説明

ホース内管用樹脂組成物及びホース

【課題】柔軟で耐油性に優れたホース内管用樹脂組成物と、このホース内管用樹脂組成物によって内管を構成したホースを提供する。
【解決手段】架橋アクリルゴム微粒子を含むポリアミド樹脂よりなるホース内管用樹脂組成物。ポリアミド樹脂と架橋アクリルゴム微粒子との配合比(重量比)が75/25〜40/60である。架橋アクリルゴム微粒子の粒径が10〜200nmである。このホース内管用樹脂組成物よりなる内管を有したホース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホース内管用樹脂組成物に係り、特に自動車用ホースなど耐油性を求められるホースの内層に好適なホース内管用樹脂組成物に関する。また、本発明は、このホース内管用樹脂組成物にて内層を構成した、柔軟性に優れたホースに関する。
【背景技術】
【0002】
I. 従来、耐油性を求められるホースの内管にはナイロンなどのポリアミド樹脂が使用されてきた。ナイロンは非常に硬いため、ホースに必要な柔軟性を確保するために可塑剤、ゴム、エラストマーが添加されていた。
【0003】
II. 特開平8−325421にはホース内管、チューブ形状をポリアミド樹脂、エチレン成分及び/又はプロピレン成分を主たる構成成分とするオレフィン重合体のカルボン酸変性体と可塑剤からなる樹脂組成物が記載されている。
【0004】
III. 特許2938538には、ホースの内管を、ポリアミド樹脂が少なくとも連続相を、アクリルゴムが少なくとも不連続相を構成するポリアミド/アクリルゴムグラフトポリマーアロイを主成分とする組成物で形成することが記載されている。
【特許文献1】特開平8−325421
【特許文献2】特許2938538
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特開平8−325421のホース内管、チューブ形状にあっては、長期的に見ると、該ホースにオイルを通液し続けた場合、可塑剤がオイル中に溶け出してしまう為、柔軟性が損なわれてしまう。また、高温下で長期間おかれた場合にも、可塑剤が揮発してしまう為に、同様の現象が起こる。
【0006】
上記特許2938538のホースにあっては、ポリアミド/アクリルゴムグラフトポリマーアロイを用いている。ポリアミド/アクリルグラフトポリマーである為に、ポリアミド/アクリル比率を変更する為には、ポリマーから修正する必要があり、配合の自由度に課題が残る。また、グラフト重合の為に、モノマー未反応物が残り、耐油性評価を行なった際に未反応のモノマーがオイル中に溶け出してしまうことがある。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、柔軟で耐油性に優れたホース内管用樹脂組成物と、このホース内管用樹脂組成物によって内管を構成したホースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1のホース内管用樹脂組成物は、架橋アクリルゴム微粒子を含むポリアミド樹脂よりなるものである。
【0009】
請求項2のホース内管用樹脂組成物は、請求項1において、ポリアミド樹脂と架橋アクリルゴム微粒子との配合比(重量比)が75/25〜40/60であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3のホース内管用樹脂組成物は、請求項1又は2において、架橋アクリルゴム微粒子の粒径が10〜200nmであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4のホース内管用樹脂組成物は、請求項1ないし3のいずれか1項において、架橋アクリルゴム微粒子が平均粒径20μm以下の2次凝集粒子となってポリアミド樹脂中に分散していることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5のホースは、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のホース内管用樹脂組成物よりなる内管を有したものである。
【発明の効果】
【0013】
架橋アクリルゴム微粒子は、ポリアミド樹脂よりも柔軟であるため、ポリアミド樹脂に架橋アクリルゴム微粒子を配合することにより、ホース内管用樹脂組成物が柔軟性に富んだものとなる。この架橋アクリルゴム微粒子は、ポリアミド樹脂中に分散し易いため、ホース内管用樹脂組成物を十分に柔軟化させることができる。この架橋アクリルゴム微粒子は、架橋されているところから、オイルを吸収しにくく、ホースの耐油性が良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明のホース内管用樹脂組成物は、架橋アクリルゴム微粒子を含むポリアミド樹脂よりなるものである。
【0016】
このポリアミド樹脂としては、ナイロン樹脂、例えばナイロン3、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン42、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン666(カプロラクタム−ヘキサメチレンアジパアミド共重合体)等の軟化点もしくは融点が160℃〜280℃の樹脂の単独、混合物または共重合体を使用することができる。
【0017】
架橋アクリルゴムとしては、例えば、α−オレフィン-アルキル(メタ)アクリレート共重合体、アルキル(メタ)アクリレートやアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの単独重合体または共重合体、これらとα−オレフィンとの共重合体、さらにはこれらの各種重合体のポリマーブレンド物等が用いられるが、これに限定されない。
【0018】
