ボールジョイント用ダストカバー
【課題】ボールスタッドの最大揺動角を大きくした場合でも、膜部の干渉を起こさないようにして破損を防止すると共に、ボールスタッドとの装着部の密着性を低下させないようにして、良好なシール性を維持することができるボールジョイント用ダストカバーを提供する。
【解決手段】ボールスタッド42とソケット58との間に装着される釣鐘形状の膜部14を有するダストカバー10に於いて、膜部14の小径開口部12との接続部外周面に、膜部14の外周面と小径開口部12の外周面20との境界部に向けて膜部14の厚さを減少させる第1肉厚規制面を設け、また、小径開口部12の内周面18の大径開口部16側に、内周面18のボールスタッド42の溝部50に対する締め代よりも小さい締め代でボールスタッド42の鍔部48に圧接するガイド面を備える。
【解決手段】ボールスタッド42とソケット58との間に装着される釣鐘形状の膜部14を有するダストカバー10に於いて、膜部14の小径開口部12との接続部外周面に、膜部14の外周面と小径開口部12の外周面20との境界部に向けて膜部14の厚さを減少させる第1肉厚規制面を設け、また、小径開口部12の内周面18の大径開口部16側に、内周面18のボールスタッド42の溝部50に対する締め代よりも小さい締め代でボールスタッド42の鍔部48に圧接するガイド面を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車両用リンク機構の連結装置として使用されるボールジョイントを保護するダストカバーに係り、特に、シール性が低下しないボールジョイント用ダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のサスペンション機構やステアリング機構に使用されるボールジョイントを保護するダストカバーとしては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
図10は、このような従来のダストカバーを本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの実施形態に適用して示した断面図である。また、図11は、図10のダストカバーを装着したボールジョイントを示す説明図、図12は、図11のボールスタッドが揺動した状態を示す説明図、図13は、図12のボールスタッドが更に揺動した状態を示す説明図である。
【0004】
図10において、ダストカバー100はゴム等の弾性材で形成され、釣鐘形状の膜部104の一端に小径開口部102、他端には大径開口部106を有し、小径開口部102には膜部104側から内周面108、突起部112、リップ部114を設け、大径開口部106には金属の補強環116を埋設した固定部118が形成されている。
【0005】
図11において、ボールジョイント120は、ボールスタッド122、ボールシート136、ソケット138及びダストカバー100で構成されており、ボールスタッド122の一端に形成した球形状の球頭部126を、ボールシート136を介してソケット138に組み込み、ソケット138の開口部140をカシメ成形してボールスタッド122を揺動及び回動自在に支持している。
【0006】
ダストカバー100は、開口部140から内部に水や埃が侵入するのを防止するためにボールスタッド122とソケット138の間に装着されており、小径開口部102の内周面108を弾性によりボールスタッド122の溝部130に圧接して嵌合すると共に、リップ部114をボールスタッド122の軸部132に密着させ、また、大径開口部106の固定部118を補強環116によりソケット138の外周部に固定している。
【0007】
このような構造のボールジョイント120においては、ソケット138に対するボールスタッド122の揺動に伴い、ダストカバー100の小径開口部102から大径開口部106の間の距離が変化する。
【0008】
この距離の変化に追従させるために、ボールスタッド122の軸部132からソケット138の外周部に亘って装着されたダストカバー100は、図10に示す未装着状態に対してボールスタッド122の軸方向(図の上下方向)に圧縮されており、膜部104は、中間部104aが径方向(図の左右方向)に膨らんだ形状になっている。
【0009】
つまり、図12に示すように、ボールスタッド122の揺動によってダストカバー100の小径開口部102から大径開口部106の距離が長くなる最大距離側(図の右側)では、膜部104の径方向に膨らんだ部分104cが直線状となる方向に弾性変形することで、ボールスタッド122の揺動を阻害しないようになっている。この時、ダストカバー100の小径開口部102から大径開口部106の距離が短くなる最小距離側(図の左側)では、その短くなった距離において、膜部104の中間部104bを屈曲して収容している。
【0010】
一方、ボールジョイント120の必要最大揺動角は、ボールジョイント120が取り付けられる車両側の部品の挙動によって決定されるため、ボールジョイント120側の構造上の都合で決めることはできない。また、車両側の要求、例えば、サスペンション上下ストロークの拡大や、タイヤ切れ角の拡大等の要求に伴い、ボールジョイント120の必要最大揺動角は大きくなる傾向にある。
【0011】
ボールジョイント120の最大揺動角を大きくするためには、ボールスタッド122の揺動に伴う、ダストカバーの小径開口部102から大径開口部106の距離の変化量が増大することに対応する必要があり、具体的には、膜部104の最大距離側の長さが不足しないように膜部104の長さを増やして、ダストカバー100装着時の圧縮量を大きくしている。
【0012】
更に、ボールジョイント120の最大揺動角を大きくするためには、ダストカバー100の小径開口部102と大径開口部106との距離の変化量の増大に伴い、膜部104の弾性変形の度合(伸張度)が増大することにも対応する必要があり、具体的には、膜部104から小径開口部102へ作用する力の影響によって、小径開口部102とボールスタッド122の間のシール性低下が起きないようにする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開平4−93514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このように膜部104の長さを増やした従来のボールジョイント用ダストカバー100においては、ボールジョイント120のボールスタッド122が揺動すると、図12に示すように、最小距離側(図の左側)では最大揺動角以下の揺動角βでも、膜部104bが固定部118の外周側角部に干渉してしまい、このような干渉が繰り返されるような状態でボールジョイント120を使用し続けると、膜部104の干渉部分Xが摩耗によって破損してしまう。
