ボンベの製造方法およびボンベ
【課題】材料に比較的強固で軽量なステンレス鋼材を用いることによって、軽量で耐圧性を高めたボンベの製造方法を提供する。
【解決手段】成形体形成工程の深絞り加工(b−2)の後に鋭敏化熱処理工程(c)を施すことにより、深絞り加工により形成されたボンベ本体に生じる残留応力を緩和してボンベ本体の応力割れを抑制することができる。製造されたボンベ本体11に固溶化熱処理工程(g)を施してマルテンサイト相をオーステナイト相に逆変態させることにより、当該ボンベ本体11の磁性除去・腐食性抑制・残留応力除去を図る。
【解決手段】成形体形成工程の深絞り加工(b−2)の後に鋭敏化熱処理工程(c)を施すことにより、深絞り加工により形成されたボンベ本体に生じる残留応力を緩和してボンベ本体の応力割れを抑制することができる。製造されたボンベ本体11に固溶化熱処理工程(g)を施してマルテンサイト相をオーステナイト相に逆変態させることにより、当該ボンベ本体11の磁性除去・腐食性抑制・残留応力除去を図る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種高圧ガスが充填されるボンベの製造方法およびボンベに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内容量が100CC未満となる小型高圧ガス容器(以下、ミニボンベという)に各種ガスを充填したガスカートリッジは、例えば、ソーダ水製造器,ビールサーバー等の注出力源、ライフジャケット,エアバック等の膨張源、消化器,スプレー等の噴射源として広い用途に利用されている。さらに、ミニボンベの小型軽量化が進むことにより、その利用分野が拡張しつつある。
【0003】
従来のミニボンベは、高耐力のMn鋼やアルミ合金を塑性加工や熱間塑性鍛造などにより加工して製造したり、プレス鏡板に口金を嵌め込み溶接して製造したり、継ぎ目無し管を周溶接して製造したりしていた。また、安全性や疲労強度等を加味すると、ボンベ本体の肉厚を厚くする必然性が生じ、ボンベ自体の重量が重くなっていた。一方、充填するガス圧を高圧にする場合であっても、肉厚を増やさなくてはならず、自ずと重量がさらに重くなっていた。
さらに、充填されるガスが耐食性を必要とする場合には、材質がMn鋼やアルミ合金では、耐食性が十分に確保できないのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開平11−104762号公報
【特許文献2】特開2005−337391号公報
【特許文献3】特開2005−337392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、軽量・高耐圧で、耐食性に優れたボンベおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明が採用するボンベの製造方法は、ステンレス鋼材からなる板体に深絞り加工を複数回行うことにより、有底筒形状の成形体を形成する成形体形成工程と、前記複数回の深絞り加工のうち、いずれか一の深絞り加工の前または後で、前記ステンレス鋼材を鋭敏化させる熱処理を行う鋭敏化熱処理工程と、前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記成形体の開口側を切除する開口切除工程と、前記開口切除工程の後で、前記成形体の開口側を絞る絞り工程と、を有する。
【0007】
上記ボンベの製造方法において、前記鋭敏化させる熱処理は、前記成形体を550〜650℃に加熱する処理であることが好ましい。
【0008】
上記ボンベの製造方法において、前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記加熱された成形体を水冷または急冷する冷却工程を有することが好ましい。
【0009】
上記ボンベの製造方法において、前記成形体の開口部に口金を溶接によって取り付ける口金取付工程を有することが好ましい。
【0010】
上記ボンベの製造方法において、前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記成形体に前記ステンレス鋼材を固溶化する熱処理を行う固溶化熱処理工程を有することが好ましい。
【0011】
上記ボンベの製造方法において、前記固溶化する熱処理は、前記成形体を1050〜1150℃に3分以上加熱する処理であることが好ましい。
【0012】
上記ボンベの製造方法において、前記絞り工程は、前記開口側を角度の異なった金型に対して絞り加工を順次行う工程であることが好ましい。
【0013】
上記ボンベの製造方法において、前記ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【0014】
