説明

ボールジョイント

【課題】樹脂シートとボールスタッドの頭部との間に異物が侵入するのを抑制したボールジョイントを提供する。
【解決手段】ボールジョイントであるインナーボールジョイント10は、ハウジング12と、ボールスタッド11と、樹脂シート13とを備える。ハウジング12の収容部12bの開口部12cをかしめることにより、ハウジング12に対してボールスタッド11が揺動可能となるとともに、ハウジング12とボールスタッド11とが連結する。そして、樹脂シート13において、収容部12bのかしめの変形に伴い変形する変形部位13aのボールスタッド11の頭部11bと対向する内面には、環状凹溝13bが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに対して揺動可能なボールスタッドを備えたボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
上記ボールジョイントとしては、ボールスタッドの頭部を収容するハウジングの収容部に樹脂シートを介在させて、頭部と樹脂シートとを摺動させることにより、ハウジングに対して、ボールスタッドが揺動可能としたものが知られている。そして、このようなボールジョイントは、ハウジングの収容部の開口側の端部をかしめて、同端部と樹脂シートとを頭部側に変形させることにより、ハウジングとボールスタッドとを連結している連結構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−84221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ハウジングの収容部の端部をかしめた際に、かしめ方向とは反対方向に変形するスプリングバック現象が発生してしまう。そのため、収容部の端部とともに変形した樹脂シートも上記反対方向に変形するため、樹脂シートとボールスタッドの頭部との間に間隙が発生してしまう。この間隙に泥水、小石等の異物(以下、「異物」)が侵入してしまうと、異物によって頭部が磨耗してしまう問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂シートとボールスタッドの頭部との間に異物が侵入するのを抑制したボールジョイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、一端が開口された略円筒形状の収容部を有するハウジングと、前記収容部に収容される頭部及び前記頭部から延設される軸部を有するボールスタッドと、前記収容部及び前記頭部の間に介在するとともにグリスを介して前記頭部を摺動可能とする樹脂シートとを備え、前記収容部の開口端部をかしめることにより、前記ハウジングに対して前記ボールスタッドが揺動可能となるとともに、前記ハウジングと前記ボールスタッドとが連結するボールジョイントにおいて、前記樹脂シートには、前記収容部のかしめによる変形に伴い変形する変形部位を有し、前記変形部位における前記頭部と対向する内面には、環状凹溝が設けられることを要旨とする。
【0007】
この発明によれば、樹脂シートの変形部位の内面に環状凹溝が設けられることにより、収容部のかしめによる変形に伴う同変形部位の変形の際に、環状凹溝より軸部側である先端部が頭部と当接した状態を維持することができる。したがって、従来構造のような樹脂シートと頭部との間に間隙が形成されることにより、異物が樹脂シートと頭部との間に侵入することを抑制することができる。
【0008】
請求項2の発明は、一端が開口された略円筒形状の収容部を有するハウジングと、前記収容部に収容される頭部及び前記頭部から延設される軸部を有するボールスタッドと、前記収容部及び前記頭部の間に介在するとともにグリスを介して前記頭部を摺動可能とする樹脂シートとを備え、前記収容部の開口端部をかしめることにより、前記ハウジングに対して前記ボールスタッドが揺動可能となるとともに、前記ハウジングと前記ボールスタッドとが連結するボールジョイントにおいて、前記樹脂シートにおいて、前記頭部の中心位置に対応する外表面よりも軸部側の頭部の外表面と対向する内面には、環状凹溝が設けられることを要旨とする。
【0009】
この発明によれば、樹脂シートにおいて、頭部の中心位置の外表面よりも軸部側の頭部の外表面と対向する内面に環状凹溝が形成されることにより、収容部のかしめによる変形に伴う樹脂シートの変形の際に、環状凹溝より軸部側である先端部が頭部と当接した状態を維持することができる。したがって、従来構造のような樹脂シートと頭部との間に間隙が形成されることにより、異物が樹脂シートと頭部との間に侵入することを抑制することができる。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のボールジョイントにおいて、前記頭部と前記環状凹溝との間にて形成された空間が前記頭部の中心位置側に向かうにつれて狭くなるように、前記環状凹溝の形状を形成することを要旨とする。
