説明

ホワイトオーク抽出物を用いた柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制剤および劣化抑制方法

【課題】 柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品の製造、流通、保存等の各段階で、加熱もしくは経時的に生成する柑橘系植物に由来する香味の劣化臭原因物質の生成を抑制でき、また安全性が高く、しかも最終製品本来の香味又は香気に影響を与えることのない劣化臭生成抑制の技術を提供する。
【解決手段】 ホワイトオーク抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制剤。
ホワイトオーク抽出物を添加もしくは使用することを特徴とする、柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制方法。
柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品であって、上記の香味の劣化抑制剤が配合されていることを特徴とする製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホワイトオーク抽出物を主成分とした柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制剤、該劣化抑制剤を用いた柑橘系植物に由来する香味(柑橘系香気)の劣化抑制方法、および柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品(食品、洗剤、芳香剤等)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレーバーの劣化防止については、ポリフェノールがその作用効果を有しているということは、良く知られたことであり、その作用は、ポリフェノールの抗酸化作用にあるとするのが通説となっている。
【0003】
特開2001−136940号公報(特許文献1)には、レモン果皮抽出物を主成分とするフレーバー耐久剤、特に飲料用のフレーバー耐久剤について、抗酸化剤としての機能を下回る濃度において、フレーバー耐久を有する効果を発揮する濃度レベルが存在することが開示されている。
【0004】
特開2004−123788号公報(特許文献2)には、シトラール又はシトラール含有製品に抗酸化性成分と遷移金属イオンを含有させることにより、シトラールに由来する劣化臭成分の生成を抑制するシトラール又はシトラール含有製品の劣化臭生成抑制方法、劣化臭成分がp−クレゾールであるシトラール又はシトラール含有製品の劣化臭生成抑制方法、抗酸化性成分がエピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、没食子酸、クエルシトリン、アスコルビン酸であることを特徴とするシトラール又はシトラール含有製品の劣化臭生成抑制方法が開示されている。
【0005】
特開2004−18613号公報(特許文献3)には、アシタバ、アボカド、オオバコ、半発酵茶葉、発酵茶葉、エビスグサおよびサンザシからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒抽出物を含有するシトラール又はシトラール含有製品の劣化臭生成抑制剤、前記溶媒抽出物が、水、極性有機溶媒またはこれらの混合物で抽出して得られるものであるシトラール又はシトラール含有製品の劣化臭生成抑制剤、劣化臭がp−クレゾール及びp−メチルアセトフェノンによる劣化臭であるシトラール又はシトラール含有製品の劣化臭生成抑制剤が開示されている。
【0006】
特開2004−231894号公報(特許文献4)には、ヤーコンから抽出した抽出物からなる柑橘系香味の劣化抑制、ヤーコンから抽出した抽出物からなるシトラールの環化抑制剤、ならびに、香味劣化の原因の一つは、柑橘系香味成分、特にレモンフレーバー等の香味成分として知られるシトラールが光や熱によって環化反応を起こし、フォトシトラール等の物質へ変化するためであると考えられていることが開示されている。
【0007】
特開2003−96486号公報(特許文献5)には、次のことが開示されている。
茶ポリフェノールを香味劣化抑制剤として含有する柑橘系フレーバー組成物。茶ポリフェノールがシトラールのp−メチルアセトフェノンへの分解を抑制すること。さらに、シトラールは、柑橘系フレーバー、特にレモンフレーバー中の主要香気成分であり、レモン様のフレッシュな香気を付与するための重要な香気成分である。しかしながら、シトラールは不安定で、酸性条件下では酸触媒反応により環化または酸化反応を起こし、分解される。それに伴い、レモン様のフレッシュ感が消失するとともに、これらの環化、酸化生成物がオフフレーバーとなり、フレーバーとしての寿命が短くなることが知られている(Perfumer & Flavorist,Vol.19,July/August,pp.23−32(1994))。シトラールの環化と酸化反応は、下記の分解経路に示すように、まず、環化反応により化合物Bで表されるp−メンタジエン−8−オールとなり、ついで酸化されて化合物Cで表されるp−サイメン−8−オールとなり、さらに化合物Dで表されるα−p−ジメチルスチレンを経て、化合物Eで表されるp−メチルアセトフェノンに分解されることが知られている(Z.Lebensm.Unters.Forsch.,Vol.187,pp.35−39(1988))。これらの分解物の中でも閾値が低く、アーモンド様の、シトラスとは異質の香気を有するp−メチルアセトフェノンの生成はフレーバーにとって好ましくないものである。