【0015】
また、図13に示すように、ボールスタッド122が最大揺動角αまで揺動すると、ダストカバー100の最大距離側(図の右側)では膜部104cから小径開口部102へ作用する張力が増大するため、小径開口部102とボールスタッド122との装着部Yの密着性が低下してしまう。
【0016】
更に、ダストカバー100の最小距離側では、膜部104の中間部104b同士が干渉することで、干渉部分Xの摩耗を助長すると共に、干渉部分Zも干渉部分Xと同様に摩耗によって破損するおそれが出てくる。
【0017】
従って、特許文献1に記載されたような従来のボールジョイント用ダストカバーでは、ボールスタッドの最大揺動角を大きくする場合、ダストカバーのシール性を維持できないという問題がある。
【0018】
本発明は、ボールスタッドの最大揺動角を大きくした場合でも、膜部の干渉を起こさないようにして破損を防止し、また、ボールスタッドとの装着部の密着性を低下させないようにして、良好なシール性を維持することができるボールジョイント用ダストカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的を達成するため本発明は次のように構成する。まず本発明は、一端に球頭部を設けたボールスタッドの軸部に形成された溝部に装着される小径開口部と、球頭部を回動可能に収容したソケットの外周部に装着される大径開口部と、小径開口部と大径開口部との間に形成される釣鐘形状の膜部とで構成されるボールジョイント用ダストカバーを対象とする。
【0020】
このようなボールジョイント用ダストカバーに於いて、膜部の小径開口部との接続部外周面に設けられ、膜部外周面と小径開口部外周面との境界部に向けて膜部の厚さを減少させる第1肉厚規制面と、小径開口部の内周面大径開口部側に設けられ、小径開口部内周面のボールスタッド溝部に対する締め代よりも小さい締め代でボールスタッド軸部の球頭部側外周部に圧接するガイド面とを備えたことを特徴とする。
【0021】
ここで、第1肉厚規制面と小径開口部外周面との境界部が、小径開口部の内周面大径開口部側端部に一致する平面上又はこの平面よりも大径開口部側に位置する。
【0022】
また、第1肉厚規制面と膜部外周面との境界部が、小径開口部のガイド面大径開口部側端部に一致する平面上又はこの平面よりも小径開口部側に位置する。
【0023】
更に、膜部の釣鐘形状を構成する略円錐台部と略円筒部との境界部近傍の内周面に設けられ、膜部の厚さを減少させる第2肉厚規制面を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ボールジョイント用ダストカバーの小径開口部と膜部との境界領域の外周側に第1肉厚規制面を設け、膜部の肉厚減少個所(屈曲部)の剛性を小さく(可撓性を大きく)したことで、膜部を屈曲部から安定的に小径開口部方向へ変形させることができる。
【0025】
これにより、ボールスタッドの揺動角が大きい場合でも、膜部と固定部の干渉が起こらず、摩耗による膜部の破損を防止することができるため、ボールスタッドの揺動角を大きくしてもダストカバーのシール性を維持できる。
【0026】
また、小径開口部の内周面大径開口部側にガイド面を設け、ボールスタッドの軸部に圧接させることで、膜部の伸張による屈曲部の大径開口部方向への変形を抑制することができる。
【0027】
これにより、ボールスタッドが大きな揺動を繰り返しても、屈曲部が大径開口部方向へ過度に変形することがなく疲労亀裂やオゾンクラックが発生しないため、ダストカバーのシール性を維持したまま第1肉厚規制面を設けることができる。
【0028】
更に、ガイド面を設けて屈曲部の大径開口部方向への変形を抑制したことで、ボールスタッドの揺動角を大きくした場合でも、小径開口部へ作用する膜部の伸張による力の影響が小さく小径開口部の圧着性を損なうことがないため、ダストカバーのシール性を維持することができる。
【0029】
また、第1肉厚規制面をガイド面の軸方向の両端間に位置させたことにより、屈曲部の耐久性(疲労亀裂やオゾンクラックの発生防止)や小径開口部の圧着性に対して、より大きな効果を得ることができる。
【0030】
また、膜部内周面に第2肉厚規制面を設けたことにより、膜部と固定部の干渉を更に発生しにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーを装着したボールジョイントの実施形態を示す説明図
【図2】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの実施形態を示す断面図
【図3】図1のボールスタッドが揺動した状態を示す説明図
【図4】図2のダストカバーの第1肉厚規制面とガイド面の詳細を示す説明図
【図5】図2のダストカバー小径開口部とボールスタッドとの寸法関係を示す説明図
【図6】図2のダストカバーの小径開口部内周面の他の実施形態を示す説明図
【図7】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの他の実施形態を示す説明図
【図8】図7のダストカバーを装着したボールジョイントのボールスタッドが揺動した状態を示す説明図
【図9】図7のダストカバーの第2肉厚規制面の詳細を示す説明図
【図10】従来のボールジョイント用ダストカバーを示す断面図
【図11】図10のダストカバーを装着したボールジョイントを示す説明図
【図12】図11のボールスタッドが揺動した状態を示す説明図
【図13】図12のボールスタッドが更に揺動した状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーを装着したボールジョイントの実施形態を示す説明図である。図1において、ボールジョイント40は、ボールスタッド42、ボールシート56、ソケット58、ダストカバー10で構成される。
【0033】
ボールジョイント40は、ボールスタッド42の一端に形成した球頭部46を、ボールシート56を介してソケット58に組み込み、ソケット58の開口部60からスタッド部44を突出させ、開口部60をカシメ成形してボールスタッド42を揺動及び回動自在に支持している。
【0034】
