説明

ボンディングワイヤ、並びに、プリント回路板およびその製造方法

【課題】デンドライトなどの発生が抑制された、絶縁信頼性に優れた半導体素子用のボンディングワイヤ、および、ボンディングワイヤを用いたプリント回路板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】銅または銅合金のワイヤ20と、ワイヤ表面上を被覆する1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層と、を備える半導体素子16用のボンディングワイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンディングワイヤ、並びに、プリント回路板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップなどの半導体素子とプリント配線基板とを接続するにあたって、ワイヤボンディング方式による接続方式が用いられている。
この接続方法で使用されるボンディングワイヤの材料としては、従来、金が用いられることが多かった。しかし、近年の金価格の上昇に伴い、半導体組立工程におけるコスト負担が非常に大きなものとなってきている。
一方、銅は金に比較して酸化されやすくボンディングワイヤには不向きであるとの見解が一般的であったが、近年金と同等のボンダビリティを有する銅ボンディングワイヤが実用化されてきている。金と比較して銅は価格が安価で経済性が高く、電気特性は良好であるものの銅イオンのマイグレーションなどが発生しやすく、ワイヤ間の絶縁信頼性が金と比較して不十分であるケースが多かった。
【0003】
銅または銅合金の配線間またはワイヤ間の絶縁性を阻害する要因の一つとしては、いわゆる銅イオンのマイグレーションが知られている。これは、配線回路間やボンディングワイヤ間などで電位差が生じると水分の存在により配線を構成する銅がイオン化し、溶出した銅イオンが隣接する配線に移動する現象である。このような現象によって、溶出した銅イオンが時間と共に還元されて銅化合物となってデンドライト(樹枝状晶)状に成長し、結果として配線間またはワイヤ間を短絡してしまう。
【0004】
このような銅イオンのマイグレーションを防止する方法として、ベンゾトリアゾール、イミダゾール、トリトリアゾール、またはメチルチアゾールを使用したマイグレーション抑制層を形成する技術が提案されている(特許文献1および2)。より具体的には、これらの文献においては、配線基板上に銅イオンのマイグレーションを抑制するための層を形成し、配線間の絶縁信頼性の向上を目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-271961号公報
【特許文献2】特開昭63-261735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、上述したように、近年、配線の微細化が急激に進んでおり、銅または銅合金のボンディングワイヤ間の絶縁信頼性についてより一層の向上が要求されている。
本発明者らは、特許文献1および2に記載されるベンゾトリアゾール、イミダゾール、トリトリアゾール、またはメチルチアゾールを用いたマイグレーション抑制層を用いて銅または銅合金のボンディングワイヤの絶縁信頼性について検討を行ったところ、そのマイグレーション抑制層の効果は小さく、昨今要求されるレベルを満たすように更なる改良が必要であった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、デンドライトなどの発生が抑制された、絶縁信頼性に優れた半導体素子用のボンディングワイヤ、および、該ボンディングワイヤを用いたプリント回路板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
(1) 銅または銅合金のワイヤと、該ワイヤ表面上を被覆する1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層と、を備える半導体素子用のボンディングワイヤ。
(2) 該1,2,3−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾールの付着量が5×10-9g/mm2以上である、(1)に記載の半導体素子用のボンディングワイヤ。
【0010】
(3) 基板と、該基板上に配置される電極と、該基板上に搭載される半導体素子とを備え、(1)または(2)に記載の半導体素子用のボンディングワイヤによって、該電極と該半導体素子とが電気的に接続された、プリント回路板。
(4) 該半導体素子および該ボンディングワイヤが樹脂封止される、(3)に記載のプリント回路板。
【0011】
