説明

ボルト軸とナットとの組合せ構造からなる摺動部材

【課題】ボルト軸とナットとの組合せ構造からなる摺動部材において、これら相互の摺動挙動による損傷を確実に減少させることの出来る摺動部材の提供を目的とする。
【解決手段】雄ねじ山を備えるボルト軸と、雌ねじ山を内周に備える雌ねじ孔を備えるナットとを、螺動回転可能な状態で螺合し、繰り返し螺動回転することで、雄ねじ山と雌ねじ山とが摺動負荷を受ける摺動部材において、当該ボルト軸の雄ねじ山を構成する第一金属材のビッカース硬度をH、当該ナットの雌ねじ孔の内周の雌ねじ山を構成する第二金属材のビッカース硬度をHとしたときに、|H−H|=300HV0.1〜350HV0.1として用いることを特徴とする摺動部材を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、ボルト軸とナットとの組合せ構造からなる摺動部材に関する。特に、アクチュエーター用部品として用いられるボルト軸とナットとの最適な組合せに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型カメラが内蔵型の携帯電話の普及、及びカメラの高機能化(高画素化、オートフォーカス(AF)機能等)に伴い、小型カメラにズーム機構が組み入れられるようになってきた。このズーム機構中のレンズを動かすのに、圧電素子の急速変形(インパクト駆動)を利用する方法が採用されている。また、この圧電素子を用いたユニットは、ぶれ防止装置(CCDを直接動かすタイプ)としてもデジカメに搭載されている。圧電素子が用いられる理由として、例えば電磁モーターを使用した場合、携帯電話では磁界を発生させ、電磁ノイズの元となり、小型化が難しく、組立が難しいという問題があることがあげられる。また、オートフォーカス機構のレンズを動かす方法として、ステッピングモータとギヤを組み合わせたもの、ボイスコイルモータとバネを組み合わせたものなどが普及しているが、それぞれ機構容積の小型化や、消費電力の低減といった課題が山積していた。
【0003】
こうした問題を解消可能な方法として、最近ピエゾモーターを使用したオートフォーカスシステムの利用が増えつつある。ピエゾ(piezo)とはギリシャ語で「圧力を加える」という意味で、ある結晶に圧力を加えた場合、これに比例して電荷を発生する。この現象を逆に利用すれば、ピエゾ素子に電圧をかけることで体積が伸縮する。この現象を応用して位置決めに利用したものがピエゾモーターである。ピエゾモーターは、電圧をかけることによって素子が収縮するという性質を持っており、振動状態を得て、この振動を他に伝達するという利用がなされる。この性質を巧みに利用し、ピエゾ素子の振動を駆動力に変えたアクチュエーターを用いて、レンズを連続的に移動させることにより、焦点を合わせることができるようにしたのが、ピエゾモーター利用のオートフォーカス機構である。
【0004】
ピエゾモーターを用いることで、レンズ移動の位置決めを精密に行うことができ、更に、素子への電圧コントロールだけでレンズを動かす為、複雑な機械的構造部品が不要になり、信頼性の向上と静音性を得ることが可能になる。また、ピエゾモーターを用いた場合には、耐久性の向上が得やすく、数百万回もの繰り返し運動を行っても問題が生じず、早い応答性と高いエネルギー効率を有するという従来のモータ駆動に比べ優れた特徴がある。ただし、早い応答性を有するがために微調整が難しく、オートフォーカス機構として用いるには圧電素子とレンズ駆動とをリードスクリューとステーターとの組合せ構造を用いて行う方法が採られている。雄ねじ山を備えるリードスクリューと、雌ねじ山を内周に備える雌ねじ孔を備えるステーターとの組合せ構造とした場合、ねじの回転運動を直線運動に変換させる特徴を利用し、微調整を可能とするものである。
【0005】
但し、このときに問題となるのが、微小な相対往復すべり運動すなわちフレッティング運動に伴う損傷である。この損傷は、振動、繰返し応力、変動応力などを受ける機械部品や部材の結合部で局所的に生じる。リードスクリューとステーターとの組合せ構造においては、二つの面が接触したまま微動する場合にフレッティング摩耗(fretting wear)と呼ばれる表面損傷が生じやすい。フレッティング摩耗の進行によって、鉄鋼材料では空気中においてココア(cocoa)と呼ばれる赤褐色の微細な酸化摩耗粉が結合部に発生する。酸化摩耗粉の発生により、ガタを生じて機械の精度や機能が著しく低下し、振動や騒音の原因となると共に、時には摩耗粉の固着により分解や修理が不可能となる。
【0006】
このようにフレッティングに伴う諸現象は、トライボロジーおよび材料強度の分野において重大な表面損傷である。また、結合部に繰返し応力が同時に作用する場合、フレッティング疲労(fretting fatigue)が発生し、損傷部からしばしば疲労き裂が発生、進展して部材の破壊に至り、部材の疲労強度が著しく低下する。
【0007】
このような問題を解決するため、特許文献1には、回転軸を持つねじ付きシャフトと、これに螺合するナットを備えたねじ付きシャフトアッセンブリの駆動用装置であって、a)前記アッセンブリが前記ナットに超音波振動を与え、これによりナットを貫くねじ付きシャフトを回転させると同時に軸方向への移動させる手段を備え、b)前記ねじ付きシャフトが軸方向に動ける負荷と接続され、c)前記アッセンブリが軸方向の力を前記ねじ付きシャフトに付与する手段を更に備えた駆動用装置が提案されている。また、実施例において、ねじ付きシャフト12とねじ込みナット16の材料には、互いに摩耗が最小となるような組合せの使用が好ましいとして、シャフト12がステンレス製、ナット16が真鍮製のものが採用されている。
【0008】
【特許文献1】特表2007−505599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1は、その明細書の実施例において、ねじ付きシャフト12及びねじ込みナット16の材料には、ねじ付きシャフト12は実質的にステンレス鋼製で、当該シャフトに係合されるナット16は真鍮製が使用されているが、特許文献1の素材によるねじ付きシャフトとねじ込みナットとの組合せでは、摺動部材として十分な耐久性を得ることが現実には難しい。また、当該明細書の実施例において、ねじ付きシャフト12のねじ山形状は切り欠き形が好ましく、ねじのピッチはインチ当たりねじ溝約200個以下が好ましいとされている。
【0010】
以上に示したように、従来より、螺動回転可能な状態で螺合し、繰り返し螺動回転しながら摺動負荷を受け合う摺動部材において、より耐久性に優れたものが求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者等は、雄ねじ山を備えるボルト軸と、雌ねじ山を内周に備える雌ねじ孔を備えるナットとを、螺動回転可能な状態で螺合し、繰り返し螺動回転させ、摺動負荷を受ける双方の摺動部位の硬度差と、ねじ山形状に着目することで、摺動部材としての耐久性及び高精度動作を満足する条件を見い出し、上記課題を達成できることに想到した。以下、本件発明に関して説明する。
【0012】
本件発明に係る、雄ねじ山を備えるボルト軸と、雌ねじ山を内周に備える雌ねじ孔を備えるナットとを、螺動回転可能な状態で螺合し、繰り返し螺動回転させることで、雄ねじ山と雌ねじ山とが摺動負荷を受ける摺動部材は、当該ボルト軸の雄ねじ山を構成する第一金属材のビッカース硬度をH、当該ナットの雌ねじ孔の内周の雌ねじ山を構成する第二金属材のビッカース硬度をHとしたときに、|H−H|=300HV0.1〜350HV0.1であることを特徴とするものである。
【0013】
本件発明に係る摺動部材は、前記第一金属材のビッカース硬さHが550HV0.1〜600HV0.1の範囲にあることが好ましい。
【0014】
本件発明に係る摺動部材は、前記第一金属材が以下に記載の第一金属材用合金組成のマルテンサイト系ステンレス鋼を用いることが好ましい。
【0015】
[第一金属材用合金組成]
ニッケル :0.6質量%以下
クロム :12.0質量%〜18.0質量%
炭素 :0.16質量%〜1.2質量%
ケイ素 :1.0質量%以下
マンガン :1.25質量%以下
リン :0.06質量%以下
硫黄 :0.15質量%以下
残部 :鉄及び不可避的不純物
【0016】
本件発明に係る摺動部材は、前記第二金属材のビッカース硬さHが220HV0.1〜240HV0.1の範囲にあることが好ましい。
【0017】
