説明

ホーニング装置

【課題】電解ドレッシングを行うホーニング装置の稼働コストを抑制する。
【解決手段】ホーニング装置の回転工具13には、シリンダボアを研削するホーニング砥石11,12が設けられるとともに、工具ガイドのガイド穴に摺接するガイド部材40が設けられる。ガイド部材40は、工具本体21に固定される基礎部材41と、基礎部材41に固定される摺接部材42とによって構成される。基礎部材41の材料としてはセラミックス材料が用いられ、摺接部材42の材料としては超硬合金材料が用いられる。このようにガイド部材40を構成することにより、ガイド部材40に絶縁性および耐摩耗性を向上させることが可能となる。これにより、ホーニング砥石11,12に対する電解ドレッシングを可能とした上で、ガイド部材40の摩耗を抑制することができるため、ガイド部材40の交換サイクルを延ばして稼働コストを抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに形成される円筒内面を研削する回転工具と、回転工具を円筒内面に案内する工具ガイドとを有するホーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダブロックには、ピストンが摺動自在に収容されるシリンダボアが形成されている。このシリンダボアの内面には、ホーニング砥石を備えた回転工具によってホーニング加工が施されている。ところで、ホーニング砥石に目詰まりや目こぼれ等が発生してしまうと、シリンダボアを適切に研削することができず、シリンダボアの加工精度を低下させることになる。シリンダボアの加工精度を維持するためには、工具等を用いて定期的にホーニング砥石の目立てを行うことが必要であるが、このようなドレッシング作業を定期的に行うことは作業コストを増大させる要因となっていた。
【0003】
そこで、ホーニング砥石としてメタルボンド砥石を採用するとともに、回転工具を案内するホーニングガイドに電極を装着するようにしたホーニング装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このホーニング装置によれば、回転工具がホーニングガイドを通過する際に、メタルボンド砥石に電気分解を施すことで目立てを行うことができ、ドレッシング作業の簡素化を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−260816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回転工具にはガイド部材が取り付けられており、回転工具をホーニングガイドのガイド穴に挿入する際には、ガイド部材がガイド穴の内周面に摺接するようになっている。しかしながら、メタルボンド砥石に対して電解ドレッシングを施すためには、ガイド穴に摺接するガイド部材の絶縁が必要となることから、セラミックス等の絶縁材を用いてガイド部材が形成されていた。
【0006】
しかしながら、ホーニングガイドに対して摺接するガイド部材を、耐久性の低いセラミックス材料等を用いて形成することは、ガイド部材の摩耗を招く要因であった。このようなガイド部材の摩耗は、ガイド部材の交換サイクルを早めてしまうことから、ホーニング装置の稼働コストを増大させる要因となっていた。また、ガイド部材の摩耗は、電解ドレッシング時に供給されるクーラントを汚してしまうことから、クーラントの交換サイクルを早めて稼働コストを増大させる要因となっていた。
【0007】
本発明の目的は、電解ドレッシングが施される回転工具を備えたホーニング装置の稼働コストを引き下げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のホーニング装置は、ワークに形成される円筒内面を研削する回転工具と、前記ワークの一端側に配置されて前記回転工具を前記円筒内面に案内するガイド穴を備えた工具ガイドとを有するホーニング装置であって、前記回転工具の外周部に設けられ、前記ガイド穴に摺接する摺接面を備えるガイド部材と、前記回転工具の外周部に設けられ、前記円筒内面を研削する研削面を備える導電性砥石と、前記工具ガイドの前記ガイド穴に設けられ、前記回転工具が前記ガイド穴を通過する際に前記導電性砥石の前記研削面に対向する電極部材と、前記回転工具が前記ガイド穴を通過する際に、前記導電性砥石と前記電極部材とに電圧を印加する電解ドレッシング手段とを有し、前記ガイド部材は、前記回転工具の外周部に設けられる基礎部材と、前記基礎部材に設けられて前記摺接面を構成する摺接部材とを備え、前記基礎部材は前記摺接部材よりも絶縁性を有する材料によって形成され、前記摺接部材は前記基礎部材よりも耐摩耗性を有する材料によって形成されることを特徴とする。
【0009】
