説明

ボイルオフガス処理装置及び液化ガスタンク

【課題】ボイルオフガスの処理に要する設備コスト及び運転コストを低減し、ボイルオフガスの焼却又は廃却を抑制することができる、ボイルオフガス処理装置及び液化ガスタンクを提供する。
【解決手段】液化ガス21を貯蔵する液化ガスタンク2内で発生したボイルオフガス22を再液化して液化ガスタンク2内に返戻するボイルオフガス処理装置であって、ボイルオフガス22を液化ガスタンク2から外部に排出するボイルオフガス排出ライン3と、ボイルオフガス排出ライン3の少なくとも一部を液化ガスタンク2内の液化ガス21内に浸漬させたボイルオフガス再液化ライン4と、を有し、ボイルオフガス再液化ライン4は、ボイルオフガス22の再液化に必要な圧力を保持する圧力保持手段42を有するとともに、ボイルオフガス22の再液化に必要な熱量を吸収可能な長さLを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイルオフガス処理装置及び液化ガスタンクに関し、特に、ボイルオフガスを再液化して液化ガスタンク内に返戻するためのボイルオフガス処理装置及び該ボイルオフガス処理装置を備えた液化ガスタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液化天然ガス(LNG)や液化石油ガス(LPG)等の液化ガスは、輸送タンカー、輸入基地、備蓄基地、船舶の液化ガス燃料タンク等の施設及び設備において、液化ガスタンク内に封入されて貯蔵される。液化ガスタンクは、断熱対策が施されていたとしても、少なからず、タンク外部からタンク内部への侵入熱を生じ、かかる侵入熱により液化ガスは蒸発する。
【0003】
この蒸発したガス(以下、「ボイルオフガス」という。)を液化ガスタンクの外部に取り出さない場合、液化ガスタンク内のガス蒸気圧は上昇し、液化ガスタンク内の液化ガスは、液化ガス表面温度の飽和蒸気圧となって気液平衡状態になる。また、温められた液化ガスは、温度上昇に伴う対流によって、液化ガスタンクの液表面部分に集まり、液化ガスの全体温度よりも高温の液層(上部高温層)を形成する。そして、この上部高温層とガス蒸気相との間で気液平衡状態が保たれる。
【0004】
すなわち、液化ガスタンクへの侵入熱は、液化ガスの対流によって上部高温層に運ばれ、上部高温層の温度を上昇させることとなる。したがって、上部高温層の温度は、比較的短時間で上昇し、上部高温層の温度と平衡するガス蒸気相の圧力も上昇することとなる。上部高温層は、液化ガスの大部分を占める下部低温層よりも層が薄い(量が少ない)ことから、比較的短い時間で液化ガスタンクの所定圧力(上限値)まで上昇することとなる。
【0005】
そこで、従来、例えば、常圧で液化ガスを貯蔵する液化ガスタンクにあっては、液化ガスタンクの内圧を所定圧力以下に抑制するために、ボイルオフガスをコンプレッサ等により外部のガス処理装置に移送して処理していた。ガス処理装置には、例えば、ボイルオフガスを窒素ガス等の低温媒体により冷却し液化して液化ガスタンクに返戻する再液化装置、ボイラやガス焚きエンジン等で燃焼しエネルギー源として使用するガス使用装置、ガスを燃焼廃棄するガス焼却廃棄装置、ガスフレアやガスベント装置等の大気への廃棄装置等、がある。
【0006】
特許文献1に記載されたボイルオフガスの処理方法は、低温液化ガスタンク内で発生したBOG(ボイルオフガス)を取り出すBOG取出管の途中よりBOG戻し管を分岐させ、該BOG戻し管を低温液化ガスタンク内に入れて先端部をタンク底部近くに開口させ、且つ上記BOG戻し管の先端部である下端出口部に、BOGを小径の気泡として噴出させるようにするための網を取り付け、上記BOG取出管に取り出されたBOGをBOG戻し管内から網を通し小径の気泡として低温液化ガス中に噴出させるようにしたものである。かかる処理方法は、ボイルオフガスを再液化するものである。
【0007】
特許文献2に記載されたボイルオフガスの処理方法は、液化ガス運搬船の液化ガスタンクにて発生するBOG(ボイルオフガス)を、改質して燃料電池へ燃料として供給し、該燃料電池により発電させるようにしたものである。かかる処理方法は、ボイルオフガスをエネルギー源として使用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−46295号公報
