説明

ボールジョイント

【課題】弾性部材の弾性特性が低下し難く、耐久性が良好なボールジョイントを提供する。
【解決手段】ボールジョイント1は、ボール部2を有するボールスタッド3と、ボール受け部4を有するハウジング5とを備える。ボール部2とボール受け部4との間には、ボール部2を回動可能に保持する略筒状のベアリングシート8を配設する。ベアリングシート8は、軸方向端部に周方向に沿った凹状溝部7を有する。この凹状溝部7内には、ベアリングシート8をボール部2に押し付けるクッションシート9を嵌め込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性部材の弾性特性が低下し難く、耐久性が良好なボールジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばボール部を有するボール側部材と、ボール受け部を有するボール受け側部材と、ボール部とボール受け部との間に位置しボール部を回動可能に保持する略筒状のシート部材と、シート部材とボール受け部との間に位置しシート部材をボール部に押し付ける弾性部材とを備えたボールジョイントが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−275176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のボールジョイントでは、例えばボール側部材に比較的大きな荷重が加わった場合には弾性部材が弾性変形してシート部材およびボール受け部間の隙間に入り込むため、弾性部材の弾性特性が低下し易く、耐久性に問題が生じるおそれがある。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、弾性部材の弾性特性が低下し難く、耐久性が良好なボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載のボールジョイントは、ボール部を有するボール側部材と、ボール受け部を有するボール受け側部材と、軸方向端面部に周方向に沿って凹状に形成された凹状溝部を有し、前記ボール部と前記ボール受け部との間に位置し、前記ボール部を回動可能に保持する略筒状のシート部材と、前記凹状溝部内に嵌め込まれ、前記シート部材を前記ボール部に押し付ける弾性部材とを備えるものである。
【0006】
請求項2記載のボールジョイントは、請求項1記載のボールジョイントにおいて、シート部材は、少なくとも硬質合成樹脂製の第1分割樹脂シートおよび第2分割樹脂シートにて構成され、前記第1分割樹脂シートは、ボール部のうち赤道より一方側の部分の外周側に組み付けられ、前記第2分割樹脂シートは、前記ボール部のうち赤道より他方側の部分の外周側に組み付けられているものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、シート部材の軸方向端面部に周方向に沿って凹状に形成された凹状溝部内に弾性部材が嵌め込まれているため、弾性部材の弾性特性が低下し難く、耐久性が良好である。
【0008】
請求項2に係る発明によれば、硬質合成樹脂製の第1分割樹脂シートおよび第2分割樹脂シートをボール部の外周側に容易に組み付けることができ、組立て性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のボールジョイントの一実施の形態を図面を参照して説明する。
【0010】
図1において、1はボールジョイントで、このボールジョイント1は、ピロボールとも呼ばれるもので、例えば自動車の懸架装置或いは操舵装置等に用いられる球面軸受である。
【0011】
ボールジョイント1は、ボール部2を有する鋼鉄製等のボール側部材であるボールスタッド3と、略円筒状のボール受け部4を有する金属製等のボール受け側部材であるハウジング5とを備えている。
【0012】
また、ボールジョイント1は、周方向に沿った凹状溝部7を有しボール部2の外周面とボール受け部4の内周面との間に位置しボール部2を回動可能に保持する略円筒状の硬質合成樹脂製のシート部材であるベアリングシート8と、凹状溝部7内に圧縮弾性変形した状態で嵌め込まれ全体が凹状溝部7内に位置し弾性復元力によりベアリングシート8をボール部2の外周面に押し付けてボール部2にプレロードを付与する略円筒状の弾性変形可能な合成樹脂製等の弾性部材であるクッションシート9と、ボール受け部4にかしめ固定されベアリングシート8およびクッションシート9の各軸方向一端面(図1中、上面)を支持しボール部2がボール受け部4内から抜け出るのを防止する略円筒状の金属製等の抜止部材であるプラグ10とを備えている。
