説明

ボツリヌス神経毒素検出のための方法および複合体

【解決手段】本発明は、シナプトブレビン、シンタキシン、SNAP-25およびボツリヌス神経毒素に切断されることができるそれらのフラグメントから成るグループから選択されるボツリヌス神経毒素の基質であるリンカーペプチドと、10nM以上離れることなく配置する蛍光ドナー部分および蛍光受容部分とからなり、該蛍光ドナー部分の発光スペクトルが該蛍光受容部分の励起スペクトルとオーバーラップする、あるいは蛍光プローブの発光スペクトルが検出可能な程度に異なっている、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)可能な分子複合体を、また、該複合体を発現する単離核酸、前記複合体を含むキット、および前記核酸を含む細胞株も提供される。さらには、FRETを介し上述の複合体を用いたBoNT検出のための方法、および表面プラスモン共鳴イメージング法を用いたBoNT検出のための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(特許に係る政府の権利)
本発明は、国立衛生研究所による助成金番号第NIH GM56827号および第MH061876号に基づき、アメリカ合衆国政府の支援により成されたものである。したがって、アメリカ合衆国は本発明において特定の権利を有する。
(関連した出願の相互参照)
本出願は、2003年12月19日出願の米国仮出願第60/530,645号、および2004年6月15日出願の米国仮出願第60/579,254号の優先権を主張するものである。両仮出願の全てお内容は本文に引用されることによって組み込まれる。
(発明の背景)
ボツリヌス神経毒素(BoNT)はボツリヌス菌(Clostridium botulinum)により産生され、知られている中で最も強力な毒素である。この毒素は、食中毒の原因としてよく知られ、しばしば被害者たちに深刻な被害さらに死をももたらす。現在、構造上類似した7種のボツリヌス神経毒素または抗原型(BoNT/A型〜G型)があり、それぞれ重鎖(〜100KD)および軽鎖(〜50KD)から構成される。重鎖は、レセプターを介したエンドサイトーシスによる毒素が標的細胞へ進入することを媒介する。ひとたび取り込まれると、軽鎖は、エンドソーム小胞内腔から細胞質ゾルへと移行し、小胞を標的とした膜融合を仲介するタンパク質(「基質タンパク質」)を切断する亜鉛依存性プロテアーゼとして働く。SNAREタンパク質の切断が小胞と細胞膜の融合を阻害し、神経筋接合部での神経伝達物質の放出を阻止する。
【0002】
これらのBoNT基質タンパク質は、原形質膜タンパク質であるシンタキシン、表在性膜タンパク質であるSNAP-25、および小胞膜タンパク質であるシナプトブレビン(Syb)を含み、これらのタンパク質はSNARE(水溶性N―エチルマレイミド感受性因子結合タンパク質レセプター)タンパク質と総じて呼ばれる。SNAREタンパク質のうち、シンタキシンとSNAP-25は通常、標的細胞膜上にあるためにt-SNAREと呼ばれ、一方でシナプトブレビンは専らシナプス内のシナプス小胞で見られることからv-SNAREと呼ばれる。これら3つのタンパク質は一緒に、小胞膜と原形質膜との融合を仲介する最小の機構であると考えられる一つの複合体を形成する。BoNT/A型、E型およびC型はSNAP-25を、BoNT/B型、D型、F型、G型はシナプトブレビン(Syb)を、それぞれ異なる部位で一箇所を切断する。また、BoNT/C型はSNAP-25に加えてシンタキシンも切断する。
【0003】
ボツリヌス神経毒素は、その非常に強力な作用と、および人がそれに対しての免疫力のなさから、バイオテロの脅威の一つとして考えられている。またその麻痺性の作用から、近年、少量のボツリヌス神経毒素は特定の筋肉機能不全および関連する疾病の治療にも効果的に用いられている。
【0004】
食中毒の原因やバイオテロ兵器としてのBoNTの脅威のため、高感度かつ迅速にBoNTを検出することが必要である。現在、毒素検出のための最も感度の高い方法は、マウスで毒性試験を実施することであるが、この方法では多数のマウスが必要となり、多大な時間を要し、また、毒素の触媒作用の動態を調べることが不可能である。毒素に対する抗体を用いた増幅免疫測定システムも数多く開発されているが、しかし、それらのシステムの多くは複雑で費用のかかる増幅過程を必要としており、そしてやはり毒素の触媒作用の動態を調べることができない。また、HPLCおよび免疫測定は、切断された基質分子の検出およびこれらの毒素の酵素活性の検出に使用することが可能であるが、しかし、これらの方法は一般的に複雑で多大な時間を要し、その方法のいくつかは特別な抗体を必要とするので、ラージスケールのスクリーニングには応用できない。それゆえに、BoNT検出のための新規の改善された方法および複合体が必要である。
【0005】
また、BoNT阻害剤のスクリーニング技術の向上も必要である。これの阻害剤は予防および治療の両目的ために該毒素の解毒剤として用いられる。
【0006】
近年、蛍光性アミノ酸誘導体の分子内での消光に基づいた新たなアプローチが試みられている。それは、毒素の切断部位を含んだ非常に短い合成ペプチド(20-35アミノ酸)内に、2つのアミノ酸誘導体が2つの生体由来のアミノ酸を置換することによって達成される。両アミノ酸誘導体がペプチド内で近い場所にあるとき、一方のアミノ酸誘導体の蛍光シグナルが他方のアミノ酸誘導体により消光されるので、ペプチドの切断により2つのアミノ酸誘導体が離れ、蛍光シグナルの増加を検出することができる(Schmidt JおよびStafford R、Applied and Environmental microbiology、69:297、2003を参照)。この方法はBoNT/B型の阻害剤を明らかにすることに成功しているが、しかし、この方法は修飾したアミノ酸誘導体を備えたペプチドの合成を必要とし、また、生体細胞での利用に適さない。
(発明の概要)
一つの実施の形態において、本発明は、シナプトブレビン、シンタキシン、およびSNAP-25から成るグループより選択されるボツリヌス神経毒素の基質と、あるいはボツリヌス神経毒素により認識し切断されることができるそれらのフラグメント(「切断可能フラグメント」)であるリンカーペプチドと、10nM以上離れることなく配置する蛍光ドナー部分および蛍光受容部分とからなり、該蛍光ドナー部分の発光スペクトルが該蛍光受容部分の励起スペクトルとオーバーラップする、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)が可能な分子複合体を提供する。
【0007】
好ましくは、蛍光ドナー部分が緑色タンパク質あるいはそれらの変異体であり、また蛍光受容部分が該緑色蛍光タンパク質に対応する変異体である。
【0008】
一つの実施の形態において、該リンカーペプチドは、少なくとも約14のアミノ酸残基と、配列番号1〜6から成るグループから選択されるアミノ酸配列とを含む。好ましい実施の形態においては、リンカーペプチドは、少なくとも約15、あるいは少なくとも約16、あるいは少なくとも約17、あるいは少なくとも約18、あるいは少なくとも約19、あるいは少なくとも約20、あるいは少なくとも約21、あるいは少なくとも約22、あるいは少なくとも約23、あるいは少なくとも約24、あるいは少なくとも約25、あるいは少なくとも約26、あるいは少なくとも約27、あるいは少なくとも約28、あるいは少なくとも約29のアミノ酸残基と、配列番号1-6から成るグループから選択されるアミノ酸配列と、を含む。
【0009】
好ましい実施の形態においては、リンカーペプチドは少なくとも約30のアミノ酸残基と、配列番号1-6から成るグループから選択されるアミノ酸配列とを含む。より好ましくは、リンカーペプチドが少なくとも約35、あるいは少なくとも約40、あるいは少なくとも45、あるいは少なくとも50のアミノ酸残基を含む。特に好ましい実施の形態では、本発明の複合体は、少なくとも約55のアミノ酸残基あるいは少なくとも約65のアミノ酸残基を含むリンカーペプチドを含む。
【0010】
本発明はさらに、上述の複合体をコードする単離ポリヌクレオチド分子を提供する。該複合体は好ましくは、プロモーターに動作可能に結合された該ポリヌクレオチド分子を含む、発現ベクターである。本発明のための好ましいプロモーターは誘導プロモーターである。
【0011】
また、本発明は上述の単離ポリヌクレオチド分子を含む細胞も提供する。一つの実施の形態において該細胞は、初代培養神経細胞、PC12細胞あるいはそれらの誘導体、初代培養クロム親和性細胞、神経芽腫細胞、アドレナリン作用性ヒトSK-N-SH細胞、およびNS-26細胞株から成るグループから選択される。好ましくは、該細胞が皮質神経細胞、海馬神経細胞、脊髄運動神経細胞、あるいはマウスのコリン作用性Neuro-2a細胞である。
【0012】
さらなる実施の形態においては、本発明は、適切な容器中に本発明の複合体を含むキットを提供する。
【0013】
また、ここでボツリヌス神経毒素を検出する方法も開示しており、該方法は、リンカーが検出しようとするボツリヌス神経毒素に対応する基質タンパク質あるいはそのフラグメントである上文に記載の複合体を提供するステップと、ボツリヌス神経毒素がタンパク質基質あるいはそのフラグメントを切断することができる状況下でボツリヌス神経毒素が含まれていると疑われる試料に該複合体をさらすステップと、FRETの減少が試料内のボツリヌス神経毒素の存在を示すので該複合体が試料と接触する前後のFRETシグナルを検出および比較するステップを含む。好ましい実施の形態においては、検出されるために追加のZn2+(亜鉛イオン)を試料に付加する。本発明の方法は、BoNT/A型、E型、およびC型から成るグループから選択されたボツリヌス神経毒素の検出に適しており、そしてそれらに対応する基質タンパク質はSNAP-25あるいは切断可能なそれらのフラグメントである。また、本発明の方法はBoNT/B型、D型、F型、およびG型の検出にも適しており、そしてシナプトブレビン(Syb)あるいは切断可能なそれらのフラグメントを対応する基質タンパク質として用いる。同様に、本発明の方法は、SNAP-25あるいは切断可能なそれらのフラグメントを対応する基質タンパク質として用いた、BoNT/C型の検出にも適している。
【0014】
本発明の方法の好ましい実施の形態として、FRETは、1)受容体(A)の発光波長およびドナー(D)の発光波長で発光される蛍光を測定し、およびそれぞれの発光振幅の比率によるエネルギー転移を測定する方法と、2)Dの蛍光寿命を測定する方法と、3)Dの蛍光退色率を測定する方法と、4)DあるいはAの蛍光偏光を測定する方法と、5)モノマー/エキシマー蛍光のストークスシフトを測定する方法と、から成るグループより選択される一つの方法で検出される。
【0015】
特に好ましい本発明の蛍光プローブ対はCFP-YFPである。
【0016】
また、本発明はボツリヌス神経毒素の阻害剤のためのスクリーニング方法も提供し、その方法は、上述の複合体のリンカーがボツリヌス毒素に対応する基質ペプチドである、上述のように複合体を発現するように遺伝子操作された細胞を提供ステップと、阻害剤候補の化合物の存在下で前記細胞をボツリヌス神経毒素にさらすステップと、ボツリヌス毒素にさらされる前後での該細胞のFRETシグナルを検出するステップとを含む、阻害剤の候補の非存在下でボツリヌス神経毒素にさらされた細胞と比較して、FRETが実質上減少しないという観測結果により、該阻害剤候補がボツリヌス神経毒素を阻害できることが示されることを特徴とする方法である。好ましくは候補の化合物が化合物のライブラリー中にあり、かつ、該方法が処理能力の高い方法である。
【0017】
さらなる実施の形態においては、本発明はボツリヌス神経毒素を検出する方法を提供し、該方法は、金属表面にBoNT標的ペプチドの層を沈着させるステップと、BoNTが該金属表面上の標的ペプチドを切断可能な状況下で対応するBoNTを含有すると疑われる試料にBoNT標的ペプチドをその表面に有する前記金属表面をさらすステップと、BoNTによる切断の結果として起こる金属表面に結合している標的ペプチドの分子量の減少を表面プラスモン共鳴イメージングにより測定するステップとを含む。
【0018】
本発明の他の実施の形態は、ボツリヌス神経毒素を検出するための方法であり、該方法は、a)リンカーが、検出されるボツリヌス神経毒素に対応する基質タンパク質あるいは切断可能なそれらのフラグメントで、そのリンカータンパク質がドナーおよび受容蛍光プローブ間にFRETが生じるような構造を採るように複合体が細胞の原形質膜に固定していることを特徴とする、請求項28記載の複合体を提供するステップと、b)ボツリヌス神経毒素がタンパク質基質あるいはそれらのフラグメントを切断するという状況下で、ボツリヌス神経毒素を含有すると疑われる試料に該複合体をさらすステップと、c)FRETの減少が試料内のボツリヌス神経毒素の存在を示すので、該複合体が試料にさらされる前後のFRETシグナルを検出および比較するステップとを含む。
【0019】
本発明はさらに、シナプトブレビン、シンタキシン、およびSNAP-25あるいはボツリヌス神経毒素で切断できるそれらのフラグメントから成るグループから選択されるボツリヌス神経毒素の基質であるリンカーペプチドと、第一蛍光プローブ部位の発光スペクトルが第2蛍光プローブ部位の励起スペクトルとは検出可能な位に異なっている第一蛍光プローブ部位および第2蛍光プローブ部位とを含む分子複合体を提供する。好ましくは、リンカーは基質シナプトブレビン、シンタキシン、あるいはSNAP-25の完全長タンパク質である。より好ましくは、細胞内あるいは外で該複合体が小胞に固定されていることである。さらに本発明は上記ポリペプチド複合体をコードするポリヌクレオチド複合体を提供する。
【0020】
本発明はさらに、ボツリヌス神経毒素を検出するための方法を提供し、該方法はa)上述のようなペプチド複合体を提供するステップと、b)ボツリヌス神経毒素がタンパク質基質あるいはそれらのフラグメントを切断するという状況下で、ボツリヌス神経毒素を含むと疑われる試料に該複合体をさらすステップと、c)空間的間隔が発生することで試料内のボツリヌス神経毒素の存在が示されることを特徴とする、第一および第2蛍光プローブの蛍光シグナルの空間的間隔を検出するステップとを含む。好ましくは、該小胞が生細胞内にあって、YFP蛍光ではなくCFP蛍光の検出が、試料内のボツリヌス神経毒素の存在を示すことを特徴とする、リンカーペプチドがSNAP-25(198-206)-YFPにリンクしたCFP-SNAP-25(1-197)である。
