説明

ボイラ装置とこのボイラ装置の制御方法

【課題】 むだ時間の変動を抑制するとともに、流動媒体の循環を安定させることで、応答性を向上させ、効率的に蒸気を発生させる。
【解決手段】 所定の燃料を燃焼させ、流動媒体を炉内で循環させて、蒸気を発生するボイラ装置であって、燃料と流動媒体を流動化させて燃焼する燃焼炉3と、燃焼炉3と連通する一のラインから分岐した、焼却物から流動媒体を分離する複数のサイクロン6と、流動媒体を水との間で熱交換を行う熱交換部7と、熱交換した流動媒体を燃焼炉3に戻す複数の循環ライン13と、戻す流動媒体の量を増減させ、燃焼炉3内の温度を調整する複数の循環バルブ14と、燃焼炉3内の設定温度に基づき、各循環バルブ14の開度を制御する制御部と、を備え、制御部は、各循環バルブ14の開度がほぼ均一となるように制御する構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気を発生させるボイラ装置に関し、特に、所定の流動媒体と水との間で熱交換を行い、発熱量の異なる様々な燃料を燃焼させて蒸気を発生させるボイラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なボイラ装置は、重油等の燃料を燃焼させ、燃焼炉内を循環する水を加熱、沸騰させ、蒸気を発生させる。
このようなボイラ装置は、下流側のタービン等によって発電される電力量が安定して確保されるべく、発生する蒸気量が一定となるように制御されている。
ところが、蒸気量は、投入される燃料の発熱量に依存することから、燃料の種類や、形態が異なると、発生する蒸気量も変動する。
このような変動を抑えるために、ボイラ出口の圧力制御値と圧力設定値とに基づき、ボイラ装置を同定した動特性モデルを作成し、未来の圧力制御値を予測するとともに、この予測値から最適な圧力設定値を算出するモデル予測制御を行い、燃料の供給量を調整する制御方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−294741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ボイラ装置には、珪砂などからなる流動媒体を循環させ、この流動媒体と水との間で熱交換を行い、蒸気を発生させる特殊なボイラ装置がある。
このようなボイラ装置として、循環流動層ボイラと称されるものがある。
図4に、循環流動層ボイラの構成を模式的に示す。
同図に示す循環流動層ボイラ1aは、石炭を主な燃料とし、バイオマスや廃プラスチック、廃タイヤ、汚泥、スラッジなどの産業廃棄物も燃料として用いることができる燃焼装置で、粉砕したこれらの燃料を珪砂等の流動媒体とともに流動化させた流動層を形成して燃焼し、加熱された流動媒体と水との間で熱交換を行い、蒸気を発生させるようになっている。
【0005】
具体的には、この循環流動層ボイラ1aは、石炭などの種々の固形燃料が収納されたバンカー2と、固形燃料と珪砂などの流動媒体を空気によって流動化させた流動層を燃焼させる燃焼炉3と、焼却物から流動媒体を分離するサイクロン6と、分離した流動媒体と循環水との間で熱交換を行う熱交換器7と、熱交換を行った流動媒体を再び燃焼炉3に戻す循環ライン13と、蒸気を発生させる蒸気ドラム9などが設けられている。
そして、この循環流動層ボイラ1aでは、石炭などの種々の固形燃料やこの固形燃料の燃焼に伴い発生する硫黄酸化物を除去する脱硫剤となる石灰石を、投入口3aから燃焼炉3に投入するとともに、この固形燃料を、燃焼炉3下方に位置するデンスベット部3bに集積した比較的粒径の大きい珪砂や砂利により、攪拌して粉砕し、この粉砕した燃料と流動媒体とが混在したソリッドを空気によって流動化させて、燃焼するようになっている。
【0006】
このように循環流動層ボイラ1aでは、種々の固形燃料を用いることから、投入される燃料に応じて発熱量も変化してしまい、燃料の投入量に対する蒸気の発生量が一律に定まらず、安定した蒸気量を確保することが困難であった。
また、投入される石炭等の固形燃料は、粉末、塊状と形態が様々であり、均一な大きさとすることができない。そのため、燃料の形態の大きさに応じて、燃焼速度が変動することから、投入した燃料のエネルギー量から必要空気量を求めて制御を行う既存の自動燃焼制御(ACC)では、燃焼速度の変動に対応できず、燃焼を効率よく制御することができなかった。
【0007】
また、この循環流動層ボイラ1aは、流動媒体を燃焼炉3内で循環させつつ、この流動媒体と水との間で熱交換を行うようになっている。
具体的には、燃焼炉3で加熱された流動媒体を、熱交換器7において循環水と熱交換させた後、循環ライン13を介して、再び燃焼炉3に戻すサイクルを繰り返すようになっている。
このように循環流動層ボイラ1aでは、流動媒体を介して伝熱することから、投入する燃料の変化が、蒸気発生量の変化として現れるまでに、むだ時間が生じる。
【0008】
ここで、図6に、従来の制御における燃料の投入量を時間の経過とともに変化させた場合の蒸気の発生量の変化を示す。
同図に示すように、燃料をカットした場合でも、しばらくの間、流動媒体が有する余熱により、継続して蒸気が発生するとともに、燃料の投入量を増加した場合でも、蒸気の発生が遅れる、所謂、むだ時間が生じてしまう。
また、上記のように、燃料の種類、燃料の形態が様々で、発熱量や燃焼速度が変化するため、むだ時間も一定ではなく、むだ時間の変動が生じている。すなわち、この循環流動層ボイラ1aは、目標値として蒸気の発生量を変動させた場合には、既存のPID制御のような追従制御では、効率的な制御ができず、ボイラ監視員が経験則に基づいて制御量の変化を予測し、手動で操作するようなフィードフォワード制御を行う場合もあった。