前記目的を達成するために、本発明が採用するボンベは、上記記載の製造方法で製造されることを特徴とする。
【0015】
前記目的を達成するために、本発明が採用するボンベは、0.1〜2.0mmの肉厚を有して一体成形された有底筒状のステンレス鋼材からなるボンベ本体と、前記ボンベ本体の開口部に形成される口金と、を具備することを特徴とする。
【0016】
上記記載のボンベにおいて、前記ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるボンベにあっては、材料に比較的強固で軽量なステンレス鋼材を用いることによって、軽量で耐圧性を高めたボンベを製造することが可能となる。
【0018】
また、成形体形成工程の複数回の深絞り加工のうち、いずれか一の深絞り加工の後に鋭敏化熱処理工程を施すことにより、成形体の応力割れを抑制することができる。
【0019】
成形体に固溶化熱処理工程を施すことにより、当該成形体の磁性除去・腐食性抑制・残留応力除去を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[実施形態]
(A:構成)
図1は本発明の一実施形態に係るミニボンベを示す斜視図、図2は図1の矢視II−II方向から見た断面図である。
このミニボンベ10は、ステンレス鋼材(例えば、SUS304L)によって有底筒状に一体成形されたボンベ本体11と、ボンベ本体11の開口部15に溶接によって取り付けられ、段付き筒状の口金20と、を具備する。
ボンベ本体11は、円筒状の胴部12と、この胴部12の一方に形成された略半球状の底部13と、前記胴部12の他方に形成され、先端が開口部15となる絞り部14と、を有する。本実施形態のボンベ本体11にあっては、その直径は約40mm、全長約110mm、肉厚約1.0mmとなる。
【0021】
口金20は、大径部21と、この大径部21の一方に形成された小径部22と、前記大径部21の他方に突出形成され、外周に雄ねじ部24が刻設されたネジ部23と、を有する。そして、口金20は、その大径部21と小径部22の外周が開口部15にTIG(Tungsten Inert Gas)溶接によって固着される。
【0022】
(B:製造方法)
次に、図3を参照しつつ、ミニボンベ10の製造方法について説明する。
【0023】
(a)円板切出工程
まず、φ130mm、厚さ1mmの円板101を、ステンレス鋼材からなる板体100から切り出す。
(b)成形体形成工程
次に、前記円板101に深絞り加工を複数回行うことにより、ボンベ本体11の基材となる有底筒体104を形成する。(b−1)の1回目の深絞り処理では、円板101を大径のカップ状体102(φ80mm、高さ55mm)に成形し、(b−2)の2回目の深絞り処理では、大径のカップ状体102を小径のカップ状体103(φ50mm、高さ80mm)に成形し、(b−3)の3回目の深絞り処理では、小径のカップ状体103をさらに小径の有底筒体104(φ40mm、高さ110mm)に成形する。この成形体形成工程において、さらに小径の有底筒体104には、ボンベ本体11の底部13が形成されることになる。以下、カップ状体102,103、有底筒体104をあわせて「成形体」という。
【0024】
(c)鋭敏化熱処理工程
2回目の深絞り加工(b−2)の後に、小径のカップ状体103を鋭敏化させる鋭敏化熱処理を行う。この鋭敏化熱処理は、小径のカップ状体103を550〜650℃に加熱する処理である。ステンレス鋼を550〜650℃に加熱すると、いわゆる「鋭敏化」が起こることが知られているので、ここではこの熱処理を「鋭敏化熱処理」という。この熱処理を行うことにより、以後の絞り工程での割れの発生が抑制される(すなわち歩留まりが向上する)というデータが得られた。さらに、温度が550〜650℃に達すると、カップ状体103は水冷または急冷(空冷)される。
【0025】
鋭敏化熱処理工程において550〜650℃の範囲が最適であることは、発明者が鋭意実験した結果から得られたものである。ここで、実験結果を表1および図4に示す。この実験は、成形体の温度を500〜670℃の範囲で加熱した後の成形体の状態(クラック(割れ))を観測したものである。
【表1】
※ NGは、冷却後にクラックが発生したもの。
図4は、表1の結果をグラフ化したもので、この図4からの明らかなように、鋭敏化熱処理工程において550〜650℃の範囲が最適であることが分かる。
【0026】
(d)開口切除工程
有底筒体104の開口側を切除することにより、切除部分105が発生し、残りの部分がボンベ本体基材106となる。この開口切除工程によって、製造されるミニボンベ10の内容量が決まる。つまり、ミニボンベ10の内容量に応じて、切除部分105(ボンベ本体基材106)を決めることで、単一の金型を用いても、種々の容量のミニボンベの製造が可能となる。