(5) 基板と、該基板上に配置される電極と、該基板上に搭載される半導体素子とを備え、銅または銅合金のワイヤによって該電極と該半導体素子とが電気的に接続されたプリント回路板と、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む処理液とを接触させ、その後該プリント回路板を溶剤で洗浄して、該ワイヤ表面上を1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層で被覆する層形成工程とを備える、(3)に記載のプリント回路板の製造方法。
(6) 該層形成工程の後に、得られたプリント回路板を加熱乾燥する工程を備える、(5)に記載のプリント回路板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、デンドライトなどの発生が抑制された、絶縁信頼性に優れた半導体素子用のボンディングワイヤ、および、該ボンディングワイヤを用いたプリント回路板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のプリント回路板の製造方法における各工程を順に示す模式的断面図である。
【図2】本発明のプリント回路板の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図3】実施例で使用される櫛形基板の上面図(A)および側面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の半導体素子用のボンディングワイヤ、並びに、該ボンディングワイヤを用いたプリント回路板およびその製造方法について説明する。
なお、本明細書においては、プリント配線板は、基板上に接続用の電極および/または金属配線(導体配線)を有する板と定義し、プリント回路板はプリント配線板に半導体素子を搭載・接続した板と定義する。
【0015】
本発明の特徴点の一つとしては、銅または銅合金のワイヤを1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールなどのアゾール化合物を含む銅イオン拡散抑制層で被覆した点が挙げられる。該銅イオン拡散抑制層を形成することにより、ワイヤ間の銅イオンのマイグレーションが抑制される。
【0016】
また、本発明の他の特徴点としては、銅または銅合金のワイヤを、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールなどのアゾール化合物を含む処理液に接触させた後、さらに洗浄を行う点が挙げられる。
本発明者らは、ワイヤボンディングが接触する基板または半導体素子上にアゾール化合物が残存していると、基板の上に設けられるモールド樹脂と基板との間で密着不良などが発生しやすく、短絡の原因となることを見出している。
また、上記アゾール化合物以外のベンゾトリアゾール等のアゾール化合物を接触させた後に洗浄を行うと、銅または銅合金配線上のアゾール化合物も同時に除去されてしまい、所望の効果が発現されない。さらに、エッチング剤等の銅を溶解する成分を含んだ処理液を使用して、アゾール化合物と銅または銅合金配線とを接触させると、配線上にアゾール化合物と銅イオンとの錯体を含む皮膜が出来てしまい、マイグレーションを抑制する効果を発現できない。
上記知見を基にして検討を行った結果、本発明のような処理を施すことにより、基板または半導体素子上のアゾール化合物を除去しつつ、銅イオンのマイグレーションを抑制できる銅イオン拡散抑制層を銅または銅合金のワイヤ上に形成できることを見出している。
まず、半導体素子用のボンディングワイヤについて詳述する。
【0017】
[半導体素子用のボンディングワイヤ]
本発明の半導体素子用のボンディングワイヤ(被覆ボンディングワイヤ)は、銅または銅合金のワイヤと、該ワイヤ表面上を被覆する1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層とを有し、後述する基板上の電極と、基板上に搭載される半導体素子のボンディングパッドとを電気的に接続するワイヤである。該銅イオン拡散抑制層が形成されることにより、銅イオンのマイグレーションが抑制される。
【0018】
(ワイヤ)
本発明の半導体素子用のボンディングワイヤのワイヤ(金属細線)の材料は、銅または銅合金である。銅または銅合金で形成されることにより、ワイヤが優れた電気特性を示す。
ワイヤが銅合金で構成される場合、銅以外の含有される金属としては、例えば、銀、錫、パラジウム、金、ニッケル、クロムなどが挙げられる。
【0019】
ワイヤの材料は安価で導電性の高い銅キャピラリーであることが好ましく、具体的にはCuPRAおよびCuPRAplus(何れもKulicke&Soffa社)などが挙げられる。
【0020】
(銅イオン拡散抑制層)