【0021】
本発明は図および例でより詳しく下記に記載するが、本発明の範囲を制限すると解釈されるものではない。
(図の説明)
図1は、ボツリヌス神経毒素プロテアーゼ活性をモニターするためのCFP-YFPに基づいたバイオセンサーの概略図である。図1Aは、該バイオセンサー複合体の設計図である。CFPおよびYFPはそれぞれ、シナプトブレビン(アミノ酸33-94、上のパネル)あるいはSNAP-25(アミノ酸141-206、下のパネル)のフラグメントを介して結合している。これらのフラグメント上の各ボツリヌス神経毒素の切断箇所は標識されている。図1Bは、CFPおよびYFPが、CFPの励起によりYFPが蛍光発光するというFRETのためのドナー−受容体対として機能することを示している(上のパネル)。結合したCFPおよびYFP間のエネルギー転移は、ボツリヌス神経毒素によってシナプトブレビンあるいはSNAP-25フラグメントが切断された後に消失する(下のパネル)。CFPの最適励起波長は434nMであり、また、発光ピークについてはCFPで470nMであり、YFPは527nMである。
【0022】
図2は、組み換えバイオセンサータンパク質の蛍光発光スペクトルを示す。図2Aは、組み換えヒスチジン標識した単体のCFPおよびYFP(300nM)と、それら2つのタンパク質の混合物(1:1)の発光スペクトルを示している。Hepesバッファー(50mM Hepes、2mM DTT、10μM ZnCl2、pH7.1)中でPTIQM-1蛍光光度計を用い、450〜550nMの範囲で蛍光シグナルを得た。CFPに最適な励起波長は434nMであり、YFPタンパク質は434nMで直接的に励起されるときのみ、小さな蛍光シグナルを誘発する。図2Bは、パネル図2Aで記述のように得られた、組み換えヒスチジン標識されたCFP-SybII-YFPの発光スペクトルを示している。矢印はFRETが起こった結果による、YFPの発光ピークを示している。
【0023】
図3は、発光スペクトルスキャンすることにより、ボツリヌス神経毒素によるバイオセンサータンパク質の切断を生体外でリアルタイムにモニターできることを示している。A):BoNT/B型は2mMのDTT、10μMのZnCl2により37℃で30分間、事前調整された。Hepesバッファー(50mM Hepes、2mM DTT、10μM ZnCl2)中に300nMのCFP-SybII-YFPタンパク質が入っているキュベットに、50nMの毒素を加えた。図2Aに示すように、毒素を加える前および後の表示した時間帯に発光スペクトルを記録した(上のパネル)。各発光スキャンの後、キュベットから30μMの試料を取り出し、SDSローディングバッファーと混合した。これらの試料をSDS-pageおよび高感度ケミルミネッセンス法(ECL)にかけた。CFP-SybII-YFP融合タンパク質の切断は、融合タンパク質のN末端でヒスチジン標識を認識する抗ヒスチジン抗体を用いて検出された(下のパネル)。CFP-SybII-YFP融合タンパク質が切断された結果、YFPの蛍光が減少し、CFPの蛍光が増加した。この変化は発光スペクトルスキャンによりリアルタイムで記録された。B):パネルAで記載したように、CFP-SybII-YFPを用いてBoNT/F型活性をテストした。C):パネルAで記載したようにCFP-SNAP-25-YFPを用いてBoNT/A型活性をテストした(10nMの毒素を使用した場合)。D):パネルAで記載したようにCFP-SNAP-25-YFPを用いてBoNT/E型活性をテストした(10nMの毒素を使用した場合)。
【0024】
図4は、マイクロプレート蛍光分光光度計でバイオセンサータンパク質を用いた、ボツリヌス神経毒素プロテアーゼ動態のモニタリングを表している。A):ボツリヌス神経毒素によるバイオセンサータンパク質の切断の間の蛍光発光の変化はプレートリーダーを用いてリアルタイムに記録されうる。10nMのBoNT/A型を300nMのCFP-SNAP-25-YFPと混合し、プレートリーダーを用いて1ウェルにつき100μlの試料をスキャンした。励起は434nMであり、また、各データポイント、470nM(CFPチャンネル)および527nM(YFPあるいはFRETチャンネル)での発光値を得た。データポイント毎に30秒間のインターバルを入れながら1時間半、反応を追い、YFP蛍光の減少およびCFP蛍光の増加をリアルタイムにモニターした。B):切断率は神経毒素の濃度によって決まる。様々な濃度のボツリヌス神経毒素A型およびE型について、等量のバイオセンサータンパク質を切断する能力をテストした。FRETシグナルの変化(FRET比)を、同じデータポイントでのYFP発光シグナルおよびCFP発光シグナル間の比率によって計測する。C):CFP-SNAP-25-YFPタンパク質のみ、およびCFP/YFPタンパク質混合物(1:1)を、内部制御のように、同じ時間でスキャンした。
【0025】
図5はプレートリーダーを用いたバイオセンサー分析の検出感度について示している。A):300nMのCFP-SNAP-25-YFPを、96ウェルプレートで全容量が1ウェルにつき100μlとなるように、様々な濃度のBoNT/A型あるいはE型を混合した。プレートを37℃で4時間インキュベートした後、プレートリーダーでスキャンした(上パネル)。FRET比を毒素濃度の対数値に対してプロットした。各曲線の半数影響濃度値(EC50)を下パネルの表に記載している。各データポイントはそれぞれ、3つの独立した実験の平均値を示している。B):300nMのCFP-SybII-YFPを様々な濃度のBoNT/B型あるいはF型と混合した。データはパネルAで説明したように取得しグラフにプロットした。
【0026】
図6は生体細胞内でのボツリヌス神経毒度活性のモニタリングを説明したものである。A):野生株PC12細胞内にCFP-SNAP-25-YFPを発現させた。細胞内でCFP-SNAP-25-YFPの切断が起こった結果によるFRET比の変化を記録することにより、BoNT/A型(50nM)の侵入活性および触媒活性をモニターした。FRET比は53個の毒素処理した細胞および53個のコントロール細胞から平均をとった。BoNT/A型での72時間処理で、全細胞のFRET比は有意に減少した(P<1.47E-5)。B):sytIIを発現するPC12細胞にCFP-SybII-YFPをトランスフェクトし、BoNT/B型(30nM)で処理した。73個の毒素処理した細胞および73個のコントロール細胞を分析し、パネルAと同様に、FRET比の変化を記録することによりBoNT/B型の侵入活性および触媒活性をモニターした。BoNT/B型で72時間処理した場合、全細胞のFRET比は有意に減少した(P<2E-10)。
【0027】
図7は生体細胞内での本発明に基づく方法を用いた、BoNT/A型活性のモニタリングを示す。(a)生体細胞における毒素センサーのFRETシグナルの計測。PC12細胞にCFP-SNAP-25(141-206)-YFPをトランスフェクトした。このセンサーは細胞内で可溶性であるように見えた。異なるフィルター・セットを用いた3つの画像(CFP、FRET、そしてYFP)を、各細胞で全く同じ設定で順番に取った。左側の参照テーブルに示すように蛍光強度を反映するために任意のユニットで画像を色分けした。(下記)方法で詳述したように、FRETフィルター・セットで集められたシグナルから、CFPおよびYFP双方からのクロストークを差し引いて計算し、FRET値を修正した。(b)BoNT/A型活性を検出するためにCFP-SNAP-25(141-206)-YFPをトランスフェクトしたPC12細胞を用いた。50nMのBoNT/A型ホロ毒素を培養液に加え、96時間後に80個の細胞を分析した。修正されたFRETシグナルを、CFP蛍光シグナルで標準化し、指示されるビン幅でヒストグラムとしてプロットした。同じセンサーでコントロール細胞もトランスフェクトしたが、毒素処理を行わず、これらの細胞を同時に分析した。BoNT/A型との培養により、細胞集団のFRET比(修正FRET/CFP)が移動し、したがって細胞内でセンサータンパク質がBoNT/A型により切断されたことが示された。しかしながら、この移動は小さく、細胞において有効な切断ではなかったことが示された。(c)左パネル:CFPおよびYFPを完全長のSNAP-25(アミノ酸1-206)でつないで有効な毒素センサーを作り、細胞でのBoNT/A型活性の検出についてテストした。本CFP-SNAP-25(FL)-YFP融合タンパク質はその4つのシステインでのパルミトイル化により、細胞内で主に細胞膜に局在する(左パネル、中央パネルの上段)。中央パネル:PC12細胞にCFP-SNAP-25(FL)-YFPセンサーをトランスフェクトし、BoNT/A型活性の検出に用いた。50nMのBoNT/A型ホロ毒素を培養液に加え、48時間および96時間後に200個の細胞のFRETシグナルをパネル(a)に記載のように分析した。コントロール細胞にも毒素センサーをトランスフェクトしたが、しかし、毒素処理を行わずに、同時に分析した。典型的な細胞の画像を中央パネルに示した。本センサーで顕著なFRETを生じた(中央パネルの上段「補正FRET」)。FRETシグナルはBoNT/A型で処理後に消失した(96時間、中央パネルの下段「補正FRET」)。注釈:切断産物の一つである、YFP標識されたSNAP-25のC末端は、毒素による切断後、分解した。したがって、毒素処理した細胞でYFPの蛍光シグナルが有意に減少した(下段「YFP」)。右パネル:FRET比を、パネル(b)に記載のように指示したビン幅でヒストグラムとしてプロットした。(d)PC12細胞にCFP-SNAP-25(Cys-Ala)-YFP(Cys 85、88、90、92 Ala突然変異を有する完全長SNAP-25、左パネル)をトランスフェクトした。このタンパク質は細胞質ゾルに広範囲に分布しており、CFP-SNAP-25(FL)-YFPで観察された強いFRETシグナルは見られなかった(右パネル、「補正FRET」)。(e)PC12細胞にCFP-SNAP-25(FL)-YFPおよびCFP-SNAP-25(Cys-Ala)-YFPをトランスフェクトし、それら細胞をBoNT/A型(50nM、72時間)で処理(+、インタクトな細胞)、あるいはBoNT/A型で処理せずに(−、インタクトな細胞)採集した。また、BoNT/A型処理をしなかった試料から抽出された細胞の半分を、還元BoNT/A型によりインビトロ(200nM、30分、37℃)でインキュベート(+、インビトロ)、あるいは還元BoNT/A型なしでインキュベートし(−、インビトロ)、切断産物を示すためのコントロールとして(2つの切断産物を矢印で示している)用いた。各試料を同量ずつ(30μg細胞溶解物)一つのSDS-pageゲルにのせ、抗GFP抗体を用いた免疫ブロット分析にかけた。CFP-SNAP-25(FL)-YFPがインタクトな細胞で顕著な切断を示す一方で、CFP-SNAP-25(Cys-Ala)-YFPでは検出可能な切断が見られなかったため、生体細胞でのBoNT/A型による効果的な切断には膜結合が重要であることが示された。注釈:毒素処理した細胞では、一つの切断産物(CFP-SNAP-25(1-197))のみが検出されたが、ほかの切断産物(SNAP-25(198-206)-YFP)は大部分が分解したことが示された。
【0028】
図8は、CFP-SNAP-25(141-206)-YFPセンサーを細胞膜にアンカーすることによって、BoNT/A型により効果的に切断されるセンサーを作成したことを示す。(a)CFP-SNAP-25(141-206)-YFPを細胞膜に向けるように作られた該複合体の概略図。パルミトイル化箇所(83-120残基)を含むSNAP-25のフラグメントを、CFP-SNAP-25(141-206)-YFPセンサーのN末端に融合させると、このフラグメントにより融合タンパク質が細胞膜に向かった。(b)SNAP-25(83-120)-CFP-SNAP-25(141-206)-YFPをPC12細胞にトランスフェクトした。50nMのBoNT/Aホロ毒素を培養液に加え、図7aに記載のように96時間後に80細胞のFRETシグナルを分析した。毒素センサーをトランスフェクトしたが毒素処理していないコントロール細胞を、同時に分析した。典型的な細胞の画像を左パネルに示す。本センサーは顕著なFRETを生じた(左パネルの上段「補正FRET」)。細胞がBoNT/A型で処理された後、FRETシグナルは減少した(96時間、左パネルの下段「補正FRET」)。右パネル:細胞のFRET比を、図7bに記載のように指示したビン幅でヒストグラムとしてプロットしている。(c)様々なCFP/YFP複合体をPC12細胞にトランスフェクトし、対応するFRET比を図7aに記載のように決定した。我々の解析条件下では、細胞でのCFPおよびYFPの同時発現で顕著なFRETを引き起こさなかった。また、CFP-SNAP-25(FL)-YFPでは顕著なレベルのFRETを示したのに対し、CFP-SNAP-25(Cys-Ala)-YFPでは見られなかった。
【0029】
