説明

ホモ乳酸的好熱性バチルスの遺伝子改変

本発明は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の工業的な適用の為の遺伝子改変に関する。本発明は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種を遺伝子操作により改変する方法であって:pSH71レプリコンまたはその相同体を含有する熱感受性プラスミド系中にクローン化されたDNAを、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の細胞中へ導入すること;選択培地上で、プラスミド複製にとって許容可能な温度で該細胞を培養して、該選択培地上で該許容可能な温度で成長することができる形質転換された細胞を選ぶこと;選択培地上で、プラスミド複製にとって許容可能でない温度で該形質転換された細胞を培養して、該選択培地上で該許容可能でない温度で成長することができる形質転換された細胞を選ぶことを含む前記方法を含む。本発明に従う方法は、R−乳酸の生産、乳酸以外の他の有機酸、アルコール、酵素、アミノ酸及びビタミンの生産の為にバチルスを改変する為に用いられうる。特に、本発明は、該バチルス種が、R−ラクテートデヒドロゲナーゼをコードするDNA配列を含むDNA構築物により、S−ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を置換することにより改変される方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の産業上の利用の為の遺伝子改変に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸及び、ラクテートとして知られるその塩は、医薬、生分解性ポリマー及び食品加工を含む種々の分野において有用である、商業的に実行可能な製品である。通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種は、乳酸の工業的な製造にとって理想的な生物である。それらは、30〜65℃の温度で成長することができ、かつ、50℃超の温度で嫌気的な工業的発酵を許す。この高温は、工業的スケールの際の発酵のときにいくつかの利点を有する:感染のより少ないリスク及び従ってより高い鏡像異性体純度、より速い反応等。ホモ乳酸的な性質は、ギ酸及び酢酸のような15重量%超の副産物の形成無く、炭化水素源(六炭糖及び五炭糖を含む;国際公開第04/063382号パンフレットを参照されたい)からの乳酸の生産を許す。バチルスの通性嫌気性の性質は、嫌気的条件下又は少なくともの酸素の低分圧下における発酵を許し、これは比較的高価でない装置及び処理を許す故に工業的スケールにとって望ましい。さらに、これらバクテリアの栄養要求は、ラクトバチルス種のような乳酸バクテリアのそれらよりも要求が厳しくなく、これも比較的高価でない工業的プロセスを許す。通性嫌気性且つホモ乳酸的である既知の中等度好熱性バチルスの1つの利点は、それらがR−ラクテートを生産しない又は実質的に生産しないことである。生分解性乳酸ポリマーの成功的な適用は、高価でないS−乳酸と高価でないR−乳酸の両方の利用可能性に依存するであろう故に、両方の鏡像異性体の良い費用効率の生産が要求される。現在知られているR−ラクテートを生産するバクテリアは、中等温度好性(例えばバチルス ラエボラクティクス)であるか又は要求の厳しい栄養要求を有し(例えばラクトバチルス デルブリッキー)、これはR−ラクテートの製造を、S−ラクテートの製造よりもはるかに高価にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の1つの目的は、通性嫌気性であり且つR−乳酸をホモ乳酸発酵により生産する中等度好熱性バチルス株を利用することである。本発明の他の目的は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である、遺伝子操作された中等度好熱性バチルスを製造する方法を利用することである。
【0004】
バチルス属は、200を超える異なる種を含む(Sneath, P.H.A., 1986: Endospore-forming Gram-positive rods and cocci. in Bergey's manual of systematic bacteriology. Vol 2. Sneath, P.H.A., Mair, N.S., Sharpe, M.E., Holt, J.G.(eds)Williams & Wilkins, Baltimore、を参照されたい)。これらの少しの部分だけが、遺伝子的に利用できると知られている。例えば、プロトプラスト形質転換は、多数の種々のバチルス種に機能するが、コンピテント細胞の形質転換は一般に、厳密に好気性かつ中等温度好性のバチルス ズブチリス 168の細胞について満足に働くことが示されているだけである。工業的な株は、バチルス リケニホルミスから知られるとおり、遺伝子の改変にしばしばより耐性である。この通性嫌気性の中等度好熱性バチルス種は、酵素の工業的生産のために用いられる。しかしながら、そのヘテロ乳酸的性質の故に、乳酸の生産の為に用いられ得ない(Bulthuis, B.A., C.Rommens, G.M.Koningstein, A.H.Stouthamer, H.W.van Verseveld, 1991;Formation of fermentation products and extracellular protease during anaerobic growth of Bacillus licheniformis in chemostat and batch-culture、Antonie van Leeuwenhoek 60:355-371、を参照されたい)。一般に、高頻度のコンピテンス形質転換手順は、工業的な株について利用可能でない(Outtrup,H., and S.T. Jφrgensen, 2002: The importance of Bacillus species in the production of industrial enzymes in Aplications and systematics of Bacillus and relatives. R.Berkeley, M.Heyndrickx, N.Logan, and P.de Vos(eds.), pp. 206-218, Blackwell Publishing, Malden, USA、を参照されたい)。そのような株は、米国特許第6,083,718号明細書に開示されているとおりプロトプラスト形質転換により改変されうる。
【0005】
今日までに、通性嫌気性且つ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の遺伝子操作を明示する方法は記載されていない。プロトプラスト融合による、B.subtillisからバチルス コアギュランスへのプラスミド転移を主張する1つの報告が発行されているが(Ball, A.S., and C.Edwards, 1989:Properties of protoplasts from the thermophile Bacillus coagulans and their significance for genetic studies. Lett. Appl. Microbiol. 9:141-144、を参照されたい)、それはB.coagulansがプラスミドを実際に宿すことの証拠を与えない。該主張は、抗生物質耐性コロニーの成長の観察に基づくだけであり、これは非常によく自然に発生する抗生物質耐性変異体であり得る。我々は、抗生物質の種々のタイプについて頻繁に、B.coagulansのそのような自然発生する抗生物質耐性変異体を観察してきた。他の刊行物:バチルス種の形質転換:An Examination of the transformation of Bacillus protoplasts by plasmids pUB110 and pHV33, Current Microbiology, Vol 13(1986), pp 191-195、において、種々のバチルスにおけるプロトプラスト形質転換が記載された。しかしながら、B.coagulansにおける形質転換は、失敗と報告された。
【0006】
エレクトロポレーションはバクテリアについて広く用いられているが、増殖培地及びエレクトロポレーション緩衝液の種特異的な(又は株特異的さえの)最適化を要求する。バチルス種の成功的なエレクトロポレーションは、形質転換後のプラスミドDNAの制限を防ぐ為にプラスミドDNAのインビボ又はインビトロでのメチル化をしばしば要求する。国際公開第02/29030号パンフレットは、インビボでメチル化されたプラスミドの、エレクトロポレーションによる好熱性バチルス株TNの細胞中への導入を開示する。用いられたプラスミドは、熱感受性プラスミドpUB110に基づく。しかしながら、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種を形質転換するために用いられたとき、このプラスミドは形質転換された細胞を産出しなかったことを、我々は発見した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
我々は、遺伝子操作に基づく、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の遺伝子の改変が可能であることを、今発見した。従って、本発明は最初に、形質転換による、中等度好熱性の通性嫌気性ホモ乳酸的バチルス種の遺伝子操作を示す。通性嫌気性且つR−乳酸生産についてホモ乳酸的である該中等度好熱性バチルスの操作に加えて、該バチルスは、乳酸以外の他の有機酸、アルコール、酵素、アミノ酸及びビタミンを含む工業的化合物の生産のためにも遺伝子操作されうる。
【0008】
本発明に従い、中等度好熱性バチルス種がホモ乳酸的であることが重要である。何故なら、これが、新たに導入された機能が少量の副産物を伴う高い収率の生産を結果するであろうことを確保するからである。さらに、ホモ乳酸的バチルス種の使用は、産業上利用可能な微生物を得るために、僅かな改変だけが適用される必要があることを可能とする。
【0009】
中等度好熱性バチルス種は、30〜65℃の温度で成長することができるバクテリアとして定義される。中等度好熱性の通性嫌気性ホモ乳酸的種の例は、バチルス コアギュランス及びバチルス スミシーである。ホモ乳酸的バチルスは天然に、ホモ乳酸発酵によりS−ラクテートを生産することができる。どの特定の株がホモ乳酸的発酵により乳酸を生産できるかは、当技術分野の当業者により容易に決定されうる。本発明は、該ホモ乳酸的な表現型が改変されている中等度好熱性の通性嫌気性バチルス種から派生した株も包含する。好ましくは、胞子形成欠損性である株又は派生体が選ばれる。