【0009】
また、この循環流動層ボイラ1aは、遠心力により焼却物から排ガスと流動媒体を分離して、流動媒体を含む粒子を捕集する4基のサイクロン6a〜6dが設けられており、分離された流動媒体は、外部の熱交換器7において水と熱交換させた後、4基のサイクロン6毎に設けられた循環ライン13a〜13dを介して、再び燃焼炉3に戻される。
このとき戻される流動媒体の量は、循環ライン13毎に設けられた循環バルブ14a〜14dの開度で定まり、これによって、燃焼炉3内の温度を調整することができるようになっている。
すなわち、各循環バルブ14を開くと、各サイクロン6への流動媒体の流入量が増加するとともに、燃焼炉3に戻る流動媒体の量が増加し、燃焼炉3内の温度を下げることができる。また、各循環バルブ14を閉めると、各サイクロン6への流動媒体の流入量が減少するとともに、燃焼炉3に戻る流動媒体の量を減少させ、燃焼炉3内の温度を上げることができる。
【0010】
ところが、この循環流動層ボイラ1aでは、構造的な特徴から、以下のような問題が生じていた。
図5は、燃焼炉3から各サイクロン6に亘る部分の構成を模式的に示す、上方から見た断面図である。
同図に示すように、燃焼炉3から各サイクロン6までは、一の流路からなるパス4によって連結されている。そして、パス4の終端部において、各サイクロン6a〜6dに分岐している。
また、各サイクロン6a〜6dの入口付近には、温度計5a〜5dが各々対応して設けられ、各サイクロン6a〜6dに流入する流動媒体の温度を計測するとともに、設定された温度に基づいて、各循環バルブ14の開度をPID制御するようになっている。
このPID制御では、循環バルブ14毎に、独立したPIDパラメータが設定され、設定された温度になるように、バルブ開度を制御している。
【0011】
しかしながら、上述したようにパス4はサイクロン6毎に物理的に区画されていないことから、各PID制御に干渉を生じさせていた。
具体的には、例えば、サイクロン6bの入口温度が高くなったとすると、設定温度を保つように、循環バルブ14bを開き、温度を下げようとする。その結果、サイクロン6bへの流動媒体の流入量は、増加することになる。ところが、各サイクロン6は、一のパス4で連結されていることから、サイクロン6bへの流動媒体の流入量が増加すると、このサイクロン6b入口に近接するサイクロン6a入口とサイクロン6c入口への流動媒体の流入量が減少してしまうことになる。その結果、サイクロン6aとサイクロン6cの入口温度が高くなり、今度は、設定温度を保つように、循環バルブ14aと循環バルブ14cを開き、温度を下げようと制御する。
そして、循環バルブ14aと循環バルブ14cを開くと、サイクロン6a入口とサイクロン6c入口への流動媒体の流入量が増加する反面、サイクロン6bへの流動媒体の流入量が減少してしまい、再びサイクロン6bの入口温度が高くなってしまう事態が生じていた。
このような干渉は、特に、入口が近接するサイクロン6bとサイクロン6cの間で著しかった。
【0012】
このように、各サイクロン6は一のパス4で連結されているため、一のサイクロン6の温度バランスが崩れると、各サイクロン6に連鎖的に波及してしまうことから、燃焼炉内の温度を安定して制御することが困難であった。
燃焼炉内の温度は、蒸気の発生量にも影響を及ぼすことから、目標値となる蒸気発生量を変動させた場合において、速い応答性が要求されているにもかかわらず、このような干渉により応答特性が低下していた。
【0013】
特に、各循環バルブ14の開度のバラツキが大きくなると、流動媒体や粉砕された燃料からなる流動層が安定して確保できなくなり、ひいては、循環流動層ボイラ1aを緊急停止せざるを得ない事態に至ることもあり、ボイラ監視員は、各循環バルブ14の開度のバラツキを監視しつつ、各サイクロン6の入口温度の設定値を調整していた。このような干渉は、入口が近接するサイクロン6bとサイクロン6cの間で著しく、ボイラ監視員の経験則に基づいた調整に頼らざるを得なかった。
【0014】
また、循環流動層ボイラ1aは、燃料節約の観点から、燃焼炉3内の酸素濃度(O)はできるだけ低く抑えることが好ましく、環境面から硫黄酸化物(SOx)を一定値以下に抑えることが要求されている。
例えば、硫黄酸化物(SOx)が、管理上限値を超えた場合には、まず、二次空気ポンプ12を駆動し、燃焼炉3に空気を流入させて、硫黄酸化物(SOx)の増加を抑制するようになっている。しかしながら、燃焼炉3に空気を流入させると、酸素濃度(O)が増加することになり、空燃比を一定に保つために、燃料を増加させなければならず、燃料の節約に反することになってしまう。
【0015】
また、硫黄酸化物(SOx)の増加を抑制する他の方法として、燃焼炉3内の温度を下げる方法もある。
そこで、燃焼炉3内の温度を下げるように設定温度を下げることになるが、設定温度の変化に追従して、各循環バルブ14が独立してPID制御される結果、上述したような各循環バルブ14の開度のバラツキから、各サイクロン6bの入口温度のバランスが崩れることになるため、所望する設定温度に収れんするまでに多くの時間を費やさねばならず、硫黄酸化物(SOx)の増加を効率よく抑制することができなかった。
【0016】