また、本件発明に係る摺動部材は、前記第二金属材が以下に記載の第二金属材用合金組成のオーステナイト系ステンレス鋼を用いるものが好ましい。
【0018】
[第二金属材用合金組成]
ニッケル :7.0質量%〜13.0質量%
クロム :17.0質量%〜20.0質量%
炭素 :0.15質量%以下
ケイ素 :1.0質量%以下
マンガン :2.5質量%以下
リン :0.2質量%以下
硫黄 :0.15質量%以下
残部 :鉄及び不可避的不純物
【0019】
また、本件発明に係る前記ボルト軸とナットとが備えるねじ山は、呼び径Mが1.1mm以下、ピッチPが0.2mm以下、ねじかみ合わせ部の径方向長さが0.05mm以上、ねじ山先端部の幅が0.015mm〜0.05mmであり、当該ボルト軸のねじ溝部の幅が0.04mm以下、当該ナットのねじ溝部の幅が0.03mm以下であることが好ましい。
【0020】
前記ボルト軸とナットとが備えるねじ山の公差は、前記ボルト軸の有効径公差域グレードが3G、当該ナットの有効径公差域グレードが4Gであることが好ましい。
【0021】
そして、本件発明に係る摺動部材を構成部材として用い、被駆動物をスライド移動させるためのピエゾモーターであって、当該ピエゾモーターは、リードスクリューと、当該リードスクリューに螺合されたステーターと、当該ステーターの外周部に設けられた少なくとも二枚のピエゾ素子とからなり、当該少なくとも二枚のピエゾ素子は、当該ステーターの外周部に配置してピエゾモーター保持部材に収容したものであり、当該摺動部材を構成するナットをステーターとして用い、ボルト軸をリードスクリューとして用いることが好ましい。
【0022】
また、本件発明に係る前記ピエゾモーターを、レンズ駆動用アクチュエーターとして用いたことを特徴とする撮像装置として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本件発明の摺動部材は、当該雄ねじ山を構成する金属材のビッカース硬度をH、当該雌ねじ山を構成する金属材のビッカース硬度をHとしたときに、|H−H|=300HV0.1〜380HV0.1とすることにより、雄ねじ山と雌ねじ山との双方の摩耗を最小限に抑制し、摺動挙動に伴う相互の摩擦損傷を効果的に軽減する。その結果、摺動部材としての長寿命化、耐久性を飛躍的に向上させる事ができる。
【0024】
また、本件発明の摺動部材となるボルト軸とナットとが備えるねじ山は、呼び径Mが1.1mm以下、ピッチPが0.2mm以下、ねじかみ合わせ部の径方向長さが0.05mm以上、ねじ山先端部の幅が0.015mm〜0.05mmであり、当該ボルト軸のねじ溝部の幅が0.04mm以下、当該ナットのねじ溝部の幅が0.03mm以下とすることで、螺動回転をスムーズ、且つ、精度良く行うことができる。
【0025】
本件発明の摺動部材を用いれば、上述した優れた性質をレンズ駆動において発揮することになるため、高品質な撮像装置の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本件発明に係る、摺動部材の形態に関して説明する。以下の説明では、ボルト軸のねじ山を構成する素材を第一金属材、ナットのねじ山を構成する素材を第二金属材として、混同無きよう説明する。
【0027】
本件発明に係る、雄ねじ山を備えるボルト軸と、雌ねじ山を内周に備える雌ねじ孔を備えるナットとを、螺動回転可能な状態で螺合し、繰り返し螺動回転することで、雄ねじ山と雌ねじ山とが摺動負荷を受ける摺動部材は、当該ボルト軸の雄ねじ山を構成する第一金属材のビッカース硬度をH、当該ナットの雌ねじ孔の内周の雌ねじ山を構成する第二金属材のビッカース硬度をHとしたときに、|H−H|=300HV0.1〜350HV0.1であることことが好ましい。また、ナットとなる部材よりボルト軸となる部材の硬度が高くなることが好ましい。双方の硬度差がこの範囲において、ナット内周面とボルト軸の摺動面の双方の摩擦損傷を軽減化でき、摺動挙動の安定化が図れ、且つ、良好な耐久性が得られる。このとき、当該双方の硬度差が300HV0.1未満である場合には、固体潤滑作用が低下し、軟らかい材質側の表面が摩擦により硬化して、脆くなるため硬化部表面が欠けるなどの問題が生じ、耐久性が低下する。また、当該双方の硬度差が350HV0.1を超える場合には、硬度の低い部材側の摩耗量が増大し、構造物としての耐久性が低下する。なお、当該ビッカース硬さHとビッカース硬さHとの差は、少なくとも、ボルト軸とナットとのねじ山の表面(摺動面となる部分)の硬度差が上記範囲条件を満足していれば良い。
【0028】
本件発明に係る摺動部材は、前記第一金属材のビッカース硬さHが550HV0.1〜600HV0.1の範囲にあることが好ましい。このときに、当該ビッカース硬さHが550HV0.1未満である場合には、駆動時のボルト軸の外周面(摺動面)とナットの内周面(摺動面)との摩擦による摩耗が顕著になり、構造物としての寿命を長期化させることが困難である。一方、ビッカース硬さHがが600HV0.1を超えると、第一金属材側の摺動面の表面が硬くなり過ぎることになり、脆化して脆くなるため、耐久性に欠けるようになる。従って、上記範囲の硬さのマルテンサイト系ステンレス鋼で製造した第一金属材は、前記第二金属材と組み合わせて使用することで、摺動部材双方の摺動面の耐摩耗性が飛躍的に向上する。なお、当該ビッカース硬さHは、少なくとも、ねじ山の表面(摺動面となる部分)の硬度が上記範囲条件を満足していれば良い。
【0029】
本件発明において用いる第一金属材用合金組成は、ニッケル、クロム、炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、マルテンサイト系ステンレス鋼に分類されるものであり、ニッケル含有量が0.6質量%以下、クロム含有量が12.0質量%〜18.0質量%、炭素含有量が0.16質量%〜1.2質量%、ケイ素含有量が1.0質量%以下、マンガン含有量が1.25質量%以下、リン含有量が0.06質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物というものである。すなわち、この範囲に含まれている素材としてはSUS420材、SUS440材相当のものがある。
【0030】
ここで、本件発明に係る、第一金属材用合金組成の各成分に関して述べておく。
【0031】
ニッケル含有量は、0.6質量%以下であることが好ましい。ニッケルは、オーステナイト形成元素であり、耐食性、靭性の向上に寄与する。しかし、ニッケル含有量が0.6質量%を超えると、焼なまし時の硬さが上昇し、冷間加工性の劣化を招く。また、結晶組織をマルテンサイト化するときの残留オーステナイト量が増大して、焼戻し硬さの低下を招く。
【0032】
クロム含有量は、12.0質量%〜18.0質量%であることが好ましい。クロムは、ステンレス鋼の耐食性向上に必要な元素である。しかし、クロムはフェライト形成元素であるため、過剰に含有させると残留オーステナイト量を増大させることとなり、強度及び靭性が低下する。そのため、クロム含有量が12.0質量%未満の場合、十分な耐食性を得ることができず、クロム含有量が18.0質量%を超えると、焼戻し硬さの低下を招く。
【0033】
炭素含有量は、0.16質量%〜1.2質量%であることが好ましい。炭素は、ステンレス鋼の強度を確保し、マルテンサイト組織とするために必要な元素である。しかし、炭素を過度に添加すると、粗大な一次炭化物の生成によって、焼なまし処理後の冷間加工性、及び焼入れ‐焼戻し後の耐食性、靭性が劣化するばかりでなく、残留オーステナイト量が増大して、焼戻し硬さの低下を招く。そのため、炭素含有量が0.16質量%未満の場合には、十分な強度を得ることができず、炭素含有量が1.2質量%を超えると、十分な耐食性及び靱性を得ることができない。
【0034】
ケイ素含有量は、1.0質量%以下であることが好ましい。ケイ素は、脱酸剤として有効である。一方、ケイ素はステンレス鋼を硬化するため、ケイ素含有量が高すぎるとステンレス鋼の靭性及び加工性が劣化する。また、ケイ素はフェライト形成元素であるため、ステンレス鋼のマルテンサイト化を妨げる。そのため、ケイ素含有量が1.0質量%を超えると、十分な強度、靱性及び加工性を得ることができない。
【0035】
マンガン含有量は、1.25質量%以下であることが好ましい。マンガンは、脱酸、脱硫元素としても有効である。さらに、マンガンはオーステナイト形成元素であり、過剰に添加すると、残留オーステナイト量を増大させ、焼戻し硬さの低下を招くばかりでなく、耐食性の劣化を招く。そのため、マンガン含有量が1.25質量%を超えると十分な強度及び耐食性を得ることができない。