本発明の半導体素子用のボンディングワイヤ中の銅イオン拡散抑制層は、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾール(以後、両者の総称としてアゾール化合物とも称する)を含む層である。
【0021】
アゾール化合物の含有量は、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点から、0.1〜100質量%であることが好ましく、20〜100質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることがさらに好ましい。特に、銅イオン拡散抑制層は、実質的にアゾール化合物で構成されていることが好ましい。アゾール化合物の含有量の少なすぎると、銅イオンのマイグレーション抑制効果が低くなる。
なお、実質的にアゾール化合物で構成されているとは、アゾール化合物の含有量が50質量%以上であることを意味する。
【0022】
銅イオン拡散抑制層中には、銅イオンまたは金属銅が実質的に含まれていないことが好ましい。銅イオン拡散抑制層に所定量以上の銅イオンまたは金属銅が含まれていると、本発明の効果に劣る場合がある。
【0023】
1,2,3−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾールの付着量は、銅イオンのマイグレーションをより抑制できる点から、ワイヤの全表面積に対して、5×10-9g/mm2以上であることが好ましく、1×10-8g/mm2以上であることがより好ましい。なお、上限については特に制限されないが、製造上の観点から、1×10-6g/mm2以下であることが好ましい。
なお、付着量は、公知の方法(例えば、吸光度法)によって測定することができる。具体的には、まず水で被覆ボンディングワイヤに存在する銅イオン拡散抑制層を洗浄する(水による抽出法)。その後、有機酸(例えば、硫酸)によりワイヤ上の銅イオン拡散抑制層を抽出し、吸光度を測定して、液量と塗布面積から付着量を算出する。
【0024】
半導体素子用のワイヤの直径は特に限定されないが、通常、10〜500μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは30〜200μmである。
【0025】
[プリント回路板およびその製造方法]
次に、本発明の半導体素子用のボンディングワイヤを有するプリント回路板およびその製造方法について詳述する。
まず、プリント回路板の製造方法について詳述する。
【0026】
プリント回路板の製造方法の好適態様としては、層形成工程および乾燥工程を有する態様が挙げられる。
以下に、図面を参照して、各工程で使用される材料、および、工程の手順について説明する。
【0027】
[層形成工程]
層形成工程では、基板と、基板上に配置される電極と、基板上に搭載される半導体素子とを備え、銅または銅合金のワイヤによって電極と半導体素子とが電気的に接続されたプリント回路板と、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む処理液とを接触させる(接触工程)。その後、プリント回路板を溶剤(洗浄溶剤)で洗浄して、ワイヤ表面上に1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層を形成する(洗浄工程)。該工程によって、ワイヤの表面を覆うように、銅イオン拡散抑制層が形成され、銅イオンのマイグレーションが抑制される。
まず、層形成工程で使用される材料(プリント回路板、処理液、洗浄溶液など)について説明し、その後層形成工程の手順について説明する。
【0028】
(プリント回路板)
本工程で使用されるプリント回路板は、基板と、基板上に配置される電極と、基板上に搭載される半導体素子とを備え、銅または銅合金のワイヤによって電極と半導体素子とが電気的に接続されたプリント回路板である。
より具体的には、図1(A)に示すように、プリント回路板10は、基板12と、電極14、半導体素子16、ボンディングパッド18、銅または銅合金のワイヤ20を有する。
【0029】
基板は、後述する半導体素子を搭載できるものであれば特に制限されないが、通常、絶縁基板である。絶縁基板としては、例えば、有機基板、セラミック基板、シリコン基板、ガラス基板などを使用することができる。
有機基板の材料としては樹脂が挙げられ、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、またはそれらを混合した樹脂を使用することが好ましい。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂等を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アラミド樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。