【0027】
(e)絞り工程
この絞り工程は、ボンベ本体基材106の開口側を絞り込んで、絞り部14を形成する処理である。金型で一度に絞り込むと、絞り部14に割れやしわが発生するため、この工程では、角度の異なったテーパを有する複数の金型を使って、数回に分けて行われる。この絞り工程によって、先端側には、口金20を取り付けるための開口部15(φ16mm)を有する絞り部14、および筒部12が形成され、ボンベ本体11の外形が成形されることになる。
【0028】
(f)口金取付工程
次に、ボンベ本体11の開口部15に口金20をTIG溶接によって固着する。この際、開口部15は内側に傾斜したテーパ面となっており、このテーパ面に口金20の大径部21と小径部22とが合わさることになり、テーパのない面よりも大きい接触面積で溶接でき、口金20をボンベ本体11に強固に固定することが可能となる。
【0029】
(g)固溶化熱処理工程
今までの工程によってミニボンベ10は、ステンレス鋼材からなる円板を深絞り加工して変形することにより、ステンレス鋼材がマルテンサイト相に変態(マルテンサイト変態)して磁性化する、また先の鋭敏化熱処理によってクロム濃度が低下した部分に腐食が発生し易くなる、さらに深絞り加工によって形成されたボンベ本体には残留応力が生じる、等の状況にある。
【0030】
そこで、仕上げとして、ミニボンベ10を1050〜1150℃に3分以上加熱する固溶化処理を行う。この固溶化熱処理によって、マルテンサイト相をオーステナイト相に変態させて磁性性化したステンレス鋼材の磁性を除去し、先の鋭敏化熱処理によって結晶粒界に析出したクロム炭化物(Cr23C6)を固溶化し、絞り加工によってボンベ本体11に生じた残留応力を緩和する。
さらに、口金20と開口部15との間の溶接部分も溶解するため、さらに強固に口金20が取り付けられることになる。
【0031】
(C:本実施形態の効果)
上述した製造方法にあっては、SUS304Lからなる円板101を変形してボンベ本体11を製造する。この際、残留応力によるボンベ本体11への割れを防止するため、深絞り加工の途中に鋭敏化熱処理を行っている。このため、ボンベ本体基材106、ボンベ本体11の状態であっても割れの発生を著しく低減することができるものの、クロム炭化物が析出されて腐食し易い状態になる。そこで、固溶化熱処理を施すことで、クロム炭化物を溶解させて耐食性を持たせる。
【0032】
深絞り加工によってSUS304Lは、オーステナイト相からマルテンサイト相に変態し、この際部材が磁性を帯びる。しかし、固溶化熱処理を施すことで、マルテンサイト相からオーステナイト相に変態させて、ボンベ本体11の磁化を除去する。
【0033】
さらに、鋭敏化熱処理工程(c)では550〜650℃、固溶化熱処理工程(g)では1050〜1150℃に部材が加熱されるため、ボンベ本体11を成形した段階で発生する残留応力を確実に低減して、当該ボンベ本体11の割れを防止する。
【0034】
このように、本実施形態による製造方法で製造されたボンベは、通常ステンレス鋼材の成形では使用していない鋭敏化する温度で加熱した上で、ステンレス鋼材の持つ脆弱性を補って深絞り加工が施工され、仕上げに固溶化熱処理によって、磁性除去・腐食性抑制・残留応力除去という機能を備えている。
このため、本実施形態によるミニボンベ10は、ステンレス鋼材を使っているため、同じ大きさのMn鋼等に比べて軽量で、しかも肉厚を薄くしても高耐圧とすることができるため、使用強度に優れた容器とすることができる。
しかも、磁性除去・腐食性抑制という機能を備えており衛生的にも信用できるため、高耐圧という特性と併せて、本実施形態により製造されたボンベの使用範囲を広げることが可能となる。
【0035】
(D:変形例)
本願発明によるミニボンベの製造方法は、前記実施形態に記載の製造方法に限るものではなく、以下のような変形例による構成・形状も考えられる。
【0036】
(1)ミニボンベ本体11の材料となるステンレス鋼材は、SUS304Lに限るものではなく、鋭敏化を起こすのであれば、他の材料、例えば、SUS316L、SUS321またはSUS347等であってもよく、要は非磁性となるオーステナイト系ステンレス鋼であればよい。
【0037】
(2)鋭敏化熱処理工程(c)は、深絞り加工(b−1)〜(b−3)の工程のうち、どの工程の後で行ってもよい。或いは、深絞り加工(b−1)の前に鋭敏化熱処理を行ってもよい。要は、絞り工程(e)の前に行うのであれば、鋭敏化熱処理をいつ行ってもよい。特に、加工量の大きい工程の後で鋭敏化熱処理を行うことが好ましい。