本発明のホーニング装置は、前記基礎部材はセラミックス材料によって形成され、前記摺接部材は超硬合金材料によって形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明のホーニング装置は、前記ガイド部材の前記摺接面に、加工径計測用の空気を案内する空気流路が開口することを特徴とする。
【0011】
本発明のホーニング装置は、ワークに形成される円筒内面を研削する回転工具と、前記ワークの一端側に配置されて前記回転工具を前記円筒内面に案内するガイド穴を備えた工具ガイドとを有するホーニング装置であって、前記回転工具の外周部に設けられ、前記ガイド穴に摺接する摺接面を備えるガイド部材と、前記回転工具の外周部に設けられ、前記円筒内面を研削する研削面を備える導電性砥石と、前記工具ガイドの前記ガイド穴に設けられ、前記回転工具が前記ガイド穴を通過する際に前記導電性砥石の前記研削面に対向する電極部材と、前記回転工具が前記ガイド穴を通過する際に、前記導電性砥石と前記電極部材とに電圧を印加する電解ドレッシング手段とを有し、前記ガイド部材は、前記回転工具の外周部に設けられるとともに絶縁層部を備える基礎部材と、前記基礎部材に設けられて前記摺接面を構成する摺接部材とを備え、前記絶縁層部は前記摺接部材よりも絶縁性を有する材料によって形成され、前記摺接部材は前記絶縁層部よりも耐摩耗性を有する材料によって形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、回転工具に設けられるガイド部材を、絶縁性を有する基礎部材と、耐摩耗性を有する摺接部材とによって構成したので、導電性砥石に対する電解ドレッシングを可能にした上で、ガイド部材の摩耗を抑制することが可能となる。これにより、ガイド部材の交換サイクルを延ばすことができるため、ホーニング装置の稼働コストを抑制することが可能となる。また、ガイド部材の摩耗が抑制されることから、電解ドレッシング時およびホーニング加工時に供給されるクーラントの汚れを防止することが可能となる。これにより、クーラントの交換サイクルを延ばすことができるため、ホーニング装置の稼働コストを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態であるホーニング装置を示す概略図である。
【図2】(a)および(b)はホーニング装置の作動過程を示す説明図である。
【図3】図1の矢印A方向から回転工具を示す底面図である。
【図4】(a)は図3のA−A線に沿って回転工具を示す断面図であり、(b)は図3のB線に沿って回転工具の一部を示す断面図である。
【図5】工具ガイドの構造を示す断面図である。
【図6】回転工具が工具ガイドに挿入された状態を示す断面図である。
【図7】ホーニング加工の実行手順を示すタイミングチャートである。
【図8】図2(a)のA−A線に沿って回転工具および工具ガイドを示す断面図である。
【図9】図2(a)のB−B線に沿って回転工具およびシリンダブロックを示す断面図である。
【図10】本発明の他の実施の形態であるホーニング装置が備える回転工具を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態であるホーニング装置10を示す概略図である。また、図2(a)および(b)はホーニング装置10の作動過程を示す説明図である。図1に示すように、ホーニング装置10は、複数のホーニング砥石11,12を外周部に備える回転工具13と、この回転工具13を駆動する駆動ユニット14と、駆動ユニット14に対して制御信号等を出力する制御ユニット15とを備えている。駆動ユニット14には、図示しない電動モータやアクチュエータ等が組み込まれており、駆動ユニット14によって回転工具13を矢印α方向に回転させるとともに、駆動ユニット14によって回転工具13を矢印β方向に上下移動させることが可能となる。また、ホーニング装置10の加工テーブル16には、シリンダボア17を備えたシリンダブロック(ワーク)18が搭載されている。さらに、ホーニング装置10はガイド穴19を備えた工具ガイド20を有しており、工具ガイド20はシリンダブロック18の上端側(一端側)に設置されている。なお、回転工具13をシリンダボア17に案内する工具ガイド20は、ガイド穴19とシリンダボア17との中心位置が一致するように設置されている。
【0015】
図2(a)に示すように、ホーニング加工を実施する際には、まず、回転工具13を工具ガイド20に向けて下降移動させ、回転工具13を工具ガイド20のガイド穴19に挿入する。このように、回転工具13を工具ガイド20に挿入することにより、シリンダボア17の中心位置と回転工具13の中心位置とを一致させることが可能となる。続いて、図2(b)に示すように、工具ガイド20によって位置決めされた回転工具13が、シリンダブロック18のシリンダボア17内に挿入される。そして、回転工具13は、回転運動および上下運動を行いながら、所定寸法に達するまでシリンダボア17の内面(円筒内面)17aを研削することになる。