【特許文献2】特開2004−51049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ボイルオフガスを再液化する場合は設備コスト及び運転コストが多大である、ボイルオフガスをエネルギー源として使用する場合は設備コストが多大である、ボイルオフガスを焼却又は廃却する場合は無駄が多い、という問題があった。
【0010】
また、特許文献1に記載された再液化装置では、ボイルオフガスを気泡のまま液化ガスタンク内に噴出させており、ボイルオフガスの気泡は、気泡のまま液化ガス内を上昇し、液表面に到達し、ガス蒸気相に戻ってしまうという問題があった。
【0011】
また、特許文献2に記載された処理方法では、燃料電池、改質器等を備えた燃料電池設備が必要であり、設備コストが多大となる。また、このように、ボイルオフガスをエネルギー源として使用する場合には、ボイルオフガスの発生量がエネルギー消費量を上回ることもあり、かかる場合には、結局、ボイルオフガスを焼却又は廃却しなければならないという問題もあった。
【0012】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、ボイルオフガスの処理に要する設備コスト及び運転コストを低減し、ボイルオフガスの焼却又は廃却を抑制することができる、ボイルオフガス処理装置及び液化ガスタンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、液化ガスを貯蔵する液化ガスタンク内で発生したボイルオフガスを再液化して前記液化ガスタンク内に返戻するボイルオフガス処理装置であって、前記ボイルオフガスを前記液化ガスタンクから外部に排出するボイルオフガス排出ラインと、前記ボイルオフガス排出ラインの少なくとも一部を前記液化ガスタンク内の前記液化ガス内に浸漬させたボイルオフガス再液化ラインと、を有し、前記ボイルオフガス再液化ラインは、前記ボイルオフガスの再液化に必要な圧力を保持するとともに、前記ボイルオフガスの再液化に必要な熱量を放出可能な長さを有する、ことを特徴とするボイルオフガス処理装置が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、液化ガスを貯蔵する断熱容器を有する液化ガスタンクであって、前記液化ガスタンク内で発生したボイルオフガスを再液化して前記液化ガスタンク内に返戻するボイルオフガス処理装置を有し、前記ボイルオフガスを前記液化ガスタンクから外部に排出するボイルオフガス排出ラインと、前記ボイルオフガス排出ラインの少なくとも一部を前記液化ガスタンク内の前記液化ガス内に浸漬させたボイルオフガス再液化ラインと、を有し、前記ボイルオフガス再液化ラインは、前記ボイルオフガスの再液化に必要な圧力を保持するとともに、前記ボイルオフガスの再液化に必要な熱量を放出可能な長さを有する、ことを特徴とする液化ガスタンクが提供される。
【0015】
上述したボイルオフガス処理装置及び液化ガスタンクにおいて、前記ボイルオフガス再液化ラインは、前記ボイルオフガスを凝縮して捕集し前記ボイルオフガスを液体として前記液化ガス内に放出する圧力保持手段を有していてもよい。
【0016】
前記ボイルオフガス再液化ラインは、前記ボイルオフガスの全部を再液化して前記液化ガス内に放出してもよいし、前記ボイルオフガスの一部を再液化して前記液化ガス内に放出してもよい。
【0017】
また、前記ボイルオフガス再液化ラインを前記液化ガスタンクの外部に誘導する外部誘導ラインと、該外部誘導ラインの先端に配置され前記ボイルオフガスを凝縮して捕集し前記ボイルオフガスを液体として放出する圧力保持手段と、該圧力保持手段から放出される液体を前記液化ガスタンク内の液化ガスに返戻する返戻ラインと、を有していてもよい。
【0018】
さらに、前記圧力保持手段と前記返戻ラインとの間に、前記圧力保持手段から放出される液体を一時的に受け容れる受液タンクを有していてもよい。
【0019】
また、前記ボイルオフガス排出ラインは、前記ボイルオフガスを排出又は昇圧するコンプレッサを有していてもよい。
【発明の効果】
【0020】
上述した本発明に係るボイルオフガス処理装置及び液化ガスタンクによれば、ボイルオフガス再液化ラインを所定の圧力を保持するとともに所定の長さに形成することにより、ボイルオフガス再液化ライン内のボイルオフガスと液化ガスタンク内に貯蔵された液化ガスとを熱交換させて、ボイルオフガスをボイルオフガス再液化ライン内で再液化させることができ、ボイルオフガスを再液化してから液化ガスタンクに放出することができる。したがって、特別な再液化装置を必要とせず、ボイルオフガスの処理に要する設備コスト及び運転コストを低減することができる。