【0036】
リン含有量は、0.06質量%以下であることが好ましい。リンは、熱間加工性、粒界強度、靭性を低下させる元素であり、低減させることが好ましい。そのため、リン含有量が0.06質量%を超えると十分な靱性を得ることができない。
【0037】
硫黄含有量は、0.15質量%以下であることが好ましい。硫黄は、耐食性や、冷間加工時の靭性を劣化させるとともに、熱間加工性も低下させる元素であり、低減させることが好ましい。そのため、硫黄含有量が0.15質量%を超えると十分な靱性と良好な加工性能を得ることができない。
【0038】
次に、前記第二金属材のビッカース硬さHが、220HV0.1〜240HV0.1の範囲にあることが好ましい。このときに、当該ビッカース硬さHが、220HV0.1未満である場合には、駆動時のボルト軸の外周面(摺動面)とナットの内周面(摺動面)との摩擦による摩耗が顕著になり、構造物としての寿命を長期化させることが困難である。一方、ビッカース硬さHが240HV0.1を超えると、第二金属材側の摺動面の表面が硬くなり過ぎることになり、脆化して脆くなるため、耐久性に欠けるようになる。従って、上記範囲の硬さのマルテンサイト系ステンレス鋼で製造した第一金属材は、上記第二金属材と組み合わせて使用することで、摺動部材双方の摺動面の耐摩耗性が飛躍的に向上する。なお、当該ビッカース硬さHは、少なくとも、ねじ山の表面(摺動面となる部分)の硬度が上記範囲条件を満足していれば良い。
【0039】
本件発明において用いる第二金属材用合金組成は、ニッケル含有量が7.0質量%〜13.0質量%、クロム含有量が17.0質量%〜20.0質量%、炭素含有量が0.15質量%以下、ケイ素含有量が1.0質量%以下、マンガン含有量が2.5質量%以下、リン含有量が0.2質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物というものである。すなわち、この範囲に含まれている素材としてはSUS303材、SUS304材相当のものがある。
【0040】
ここで、本件発明に係る、第二金属材用合金組成の各成分に関して述べておく。
【0041】
ニッケル含有量は、7.0質量%〜13.0質量%であることが好ましい。ニッケルは、オーステナイト形成元素としてオーステナイト系ステンレス鋼の基本元素である。このニッケルは、所定量を添加することでステンレス鋼の耐食性の向上に寄与する。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼において、7.0質量%未満のニッケル含有量の場合には、十分な靱性、耐摩耗性を得ることができず、ニッケル含有量が13.0質量%を超えると、耐食性の向上に変化はなく経済的ではない。
【0042】
クロム含有量は、17.0質量%〜20.0質量%であることが好ましい。クロムは、ステンレス鋼として必須元素である。ステンレス鋼の耐食性はクロムを合金することで著しく向上する。この効果はクロム含有量が増加するに伴い大きくなる。しかし、クロム含有量が17.0質量%未満の場合、耐食性が低下し、クロム含有量が20.0質量%を超えると、フェライトとオーステナイトの二相組織となり、オーステナイト本来の良好な塑性加工性が劣化するため好ましくない。
【0043】
炭素含有量は、0.15質量%以下であることが好ましい。炭素は、オーステナイト組織の安定と高温強度を高めるために有効であるが、600℃程度の高温になると、クロムと炭化物を形成し結晶粒界の耐食性を損なう。そのため、炭素含有量が0.15質量%を超えると強度の低下を招き好ましくない。
【0044】
ケイ素含有量は、1.0質量%以下であることが好ましい。ケイ素は、耐酸化性及び耐高温塩害腐食性の向上に効果がある。しかし、ケイ素含有量が1.0質量%を超えると、それ以上の効果は得られず経済的ではない。
【0045】
マンガン含有量は、2.5質量%以下であることが好ましい。マンガンは、脱酸剤として必要な元素である。しかし、マンガン含有量が2.5質量%を超えた場合、得られる効果が飽和状態となるために経済的ではない。
【0046】
リン含有量は0.2質量%以下であることが好ましい。リンは、熱間加工性、粒界強度、靭性を低下させる元素であり、低減させることが好ましい。そのため、リン含有量が0.2質量%を超えると十分な靱性を得ることができない。
【0047】
硫黄含有量は、0.15質量%以下であることが好ましい。硫黄は、耐食性や、冷間加工時の靭性を劣化させるとともに、熱間加工性も低下させる元素であり、低減させることが好ましい。そのため、硫黄含有量が0.15質量を超えると十分な靱性を得ることができない。
【0048】
本件発明における、前記ボルト軸とナットとが備えるねじ山形状の条件について、図1及び図2にその詳細を示した。図1及び図2に示すように、ねじには雄ねじと雌ねじとから構成させており、双方を組み合わせることで、ねじはその役割を果たせるようになっている。ここで、ピッチPとは、隣り合うねじ山間の距離をいい、ひっかかりの高さhとは、ねじ山が接触している部分を軸心に垂直に見たときの寸法をいい、Mは呼び径であり、雄ねじの場合は外径を、雌ねじの場合は谷径をいい、pは、ねじ山頂の軸方向の幅をいい、pはねじ谷底の軸方向の幅をいい、Hは、ねじ山の山頂と谷底との距離を軸心に垂直に見て測った寸法をいう。
【0049】
図1及び図2に示すボルト軸(雄ねじ)とナット(雌ねじ)とのねじ山の形状において、呼び径Mは1.1mm以下、ピッチPは0.2mm以下、ねじかみ合わせ部の径方向長さhは0.05mm以上、ねじ山先端部の幅pは0.015mm〜0.05mm、当該ボルト軸のねじ溝部の幅pは0.04mm以下、当該ナットのねじ溝部の幅pは0.03mm以下であることが好ましい。このときに、前記ボルト軸とナットとが備えるねじ山の寸法が上述した条件を満たすことで、繰り返し螺動回転した際にも、雄ねじ山と雌ねじ山とが受ける摺動負荷を軽減させ、耐久性を向上させることができる。当該ボルト軸とナットとの耐久性を向上させるためには、雄ねじと雌ねじとの間にある程度の隙間を設ける必要があるが、この隙間が大きいと、ボルト軸の送りを精度良く行うことができなくなる。また、当該隙間がなくなるとねじ面に生じる摩擦力が増大し、耐久性が低下する。
【0050】
本件発明における、前記ボルト軸とナットとが備えるねじ山の公差は、前記ボルト軸の有効径公差域グレードが3G、当該ナットの有効径公差域グレードが4Gであることが好ましい(JIS B 0209−1)。ここで、有効径とは、雄ねじのねじ山と雌ねじのねじ溝の軸方向の幅が同じになるような仮想的な円筒の直径のことをいう。雄ねじと雌ねじとが通常使用されているグレードは、共に6Gである。本件発明に係る雌ねじの4Gでは公差が40μm、雄ねじの3Gでは公差が24μmであるのに対し、雄ねじの6Gの公差が48μmであることをふまえるとかなり厳しい公差となっているが、この公差で作製したボルト軸とナットとを組み合わせることにより耐久性が良く、且つ、安定した品質の摺動部材を提供することが可能となる。
【0051】
本件発明に係る摺動部材を構成部材として用い、被駆動物をスライド移動させるためのピエゾモーターであって、当該ピエゾモーターは、リードスクリューと、当該リードスクリューに螺合されたステーターと、該ステーターの外周部に設けられた少なくとも二枚のピエゾ素子とからなり、当該少なくとも二枚のピエゾ素子は、当該ナットの外周部に配置してピエゾモーター保持部材に収容したものであり、前記摺動部材を構成するナットをステーターとして用い、ボルト軸をリードスクリューとして用いることが好ましい。かかる構成において、本件発明のピエゾモーター保持部材は、二枚のピエゾ素子の節部のみを保持したことにより、この二枚のピエゾ素子を挟持した状態になる。このため、本件発明のピエゾモーター保持部材は、二枚のピエゾ素子を一面側で固定する場合に比べて安定して固定できる。
【0052】
上述の本件発明に係る、ピエゾモーターを、レンズ駆動用アクチュエーターとして用いたことを特徴とした撮像装置とすることが好ましい。当該アクチュエーターをレンズ駆動用アクチュエーターとして採用すれば、軽量且つ高性能な撮像装置を提供することが可能となる。
【0053】
ここで、上述した、本件発明の摺動部材をピエゾモーター(レンズ駆動用アクチュエーター)として用いた撮像装置について、図3〜図5にその一例を示した。以下に、これらの図を用いて、本件発明の摺動部材の使用形態について詳しく述べる。