なお、有機基板の材料としては、ガラス織布、ガラス不織布、アラミド織布、アラミド不織布、芳香族ポリアミド織布や、これらに上記樹脂を含浸させた材料なども使用できる。
【0030】
基板上には外部接続用の電極が設けられており、該電極は上記ボンディングワイヤによって半導体素子と電気的に接続される。
電極を構成する材料は特に制限されず、例えば、銅、金、銀、錫、パラジウム、ニッケル、クロムまたはこれらの合金が挙げられる。
また、基板は、その表面上に配線パターン(図示しない)や、その内部に内層配線(図示しない)を有していてもよく、該配線パターンまたは該内層配線は基板上に配置される電極と電気的に接続していてもよい。
【0031】
上記基板上に搭載される半導体素子の種類は特に制限されず、LSIチップ、ICチップ等通常の素子が使用できる。
なお、半導体素子には、上記基板上の電極とワイヤを介して電気的に接続できるボンディングパッドが設けられる。
【0032】
プリント回路板で使用される銅または銅合金のワイヤの態様は、上記の通りである。
【0033】
層形成工程で使用されるプリント回路板の製造方法は特に制限されず、公知の方法で製造できる。
例えば、まず、セミアディティブ法やサブトラクティブ法など公知の方法により、所定の配線パターンを有するプリント配線板を作製する。次に、プリント配線板上に接着剤層(例えば、熱硬化性樹脂、銀ペースト)を介して半導体素子を搭載する。その後、銅または銅合金のワイヤによって、半導体素子のボンディングパッドとプリント配線板の電極とを電気的に接続して、プリント回路板を製造する。
【0034】
(処理液)
本工程で使用される処理液は、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾール(以後、両者の総称としてアゾール化合物とも称する)を含む液である。
【0035】
処理液は、1,2,3−トリアゾールまたは1,2,4−トリアゾールをそれぞれ単独で含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。なお、本発明においては、上記アゾール化合物を使用することにより所定の効果が得られており、例えば、アミノトリアゾールを代わりに使用した場合は所望の効果が得られない。
処理液中におけるアゾール化合物の総含有量は特に制限されないが、銅イオン拡散抑制層の形成のしやすさ、および、銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点から、処理液全量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.25〜5質量%が特に好ましい。アゾール化合物の総含有量が多すぎると、銅イオン拡散抑制層の堆積量の制御が困難となる。アゾール化合物の総含有量が少なすぎると、所望の銅イオン拡散抑制層の堆積量になるまで時間がかかり、生産性が悪い。
【0036】
処理液には溶剤が含まれていてもよい。使用される溶剤は特に制限されず、例えば、水、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ニトリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤を、2種以上混合して使用してもよい。
なかでも、プリント回路板製造における安全性の点で、水、アルコール系溶剤が好ましい。特に、溶剤として水を使用すると、プリント回路板と処理液を接触させる際に浸漬法を採用する場合に、特異的にアゾール化合物がワイヤ表面に自己堆積しやすいことから、好ましい。
処理液中における溶剤の含有量は特に制限されないが、処理液全量に対して、90〜99.99質量%が好ましく、95〜99.9質量%がより好ましく、95〜99.75質量%が特に好ましい。
【0037】
一方、ワイヤ間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅イオンが実質的に含まれていないことが好ましい。過剰量の銅イオンが含まれていると、銅イオン拡散抑制層を形成する際に該層中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、ワイヤ間の絶縁信頼性が損なわれることがある。
なお、銅イオンが実質的に含まれないとは、処理液中における銅イオンの含有量が、1μmol/l以下であることを指し、0.1μmol/l以下であることがより好ましい。最も好ましくは0mol/lである。
【0038】
また、ワイヤ間の絶縁信頼性を高める点で、処理液には銅または銅合金のエッチング剤が実質的に含まれていないことが好ましい。処理液中にエッチング剤が含まれていると、プリント配線板と処理液とを接触させる際に、処理液中に銅イオンが溶出することがある。そのため結果として、銅イオン拡散抑制層中に銅イオンが含まれることになり、銅イオンのマイグレーションを抑制する効果が薄れ、配線間の絶縁信頼性が損なわれることがある。