本発明は、上述した循環流動層ボイラ特有の問題を解決するために提案されたものであり、循環流動層ボイラを同定した動特性モデルに基づいて予測した制御量から操作量を決定するモデル予測制御を行うとともに、このモデル予測制御に際して、バルブ開度をほぼ均一に保つような制約条件に基づいて各循環バルブを制御することで、むだ時間の変動を抑制するとともに、流動媒体の循環を安定させることで、応答性を向上させ、効率的に蒸気を発生させることができる循環流動層ボイラ装置とこの循環流動層ボイラ装置の制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明のボイラ装置は、所定の燃料を燃焼させるとともに、流動媒体を炉内で循環させて、蒸気を発生させるボイラ装置であって、燃料と流動媒体を流動化させて燃焼する燃焼炉と、前記燃焼炉と連通する一のパスと、前記一のパスから分岐して、前記燃焼炉とそれぞれ連通する、焼却物から流動媒体を分離する複数のサイクロンと、前記サイクロンで分離された流動媒体と水との間で熱交換を行わせる熱交換部と、前記サイクロン毎に設けられ、熱交換を行った流動媒体を前記燃焼炉に戻す複数の循環ラインと、前記各循環ラインに設けられ、前記熱交換を行った流動媒体の戻す量を増減させ、前記燃焼炉内の温度を調整する複数の循環バルブと、前記燃焼炉内の設定温度に基づき、前記各循環バルブの開度を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、所定の制約条件に基づいて、前記各循環バルブの開度がほぼ均一となるように制御する構成としてある。
【0018】
本発明のボイラ装置の制御方法は、所定の燃料を燃焼させるとともに、流動媒体を炉内で循環させて、蒸気を発生させるボイラ装置の制御方法であって、前記ボイラ装置は、燃料と流動媒体を流動化させて燃焼する燃焼炉と、
前記燃焼炉と連通する一のパスと、前記一のパスから分岐して、前記燃焼炉とそれぞれ連通する、焼却物から流動媒体を分離する複数のサイクロンと、前記サイクロンで分離された流動媒体と水との間で熱交換を行わせる熱交換部と、前記サイクロン毎に設けられ、熱交換を行った流動媒体を前記燃焼炉に戻す複数の循環ラインと、前記各循環ラインに設けられ、前記熱交換を行った流動媒体の戻す量を増減させ、前記燃焼炉内の温度を調整する複数の循環バルブと、前記燃焼炉内の設定温度に基づき、前記各循環バルブの開度を制御する制御部と、を備え、前記制御部が、前記循環バルブの平均開度に対して一定の開度範囲以内とする制約条件に基づき、前記各循環バルブの開度を制御する制御方法としてある。
【発明の効果】
【0019】
本発明のボイラ装置とこのボイラ装置の制御方法によれば、むだ時間の変動を抑制するとともに、流動媒体の循環を安定させることで、応答性を向上させ、効率的に蒸気を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るボイラ装置の好ましい実施形態について、図を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る循環流動層ボイラ装置の制御構成を示すブロック図であり、図2は、本実施形態に係る循環流動層ボイラ装置の制御の流れを示すフローチャートである。
また、図3は、本実施形態に係る循環流動層ボイラ装置に多変数モデル予測制御を適用した場合の各種データの推移を示す図である。
図4は、本実施形態に係る循環流動層ボイラ1aの構成を模式的に示した概略図であり、図5は、本実施形態に係る循環流動層ボイラ1aの燃焼炉3からサイクロン6に亘る部分の構成を模式的に示す、上方から見た断面図である。
【0021】
図4に示すように、本実施形態に係る循環流動層ボイラ1aは、燃料を収納・送出するバンカー2と、燃焼炉3と、4基のサイクロン6a〜6dと、流動媒体と水との間で熱交換を行わせる熱交換器7と、熱交換を行った流動媒体を燃焼炉3に戻す循環ライン13a〜13dと、蒸気ドラム9と、燃焼炉3下部に空気を導入する一次空気ポンプ11と、燃焼炉3上部に空気を導入する二次空気ポンプ12と、蒸気ドラム9に給水する給水ポンプ8と、粉塵を除去する集塵機15と、排ガスを排出するダクト16などを備えて構成されている。
【0022】
バンカー2には、石炭、バイオマスや廃プラスチック、廃タイヤ、汚泥、スラッジなどの主に固形燃料や、脱硫剤となる石灰石が収納され、コンベア等の送出装置により、燃焼炉3の投入口3aから順次燃焼炉3に燃料等を投入するようになっている。
投入口3aから投入された燃料は、燃焼炉3の最下部に位置するデンスベット部3bに誘導され、誘導された燃料は、珪砂や砂利、亜酸化窒素を分解するアルミナなどの固形物によって、このデンスベット部3bにて攪拌されて粉砕される。
【0023】
一次空気ポンプ11は、ライン11aを介して燃焼炉3下部に一次空気を導入する。この一次空気によって、粉砕された燃料と、珪砂、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア等の無機酸化物、砂利、石灰石などからなる流動媒体との混合粉体(以下、これらをソリッドという)が流動化した流動層が形成されるようになっている。
二次空気ポンプ12は、ライン12aを介して燃焼炉3上部に二次空気を導入する。
そして、この二次空気と流動層とが混合することで、完全燃焼するようになっている。
なお、燃焼炉3内の酸素濃度(O)は、二次空気ポンプ12によって燃焼炉3上部に導入される空気量を制御することで、調整することができる。
【0024】
燃焼したソリッド(焼却物)は、図5に示すように、一の流路からなるパス4を通過し、このパス4の終端部から分岐した各サイクロン6a〜6dに分かれて流入する。