【0054】
図3は、本件発明の一実施の形態を示す携帯電話101の外観図である。この携帯電話101は、カメラ機能を備えた携帯電話であり、カメラモジュール102を備えている。このカメラモジュール102は、箱形に形成されたケース110と、このケース110内に配設されたレンズユニットと、撮像素子(CCD)とを備えている。そして、このカメラモジュール102は、ユーザーの操作に応じて、被写体の反射光を撮像素子により結像させて電気信号に変換し、この電気信号をA/Dコンバーターなどに出力するように構成されている。
【0055】
図4は、レンズユニット10の斜視図である。このレンズユニット10は、第1レンズ群保持枠11と、第2レンズ群保持枠12と、レンズ駆動装置1とを備えている。第1レンズ群保持枠11及び第2レンズ群保持枠12は、光軸Lに沿って直列に配置されている。そして、第1レンズ群保持枠11は、前方側(被写体側)に配置されている。この第1レンズ群保持枠11は、内側に第1レンズ群(図示せず)が保持されるように構成されている。また、第1レンズ群保持枠11の外周部111には、第1ガイド部材13が結合されている。この第1ガイド部材13は、筒型に形成されており、光軸Lと平行に配置されている。また、第1レンズ群保持枠11には、第1回転防止軸用支持部112が設けられている。この第1回転防止軸用支持部112は、被写体側(または結像側)から視てU字状に形成されている。
【0056】
一方、第2レンズ群保持枠12は、後方側(結像側)に配置されている。この第2レンズ群保持枠12は、内側に第2レンズ群(図示せず)が保持されるように構成されている。また、第2レンズ群保持枠12の後方側(結像側)には、支持部材14が結合されている。この支持部材14は、第2レンズ群保持枠12が第1レンズ群保持枠11と共に直列に配置されるように、第2レンズ群保持枠12を支持する部材である。また、支持部材14には、第2ガイド部材15が結合されている。この第2ガイド部材15は、筒型に形成されており、光軸Lと平行に配置されている。また、支持部材14には、第2回転防止軸用支持部142が設けられている。この第2回転防止軸用支持部142は、被写体側(または結像側)から視てU字状に形成されている。
【0057】
そして、レンズ駆動装置1は、第1レンズ群保持枠11と第2レンズ群保持枠12とを、それぞれ独立的に駆動するものである。このレンズ駆動装置1は、レンズ群保持枠の移動軌道Tの外周領域の右側に配置されている。この移動軌道Tは、第1レンズ群保持枠11及び第2レンズ群保持枠12が光軸Lに沿って移動する円筒状の軌道である。
【0058】
そして、このレンズ駆動装置1は、第1レンズ群保持枠駆動装置2と、第2レンズ群保持枠駆動装置3と、回転防止軸4と、第1レンズ群保持枠移動距離測定装置5と、第2レンズ群保持枠移動距離測定装置6とを備えている。
【0059】
回転防止軸4は、双方のレンズ群保持枠11、12が光軸方向Aにスライド移動する際に、双方のレンズ群保持枠11、12の回転を防止する部材である。この回転防止軸4は、双方のレンズ群保持枠11、12の回転防止軸用支持部112、142に支持されている。また、第1レンズ群保持枠移動距離測定装置5は、第1レンズ群保持枠11の移動距離を測定する装置である。また、第2レンズ群保持枠移動距離測定装置6は、第2レンズ群保持枠12の移動距離を測定する装置である。
【0060】
そして、第1レンズ群保持枠駆動装置2は、第1レンズ群保持枠11を駆動する装置である。この第1レンズ群保持枠駆動装置2は、図4に示すように、第1ガイドポール20と、第1駆動手段21と、第1フレキシブルプリント配線板22とを備えている。第1ガイドポール20は、第1レンズ群保持枠11を光軸方向Aに移動可能に支持する部材である。この第1ガイドポール20は、細長い丸棒状に形成されている。そして、この第1ガイドポール20は、第1ガイド部材13に挿通して、光軸Lと平行に配置されている。また、この第1ガイドポール20には、第1ガイド部材13よりも被写体側に、スプリング20aが挿通されている。このスプリング20aは、第1レンズ群保持枠11を常に結像側に付勢するように構成されている。
【0061】
一方、第1駆動手段21は、第1ピエゾモーター23と、第1ピエゾモーター保持部材24とを備えている。第1ピエゾモーター23は、リードスクリュー231と、ナット232と、四枚のピエゾ素子233とを備えている。リードスクリュー231は、光軸Lと平行に配置されている。また、ナット232は、リードスクリュー231に螺合されている。また、四枚のピエゾ素子233は、ナット232の外周部の上下左右側に設けられている。なお、ここでは、図2における雄ねじであるボルト軸をリードスクリュー231として、図2における雄ねじをナット232として用いた場合を例として示した。
【0062】
また、第1フレキシブルプリント配線板22は、第1ピエゾモーター23に駆動電源及び制御信号を供給するものである。この第1フレキシブルプリント配線板22は、図5に示すように、一方側の端子部221が第1ピエゾモーター23に接続して、他端側が電源及び制御部(図示せず)に接続している。
【0063】
また、第1ピエゾモーター保持部材24は、第1ピエゾモーター23から出力される駆動力を利用して、第1レンズ群保持枠11を移動させる部材である。この第1ピエゾモーター保持部材24は、第1レンズ群保持枠11の外周部111に結合されている。そして、この第1ピエゾモーター保持部材24は、光軸方向Aに長く形成されている。さらに、この第1ピエゾモーター保持部材24は、第1ピエゾモーター23が、第1フレキシブルプリント配線板22に接続された状態で収容されるように構成されている。また、第1ピエゾモーター保持部材24は、第1ピエゾモーター23の三枚のピエゾ素子233(図5の左右側及び下側のピエゾ素子233)を囲むように構成されている。具体的には、第1ピエゾモーター保持部材24は、図4に示すように、被写体側(または結像側)から視て略凹字状に形成されている。そして、図4において、第1ピエゾモーター保持部材24の内壁面24aには、第1突起241と、左右一対の第2突起242,242が設けられている。これらの突起241、242,242は、第1ピエゾモーター保持部材24の前後方向(光軸方向A)に並んで配置されている。
【0064】
第1突起241は、内壁面24aの被写体側に設けられている。さらに、この第1突起241は、図4に示すように、第1ピエゾモーター23が第1ピエゾモーター保持部材24の内部に収容された状態で、三枚のピエゾ素子233の被写体側の振動の節部233aのみを保持するように設けられている。なお、図5では、左右側のピエゾ素子233の各振動の節部233aを示している。
【0065】
第1突起241について具体的に説明する。図6に示すように、この第1突起241は、被写体側(または結像側)から視て略凹字状に形成されている。さらに、この第1突起241は、左右側部241a、241a間の幅241wが、第1ピエゾモーター23の横幅23w(図5参照)よりもやや小さく設定されている。さらに、第1ピエゾモーター保持部材24は弾性部材から構成されている。したがって、第1ピエゾモーター23を第1突起241の間に挿入すると、第1突起241の左右側部241a、241aは、弾性力を利用して、左右に対向する二枚のピエゾ素子233、233の被写体側を圧接して挟持するように構成されている。また、下側のピエゾ素子233の被写体側は、第1突起241の底部241bに当接する。この底部241bは、第1ピエゾモーター23の設置位置を決めている。
【0066】
一方、図6に示すように、双方の第2突起242,242は、内壁面24aの結像体側に設けられている。さらに、双方の第2突起242,242は、図3に示すように、第1ピエゾモーター23が第1ピエゾモーター保持部材24の内部に収容された状態で、三枚のピエゾ素子233の結像側の振動の節部233bのみを保持するように設けられている。なお、図5では、左側のピエゾ素子233の節部233bを示している。
【0067】
具体的には、左側の第2突起242は、左側のピエゾ素子233の節部233b及び、下側のピエゾ素子の233の節部の左側部分に当接する位置に配置されている。そして、図6に示すように、左側の第2突起242は、被写体側(または結像側)から視て略L字状に形成されている。また、右側の第2突起242は、右側のピエゾ素子233の節部及び下側のピエゾ素子の233の節部の右側部分に当接する位置に配置されている。そして、右側の第2突起243は、被写体側(または結像側)から視て、左側の第2突起242と左右対称な略逆L字状に形成されている。