【0038】
(3)前記実施形態では、ボンベ本体11の開口部15に口金20を取り付けることによって、ミニボンベ10を製造していたが、本発明はこれに限らず、(e)絞り加工工程において、絞り込んだ開口側をさらに変形させて口金を一体形成してもよい。
【0039】
(4)成形体形成工程(b)における深絞り加工の回数および絞り工程(e)における絞り加工の回数、すなわちこれらの工程で用いられる金型の数は、実施形態で説明したものに限定されない。実施形態より多い、または少ない数の金型を用いて、これらの加工が行われてもよい。
【0040】
(5)前記実施形態では、直径約40mm、全長約110mm、肉厚約1.0mmとなるボンベ本体11を製造する場合を例示して説明したが、本発明はこの寸法に限定されるものではなく、本発明による製造方法にあっては、肉厚約0.1〜2.0mm、さらに内容量100CC未満となる形状であれば製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態によるミニボンベを示す斜視図である。
【図2】図1中の矢視II−II方向から見た断面図である。
【図3】ミニボンベの製造方法を示す工程図である。
【図4】鋭敏化熱処理工程において温度を変えた実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10…ミニボンベ、11…ボンベ本体、15…開口部、20…口金。
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種高圧ガスが充填されるボンベの製造方法およびボンベに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内容量が100CC未満となる小型高圧ガス容器(以下、ミニボンベという)に各種ガスを充填したガスカートリッジは、例えば、ソーダ水製造器,ビールサーバー等の注出力源、ライフジャケット,エアバック等の膨張源、消化器,スプレー等の噴射源として広い用途に利用されている。さらに、ミニボンベの小型軽量化が進むことにより、その利用分野が拡張しつつある。
【0003】
従来のミニボンベは、高耐力のMn鋼やアルミ合金を塑性加工や熱間塑性鍛造などにより加工して製造したり、プレス鏡板に口金を嵌め込み溶接して製造したり、継ぎ目無し管を周溶接して製造したりしていた。また、安全性や疲労強度等を加味すると、ボンベ本体の肉厚を厚くする必然性が生じ、ボンベ自体の重量が重くなっていた。一方、充填するガス圧を高圧にする場合であっても、肉厚を増やさなくてはならず、自ずと重量がさらに重くなっていた。
さらに、充填されるガスが耐食性を必要とする場合には、材質がMn鋼やアルミ合金では、耐食性が十分に確保できないのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特開平11−104762号公報
【特許文献2】特開2005−337391号公報
【特許文献3】特開2005−337392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、軽量・高耐圧で、耐食性に優れたボンベおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明が採用するボンベの製造方法は、ステンレス鋼材からなる板体に深絞り加工を複数回行うことにより、有底筒形状の成形体を形成する成形体形成工程と、前記複数回の深絞り加工のうち、いずれか一の深絞り加工の前または後で、前記ステンレス鋼材を鋭敏化させる熱処理を行う鋭敏化熱処理工程と、前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記成形体の開口側を切除する開口切除工程と、前記開口切除工程の後で、前記成形体の開口側を絞る絞り工程と、を有する。
【0007】
上記ボンベの製造方法において、前記鋭敏化させる熱処理は、前記成形体を550〜650℃に加熱する処理であることが好ましい。
【0008】
上記ボンベの製造方法において、前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記加熱された成形体を水冷または急冷する冷却工程を有することが好ましい。
【0009】
上記ボンベの製造方法において、前記成形体の開口部に口金を溶接によって取り付ける口金取付工程を有することが好ましい。
【0010】
上記ボンベの製造方法において、前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記成形体に前記ステンレス鋼材を固溶化する熱処理を行う固溶化熱処理工程を有することが好ましい。
