説明

ホタテ貝柱の製造法

【課題】 従来よりも扁平化したホタテの貝柱を良好な生産性で製造する方法を提供する。
【解決手段】
ホタテ生鮮貝を、−6℃〜−80℃の温度で冷凍し、開殻後に、扁平化した貝柱を摘出し、乾燥状態での扁平率、すなわち直径/厚さ(高さ)の比、が1.5以上に扁平化したホタテ貝柱を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常のものよりも扁平化したホタテ貝柱を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホタテの貝柱は、生食用或いは乾燥品(白干し)、冷凍貝柱(玉冷)、ボイル貝柱、ボイル冷凍貝柱として広く食用に供せられている。従来のホタテ貝柱は、生鮮貝(原貝)から貝柱を手作業で摘出した後、種々の加工が施されることがあるが、摘出した貝柱の乾燥後の直径/厚さ(高さ)の比(扁平率)は1.4未満であり、特に扁平化した貝柱を必要とするときは、これをプレスして所望の直径/厚さ(高さ)の比にすることが行われる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、原貝から摘出したホタテ貝柱を冷凍し、該冷凍ホタテ貝柱をプレスして板状に加工し、それを冷凍状態のまま、油で揚げたり、オーブンなどで焼きあげたりすることによって、パリッとした口当たりの加工食品を製造する方法が記載されている。
【特許文献1】 特開平10−276728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ホタテ貝柱をプレスすることは、貝柱に損傷を与え、品質を損なうおそれがあるばかりでなく、プレスのための設備や労力を要するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、生きたホタテの殻付き生鮮貝(以下「原貝」と略称することがある)内で貝柱を扁平化させ、開殻時に扁平化した貝柱を取得する方法について研究を重ねた結果、生鮮貝を特定の条件で冷凍(凍結)することによって、貝柱がホタテの原貝内で扁平化し、扁平化した貝柱として取得できることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
かくして、本発明によれば、ホタテ原貝を、−6℃〜−80℃の温度で冷凍したあと、開殻して、扁平化した貝柱を取り出すことを特徴とするホタテ貝柱の製造法が提供される。
【0007】
本発明では、ホタテの原貝を、冷凍に先立ち又は冷凍と同時に、原貝に機械的刺激又は電気的刺激を与えると扁平化が促進されるので、より効果的である。機械的刺激を与える手段としては、原貝に外力でなんらかの刺激を与えることが可能であればその種類を問わないが、特に、原貝を複数個容器に容れ、該容器を振とう(揺する)又は振動することにより、容器内の原貝同士をぶつかり合わせて機械的刺激を与えるのが特に効果的である。また、電気的刺激を与える手段としては、食塩水のような導電性の水溶液からなる浴中にホタテの原貝を浸漬し、この浴に通電することによって、容易に原貝に電気的刺激を与えることができる。
【0008】
冷凍は、−6℃〜−80℃、好ましくは−10℃〜−60℃、さらに好ましくは−20℃〜−50℃の温度で、1時間以上行えばよい。
【0009】
冷凍したホタテ原貝は水蒸気処理することにより開殻することができ、開殻後、貝柱を摘出すれば目的とする扁平化したホタテ貝柱が得られる。
【0010】
本発明の方法により扁平化した貝柱は、解凍後あるいは一番煮、二番煮の後扁平化しており、通常、貝柱の直径/厚さ(高さ)の比で表わされる扁平率が1.5〜4.0の範囲内になり、好ましい態様では、2.0を超える扁平率となる。そして、それを乾燥状態にしても扁平を維持し、乾燥状態で測定した扁平率も1.5〜4.0の範囲内となる。なお、ここで言う扁平率とは、ほぼ円柱状の貝柱の直径と厚さ(高さ)を実測し、その値から下記の式で求められる。この扁平率が大きいほど平べったく、見栄えが良いことを意味する。
扁平率=直径(mm)/厚さ(mm)
【発明の効果】
【0011】
本発明方法により得られるホタテ貝柱は、通常のものよりも扁平化し、平たくなっているため、外見上ひと回りもふた回りも大きく見えることで、消費者等に好印象を与え商品価値が向上する。そして、このような外見上の大きさの違いは、白干しのような乾燥工程中でも維持され、原貝が同じでも乾燥品が大きく見え、商品価値の高い白干しが得られる。