各サイクロン6a〜6dに分かれて流入するソリッドの量は、各サイクロン6a〜6dに対応して設けられた循環ライン13a〜13d毎の循環バルブ14a〜14dの開度で調整することができる。すなわち、循環バルブ14a〜14dは、熱交換器7において水と熱交換を行った流動媒体を燃焼炉3へ戻す量を調整すると同時に、各サイクロン6a〜6dに流入するソリッドの量を調整するようになっている。つまり、循環バルブ14a〜14dは、流動媒体の循環量を調整するバルブとして機能している。
【0025】
各サイクロン6a〜6dは、空気の渦流を発生させ、その遠心力によって、粒子と気体を分離する分離装置であり、この各サイクロン6において、排ガスと、流動媒体を含むソリッドとに分離するようになっている。
分離された排ガスは、各サイクロン6の上方から、パス10を通過し、集塵器15に集積される。排ガスは、この集塵器15において、灰が除去された後に、ダクト16から排出されるようになっている。
そして、灰は、ライン15aを経て、図示しない灰サイロに送出され、未燃分を含む一部の灰は、リサイクルのため、ライン15bとライン7aを介して、燃焼炉3下部に戻される。
【0026】
一方、分離された流動媒体を含むソリッドは、その一部は、熱交換器7(EHE)に送出され、残りは、燃焼炉3内における流動層の確保と、安定した燃焼状態の維持するために、ライン7aを介して、燃焼炉3下部に戻される。
熱交換器7(EHE)に送出されたソリッドは、蒸気ドラム9と熱交換器7との間を循環する水と熱交換を行い、循環水を加熱・沸騰させる。
その結果、蒸気ドラム9の下流側に位置する図示しないタービンを駆動させる動力源として、蒸気ドラム9から蒸気を発生させることができるようになっている。
そして、この熱交換を行った流動媒体を含むソリッドは、循環ライン13a〜13dを介して、燃焼炉3上部に戻される。このとき戻される量は、前述したように、各循環バルブ14a〜14dの開度を調整することで、増減させることができる。
【0027】
このように、循環ライン13a〜13dを介して、燃焼炉3上部に戻されるソリッドは、循環水と熱交換を行った、冷却されたものであることから、この戻す量を増減させることで、燃焼炉3内の温度を制御することができる。
そこで、本実施形態の循環流動層ボイラ装置1では、後述する制御部において、パス4における各サイクロン6の入口付近に配置した温度計5a〜5dを監視して、各サイクロン6の入口付近の温度が設定温度となるように、各循環バルブ14a〜14dの開度を制御している。すなわち、制御部は、各サイクロン6の入口付近の設定温度を操作変数として、循環バルブ14a〜14dの開度を制御して、燃焼炉3内の温度を調整している。
さらに制御部では、各循環バルブ14a〜14dの開度を制御変数として監視し、所定の制約条件に基づいて、各循環バルブ14a〜14dの開度がほぼ均一となるような操作量を求め、この操作量を各サイクロン6の入口付近の設定温度として設定するようになっている。
【0028】
次に、循環流動層ボイラ装置1の制御構成について図1と図2を参照しつつ、説明する。
図1に示すように、循環流動層ボイラ装置1は、図4に示した循環流動層ボイラ1a(以下、プラントという場合もある。)と、プラントとの入出力インターフェイス及びプラントに対してPID(比例・積分・微分)制御を行うDCS(分散型制御システム)20と、プラントからの入力データ(制御量)を記憶しつつ、各種制約条件に基づき入力データを監視するデータベースサーバ30と、プラントにおける各プロセスを同定した動特性モデルに基づき、モデル予測制御を行うとともに、各種制約条件に基づき出力データを監視してDCS20に出力データ(操作量)を出力する制御サーバ40と、データベースサーバ30と制御サーバ40とに接続されたプラントの制御状態を確認可能な操作パネル50などを備えている。
DCS20とデータベースサーバ30、制御サーバ40及び操作パネル50は、集中演算処理装置(CPU)を有する情報処理装置(コンピュータ)であり、それぞれがLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)接続され、本発明の制御部を構成している。
【0029】
操作パネル50は、プラントの制御状態などを表示する表示部と、各種制約条件や、動特性モデル毎のプロセスゲイン、時定数及びむだ時間等のパラメータを予め設定可能な入力部を備えている。
DCS(分散型制御システム)20は、PID演算を行うPID演算部21を有しており、循環流動層ボイラ1aからの制御量を監視し、この制御量や設定値に基づいて操作量を算出し、操作量に対応するアクチュエータを操作して、循環流動層ボイラ1aを制御する。この場合の設定値は、後述の制御サーバ40の多変数モデル予測制御部41から出力されるようになっている。
なお、各循環バルブ14a〜14dをPID制御するPIDパラメータ(比例、積分、微分定数)は、各循環バルブ14a〜14dとも同じ値として設定してある。
これにより、PID制御によって生じる開度のバラツキをなくすことができる。
ここで、制御部が、循環流動層ボイラ1aを制御するにあたり、制御対象となる制御変数(CV)と、この制御変数を維持するために操作される操作変数(MV)を、以下のように選定する。
【0030】
a.制御変数
(1)蒸気発生量(S):蒸気ドラム9から発生する蒸気量で、設定された目標値に追従させる。
(2)酸素濃度(O):燃焼炉3内の排ガス中に含まれる酸素濃度で、主に、不完全燃焼による失火、窒素酸化物の増加防止、アフターバーニングの防止、燃料の節約などを目的として計測し、酸素濃度(O)が運転時の制約条件(例えば、4%〜5.5%)を満たすように制御する。
