説明

ボルト固定金物及びボルト固定構造

【課題】ボルト軸の上端に大きな力がかかっても、それに耐えさせて、ボルトをしっかりとした脱落阻止状態に固定できるボルト固定金物等を提供する。
【解決手段】上端部に、取付け用ボルト5の頭部5aを受ける受け部10a,11を備えた上材8と、下端部を下フランジ1bへの当接部として上材8に螺合された下材9とを備え、上材8と下材9との相対回転で上下方向に伸縮するようになされており、伸長することで上下のフランジ1a,1b間で突っ張り、ボルト5を上フランジ1aに固定するようになされている。上材8の受け部10a,11は、ボルト頭部5aと回転方向において係合し、上材8が下材9に対してボルト軸5bに螺合させたナット7の締込み回転方向に回転するとボルト固定金物3が伸長するようになされているとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト固定金物及びボルト固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図8(イ)(ロ)に示すように、上下のフランジとこれらフランジをつなぐウェブを備えたH形鋼からなる階間の胴差51の上フランジ51aにボルト通孔52を設け、このボルト通孔52に、ボルト頭部53aを下、ボルト軸53bを上とするようにボルト53を通し、該ボルト53を、図示しないクリップで上フランジ51aに脱落阻止状態に固定し、このボルト53のボルト軸53bを階上の外壁パネル54のフレーム55に設けられたボルト通孔56に通し、屋内側において、ボルト軸53bに上からナット57を螺合し、締め込んで、階上の外壁パネル54を胴差51に固定することは、従来より行われている。
【特許文献1】特開2006−168808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のようなクリップでは、階上の外壁パネル54の建方作業において、ボルト軸53bが外壁パネル54のフレーム55のボルト通孔56に入らずにフレーム55がボルト軸53bの上に乗ってしまった場合、その衝撃や重量によって、クリップが外れ、ボルト53が上フランジ51aの下方に脱落してしまうおそれがある。
【0004】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、ボルト軸の上端に大きな力がかかっても、それに耐えさせて、ボルトをしっかりとした脱落阻止状態に固定することができるボルト固定金物及びボルト固定構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、水平なベース面から上方に離間して水平プレート部が備えられ、該プレート部に設けられたボルト通孔に、ボルト頭部を下、ボルト軸を上とするように通されたボルトを、その通した状態においてプレート部に固定するボルト固定金物であって、
上端部に、前記ボルトの頭部を受けるボルト受け部を備えた上材と、
下端部をベース面への当接部とし、前記上材に螺合された下材と
を備え、
上材と下材とが相対回転をすることにより上下方向に伸縮するようになされており、伸長させることにより、ベース部とプレート部との間で突っ張り、ボルトをプレート部に固定するようになされていることを特徴とするボルト固定金物によって解決される(第1発明)。
【0006】
このボルト固定金物では、ベース面と水平プレート部との間にボルト固定金物を縦向きに配置し、プレート部のボルト通孔に通したボルトの頭部を上材のボルト受け部に受けさせ、上材と下材を相対回転させて、ボルト固定金物をベース面とプレート部との間で突っ張らせることにより、ボルトを、プレート部のボルト通孔に通した状態で固定することができる。
【0007】
そして、この固定状態において、ボルト軸の上端に大きな力がかかっても、ボルトは、ベース面とプレート部との間でボルト固定金物が突っ張っていることにより、それに耐えることができて、脱落阻止状態をしっかりと維持することができる。
【0008】
第1発明において、上記の上材のボルト受け部は、ボルト頭部を受け、ボルト固定金物をベース部とプレート部との間で突っ張らせた状態で、ボルト頭部の上面部をプレート部の下面部に押し付ける底部を備えているとよい(第2発明)。この場合は、上材のボルト受け部の底部でボルト頭部の上面部がプレート部の下面部に押し付けられることで、ボルトをフラツキのないしっかりとした固定状態にすることができる。
【0009】
第1,第2発明において、上材の前記ボルト受け部は、ボルト頭部と回転方向において係合するようになされており、上材が、下材に対して、前記プレート部の上方に突出するボルト軸に螺合させたナットの締込み回転方向に回転することにより、ボルト固定金物が伸長するようになされているとよい(第3発明)。
【0010】
この場合は、プレート部へのボルト固定状態において、ボルト軸にナットを螺合させ、締め付けることによって、上材が共回りをしても、ボルト固定金物が短縮してしまうことがなく、むしろ突っ張り力を強めてしっかりとした固定状態を維持することができ、プレート部に取り付けられる部材の重量によってプレート部が下に撓むのをボルト固定金物が阻止して、プレート部を補強することができる。
【0011】