【0013】
ボールスタッド3は、略球状の球頭部であるボール部2と、ボール部2から一方向に向って突出する略円柱状の軸部である第1スタッド部11と、ボール部2から一方向とは反対の他方向に向って突出する略円柱状の軸部である第2スタッド部12とを有している。そして、ボール部2は、2分割式のベアリングシート8とともにハウジング5のボール受け部4内に収容され、そのベアリングシート8を介してボール受け部4の内周面にて回動可能に保持されている。
【0014】
なお、ボール部2は、ベアリングシート8の内周面にて構成された摺接面8aに対してのみ回動可能に接触しており、ボール受け部4には非接触である。また、ボール部2の赤道Aを含む略2/3程度の球面(外周面)がベアリングシート8の保持面である摺接面8aにて覆われて摺動可能に保持されている。なお、ボール部2の赤道Aは、ボールスタッド3の軸方向に対して正面視で直交している。また、ボール部2の外周面とベアリングシート8の摺接面8aとの間には、潤滑剤であるグリースが保持され、ボール部2の回動である摺動は、グリース潤滑されている。
【0015】
ハウジング5は、両端面開口状の略円筒状のボール受け部4を有し、このボール受け部4は、軸方向一端部(図1中、上端部)に端面開口である第1開口16を有し、軸方向他端部(図1中、下端部)に端面開口である第2開口17を有している。また、ボール受け部4は、軸方向一端側の内周面に等径円筒面18を有し、軸方向他端側の内周面にボール部2の外周面に対応した球面の一部の形状をなす縮径円筒面19を有している。さらに、ハウジング5は、ボール受け部4の軸方向他端部に一体に突設された略円筒状のカバー被取付部20を有している。
【0016】
そして、ボール受け部4の軸方向一端部内周側にプラグ10がかしめ部23にてかしめ固定され、このプラグ10にて第1開口16の一部が閉塞されている。そして、ボールスタッド3の第1スタッド部11がプラグ10内に挿通され、この第1スタッド部11の先端側がボール受け部4外に位置する。ボールスタッド3の第2スタッド部12は第2開口17に挿通され、この第2スタッド部12の先端側がボール受け部4外に位置する。
【0017】
プラグ10は、略円環状の円板部21と、この円板部21の内周端部から一方向に向って突出し一方向に徐々に拡径する略截頭円錐状の円筒部22とを有している。そして、円板部21の外周端部がかしめ部23とかしめ段部24とにて挟持されることによりプラグ10がハウジング5のボール受け部4の軸方向一端部内周側に対してかしめ固定されている。
【0018】
また、プラグ10とボールスタッド3の第1スタッド部11との間には、両端面開口状の略円筒状のカバー部材である第1ダストカバー26が配設されている。第1ダストカバー26の軸方向一端部が第1スタッド部11の先端部外周側に嵌着され、第1ダストカバー26の軸方向他端部がプラグ10の円筒部22の外周側に嵌着され、その軸方向他端部が略円環状のクリップ27にて円筒部22に対して固定されている。
【0019】
さらに、ハウジング5のカバー被取付部20とボールスタッド3の第2スタッド部12との間には、両端面開口状の略円筒状のカバー部材である第2ダストカバー28が配設されている。第2ダストカバー28の軸方向一端部がカバー被取付部20の外周側に嵌着され、第2ダストカバー28の軸方向他端部が第2スタッド部12の先端部外周側に嵌着され、その軸方向一端部が略円環状のクリップ29にてカバー被取付部20に対して固定されている。
【0020】
なお、ダストカバー26,28は、ダストシール或いはブーツ等とも呼ばれるもので、例えば軟質ゴム或いは軟質合成樹脂等にて形成されている。
【0021】
ベアリングシート8は、このベアリングシート8の軸方向に分割されその軸方向に隣接して並んだ少なくとも2つの略円筒状の分割樹脂シート、すなわち例えば第1分割樹脂シート31および第2分割樹脂シート32のみにて構成されている。すなわち例えばベアリングシート8は、プラグ10側に位置する第1分割樹脂シート31と、プラグ10側とは反対側に位置する第2分割樹脂シート32とによって構成された2分割構造である。第1分割樹脂シート31と第2分割樹脂シート32との間には空間部33があり、この空間部33は、ボール部2の赤道Aの部分に臨んで位置する。なお、空間部33がなく、第1分割樹脂シート31と第2分割樹脂シート32とが接触する構成でもよい。
【0022】
第1分割樹脂シート31および第2分割樹脂シート32は、いずれも同じ高強度の硬質合成樹脂製のもので、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の高強度樹脂材にて一体に形成されている。