ボールスタッド42のスタッド部44とソケット58との間には、開口部60から内部に水や埃が侵入するのを防止するダストカバー10を装着しており、ダストカバー10は、弾性により小径開口部12の内周面18をスタッド部44の溝部50に圧接して嵌合すると共に、リップ部24をボールスタッド42の軸部52に密着させ、また、大径開口部16の固定部28を補強環26によりソケット58の外周部に固定している。
【0035】
図2は、図1のダストカバー10の詳細を示す断面図であり、ボールスタッド42とソケット58に装着する以前のダストカバー10単体の状態である。図2において、ダストカバー10はゴム等の弾性材で形成され、釣鐘形状の膜部14の一端に小径開口部12、他端には大径開口部16を有し、大径開口部16には金属の補強環26を埋込んだ固定部28が形成されている。
【0036】
ダストカバー10は、膜部14の小径開口部12との接続部の外周面に、第1肉厚規制面30を設けて接続部の肉厚を減少させ、この第1肉厚減少部32が、その両側部分よりも剛性が低くなるようにしている。これによって、ダストカバー10をボールスタッド42とソケット58に装着した場合に、この第1肉厚減少部32で積極的に屈曲させることができる。
【0037】
従って、ダストカバー10は、図1に示すように、ボールスタッド42とソケット58に装着した場合に、膜部14の径方向に膨らんだ部分14aが、図11に示す従来のダストカバー100の膜部104の径方向に膨らんだ部分104aに比べて、小径開口部12方向に位置している。
【0038】
図2において、小径開口部12は、外側に外周面20、内側に膜部14側から順にガイド面34、内周面18、突起部22、リップ部24を設けている。内周面18は円筒状で、ボールスタッド42に装着していない状態では、嵌合するボールスタッド42の溝部50の外径より小径となっている。
【0039】
リップ部24は、先端部の内径が根元部の内径より小径となっており、また、先端部の内径はボールスタッド42に装着していない状態では、ボールスタッド42の軸部52の外径より小径となっている。
【0040】
ダストカバー10は、小径開口部12の内周面18が弾性によりボールスタッド42の溝部50に嵌合し、内周面18と溝部50の外周面が密着することでシール性を確保し、また、リップ部24が弾性によりボールスタッド42の軸部52の外周面に密着し、これによって膜部14が大径開口部16側に引っ張られた際の小径開口部12のシール性を補強している。
【0041】
図3は、図1のボールスタッド42が揺動した状態を示す説明図である。図3に示すように、膜部14に第1肉厚規制面30を設けた場合には、ボールスタッド42が最大揺動角αまで揺動しても、ダストカバー10の小径開口部12から大径開口部16の距離が短くなる最小距離側(図の左側)において、膜部14bと固定部28との干渉や膜部14同士の干渉が起きにくくなっている。
【0042】
また、ダストカバー10の最大距離側(図の右側)では、膜部14cから小径開口部12へ作用する張力が増大しても、ガイド面34がボールスタッド42の鍔部48の外周部(ボールスタッド軸部の球頭部側外周部)に支えられているため、小径開口部12の変形が抑制され、ボールスタッド42との密着性が低下してしまうことはない。
【0043】
更に、ガイド面34により、第1肉厚規制面30の過度の変形が抑制され、屈曲部に疲労亀裂やオゾンクラックが発生せず、耐久性を維持することができる。
【0044】
図4は、ダストカバー10の第1肉厚規制面30とガイド面34の詳細を示す説明図であり、図4(A)は、図2に示す第1肉厚規制面30、図4(B)(C)は、第1肉厚規制面の他の実施形態である。
【0045】
図4(A)において、第1肉厚規制面30は、ダストカバー10の中心軸(図示していない)に直交する面となっており、ガイド面34の軸方向の両端間に位置している。
【0046】
また、図4(B)においては、第1肉厚規制面30は、図4(A)に対して角度γ傾斜しているが、その斜面30は、図4(A)と同様に、ガイド面34の軸方向の両端間に位置している。
【0047】
更に、図4(C)においては、第1肉厚規制面30は、図4(A)(B)の平面に対して半径Rの曲面となっているが、その曲面30は、図4(A)(B)と同様に、ガイド面34の軸方向の両端間に位置している。
【0048】
詳細には、図4(A)(B)(C)において、第1肉厚規制面30と小径開口部12の外周面20との境界部30aが、内周面18の外径開口部側端部18aに一致する平面上またはこの平面よりも大径開口部16側の範囲Aにあり、また、第1肉厚規制面30と膜部14の外周面14dとの境界部30bが、ガイド面34の大径開口部側端部34aに一致する平面上またはこの平面よりも小径開口部12側の範囲Bにある。
【0049】
ダストカバー10をこのように構成することによって、図4(A)に示すように、膜部14の小径開口部12との接続部は、境界部30bの肉厚Cから境界部30aの肉厚Dへ厚さがが減少し、肉厚Dの第1肉厚減少部32が膜部14の屈曲部となる。
【0050】
従って、第1肉厚規制面30をガイド面34の軸方向の両端間に位置させることによって、膜部14から作用する力による小径開口部12の変形や第1肉厚規制面30の過度の変形をより効果的に抑制することができる。
【0051】
また、第1肉厚規制面30と小径開口部12の外周面20との境界部30aの位置は、膜部14から作用する力による小径開口部12の変形抑制効果に影響し、第1肉厚規制面30と膜部14の外周面14dとの境界部30bの位置は、第1肉厚規制面30の過度の変形抑制効果に影響するため、各位置については、補強したい効果に応じて選択的に適用しても構わない。
【0052】
なお、本実施形態において、第1肉厚規制面30の両端部はエッジ状ではなく角R(かどアール)を設けているが、これはダストカバー10の材質であるゴム等の成形性や強度等から一般的な対応である。本願においては、この角Rを無視して各面の延長面が交差する位置を境界部と称している。
【0053】
図5は、図2のダストカバー10の小径開口部12とボールスタッド42との寸法関係を示す説明図であり、図5(A)はダストカバー10の小径開口部12、図5(B)はボールスタッド42のダストカバー装着部分である。
【0054】
図5(A)において、ダストカバー10の小径開口部12には、ボールスタッド42の溝部50に圧接して嵌合する内径φEの内周面18と、ボールスタッド42の鍔部48に圧接して嵌合する内径φFのガイド面34を形成している。
【0055】
図5(B)において、ボールスタッド42のスタッド部44には、ダストカバー10の内周面18に嵌合する外径φGの溝部50と、ダストカバー10のガイド面34に嵌合する外径φHの鍔部48を形成している。
