説明

ボールバルブ

【課題】キャビティ内で異常昇圧した流体圧力を、確実にリリーフすることができるとともに、キャビティ内の圧力を正常値に保つことができ、かつボール弁体に対する圧力負荷方向に制限されることがないようにボールバルブを提供する
【解決手段】バルブボディ1内の流路2上に形成した、軸線方向に対峙する1対のシールリング3、3を備えるキャビティ4内に、通孔5を有するボール弁体6を収容したボールバルブにおいて、ボール弁体6に、流路2の弁閉状態において、流路2と通孔5とを連通する逃し孔7を設け、この逃し孔7に、リリーフ弁10を設けるとともに、キャビティ4内の流体圧力Pが、リリーフ弁10の設定圧力P0よりも高いときに、リリーフ弁10を開弁して、キャビティ4内の流体圧力Pを、流路2に向けてリリーフしうるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ内の異常昇圧に対するリリーフ機能を備えるボールバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフローティング型ボールバルブは、図7および図8に示すように、バルブボディ01内の流路02上に形成した、軸線方向に対峙する1対のシールリング03、03を備えるキャビティ04内に、通孔05を有するボール弁体06を収容して形成されている。
このようなボールバルブは、通常、弁閉状態において、流路02内における上流側の流体圧力により、ボール弁体06が下流側に押されて、下流側のシールリング03とボール弁体06に対する圧力負荷によって流路02をシールする。
【0003】
図7に示すように、ボール弁体06の上部(または下部)には、キャビティ04と通孔05とを連通する均圧孔07が設けられているか、あるいは図8に示すように、ボール弁体06の側部に、弁閉状態において、通孔05を介して、流路02とキャビティ04とを連通する均圧孔08が設けられている。
これらの均圧孔07、08を設けることにより、通孔05を通してキャビティ04内の流体圧力と、流路02内の流体圧力の均一化を図り、ボールバルブの周囲温度や、流路02を流れる流体温度の上昇によるキャビティ04内における流体圧力の異常昇圧を防止し、シール材等の部品の破損や、流体の漏洩、および作動不良を防止している。
【0004】
しかし、図7に示すように、均圧孔07をボール弁体06の上部(または下部)に設けたものの場合、弁開時には有効であるが、弁閉時には、均圧孔07が流路02と連通されないために、効果がない。
また、図8に示すように、ボール弁体06の側部に均圧孔08を設けたものの場合には、弁の開度に依存せずに有効であるが、弁閉状態において、均圧孔08が流路02の低圧側(下流側)に設置されていると、ボール弁体均06の下流側にシール性がなくなるため、均圧孔08を、流路02の高圧側(上流側)に設けなければならず、ボール弁体06に対する圧力負荷方向、すなわちバルブの設置方向が制限される。
【0005】
また、ボール弁体のシールに、樹脂製シートを用い、このシートにリリーフ機能を持たせたもの(特許文献1参照)は、温度や圧力等の条件によって、確実にリリーフすることができないという問題があった。
【特許文献1】特開2005−48853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記した現状に鑑み、キャビティ内で異常昇圧した流体圧力を、確実にリリーフすることができるとともに、キャビティ内の圧力を正常値に保つことができ、かつバルブの設置方向が制限されることがないようにしたボールバルブを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1) バルブボディ内の流路上に形成した、軸線方向に対峙する1対のシールリングを備えるキャビティ内に、通孔を有するボール弁体を収容したボールバルブにおいて、ボール弁体に、流路の弁閉状態において、流路と通孔とを連通する逃し孔を設け、この逃し孔に、リリーフ弁を設けるとともに、キャビティ内の流体圧力が、リリーフ弁の設定圧力よりも高いときに、リリーフ弁を開弁して、キャビティ内の流体圧力を、流路に向けてリリーフしうるようにする。
【0008】
(2) 上記(1)項において、リリーフ弁を、逃し孔の通孔側を流路側から閉塞する軸線方向に摺動自在な作動杆と、この作動杆を通孔側に向けて付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力を調整する調整部材と、この調整部材を所望の調整位置でロックするロック部材とを備えるものとする。
【0009】
(3) 上記(2)項において、ばね部材を、金属製のものとする。
【0010】
(4) 上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、リリーフ弁に、流路側からボール弁体に向けて負荷される流体圧力をシールする逆止弁機能を持たせる。
【0011】
(5) 上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、リリーフ弁の設定圧力を、通常に使用される最高の流体圧力よりも、1.2〜1.5倍に設定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