【0016】
図3は図1の矢印A方向から回転工具13を示す底面図である。また、図4(a)は図3のA−A線に沿って回転工具13を示す断面図であり、図4(b)は図3のB線に沿って回転工具13の一部を示す断面図である。図3および図4(a)に示すように、回転工具13は駆動ユニット14に連結される工具本体21を有しており、この工具本体21には放射方向に伸びる複数のスリット22が形成されている。これらのスリット22には、粗加工用の研削面11aを備えたホーニング砥石(導電性砥石)11が固定される第1拡張コマ23と、仕上げ加工用の研削面12aを備えたホーニング砥石(導電性砥石)12が固定される第2拡張コマ24とが、工具本体21の径方向に移動自在となって交互に収容されている。なお、ホーニング砥石11,12は、例えば、ダイヤモンド、cBN(立方晶窒化硼素)、酸化アルミニウム、炭化珪素、二酸化珪素等の砥粒を、青銅や鋳鉄等を主成分とするボンド材で結合した所謂メタルボンド砥石によって構成されている。
【0017】
また、工具本体21の中心部には、軸方向に貫通するロッド収容穴21aが形成されている。このロッド収容穴21aには、中空構造の第1拡張ロッド25が軸方向に移動自在に収容されるとともに、第1拡張ロッド25の内側に位置する第2拡張ロッド26が軸方向に移動自在に収容されている。第1拡張ロッド25には2つのコーン部27が形成されており、これらコーン部27のテーパ面27aと第1拡張コマ23の傾斜面23aとが対向して配置されている。同様に、第2拡張ロッド26には2つのコーン部28が形成されており、これらコーン部28のテーパ面28aと第2拡張コマ24の傾斜面24aとが対向して配置されている。また、第1拡張ロッド25にはリターンスプリング30が装着されており、このリターンスプリング30のバネ力によって第1拡張ロッド25は上方に付勢されている。同様に、第2拡張ロッド26にはリターンスプリング31が装着されており、このリターンスプリング31のバネ力によって第2拡張ロッド26は上方に付勢されている。さらに、第1拡張コマ23と第2拡張コマ24との外周面には2つの収容溝32が形成されており、これらの収容溝32には第1および第2拡張コマ23,24を径方向内方に付勢するスプリングバンド33が組み付けられている。
【0018】
このような回転工具13においては、駆動ユニット14によって第1拡張ロッド25を下方に押し込むことにより、テーパ面27aおよび傾斜面23aを介して第1拡張ロッド25から第1拡張コマ23に推力が伝達され、第1拡張コマ23が径方向外方の拡大位置に押し出される。そして、第1拡張ロッド25の押し込みを解除することにより、リターンスプリング30によって第1拡張ロッド25が上昇し、スプリングバンド33によって第1拡張コマ23が径方向内方の縮小位置に引き込まれる。同様に、駆動ユニット14によって第2拡張ロッド26を下方に押し込むことにより、テーパ面28aおよび傾斜面24aを介して第2拡張ロッド26から第2拡張コマ24に推力が伝達され、第2拡張コマ24が径方向外方の拡大位置に押し出される。そして、第2拡張ロッド26の押し込みを解除することにより、リターンスプリング31によって第2拡張ロッド26が上昇し、スプリングバンド33によって第2拡張コマ24が径方向内方の縮小位置に引き込まれる。
【0019】
また、図3および図4(b)に示すように、回転工具13を構成する工具本体21の外周部には、周方向に所定間隔を空けて6つのガイド部材40が固定されている。第1および第2拡張コマ23,24を拡大位置に移動させたときには、ガイド部材40の摺接面40aが、ホーニング砥石11,12の研削面11a,12aよりも径方向内方に位置するように設置されている。一方、第1および第2拡張コマ23,24を縮小位置に移動させたときには、ガイド部材40の摺接面40aが、ホーニング砥石11,12の研削面11a,12aよりも径方向外方に位置するように設置されている。また、各ガイド部材40は、工具本体21に固定される基礎部材41と、基礎部材41に固定される摺接部材42とによって構成されている。基礎部材41は摺接部材42よりも絶縁性を有する材料によって形成されており、摺接部材42は基礎部材41よりも耐摩耗性を有する材料によって形成されている。基礎部材41の材料としては、例えばセラミックス材料であるアルミナ(酸化アルミニウム,Al)やサイアロン(Si−Al−O−N系化合物)等を用いることが可能である。また、摺接部材42の材料としては、例えば超硬合金材料を用いることが可能である。なお、超硬合金材料としては、例えばK10(日本工業規格)を用いることが可能であるが、他の超硬合金材料を用いても良いことはいうまでもない。