【0021】
また、液化ガスタンク内が所定圧力に達しないようにボイルオフガスをガス蒸気相から排出することができ、排出したボイルオフガスを再液化して液化ガスタンクに返戻することができる。したがって、ボイルオフガスの焼却又は廃却を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態に係るボイルオフガス処理装置を示す図であり、(a)は概略全体構成図、(b)はベーパートラップの概略構成図、を示している。
【図2】ボイルオフガス処理装置の作用を示す圧力−エンタルピー線図である。
【図3】図1に示したボイルオフガス処理装置の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、を示している。
【図4】図1に示したボイルオフガス処理装置の変形例を示す図であり、(a)は第四変形例、(b)は第五変形例、(c)は第六変形例、を示している。
【図5】本発明の第二実施形態に係るボイルオフガス処理装置を示す図であり、(a)は概略全体構成図、(b)は変形例、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図1〜図5を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係るボイルオフガス処理装置を示す図であり、(a)は概略全体構成図、(b)はベーパートラップの概略構成図、を示している。図2は、ボイルオフガス処理装置の作用を示す圧力−エンタルピー線図である。
【0024】
本発明の第一実施形態にボイルオフガス処理装置1は、図1(a)に示したように、液化ガス21を貯蔵する液化ガスタンク2内で発生したボイルオフガス22を再液化して液化ガスタンク2内に返戻するボイルオフガス処理装置であって、ボイルオフガス22を液化ガスタンク2から外部に排出するボイルオフガス排出ライン3と、ボイルオフガス排出ライン3の少なくとも一部を液化ガスタンク2内の液化ガス21内に浸漬させたボイルオフガス再液化ライン4と、を有し、ボイルオフガス再液化ライン4は、ボイルオフガス22の再液化に必要な圧力を保持する圧力保持手段42を有するとともに、ボイルオフガス22の再液化に必要な熱量を放出可能な長さLを有している。
【0025】
図1(a)に示した液化ガスタンク2は、液化ガス21を貯蔵する断熱容器2aと、断熱容器2aの上部に配置されたタンクドーム2bと、を有する。なお、液化ガスタンク2の構成は、図示したものに限定されず、輸送タンカー、輸入基地、備蓄基地、船舶の液化ガス燃料タンク等、配置場所や使用目的等に応じて、適宜変更し得るものである。
【0026】
断熱容器2aは、例えば、低温靭性に優れた素材により構成される内層と、外部からの侵入熱を抑制する断熱層(又は保冷層)と、断熱層を保持する外層と、を有する。また、断熱容器2aの形状は、図示したような角型の形状であってもよいし、球型の形状であってもよいし、円筒型の形状であってもよい。タンクドーム2bは、断熱容器2aの屋根部に配置され、液化ガスの搬出入を行う配管等の挿通口やメンテナンス等のための交通路を構成する。
【0027】
ボイルオフガス排出ライン3は、液化ガスタンク2内の上層部に挿通されたボイルオフガス排出管31と、ボイルオフガス22を排出又は昇圧するコンプレッサ32と、ボイルオフガス22の流路を変更する流路切替弁33と、を有する。なお、図では、ボイルオフガス排出管31の一部のみを図示し、ボイルオフガス排出ライン3を構成する配管の図を簡略化している。
【0028】
ボイルオフガス排出管31は、液化ガスタンク2のタンクドーム2bから液化ガスタンク2内に挿通及び開口され、液化ガスタンク2の上層部に溜まったボイルオフガス22を吸入できる位置に配置されている。
【0029】
コンプレッサ32は、液化ガスタンク2内に溜まったボイルオフガス22を吸引し、ボイルオフガス排出ライン3によりタンク外に排出する。コンプレッサ32は、液化ガスタンク2内の圧力が所定の閾値に到達すると自動的に作動させるようにしてもよいし、手動で任意のタイミングに作動させるようにしてもよい。
【0030】