【0011】
上記ボンベの製造方法において、前記固溶化する熱処理は、前記成形体を1050〜1150℃に3分以上加熱する処理であることが好ましい。
【0012】
上記ボンベの製造方法において、前記絞り工程は、前記開口側を角度の異なった金型に対して絞り加工を順次行う工程であることが好ましい。
【0013】
上記ボンベの製造方法において、前記ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【0014】
前記目的を達成するために、本発明が採用するボンベは、上記記載の製造方法で製造されることを特徴とする。
【0015】
前記目的を達成するために、本発明が採用するボンベは、0.1〜2.0mmの肉厚を有して一体成形された有底筒状のステンレス鋼材からなるボンベ本体と、前記ボンベ本体の開口部に形成される口金と、を具備することを特徴とする。
【0016】
上記記載のボンベにおいて、前記ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるボンベにあっては、材料に比較的強固で軽量なステンレス鋼材を用いることによって、軽量で耐圧性を高めたボンベを製造することが可能となる。
【0018】
また、成形体形成工程の複数回の深絞り加工のうち、いずれか一の深絞り加工の後に鋭敏化熱処理工程を施すことにより、成形体の応力割れを抑制することができる。
【0019】
成形体に固溶化熱処理工程を施すことにより、当該成形体の磁性除去・腐食性抑制・残留応力除去を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[実施形態]
(A:構成)
図1は本発明の一実施形態に係るミニボンベを示す斜視図、図2は図1の矢視II−II方向から見た断面図である。
このミニボンベ10は、ステンレス鋼材(例えば、SUS304L)によって有底筒状に一体成形されたボンベ本体11と、ボンベ本体11の開口部15に溶接によって取り付けられ、段付き筒状の口金20と、を具備する。
ボンベ本体11は、円筒状の胴部12と、この胴部12の一方に形成された略半球状の底部13と、前記胴部12の他方に形成され、先端が開口部15となる絞り部14と、を有する。本実施形態のボンベ本体11にあっては、その直径は約40mm、全長約110mm、肉厚約1.0mmとなる。
【0021】
口金20は、大径部21と、この大径部21の一方に形成された小径部22と、前記大径部21の他方に突出形成され、外周に雄ねじ部24が刻設されたネジ部23と、を有する。そして、口金20は、その大径部21と小径部22の外周が開口部15にTIG(Tungsten Inert Gas)溶接によって固着される。
【0022】
(B:製造方法)
次に、図3を参照しつつ、ミニボンベ10の製造方法について説明する。
【0023】
(a)円板切出工程
まず、φ130mm、厚さ1mmの円板101を、ステンレス鋼材からなる板体100から切り出す。
(b)成形体形成工程
次に、前記円板101に深絞り加工を複数回行うことにより、ボンベ本体11の基材となる有底筒体104を形成する。(b−1)の1回目の深絞り処理では、円板101を大径のカップ状体102(φ80mm、高さ55mm)に成形し、(b−2)の2回目の深絞り処理では、大径のカップ状体102を小径のカップ状体103(φ50mm、高さ80mm)に成形し、(b−3)の3回目の深絞り処理では、小径のカップ状体103をさらに小径の有底筒体104(φ40mm、高さ110mm)に成形する。この成形体形成工程において、さらに小径の有底筒体104には、ボンベ本体11の底部13が形成されることになる。以下、カップ状体102,103、有底筒体104をあわせて「成形体」という。
【0024】
(c)鋭敏化熱処理工程
2回目の深絞り加工(b−2)の後に、小径のカップ状体103を鋭敏化させる鋭敏化熱処理を行う。この鋭敏化熱処理は、小径のカップ状体103を550〜650℃に加熱する処理である。ステンレス鋼を550〜650℃に加熱すると、いわゆる「鋭敏化」が起こることが知られているので、ここではこの熱処理を「鋭敏化熱処理」という。この熱処理を行うことにより、以後の絞り工程での割れの発生が抑制される(すなわち歩留まりが向上する)というデータが得られた。さらに、温度が550〜650℃に達すると、カップ状体103は水冷または急冷(空冷)される。
【0025】
鋭敏化熱処理工程において550〜650℃の範囲が最適であることは、発明者が鋭意実験した結果から得られたものである。ここで、実験結果を表1および図4に示す。この実験は、成形体の温度を500〜670℃の範囲で加熱した後の成形体の状態(クラック(割れ))を観測したものである。