【0056】
ここで、内周面18と溝部50との締め代をS1=φG−φE、ガイド面34と鍔部480との締め代をS2=φH−φFとすると、締め代S1と締め代S2の関係は、S1>S2となっている。
【0057】
すなわち、ガイド面34側の締め代S2は内周面18側の締め代S1よりも小さく、このように設定することで、ガイド面34よりも内周面18の方が強く圧接されるため、内周面18のシール性を阻害することなくガイド面34を構成することができる。
【0058】
本実施形態において、ダストカバー10の内周面18の形状は、内径φEの円筒状であるが、内周面18としてはこの形状に限らず他の形状でもよく、例えば、次に図6で示すような形状でも構わない。
【0059】
図6は、図2のダストカバー10の内周面18の他の実施形態を示す説明図である。図6(A)において、小径開口部12の内周面18bは、グリス溜め等を目的とした直径φIの円周方向の溝18cを設けている。また、図6(B)においては、ダストカバー10をボールスタッド42に装着する際に、小径開口部12がフランジ部54を乗り越えて挿入しやすいように内周面18dを角度δのテーパ状にしている。
【0060】
本実施形態においては、ダストカバー10の小径開口部12には、内周面18をボールスタッド42の溝部50に正確に位置決めして内周面18のシール性を確実にするための突起部22、及び、ボールスタッド42の軸部52に密着してシール性を補強するためのリップ部24が設けられているが、小径開口部12としては、この形状に限らず他の形状でもよく、例えば、突起部22を設けずに内周面18の軸方向の幅を溝部50に合わせた形状、リップ部24を設けない形状、突起部22及びリップ部24の両方を設けない形状でも構わない。
【0061】
図7は、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの他の実施形態を示す説明図であり、図2に示す実施形態に対して、第2肉厚規制面80及び第2肉厚減少部82が追加されている以外は同じ構成である。
【0062】
図7において、ダストカバー70は、膜部74の円錐台部74aと円筒部74bとの境界部、あるいはその近傍の内周面に第2肉厚規制面80を設けて境界部近傍の肉厚を減少させており、膜部74のこの第2肉厚減少部82が、その両側部分よりも剛性が低くなるようにしている。これによって、ダストカバー70をボールスタッド42とソケット58に装着した場合に、この第2肉厚減少部82で積極的に屈曲させることができる。
【0063】
図8は、図7のダストカバー70を装着したボールジョイント90のボールスタッド42が揺動した状態を示す説明図であり、図3に示す実施形態に対し、第2肉厚規制面80による第2肉厚減少部82で、ダストカバー70の膜部74が更に屈曲しやすくなっていること以外は同じである。
【0064】
従って、ボールスタッド42が最大揺動角αまで揺動しても、ダストカバー70の最小距離側(図の左側)において、膜部74bと固定部78との干渉や膜部74同士の干渉が、図3に示す実施形態よりも更に起きにくくなっている。
【0065】
図9は、図7のダストカバー70の第2肉厚規制面80の詳細を示す説明図であり、図9(A)は、図7に示す第2肉厚規制面80、図9(B)(C)は、第2肉厚規制面の他の実施形態である。
【0066】
図9(A)(B)(C)において、第2肉厚規制面80は、膜部74の円錐台部74aと円筒部74bとの境界部74cの内周面74dの円錐台部74a側に設けられている。ダストカバー70をこのように構成することによって、膜部74は、円筒部74bの肉厚Jから第2肉厚規制面80の肉厚Kへ厚さが減少し、円錐台部74aの肉厚Lへ厚さが増加することで、肉厚Kの第2肉厚減少部82は、その両側部分よりも剛性が低くなり膜部74の屈曲部となる。
【0067】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は、車両用リンク機構の連結装置として用いられるボールジョイントに限らず、ダストカバーを備えたあらゆるボールジョイントに適用可能であり、また上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含む。
【符号の説明】
【0068】
10、70、100:ダストカバー
12、102:小径開口部
14、74、104:膜部
16、106:大径開口部
18、108:内周面
20:外周面
22、112:突起部
24、114:リップ部
26、116:補強環
28、78、118:固定部
30:第1肉厚規制面
32:第1肉厚減少部
34:ガイド面
40、90、120:ボールジョイント
42、122:ボールスタッド
44:スタッド部
46、126:球頭部
48:鍔部(ボールスタッド軸部の球頭部側)
50、130:溝部
52、132:軸部
54:フランジ部
56、136:ボールシート
58、138:ソケット
60、140:開口部
80:第2肉厚規制面
82:第2肉厚減少部
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車両用リンク機構の連結装置として使用されるボールジョイントを保護するダストカバーに係り、特に、シール性が低下しないボールジョイント用ダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のサスペンション機構やステアリング機構に使用されるボールジョイントを保護するダストカバーとしては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
図10は、このような従来のダストカバーを本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの実施形態に適用して示した断面図である。また、図11は、図10のダストカバーを装着したボールジョイントを示す説明図、図12は、図11のボールスタッドが揺動した状態を示す説明図、図13は、図12のボールスタッドが更に揺動した状態を示す説明図である。
【0004】
図10において、ダストカバー100はゴム等の弾性材で形成され、釣鐘形状の膜部104の一端に小径開口部102、他端には大径開口部106を有し、小径開口部102には膜部104側から内周面108、突起部112、リップ部114を設け、大径開口部106には金属の補強環116を埋設した固定部118が形成されている。
【0005】
