説明

ホーリーファイバおよびホーリーファイバの製造方法

【課題】高い機械的強度を保ちながらきわめて低い接続損失で容易に融着接続ができるホーリーファイバおよびホーリーファイバの製造方法を提供すること。
【解決手段】長手方向に対し垂直断面の中心に位置するコア部と、前記コア部の外周に位置し該コア部の周囲に層状に形成された空孔を有するクラッド部とを備えるホーリーファイバであって、少なくとも一方の端部から所定の長さにわたって接続部が形成され、前記接続部におけるコア部の屈折率が、該接続部における空孔以外のクラッド部の屈折率よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホーリーファイバおよびホーリーファイバの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホーリーファイバ(Holy Fiber)は、中心に位置するコア部と、コア部の外周に位置し、コア部の周囲に周期的に配置した複数の空孔を有するクラッド部とを備え、空孔によってクラッド部の平均屈折率を下げ、光の全反射の原理を利用してコア部に光を閉じ込めて伝搬させる新しいタイプの光ファイバである。このホーリーファイバは、空孔を用いて屈折率を制御することによって、従来の光ファイバでは実現不可能なEndlessly Single Mode(ESM)や、短波長側での異常分散等の特異な特性を実現可能である。なお、ESMとは、カットオフ波長が存在せず、全ての波長の光がシングルモードで伝送することを意味し、広帯域にわたって伝送速度の速い光伝送を可能にする特性である。
【0003】
このホーリーファイバを用いた長距離伝送を実現するため、ホーリーファイバの伝送損失の低減について盛んに検討されている。たとえば、非特許文献1においては、0.28dB/kmという低い伝送損失を有するホーリーファイバが報告されている。
【0004】
【非特許文献1】K. Tajima, et al.,“Low water peak photonic crystal fibers.", ECOC’03 PD Th4.16(2003)
【特許文献1】特開2006−83003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に光ファイバ同士の融着接続は、接続すべき光ファイバの端面同士を近接させ、その近傍でアーク放電を発生させ、アーク放電の熱によって光ファイバの端面を溶融しながら突き合わせて接続を行う。
【0006】
ところが、従来のホーリーファイバは、端面を溶融すると、溶融した箇所の空孔が塞がれて消失し、孔構造がなくなってしまうため、光をコア部に閉じ込めて伝搬させることができなくなる。その結果、他の光ファイバと融着接続すると、接続箇所において漏れ損失が増大してしまうという問題があった。一方、空孔が塞がれないような放電強度で短時間の放電を何度もおこない、孔構造を維持しながら融着接続を行う方法も考えられるが、接続に時間や労力がかかったり、融着接続後の接続箇所の機械的強度が弱いなどの問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高い機械的強度を保ちながらきわめて低い接続損失で容易に融着接続ができるホーリーファイバおよびホーリーファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るホーリーファイバは、長手方向に対し垂直断面の中心に位置するコア部と、前記コア部の外周に位置し該コア部の周囲に層状に形成された空孔を有するクラッド部とを備えるホーリーファイバであって、少なくとも一方の端部から所定の長さにわたって接続部が形成され、前記接続部におけるコア部の屈折率が、該接続部における空孔以外のクラッド部の屈折率よりも高いことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るホーリーファイバは、上記の発明において、前記接続部におけるコア部の空孔以外のクラッド部に対する比屈折率差が0.1%よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るホーリーファイバは、上記の発明において、前記接続部におけるコア部は、GeOが添加されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るホーリーファイバは、上記の発明において、前記接続部における空孔以外のクラッド部は、純シリカガラスからなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るホーリーファイバは、上記の発明において、前記接続部の