(3)硫黄酸化物濃度(SOx):環境対策として排出量が規制され、蒸気発生量の目標値変更や燃焼炉3内の温度の高低によって変動する値であって、主に排ガス中に含まれる二酸化硫黄(SO)の濃度を計測して、二酸化硫黄(SO)濃度が運転時の制約条件(例えば、0ppm〜130ppm)を満たすように制御する。
(4)循環バルブ14a〜14dの開度:燃焼炉3に戻す流動媒体の量を増減させるバルブ開度を計測し、後述する制約条件に基づき、各循環バルブ14の開度がほぼ均一になるように制御する。
(5)その他:デンスベッド部3bの温度、燃焼炉3の上下部間の差圧などを計測し、循環流動層ボイラ1aの運転状態を制御する。
【0031】
b.操作変数
(1)燃料投入量(C):石炭を主とする燃料の投入量であって、主に蒸気発生量(S)を増減させるために操作されるが、酸素濃度Oや二酸化硫黄濃度SOにも影響を及ぼす。
(2)二次空気量:二次空気ポンプ12から燃焼炉3に流入される空気量であって、主に酸素濃度Oを増減させるために操作されるが、二酸化硫黄濃度SOにも影響を及ぼす。
(3)各サイクロン6の入口設定温度:このサイクロン6の入口設定温度を操作することで、温度計5a〜5dがこの設定値を示すように、循環バルブ14a〜14dが制御される。主に二酸化硫黄濃度SOが制約条件を満たすように操作される。
(4)その他:燃焼炉3内差圧の設定値を操作する。
【0032】
また、その他の燃焼に影響を与える変数として、集塵器15から燃焼炉3に未燃分としてリサイクルされる灰の量を、外乱変数として選定した。このリサイクル量は、集塵器15の入口温度に基づいて回転数が変化するモータの回転数を間接的に計測することで求められるが、直接計測されるものでないため、外乱変数としてある。
【0033】
次に、データベースサーバ30は、プラントからの各種入力データ(制御量)や、各種制約条件、プラントにおける各プロセスを同定した動特性モデルの数式などを記憶するデータベース31と、入力データを監視する入力チェック部32を備えている。
【0034】
データベース31には、プラントから前述した蒸気発生量S(t/h)、酸素濃度O(%)、二酸化硫黄濃度SO(ppm)、循環バルブ14a〜14dの開度(%)、各サイクロン6の入口温度(℃)などの入力データが所定のサンプリング周期で入力され、これらの入力データは、逐次記憶されるとともに、各々に対応する制約条件とともに、操作パネル50に表示される。
【0035】
また、データベース31には、プラントにおける各プロセスを同定した近似式である、動特性モデルを記憶している。
制御対象となる循環流動層ボイラ1aは、発熱量が変動する燃料を用いるとともに、伝熱の応答特性が悪い珪砂などの流動媒体を伝熱媒体としていることから、本実施形態における動特性モデルは、プロセスゲインK、むだ時間Lと時定数Tを有する一次遅れ系のプロセスとして同定している。
ここで同定される動特性モデルは、事前に行われた試運転において予め決定したものを用いており、具体的には、前述した各操作変数を各々独立してステップ状に変化させ、各制御変数及び外乱変数の応答特性を観測し、この応答特性に近似した、プロセスゲインK、むだ時間Lと時定数Tを有する一次遅れ系のステップ応答モデルを動特性モデルとしたものである。
【0036】
例えば、操作変数である各サイクロン6の入口設定温度をステップ状に変化させることで、この変化に基づく、二酸化硫黄濃度(ppm)の応答特性(ステップ応答)を同定した動特性モデルと、循環バルブ14a〜14dの開度(%)の応答特性(ステップ応答)を同定した動特性モデルとを予め設定しておくことができる。同様にして、前述した各操作変数に対する、各制御変数及び外乱変数の応答特性を同定した動特性モデルを予め設定し、これらの動特性モデルの数式をモデルデータとしてデータベース31に記憶してある。
これにより、後述の制御サーバ40の多変数モデル予測制御部41において、これらの動特性モデルに基づいて、未来の制御量を予測し、操作量を算出できるようになっている。
【0037】
また、データベース31には、各種制約条件が記憶されている。
制約条件には、入力チェック部32及び出力チェック部42において異常を判定するときに入出力データと比較される異常時の制約条件と、多変数モデル予測制御部41が未来の制御量を予測し、操作量を算出するに伴い参照される運転時の制約条件とが記憶されている。
異常時の制約条件としては、例えば、酸素濃度Oが異常時の上限値(例えば、21%)や、二酸化硫黄濃度SOが異常時の上限値(例えば、200ppm)などが記憶されている。
また、運転時の制約条件としては、酸素濃度Oの運転時の制約条件(例えば、4%〜5.5%)や、二酸化硫黄濃度SOの運転時の制約条件(例えば、0.0ppm〜130ppm)などが記憶されている。
【0038】
特に、運転時の制約条件として、各循環バルブ14a〜14dの開度(%)がほぼ均一の開度となるように制御するために、二つの制約条件が記憶されている。
具体的には、第一の制約条件としては、すべての循環バルブ14の開度から算出される平均開度(Va)に対して、各循環バルブ14a〜14dの開度(%)を、一定とする範囲(例えば、±15%)が記憶されている。
また、第二の制約条件としては、循環バルブ14bと循環バルブ14cの開度差(Vs)を、一定とする範囲(例えば、±5%)が記憶されている。