図11において、ボールジョイント120は、ボールスタッド122、ボールシート136、ソケット138及びダストカバー100で構成されており、ボールスタッド122の一端に形成した球形状の球頭部126を、ボールシート136を介してソケット138に組み込み、ソケット138の開口部140をカシメ成形してボールスタッド122を揺動及び回動自在に支持している。
【0006】
ダストカバー100は、開口部140から内部に水や埃が侵入するのを防止するためにボールスタッド122とソケット138の間に装着されており、小径開口部102の内周面108を弾性によりボールスタッド122の溝部130に圧接して嵌合すると共に、リップ部114をボールスタッド122の軸部132に密着させ、また、大径開口部106の固定部118を補強環116によりソケット138の外周部に固定している。
【0007】
このような構造のボールジョイント120においては、ソケット138に対するボールスタッド122の揺動に伴い、ダストカバー100の小径開口部102から大径開口部106の間の距離が変化する。
【0008】
この距離の変化に追従させるために、ボールスタッド122の軸部132からソケット138の外周部に亘って装着されたダストカバー100は、図10に示す未装着状態に対してボールスタッド122の軸方向(図の上下方向)に圧縮されており、膜部104は、中間部104aが径方向(図の左右方向)に膨らんだ形状になっている。
【0009】
つまり、図12に示すように、ボールスタッド122の揺動によってダストカバー100の小径開口部102から大径開口部106の距離が長くなる最大距離側(図の右側)では、膜部104の径方向に膨らんだ部分104cが直線状となる方向に弾性変形することで、ボールスタッド122の揺動を阻害しないようになっている。この時、ダストカバー100の小径開口部102から大径開口部106の距離が短くなる最小距離側(図の左側)では、その短くなった距離において、膜部104の中間部104bを屈曲して収容している。
【0010】
一方、ボールジョイント120の必要最大揺動角は、ボールジョイント120が取り付けられる車両側の部品の挙動によって決定されるため、ボールジョイント120側の構造上の都合で決めることはできない。また、車両側の要求、例えば、サスペンション上下ストロークの拡大や、タイヤ切れ角の拡大等の要求に伴い、ボールジョイント120の必要最大揺動角は大きくなる傾向にある。
【0011】
ボールジョイント120の最大揺動角を大きくするためには、ボールスタッド122の揺動に伴う、ダストカバーの小径開口部102から大径開口部106の距離の変化量が増大することに対応する必要があり、具体的には、膜部104の最大距離側の長さが不足しないように膜部104の長さを増やして、ダストカバー100装着時の圧縮量を大きくしている。
【0012】
更に、ボールジョイント120の最大揺動角を大きくするためには、ダストカバー100の小径開口部102と大径開口部106との距離の変化量の増大に伴い、膜部104の弾性変形の度合(伸張度)が増大することにも対応する必要があり、具体的には、膜部104から小径開口部102へ作用する力の影響によって、小径開口部102とボールスタッド122の間のシール性低下が起きないようにする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開平4−93514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このように膜部104の長さを増やした従来のボールジョイント用ダストカバー100においては、ボールジョイント120のボールスタッド122が揺動すると、図12に示すように、最小距離側(図の左側)では最大揺動角以下の揺動角βでも、膜部104bが固定部118の外周側角部に干渉してしまい、このような干渉が繰り返されるような状態でボールジョイント120を使用し続けると、膜部104の干渉部分Xが摩耗によって破損してしまう。
【0015】
また、図13に示すように、ボールスタッド122が最大揺動角αまで揺動すると、ダストカバー100の最大距離側(図の右側)では膜部104cから小径開口部102へ作用する張力が増大するため、小径開口部102とボールスタッド122との装着部Yの密着性が低下してしまう。
【0016】
更に、ダストカバー100の最小距離側では、膜部104の中間部104b同士が干渉することで、干渉部分Xの摩耗を助長すると共に、干渉部分Zも干渉部分Xと同様に摩耗によって破損するおそれが出てくる。
【0017】
従って、特許文献1に記載されたような従来のボールジョイント用ダストカバーでは、ボールスタッドの最大揺動角を大きくする場合、ダストカバーのシール性を維持できないという問題がある。
【0018】
本発明は、ボールスタッドの最大揺動角を大きくした場合でも、膜部の干渉を起こさないようにして破損を防止し、また、ボールスタッドとの装着部の密着性を低下させないようにして、良好なシール性を維持することができるボールジョイント用ダストカバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的を達成するため本発明は次のように構成する。まず本発明は、一端に球頭部を設けたボールスタッドの軸部に形成された溝部に装着される小径開口部と、球頭部を回動可能に収容したソケットの外周部に装着される大径開口部と、小径開口部と大径開口部との間に形成される釣鐘形状の膜部とで構成されるボールジョイント用ダストカバーを対象とする。
【0020】
このようなボールジョイント用ダストカバーに於いて、膜部の小径開口部との接続部外周面に設けられ、膜部外周面と小径開口部外周面との境界部に向けて膜部の厚さを減少させる第1肉厚規制面と、小径開口部の内周面大径開口部側に設けられ、小径開口部内周面のボールスタッド溝部に対する締め代よりも小さい締め代でボールスタッド軸部の球頭部側外周部に圧接するガイド面とを備えたことを特徴とする。
【0021】
ここで、第1肉厚規制面と小径開口部外周面との境界部が、小径開口部の内周面大径開口部側端部に一致する平面上又はこの平面よりも大径開口部側に位置する。
【0022】
また、第1肉厚規制面と膜部外周面との境界部が、小径開口部のガイド面大径開口部側端部に一致する平面上又はこの平面よりも小径開口部側に位置する。
【0023】
更に、膜部の釣鐘形状を構成する略円錐台部と略円筒部との境界部近傍の内周面に設けられ、膜部の厚さを減少させる第2肉厚規制面を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ボールジョイント用ダストカバーの小径開口部と膜部との境界領域の外周側に第1肉厚規制面を設け、膜部の肉厚減少個所(屈曲部)の剛性を小さく(可撓性を大きく)したことで、膜部を屈曲部から安定的に小径開口部方向へ変形させることができる。