ボイルオフガス排出ライン3は、例えば、ボイルオフガス再液化ライン4及びボイルオフガス消費ライン5に分岐される。ボイルオフガス排出ライン3の分岐点には、流路切替弁33が配置されている。流路切替弁33は、必ずしも三方弁である必要はなく、ボイルオフガス再液化ライン4及びボイルオフガス消費ライン5のそれぞれに配置した止め弁で代用するようにしてもよい。ボイルオフガス消費ライン5は、ボイルオフガス22をエネルギー源として使用する場合等に使用される。
【0031】
ボイルオフガス消費ライン5は、第一消費ライン51及び第二消費ライン52に分岐される。ボイルオフガス消費ライン5の分岐点には、流路切替弁53が配置されている。流路切替弁53は、必ずしも三方弁である必要はなく、第一消費ライン51及び第二消費ライン52のそれぞれに配置した止め弁で代用するようにしてもよい。第一消費ライン51は、例えば、エンジン54に接続され、第二消費ライン52は、例えば、ボイラ55に接続されており、ボイルオフガス22を燃料として使用する。なお、ボイルオフガス22の発生量がエネルギー消費量を上回る場合には、ボイルオフガス22はボイルオフガス再液化ライン4に移送され、再液化される。
【0032】
なお、ボイルオフガス消費ライン5の構成は、図示したものに限定されるものではなく、ガス使用装置(エンジン54、ボイラ55等)が単数の場合には第一消費ライン51及び第二消費ライン52に分岐させる必要はないし、ガス使用装置(エンジン54、ボイラ55等)が三台以上の場合には台数に合わせてボイルオフガス消費ライン5を分岐させるようにしてもよいし、単数又は複数の同種又は異種のガス使用装置(エンジン、ボイラ等)を適宜組み合わせた構成であってもよいし、必要に応じて、ガス焼却廃棄装置や大気への廃棄装置を有していてもよい。
【0033】
ボイルオフガス再液化ライン4は、液化ガスタンク2の液化ガス21内に挿通されたボイルオフガス返戻管41と、ボイルオフガス22を凝縮して捕集しボイルオフガス22を液体として液化ガス21内に放出する圧力保持手段42と、を有する。なお、図では、ボイルオフガス返戻管41の一部のみを図示し、ボイルオフガス再液化ライン4を構成する配管の図を簡略化している。
【0034】
ボイルオフガス返戻管41は、ボイルオフガス排出ライン3から分岐され、液化ガスタンク2のタンクドーム2bから液化ガスタンク2内に挿通され、液化ガス21内に浸漬されている。ボイルオフガス返戻管41は、略垂直に液化ガス21に浸漬した垂直部41aと略水平方向に屈曲した水平部41bとを有する。垂直部41aは、深さMだけ液化ガス21に浸漬し、水平部41bは、長さNを有する。深さMは、熱交換率を長く保持するために、液化ガス21の液面から離れた液化ガスタンク2の底部寄りに垂直部41aの下端が配置されるように設定される。また、液化ガス21内に浸漬されたボイルオフガス返戻管41の長さL(すなわち、垂直部41aの深さM及び水平部41bの長さNの合計)は、ボイルオフガス22の再液化に必要な熱量を放出可能な長さに設定される。
【0035】
なお、ボイルオフガス返戻管41は、タンクドーム2b以外の部分(例えば、液化ガスタンク2の側壁部や底面部)から液化ガスタンク2内に導くようにしてもよい。また、タンクドーム2bを有しない液化ガスタンク2の場合には、ボイルオフガス返戻管41は、液化ガスタンク2の屋根部、側壁部、底面部等から液化ガスタンク2内に導くようにすればよい。
【0036】
ここで、ボイルオフガス処理装置1の作用について、図2を参照しつつ説明する。図2に示した圧力−エンタルピー線図において、横軸はエンタルピー(kJ/kg)、縦軸は圧力(kPa)を示している。また、図中、中央部の曲線は気液平衡線100、左上から気液平衡線100を横切って右下に至る曲線は等温線101、右上に向かう曲線は等エントロピー線102、を示している。なお、等温線101及び等エントロピー線102については、説明に必要な部分のみを図示している。また、気液平衡線100の内側は気液混合相、気液平衡線100の左側は液相、気液平衡線100の右側は気相、を意味する。
【0037】
ところで、液化ガスタンク2は、断熱対策が施されていたとしても、少なからず、タンク外部からタンク内部への侵入熱を生じ、かかる侵入熱により液化ガス21は蒸発し、ボイルオフガス22を生じる。ボイルオフガス22が発生すると、液化ガスタンク2内のガス蒸気圧は上昇し、液化ガスタンク2内の液化ガス21は、液化ガス表面温度の飽和蒸気圧となって気液平衡状態になる。また、侵入熱により温められた液化ガス21は、温度上昇に伴う対流によって、液化ガスタンク2の液表面部分に集まり、図1(a)に示したように、液化ガス21の全体温度よりも高温の液層(上部高温層21a)を形成する。また、上部高温層21aの下には、上部高温層21aよりも大量かつ低温の液層(下部低温層21b)が形成される。
