説明

ボールジョイント

【課題】耐久性及びシール性を効果的に向上させることができるボールジョイントを提供すること。
【解決手段】ボールジョイント1は、球頭部21及び軸部22を有するボールスタッド2と、球頭部21を回動自在に保持するソケット3と、ソケット3とボールスタッド2との間の開放間隙30を覆うダストカバー4とを有している。ダストカバー4は、ボールスタッド2の軸部22を挿通させる挿通穴41を有しており、挿通穴41の周縁部には、軸部22に嵌入配設されたリングプレート6と摺動するシール突起部が設けてある。シール突起部は、その表面にDLCコーティング膜を形成してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の部材を回動自在に接続することができるボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
回動自在のボールスタッドを有するボールジョイントは、例えば、自動車の懸架装置等に用いられている。
例えば、特許文献1に開示されるように、ボールジョイントは、ソケットにボールスタッドを回動自在に保持してなる。そして、ソケットとボールスタッドとの間の開放間隙からソケット内に泥水、埃等の異物が入ることを防止するために、ソケットとボールスタッドとの間には、上記開放間隙を覆うダストカバーを配設している。
【0003】
また、特許文献1に開示されるように、ダストカバーは、ボールスタッドの軸部を挿通させる挿通穴を有しており、この挿通穴の周縁部には、上記軸部に嵌入配設されたリングプレートと摺動するシール突起部が設けてある。そして、リングプレートとシール突起部との間からダストカバー内に泥水、埃等の異物が入ることを防止するために、シール突起部を、リングプレートに押し当てて押し潰している。
【0004】
ところで、上記シール突起部の押潰し量(締め代)を小さくすると、経時変化や熱履歴によってシール突起部がへたり、押潰し量がなくなってしまい、リングプレートとシール突起部との間に隙間が生じるおそれがある。
一方、シール突起部の押潰し量を大きくすると、リングプレートとシール突起部との間の摺動抵抗が大きくなってしまう。この場合には、シール突起部に加わる面圧が大きくなり、ボールスタッドの頻繁な回転、揺動運動により、シール突起部が摩耗しやすくなる。また、リングプレートとシール突起部との摺動が十分に行われない場合には、ダストカバーが、ボールスタッドと共回りして、ねじ切られてしまうおそれがある。
そのため、リングプレートとシール突起部との間の摺動抵抗を小さくするために、シール突起部にグリースを塗布してその摺動性を改善し、ダストカバーの耐久性を向上させている。
【0005】
しかしながら、シール突起部にグリースを塗布しただけでは、以下のような問題点がある。
すなわち、ボールジョイントの長期間の使用により、グリースが劣化して、組付当初の潤滑性能が保持できなくなるおそれがある。また、ダストカバーはゴム製であるため、グリースとの相性によっては、シール突起部が収縮又は膨張し、その耐久性、シール性が悪化するおそれがある。さらに、ボールジョイントを取り付けた自動車を使用せず、長期間放置した場合には、シール突起部にグリース切れが生じる(グリースの油膜がなくなってしまう)おそれがある。
よって、シール突起部の摩耗量の増加を抑制し、ボールジョイントの耐久性とシール性とを共に向上させるためには、一層の工夫が必要とされていた。
【0006】
【特許文献1】特開2002−98133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、耐久性及びシール性を効果的に向上させることができるボールジョイントを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、球頭部及び軸部を有するボールスタッドと、上記球頭部を回動自在に保持するソケットと、該ソケットと上記ボールスタッドとの間の開放間隙を覆うダストカバーとを有するボールジョイントにおいて、
上記ダストカバーは、上記軸部を挿通させる挿通穴を有しており、該挿通穴の周縁部には、上記軸部に嵌入配設されたリングプレートと摺動するシール突起部が設けてあり、
該シール突起部は、DLCコーティング膜を形成してなることを特徴とするボールジョイントにある(請求項1)。
【0009】
本発明のボールジョイントは、上記ダストカバーにおけるシール突起部に工夫を行っている。
具体的には、本発明のボールジョイントは、リングプレートと接触するシール突起部に、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング膜を形成することにより、シール突起部の摩擦係数を低減させ、耐摩耗性を向上させている。
【0010】