請求項1記載の発明によると、ボール弁体に、流路の弁閉状態において、流路と通孔との間を連通する逃し孔を設け、この逃し孔に、リリーフ弁を設けるとともに、キャビティ内の流体圧力が、リリーフ弁の設定圧力よりも高いときに、リリーフ弁を開弁して、キャビティ内の流体圧力を流路に向けてリリーフしうるようにしてあるため、キャビティ内で異常昇圧した流体圧力を、確実にリリーフさせることができるとともに、キャビティ内の圧力を正常値に保つことができ、かつボール弁体に対する圧力負荷方向、すなわちバルブの設置方向が制限されることがない。
【0013】
請求項2記載の発明によると、簡単な構造で、リリーフ弁のリリーフ設定圧力を調整することができる。
【0014】
請求項3記載の発明によると、ばね部材を、金属製のものとしてあるため、リリーフ圧力を設定する際に、温度の影響を受けにくく、設定した流体圧力で確実にリリーフさせることができる。
【0015】
請求項4記載の発明によると、流路側からボール弁体に向けて負荷される流体圧力を、確実にシールすることができるとともに、バルブの設置方向が制限されることがない。
また、異常昇圧したキャビティ内の圧力をリリーフさせる方向を、流路の上流側、下流側のいずれを問わずに定めることができる。
【0016】
請求項5記載の発明によると、リリーフ弁の設定圧力を、調整部材をもってばね部材の強さを調整して、通常に使用される最高の流体圧力よりも、1.2〜1.5倍に設定してあるため、擬似の弁座漏れとなる可能性をなくすことができ、シール材等の部品の破損や流体の漏洩、および作動不良を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態におけるリリーフ弁を備えるボール弁体の弁閉状態を示すボールバルブの縦断面図、図2は、同じく、リリーフ弁を示す要部拡大断面図である。
【0018】
本発明のボールバルブは、図1および図2に示すように、バルブボディ1内の流路2上に、軸線方向に対峙させた1対のシールリング3、3を備えるキャビティ4が形成されている。このキャビティ4内には、通孔5を有するボール弁体6が収容されており、このボール弁体6には、ステム6aの下端が係合されている。
【0019】
ボール弁体6の一側には、流路2の弁閉状態において、流路2と通孔5とを連通する逃し孔7が設けられている。この逃し孔7における流路2側の開口8と通孔5側の小径の開口9との間には、リリーフ弁10が設けられている。
【0020】
リリーフ弁10は、金属製の作動杆11と、金属製のコイルばね12と、調整ねじ13と、ロックねじ14とにより構成されている。
【0021】
作動杆11は、逃し孔7内を軸線方向に摺動自在となっており、逃し孔7における通孔5側の開口9の弁座部9aに、通孔5側に向けて先細の先端部11aを当接させることによって、前記開口9を閉塞しうるようになっている。
【0022】
コイルばね12は、通孔5側の端部12aを、作動杆11の先端部11a側に段付き形成した顎部11bに向けて挿入し係止させることにより、作動杆11を流路2側から通孔5側の開口9に向けて弾性的に押圧し付勢している。
【0023】
調整ねじ13は、コイルばね12の流路2側の端部12bを保持し、流路2側の開口8から、逃し孔7の内周面にねじ切りされた螺合部15に向けて螺合させることにより、コイルばね12の付勢力を調整可能にしている。
【0024】
ロックねじ14は、逃し孔7内に調整ねじ13を螺合した後、流路2側の開口8から、逃し孔7内の螺合部15に螺合させて、調整ねじ13に当接させることにより、調整ねじ13を所望の調整位置でロックしうるようになっている。
【0025】
リリーフ弁10の設定圧力の調整は、次のようにして行われる。
まず、調整ねじ13を回動して軸線方向に移動させ、コイルばね12を伸縮させることにより、作動杆11に対する通孔5側への押圧力を調整し、リリーフ弁10のリリーフ圧力を設定する。
この場合、リリーフ圧力は、通常使用する流体の最高圧力の1.2〜1.5倍の範囲内、更に好ましくは1.2〜1.3倍程度に設定されている。1.2倍未満では、ボールバルブの弁座漏れ規格試験の圧力と同じになるため、試験時に、リリーフしてしまい、擬似の弁座漏れとなる可能性があり、また1.5倍を超える場合は、ボールバルブの耐圧規格試験の圧力に合わせたものとなり、昇圧時におけるキャビティ4内の圧力が高過ぎて、シール材等の部品の破損や流体の漏洩、および作動不良を招くおそれがあるからである。
このように、リリーフ圧力の設定後、ロックねじ14を螺合して、調整ねじ13に当接させることにより、調整ねじ13を所望の調整位置でロックする。
【0026】
図3は、リリーフ弁10による異常昇圧におけるキャビティ4内圧力のリリーフ状態を示す要部拡大断面図、図4は、リリーフ弁10による逆止弁機能を示す要部拡大断面図である。なお、図5は、キャビティ4内に水を満たし、バルブを温水で加温して、キャビティ4内の圧力をリリーフさせた実験結果を示す図である。
【0027】
