説明

ボンベシン様ペプチド受容体を活性化するペプチド、およびその利用

【課題】ボンベシン様ペプチド受容体サブタイプ3(BRS−3)を活性化するペプチドの提供。該ペプチドを対象に投与する工程を含む、肥満症の予防法または治療法の提供。および、該ペプチドを有効成分とする、肥満症の予防薬または治療薬の提供。
【解決手段】BRS−3を活性化すると考えられる最小活性単位を含む複数のペプチド性リガンドを化学合成し、BRS−3活性化能を検討した。その結果、Leu−Trp−Ala−Cys−Gly−Ser−Phe−Metのアミノ酸配列を有するペプチドを見い出した。該ペプチドは、BRS−3を選択的に活性化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンベシン様ペプチド受容体を活性化するペプチド、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンベシンは、ヨーロッパ産カエル皮膚よりラット子宮平滑筋収縮活性ならびにニワトリ小腸平滑筋収縮活性を指標に単離・同定された14残基からなる生理活性ポリペプチドである(ボンベシン一次配列:pGlu-Gln-Arg-Leu-Gly-Asn-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leu-Met-NH2、配列番号:4、非特許文献1)。ボンベシンの同定とほぼ同時期、ラナテンシン、アリテシンもやはりカエル皮膚より同定されたが、これらペプチドはそのC末端部分に相同配列を持つことから、ボンベシン様ペプチドあるいはボンベシン群ペプチド(bombesin-like peptides or bombesin family peptides)と総称されるようになった(ラナテンシン一次配列:pGlu-Val-Pro-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Phe-Met-NH2、配列番号:5、アリテシン一次配列:pGlu-Gly-Arg-Leu-Gly-Thr-Gln-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leu-Met-NH2、配列番号:6)。
【0003】
ボンベシンに対する抗体による検討により、哺乳動物におけるボンベシン様ペプチドの存在が予測されていたが、その後ガストリン放出ペプチド(GRP)およびそのC末端デカペプチドGRP-10、ならびにニューロメディンB(NMB)がブタより単離・同定され(ブタGRP一次配列:Ala-Pro-Val-Ser-Val-Gly-Gly-Gly-Thr-Val-Leu-Ala-Lys-Met-Tyr-Pro-Arg-Gly-Asn-His-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leu-Met-NH2、配列番号:7、非特許文献2、GRP-10一次配列:Gly-Asn-His-Trp-Ala-Val-Gly-His-Leu-Met-NH2、配列番号:8、非特許文献3、NMB一次配列:Gly-Asn-Leu-Trp-Ala-Thr-Gly-His-Phe-Met-NH2、配列番号:9、非特許文献4)、哺乳動物においてもボンベシン様ペプチドが存在することが明らかとなった。さらにGRPならびにNMBに対する抗体を用いた検討により、哺乳動物においてボンベシン様ペプチドは脳および腸管両者に広く分布する生理活性ペプチド、いわゆる脳-腸管ペプチド(brain-gut peptides)を構成するファミリーペプチドであることが明らかとなった。加えてNMBにはそのアミノ末端延長体であるビッグニューロメディンB-30ならびにB-32も哺乳動物生体内に存在することも明らかとなった。
【0004】
その後の哺乳動物におけるボンベシン様ペプチドの機能解析の結果、GRPならびにNMBは中枢においては体温調節、血糖上昇作用、視床下部並びに脳下垂体ホルモン分泌調節作用、消化・吸収修飾作用、摂食行動の修飾等、末梢においてはガストリン、インスリン、コレシストキニンをはじめとした多くの消化管ホルモン分泌刺激作用、胃酸分泌調節作用、膵外分泌刺激作用、消化管運動調節作用、血圧上昇作用、抗利尿作用、平滑筋収縮刺激作用、細胞増殖刺激作用等、多岐にわたる生物活性を有することが明らかとなった(非特許文献5)。
【0005】
これらペプチドに対する受容体としてはNMBおよびその類縁体に選択性を示すボンベシン受容体サブタイプ1であるNMBR(あるいはBBS-1)、GRPおよびGRP-10に選択性を示すボンベシン受容体サブタイプ2であるGRPR(あるいはBBS-2)の2種の存在が知られていたが、1993年にこれら2種の受容体とアミノ酸配列上で相同性を有する受容体、ボンベシン受容体サブタイプ3(以下、BRS-3と標記することもある)が存在することが明らかとなった(非特許文献6、7)。
【0006】
これら受容体のうち、BRS-3 については、既知の哺乳動物由来ボンベシン様ペプチドであるGRPおよびNMBが低い結合活性しか持たなかったことから、BRS-3 特異的内因性ペプチドリガンドが存在するのではないかと考えられるようになった。
【0007】
このような背景からBRS-3の存在意義を検討するためマウスBRS-3遺伝子をノックアウトした結果、そのマウスは肥満になったことより、BRS-3活性化薬は抗肥満活性を持つことが期待されるようになった(非特許文献8)。このためBRS-3の内因性リガンド探索が精力的に行われているにも拘らず、未だ内因性リガンドは不明である。また、BRS-3のみを活性化させるアゴニストもまだ見出されていない。
【0008】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Anastasi, A., Erspamer, V., and Bucci, M. Archives of Biochemistry and Biophysics, 148, 443-446, 1972
【非特許文献2】McDonald, T.J., Joernvall, H., Nillson, G., Vagne, M., Ghatei, M., Bloom, S.R., and Mutt, V. Biochemical and Biophysical Research communication, 90, 227-233, 1979
【非特許文献3】Reeve, J.R. Jr., Walsh, J.H., Chew, P., Clark, B., Hawke, D., and Shivery, J.E. Journal of Biological Chemistry, 258, 5582-5588, 1983
【非特許文献4】Minamino, N., Kangawa, K., and matsuo, H. Biochemical and Biophysical Research communication, 114, 541-548. 1983
【非特許文献5】向井秀仁, 宗像英輔, 化学と生物, 学会出版センター, 28, 152-161, 1990
【非特許文献6】Corjay, M.H., Dobazanski, D.J., Way, J.M., Viallet, J., Shapira, H., Worland, P., Sausville, E.A., and Battey, J.F. Journal of Biological Chemistry, 266, 18771-18779, 1991
【非特許文献7】Fathi, Z., Corjay, M.H., Shapira, H., Wada, E., Benya, R., Jensen, R., Viallet, J., Sausville, E.A., and Battey, J.F. Journal of Biological Chemistry, 268, 5979-5984, 1993
【非特許文献8】Ohki-hamazaki, H., Watase, K., Yamamoto, K., Ogura, H., Yamano, M., Yamada, K., Maeno, H., Imaki, J., Kikuyama, S., Wada, E., and Wada, K. Nature, 390, 165-169, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に内因性ペプチド性リガンドは、タンパク質として翻訳された後切断されて初めて活性を持つ成熟体となるため、タンパク質の機能発見にしばしば用いられる発現クローニング法を適用できず、したがって現在でも内因性ペプチドリガンドを同定するには、生体組織よりペプチドを抽出し、化学的に構造を決定するしか方法がないのが現状である。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ボンベシン様ペプチド受容体を活性化するペプチド(一つの例としてボンベシン受容体サブタイプ3を選択的に活性化するペプチド)を提供することにある。また、該ペプチドを対象に投与する工程を含む、肥満症を予防または治療する方法の提供を課題とする。さらに、該ペプチドを有効成分とする、肥満症を予防または治療する薬剤の提供についても課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、ヒトゲノム配列からボンベシン様ペプチドの最小活性単位Trp-Ala-X-Gly-(His/Ser)-X-Met構造(Xは任意のアミノ酸残基)(配列番号:71)を含む複数の配列を抽出し、さらにBRS-3とのドッキングシミュレーションを行うことにより、BRS-3に結合・活性化するペプチド性リガンドの最小活性単位の予測を行った。
【0012】
次に、予測したペプチドの構造を基に、最小活性単位を含むいくつかのペプチドを設計および化学合成し、これらのペプチドのBRS-3活性化能について検討を行った。具体的には、ボンベシン様ペプチド受容体であるBRS-3を安定発現、あるいはBRS-3、NMBR、およびGRPRを一過発現したHEK293細胞に対し上記ペプチドを添加し、細胞内遊離カルシウム濃度上昇活性をカルシウムイオン感受性蛍光試薬であるFluo-3を用いて測定することで、ペプチドの受容体活性化能を判定した。
【0013】
その結果、アミノ酸配列Leu-Trp-Ala-Cys-Gly-Ser-Phe-Met(配列番号:3)で示されるペプチドが、BRS-3を選択的に活性化することを見出した。
即ち、本発明者らは、BRS-3を選択的に活性化するペプチド性リガンドを発見し、これにより本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、より具体的には以下の(1)〜(22)を提供するものである。
(1)下記式で表され、かつボンベシン受容体サブタイプ3のアゴニストとして作用することを特徴とするペプチド:
X1−X2−Trp−Ala−X3−Gly−X4