【0068】
そして、双方の第2突起242,242間の幅242wが、第1ピエゾモーター23の横幅23w(図5参照)よりもやや小さく設定されている。したがって、第1ピエゾモーター23を第2突起242,242の間に挿入すると、双方の第2突起242,242は、弾性力を利用して、左右に対向する二枚のピエゾ素子233、233の結像側を圧接して挟持するように構成されている。また、下側のピエゾ素子233の結像側は、双方の第2突起242の底部242bに当接する。この底部242bは、第1ピエゾモーター23の設置位置を決めている。
【0069】
そして、第1ピエゾモーター23は、三枚のピエゾ素子233の各節部233aのみが双方の突起241、242,242に保持されている。さらに、左右に対向する二枚のピエゾ素子233の各節部233aのみが、双方の突起241、242,242に圧接して挟持されている。これにより、第1ピエゾモーター23は、これらの節部233aのみで第1ピエゾモーター保持部材24に固定されている。
【0070】
次に、第1レンズ群保持枠駆動装置2による第1レンズ群保持枠11の駆動方法を説明する。まず、電源及び制御部から、第1フレキシブルプリント配線板22を介して、各ピエゾ素子233に駆動電源及び制御信号が供給される。これにより、各ピエゾ素子233が振動して、リードスクリュー231が正逆方向に回転する。このリードスクリュー231の回転によって、ナット232はリードスクリュー231上を移動する。これに伴って第1ピエゾモーター保持部材24が光軸方向Aに移動するとともに、第1レンズ群保持枠11が、第1ガイドポール20に沿って光軸方向Aにスライド移動する。
【0071】
一方、図4に示すように、第2レンズ群保持枠駆動装置3は、第2レンズ群保持枠12を駆動する装置である。この第2レンズ群保持枠駆動装置3は、第2ガイドポール30と、第2駆動手段31と、第2フレキシブルプリント配線板32とを備えている。第2ガイドポール30は、第2レンズ群保持枠12を光軸方向Aに移動可能に支持する部材である。この第2ガイドポール30は、細長い丸棒状に形成されている。そして、この第2ガイドポール30は、第2ガイド部材15に挿通して、光軸Lと平行に配置されている。また、この第2ガイドポール30には、第2ガイド部材15よりも結像側に、スプリング30aが挿通されている。このスプリング30aは、第2レンズ群保持枠12を常に被写体側に付勢するように構成されている。
【0072】
一方、第2駆動手段31は、第2ピエゾモーター33と、第2ピエゾモーター保持部材34とを備えている。第2ピエゾモーター33は、リードスクリュー331と、ナット332と、四枚のピエゾ素子333とを備えている。リードスクリュー331は、光軸Lと平行に配置されている。また、ナット332は、リードスクリュー331に螺合されている。また、四枚のピエゾ素子333は、ナット332の外周部の上下左右側に設けられている。
【0073】
また、第2フレキシブルプリント配線板32は、第2ピエゾモーター33に制御信号及び駆動電源を供給するものである。この第2フレキシブルプリント配線板32は、一方側の端子部が第2ピエゾモーター33に接続して、他端側が電源及び制御部(図示せず)に接続している。また、第2ピエゾモーター保持部材34は、第2ピエゾモーター33から出力される駆動力を利用して第2レンズ群保持枠12を移動させる部材である。この第2ピエゾモーター保持部材34は、第2ガイド部材15を介して第2レンズ群保持枠12に結合されている。
【0074】
そして、この第2ピエゾモーター保持部材34は、光軸方向Aに長く形成されている。さらに、この第2ピエゾモーター保持部材34は、第2ピエゾモーター33が、第2フレキシブルプリント配線板32に接続された状態で収容されるように構成されている。また、第2ピエゾモーター保持部材34は、第2ピエゾモーター33の三枚のピエゾ素子333(左右側及び上側のピエゾ素子333)を囲むように構成されている。具体的には、この第2ピエゾモーター保持部材34は、被写体側(または結像側)から視て、第1ピエゾモーター保持部材24と上下対称な略逆凹字状に形成されている。そして、第2ピエゾモーター保持部材34の内壁面34aには、突起が設けられている。この突起は、図示しないが、第1ピエゾモーター保持部材24に設けられた突起241、242,242(図6参照)と同じものである。
【0075】
すなわち、第2ピエゾモーター保持部材34に設けられた突起は、第2ピエゾモーター33において、三枚のピエゾ素子333の振動の節部のみを保持している。さらに、この突起は、左右に対向する二枚のピエゾ素子333の振動の節部のみを圧接して挟持している。ここで、これらの節部は、第1ピエゾモーター23の節部233a、233bと同じものである。そして、第2ピエゾモーター33は、三枚のピエゾ素子333の各節部のみが突起に保持されることにより、これらの節部のみで第2ピエゾモーター保持部材34に固定されている。
【0076】
次に、第2レンズ群保持枠駆動装置3による第2レンズ群保持枠12の駆動方法を説明する。まず、電源及び制御部から、第2フレキシブルプリント配線板32を介して、各ピエゾ素子333に駆動電源及び制御信号が供給される。これにより、各ピエゾ素子333が振動して、リードスクリュー331が正逆方向に回転する。このリードスクリュー331の回転により、ナット332がリードスクリュー331上を移動する。これに伴って第2ピエゾモーター保持部材34が光軸方向Aに移動するとともに、第2レンズ群保持枠11が、第2ガイドポールに沿って光軸方向Aにスライド移動する。
【0077】
かかる構成において、本実施の形態のピエゾモーター保持部材24、34では、三枚のピエゾ素子233、333の各振動の節部のみを突起により保持した。これにより、対向する二枚のピエゾ素子233,233、333,333が挟持された状態になる。このため、本実施の形態のピエゾモーター保持部材24、34は、二枚のピエゾ素子233,233、333,333を一面側で固定する場合に比べて安定して固定できる。よって、本実施の形態のピエゾモーター保持部材24、34は、ピエゾモーター23、33の性能を低下させずに、ピエゾモーター23、33に対する固定性を高めることができる。
【0078】
さらに、本件発明のピエゾモーター保持部材24、34では、対向する二枚のピエゾ素子233,233、333,333の各振動の節部のみを突起により圧接して挟持した。これにより、本実施の形態のピエゾモーター保持部材24、34は、ピエゾモーター23、33の取り付け作業の際に接着剤を用いなくても良い。
【0079】
したがって、本実施の形態のピエゾモーター保持部材24、34では、従来のように接着剤を塗布する時間や接着剤を硬化させる時間を必要としないので、ピエゾモーター23、33の取り付け作業にかかる時間が短縮される。よって、本実施の形態のピエゾモーター保持部材24、34は、ピエゾモーター23、33の性能(レンズ群保持枠11、12の駆動能力)を低下させずに、ピエゾモーター23、33の取り付け作業性を高めることができる。
【0080】
なお、本実施の形態では、ピエゾ素子233、333を四枚備えたピエゾモーター23、33に対して本件発明を適用した。しかし、本件発明は、本実施の形態で説明したピエゾモーター23、33に限定されない。つまり、本件発明は、二枚のピエゾ素子がナットの外周部に設けられたピエゾモーター全般に適用できる。また、ピエゾモーター保持部材の形状は、少なくともピエゾモーターを内部に収容可能な構成であれば良い。
【0081】
なお、本実施の形態で説明した以外でも、本件発明のピエゾモーター保持部材は、二枚のピエゾ素子の各振動の節部のみを突起と接着剤とを用いて保持しても良い。この場合のピエゾモーター保持部材は、ピエゾモーターをさらに安定して固定できるので、ピエゾモーターの性能を低下させずに、ピエゾモーターに対する固定性をさらに高めることができる。
【0082】
また、本実施の形態では、撮像装置用のレンズ群保持枠を11、12を駆動する保持部材24、34に本件発明を適用した。しかし、本件発明の用途は、レンズ群保持枠11、12用に限定する必要はない。つまり、本件発明は、ピエゾモーターを用いて、被駆動物をスライド移動させる部材に対して適用することができる。
