルに伝送する伝送路に接続され、前記ペーシング信号が伝送される時間インターバルを自動的に特定するように構成された検知ユニットと、
前記伝送路上の前記EP信号を、前記ペーシング信号に悪影響を及ぼす介在システムを介して前記カテーテルから前記EP記録システムへとルーティングし、前記伝送路を、前記特定された時間インターバルにおいて前記介在システムを迂回する代替経路に切り換え、更に前記EP記録システムからの前記ペーシング信号を前記代替経路を通って前記心臓カテーテルへとルーティングするように構成された制御回路と、を備えた装置。
【請求項2】
前記検知ユニットが、前記伝送路上を伝送されるペーシングパルスを検知することによって前記時間インターバルを特定するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記伝送路上で前記ペーシング信号が検知されることに応じて前記制御回路が前記ペーシング信号を前記代替経路を通るようにルーティングし、前記伝送路上に前記ペーシング信号が存在しないことが検知されることに応じて前記制御回路が前記EP信号を前記介在システムを介してルーティングするように、前記検知ユニットが構成されている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記制御回路が、前記伝送路を切り換えるように前記検知ユニットによって制御された1又は2以上のスイッチを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記1又は2以上のスイッチが第1及び第2のスイッチを含み、前記検知ユニットが、前記第1のスイッチを開きかつ前記第2のスイッチを閉じることによって前記ペーシング信号を前記代替経路を通るようにルーティングし、前記第1のスイッチを閉じかつ前記第2のスイッチを開くことによって前記EP信号を前記介在システムを介してルーティングするように構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記ペーシング信号が所定のパルス幅を有するパルスを含み、前記1又は2以上のスイッチが前記所定のパルス幅の10%を超えないスイッチング時間を有する、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記介在システムが、前記心臓カテーテルの位置を測定する位置追跡システムを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
伝送路によって電気生理学的(EP)記録システムに接続された心臓カテーテルを含むシステムにおいて、前記伝送路上のEP信号を、ペーシング信号に悪影響を及ぼす介在システムを介して前記カテーテルから前記EP記録システムへとルーティングすることと、
前記ペーシング信号が伝送される時間インターバルを自動的に特定することと、
前記特定された時間インターバルにおいて前記介在システムを迂回する代替経路に前記伝送路を切り換えることと、
前記ペーシング信号を、前記EP記録システムから前記心臓カテーテルへと前記代替経路を通ってルーティングすることと、を含む方法。
【請求項9】
前記時間インターバルを自動的に特定することが、前記伝送路上を伝送されるペーシングパルスを検知することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記伝送路を切り換えることが、前記伝送路上で前記ペーシング信号が検知されることに応じて前記ペーシング信号を前記代替経路を通るようにルーティングし、前記伝送路上に前記ペーシング信号が存在しないことが検知されることに応じて前記EP信号を前記介在システムを介してルーティングすることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記伝送路を切り換えることが、1又は2以上のスイッチを作動させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記1又は2以上のスイッチが第1及び第2のスイッチを含み、前記スイッチを作動させることが、前記第1のスイッチを開きかつ前記第2のスイッチを閉じることによって前記ペーシング信号を前記代替経路を通るようにルーティングすることと、前記第1のスイッチを閉じかつ前記第2のスイッチを開くことによって前記EP信号を前記介在システムを介してルーティングすることとを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ペーシング信号が、所定のパルス幅を有するパルスを含み、前記1又は2以上のスイッチが前記所定のパルス幅の10%を超えないスイッチング時間を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記介在システムが、前記心臓カテーテルの位置を測定する位置追跡システムを含む、請求項8に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−90986(P2012−90986A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−235868(P2011−235868)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(511099630)バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
【住所又は居所原語表記】4 Hatnufa Street, Yokneam 20692, Israel
【Fターム(参考)】