【0012】
しかも、扁平化した貝柱は、硬さも柔らかくなるため、白干し等の乾燥品の場合、口に入れた段階で崩れやすくなるので食べやすくなる。この硬さの変化は、身割れや褐変など、白干しの品質には影響しない。また、貝柱中の筋繊維が変化しているので、保水性が増すことが予想され、味の染みこみ易いものとなる。
【0013】
また、扁平化した冷凍貝柱を生食に供するときには、通常の冷凍貝柱(玉冷)に比べて歯ごたえが優れるという効果も奏する。
さらに、本発明方法ではプレスなどの機械的な加工を施す工程が無いので、製品の損傷が少なくまた生産コスト上も有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で使用するホタテ原貝は、水揚げして間もない殻付きの生鮮貝(生きたままの貝)を使用する。その産地や大きさなどは問わない。生鮮貝は、必要に応じて、水洗し、表面に付着した汚れを除去した後、生鮮貝のまま次の冷凍工程に供する。
従来、ホタテの冷凍貝柱(一般に「玉冷」とよばれる)は、人手により原貝を生きたまま治具等を使って脱殻し、ウロを外し、貝柱を摘出した後、凍結されており、従来は原貝を殻ごと直接冷凍することは全く行われていない。しかるに、本発明では、原貝を殻ごと直接冷凍することが重要であり、従来のように製造された「玉冷」には一般に貝柱の扁平化現象は認められない。
【0015】
したがって、本発明では、ホタテ原貝を生きている状態で冷凍に供することが必要で、かつ、冷凍温度は、いずれの場合も、−6℃〜−80℃、好ましくは−10℃〜−60℃、さらに好ましくは−25℃〜−50℃とする。冷凍保持時間は、原貝を上記の温度に1時間以上保持すれば十分であり、それ以上であれば長期間の冷凍に及んでも差し支えない。冷凍温度がこの範囲外であると貝柱の有意な扁平化は生じ難い。このような特定温度で冷凍する場合に限り、貝柱の扁平化が生じる理由は未だ解明されていないが、ホタテが生きている間に冷凍されることで冷気刺激により貝柱が筋収縮した状態で凍結するものと推察される。
【0016】
冷凍は、緩慢冷凍でも急速冷凍でもよいが、一般に緩慢冷凍の方が確実に扁平化が生じるため、より好適である。また、冷凍時の貝の収納はどの様な状態でもよいが、縦置きにすると水切りがなされ、貝柱の扁平化も生じやすく、さらに好ましい。
【0017】
原貝をそのまま冷凍するときは、貝の口が下になるように、冷凍庫内に縦に並べるのが好ましい。このような縦置きすることにより、通常のように横置きする場合に比べて、扁平率が大きな貝柱が得られる。
【0018】
また、ホタテの原貝を上記の温度で冷凍する際、冷凍直前又は冷凍と同時に、機械的刺激又は電気的刺激を与えて冷凍し、冷凍後に開殻して貝柱を取り出す方法を採用すると、より扁平率の大きな貝柱が得られるので効果的である。
【0019】
機械的刺激を与える場合、冷凍庫内に振とう又は振動付与装置を配置し、原貝を冷凍しながら刺激を与えることも出来、刺激を与えた直後に冷凍を行うこともできる。原貝を上記装置に備える容器内に固定して振とう又は振動することも可能であるが、原貝を複数個容器に容れ、容器を激しく揺すって振とう又は振動させることにより、該原貝同士がぶつかり合って互いに機械的刺激を与えるようにするのがより効果的である。
この際の振とう又は振動の条件は、該原貝の大きさにもよるが、通常、振幅10〜40mm、振動数50〜230回/min、振動付与時間5分〜1時間が適当である。
【0020】
機械的振動に代えて、ホタテの原貝を、殻付きの状態で電気的刺激を与え、その直後に−6℃〜−80℃の温度で冷凍し、開殻後に、貝柱を取り出すことも有効である。この場合、ホタテ原貝に電気的刺激を与える手段として、食塩水のような導電性の水溶液からなる浴中にホタテの原貝を浸漬し、この浴に通電することによって、容易に電気的刺激を与えることができる。具体的には、たとえば濃度1〜5重量%の食塩水中で、10分〜3時間、1〜100Vの電気を流し続けることによって電気的刺激を与え、扁平化を促進させることができる。
【0021】
いずれの場合も、冷凍温度は−6℃〜−80℃、好ましくは−10℃〜−60℃、さらに好ましくは−25℃〜−50℃とし、冷凍保持時間は、原貝を上記の温度に1時間以上保持すれば十分であり、それ以上であれば長期間の冷凍に及んでも差し支えない。
【0022】
冷凍終了後、開殻して貝の身(軟体部分)を取り出し、かくして得られた軟体部分からウロ(腸腺や外套膜など)を除去し、扁平化した貝柱を得る。