(式中、X1、X2、X3、およびX4は、任意に含まれていてもよいアミノ酸残基、またはアミノ酸配列である。)
(2)X3が、Cys、Val、またはPheのいずれかである、(1)に記載のペプチド。
(3)X4が、Ser-Phe-Met、またはHis-Phe-Metである、(1)または(2)に記載のペプチド。
(4)X2が、AlaまたはLeuである、(1)〜(3)のいずれかに記載のペプチド。
(5)X1が、Lys-Lys-Arg-Lys-Tyr(配列番号:1)、Tyr、pGlu(ピログルタミン酸)、Ile-Ile-Asn-Leu-Glu(配列番号:2)、またはLeu-Gluのいずれかである、(1)〜(4)のいずれかに記載のペプチド。
(6)以下の(a)または(b)のペプチド:
(a)配列番号:3、21、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、38、54、55、57または58に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号:3、21、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、38、54、55、57または58に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつボンベシン受容体サブタイプ3のアゴニストとして作用することを特徴とするペプチド。
(7)カルボキシル末端がアミド化されたことを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載のペプチド。
(8)ボンベシン受容体サブタイプ3の選択的アゴニストとして作用することを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載のペプチド。
(9)(1)〜(7)のいずれかに記載のペプチドをコードしているDNA。
(10)(9)に記載のDNAを含むベクター。
(11)(10)に記載のベクターが導入された形質転換体。
(12)(11)に記載の形質転換体を培養または育種し、該形質転換体細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程を含む、(1)〜(7)のいずれかに記載のペプチドの製造方法。
(13)(1)〜(8)のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてボンベシン受容体サブタイプ3を活性化させる方法。
(14)(9)に記載のDNA、(10)に記載のベクター、または(11)に記載の形質転換体のいずれかを対象に投与する工程を含む、対象においてボンベシン受容体サブタイプ3を活性化させる方法。
(15)(1)〜(8)のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象における肥満症を治療または予防する方法。
(16)(9)に記載のDNA、(10)に記載のベクター、または(11)に記載の形質転換体のいずれかを対象に投与する工程を含む、対象における肥満症を治療または予防する方法。
(17)(1)〜(8)のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、肥満症を予防または治療するための薬剤。
(18)(9)に記載のDNA、(10)に記載のベクター、または(11)に記載の形質転換体のいずれかを有効成分として含有する、肥満症を予防または治療するための薬剤。
(19)(1)〜(8)のいずれかに記載のペプチドに結合する抗体。
(20)モノクローナル抗体である(19)に記載の抗体。
(21)(1)〜(8)のいずれかに記載のペプチド、または、(19)もしくは(20)に記載の抗体を含有する、腫瘍細胞の増殖を検出するためのマーカー。
(22)(1)〜(8)のいずれかに記載のペプチド、または、(19)もしくは(20)に記載の抗体を含有する、代謝病を検出するためのマーカー。
【発明の効果】
【0015】
本発明により同定されたペプチドは、3種類存在するボンベシン様ペプチド受容体NMBR(BBS-1)、GRPR(BBS-2)およびボンベシン受容体サブタイプ3(BRS-3)のうち、BRS-3を選択的に活性化させる機能を有する。このことから、本発明のペプチドは、生体内においてボンベシン受容体サブタイプ3を選択的に活性化させる用途に用いることが可能であり、その選択性により他の受容体に結合することにより引き起こされる副作用が軽減されるため、非常に有効性がある。
【0016】
ボンベシン受容体サブタイプ3遺伝子を欠損させたノックアウトマウスの研究報告より、ボンベシン受容体サブタイプ3の活性化は抗肥満活性に繋がるものと考えられている。このことから、本発明のペプチドは肥満症の治療または予防に有効な効果を示すものと考えられる。またBRS-3の関与が予測されているインスリンをはじめとした膵ホルモン分泌刺激による糖尿病薬剤への応用、また腫瘍マーカーとしての有用性も期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、BRS-3を活性化すると考えられる最小活性単位を含むペプチドをヒトゲノム配列から予測・化学合成し、該ペプチドがボンベシン受容体サブタイプ3を選択的に活性化させることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0018】
本発明は、ボンベシン様ペプチドの最小活性単位を含むペプチドに関する。
本発明のペプチドの一つの態様として、好ましくは下記式で表されるペプチドを挙げることが出来る。
X1−X2−Trp−Ala−X3−Gly−X4
式中、X1、X2、X3、およびX4は、任意に含まれていてもよいアミノ酸残基、またはアミノ酸配列であり、本発明のペプチドと機能的に同等である限り、アミノ酸の配列構成については特に限定をされない。「任意に含まれていてもよい」とは、その位置に相当するアミノ酸が何も存在しない場合も含まれる。
【0019】
本発明において「機能的に同等」とは、対象となるペプチドが、ボンベシン様ペプチド受容体を活性化する機能、すなわちアゴニストとしての機能を保持することをいう。本発明において、ボンベシン様ペプチド受容体としては、ボンベシン受容体サブタイプ3(BRS-3)、ボンベシン受容体サブタイプ1であるニューロメジンB受容体(NMBR、BBS-1)、またはボンベシン受容体サブタイプ2であるガストリン放出ペプチド受容体(GRPR、BBS-2)を挙げることが出来る。
【0020】
本発明のペプチドの機能としては、ボンベシン受容体サブタイプ3を選択的に活性化させる機能を挙げることが出来るが、特に限定されるものではない。本発明において、「ボンベシン受容体サブタイプ3の選択的アゴニストとして作用する」とは、ボンベシン受容体サブタイプ1および/または2に比較して1/10以下の濃度、好ましくは1/100以下の濃度、より好ましくは1/1000以下の濃度でサブタイプ3を活性化することを意味する。また、ボンベシン受容体サブタイプ3のアゴニストとして作用し、ボンベシン受容体サブタイプ1および/またはサブタイプ2のアゴニストとして作用しないことも含む。
【0021】
ペプチドを対象に投与することによって、対象において体重減少、食欲抑制、細胞増殖促進、消化管ホルモン分泌促進、平滑筋収縮促進、または血圧調節が引き起こされた場合にも、該ペプチドが本発明のペプチドと機能的に同等であるとみなすことが出来る。
【0022】
上記式X3に相当するアミノ酸残基としては、Cys、Val、またはPheを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
【0023】
また、上記式X4に相当するアミノ酸配列としては、Ser-Phe-Met、またはHis-Phe-Metを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
【0024】
また、上記式X2に相当するアミノ酸残基としては、AlaまたはLeuを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
【0025】
また、上記式X1に相当するアミノ酸残基またはアミノ酸配列としては、Lys-Lys-Arg-Lys-Tyr(配列番号:1)、Tyr、pGlu(ピログルタミン酸)、Ile-Ile-Asn-Leu-Glu(配列番号:2)、またはLeu-Gluを挙げることが出来るが、特にこれらに限定されるものではない。
【0026】
本発明のペプチドは、機能的に同等である限り、化学修飾を受けていてもよい。ペプチドの化学修飾としては、アセチル化、アミド化(カルボキシル末端)、アニリド化(カルボキシル末端)、ベンジルオキシカルボニル化、ビオチン化、ダンシル化、DNP化、脂肪酸付加、ホルミル化、ニトロ化、セリンリン酸化、スレオニンリン酸化、チロシンリン酸化、サクシニル化、スルフォン化等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。本発明において、化学修飾は酵素を用いて行われてもよい。上記の化学修飾は当業者に公知の方法によって行うことが出来る。
【0027】
本発明のペプチドの化学修飾の好ましい例としては、カルボキシル末端のアミド化を挙げることができる。
【0028】
また、本発明のペプチドは、アミノ末端にグルタミンが存在する場合には、側鎖が閉環されピログルタミン酸(pGlu)になっていてもよい。また、カルボキシル末端のアミド化は、カルボキシル末端にグリシンが存在する場合に、このグリシンがペプチジルグリシンα-アミド化モノオキシゲナーゼ等のC末端アミド化酵素によって、アミノ基に変換されたものであってもよい。
【0029】
本発明のペプチドの好ましい例としては、アミノ酸配列Trp-Ala-Phe-Gly-His-Phe-Met-NH2(配列番号:21)で表されるペプチド、アミノ酸配列Tyr-Ile-Ile-Asn-Leu-Glu-Ala-Trp-Ala-Phe-Gly-His-Phe-Met-NH2(配列番号:27)で表されるペプチド、アミノ酸配列Ile-Ile-Asn-Leu-Glu-Ala-Trp-Ala-Phe-Gly-His-Phe-Met-NH2(配列番号:28)で表されるペプチド、アミノ酸配列Ile-Asn-Leu-Glu-Ala-Trp-Ala-Phe-Gly-His-Phe-Met-NH2(配列番号:29)で表されるペプチド、アミノ酸配列Leu-Glu-Ala-Trp-Ala-Phe-Gly-His-Phe-Met-NH2(配列番号:31)で表されるペプチド、アミノ酸配列Glu-Ala-Trp-Ala-Phe-Gly-His-Phe-Met-NH2(配列番号:32)で表されるペプチド、アミノ酸配列Ala-Trp-Ala-Phe-Gly-His-Phe-Met-NH2(配列番号:33)で表されるペプチド、アミノ酸配列Lys-Lys-Arg-Lys-Tyr-Leu-Trp-Ala-Cys-Gly-Ser-Phe-Met(配列番号:38)で表されるペプチド、アミノ酸配列Lys-Arg-Lys-Tyr-Leu-Trp-Ala-Cys-Gly-Ser-Phe-Met(配列番号:54)で表されるペプチド、アミノ酸配列Tyr-Leu-Trp-Ala-Cys-Gly-Ser-Phe-Met(配列番号:57)で表されるペプチド、アミノ酸配列pGlu-Leu-Trp-Ala-Val-Gly-Ser-Phe-Met-NH2(配列番号:60)で表されるペプチド、アミノ酸配列Leu-Trp-Ala-Val-Gly-Ser-Phe-Met-NH2(配列番号:62)で表されるペプチドを挙げることが出来る。また、本発明のペプチドのより好ましい例としては、アミノ酸配列Leu-Trp-Ala-Cys-Gly-Ser-Phe-Met(配列番号:3)で表されるペプチドを挙げることができる。