データベース31には、これらの制約条件となる制約式(範囲)が記憶され、多変数モデル予測制御部41において、予測された未来の制御量が、この制約式を満たすような操作量を探索するようになっている。
【0039】
また、データベース31には、多変数モデル予測制御部41が未来の制御量を予測し、最適な操作量を算出する評価関数が記憶されている。
多変数モデル予測制御における評価関数は、様々な定義方法があるが、次式に示すように、操作量の更新値を変数とした評価関数が一般的である。
(制御量の予測値−制御量の目標値)+(操作量の更新値)
そして、多変数モデル予測制御部41では、上記の評価関数が最小となるような値を操作量として更新する。
なお、上記の評価関数において、短い操作周期で一気に目標値に達するように制御するのではなく、徐々に目標値になるように制御するための参照軌道を導入したり、重み係数として、算出される操作量(操作変数)毎に燃料費などのコスト削減を考慮したパラメータを設定したりすることもできる。
また、データベース31は、多変数モデル予測制御部41が算出した結果(操作量)を算出履歴として記憶・管理しており、この記憶された算出結果が、後述する出力チェック部42において、出力データとして参照される。
【0040】
一方、入力チェック部32は、制御サーバ40に受け渡す入力データを監視している。例えば、蒸気発生量S(t/h)、酸素濃度O(%)、二酸化硫黄濃度SO(ppm)、循環バルブ14a〜14dの開度(%)、各サイクロン6の入口温度(℃)などの入力データ(制御量)を、データベース31に記憶された異常時の制約条件と比較して、入力データがこの制約条件から外れたときに、制御を停止する信号を出力するようになっている。
また、入力チェック部32は、制御サーバ40に受け渡す入力データの性状推定や、フィルタリングなどのデータ加工も行うようになっている。
【0041】
次に、制御サーバ40には、出力データ(操作量)を算出する多変数モデル予測制御部41と、出力データを監視する出力チェック部42を備えている。
多変数モデル予測制御部41は、インストールされた市販の多変数モデル予測制御プログラムに基づき、制御周期(例えば、1分)毎に、以下のような処理を実行して、出力データ(操作量)を算出する。
【0042】
具体的には、多変数モデル予測制御部41は、データベース31に記憶された過去の入力データ(制御量)から、動特性モデルの数式に基づき、未来における一定の予測区間にわたる制御量の予測値を算出する。
そして、この予測された制御量が評価関数の値を最小とし、かつ、入出力データの運転時の制約条件を満たす範囲内で、操作量を探索する最適化計算(例えば、二次計画法)を行う。
さらに、算出した操作量を、出力データ(操作量)として、プラントに出力し、次の制御周期において、この結果プラントから入力された入力データ(制御量)を加味して、一制御周期分未来にシフトした予測区間における制御量の予測値を算出する。そして、評価関数を最小化し、運転時の制約条件を満たす操作量を探索する最適化計算を繰り返す。
多変数モデル予測制御部41では、以上のような処理をすべての操作変数に対して行い、操作量を算出している。
【0043】
同様に、この多変数モデル予測制御部41は、前述した各循環バルブ14a〜14dの開度(%)がほぼ均一の開度となるように制御するための二つの制約条件を満した操作量(各サイクロン6の入口設定温度)を算出している。
【0044】
具体的には、各循環バルブ14a〜14dの開度(%)と各サイクロン6の入口温度は、プラントからの入力データとして、逐次データベース31に記憶されている。さらに、データベース31には、各サイクロン6の入口設定温度をステップ状に変化させた場合の循環バルブ14a〜14dの開度(%)の応答特性を同定した動特性モデルと、前述の第一の制約条件及び第二の制約条件が予め記憶されている。
また、この多変数モデル予測制御部41は、各循環バルブ14a〜14dの開度(%)から、平均開度(Va)と、循環バルブ14bと循環バルブ14cの開度差(Vs)を、制御周期毎に算出する。
【0045】
そして、多変数モデル予測制御部41では、この入力データと動特性モデルに基づき、未来における一定の予測区間にわたる循環バルブ14a〜14dの開度(%)の予測値を算出し、この予測された開度が評価関数の値を最小とし、かつ、二つの制約条件を満たす、各サイクロン6の入口設定温度を探索する最適化計算を行う。
【0046】
最適化計算では、例えば、第一の制約条件を満たすように、算出された各循環バルブ14a〜14dの開度(%)の予測値が、この予測値から算出される平均開度(Va)から一定の範囲外にあるときは、この範囲におさまるように予測値を補正し、この補正した予測値に基づいた操作量(各サイクロン6の入口設定温度)を算出する。
同様に、第二の制約条件を満たすように、算出された循環バルブ14bと循環バルブ14cの開度差(%)の予測値が、一定の範囲外にあるときは、この範囲におさまるように循環バルブ14bと循環バルブ14cの開度(%)の予測値を補正し、この補正した予測値に基づいた操作量(各サイクロン6の入口設定温度)を算出する。
【0047】
その結果、算出された各サイクロン6の入口設定温度(操作量)を、DCS20を介してプラントに出力すると、各循環バルブ14a〜14dの開度は、すべての循環バルブ14の開度から算出される平均開度(Va)に対して、一定の範囲内(例えば、±15%)に制御されるとともに、循環バルブ14bと循環バルブ14cの開度差(Vs)は、一定の範囲内(例えば、±5%)に制御される。
【0048】