冷凍貝の開殻操作は、水煮でも、水蒸気処理でも可能であり、いずれの開殻操作でも、扁平化した貝柱が得られる。水蒸気処理に使用する水蒸気の種類としては、常圧又は加圧の飽和水蒸気、常圧又は加圧の過熱水蒸気などが使用される。この際、特願2005−130341号で提案したように、加圧飽和水蒸気又は加圧過熱水蒸気を使用すると30秒〜3分以内で開殻と脱殻を同時に行うことが出来る。特に、温度120℃〜250℃で圧力1.5気圧以上、特に2〜5気圧、の加圧過熱水蒸気を使用すると、開殻と同時に貝殻からホタテの身(軟体部分)がきれいに分離するので特に好適である。このような加圧過熱水蒸気による処理では、小柱まで100%きっちり外れ、開殻・脱殻までが一挙に行われるため、脱殻のための人手や大がかりな装置となる振動式脱殻機が不要となる。
【0023】
冷凍貝の場合は、水蒸気処理によって開殻し貝柱を摘出した段階でも、貝柱の大部分が冷凍状態のままであるので、そのまま保管、輸送を行うことも出来る。したがって、必要時にこれを解凍して生食用に使用してもよく、乾燥して白干し等の加工食品としてもよい。
本発明方法によれば、摘出したホタテ貝柱の直径/厚さ(高さ)の比で表される扁平率は、未乾燥状態で1.5〜3.0であり、乾燥状態でも同様に1.5〜3.0である。これは従来の方法により生産された乾燥貝柱に比べて有意に扁平化していることも意味する。なお、ここで言う乾燥状態の扁平率とは、貝柱の水分率を25(重量)%以下、好ましくは16(重量)%以下に低下させて測定した値を言う。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明方法の実施例及び比較例を詳述する。ただし、本発明はこれらの実施例によってその範囲が限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
(冷凍工程)
試料の北海道産のホタテ原貝(生きたままの殻付き生鮮貝)を、洗浄後、急速凍結及び緩慢凍結を行った。急速凍結装置にはバッチフリーザー(HB−710LN:ジャパンサーモティック社製)を使用し、液体窒素にて−100℃の設定温度で実施し、貝柱中心の品温が所定の温度に達するまで冷凍した。緩慢凍結は前述の温度に設定された冷凍機に静置した。これらの冷凍に際し、貝を水平に静置したもの(通常)と、縦にして置いたもの(縦置)とを比較した。また、緩慢凍結では長期に保存した貝についても検討した。
品温の計測は、データロガーサーモダックE(ETO DENKI社製)の熱電対を生きた貝柱の中心に差し込み、1分間隔でサンプリングし温度をモニターした。
【0026】
(開殻・脱殻工程)
上述のように冷凍したホタテ原貝を、水煮・飽和水蒸気・過熱水蒸気・飽和加圧水蒸気・加圧過熱水蒸気などにより加熱し、貝を開殻させ、調理器具等を使用し脱殻させた。
(解凍工程)
脱殻した貝の身を、流水・温水・温塩水に5分間程度浸漬するか、もしくは20分間以上室温に放置し、解凍を行った。半解凍あるいは解凍した状態で、中腸腺・外套膜などを取り除き、洗浄した後、貝柱を得た。
(乾燥工程)
貝柱を90℃以上の塩水(7〜10%食塩水)にて10〜20分煮熟・水切り後、120〜180℃の過熱水蒸気にて2〜5分間加熱し、加熱後、室温又は冷蔵庫(5〜10℃)で減圧又は常圧放冷し、その後室温であん蒸した。加熱とあん蒸を1日1回ないし2回繰り返し、貝柱の水分が16%以下になるまで実施し、乾燥貝柱(白干し)を得た。
【0027】
(扁平率の測定)
乾燥前の貝柱及び乾燥貝柱について、それぞれ直径と厚さとを計測し、
(直径mm/厚さmm)=扁平率
として算出した。その結果を表1に示す。
なお、この数値が高いほど、厚さに対する直径が大きい、すなわち扁平化している様相を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
次に、凍結方法による扁平率への影響を調べるため、下記の各条件で生鮮貝の冷凍を行った。その結果を次の表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
以上のようにして製造したホタテ貝柱の食品としての評価の一環として、冷凍温度を変えて緩慢冷凍した試料及び冷凍なしの試料について、白干し品にする過程における二番煮貝柱の物性(インストロンによる破断試験)比較を行った。その結果を、次の表3に示す。−40℃冷凍品は、二番煮後に、歯切れがよく食べ易くなっていることが判る。
【0032】
【表3】