【0030】
また、本発明のペプチドには、上記の具体的なアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるペプチドであって、上記のアミノ酸配列からなるペプチドと機能的に同等なペプチドも含まれる。
【0031】
本発明において、変異(置換、欠失、挿入、および/または付加)するアミノ酸数は特に制限されないが、好ましくは5アミノ酸以内(例えば、1、2、3、4、5アミノ酸以内)であると考えられる。変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。
【0032】
本発明のペプチドは、有機化学合成、または本発明のペプチド(上記のアミノ酸配列)を含む前駆体タンパク質を分解することにより生成することが可能である。有機化学合成としては、当業者には公知の自動ペプチド合成方法(Boc固相法、Fmoc固相法等)または、古典的な有機化学合成方法を挙げることができ、特に限定されるものではない。前駆体タンパク質を分解することにより、本発明のペプチドを合成する場合には、当業者に公知のプロテアーゼを適切な条件下で使用することができる。プロテアーゼとしては、セリンプロテアーゼ(例えばトリプシン、キモトリプシン、スブチリシン)、アスパラギン酸プロテアーゼ(例えばペプシン、カテプシンD、HIVプロテアーゼ)、金属プロテアーゼ(例えばサーモリシン)、システインプロテアーゼ(例えばパパイン、カスパーゼ)、N-末端スレオニンプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ等を挙げることが出来る。
【0033】
本発明は、上記の本発明のペプチドをコードしているDNAに関する。本発明のペプチドをコードするDNAには、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって公知の方法を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、ボンベシン様ペプチド受容体を発現する細胞からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、本発明のペプチドをコードするDNAを基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明のペプチドをコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRをおこなうことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、ボンベシン様ペプチド受容体を発現する細胞から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0034】
本発明のDNAは、本発明のペプチドの大量発現、または組み換えペプチドの大量調製などに利用することが可能である。
【0035】
本発明は、該DNAを含むベクター、および該ベクターが導入された形質転換体(宿主細胞)に関する。さらに、該形質転換体を培養もしくは育種し、該形質転換体細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程を含む、該ペプチドの製造方法に関する。
【0036】
本発明のベクターは、宿主細胞内において本発明のDNAを保持させたり、本発明のペプチドを発現させるために有用である。
【0037】
ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すれば特に制限はない。
【0038】
ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。
【0039】
本発明のペプチドを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌での発現を目的とした場合は、ベクターが大腸菌で増幅されるような上記特徴を持つほかに、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーター、araBプロモーター、またはT7プロモーターなどを持っていることが不可欠である。このようなベクターとしては、上記ベクターの他にpGEX-5X-1(ファルマシア社 製)、「QIAexpress system」(キアゲン社製)、pEGFP、またはpET(この場合、宿主はT7 RNAポリメラーゼを発現しているBL21が好ましい)などが挙げられる。
【0040】
また、ベクターには、タンパク質分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。タンパク質分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、例えばpelBシグナル配列を使用すればよい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0041】
大腸菌以外にも、例えば、本発明のタンパク質を製造するためのベクターとしては、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3 (インビトロゲン社製)や、pEGF-BOS、pEF 、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovirus expression system」(ギブコBRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウイルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw)、レトロウイルス由来の発現ベクター(例えば、pZIPneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、 「Pichia Expression Kit」(インビトロゲン社製)、pNV11、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)が挙げられる。
【0042】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター、CMVプロモーターなどを持っていることが不可欠であり、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK- RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0043】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子の コピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、 また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製開始点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0044】
一方、動物の生体内で本発明のDNAを発現させる方法としては、本発明のDNAを適当なベクターに組み込み、例えば、レトロウイルス法、リポソーム法、カチオニックリポソーム法、アデノウイルス法などにより生体内に導入する方法などが挙げられる。
【0045】
本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを用いることが可能である。本発明の宿主細胞は、例えば、本発明のペプチドの製造や発現のための産生系として使用することができる。ペプチド製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0046】
真核細胞を使用する場合、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を宿主に用いることができる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞、あるいは昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO細胞 であるdhfr-CHOやCHO K-1を好適に使用することができる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリポソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポーレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0047】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞がタンパク質生産系として知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が知られている。
【0048】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、例えば、JM109、DH5α、HB101等が挙げられ、その他、枯草菌が知られている。
【0049】
これらの細胞を目的とするDNAにより形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することによりペプチドが得られる。培養は、公知の方法に従い行うことができる。例えば、動物細胞の培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできるし、無血清培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8であるのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0050】