【0008】
シトラールの分解経路
【化1】

【0009】
特開2003−82384号公報(特許文献6)には、柿タンニン由来物質のシトラールの香気劣化抑制剤としての効果が開示されている。
【0010】
特開2003−79335号公報(特許文献7)には、次のことが開示されている。
カキノキ科カキノキ属植物の果実又は未熟果由来のタンニン又は該タンニン精製物を含有する食品の香味劣化抑制剤。カキノキ科カキノキ属植物がカキ(Diospyros kaki)、マメガキ(Diospyros lotus)、アブラガキ(Diospyros oleifera)、アメリカガキ(Diospyros virginiana)、ケガキ(Diospyros discolor)又はこれらの変種である香味劣化抑制剤。さらに、特に、シトラールは、レモン様の特徴的な香気・香味を有する重要なフレーバー成分であるが、光の照射や加熱により減少する。すなわち異性化、酸化、分解等によりシトラールの化学構造が変わり、その結果劣化臭成分に変化することが知られている(R.C.Cookson et al.;Tetrahedron,19,1995(1963))ことが開示されている。
【0011】
特開2002−338990号公報(特許文献8)には、次のことが開示されている。
エピガロカテキンを含有することを特徴とするシトラール又はシトラール含有製品の劣化臭生成抑制剤。エピガロカテキンと併せてエピガロカテキンガレート及び/又はエピカテキンを含有するシトラール又はシトラール含有製品の劣化臭生成抑制剤。 劣化臭がp−クレゾール及びp−メチルアセトフェノンによる劣化臭であるシトラール又はシトラール含有製品の劣化臭生成抑制剤。さらに、シトラールはレモン様の特徴的な香りを有する重要な成分であるが、加熱もしくは経時的に減少しオフフレーバーが生成することが知られている〔Peter Schieberle and Werner Grosch; J. Agric. Food Chem., 36, 797-800(1988)〕。特に酸性条件下ではシトラール含有製品中のシトラールは、製造、流通、保存期間中の各段階で減少し、環化、水和、異性化等の反応によりその構造が変化し、その結果フレッシュ感の低下を引き起こす。さらにはシトラール由来の生成物の酸化反応により非常に強い劣化臭原因物質であるp−メチルアセトフェノン及びp−クレゾールが生成することにより著しい製品の品質低下を招く。従来、シトラールから生成する種々の劣化臭原因物質に関して、その発生防止の目的でイソアスコルビン酸等の酸化防止剤の添加〔Val E. Peacock and David W. Kuneman; J. Agric. Food Chem., 33, 330-335(1985)〕等様々な試みがなされたが、p−クレゾールおよびp−メチルアセトフェノンの生成抑制に関しては有効な方法は見出されていない。
【0012】
特開2002−180081号公報(特許文献9)には、カリン、マンゴー、マンゴスチン、ミロバラン、ザクロまたはカカオから溶媒抽出された各抽出物、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、酵素処理ルチン、クエルセチン、フェルラ酸、カフェー酸、ロズマリン酸、シリンガ酸および没食子酸からなる群より選ばれる少なくとも1種以上からなるシトラールの劣化臭生成抑剤、および劣化臭がp−メチルアセトフェノンによる劣化臭である劣化臭生成抑制剤が開示されている。
【0013】
特開2001−61461号公報(特許文献10)には、柑橘類由来のエリオシトリンまたはエリオシトリン含有物を有効成分とするフレーバ劣化防止剤が開示されている。
【0014】
特開2003−33164号公報(特許文献11)には、ミリセチン類とクエルセチン類を有効成分とする香味劣化抑制剤、さらに、飲食物が熱、酸素又は光によって晒されることにより生じる香味劣化現象、特に光、とりわけ太陽光及び人工光に長期間照射されることによって生じる香味劣化現象に対して、優れた抑制作用を有することを特徴とする香味劣化抑制剤及び香味劣化抑制方法であって、詳細には、飲食物にその有効成分としてミリセチン類とクエルセチン類を特定の配合比でもって含有させることにより、飲食品の香味劣化を抑制するものであることが開示されている。