【0033】
表3に示すように、−40℃冷凍品は、冷凍せずに二番煮したものに比べ、歯切れが良く食べ易くなっていることが判る。
また、別のホタテ原貝について、同様の実験を行い白干し製品の評価を行った。その結果は次の表4に示すとおり、本発明方法により扁平化した貝柱からの白干し製品は、従来の「玉冷」や冷凍せずに白干し製品にしたものに比べ、やわらかく食べ易くなっていることが判った。なお、この例における凍結法も緩慢冷凍である。
【0034】
【表4】

【0035】
以上の各種実験により、ホタテの原貝を特定の温度で冷凍したものは、貝柱の扁平化が生じ、食味も改善されることが確認された。
【実施例2】
【0036】
ホタテの原貝に機械的振動を与えた後に冷凍する実験を行った。
試料として北海道産のホタテ原貝を使用し、下記試験区A、Bでは、原貝を金網製の容器に入れて、容器内に固定し、以下の条件で容器を振とう(振動)させた(本発明では「固定振とう」という)後、下記条件で冷凍を行った。一方、下記試験区C、Dでは、原貝をそのまま下記条件で冷凍した。
振とうスピード:130回/min
振とう時間:1時間
冷凍条件:−30℃緩慢冷凍
試験区 A:固定振とうタテ(容器内に原貝3枚を縦に並べて固定)
B:固定振とうヨコ(容器内に原貝3枚を横に並べて固定)
C:冷凍タテ(振とうせずに原貝2枚をそのまま冷凍庫で縦置き)
D:冷凍ヨコ(振とうせずに2枚原貝をそのまま冷凍庫で横置き)
操作:各試験区とも冷凍処理後、貝柱を摘出し、一番煮を100℃の水煮(無添加)を約2分行い、その後、濃度7重量%の食塩水で5分間二番煮を行った。それぞれの段階で貝柱の直径と厚さを測定し、扁平率を求めた。その結果を次の表5に示す。
【0037】
【表5】

【実施例3】
【0038】
本実施例では、西網走産の生きた状態の殻付きホタテ原貝を用い、原貝に機械的振動を与える際、殻付き原貝4枚を金網製の容器に、各貝が容器内で多少動き得るように収納し、振とうにより貝殻同士がガチャガチャと音を立ててぶつかり合うようにして、振とうスピード:230回/min、振とう時間1時間の条件で、該容器ごと振とうさせながら、下記の条件で冷凍を行った(以下、この振とう方法を「可動振とう」という)。また、殻付き原貝3枚を振とうせずにそのまま冷凍庫で横置きし、同一の条件で冷凍した。
冷凍後、下記の条件で、一番煮、二番煮を行い、それぞれの段階で貝柱の直径と厚さを測定し、扁平率を求めた。その結果を表6に示す。
冷凍条件:−30℃緩慢冷凍、1時間
一番煮条件:水煮100℃で2分間、一番煮後に治具を用いて貝柱を摘出
二番煮条件:7%食塩水で100℃5分間
【0039】
【表6】