一方、in vivoでタンパク質を産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするDNAを導入し、動物又は植物の体内でタンパク質を産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0051】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシを用いることができる。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0052】
例えば、目的とするDNA を、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的のタンパク質を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生されるタンパク質を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい。
【0053】
また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的のタンパク質をコードするDNAを挿入したバキュロウイルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的のタンパク質を得ることができる。
【0054】
さらに、植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とするペプチドをコードするDNAを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望のペプチドを得ることができる。
【0055】
本発明のペプチドは、化学合成後、または宿主細胞内または細胞外(培地など)において生産させた後に、実質的に純粋で均一なペプチドとして精製することができる。ペプチドの分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
【0056】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製されたペプチドも包含する。
【0057】
本発明は、上記ペプチド、該ペプチドをコードするDNA、該DNAを保持するベクター、または形質転換体のいずれかを対象に投与する工程を含む、対象においてボンベシン受容体サブタイプ3を活性化させる方法、または対象における肥満症を治療または予防する方法に関する。
【0058】
本発明において、「対象」とは、本発明のボンベシン受容体サブタイプ3活性化剤または肥満症治療剤を投与する生物体、該生物体の体内の一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。
【0059】
また、「生物体の体内の一部分」については特に限定されないが、好ましくはボンベシン受容体サブタイプ3の機能が発現している部位またはその周辺部位を挙げることが出来る。
【0060】
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。
【0061】
又は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品という形態で経口的に摂取または投与されてもよく、本発明はこれらの食品に限定されない。
【0062】
非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、点滴などの静脈注射、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。患者の年齢、症状により適宜投与方法・投与量を選択することができる。また、投与すべきDNAを含む遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、本発明の方法の効果を達成することができる。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することもできる。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用、または本発明のペプチドをコードするDNAの標的化遺伝子送達により投与することも可能である。
【0063】
本発明において「ボンベシン受容体サブタイプ3を活性化」とは、ボンベシン受容体サブタイプ3の関与するシグナル伝達カスケードを開始させるまたは活性化させることを意味する。GPCRの性質に応じてシグナル伝達活性は、Ca2+レベルの変化、ホスホリパーゼC活性化、イノシトール三リン酸(IP)レベルの変化、ジアシルグリセロールレベルの変化、pH値の変化、アデニル酸シクラーゼレベルの変化、またはアデノシン環状3'5'一リン酸(cAMP)レベルの変化を細胞内において測定することによって測定できる。上記の値の変化は、当業者に公知の方法により測定を行うことが出来る。
【0064】
本発明のペプチドを対象に投与した際に、対象においてシグナル伝達カスケードを開始させた、または活性化させた場合、例えば上記アッセイ系においてCa2+レベル、イノシトール三リン酸(IP)レベル、ジアシルグリセロールレベル、アデニル酸シクラーゼレベル、またはアデノシン環状3'5'一リン酸(cAMP)レベルを上昇させた場合に、該ペプチドはボンベシン受容体サブタイプ3を活性化させたものとみなすことが出来る。
【0065】
また、本発明のペプチド等を対象に投与することによって、対象において体重減少、食欲抑制、細胞増殖促進、消化管ホルモン分泌促進、平滑筋収縮促進、または血圧調節が引き起こされた場合にも、該ペプチドがボンベシン受容体サブタイプ3を活性化させたものとみなすことが出来る。すなわち、本発明のペプチドは上記の生体現象を引き起こすための薬剤としても使用することが可能である。例えば、消化管ホルモン分泌調節による糖尿病等の代謝病の治療剤として、本発明のペプチドを用いることが出来る。
【0066】
本発明において、「肥満症を治療または予防する」とは、肥満症状(体重増加、体脂肪率増加)の改善または予防、または肥満に伴う合併症などを抑制することを意味する。肥満に伴う合併症としては、インシュリン抵抗性に基づく疾患、高血圧症、糖尿病、高脂血症、動脈硬化の促進、または冠動脈疾患等を挙げることが出来る。
【0067】
本発明において、肥満症状(体重増加、体脂肪率増加)が改善されたか否かの確認は、各種公知の検査方法により行うことが出来る。
【0068】
肥満であるかどうかは、ヒトの場合、身長あたりの体格指数(BMI(body mass index):体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))をもとに判定することが出来る。BMI<18.5の場合は「低体重」、18.5≦BMI<25の場合は「普通体重」、25≦BMI<30の場合は「肥満(1度)」、30≦BMI<35の場合は「肥満(2度)」、35≦BMI<40の場合は「肥満(3度)」、40≦BMIの場合は「肥満(4度)」と判定される。肥満(BMI≧25)と判定され、さらに以下の条件のいずれかを満たす場合は、医学的にみて減量治療の必要な肥満と診断される。(1)肥満に関連し、減量が必要、または減量により改善が可能な健康障害を有する場合。(2)健康障害を伴いやすいハイリスク肥満:身体計測のスクリーニングにより上半身肥満を疑われ、腹部CT検査によって確定診断された内臓脂肪型肥満の場合。
【0069】
本発明のペプチドを対象に投与した際に、対象において肥満症状が改善された場合、例えば、体重が減少(BMI値の低下)、または体脂肪率が低下した場合に、該ペプチドは肥満症を治療または予防したものとみなすことが出来る。
【0070】
本発明は、上記ペプチド、該ペプチドをコードするDNA、該DNAを保持するベクター、または形質転換体のいずれかを有効成分として含有する、肥満症を予防または治療するための薬剤に関する。本発明の薬剤は、肥満症治療剤、肥満症を予防または治療するための医薬組成物と言い換えることが可能である。
【0071】
本発明において肥満症を予防または治療するための薬剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうるとは、それ自体は上記の肥満症の治療または予防効果を有する材料であってもよいし、当該予防または治療効果を有さない材料であってもよく、上記の薬剤とともに投与可能な製剤上許容される材料を意味する。また、肥満症の予防または治療効果を有さない材料であっても、本発明の化合物と併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
【0072】
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
【0073】
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
【0074】
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
【0075】
本発明おいては、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の製剤で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20,40,60 又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF−68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
【0076】
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80の場合では、一般には0.001〜100 mg/mLであり、好ましくは0.003〜50 mg/mLであり、さらに好ましくは0.005〜2 mg/mLである。
【0077】
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸等 他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
【0078】
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500 mMであり、好ましくは5〜100 mMであり、さらに好ましくは10〜20 mMである。
【0079】
また、本発明おいては、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
【0080】