【0083】
本件発明に係る摺動部材は、以上に述べてきた条件によるボルト軸とナットとの組み合わせを用いることで、摺動部材としての長寿命化及び耐久性を向上させることが可能になり、結果として高品質の摺動部材の提供が可能になる。以下、表1に示されたデータを用いて、本件発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0084】
ボルト軸相当材の製造:表1に示す実施例では、ボルト軸を製造するにあたり、ニッケル含有量が0.6質量%以下、クロム含有量が12.0質量%〜18.0質量%、炭素含有量が0.16質量%〜1.2質量%、ケイ素含有量が0.15質量%以下、マンガン含有量が1.25質量%以下、リン含有量が0.06質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のマルテンサイト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0085】
ナット相当材の製造:表1に示す実施例では、ナットを製造するにあたり、ニッケル含有量が7.0質量%〜13.0質量%、クロム含有量が17.0質量%〜20.0質量%、炭素含有量が0.15質量%以下、ケイ素含有量が1.0質量%以下、マンガン含有量が2.5質量%以下、リン含有量が0.2質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のオーステナイト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0086】
当該ボルト軸相当材と後述のナット相当材との耐久試験用として、リードスクリューとなるボルト軸にマルテンサイト系ステンレス鋼、ステーターとなるナットにオーステナイト系ステンレス鋼を用いて、耐久試験を行った。この耐久試験を行うにあたり、ステーターとなるナットを固定し、リードスクリューとなるボルト軸を所定の範囲往復させ、このときにねじ山が摩耗することでこの設定範囲から外れた時をエラーとしてカウントし、摺動時の挙動が不安定になり、エラーが連続した時点で試験を終了し、この時点をその部材の耐久サイクルとした。なお、このときのねじ山の形状は全て今回の試験を行うにあたり本件発明の条件と同一とした。
【0087】
実施例の素材を有する部材の組合せで耐久試験を3回行った結果、1回の試験における耐久サイクルは全て30万サイクル以上、エラー数は平均105回となった。
【0088】
以下に、表1に示されたデータを用いて、本件発明の比較例を説明する。
【比較例】
【0089】
[比較例1]
ボルト軸相当材の製造:表1に示す比較例では、ボルト軸を製造するにあたり、ニッケル含有量が7.0質量%〜13.0質量%、クロム含有量が17.0質量%〜20.0質量%、炭素含有量が0.15質量%以下、ケイ素含有量が1.0質量%以下、マンガン含有量が2.5質量%以下、リン含有量が0.2質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のオーステナイト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0090】
ナット相当材の製造:表1に示す比較例では、ナットを製造するにあたり、上述したボルト軸と同様の組成であるオーステナイト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0091】
比較例1の素材を有する部材の組合せで耐久試験を3回行った結果、1回の試験における耐久サイクルは全て5万〜10万サイクルの範囲内、エラー数は平均1590回となった。
【0092】
[比較例2]
ボルト軸相当材の製造:表1に示す比較例では、ボルト軸を製造するにあたり、ニッケル含有量が7.0質量%〜13.0質量%、クロム含有量が17.0質量%〜20.0質量%、炭素含有量が0.15質量%以下、ケイ素含有量が1.0質量%以下、マンガン含有量が2.5質量%以下、リン含有量が0.2質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のオーステナイト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0093】
ナット相当材の製造:表1に示す比較例では、ナットを製造するにあたり、クロム含有量が11.5質量%〜18.0質量%、炭素含有量が0.12質量%以下、ケイ素含有量が1.00質量%以下、マンガン含有量が1.25質量%以下、リン含有量が0.06質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のフェライト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0094】
比較例2の素材を有する部材の組合せで耐久試験を3回行った結果、1回の試験における耐久サイクルは全て3万サイクル以下、エラー数は平均10375回となった。
【0095】
[比較例3]
ボルト軸相当材の製造:表1に示す比較例では、ボルト軸を製造するにあたり、ニッケル含有量が0.6質量%以下、クロム含有量が12.0質量%〜18.0質量%、炭素含有量が0.16質量%〜1.2質量%、ケイ素含有量が0.15質量%以下、マンガン含有量が1.25質量%以下、リン含有量が0.06質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のマルテンサイト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0096】
ナット相当材の製造:表1に示す比較例では、ナットを製造するにあたり、クロム含有量が11.5質量%〜18.0質量%、炭素含有量が0.12質量%以下、ケイ素含有量が1.00質量%以下、マンガン含有量が1.25質量%以下、リン含有量が0.06質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のフェライト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0097】
比較例3の素材を有する部材の組合せで耐久試験を3回行った結果、1回の試験における耐久サイクルは全て5万サイクル以下、エラー数は平均5800回となった。
【0098】
[比較例4]
ボルト軸相当材の製造:表1に示す比較例では、ボルト軸を製造するにあたり、銅合金の摺動面にニッケル系合金メッキを施した素材を用いた。
【0099】
ナット相当材の製造:表1に示す実施例では、ナットを製造するにあたり、ニッケル含有量が7.0質量%〜13.0質量%、クロム含有量が17.0質量%〜20.0質量%、炭素含有量が0.15質量%以下、ケイ素含有量が1.0質量%以下、マンガン含有量が2.5質量%以下、リン含有量が0.2質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のオーステナイト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0100】
比較例4の素材を有する部材の組合せで耐久試験を3回行った結果、1回の試験における耐久サイクルは全て5万サイクル以下、エラー数は平均1902回となった。
【0101】
[比較例5]
ボルト軸相当材の製造:表1に示す比較例では、ボルト軸を製造するにあたり、銅合金の摺動面にニッケル系合金メッキを施した素材を用いた。
【0102】
ナット相当材の製造:表1に示す比較例では、ナットを製造するにあたり、クロム含有量が11.5質量%〜18.0質量%、炭素含有量が0.12質量%以下、ケイ素含有量が1.00質量%以下、マンガン含有量が1.25質量%以下、リン含有量が0.06質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のフェライト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0103】
比較例5の素材を有する部材の組合せで耐久試験を3回行った結果、1回の試験における耐久サイクルは全て5万サイクル以下、エラー数は平均8443回となった。
【0104】
[比較例6]