【0015】
特開平11−137224号公報(特許文献12)には、ユーカリ、丁字、ミロバラン、イチゴ、サンシュユ、ゲンノショウコ、ザクロ、ヒシ、五倍子及びアカメガシワからなる群より選ばれる少なくとも1種の天然物の溶媒抽出物を含有する香味劣化抑制剤、および天然物が、ユーカリ、ミロバラン、イチゴ及びザクロからなる群より選ばれる少なくとも1種である香味劣化抑制剤が開示されている。
【0016】
特許第3039706号公報(特許文献13)には、次のことが開示されている。
クロロゲン酸を含有せしめることを特徴とする天然香料の劣化防止方法。さらに、天然香料は、一般的に極めて不安定な化合物の集合からなっており、保存中の熱、光、空気、酵素等の作用を受け易く、それによって変質し、品質の低下を招くことはよく知られている。該天然香料の変質を起こす反応は酸化、還元、脱水素、加水分解、重合、閉環、開環、エステル化、脱炭酸、二重結合の移動など数多くの反応が関与している。従って、従来既知の酸化防止剤の全てが必ずしも天然香料の劣化防止に有効であるとはいえない。さらに、従来既知の天然物から得られる抗酸化成分は、通常それぞれの天然物原料由来の特有の香気香味を随伴しているため、油脂類或いは一般の油脂含有飲食品等の複合組成物に配合することは可能であっても、香気香味それ自体を目的とするフレーバー組成物または天然香料に対しては、該抗酸化成分が異味異臭の原因となり、たとえ酸化防止効果があるとしても、それを添加したフレーバーや天然香料の品質を低下させるという重大な課題があった。
【0017】
特許第2983386号公報(特許文献14)には、次のことが開示されている。
(a)クロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸から選ばれる少なくとも1種よりなる抗酸化性成分と、(b)プロアントシアニジン少量体よりなる抗酸化性成分からなる飲食品のフレーバー劣化防止剤。(a)クロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸から選ばれる少なくとも1種よりなる抗酸化性成分と、(b)プロアントシアニジン少量体よりなる抗酸化性成分を含有する改善されたフレーバー劣化防止性を有する飲食品。さらに、飲食品のフレーバーは、一般的に極めて不安定な化合物の集合からなっており、飲食品の加工又は保存中の熱、光、空気、酵素等の作用を受け易く、それによって変質し、品質の低下を招くことはよく知られている。飲食品が変質を起こす反応には、酸化、還元、脱水素、加水分解、重合、閉環、開環、エステル化、脱炭酸、二重結合の移動など数多くの反応が関与している。
【0018】
特許第2916415号公報(特許文献15)には、コーヒー豆をアルカリ加水分解し、加水分解液を酸で中和して得られるコーヒー豆加水分解抽出物からなるフレーバー用熱劣化抑制剤が開示されている。
【0019】
特開2000−136145号公報(特許文献16)には、樽材から抽出された樽材抽出物を有効成分とする抗酸化剤、樽材がオーク材である抗酸化剤、樽剤抽出物は抗酸化能を有するために食品等に添加すると、酸化防止効果により食品の品質保持に有用であることが開示されている。
【0020】
柑橘系植物に由来する香味のフレーバー劣化は、特開2002−338990号公報(特許文献8)や特開2003−96486号公報(特許文献5)に開示されているように、環化、水和、異性化等の反応によりその構造が変化し、その結果フレッシュ感の低下を引き起こすのが、最大の要因であり、この点について、特開2000−136145号公報(特許文献16)は、オーク抽出物の作用について抗酸化とだけ謳っているものの、フレーバー劣化の真の要因については開示しておらず、そのため、飲食品の品質保持に有用であるとしているものの、柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制については何らの開示もされていない。
【特許文献1】特開2001−136940号公報
【特許文献2】特開2004−123788号公報
【特許文献3】特開2004−18613号公報
【特許文献4】特開2004−231894号公報
【特許文献5】特開2003−96486号公報
【特許文献6】特開2003−82384号公報
【特許文献7】特開2003−79335号公報
【特許文献8】特開2002−338990号公報
【特許文献9】特開2002−180081号公報
【特許文献10】特開2001−61461号公報
【特許文献11】特開2003−33164号公報
【特許文献12】特開平11−137224号公報
【特許文献13】特許第3039706号公報
【特許文献14】特許第2983386号公報
【特許文献15】特許第2916415号公報