α−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、オクテン、デセン、ドデセン等のC〜C12のα−オレフィンを用いることができる。また、アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、第3ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のC〜C12のアルキル基、好ましくはC〜Cのアルキル基を有するアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、第3ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のC〜C12のアルキル基を用いることができる。アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシブチルメタクリレート、エトキシブチルメタクリレート等のC〜Cのアルコキシル基とC〜Cのアルキル基を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレートを用いることができる。
【0019】
これらの共重合体中には、さらにカルボキシル基、水酸基、塩素基、エポキシ基、ジエン基、イソシアネート基、アミン基、アミド基、オキサゾリン基等を有する架橋性基含有(メタ)アクリレートを共重合させてもよく、かかる架橋性基含有(メタ)アクリレートとしては、アルキル(メタ)アクリレート(およびアルコキシアルキル(メタ)アクリレート)を主成分とするアクリルゴムに用いられているものが例示される。
【0020】
架橋アクリルゴム微粒子としては、粒径が10〜200nm特に50〜150nmのナノレベルの微粒子が好適である。なお、この粒径は透過型電子顕微鏡の撮像から測定される。架橋アクリルゴム微粒子として粒径がナノレベルの微粒子を用いることにより、ポリアミド樹脂の耐油性を損なうことなくホース内管用樹脂組成物の柔軟性を高めることができる。
【0021】
このようなナノレベルの架橋アクリルゴム微粒子としては、三洋貿易株式会社より販売されているNarpow VP301を用いることができる。
【0022】
なお、微細な架橋アクリルゴム微粒子は、ポリアミド樹脂中に分散させた状態では凝集して2次粒子を形成するが、この2次粒子の粒径は20μm以下、特に10μm以下であることが好ましい。
【0023】
ポリアミド樹脂に対する架橋アクリルゴム微粒子の配合量は、ポリアミド樹脂/架橋アクリルゴム微粒子の重量比で75/25〜40/60特に65/35〜50/50が好適である。なお、架橋アクリルゴム微粒子の配合量が少なすぎると、ホース内管用樹脂組成物の柔軟性が不足し、多すぎると粘着性が発現し、固化してしまう。
【0024】
本発明の樹脂組成物には、ポリアミド樹脂に通常配合される可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの耐候性改良剤、帯電防止剤、難燃化剤、難燃化助剤、その他核剤、油剤、顔料、染料などが配合されてもよい。ただし、可塑剤はホース内管用樹脂組成物中において10重量%以下と少量であることが好ましい。
【0025】
本発明の樹脂組成物を得る方法は、特に制限されるものではなく、それ自体公知の種々の方法が用いられ得る。例えば、前記ポリアミド樹脂と架橋アクリルゴム微粒子と必要に応じて配合される添加剤とを前述した範囲の量で、V型ブレンダー、タンブラーなどの低速回転混合機やヘンシェルミキサーなどの高速回転混合機を用いてあらかじめドライ混合した後、一軸押出機、二軸押出機、二軸混練機などで溶融混練後造粒する方法、または、前記ポリアミド樹脂と架橋アクリルゴム微粒子とを前述した範囲の量で、前記低速回転混合機や高速回転混合機を用いてあらかじめドライ混合した後、一軸押出機、二軸押出機、二軸混練機などで溶融混練する際に、これら溶融混練機のシリンダーの途中から、可塑剤を前述した範囲の量で添加して、さらに、溶融混練後造粒する方法を適用することができる。
【0026】
このホース内管用樹脂組成物を用いてホース内管を製造するには、押出機の先端に円筒状の樹脂流路を有するダイスを付けた装置から、可塑化溶融したポリアミド樹脂組成物を押出し、円筒状の溶融樹脂組成物を適当なエアーギャップを経て、サイジングフォーマに導き、冷却固化するとともにチューブ状成形物の外径、肉厚などの寸法を制御、決定し、さらに、水槽などに導入して十分に冷却しながら引き取るなどの方法を採用することができるが、内管の製造方法、装置はこれに限定されない。
【0027】
次に、このような本発明のホース内管用樹脂組成物で構成されるホースについて、図面を参照して説明する。
【0028】
図1はホースの積層構造を示すように部分的に破断した斜視図である。
【0029】
図1のホース10は、内管1と、この内管1の上に設けられた補強糸層2と補強糸層2を覆う外被ゴム3とで構成される。
【0030】
自動車用のホースの場合、内管1の厚さは、成型ホースの用途によっても異なるが、通常0.5〜2.5mm、好ましくは1.0〜2.0mm程度である。
【0031】
補強糸層2は、PET繊維、アラミド繊維等の1種又は2種以上の補強繊維を用いて、編組又はスパイラル巻きして、編組層又は互いに対をなす方向に巻き付けられたスパイラル層として形成される。
【0032】
補強糸の繊度については、通常は1100〜3300dtex程度が好適であるが、これに限定されない。
【0033】
補強糸層2は、補強糸の編組層の1層で構成されるものであっても良いが、図1に示す如く、互いに対をなす方向に巻き付けられた2層のスパイラル層2A、2Bよりなるものであってもよい。このような2層構造の補強糸層2であれば、十分な耐圧性、耐久性を得ることができる。
【0034】
また、補強糸層2の形成に当っては、層2A,2Bの間に必要に応じて接着用のゴム層を介在させても良い。接着用ゴム層を設けることにより、補強糸層2の位置ずれ等を防止してホースの品質安定性を高めることができる。
【0035】
この補強糸層2上に外被ゴム3を形成する方法としては特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、公知の押出成形機を用いて、前記補強糸層2上に被覆形成することができる。