【0023】
ここで、第1分割樹脂シート31は、軸方向一端部(図1中、上端部)に端面開口である径小開口36を有し、軸方向他端部(図1中、下端部)に開口径寸法が径小開口36の開口径寸法より大きい径大開口37を有している。径大開口37の開口径寸法は、ボール部2の外径寸法より少し小さい。
【0024】
また、第1分割樹脂シート31は、軸方向一端側の内周面にボール部2と非接触でボール部2との間に空間部35を保持する等径円筒面38を有し、軸方向他端側の内周面にボール部2の外周面に対応した球面の一部の形状をなす縮径円筒面39を有している。この縮径円筒面39がボール部2の外周面を回動可能に保持する摺接面8aの一部となっている。第1分割樹脂シート31の外周面全体は、ボール受け部4の等径円筒面18に対応する形状の等径円筒面40にて構成されている。
【0025】
さらに、第1分割樹脂シート31は、軸方向一端側内部に第1分割樹脂シート31の周方向に沿った凹状溝部7を有している。すなわち例えば第1分割樹脂シート31の軸方向一端面部には、第1分割樹脂シート31の軸方向に沿った深さ方向を有し一方向つまりプラグ10側に向って開口する凹状溝部7が第1分割樹脂シート31の周方向に沿って全周にわたって凹状に形成されている。凹状溝部7は、第1分割樹脂シート31の軸方向一端面と同一面上に位置する開口7aを有している。凹状溝部7の深さ寸法は、例えば等径円筒面38の軸方向長さ寸法と略同じである。一方、クッションシート9は、弾性変形可能なポリウレタン、ポリエステル或いはゴム等の合成樹脂にて、断面形状が矩形状をなす略円筒状に一体に形成されている。
【0026】
そして、第1分割樹脂シート31は、ボール部2のうち赤道Aより一方側の部分の外周側に組み付けられている。
【0027】
また、第1分割樹脂シート31の凹状溝部7内にクッションシート9が圧縮弾性変形した状態で嵌め込まれ、この凹状溝部7の開口7aがプラグ10の円板部21にて閉塞され、クッションシート9全体が圧縮弾性変形した状態のまま凹状溝部7内に閉じ込められている。すなわちプラグの円板部21によって、第1分割樹脂シート31の軸方向一端面全体およびベアリングシート8の軸方向一端面全体が覆われて支持されている。そして、この閉じ込められたクッションシート9の弾性復元力により、第1分割樹脂シート31、ボール部2およびボール受け部4等の寸法公差が吸収されるとともに、縮径円筒面39がボール部2の外周面に押し付けられてボール部2等にプレロードが付与され、ボールスタッド3の安定した作動トルクが得られる。
【0028】
また、第2分割樹脂シート32は、軸方向一端部(図1中、上端部)に端面開口である径大開口41を有し、軸方向他端部(図1中、下端部)に開口径寸法が径大開口41の開口径寸法より小さい端面開口である径小開口42を有している。径大開口41の開口径寸法は、第1分割樹脂シート31の径大開口37と略同じで、ボール部2の外径寸法より少し小さい。
【0029】
また、第2分割樹脂シート32の内周面全体は、ボール部2の外周面に対応した球面の一部の形状をなす縮径円筒面43にて構成されている。この縮径円筒面43がボール部2の外周面を回動可能に保持する摺接面8aの一部となっている。第2分割樹脂シート32の外周面全体は、ボール受け部4の縮径円筒面19に対応する形状の縮径円筒面44にて構成されている。そして、第2分割樹脂シート32は、ボール部2のうち赤道Aより他方側の部分の外周側に組み付けられている。
【0030】
次に、上記ボールジョイント1の作用等を説明する。
【0031】
ボールジョイント1を組み立てる場合、第1分割樹脂シート31をボール部2の一方側部分の外周側に組み付けかつ第2分割樹脂シート32をボール部2の他方側部分の外周側に組み付けた後、これらボール部2および分割樹脂シート31,32をハウジング5のボール受け部4内に挿入する。
【0032】
次いで、第1分割樹脂シート31の凹状溝部7内にクッションシート9を圧縮弾性変形させて押し込む。この際、例えばクッションシート9の略全体が凹状溝部7内に押し込まれるが、クッションシート9の軸方向一端部が凹状溝部7の開口7aから凹状溝部7外に若干突出している。
【0033】
その後、プラグ10にボールスタッド3の第1スタッド部11を挿通させ、プラグ10の円板部21にてクッションシート9の凹状溝部7外に位置する突出部分を凹状溝部7内に圧縮弾性変形させて押し込んで凹状溝部7の開口7aを閉塞し、プラグ10の円板部21を第1分割樹脂シート31の軸方向一端面およびかしめ段部24に当接させる。