【特許文献16】特開2000−136145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品の製造、流通、保存等の各段階で、加熱もしくは経時的に生成する柑橘系植物に由来する香味の劣化臭原因物質(主としてp−メチルアセトフェノン)の生成を抑制でき、また安全性が高く、しかも最終製品本来の香味または香気に影響を与えることのない劣化臭生成抑制剤、ならびに劣化臭生成抑制方法を提供することを目的とする。
【0022】
本発明者は、ホワイトオーク抽出物を使用することにより、柑橘類に由来する香味の劣化臭を抑制でき、上記の課題を解決することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、下記の構成を要旨とする、柑橘類に由来する香味もしくは柑橘系香気の劣化抑制剤、該劣化抑制剤を用いた柑橘系香気の劣化抑制方法、および柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品に関するものである。
(1)ホワイトオーク抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制剤もしくは劣化臭生成抑制剤。
(2)ホワイトオークがホワイトオーク(Quercus alba)であることを特徴とする、上記(1)に記載の香味の劣化抑制剤。
(3)ホワイトオーク抽出物を添加もしくは使用することを特徴とする、柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制方法もしくは劣化臭生成抑制方法。
(4)ホワイトオークがホワイトオーク(Quercus alba)であることを特徴とする、上記(3)に記載の香味の劣化抑制方法。
(5)柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品であって、上記(1)または(2)に記載の香味の劣化抑制剤が配合されていることを特徴とする製品。
(6)香味の劣化抑制剤が1ppm〜3000ppmの割合で配合されていることを特徴とする、上記(5)に記載の製品(食品、洗剤、芳香剤等)。
【発明の効果】
【0023】
本発明の劣化臭生成抑制剤を、柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品に使用することにより、経時変化もしくは加熱による柑橘系植物に由来する香味の劣化臭生成を効果的に抑制することができる。従って、本発明の劣化臭生成抑制剤の使用により、柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品の製造、流通、保存期間中の各段階で徐々に進行する劣化臭の生成を効率的に抑制し、フレッシュ感を維持することにより、安価かつ長期間安定に製品の品質を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明による柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制剤もしくは劣化臭生成抑制剤は、ホワイトオーク抽出物を有効成分として含有することを特徴とするものであることは前記したところである。本発明において、柑橘系植物に由来する香味とは、レモン、ミカン等の柑橘系植物(もしくは柑橘類)に含まれる柑橘系香気もしくはフレーバー(シトラール等)を意味する。
【0025】
オーク材からの抽出物には、ポリフェノールが含まれており、それは縮合型タンニンであるとされていること、またこのポフェノールは、抗酸化作用があることは、前述のように知られたことであるが、後記実施例の評価においてホワイトオーク材からの抽出物が優れた効果を示したことから、本発明では、ホワイトオーク、すなわち、学名(Quercus alba, Quercus bicolor, Quercus garryana, Quercus macrocarpa, Quercus muehlenbergii, Quercus prinus, Quercus montana, Quercus lyrata, Quercus michauxii, Quercus stellata, Quercus spp.)、別名( アメリカンホワイトオーク、チェストナットオーク、アパラチアンオーク、アパラチアンオーク、ノーザンオーク、チェリーオーク、オレゴンホワイトオーク、ウェスタンホワイトオーク)からの抽出物を対象としており、ホワイトオーク・Quercus albaが特に好ましいものである。したがって、レッドオーク(ブナ科 Quercus rubra =Q. borealis )、スカーレットオーク(Q.coccinea)、ブラックオーク(Q.velutina)、ピンオーク(Q.palustris )、ウイローオーク(Q.phellos )、シュマードオーク(Q.schmardii )などからの抽出物は対象としていない。
【0026】