【0011】
この発明によれば、この発明によれば、頭部と環状凹溝との間にて形成された空間が、頭部の中心位置側に向かうにつれて狭くなることにより、頭部が収容部に対して揺動した際に、頭部と樹脂シートとの間に充填されている潤滑剤であるグリスが、くさび効果の作用により、頭部の中心位置側に押し込まれる。したがって、グリスが最も涸渇しやすい頭部の中心位置に対応する外表面と同外表面に対向する樹脂シートの内面との間にグリスを供給することが可能となる。したがって、頭部の磨耗を抑制することができる。
【0012】
また、環状凹溝の形状のみを変更することにより、即ち、ボールスタッドの頭部の形状を変更しないことにより、樹脂シートと頭部との摺動性能への影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、樹脂シートとボールスタッドの頭部との間に異物が侵入するのを抑制したボールジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のボールジョイントを具体化した第1の実施形態について、同ボールジョイントを搭載した操舵装置の全体構造を示す模式図。
【図2】同実施形態のボールジョイントについて、操舵装置のタイロッドの具体的構造を示す断面図。
【図3】同実施形態のボールジョイントについて、(a)は、インナーボールジョイントを拡大した拡大図、(b)は、(a)の破線円を拡大した拡大図。
【図4】同実施形態のボールジョイントについて、(a)は、ハウジングの開口部のかしめ前の状態を示す断面図、(b)は、同開口部をかしめる際の状態を示す断面図、(c)は、同開口部をかしめた後の状態を示す断面図。
【図5】本発明のボールジョイントを具体化した第2の実施形態について、(a)同ボールジョイントの環状凹溝付近を拡大した拡大図、(b)は、(a)の一点鎖線円を拡大した拡大図。
【図6】比較例のボールジョイントについて、(a)は、ハウジングの開口部のかしめ前の状態を示す断面図、(b)は、同開口部をかしめる際の状態を示す断面図、(c)は、同開口部をかしめた後の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
図1〜図4、及び図6を参照して、本発明のボールジョイントを、車両の操舵装置に搭載されたボールジョイントとして具体化した第1の実施形態について説明する。
【0016】
まず、図1及び図2を参照して、操舵装置1の全体構成について説明する。
図1に示すように、操舵装置1は、運転者がステアリングホイール等の操舵部2を操作することにより、車両の車輪3の方向を変更させる装置である。具体的には、操舵装置1の操舵部2により、操舵部2に連結されたステアリングシャフト4を回転させる。そして、ステアリングシャフト4の回転は、中間シャフト5及びピニオンシャフト6を介して車両の車輪3に向かい延びる転舵軸としてのラックシャフト7の直線方向の移動に変換され、ラックシャフト7の直線方向の移動に伴い、車輪3の方向が変更される。
【0017】
また、ラックシャフト7は、タイロッド8によって車輪3に接続されている。そして、ラックシャフト7とタイロッド8とは、このタイロッド8に設けられたインナーボールジョイント10により直接的に連結され、タイロッド8と車輪3とは、上記タイロッド8に設けられるとともに、ナックル(不図示)に固定されるアウターボールジョイント20とを介して、間接的に連結されている。以下、図2を参照して、タイロッド8の具体的構造について説明する。
【0018】
図2に示すように、タイロッド8は、インナーボールジョイント10とアウターボールジョイント20との結合により構成されている。具体的には、ラックシャフト7に連結されたインナーボールジョイント10は、その軸部11aが、アウターボールジョイント20のハウジング22に螺合されている。詳しくは、軸部11aの先端部11a1には、雄ねじが形成され、対応するハウジング22には雌ねじが形成されている。そして、先端部11a1をハウジング22に螺合することにより、軸部11aはハウジング22に螺合されている。ここで、軸部11aの先端部11a1とハウジング22との螺合具合を調整することにより、トーイン調整が可能となっている。
【0019】
また、アウターボールジョイント20の軸部21は、車輪3(図1参照)と間接的に接続されている。このアウターボールジョイント20には、ハウジング22内への異物の侵入を防ぐためのブーツ23が設けられている。そして、ハウジング22には、潤滑剤であるグリスの漏洩を防ぐためのカバー部材24がかしめにより取り付けられている。