【0040】
表6に示すように、可動振とうを行って冷凍した場合は、ホタテ原貝4連中すべてのホタテ貝で扁平率2を超える扁平化を起こしていた。また、一番煮後と二番煮後の扁平率を比較してみると、どの試験区でも二番煮後で扁平率が上昇している。煮熟による扁平化の緩和は起こらなかった。因みに二番煮温度は目算で80〜90℃である。
実施例2で行った、貝を固定した振とう実験ではタテに固定した場合は、二番煮後の扁平率2.03であったのに対し、本実施例の可動振とうでは扁平率2.36と、より効果的な結果が得られた。これらのことから、貝殻同士を振とうさせぶつけ合うという刺激は、貝柱を扁平化させる点で非常に有効な手段と言える。
【実施例4】
【0041】
本実施例では扁平化した冷凍貝柱の水煮による影響を調べた。
試料として、西網走産の生きた状態の殻付きホタテ原貝を入手し、下記1)2)3)の試験区で各5枚のホタテ貝を使用して、実験を行った。
1)生貝(コントロール)
試料のホタテ原貝を未処理のまま、一番煮、二番煮を行い、各段階での貝柱の直径と厚さをノギスで測定し、扁平率を求めた。
2)可動振とう
試料のホタテ原貝5枚を、金属製の籠に、籠内で原貝の若干の移動が可能な世に時に原貝同士がガチャガチャとぶつかり合うように入れ、振とう機を使用し、振とうスピード:230回/min・振とう時間:1時間の条件で振とうしながら冷凍させた。冷凍後、それを一番煮、二番煮を行い、各段階での貝柱の直径と厚さをノギスで測定し、扁平率を求めた。
3)冷凍タテ
生きたホタテ原貝の口を下にし、冷凍庫内に貝殻を縦に置いた状態で冷凍した。それを一番煮、二番煮を行い、各段階での貝柱の直径と厚さをノギスで測定し、扁平率を求めた。
なお、各試験区の冷凍条件及び一番煮、二番煮の条件は以下のとおりである。
【0042】
冷凍条件:冷凍貝および玉冷の冷凍はオホーツクキャンパス食品加工技術センターの−30度の冷凍庫で1時間以上冷凍した。また冷凍方法は緩慢冷凍である。
一番煮条件:加熱開殻を目的とし、約80℃の温水(水道水のみ)で生鮮貝は2分間、冷凍貝は3分間一番煮を行った。
二番煮条件:貝柱の味付けを目的とし、一番煮後のホタテから貝柱を摘出後、食塩濃度7重量%の約80℃の食塩水で5分間二番煮を行った。
各段階での貝柱の直径と厚さをノギスで測定し、扁平率を求めた。その結果を表7に示す。なお、表7のデータは試料とした5枚の平均値である。
【0043】
【表7】

【0044】
本実施例で使った原貝は、比較的大きめで活きも良かった。本発明者らがこれまでに生鮮貝でそのまま一番煮を行った後の扁平率は1.3〜1.4程度であったが、本実施例では生鮮貝の一番煮後で扁平率平均1.87と比較的平たくなった。その原因としては、漁期の違いと活きのよさの違いが考えられる。ホタテの貝柱に外的な刺激が加わることで強制的な筋収縮がおこり扁平化すると考えられるが、一番煮時の熱もその刺激になると推測することができ、本実施例では原貝の活きがかなり良かったので一番煮により扁平化しやすかったと考えられる。
可動振とうの試験区は原貝を金属製の籠中でガチャガチャと貝同士をぶつけ合う刺激によって貝柱の扁平化が促進され、一番煮後で扁平率2.16と著しく扁平化した。ただし、二番煮によって一部の試料が一番煮後にくらべ若干扁平化が緩和する(一番煮後に比べて貝柱が厚くなること)現象が見られた。この緩和の原因はホタテ貝柱の解凍にあるとも考えられる。冷凍貝を一番煮してもほとんどの場合、半解凍の状態で脱殻され、二番煮の段階で完全解凍されることになる。このため、二番煮で急速に解凍することが扁平化の緩和の原因と考えられる。味をしみこみやすくするためにも、マイルドな条件で二番煮を行うなどの工夫が望ましい。
他方の試験区のように、冷凍時に原貝を縦に置いて静置冷凍した場合でも効果的な扁平化が起こるが、二番煮後に扁平化の緩和が起き易い傾向が認められた。
【実施例5】
【0045】
上述の実施例4では、扁平冷凍貝の水煮による扁平率の変化について検討した。その結果、一番煮後に比べ二番煮後の方が扁平率の上昇が多く見られた(扁平率が高いほど貝柱は平べったくなる)。このときの二番煮条件は約80℃で5分間でしか行っていないので、二番煮の影響をより解明するために、二番煮温度と時間を変えて、下記A、Bに試験区で実験した。
【0046】
試料:西網走産の生きた状態の殻付きホタテ貝各3枚を使用
A)冷凍貝
活きた状態の殻付きホタテ原貝を殻付きのまま−30℃の冷凍庫に横置きで1時間半冷凍。その後、一番煮、二番煮を行い、各段階での貝柱の直径と厚さをノギスで測定し、扁平率を求めた。
B)可動振とう冷凍貝:
活きた状態の殻付きホタテ原貝をそのまま金属籠に入れ、振とう機を使用し、230回/minでガチャガチャと可動振とうしながら−30℃の冷凍庫で1時間半冷凍した。それを一番煮、二番煮を行い、各段階での貝柱の直径と厚さをノギスで測定し、扁平率を求めた。
【0047】
冷凍条件:冷凍貝および玉冷の冷凍はオホーツクキャンパス食品加工技術センターの一30度の冷凍庫で1時間半冷凍した。また緩慢冷凍である。
一番煮条件:加熱開殻を目的とし、約80度のお湯(水道水のみ)で生鮮貝は2分、冷凍貝は3分で一番煮を行った。
二番煮条件:貝柱の味付けを目的とし、各温度と時間で二番煮を行った(7%食塩水)。
60℃30分:各試験区5連
100℃5分:各試験区5連
100℃10分:各試験区5連
100℃15分:各試験区4連
100℃20分:各試験区4連
それらの結果を以下の表8に示す。
【0048】
【表8】