ホワイトオーク材は、新材でも、例えばウィスキー樽のような古材でも抽出の用に供することができる。抽出に用いる液体もしくは溶媒としては、水、熱水、極性有機溶媒(エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、アセトン等)のいずれも使用可能であるが、水、熱水、エタノールが一般的である。抽出は、通常、ホワイトオーク材(チップの形態)に5〜10倍量の溶媒を加え、50〜90℃で1〜3時間程度の条件で撹拌抽出し、その後濾過を行って不溶物を除くのが一般的である。本発明においては、このようにして得られた抽出液または下記のようにこれを精製したものをホワイトオーク抽出物とする。ホワイトオーク抽出物としては抽出液の形態の他、必要に応じて加熱、減圧濃縮、凍結乾燥等により乾燥された形態も包含されるが、乾燥形態が好ましい。
【0027】
抽出物の精製度を高めるために、合成吸着剤、特に制限されるものではないが、例えば、スチレンとジビニルベンゼンの共重合体、エチルビニルベンゼンとジビニルベンゼン共重合体、2,6−ジフェニル−9−フェニルオキサイドの重合体、メタアクリル酸とジオールの重縮合ポリマー及びシリカゲル表面のシラノール基の反応性を利用して、これに例えば、アルコール類、アミン類、シラン類などを化学結合させた化学結合型シリカゲル(修飾シリカゲル)などを例示することができる。かかる合成吸着剤の好ましい例としては、その表面積が、例えば、300m2/g以上、より好ましくは約500m2/g以上、および細孔分布が好ましくは約10Å〜約500Åである多孔性重合樹脂を例示することができる。この条件に該当する多孔性重合樹脂としては、例えば、HP樹脂(三菱化学社製)、SP樹脂(三菱化学社製)、XAD−4(ローム・ハス社製)などがあり、市場でも容易に入手することができる。また、メタアクリル酸エステル系樹脂も、例えば、XAD−7およびXAD−8(ローム・ハス社製)などの商品として入手することができ、これらを使用することができる。
【0028】
また、限外濾過膜(望ましいものとして、分画分子量5k〜100k)により、さらに精製度を高めることができる。
【0029】
本発明は、ホワイトオーク抽出物(本発明劣化臭生成抑制剤)を添加もしくは使用することを特徴とする柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制方法もしくは劣化臭生成抑制方法、および、柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品であって、ホワイトオーク抽出物(本発明劣化抑制剤)が配合されていることを特徴とする製品にも関する。
【0030】
本発明を適用し得る柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品としては特に限定はなく、食品では炭酸飲料、果汁、果汁飲料、乳性飲料、茶飲料等の飲料類、ヨーグルト、ゼリー、アイスクリーム等の冷菓類、キャンディー、水飴、ガム等の菓子類、ドレッシング等の調味液類が挙げられる。また、食品以外では、柑橘系植物に由来する香料等の食品添加物の他、柑橘系植物に由来する香味物質を含有する香水、化粧品、洗口剤、歯磨、洗剤、石鹸、シャンプー、リンス、入浴剤、芳香剤等の香粧品が挙げられる。
【0031】
柑橘系植物由来の香味物質を含有する製品に対するホワイトオーク抽出物の添加量(もしくは使用量)は、抽出物の精製度、添加対象物、香味物質の含量によって異なり、一律に論ずることはできないが、上記香味物質を含む通常の製品(食品、洗剤、芳香剤等)の場合、一般に、前記ホワイトオーク抽出物を乾燥形態で概ね1〜3000ppm、好ましくは10〜2000ppmとなる。この濃度レベルのホワイトオーク抽出物を上記製品に添加・配合することにより、経時変化もしくは加熱による柑橘系植物に由来する香味の劣化臭生成を効果的に抑制することができる。
【0032】
上述のようにして、本発明は、ホワイトオーク抽出物を使用することにより、柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品の製造、流通、保存期間中の各段階で徐々に進行する劣化臭の生成を効率的に抑制し、フレッシュ感を維持することにより、安価かつ長期間安定に品質が維持された製品を提供することができる。
【0033】
本明細書において、特に断りのない限り%表示は重量%を意味するものである。
【実施例】
【0034】
以下に試験例、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【0035】
〔試験例〕
[試験1]ホワイトオーク抽出物の調製法
ホワイトオークチップ(Quercus alba)100gにそれぞれ700gのA:95%エタノール、B:50%エタノール、C:水を添加し、70℃にて2時間撹拌抽出を行い、濾過を行なった。これらの抽出物の効果を確認するためにレモンフレーバー(0.1重量%添加)を添加した飲料を調整し、上記抽出物(液状の形態)を3000ppm添加して40℃7日間虐待試験を行ない、10名のパネラーで評価した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
