説明

ボールスプライン

【課題】潤滑不足を解消することができるボールスプラインを提供する。
【解決手段】スプライン軌道が設けられた軸2と、ボールを介して軸2に嵌め合わされたボールスプライン外筒4を備え、ボールスプライン外筒4は、スプライン軌道が形成された外筒本体17と、戻し通路が形成されかつ外筒本体17の内周に嵌め合わされた保持器18とを有するボールスプラインにおいて、保持器18内周に、軸方向にのびるグリース保持溝22が形成されている。保持器18の両端部に、グリースGを内部に流入しやすくするための面取り26が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールスプラインに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールスプラインはボールねじと組み合わされて、電動アクチュエータ用や緩衝器用としてよく使用されており、例えば、特許文献1には、ボールねじナットにモータを接続することで、ボールねじナットが回転して、上下にのびるねじ軸が軸方向に直線移動する形態とされたボールねじを緩衝器に適用することが開示されている。
【特許文献1】特開2005−264992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ボールスプラインの潤滑は、通常、グリース(無給脂)により行われるが、軸が直進移動する形態で使用された場合、ねじ軸に付着しているグリースが徐々にスプライン外筒の両端部に移動して、ここに堆積することで、潤滑不足となる可能性がある。
【0004】
この発明の目的は、潤滑不足を解消することができるボールスプラインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明によるボールスプラインは、スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、スプライン軌道が形成された略円筒状の外筒本体と、戻し通路が形成されておりかつ外筒本体の内周に嵌め合わされた略円筒状の保持器とを有しているボールスプラインにおいて、保持器内周に、軸方向にのびるグリース保持溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0006】
保持器は、例えば、保持器本体および保持器蓋からなるものとされ、グリース保持溝は、例えば、保持器本体の突き合わせ端面から反突き合わせ端部近くまでのびるように形成される。
【0007】
スプライン軌道は、時計方向の回転を受けるものと反時計方向の回転を受けるものとが対とされて、これが複数対(例えば3対)設けられる。軸の外周には、例えば、基準円筒面から突出するように形成された複数(例えば3つ)のボール受け部が設けられ、このボール受け部の時計方向側および反時計方向側に、それぞれスプライン軌道が形成される。これに対応して、外筒本体の内周には、ボール受け部の時計方向側のスプライン軌道に時計方向側から対向するスプライン軌道と、ボール受け部の反時計方向側のスプライン軌道に反時計方向側から対向するスプライン軌道とがそれぞれ形成される。ボールは、軸に形成されたスプライン軌道とボールスプライン外筒に形成されたスプライン軌道との間を転動して循環する。
【0008】
保持器に形成される戻し通路は、通常、スプライン軌道よりも径方向外方寄りに設けられ、そのため、戻し通路が形成されている保持器の部分は、厚肉部となっている。グリース保持溝は、強度的に有利なように、厚肉部の内周面に、戻し通路と所定の距離を保って形成されることが好ましい。グリース保持溝には、グリースを封入しておくことができ、グリース保持溝が長期にわたってグリースを保持することができることと相まって、ボールスプラインのグリース潤滑性が大幅に向上する。
【0009】
保持器の少なくとも一方の端部に、グリースを内部に流入しやすくするための面取りが施されていることが好ましい。面取りは、保持器の端面の内周部に沿ってかつ保持器の端面の開口が軸方向外方に向かって広がるように形成されることが好ましい。この面取りによって、保持器端面に溜まったグリースは、保持器内部に流入しやすいものとなる。面取りは、両端部に設けられていることが好ましいが、使用条件によっては、上端部にだけ設けるようにしてもよい。この面取りは、上記グリース保持溝と組み合わせて使用されることが好ましいが、グリース保持溝が形成されていない場合でも、潤滑性向上に寄与することができる。
【0010】
ボールスプラインは、好ましくは、ボールねじと組み合わされて、ボールねじ軌道および軸方向にのびるスプライン軌道が設けられたねじ軸と、ねじ軸のボールねじ軌道にボールを介してねじ合わされた回転自在のボールねじナットと、スプライン軌道にボールを介して嵌め合わされてねじ軸の軸方向直線運動を案内するボールスプライン外筒とからなるものとされる。
【0011】
このようなボールスプライン付きボールねじでは、ボールスプラインは、ボールスプライン外筒がキーなどの回り止め部によってハウジングに対して回り止めされ、ねじ軸の回転を防止して、ボールねじナットで発生するトルクの反力を受ける。
【0012】
ねじ軸、ボールねじナットおよびボールスプライン外筒本体は、例えば、S45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製とされ、保持器は、保持器本体および保持器蓋ともに、合成樹脂製とされる。また、ボールは、例えば、軸受鋼(SUJ2)製とされる。