エッチング剤としては、例えば、有機酸(例えば、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、ギ酸、ふっ酸)、酸化剤(例えば、過酸化水素、濃硫酸)、キレート剤(例えば、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミン4酢酸、エチレンジアミン、エタノールアミン、アミノプロパノール)、チオール化合物などが挙げられる。また、エッチング剤としては、イミダゾールや、イミダゾール誘導体化合物などのように自身が銅のエッチング作用を持つものも含まれる。
なお、エッチング剤が実質的に含まれないとは、処理液中におけるエッチング剤の含有量が、処理液全量に対して、0.01質量%以下であることを指し、配線間の絶縁信頼性をより高める点で、0.001質量%以下であることがより好ましい。最も好ましくは0質量%である。
【0039】
処理液のpHは特に制限されないが、銅イオンのマイグレーション抑制の点で、4〜12を示すことが好ましい。なかでも、ワイヤ間の絶縁信頼性がより優れる点から、pHは5〜9であることが好ましく、6〜8であることがより好ましい。
処理液のpHが4未満であると、ワイヤから銅イオンの溶出が促進され、銅イオン拡散抑制層に銅イオンが多量に含まれることになり、結果として銅のマイグレーションを抑制する効果が低下する場合がある。処理液のpHが12超であると、水酸化銅が析出し、酸化溶解しやすくなり、結果として銅のマイグレーションを抑制する効果が低下する場合がある。
なお、pHの調整は、公知の酸(例えば、塩酸、硫酸)や、塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて行うことができる。また、pHの測定は、公知の測定手段(例えば、pHメーター(水溶媒の場合))を用いて実施できる。
【0040】
なお、上記処理液には、他の添加剤(例えば、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、析出防止剤など)が含まれていてもよい。
【0041】
(溶剤(洗浄溶剤))
プリント配線板を洗浄する洗浄工程で使用される溶剤(洗浄溶剤)は、基板上の電極間および半導体素子上(特に、ボンディングパッド間上)に堆積した余分なアゾール化合物などを除去することができれば、特に制限されない。
溶剤としては、例えば、水、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、アミド系溶剤(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ニトリル系溶剤(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶剤(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶剤(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶剤、ハロゲン系溶剤などが挙げられる。これらの溶剤を、2種以上混合して使用してもよい。
なかでも、微細配線間への液浸透性の点から、水、アルコール系溶剤、およびメチルエチルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む溶剤であることが好ましく、アルコール系溶剤と水の混合液であることがより好ましい。
【0042】
使用される溶剤の沸点(25℃、1気圧)は特に制限されないが、安全性の観点で、75〜100℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。
【0043】
使用される溶剤の表面張力(25℃)は特に制限されないが、配線間の洗浄性がより優れ、配線間の絶縁信頼性がより向上する点から、10〜80mN/mであることが好ましく、15〜60mN/mであることがより好ましい。
【0044】
[層形成工程の手順]
層形成工程を、接触工程および洗浄工程の2つの工程に分けて説明する。
【0045】
(接触工程)
接触工程は、基板と、基板上に配置される電極と、基板上に搭載される半導体素子とを備え、銅または銅合金のワイヤによって電極と半導体素子とが電気的に接続されたプリント回路板と、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む処理液とを接触させる工程である。
上記プリント回路板と、上記処理液とを接触させることにより、図1(B)に示すように、プリント回路板10上にアゾール化合物を含む膜22が形成される。
【0046】