【実施例6】
【0049】
ホタテ原貝に電気的刺激を与える手段として、食塩水中に複数の原貝を浸し、該食塩水に電気を流して、一気に電気的刺激を与える実験を、以下の手順で行った。
1)新鮮な殻付きホタテ原貝を5枚使い、室温の3%食塩水中で1時間10Vの電気を流し続けた。
2)貝から貝柱を摘出し、その径と厚さを測定し扁平率を求めた。
3)電気を流した後の貝柱を、1つ(試料1)はさらに電極を刺し10Vで1時間電気を流した後、−40℃の冷凍庫で1時間凍結させ、他の4つ(試料2〜5)はそのまま−40℃の冷凍庫で1時間凍結させた。
4)各試料について、1時間冷凍後、径と厚さを測定し扁平率を求めた。
5)次いで、二番煮(7%食塩水、90℃)を5分間行い、その直後の径と厚さを測定し扁平率を求めた。
(なお、本実施例では、原貝の開殻及び貝柱の摘出は治具を用いた手作業で行っているため、一番煮の工程は存在しない。)
【0050】
【表9】

【実施例7】
【0051】
本発明により可動振とうの直後に冷凍して扁平化したホタテ貝柱と脱殻貝柱をそのまま冷凍した玉冷とを、それぞれ解凍した、生食用の各試料について、計7名(男4、女3)の官能検査経験者をパネラーとして食味及び食感を評価した。
【0052】
試料:
1)振とう扁平:機械的に振とうした直後に冷凍したものを解凍
2)コントロール:脱殻貝柱をそのまま冷凍したもの(一般の玉冷に相当)を解凍
その結果は、表10に示すとおりであった。
【0053】
【表10】

【0054】
振とう扁平は、コントロールに比べ明らかに歯ごたえが良くなり、生鮮貝に近づいたものであった。味については、各試料と生鮮貝柱との間に差は見られなかった。
【0055】
以上の結果から、玉冷の一つの欠点として、生鮮貝柱に比べ、冷凍により解凍後の貝柱の歯ごたえが低下する点にあるが、電気刺激による扁平貝柱では、通常の玉冷に比べて歯ごたえが良く、未冷凍の生鮮貝により近い歯ごたえを提供することがわかった。すなわち、本発明の方法によれば、冷凍品を生食に供するときの、冷凍による歯ごたえの低下を改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテの生鮮貝を、殻付きのままで、−6℃〜−80℃の温度で冷凍し、開殻後に、貝柱を取り出すことを特徴とする扁平化したホタテ貝柱の製造法。
【請求項2】
ホタテの生鮮貝を、殻付きのままで、機械的刺激を与えつつ又は機械的刺激を与えた直後に、−6℃〜−80℃の温度で冷凍し、開殻後に、貝柱を取り出すことを特徴とする請求項1に記載の扁平化したホタテ貝柱の製造法。
【請求項3】
ホタテの生鮮貝に機械的刺激を与えるに際し、生鮮貝を容器に入れ、該容器を振とう又は振動させることにより、生鮮貝に機械的刺激を与えることを特徴とする請求項2に記載の扁平化したホタテ貝柱の製造法。
【請求項4】
ホタテの生鮮貝に機械的刺激を与えるに際し、生鮮貝を複数個容器に入れ、該容器を振とう又は振動させることにより、容器内の生鮮貝同士がぶつかり合い機械的刺激を与えることを特徴とする請求項3に記載の扁平化したホタテ貝柱の製造法。
【請求項5】
ホタテの生鮮貝を、殻付きのままで、電気的刺激を与え、その直後に−6℃〜−80℃の温度で冷凍し、開殻後に、貝柱を取り出すことを特徴とする請求項1に記載の扁平化したホタテ貝柱の製造法。

【公開番号】特開2006−304771(P2006−304771A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381015(P2005−381015)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(598096991)学校法人東京農業大学 (85)
【Fターム(参考)】