【0010】
中等度好熱性の通性嫌気性ホモ乳酸的バチルスの形質転換について、文献は利用できなかったので、本発明者らは、形質転換によりこれらのバチルスを遺伝子操作することができるために、これらバチルス中で複製することができるプラスミドを発見することを必要とし、該細胞中へDNAを導入する方法を最適化することを必要とし、かつ、バチルス種の定義された群についての適当な選択可能マーカーを発見することを必要とした。
【0011】
本発明者らは、これらバチルス中で複製できるプラスミドを発見するための方法としてエレクトロポレーションを使用することを決定した。試験されたプラスミドは、pIL253(Simon, D., and A.Chopin, 1988:Construction of a vector plasmid family and its use for molecular cloning in Streptococcus lactis, Biochimie 70:559-566、を参照されたい)、pMV158(Burdett, V., 1980:Identification of tetracycline resistant R-plasmids in Streptococcus agalactiae (group B), Antimicrob. Agents Chemother. 18:753-766、を参照されたい)、pHP13(Haima,P., S.Bron, G.Venema, 1987:The effect of restriction on shotgun cloning and plasmid stability in Bacillus subtilis Marburg. Mol. gen. Genet. 209:335-342、を参照されたい)、pUB110(Keggins, K.M., P.S.Lovett, E.J.Duvall, 1978:Molecular cloning of genetically active fragments of Bacillus DNA in Bacillus subtilis and properties of the vector plasmid pUB110, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75:1423-1427、を参照されたい)、pAMS100(Kiewiet, R., J.Kok, J.F.M.L. Seegers, G.Venema, S.Bron, 1993:The mode of replication is a major factor in segregational plasmic instability in Lactococcus lactis. Appl. Environ. Microbiol. 59:358-364)、pWCFS105(Van Kranenburg, R., N. Golic, R. Bongers, R.J.Leer. W.M.de Vos, R.J.Siezen, M.Kleerebezem, 2005;Functional analysis of three plasmids from Lactobacillus plantarum, Appl. Environ. Microbiol.71:1223-1230を参照されたい)、pNZ280(Platteeuw, C., F.Michiels, H.Joos, J.Seurinck, and W.M.De Vos, 1995:Characterization and heterologous expression of the tetL gene and identification of iso-lSS1 elements from Enterococcus faecalis plasimie pJH1, Gene 160:89-93、を参照されたい)、pNZ124(Platteeuw, C., G.Simons, and W.M.de Vos. 1994:Use of the Escherichia coli β-glucuronidase (gusA) gene as a reporter gene for analyzing promoters in lactic acid bacteria, Appl. Environ. Microbiol. 60:587-593)、及びpNW33n(Zeigler,E.R. 2001:The genus Geobacillus; introduction and strain catalog, 7th ed., vol.3.Bacillus Genetic Stock Center. www.bgsc.org、を参照されたい)である。種々の試験の後、後の3つのプラスミドが複製することができ、かつ形質転換体を産出することができることが発見された。
【0012】
これらのバチルス中で複製できるプラスミドが同定されたら、形質転換プロトコルに関する他のプロセスパラメータは、容易に最適化されうる。さらに、自然形質転換又は接合のような、DNAの導入の為の他の方法が、それらの実行可能性について試験されうる。
【0013】
抗生物質耐性マーカーによる試験は、少なくともクロラムフェニコール耐性、テトラサイクリン耐性及びカナマイシン耐性が、用いられうることを実証した。低すぎる濃度を回避する為の措置が採られるべきである。何故なら、これらは自然発生する抗生物質耐性コロニーを生じうるからである。pNZ124又はpNW33n中にクローン化された、pIL253からのエリスロマイシン耐性遺伝子の導入は、形質転換体を産出しなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
従って、第1の局面において、本発明は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の、遺伝子操作による遺伝子改変の方法を開示する。該方法は、
pSH71レプリコンまたはその相同体を含有する熱感受性プラスミド系中にクローン化されたDNAを、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の細胞中へ導入すること;
選択培地上で、プラスミド複製にとって許容可能な温度で該細胞を培養して、該選択培地上で該許容可能な温度で成長することができる形質転換された細胞を選ぶこと;
選択培地上で、プラスミド複製にとって許容可能でない温度で該形質転換された細胞を培養して、該選択培地上で該許容可能でない温度で成長することができる形質転換された細胞を選ぶこと;
の段階を含む。
【0015】
許容可能な温度での選択培地上での該細胞の培養は、形質転換体、すなわち形質転換するDNAを得た細胞の選抜を許す。好ましくは、形質転換するDNAの完全性を確認することを許す為に、形質転換されたコロニーは、許容可能でない温度で形質転換された細胞を培養することに先立ち、単離される。次に、完全体の選抜を許す為に、1又はいくつか個々のコロニーの細胞が許容可能でない温度で培養される。
【0016】
本発明に従い、関心のあるDNAは、pSH71レプリコン(GenBank Accession Number A09338)又はその相同体を含有する熱感受性プラスミド系中にクローン化される。pSH71レプリコンは、熱感受性複製の機能を提供するレプリコンである。
【0017】
熱感受性複製の機能は、許容可能な温度での該レプリコンを含有するプラスミドの複製を与え、かつ、許容可能でない温度での該プラスミドの複製の欠如を与える。pSH71レプリコンのこの熱感受性複製の機能は、該レプリコンによりコードされる複製起点及び複製タンパク質(RepA)により与えられる。
【0018】
本発明の文脈において、「pSH71レプリコン又はその相同体」は、熱感受性複製の機能(RepAタンパク質)を有し且つ配列ID NO:1のアミノ酸配列又は配列ID NO:1と80%同一、好ましくは90%同一、より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列を含むDNAとして定義される。pSH71レプリコン又はその相同体は、上記で定義された通りのRepAタンパク質が作用することができる複製起点を更に含む。pSH71レプリコンの相同体の例は、pWV01(GenBank Accession Number X56954)である。pSH71レプリコン又はその相同体は、調節タンパク質(RepC)を更に含みうる。
【0019】
本発明の目的に関して、2つのアミノ酸配列の間の同一性の程度は、該2つの配列の間で同一であるアミノ酸のパーセンテージをいう。同一性の程度は、BLASTアルゴリズムを用いて決定され、これはAltschul, et al., J.Mol.Biol. 215: 403-410(1990)に記載されている。BLAST分析を実施する為のソフトウェアは、米国立生物情報センターを通じて公に利用可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXは、アラインメントの感度と速さを決定する。BLASTプログラムは、デフォルトとして、11のワード長(W)、Blosum62スコアリングマトリックス(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915(1989)を参照されたい)の50のアライメント(B)、10の予測(E)、M=5、N=−4及び両鎖の比較を用いる。
【0020】
形質転換するDNAの染色体への組み込みが意図されるとき、条件付きのレプリコンを有する組み込みプラスミドの利用可能性が望ましい。そのようなプラスミドは許容可能な条件下で導入されることができ、その後(例えば許容可能でない温度へのシフトにより)成長条件が変化されることができ、該プラスミドを非複製的にし且つ相同又は非相同組み換えにより引き起こされる染色体への組み込み現象に関する選抜を許す。条件付きのクローニングベクターとして、pNZ124に存在するpSH71のような熱感受性レプリコン、又はそれと実質的に同一である(相同な)プラスミド、又はプラスミドの熱感受性特性を保有したそれらの派生体が用いられうる。通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種中におけるこのレプリコンとって許容可能な温度は好ましくは、37〜50℃である。許容可能でない温度は好ましくは、50℃超である。許容可能な温度及び許容可能でない温度は、レプリコンに依存しうるだけでなく、宿主バチルス種にも依存しうる。後者は先行文献からの既知の現象であり、37℃が、ラクトバチルス デルブリッキー中において許容可能な温度であるがラクトコッカス ラクティスについては許容可能でない温度であるpG+宿主プラスミドにより例示される(米国特許第5919678号明細書を参照されたい)。