【0036】
外被ゴム3の厚みは、ホースの用途によっても異なるが、通常0.5〜2.5mm、好ましくは0.8〜2.0mmである。
【0037】
外被ゴム3のゴム材料としては、アクリル系ゴム材料、EPDM、ハロゲン化ブチルゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルゴム、ブタジエン、SBR、NRなど、各種のものを用いることができ、これらは単体で用いられてもよく、2種以上併用されてもよい。
【0038】
このホースは、例えば、内管1、補強糸層2及び外被ゴム3を形成して得られた未加硫ホースにマンドレルを差し込み、これをオーブンに入れ、非加圧条件下に熱風加熱してゴムを加硫すると共に各層間を接着して製造することができるが、ホースの製造方法はこれに限定されない。
【0039】
このような本発明のホースは、自動車のエンジンルームに配管されるオイルクーラーホースの他、エアブレーキホース、バキュームブレーキホース等に好適である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0041】
実施例1
ポリアミド樹脂としてナイロン12(宇部興産社製 3020U)30重量部とナイロン12(宇部興産社製 3014U)30重量部をドライブレンドしたものを用いた。
【0042】
架橋アクリルゴム微粒子として、三洋貿易(株)から販売されているNarpow VP−301を40重量部用いた。この架橋アクリルゴム微粒子の1次粒子径は100〜150nmである。
【0043】
これらのナイロンと架橋アクリルゴム微粒子とを2軸押出機(東洋精機社 ラボプラストミル 2D25W)にてシリンダー温度240℃ スクリュー回転数100rpmで溶融混練し、ペレット化した。
【0044】
得られたペレットを射出成形機から射出成形することにより、80×80×2mmの平板状サンプルを成形した。なお、射出成形機はクロックナー社製F45であり、シリンダー温度は250℃とし、金型温度は56℃とした。
【0045】
なお、透過型電子顕微鏡で観察したところ、架橋アクリルゴム微粒子は平均粒径1μmの2次粒子として分散していることが認められた。
【0046】
このサンプルの曲げ弾性率、耐油性(浸油時の体積膨潤率)及びオイルブリードについて次のようにして測定した。結果を表1に示す。
【0047】
<曲げ弾性率>
平板状サンプルから幅25mm、長さ80mmのサンプルを切り出し、3点曲げ試験を行なった。なお、下部支点間距離は32mm、試験速度は1mm/minとした。
【0048】
<耐油性>
平板状サンプルを約1cm角に切り、IRM903号油に100℃にて72h含浸し、含浸前後での比重を測定し、体積膨潤率を算出した。
【0049】
<オイルブリード>
平板状のサンプルの表面から油を除去し、24時間後に表面を目視にて観察し、オイルの染み出しが見られるか確認した。
【0050】
実施例2,3
上記各ナイロンと架橋アクリルゴム微粒子の配合比(重量比)を表1の通り25:25:50(実施例2)、15:15:70(実施例3)としたこと以外は実施例1と同様にして平板状サンプルを成形し、同様の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0051】
比較例1
架橋アクリルゴム微粒子を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして平板状サンプルを成形し、同様の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0052】
比較例2
射出用材料として、ナイロンとオレフィン樹脂とのブレンド品よりなる宇部興産3035JIX44を用い、実施例1と同様にして平板状サンプルを成形し、同様の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の通り、架橋アクリルゴム微粒子を配合することにより、柔軟で耐油性に優れたホース内管用樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のホースの一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1 内管
2 補強糸層
2A,2B スパイラル層
3 外被ゴム
10 ホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋アクリルゴム微粒子を含むポリアミド樹脂よりなるホース内管用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1において、ポリアミド樹脂と架橋アクリルゴム微粒子との配合比(重量比)が75/25〜40/60であることを特徴とするホース内管用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2において、架橋アクリルゴム微粒子の粒径が10〜200nmであることを特徴とするホース内管用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、架橋アクリルゴム微粒子が平均粒径20μm以下の2次凝集粒子となってポリアミド樹脂中に分散していることを特徴とするホース内管用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のホース内管用樹脂組成物よりなる内管を有したホース。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−102579(P2009−102579A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277843(P2007−277843)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】