【0020】
ここで、ラックシャフト7(図1参照)に固定されるインナーボールジョイント10により、タイロッド8は、ラックシャフト7に対して図2中の矢印Y1のように揺動可能となる。そして、ナックルに固定されるアウターボールジョイント20により、アウターボールジョイント20がタイロッド8に対して図2中の矢印Y2のように揺動可能となるため、タイロッド8の揺動を車輪3へ伝達されることを抑制するとともに、車輪3の傾きをラックシャフト7へ伝達されることを抑制している。
【0021】
次に、図3を参照して、インナーボールジョイント10の詳細構造について説明する。以下、図中の一点鎖線に沿う方向を「軸方向」とする。この一点鎖線に沿う方向は、ラックシャフト7の軸方向に沿った方向である。また、軸方向において、軸部11aが配置される側を「外部側」とし、ハウジング12の固定部12aが配置される側を「内部側」とする。
【0022】
図3(a)に示すように、インナーボールジョイント10は、アウターボールジョイント20のハウジング22(図2参照)に接続されるボールスタッド11がラックシャフト7に固定されるハウジング12に対して、揺動可能となるように構成されている。なお、アウターボールジョイント20の構造は、ブーツ23及びカバー部材24が取り付けられたこと以外は、インナーボールジョイント10の構造と同一であるため、その詳細な構造の説明は省略する。
【0023】
ボールスタッド11には、ハウジング22(図2参照)に接続される軸部11aと、軸部11aの端部に一体に設けられた略球形状の頭部11bとが設けられている。そして、ハウジング12には、ラックシャフト7(図1参照)に固定される固定部12aと、固定部12aの軸方向の外部側の端部に一体に設けられるとともに、一端側である軸方向の外部側が開口した略有底円筒形状の収容部12bとが設けられている。この収容部12bの内面には、例えば、ポリアセタールによって構成された合成樹脂製であるとともに、略円筒形状に形成された樹脂シート13が固定されている。そして、樹脂シート13を介した収容部12b内に頭部11bが収容されている。即ち、樹脂シート13は、収容部12bと頭部11bとの間に介在している。また、樹脂シート13と頭部11bとの間には、潤滑剤であるグリスが充填されている。
【0024】
また、樹脂シート13において、頭部11bの軸方向の内部側の端部に略平面形状に形成された頂部11cと対向する位置には、貫通孔13dが設けられている。そして、樹脂シート13の貫通孔13d、頭部11b、及びハウジング12によって囲まれた空間として、グリス溜り部13eが形成されている。このグリス溜り部13eにグリスが充填されることにより、頭部11bの樹脂シート13に対する摺動に伴い、グリス溜り部13eからグリスが頭部11bと樹脂シート13との摺動部分に供給される。
【0025】
ここで、収容部12bの開口端部である開口部12cを頭部11bに向けてかしめることにより、ボールスタッド11とハウジング12とを互いに連結するとともに、収容部12bから頭部11bが離脱することを防止している。
【0026】
樹脂シート13の内面は、頭部11bの表面形状と略同一形状にて形成されている。そして、樹脂シート13には、収容部12bの開口部12cのかしめによる変形に伴い変形した変形部位13aが形成されている。そして、図3(b)に示すように、この変形部位13aの内面には、環状凹溝13bが設けられている。ここで、環状凹溝13bは、変形部位13aの全周に亘り設けられている。そして、樹脂シート13において、環状凹溝13bより軸方向の内部側である先端部13cは、その内面13c1が頭部11bと当接した状態が維持されている。これにより、異物が樹脂シート13と頭部11bとの間から侵入することを抑制している。
【0027】
次に、図4及び図6を参照して、樹脂シートに環状凹溝13bを設けた場合、及び樹脂シートに環状凹溝13bを設けない場合における樹脂シートと頭部との位置関係について説明する。
【0028】
まず、図4を参照して、ハウジング12の収容部12bのかしめ工程について説明する。
図4(a)に示すように、収容部12bにかしめが行われる前の状態では、収容部12bの円筒部12b1は、軸方向に沿って延設されている。そして、樹脂シート13も同様に、樹脂シート13の外面は、軸方向に沿って延設されている。また、樹脂シート13の内面は、軸方向の軸部11a側に向かい拡径するように傾斜している。そして、図4(a)の状態では、樹脂シート13において、ボールスタッド11の頭部11bを収容部12bに収容した状態における頭部11bの軸方向の中心位置Cより軸方向の内部側の部位(変形部位13a)は、頭部11bの軸方向の中心位置Cの径である最大径D1よりも大きい内径D2を有している。この状態において、頭部11bを収容部12b及び樹脂シート13内に収容する。