図9はBoNT/A型によるSybの有効な切断にはSybの小胞への局在が必要であることを示す。(a)CFP-Syb(33-94)-YFPを用いて、シナプトタグミンIIを安定して発現するPC12細胞株にトランスフェクトした(Dongら、Synaptotagmins I and II mediate entry of botulinum neurotoxin B into cells. J. Cell Biol.162, 1293-1303 (2003))。本センサーは細胞内で可溶性のようであり、また、強いFRETシグナルを生じる(上段パネル)。CFP-Syb(33-94)-YFPをトランスフェクトされたPC12細胞を用いて、BoNT/B型活性を検出した。50nMのBoNT/B型ホロ毒素を培養液に加え、図7bに記載のように96時間後に80個の細胞を分析した。同じセンサーをトランスフェクトしたが毒素処理しなかったコントロール細胞を、同時に分析した。BoNT/B型との培養により、細胞集団のFRET比(補正FRET/CFP)が移動し、したがって細胞内でセンサータンパク質がBoNT/B型により切断されたことが示された。しかしながら、この移動は小さく、細胞において有効な切断ではなかったことが示された。(b)YFP-Syb(FL)-CFPセンサーの概略図。完全長のSybは116のアミノ酸を有し、一回膜貫通領域を通して小胞に局在する。BoNT/B型によるSybの切断により、YFP標識されたSybの細胞質側ドメインが該小胞から切り離された。(c)シナプトタグミンIIを安定して発現するPC12細胞にYFP-Syb(FL)-CFPをトランスフェクトし、BoNT/B型で処理(50nM、48時間、下段パネル)、あるいは毒素なしで処理(コントロール、上段パネル)した。各細胞からCFPおよびYFPの蛍光画像を取り、その典型的な細胞を示す。CFPおよびYFPの両蛍光シグナルで証明されるように、本センサーは小胞に局在し、生体細胞で細胞核には存在しなかった(上段パネル)。BoNT/B型処理によって、YFPシグナルの再分布がおこり、YFPシグナルが細胞質ゾルに可溶性となり細胞核へ入った。(d)33-116残基の不完全型のSybをCFPとYFPの結合に用いた。この複合体は、可溶性センサーであるCFP-Syb(33-96)-YFPにおけるSybフラグメントと同じ細胞質領域(33-94残基、パネルb)を含み、また、Sybの膜貫通領域も含んでいる。シナプトタグミンIIを発現するPC12細胞にCFP-Syb(33-116)-YFPおよびCFP-Syb(33-94)-YFPをトランスフェクトした。次にそれら細胞をBoNT/B型(50nM、48時間)で処理(+、インタクトな細胞)、あるいはBoNT/B型で処理をしないで(−、インタクトな細胞)、採集した。また、BoNT/B型処理をしなかった試料から抽出された細胞の半分を、還元BoNT/B型とインビトロ(200nM、30分、37℃)でインキュベート(+、インビトロ)、あるいは還元BoNT/B型なしでインキュベート(−、インビトロ)した。2つの切断産物を星印で示している。各試料を同量ずつ(30μg細胞溶解物)一つのSDS-pageゲルにのせ、抗GFP抗体を用いた免疫ブロット解析にかけた。CFP-Syb(33-116)-YFPがインタクトな細胞で顕著な切断を示す一方で、CFP-Syb(33-94)-YFPでは検出可能な切断が見られなかったため、生体細胞でのBoNT/B型による効果的な切断には小胞への局在が重要であることが示された。
(発明の詳細な記述)
本発明は、特にリアルタイムでボツリヌス神経毒素を検出し、そしてそれら基質の切断活性をモニターするための、BoNTの基質であり毒素で切断されうるペプチドリンカーにより結合した蛍光プローブ間で起こる蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)に基づいた、新しい複合体および方法を提供する。本発明の方法および複合体は、数時間内にピコモルレベルのBoNTの検出を可能とし、また、リアルタイムでの毒素の酵素動態を追跡することが可能である。該方法および複合体はさらに、培養細胞を用いた毒素阻害剤の大規模スクリーニングのための高処理能力の分析システムで用いることが可能であり、その毒素阻害剤には毒素の細胞への侵入および小胞膜を通じた移動に対する阻害剤を含む。本発明は生体細胞および神経細胞におけるボツリヌス神経毒素活性のモニターにも適している。
【0030】
他の実施の形態において本発明は、複合体、そして、完全長のSNAP-25とSybタンパク質とをリンカーとして含む該複合体を、生細胞内で毒素活性の検出が可能な蛍光バイオセンサーとして用いる方法を提供する。SNAP-25の切断により、CFP/YFPのFRETシグナルが消失し、また、Sybの切断は細胞におけるYFP蛍光の再発光をもたらした。本発明は、毒素阻害剤の細胞に基づいたスクリーニングを行うための、また、細胞内の毒素活性を明らかにするための方法を提供する。また、本発明は、SNAP-25およびSybの細胞内局在が、BoNT/A型およびB型による効果的な切断にそれぞれ影響を及ぼすことも開示している。
【0031】
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)は、一つの分子と他の分子(例えば、タンパク質あるいは核酸)間の、あるいは同じ分子における二つの位置間の距離の評価を可能とする手段である。現在、FRETは当技術分野で周知である(Matyus、(1992) J. Photochem. Photobiol. B:Biol.、12:323参照)。FRETは、励起ドナー分子から受容分子へエネルギーが転移する無放射性過程である。無放射性のエネルギー転移とは、一つの蛍光プローブの励起状態のエネルギーが実際の光子放出を伴わずに2番目の蛍光プローブに転移するという、量子力学にしたがうプロセスである。量子物理的原理は、JovinおよびJovin、1989、Cell Structure and Function by Microspectrofluorometry、E. KohenおよびJ.G. Hirschberg、Academic Pressによって概説されている。簡潔に言えば、蛍光プローブは特有の波長で光エネルギーを吸収する。この波長は励起波長としても知られる。蛍光色素に吸収されたエネルギーはその後様々な経路を通じて放出されるが、その経路の一つは蛍光を発生するための光子の放出である。放出されている光の波長は発光波長として知られ、個々の蛍光プローブの固有の特性である。FRETにおいて、そのエネルギーは2番目の蛍光プローブの発光波長で放出される。一つ目の蛍光プローブは一般的にドナー(D)と呼ばれ、受容体(A)と呼ばれる2番目の蛍光プローブよりも高いエネルギーの励起状態を持つ。
【0032】
該過程の本質的な特色は、ドナーの発光スペクトルが受容体の励起スペクトルとオーバーラップすることであり、また、ドナーおよび受容体が十分に近接していることである。
【0033】
加えて、蛍光プローブ間の無放射性エネルギー転移が可能なように、DとAの距離が十分に近くなくてはならない。エネルギー転移の割合がドナーと受容体間の距離の6乗に反比例するので、エネルギー転移効率は距離の変化に非常に敏感である。1-10nMの距離範囲での検出可能な効率でエネルギー転移は起こると言われているが、しかし、概して4-6nmが最善の結果となる。無放射性エネルギー転移が有効となる距離範囲は、多くの他の因子にも影響され、この因子にはドナーの蛍光量子効率、受容体の減衰係数、それらの個々のスペクトルのオーバーラップの割合、媒体の屈折率、2つの蛍光プローブの遷移モーメントの相対配向が含まれる。
【0034】
本発明は、対応するBoNTで切断可能なリンカーペプチド(「基質ペプチド」)でリンクされる蛍光プローブFRETドナーと受容体を含んだ複合体(「FRET複合体」)を提供する。BoNTの存在下でリンカーペプチドは切断され、その結果、エネルギー転移の減少およびドナー蛍光プローブからの発光の増加につながる。このようにして、毒素のタンパク質分解活性をリアルタイムでモニターおよび定量することが可能である。
【0035】
ドナーおよび対応する受容体の蛍光部分については本書では、「対応する」という語は、蛍光ドナー部分の励起スペクトルとオーバーラップした発光スペクトルを有する蛍光受容部分を指す。蛍光受容部分の発光スペクトルの最大波長が、蛍光ドナー部分の励起スペクトルの最大波長よりも少なくとも100nm以上大きい必要があり、その結果、有効な非放射性のエネルギー転移が生じる。
【0036】
本書では、基質ペプチドおよびBoNTについては、「対応する」という語は、リンカーペプチドに作用しうる、特定の切断箇所で切断するBoNT毒素を指す。
【0037】
蛍光ドナーおよび対応する受容部分は、一般的に(a)高効率のフォースター(Forster)エネルギー転移;(b)大きな最終ストークスシフト(>100nm);(c)可視スペクトルの赤色部分にできるだけ近い波長への発光シフト(>600nm);そして、(d)ドナー励起波長での励起により生じるRaman water蛍光発光よりも高い波長への発光シフト、から選択される。例えば、レーザー線近くに発光極大(例えば、ヘリウムーカドミウム442nmあるいはアルゴン488nm)、高い減衰係数、および高量子収率を有し、対応する蛍光受容部分の励起スペクトルとその蛍光発光のオーバーラップが適した、蛍光ドナー部分を選択できる。蛍光受容部分については高い減衰係数、高量子収率を有し、蛍光ドナー部分の発光スペクトルとそれ自身の励起スペクトルのオーバーラップが適した対応する蛍光受容部分を選択でき、可視スペクトルの赤色部分で発光する(>600nm)。
【0038】
優れた技術者は、FRETに適した多くの蛍光プローブ分子を認めることだろう。好ましい実施の形態では、蛍光タンパク質を蛍光プローブとして用いた。FRET技術において、様々な蛍光受容部位とともに用いられうる、典型的な蛍光ドナー部分は、蛍光色素、ルシファー・イエロー、B−フィコエリトリン、9−アクリジンイソチオシアネート、ルシファー・イエローVS、4―アセタミド―4′―イソチオーシアネートスチルベン―2、2′―ジスルホン酸、7―ジエチルアミド―3―(4′―イソチオシアネートフェニル)―4―メチルクマリン、サクシニミジル―1―ピレンブチレート、および4―アセタミド―4′―イソチオーシアネートスチルベン―2、2′―ジスルホン酸の派生物を含む。典型的な蛍光受容部分は、使用される蛍光ドナー部分に応じて、LC-Red 640、LC-Red 705、Cy5、Cy5.5、LissamineローダミンB塩化スルホニル、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンXイソチオシアネート、エリトロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、あるいは他のランタニドイオン(例:ユーロピウム、またはテルビウム)のキレート剤を含む。ドナーおよび受容蛍光部分は、例えば、Molecular Probes(ジャンクション・シティ、オレゴン州)、あるいはSigma Chemical Co.(セントルイス、ミズーリ州)より入手できる。
【0039】
表1に、本発明の用途に適した化学蛍光プローブのその他の例を、その励起および発光波長とともに記載している。
【0040】
トリプトファンのような、特定の自然発生のアミノ酸は蛍光性である。また、アミノ酸はFRET用の蛍光プローブ対の作成のために、例えばアミノ酸への蛍光基の連結によって(システインにAEDANが連結するように)誘導体化されうる。AEDAN―システイン対は、一般的にタンパク質の立体構造変化および相互作用を検出するために用いられる。また、他のいくつかの形の蛍光基は、タンパク質フラグメント内でアミノ酸を修飾するため、および、FRETを起こすために用いられる(例:S-(N-[4-メチル-7-ジメチルアミノ-クマリン-3-yl]-カルボキシアミドメチル)-システインを伴った、2.4-ジニトロフェニル-リシン)。
【0041】
特に生細胞で用いるのに適した、その他の実施の形態では、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびそのさまざまな変異体を蛍光プローブとして用いる。励起および発光極大がそれぞれ異なる蛍光タンパク質の例はWO97/28261号(Tsienら、1997)の表1に記載されており、参照することにより本書に組み込まれる。これらには(それぞれナノメーターで表された[励起極大/発光極大]波長が後に続く)野生型の緑色蛍光タンパク質[395(475)/508]およびクローン変異体である緑色蛍光タンパク質・変異体P4[383/447]、P4-3[381/445]、 W7[433(453)/475(501)]、W2[432(453)/408]、S65T[489/511]、P4-1[504(396)/480]、S65A[471/504]、S65C[479/507]、S65L[484/510]、Y66F[360/442]、Y66W[458/480]、I0C[513/527]、W1B[432(453)/476(503)]、エメラルド[487/508]、およびサファイア [395/511]を含む。また、DsRed(Clontech社)のような、585nmの励起極大と583nmの発光極大を有する赤色蛍光タンパク質も使用可能である。本リストは当技術分野で周知の蛍光タンパク質を網羅するものではなく、更なる例はGenbankおよびSwissProの公開データベースから入手できる。
【0042】
【表1】

【0043】
GFPは27-30KDのタンパク質であり、例えば標的タンパク質などの他のタンパク質との融合が可能である。融合タンパク質は、E. coliのような宿主細胞で発現するように設計されうる。GFPおよびそのさまざまな変異体は生細胞および組織で蛍光を生じることが可能である。GFPの変異体型は蛍光領域中のアミノ酸がわずかに異なるためスペクトラムが移動する。将来的には、異なるスペクトルを有するGFPのさらなる変異体が作られると予想される。一般的に、これらのGFPの派生物のうちBFP-YFP、BFP-CFP、CFP-YFP、GFP-DsRedを、タンパク質間相互作用を検出するために、FRETのドナー−受容体対として用いる。また、これらの対は、対を結合しているリンカー領域のタンパク質切断の検出にも適している。
【0044】
蛍光タンパク質の利用が好まれるのはリンカーフラグメントの約60のアミノ残基の利用が可能なためである。通常、長鎖のフラグメントは毒素によって認識および切断されやすいため、毒素検出に対し高感受性があることになる。以下の例に示されるように、広く使われているマイクロプレート蛍光分光光度計(Spectra Max Gemini、Molecular Device社)で測定する際、CFP-SNAP-YFPで4時間インキュベーションした、BoNT/A型およびE型の半数影響濃度値は、15-20pM(1-2ng/ml)と低い。BoNT/B型およびF型の半数影響濃度値は約200-250pMであり、インキュベーションの時間を長くすることにより感度を高めることが可能である。
【0045】