【0021】
条件付きのクローニングベクターは、pNW33nの熱感受性派生体又は通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種中で複製できる他のプラスミドとしても得られうる。
【0022】
pSH71レプリコン又はその相同体を有する熱感受性プラスミド系中にクローン化された、関心のあるDNAは、
A. プロトプラスト形質転換又はプロトプラスト融合、
B. エレクトロポレーション、
C. バイオリスティック(biolistic)形質転換、
D. 接合、又は、
E. 自然のコンピテント細胞の形質転換
により、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の細胞中に導入される。
【0023】
エレクトロポレーションによるこれらバチルス種の形質転換は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種と、所望の機能及び/又は特定のバチルスのゲノム配列と相同なDNA配列を含む適当な形質転換するDNAとを含有する懸濁物を通じた高電圧放電により達成されうる。
【0024】
接合によるこれらバチルス種の形質転換は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種(の集団)と、所望の機能を有する自己伝達性又は可動性のプラスミドを含有する供与体細胞(の集団)とを、接触させることにより達成されうる。自己伝達性プラスミドは、それらが細胞間を移動するのに必要とする全ての機能をコードし、かつ、時々それらは、染色体DNA及び可動性プラスミドの転移において助けともなる。可動性プラスミドは、転移に必要とされるタンパク質の全てをコードせず、そして結果として(染色体又はプラスミドにコードされた)供与体ゲノムにより与えられるべきこれらの機能を必要とする。可動性プラスミドは少なくとも、転移のオリジン(oriT)領域を含有する。改変されるべき中等度好熱性バチルスと共培養されうる任意の供与体細胞も、原則として、供与体細胞として働くのに適当である。適当な供与体細胞の例は、B.alkalophilus、B.amyloliquefaciens、B.brevis、B.cereus、B.circulans、B.coagulans、B.lautus、B.lentus、B.licheniformis、B.megaterium、B.smithii、B.subtilis、B.thermoamylovorans、B.thuringiensisを含むバチルス種、ジオバチルス ステアロサーモフィラス、E.coli、エンテロコッカス フェカリス、L.acidophilus、L.amylophilus、L.amylovorus、L.casei、L.coriniformis、L.crispatus、L.curvatus、L.delbueckii、L.gasseri、L.helveticus、L.johnsonii、L.plantarum、L.reuteri、L.rhamnosus、L.sakei、L.sanfriscensisを含むラクトバチルス種、S.agalactiae、S.mutans、S.oralis、S.pneumoniae、S.salivarius、S.sobrinus及びS.thermophilusを含むストレプトコッカス種のそれらである。適当な自己伝達性プラスミドは、pRK24、pLS20、pAMβ1又はそれらと実質的に同一であるプラスミド又はプラスミドの自己伝達性能力を保有したこれらの派生体を含む。適当な可動性プラスミドは、pAT18、pAT28、pJS28又はそれらと実質的に同一であるプラスミド又はプラスミドの可動性能力を保有したこれらの派生体を含む。
【0025】
本発明者らはさらに、これらバチルス種についての自然形質転換プロトコルをなんとかして開発した。これは、増殖、飢餓及び形質転換のための適切な培地組成、コンピテント細胞を展開及び回収するための適切なタイミング、並びに適切な形質転換手順を決定することを要求した。自然形質転換は、バチルス種の間では広まっていると知られていないが、本発明者らは、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルスが、自然にコンピテントにされうることを発見した。
【0026】
エレクトロポレーション及びプロトプラスト形質転換に関して、形質転換するDNAの源は、形質転換結果物に影響を与えうる。(ラクトコッカス ラクティス MG 1363、エシェリヒア コリ DH5α、E.coli JM109、又はE.coli JM110から単離された)形質転換されるべきDNAの源は、本バチルス種における形質転換効率に影響しなかった。これはDNAのメチル化状態が重要でないことを示す。これは、他のバチルス種とは対照的である(例えば国際公開第02/29030号パンフレットを参照されたい)。
【0027】
本発明の好ましい実施態様において、バチルス中への導入の為の形質転換するDNAは、ラクトコッカス ラクティスから単離される。より好ましくは、該形質転換するDNAを構築する為のクローニング段階も、ラクトコッカス ラクティス中で実施される。これは、E.coli中でのクローニングは、しばしばクローン化されたDNAにおいて欠失及び/又は転位を結果するとみえたからである。
【0028】
本発明により、好ましくは自然のコンピテンスの誘導による形質転換に関する方法、エレクトロコンピテント細胞の形質転換に関する方法、及び接合に関する方法が提供され、熱感受性プラスミドを使用する方法が示され、かつ、例えばR−ラクテートの生産の為の、通性嫌気性且つホモ乳酸的である遺伝子操作された中等度好熱性バチルス種の製造の為のこれらの要素の適用が示される。
【0029】
形質転換するDNAは、pSH71レプリコン又はその相同体とバチルス細胞に所望の機能を提供することができる、関心のあるDNAとを有する。
【0030】
染色体の改変は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の好ましい改変である。何故なら、染色体の改変は、子孫細胞にわたり、該機能の安定な分配を確保するであろうからである。染色体中の所望の機能の導入は、非相同性組み換え並びに相同組み換えによりなされうる。相同組み換えは、機能を導入し、除去し、又は導入と除去を同時にする機会を開くので、相同組み換えが好ましい。
【0031】
本発明の文脈において、機能は、細胞により生産されるべき所望のポリペプチドをコードする遺伝子及び/又は細胞による一次又は二次代謝産物の生産に関するポリペプチドをコードする遺伝子及び/又は細胞の染色体からDNA配列の欠失を可能とするDNA配列でありうる。
【0032】
ポリペプチドをコードする遺伝子は、細胞中で機能的な調節配列、例えばプロモーター配列を備えられる。該調節配列は、該コード配列と天然に連結された配列であってよく、又はそれと非相同であってもよい。
【0033】
ポリペプチドをコードする遺伝子は、好みのバチルス種において機能する任意の調節配列又はプロモーター配列に結合されうる。適当なプロモーター配列は、好みのバチルス種から入手可能なプロモーター、異なる天然のバチルスプロモーターに由来するハイブリッドプロモーター及び人工のプロモーターを包含する。好ましいプロモーターは、相同組み換えにより不活性化されるべきバチルス遺伝子のプロモーターである。バチルス コアギュランスからのldhLプロモーターが特に好ましい。又は、米国特許第5171673号明細書において開示されたとおりのアミラーゼ遺伝子のプロモーターが特に好ましい。
【0034】
形質転換されていない細胞の大多数からの形質転換されたバチルス細胞の選択を可能とする為に、選択マーカーが形質転換するDNAの一部である。該選択マーカーは、関心のある機能として同じDNA断片若しくはプラスミド上に存在してよく又は別のDNA断片又はプラスミド上に存在してもよい。好ましい選択マーカーは、pMH3からの、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードするcat遺伝子である。
【0035】
導入されうる所望の機能は、以下に記載されるとおりのR−乳酸の生産であり、及び、パイルベートから代謝可能な化合物の生産を提供する他の機能である。これら化合物の例は、パイルベート、アセトラクテート、ジアセチル、アセトイン、2,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、アセテート、ホルメート、アセトアルデヒド、エタノール、L−アラニン、オキサロアセテート、S−マレート、スクシネート、フマレート、2−オキソグルタレート、オキサロスクシネート、イソシトレート、シトレート、グリオキシレートである。
【0036】
相同組み換えが意図されるとき、形質転換するDNAはさらに、操作されるべき特定のバチルスの、遺伝子のターゲット配列と相同であるDNA配列を含む。当業者は、相同組み換えを得るために、100%の同一性が必要とされないことを理解するであろう。約90%のパーセンテージ同一性も十分であろう。一般に、相同組み換えにより染色体に挿入されるべき、関心のあるDNA配列は、相同組み換えを可能とする十分な長さを有する相同配列の側に置かれる。そのような長さは、少なくとも約200bp、例えば約200〜約1500bp、好ましくは約200〜約1000bpである。
【0037】
本発明は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の遺伝子の操作による改変であって、好ましくは相同組み換えにより、所望の機能が導入される上記改変に向けられる。
【0038】
本発明は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の遺伝子操作による改変であって、望ましくない機能が相同組み換えにより除去される上記改変にも向けられる。
【0039】
本発明はさらに、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の遺伝子操作による改変であって、所望の機能が染色体中に導入され且つ同時に望ましくない機能が相同組み換えにより除去される上記改変に向けられる。
【0040】