【0038】
いま、液化ガスタンク2内において、液化ガス21とボイルオフガス22とが気液平衡状態を保った状態Aにあるものとする。液化ガスタンク2への侵入熱は、上部高温層21aに略集約されることから、上部高温層21aの液体(液化ガス21)は、侵入熱によりΔh1の熱量を吸収し、気液平衡状態を保つために、状態Bへと移行してガス化し、ボイルオフガス22となる。
【0039】
ボイルオフガス処理装置1を作動させると、ボイルオフガス22はコンプレッサ32によって昇圧されることから、ボイルオフガス22の状態は、例えば、状態Cへと移行する。なお、ここでは、等エントロピー線102に略沿うように変化した場合を図示しているが、配管からの熱移動等もあるため完全断熱圧縮にはならず、必ずしも等エントロピー線102に沿って移行するわけではない。状態Cへの移行による圧力上昇に伴って、ボイルオフガス22はΔh2の熱量を吸収する。また、状態Cを通る等温線101cは、状態Aの近傍を通る等温線101aよりも高い温度を示している。例えば、液化ガス21が液化メタンガスの場合、等温線101aは約−160℃を示し、等温線101cは約−120℃を示している。なお、状態Cにおける温度は、天然ガスの性状、ボイルオフガス22の圧力や性状等によって正確に計算することができる。
【0040】
そして、状態Cのボイルオフガス22をボイルオフガス再液化ライン4のボイルオフガス返戻管41によって、液化ガスタンク2の液化ガス21内に導入する場合を考える。ボイルオフガス22は、ボイルオフガス返戻管41の垂直部41aを通過して深さMまで移送され、水平部41bを経由して状態D又は同一直線上の過冷却状態に至り、液化ガスタンク2の液化ガス21内に放出される。このとき、深さMまで移送されたボイルオフガス22は、下部低温層21bの低温の液化ガス21と熱交換され、Δh3の熱量を放出して凝縮し液化する。なお、下部低温層21bの液化ガス21は、より高い圧力で平衡状態にある上部高温層21aの液化ガス21の状態に至っておらず、状態Aの温度よりも低い温度である等温線101a上の温度を有している。
【0041】
ボイルオフガス返戻管41の圧力は、ボイルオフガス22と下部低温層21bとの間で、ボイルオフガス22の液化に必要な熱量Δh3を放出可能な温度差を与える圧力Pdが得られるように設定される。すなわち、状態Cから気液平衡線100上の状態Dに至るボイルオフガス22と下部低温層21bとの間で熱交換が行われ、必要な時間当たりの熱量交換ができるようにボイルオフガス返戻管41の圧力Pdを設定することができ、かかる圧力Pdが得られるように、ボイルオフガス返戻管41の終端部に圧力保持手段42が配置される。また、ボイルオフガス返戻管41の長さLは、圧力Pdに応じた時間当たりの交換熱量によって液化するボイルオフガス22が全て状態Dに移行するのに必要な熱量Δh3を放出し、ボイルオフガス再液化ライン4が、ボイルオフガス22の全部を再液化して液化ガス21内に放出する場合には、完全に液化するのに必要な長さに設定される。
【0042】
なお、常圧で液化ガス21を貯蔵する液化ガスタンク2では、圧力Paは約1気圧(約101kPa)であり、圧力Pdは、例えば、2〜4気圧(約202〜約404kPa)もあれば十分である。
【0043】
その後、再液化されたボイルオフガス22は、液化ガス21内に放出され、下部低温層21bの液化ガス21に混入することによって、Δh4に相当する熱量を放出し、下部低温層21bの液化ガス21と均一化する。なお、状態D又は過冷却状態において液化ガス21内に放出された再液化されたボイルオフガス22は、断熱膨張により気化する場合もあり得るが、上部高温層21aに到達するまでの間にΔh4の熱量を放出し最終的に液化される。
【0044】
上述したボイルオフガス22の再液化の過程において、液化ガスタンク2内の液化ガス21は、Δh3及びΔh4の熱量を吸収することから、若干の温度上昇を生じる。しかしながら、下部低温層21bの液化ガス21は大量に存在していること、液化ガス21の全体の温度上昇には長時間を要すること等から、ボイルオフガス22の再液化に伴う温度上昇は液化ガス21に分散され、実質的に霧消される。
