説明

ホットプレス用モールド

【課題】焼結後の冷却時における割れの発生を防止することができる酸化物スパッタリングターゲットの製造に用いるホットプレス用モールドを提供する。
【解決手段】ホットプレス用モールド1は、複数の円弧板状セグメント16を周方向に並べて垂直方向に沿う筒状に形成されたスリーブ11と、スリーブ11の外側に配置され、スリーブ11を筒状に保持する外枠13とを有しており、スリーブ11の外周面16bは、上方に向けて拡径する斜面に設けられ、外枠13の内周面13aは、スリーブ11の外周面15bの傾斜角度に沿った斜面に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体の誘電体層や界面層などを成膜するための酸化物スパッタリングターゲットの製造に用いるホットプレス用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
相変化型情報記録媒体の光ディスクを構成する誘電体層や界面層などとして、(ZrO(Cr100−M(mol%)(式中、20≦M≦80)の酸化膜や、(ZrO(Cr(SiO100−K−L(mol%)(式中、20≦K≦70、20≦L≦60、60≦K+L≦90)の酸化膜が用いられている。この酸化膜は、酸化物焼結体のスパッタリングターゲットをスパッタリングすることによって成膜されている(例えば、特許文献1参照)。
また、酸化物焼結体のスパッタリングターゲットを製造する方法としては、上記特許文献1には具体的に記載されていないが、従来、公知な大気焼結や真空ホットプレス等を用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−323743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記組成のスパッタリングターゲットを製造する場合、従来の大気焼結を採用すると、有害な六価クロムが生成されるおそれがあるため好ましくなく、一方、従来の真空ホットプレスを採用すると、六価クロムの生成を回避できるものの、焼結後の冷却時にZrOが正方晶から単斜晶へ相変態するため焼結体が膨張し、スパッタリングターゲットに割れが発生するおそれがある。特に、高密度のスパッタリングターゲットを得るために真空ホットプレスを行った場合や、大型のスパッタリングターゲットを得ようとした場合に、焼結後の冷却時に割れの発生が顕著になる不都合があった。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、焼結後の冷却時における割れの発生を防止することができる酸化物スパッタリングターゲットの製造に用いるホットプレス用モールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属酸化物粉を含む原料粉末を投入し、パンチで垂直方向に押圧しながら焼結させる酸化物スパッタリングターゲットの製造に用いるホットプレス用モールドであって、複数の円弧板状セグメントを周方向に並べて垂直方向に沿う筒状に形成されたスリーブと、前記スリーブの外側に配置され、該スリーブを筒状に保持する外枠とを有しており、前記スリーブの外周面は、上方に向けて拡径する斜面に設けられ、前記外枠の内周面は、前記スリーブの外周面の傾斜角度に沿った斜面に設けられていることを特徴とする。
【0007】
上記のように、複数の円弧板状セグメントを並べて設けられるとともに外周面が斜面に設けられたスリーブは、焼結時においては、内側の酸化物スパッタリングターゲットとなる焼結体に対して外周面からの圧力(側圧)を確保して焼結体の密度を高めることができる。焼結後の冷却時においては、パンチの圧力が解放されると焼結体の膨張にしたがって、各円弧板状セグメントがスリーブの外周面に沿って、スリーブを拡径するように移動することにより、焼結体に対する圧縮応力が低減され、割れの発生を防止することができる。
【0008】
本発明のホットプレス用モールドにおいて、前記スリーブの外周面は、垂直方向に対して10°以上45°以下の斜面に設けられているとよい。
スリーブの外周面の傾斜角度が10°未満であると、焼結体の膨張に対する傾斜に沿う方向の分力が小さくなり、スリーブを拡径移動させることが難しい。また、傾斜角度を45°より大きくすると、スリーブの拡径移動が容易になりすぎ、パンチから焼結体に十分な圧力をかける前にスリーブの拡径移動が起こるため、十分なプレス圧をかけることができない。また、スリーブが大型化されることからホットプレス装置炉内の容積を大きくする必要が生じる。さらに、スリーブやモールドの重量が増し、ハンドリングが難しくなることも懸念される。
【0009】