【表1】
※ NGは、冷却後にクラックが発生したもの。
図4は、表1の結果をグラフ化したもので、この図4からの明らかなように、鋭敏化熱処理工程において550〜650℃の範囲が最適であることが分かる。
【0026】
(d)開口切除工程
有底筒体104の開口側を切除することにより、切除部分105が発生し、残りの部分がボンベ本体基材106となる。この開口切除工程によって、製造されるミニボンベ10の内容量が決まる。つまり、ミニボンベ10の内容量に応じて、切除部分105(ボンベ本体基材106)を決めることで、単一の金型を用いても、種々の容量のミニボンベの製造が可能となる。
【0027】
(e)絞り工程
この絞り工程は、ボンベ本体基材106の開口側を絞り込んで、絞り部14を形成する処理である。金型で一度に絞り込むと、絞り部14に割れやしわが発生するため、この工程では、角度の異なったテーパを有する複数の金型を使って、数回に分けて行われる。この絞り工程によって、先端側には、口金20を取り付けるための開口部15(φ16mm)を有する絞り部14、および筒部12が形成され、ボンベ本体11の外形が成形されることになる。
【0028】
(f)口金取付工程
次に、ボンベ本体11の開口部15に口金20をTIG溶接によって固着する。この際、開口部15は内側に傾斜したテーパ面となっており、このテーパ面に口金20の大径部21と小径部22とが合わさることになり、テーパのない面よりも大きい接触面積で溶接でき、口金20をボンベ本体11に強固に固定することが可能となる。
【0029】
(g)固溶化熱処理工程
今までの工程によってミニボンベ10は、ステンレス鋼材からなる円板を深絞り加工して変形することにより、ステンレス鋼材がマルテンサイト相に変態(マルテンサイト変態)して磁性化する、また先の鋭敏化熱処理によってクロム濃度が低下した部分に腐食が発生し易くなる、さらに深絞り加工によって形成されたボンベ本体には残留応力が生じる、等の状況にある。
【0030】
そこで、仕上げとして、ミニボンベ10を1050〜1150℃に3分以上加熱する固溶化処理を行う。この固溶化熱処理によって、マルテンサイト相をオーステナイト相に変態させて磁性性化したステンレス鋼材の磁性を除去し、先の鋭敏化熱処理によって結晶粒界に析出したクロム炭化物(Cr23C6)を固溶化し、絞り加工によってボンベ本体11に生じた残留応力を緩和する。
さらに、口金20と開口部15との間の溶接部分も溶解するため、さらに強固に口金20が取り付けられることになる。
【0031】
(C:本実施形態の効果)
上述した製造方法にあっては、SUS304Lからなる円板101を変形してボンベ本体11を製造する。この際、残留応力によるボンベ本体11への割れを防止するため、深絞り加工の途中に鋭敏化熱処理を行っている。このため、ボンベ本体基材106、ボンベ本体11の状態であっても割れの発生を著しく低減することができるものの、クロム炭化物が析出されて腐食し易い状態になる。そこで、固溶化熱処理を施すことで、クロム炭化物を溶解させて耐食性を持たせる。
【0032】
深絞り加工によってSUS304Lは、オーステナイト相からマルテンサイト相に変態し、この際部材が磁性を帯びる。しかし、固溶化熱処理を施すことで、マルテンサイト相からオーステナイト相に変態させて、ボンベ本体11の磁化を除去する。
【0033】
さらに、鋭敏化熱処理工程(c)では550〜650℃、固溶化熱処理工程(g)では1050〜1150℃に部材が加熱されるため、ボンベ本体11を成形した段階で発生する残留応力を確実に低減して、当該ボンベ本体11の割れを防止する。
【0034】
このように、本実施形態による製造方法で製造されたボンベは、通常ステンレス鋼材の成形では使用していない鋭敏化する温度で加熱した上で、ステンレス鋼材の持つ脆弱性を補って深絞り加工が施工され、仕上げに固溶化熱処理によって、磁性除去・腐食性抑制・残留応力除去という機能を備えている。
このため、本実施形態によるミニボンベ10は、ステンレス鋼材を使っているため、同じ大きさのMn鋼等に比べて軽量で、しかも肉厚を薄くしても高耐圧とすることができるため、使用強度に優れた容器とすることができる。
しかも、磁性除去・腐食性抑制という機能を備えており衛生的にも信用できるため、高耐圧という特性と併せて、本実施形態により製造されたボンベの使用範囲を広げることが可能となる。
【0035】
(D:変形例)
本願発明によるミニボンベの製造方法は、前記実施形態に記載の製造方法に限るものではなく、以下のような変形例による構成・形状も考えられる。
【0036】
(1)ミニボンベ本体11の材料となるステンレス鋼材は、SUS304Lに限るものではなく、鋭敏化を起こすのであれば、他の材料、例えば、SUS316L、SUS321またはSUS347等であってもよく、要は非磁性となるオーステナイト系ステンレス鋼であればよい。