長さは、該接続部を含めた全長に対して5%以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るホーリーファイバの製造方法は、長手方向に対し垂直断面の中心に位置するコア部と、前記コア部の外周に位置し該コア部の周囲に層状に形成した空孔を有するクラッド部とを備えるホーリーファイバの製造方法であって、ジャケット管内の中心に、主光伝送部形成用コアロッドと接続部形成用コアロッドとを縦列するように配置し、前記配置した各コアロッドの周囲にキャピラリー管を配置して母材を形成する母材形成工程と、前記形成した母材を線引きする線引き工程と、を含み、前記母材形成工程は、前記キャピラリー管よりも屈折率が高い前記接続部形成用コアロッドを、前記形成する母材の長手方向の端部に配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ホーリーファイバの融着接続の際に、端面の溶融によって空孔が塞がれても、光を閉じ込めて伝搬する構造が残るため、高い機械的強度を保ちながらきわめて低い接続損失で容易に融着接続ができるホーリーファイバが実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明に係るホーリーファイバおよびホーリーファイバの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下ではホーリーファイバをHFと記載する。また、本明細書においては、曲げ損失とは、光ファイバを直径20mmで16周巻いた条件での曲げ損失を意味する。また、カットオフ波長λcとは、ITU−T(国際電気通信連合)G.650.1で定義するファイバカットオフ波長をいう。その他、本明細書で特に定義しない用語についてはITU−T G.650.1における定義、測定方法に従うものとする。
【0016】
また、以下では、屈折率を変化させるためのドーパントを何も添加していないシリカガラスを純シリカガラスとし、たとえば、微少量(比屈折率差を0.05%より小さく上昇させる程度)の塩素が含まれているシリカガラスについても、純シリカガラスに含むものとする。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るHFを長手方向に沿って切断した断面概略図である。図1に示すように、このHF10は、主光伝送部10aと、端部から所定の長さにわたって形成されている接続部10b、10cとを有する。図2、3は、本実施の形態1に係るHFを、それぞれ主光伝送部10a、接続部10cにおいて長手方向に垂直な面に沿って切断した断面概略図である。以下、図1〜3を参照して、HF10の構造について説明する。
【0018】
はじめに、HF10の主光伝送部10aについて説明する。図1、2に示すように、主光伝送部10aは、中心に位置するコア部11aと、コア部11aの外周に位置するクラッド部12とを備える。クラッド部12には、空孔13がコア部11aの周囲に層状に形成されている。空孔13は、層状に形成されるとともに、三角格子Lを形成するように配置されている。空孔13の直径はdであり、三角格子Lの格子定数、すなわち空孔13の中心間距離はΛである。なお、Λ、およびd/Λの値は適宜設計されており、主光伝送部10aにおいては、ESM特性などのHF特有の特性を含めた所望の光学特性が実現されている。なお、コア部11a、空孔13以外のクラッド部12は、いずれも純シリカガラスからなる。
【0019】
つぎに、HF10の接続部10cについて説明する。図1、3に示すように、接続部10cは、中心に位置するコア部11cと、コア部11cの外周に位置し、主光伝送部10aから連続的に形成されているクラッド部12とを備える。主光伝送部10aと同様に、クラッド部12には、空孔13がコア部11cの周囲に層状に形成されている。空孔13の配置、直径、中心間距離は主光伝送部10aのものと同一である。また、接続部10bは、接続部10cと同様の構造を有している。なお、コア部11cは、GeOが添加されており、空孔13以外のクラッド部12よりも屈折率が高くなっている。
【0020】
つぎに、このHF10を他の光ファイバと融着接続する場合について説明する。図4は、他の光ファイバを接続するために、HF10の接続部10c側の端面にアーク放電を加えて溶融した状態を示す断面概略図である。図4に示すように、溶融した接続部10dは、空孔13が塞がれてしまい、コア部11cと、空孔13が消失した溶融したクラッド部12dとを備える通常の光ファイバと同様の構造を有するものとなる。
【0021】