【0045】
なお、図2において、状態Cから状態Dに至る途中の気液混合相のまま液化ガス21内にボイルオフガス22を放出するようにしてもよい。これは、ボイルオフガス再液化ライン4が、ボイルオフガス22の一部を再液化して液化ガス21内に放出する場合を意味している。例えば、ボイルオフガス再液化ライン4におけるボイルオフガス22の移送圧力が低い場合、ボイルオフガス22の完全な再液化を必要としない場合等に有効である。
【0046】
上述したボイルオフガス22の再液化処理は、侵入熱によって昇圧された液化ガスタンク2に対して、ボイルオフガス22を下部低温層21bに再液化して返戻することにより、上部高温層21aに蓄熱された侵入熱を下部低温層21bに分散蓄熱していることとなる。すなわち、ボイルオフガス処理装置1は、あたかも蓄圧装置のごとき作用を有する。したがって、液化ガスタンク2にボイルオフガス処理装置1を配置することにより、液化ガスタンク2が常圧タンクの場合であっても、上限の所定圧力に達するまでの時間を長く確保することができる。
【0047】
また、上述したボイルオフガス処理装置1によれば、ボイルオフガス再液化ライン4を配置するだけでよく、特別な再液化装置を必要とせず、ボイルオフガス22の処理に要する設備コスト及び運転コストを低減することができる。また、液化ガスタンク2内が所定圧力に達しないようにボイルオフガス22をガス蒸気相から排出することができ、排出したボイルオフガス22を再液化して液化ガスタンク2に返戻することができ、ボイルオフガス22の焼却又は廃却を抑制することができる。
【0048】
ところで、圧力保持手段42には、例えば、図1(a)に示したような、ベーパートラップが使用される。ここで、図1(b)は、フロート式のベーパートラップ(圧力保持手段42)を示している。ベーパートラップは、例えば、本体部42aと、本体部42a内で垂直方向に浮沈可能なフロート式開閉弁42bと、液化された液体を吐出する液吐出オリフィス42cと、吐出された液体を外部に放出する排出口42dと、を有する。
【0049】
ボイルオフガス返戻管41から移送されるボイルオフガス22及び再液化されたボイルオフガス22は、本体部42a内で一時的に貯留され、本体部42aに一定量の液体が溜まると、フロート式開閉弁42bが上昇し、液吐出オリフィス42cが開放され、排出口42dに液体が吐出される。本体部42a内の液体が減少すると、フロート式開閉弁42bが降下し、液吐出オリフィス42cが閉鎖される。
【0050】
かかるベーパートラップ(圧力保持手段42)をボイルオフガス再液化ライン4に配置することにより、ボイルオフガス返戻管41内を容易に圧力Pdに維持することができるとともに、ボイルオフガス22を完全に液化した状態で液化ガスタンク2内に放出することができる。なお、圧力保持手段42は、図示したものに限定されず、ボイルオフガス返戻管41内を圧力Pdに維持できるものであれば、他の構造のベーパートラップ、オリフィスのように前後の圧力差を利用した簡易な装置、圧力調整弁等で代用することもできる。
【0051】
続いて、第一実施形態に係るボイルオフガス処理装置1の変形例について説明する。ここで、図3は、図1に示したボイルオフガス処理装置の変形例を示す図であり、(a)は第一変形例、(b)は第二変形例、(c)は第三変形例、を示している。また、図4は、図1に示したボイルオフガス処理装置の変形例を示す図であり、(a)は第四変形例、(b)は第五変形例、(c)は第六変形例、を示している。なお、第一実施形態に係るボイルオフガス処理装置1と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。また、各図において、ボイルオフガス排出管31及びボイルオフガス返戻管41の図は省略してある。
【0052】
図3(a)に示した第一変形例は、第一実施形態における圧力保持手段42を省略したものである。液化ガスタンク2内の液化ガス21が十分な高さを有し、重力による液化ガス21の静圧でボイルオフガス22を凝縮することができる場合又はボイルオフガス再液化ライン4がボイルオフガス22の液化に十分な長さLを有する場合には、ベーパートラップ等の圧力保持手段42を省略することができる。
【0053】