【0013】
この発明によるボールスプラインは、ボールねじと組み合わされて、アクチュエータ(モータによってボールねじナットが回転させられ、これにより、ねじ軸が直線移動する形態)として使用されることがあり、緩衝器(ねじ軸が外部からの力によって直線移動させられ、これにより、ボールねじナットが回転し、モータが発生する電磁力が減衰力となる形態)として使用されることがある。
【0014】
アクチュエータや緩衝器で使用される場合には、例えば、ボールスプライン付きボールねじと、ボールねじナットに一体化された中空軸と、軸受を介して中空軸を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒を支持するハウジングと、中空軸に固定されたモータロータおよびハウジング内径に固定されたモータステータからなるモータとを備えているものとされる。
【0015】
ねじ軸は、往復直線移動し、通常、その所定量以上の移動を防止するためのストッパが設けられる。ストッパは、例えば、ねじ軸が所定量以上移動した際にハウジングに当接するフランジ部をねじ軸に設けることで形成することができ、また、ストッパは、ねじ軸と一体に直線移動する部材に形成してもよく、直線移動しない方の部材(ハウジングや中空軸)に設けることもできる。
【発明の効果】
【0016】
この発明のボールスプラインによると、保持器内周にグリース保持溝が形成されているので、グリース保持溝にグリースを封入しておくことができるとともに、グリース保持溝によって長期にわたってグリースを保持することができ、ボールスプラインのグリース潤滑性を大幅に向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図の上下をいうものとする。
【0018】
図1から図5までは、この発明によるボールスプラインを使用したモータ付きボールねじ装置を示している。
【0019】
図1に示すように、モータ付きボールねじ装置(1)は、ボールねじ軌道(2a)および上下方向にのびるスプライン軌道(2b)が設けられた上下にのびる鋼製ねじ軸(2)と、ねじ軸(2)のボールねじ軌道(2a)にボールを介してねじ合わされた回転自在の鋼製ボールねじナット(3)と、ねじ軸(2)の下端部側においてスプライン軌道(2b)にボールを介して嵌め合わされてねじ軸(2)の上下方向(軸方向)直線運動を案内するボールスプライン外筒(4)と、ボールねじナット(3)に一体化されて上方にのびる中空軸(5)と、軸受(7)を介して中空軸(5)を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒(4)を支持するハウジング(6)と、中空軸(5)に固定された円筒状のモータロータ(9)およびハウジング(6)内径に固定された円筒状のモータステータ(10)からなるモータ(8)とを備えている。
【0020】
モータ(8)は、永久磁石型三相同期モータとされており、モータロータ(9)が永久磁石とされて、モータステータ(10)にU相、V相およびW相の三相のコイル(10a)が巻かれている。
【0021】
ねじ軸(2)と中空軸(5)とは、同心状に配置されており、ボールねじ装置(1)は、ボールねじナット(3)、中空軸(5)およびモータロータ(9)を回転させて、ねじ軸(2)を直線移動させる形態で使用される。
【0022】
中空軸(5)は、ねじ軸(2)を案内する小径部(11)と、内周面がボールねじナット(3)の外周面に固定されかつ外周面に軸受(7)を保持する大径部(12)とからなる。
【0023】
ボールスプライン外筒(4)は、ねじ軸(2)の回転を防止してその上下移動を案内するために、回り止め部(例えばキー)(13)によってハウジング(6)に対して回り止めされる。
【0024】
図2に示すように、ボールスプライン外筒(4)は、略円筒状の金属製外筒本体(17)と、外筒本体(17)の内周に固定された略円筒状の保持器(18)とを備えている。ボールスプライン外筒(4)は、ねじ軸(2)の外周に径方向に若干の隙間を空けて嵌められている。
【0025】
ねじ軸(2)の外周には、基準円筒面から突出するように形成された3つのボール受け部(15)が周方向に等間隔で設けられており、このボール受け部(15)の時計方向側肩部および反時計方向側肩部に、それぞれスプライン軌道(2b)(2c)が形成されている。これに対応して、ボールスプライン外筒(4)の内周には、ボール受け部(15)の時計方向側のスプライン軌道(2b)に時計方向側から対向するスプライン軌道(4a)と、ボール受け部(15)の反時計方向側のスプライン軌道(2c)に反時計方向側から対向するスプライン軌道(4b)とがそれぞれ形成されている。こうして、ねじ軸(2)が時計方向に回転しようとしたときにそのトルクを負荷するスプライン軌道(2b)(4a)と、ねじ軸(2)が反時計方向に回転しようとしたときにそのトルクを負荷するスプライン軌道(2c)(4b)とが対とされて、これが3対設けられている。
【0026】
外筒本体(17)のスプライン軌道(4a)(4b)に対応する保持器(18)の部分に、両スプライン軌道(2b)(2c)(4a)(4b)との間を転動するボール(16)を案内するスリット(19)が形成されている。スリット(19)を介して対向する両スプライン軌道(2b)(2c)(4a)(4b)の間の空間が、ボール(16)が転動する主通路(20)となっている。
【0027】