本発明のホットプレス用モールドにおいて、前記スリーブの各円弧板状セグメントの底面を下方から押圧することにより、該円弧板状セグメントの移動を補助する移動補助手段が設けられているとよい。
移動補助手段は、例えば、エアー圧等の流体圧を用いて円弧板状セグメントを押圧する構成とすることができ、冷却時の各円弧状セグメントの上方への移動を流体圧等によって補助して、確実に割れの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼結後の冷却時に焼結体が膨張しても、スリーブが拡径移動することにより焼結体に圧縮応力を与えることなく冷却できるので、割れの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る酸化物スパッタリングターゲットの製造に用いるホットプレス用モールドを示す断面図であり、(a)は焼結時、(b)は冷却時の状態を示す。
【図2】図1に示すホットプレス用モールドの正面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る酸化物スパッタリングターゲットの製造に用いるホットプレス用モールドの一実施形態について説明する。
本実施形態のホットプレス用モールド1は、図1に示すように、筒状のスリーブ11内に金属酸化物粉を含む原料粉末20を投入し、パンチ15で垂直方向に押圧(一軸加圧)しながら焼結させることにより、焼結体を製造するものであり、直径80mmを超える円盤状の焼結体の製造に好適に用いることができる。
【0013】
ホットプレス用モールド1は、図1及び図2に示すように、筒状のスリーブ11と、スリーブ11内の下部に設置されるスペーサ12と、スリーブ11の外側に配置され、スリーブ11を保持する外枠13と、スリーブ11の底面を支えるベースプレート14と、スペーサ12との間に原料粉末20を挟んで押圧するパンチ15とで形成される。これらスリーブ11、スペーサ12、外枠13、ベースプレート14およびパンチ15は、1000℃以上の高温領域においても十分な機械強度を有する耐熱材料からなり、例えば、カーボングラファイトにより形成されている。
【0014】
スリーブ11は複数の円弧板状セグメント16を周方向に並べて、垂直方向に沿う筒状に形成されており、本実施形態のホットプレス用モールド1においては、スリーブ11は4個の円弧板状セグメント16により構成されている(図2参照)。また、スリーブ11の内周面16aは、作成する焼結体の大きさに合わせて直径80mmを超える大きさに設けられている。スリーブ11(円弧板状セグメント16)の外周面16bは、上方に向けて拡径するように、垂直方向に対して10°以上45°以下の斜面に設けられている。
スリーブ11の外側に配置される外枠13は、スリーブ11の円弧板状セグメント16を筒状に保持する。外枠13の内周面13aは、スリーブ11の外周面16bの傾斜角度に沿った斜面に設けられている。
【0015】
また、ベースプレート14には、スリーブ11の各円弧板状セグメント16の底面を下方から押圧することにより、円弧板状セグメント16の上方への移動を補助する移動補助手段30が設けられている。この移動補助手段30は、エアー圧を用いて各円弧板状セグメント16を押圧する構成とされており、ベースプレート14内に設けたエアー通路31と、各円弧板状セグメント16の底面下方位置に設置した上方スライドリング32と、上方スライドリング32の上方への移動を規制するストッパ33とで構成されている。エアー通路31に加圧用ガスを送ることで、上方スライドリング32とともに各円弧板状セグメント16を上方に押し出し、各円弧板状セグメント16を解放状態にすることができる。
なお、エアー通路31は、導入通路31Aと、上方スライドリング32の下方に形成されるリング状通路31Bとを連結して形成される。
【0016】
次に、上記のホットプレス用モールド1を用いて、金属酸化物粉を含む原料粉末から酸化物スパッタリングターゲットを製造する方法について説明する。
本実施形態においては、金属酸化物粉を含む原料粉末20として、ZrO粉とCr粉(またはZrO粉、Cr粉およびSiO粉)とを含む粉末を混合した原料粉末20を用いる。
原料粉末20は、ZrO粉、Cr粉およびSiO粉を、所定の比率になるように秤量し、これらの混合粉末とほぼ同重量のジルコニアボールをポリエチレン製ボールミル用ポットに入れ、ボールミル装置にて所定時間、湿式混合して得られるものである。この際の溶媒には、例えばアルコールを用いる。乾燥後、例えば目開き500μmの篩にかけて整粒する。
この原料粉末20をスリーブ11内に投入し、真空容器内でパンチ15により垂直方向に所定圧力(10〜40MPa)をかけて加圧した状態で、所定時間(3h)、1200℃以上に加熱することにより、原料粉末20を焼結させる(ホットプレス)。また、加熱は、ホットプレス用モールド1の周囲に設置された加熱用のヒーター(不図示)により行われる。