遺伝子操作による該改変により得られる、遺伝子操作された通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス株又はホモ乳酸的である親株の派生体は、本発明の更なる局面を成す。遺伝子操作による改変は、バクテリアの染色体における機能の導入、バイクテリアの染色体からの機能の除去、又は、同時のバクテリアの染色体における機能の導入及びバクテリアの染色体からの機能の除去を包含する。
【0041】
好ましい実施態様において、遺伝子操作による改変は、相同組み換えにより生じる。
【0042】
1の好ましい実施態様において、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の、遺伝子操作された派生体は、パイルベートのラクテートへの転化がブロックされ且つパイルベートが蓄積する株、又は、アセトラクテート、ジアセチル、アセトイン、2,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、アセテート、ホルメート、アセトアルデヒド、エタノール、L−アラニン、オキサロアセテート、S−マレート、スクシネート、フマレート、2−オキソグルタレート、オキサロスクシネート、イソシトレート、シトレート、グリオキシレートを含む他の産物の生産に対してパイルベートが向け直される為に追加の改変が適用される株である。
【0043】
他の好ましい実施態様において、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の遺伝子操作された派生体は、S−ラクテートデヒドロゲナーゼをコードするldhL遺伝子が相同組み換えにより除去された株である。
【0044】
他の好ましい実施態様において、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の遺伝子操作された派生体は、S−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性をコードするldhL遺伝子が、相同組み換えにより、R−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性を有するNADH−依存性2−ヒドロキシ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子により置換された株である。
【0045】
これらの実施態様において、相同組み換えの為に用いられる構築物は、機能的であるS−ラクテートデヒドロゲナーゼ酵素をコードしない欠陥ldhL遺伝子を含む。欠陥ldhL遺伝子は、ldhLをコードする配列の一部又は全部が削除された構築物により提供されうる。
【0046】
欠陥ldhL遺伝子は、他の遺伝子、例えば選択マーカーをコードする遺伝子又は関心のある遺伝子により、ldhL遺伝子の一部又は全部を置換することにより作成されうる。好ましくは、S−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性をコードするldhL遺伝子は、EC番号EC1.1.1.28.を有する酵素を含む、R−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性を有するNADH−依存性2−ヒドロキシ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を有する構築物により置換される。
【0047】
R−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性をコードする適当な遺伝子は、E.coli ldhA変異体を相補することができる遺伝子であり、例えばBernardらにより記載されたとおりのE.coli FMJ144(Bernard, N., T.Ferrain, D.Garmyn, P.Hols, and J.Delcour, 1991:Cloning of the D-lactate dehydrogenase gene from Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus by complementation in Escherichia coli. FEBS Lett. 290:61-64を参照されたい)などである。R−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性をコードする適当なldhL遺伝子は例えば、ラクトバチルス デルブリッキー subsp. bulgaricusからのldhA遺伝子(Bernardらも参照されたい)又は同じ種からのhdhD遺伝子(Bernard, N., K.Johnsen, T.Ferain, D.Garmyn, P.Hols, J.J.Holbrook, and J.Delcour. 1994. NAD+-dependent D-2-hydroxyisocaproate dehydrogenase of Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus. Eur.J.Biochem.224:439-446)である。ldhA遺伝子によりコードされたR−ラクテートデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列は、配列ID NO:2に描かれている。上記のE.coli変異体の相補が可能である遺伝子によりコードされたポリペプチドは、アミノ酸配列において実質的に異なるようにみえる。配列ID NO:2のアミノ酸配列と30%ほどの低いパーセンテージ同一性が実施可能である。ldhA及びhdhD遺伝子は、約50%の同一性の程度を有するタンパク質をコードするようにみえる。
【0048】
R−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性をコードする適当な遺伝子は、配列ID NO:2のアミノ酸配列をコードする遺伝子又は配列ID NO:2のアミノ酸配列と少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、90%の同一性の程度を表すアミノ酸配列をコードし且つE.coli ldhA変異体、例えばE.coli FMJ144などを相補することができる相同な遺伝子である。そのような相同配列は、自然の対立遺伝子変異又はイントラストレイン変異(intra-strain variation)の故に、異なる集団からの細胞中又は1の集団中の細胞中に存在しうる多型を含みうる。相同体はさらに、特定されたDNA又はアミノ酸配列の起源である種以外のバチルス種から得られてよく、又は人工的に設計され且つ合成されてもよい。
【0049】
所望の機能を導入することに加えて、工業的な発酵を最適化する為、例えばキシロース及びアラビノースを含むリグノセルロース由来の糖のような安い基質の発酵を可能にする為及び/又は望ましくない機能を除去する為に、遺伝子操作は用いられうる。
【0050】
更なる局面において、本発明は、前記の局面の遺伝子操作された株を、関心のある化合物の生産に資する条件下で培養することを含む、該化合物の生産の方法を提供する。
【0051】
図面の説明
【0052】
図1は、形質転換された3つのB.coagulans DSM1分離株から単離されたプラスミド物質により形質転換された3つのE.coli分離株から単離されたpNW33Nの制限分析を示す。レーン1、4及び7。EcoRIにより消化されたpNW33N;4217−bp断片。レーン2、5及び8.EcoRI−StuIにより消化されたpNW33N;333−bp及び3884−bpの断片。レーン3及び6。kb DNAラダー(Stratagene)250bp、500bp、750bp、1.0kb、1.5kb、2.0kb、3.0kb、4.0kb、5.0kb、6.0kb、7.0kb、8.0kb、9.0kb、10.0kb及び12.0kb。
【0053】
図2は、pJS28のプラスミド地図を示す。複製遺伝子(repB)及びクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)は矢印により描かれる。IncPプラスミドのRK2の転移のオリジン(oriT)及びE.coliの複製起点(ori)が、四角で囲まれた領域として描かれる。
【0054】
図3は、米国特許第5171673号明細書において開示された配列に基づく、合成のB.coagulans ATCC23498アミラーゼプロモーター領域のヌクレオチド配列を示す。BglII(AGATCT)、BamHI(GGATCC)、及びNcoI(CCATGG)クローニング部位が下線付加されている。NcoI部位はアミラーゼプロモーターへの翻訳的結合を許す。アミラーゼ遺伝子のATG開始コドンは、ボールド体で描かれる。
【0055】
図4は、pJS25のプラスミド地図を示す。複製遺伝子(repA及びrepC)、NcoI部位を有さないクロラムフェニコール耐性遺伝子(cm)が矢印で示される。B.coagulansプロモーター領域(P)は、四角で囲まれた領域として描かれる。
【0056】
図5は、pJS26のプラスミド地図を示す。複製遺伝子(repA及びrepC)、NcoI部位を有さないクロラムフェニコール耐性遺伝子(cm)、及びLMG6901 ldhA遺伝子(ldhA 6901)が矢印で示される。B.coagulansプロモーター領域(P)は四角で囲まれる。
【0057】
図6は、pJS27のプラスミド地図を示す。複製遺伝子(repB)、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)、及び、L.bulgaricus LMG6901 ldhA遺伝子(ldhA 6901)が矢印により描かれる。B.coagulansプロモーター領域(P)及びE.coliの複製起点(ori)は、四角で囲まれた領域として描かれる。
【0058】
図7は、pRK1のプラスミド地図を示す。複製遺伝子(repA及びrepC)、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)、及び、L.bulgaricus ldhA遺伝子(ldhA)が矢印により描かれる。B.coagulansプロモーター領域(Pamy ATCC)及びB.coagulans ldhL上流及び下流領域は、四角で囲まれた領域として描かれる。
【0059】
本発明は、以下の非限定的な実施例により、さらに説明される。
【0060】
実施例
【0061】
材料と方法
【0062】
プラスミド及び菌株
【0063】
