説明

ボンディング装置およびボンディング方法

【課題】属人的なノウハウの数式化によりボンディング条件の定量的な設定を可能にする。
【解決手段】ボンディング条件を演算するための関数式を予め記憶部11に記憶され、この関数式の変数となるチップ1や基板3に関するワーク情報およびボンディング動作に関連する情報を入力することにより印加荷重と振動パワーからなる定量的なボンディング条件が自動的に設定されるようにした。これにより、個人差のないボンディング条件の設定を迅速に行うことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合用のバンプが形成されたフリップチップ等の接合体を基板等の被接合体にボンディングするボンディング装置およびボンディング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フリップチップ等の接合体を基板等の被接合体にボンディングする装置として、接合体を被接合体に対して押圧した状態で接合体に超音波振動を印加し、接合体の接合面(例えばフリップチップに形成されたバンプ等)を被接合体の被接合面(例えば基板上の電極等)に摺動させることで両者を接合する超音波接合装置が知られている(特許文献1参照)。超音波接合においては、接合体と被接合体とのボンディング品質を確保するため、接合体に印加する振動や荷重に関するボンディング条件を最適な数値に設定する必要があり、従来、熟練したオペレータの持つノウハウに基づいて設定されていた。
【特許文献1】特許第3487166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、属人的なノウハウに頼る従来の方法では、ボンディング対象物が変更される度に、ボンディング条件の初期設定のための時間を要していた。また、ボンディング開始直後は、初期設定のための試行錯誤により数値が安定しないため、品質にばらつきが生じることがあった。さらに、一工程の途中でオペレータが交代すると、設定される数値に個人差による差異が生じることがあり、一定の品質を保つことが困難な場合があった。
【0004】
そこで本発明は、属人的なノウハウの数式化によりボンディング条件の定量的な設定を可能にしたボンディング装置およびボンディング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、振動と荷重を印加して接合体を被接合体に接合するボンディング装置であって、被接合体上に位置決めされた接合体に振動を印加する振動印加手段と、前記接合体に荷重を印加する荷重印加手段と、接合体および被接合体に関する所定の情報を入力する入力手段と、前記入力手段により入力された接合体および被接合体に関する所定の情報を変数として所定の関数式により接合体と被接合体とのボンディング条件を演算するボンディング条件演算手段と、前記ボンディング条件演算手段により演算されたボンディング条件に基づいて前記振動印加手段および荷重印加手段の駆動を制御する制御手段とを備えた。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、接合体および被接合体に関する所定の情報として入力する項目を表示する表示手段をさらに備え、前記項目に、接合体の接合面面積および質量を算出するための接合体情報と、接合体と被接合体の間に介在する複数のバンプの総面積を算出するためのバンプ情報と、前記振動印加手段における振動印加時間とを含む。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記ボンディング条件演算手段により演算されるボンディング条件が、接合体の接合面に形成された複数のバンプの総面積と振動印加時間を変数として荷重関数式により演算される荷重印加手段における印加荷重と、接合体の接合面に形成された複数のバンプの総面積と接合体の質量と接合体の接合面面積および接合体の接合面に形成された複数のバンプの総面積との比を変数として振動パワー関数式により演算される振動印加手段における振動パワーである。
【0008】
請求項4記載の発明は、被接合体上に位置決めされた接合体に振動を印加する振動印加手段と、前記接合体に荷重を印加する荷重印加手段と、接合体および被接合体に関する所定の情報を入力する入力手段と、前記入力手段により入力された接合体および被接合体に関する所定の情報を変数として所定の関数式により接合体と被接合体とのボンディング条件を演算するボンディング条件演算手段と、前記ボンディング条件演算手段により演算されたボンディング条件に基づいて前記振動印加手段および荷重印加手段の駆動を制御する制御手段とを備えたボンディング装置において、接合体に振動と荷重を印加して接合体を被接合体に接合するボンディング方法であって、接合体および被接合体に関する所定の情報を入力する入力工程と、前記入力手段により入力された接合体および被接合体に関する所定の情報を変数として所定の関数式により接合体と被接合体とのボンディング条件を演算するボンディング条件演算工程と、前記ボンディング条件演算工程において演算されたボンディング条件に基づいて、被接合体上の所定の接合箇所に位置決めされた接合体に振動および荷重を印加して被接合体に接合する接合工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明のボンディング装置によれば、接合体および被接合体に関する所定の情報を予め入力することによりボンディング条件が自動的に演算されるので、個人差のない均一的なボンディング条件の設定を迅速に行うことが可能になる。