アゾール化合物を含む膜には、アゾール化合物が含有される。その含有量などは、後述する銅イオン拡散抑制層中の含有量と同義である。また、その付着量は特に制限されず、後述する洗浄工程を経て、所望の付着量の銅イオン拡散抑制層を得ることができるような付着量であることが好ましい。
プリント回路板と上記処理液との接触方法は、ワイヤと処理液とが接触すれば特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、ディップ浸漬、シャワー噴霧、スプレー塗布、スピンコートなどが挙げられ、処理の簡便さ、処理時間の調整の容易さから、ディップ浸漬、シャワー噴霧、スプレー塗布が好ましい。
【0047】
また、接触の際の処理液の液温としては、銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、5〜60℃の範囲が好ましく、15〜50℃の範囲がより好ましく、20〜40℃の範囲がさらに好ましい。
また、接触時間としては、生産性、および銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、10秒〜30分の範囲が好ましく、15秒〜10分の範囲がより好ましく、30秒〜5分の範囲がさらに好ましい。
【0048】
(洗浄工程)
次に、プリント回路板を溶剤で洗浄して、銅または銅合金のワイヤ表面上を1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層で被覆する。具体的には、図1(B)で得られたアゾール化合物を含む膜22が設けられたプリント配線板を洗浄溶剤で洗浄することにより、余分なアゾール化合物が除去され、図1(C)に示すように、ワイヤ20上にのみアゾール化合物を含む膜が形成される。このワイヤ20上のアゾール化合物を含む膜が、銅イオン拡散抑制層24に該当し、該ワイヤ20と銅イオン拡散抑制層24とを含む本発明の半導体素子用のボンディングワイヤ26が得られる。
【0049】
洗浄方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、プリント回板上に洗浄溶剤を塗布する方法、洗浄溶剤中にプリント回路板を浸漬する方法などが挙げられる。
また、洗浄溶剤の液温としては、銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、5〜60℃の範囲が好ましく、15〜30℃の範囲がより好ましい。
また、プリント回路板と洗浄溶剤との接触時間としては、生産性、および銅イオン拡散抑制層の付着量制御の点で、10秒〜10分の範囲が好ましく、15秒〜5分の範囲がより好ましい。
【0050】
上記工程を経て得られる銅イオン拡散抑制層の態様は、上述の通りである。
なお、該図1(C)に示されるように、ワイヤ20上以外はアゾール化合物を含む膜は実質的に除去されていることが好ましい。つまり、実質的に、ワイヤ20表面上のみに、銅イオン拡散抑制層が形成されていることが好ましい。
【0051】
本発明においては、上記の溶剤の洗浄を施した後であっても、銅イオンのマイグレーションを抑制することができる十分な付着量の銅イオン拡散抑制層を得ることができる。例えば、ベンゾトリアゾールなどを代わりに使用した場合は、上記溶剤による洗浄によって、大半のベンゾトリアゾールが洗い流されてしまい、所望の効果が得られない。
さらに、エッチング剤を処理液に含んだベンゾトリアゾールやエッチング能を持つイミダゾール化合物では、形成有機皮膜中に銅イオンを含んでしまい、銅イオン拡散抑制能は無く、所望の効果が得られない。
【0052】
なお、基板上の電極および半導体素子上のボンディングパッドの材料が銅または銅合金の場合、ワイヤ上のみならず、電極およびボンディングパッド上にも銅イオン拡散抑制層が形成される。より具体的には、図2に示すように、電極14上およびボンディングパッド18上に、銅イオン拡散抑制層20が形成される。該態様においては、電極およびボンディングパッドからの銅イオンのマイグレーションが抑制され、よりワイヤ間の絶縁信頼性に優れる。
【0053】
(乾燥工程)
該工程では、銅イオン拡散抑制層が設けられたプリント回路板を加熱乾燥する。プリント回路板上に水分が残存していると、銅イオンのマイグレーションの促進させるおそれがあるため、該工程を設けることにより水分を除去することが好ましい。なお、本工程は任意の工程であり、層形成工程で使用される溶媒が揮発性に優れる溶媒である場合などは、本工程は実施しなくてもよい。
【0054】
加熱乾燥条件としては、銅または銅合金のワイヤの酸化を抑制する点で、70〜120℃(好ましくは、80℃〜110℃)で、15秒〜10分間(好ましくは、30秒〜5分)実施することが好ましい。乾燥温度が低すぎる、または、乾燥時間が短すぎると、水分の除去が十分でない場合があり、乾燥温度が高すぎる、または、乾燥時間が長すぎると、酸化銅が形成されるおそれがある。