このように、循環バルブ14a〜14dの開度をほぼ均一の開度となるように制御することで、各循環バルブ14a〜14dの開度のバラツキがなくなることから、各サイクロン6に流入するソリッドの量や、燃焼炉3に戻される流動媒体の量が、サイクロン6毎にほぼ一定量となり、ソリッド及び流動媒体の安定した循環が図られる。
その結果、各サイクロン6の入口温度もほぼ同じ値を示すようになり、硫黄酸化物(SOx)の増加を抑制するために、燃焼炉3内の設定温度を制御する場合においても、循環バルブ14a〜14dがほぼ同じ挙動を示すようになり、所望する設定温度に収れんさせるまでに費やす時間を短縮できる。すなわち、プラントの応答特性を向上させることができる。
【0049】
出力チェック部は、安全対策の面から、DCS20に出力される操作量の最終チェックを行っている。具体的には、燃料投入量(C)、二次空気量、各サイクロン6の入口設定温度などの出力データを、データベース31に記憶された異常時の制約条件と比較して、出力データがこの制約条件から外れたときに、制御を停止する信号を出力するようになっている。
【0050】
次に、DCS20とデータベースサーバ30、制御サーバ40及び操作パネル50からなる本実施形態の制御部が、一制御周期毎に行う循環流動層ボイラ1aの制御処理について、図2のフローチャートを参照して説明する。
まず、DCS20からの入力データ(制御量)は、データベースサーバ30に読込まれ、データベース31に記憶される(S10)。
次に、入力チェック部32において、入力データの性状推定、フィルタリングなどのデータ加工及び入力データを異常時の制約条件に基づいて判定する入力データチェックが行われる(S11)。入力データが異常値と判定された場合には(S12−YES)、プラントの制御を停止する処理を行う(S17)。
一方、入力データが異常値でない場合には(S12−NO)、多変数モデル予測制御部41において、この入力データと動特性モデルに基づき、制御量の予測値を算出する(S13)。
続いて、多変数モデル予測制御部41において、制御量の予測値が評価関数を最小化し、運転時の制約条件を満たす操作量を探索する最適化計算を行い、操作量を算出する(S14)。
このとき、各循環バルブ14a〜14dの開度(%)がほぼ均一の開度となるように制御するための二つの制約条件を満した操作量(各サイクロン6の入口設定温度)をも算出している。
そして、出力チェック部42において、算出された操作量を異常時の制約条件に基づいて判定チェックする出力データチェックが行われる(S15)。出力データが異常値と判定された場合には(S16−YES)、プラントの制御を停止する処理を行う(S17)。一方、出力データが異常値でない場合には(S16−NO)、算出された操作量を出力データとしてDCS20に出力する(S19)。
DCS20は、PID演算部21において、この出力データを設定値として、制御量との偏差に基づいてPID演算を行うことで、実際の操作量を算出し、算出した操作量を各アクチュエータに入力するようになっている。このとき、各循環バルブ14a〜14dをPID制御するPIDパラメータは同じ値が設定されていることから、各循環バルブ14a〜14dは、二つの制約条件に従い、ほぼ均一な開度となるように制御される。
そして、この操作結果に基づく制御量は、再びDCS20からデータベースサーバ30に読込まれ、その後は上記の制御処理が繰り返される。
【0051】
このように本実施形態の制御部は、循環流動層ボイラ1aを同定した動特性モデルに基づいて、循環流動層ボイラ1aを制御する多変数モデル予測制御を行っている。
多変数モデル予測制御は、プラント制御に特有のむだ時間補償や、未来予測制御によって応答特性の改善に効果的な制御方法として知られており、特に、本実施形態の制御対象である、発熱量が変動する燃料を用いるとともに、伝熱の応答特性が悪い珪砂などの流動媒体を伝熱媒体としている循環流動層ボイラ1aに対しては、最適な制御方法とすることができる。
実際に、本実施形態の多変数モデル予測制御を、循環流動層ボイラ1aに適用した場合の各種データの推移を図3に示す。
【0052】
図3は、蒸気発生量S(t/h)の設定値を30%変動させた場合における、蒸気発生量S(t/h)と、石炭投入量C(t/h)と、酸素濃度O(%)と、二酸化硫黄濃度SO(ppm)の時間の経過に伴う推移を表した図である。
図3に示すように、石炭投入量C(t/h)の変動に対応して、蒸気発生量S(t/h)が、むだ時間を生じることなく、追従して応答している(図6比較参照)。
また、蒸気発生量S(t/h)が変動しても、酸素濃度O(%)と、二酸化硫黄濃度SO(ppm)を、運転時の制約条件に拘束させることができた。
【0053】
以上のように本実施形態に係る循環流動層ボイラ装置1とこの循環流動層ボイラ装置1を制御する制御方法によれば、むだ時間の変動を抑制するとともに、流動媒体の循環を安定させることで、循環流動層ボイラ1aの応答性を向上させ、効率的に蒸気を発生させることができる。
【0054】
以上、本発明のボイラ装置とこのボイラ装置を制御する制御方法の好ましい実施形態について説明したが、本発明に係るボイラ装置とこのボイラ装置を制御する制御方法は上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