本発明の一つの実施の形態によると、2つの蛍光プローブは、FRETが生じるような、適した長さのリンカーで互いに連結している。該リンカーはBoNTの基質タンパク質のフラグメントである。リンカーフラグメントの切断可能なBoNTで処理した際に、2つの蛍光プローブは分離し、従ってFRETが消失する。本発明は従って、FRETでの変化を検出することによってBoNTを検出する方法を提供する。多くの種のSNAREタンパク質はアミノ酸レベルで保存されることで知られるため、これらのタンパク質はBoNT毒素に対する基質タンパク質として適している。これらのBoNT基質タンパク質が多く知られており、本発明に適したリンカーペプチドとして使用する、あるいは使用のために修飾することが可能である。基質タンパク質のいくつかとGenbank登録番号を表2に記した。
【0046】
【表2】

【0047】
各BoNT毒素はそれぞれ、毒素切断部位内で2つの特異的なアミノ酸の間の特異的なペプチドを切断することが知られている。下記の表3に各BoNT毒素に対応するアミノ酸対を記載する。しかしながら、これらのアミノ酸配列の対は毒素による認識および切断には不十分である。例えば、BoNT/A型はラットのSNAP-25配列のQ(197)-R(198)(Genbank登録番号:NP_112253)でSNAP-25を切断するが、Q(15)-R(16)では切断しない。一般的に、認識部位としてのアミノ酸配列は保存されず、むしろ、毒素がそれら標識タンパク質の一次構造というより三次構造を認識すると考えられている。それでもやはり、それらが下記表3に記載の毒素切断部位に二つのアミノ酸残基を持つ限り、基質タンパク質の非常に短いフラグメントは、その種の起源にかかわらず、毒素による認識および切断に十分である。
【0048】
リンカータンパク質、あるいはペプチドはBoNTの完全長の基質タンパク質と同程度の長さになり得る。好ましくは、リンカーは基質タンパク質よりも短いフラグメントである。完全長の基質リンカーは効果的なFRETには長すぎる可能性があり、また、短いフラグメントは完全長のフラグメントよりも効果的であり、かつ形成しやすい。一方で、上述のように、各BoNTによるリンカーペプチドの切断の効率が悪くなるため、リンカーペプチドはある最小の長さよりも長くなくてはならない。
【0049】
【表3】

【0050】
下記表4は、sybIIおよびBoNT/B型を例として用い、リンカーペプチドの長さと毒素切断の割合との関係を説明するものである。完全長のラットsybIIタンパク質(Genbank番号:NP_036795)は116のアミノ酸を有しており、このうちアミノ末端におけるアミノ酸1-94は細胞質領域であり、残りは細胞膜領域である。表1から明らかなように、ある限度内で、フラグメントが短いほど、毒素による切断の割合が低くなる(データは、Foranら、Biochemistry 33:15365、1994より)。
【0051】
表4に示すように、破傷風神経毒素(TeNT)は最適な切断のためには、BoNT/B型(55-94)よりも長いフラグメント(33-94)を必要とする。60-94で構成されるフラグメントは、いくつかのペプチドに基づいた毒素分析方法(Schmidtら、2003、上記参照、および、Schmidtら、2001、Analytical Biochemistry、296:130-137)を含む研究で用いられている。
【0052】
BoNT/A型には、毒素感度のほとんどを保持するためにSNAP-25の141-206フラグメントが必要である(Washbourneら、1997、FEBS Letters、418:11)。また、SNAP-25のアミノ酸187-203のようなより短いフラグメントがBoNT/A型による切断で有効である(、2001)という他の報告もある。BoNT/A型の最小部位は:Glu-Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys(配列番号:1)BoNT/A型はGln-Argを切断する。
【0053】
【表4】

【0054】
PC12細胞内でCFPとYFPの間のリンカー配列として完全長のSNAP-25を用いると、得られたFRETシグナルは短いフラグメントを用いて得られたシグナルよりも強力であり、従来型の実験用顕微鏡を用いて検出するのに十分なほどであることが予備実験の結果で示される。おそらく、完全長のSNAP-25が細胞膜を標的とし、また、BoNT/A型の軽鎖も細胞膜を標的およびアンカーする可能性があるために、PC12細胞でBoNT/A型による完全長のSNAP-25の切断速度が短いフラグメントに比べて速く、また細胞ごとにより一定であるとみられている。
【0055】
BoNT/B型には、60-94残基間と同じくらいの短さのフラグメントが、33-94残基間のフラグメントと同等の効果があることがわかった。好ましくは、33-94残基間のフラグメントがBoNT/B型およびTeNTの検出に用いられる。どちらの毒素もGlnおよびPheの間で切断し、また、切断のための最少の配列は、Gly-Ala-Ser-Gln-Phe-Glu-Thr-Ser(配列番号:2)である。BoNT/B型の軽鎖はシナプス小胞を標的とし、アンカーするという兆候が見られる。また、細胞内で効率的な切断の増加を達成するために、シグナル配列を介して、シナプス小胞を本発明のFRET複合体の標的とすることも望まれる可能性がある。
【0056】
BoNT/C型はSNAP25およびシンタキシンの両方を切断するのだが、基質が溶液中にあるときには切断の速さが非常に遅くなると考えられている。細胞膜上に存在する生来のSNAP25およびシンタキシンはBoNT/C型で最も効率的に切断される。SNAP25の最小の切断配列は、Ala-Asn-Gln-Arg-Ala-Thr-Lys-Met(配列番号:3)であり、Arg-Alaで切断が起こる。シンタキシンでは、最小の切断配列はAsp-Thr-Lys-Ala-Val-Lys-Phe(配列番号:4)であり、Lys-Alaにて切断が起こる。
【0057】
BoNT/E型は最小配列:Gln-Ile-Asp-Arg-Ile-Met-Glu-Lys(配列番号:5)を必要とし、Arg-Ile間で切断する。
【0058】
BoNT/F型はGln-Lysを切断する。Schmidtら(Analytical Biochemistry、296:130-137(2001))の報告によると、sybIIの37-75フラグメントは毒素感受性のほとんどを保持している。また、最小配列は、Glu-Arg-Asp-Gln-Lys-Leu-Ser-Glu(配列番号:6)である。
【0059】
最小切断部位、およびFRETシグナルの強さとリンカーの長さとの関係、および切断効率とリンカーの長さとの関係における上記の議論から、当分野の技術者はFRETのシグナルの強さと切断効率の間での最適なバランスを得るために、適した長さのリンカーを容易に選択することができる。
【0060】
好ましくは、リンカーの長さは、特定の基質および毒素の組み合わせに応じて、約8アミノ酸から約100アミノ酸の間のどれかの長さであり、好ましくは、10-90の間、さらに好ましくは20-80、30-70、40-60アミノ酸長の間である。
【0061】
一つの実施の形態において、リンカータンパク質あるいはそれらのフラグメントが最初に精製される、あるいはペプチドが最初に合成されたかもしれず、その後、化学反応を通して特定のアミノ酸に蛍光基を加えた。蛍光標識はリンカーポリペプチドに付いても付かなくても良く、代わりに下記のように、蛍光タンパク質がリンカーポリペプチドと構造内で融合する。短い基質フラグメントが毒素検出特異性に好ましいと同時に、より長いフラグメントはシグナルの強さあるいは切断効率を改善するために好ましいことが上記の議論で明らかとなる。基質タンパク質が一つのBoNTに対し一つ以上の認識部位を持つとき、位置の結果だけではどの特定の毒素が試料内にあるのかを識別することが十分でないことは容易にわかる。本発明の一つの実施の形態において、もし、より長い基質フラグメント、特に完全長の基質タンパク質が用いられれば、例えば、部位特異的な突然変異生成あるいは当技術分野で周知の他の分子工学の方法によって、毒素/プロテアーゼ認識部位を一つだけ含むような基質が設計されうる。Zhangら、2002、Neuron 34:599-611 「Ca2+-dependent synaptotagmin binding to SNAP-25 is essential for Ca2+ triggered exocytosis」を参照のこと(BoNT/E型切断部位(Asp 179からLys)に突然変異があるSNAP-25がBoNT/E型による切断に対して耐性があるが、SNARE複合体でテストする際には通常に作用する)。好ましい実施の形態では、本発明の方法は、最適なシグナルの強さ、切断効率および毒素/抗原型特異性を得るために、特定の工学技術および長さの最適化の組み合わせを用いる。
【0062】
好ましい実施の形態において、蛍光プローブは適当な基質ペプチドにより結合されている、適当な蛍光タンパク質である。生体内でこのようなポリペプチドおよび蛍光タンパク質標識のどちらででもコードされる配列の構造内融合を含む、組み換え核酸分子の発現を通して、FRET複合体は生成されうる(例えば、無細胞転写/翻訳システムを用いて、あるいは当技術分野で周知の方法を用いて形質転換あるいはトランスフェクトされた培養細胞を用いて)。FRET複合体を生成するのに適した細胞は、バクテリア、菌類、植物、あるいは動物細胞であり得る。また、FRET複合体は生体内、例えば組み換え植物で、あるいは昆虫、両生類、および哺乳類を含むがそれに限らない組み換え動物で、生成されうる。本発明で利用される組み換え核酸分子は、当技術分野で周知の分子法で構成され、発現される可能性がある。また、もし望まれるならば、容易な精製を可能にするための標識(例えばヒスチジン標識)をコードする配列、リンカー、分泌シグナル、核局在化シグナル、あるいは複合体を特定の細胞部位に向かわせることが可能な一次配列シグナルを含むがそれに限らない配列をさらに含む可能性がある。
【0063】
マイクロプレート蛍光光度計を用いて検出できるのに十分な蛍光シグナルを発するのには、300nMほどまで低い濃度のタンパク質で十分である。蛍光シグナルの変化は、毒素プロテアーゼの酵素活性を示すためにリアルタイムでトレースされうる。リアルタイムでのモニタリングで、反応の進行に従ったシグナル変化を計測し、速いデータ取得およびさまざまな条件下での反応速度に関する情報の収集が可能となる。FRET比からの運動定数の単位を基質濃度に関連付けるために、例えば、HPLC解析のような方法を用いた特定の蛍光分光光度計において、FRET比の変化および切断率は互いに関連している可能性がある。
【0064】
本発明の方法は非常に感度が高く、その結果環境試料で、ボツリヌス細菌性細胞内の前駆体を含む、微量のBoNTを直接的に検出するのに用いることができる。それゆえに、さらに本発明は環境試料からの直接的な毒素の検出および同定のための方法を提供する。
【0065】
さらに本発明は、上述したインビトロシステムを用いた、BoNTの阻害剤のスクリーニングのための方法を提供する。また、その高い感度、速い読み出し、使いやすさのため、本発明に基づくインビトロシステムは、毒素の阻害剤のスクリーニングに適する。特に阻害剤候補の存在下で、適切なBoNT基質―FRET複合体を対応するBoNTで処理する。そして、候補剤がBoNTの活性を阻害するかどうかを判断するためにFRETシグナルの変化をモニターする。
【0066】
さらに本発明はBoNT検出のための細胞に基づいたシステムを用いてBoNTを検出する方法を、さらにはBoNTの阻害剤をスクリーニングする方法を提供する。上述のように適切なBoNT基質―FRET複合体を細胞内に発現させ、その後、BoNTを含むと疑われる試料で細胞を処理し、そしてFRETシグナルの変化をBoNTの存在の有無、あるいは濃度の指標としてモニターする。
【0067】
細胞に基づいた高処理能スクリーニング分析は、毒素のタンパク質分解活性をブロックすることが可能な薬剤だけではなく、その細胞内レセプターへの結合、エンドソーム膜を超えての軽鎖の転移、および転移後の細胞質ゾル内での軽鎖の再折りたたみなどの毒素の活性におけるそのほかのステップもブロックできる薬剤をも明らかにする可能性がある。
【0068】
さらに本発明は、上述の細胞に基づいたシステムを用いたBoNTの阻害剤のスクリーニングのための方法を提供する。特に、阻害剤候補の存在下で、適切なBoNT基質―FRET複合体を発現している細胞を対応するBoNTで処理し、候補剤がBoNTの活性を阻害するかどうかを判断するためにFRETシグナルの変化をモニターする。毒素―基質相互作用の直接阻害剤のみ識別可能な、他のインビトロベースのスクリーニング方法と比較すると、本発明の細胞に基づいたスクリーニング方法は、さらに、これらに限定されるわけではないが、毒素―膜レセプターの結合、膜輸送、そして細胞内での毒素の動きのような、他の毒素に関連した活性の阻害剤のスクリーニングを可能にする。
【0069】
好ましい実施の形態によると、BoNT基質ポリペプチドおよび2つの適切なFRET効果をもたらす蛍光ペプチドをコードしている組み換え核酸分子、好ましくは発現ベクター、を適切な宿主細胞に組み込む。当分野の技術者は適切な発現ベクター、好ましくは本発明のための哺乳動物の発現ベクター、を選択することが可能であり、膨大な数の選択肢があることを認めることだろう。例えば、pCiおよびpSi(Promega社、マディソン、ウィスコンシン州)、CDM8、pCeo4のようなベクターのpcDNAシリーズである。これらベクターの多くはウィルスのプロモーターを用いる。好ましくは、BD Biosciences社(サンノゼ、カリフォルニア州)のtet-offおよびtet-onベクターのような、誘導可能なプロモーターを用いる。
【0070】
細胞株の選択の多くが、本発明のための宿主細胞として適している。好ましくは、各BoNTがその毒素活性を示すような細胞である。すなわち、好ましくは細胞が適切な細胞表面受容体を示し、あるいは別の方法で毒素の細胞内への移動を十分効率的に可能とし、毒素による適切な基質ポリペプチドの切断を可能とする。具体的な例には初代培養神経細胞(皮質神経細胞、海馬神経細胞、脊髄運動神経細胞など)、PC12細胞あるいはPC12細胞株の派生物、初代培養クロマフィン細胞、マウス・コリン作用性Neuro 2a細胞株、アドレナリン作用性ヒトSK-N-SH細胞株、およびNS-26細胞株のようないくつかの神経芽腫細胞株を含む。例えば、FosterとStinger(1999)、Genetic Regulatory Elements Introduced Into Neural Stem and Progenitor Cell Populations、Brain Pathology 9:547-567を参照のこと。