また、本発明のボンディング方法によれば、ボンディングを実行する工程の前段階で、ボンディング条件を演算するために必要な情報を予め入力する工程と、ボンディング条件を演算する工程を実行するので、ボンディング条件が数値的に確定した段階で品質にばらつきのない安定したボンディングを継続して行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態のボンディング装置の全体構成図、図2は本発明の実施の形態の表示手段に表示されるデータ入力画面の例、図3は本発明の実施の形態のボンディング装置におけるボンディング動作を示すフローチャートである。
【0011】
最初に、本実施の形態におけるボンディングの全体構成について、図1を参照して説明する。ボンディング装置は、振動と荷重を印加して接合体を被接合体に接合する装置であり、接合体であるチップ1はボンディングツール2に保持され、被接合体である基板3はボンディングツール2の下方でホルダ4に保持される。チップ1の一方の面には複数のバンプ1aが形成されており、バンプ1aを基板3の所定の箇所に当接させた後に荷重と振動を印加することによりボンディングが行われる。なお、バンプ1aはチップ1側に形成する他に基板3側に形成しておくこともできる。
【0012】
ボンディングツール2は、チップ1に振動と荷重を印加する機能を有しており、ホーン5の下部にチップ1を吸着して保持する。ホーン5は昇降ヘッド6に装着され、昇降機構7により昇降可能に構成されている。ホーン5を下降させてチップ1を基板3に当接させた後もホーン5を下降させ続けることで、チップ1に荷重を印加して基板3に対して押圧する。また、ホーン5には振動子8が装着されており、電圧が印加された振動子8により発振される超音波振動をチップ1に印加する。チップ1を基板3に当接させた状態で振動子8に電圧を印加することでチップ1に超音波振動を印加して基板3に対して摺動させる。
【0013】
昇降機構7は、チップ1に荷重を印加する荷重印加手段として機能し、ホーン5と振動子8は、チップ1に振動を印加する振動印加手段として機能する。ホルダ4は移動テーブル9に水平移動自在に装着されており、基板3に設定されたボンディング箇所をホーン5
に吸着されたチップ1の下方に位置決めする。移動テーブル9は、チップ1と基板3に設定されたボンディング箇所との位置合わせ手段として機能する。
【0014】
昇降機構7と振動子8は、制御部10から送信される制御指令を受信してボンディング動作を行うように構成されている。制御部10には、ボンディング条件演算領域10aとボンディング動作制御領域10bが含まれており、ボンディング条件演算領域10aにおいてボンディング条件(印加荷重および振動パワー)を演算し、ボンディング動作制御領域10bにおいて昇降機構7と振動子8の駆動を制御する。記憶部11には、ボンディング条件を演算するために必要なデータを予め記憶するボンディング情報記憶領域11aと演算式を予め記憶する演算式記憶領域11bが含まれている。
【0015】
制御部10には、液晶パネルやCRT等の表示手段からなる表示部12と、キーボードやポインティングデバイス等の入力手段からなる入力部13が接続されており、ボンディング条件を演算するために必要な情報として入力が必要な項目が表示部12に表示され、オペレータは各項目に該当する情報を入力部13により入力する。入力された情報はボンディング情報記憶領域11aに記憶される。また、記憶部11には図示しない制御プログラムが記憶されており、制御部10は制御プログラムに基づいてボンディング装置全体の動作制御を行う。
【0016】
ボンディング装置においてボンディング動作が開始されると、表示部12にボンディング条件の演算に必要な情報の入力を促す画面が表示される。例えば、図2に示すような情報入力シートが表示され、太枠内に該当する情報を入力するように促す。具体的な入力情報としては、基板情報、チップ情報、バンプ情報等のワーク情報と、ツール情報、ボンディング工程における許容タクトから決定される振動印加時間、オプションの有無等のボンディング動作に関連する情報がある。ここでは、基板情報として、基板の材質(ガラスエポキシ)、ツール情報としてボンディングツールの種類、チップ情報としてチップ材質(Si)やチップサイズ(長さL×幅W×厚さt)、バンプ情報として、バンプタイプ(スタッドバンプ)やバンプ数、バンプサイズを入力するとともに、振動印加時間、オプションの有無(本実施の形態においては基板に施すプラズマ処理の有無)を入力するようになっている。