ここで、上述したように、コア部11cは溶融したクラッド部12dよりも屈折率が高くなっているので、主光伝送部10aを伝搬してきた光は、溶融した接続部10dにおいては通常の光ファイバと同様に、コア部11cと同様にコア部11cと溶融したクラッド部12dとの屈折率差によってコア部11cに閉じ込められ伝搬する。その結果、溶融して空孔13が消失した部分において漏れ損失の発生がきわめて抑制されるので、接続損失が極めて小さくなる。
【0022】
また、融着接続の際の放電を十分に行うことができるので、接続が容易であり、融着接続後の接続部の機械的強度も強いものとなる。
【0023】
なお、上述したように、接続部10bは接続部10cと同様の構造を有しているので、接続部10b側の端面に他の光ファイバを接続する際にも、上記と同様の作用により接続損失は極めて小さくなる。
【0024】
以上説明したように、本実施の形態1に係るHF10は、融着接続の際に、端面の溶融によって空孔が塞がれても、光を閉じ込めて伝搬する構造が残るため、高い機械的強度を保ちながらきわめて低い接続損失で容易に融着接続ができる。
【0025】
なお、HF10において、コア部11b、11cは、クラッド部12に対する比屈折率差が0.1%であれば、接続損失が極めて小さくなるので好ましく、特に比屈折率差が0.4%程度であれば、同程度の比屈折率差を有する標準のシングルモード光ファイバ(SMF)との接続損失が小さくなるので好ましい。
【0026】
また、接続部10b、10cにおいては、光はコア部11b、11cとクラッド部12との屈折率差によって閉じ込められるので、ESM特性などのHF特有の特性が実現できなくなる。したがって、接続部10b、10cの合計の長さは、HF10の全長に対してなるべく短いことが好ましい。HF10の全長に対して5%以下であれば、HF10の特性は主光伝送部10aの特性によって定まり、接続部10b、10cがHF10の特性に与える影響はほとんどなくなるので好ましい。
【0027】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2として、スタック&ドロー法を用いて実施の形態1に係るHF10を製造する場合について、図5〜7を用いて説明する。
【0028】
はじめに、HF10を製造するための母材を形成する。図5は、HF10を製造するための母材20を長手方向からみた正面概略図である。また、図6は、図5に示す母材20の斜視概略図である。なお、図6においては、説明のためにキャピラリー管22を省略している。
【0029】
この母材20は以下のように形成する。はじめに、純シリカガラスからなる中実の主光伝送部形成用コアロッド21aと、GeOを添加したシリカガラスからなる中実の接続部形成用コアロッド21b、21cとを準備し、接続部形成用コアロッド21b、主光伝送部形成用コアロッド21a、接続部形成用コアロッド21cをこの順番で縦列するように配置する。そして、配置した各コアロッド21b、21a、21cの周囲に、純シリカガラスからなる中空のキャピラリー管22を配置した束を形成する。そして、この束を、純シリカガラスからなる中空のジャケット管24内に収容し、母材20を形成する。なお、接続部形成用コアロッド21b、21cは、キャピラリー管22よりも屈折率が高くなっており、母材20の長手方向の端部に配置されている。また、各コアロッド21b、21a、21c、キャピラリー管22、ジャケット管24の直径または内径、およびキャピラリー管22の数は、形成すべき空孔13の直径、および中心間距離、および数に応じて決定する。
【0030】
つぎに、接続部形成用コアロッド21c側を下にして母材20の下端を溶融して先端を封鎖したものを、図7に示す線引き炉4に設置する。そして、母材20の封鎖されていない上端にガス加圧装置3を接続する。
【0031】
つぎに、ガス加圧装置3によって、空孔形状を維持するためにキャピラリー管22の孔内を加圧しながら、母材20の下端をヒータ4aで加熱溶融することによって、HF10を線引きする。各コアロッド21a、21b、21cは、線引きしたHF10において主光伝送部10a、接続部10b、10cの各コア部11a、11b、11cをそれぞれ構成することとなる。
【0032】
ところで、上述した線引きを行う際には、線引きの開始時に、母材20の加熱温度や線引き速度などの線引き条件を、ある程度の長さのHF10を実際に線引きしながら調整する。調整に用いた部分のHF10は特性が不安定なので最終的には切除する。この場合、接続部形成用コアロッド21cがあまり短いと、条件調整の段階で接続部形成用コアロッド21cがほとんど線引きされてしまい、最終的に製造されるHF10において接続部10cが十分に形成されない場合がある。一方、線引きの終了時においても、母材20の上端に線引きされない残余部が残るので、接続部形成用コアロッド21bがあまり短いと、接続部形成用コアロッド21bが十分に線引きされず、最終的に製造するHF10において接続部10bが十分に形成されない場合がある。