【0025】
これにより、ボールスタッドの揺動角が大きい場合でも、膜部と固定部の干渉が起こらず、摩耗による膜部の破損を防止することができるため、ボールスタッドの揺動角を大きくしてもダストカバーのシール性を維持できる。
【0026】
また、小径開口部の内周面大径開口部側にガイド面を設け、ボールスタッドの軸部に圧接させることで、膜部の伸張による屈曲部の大径開口部方向への変形を抑制することができる。
【0027】
これにより、ボールスタッドが大きな揺動を繰り返しても、屈曲部が大径開口部方向へ過度に変形することがなく疲労亀裂やオゾンクラックが発生しないため、ダストカバーのシール性を維持したまま第1肉厚規制面を設けることができる。
【0028】
更に、ガイド面を設けて屈曲部の大径開口部方向への変形を抑制したことで、ボールスタッドの揺動角を大きくした場合でも、小径開口部へ作用する膜部の伸張による力の影響が小さく小径開口部の圧着性を損なうことがないため、ダストカバーのシール性を維持することができる。
【0029】
また、第1肉厚規制面をガイド面の軸方向の両端間に位置させたことにより、屈曲部の耐久性(疲労亀裂やオゾンクラックの発生防止)や小径開口部の圧着性に対して、より大きな効果を得ることができる。
【0030】
また、膜部内周面に第2肉厚規制面を設けたことにより、膜部と固定部の干渉を更に発生しにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーを装着したボールジョイントの実施形態を示す説明図
【図2】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの実施形態を示す断面図
【図3】図1のボールスタッドが揺動した状態を示す説明図
【図4】図2のダストカバーの第1肉厚規制面とガイド面の詳細を示す説明図
【図5】図2のダストカバー小径開口部とボールスタッドとの寸法関係を示す説明図
【図6】図2のダストカバーの小径開口部内周面の他の実施形態を示す説明図
【図7】本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの他の実施形態を示す説明図
【図8】図7のダストカバーを装着したボールジョイントのボールスタッドが揺動した状態を示す説明図
【図9】図7のダストカバーの第2肉厚規制面の詳細を示す説明図
【図10】従来のボールジョイント用ダストカバーを示す断面図
【図11】図10のダストカバーを装着したボールジョイントを示す説明図
【図12】図11のボールスタッドが揺動した状態を示す説明図
【図13】図12のボールスタッドが更に揺動した状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーを装着したボールジョイントの実施形態を示す説明図である。図1において、ボールジョイント40は、ボールスタッド42、ボールシート56、ソケット58、ダストカバー10で構成される。
【0033】
ボールジョイント40は、ボールスタッド42の一端に形成した球頭部46を、ボールシート56を介してソケット58に組み込み、ソケット58の開口部60からスタッド部44を突出させ、開口部60をカシメ成形してボールスタッド42を揺動及び回動自在に支持している。
【0034】
ボールスタッド42のスタッド部44とソケット58との間には、開口部60から内部に水や埃が侵入するのを防止するダストカバー10を装着しており、ダストカバー10は、弾性により小径開口部12の内周面18をスタッド部44の溝部50に圧接して嵌合すると共に、リップ部24をボールスタッド42の軸部52に密着させ、また、大径開口部16の固定部28を補強環26によりソケット58の外周部に固定している。
【0035】
図2は、図1のダストカバー10の詳細を示す断面図であり、ボールスタッド42とソケット58に装着する以前のダストカバー10単体の状態である。図2において、ダストカバー10はゴム等の弾性材で形成され、釣鐘形状の膜部14の一端に小径開口部12、他端には大径開口部16を有し、大径開口部16には金属の補強環26を埋込んだ固定部28が形成されている。
【0036】
ダストカバー10は、膜部14の小径開口部12との接続部の外周面に、第1肉厚規制面30を設けて接続部の肉厚を減少させ、この第1肉厚減少部32が、その両側部分よりも剛性が低くなるようにしている。これによって、ダストカバー10をボールスタッド42とソケット58に装着した場合に、この第1肉厚減少部32で積極的に屈曲させることができる。
【0037】
従って、ダストカバー10は、図1に示すように、ボールスタッド42とソケット58に装着した場合に、膜部14の径方向に膨らんだ部分14aが、図11に示す従来のダストカバー100の膜部104の径方向に膨らんだ部分104aに比べて、小径開口部12方向に位置している。
【0038】
図2において、小径開口部12は、外側に外周面20、内側に膜部14側から順にガイド面34、内周面18、突起部22、リップ部24を設けている。内周面18は円筒状で、ボールスタッド42に装着していない状態では、嵌合するボールスタッド42の溝部50の外径より小径となっている。
【0039】
リップ部24は、先端部の内径が根元部の内径より小径となっており、また、先端部の内径はボールスタッド42に装着していない状態では、ボールスタッド42の軸部52の外径より小径となっている。
【0040】
ダストカバー10は、小径開口部12の内周面18が弾性によりボールスタッド42の溝部50に嵌合し、内周面18と溝部50の外周面が密着することでシール性を確保し、また、リップ部24が弾性によりボールスタッド42の軸部52の外周面に密着し、これによって膜部14が大径開口部16側に引っ張られた際の小径開口部12のシール性を補強している。
【0041】
図3は、図1のボールスタッド42が揺動した状態を示す説明図である。図3に示すように、膜部14に第1肉厚規制面30を設けた場合には、ボールスタッド42が最大揺動角αまで揺動しても、ダストカバー10の小径開口部12から大径開口部16の距離が短くなる最小距離側(図の左側)において、膜部14bと固定部28との干渉や膜部14同士の干渉が起きにくくなっている。
【0042】
また、ダストカバー10の最大距離側(図の右側)では、膜部14cから小径開口部12へ作用する張力が増大しても、ガイド面34がボールスタッド42の鍔部48の外周部(ボールスタッド軸部の球頭部側外周部)に支えられているため、小径開口部12の変形が抑制され、ボールスタッド42との密着性が低下してしまうことはない。