上記ボールジョイントは、ソケットに対してボールスタッドを自在に回動させることができる。また、ソケットとボールスタッドとの間の開放間隙は、ダストカバーによって覆われている。また、ダストカバーは、その挿通穴の周縁部を、ボールスタッドの軸部に嵌入配設されたリングプレートに係合させることにより、その一端がボールスタッドに取り付けてある。そして、リングプレートには、ダストカバーのシール突起部が接触しており、シール突起部が所定の押潰し量(締め代)で押し潰されている。これにより、リングプレートとシール突起部との間から上記ダストカバー内に泥水、埃等の異物が侵入することを防止している。
【0011】
上記ボールジョイントを使用する際に、ソケットに対してボールスタッドが回動するときには、ボールスタッドの軸部に嵌入配設されたリングプレートと、シール突起部とが摺動する。このとき、シール突起部にDLCコーティング膜が形成してあることにより、リングプレートに対するシール突起部の摩擦係数を効果的に減少させることができる。これにより、シール突起部の耐摩耗性を向上させることができる。
【0012】
また、上記シール突起部の摩擦係数を効果的に減少させることにより、リングプレートに対するシール突起部の押潰し量を大きくすることができる。これにより、リングプレートとシール突起部との間からダストカバー内に上記異物が侵入することを一層効果的に防止することができる。また、ボールジョイントの長期間の使用により、シール突起部にへたり等が生じても、上記異物の侵入を防止することができる。そのため、ボールジョイントのシール性を効果的に向上させることができる。
【0013】
また、シール突起部の押潰し量を大きくしても、摩擦係数を小さく維持できるため、シール突起部は常にリングプレートと摺動することができ、ダストカバーがねじれたり、破れたりすることを防止することができる。そのため、ボールジョイントの耐久性を向上させることができる。
それ故、本発明のボールジョイントによれば、耐久性及びシール性を効果的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上述した本発明における好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記シール突起部を含むダストカバーは、ゴム製のものとすることができ、例えば、クロロプレンゴム(CRゴム)、二トリルゴム(NBR)等から構成することができる。
【0015】
また、上記ボールジョイントは、上記ボールスタッドの上記軸部を、足回り部材に形成した貫通穴に挿通配置するよう構成してあり、上記ダストカバーは、上記足回り部材と接触するダスト突起部に、DLCコーティング膜を形成してなることが好ましい(請求項2)。
この場合には、ダスト突起部にDLCコーティング膜を形成することにより、ダスト突起部の摩擦係数を効果的に減少させることができる。これにより、懸架装置等の足回り部材に対するダスト突起部の押潰し量を大きくすることができ、足回り部材とダスト突起部との間からダストカバー内に上記異物が侵入することを一層効果的に防止することができる。そのため、ボールジョイントのシール性を一層効果的に向上させることができる。
【0016】
また、上記シール突起部におけるDLCコーティング膜は、いわゆるプラズマ重合法を用い、メタン等の炭化水素ガスに含まれる炭素を、シール突起部の表面に固着させて形成することができる。
また、上記シール突起部の表面にDLCコーティング膜を形成する際には、シール突起部の表面をプラズマ洗浄すると共に、この表面における炭素に水素ラジカルを結合させ、次いで、上記表面に炭化水素ガスを供給して、上記水素ラジカルを炭化水素ガスに含まれる炭素及び水素と反応させて除去すると共に、炭化水素ガスに含まれる炭素をシール突起部の表面に固着させることができる。この場合には、特にゴム製のシール突起部に対して、剥離が生じにくいDLCコーティング膜を形成することができる。
また、上記ダスト突起部の表面にDLCコーティング膜を形成する際にも、上記と同様の方法を用いることができる。
【実施例】
【0017】
以下に、本発明のボールジョイントにかかる実施例につき、図面と共に説明する。
本例のボールジョイント1は、図1に示すごとく、球頭部21及び軸部22を有するボールスタッド2と、球頭部21を回動自在に保持するソケット3と、このソケット3とボールスタッド2との間の開放間隙30を覆うダストカバー4とを有している。
【0018】
ダストカバー4は、図1、図2に示すごとく、ボールスタッド2の軸部22を挿通させる挿通穴41を有しており、この挿通穴41の周縁部には、軸部22に嵌入配設されたリングプレート6と摺動するシール突起部(シールリップ)5が設けてある。
そして、このシール突起部5は、図3に示すごとく、その表面にDLCコーティング膜7を形成してなる。なお、図3において、2点鎖線はDLCコーティング膜7の形成箇所を示す。