プラスミドpNZ124(Platteeuw, C., G.Simons, and W.M. de Vos.1994. Use of the Echerichia coli β-glucuronidase(gusA) gene as a reporter gene for analyzing promoters in lactic acid bacteria. Appl. Environ. Microbiol. 60:587-593)が、NIZO food researchから入手された。それは、欧州特許第0228726号明細書において開示されたクローニングベクターpNZ12に基づく。
プラスミドpNW33N(Zeigler, D.R. 2001:The genus Geobacillus; introduction and strain catalog, 7th ed., vol. 3. Bacillus Genetic Stock Center. www.bgsc.org)が、Bacillus Genetic Stock Center、オハイオ州立大学、コロンバス、オハイオ州、アメリカ合衆国、から入手され、そして、エシェリヒア コリ DH5α(Invitrogen Life Technologies)中において増殖された。pNW33Nのヌクレオチド配列は、GenBankアクセス番号AY237122下で入手可能である。
IncPプラスミドのRK2の転移のオリジン(oriT)を有するプラスミドpATΔS28(Namy, O., M.Mock, A.Fouet, 1999:Co-existence of clpB and clpC in the Baciliceae. FEMS Microbiol. Lett. 173:297-302)が、Institute Pasteurから得られた。
B.coagulans DSM1が、DSMZ、Brauschweig、ドイツ連邦共和国、から入手された。
Lactococcus lactis subsp. cremoris MG1363は、Gassonにより記載された(M.J.Gasson. 1983:Plasmid complements of Streptococcus lactis NCDO 712 and other lactic streptococci after protoplast-induced curing. J.Bacteriol. 154:1-9)。
Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus LMG 6901は、BCCM/LMG bacteria collection、ヘント、ベルギーから得られた。
pRK24を宿すE.coli HB101は、Trieu-Cuotらにより記載された(Trieu-Cuot, P., C. Carlier, P.Martin, and P.Courvalin, 1987:Plasmid transfer by conjugation from Escherichia coli to Gram-positive bacteria. FEMS Microbiol. Lett. 48:289-294)。
【0064】
培養条件
【0065】
B.coagulansは慣例的に、10g/Lの酵母抽出物、2g/Lのリン酸二アンモニウム、3.5g/Lの硫酸二アンモニウム、10g/LのBis−Tris緩衝液(ビス[2−ヒドロキシメチル]イミノトリス[ヒドロキシメチル]−メタン)、3mg/LのCaCl、5mg/LのMgClを含有するBC培地において好気的条件下で45℃で成長させられた;必要に応じ、培地は、50g/Lのスクロースを補われた;pHは6.6〜6.7に調整され、そして培地は使用の前にオートクレーブされた(20分121℃)。プレートについては、培地は10g/LのGelrite及び1g/LのMgClを補われた。ろ過滅菌された微量元素が別に添加された。最終濃度は:0.2mg/L CoCl・6HO、0.01mg/L CuCl・2HO、0.3mg/L HBO、0.03mg/L NaMoO・2HO、0.02mg/L NiSO・6HO、0.03mg/L MnCl・4HO、0.05mg/L ZnClであった。必要に応じ、該培地は、7mg/Lでろ過滅菌されたクロラムフェニコールを補われた。コンピテンス培地(C−培地)は、、0.05g/L 酵母抽出物、2g/L リン酸二アンモニウム、3.5g/L 硫酸二アンモニウム、10g/L グルコース、10mg/L CaCl、0.5g/L KCl、25mg/L MgClを有した:pHは、6.8に調整され且つ培地は使用の前にオートクレーブされた(20分121℃)。フィルター滅菌された微量元素及びビタミンが別に添加された。最終濃度は:2.4mg/L CoCl、3.6mg/L FeCl、3mg/L MnCl、1.2mg/L ZnCl、0.024mg/L ビオチン、0.012mg/L チアミン、20mg/L メチオニンであった。形質転換培地(T−培地)は、0.05g/Lの代わりに0.025g/Lの酵母抽出物を有するC−培地であった。
【0066】
E.coliは慣例的に、LB培地(Molecular Cloning, a laboratory manual. 3rd edition. J.Sambrook and D.W.Russell. 2001. Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)中で、37℃で好気的条件下で培養された。必要に応じて、クロラムフェニコール及び/又はアンピシリンが、5mg/L及び100mg/Lの濃度で夫々用いられた。
【0067】
L.bulgaricusは慣例的に、MRS broth(商標)(BD Biosciences)中で37℃で嫌気的条件下で培養された。
【0068】
L.lactisは慣例的に、0.5% グルコースを補われたM17 broth(商標)(BD Biosciences)中で、30℃で嫌気的条件下で培養された。必要に応じて、クロラムフェニコールが5mg/Lの濃度で用いられた。
【0069】
DNA操作技術
【0070】
標準的なDNA操作技術は、Sambrook及びRussellにより記載されたとおりに実施された(J.Sambrook and D.W.Russell.2001:Molecular cloning, a laboratory manual. 3rd edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)。
【0071】
pNZ124及びpNW33Nの派生体の構築は、L.lactis及びE.coli中で夫々実施された。
【0072】
100mL培養物からの、ラージスケールのE.coliプラスミドDNA単離は、Jetstar 2.0 Plasmid Maxiprep Kit(商標)(Genomed)を用いて、製造者の使用説明書に従い実施された。1mL培養物からの、スモールスケールのE.coliプラスミドDNA単離は、Nucleospin Plasmid Quick Pure(商標)(Macherey−Nagel)キットを用いて、製造者の使用説明書に従い実施された。
【0073】
ラージスケールのB.coagulansプラスミドDNA単離は、セシウムクロライド−エチジウムブロマイド勾配中で平衡遠心を用いて実施された。好気的条件下で45℃で成長された(170rpm)、300mLの二晩培養物が、遠心により回収された。該細胞ペレットは、2mg/mLのリゾチーム、30mMのTris/HCl、pH8.0、3mMのMgCl及び25%スクロースを含有する緩衝液の7ml中にプールされそして再懸濁され、そして氷上で15分間インキュベートされた。細胞は、0.2MのNaOH及び1%SDSを含有する溶液の16mLの添加により溶解された。氷上での5分のインキュベーション後、該サンプルは、3MのKAcの12mLの添加と混合により中和された。沈殿物が、遠心により除去された。上清中のDNAが、20mLのイソプロパノールの添加により沈殿された。DNAは、遠心によりペレット化され、乾燥されそして、1.0g/mLのCsCl及び0.4mg/mLのエチジウムブロマイドを含有するTEバッファー中に溶解された。染色体DNA及びプラスミドDNAが、45000rpmで16時間、垂直ローター(Stepsaver 65 V13(商標);Sorvall)を用いてセシウムクロライド密度勾配により分離された。プラスミドDNAが回収され、そしてエチジウムブロマイドが他のところ(Molecular Cloning, a laboratory manual. 3rd edition. J. Sambrook and D.W.Russell.2001. Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)で記載されたとおりに除去された。
【0074】
10mL培養物からの、スモールスケールのL.lactis及びB.coagulansプラスミドDNA単離は、グラム陽性バクテリアについてのミニプレッププロトコルに従い実施された(Rapid mini-prep isolation of high quality plasmid DNA from Lactococcus and Lactobacillus spp. D.J.O'Sullivan and T.R.Klaenhammer. 1993. Appl. Environ. Microbiol. 59:2730-2733)。
【0075】
E.coliコンピテント細胞は、Sambrook及びRussellにより記載されたとおりに、塩化カルシウムを用いて調製され、そして熱ショックにより形質転換された(Molecular Cloning, a laboratory manual. 3rd edition. J. Sambrook and D.W.Russell.2001. Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)。
【0076】
L.lactisは、HaloとNesにより記載されたとおりに、エレクトロポレーションにより形質転換された(High-frequency transformation by electroporation of Lactococcus lactis subsp. cremoris grown with glycine in osmotically stabilized media. 1989. Holo,H., and I.F.Nes. Appl. Environ. Microbiol. 55:3119-3123)。
【0077】
クローニングの目的の為のPCR反応は、高い忠実性のPwoポリメラーゼ(Roche)により製造者の使用説明書に従い実施された。
【0078】
コロニーPCR分析が、クロラムフェニコール耐性コロニー中のpNW33Nの存在を実証する為に用いられた。PCRプライマーは、配列