【0029】
次いで、図4(b)に示すように、頭部11bを収容部12b及び樹脂シート13内に収容した状態において、かしめ工具40により、収容部12bの円筒部12b1及び樹脂シート13の変形部位13aを頭部11bに向かい変形させる(即ち、かしめを行う)。
【0030】
ここで、図4(b)に示すように、収容部12bをかしめるときには、かしめ工具40による収容部12b及び樹脂シート13を変形させる力F1に対して頭部11bからの反力F2が発生する。この反力F2は、頭部11bと樹脂シート13の変形部位13aとが接触することにより発生する。この反力F2に起因して、収容部12bの円筒部12b1及び変形部位13aにはスプリングバック現象が発生する場合がある。
【0031】
ここで、本実施形態のように樹脂シート13に環状凹溝13bを設けた場合、収容部12bの開口部12cをかしめたときに、変形部位13aにおける環状凹溝13bが形成される部分については、頭部11bと変形部位13aとが接触していないため、頭部11bからの反力F2を受けることを回避している。これにより、上記開口部12cの環状凹溝13bが形成される部位については、スプリングバック現象の発生を抑制することができる。したがって、上記開口部12cをかしめたときに、先端部13cが頭部11bへ変形する力が向上する。その結果、先端部13cがつぶれる量(以下、「つぶし代」)が増大するため、スプリングバック現象による戻り量より大きくなり、図4(c)に示すような先端部13cの内面13c1と頭部11bとが当接した状態となる。
【0032】
一方、図6に示すように、樹脂シート130に環状凹溝を設けない場合、ハウジング120の収容部121の開口部122をかしめたときに、収容部121及び樹脂シート130を変形させる力F1に対する頭部111からの反力F2を樹脂シート130の変形部位131の全体に亘り受けてしまうため、上記開口部122の全体に対してスプリングバック現象が発生してしまう。したがって、上記開口部122をかしめたときに、開口部122のスプリングバック現象に伴い変形部位131も同様に戻ってしまう。その結果、変形部位131とボールスタッド110の頭部111との間に間隙Gが形成されてしまい、異物の侵入を許容してしまうこととなる。したがって、樹脂シート130と頭部111との間に異物が噛み込まれた状態において、頭部111が樹脂シート130に対して摺動するので、頭部111が傷付いてしまう場合があった。その点において、図4に示す本実施形態では、樹脂シート13の先端部13cの内面13c1と頭部11bとが当接した状態であるため、樹脂シート13と頭部11bとの間に異物が侵入することを抑制している。したがって、頭部11bが異物により傷付くことを抑制している。
【0033】
第1の実施形態のボールジョイントでは、以下に示す効果を奏することができる。
(1)本実施形態のボールジョイントでは、樹脂シート13の変形部位13aの内面に環状凹溝13bが設けられる構成である。この構成によれば、ハウジング12の収容部12bのかしめによる変形に伴う上記変形部位13aの変形の際に、環状凹溝13bより軸方向の内部側である先端部13cの内面13c1が頭部11bと当接した状態を維持することができる。したがって、図6に示す比較構造のような樹脂シート13と頭部11bとの間に間隙Gが形成されることに起因して、異物が樹脂シート13と頭部11bとの間に侵入することを抑制することができる。その結果、頭部11bが異物により傷付くことを抑制することができるため、頭部11bの磨耗に起因するインナーボールジョイント10のがたつきの発生を抑制することができる。
【0034】
その上、環状凹溝13bと頭部11bとに囲まれた空間S1(図3(b)参照)にグリスを充填することが可能となるため、図6に示す従来構造と比較して、充填するグリス量を増加させることができる。したがって、樹脂シート13と頭部11bとの間のグリスの涸渇に起因する頭部11bの磨耗を抑制することができる。その結果、インナーボールジョイント10の寿命を延長させることができる。
【0035】
(2)本実施形態のボールジョイントでは、樹脂シート13の射出成形の際、同時に環状凹溝13bを形成する構成である。この構成によれば、樹脂シート13の射出成形後に、後工程として、例えば、切削等により環状凹溝13bを形成する必要がなくなるため、樹脂シート13の製造工程を簡素化することができる。したがって、樹脂シート13のコストダウンを図ることができる。
【0036】