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、またはこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることが出来る。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合あるいは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸はアルギニン、リジン、ヒスチジン、またはオルニチンである。さらに、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)あるいは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、またはアラニン、あるいは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、または誘導体のN-アセチルトリプトファンを使用することもできる。
【0081】
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
【0082】
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0083】
注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0084】
所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
【0085】
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
【0086】
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。
【0087】
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
【0088】
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
本発明は、本発明のペプチドに結合する抗体に関する。本発明の抗体を対象に投与することによって、対象における本発明のペプチドの活性制御を行うことが出来る。
【0090】
また、本発明は、本発明のペプチドと結合する抗体を提供する。本発明の抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体変異体、これらの断片等が例示できる。
【0091】
これらの抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして取得することができる。カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントタンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素またはその部分ペプチドをマウス等の小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、カイコ、ショウジョウバエ、蚊、ハスモンヨトウ、またはオオタバコガの幼若ホルモン酸メチル基転移酵素や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0092】
また、本発明において、「抗体変異体」とは、1 またそれ以上のアミノ酸残基が改変された、抗体のアミノ酸配列バリアントを指す。どのように改変されたアミノ酸バリアントであれ、元となった抗体と同じ結合特異性を有すれば、本発明における「抗体変異体」に含まれる。このような変異体は、抗体の重鎖若しくは軽鎖の可変ドメインのアミノ酸配列と少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも 95%のアミノ酸配列相同性または類似性を有するアミノ酸配列と100%よりも少ない配列相同性、または類似性を有する。
【0093】
本発明は本発明のペプチド、または本発明の抗体を含有する、腫瘍細胞の増殖を検出するためのバイオマーカーに関する。本発明のバイオマーカーは、腫瘍細胞の増殖を検出するため、または代謝病を検出するために使用することが出来る。
【0094】
本発明のペプチドを対象に投与することによって、対象におけるボンベシン受容体サブタイプ3の発現、または該受容体によって引き起こされる生体現象の検出を行うことが出来る。
【0095】
本発明の抗体を対象に投与することによって、対象における本発明のペプチドと同様の効果を示す化合物(ペプチドを含む)の検出、または対象における本発明のペプチドおよびボンベシン様受容体を発現している細胞の検出が可能である。
上記の検出は、該ペプチドまたは抗体に標識物質を結合させ、当業者に公知の方法で行うことが可能である。
【0096】
標識物質は、特に限定されない。具体的には、酵素、蛍光 物質、発光物質、放射性物質、金属キレート等を使用することができる。好ましい標識酵素としては、例えばペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ − 5 - ステロイドイソメラーゼ、α-グリセロールホスフェートデヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、西洋わさびパーオキシダーゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼ等が挙げられる。好ましい蛍光物質としては、例えばフルオレセインイソチアネート、フィコビリプロテイン、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、およびオルトフタルアルデヒド等が挙げられる。好ましい発光物質としてはイソルミノール、ルシゲニン、ルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びその修飾エステル、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、およびエクオリン等が挙げられる。そして好ましい放射性物質としては、125I、127I、131I、14 C、3H、32P、あるいは35S等が挙げられる。
【0097】
前記標識物質をペプチドまたは抗体に結合する手法は公知である。具体的には、直接標識と間接標識が利用できる。直接標識としては、架橋剤によってペプチドまたは抗体、あるいはペプチドまたは抗体断片と標識とを化学的に共有結合する方法が一般的である。架橋剤としては、N, N'-オルトフェニレンジマレイミド、4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン酸・N-スクシンイミドエステル、6-マレイミドヘキサン酸・N-スクシンイミドエステル、4,4'-ジチオピリジン、その他公知の架橋剤を利用することができる。これらの架橋剤と酵素およびペプチドまたは抗体との反応は、それぞれの架橋剤の性質に応じて既知の方法に従って行えばよい。この他、ペプチドまたは抗体にビオチン、ジニトロフェニル、ピリドキサール又はフルオレサミンのような低分子ハプテンを結合させておき、これを認識する結合成分によって間接的に標識する方法を採用することもできる。ビオチンに対してはアビジンやストレプトアビジンが認識リガンドとして利用される。一方、ジニトロフェニル、ピリドキサール又はフルオレサミンについては、これらのハプテンを認識するペプチドまたは抗体が標識される。本酵素は多くの基質と反応することができ、過ヨウ素酸法によって容易に抗体に結合させることができるので有利である。また、抗体としては場合によっては、そのフラグメント、例えばFab'、Fab、F(ab')2を用いる。また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体にかかわらず同様の処理により酵素標識体を得ることができる。上記架橋剤を用いて得られる酵素標識体はアフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法にて精製すれば更に感度の高い免疫測定系が可能となる。精製した酵素標識化抗体は、防腐剤としてチメロサール(Thimerosal)等を、そして安定剤としてグリセリン等を加えて保存する。標識ペプチドまたは標識抗体は、凍結乾燥して冷暗所に保存することにより、より長期にわたって保存することができる。
【0098】
本発明のマーカーは、用途に併せて上記に記載の担体の中から適切なものを含有していてもよい。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0100】
〔実施例1〕 ゲノム配列からの新規ペプチド性リガンドの同定
ペプチド性GPCRリガンドは、前駆体から特異的切断ならびに修飾を受けて初めて活性を持つ成熟体となることから、これを発見し同定するためには、以下の三つの工程が必要になる。
(1)ヒトゲノム配列〈以下に一覧としてリストアップ〉からGPCRのペプチド性リガンドを有する前駆体配列を予測すること。
(2)前駆体から生成されるペプチド成熟体を予測すること。
(3)予測したペプチド成熟体配列をモチーフとして、ゲノム配列へのマッピングおよび、既知蛋白質配列の検索により、ペプチド成熟体候補を増加させること。
【0101】
本発明においては上記の工程により、GPCRの中でもボンベシン様ペプチド受容体を選択的に活性化するペプチド性リガンドの同定を行った。以下に、それぞれ工程の作業の詳細について述べる。
【0102】
(1)ヒトゲノム配列からのGPCRのペプチド性リガンドを有する前駆体配列の予測
最初にヒトゲノム配列上で、low-complexity 領域や、リピート領域をマスクするための前処理を行った。次にSWISSPROTより、既知ペプチド性GPCRリガンドを有する前駆体配列(以下、既知ペプチド性リガンド前駆体配列)を検索して抽出した。そして次の独立した3つのステップ<1>,<2>,<3>により前駆体候補を予測した。
【0103】
<1>配列相同性を基にして、ヒトゲノム配列上に、既知ペプチド性リガンド前駆体配列をマップした。完全一致でない場合も許すので、既知ペプチド性リガンド前駆体配列とは若干異なる配列候補をさらに抽出できる可能性がある。
【0104】
<2>既知のタンパク質配列を全て収めてあるDB(データベース)に対し、既知ペプチド性リガンド前駆体配列を検索した。
使用したDBを以下に一覧として記載する。
(A) nr 2005/05/29バージョン。Homo sapiensのみを対象。
(B) NCBIヒトゲノムアノテーション (BUILD35.1)
(a)protein.fa (annotated proteins)
(b)Gnomon_prot.fsa (ab initio protein predictions)
(C) Ensemblヒトゲノムアノテーション (BUILD35.1)
(a)Homo_sapiens.NCBI35.may.pep.fa (the super-set of all translations
resulting from Ensembl known or novel gene predictions)
(D) UCSCヒトゲノムアノテーション (BUILD35.1)
(a)knownGenePep.txt (Protein coding genes based on proteins from
