説明

ボルト継手工法における継手部の接合面摩擦向上処理方法

【課題】ボルト継手による接合法においては、接合面に発生させる錆の状態が締め付けた際の摩擦係数の高低に大きく影響する要素であるが、従来公知の錆の発生方法による錆は、錆の進行を制御する有効な手段がないため、錆が時間の経過と共に進行して止まらず、過度となり、コブ錆などの不良錆の発生を見ることが頻発して、延いては、継手強度の低下を招く欠点があった。
【解決手段】ボルト継手工法における継手部の接合面の摩擦向上策において、任意の錆発生方法により接合面に発生させた錆の進行状態に応じて、適時、気化性防錆剤を塗布若しくは密閉乃至密閉に近い状態で共存させることにより、錆の進行を阻止して、良好な錆面を維持することを可能とし、ボルト継手の強度の保持に有効な解決手段を開発した。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁や鉄骨建造物の鋼材連結に採用される高張力鋼ボルトによる摩擦継手工法の改良に係る。
【背景技術】
【0002】
従来のボルト継手工法における継手部の接合面の摩擦向上策としては、外気に暴露して自然発錆させるか、塩水塗布による発錆方法が多用されているが、錆発生に長時間を要するとか、発錆に斑が生じて希望する摩擦係数を得られぬ欠点が有り、これを改善するものとして、本発明者等が、塩化第二鉄とアニオン界面活性剤との水溶液より成る塗布剤を開発し安定した錆の発生に成功しており、商品名ヒットロックBとして業界において多用されている。(特許文献1参照)
【0003】
同様な用途として、本発明者等は塩化第二鉄と硝酸と界面活性剤との混合改良塗布剤等を開発し、上記発明の欠点とするピッチングの発生を防止し併せて水酸化第二鉄及び酸化第二鉄を生成することに成功している。(特許文献2参照)
【0004】
更に、本発明者は、特許請求項にも記載している電解方式による発錆方法を開発し、業界に提供している。(特許文献3参照)
【0005】
【特許文献1】 特公平3−81013号公報
【特許文献2】 特公平4−50355号公報
【特許文献3】 特公平7−81566号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
橋梁、一般鋼構造物等の現地施工に際しては最近の傾向として構造物の大型化に伴い、従来のリベット工法や溶接工法では特別の注意が必要なため、応力の集中する重要な部分に対しては高張力鋼ボルトによる継手工法が多く採用される傾向にある。
【0007】
このような高張力鋼ボルトによる継手工法は、従来のリベット工法がリベットの剪断によって接合部応力を伝達しているのに対し、高強度の高張力鋼ボルトを降伏点付近まで締め付けることにより、継手部の接合面に生ずる摩擦力によって応力を伝達するものであるから、応力伝達の要素となる継手部の接合面の摩擦係数が極めて重要な要素となる。
【0008】
このため、継手部の接合面にミルスケールや不均一な赤錆や異物が介在すると、摩擦係数を極度に低下させることとなり、延いては締め付け強度を弱め、また締め付け後に於いても緩みを生じやすく、定期的に締め直しを必要とするので、通常はグラインダー処理若しくはショットブラスト、サンドブラスト等のブラスト処理によりミルスケールや赤錆等を除去する必要があった。
【0009】
然し、逆に該接合面に均一に発生密着した軽度の赤錆面は、上記のグラインダー処理やブラスト処理を施した地金面よりも摩擦係数がかなり大きいので、通常はグラインダー若しくはブラスト処理後、大気中に放置して自然に赤錆が発生するのを待ったうえで締め付け施工を行うのが慣例となっている。
【0010】
一方、最近の業界における実情としては、素材の製作から締め付け組み立てに至る期間を大幅に短縮せざるを得ぬ状況にある。
又、例え屋外暴露しておいても締め付けまでに所望の赤錆が発生しない場合も多く、更には、逆に極めて長期に亙る建設現場等では暴露期間や腐食環境の条件次第では、コブ錆状まで進行して所望の赤錆が得られないため、締め付け施工前に再度ワイヤブラシ掛けなどによりコブ錆を除去して適度の錆の程度にまで仕上げなければならぬなど、この種の継手部の接合面の表面処理については多くの解決すべき課題があった。
【0011】
このような現状に対し、従来からグラインダー若しくはブラスト処理後の接合面に、海水や食塩水を散布したうえ、屋外暴露して錆の発生を促進させる方法が採用されているが、この方法でも所望の赤錆を発生させるにはかなりの期間を要するのみならず、発生する錆についても錆斑が生じ易く、均一な錆を得るには十分な注意が必要であった。
【0012】
このような現状に鑑み、本発明者は、敍上の継手部接合面に発生させるべき錆を迅速かつ平滑良好な状態に発生させる方法を発明し、上記の背景技術欄の特許文献1,2,3として紹介したが、同文献1の特公平3−81013号発明は、特許第1717870号として登録され、文献2の特公平4−50355号発明は、特許第1771365号として登録され、文献3の特公平7−81566号発明は、特許第2052084号として登録されている。
【0013】
上記の錆発生方法にも次に述べるような解決すべき課題が有った。
従来の発錆方法では、良好な錆の発生があっても、放置すれば、錆は更に強く進行して、場合によればコブ状の錆となって使用に耐えない錆となり、再度グラインダー掛けやブラスト処理が必要となる等の欠点があった。締め付け後においても同様な欠陥が発生している。
【0014】