【0020】
また、6つのガイド部材40のうち、2つのガイド部材40には摺接面40aに開口する空気流路43が形成されている。この空気流路43には図示しない空気マイクロメーターが接続されており、ガイド部材40の摺接面40aとシリンダボア17の内面17aとの隙間寸法を測定することが可能となっている。なお、空気マイクロメーターとは、定圧装置から空気流路43を経てシリンダボア17に吹き付けられる加工径計測用の空気の圧力、流量、流速の変化を検出し、この空気の圧力や流量等の変化からガイド部材40とシリンダボア17との隙間寸法を測定する計測装置である。この空気マイクロメーターを空気流路43に接続することにより、研削によって拡大するシリンダボア17の内径寸法を確認しながら、シリンダボア17に対してホーニング加工を施すことが可能となる。
【0021】
また、図1に示すように、ホーニング砥石11,12のドレッシング(目立て)を行うため、制御ユニット15にはドレス制御部44が組み込まれている。そして、ドレス制御部44から伸びる負極端子45が工具ガイド20に接続される一方、ドレス制御部44から伸びる正極端子46が駆動ユニット14を介して回転工具13に接続されている。ここで、図5は工具ガイド20の構造を示す断面図であり、図6は回転工具13が工具ガイド20に挿入された状態を示す断面図である。図5および図6に示すように、工具ガイド20は支持部材50によって支持される円筒形状のガイド本体51を有しており、ガイド本体51の内側には円筒形状の電極スリーブ(電極部材)52が取り付けられている。また、ガイド本体51と電極スリーブ52との間には絶縁スリーブ53が挟み込まれており、電極スリーブ52にはドレス制御部44から伸びる負極端子45が接続されている。さらに、支持部材50およびガイド本体51にはクーラント流路54,55が形成されており、これらのクーラント流路54,55を介してドレス制御部44から工具ガイド20内に導電性研削液であるクーラントが供給される。なお、シリンダブロック18に対向するガイド本体51の下端部には防蝕電極56が取り付けられ、この防蝕電極56にはドレス制御部44から伸びる図示しない正極端子が接続される。
【0022】
続いて、ホーニング加工の実行手順について説明する。ここで、図7はホーニング加工の実行手順を示すタイミングチャートである。また、図8は図2(a)のA−A線に沿って回転工具13および工具ガイド20を示す断面図であり、図9は図2(a)のB−B線に沿って回転工具13およびシリンダブロック18を示す断面図である。図7に示すように、回転工具13が下降移動して工具ガイド20に挿入されると、ホーニング砥石11,12と電極スリーブ52とが対向する下降過程において電解ドレッシングが実行される。このような電解ドレッシングにおいて、電解ドレッシング手段として機能するドレス制御部44は、工具ガイド20内にクーラントを供給するとともに、電極スリーブ52とホーニング砥石11,12との間にパルス電圧を印加する。これにより、ホーニング砥石11,12のボンド材を電気分解によって除去することができ、ホーニング砥石11,12をドレッシングすることが可能となる。
【0023】
ここで、図8に示すように、回転工具13が工具ガイド20内を下降移動する際には、ホーニング砥石11,12は縮小位置に引き込まれており、ガイド部材40の摺接面40aが電極スリーブ52の電極面52aに摺接した状態となっている。このように、回転工具13が工具ガイド20を通過する際には、ガイド部材40が電極スリーブ52に対して摺接することになるが、このガイド部材40の摺接面40aは超硬合金材料等からなる摺接部材42によって構成されている。このように、摺接面40aが超硬合金材料等によって構成されることから、ガイド部材40の摩耗を抑制することが可能となり、電解ドレッシングを適切に実行することが可能となる。
【0024】
すなわち、電解ドレッシングを適切に実行するためには、ホーニング砥石11,12の研削面11a,12aと電極スリーブ52の電極面52aとの隙間を管理することより、各ホーニング砥石11,12におけるドレッシング状況のバラツキを抑制する必要がある。そこで、図8の拡大部分に示すように、ガイド部材40の摺接面40aを電極スリーブ52の電極面52aに接触させることにより、ホーニング砥石11,12と電極スリーブ52との間隔を一定に保つようにしている。このように、電極間のギャップを管理するガイド部材40の摩耗を抑制することができるため、各ホーニング砥石11,12におけるドレッシング状況のバラツキを抑制することが可能となるのである。なお、工具本体21と摺接部材42との間には、絶縁性を有するセラミックス材料等からなる基礎部材41が挟み込まれており、電解ドレッシング用の電流が摺接部材42から工具本体21に流れることはない。