例えば、本実施形態の循環流動層ボイラ1aを同定する動特性モデルとして、むだ時間と一次遅れを有するステップ応答モデルと同定したが、ARXモデルや状態空間モデル等の他の動特性モデルを用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、石炭やバイオマス、産業廃棄物等を燃料とし、粉砕した燃料と珪砂などの流動媒体を流動化させて燃焼する循環流動層ボイラや循環流動層燃焼装置に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係る循環流動層ボイラ装置の制御構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る循環流動層ボイラ装置の制御の流れを示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係る循環流動層ボイラ装置に多変数モデル予測制御を適用した制御結果を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る循環流動層ボイラの構成を模式的に示した概略図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る循環流動層ボイラの燃焼炉からサイクロンに亘る部分の構成を模式的に示す、上方から見た断面図である。
【図6】従来の制御における石炭投入量を時間の経過とともに変化させた場合の蒸気発生量の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 循環流動層ボイラ装置(制御部含む)
1a 循環流動層ボイラ
2 バンカー
3 燃焼炉
4 パス
5 温度計(5a〜5d)
6 サイクロン(6a〜6d)
7 熱交換器
8 給水ポンプ
9 蒸気ドラム
10 パス
11 一次空気ポンプ
12 二次空気ポンプ
13 循環ライン(13a〜13d)
14 循環バルブ(14a〜14d)
15 集塵器
16 ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の燃料を燃焼させるとともに、流動媒体を炉内で循環させて、蒸気を発生させるボイラ装置であって、
燃料と流動媒体を流動化させて燃焼する燃焼炉と、
前記燃焼炉と連通する一のパスと、
前記一のパスから分岐して、前記燃焼炉とそれぞれ連通する、焼却物から流動媒体を分離する複数のサイクロンと、
前記サイクロンで分離された流動媒体と水との間で熱交換を行わせる熱交換部と、
前記サイクロン毎に設けられ、熱交換を行った流動媒体を前記燃焼炉に戻す複数の循環ラインと、
前記各循環ラインに設けられ、前記熱交換を行った流動媒体の戻す量を増減させ、前記燃焼炉内の温度を調整する複数の循環バルブと、
前記燃焼炉内の設定温度に基づき、前記各循環バルブの開度を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、所定の制約条件に基づいて、前記各循環バルブの開度がほぼ均一となるように制御することを特徴とするボイラ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記循環バルブの平均開度に対して一定の開度範囲以内とする制約条件に基づき、前記各循環バルブの開度を制御する請求項1記載のボイラ装置。
【請求項3】
前記サイクロンを少なくとも三基備えるとともに、これに対応して前記循環ラインと前記循環バルブとが各々設けられ、
前記制御部は、前記サイクロンのうち、流動媒体が流入する入口が隣接する特定の前記サイクロンに対応する二つの循環バルブをほぼ同じ開度となるように制御する請求項1又は2記載のボイラ装置。
【請求項4】
前記制御部は、操作変数の操作量変化に伴う制御変数の制御量変化を、当該ボイラ装置を同定する予め定めた動特性モデルから予測し、この予測値に基づいて算出される操作量を入力するモデル予測制御を行う請求項1〜3のいずれか一項に記載のボイラ装置。
【請求項5】
所定の燃料を燃焼させるとともに、流動媒体を炉内で循環させて、蒸気を発生させるボイラ装置の制御方法であって、
前記ボイラ装置は、燃料と流動媒体を流動化させて燃焼する燃焼炉と、
前記燃焼炉と連通する一のパスと、
前記一のパスから分岐して、前記燃焼炉とそれぞれ連通する、焼却物から流動媒体を分離する複数のサイクロンと、
前記サイクロンで分離された流動媒体と水との間で熱交換を行わせる熱交換部と、
前記サイクロン毎に設けられ、熱交換を行った流動媒体を前記燃焼炉に戻す複数の循環ラインと、
前記各循環ラインに設けられ、前記熱交換を行った流動媒体の戻す量を増減させ、前記燃焼炉内の温度を調整する複数の循環バルブと、
前記燃焼炉内の設定温度に基づき、前記各循環バルブの開度を制御する制御部と、を備え、
前記制御部が、前記循環バルブの平均開度に対して一定の開度範囲以内とする制約条件に基づき、前記各循環バルブの開度を制御することを特徴とするボイラ装置の制御方法。
【請求項6】
前記ボイラ装置は、前記サイクロンを少なくとも三基備えるとともに、これに対応して前記循環ラインと前記循環バルブとが各々設けられ、
前記制御部が、前記サイクロンのうち、流動媒体が流入する入口が隣接する特定の前記サイクロンに対応する二つの循環バルブをほぼ同じ開度となるように制御する請求項5記載のボイラ装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−145018(P2010−145018A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323262(P2008−323262)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】