そして、焼結後に、プレス圧力を解放した状態で冷却することにより、焼結体が製造される。
【0017】
焼結体の焼結時においては、スリーブ11を構成する複数の円弧板状セグメント16は、その外周面16bを外枠13で保持されており、焼結体に対して外周面16bからの圧力(側圧)を確保して、焼結体の密度を高めることができる。また、焼結後の冷却時においては、パンチ15の圧力が解放されると焼結体が冷却に伴って膨張するが、その焼結体の膨張にしたがって、各円弧板状セグメント16が外周面16bに沿って、スリーブ11を拡径するように移動することにより、焼結体に対する圧縮応力が低減される。これにより、焼結体に割れが発生することを防止することができる。
なお、スリーブ11(円弧板状セグメント16)の外周面16bの傾斜角度が10°未満であると、焼結体の膨張に対する傾斜に沿う方向の分力が小さくなり、スリーブ11を拡径移動させることが難しい。また、傾斜角度を45°より大きくすると、スリーブ11の拡径移動が容易になりすぎ、パンチ15から焼結体に十分な圧力をかける前にスリーブ11の拡径移動がおこるため、十分なプレス圧をかけることができなくなる。
【0018】
また、本実施形態においては、ベースプレート14に移動補助手段30が設けられており、焼結後の冷却時に、エアー通路31に加圧用ガスを送ることで、上方スライドリング32とともに各円弧板状セグメント16を上方に押し出して、円弧板状セグメント16の上方への移動を補助することができるので、確実に割れの発生を防止することができる。
【0019】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態においては、一層の原料粉末の層を焼結して酸化物スパッタリングターゲットとなる焼結体を得ていたが、原料粉末の層の間にスペーサを介して積層することにより、焼結体同士が接合することもなく、一度のホットプレスよって複数の焼結体を製造することができる。
また、上記実施形態においては、ホットプレス用モールドに原料粉末を投入して成形と焼結とを同時に行ったが、ホットプレスを行う前に原料粉末を予備成形しておき、その予備成形した圧粉体を用いて焼結体を製造してもよい。
また、図示例では、スペーサ12は、上端部がスリーブ11内に配置されているが、スリーブ11の下面に接する配置としてもよい。
また、エアー通路31は、導入通路31Aとリング状通路31Bとで形成したが、円弧板状セグメント16毎に、外部からエアーを供給するエアー通路を設けてもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 ホットプレス用モールド
11 スリーブ
12 スペーサ
13 外枠
13a 内周面
14 ベースプレート
15 パンチ
16 円弧板状セグメント
16a 内周面
16b 外周面
20 原料粉末
30 移動補助手段
31 エアー通路
31A 導入通路
31B リング状通路
32 上方スライドリング
33 ストッパ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粉を含む原料粉末を投入し、パンチで垂直方向に押圧しながら焼結させる酸化物スパッタリングターゲットの製造に用いるホットプレス用モールドであって、複数の円弧板状セグメントを周方向に並べて垂直方向に沿う筒状に形成されたスリーブと、前記スリーブの外側に配置され、該スリーブを筒状に保持する外枠とを有しており、前記スリーブの外周面は、上方に向けて拡径する斜面に設けられ、前記外枠の内周面は、前記スリーブの外周面の傾斜角度に沿った斜面に設けられていることを特徴とするホットプレス用モールド。
【請求項2】
前記スリーブの外周面は、垂直方向に対して10°以上45°以下の斜面に設けられていることを特徴とする請求項1記載のホットプレス用モールド。
【請求項3】
前記スリーブの各円弧板状セグメントの底面を下方から押圧することにより、該円弧板状セグメントの移動を補助する移動補助手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のホットプレス用モールド。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−49883(P2013−49883A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187659(P2011−187659)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】