【0043】
更に、ガイド面34により、第1肉厚規制面30の過度の変形が抑制され、屈曲部に疲労亀裂やオゾンクラックが発生せず、耐久性を維持することができる。
【0044】
図4は、ダストカバー10の第1肉厚規制面30とガイド面34の詳細を示す説明図であり、図4(A)は、図2に示す第1肉厚規制面30、図4(B)(C)は、第1肉厚規制面の他の実施形態である。
【0045】
図4(A)において、第1肉厚規制面30は、ダストカバー10の中心軸(図示していない)に直交する面となっており、ガイド面34の軸方向の両端間に位置している。
【0046】
また、図4(B)においては、第1肉厚規制面30は、図4(A)に対して角度γ傾斜しているが、その斜面30は、図4(A)と同様に、ガイド面34の軸方向の両端間に位置している。
【0047】
更に、図4(C)においては、第1肉厚規制面30は、図4(A)(B)の平面に対して半径Rの曲面となっているが、その曲面30は、図4(A)(B)と同様に、ガイド面34の軸方向の両端間に位置している。
【0048】
詳細には、図4(A)(B)(C)において、第1肉厚規制面30と小径開口部12の外周面20との境界部30aが、内周面18の外径開口部側端部18aに一致する平面上またはこの平面よりも大径開口部16側の範囲Aにあり、また、第1肉厚規制面30と膜部14の外周面14dとの境界部30bが、ガイド面34の大径開口部側端部34aに一致する平面上またはこの平面よりも小径開口部12側の範囲Bにある。
【0049】
ダストカバー10をこのように構成することによって、図4(A)に示すように、膜部14の小径開口部12との接続部は、境界部30bの肉厚Cから境界部30aの肉厚Dへ厚さがが減少し、肉厚Dの第1肉厚減少部32が膜部14の屈曲部となる。
【0050】
従って、第1肉厚規制面30をガイド面34の軸方向の両端間に位置させることによって、膜部14から作用する力による小径開口部12の変形や第1肉厚規制面30の過度の変形をより効果的に抑制することができる。
【0051】
また、第1肉厚規制面30と小径開口部12の外周面20との境界部30aの位置は、膜部14から作用する力による小径開口部12の変形抑制効果に影響し、第1肉厚規制面30と膜部14の外周面14dとの境界部30bの位置は、第1肉厚規制面30の過度の変形抑制効果に影響するため、各位置については、補強したい効果に応じて選択的に適用しても構わない。
【0052】
なお、本実施形態において、第1肉厚規制面30の両端部はエッジ状ではなく角R(かどアール)を設けているが、これはダストカバー10の材質であるゴム等の成形性や強度等から一般的な対応である。本願においては、この角Rを無視して各面の延長面が交差する位置を境界部と称している。
【0053】
図5は、図2のダストカバー10の小径開口部12とボールスタッド42との寸法関係を示す説明図であり、図5(A)はダストカバー10の小径開口部12、図5(B)はボールスタッド42のダストカバー装着部分である。
【0054】
図5(A)において、ダストカバー10の小径開口部12には、ボールスタッド42の溝部50に圧接して嵌合する内径φEの内周面18と、ボールスタッド42の鍔部48に圧接して嵌合する内径φFのガイド面34を形成している。
【0055】
図5(B)において、ボールスタッド42のスタッド部44には、ダストカバー10の内周面18に嵌合する外径φGの溝部50と、ダストカバー10のガイド面34に嵌合する外径φHの鍔部48を形成している。
【0056】
ここで、内周面18と溝部50との締め代をS1=φG−φE、ガイド面34と鍔部480との締め代をS2=φH−φFとすると、締め代S1と締め代S2の関係は、S1>S2となっている。
【0057】
すなわち、ガイド面34側の締め代S2は内周面18側の締め代S1よりも小さく、このように設定することで、ガイド面34よりも内周面18の方が強く圧接されるため、内周面18のシール性を阻害することなくガイド面34を構成することができる。
【0058】
本実施形態において、ダストカバー10の内周面18の形状は、内径φEの円筒状であるが、内周面18としてはこの形状に限らず他の形状でもよく、例えば、次に図6で示すような形状でも構わない。
【0059】
図6は、図2のダストカバー10の内周面18の他の実施形態を示す説明図である。図6(A)において、小径開口部12の内周面18bは、グリス溜め等を目的とした直径φIの円周方向の溝18cを設けている。また、図6(B)においては、ダストカバー10をボールスタッド42に装着する際に、小径開口部12がフランジ部54を乗り越えて挿入しやすいように内周面18dを角度δのテーパ状にしている。
【0060】
本実施形態においては、ダストカバー10の小径開口部12には、内周面18をボールスタッド42の溝部50に正確に位置決めして内周面18のシール性を確実にするための突起部22、及び、ボールスタッド42の軸部52に密着してシール性を補強するためのリップ部24が設けられているが、小径開口部12としては、この形状に限らず他の形状でもよく、例えば、突起部22を設けずに内周面18の軸方向の幅を溝部50に合わせた形状、リップ部24を設けない形状、突起部22及びリップ部24の両方を設けない形状でも構わない。
【0061】
図7は、本発明に係るボールジョイント用ダストカバーの他の実施形態を示す説明図であり、図2に示す実施形態に対して、第2肉厚規制面80及び第2肉厚減少部82が追加されている以外は同じ構成である。
【0062】
図7において、ダストカバー70は、膜部74の円錐台部74aと円筒部74bとの境界部、あるいはその近傍の内周面に第2肉厚規制面80を設けて境界部近傍の肉厚を減少させており、膜部74のこの第2肉厚減少部82が、その両側部分よりも剛性が低くなるようにしている。これによって、ダストカバー70をボールスタッド42とソケット58に装着した場合に、この第2肉厚減少部82で積極的に屈曲させることができる。
【0063】
図8は、図7のダストカバー70を装着したボールジョイント90のボールスタッド42が揺動した状態を示す説明図であり、図3に示す実施形態に対し、第2肉厚規制面80による第2肉厚減少部82で、ダストカバー70の膜部74が更に屈曲しやすくなっていること以外は同じである。
【0064】
従って、ボールスタッド42が最大揺動角αまで揺動しても、ダストカバー70の最小距離側(図の左側)において、膜部74bと固定部78との干渉や膜部74同士の干渉が、図3に示す実施形態よりも更に起きにくくなっている。