【0071】
基質―FRETポリペプチドのコード領域は、適切なプロモーターのコントロール下にある。用いる宿主細胞のタイプによって、適切なプロモーターが多く知られており、当技術分野ですぐに利用できる。このようなプロモーターは誘導性、あるいは構成性でありうる。構成性のプロモーターは、本発明の望まれるポリペプチドの発現を方向付けるために選択されうる。このような発現構成は、誘導基質を含んだ培養液で発現宿主細胞を培養する必要を回避できるという更なる利点をもたらす。適切なプロモーターの例として、哺乳類系ではLTR、SV40およびCMVが、細菌系では大腸菌lacおよびtrpが、昆虫系ではバキュロウィルス多面体プロモーター(polh)が、そして、真核および原核細胞、あるいはそれらのウィルスにおいて発現を制御すると知られるその他のプロモーターが挙げられるだろう。真菌類の発現宿主での利用が好まれる、強力な構成性でありかつ誘導性のプロモーター、または構成性か誘導性かのどちらかであるプロモーターは、キシラナーゼ(xlnA)、フィターゼ、ATP合成酵素、サブユニット9(oliC)、トリオースリン酸イソメラーゼ(tpi)、アルコール脱水素酵素(AdhA)、αアミラーゼ(amy)、アミログルコシダーゼ(glaA遺伝子からのAG)、アセタミダーゼ(amdS)およびグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(gpd)プロモーターのための真菌遺伝子から入手できる。強い酵母のプロモーターは例えば、アルコール脱水素酵素、ラクトース、3―ホスホグリセリン酸キナーゼおよびトリオースリン酸イソメラーゼの遺伝子より入手できる。強い細菌のプロモーターにはSP02プロモーターが細胞外プロテアーゼ遺伝子からのプロモーターと同様に含まれる。
【0072】
発現した構成の誘導調節の改善のためにハイブリッドのプロモーターを用いることも可能である。該プロモーターは適切な宿主における発現を確実にする、あるいは増やすための特性をさらに含むことができる。例えば、特性はPribnowボックスあるいはTATAボックスのような保存領域でありうる。該プロモーターは、本発明のヌクレオチド配列の発現レベルに影響を及ぼす(維持する、増やすあるいは減少させる)他の配列を含むことができる。例えば、適切な他の配列はShlイントロン、あるいはADHイントロンを含む。その他の配列は、温度、化学薬品、光、あるいはストレス誘導性の要素などのような誘導性の要素を含む。また、転写あるいは翻訳を増加させるのに適切な要素も存在しうる。後者の要素の一例はTMV5´シグナル配列である(Sleat、1987、Gene 217:217-225、およびDawson、1993、Plant Mol. Biol. 23:97参照のこと)。
【0073】
また発現ベクターは発現を増幅するプロモーターに作用する配列を含むことができる。例えば、SV40、CMV、およびポリオーマ・シス作用要素(エンハンサー)および選択可能なマーカーは選択のための表現型形質を提供しうる(例えば、哺乳類細胞のジヒドロ葉酸還元酵素またはネオマイシン耐性、あるいは大腸菌のアンプリシリン/テトラサイクリン耐性)。適切なプロモーターおよび選択マーカーを有する適切なベクターの選択は、当業者のレベルで十分可能である。
【0074】
好ましくは、基質―FRETポリペプチドのコード領域は、誘導プロモーターの制御の下にある。構成性プロモーターと比較して、細胞におけるレポーター濃度の適切なコントロールが可能であり、それゆえに、FRETシグナルの変化の測定が大変容易になるため、誘導性プロモーターが好ましい。
【0075】
例えば、FRETレポーターはTet-on & Tet-offシステム(BD Biosciences社、サンノゼ、カリフォルニア州)を用いて制御されうる。このプロモーターの制御下で、遺伝子発現を正確、可逆的、かつ定量的に制御することができる。つまり、Tet-onシステムでは、培養溶液中にドキシサイクリンが存在するとき下流遺伝子の転写のみが起こる。ある一定時間の転写の後、ドキシサイクリンをなくすために培養溶液を交換し、このため、新しいFRETレポータータンパク質の合成を停止することができる。それゆえに、新たに合成されたFRETタンパク質からのバックグラウンドがないので、毒素処理の後の速い変化を見ることが可能となる。
【0076】
蛍光分析は、例えば光子計数エピ蛍光顕微鏡システム(特定の範囲で蛍光発光をモニターするための適切な2色性ミラーおよびフィルターを含む)、光子計数光電子倍増管システムあるいは蛍光光度計を用いて実施可能である。エネルギー転移を起こす励起はアルゴン・イオン・レーザー、高輝度水銀(Hg)灯、光ファイバー光源、あるいは望む範囲での励起のために適切にフィルターされた他の高輝度光源によって行われることができる。励起/検出方法は、検出感度を高めるために光電子倍増管方法の取り込みによって補強されうることは当業者に明らかであろう。例えば、2光子相互相関方法を単分子スケールでの検出を達成するために用いることができる(Kohlら、Proc. Nat’l. Acad. Sci.、99:12161、2002)。
【0077】
蛍光出力の多くのパラメーターが測定されうる。それらには1)受容器(A)およびドナー(D)の発光波長で放出される蛍光の測定、および発光振幅の比率によるエネルギー転移の程度の測定、2)Dの蛍光寿命の測定、3)Dの蛍光退色の割合の測定、4)DおよびA、または、DあるいはAの異方性の測定、あるいは5)ストークスシフト・モノマー/エキシマー蛍光の測定、が含まれる。Mochizukiら(2001)「Spatio-temporal images of grow-factor-induced activation of Ras and Rapt1.」Nature 411:1065-1068、Satoら、(2002)「Fluorescent indications for imaging protein phosphorylation in single living cells.」Nat Biotechnol. 20:287-294参照のこと。
【0078】
その他の実施の形態において、本発明は表面プラスモン共鳴イメージング(SPRi)技術を用いたBoNT検出のための方法を提供する。表面プラスモン共鳴(SPR)は分子結合の検出のために確立された光学技術であり、薄い金属(一般的には金)フィルムにおける結合親和力を支持する表面プラスモンの生成に基づいている。表面プラスモンは薄い金属フィルムに拘束された自由電子の集合的な振動である。これらの電子は高屈折率プリズムからの光照射野入射により共鳴して励起される。共鳴励起が起こる入射角qは比較的に狭く、共鳴入射角qrで最小になる反射光の強度の減少で特徴付けられる。反射光の位相もこの領域でqに関してほぼ直線的に変化する。qrの値は、金属フィルムのわずかなナノメートルの中に存在する培養液の屈折率に敏感である。分子のフィルムへの結合による、あるいは結合分子の分子量の変化による屈折率の小さな違いは、それゆえにこの角度の違いとして検出されるかもしれない。金属表面にアンカーするバイオ分子のための、多くの方法が当技術分野で周知である。これらアンカーの検出およびSPRiの測定も当技術分野で周知である。例えば、米国特許出願第6,127,129号、6,330,062号、およびLeeら、2001、Anal. Chem. 73:5527-5531、Brockmanら、1999、J. Am. Chem. Soc. 121:8044-8051、およびBrockmanら、2000、Annu.Rev.Phys.Chem.51:41-63、参照のこと。その全文が参照によって本書に組み込まれる。
【0079】
実地では、BoNT標的ペプチドの層が金属に沈着しうる。対応するBoNTを含んでいると疑われる試料を該複合表面に塗布し、もし存在するならば、毒素が標的ペプチドの連結を切断できるように培養する。切断により金属表面に結合するペプチドの分子量の減少をもたらしうる。その減少は標準的な装置と方法を用いて検出できる。結合層の厚みの減少によって切断が起こったことが示され、その結果、試料は標的ペプチドに対応する毒素を含むということが示される。
【0080】
もう一つの方法としては、BoNTタンパク質のその対応する基質ペプチド(金属表面にアンカーしている)への結合が、屈折率の変化もまた引き起こすので、周知のSPRi技術および装置により検出が可能である。
【0081】
タンパク質またはペプチド分子を金属表面にアンカーするあるいは沈着するための多くの方法が当技術分野で周知である。例えば、ペプチドの最後に余分のCys残基を付加でき、それはまた金属表面と架橋することが可能である。間接的には、抗体が金属表面に最初にアンカーされ、毒素の基質が該抗体に結合できる。抗体―基質結合が毒素の基質の切断部位への認識および接近を妨げない限り、抗体を介した間接的なアンカーは本発明に適している。さらにそれぞれ、ヒスチジンあるいはGST融合タンパク質の折り畳みに用いられる、ニッケルNTAあるいはグルタチオンである。金属表面にアンカーするペプチドに関する更なる情報は、Wegnerら(2002)、「Characterization and Optimization of Peptide Arrays for the Study of pitope-Antibody Interactions Using Surface Plasmon Resonance Imaging」Analytical Chemistry 74:5161-5168(その全てが参照として本文に組み込まれる)で見つけられるだろう。
【0082】
核酸分子、分子量で3000から6400ドルトンに対応する、における約10-16ベースの変化がSPRiで容易に検出が可能である。これは、ペプチド分子においてわずか16ほどのアミノ酸残基の変化を検出することが可能であることを暗示している。この高い感度により、完全長の毒素基質タンパク質の代わりに、短いペプチドの基質の表面へのアンカーを可能とする。短いペプチドフラグメントの方がより安定で、安価で用意でき、そしてより高い反応特異性を可能とするため、短いペプチドフラグメントが好まれる。
(例)
(材料および方法)
バイオセンサーDNA複合体の構築:pECFP-C1ベクター(Clontech社)をEcoRIおよびBamHI部位を用いてYFPcDNA(Clontech社)に挿入し、pECFP-YFPベクターを生成した。PCRを用いてラットsybIIのアミノ酸33-94をコードするcDNAを増幅し、XhoIおよびEcoRI部位(CFPとYFP遺伝子の間にある)でpECFP-YFPベクターに挿入して、形質転換細胞で用いることができるCFP-SybII-YFP(CFP-Syb(33-94)-YFPとも呼ばれる)複合体を生成した。CFP-SNAP-25-YFP(CFP-SNAP-25(141-206)-YFPとも呼ばれる)複合体も同様の方法で、SNAP-25の141-206残基を用いて作成した。また、リンカーとして完全長のラットSNAP-25Bを有する複合体(CFP-SNAP-25FL-YFP)も作成した。大腸菌を用いて組み換えキメラタンパク質を精製するために、NheIおよびBamHI部位を用いてpECFP-YFPベクターからCFP-SybII-YFP遺伝子およびCFP-SNAP-25-YFP遺伝子をpTrc-his(Invitrogen社)ベクターへ移動させた。
【0083】
SNAP-25の4つのCys残基のAlaへの変異を、PCRを用いた部位特異的突然変異誘発法によって行い、次に、フラグメントを上述のようにCFPとYFPの間に挿入した。SNAP-25の83-120残基をコードするcDNAフラグメントの、pEYFP-N1(Clontech社)のXhoI/EcoRI部位への最初の挿入によってSNAP-25(83-120-CFP-SNAP-25(141-206)-YFPを作成し、そして、CFP-SNAP-25(141-206)cDNAをEcoRI/BamHIを用いて下流域へサブクローニングした。完全長のSybIIcDNAをEcoRIおよびBamHI部位でpECFP-C1ベクターに挿入することにより、YFP-Syb(FL)-CFPを作成し、そして、完全長のYFPcDNAをXhoIおよびEcoRI部位で上流域に挿入した。YFP-Syb(33-116)-CFPはYFP-Syb(FL)-CFP複合体をEcoRI/BamHI部位によって入れ替えることにより生成された。cDNAフラグメントは全て、PCRを通して生成された。
【0084】
タンパク質精製および蛍光スペクトルの収集:ヒスチジン標識されたCFP-SybII-YFPおよびCFP-SNAP-25-YFPタンパク質を記述のように精製した(Chapmanら、A novel function for the second C2 domain of synaptotagmin. Ca2+-triggered dimerization. J. Biol. Chem. 271、5844-5849(1996))。タンパク質を一晩、HEPESバッファー(50mMのHEPES、pH7.1)で透析した。300nMのタンパク質をキュベットに入れ、2mMのDTTおよび10μMのZnCl2を含むHEPESバッファーで全容量を500μlにした。PTIQM-1蛍光光度計を用いて450nMから550nMの発光スペクトルを集めた。励起波長は434nMであり、これはCFPの最適励起波長である。
【0085】
ボツリヌス神経毒素の活性化およびバイオセンサータンパク質の切断のモニタリング:BoNT/A型、B型、E型、あるいはF型を、毒素の重鎖から軽鎖を取り除くために2mMのDTTおよび10μMのZnCl2とともに37℃で30分間インキュベートした。実験用のために、PTIQM-1を用い、10nMのBoNT/A型、E型、あるいは50nMのBoNT/B型およびF型を、300nMの対応するFRETセンサーを含んだキュベットに加えた。発光スペクトルを、毒素を投入後、一定の間隔で(例えば、0、2、5、10、30、60、90分)上述のように集めた。各放射スキャンの最後に、試料のごく一部(30μl)を集め、SDSローディングバッファーと混合し、後にSDS-pageゲルにかけた。センサータンパク質および切断産物は、高感度ケミルミネッセンス法(ECL)(Pierce社)を用い、抗ヒスチジン抗体で視覚化した。