【0019】
以下に、本例のボールジョイント1につき詳説する。
図1に示すごとく、上記ソケット3は、上記ボールスタッド2の球頭部21と対向する保持凹部に、樹脂製のボールシート31を配設してなる。このボールシート31には、グリース溝が形成されている。
ダストカバー4内には、グリース10が注入してあり、このグリース10は、ボールシート31とボールスタッド2の球頭部21との間にも介在している。
【0020】
同図に示すごとく、上記ボールジョイント1は、ソケット3に対してボールスタッド2を自在に回動させるよう構成されている。ボールスタッド2が回動する動きとしては、回転Aと揺動Bとがあり、回転Aとは、ボールスタッド2の軸部22における軸心回りの動きをいい、揺動Bとは、ボールスタッド2の球頭部21の球中心を中心にして軸部22が左右に揺れる動きをいう。
【0021】
また、図1に示すごとく、上記ダストカバー4は、その一端に上記挿通穴41を有すると共に、その他端にソケット3の端部32を係合させる係合穴42を有している。この係合穴42には、ソケット3の端部32を嵌入させて、ダストカバー4をソケット3に固定するための嵌入部材45がダストカバー4と一体的に配設してある。
【0022】
そして、ダストカバー4は、その挿通穴41が、ボールスタッド2の軸部22に嵌入配設されたリングプレート6に係合される。また、ダストカバー4は、その係合穴42が、嵌入部材45によってソケット3の端部32に嵌入配設される。こうして、ダストカバー4は、ボールスタッド2の軸部22とソケット3との間に架け渡されている。
なお、ダストカバー4の係合穴42は、嵌入部材45を用いてソケット3の端部32に嵌入配設する代わりに、セットリング等の別部材を用いてソケット3の端部32に固定することもできる。
【0023】
また、図1に示すごとく、ダストカバー4は、ゴム製であり、可撓性を有している。そして、ダストカバー4は、ボールスタッド2が揺動Bする際に追従できるようになっている。
また、図2に示すごとく、シール突起部5は、円環形状を有しており、ダストカバー4の挿通穴41において、内周側(ボールスタッド2の中心軸側)に向けて突出して複数形成されている。また、ダストカバー4における挿通穴41の周囲には、補強用のリング44が配設されている。
【0024】
図2に示すごとく、リングプレート6は、金属製であり、円環形状を有している。リングプレート6は、ボールスタッド2の軸部22の外径よりも若干小さな内径を有する筒部61と、この筒部61におけるソケット3側の端部から径方向外方に向けて突出形成した鍔部62とからなる。そして、筒部61は、ボールスタッド2の軸部22に嵌入されており、鍔部62は、ダストカバー4の挿通穴41の近傍と当接して、ダストカバー4の一端を保持している。
【0025】
また、同図に示すごとく、シール突起部5の内径は、リングプレート6の筒部61の外径よりも若干小さくなっており、ダストカバー4の挿通穴41、リングプレート6の筒部61を挿通させている。そして、リングプレート6にシール突起部5が周状に接触していることにより、シール突起部5は、その全周が所定の押潰し量(締め代)X1で押し潰されている。これにより、リングプレート6とシール突起部5との間からダストカバー4内に泥水、埃等の異物が侵入することを防止している。
【0026】
また、図4に示すごとく、本例のボールジョイント1は、自動車の懸架装置に使用されるものであり、2つの足回り部材81、82の間に配設して、2つの足回り部材81、82を回動自在に接続している。
ソケット3は、一方の足回り部材81に固定してあり、ボールスタッド2の軸部22は、他方の足回り部材82に固定してある。また、ボールスタッド2の軸部22の先端部には、ねじ部221が形成してある。この軸部22の先端部は、他方の足回り部材82に形成した貫通穴821に挿通配置し、ねじ部221にナット222を螺合することによって他方の足回り部材82に固定してある。
【0027】
なお、図4においては、足回り部材81をアーム部材とし、足回り部材82をナックル部材とした。これ以外に、足回り部材81をナックル部材とし、足回り部材82をアーム部材とすることもできる。また、足回り部材81、82は、懸架装置の構造、種類によって決まるものであり、その他の種々の部材とすることができる。
【0028】
図3に示すごとく、ダストカバー4の挿通穴41の周縁部には、ボールスタッド2の軸部22の形成方向に向けてダスト突起部(ダストリップ)43が形成されている。このダスト突起部43の表面には、上記シール突起部5と同様にDLCコーティング膜7が形成されている。
そして、図2に示すごとく、他方の足回り部材82にダスト突起部43が接触していることにより、ダスト突起部43は、所定の押潰し量(締め代)X2で押し潰されている。これにより、泥水、埃等の異物が、上記リングプレート6とシール突起部5との間に到達しにくくなっている。