【0025】
続いて、図7に示すように、回転工具13がシリンダボア17内まで下降移動すると、回転工具13の回転運動および上下運動が開始されるとともに、第1拡張コマ23が拡大位置に向けて押し出される。そして、粗加工用のホーニング砥石11によるホーニング加工は、シリンダボア17の内径寸法が所定値に達するまで継続される。その後、ホーニング砥石11,12によるホーニング加工が完了すると、第1拡張コマ23が縮小位置に引き込まれる一方、第2拡張コマ24が拡大位置に向けて押し出される。そして、仕上げ加工用のホーニング砥石12によるホーニング加工は、シリンダボア17の内径寸法が所定値に達するまで継続される。そして、ホーニング加工が完了して回転工具13が上昇移動する際には、前述したように、再び回転工具13に対して電解ドレッシングが実施されることになる。
【0026】
このようなホーニング加工においても、回転工具13が工具ガイド20を通過する際にガイド部材40の摩耗が抑制されることから、ホーニング加工を精度良く実行することが可能となっている。すなわち、図9に矢印αで示すように、ホーニング加工中においては、シリンダボア17の内面17aとガイド部材40の摺接面40aとの間の隙間に対し、ガイド部材40の空気流路43から空気(加工径計測用の空気)を吹き付けることにより、シリンダボア17とガイド部材40との隙間寸法が計測される。そして、制御ユニット15のホーニング制御部57は、シリンダボア17とガイド部材40との隙間寸法と、回転工具13の中心軸からガイド部材40の摺接面40aまでの距離寸法とに基づき、ホーニング加工中のシリンダボア17の内径寸法を演算する。このため、ガイド部材40が摩耗することにより、回転工具13の中心軸からガイド部材40の摺接面40aまでの距離寸法にずれが生じた場合には、シリンダボア17の内径寸法の演算精度が低下することになる。しかしながら、ガイド部材40の摩耗が抑制されることから、シリンダボア17の内径寸法の演算精度を高めることができ、ホーニング加工を精度良く実行することが可能となるのである。
【0027】
これまで説明したように、回転工具13に設けられるガイド部材40を、絶縁性を有する基礎部材41と、耐摩耗性を有する摺接部材42とによって構成したので、ホーニング砥石11,12に対する電解ドレッシングを可能にした上で、ガイド部材40の摩耗を抑制することが可能となる。これにより、ガイド部材40の交換サイクルを延ばすことができるため、ホーニング装置10の稼働コストを抑制することが可能となる。また、ガイド部材40の摩耗が抑制されることから、電解ドレッシング時およびホーニング加工時に供給されるクーラントの汚れを防止することが可能となる。これにより、クーラントの交換サイクルを延ばすことができるため、ホーニング装置10の稼働コストを抑制することが可能となる。さらに、ガイド部材40の摩耗が抑制されることから、前述したように、各ホーニング砥石11,12におけるドレッシング状況のバラツキを抑制することができ、ホーニング加工を精度良く実行することが可能となる。
【0028】
また、前述の説明では、ガイド部材40の基礎部材41を1つの構成要素によって構成しているが、これに限られることはなく、複数の構成要素からなる基礎部材41によってガイド部材40を構成しても良い。ここで、図10は本発明の他の実施の形態であるホーニング装置が備える回転工具60を示す底面図である。なお、図10において、図3に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。図10に示すように、ガイド部材40は、工具本体21の外周部に固定される基礎部材41と、基礎部材41に固定される摺接部材42とを備えている。また、基礎部材41は、工具本体21側の第1基礎部41aと、摺接部材42側の第2基礎部41bとによって構成されている。さらに、基礎部材41の第2基礎部41bは、絶縁性を有するセラミックス材料等によって形成されている。すなわち、基礎部材41の第2基礎部41bは、前述した摺接部材42よりも絶縁性を有する材料によって形成されている。このように、基礎部材41が複数の構成要素からなる場合であっても、基礎部材41に絶縁層部として機能する第2基礎部41bを設けることにより、第2基礎部41bによって電解ドレッシング用の電流を遮断することが可能となる。これにより、前述した回転工具13と同様に、ホーニング砥石11,12に対する電解ドレッシングを可能にした上で、ガイド部材40の摩耗を抑制することが可能となる。
【0029】