また、上記の課題は、水平なベース面から上方に離間して水平プレート部が備えられ、該プレート部に設けられたボルト通孔に、ボルト頭部を下、ボルト軸を上とするように通されたボルトが、第1乃至第3の発明のいずれか一つボルト固定金物で、プレート部に固定されていることを特徴とするボルト固定構造によって、同様に解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上のとおりのものであるから、ボルト軸の上端に大きな力がかかっても、それに耐えさせて、ボルトをしっかりとした脱落阻止状態に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施最良形態を図面に基づいて説明する。図1に示す第1実施形態において、1は階間の胴差、2は階上の外壁パネル、3はボルト固定金物である。
【0014】
胴差1は、上下のフランジ1a,1bとこれらフランジをつなぐウェブ1cとを備えたH形鋼からなり、下フランジ1bの上面4をベース面、上フランジ1aを水平プレート部とし、上フランジ1aにボルト固定金物3で固定された取付け用の六角ボルト5が、外壁パネル2のフレーム6に通され、該ボルト5に上からナット7が螺合され、締め付けられて、外壁パネル2と胴差1とが連結された構造となっている。
【0015】
この構造において、ボルト固定金物3は、図2及び図3に示すように、上材8と下材9とを構成部品として備えている。上材8は、六角ボルト材10の頭部10aの天面部に、内周六角のリング材11が溶接などで同軸状態に取り付けられたもので、リング材11の内周部に取付け用ボルト5の六角頭部5aがしっくりと嵌り込むようになされて、上材8と取付け用ボルト5のボルト頭部5aとが回転方向において係合するようになされていると共に、ボルト材10の頭部10aとリング材11とが、取付け用ボルト5のボルト頭部5aを受ける受け部を構成している。
【0016】
また、図4(イ)に示すように、リング材11の高さ寸法aは、取付け用ボルト5の頭部5aの高さ寸法bより小さく設定されていて、取付け用ボルト5の頭部5aの天面部を上材8のボルト頭部10aの天面部12に当接させた状態で、取付け用ボルト5の頭部5aがリング材11の外方に突出するようになされて、図3(ロ)に示すように、上材8のボルト頭部10aの天面部12を、取付け用ボルト5の頭部5aの上面部を上フランジ1aの下面部に押し付ける底部としている。
【0017】
一方、下材9は、角筒状の柱状部13の上端部に蓋板14が設けられると共に、該蓋板14の上面部中央に、上材8のボルト軸10bを通すことのできる通孔15が設けられ、蓋板14の上面部に、上材8のボルト軸10bが螺合可能なナット材16が、通孔15と同軸状態に配置され、ナット材16と蓋板14とが溶接などで接合一体化されたものからなっている。
【0018】
本実施形態では、図2(イ)に示すように、柱状部13が、金属プレート部の同じプレス加工品13a,13aを、スリット孔17に突片部18を貫通させて屈折させるというようにして無溶接で製作されたものからなっており、また、図2(ロ)に示すように、蓋板14と柱状部13も、スリット孔17に突片部18を貫通させて屈折させるというようにして同じく無溶接で接合された構造となっている。
【0019】
そして、上記の上材8と下材9とは、図3(イ)(ロ)に示すように、上材8のボルト軸10bが、下材9のナット材16に螺合されて、ボルト固定金物3を構成している。
【0020】
取付け用ボルト5は、上記のボルト固定金物3を用いて、例えば次のようにして、胴差1の上フランジ1aに固定することができる。即ち、図4(イ)(ロ)に示すように、ボルト固定金物3を短縮状態にして、上材8のリング材11の内部に取付け用ボルト5のボルト頭部5aを嵌め付け、これを、図4(ハ)に示すように、胴差1のウェブ1cを挟んで屋外側の上下のフランジ1a,1b間に、取付け用ボルト5のボルト軸5bを上フランジ1aのボルト通孔19に下から挿入しながら、直立状態にしていき、図5(ニ)に示すように、ボルト固定金物3の下材9の下端部を下フランジ1bの上面部4に支承させる。
【0021】
このとき、下材9の柱状部13の下端部に、下フランジ1bの上面4に備えられている突起部20を入り込ませることで、ボルト固定金物3の下端部を位置決め状態にすることができる。なお、本実施形態では、突起部20は、階下の外壁パネル21を胴差1に連結しているナットからなっている。
【0022】
しかる後、図5(ホ)に示すように、上フランジ1aの上面から上方に突出する取付け用ボルト5のボルト軸5bを回転操作することにより、ボルト固定金物3の上材8を追従回転させ、ボルト固定金物3を伸長させていき、上下のフランジ1a,1b間で突っ張らせた状態にすれば、取付け用ボルト5が上フランジ1aに固定される。なお、突っ張らせた状態にするのは、ボルト軸5bを回転しないように固定し、下材9の方形柱状部13をスパナ等の工具で回転させることにより行うのもよい。
【0023】
この固定状態において、ボルト固定金物3の上材8のボルト頭部10aの天面部12(図2等参照)で、取付け用ボルト5のボルト頭部5aの上面部が上フランジ1aの下面部に押し付けられ、取付け用ボルト5はフラツキのないしっかりとした固定状態となる。
【0024】
次いで、図6(ヘ)に示すように、階上の外壁パネル2のフレーム6に設けられたボルト通孔22に、胴差1の上フランジ1aの上面から突出するボルト軸5bを通し、図7(ト)(チ)に示すように、屋内側から、ボルト軸部5bにナット7を螺合して締め付ければ、階上の外壁パネル2が胴差1と連結される。
【0025】