この欠点は、錆の発生が際限なく進行するために起因するもので、錆の進行状態を観察し、好適と判断した錆の発生状態をそれ以上進行させず、その状態を維持することを解決の課題目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記の目的を達成するために、次の通り提案する。即ち、ボルト継手工法における継手部の接合面の摩擦向上策において、外気暴露により、或いは酸素雰囲気中で自然発錆させるか、又は塩水塗布により発錆させるか、又は、界面活性剤を夫々配合した塩化第二鉄や硝酸鉄等の発錆剤の塗布により発錆させるか、又は塩化鉄、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム等の塩化物か、硝酸鉄、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム等の硝酸塩か、塩酸、硫酸または硝酸の一種若しくは二種以上を配合した水溶液を電解液として、直流或いは交流の電流による電解処理により発錆させるかの何れかの発錆方法により発錆させる過程において、所望の発錆進行度に至った段階で、当該継手部の接合面に気化性防錆剤を塗布若しくは密閉乃至密閉に近い状態で共存させることにより、爾後上記の発錆作用を解除させ、所望の発錆状態を維持するように、施工することを特徴とする解決手段である。
【0016】
上記の課題解決手段による作用は次の通りである。即ち、鉄の錆の発生に不可欠の条件は、処理面における、ある程度の湿度と酸素の存在である。その何れかを欠けば発錆は生じない。その内、大気中には水蒸気が存在し、湿度も存在するので、これを防錆のために除去するのは困難である。従って、鉄錆を発生させない手段としては、残る酸素の供給を断てば、錆の発生と錆の進行を阻止できることになる。
【0017】
そこで、本発明者は、研究の結果、気化性防錆剤が鉄錆の進行を適宜阻止可能と判断し、実験を重ねてその作用と効果を確認したところ、上記発生手段により、継手部に発生した錆は時間の経過に伴って次第に色調を濃くするが、経験による計測では、摩擦係数が最高になる色調は錆が黄色の状態が最善であることを確認しているところから、この時点で錆の進行を阻止する必要があり、直ちに気化性防錆剤のアルコール溶液を処理面に塗布したところ、塗布面における酸素は排除され、従って錆の進行が阻止されて、処理面の錆の黄色の色調も維持持続され、その錆の進行を阻止する作用の確実性を確認した。
【0018】
この気化性防錆剤の基本的主成分は、ダイカン(ジ・シクロヘキシル・アンモニウム・ナイトライト)という有機物で、商品名「ラスレス」(エーピーアイコーポレーション)、「ラスミンV1」(共栄社化学)等市販されている。
気化性防錆剤は、常温において成分が徐々に気化し、金属の表面に吸着して金属表面を保護し、錆を防止することから、薬剤が残存する間は錆抑制効果が持続する。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、従来の技術では継手部の接合部材面に発生させた錆の発生の進行を阻止できず、多くの不都合を生じていたが、本発明によりこれを見事に解決して、任意に、錆を最善の状態において、錆の進行を阻止し且つ維持することを可能にしたので、ボルト継手工法の有効性と信頼性を高めることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
塩化第二鉄をFeCl・6HOとして3wt%、塩化アンモニウムを0.2wt%、ノニオン界面活性剤を0.1wt%添加した水溶液に、脱脂を充分行った磨き鋼板を3分間浸漬し、板を引き上げて液を充分切った上で静置して錆の発生状況を観察した。
引き上げ後3分で淡黄色の錆が発生し、10分で黄色から赤茶色に錆色が移行し始めた。この時点でエタノールに溶解した気化性防錆剤(粉末)を板面に均一にスプレーし、錆の進行並びに阻止状況の経過観察を行った。
その結果、錆の進行を阻止して、良好な錆面を維持させる気化性防錆剤の溶解量は1wt%以上必要で、好ましくは2〜8wt%である。
薬剤がなくなり再び錆の進行が始まるまでの期間は、1wt%の場合7日間、8wt%の場合45日間であり、その間防錆効果が持続されたことになる。
又、空気で膨らませたポリエチレン製のポリ袋に、前述と同じ試験片と粉末の気化性防錆剤1g/(30cm)を入れ、熱シールし密閉状態にした後、錆の進行並びに阻止状況の経過観察を行った結果、前述の塗布試験と同等以上の効果があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト継手工法における継手部の接合面の摩擦向上策において、外気暴露により、或いは酸素雰囲気中で自然発錆させるか、又は、塩水塗布により発錆させるか、又は、界面活性剤を夫々配合した塩化第二鉄や硝酸鉄等の発錆剤の塗布により発錆させるか、又は、塩化鉄、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム等の塩化物か、硝酸鉄ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム等の硝酸塩か、塩酸、硫酸又は硝酸の一種若しくは二種以上を配合した水溶液を電解液として、直流或いは交流の電流により電解処理して発錆させるかの何れかの方法により、当該接合面に発錆させる過程において、所望の発錆進行度に至った段階で、当該継手の接合面に気化性防錆剤を塗布若しくは密閉乃至密閉に近い状態で共存させることにより、爾後上記の発錆作用を解除させ、所望の発錆状態を維持するように施工することを特徴とするボルト継手工法における継手部の接合面摩擦向上処理方法。

【公開番号】特開2009−58119(P2009−58119A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258049(P2007−258049)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(591120837)株式会社ケミカル山本 (11)
【Fターム(参考)】