B 50%エタノール抽出物 3000ppm, C 水抽出物 3000ppm にレモンフレーバーの劣化抑制効果が特に、大きく認められた。
【0038】
[試験2] ホワイトオーク抽出物の製造法の検討
製造例1から製造例5について、抽出物の香味劣化抑制効果を確認した。
【0039】
製造例1
ホワイトオークチップ(Quercus alba)100gに50%エタノール700gを添加し、70℃にて2時間撹拌抽出を行った。冷却後、固液分離し、抽出液650gを得た。抽出液を減圧濃縮乾固しホワイトオーク抽出物5gを得た。
【0040】
製造例2
ホワイトオークチップ(Quercus alba)100gに水700gを添加し、70℃にて2時間撹拌抽出を行った。冷却後、固液分離し抽出液620gを得た。抽出液を減圧濃縮乾固しホワイトオーク抽出物8gを得た。
【0041】
製造例3
ホワイトオークチップ(Quercus alba)100gに水700gを添加し、70℃にて2時間撹拌抽出を行った。冷却後、固液分離し抽出液620gを得た。抽出液をダイヤイオンHP-20(三菱化学(株))50mLに通液した。水にて洗浄後、95%エタノール500mLを通液し、95%エタノール脱着液400gを得た。脱着液を減圧濃縮乾固し、ホワイトオーク抽出物5gを得た。
【0042】
製造例4
ホワイトオークチップ(Quercus alba)100gに水700gを添加し、70℃にて2時間撹拌抽出を行った。冷却後、固液分離し抽出液620gを得た。抽出液をUF膜PSU-10K(ザルトリウス(株))により濃縮した後、減圧濃縮乾固し、ホワイトオーク抽出物7gを得た。
【0043】
製造例5
ホワイトオークチップ(Quercus alba)100gに95%エタノール700gを添加し、70℃にて2時間撹拌抽出を行った。冷却後、固液分離し、抽出液660gを得た。抽出液を減圧濃縮乾固しホワイトオーク抽出物3gを得た。
【0044】
レモンフレーバー(添加量:0.1重量%)を添加したレモン飲料(pH3.0、Bx12°)に、下記の成分を添加し、40℃7日間の虐待試験を行った。虐待していない飲料を対照品として、よく訓練されたパネラー10人により官能評価を行い、その結果を表2に示す。なお、官能評価の評価基準は下記の評価をしたパネラーの人数で示す。
・添加成分
実施例1:製造例1のホワイトオーク抽出物(添加率: 50ppm)
実施例2:製造例2のホワイトオーク抽出物(添加率: 50ppm)
実施例3:製造例3のホワイトオーク抽出物(添加率: 50ppm)
実施例4:製造例4のホワイトオーク抽出物(添加率: 50ppm)
実施例5:製造例5のホワイトオーク抽出物(添加率: 50ppm)
比較例1:無添加
比較例2:ビタミンC(添加率: 0.025%)
・官能評価基準
評価A:レモンフレーバーは劣化せず保たれている
評価B:レモンフレーバー感は減少するがオフフレーバーは感じない
評価C:レモンフレーバー感はないがオフフレーバーは感じない
評価D:レモンフレーバーは完全に損なわれており異臭を感じる
【0045】
【表2】

【0046】
製造例1,製造例2,製造例3,製造例4,製造例5のいずれもレモンフレーバーの劣化抑制効果があったが、特に製造例3の効果が優れていた。
【0047】
[試験3] シトラール含有溶液モデル試験(1)
1/10Mクエン酸−1/5Mリン酸水素二ナトリウムで調整したpH3.0の緩衝溶液に、蔗糖を5重量%、シトラールを10ppmとなるように添加し酸性シトラール溶液を調製した。この溶液に製造例3と同様の方法で調製したホワイトオーク(Quercus alba)抽出物300ppm,225ppm,150ppm,75ppmを添加し、100ml容量のガラスバイアル(ポリテトラフルオロエチレン製キャップ付き)に各100g詰めた。それぞれのバイアルを恒温槽中(40℃)にて3日間保管した。各酸性シトラール溶液を高速液体クロマトグラフィーにて、p−メチルアセトフェノンの生成量を測定した。図1にp−メチルアセトフェノンの生成量を示す。
【0048】
p−メチルアセトフェノンの測定は、下記のHPLC法にて行った。
Instrument : WATERS HPLC System
Column : TSKgel ODS-100S, 3.0×150mm(TOSOH)
Mobile phase : A(H2O:H3PO4=995:5) B(H2O:CH3CN:H3PO4=95:900:5)
20min linear gradient from 30%B in A to 100%B
Flow rate : 0.7ml/min
Detector : Waters 2996 Photodiode Array Detector (257nm)
Injection volume: 20μl
【0049】
図1より、ホワイトオーク(Quercus alba)抽出物により、p−メチルアセトフェノンの生成が著しく抑制されていることがわかる。
【0050】