【0017】
なお、基板の材質により振動減衰特性に差異があり、例えば、セラミック製の基板よりガラスエポキシ製の基板の方が減衰速度が大きい。そのため、入力された基板の材質に対応した補正係数が自動的に加えられ、ボンディング品質のばらつきを排除するようになっている。同様にボンディングツールについても、ボンディング対象となるチップ等に対応して振動特性の異なる複数種類のものが用意されているため、入力されたボンディングツールの種類に対応した補正係数が自動的に加えられ、ボンディング品質のばらつきを排除するようになっている。また、バンプタイプの情報は、バンプを基板の上面もしくはチップの下面に投影したときのバンプ形状や接合面積を算出するために用いられ、スタッドバンプであればバンプ形状を円と近似し、メッキバンプであれば正方形と近似してバンプの接合面積を算出する。
【0018】
データ入力シートのデータ入力箇所には、数値若しくは種類等の名称を入力するようになっており、名称を入力すべき項目に関しては、該当する名称を一覧表示するプルダウンメニューが用意されている。全ての項目に情報の入力を終えて確定すると、入力された情報がボンディング情報記憶領域11aに記憶される。
【0019】
演算式記憶領域11bには、ボンディング情報記憶領域11aに記憶された各情報を変数とした関数式が記憶されている。本実施の形態において、チップ1と基板3のボンディング条件は、チップ1に印加する荷重と振動パワーにより設定されるので、演算式記憶領
域11bに記憶される関数式は、印加荷重を導出する荷重関数式と振動パワーを導出するパワー関数式である。これらの関数式は、オペレータの属人的なノウハウを定量的に数値化することを目的として、統計解析手法の一つである多変量解析により重回帰式を導出することで数式モデル化したものである。
【0020】
制御部10は、入力部13により入力された情報を変数として演算式記憶領域11bに記憶された関数式によりチップ1と基板3とのボンディング条件を演算するボンディング条件演算手段として機能し、また、演算されたボンディング条件に基づいて昇降機構7および振動子8の駆動を制御する制御手段として機能する。なお、振動パワーは、電力値で設定するのが一般的ではあるが、電圧値や電流値、または振幅値により設定することもできる。
【0021】
荷重関数式は、印加荷重F=A1+A2×(バンプ総面積)+A3×(振動印加時間)+A4という一次関数式で記憶されている。パワー関数式は、振動パワーP=(振幅A/B1)^(1/B2)という指数関数式で記憶されている。なお、振幅A=C1+C2×(バンプ総面積)+C3×(チップ質量)+C4×(チップ面積/バンプ総面積)+C5である。係数A1〜A4、B1、B2、C1〜C5は、基板の材質、ボンディングツールの種類、オプションの有無等に対応して予め設定される固定値であり、ボンディング情報記憶領域11aに記憶された各情報に対応して予め記憶されている。また、バンプ総面積とは、ボンディングの際にチップ1と基板3の間に介在することになる複数のバンプ1aの接合面積を合計したものであり、ボンディング情報記憶領域11aに記憶されたバンプ数とバンプサイズから算出される。チップ面積とは、チップ1が基板3に接合される面(本実施の形態においてはバンプ1aが形成された面)の面積のことであり、チップサイズ(長さL×幅W)から算出される。チップ質量は、チップサイズ(長さL×幅W×厚さt)から算出される体積とチップ材質から判明する密度から算出される。
【0022】
このように、本実施の形態のボンディング装置においては、ボンディング条件を演算するための関数式は予め記憶部11に記憶されており、この関数式の変数となるチップ1や基板3に関するワーク情報およびボンディング動作に関連する情報を入力することにより印加荷重と振動パワーからなる定量的なボンディング条件が自動的に設定されるようになっている。そのため、個人差のないボンディング条件の設定を迅速に行うことが可能になる。
【0023】
次に、本実施の形態のボンディング装置におけるボンディング方法について、図3のフローチャートを参照して説明する。ボンディング動作を開始すると、最初に、ボンディング条件の設定に必要な情報を入力する(ST1)。必要情報の入力は、表示部12に画像表示される情報入力シートの案内に基づいて該当する情報を入力することにより行う。次に、入力された必要情報を関数式の変数として演算を行い、ボンディング条件を設定する(ST2)。ボンディング条件の設定は、ST1において必要情報の全てに入力を終え、入力情報を確定すると、ボンディング条件演算領域10aにより自動的に実行される。次に、設定されたボンディング条件に基づいてボンディングを行う(ST3)。ボンディングの際には、ST2において設定されたボンディング条件に基づいてボンディング動作制御領域10bにより昇降機構7と振動子8の駆動量を調節し、基板3の所定のボンディング箇所に当接させたチップ1に荷重と振動を印加する。