及び

とのpNW33N複製遺伝子repBの同一性の為に設計された。コロニーは、つまようじにより取られ、そして、少しの細胞物質が、0.5mLのPCR反応チューブに移された。細胞は、電子レンジ中で1000Wで1分間のインキュベーションにより破壊された。rTaqポリメラーゼ(Amersham Biosciences)を有する50μL及び夫々のプライマー0.5μgのPCR反応混合物が、製造者により推奨されたとおりに調製され、そして、破壊された細胞を有する反応チューブに添加された。
【0079】
PCR反応は、RoboCycler(商標)(Stratagene)中で実施された。94℃での4分間のインキュベーションの次に、変性の為の94℃での30秒間、プライマーアニーリングの為の58℃での1分間、及び伸長の為の72℃での1分間の25サイクルが続いた。最終のサイクルの後で、反応混合物は、さらに5分間72℃でインキュベートされた。
【0080】
エレクトロポレーション
【0081】
エレクトロコンピテント細胞の調製は、適切な培養条件、回収の時間並びに洗浄バッファー及びエレクトロポレーションバッファーの組成の決定を必要とした。B.coagurans DSM1は、LB培地(エレクトロポレーション効率が増加された、発展したBC培地)上で成長することができる。グリシンは、細胞壁を弱める為に添加され、そして該濃度は最適化された。グリシン濃度は、0.5〜2.0%、好ましくは1.0〜1.5%であった。細胞は、最適な結果の為に、対数増殖の初期から中期で回収された。エレクトロポレーションバッファーは、4.3〜6.0、好ましくは4.3〜5.0のpHを有した。最適なエレクトロポレーション設定(電圧、抵抗、容量)も、決定されることを必要とした。電圧は好ましくは1.0〜2.5kV、より好ましくは1.25〜2.0kVであった。抵抗は好ましくは100〜800Ω、より好ましくは200〜600Ωであった。選択培地上でのプレーティングの前のリカバリーは、重要でありそして少なくとも2時間好ましくは3時間であった。
【0082】
B.coagulansのエレクトロコンピテント細胞が以下のとおりに調製された。一晩培養物が、1%グリシンを補われた培地50mLに植菌する(5%体積/体積)為に用いられた(600nmで約0.13〜0.14の濁度を結果した)。45℃での2.5時間の好気的インキュベーションの後、遠心により細胞が回収された。細胞ペレットは、2回、氷冷エレクトロポレーションバッファー(5mM KHPO、0.4M ソルビトール、10% グリセロール、4mM MgCl、pH4.5に調製された)の50mL及び25mL夫々により洗浄され、そして1mLの氷冷エレクトロポレーションバッファー中に再懸濁された。エレクトロポレーションの為に、100μLの細胞懸濁物が、1μgプラスミドDNAと混合され、そして、氷上で予め冷却された0.2cmエレクトロポレーションキュベット(Bio−Rad(商標))に移された。サンプルは、Gene Pulser及びPulse Controller装置(Bio−Rad(商標))を用いて、200Ω及び25μFで、1.6kVパルスに付された。エレクトロポレーション後すぐに、1mLの培地が添加され、そして細胞は900rpmでThermomixer(商標)(Eppendorf)中で、45℃で3時間インキュベートされ、その後それらはクロラムフェニコールを補われたプレート上に蒔かれた。プレートは、好気的条件下で1〜2日間45℃でインキュベートされた。
【0083】
接合
【0084】
フィルター接合が、E.coliからB.coagulansへの組み換えプラスミドの接合転移の為に用いられた。供与体(2mL)と受容体(2mL)の対数増殖する細胞がプールされ、そして注射器を用いてプラスチックフィルターホルダー(Schleiger&Schuell)中の滅菌された0.45μmセルロースアセテートフィルター上で回収された。細胞は、10mLのBC−培地により洗浄され、そして、フィルターはフィルターを通じて空気を送り込むことにより乾燥された。フィルターは、抗生物質無しのBC−プレートの表面上に置かれ、そして45℃で一晩インキュベートされた。接合後、細胞は、フィルターからBC−培地中に再懸濁され、そして、希釈系列が、7mg/Lクロラムフェニコールを含有するBCプレート上に蒔かれ、そして1〜2日間好気的に55℃でインキュベートされた。
【0085】
酵素分析
【0086】
B.coagulansプロモーターを用いるB.coagulansにおける酵素過剰生産は、指数関数的に成長する培養物において測定された。細胞は、遠心により回収された。無細胞系抽出物が、FastPrep FP120(商標)装置(Qbiogene)を用いて、スピード4で30秒の2度の運転において調製された。細胞は、運転の間に1分間氷上で冷却された。タンパク質含有量が、標準としてウシ血清アルブミンを用いたBradford(Bio−Rad)の方法により測定された。SDS−PAGE(12.5%)が、Protean II 電気泳動システム(Bio−Rad)を用いて、SambrookとRussellにより記載されたとおりに実施された(Molecular Cloning, a laboratory manual. 3rd edition. J. Sambrook and D.W.Russell.2001. Cold Spring Harbor laboratory Press, New York)。
【0087】
R−ラクテートデヒドロゲナーゼ特異的活性が、0.3Mグリシルグリシンバッファー、pH10、0.25%(v/v) TritonX−100、5mM NAD,及び1%R−ラクテートを含有する、1mlの分析ミックスを用いて、340nmで分光光学的に測定され且つ50℃で実施された。反応は、無細胞系抽出物の40又は50μLの添加により開始された。特異的な活性が、ΔAが1cm経路長についての340nmでの吸収の増加であり且つmgがタンパク質の量である、ΔA・分-1・mg-1として表された。
【0088】
発酵
【0089】
バッチ発酵が、Bis−Trisバッファー無し且つ30g/Lグルコースを補われたBC培地の4Lを有するバイオリアクター(7L Applikon(商標))中で実施された。50℃で増殖され且つグリセロールストックから植菌された一晩の好気的培養物(40mL)が360mLの新しいBC培地に移されそしてさらなる4〜5時間インキュベートされた。この400mLが、バイオリアクターに植菌する為に用いられた。pH維持は、20%(w/v)での石灰溶液の自動的な添加により達せられた。発酵は、54℃、pH6.5及び250〜300rpmの攪拌速度で実施された。温度調節は、水槽(Lauda)により実施されながら、pH測定/調節はADI1020 Bio−Processor(Applikon(商標))により実施された。全てのデータ(pH及び基礎消費)は、オンラインデータ取得(Applikon FM V5.0(商標))により処理された。サンプルは、R−及びS−乳酸並びにあり得る副産物の測定の為に、植菌の前及び発酵の最後で抽出された。サンプルは遠心され、そして、残ったデブリはMillex GP0.22μmfilter(商標)(Millipore)を用いたろ過により除去された。ろ液は、さらなる分析まで−21℃で保存された。
【0090】
有機酸(乳酸、酢酸、ギ酸、コハク酸)が、誘導体化及びGLCを用いて測定された。R−及びS−ラクテートは、メチル−ラクテートへメチル化され、そしてキラルカラム上でヘッドスペース分析により測定された。
【0091】
結果
【0092】
実施例1.自然のコンピテント細胞を用いた、プラスミドpNW33NによるB.coagulansの形質転換
【0093】
1)B.coagulans DSM1のコンピテント細胞の調製
3つの独立した実験において、以下の手順が用いられた。バチルス コアギュランス DSM1が、好気的条件下で5mlBC−培地中で45℃で一晩培養された。この培養物が、予め温められたC−培地中の25mlに植菌する為に用いられて、600nmで0.15の濁度を結果した。600nmでの0.9〜1.2の濁度が達せられるまで、新しい培養物が45℃で好気的にインキュベートされた(表1)。
【0094】
2)pNW33NによるB.coagulans DSM1の形質転換
コンピテント細胞の0.5mL部分がペレット化され、そして、該ペレットが、T−培地の0.1mL中に再懸濁されそしてpNW33NプラスミドDNAの5μgと混合された。900rpmでのThermomixer(Eppendorf)中での45℃での1.5時間のインキュベーション後、予め温められたBC培地の0.3mLが添加され、そしてインキュベーションが2時間継続され、その後、細胞は7mg/Lのクロラムフェニコールを補われたBCプレート上に蒔かれた。プレートは、45℃で好気的にインキュベートされた。インキュベーションの3日後、コロニーが現れた(表1)。
【0095】