【0086】
蛍光分光光度計を用いた実験のために、300nMのFRETセンサータンパク質を、96ウェルプレートで1ウェルにつき100μl容量となるように準備した。様々な濃度のBoNTを各ウェルに加え、試料を434nMで励起した。YFPチャンネル(527nM)およびCFPチャンネル(470nM)の発光スペクトルを、30秒間隔で90分間集めた。FRET比はそれぞれデータポイント毎にYFPチャンネルおよびCFPチャンネルの間の比率により決定される。
【0087】
毒素処理後の生細胞におけるFRET比変化の計測:DNA複合体pECFP-SNAP-25-YFPを、エレクトロポレーション(Bio-Rad社)を用いたPC12細胞のトランスフェクションに用いた。細胞をトランスフェクションの24時間後にパスし、50nMのBoNT/A型を培養溶液に加えた。毒素との72時間のインキュベーション後、ニコンTE-300顕微鏡を用いて、FRETセンサーを発現する細胞の蛍光画像を集めた。各細胞(CFPチャンネルおよびFRETチャンネル)の2つの画像を、以下のようなフィルター・セット(Chroma Inc.社)を用いて集めた:CFPチャンネル:CFP励起フィルター(436/10nM)、JP4ビームスプリッター、CFP発光フィルター(470/30nM);FRETチャンネル:CFP励起フィルター(436/10nM)、JP4ビームスプリッター、YFP発光フィルター(535/30nM)。バックグラウンド(細胞がない領域)を各画像から差し引き、また、各細胞のCFPチャンネルおよびFRETチャンネルの蛍光強度を、MetaMorphソフトウェアを用いて比較した。前記のとおり、FRET比は、FRETチャンネルおよびCFPチャンネルの間の強度比によって決定する。コントロールの細胞は毒素処理しなかったが、同一の方法で解析した。生細胞においてBoNT/B型をテストするために、sytIIを発現するPC12細胞株を上記と同様の方法でトランスフェクトした。
【0088】
生細胞イメージングおよびFRET分析:エレクトロポレーション(Bio-Rad社、カリフォルニア州)により、PC12細胞を図の説明文に示されるような様々なcDNA複合体でトランスフェクトした。蛍光画像は100倍の油浸対物レンズを備えたニコンTE-300顕微鏡を用いて得た。3つのフィルター・セット方法を伴って確立された方法(Gordonら、Quantitative fluorescence resonance energy transfer measurements using fluorescence microscopy. Biophys J. 74、2702-2713(1998);Sorkinら、Interaction of EGF receptor and grb2 in living cells visualized by fluorescence resonance energy transfer (FRET) microscopy. Curr. Biol. 10、1395-1398(2000))を用いて生細胞におけるCFP/YFPのFRET値を定量化した。要するに、3つの異なるフィルター・セット:CFPフィルター(励起、436/10nM;発光、470/30nM)、FRETフィルター(励起、436/10nM;発光、535/30nM)およびYFPフィルター(励起、500/20nm;発光、535/30nM)を通った、3つの連続した画像を各細胞から得た。JP4ビームスプリッター(セットID 86000、Chroma Inc.社、バーモント州)を用いた。画像は全て、全く同じセッティングで得た(Binning 4x4、露光時間200ミリ秒)。発現レベルの高い蛍光タンパク質から生じる濃度依存的なFRETシグナルを排除するために、我々の実験では、CFPおよびYFP強度が最大の12ビットスケール(1-2097グレイスケール)の半値以下であるような細胞のみを数えた(Miyawakiら、Monitoring protein conformations and interactions by fluorescence resonance energy transfer between mutants of green fluorescent protein. Methods Enzymol. 327、472-500(2000);Ericksonら、DsRed as a potential FRET partner with CFP and GFP. Biophys J85、599-611(2003))。FRET値を計算する前に、バックグラウンド(細胞がなかった領域)をそれぞれ原画像から差し引いた。CFPあるいはYFPを単独でトランスフェクトしたPC12細胞を、これらのフィルター・セットに対するクロストーク値を獲得するために、最初にテストした。FRETフィルターチャンネルは、CFPに対して約56-64%のブリードスルーを示し、YFPに対しては約24%を示す。実際上、CFPフィルターを使うときにはYFPの、また、YFPフィルターを使うときにはCFPのクロストークはほとんどないので、FRET計算が非常に簡単になる。毒素センサーを発現した細胞のための「補正FRET」値を以下の方程式で計算した:補正FRET=FRET-(CFPx0.60)-(YFPx0.24)。FRET、CFP、およびYFPはそれぞれ、FRET、CFP、およびYFPフィルター・セットより得られた画像の蛍光強度に対応する。FRETフィルター・セットを通して画像を得るとき、CFPおよびYFP蛍光から生じるブリードスルーの平均率は、それぞれ、0.6および0.24である。CFP-SNAP-25FL-YFPセンサーの毒素による切断は、YFPフラグメントの膜解離(細胞質ゾルで分解される(図7c、e))をもたらすため、我々のデータ解析で用いるFRET比は、CFP蛍光強度だけで「補正FRET」値を標準化するとして計算した(補正FRET/CFP)。これらの計算においてFRETが生じた場合CFP強度はドナー消光のために低く見積もられる。しかしながら、ドナー消光によるCFP蛍光の減少は、わずか約5-10%であると報告されている(Gordonら、Quantitative fluorescence resonance energy transfer measurements using fluorescence microscopy. Biophys J. 74、2702-2713(1998);Sorkinら、Oligomerization of dopamine transporters visualized in living cells by fluorescence resonance energy transfer microscopy. J. Biol. Chem. 278, 28274-28283(2003))。全ての画像および計算はMetaMorphソフトウェア(Universal Imaging Corp.社、ペンシルベニア州)を用いて行った。
【0089】
毒素処理を含む実験のために、指示されたホロ毒素を様々な時間で細胞培養液に加え、上述のように細胞を解析した。コントロール細胞は毒素センサーでトランスフェクトされるが毒素処理されず、同様の方法で解析された。
【0090】
毒素基質切断の免疫ブロット解析:図に解説するように、野生型のPC12細胞あるいはSytII+PC12細胞(Dongら、2003上述)を様々な毒素センサーcDNA複合体でトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後にBoNT/A型およびB型を培養溶液に加え、さらに48時間培養した。そして細胞を収集し、前述のように細胞溶解質を免疫ブロット解析にかけた。コントロール細胞は同じcDNA複合体でトランスフェクトし、毒素処理のみ行わずに、平衡して解析した。コントロール細胞の溶解質の1/3をインビトロで毒素処理(200nMのBoNT/A型またはB型、30分、37℃)し、次に免疫ブロット解析にかけた。内因性のSNAP-25およびトランスフェクトされたCFP-SNAP-25-YFPセンサーを、抗SNAP-25抗体26を用いて解析した。また、CFP-SNAP-25-YFPおよびCFP-SybII-YFPセンサータンパク質はGFPポリクローナル抗体(サンタクルーズ、カリフォルニア州)を用いて解析した。抗ヒスチジン抗体(Qigen Inc.社、カリフォルニア州)は、組み換えセンサータンパク質切断の解析で用いた。
例1:CFP―YFP FRET対およびボツリヌス神経毒素プロテアーゼ活性に基づくバイオセンサー
ボツリヌス神経毒素プロテアーゼ活性を、FRET法を用いてモニターするために、sybIIまたはSNAP-25フラグメントを介してCFPとYFPタンパク質が結合され、そしてそれらは、それぞれCFP-SybII-YFPとCFP-SNAP-YFPとして示されている(図1A)。距離の増加とともに指数関数的に減少するCFP-YFPエネルギー転移効率を最適化するために、完全長のタンパク質のかわりに毒素基質の短いフラグメントが使われた。しかし、BoNTによる切断効率は標的タンパクが短くなりすぎると有意に減少する。したがって、シナプトブレビン配列のアミノ酸33-96残基を含む領域が使われた。なぜならその領域は、BoNT/B型、F型およびTeNTによる切断速度を完全長のシナプトブレビンと同様に保持することが報告されているからである。同様に、該複合体がBoNT/A型およびE型によって今までどおり認識され切断されうることを確実にするために、SNAP-25の141-206残基が選ばれた。
【0091】
FRET分析を図1Bに示す。CFP-SybII-YFPおよびCFP-SNAP25-YFPキメラタンパク質は、434nM(CFPの最適励起波長)で励起されると、CFP-YFP対の間のFRETによりYFP蛍光発光を引き起こすだろう。ボツリヌス神経毒素はCFPとYFPの間の短い基質フラグメントを認識および切断することができ、そしてFRETシグナルはCFPとYFPが離れた後に消失する。これらのキメラタンパク質は生細胞で発現しうるので、それらはまた、ボツリヌス神経毒素の「バイオセンサー」を意味する。
【0092】
我々は最初に、CFP-SybII-YFPおよびCFP-SNAP25-YFPのヒスチジン標識した組み換えキメラタンパク質を精製し、PTIQM-1蛍光光度計を用いてそれらの発光スペクトルの特性を明らかにした。予想されるとおり、そのバイオセンサータンパク質は共に、それらのCFPが434nMで励起されたときに525nMの明らかなYFP蛍光ピークを示す(図2B、C)。一方、YFPのみでは、434nMで直接励起された際に微弱な蛍光シグナルしか示さなかった(図2A)。個々のCFPとYFPの混合物は、525nMでピーク発光を持たない(図2A)。このことから、バイオセンサータンパク質を用いて観察されたYFP蛍光ピークがFRETの結果であることが示された。FRET比(YFP蛍光強度/CFP蛍光強度)は、バッファー組成、Zn2+濃度、還元剤濃度といった多くの要因により影響をうけるので(データ非公表)、全ての実験は同じバッファー濃度(50mMのHepes、2mMのDTT、10μMのZnCl2、pH7.1)で行われた。2mMのDTTおよび10μMのZn2+はボツリヌス神経毒素プロテアーゼ活性を最適にするために加えられた。
例2:バイオセンサータンパク質の切断の、ボツリヌス神経毒素によるインビトロでのモニタリング
300nMキメラタンパクCFP-SybII-YFPを、前還元された50nMのBoNT/B型ホロ毒素とキュベット中で混合した。BoNT/B型を添加後の様々な時点において(0、2、5、10、30、60分等)、発光スペクトルを得た。各スキャンの最後に、キュベットから少量の試料(30μl)を取り、SDSローディングバッファーと混合した。これらの試料を後にSDSページゲルにかけ、組換えキメラタンパク質でヒスチジン標識に対する抗体を用いて、キメラタンパク質の切断を可視化した。図3Aに示すように、バイオセンサータンパク質のBoNT/B型とのインキュベーションによって、YFP発光が減少しCFP発光が増加した。FRET比の減少は、BoNT/B型によるキメラタンパク質の切断の度合いと一致していた(図3A、下パネル)。この結果は、バイオセンサータンパク質の切断がそのFRET比の変化をリアルタイムで記録することによりモニターできるということを示している。
【0093】
CFP-SybII-YFPのBoNT/F型による切断、およびCFP-SNAP25-YFPのBoNT/A型またはE型による切断を検出するために、同じ分析を行った(図3B、C、D)。BoNT/B型を用いた実験で同様な結果が得られた。全ての場合において、我々は、光学読み出しおよび免疫ブロット解析の両方を用い、基質切断の同様な動態を観察した。我々の分析では、BoNT/A型およびE型はそれらのキメラ基質をBoNT/B型およびF型よりも非常に速く切断した。したがって、初めの数分に起こった変化を記録するために、10nMのBoNT/A型またはE型のみを用いた。BoNT/B型およびF型とCFP-SNAP25-YFPの混合、あるいはBoNT/A型およびE型とCFP-SybII-YFPの混合は、FRET比または基質切断に全く変化を与えなかったので(データ非公表)、キメラタンパク質の切断は特異的である。
例3:マイクロプレート蛍光分光光度計を用いた、ボツリヌス神経毒素タンパク質活性のリアルタイムでのモニタリング
上記の実験により、ボツリヌス神経毒素の活性が、その標的バイオセンサータンパク質の発光スペクトルの変化をモニターすることにより、インビトロで検出できることが示された。次に我々は、バイオセンサータンパク質の切断をリアルタイムでマイクロプレート・リーダーを用いてモニターできるかを判断した。これは、この解析を将来のハイスループット・スクリーニングに適応できる可能性を示すことになる。図4Aに示すように、300nMのCFP-SNAP25-YFPキメラタンパク質を96ウェルプレート中でBoNT/A型と混合した。CFPは436nmで励起され、CFPチャンネル(470nM)とYFPチャンネル(527nM)の蛍光を30秒間隔で90分にわたり測定した。BoNT/A型の添加は、YFPチャンネル発光の減少とCFPチャンネル発光の増大を引き起こした。この結果により、複数の試料におけるボツリヌス神経毒素酵素活性のリアルタイムでの記録が可能となった。例えば、図4Bに示すように、様々な濃度のBoNT/A型またはE型が300nMのCFP-SNAP25-YFPに添加され、各試料のFRET比が図4Aに説明されるように同時にモニターされた。FRET比の変化は毒素の濃度に関連していた。つまり、毒素の濃度が高いとFRET比が速く減少した。このFRET比の変化は特異的である。なぜならCFP-SNAP-25-YFPのみ(図4Cの左パネル)または、CFPとYFPの混合物(図4Cの右パネル)のいずれにおいても有意な変化が検出されなかったからである。