[試験4] シトラール含有溶液モデル試験(2)
ホワイトオーク(Quercus alba)抽出物とカテキン(ファーマフーズ研究所)の効果の比較を下記の方法にて行った。
【0051】
(1)試験に使用したシロップの処方
果糖ブドウ糖液糖 160.0g
クエン酸 1.5g
クエン酸ナトリウム 0.17g
シトラール 30ppm
純水にて1000mlとする。 (pH 3.0、Bx 12.0°)
【0052】
(2)上記処方にて調製したシロップ液に下記酸化防止剤を添加した後、200ml透明ジュースびんにホットパック(90℃)し、冷却した。
【0053】
(3)添加した酸化防止剤
オーク抽出物:製造例3と同様の方法で調製 300ppm
カテキン PF-TP90(ファーマフーズ研究所) 100ppm
【0054】
(4)虐待方法
上記のジュースを40℃の恒温槽にて2日間保存試験を行った。
p−メチルアセトフェノンの測定は、試験2と同様である。結果を図2に示す。
【0055】
図2より、ホワイトオーク(Quercus alba)抽出物がカテキンよりも香味の劣化防止効果が優れていることがわかる。
【0056】
[試験5]
製造例3におけると同様の方法にて精製した種々のオーク抽出物のレモンフレーバーに対する劣化抑制効果を確認した。結果を表3に示す。虐待条件は、40℃、7日間とし、効果について、10名のパネルで評価した。効果大◎、効果あり○、効果ややあり△、効果なし×とした。
【0057】
【表3】

【0058】
表3より、ホワイトオークQuercus albaのレモンフレーバー劣化防止効果が最も優れていることがわかる。
【0059】
[試験6] レモン風味飲料
砂糖50g、クエン酸1g、レモン香料2g及び、製造例3によるホワイトオーク(Quercus alba)抽出物200ppm、100ppm添加し、精製水で全量を1000gに調整した。同様に、比較例として劣化臭生成抑制剤に代えて酸化防止剤(L−アスコルビン酸、ルチン、クロロゲン酸)を添加した溶液を調製した。この溶液を70℃にて10分間殺菌後、缶につめ、レモン風味飲料を作成し、50℃にて7日間、恒温槽中で保管した。習熟したパネル10名を選んで官能評価を行った。対照レモン風味飲料として劣化臭生成抑制剤及び酸化防止剤無添加の冷蔵保管品(評価点:0)と、劣化臭生成抑制剤および酸化防止剤無添加の50℃、7日間保管品(評価点:4)を使用し、各レモン風味飲料の香味の劣化度合いを相対評価した。その結果は表4のとおりである。
【0060】
なお、表4中の評価の点数は、以下の基準で採点した各パネルの平均点(少数点以下四捨五入)である。
(採点基準)
異味、異臭を非常に強く感じる:4点
異味、異臭を強く感じる :3点
異味、異臭を感じる :2点
異味、異臭を若干感じる :1点
異味、異臭を感じない :0点
* p−クレゾール様(薬品臭)、p−メチルアセトフェノン様(桂皮様)の異臭
【0061】
【表4】

【0062】
表4から明らかなように、ホワイトオークの抽出物からなる劣化臭生成抑制剤をレモン風味飲料に添加することにより、p−クレゾール様及びp−メチルアセトフェノン様の劣化臭の生成を強く抑制した。一方、レッドオーク抽出物、ルチン、クロロゲン酸、L−アスコルビン酸を添加してもp−クレゾール様及びp−メチルアセトフェノン様の劣化臭生成抑制効果はほとんど認められなかった。
【0063】
[試験7] 弱酸性リンス用モデルベース(pH 2.95)
下記の処方により弱酸性リンス用モデルベースを作成した。
メチルパラベン 0.1g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.3g
95%エタノール 1.0g
クエン酸 2.0g
クエン酸ソーダ 0.9g
精製水 96.6g
【0064】
上記モデルベース100gにレモン香料0.5g及び、製造例3によるホワイトオーク抽出物200ppm、100ppm添加して弱酸性リンス用モデルベースを作成し、50℃にて7日間、恒温槽中で保管した。同様に比較例の酸化防止剤としてレッドオーク抽出物、ルチン、クロロゲン酸、L−アスコルビン酸を表2に示す濃度添加して弱酸性リンス用モデルベースを作成し、40℃にて14日間、恒温槽中で保管し弱酸性リンス用モデルベースを作成した。習熟したパネル10名を選んで官能評価を行った。対照として劣化臭生成抑制剤及び酸化防止剤無添加の香料入りモデルベース冷蔵保管品(評価点:0)と、劣化臭生成抑制剤及び酸化防止剤無添加の香料入り40℃、14日間保管品(評価点:4)を使用し、各種劣化臭生成抑制剤及び酸化防止剤を添加した香料入りモデルベースの劣化度合いを相対評価した。その結果は表5のとおりである。
【0065】
なお、表5中の評価の点数は以下の基準で採点した各パネルの平均点(少数点以下四捨五入)である。
(採点基準)
異臭を非常に強く感じる:4点
異臭を強く感じる :3点
異臭を感じる :2点
異臭を若干感じる :1点
異臭を感じない :0点