保持器(18)には、外筒本体(17)との間に、主通路(20)の左右両端部と連通する戻し通路(21)が形成されている。各戻し通路(21)は、対となっている主通路(20)を周方向の両側から挟むように設けられている。保持器(18)に形成されている戻し通路(21)は、径方向外方に開口しており、外筒本体(17)の大径内周面によってこの開口が塞がれている。戻し通路(21)は、主通路(20)よりも径方向外方寄りに設けられており、戻し通路(21)が形成されている保持器(18)の部分は、厚肉部(18a)となっている。厚肉部(18a)は保持器(18)のうちで強度が最も大きい部分であり、周方向に等間隔で3つある各厚肉部(18a)の内周には、断面が台形で軸方向にのびるグリース保持溝(22)が設けられている。
【0028】
ボール(16)は、主通路(20)および戻し通路(21)内に配設され、主通路(20)を転動するボール(16)がねじ軸(2)とボールスプライン外筒(4)の相対直線運動を案内するようになっている。主通路(20)および戻し通路(21)により、ボール循環路が構成されている。
【0029】
保持器(18)は、図5に示すように、略円筒状の樹脂製保持器本体(23)と、保持器本体(23)に上方から被せられた樹脂製保持器蓋(24)とからなり、1対の止め輪(25)によって、外筒本体(17)に保持されている。保持器本体(23)と保持器蓋(24)とは、爪(24a)によるルーズ嵌合によって結合されている。
【0030】
保持器(18)のグリース保持溝(22)は、保持器本体(23)の厚肉部(18a)相当部分に設けられており、グリース保持溝(22)の上端開口は、保持器蓋(24)で覆われている。グリース保持溝(22)の下端は、保持器本体(23)の下端近傍までのびている。
【0031】
保持器蓋(24)の上面内周部には、周方向全周にわたって面取り(26)が施されている。面取り(26)は、上方に向かって広がる開口を保持器蓋(24)の上面に形成するものとされている。保持器本体(23)の下端部は、保持器蓋(24)と同じ形状とされており、その下端面内周部には、同様の面取り(26)が施されている。
【0032】
したがって、図5において、ねじ軸(2)表面に塗布されているグリースがねじ軸(2)の直線移動に伴って図にGで示す部分に付着して、潤滑に寄与できなくなる可能性があるが、この部分に堆積したグリースは、面取り(26)部分から内部に戻りやすくなっている。また、グリース保持溝(22)は、長期にわたってグリースを保持することができる。したがって、グリース保持溝(22)にグリースを封入しておくことで、ボールスプラインのグリース潤滑性を大幅に向上することができる。
【0033】
このモータ付きボールねじ装置(1)は、例えば、自動車の電磁緩衝器用として使用するのに適している。電磁緩衝器は、タイヤから伝わる外力によってねじ軸(2)が軸方向に直線移動し、これに伴って、ボールねじナット(3)および中空軸(5)が回転し、この回転運動をモータ(8)に取り込んで、モータ(8)で発生する電磁力を減衰力として利用するようになっている。
【0034】
上記のモータ付きボールねじ装置(1)は、電磁緩衝器用に限られるものではなく、電動アクチュエータとして使用することもできる。この場合、モータ(8)の回転駆動力をボールねじナット(3)を介してねじ軸(2)の軸方向推力に変換し、推力の軸方向反力を軸受(7)で支持してねじ軸(2)を直線運動させ、ねじ軸(2)に作用する軸方向荷重をボールねじナット(3)で負荷するとともに、トルクをボールスプライン外筒(4)で支持した形態での使用となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、この発明によるボールスプラインが使用されたボールねじ装置を示す縦断面図である。
【図2】図2は、ボールスプライン外筒の横断面図である。
【図3】図3は、保持器本体を示す斜視図である。
【図4】図4は、保持器蓋を示す斜視図である。
【図5】図5は、ボールスプライン外筒の要部の縦断面を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0036】
(2) ねじ軸(軸)
(2b)(2c) スプライン軌道
(4) ボールスプライン外筒
(16) ボール
(17) 外筒本体
(18) 保持器
(21) 戻し通路
(22) グリース保持溝
(26) 面取り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えており、ボールスプライン外筒は、スプライン軌道が形成された略円筒状の外筒本体と、戻し通路が形成されておりかつ外筒本体の内周に嵌め合わされた略円筒状の保持器とを有しているボールスプラインにおいて、
保持器内周に、軸方向にのびるグリース保持溝が形成されていることを特徴とするボールスプライン。
【請求項2】
保持器の少なくとも一方の端部に、グリースを内部に流入しやすくするための面取りが施されていることを特徴とする請求項1のボールスプライン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−112515(P2010−112515A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287361(P2008−287361)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】