【0065】
図9は、図7のダストカバー70の第2肉厚規制面80の詳細を示す説明図であり、図9(A)は、図7に示す第2肉厚規制面80、図9(B)(C)は、第2肉厚規制面の他の実施形態である。
【0066】
図9(A)(B)(C)において、第2肉厚規制面80は、膜部74の円錐台部74aと円筒部74bとの境界部74cの内周面74dの円錐台部74a側に設けられている。ダストカバー70をこのように構成することによって、膜部74は、円筒部74bの肉厚Jから第2肉厚規制面80の肉厚Kへ厚さが減少し、円錐台部74aの肉厚Lへ厚さが増加することで、肉厚Kの第2肉厚減少部82は、その両側部分よりも剛性が低くなり膜部74の屈曲部となる。
【0067】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は、車両用リンク機構の連結装置として用いられるボールジョイントに限らず、ダストカバーを備えたあらゆるボールジョイントに適用可能であり、また上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含む。
【符号の説明】
【0068】
10、70、100:ダストカバー
12、102:小径開口部
14、74、104:膜部
16、106:大径開口部
18、108:内周面
20:外周面
22、112:突起部
24、114:リップ部
26、116:補強環
28、78、118:固定部
30:第1肉厚規制面
32:第1肉厚減少部
34:ガイド面
40、90、120:ボールジョイント
42、122:ボールスタッド
44:スタッド部
46、126:球頭部
48:鍔部(ボールスタッド軸部の球頭部側)
50、130:溝部
52、132:軸部
54:フランジ部
56、136:ボールシート
58、138:ソケット
60、140:開口部
80:第2肉厚規制面
82:第2肉厚減少部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に球頭部を設けたボールスタッドの軸部に形成された溝部に装着される小径開口部と、前記球頭部を回動可能に収容したソケットの外周部に装着される大径開口部と、前記小径開口部と大径開口部との間に形成される釣鐘形状の膜部とで構成されるボールジョイント用ダストカバーに於いて、
前記膜部の前記小径開口部との接続部外周面に設けられ、前記膜部外周面と前記小径開口部外周面との境界部に向けて前記膜部の厚さを減少させる第1肉厚規制面と、
前記小径開口部の内周面大径開口部側に設けられ、前記小径開口部内周面の前記ボールスタッド溝部に対する締め代よりも小さい締め代で前記ボールスタッド軸部の球頭部側外周部に圧接するガイド面と、
を備えたことを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項2】
請求項1記載のボールジョイント用ダストカバーに於いて、
前記第1肉厚規制面と前記小径開口部外周面との境界部が、前記小径開口部の内周面大径開口部側端部に一致する平面上又は前記平面よりも大径開口部側に位置することを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項3】
請求項1又は2記載のボールジョイント用ダストカバーに於いて、
前記第1肉厚規制面と前記膜部外周面との境界部が、前記小径開口部のガイド面大径開口部側端部に一致する平面上又は前記平面よりも小径開口部側に位置することを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のボールジョイント用ダストカバーに於いて、
前記膜部の釣鐘形状を構成する略円錐台部と略円筒部との境界部近傍の内周面に設けられ、前記膜部の厚さを減少させる第2肉厚規制面を備えたことを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項1】
一端に球頭部を設けたボールスタッドの軸部に形成された溝部に装着される小径開口部と、前記球頭部を回動可能に収容したソケットの外周部に装着される大径開口部と、前記小径開口部と大径開口部との間に形成される釣鐘形状の膜部とで構成されるボールジョイント用ダストカバーに於いて、
前記膜部の前記小径開口部との接続部外周面に設けられ、前記膜部外周面と前記小径開口部外周面との境界部に向けて前記膜部の厚さを減少させる第1肉厚規制面と、
前記小径開口部の内周面大径開口部側に設けられ、前記小径開口部内周面の前記ボールスタッド溝部に対する締め代よりも小さい締め代で前記ボールスタッド軸部の球頭部側外周部に圧接するガイド面と、
を備えたことを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項2】
請求項1記載のボールジョイント用ダストカバーに於いて、
前記第1肉厚規制面と前記小径開口部外周面との境界部が、前記小径開口部の内周面大径開口部側端部に一致する平面上又は前記平面よりも大径開口部側に位置することを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項3】
請求項1又は2記載のボールジョイント用ダストカバーに於いて、
前記第1肉厚規制面と前記膜部外周面との境界部が、前記小径開口部のガイド面大径開口部側端部に一致する平面上又は前記平面よりも小径開口部側に位置することを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のボールジョイント用ダストカバーに於いて、
前記膜部の釣鐘形状を構成する略円錐台部と略円筒部との境界部近傍の内周面に設けられ、前記膜部の厚さを減少させる第2肉厚規制面を備えたことを特徴とするボールジョイント用ダストカバー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−102840(P2012−102840A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253608(P2010−253608)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000115784)THKリズム株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000115784)THKリズム株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]