その上、図4(a)に示すように、樹脂シート13の肉厚は、頭部11bの軸方向の中心位置Cに対応する肉厚T1から先端部13cの肉厚T2に向かうにつれて小さくなる構成である。この構成によれば、樹脂シート13の先端部13c側が、外側に向かい弾性変形を生じやすくなっている。したがって、樹脂シート13の射出成形の際に環状凹溝13bを同時に形成する場合において、環状凹溝13bを形成するための金型の一部を円滑にスライドさせることが可能となる。
【0037】
また、樹脂シート13の変形部位13aを形成する際に、先端部13c側の肉厚T2が薄くなることにより、変形部位13aの変形が容易に行われる。先端部13cと頭部11bとの当接の維持をより確実に行うことができる。なお、以上の効果(1)及び(2)については、アウターボールジョイント20も同様の構造を採用することにより、同様の効果を奏することができる。
【0038】
(第2の実施形態)
図5を参照して、本発明のボールジョイントを、車両の操舵装置に搭載されたボールジョイントとして具体化した第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と比較して、樹脂シート13の環状凹溝の形状が異なるのみであるため、同一構成要素には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0039】
図5に示すように、樹脂シート13の環状凹溝30とボールスタッド11の頭部11bとの間には、空間S2が形成されている。この空間S2は、距離D1にて示される位置を最大距離として、頭部11bの軸方向の中心位置C(図5では不図示)に向かい、即ち、軸方向の内部側に向かい、その距離が徐々に小さくなるように形成されている。言い換えれば、環状凹溝30は、距離D1にて示される位置において、その深さが最も大きくなり、頭部11bの軸方向の中心位置Cに向かい徐々に深さが徐々に小さくなるように形成されている。即ち、空間S2はくさび形状に形成されている。
【0040】
また、この空間S2内には、潤滑油であるグリスが充填されている。ここで、空間S2がくさび形状であるため、頭部11bが樹脂シート13に対して矢印Y3の方向に摺動することにより、空間S2内のグリスは、くさび効果の作用によって頭部11bの軸方向の内部側である矢印Y4へ押し込まれていく。したがって、頭部11bと樹脂シート13との間において、最もグリスが涸渇しやすい頭部11bの中心位置Cの頭部11bの外表面と樹脂シート13の内面との間にグリスが供給される。
【0041】
第2の実施形態のボールジョイントでは、第1の実施形態の効果(1)〜(2)に加え、以下に示す効果を奏することができる。
(3)本実施形態のボールジョイントでは、頭部11bと環状凹溝30との間にて形成された空間S2が、頭部11bの軸方向の中心位置Cに向かうにつれて狭くなる構成である。この構成によれば、図5(b)に示すように、頭部11bが樹脂シート13に対して矢印Y3方向に摺動した際に、頭部11bと樹脂シート13との間に充填されているグリスが、くさび効果の作用により、頭部11bの軸方向の内部側である矢印Y4に押し込まれる。したがって、頭部11bと樹脂シート13との間において、グリスが最も涸渇しやすい頭部11bの軸方向の中心位置Cの頭部11bの外表面と樹脂シート13との間にグリスを供給することが可能となる。したがって、グリスの涸渇に起因する頭部11bの磨耗を抑制することができる。その結果、インナーボールジョイント10の寿命を延長させることができる。
【0042】
また、樹脂シート13の環状凹溝30の形状のみを変更することにより、即ち、ボールスタッド11の頭部11bの形状を変更しないことにより、樹脂シート13と頭部11bとの摺動性能への影響を抑制することができる。なお、以上の効果(3)については、アウターボールジョイント20も同様の構造を採用することにより、同様の効果を奏することができる。
【0043】
(その他の実施形態)
本発明のボールジョイントは、上記に例示した実施形態に限定されることなく、以下のように変更することができる。
【0044】
・第1及び第2の実施形態のボールジョイントでは、樹脂シート13の変形部位13aの内面に環状凹溝13bが形成されたが、樹脂シート13の内面における環状凹溝13bが形成される位置は、これに限定されることはない。例えば、環状凹溝13bは、樹脂シート13の内面において、ボールスタッド11の頭部11bの軸方向の中心位置Cに対応する外表面より軸部11a側の部位の外表面、即ち、同中心位置Cに対応する外表面より軸方向の外部側に対向する部位の外表面に形成されてもよい。この場合においても、第1の実施形態の効果(1)及び(2)に準じた効果を奏することができる。また、環状凹溝13bの形状を第2の実施形態の環状凹溝30と同様にすることにより、第2の実施形態の効果(3)に準じた効果も奏することができる。