SWISS-PROT, TrEMBL, and TrEMBL-NEW
and their corresponding mRNAs from GenBank)
(b)twinscanPep.txt (Translations of Twinscan gene predictions into
corresponding amino acid sequences)
(c)genscanPep.txt (Translations of Genscan gene predictions into
corresponding amino acid sequences)
(E) DIGITized Genes (BUILD34)
(a)chrN.pep (N: 1-22,X,Y,)
(F) H-invDB release 1.8
(a)orf_all.fa
【0105】
<3>ヒトゲノムとマウスやラットゲノムのシンテニー領域を見出し、その領域で相同性の高い部分をエクソン領域として同定する。開始コドンで始まるエクソン、終止コドンで終わるエクソン、およびそれらに挟まれたエクソン候補間で可能な組み合わせを全て網羅的に数え上げ、遺伝子を組み上げた。
【0106】
(2)前駆体から生成されるペプチド成熟体を予測
上記の(1)で同定した前駆体配列の中から、長さが数残基から十数残基程度であって、C末端側にトリプシン様酵素による切断モチーフ(Gly-Lys-Lys, Gly-Arg-Arg, Gly-Lys-Arg, Gly-Arg-Lys, Gly-Lys, Gly-Arg, Lys-Lys, Arg-Arg, Lys-Arg, Arg-Lys, Lys, Argのいずれか)を持つ配列、あるいは終止コドンで終わる配列を全て切り出してリストアップした。
【0107】
(3)モチーフ検索によるペプチド性リガンド候補予測
上記(2)でリストアップ済みのペプチドリガンド候補配列をモチーフとして、再びヒトゲノム配列へのマッピングと既知蛋白質配列への検索を行った。本発明においては、モチーフとしてボンベシン様ペプチド最小活性単位を使用した。
【0108】
まず<1>緩いモチーフで候補をスクリーニングし、次に、<2>より詳細なモチーフで候補を絞り込む、作業を行った。
【0109】
本発明においては、緩いモチーフとして、
Trp-Ala-X-Gly(配列番号:65)
を用いた。また詳細なモチーフとしては、以下に記載の配列を使用した。
Trp-Ala-X-Gly-[Ser / His]-[Leu / Phe]-Met(配列番号:66)
Trp-Ala-X-Gly-[Ser / His]-[Leu / Phe]-[Met / Asp / Glu](配列番号:67)
Trp-Ala-X-Gly-[Ser / His]-[Leu / Ile / Phe]-[Met / Asp / Glu](配列番号:68)
[Leu / Ile / Asp / Glu]-Trp-Ala-X-Gly-Ser-[Leu / Ile / Phe]-Met(配列番号:69)
[Leu / Ile / Asp / Glu]- Trp-Ala-[Val / Thr]-Gly-[Ser / His / Thr]-[Leu / Ile / Phe / Val]-[Met / Asp / Glu](配列番号:70)
【0110】
モチーフの一致度の算出は以下の様に行った。
例えば[Leu / Ile / Asp / Glu]- Trp-Ala-[Val / Thr]-Gly -[ Ser / His / Thr]-[ Leu / Ile / Phe / Val]-[ Met / Asp / Glu] (配列番号:70)の8残基のモチーフを想定し、各ヒットで何残基一致するかを調べ、一致度=一致残基数とした。(Trp, Ala, Glyは全てのヒットで一致するので加点から除外)。
【0111】
モチーフがゲノム配列上アミノ酸に翻訳した領域に、検索ごとに設定した特定の一致度以上のしきい値でヒットした場合は、その領域および前後の領域を伸ばし、蛋白質候補配列を組み上げた。一方、既知蛋白質DBにモチーフがヒットした場合は、ヒットした先の蛋白質配列を抽出した。
【0112】
以上の2つの過程で得られた蛋白質候補配列に対し、ソフトウェアSignalP 3.0を利用してシグナルペプチドの有無の判定を行った。シグナルペプチドを持つ場合、ペプチドリガンドの前駆体配列である可能性は高まる。
【0113】
同定した前駆体配列の中から、長さが数残基から十数残基程度であって、C末端側にトリプシン様酵素による切断モチーフ(Gly-Lys-Lys, Gly-Arg-Arg, Gly-Lys-Arg, Gly-Arg-Lys, Gly-Lys, Gly-Arg, Lys-Lys, Arg-Arg, Lys-Arg, Arg-Lys, Lys, Argのいずれか)を持つ配列、あるいは終止コドンで終わる配列を全て切り出してリストアップした。
【0114】
上記の方法により、ヒトゲノム配列からボンベシン様ペプチドの最小活性単位Trp-Ala-X-Gly-[His/Ser]-X-Met構造(Xは任意のアミノ酸残基)(配列番号:71)を含む複数の配列を抽出し、さらにBRS-3とのドッキングシュミレーションを行うことにより、BRS-3に結合・活性化するペプチドリガンドの最小活性単位の予測を行った。
【0115】
その結果、下記配列
Trp-Ala-Leu-Gly-Ser-Leu-Met(配列番号:10)
Trp-Ala-Pro-Gly-Ser-Leu-Met(配列番号:11)
Trp-Ala-Gln-Gly-Ser-Leu-Met(配列番号:12)
Trp-Ala-Thr-Gly-Ser-Leu-Met(配列番号:13)
Trp-Ala-Cys-Gly-Ser-Phe-Met(配列番号:14)
Trp-Ala-Lys-Gly-Ser-Leu-Met(配列番号:15)
Trp-Ala-Pro-Gly-Ser-Phe-Met(配列番号:16)
Trp-Ala-Val-Gly-Ser-Phe-Met-NH2(配列番号:17)
Trp-Ala-Ser-Gly-Ser-Leu-Met(配列番号:18)
Trp-Ala-Gly-Gly-His-Phe-Met(配列番号:19)
Trp-Ala-Met-Gly-Ser-Leu-Met(配列番号:20)
Trp-Ala-Phe-Gly-His-Phe-Met-NH2(配列番号:21)
が最小活性単位の候補として予測された(図1)。
【0116】
〔実施例2〕 最小活性単位を含むペプチドの設計および化学合成
実施例1により予測された最小活性単位を含む配列をヒトゲノム配列から抽出し、抽出した配列およびその鎖長をかえた誘導体の化学合成を行った。設計したペプチドのアミノ酸配列を、配列番号:21〜33(図3−A)、配列番号:34〜53(図3−B)、および配列番号:3、38、54〜64(図3−C)に示す。
【0117】
本発明のペプチドは、以下のBoc 法あるいはFmoc法を用いて簡易型ポリプロピレン反応容器中で固相合成し、その後精製を行った。
【0118】
(1)Boc法による合成
Boc法によるペプチド合成において、カルボキシル末端が遊離のカルボン酸の場合固相担体には PAM 樹脂を、アミド体の場合はp-methyl-benzhydrylamine樹脂を用い、α-amino 基の保護基にBoc 基を用い固相合成した。またBoc-アミノ酸の側鎖保護基としてArgにはtosyl基、 Asp には cyclohexyl 基、Cysには4-methylbenzyl基、Gluにはbenzyl ester基、Hisには2,4-dinitrophenyl (Dnp)基、Lysには2-chlorobenzyloxycarbonyl基、Serおよび Thr には benzyl 基、Tyrには2-bromobenzyloxycarbonyl基を用いた。最初に Boc-X- 樹脂(X は合成したいペプチドの C 末端アミノ酸)を 50 % TFA で処理し、N 末端の Boc 基を切断、続いて Boc-X の導入量に対し 2.5 当量の Boc- アミノ酸を DCC-HOBt 法で縮合させた。数時間後、Kaisar のニンヒドリンテストによって反応が完了しているかどうかを確認し、反応が充分でない場合は再度縮合反応を行なった。このように Boc 基の切断と保護アミノ酸の縮合反応を繰り返して C 末端より順次ペプチド鎖を延長し、保護ペプチド樹脂を得た。ただし、Trp のインドール環を保護するために、Trp 残基導入後の Boc 基の切断には 2 % エタンジチオールを含む 50% TFA を使用した。得られた保護ペプチド樹脂の脱保護および樹脂からの脱離は、無水フッ化水素処理により行なった。すなわち、保護ペプチド樹脂1g あたりアニソール(0.5 ml)、チオアニソール、エタンジチオール、硫化メチル(各 1 ml )存在下、10 ml の無水フッ化水素で氷冷下 1 時間処理してペプチドを樹脂から脱離し、同時に保護基を除去した。反応後直ちに HF を真空下で除去し、ペプチドおよび樹脂混合物をジエチルエーテルで洗浄した後、60% アセトニトリルによりペプチドを抽出し、減圧濃縮後凍結乾燥して粗ペプチドを得た。ただし、保護ペプチド樹脂に His が含まれている場合は 、Dnp 基をチオフェノール(20 mmol/mmol Dnp 基)で 1 時間反応させて除去した後、N 末端の Boc 基を切断、無水フッ化水素処理を行った。
【0119】
(2)Fmoc法による合成
Fmoc 法によるペプチド合成においては、固相担体に カルボキシル末端が遊離のカルボン酸の場合は Wang 樹脂を、アミド体の場合はRink amide樹脂を用いて固相合成した。アミノ酸の保護基としてα-アミノ基には Fmoc 基を、側鎖の保護には Asn、Cys、GlnおよびHisに triphenylmethyl ( Trt )基、Ser、ThrおよびTyrにtert-butyl( t-Bu ) 基、GluおよびAspにtert-butyl ester基、Argに 4-methoxy-2,3,6-trimethylbenzenesulfonyl ( Mtr )基あるいは2,2,4,6,7-pentamethyldihydrobenzofuran-5-sulfonyl(Pbf)基、LysおよびTrpには tert-butyloxycalbonyl ( Boc ) 基を用いた。まずWang樹脂あるいはRink amide樹脂をdichloromethane(DCM)中で膨潤させた後、これと2当量のDCC、0.2当量の dimethylaminopyridine ( DMAP )、Fmocアミノ酸をN,N'-dimethylformamide ( DMF ) 中において1時間反応させ Fmocアミノ酸-樹脂を得た。ペプチド鎖の伸長は Fmoc-アミノ酸-樹脂を25 % ピペリジン-DMF中で約30分処理して Fmoc基を除去した後、導入されたC末端アミノ酸に対して2.5当量のFmoc-アミノ酸、HOBt、DCCならびに、0.5当量のN,N',N''-diisopropylethylamine ( DIEA )、あるいは2.5当量のFmoc-アミノ酸、HOBt、2.25等量のHBTUならびに、4.5当量のDIEAを加えて30分〜数時間縮合する操作を繰り返すことで行なった。Fmoc基の脱離および縮合反応の進行は、微量の樹脂を反応容器より取り出してニンヒドリンテストを行なって確認した。得られた保護ペプチド-樹脂の脱保護および樹脂からの脱離はスカベンジャーとしてフェノール、チオアニソール、エタンジチオールを含むTFA 溶液( TFA : フェノール :チオアニソール:エタンジチオール:水=82.5:5:5:2.5:5 )で3時間処理することにより行なった。反応終了後に反応混合液を濃縮除去し、 1 M酢酸を用いてペプチドの抽出を行ない樹脂を濾別した。その後ジエチルエーテルによる洗浄を5回行ないスカベンジャーを除去し減圧濃縮した後、凍結乾燥することで粗ペプチドを得た。