【0037】
(2)鋭敏化熱処理工程(c)は、深絞り加工(b−1)〜(b−3)の工程のうち、どの工程の後で行ってもよい。或いは、深絞り加工(b−1)の前に鋭敏化熱処理を行ってもよい。要は、絞り工程(e)の前に行うのであれば、鋭敏化熱処理をいつ行ってもよい。特に、加工量の大きい工程の後で鋭敏化熱処理を行うことが好ましい。
【0038】
(3)前記実施形態では、ボンベ本体11の開口部15に口金20を取り付けることによって、ミニボンベ10を製造していたが、本発明はこれに限らず、(e)絞り加工工程において、絞り込んだ開口側をさらに変形させて口金を一体形成してもよい。
【0039】
(4)成形体形成工程(b)における深絞り加工の回数および絞り工程(e)における絞り加工の回数、すなわちこれらの工程で用いられる金型の数は、実施形態で説明したものに限定されない。実施形態より多い、または少ない数の金型を用いて、これらの加工が行われてもよい。
【0040】
(5)前記実施形態では、直径約40mm、全長約110mm、肉厚約1.0mmとなるボンベ本体11を製造する場合を例示して説明したが、本発明はこの寸法に限定されるものではなく、本発明による製造方法にあっては、肉厚約0.1〜2.0mm、さらに内容量100CC未満となる形状であれば製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態によるミニボンベを示す斜視図である。
【図2】図1中の矢視II−II方向から見た断面図である。
【図3】ミニボンベの製造方法を示す工程図である。
【図4】鋭敏化熱処理工程において温度を変えた実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10…ミニボンベ、11…ボンベ本体、15…開口部、20…口金。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼材からなる板体に深絞り加工を複数回行うことにより、有底筒形状の成形体を形成する成形体形成工程と、
前記複数回の深絞り加工のうち、いずれか一の深絞り加工の前または後で、前記ステンレス鋼材を鋭敏化させる熱処理を行う鋭敏化熱処理工程と、
前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記成形体の開口側を切除する開口切除工程と、
前記開口切除工程の後で、前記成形体の開口側を絞る絞り工程と、
を有するボンベの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のボンベの製造方法において、
前記鋭敏化させる熱処理は、前記成形体を550〜650℃に加熱する処理である
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のボンベの製造方法において、
前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記加熱された成形体を水冷または急冷する冷却工程を有する
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載のボンベの製造方法において、
前記成形体の開口部に口金を溶接によって取り付ける口金取付工程を有する
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載のボンベの製造方法において、
前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記成形体に前記ステンレス鋼材を固溶化する熱処理を行う固溶化熱処理工程を有する
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のボンベの製造方法において、
前記固溶化する熱処理は、前記成形体を1050〜1150℃に3分以上加熱する処理である
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載のボンベの製造方法において、
前記絞り工程は、前記開口側を角度の異なった金型に対して絞り加工を順次行う工程である
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載のボンベの製造方法において、
前記ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼である
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれ1に記載の製造方法で製造されたボンベ。