【0096】
3)B.coagulans DSM1からのプラスミド単離
コロニーは、45℃での一晩インキュベーションのために、7mg/Lクロラムフェニコールを補われた新しいBCプレート上にストライプされた。コロニーPCRが、プラスミドpNW33NからのrepB遺伝子の存在を検出する為に用いられた。全てのPCR反応は、期待されたサイズの産物を産出した。夫々の実験からの1のコロニーが、O/Nインキュベーション及びminiprepプラスミド単離の為にBC培地に移された。プラスミドDNAはアガロースゲル電気泳動により視認され得なかったが、このminiprepDNAによるE.coli DH5αの形質転換は、pNW33Nが回収されることができた形質転換体を結果した。プラスミドDNAは、pNW33Nの完全性を確認する為に、EcoRI−StuIにより消化された。制限パターンは、期待されたとおりであり(表1)、プラスミドpNW33NがB.coagulans DSM1に形質転換されたことを実証した。
【0097】
実施例2.エレクトロポレーションを用いた、プラスミドpNW33NによるB.coagulansの形質転換
【0098】
B.coagulans DSM1は慣例的に、エレクトロポレーションによって、1μgプラスミドpNW33Nにより形質転換された。典型的には、45℃でのインキュベーションの一日後、20超のコロニーが、クロラムフェニコールを含有するプレート上に現れた。1の実験において、15のコロニーが、インキュベーションの2日後で、クロラムフェニコールを含有する新しいプレートに移された。45℃でのインキュベーションの24時間後、形質転換は、repB特異的プライマーを用いたコロニーPCR分析により確認された。
【0099】
期待されたサイズのPCR産物が、試験された全ての形質転換体について得られ、pNW33NのrepB遺伝子が存在することを実証した。B.coagulans DSM 1は、ネガティブコントロールとして用いられ、そしてPCR産物を産出しなかった。一つの形質転換体のプラスミドDNAが、セシウム−クロライド勾配から単離された。プラスミドDNAは、EcoRIにより及びEcoRI−StuIにより、pNW33Nの完全性を確認する為に、消化された。制限パターンは期待されたとおりであり(333bp及び3884bpの断片)、プラスミドpNW33NがB.coagulans DSM 1に形質転換されたことを実証した。
【0100】
実施例3.接合を用いた、プラスミドpNW33NによるB.coagulansの形質転換
【0101】
1)転移のオリジンを含有するpNW33N派生体の構築
IncPプラスミドRK2の転移のオリジン(oriT)が、pNW33Nへクローン化された。これは、E.coli供与体中に共在する任意の自己移転可能なIncPプラスミドによる有効な共可動化を許す(Plasmid transfer by conjugation from Escherichia coli to Gram-positive bacteria. Trieu-Cuot,P., Carlier, c., Martin, P., and Couvalin, P. 1987. FEMS Microbiol. Lett. 48:289-294)。RK2 oriT領域は、pATΔS28から由来する平滑末端化された0.5−kb AccI−AvaII断片として、SmaIにより消化されたpNW33N中にクローン化された。得られたプラスミドpJS28(図2)は、pRK24を宿すE.coli HB101へ形質転換された。この株は、B.coagulans DSM1とのプレート接合において供与体として用いられた。
【0102】
2)E.coliからB.coagulansへの、pJS28の接合転移
アンピシリンとクロラムフェニコールとを含有するLB中で37℃で好気的に成長された、pJS28とpRK24とを宿すE.coliの一晩培養物は、抗生物質を有する新しいLB培地へ1/50で移され、そして、600nmでの0.56の濁度へ培養された。BC培地中で45℃で好気的に成長されたB.coagulans DSM1の一晩培養物が、新しいBC培地へ1/50で移され、そして、600nmで0.52の濁度へ培養された。E.coliとB.coagulansの等しい量(2mL)が,0.45μmフィルター上で回収された。細胞を有するフィルターは、抗生物質を有さないBCプレート上へ移され、そして、45℃で一晩インキュベートされた。細胞がフィルターから除去され、そして、希釈系列がBCプレート上に蒔かれそして55℃で好気的にインキュベートされた。1〜2日後にコロニーが現れた。pJS28の存在はプラスミドDNA単離により確認され、そして、その完全性がNcoIによる消化により確認されて、期待される消化パターン(1444−bp及び3299−bpの断片)を産出した。接合の効率は、受容体当たり約9.3・10−7であった。
【0103】
実施例4.B.coagulans由来の発現系の構築
【0104】
1)B.coagulans発現系の構築
プロモーター活性を有するB.coagulans ATCC23498ヌクレオチド配列断片(米国特許第5171673号明細書において開示されている)が、合成DNA断片(図3)として製造され、そしてBglII−BamHI断片として、同じ酵素により消化されたpMH3中へクローン化された。得られたクローニングベクターpJS25(図4)は、開始コドンとオーバーラップするNcoI部位の使用により、このプロモーターへの翻訳的な結合を許す。このNcoI部位の使用を可能とする為に、第1のプラスミドpMH3が、プラスミドpNZ124から、メガプライマーを使用してcat遺伝子からNcoI部位を除去することにより構築された。配列

及び

を有するプライマーが、メガプライマーを産生する為に用いられ、これは第2のPCR反応において、配列

を有するプライマーと組み合わせて使用された。得られたPCR産物は、完全なcat遺伝子を含み、そして、pNZ124 cat遺伝子を置換するために、BglII−SalIにより消化されて、プラスミドpMH3を産生した。プラスミドpJS25(図4)は、バチルス ズブチリス、ラクトバチルス カゼイ、ラクトバチルス プランタラム、ラクトコッカス ラクティス及びロイコノストック ラクティスを含む種々の中等温度好性のグラム陽性生物並びにグラム陰性生物エシェリヒア コリ(Use of the Escherichia coli β-glucuronidase (gusA) gene as a reporter gene for analyzing promoters in lactic acid bacteria. C. Platteeuw, G. Simons, and W.M. de Vos. 1994. Appl. Environ. Microbiol. 60:587-593)において用いられうる。
【0105】
2)ldhA過剰発現系の構築
R−ラクテートデヒドロゲナーゼをコードし、そしてBernerdらにより発行された(Cloning of the D-lactate dehydrogenase gene from Lactobacillus delbueckii subsp. bulgaricus by complementation in Escherichia coli. 1991. Bernard, N., T. Ferrain, D. Garmyn, P. Hols, and J. Delcour. FEBS Lett. 290:61-64)、L.bulgaricus LMG6901 ldhA遺伝子が、配列

及び

を有するプライマーを用いてPCRにより生産された。PCR産物は、平滑−XbaI断片として、XbaI−SmaIにより消化されたpUC18中へクローン化され、そして、その完全性がヌクレオチド配列分析により確認された。次に、ldhA遺伝子が、RcaI−XbaI断片として、NcoI−XbaIにより消化されたpJS25中へクローン化された。得られた発現ベクターpJS26(図5)は、B.coagulansプロモーターへと翻訳的に結合されたL.bulgaricusのldhA遺伝子を有する。次に、B.coagulansプロモーターとL.delbrueckii ldhA遺伝子とを含む完全な断片が、(BglIIを用いた部分消化による)PstI−BglII断片として、PstI−BamHIにより消化された好熱性クローニングベクターpNW33Nへと移されて、プラスミドpJS27(図6)を産生した。
【0106】
3)R−ラクテートデヒドロゲナーゼの過剰生産
プラスミドpJS27が、エレクトロポレーションにより、B.coagulans DSM1へと形質転換された。特異的なR−ラクテートデヒドロゲナーゼ酵素活性が、50℃でのmgタンパク質当たりの分当たりの340nmでの吸収の減少として測定された。pNW33Nを宿すB.coagulans DSM1の該特異的な活性は0.45ΔA・分−1・mgタンパク質−1であり、そしてpJS27を宿すB.coagulans DSM1のそれは2.15ΔA・分−1・mgタンパク質−1であり、L.delbrueckii LMG6901 ldhA遺伝子を含有する改変された株中のR−ラクテートデヒドロゲナーゼの過剰生産が、4.8倍増加した活性を結果したことを実証する。
【0107】
実施例5.R−ラクテート生産の為の、B.coagulans DSM1の遺伝子の改変
【0108】
pJS27を宿すB.coagulans DSM1(実施例4)が、工業的条件を模倣するバッチ培養において成長された。pNW33Nを宿すB.coagulans DSM1及びプラスミドを有さないB.coagulans DSM1が、参照の株として用いられた。発酵後、有機酸の濃度と乳酸の光学純度が測定された(表2)。B.coagulans DSM1及びpNW33Nを宿すB.coagulans DSM1により生産されたラクテートは、S体でエナンチオピュアであるが、pJS27を宿すB.coagulans DSM1により生産されたラクテートは、かなりの部分についてR体であった。副産物の形成における違いは検出されなかった。2−ヒドロキシ酪酸、酢酸、酪酸、ギ酸、ピルビン酸の濃度は、検出限界(ピルビン酸については<0.02%;他については<0.01%)より低かった。コハク酸の濃度は、0.1%(v/v)より低かった。これらの結果は、B.coagulansによるR−ラクテート生産が、R−ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子の導入により達せられうることを実証する。R−ラクテートだけを生産するB.coagulans株の構築は、ランダム変異又は部位特異的変異により、S−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性に関与する遺伝子の破壊を要求するであろう。
【0109】