図3(b)に示した第二変形例は、第一変形例のボイルオフガス再液化ライン4を、液化ガスタンク2の液化ガス21内で直線状に構成したものである。液化ガスタンク2が十分な高さを有する場合には、深さM=長さLとなるように、ボイルオフガス再液化ライン4を構成することができる。
【0054】
図3(C)に示した第三変形例は、第一実施形態におけるコンプレッサ32を省略したものである。液化ガスタンク2内のガス蒸気圧のみで、ボイルオフガス22を液化ガスタンク2の液化ガス21内に返戻することができる場合には、ボイルオフガス22を排出又は昇圧するコンプレッサ32を省略することができる。
【0055】
図4(a)に示した第四変形例は、ボイルオフガス再液化ライン4の液化ガス21に浸漬された部分を蛇行させたものである。ボイルオフガス再液化ライン4(具体的には、ボイルオフガス返戻管41)をかかる形状に構成することにより、ボイルオフガス22を再液化するための熱交換率を向上させることができる。
【0056】
図4(b)に示した第五変形例は、ボイルオフガス再液化ライン4の液化ガス21に浸漬された部分をコイル状に形成したものである。ボイルオフガス再液化ライン4(具体的には、ボイルオフガス返戻管41)をかかる形状に構成することにより、ボイルオフガス22を再液化するための熱交換率を向上させることができる。
【0057】
図4(c)に示した第六変形例は、ボイルオフガス再液化ライン4の水平部(具体的には、ボイルオフガス返戻管41の水平部41b)を蛇行させたものである。かかる構成によってもボイルオフガス22を再液化するための熱交換率を向上させることができる。なお、図示しないが、第二変形例と同様に、ボイルオフガス再液化ライン4の水平部をコイル状に形成してもよい。
【0058】
上述した第四変形例〜第六変形例において、ベーパートラップ等の圧力保持手段42を配置するようにしてもよいし、コンプレッサ32を省略するようにしてもよい。また、上述した第一変形例〜第六変形例において、ボイルオフガス消費ライン5を図示していないが、第一実施形態と同様のボイルオフガス消費ライン5を配置してもよいし、不要であれば省略するようにしてもよい。
【0059】
次に、本発明の第二実施形態に係るボイルオフガス処理装置1について説明する。ここで、図5は、本発明の第二実施形態に係るボイルオフガス処理装置を示す図であり、(a)は概略全体構成図、(b)は変形例、を示している。なお、第一実施形態に係るボイルオフガス処理装置1と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。また、各図において、ボイルオフガス排出管31及びボイルオフガス返戻管41の図は省略してある。
【0060】
図5(a)に示した第二実施形態に係るボイルオフガス処理装置1は、ボイルオフガス再液化ライン4を液化ガスタンク2の外部に誘導する外部誘導ライン6と、外部誘導ライン6の先端に配置されボイルオフガス22を凝縮して捕集しボイルオフガス22を液体として放出する圧力保持手段7と、圧力保持手段7から放出される液体を液化ガスタンク2内の液化ガス21に返戻する返戻ライン8と、を有する。かかる第二実施形態によれば、圧力保持手段7を約−160℃(液化ガス21がLNGの場合)の低温域に配置する必要がなく、略常温常圧域に配置することができるため、市販されている又はより簡略化したベーパートラップ、オリフィス、圧力調整弁等を圧力保持手段7として使用することができる。勿論、圧力保持手段7は、図1(b)に示したベーパートラップと同じ構成のものを使用するようにしてもよい。また、第二実施形態によれば、液化ガスタンク2に液化ガス21を貯蔵した状態で、圧力保持手段7のメンテナンスを行うこともできる。
【0061】
図5(b)に示した第二実施形態の変形例は、圧力保持手段7と返戻ライン8との間に、圧力保持手段7から放出される液体を一時的に受け容れる受液タンク9を有するものである。また、受液タンク9には、液化ガスタンク2の内部と受液タンク9の内部とを連通する連通ライン91が接続されている。かかる連通ライン91を形成することにより、受液タンク9と液化ガスタンク2内のガス蒸気圧を同じ圧力にすることによって、受液タンク9内の液体を液化ガスタンク2の液化ガス21内に容易に返戻することができる。返戻ライン8や連通ライン91には、必要に応じて圧力調整弁等を配置するようにしてもよい。
【0062】