乾燥に使用する装置は特に限定されず、恒温層、ヒーターなど公知の加熱装置を使用することができる。
【0055】
上記工程を経ることにより、基板と、基板上に配置される電極と、基板上に搭載される半導体素子とを備え、銅または銅合金のワイヤと、ワイヤ表面上を被覆する1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層と有する半導体素子用のボンディングワイヤによって、電極と半導体素子とが電気的に接続された、プリント回路板(銅イオン拡散抑制層付きプリント回路板)が製造される。
なお、必要に応じて、半導体素子およびボンディングワイヤを樹脂封止するように、得られたプリント回路板上に樹脂層(特に、絶縁樹脂層)が形成されてもよい。該樹脂層を設けることにより、ボンディングワイヤ間の絶縁信頼性がより向上する。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
ボンディングワイヤ間の絶縁信頼性を評価するために、図3に示すような櫛型基板100を作製した。櫛形基板100は、ガラスエポキシ基材102と、銅電極104および106と、絶縁層108と、ボンディングワイヤ110とを備える。
【0058】
該櫛形基板100は、以下の手順により作製された。
まず、銅張積層板(日立化成社製 MCL−E−679F、基板:ガラスエポキシ基板)上に、ドライレジストフィルム(日立化成(株)製のRY3315、膜厚30μm)をラミネートした。次に、ドライレジストフィルムがラミネートされた基板に、所望のパターンが形成できるガラスマスクを密着させ、レジストの感光領域を露光した。露光後、1%−Na2CO3水溶液を2kg/m2のスプレー圧で付与して、現像処理を行った。その後、基板を水洗・乾燥し、銅箔上にレジストパターンを形成した。
レジストパターンを形成した基板を、FeCl2/HCl水溶液(温度37℃)に浸漬することにより銅箔のエッチングを行い、レジストパターンの非形成領域に存在する銅箔を除去した。その後、NaOH4質量%水溶液を50℃、2kg/m2のスプレー圧で2分付与しレジストパターンを剥離し、銅電極104を得た。
【0059】
その後、基板上の所定の位置に、絶縁層108として味の素ファインテクノ社製エポキシ系絶縁膜GX−13(膜厚45μm)を、加熱、加圧して、真空ラミネーターにより0.2MPaの圧力で100℃〜110℃の条件により接着した。次に、過酸化マンガン溶液を用いて絶縁層表面に対してデスミア処理を行い、パラジウム触媒を表面上に付与した。その後、パラジウム触媒が付与された絶縁層に対して、無電解めっき処理(無電解めっき液:ニムデンNPR−4 上村工業社製)および電解めっき処理(電解めっき液:ゴブライトTSB−72 上村工業社製)を連続して行い、絶縁層108上に銅薄膜を作製した。
次に、上記銅電極104を作製したサブトラクティブ法と同様の手順に従って、銅電極106を製造した。
最後に、CuPRA(Kulicke&Soffa社)を用いて、銅電極104と106とを電気的に接続する直径50μmφのワイヤボンディングを作製した。なお、ボンディングワイヤの直径/ボンディングワイヤ間の間隔(L/S)は50μm/100μmであった。
【0060】
得られた櫛形基板を、1,2,3−トリアゾールを含む水溶液(溶媒:水、1,2,3−トリアゾールの含有量:水溶液全量に対して2.5質量%、液温:25℃、pH:7)に2分30秒浸漬した。その後、エタノールを用いて得られた櫛形基板を洗浄した(接触時間:2分、液温度:25℃)。さらに、その後、櫛形基板を100℃で2分間乾燥処理した。
ワイヤ表面上の銅イオン拡散抑制層を硫酸で抽出して、吸光度測定を行った。吸光度測定結果より、1,2,3−トリアゾールの付着量は6.6×10-8g/mm2であった。
【0061】
(水滴滴下試験)
得られた櫛形基板のボンディングワイヤ部分を0.05μS/cmの水中に浸し、電圧1.2V、5分の条件で通電をおこなった後のデンドライドを光学顕微鏡(オリンパス BS−51)により観察した。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例2)
実施例1において1,2,3−トリアゾールを1,2,4−トリアゾールに変更した以外は、実施例1と同様の手順で櫛形基板を作製し、水滴滴下試験を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(実施例3)
実施例1において浸漬時間を10秒とした以外は、実施例1と同様の手順で櫛形基板を作製し、水滴滴下試験を行った。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