なお、図10に示す場合には、摺接部材42側の第2基礎部41bを絶縁層部として機能させているが、これに限られることはなく、工具本体21側の第1基礎部41aを絶縁層部として機能させても良い。また、基礎部材41を3つ以上の構成要素によって構成しても良く、この場合には、基礎部材41に対して1つ以上の絶縁層部が設けられることになる。このように、基礎部材41の構造については、工具本体21と摺接部材42とが電気的に絶縁される構造であれば、如何なる構造であっても良い。
【0030】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、ワークとしてシリンダブロック18を用いているが、これに限られることはなく、他のワークに本発明のホーニング装置10を適用しても良い。また、前述の説明では、工具ガイド20に円筒形状の電極スリーブ52を装着しているが、電極部材としては切れ目のない電極スリーブ52に限られることはなく、例えば、円弧状の電極部材を工具ガイド20に装着しても良い。さらに、図7のタイミングチャートでは、ホーニング加工の前後に電解ドレッシングを実施しているが、これに限られることはなく、予め設定された加工時間毎や加工回数毎に電解ドレッシングを実施しても良い。
【符号の説明】
【0031】
10 ホーニング装置
11,12 ホーニング砥石(導電性砥石)
11a,12a 研削面
13 回転工具
17a 内面(円筒内面)
18 シリンダブロック(ワーク)
19 ガイド穴
20 工具ガイド
21 工具本体(回転工具)
40 ガイド部材
40a 摺接面
41 基礎部材
41b 第2基礎部(絶縁層部)
42 摺接部材
43 空気流路
44 ドレス制御部(電解ドレッシング手段)
52 電極スリーブ(電極部材)
60 回転工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに形成される円筒内面を研削する回転工具と、前記ワークの一端側に配置されて前記回転工具を前記円筒内面に案内するガイド穴を備えた工具ガイドとを有するホーニング装置であって、
前記回転工具の外周部に設けられ、前記ガイド穴に摺接する摺接面を備えるガイド部材と、
前記回転工具の外周部に設けられ、前記円筒内面を研削する研削面を備える導電性砥石と、
前記工具ガイドの前記ガイド穴に設けられ、前記回転工具が前記ガイド穴を通過する際に前記導電性砥石の前記研削面に対向する電極部材と、
前記回転工具が前記ガイド穴を通過する際に、前記導電性砥石と前記電極部材とに電圧を印加する電解ドレッシング手段とを有し、
前記ガイド部材は、前記回転工具の外周部に設けられる基礎部材と、前記基礎部材に設けられて前記摺接面を構成する摺接部材とを備え、
前記基礎部材は前記摺接部材よりも絶縁性を有する材料によって形成され、前記摺接部材は前記基礎部材よりも耐摩耗性を有する材料によって形成されることを特徴とするホーニング装置。
【請求項2】
請求項1記載のホーニング装置において、
前記基礎部材はセラミックス材料によって形成され、前記摺接部材は超硬合金材料によって形成されることを特徴とするホーニング装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のホーニング装置において、
前記ガイド部材の前記摺接面に、加工径計測用の空気を案内する空気流路が開口することを特徴とするホーニング装置。
【請求項4】
ワークに形成される円筒内面を研削する回転工具と、前記ワークの一端側に配置されて前記回転工具を前記円筒内面に案内するガイド穴を備えた工具ガイドとを有するホーニング装置であって、
前記回転工具の外周部に設けられ、前記ガイド穴に摺接する摺接面を備えるガイド部材と、
前記回転工具の外周部に設けられ、前記円筒内面を研削する研削面を備える導電性砥石と、
前記工具ガイドの前記ガイド穴に設けられ、前記回転工具が前記ガイド穴を通過する際に前記導電性砥石の前記研削面に対向する電極部材と、
前記回転工具が前記ガイド穴を通過する際に、前記導電性砥石と前記電極部材とに電圧を印加する電解ドレッシング手段とを有し、
前記ガイド部材は、前記回転工具の外周部に設けられるとともに絶縁層部を備える基礎部材と、前記基礎部材に設けられて前記摺接面を構成する摺接部材とを備え、
前記絶縁層部は前記摺接部材よりも絶縁性を有する材料によって形成され、前記摺接部材は前記絶縁層部よりも耐摩耗性を有する材料によって形成されることを特徴とするホーニング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−183614(P2012−183614A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49016(P2011−49016)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】