上述した本発明に係る実施形態の説明において、「上部高温層21a」及び「下部低温層21b」の用語は、ボイルオフガス22を外部に取り出さない場合又はボイルオフガス22を外部に取り出したとしても液化ガスタンク2内のガス蒸気圧が液化ガスタンク2の深部における圧力よりも高い場合を想定したものである。上述した実施形態に係るボイルオフガス処理装置1を作動させることにより、液化ガスタンク2内のガス蒸気圧が液化ガスタンク2の深部における液化ガス21の飽和蒸気圧と同等以下の圧力になった場合には、上部高温層21aと下部低温層21bとを区別できなくなる場合(例えば、図2における状態Aの温度が等温線101a以下となる場合)もあり得るが、本発明はこのような状態を除外する趣旨ではない。すなわち、「上部高温層21a」及び「下部低温層21b」の用語は、ボイルオフガス22を外部に取り出さないと仮定した場合に形成される上部高温層及び下部低温層であって、その後の液化ガス21の温度変化に左右されない層を意味する。なお、上部高温層は上部集熱層や上部蓄熱層と読み替えてもよいし、下部低温層は下部液化ガス層と読み替えるようにしてもよい。
【0063】
本発明は上述した実施形態に限定されず、液化天然ガス(LNG)や液化石油ガス(LPG)等の液化ガスに関する、輸送タンカー、輸入基地、備蓄基地、船舶の液化ガス燃料タンク等の施設及び設備に適宜適用することができる、常圧タンク以外の液化ガスタンクにも適用することができる、上述した実施形態及び変形例は適宜組み合わせて使用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1 ボイルオフガス処理装置
2 液化ガスタンク
3 ボイルオフガス排出ライン
4 ボイルオフガス再液化ライン
5 ボイルオフガス消費ライン
6 外部誘導ライン
7,42 圧力保持手段
8 返戻ライン
9 受液タンク
21 液化ガス
22 ボイルオフガス
32 コンプレッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスを貯蔵する液化ガスタンク内で発生したボイルオフガスを再液化して前記液化ガスタンク内に返戻するボイルオフガス処理装置であって、
前記ボイルオフガスを前記液化ガスタンクから外部に排出するボイルオフガス排出ラインと、
前記ボイルオフガス排出ラインの少なくとも一部を前記液化ガスタンク内の前記液化ガス内に浸漬させたボイルオフガス再液化ラインと、
を有し、前記ボイルオフガス再液化ラインは、前記ボイルオフガスの再液化に必要な圧力を保持するとともに、前記ボイルオフガスの再液化に必要な熱量を放出可能な長さを有する、ことを特徴とするボイルオフガス処理装置。
【請求項2】
前記ボイルオフガス再液化ラインは、前記ボイルオフガスを凝縮して捕集し前記ボイルオフガスを液体として前記液化ガス内に放出する圧力保持手段を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のボイルオフガス処理装置。
【請求項3】
前記ボイルオフガス再液化ラインは、前記ボイルオフガスの全部又は一部を再液化して前記液化ガス内に放出する、ことを特徴とする請求項1に記載のボイルオフガス処理装置。
【請求項4】
前記ボイルオフガス再液化ラインを前記液化ガスタンクの外部に誘導する外部誘導ラインと、該外部誘導ラインの先端に配置され前記ボイルオフガスを凝縮して捕集し前記ボイルオフガスを液体として放出する圧力保持手段と、該圧力保持手段から放出される液体を前記液化ガスタンク内の液化ガスに返戻する返戻ラインと、を有することを特徴とする請求項1に記載のボイルオフガス処理装置。
【請求項5】
前記圧力保持手段と前記返戻ラインとの間に、前記圧力保持手段から放出される液体を一時的に受け容れる受液タンクを有する、ことを特徴とする請求項4に記載のボイルオフガス処理装置。
【請求項6】
前記ボイルオフガス排出ラインは、前記ボイルオフガスを排出又は昇圧するコンプレッサを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のボイルオフガス処理装置。
【請求項7】
液化ガスを貯蔵する断熱容器を有する液化ガスタンクであって、
請求項1〜請求項6のいずれかに記載のボイルオフガス処理装置を備えた、ことを特徴とする液化ガスタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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