【0029】
また、図3に示すごとく、上記シール突起部5及びダスト突起部43におけるDLCコーティング膜7は、いわゆるプラズマ重合法を用い、メタン等の炭化水素ガスに含まれる炭素を、シール突起部5及びダスト突起部43の表面に固着させて形成したものである。
なお、DLCコーティング膜7は、シール突起部5とダスト突起部43とに部分的に形成するだけでなく、両者を含めた範囲の全体に形成することもできる。
【0030】
そして、上記ボールジョイント1を使用する際に、ソケット3に対してボールスタッド2が回動するときには、ボールスタッド2の軸部22に嵌入されたリングプレート6と、ダストカバー4のシール突起部5とが摺動する。このとき、シール突起部5にDLCコーティング膜7が形成してあることにより、リングプレート6に対するシール突起部5の摩擦係数を効果的に減少させることができる。これにより、シール突起部5の耐摩耗性を向上させることができる。
【0031】
また、上記シール突起部5の摩擦係数を効果的に減少させることにより、リングプレート6に対するシール突起部5の押潰し量X1を大きくすることができる。これにより、リングプレート6とシール突起部5との間からダストカバー4内に上記異物が侵入することを一層効果的に防止することができる。また、ボールジョイント1の長期間の使用により、シール突起部5にへたり等が生じても、上記異物の侵入を防止することができる。そのため、ボールジョイント1のシール性を効果的に向上させることができる。
【0032】
また、シール突起部5の押潰し量X1を大きくしても、摩擦係数を小さく維持できるため、シール突起部5は常にリングプレート6と摺動することができ、ダストカバー4がねじれたり、破れたりすることを防止することができる。そのため、ボールジョイント1の耐久性を向上させることができる。
【0033】
さらに、ダストカバー4のダスト突起部43にDLCコーティング膜7が形成してあることにより、ダスト突起部43の摩擦係数を効果的に減少させることができる。これにより、足回り部材82に対するダスト突起部43の押潰し量X2を大きくすることができ、足回り部材82とダスト突起部43との間からダストカバー4内に上記異物が侵入することを一層効果的に防止することができる。そのため、ボールジョイント1のシール性を一層効果的に向上させることができる。
【0034】
それ故、本例のボールジョイント1によれば、耐久性及びシール性を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例における、ボールジョイントを示す断面説明図。
【図2】実施例における、シール突起部及びダスト突起部の周辺を拡大して示す断面説明図。
【図3】実施例における、DLCコーティング膜を形成した状態のシール突起部及びダスト突起部を拡大して示す断面説明図。
【図4】実施例における、一対の足回り部材の間に配設したボールジョイントを示す説明図。
【符号の説明】
【0036】
1 ボールジョイント
2 ボールスタッド
21 球頭部
22 軸部
3 ソケット
30 開放間隙
4 ダストカバー
41 挿通穴
43 ダスト突起部
5 シール突起部
6 リングプレート
7 DLCコーティング膜
81、82 足回り部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球頭部及び軸部を有するボールスタッドと、上記球頭部を回動自在に保持するソケットと、該ソケットと上記ボールスタッドとの間の開放間隙を覆うダストカバーとを有するボールジョイントにおいて、
上記ダストカバーは、上記軸部を挿通させる挿通穴を有しており、該挿通穴の周縁部には、上記軸部に嵌入配設されたリングプレートと摺動するシール突起部が設けてあり、
該シール突起部は、DLCコーティング膜を形成してなることを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
請求項1において、上記ボールジョイントは、上記ボールスタッドの上記軸部を、足回り部材に形成した貫通穴に挿通配置するよう構成してあり、
上記ダストカバーは、上記足回り部材と接触するダスト突起部に、DLCコーティング膜を形成してなることを特徴とするボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−300204(P2006−300204A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122383(P2005−122383)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000185488)株式会社オティックス (305)
【Fターム(参考)】