【0024】
このように、本実施の形態のボンディング方法においては、ボンディングを実行する工程の前段階で、ボンディング条件を演算するために必要な情報を予め入力する工程と、ボンディング条件を演算する工程を実行するので、印加荷重と振動パワーの数値が確定した段階でボンディングを継続して行うことが可能となり、均質化されたボンディング品質を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、個人差のないボンディング条件の設定を迅速に行うことが可能になり、また、均質化されたボンディング品質を維持することができるので、フリップチップ等の接合体を基板等の被接合体に連続的にボンディングする分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態のボンディング装置の全体構成図
【図2】本発明の実施の形態の表示手段に表示されるデータ入力画面の例を示す図
【図3】本発明の実施の形態のボンディング装置におけるボンディング動作を示すフローチャート
【符号の説明】
【0027】
1 チップ
2 ボンディングツール
3 基板
5 ホーン
7 昇降機構
8 振動子
10 制御部
11 記憶部
12 表示部
13 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動と荷重を印加して接合体を被接合体に接合するボンディング装置であって、
被接合体上に位置決めされた接合体に振動を印加する振動印加手段と、前記接合体に荷重を印加する荷重印加手段と、接合体および被接合体に関する所定の情報を入力する入力手段と、前記入力手段により入力された接合体および被接合体に関する所定の情報を変数として所定の関数式により接合体と被接合体とのボンディング条件を演算するボンディング条件演算手段と、前記ボンディング条件演算手段により演算されたボンディング条件に基づいて前記振動印加手段および荷重印加手段の駆動を制御する制御手段とを備えたボンディング装置。
【請求項2】
接合体および被接合体に関する所定の情報として入力する項目を表示する表示手段をさらに備え、
前記項目に、接合体の接合面面積および質量を算出するための接合体情報と、接合体と被接合体との間に介在する複数のバンプの総面積を算出するためのバンプ情報と、前記振動印加手段における振動印加時間とを含む請求項1記載のボンディング装置。
【請求項3】
前記ボンディング条件演算手段により演算されるボンディング条件が、接合体の接合面に形成された複数のバンプの総面積と振動印加時間を変数として荷重関数式により演算される荷重印加手段における印加荷重と、接合体の接合面に形成された複数のバンプの総面積と接合体の質量と接合体の接合面面積および接合体の接合面に形成された複数のバンプの総面積との比を変数として振動パワー関数式により演算される振動印加手段における振動パワーである請求項1または2記載のボンディング装置。
【請求項4】
被接合体上に位置決めされた接合体に振動を印加する振動印加手段と、前記接合体に荷重を印加する荷重印加手段と、接合体および被接合体に関する所定の情報を入力する入力手段と、前記入力手段により入力された接合体および被接合体に関する所定の情報を変数として所定の関数式により接合体と被接合体とのボンディング条件を演算するボンディング条件演算手段と、前記ボンディング条件演算手段により演算されたボンディング条件に基づいて前記振動印加手段および荷重印加手段の駆動を制御する制御手段とを備えたボンディング装置において、接合体に振動と荷重を印加して接合体を被接合体に接合するボンディング方法であって、
接合体および被接合体に関する所定の情報を入力する入力工程と、前記入力手段により入力された接合体および被接合体に関する所定の情報を変数として所定の関数式により接合体と被接合体とのボンディング条件を演算するボンディング条件演算工程と、前記ボンディング条件演算工程において演算されたボンディング条件に基づいて、被接合体上の所定の接合箇所に位置決めされた接合体に振動および荷重を印加して被接合体に接合する接合工程とを含むボンディング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−266424(P2007−266424A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91202(P2006−91202)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】