【0094】
この段階では、FRET比の変化をバイオセンサータンパク質の実際の切断と関連付けることは難しいだろうが、本方法はそれでも、複数の試料が同時に用意されスキャンされた際に、それら複数の試料の間で毒素切断動態を比較するのに最も容易な方法を提供する。その方法は、毒素阻害剤が毒素酵素活性にどのように影響するかについての情報を提供するので、毒素阻害剤のハイスループット・スクリーニングに特に有用である。これらの場合、各動態パラメーターの単位は、基質濃度のかわりにFRET比になるということを特筆しておく。
【0095】
このFRETを基にした解析の感度は、様々な濃度の毒素を一定量のその標的バイオセンサータンパク質とともに一定時間インキュベートすることにより測定される。そのFRET比はマイクロプレート蛍光分光光度計を用いて記録され、毒素濃度に対してプロットされる。図5Aに示すように、この方法は、4時間のインキュベーション後ではBoNT/A型とE型に対して同様の感度をもち(BoNT/A型の半数影響濃度値は15pM、BoNT/E型の半数影響濃度値は20pM、上パネル)、また16時間のインキュベーションによりその検出感度がわずかに増大した(図5A、下パネル)。BoNT/B型およびBoNT/F型に対する感度は同等であったが、4時間インキュベーションでのBoNT/A型およびE型の場合と比べて約10分の一であった(図5B、上パネル、半数影響濃度値はBoNT/B型に対しては242pM、BoNT/F型に対しては207pM)。インキュベーション時間を16時間まで延ばすと、BoNT/B型およびBoNT/F型活性を検出する能力は、それぞれ8倍および2倍増大した。
例4:生細胞におけるボツリヌス毒素活性のモニタリング
CFP-YFPに基づくバイオセンサー解析は、インビトでのロボツリヌス神経毒素検出に使えるだけでなく、生細胞においても使うことができる。この応用を確立するために、PC12細胞にCFP-SNAP-25-YFPをトランスフェクトさせた。PC12細胞は、BoNT/A型およびE型を取り込むことができる神経内分泌細胞株である。トランスフェクトされた細胞はBoNT/A型(50nM)と72時間インキュベートされ、CFP-SNAP-25-YFPを発現した細胞のFRET比を、CFP-YFP FRETを検出するための特殊なフィルター・セットを装備したエピ蛍光顕微鏡で記録した。簡潔に説明すると、FRET比は二つのフィルター・セット、つまりCFP用(励起437nm/発光470nM)とFRET用(励起437nm/発光535nm)、を用いて取得した同じ細胞からの画像の蛍光強度の比として計算される。合計53個の細胞から集め、また同じバイオセンサータンパク質を発現しているが毒素にはさらされていない同数のコントロール細胞と比較した。図6Aに示されるように、BoNT/A型による72時間の処理により、実験した細胞群のFRET比が有意に減少した(p<1.47E-05)。野生型PC12細胞はBoNT/B型およびF型には影響されない。
【0096】
PC12細胞株は、BoNT/B型の受容体であるシナプトタグミンIIおよびCFP-SybII-YFPバイオセンサーの両方を発現するように最近作られた。これらの細胞は、生細胞におけるBoNT/B型作用の検出に使われた。図6Bに示されるように、72時間のBoNT/B型(30nM)処理によって、細胞で発現したバイオセンサータンパク質のFRET比が有意に減少した(p<2.1E-10)。我々は、両方のバイオセンサータンパク質に対するFRET比が変化していないように見える細胞がまだ数多くあった、ということを特筆しておく。これには、いくつかの説明が考えられる。第一に、これらの細胞では、毒素/バイオセンサータンパク質の比が低すぎるのかもしれない。そしてそのため、バイオセンサータンパク質の顕著な切断のためには、より長いインキュベーション時間が必要なのかもしれない。第二に、これらの細胞は高いレベルのタンパク質合成活性を持っているのかもしれず、そのため、切断産物に取って代わるために新たなバイオセンサータンパク質がすぐに合成されるのかもしれない。しかしそれでもなお、これらの実験はこのFRETに基づく解析を生細胞や神経細胞に適用できる可能性を示している。
例5 細胞に基づいたBoNTの検出
細胞に基づいた研究を実施するために、初めにCFP-SNAP-25(141-206)-YFPセンサーをPC12細胞にトランスフェクトした(図7a)。図2aに示すように、エピ蛍光顕微鏡とともに従来の3フィルター・セット方法を用いて、上の材料および方法の項目に記したように生細胞におけるFRETシグナルを得た(Gordonら、Quantitative fluorescence resonance energy transfer measurements using fluorescence microscopy. Biophys J. 74、2702-2713(1998);Sorkinら、Interaction of EGF receptor and grb2 in living cells visualized by fluorescence resonance energy transfer (FRET) microscopy. Curr. Biol. 10、1395-1398(2000))。トランスフェクトされたPC12細胞を50nMのBoNT/A型で96時間処理した。それらの蛍光画像を分析し、標準化したFRET比(補正FRET/CFP)を図7bにプロットした。インビトロでSNAP-25(141-206)フラグメントが完全長のSNAP-25と同等の切断率を持つことが報告されているが(Washbourneら、Botulinum neurotoxin type A and E require the SNARE motif in SNAP-25 for proteolysis. FEBS Lett. 418、1-5(1997))、しかしながら、CFP-SNAP-25(141-206)-YFPは生細胞においては毒素基質として不十分であるようだった。BoNT/A型(50nM)との96時間のインキュベーションにより、細胞集団の中でFRET比の移動がわずかにしか(有意ではあるが)見られなかったため、切断が細胞中では非効率的であり、本センサーが細胞中での毒素検出のためには実用的でないことを示している。
【0097】
驚くべきことに、完全長のSNAP-25が206アミノ酸残基の長さであるにもかかわらず、PC12細胞で発現するときは、該SNAP-25をCFPとYFPの間のリンカーとして用いることで有意なレベルのFRETがもたらされることがわかった(図7cおよび8c)。SNAP-25内のパルミトイル化部位(Cys 85、88、90、92 Ala)の突然変異は、それはそのタンパク質(CFP-SNAP-25(Cys-Ala)-YFPと示される)の細胞質分布をもたらすのだが、FRETシグナルを有意に減少させるので、該FRETシグナルはSNAP-25の膜アンカーに依存している(図7d)。(LaneおよびLiu、Characterization of the palmitoylation domain of SNAP-25. J. Neurochem. 69、1864-1869(1997);Gonzaloら、SNAP-25 is targeted to the plasma membrane through a novel membrane-binding domein. J Biol. Chem. 274、21313-21318(1999);Kotichaら、Plasma membrane targeting of SNAP-25 increases its local concentration and is necessary for SNARE complex formation and regulated exocytosis. J. Cell Sci. 115、3341-3351(2002); Gonelle-Gispertら、Membrane localization and biological activity of SNAP-25 cysteine mutants in insulin-secreting cells. J. Cell Sci. 113(Pt18)、3197-3205(2000))。この発見は、SNAP-25の膜アンカーが、SNAP-25のN末端とC末端が互いに近づくという構造変化をもたらしうることを示唆している。本センサーはCFP-SNAP-25(FL)-YFPと示される。CFP-SNAP-25(FL)-YFPを発現する細胞の50nMのBoNT/A型でのインキュベーションにより、時間とともにFRET比で段階的な減少がもたらされた(図7c、右パネル)。BoNT/A型によるセンサーの切断で、2つのフラグメント:膜上に残る、CFPで標識されたSNAP-25のN末端フラグメント(図2c、中央パネル)、および、毒素による切断後に細胞質ゾルに再分布すると予想される、YFPで標識されたSNAP-25の短いC末端フラグメントがもたらされた。興味深いことに、C末端切断産物、CFP-SNAP-25(198-206)-YFP、は毒素切断後、そのほとんどが消失したことに我々は気づいた(図2c、中央パネルの「YFP」枠)。この観測結果は免疫ブロット解析を用いて確かめられた(図7e)ため、この可溶性フラグメントが膜上にとどまったもう一方のフラグメントよりもかなり速く分解することが示された。この予想外の結果は、単にCFPとYFPの蛍光の割合をモニターすることによって生細胞内での毒素活性を検出するという代替方法をもたらす。
【0098】
BoNT/Aの軽鎖は膜局在シグナルを持ち、分化したPC12細胞で細胞膜に向かうことが最近報告されている(Fernandez-Salasら、Plasma membrane localization signals in the light chain of botulinum neurotoxin. Proc. Natl. Acad. Sci. USA、101、3208-3213(2004))。そこで、我々はSNAP-25の膜アンカーがBoNT/A型による効果的な切断に重要であるという可能性について調べた。直接この考えを調べるために、細胞質に分布するCFP-SNAP-25(Cys-Ala)-YFP(図7d)、および細胞膜にアンカーするCFP-SNAP-25(FL)-YFPをPC12細胞にトランスフェクトし、BoNT/A型による切断と同時に細胞において分析した。図7eに示したように、細胞のBoNT/A型とのインキュベーションで、有意な量のCFP-SNAP-25(FL)-YFPセンサーを切断されたのに対し、同じ分析条件下でCFP-SNAP-25(Cys-Ala)-YFPの検出可能な切断は見られなかった。
【0099】
この発見をさらに確かめるために、我々は、短いフラグメントのSNAP-25(83-120残基、GFPを細胞膜に向けることができる(Gonzaloら、SNAP-25 is targeted to the plasma membrane through a novel membrane-binding domain. J Biol. Chem. 274、21313-21318(1999))を用いて、SNAP-25(141-206) を含んだ効率の悪いセンサーを細胞膜に向けさせた(図8a)。予想通り、CFP-SNAP-25(141-206)-YFPセンサーが細胞膜へアンカーすることで、BoNT/A型による効率的な切断がもたらされた(図8b)。これらの発見は、細胞においてSNAP-25の細胞内局在がBoNT/A型による効率的な切断に実に重要であることを示している。
【0100】
次に我々はCFP-Syb(33-94)-YFPセンサーが細胞におけるBoNT/B型活性の分析に利用できるかどうかについて調べた。これらの研究のために、BoNT/B型の細胞への侵入を介在するシナプトタグミンIIを発現するPC12細胞株を用いた(Dongら、Synaptotagmins I and II mediate entry of botulinum neurotoxin B into cells. J. Cell Biol.162, 1293-1303 (2003))。図9a(上パネル)に示すように、トランスフェクトされたCFP-Syb(33-94)-YFPは、細胞のいたるところに存在する、可溶性タンパク質である。CFP-SNAP-25(141-206)-YFPの場合と同様に、BoNT/B型(50nM、96時間)での処理でFRET比はわずかしか減少しなかった(図9a、下パネル)ため、細胞でのこのセンサーの切断もまた非効率的である。
【0101】
BoNT/A型センサーについての経験から、我々はSybの細胞内局在がBoNT/B型によるSybの切断に重要であるかどうかを調べることにした。内因性Sybは116アミノ酸残基長であり、一回膜貫通型領域(残基95-116、図9b)を通して分泌性小胞に存在する。適当な小胞の局在を確かめるために、CFPとYFPの間のリンカーとして完全長のSybを用いた。小胞内腔においてCFPは比較的に酸性環境に耐性があるため(Tsien、The green fluorescent protein. Annu. Rev Biochem 67、509-544(1998))、CFPはSybのC末端に融合されて小胞内にあると予想されるが、その一方でYFPはSybのN末端に融合し、細胞質に向いている(図9b)。本センサーはYFP-Syb(FL)-CFPと呼ばれる。ここではCFPとYFPの間でFRETが起こりにくいため、BoNT/B型による切断のモニターを新しい方法を用いて行った。YFP-Syb(FL)-CFPセンサーの切断で、細胞質に放たれるだろうYFP標識されたN末端部分と、小胞の内部に限定される、CFP標識された短いC末端部分とを含む、2つのフラグメントが生じるだろう。したがって、毒素活性で細胞のYFP蛍光の再分配が起こるということになる。YFP-Syb(FL)-CFPが細胞内で有効な毒素センサーであることが示された。図9cに示したように、BoNT/B型での処理は、小胞からのYFPの解離と細胞質へのYFPの再分布とをもたらした。可溶性のYFPフラグメントは核に入ることが可能だが、この核では毒素処理前には蛍光シグナルは見られなかった(図9c)ので、核はYFPの再分布が容易に検出される領域となるということを特筆しておく。FERT分析とは異なり、本検出方法ではCFPとYFPの間が短距離である必要はなく、したがって、細胞でタンパク質活性をモニターするための新しい方法を提供する。