【0033】
したがって、HF10を製造する際には、線引き条件調整に消費されるHF10の長さ、および線引きされない残余部の長さを考慮して、比較的長めの接続部形成用コアロッド21b、21cを用い、HF10を線引きする際に接続部10b、10cを確実に形成し、線引きした後で、形成された接続部10b、10cを必要に応じて適当な長さに切断することが好ましい。
【0034】
(変形例)
なお、実施の形態2に係る製造方法は、母材の両端に接続部形成用コアロッドを配置したが、この変形例として、母材の長手方向の中央部付近にも接続部形成用コアロッドを配置し、接続部を形成してもよい。
【0035】
図8は、実施の形態2の変形例に係る製造方法に用いる母材30を長手方向からみた正面概略図である。なお、図8においては、説明のためにキャピラリー管を省略している。
【0036】
この母材30は以下のように形成する。はじめに、純シリカガラスからなる中実の主光伝送部形成用コアロッド31a、31dと、GeOを添加したシリカガラスからなる中実の接続部形成用コアロッド31b、31c、31eとを準備し、接続部形成用コアロッド31c、主光伝送部形成用コアロッド31a、接続部形成用コアロッド31b、主光伝送部形成用コアロッド31d、接続部形成用コアロッド31eをこの順番で縦列するように配置する。そして、配置した各コアロッド31c、31a、31b、31d、31eの周囲に、純シリカガラスからなる中空のキャピラリー管を配置した束を形成する。そして、この束を、純シリカガラスからなる中空のジャケット管34内に収容し、母材30を形成する。なお、接続部形成用コアロッド31b、31c、31eは、キャピラリー管よりも屈折率が高くなっており、それぞれ母材30の長手方向の両端、および中央部付近に配置されている。
【0037】
この母材30を用いて、実施の形態2に係る製造方法と同様にHFを線引きすると、コア部の屈折率がクラッド部の屈折率よりも高くなっている接続部が、HFの長手方向の両端および中央部に形成される。その後、HFを中央部の接続部において切断すれば、両端に接続部が形成されたHFが2本得られることになる。すなわち、本変形例に係る製造方法によれば、1回の線引き工程で2本のHFが得られるので、本発明に係るHFを生産性高く製造できる。
【0038】
なお、上記変形例では、接続部形成用コアロッドを母材の両端および中央部付近に配置し、2本のHFを得るものであったが、母材の内側に配置する接続部形成用コアロッドをさらに増やすことで、3本以上のHFを得ることができる。
【0039】
(実施例および比較例)
本発明の実施例1として、実施の形態1と同様の構造を有するHFを、実施の形態2の製造方法によって製造した。なお、母材を形成する際には、主光伝送部形成用コアロッド、キャピラリー管、およびジャケット管として、純シリカガラスからなるものを使用した。一方、接続領域形成用コアロッドとして、GeOが添加され、純シリカガラスに対する比屈折率差が0.4%のシリカガラスからなるものを使用した。また、主光伝送部形成用コアロッドは、線引き後に長さ10kmのHFになるような長さとし、接続領域形成用コアロッドは、それぞれ線引き後に長さ500mのHFになるような長さとした。実際に線引きされたHFは、長さ10kmの主光伝送部の両端に長さ500mの接続部が形成されたものとなっていた。さらに、各接続部の長さが50mになるようにHFの両端を切断して、実施例1のHFを得た。
【0040】
また、本発明の実施例2−1、2−2として、実施の形態1と同様の構造を有するHFを、実施の形態2の変形例の製造方法によって製造した。なお、母材を形成する際には、主光伝送部形成用コアロッド、キャピラリー管、およびジャケット管として、純シリカガラスからなるものを使用した。一方、接続領域形成用コアロッドとして、GeOが添加され、純シリカガラスに対する比屈折率差が0.4%のシリカガラスからなるものを使用した。また、2本の主光伝送部形成用コアロッドは、それぞれ線引き後に長さ10kmのHFになるような長さとし、3本の接続領域形成用コアロッドは、それぞれ、中央部は線引き後に長さ1kmのHFに、両端は線引き後に長さ500mのHFになるような長さとした。実施例1と同様に、実際に線引きされたHFは、中央部に長さ1kmの接続部が形成され、その両端に長さ10kmの主光伝送部が形成され、さらに両端に長さ500mの接続部が形成されたものとなっていた。さらに、各接続部の長さが50mになるようにHFを切断し、長さ10kmの主光伝送部の両端に長さ50mの接続部が形成されたHFを実施例2−1、2−2のHFとして得た。