【請求項10】
0.1〜2.0mmの肉厚を有して一体成形された有底筒状のステンレス鋼材からなるボンベ本体と、
前記ボンベ本体の開口部に形成される口金と、を具備する
ことを特徴とするボンベ。
【請求項11】
請求項10記載のボンベにおいて、
前記ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼である
ことを特徴とするボンベ。
【請求項1】
ステンレス鋼材からなる板体に深絞り加工を複数回行うことにより、有底筒形状の成形体を形成する成形体形成工程と、
前記複数回の深絞り加工のうち、いずれか一の深絞り加工の前または後で、前記ステンレス鋼材を鋭敏化させる熱処理を行う鋭敏化熱処理工程と、
前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記成形体の開口側を切除する開口切除工程と、
前記開口切除工程の後で、前記成形体の開口側を絞る絞り工程と、
を有するボンベの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のボンベの製造方法において、
前記鋭敏化させる熱処理は、前記成形体を550〜650℃に加熱する処理である
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のボンベの製造方法において、
前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記加熱された成形体を水冷または急冷する冷却工程を有する
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載のボンベの製造方法において、
前記成形体の開口部に口金を溶接によって取り付ける口金取付工程を有する
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載のボンベの製造方法において、
前記鋭敏化熱処理工程の後で、前記成形体に前記ステンレス鋼材を固溶化する熱処理を行う固溶化熱処理工程を有する
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のボンベの製造方法において、
前記固溶化する熱処理は、前記成形体を1050〜1150℃に3分以上加熱する処理である
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載のボンベの製造方法において、
前記絞り工程は、前記開口側を角度の異なった金型に対して絞り加工を順次行う工程である
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載のボンベの製造方法において、
前記ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼である
ことを特徴とするボンベの製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれ1に記載の製造方法で製造されたボンベ。
【請求項10】
0.1〜2.0mmの肉厚を有して一体成形された有底筒状のステンレス鋼材からなるボンベ本体と、
前記ボンベ本体の開口部に形成される口金と、を具備する
ことを特徴とするボンベ。
【請求項11】
請求項10記載のボンベにおいて、
前記ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス鋼である
ことを特徴とするボンベ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2010−112497(P2010−112497A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286571(P2008−286571)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(508333077)株式会社JETOVO (2)
【出願人】(508333088)
【出願人】(508333103)
【出願人】(508333114)
【出願人】(508333125)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(508333077)株式会社JETOVO (2)
【出願人】(508333088)
【出願人】(508333103)
【出願人】(508333114)
【出願人】(508333125)
【Fターム(参考)】
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