その場合に、ナット7の締付けによって、取付け用ボルト5のボルト軸5bが共回りをし、ボルト固定金物3の上材8と下材9が相対回転をしても、ボルト固定金物3の突っ張り状態が緩むことはなく、むしろ、突っ張り力を強めてしっかりとした固定状態を維持し、階上の外壁パネル2の自重によって上フランジ1aが下に撓むのをボルト固定金物3がしっかりと阻止して、上フランジ1aを補強することができる。
【0026】
また、図6(ヘ)に示すように、階上の外壁パネル2のフレーム6のボルト通孔22に、胴差1の取付け用ボルト5のボルト軸5bを通す過程で、階上の外壁パネル2のフレーム6が、ボルト軸5bの上端部に乗ってしまった場合でも、取付け用ボルト5は、上下のフランジ1a,1b間でボルト固定金物3が突っ張っていることにより、それに耐えることができて、脱落阻止状態をしっかりと維持することができる。
【0027】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、ボルト固定金物3を構成する上材8、下材9として、特定構造のものを示したが、これに限られるものではなく、その他の構造や形態をしていてもよい。また、ボルト固定金物の下材を更に上材と下材で構成し、該上材と該下材とが相対回転することで伸縮するようになされていてもよい。
【0028】
更に、上記の実施形態では、ボルト固定金物3を、H形鋼からなる胴差1の上フランジ1aに取付け用ボルト5を固定するのに用いた場合を示したが、水平な各種ベース面から上方に離間して水平な各種プレート部が備えられ、該プレート部に設けられたボルト通孔に、ボルト頭部を下、ボルト軸を上とするように通されたボルトをプレート部に固定する各種場合に、広く用いることができるものである。
【0029】
また、取付け用ボルトは、ネジ棒にナットを螺合させ、該ナットを頭部としたものであってもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態のボルト固定金物及びボルト固定構造を示す断面側面図である。
【図2】図(イ)及び図(ロ)はそれぞれ、ボルト固定金物を分解状態にして示す斜視図である。
【図3】図(イ)はボルト固定金物を分解状態にして示す斜視図、図(ロ)はボルト固定金物の斜視図である。
【図4】図(イ)はボルト固定金物と取付け用ボルトを分離状態にして示す側面図、図(ロ)はボルト固定金物に取付れ用ボルトをセットした状態を示す側面図、図(ハ)は、図5(ニ)(ホ)と共に、取付け用ボルトの固定方法を順次に示す断面側側面図である。
【図5】図(ニ)及び図(ホ)は、図4(ハ)と共に、取付け用ボルトの固定方法を順次に示す断面側側面図である。
【図6】図(ヘ)は、図7(ト)(チ)と共に、階上外壁パネルの取付け方法を順次に示す断面側面図である。
【図7】図(ト)及び図(チ)は、図6(ヘ)と共に、階上外壁パネルの取付け方法を順次に示す断面側面図である。
【図8】図(イ)及び図(ロ)は、背景技術に係る階上外壁パネルの取付け方法を順次に示す断面側面図である。
【符号の説明】
【0031】
1a…上フランジ(プレート部)
1b…下フランジ(ベース)
3…ボルト固定金物
4…ベース面
5…取付け用ボルト
5a…ボルト頭部
5b…ボルト軸
8…上材
9…下材
10a…ボルト頭部(受け部)
11…リング材(受け部)
12…天面部(底面)
19…ボルト通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平なベース面から上方に離間して水平プレート部が備えられ、該プレート部に設けられたボルト通孔に、ボルト頭部を下、ボルト軸を上とするように通されたボルトを、その通した状態においてプレート部に固定するボルト固定金物であって、
上端部に、前記ボルトの頭部を受けるボルト受け部を備えた上材と、
下端部をベース面への当接部とし、前記上材に螺合された下材と
を備え、
上材と下材とが相対回転をすることにより上下方向に伸縮するようになされており、伸長させることにより、ベース部とプレート部との間で突っ張り、ボルトをプレート部に固定するようになされていることを特徴とするボルト固定金物。
【請求項2】
上材のボルト受け部は、ボルト頭部を受け、ボルト固定金物をベース部とプレート部との間で突っ張らせた状態で、ボルト頭部の上面部をプレート部の下面部に押し付ける底部を備えている請求項1に記載のボルト固定金物。
【請求項3】
上材の前記ボルト受け部は、ボルト頭部と回転方向において係合するようになされており、上材が、下材に対して、前記プレート部の上方に突出するボルト軸に螺合させたナットの締込み回転方向に回転することにより、ボルト固定金物が伸長するようになされている請求項1又は2に記載のボルト固定金物。
【請求項4】
水平なベース面から上方に離間して水平プレート部が備えられ、該プレート部に設けられたボルト通孔に、ボルト頭部を下、ボルト軸を上とするように通されたボルトが、請求項1乃至3のいずれか一に記載のボルト固定金物で、プレート部に固定されていることを特徴とするボルト固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−274678(P2008−274678A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120844(P2007−120844)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】