【0110】
実施例6.エナンチオピュアなR−ラクテート生産のための、B.coagulans DSM1における遺伝子置換
【0111】
1)組み込みプラスミドの構築
R−ラクテートを生産する改変されたB.coagulans株が、主要なS−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性をコードするB.coagulans ldhL遺伝子を、R−ラクテートデヒドロゲナーゼをコードするL.bulgaricus ldhA遺伝子により置換することによって構築された。置換は、条件的クローニングベクター、例えば45℃で機能的だが55℃で機能的でない熱感受性レプリコンを用いて、二段階の過程における相同組み換えにより達せられる。我々は、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種中でのそのような熱感受性の性質を有することが発見された、pNZ124又はpMH3に存在するpSH71レプリコンを用いる。組み込みベクターpRK1(図7)は、pNZ124レプリコン、B.coagulans DSM1染色体中のldhLに隣接し且つ今はL.bulgaricus ldhA遺伝子に結合されたB.coagulans ATCC23498 amy プロモーターに隣接する2つの1−kb領域、及びクロラムフェニコール耐性をコードするcat遺伝子を含有する。組み込みベクターは、以下のカセットのライゲーションにより構築される:(i)1.8−kb SalI−XbaI断片、SalI部位は平滑末端にされ、pNZ124レプリコンを含有する;(ii)1.1kbのXbaI−BamHI断片、プライマー

及び

並びにテンプレートとしてB.coagulans DSM1を用いて産生されたPCR断片から切り出されたldhL遺伝子の上流領域を含有する;(iii)1.0kbのBamHI−PstI断片、プライマー

及び

並びにテンプレートとしてpMH3(実施例4)を用いて産生されたPCR断片から切り出されたcat遺伝子を含有する;(iv)1.3kbのPstI−KpnI断片、pJS27(実施例5)から切り出されたL.coagulans ATCC23498 amyプロモーターに翻訳的に結合されたB.bulgaricus LMG 6901 ldhA遺伝子を含有する;(v)1.1−kb KpnI−BglII断片、平滑末端にされたBglII部位を有し、プライマー

及び

並びにテンプレートとしてB.coagulans DSM1を用いて産生されたPCR断片から切り出されたldhL遺伝子の下流領域を含有する。
【0112】
2)B.coagulans DSM1 ldhL遺伝子のL.bulgaricus LMG6901 ldhA遺伝子との交換
プラスミドpRK1が、エレクトロポレーションによりB.coagulans DSM1へと形質転換される。形質転換体は、7mg/Lクロラムフェニコールを補われたBCプレート上で45℃で成長されて得られた。プラスミド単離による形質転換の確認の後、単独のコロニーが、対数増殖中期へとBC培地中で45℃で培養され、その後温度は55℃にシフトされそしてインキュベーションは1時間続けられる。希釈系列が、BCプレート上に蒔かれ、そして55℃で一晩インキュベートされる。コロニーはプールされ、そして第2の希釈系列においてBCプレート上に蒔かれる。55℃での一晩インキュベーション後、コロニーは、一重交差現象を確認するPCR分析により、組み込みについて試験される。1のコロニーが、抗生物質を有するBC培地中での55℃での、1/1000希釈の逐次の移行(約10世代)による継代培養の為に選ばれる。約100世代の後、希釈系列は、抗生物質を有するBCプレート上に蒔かれた。55℃での一晩インキュベーション後、コロニーシリーズは、コロニーPCRによりldhL遺伝子の欠如について試験される:代わりに、コロニーPCRによるldhL遺伝子の欠如について試験することにより、第1の現象の一重交差変異体のうちの二重交差変異体が選抜されうる。これらPCR反応においてネガティブであるコロニーからの染色体DNAが単離さらそしてさらにldhAの存在について評価され、そして正確な組み込みがサザンブロット分析により確認される。
【0113】
実施例7.改変されたB.coagulans DSM1によるエナンチオピュアなR−ラクテート生産
【0114】
1)改変された株の構築
実施例6において記載された方法により、工業的B.coagulans株からのldhLプロモーターに結合された、工業的L.delbrueckii株からのldhA遺伝子及びpMH3からのcat遺伝子を有するカセットにより置換されたldhL遺伝子を有するB.coagulans DSM1派生体が構築された。得られた株は、RDSM1と呼ばれた。
【0115】
2)RDSM1による発酵
RDSM1株が、工業的な条件を模倣するバッチ培養において成長された。発酵後、有機酸の濃度と乳酸の光学純度とが測定された(表3)。B.coagulans RDSM1により生産されたラクテートは、99.5%についてR体であった。副産物の形成における違いは、B.coagulans DSM1(実施例5)と比較して検出されなかった。2−ヒドロキシ酪酸、酢酸、酪酸、ギ酸、ピルビン酸の濃度は、検出限界(ピルビン酸については<0.02%;他については<0.01%)より低かった。コハク酸の濃度は、0.1%(v/v)より低かった。これらの結果は、野生型B.coagulans遺伝子の染色体欠失、並びに(非相同)遺伝子の染色体への挿入及び機能的な発現が可能であり、そしてB.coagulansによるエナンチオピュアなR−ラクテートの生産に適用されうることを実証する。
【0116】

【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】3つの形質転換されたB.コアギュランス DSM1分離株から単離されたプラスミド物質により形質転換された3つのE.coliから単離されたpNW33Nの制限分析を示す図である。
【図2】pJS28のプラスミド地図である。
【図3】B.コアギュランスATCC23498アミラーゼプロモーター領域の合成の塩基配列である。
【図4】pJS25のプラスミド地図である。
【図5】pJS26のプラスミド地図である。
【図6】pJS27のプラスミド地図である。
【図7】pRK1のプラスミド地図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種を遺伝子操作により改変する方法であって:
pSH71レプリコンまたはその相同体を含有する熱感受性プラスミド系中にクローン化されたDNAを、通性嫌気性且つホモ乳酸的である中等度好熱性バチルス種の細胞中へ導入すること;
選択培地上で、プラスミド複製にとって許容可能な温度で該細胞を培養して、該選択培地上で該許容可能な温度で成長することができる形質転換された細胞を選ぶこと;
選択培地上で、プラスミド複製にとって許容可能でない温度で該形質転換された細胞を培養して、該選択培地上で該許容可能でない温度で成長することができる形質転換された細胞を選ぶこと
を含む前記方法。
【請求項2】
該DNAが所望の機能を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プラスミド複製にとって許容可能でない温度での該培養が、好ましくは相同組み換えにより、該DNAが該バチルス染色体中へ導入されることを許す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
望ましくない機能が、相同組み換えにより該バチルス染色体から除去される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
相同組み換えにより、所望の機能が該バチルス染色体中に導入され且つ同時に望ましくない機能が該バチルス染色体から除去される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
配列ID NO:1に従うアミノ酸配列又は、R−ラクテートデヒドロゲナーゼ活性を有するそれと実質的に相同なアミノ酸配列をコードする、該バチルス種中で機能的であるプロモーターに結合されたDNA配列を含むDNA構築物により、S−ラクテートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を置換することによって該バチルス種が改変される、請求項6に記載の方法。
【請求項7】
該プロモーターが、除去された内因性S−ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターである、請求項7に記載の方法。
【請求項8】
該バチルス種が、バチルス スミシー及び/又はバチルス コアギュランスである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該バチルス種が、胞子形成欠損性である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により得られうる、通性嫌気性であり且つホモ乳酸的バチルス株の派生体である、遺伝子操作された中等度好熱性バチルス株。
【請求項11】
R−乳酸を生産する、遺伝子操作されたバチルス種。
【請求項12】
関心のある化合物、好ましくは乳酸及び/またはラクテートの調製方法であって、請求項11の遺伝子操作された通性嫌気性である中等度好熱性バチルス種が用いられる前記方法。
【請求項13】
R−乳酸及び/又はR−ラクテートが生産される、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−536017(P2009−536017A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551719(P2008−551719)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【国際出願番号】PCT/EP2007/000623
【国際公開番号】WO2007/085443
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(306003419)ピュラック バイオケム ビー.ブイ. (40)
【Fターム(参考)】