・第1及び第2の実施形態のボールジョイントによれば、図2に示すように、タイロッド8は、インナーボールジョイント10及びアウターボールジョイント20から構成されていたが、タイロッド8の構成は、これに限定されることはない。例えば、タイロッドが基部となるシャフトと、このシャフトの軸方向の内部側及び外部側にそれぞれ固定されるインナーボールジョイント及びアウターボールジョイントとから構成されてもよい。
【0045】
・第1及び第2の実施形態のボールジョイントでは、ボールジョイントの適用例として、タイロッド8のインナーボールジョイント10及びアウターボールジョイント20について説明したが、ボールジョイントの適用例は、これに限定されることはない。例えば、サスペンションとナックルとを連結するボールジョイント等の他の車両部分に用いられるボールジョイントに適用してもよい。
【0046】
・第1及び第2の実施形態のボールジョイントでは、樹脂シート13に環状凹溝13b,30が1つのみ設けられた構成であったが、環状凹溝13b,30の個数はこれに限定されることはない。例えば、環状凹溝13b,30は2つ以上設けられてもよい。
【0047】
・第1及び第2の実施形態のボールジョイントでは、樹脂シート13に環状凹溝13b,30が設けられた構成であったが、環状凹溝13b,30が設けられる部材はこれに限定されることはない。例えば、ボールスタッド11の頭部11bの外表面に環状凹溝13b,30が設けられてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…操舵装置、2…操舵部、3…車輪、4…ステアリングシャフト、5…中間シャフト、6…ピニオンシャフト、7…ラックシャフト、8…タイロッド、10…インナーボールジョイント、11…ボールスタッド、11a…軸部、11a1…先端部、11b…頭部、11c…頂部、12…ハウジング、12a…固定部、12b…収容部、12b1…円筒部、12c…開口部(開口端部)、13…樹脂シート、13a…変形部位、13b…環状凹溝、13c…先端部、13c1…内面、13d…貫通孔、13e…グリス溜り部、20…アウターボールジョイント、21…軸部、22…ハウジング、23…ブーツ、24…カバー部材、30…環状凹溝、40…かしめ工具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口された略円筒形状の収容部を有するハウジングと、前記収容部に収容される頭部及び前記頭部から延設される軸部を有するボールスタッドと、前記収容部及び前記頭部の間に介在するとともにグリスを介して前記頭部を摺動可能とする樹脂シートとを備え、前記収容部の開口端部をかしめることにより、前記ハウジングに対して前記ボールスタッドが揺動可能となるとともに、前記ハウジングと前記ボールスタッドとが連結するボールジョイントにおいて、
前記樹脂シートには、前記収容部のかしめによる変形に伴い変形する変形部位を有し、
前記変形部位における前記頭部と対向する内面には、環状凹溝が設けられる
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
一端が開口された略円筒形状の収容部を有するハウジングと、前記収容部に収容される頭部及び前記頭部から延設される軸部を有するボールスタッドと、前記収容部及び前記頭部の間に介在するとともにグリスを介して前記頭部を摺動可能とする樹脂シートとを備え、前記収容部の開口端部をかしめることにより、前記ハウジングに対して前記ボールスタッドが揺動可能となるとともに、前記ハウジングと前記ボールスタッドとが連結するボールジョイントにおいて、
前記樹脂シートにおいて、前記頭部の中心位置に対応する外表面よりも軸部側の頭部の外表面と対向する内面には、環状凹溝が設けられる
ことを特徴とするボールジョイント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のボールジョイントにおいて、
前記頭部と前記環状凹溝との間にて形成された空間が前記頭部の中心位置側に向かうにつれて狭くなるように、前記環状凹溝の形状を形成する
ことを特徴とするボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−196846(P2010−196846A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44493(P2009−44493)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】