ボルト軸相当材の製造:表1に示す比較例では、ボルト軸を製造するにあたり、ニッケル含有量が7.0質量%〜13.0質量%、クロム含有量が17.0質量%〜20.0質量%、炭素含有量が0.15質量%以下、ケイ素含有量が1.0質量%以下、マンガン含有量が2.5質量%以下、リン含有量が0.2質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のオーステナイト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0105】
ナット相当材の製造:表1に示す比較例では、ナットを製造するにあたり、銅含有量が60〜70質量%、鉛含有量が0.10質量%以下、鉄含有量が0.07質量%以下、残部が亜鉛及び不可避的不純物という組成の黄銅(真鍮)を用いた。
【0106】
比較例6の素材を有する部材の組合せで耐久試験を3回行った結果、1回の試験における耐久サイクルは全て5万サイクル以下、エラー数は平均10000回以上となった。
【0107】
[比較例7]
ボルト軸相当材の製造:表1に示す比較例では、ボルト軸を製造するにあたり、ニッケル含有量が0.6質量%以下、クロム含有量が12.0質量%〜18.0質量%、炭素含有量が0.16質量%〜1.2質量%、ケイ素含有量が0.15質量%以下、マンガン含有量が1.25質量%以下、リン含有量が0.06質量%以下、硫黄含有量が0.15質量%以下、残部が鉄及び不可避的不純物という組成のマルテンサイト系のステンレス鋼の素材を用いた。
【0108】
ナット相当材の製造:表1に示す比較例では、ナットを製造するにあたり、銅含有量が60〜70質量%、鉛含有量が0.10質量%以下、鉄含有量が0.07質量%以下、残部が亜鉛及び不可避的不純物という組成の黄銅(真鍮)を用いた。
【0109】
比較例7の素材を有する部材の組合せで耐久試験を3回行った結果、1回の試験における耐久サイクルは全て5万サイクル以下、トータルエラー数は平均10000回以上となった。
【0110】
[実施例と比較例との対比]
以下に表1を参照しつつ、実施例と比較例1との対比を行う。表1において、ナット相当材はステーター、ボルト軸相当材はリードスクリューであり、それぞれの今回用いた試料の材質及び硬度を示し、雌ねじ(ナット)と雄ねじ(ボルト軸)との硬度差と耐久性との関連を示した。ここで評価の◎は、摺動挙動が安定した状態が摺動サイクル30万サイクル以上持続した場合をいい、摺動挙動状態はエラー数の数値からも判断することができる。ここで、エラー数は、ボルト軸を一定範囲内で往復させる際に、往路と復路の切り替わる地点が設定された範囲内から外れた回数をカウントした。次に評価の△は、摺動挙動が安定した状態が摺動サイクル30万サイクルに満たないが、5万サイクル以上持続した場合をいい、評価の×は、摺動挙動が安定した状態が摺動サイクル5万サイクルに満たなかった場合をいう。
【0111】
【表1】

【0112】
実施例と比較例1との対比: ボルト軸とナットとの組合せにおいて、実施例の組成を採用した場合の耐久数は30万サイクル以上、エラー数も平均105回と著しく優れた耐久性能を示したのに対し、比較例1は、耐久数が5万〜10万サイクル、エラー数は平均1590回と、実施例と比して劣る結果となった。ここで、双方の相違点は、ボルト軸のねじ山部の材質が実施例がマルテンサイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例1がオーステナイト系ステンレス鋼である点である。この結果より、ステーターとなるナットよりリードスクリューとなるボルト軸のねじ山部の硬度が高い方が耐久性及び精度が向上することが分かった。その理由は、ボルト軸のねじ山部の硬さが本件発明の条件範囲よりも低くなっているため、摺動時にボルト軸の摺動面が摩耗損傷を受け易くなるためである。
【0113】
実施例と比較例2との対比: 上記表1を参照しつつ、実施例と比較例2との対比を行う。ボルト軸とナットとの組合せにおいて、実施例の組成を採用した場合の耐久数は30万サイクル以上、エラー数も平均105回と著しく優れた耐久性能を示したのに対し、比較例2は、耐久数が3万サイクル以下、エラー数は平均10375回と、実施例と比して著しく劣る結果となった。ここで、双方の相違点はボルト軸のねじ山部の材質が実施例がマルテンサイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例2がオーステナイト系ステンレス鋼である点と、ナットの材質が実施例がオーステナイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例2がフェライト系ステンレス鋼である点である。この結果からも、ステーターとなるナットよりリードスクリューとなるボルト軸のねじ山部の硬度が高い方が耐久性及び精度が向上することが分かった。その理由は、ボルト軸及びナットの双方のねじ山部の硬さが本件発明の条件範囲よりも低くなっており、摺動時に双方の摺動面が摩耗損傷を受け易くなるためである。
【0114】
実施例と比較例3との対比: 上記表1を参照しつつ、実施例と比較例3との対比を行う。ボルト軸とナットとの組合せにおいて、実施例の組成を採用した場合の耐久数は30万サイクル以上、エラー数も平均105回と著しく優れた耐久性能を示したのに対し、比較例3は、耐久数が5万サイクル以下、エラー数は平均5800回と、実施例と比して劣る結果となった。ここで、双方の相違点はナットのねじ山部の材質が実施例がオーステナイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例3がフェライト系ステンレス鋼である点である。この結果からも、ステーターとなるナットよりリードスクリューとなるボルト軸のねじ山部の硬度が高い方が耐久性及び精度が向上することが分かった。その理由は、ナットのねじ山部の硬さが本件発明の条件範囲よりも低くなっており、且つ、双方の高度差が本件発明の条件範囲を超えているために、摺動時にナットの摺動面の方が摩耗損傷を受け易くなるためである。
【0115】
実施例と比較例4との対比: 上記表1を参照しつつ、実施例と比較例4との対比を行う。ボルト軸とナットとの組合せにおいて、実施例の組成を採用した場合の耐久数は30万サイクル以上、エラー数も平均105回と著しく優れた耐久性能を示したのに対し、比較例4は、耐久数が5万サイクル以下、エラー数は平均1902回と、実施例と比して劣る結果となった。ここで、双方の相違点は、ボルト軸のねじ山部の材質が実施例がマルテンサイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例4が銅合金の表面にニッケル合金をメッキ処理した点である。この結果からも、ステーターとなるナットよりリードスクリューとなるボルト軸のねじ山部の硬度が高い方が耐久性及び精度が向上することが分かった。その理由は、ボルト軸のねじ山部の硬さが本件発明の条件範囲よりも低く、且つ、ナットの有する硬度よりも低くなっているため、摺動時にボルト軸の摺動面が摩耗損傷を受け易くなるためである。
【0116】
実施例と比較例5との対比: 上記表1を参照しつつ、実施例と比較例5との対比を行う。ボルト軸とナットとの組合せにおいて、実施例の組成を採用した場合の耐久数は30万サイクル以上、エラー数も平均105回と著しく優れた耐久性能を示したのに対し、比較例5は、耐久数が5万サイクル以下、エラー数は平均8443回と、実施例と比して劣る結果となった。ここで、双方の相違点は、ボルト軸のねじ山部の材質が実施例がボルト軸の材質が実施例がマルテンサイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例5が銅合金の表面にニッケル合金をメッキ処理した点と、ナットのねじ山部の材質が実施例がオーステナイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例5がフェライト系ステンレス鋼である点である。この結果からも、ステーターとなるナットよりリードスクリューとなるボルト軸のねじ山部の硬度が高い方が耐久性及び精度が向上することが分かった。その理由は、ボルト軸のねじ山部の硬さが本件発明の条件範囲よりも低く、且つ、ナットの有する硬度よりも低くなっているため、摺動時にボルト軸の摺動面が摩耗損傷を受け易くなるためである。
【0117】