図3および図5に示すように、キャビティ4内における流体圧力P(MPa)が、異常昇圧になって、リリーフ弁10の設定圧力P0よりも高くなると、作動杆11は、コイルばね12の付勢力に抗して、流路2側に向けて移動し、通孔5側における開口9の弁座部9aを開放することにより、図3に矢印で示すように、キャビティ4内の流体圧力を、流路2に向けてリリーフさせるようになっている。
【0028】
図4および図5に示すように、リリーフ後、キャビティ4内における流体圧力Pが、リリーフ弁10の設定圧力P0よりも低くなると、作動杆11は、コイルばね12の付勢力により、元の位置に復帰して、通孔5側における開口9の弁座部9aを閉塞することにより、キャビティ4内における流体圧力Pの低下を防止し、正常値を維持しうるようになっている。
【0029】
図6は、本発明の第2実施形態におけるリリーフ弁を示す要部拡大断面図である。
第2実施形態のリリーフ弁16は、作動杆17の先端部18を扁平な形状にし、この扁平な先端面18aにシールパッキン19を貼着して、ボール弁体20における通孔21側の開口22を閉塞しうるような構成としてある
これにより、前記第1実施形態のようなシール性に劣るものの、高温から低温、高圧から低圧に使用可能なメタルシール構造のボールバルブに比して、高温、高圧には不向きであるものの、シール性が高くて、容易にシールすることが可能なソフトシール構造のボールバルブとして用いることができる。
【0030】
なお、上記の実施形態においては、ボールバルブだけでなく、キャビティ構造を持つバルブ、例えばゲートバルブ等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態におけるリリーフ弁を備えるボール弁体の弁閉状態を示すボールバルブの縦断面図である。
【図2】同じく、リリーフ弁の要部拡大断面図である。
【図3】リリーフ弁による異常昇圧におけるキャビティ内圧力のリリーフ状態を示す要部拡大断面図である。
【図4】リリーフ弁による逆止弁機能を示す要部拡大断面図である。
【図5】キャビティ内に水を満たし、バルブを温水で加温して、キャビティ内の圧力をリリーフさせた実験結果を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態におけるリリーフ弁を示す要部拡大断面図である。
【図7】従来のボールバルブを示す縦断面図である。
【図8】従来の他のボールバルブを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 バルブボディ
2 流路
3 シールリング
4 キャビティ
5 通孔
6 ボール弁体
6a ステム
7 逃し孔
8 開口
9 開口
9a 弁座部
10 リリーフ弁
11 作動杆
11a 先端部
11b 顎部
12 コイルばね
12a 端部
12b 端部
13 調整ねじ
14 ロックねじ
15 螺合部
16 リリーフ弁
17 作動杆
18 先端部
18a 先端面
19 シールパッキン
20 ボール弁体
21 通孔
22 開口
01 バルブボディ
02 流路
03 シールリング
04 キャビティ
05 通孔
06 ボール弁体
07 均圧孔
08 均圧孔
P キャビティ内圧力
0 設定圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブボディ内の流路上に形成した、軸線方向に対峙する1対のシールリングを備えるキャビティ内に、通孔を有するボール弁体を収容したボールバルブにおいて、
ボール弁体に、流路の弁閉状態において、流路と通孔とを連通する逃し孔を設け、この逃し孔に、リリーフ弁を設けるとともに、
キャビティ内の流体圧力が、リリーフ弁の設定圧力よりも高いときに、リリーフ弁を開弁して、キャビティ内の流体圧力を、流路に向けてリリーフしうるようにしたことを特徴とするボールバルブ。
【請求項2】
リリーフ弁を、逃し孔の通孔側を、流路側から閉塞する軸線方向に摺動自在な作動杆と、この作動杆を通孔側に向けて付勢するばね部材と、このばね部材の付勢力を調整する調整部材と、この調整部材を所望の調整位置でロックするロック部材とを備えるものとしたことを特徴とする請求項1記載のボールバルブ。
【請求項3】
ばね部材を、金属製のものとしたことを特徴とする請求項2記載のボールバルブ。
【請求項4】
リリーフ弁に、流路側からボール弁体に向けて負荷される流体圧力をシールする逆止弁機能を持たせたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のボールバルブ。
【請求項5】
リリーフ弁の設定圧力を、通常に使用される最高の流体圧力よりも、1.2〜1.5倍に設定したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のボールバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−169954(P2008−169954A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5139(P2007−5139)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(390006242)北村バルブ製造株式会社 (9)
【Fターム(参考)】