【0120】
(3)合成ペプチドの精製
合成ペプチドの精製は逆相ODSカラム( 20 × 250 mm )を用いた RP-HPLC によって行った。精製は、0.1% TFA 存在下でアセトニトリルの直線的濃度勾配をかけて流速 5 ml /min で溶出を行い、214 nm の吸収を指標に主なピークを分取し、これを凍結乾燥することで精製ペプチドを得た。精製ペプチドの純度は、ODS(4.5 × 150 mm)カラムを使用した分析RP-HPLC により確認した。ペプチドの精製同様に、0.1% TFA 存在下でアセトニトリルの直線的濃度勾配をかけて流速 1 ml /min で溶出を行い、214 nm の吸収で検出した。またMALDI-TOF MS装置を用いて質量分析し、目的の質量数であることを確認した。次に、精製したペプチドを 2% フェノール、2% チオグリコール酸を含む 6 N 塩酸中で 110 ℃、24 時間加水分解し、加水分解物をアミノ酸分析計によって分析することでペプチドのアミノ酸組成を確認するとともに、その含有量を定量した。定量したペプチドは 100 nmol/tube で分注し、凍結乾燥後測定時まで冷凍保存した。またこれらは水に難溶性であるため、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し DMSO の終濃度が 0.1% となるようにした。その際この濃度で、それぞれの反応に影響がみられないことを確認した。
【0121】
〔実施例3〕 NMB受容体(NMBR)、GRP受容体(GRPR)ならびにBRS-3発現HEK293細胞の作製
NMB受容体(NMBR)、GRP受容体(GRPR)ならびにBRS-3を発現するHEK293細胞の作製を下記の工程により行った。
【0122】
(1)細胞培養
HEK293 細胞あるいはBRS-3安定発現HEK293細胞(BRS3/HEK293 stable、後述)の培養は、10%熱非働化ウシ胎児血清(FBS)含む DMEM 培地(10% FBS-DMEM)中で37 ℃、 CO2 濃度 5 %の条件下静置して行った。細胞培養には直径10 cmのcollagen-coated dishを用い、細胞がコンフルエントになるたびに継代した。すなわち、コンフルエントに細胞が増殖したdishの培地を吸引し除いた後PBSで洗浄し、つづいて0.025% Trypsin-EDTAを室温で1 分反応させ接着した細胞を回収した(trypsin-EDTA処理)。これに1 mlのtrypsin inhibitorを加えてtrypsinを不活性化した後、細胞懸濁液を15 mlの遠心管に移し、PBSで細胞懸濁液を15 mlにフィルアップして遠心(800 rpm, 4 min)、上清を吸引して除いた後、PBS 10 ml中に懸濁し細胞数を計測した。この細胞懸濁液をふたたび遠心、上清を吸引し、最後に1.0×106細胞/10 mlとなるよう10% FBS-DMEMに懸濁し、dishに播種した。
【0123】
(2)NMB受容体(NMBR)、GRP受容体(GRPR)ならびにBRS-3一過発現HEK293細胞の作製
コンフルエントに増殖したHEK293細胞dishの培地を吸引し除いた後、dish 1枚あたり5 mlのPBSで洗浄、0.025% Trypsin-EDTAを室温で1 分反応させ細胞を脱接着した(trypsin-EDTA処理)。これに1 mlのtrypsin inhibitorを加えてtrypsinを不活性化した後、この細胞懸濁液を15 mlの遠心管に移し、PBSで細胞懸濁液を15 mlにフィルアップして遠心(800 rpm、4 分)、上清を吸引して除いた後、PBS 10 ml中に懸濁し細胞数を計測した。この細胞懸濁液をふたたび遠心、上清を吸引し、計測した細胞数より計算してdish1枚あたり6.0 − 7.0 ×106細胞/ 10 mlとなるよう10% FBS-DMEMに懸濁し、collagen-coated dishに播種、37 ℃、 5%CO2で一晩培養した。24 時間後検鏡により培養密度がサブコンフルエントになったことを確認の上、NMBR遺伝子(cDNAを配列番号:72に、アミノ酸配列を配列番号:73に示す)、GRPR遺伝子(cDNAを配列番号:74に、アミノ酸配列を配列番号:75に示す)、またはBRS-3遺伝子(cDNAを配列番号:76に、アミノ酸配列を配列番号:77に示す)を組み込んだ細胞発現ベクターpcDNA3.1(pcDNA/NMBR、pcDNA/GRPRならびにpcDNA/BRS-3)12 μg 相当量を900μl のOPTI-MEM培地で希釈した溶液に45μlのLipofectamine 2000を900 μlのOPTI-MEM培地で希釈したものを静かに加え、室温で20分インキュベートし、これをHEK293細胞のdishに加え37 ℃、 5%CO2で一晩培養した。この後上述したようにtrypsin-EDTA処理により細胞を回収し、1 dishから回収した細胞を2 dish に再播種し、24 時間後活性評価に使用した(後述)。
【0124】
(3)BRS-3安定発現HEK293細胞の作製
コンフルエントに増殖したHEK293細胞dishの培地を吸引し除いた後、dish 1枚あたり5 mlのPBSで洗浄、上記の場合と同様にtrypsin-EDTA処理により細胞を回収し、細胞数を計測した。この細胞懸濁液をふたたび遠心、上清を吸引し、計測した細胞数より計算してdish1枚あたり6.0 - 7.0 ×106細胞/ 10mlとなるよう10% FBS-DMEMに懸濁し、collagen-coated dishに播種、37 ℃、5%CO2で一晩培養した。24 時間後検鏡により培養密度がサブコンフルエントになったことを確認の上、BRS-3遺伝子を組み込んだジェネティシン耐性遺伝子を持つpcDNA3.1細胞発現ベクター12 μg 相当量を900 μl のOPTI-MEM培地で希釈した溶液に45 μlのLipofectamine 2000を900 μlのOPTI-MEM培地で希釈したものを静かに加え、室温で20分インキュベートし、これをHEK293細胞のdishに加え37 ℃、 5%CO2で一晩培養した。この後dishの培地を吸引して除き、ジェネティシンを含む10% FBS-DMEM培地で2週間培養し、再びtrypsin-EDTA処理により生育した細胞コロニーを回収し、これを96ウエルプレートに1ウエル1細胞になるように播種し、RT-PCRでBRS-3遺伝子の発現を確認するとともにNMBによって細胞内カルシウム濃度が上昇する細胞を選択(評価法は後述)、これをBRS-3安定発現細胞(BRS3/HEK293 stable)とした。
【0125】
〔実施例4〕 HEK293細胞に発現したボンベシン様ペプチド受容体NMBR、GRPRならびにBRS-3を活性化するリガンドペプチドの評価
HEK293細胞に発現したボンベシン様ペプチド受容体NMBR、GRPRならびにBRS-3を活性化するリガンドペプチドの活性は、細胞内カルシウム濃度上昇活性により評価した。
【0126】
(1)評価方法
実施例2において化学合成したペプチドおよび誘導体について以下の工程により、ボンベシン様ペプチド受容体活性化能の評価を行った。実施例3において作製した各細胞を本評価方法に用いた。本評価方法の概念図を図2に示す。
【0127】
すなわち、受容体発現HEK293細胞をtrypsin-EDTA処理により回収しPBSで3回洗浄した後、1 ml のFluo-3 loading buffer(カルシウムイオン感受性蛍光物質であるFluo-3-AM 4.4 μM、Pulonic F127 0.02%、HEPES 20 mM、Probenecid 2.5 mMならびにBSA 0.1%を含むHBSS溶液)中に懸濁、回転撹拌装置で回転させながら37 ℃で1時間インキュベートすることでFluo-3を細胞に取り込ませた。これを800 rpmで4分間遠心し上清を吸引して除いた後、細胞を5 ml のFDSS用アッセイbuffer(HEPES 20 mM、Probenecid 2.5 mMならびにBSA 0.1%を含むHBSS溶液)中に懸濁し細胞を洗浄する操作を3回繰り返した後、細胞密度が1×105細胞/mlとなるようにFDSS用アッセイbufferに懸濁し、これを96ウエルoptical plateに40 μl/ウエルずつ分注した。これにリガンドペプチド溶液を10 μlずつ添加し、蛍光測定装置(FDSS 6000、浜松ホトニクス社製)にて480 nm で励起したときの530 nmにおける蛍光変化を経時的に測定した。
【0128】
(2)BRS-3を安定発現したHEK293細胞に対するペプチドの活性
まず始めに、BRS-3を安定発現したHEK293細胞に対する各合成ペプチドのBRS-3活性化能の評価を行った。
【0129】
その結果、BN3-001-03(配列番号:24)、BN3-001-04(配列番号:25)、BN3-001-05(配列番号26)、BN3-001-06(配列番号:27)、BN3-001-07(配列番号:28)、BN3-001-08(配列番号:29)、BN3-001-09(配列番号:30)、BN3-001-10(配列番号:31)、BN3-001-11(配列番号:32)、BN3-001-12(配列番号:33)、BN3-001-13(配列番号:21)、BN3-006-01(配列番号:38)、BN3-006-02(配列番号:54)、BN3-006-03(配列番号:55)、BN3-006-05(配列番号:57)、BN3-006-06(配列番号:3)、およびBN3-006-07(配列番号:58)において、ペプチド濃度20 μMの刺激により有意な細胞内遊離カルシウム濃度上昇が認められた(図4、5)。またこれらのうちBN3-001-06(配列番号:27)、BN3-001-07(配列番号:28)、BN3-001-08(配列番号:29)、BN3-001-11(配列番号:32)、BN3-001-12(配列番号:33)、BN3-001-13(配列番号:21)およびBN3-006-01(配列番号:38)、BN3-006-02(配列番号:54)、BN3-006-03(配列番号:55)、BN3-006-05(配列番号:57)、BN3-006-06(配列番号:3)においては、ペプチド濃度2 μMにおいても有意な活性が確認された(図4〜6)。