実施例と比較例6との対比: 上記表1を参照しつつ、実施例と比較例6との対比を行う。ボルト軸とナットとの組合せにおいて、実施例の組成を採用した場合の耐久数は30万サイクル以上、エラー数も平均105回と著しく優れた耐久性能を示したのに対し、比較例6は、耐久数が5万サイクル以下、エラー数は平均10000回以上と、実施例と比して著しく劣る結果となった。ここで、双方の相違点はボルト軸のねじ山部の材質が実施例がマルテンサイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例6がオーステナイト系ステンレス鋼である点と、ナットのねじ山部の材質が実施例がオーステナイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例6が銅合金(真鍮)である点である。この結果からも、ステーターとなるナットよりリードスクリューとなるボルト軸のねじ山部の硬度が高い方が耐久性及び精度が向上することが分かった。その理由は、ボルト軸及びナットの双方のねじ山部の硬さが本件発明の条件範囲よりも低くなっているため、摺動時に双方の摺動面が摩耗損傷を受け易くなるためである。
【0118】
実施例と比較例7との対比: 上記表1を参照しつつ、実施例と比較例7との対比を行う。ボルト軸とナットとの組合せにおいて、実施例の組成を採用した場合の耐久数は30万サイクル以上、エラー数も平均105回と著しく優れた耐久性能を示したのに対し、比較例7は、耐久数が5万サイクル以下、エラー数は平均10000回以上と、実施例と比して著しく劣る結果となった。ここで、双方の相違点はボルト軸のねじ山部の材質が実施例と比較例とは共にマルテンサイト系ステンレス鋼であるが、ナットのねじ山部の材質が実施例がオーステナイト系ステンレス鋼であるのに対し、比較例7が銅合金(真鍮)である点である。この結果からも、ステーターとなるナットよりリードスクリューとなるボルト軸のねじ山部の硬度が高い方が耐久性及び精度が向上することが分かった。その理由は、ボルト軸及びナットの双方の硬さが本件発明の条件範囲よりも低くなっているため、摺動時に双方の摺動面が摩耗損傷を受け易くなるためである。
【0119】
実施例と比較例との対比のまとめ: 以上に述べてきた実施例と比較例との対比から、雄ねじ山を備えるボルト軸と、雌ねじ山を内周に備える雌ねじ孔を備えるナットとを、螺動回転可能な状態で螺合し、繰り返し螺動回転することで、雄ねじ山と雌ねじ山とが摺動負荷を受ける摺動部材において、相互の摩耗、摩擦損傷等の摺動挙動による損傷を確実に減少させるためには、双方のねじ山部の硬度差、及びねじ山部の材質を考慮することが最も重要であることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本件発明に係る雄ねじ山を備えるボルト軸と、雌ねじ山を内周に備える雌ねじ孔を備えるナットとで構成される摺動部材は、双方のねじ山部の硬度差、及びねじ山部の材質、ねじ山の形状の条件を定めることで、ボルト軸とナットとの摺動面における双方の摩耗を最低限に抑制し、摺動挙動に伴う相互の摩擦損傷を効果的に軽減できる。その結果、当該摺動部材によれば、正確で滑らかな相対運動が長期間保証されるため、これを備える製品の長寿命化、耐久性を飛躍的に向上させる事ができ、ねじを用いた送り機構を必要とする制御装置等に幅広く利用される。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本件発明に係るボルト軸とナットとが備えるねじ山部の形状である。
【図2】本件発明に係るボルト軸とナットとが備えるねじの形状である。
【図3】本件発明の一実施の形態を示す携帯電話の外観図である。
【図4】同実施の形態を示すレンズユニットの斜視図である。
【図5】図2において第1ピエゾモーター保持部材を中心とした要部斜視図である。
【図6】図3から第1ピエゾーモーター及び第1フレキシブルプリント配線板を除いた斜視図である。
【符号の説明】
【0122】
h ねじ山部ひっかかりの高さ
ねじ山の山頂から谷底までの距離
M 呼び径
P ねじピッチ
ねじ山頂幅寸法
ねじ谷底幅寸法
L 光軸
11 第1レンズ群保持枠
12 第2レンズ群保持枠
23 第1ピエゾモーター
24 第1ピエゾモーター保持部材
24a 内壁面
33 第2ピエゾモーター
34 第2ピエゾモーター保持部材
34a 内壁面
231 リードスクリュー
232 ナット
233 ピエゾ素子
233a 節部
233b 節部
241 第1突起
242 第2突起
331 リードスクリュー
332 ナット
333 ピエゾ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじ山を備えるボルト軸と、雌ねじ山を内周に備える雌ねじ孔を備えるナットとを、螺動回転可能な状態で螺合し、繰り返し螺動回転することで、雄ねじ山と雌ねじ山とが摺動負荷を受ける摺動部材であって、
当該ボルト軸の雄ねじ山を構成する第一金属材のビッカース硬度をH、当該ナットの雌ねじ孔の内周の雌ねじ山を構成する第二金属材のビッカース硬度をHとしたときに、
|H−H|=300HV0.1〜350HV0.1であることを特徴とした摺動部材。
【請求項2】
前記第一金属材のビッカース硬さHが550HV0.1〜600HV0.1の範囲にある請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記第一金属材は、以下に記載の第一金属材用合金組成のマルテンサイト系ステンレス鋼を用いるものである請求項1又は請求項2に記載の摺動部材。
[第一金属材合金組成]
ニッケル :0.6質量%以下
クロム :12.0質量%〜18.0質量%
炭素 :0.16質量%〜1.2質量%
ケイ素 :1.0質量%以下
マンガン :1.25質量%以下
リン :0.06質量%以下
硫黄 :0.15質量%以下
残部 :鉄及び不可避的不純物
【請求項4】
前記第二金属材のビッカース硬さHが220HV0.1〜240HV0.1の範囲にある請求項1〜請求項3のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項5】
前記第二金属材は、以下に記載の第二金属材用合金組成のオーステナイト系ステンレス鋼を用いるものである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の摺動部材。
[第二金属材用合金組成]
ニッケル :7.0質量%〜13.0質量%
クロム :17.0質量%〜20.0質量%
炭素 :0.15質量%以下
ケイ素 :1.0質量%以下
マンガン :2.5質量%以下
リン :0.2質量%以下
硫黄 :0.15質量%以下
残部 :鉄及び不可避的不純物
【請求項6】
前記ボルト軸とナットとが備えるねじ山は、
呼び径Mが1.1mm以下、
ピッチPが0.2mm以下、
ねじかみ合わせ部の径方向長さが0.05mm以上、
ねじ山先端部の幅が0.015mm〜0.05mmであり、
当該ボルト軸のねじ溝部の幅が0.04mm以下、当該ナットのねじ溝部の幅が0.03mm以下であることを特徴とした請求項1〜請求項5のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項7】
前記ボルト軸とナットとが備えるねじ山の公差は、当該ボルト軸の有効径公差域グレードが3G、当該ナットの有効径公差域グレードが4Gであることを特徴とした請求項1〜請求項6のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の摺動部材を構成部材として用い、被駆動物をスライド移動させるためのピエゾモーターであって、
当該ピエゾモーターは、リードスクリューと、当該リードスクリューに螺合されたステーターと、当該ステーターの外周部に設けられた少なくとも二枚のピエゾ素子とからなり、当該少なくとも二枚のピエゾ素子は、当該ステーターの外周部に配置してピエゾモーター保持部材に収容したものであり、
当該摺動部材を構成するナットをステーターとして用い、ボルト軸をリードスクリューとして用いたことを特徴とするピエゾモーター。
【請求項9】
前記ピエゾモーターを、レンズ駆動用アクチュエーターとして用いたことを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−180260(P2009−180260A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18427(P2008−18427)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】