【0041】
また、比較例1として、実施の形態1と同様の構造を有するが、接続部が形成されていないHFを、実施の形態2の製造方法によって製造した。なお、母材を形成する際には、主光伝送部形成用コアロッド、キャピラリー管、およびジャケット管として、純シリカガラスからなるものを使用した。また、主光伝送部形成用コアロッドは、線引き後に長さ10kmのHFになるような長さとした。実際に線引きして得られた比較例1のHFは、長さ10kmの主光伝送部のみからなるものとなった。
【0042】
ここで、実施例1、実施例2−1、2−2に係るHFにおいては、主光伝送部形成用コアロッドと接続部形成用コアロッドとの境界部は、単に突き合わされているだけであるが、高温の線引き炉の中で熱融着されるので、境界部における接続損失はほとんど問題にならない。実際に、実施例1、実施例2−1、2−2に係るHFの長手方向の損失分布をOTDRで測定したところ、上記境界部における光損失は0.1dB程度とわずかであり、問題とならないものであった。
【0043】
なお、各実施例、比較例のHFの空孔の直径d、中心間距離Λについては、d/Λを0.50、Λを10μmに設定した。図9は、図2に示す構造を有し、d/Λが0.50、Λが10μmのHFの波長1550nmにおける特性を、Finite Element Method(FEM)シミュレーションを用いて算出した結果を示す図である。図9中の各特性は、波長1550nmにおける特性である。また、Aeffとは、有効コア断面積を意味する。図9に示すように、このHFは、28ps/nm/km程度の比較的抑制された波長分散値と、115μm程度の大きい有効コア断面積とを有し、かつ曲げ損失も十分に小さいので、伝送路を構成する光ファイバとして十分に用いることができる。また、図10は、図9に示したものと同じHFの波長分散特性を示す図であるが、標準のシングルモード光ファイバと類似の波長分散特性となっている。また、図11は、図9に示したものと同じHFの断面内での光のフィールド分布(Ex分布)を示す図であるが、コア部を中心としたガウシアン形状のフィールド分布となっている。
【0044】
つぎに、実際に製造した各実施例、比較例のHFの特性について説明する。図12は、各実施例、比較例のHFについて測定した特性を示す図である。なお、図12に示した特性は、波長1550nmにおける特性である。図12に示すように、実施例1、2−1、2−2のいずれのHFについても、コア部の屈折率がクラッド部の屈折率よりも高い接続部が形成されているにもかかわらず、その特性は接続部のない比較例1とほぼ同等であるとともに、図9に示す計算から得られた特性ともほぼ同等であった。
【0045】
つぎに、各実施例、比較例のHFを標準のSMFと融着接続した場合の接続損失の測定結果について説明する。なお、接続損失は、各実施例、比較例ともにSMFとの接続を10回行い、その平均値を算出したものである。また、接続には、通常の融着接続機を用いるとともに、その接続条件は、標準のSMF同士を接続するような比較的放電強度の強い条件とした。その結果、比較例1のHFについては、接続損失は1.64dBと大きかった。これに対して、実施例1のHFについては、接続損失が0.21dBであり、実施例2−1、2−2のHFについては、接続損失がそれぞれ0.18dB、0.19dBであった。すなわち、本発明に係るHFは、接続部が形成されていることにより、他の光ファイバときわめて低い接続損失で融着接続できることが確認された。また、接続部の機械的強度についても、各実施例のHFについては、SMF同士の融着接続と同等の十分な強度であることが確認された。
【0046】
なお、上記実施の形態においては、接続部におけるコア部にGeOを添加してクラッド部よりも屈折率を高くしたが、屈折率を上げる他のドーパントを添加して屈折率を高くしてもよい。また、たとえばコア部にはドーパントを添加せず、クラッド部にフッ素などの屈折率を下げるドーパントを添加して、コア部の屈折率をクラッド部の屈折率よりも高くしてもよい。
【0047】
また、上記実施の形態では、スタック&ドロー法を用いて母材を形成するHFの製造方法について説明したが、ドリル法やゾルゲル法などを用いて母材を形成してもよい。たとえば、ドリル法を用いる場合、一様な屈折率を有する主光伝送部形成用のガラスロッドの両端に、コア部とクラッド部とを有し、コア部の屈折率がクラッド部の屈折率よりも高い接続部形成用のガラスロッドを接合して一体化し、一体化したガラスロッドのコア部となる部分を除いた部分にドリルを用いて層状に空孔を形成して、母材を形成すればよい。あるいは、一様な屈折率を有する主光伝送部形成用のコアロッドの両端に、主光伝送部形成用コアロッドよりも屈折率が高い接続部形成用のコアロッドを接合して一体化し、一体化したコアロッドの外周に主光伝送部形成用コアロッドと同一の屈折率を有するクラッド形成部を外付け法等によって形成し、形成したクラッド形成部にドリルを用いて層状に空孔を形成して、母材を形成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施の形態1に係るHFを長手方向に沿って切断した断面概略図である。