【0102】
Syb(33-94)フラグメントを含むセンサーが非効率的であるのはN末端の32アミノ酸が欠けているためであるという可能性を排除するために、N末端32残基を欠いたSybの切断型(CFP-Syb(33-116)-YFPと呼ばれる)を含んだセンサーを作成した。本センサーは、効果のないセンサーと同じSybの細胞質領域(残基33-94)と、センサーを小胞にアンカーする、膜貫通領域(残基95-116)とを含む。平行して分析した際、48時間後にCFP-Syb(33-116)-YFPはBoNT/B型により有意な量が切断され、その一方でCFP-Syb(33-94)-YFPでは検出可能な切断が見られなかった(図9c)ため、小胞局在が細胞における切断効果を決定することが示された。この結果は、マイナスに帯電した脂質混合物が存在することでBoNT/B型、TeNT、およびBoNT/F型によるSybの切断率がインビトロで高まる、という最近の報告によってさらに支持される(Caccinら、VAMP/synaptobrevin cleavage by tetanus and botulinum neurotoxins is strongly enhanced by acidic liposomes. FEBS Lett. 542、132-136(2003))。毒素が細胞において小胞膜に結合することを好むので、小胞に局在するSybと接触する機会が増加するという可能性がある。また、有効な切断に必要なSybの適した構造状態の維持のために膜貫通領域の存在が極めて重要であるかもしれない、という可能性もある。
【0103】
完全長のSNAP-25およびSybIIのリンカーとして利用することで、生細胞における内因性の基質切断を反映する、可視化レポーターを提供した。これらの2つのレポーターは7つのボツリヌス神経毒素の全ておよび破傷風神経毒素(TeNT)の検出が可能であるはずである。個々のボツリヌス神経毒素あるいはTeNTの特異的な検出を可能にするために、基質リンカーの配列を、長さを変えたり他の毒素切断部位あるいは毒素認識部位を変化させたりすることにより、容易に変更することが可能である。これらの毒素センサーは毒素阻害剤の細胞に基づいたスクリーニングを可能にし、また、細胞における毒素の基質認識および基質切断についての研究を可能にするはずである。
【0104】
前述の解説および例示は、本発明を明らかにするために説明してきただけであり、これに制限することを目的とするものではない。当技術分野の技術者ならば本発明の趣旨および本質を組み込んだ、開示の実施の形態の修正形態を思いつくかもしれないため、本発明は添付の特許請求の範囲およびその同等物の範囲に含まれる全ての変形形態を含むと広範囲に解釈されるべきである。上記および下記に、あるいは、上記または下記に記載した参考文献は全て、参照することにより明白に本文に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、ボツリヌス神経毒素プロテアーゼ活性をモニターするためのCFP-YFPに基づいたバイオセンサーの概略図である。
【図2】図2は、組み換えバイオセンサータンパク質の蛍光発光スペクトルを示す。
【図3】図3は、発光スペクトルスキャンすることにより、ボツリヌス神経毒素によるバイオセンサータンパク質の切断を生体外でリアルタイムにモニターできることを示している。
【図4】図4は、マイクロプレート蛍光分光光度計でバイオセンサータンパク質を用いた、ボツリヌス神経毒素プロテアーゼ動態のモニタリングを表している。
【図5】図5はプレートリーダーを用いたバイオセンサー分析の検出感度について示している。
【図6】図6は生体細胞内でのボツリヌス神経毒度活性のモニタリングを説明したものである。
【図7】図7は生体細胞内での本発明に基づく方法を用いた、BoNT/A型活性のモニタリングを示す。
【図8】図8は、CFP-SNAP-25(141-206)-YFPセンサーを細胞膜にアンカーすることによって、BoNT/A型により効果的に切断されるセンサーを作成したことを示す。
【図9】図9はBoNT/A型によるSybの有効な切断にはSybの小胞への局在が必要であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シナプトブレビン、シンタキシン、SNAP-25およびボツリヌス神経毒素に切断されることができるそれらのフラグメントからなるグループから選択されるボツリヌス神経毒素の基質であるリンカーペプチドと、蛍光ドナー部分の発光スペクトルが蛍光受容部分の励起スペクトルとオーバーラップし、10nM以上離れることなく配置する蛍光ドナー部分および蛍光受容部分とからなる、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)可能な分子複合体。
【請求項2】
該蛍光ドナー部分が緑色蛍光タンパク質あるいはそれらの変異形であり、また該蛍光受容部分が該緑色蛍光タンパク質に対応する変異形である、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
該リンカーペプチドが少なくとも約14のアミノ酸残基と、配列番号1-6から成るグループから選択されるアミノ酸配列とを含む、請求項1記載の複合体。
【請求項4】
該リンカーペプチドが少なくとも約15、16、17、18、19、20、21、22、23または25のアミノ酸残基を含む、請求項3記載の複合体。
【請求項5】
該リンカーペプチドが少なくとも約30のアミノ酸残基を含む、請求項3記載の複合体。
【請求項6】
該リンカーペプチドが少なくとも約35、40、45、50、55、60、65、または70のアミノ酸残基を含む、請求項3記載の複合体。
【請求項7】
請求項2記載の複合体をコードする単離ポリヌクレオチド分子。
【請求項8】
請求項7記載のポリヌクレオチド分子を含み、プロモーターに動作可能にリンクされる発現ベクター。
【請求項9】
該プロモーターが誘導性プロモーターである、請求項8記載の発現ベクター。
【請求項10】
請求項7記載の単離ポリヌクレオチド分子を含む細胞。
【請求項11】
該細胞が初代培養神経細胞、PC12細胞あるいはそれらの派生物、初代培養クロム親和細胞、神経芽腫細胞、アドレナリン作用性ヒトSK-N-SH細胞、およびNS-26細胞株からなるグループより選択される、請求項10記載の細胞。
【請求項12】
該細胞が皮質神経細胞、海馬神経細胞、脊髄運動神経細胞、あるいはコリン作用性マウスNeuro 2a細胞である、請求項11記載の細胞。
【請求項13】
請求項1記載の複合体を含むキット、および適切な容器。
【請求項14】
a)該リンカーが、検出されるボツリヌス神経毒素に対応する基質タンパク質、あるいはその切断可能なフラグメントである、請求項1記載の複合体を提供することと、
b)ボツリヌス神経毒素が該タンパク質基質あるいはそのフラグメントを切断するという条件下においてボツリヌス神経毒素を含むと疑われる試料に該複合体をさらすことと、
c)該複合体が該試料にさらされる前後でのFRETシグナルを検出しおよび比較することと、
を含む、FRETの減少で試料におけるボツリヌス神経毒素存在が示唆されることを特徴としボツリヌス神経毒素を検出するための方法。
【請求項15】
検出される試料へのZn2+を供給するステップをさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
該ボツリヌス神経毒素がBoNT/A型、E型、あるいはC型であり、対応する基質タンパク質がSNAP-25あるいは切断可能なそのフラグメントである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
該ボツリヌス神経毒素がBoNT/B型、D型、F型、あるいはG型であり、対応する基質タンパク質がシナプトブレビン(Syb)、あるいは切断可能なそのフラグメントである、請求項14記載の方法。
【請求項18】
該ボツリヌス神経毒素がBoNT/C型であり、対応する基質タンパク質がSNAP-25あるいは切断可能なそのフラグメントである、請求項14記載の方法。
【請求項19】
該FRETが、1)該受容器(A)の発光波長およびドナー(D)の発光波長で発光される蛍光の測定、およびそれぞれの発光振幅率によるエネルギー転移を測定するステップと、2)Dの蛍光寿命を測定するステップと、3)Dの蛍光退色率を測定するステップと、4)DあるいはAの蛍光偏光を測定するステップと、5)モノマー/エキシマー蛍光のストークスシフトを測定するステップと、から成るグループより選択される方法で検出されることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項20】
該蛍光プローブ対がCFP-YFPである、請求項14記載の方法。
【請求項21】
該複合体が細胞内で発現する組み換えタンパク質である、請求項14記載の方法。
【請求項22】
阻害剤候補の非存在下でボツリヌス神経毒素にさらされた細胞と比較し、実質的にFRETの減少が見られないという観察結果により阻害剤候補がボツリヌス神経毒素を阻害できることを示し、
a)該複合体中のリンカーがボツリヌス神経毒素に対応する基質ペプチドであることを特徴とする、請求項2記載の複合体を発現するために遺伝的に設計された細胞を提供するステップと、
b)阻害剤化合物候補の存在下で前記細胞をボツリヌス神経毒素にさらすステップと、
c)ボツリヌス神経毒素にさらす前後における細胞のFRETシグナルを検出するステップと、
を含むボツリヌス神経毒素の阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項23】
該候補化合物が化合物のライブラリー中にあり、かつ方法がハイスループット方法である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
1)BoNT標的ペプチド層を金属表面へ沈着させるステップと、
2)BoNTが金属表面の標的ペプチドを切断できる条件下において、対応するBoNTを含んでいると疑われる試料に、表面にBoNT標的ペプチドを備えている該金属表面をさらすステップと、
3)表面プラスモン共鳴イメージングを用いた、該金属表面に結合する標的ペプチドのBoNT切断による分子量減少を測定するステップと、
を含むボツリヌス神経毒素検出のための方法。
【請求項25】
リンカーペプチドが少なくとも71のアミノ酸残基および配列番号1-6から成るグループより選択される配列を含み、該リンカーペプチドがドナーと受容器との間でFRETが起こる立体構造を採ることを特徴とする、請求項1記載の複合体。
【請求項26】
該リンカーペプチドがシナプトブレビン、シンタキシン、あるいはSNAP-25の完全長分子である、請求項25記載の複合体。
【請求項27】
FRETの減少が試料内のボツリヌス神経毒素の存在を示すことを特徴とし、
a)請求項25記載の複合体を提供するステップと、
b)ボツリヌス神経毒素がタンパク質基質あるいはそのフラグメントを切断する条件下において、ボツリヌス神経毒素を含むと疑われる試料に該複合体をさらすステップと、
c)該複合体を該試料にさらす前後のFRETシグナルを検出し比較するステップと、
を含むボツリヌス神経毒素検出のための方法。
【請求項28】
リンカーペプチドが、シナプトブレビン、シンタキシンおよびSNAP-25、あるいはボツリヌス神経毒素で切断されうるそれらのフラグメントから成るグループから選択される、ボツリヌス神経毒素の基質であることリンカーペプチドと、一番目の蛍光プローブ部位の発光スペクトルが2番目の蛍光プローブ部位の励起スペクトルと検出可能な程度に異なっている、一番目の蛍光プローブ部位および2番目の蛍光プローブ部位とを含む分子複合体。
【請求項29】
該リンカーペプチドがシナプトブレビン、シンタキシンあるいはSNAP-25の完全長の分子である、請求項28記載の複合体。
【請求項30】
請求項28記載の複合体をコードするポリヌクレオチド分子。
【請求項31】
小胞にアンカーされる、請求項28記載の複合体。
【請求項32】
空間的隔離の発生が試料内のボツリヌス神経毒素の存在を示すことを特徴とし、
a)請求項31記載の複合体を提供するステップと、
b)ボツリヌス神経毒素がタンパク質基質あるいはそのフラグメントを切断する条件下で、ボツリヌス神経毒素を含むと疑われる試料に該複合体をさらすステップと、
c)一番目および2番目の蛍光プローブの蛍光シグナルの空間的隔離を検出するステップと、
を含むボツリヌス神経毒素検出のための方法。
【請求項33】
該小胞が生細胞の内部にあり、該リンカーペプチドがSNAP-25(198-206)-YFPに結合するCFP-SNAP-25(1-197)であり、さらに、YFP蛍光ではなくCFP蛍光の検出が試料内のボツリヌス神経毒素の存在を示すことを特徴とする、請求項32記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−520211(P2007−520211A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545459(P2006−545459)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/042366
【国際公開番号】WO2005/076785
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(500484146)ウィスコンシン・アラムナイ・リサーチ・ファウンデイション (10)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】