【0034】
この状態で、ハウジング5のボール受け部4の第1開口16に臨んだ部分をかしめ加工してかしめ部23を形成し、このかしめ部23とかしめ段部24とにてプラグ10の円板部21の外周端部を挟持固定する。その結果、クッションシート9全体が凹状溝部7内に圧縮弾性変形した状態で嵌め込まれてその凹状溝部7内に密閉された状態になり、そのクッションシート9の弾性復元力によりボール部2、ボール受け部4およびプラグ10にプレロード(予圧)が付与される。
【0035】
次いで、プラグ10とボールスタッド3の第1スタッド部11との間に第1ダストカバー26を装着し、ハウジング5のカバー被取付部20とボールスタッド3の第2スタッド部12との間に第2ダストカバー28を装着する。
【0036】
そして、こうして組み立てれたボールジョイント1によれば、クッションシート9の全体がベアリングシート8の凹状溝部7内に嵌め込まれて凹状溝部7の開口7aがプラグ10にて閉塞され、クッションシート9は逃げ場がないため、例えばボールスタッド3に比較的大きな荷重が加わった場合でも、クッションシート9が小さな隙間に入り込むように弾性変形することがない。よって、クッションシート9の弾性特性が低下し難く、つまりクッションシート9がへたりにくく、長期間使用してもクッションシート9の性能は維持され、耐久性が良好である。
【0037】
また、ベアリングシート8を構成する第1分割樹脂シート31および第2分割樹脂シート32をポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド等の高強度樹脂材にて形成することで、より一層耐久性を向上でき、またボール部2を小さくでき、小型化も可能である。
【0038】
さらに、ベアリングシート8を2分割構造としたため、硬質合成樹脂製の第1分割樹脂シート31および第2分割樹脂シート32をボール部2の外周側に容易に組み付けることができ、組立て性も良好である。
【0039】
なお、ボールスタッド3は、2つのスタッド部11,12を有するものには限定されず、例えば両スタッド部11,12の一方のみを有するものや、両スタッド部11,12の両方を有しないもの等でもよい。
【0040】
また、ベアリングシート8は、2分割構造には限定されず、3分割以上の分割構造でもよく、1つのシートで構成してもよい。
【0041】
さらに、プラグ10は、図1に示す形状のものには限定されず、例えば第1ダストカバー26の軸方向端部が嵌合する溝部を有する形状のもの等でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態に係るボールジョイントの断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ボールジョイント
2 ボール部
3 ボール側部材であるボールスタッド
4 ボール受け部
5 ボール受け側部材であるハウジング
7 凹状溝部
8 シート部材であるベアリングシート
9 弾性部材であるクッションシート
31 第1分割樹脂シート
32 第2分割樹脂シート
A 赤道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボール部を有するボール側部材と、
ボール受け部を有するボール受け側部材と、
軸方向端面部に周方向に沿って凹状に形成された凹状溝部を有し、前記ボール部と前記ボール受け部との間に位置し、前記ボール部を回動可能に保持する略筒状のシート部材と、
前記凹状溝部内に嵌め込まれ、前記シート部材を前記ボール部に押し付ける弾性部材と
を備えることを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
シート部材は、少なくとも硬質合成樹脂製の第1分割樹脂シートおよび第2分割樹脂シートにて構成され、
前記第1分割樹脂シートは、ボール部のうち赤道より一方側の部分の外周側に組み付けられ、
前記第2分割樹脂シートは、前記ボール部のうち赤道より他方側の部分の外周側に組み付けられている
ことを特徴とする請求項1記載のボールジョイント。

【図1】
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【公開番号】特開2009−293727(P2009−293727A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149144(P2008−149144)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】