実施例1において1,2,3−トリアゾールを含む水溶液による処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の手順で櫛形基板を作製し、水滴滴下試験を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例2)
実施例1において1,2,3−トリアゾールをベンゾトリアゾールに変更した以外は、実施例1と同様の手順で櫛形基板を作製し、水滴滴下試験を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例3)
実施例1において1,2,3−トリアゾールをイミダゾール誘導体(タフエース)に変更した以外は、実施例1と同様の手順で櫛形基板を作製し、水滴滴下試験を行った。結果を表1に示す。
【0067】
なお、pHの測定には、pHメーター(東亜ディーケーケー社製)を使用した。表1中の「付着量」はアゾール化合物(1,2,3−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾール)の付着量を意味し、その測定は上述した吸光度法により行った。
【0068】
【表1】

【0069】
上記表1に示されるように、本願発明の製造方法によって得られた銅イオン拡散抑制層を有するボンディングワイヤを有する櫛形基板は、デンドライトの発生はなく、ボンディングワイヤ間の絶縁信頼性に優れていることが確認された。
一方、銅イオン拡散抑制層を有しないワイヤを使用した比較例1、並びに、ベンゾトリアゾールおよびイミダゾールを使用した比較例2および3においては、デンドライトの発生があり、ボンディングワイヤ間の絶縁信頼性に劣っていた。
【0070】
(実施例4)
実施例1で作製した銅電極を有する基板上に、ダイアタッチ剤(XS8455−239 ナミックス社製)を介してICチップを搭載した。その後、ICチップ上のボンディングパッドと基板ン上の銅電極とを銅ワイヤによって、電気的に接続し、プリント回路板を製造した。
そこで、該プリント回路板に対して、実施例1で記載した1,2,3−トリアゾールを含む水溶液を用いた処理、エタノールを用いた洗浄、および加熱乾燥を施すことにより、1,2,3−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層で被覆された銅ワイヤを有するプリント回路板を製造した。さらに、回路板上の半導体素子および銅ワイヤを樹脂封止するように、封止剤(CEL−1702 HF13)で封止した。
【符号の説明】
【0071】
10:プリント配線基板
12:基板
14:電極
16:半導体素子
18:ボンディングパッド
20:銅または銅合金のワイヤ
22:アゾール化合物を含む膜
24:銅イオン拡散抑制層
26:半導体素子用のボンディングワイヤ
100:櫛形基板
102:ガラスエポキシ基材
104、106:銅電極
108:絶縁層
110:ボンディングワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金のワイヤと、
前記ワイヤ表面上を被覆する1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層と、を備える半導体素子用のボンディングワイヤ。
【請求項2】
前記1,2,3−トリアゾールおよび1,2,4−トリアゾールの付着量が5×10-9g/mm2以上である、請求項1に記載の半導体素子用のボンディングワイヤ。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に配置される電極と、
前記基板上に搭載される半導体素子とを備え、
請求項1または2に記載の半導体素子用のボンディングワイヤによって、前記電極と前記半導体素子とが電気的に接続された、プリント回路板。
【請求項4】
前記半導体素子および前記ボンディングワイヤが樹脂封止される、請求項3に記載のプリント回路板。
【請求項5】
基板と、前記基板上に配置される電極と、前記基板上に搭載される半導体素子とを備え、銅または銅合金のワイヤによって前記電極と前記半導体素子とが電気的に接続されたプリント回路板と、1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む処理液とを接触させ、その後前記プリント回路板を溶剤で洗浄して、前記ワイヤ表面上を1,2,3−トリアゾールおよび/または1,2,4−トリアゾールを含む銅イオン拡散抑制層で被覆する層形成工程とを備える、請求項3に記載のプリント回路板の製造方法。
【請求項6】
前記層形成工程の後に、得られたプリント回路板を加熱乾燥する工程を備える、請求項5に記載のプリント回路板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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