【図2】実施の形態1に係るHFを主光伝送部において長手方向に垂直な面に沿って切断した断面概略図である。
【図3】実施の形態1に係るHFを接続部において長手方向に垂直な面に沿って切断した断面概略図である。
【図4】実施の形態1に係るHFの一方の端面にアーク放電を加えて溶融した状態を示す断面概略図である。
【図5】実施の形態1に係るHFを製造するための母材を長手方向からみた正面概略図である。
【図6】図5に示す母材の斜視概略図である。
【図7】実施の形態2において使用する線引き炉の概略図である。
【図8】実施の形態2の変形例に係る製造方法に用いる母材を長手方向からみた正面概略図である。
【図9】図2に示す構造を有し、d/Λが0.50、Λが10μmのHFの波長1550nmにおける特性を、FEMシミュレーションを用いて算出した結果を示す図である。
【図10】図9に示したものと同じHFの波長分散特性を示す図である。
【図11】図9に示したものと同じHFの断面内での光のフィールド分布を示す図である。
【図12】各実施例、比較例のHFについて測定した特性を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
3 ガス加圧装置
4 線引き炉
4a ヒータ
10 HF
10a 主光伝送部
10b、10c 接続部
10d 溶融した接続部
11a〜11c コア部
12 クラッド部
12d 溶融したクラッド部
13 空孔
20、30 母材
21a、31a、31d 主光伝送部形成用コアロッド
21b、21c、31b、31c、31e 接続部形成用コアロッド
22 キャピラリー管
24、34 ジャケット管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に対し垂直断面の中心に位置するコア部と、前記コア部の外周に位置し該コア部の周囲に層状に形成された空孔を有するクラッド部とを備えるホーリーファイバであって、
少なくとも一方の端部から所定の長さにわたって接続部が形成され、前記接続部におけるコア部の屈折率が、該接続部における空孔以外のクラッド部の屈折率よりも高いことを特徴とするホーリーファイバ。
【請求項2】
前記接続部におけるコア部の空孔以外のクラッド部に対する比屈折率差が0.1%よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のホーリーファイバ。
【請求項3】
前記接続部におけるコア部は、GeOが添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載のホーリーファイバ。
【請求項4】
前記接続部における空孔以外のクラッド部は、純シリカガラスからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のホーリーファイバ。
【請求項5】
前記接続部の長さは、該接続部を含めた全長に対して5%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のホーリーファイバ。
【請求項6】
長手方向に対し垂直断面の中心に位置するコア部と、前記コア部の外周に位置し該コア部の周囲に層状に形成した空孔を有するクラッド部とを備えるホーリーファイバの製造方法であって、
ジャケット管内の中心に、主光伝送部形成用コアロッドと接続部形成用コアロッドとを縦列するように配置し、前記配置した各コアロッドの周囲にキャピラリー管を配置して母材を形成する母材形成工程と、
前記形成した母材を線引きする線引き工程と、
を含み、前記母材形成工程は、前記キャピラリー管よりも屈折率が高い前記接続部形成用コアロッドを、前記形成する母材の長手方向の端部に配置することを特徴とするホーリーファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−25531(P2009−25531A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188200(P2007−188200)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】