【0130】
(3)NMBR、GRPRならびにBRS-3を一過発現したHEK293細胞に対するペプチドの活性
上記活性の確認されたペプチドのうち、BN3-001-07(配列番号:28)、BN3-001-10(配列番号:31)、BN3-001-12(配列番号:33)、BN3-006-01(配列番号:38)、BN3-006-05(配列番号:57)、BN3-006-06(配列番号:3)、天然のボンベシン様ペプチドであるNMB、GRP-10、およびボンベシンについて、ボンベシン様ペプチド受容体NMBR、GRPR、またはBRS-3の活性化能を評価した。
【0131】
具体的には、ボンベシン様ペプチド受容体NMBR、GRPR、またはBRS-3を一過的に発現したHEK293細胞に対する、これらのペプチドの細胞内遊離カルシウム濃度上昇活性およびその濃度依存性を検討した。
【0132】
その結果、天然のボンベシン様ペプチドであるNMBおよびGRP-10はそれぞれの受容体に選択性を示すが、BRS-3についてはほとんど活性化しないこと、また、ボンベシンはNMBR、GRPRに対してほぼ同等の活性を示すが、BRS-3に対しては前記二つの受容体の場合に比較して非常に活性が弱いことが明らかとなった。(図7)
【0133】
さらに、活性予測ペプチドのうちBN3-006-06(配列番号:3)のみBRS-3に選択性を示し、NMBRおよびGRPRをほとんど活性化しないのに対し、BN3-001-07(配列番号:28)、BN3-001-10(配列番号:31)、BN3-001-12(配列番号:33)、およびBN3-006-01(配列番号:38)、BN3-006-05(配列番号:57)はNMBRに選択性を示すが、すべての受容体を濃度依存的に刺激することが明らかとなった(図8〜10)。
【0134】
以上の結果よりBN3-006-06が持つ構造NH2-Leu-Trp-Ala-Cys-Gly-Ser-Phe-Met-OH構造(配列番号:3)が、orphan GPCR であるBRS-3の選択的活性化に重要であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】既知哺乳動物由来ボンベシン様ペプチドの構造と最小活性単位を示す図である。A:既知ボンベシン様ペプチドの一次配列とその最小活性単位。GRP-10:ガストリン放出ペプチドC末端デカペプチド、NMB:ニューロメディンB。B:ヒトゲノム配列より予測したボンベシン様ペプチド最小活性単位。
【図2】ペプチドリガンド活性評価方法(詳細は実施例に記述)を示す図である。
【図3−A】ヒトゲノム配列より予測した新規ボンベシン様ペプチド配列(1)を示す図である。
【図3−B】ヒトゲノム配列より予測した新規ボンベシン様ペプチド配列(2)を示す図である。
【図3−C】ヒトゲノム配列より予測した新規ボンベシン様ペプチド配列およびフィロリトリン関連ペプチド配列を示す図である。なおフィロリトリン関連ペプチドとは、カエルにおいて存在する第3のサブファミリーのボンベシン様ペプチド(BN3-022-01〜06)で哺乳動物における存在は未だ確認されていないものである。
【図4】ヒトゲノム配列より予測したボンベシン様ペプチドのBRS-3安定発現HEK293細胞における細胞内遊離カルシウム濃度上昇効果を示す図である。
【図5】ヒトゲノム配列より予測したボンベシン様ペプチドおよびフィロリトリン関連ペプチドのBRS-3安定発現HEK293細胞における細胞内遊離カルシウム濃度上昇効果を示す図である。なおフィロリトリン関連ペプチドとは、カエルにおいて存在する第3のサブファミリーのボンベシン様ペプチド(BN3-022-01〜06)で哺乳動物における存在は未だ確認されていないものである。
【図6】ヒトゲノム配列より予測したボンベシン様ペプチドおよびフィロリトリン関連ペプチドのBRS-3安定発現HEK293細胞における細胞内遊離カルシウム濃度上昇効果の刺激ペプチド濃度依存性を示す図である。なおフィロリトリン関連ペプチドとは、カエルにおいて存在する第3のサブファミリーのボンベシン様ペプチド(BN3-022-02,04)で哺乳動物における存在は未だ確認されていないものである。
【図7】既知ボンベシン様ペプチドのNMBR、GRPRおよびBRS-3一過発現HEK293細胞における細胞内遊離カルシウム濃度上昇効果の刺激ペプチド濃度依存性を示す図である。
【図8】ヒトゲノム配列より予測したボンベシン様ペプチドのNMBR、GRPRおよびBRS-3一過発現HEK293細胞における細胞内遊離カルシウム濃度上昇効果の刺激ペプチド濃度依存性を示す図である。
【図9】ヒトゲノム配列より予測したボンベシン様ペプチド、フィロリトリン関連ペプチドおよびボンベシンのNMBR、GRPRおよびBRS-3一過発現HEK293細胞における細胞内遊離カルシウム濃度上昇効果の刺激ペプチド濃度依存性を示す図である。なおフィロリトリン関連ペプチドとは、カエルにおいて存在する第3のサブファミリーのボンベシン様ペプチド(BN3-022-02,04)で哺乳動物における存在は未だ確認されていないものである。
【図10】ヒトゲノム配列より予測したボンベシン様ペプチドおよびその中でBRS-3選択的活性化能を持つペプチドBN3-006-06のNMBR、GRPRおよびBRS-3一過発現HEK293細胞における細胞内遊離カルシウム濃度上昇効果の刺激ペプチド濃度依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表され、かつボンベシン受容体サブタイプ3のアゴニストとして作用することを特徴とするペプチド:
X1−X2−Trp−Ala−X3−Gly−X4
(式中、X1、X2、X3、およびX4は、任意に含まれていてもよいアミノ酸残基、またはアミノ酸配列である。)
【請求項2】
X3が、Cys、Val、またはPheのいずれかである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
X4が、Ser-Phe-Met、またはHis-Phe-Metである、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
X2が、AlaまたはLeuである、請求項1〜3のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
X1が、Lys-Lys-Arg-Lys-Tyr(配列番号:1)、Tyr、pGlu(ピログルタミン酸)、Ile-Ile-Asn-Leu-Glu(配列番号:2)、またはLeu-Gluのいずれかである、請求項1〜4のいずれかに記載のペプチド。
【請求項6】
以下の(a)または(b)のペプチド:
(a)配列番号:3、21、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、38、54、55、57または58に記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号:3、21、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、38、54、55、57または58に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつボンベシン受容体サブタイプ3のアゴニストとして作用することを特徴とするペプチド。
【請求項7】
カルボキシル末端がアミド化されたことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のペプチド。
【請求項8】
ボンベシン受容体サブタイプ3の選択的アゴニストとして作用することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のペプチド。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のペプチドをコードしているDNA。
【請求項10】
請求項9に記載のDNAを含むベクター。
【請求項11】
請求項10に記載のベクターが導入された形質転換体。
【請求項12】
請求項11に記載の形質転換体を培養または育種し、該形質転換体細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程を含む、請求項1〜7のいずれかに記載のペプチドの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象においてボンベシン受容体サブタイプ3を活性化させる方法。
【請求項14】
請求項9に記載のDNA、請求項10に記載のベクター、または請求項11に記載の形質転換体のいずれかを対象に投与する工程を含む、対象においてボンベシン受容体サブタイプ3を活性化させる方法。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれかに記載のペプチドを対象に投与する工程を含む、対象における肥満症を治療または予防する方法。
【請求項16】
請求項9に記載のDNA、請求項10に記載のベクター、または請求項11に記載の形質転換体のいずれかを対象に投与する工程を含む、対象における肥満症を治療または予防する方法。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれかに記載のペプチドを有効成分として含有する、肥満症を予防または治療するための薬剤。
【請求項18】
請求項9に記載のDNA、請求項10に記載のベクター、または請求項11に記載の形質転換体のいずれかを有効成分として含有する、肥満症を予防または治療するための薬剤。
【請求項19】
請求項1〜8のいずれかに記載のペプチドに結合する抗体。
【請求項20】
モノクローナル抗体である請求項19に記載の抗体。
【請求項21】
請求項1〜8のいずれかに記載のペプチド、または、請求項19もしくは20に記載の抗体を含有する、腫瘍細胞の増殖を検出するためのマーカー。
【請求項22】
請求項1〜8のいずれかに記載のペプチド、または、請求項19もしくは20に記載の抗体を含有する、代謝病を検出するためのマーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3−A】
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【図3−B】
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【図3−C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−215459(P2007−215459A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38503(P2006−38503)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】