* p−クレゾール様(薬品臭)およびp−メチルアセトフェノン
【0066】
【表5】

【0067】
表5から明らかなように、ホワイトオークの抽出物からなる劣化臭生成抑制剤を弱酸性リンス用モデルベースに添加することにより、p−クレゾール様及びp−メチルアセトフェノン様の劣化臭の生成を強く抑制した。一方、強い酸化防止剤であるルチン、クロロゲン酸、L−アスコルビン酸を添加してもp−クレゾール様及びp−メチルアセトフェノン様の劣化臭生成抑制効果はほとんど認められなかった。
【0068】
〔実施例〕
以下に本発明を実施例によって示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
下記の実施例では、製造例3によるホワイトオーク(Quercus alba)抽出物を用いた。
【0069】
[実施例1] 殺菌乳酸菌飲料
発酵乳原液(全固形分54%、無脂乳固形分4%)20gに蒸留水を加えて合計100gとなるように希釈した。レモン香料0.1g及びホワイトオークQuercus alba抽出物100ppm添加し、ガラス容器に充填後、殺菌(70℃、10分間)し、殺菌乳酸菌飲料を完成した。
【0070】
[実施例2] ヨーグルト飲料
牛乳94g、脱脂粉乳6gを混合後、殺菌(90〜95℃、5分間)した。48℃に冷却した後、スターターを接種した。これを40℃、4時間発酵させた。冷却後、5℃にて保存しヨーグルトベースとした。一方、糖液は上白糖20g、ペクチン1g、水79gを混合後、90〜95℃で5分間過熱し、ホットパック充填したものを使用した。上記ヨーグルトベース60g、糖液40g、シトラス香料0.1g、製造例3によるホワイトオーク(Quercus alba)抽出物100ppmを混合し、ホモミキサー処理しヨーグルト飲料を完成した。
【0071】
[実施例3] 洗口剤
以下の処方により洗口剤を作成した。

エタノール 15.00g
グリセリン 10.00g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 2.00g
サッカリンナトリウム 0.15g
安息香酸ナトリウム 0.05g
香料(シトラール含有品) 0.30g
リン酸二水素ナトリウム 0.10g
着色剤 0.20g
精製水 72.10g
製造例3によるホワイトオークQuercus alba抽出物 100ppm
【0072】
[実施例4] 化粧水
以下の処方により化粧水を調製した。

1,3−ブチレングリコール 60.0g
グリセリン 40.0g
オレイルアルコール 1.0g
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 5.0g
POE(15)ラウリルアルコールエーテル 5.0g
95%エタノール 100.0g
香料(シトラール含有品) 2.0g
メチルパラベン 1.0g
クチナシ黄色素 0.1g
精製水 781.9g
製造例3によるホワイトオーク(Quercus alba)抽出物 100ppm
【0073】
上記の実施例1〜実施例4については、50℃、5日間の保管後の官能評価にて、いずれも、試験4における評価基準で、効果大(◎)のレベルであることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】シトラール入り酸性飲料の40℃虐待前後におけるp−メチルアセトフェノン濃度を示すグラフ。
【図2】ホワイトオーク抽出物の香料劣化防止効果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホワイトオーク抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制剤。
【請求項2】
ホワイトオークがホワイトオーク(Quercus alba)であることを特徴とする、請求項1に記載の香味の劣化抑制剤。
【請求項3】
ホワイトオーク抽出物を添加もしくは使用することを特徴とする、柑橘系植物に由来する香味の劣化抑制方法。
【請求項4】
ホワイトオークがホワイトオーク(Quercus alba)であることを特徴とする、請求項3に記載の香味の劣化抑制方法。
【請求項5】
柑橘系植物に由来する香味物質を含有する製品であって、請求項1または2に記載の香味の劣化抑制剤が配合されていることを特徴とする製品。
【請求項6】
香味の劣化抑制剤が1ppm〜3000ppmの割合で配合されていることを特徴とする、請求項5に記載の製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−36980(P2006−36980A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220575(P2004−220575)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(593046706)キリンディスティラリー株式会社 (4)
【Fターム(参考)】