説明

ボールベアリングおよび支持ユニット

【課題】高温条件下において、縦置き状態の被搬送物を支持するために用いられる場合でも、主球の回転しやすさが低下することがないボールベアリングを提供する。
【解決手段】主球2を回転自在に支持する本体部3と、主球5を外方に突出させる開口部7を有する蓋部4とを備えたボールベアリング10。蓋部4は、延出端13aの内側が開口部7となる内方延出部13を備えている。内方延出部13は、主球2が延出端13aに当接して外方移動が阻止されるように形成されている。内方延出部13の延出端13aから基端側にかけての内面13bは、延出端13aに当接した主球2の当接位置P1の接線L1方向よりも拡径方向の傾斜角度が大きくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイパネルやプラズマディスプレイパネル用のガラス基板などの被搬送物をその搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するボールベアリングおよび支持ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイパネルやプラズマディスプレイパネルなどの製造工場においては、処理室(チャンバー)内において、ガラス基板に、成膜、レジスト塗布、露光、エッチング等の処理が行われる。
上記処理作業や、処理室への搬送作業などには、ガラス基板を支持する支持ユニットが用いられる。
近年では、ガラス基板の大型化に伴い、ガラス基板を縦置きできる支持ユニットが用いられてきている。
図6は、縦置きタイプの支持ユニットの一例を示すもので、この支持ユニット23は、基台21上に立設された支持体22に複数のボールベアリング20を設けて構成されている。
【0003】
図7に示すように、ボールベアリング20は、ガラス基板1を支持する主球2を支持する本体部3と、開口部27を有する蓋部24と、本体部3から延出するネジ固定部8とを備えている。
主球2は、副球5を介して本体部3の支持凹部6に回転自在に支持されている(特許文献1、2参照)。
主球2は開口部27を通して外方(前方)に突出している。開口部27の周縁部内面はほぼ主球2の外面に沿う方向に形成されている。
図6に示すように、ガラス基板1は、縦置き状態でボールベアリング20に支持される。主球2は回転自在であるため、ガラス基板1は一方面1aに沿って変位可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/003001号パンフレット
【特許文献2】特開2005−119838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ボールベアリング20は、縦置き状態のガラス基板1を支持する支持ユニット23に用いられる場合、高温条件下で使用されると、主球2が回転しにくくなり、これを原因としてガラス基板1に跡が残ったり、主球2の摩耗が大きくなることがあった。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、高温条件下において、縦置き状態の被搬送物を支持するために用いられる場合でも、主球の回転しやすさが低下することがないボールベアリングおよび支持ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被搬送物をその搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するボールベアリングであって、前記被搬送物を支持する樹脂製の主球を複数の副球を介して回転自在に支持する球面状の支持凹部を有する本体部と、前記主球を外方に突出させる開口部を有する蓋部とを備え、前記蓋部は、環状に形成された主部と、前記主部から内方に延出し、延出端の内側が前記開口部となる内方延出部とを有し、前記内方延出部は、前記主球が前記延出端に当接することで外方移動が阻止されるように形成され、前記内方延出部の前記延出端から基端側の内面は、前記延出端に当接した主球の当接位置の接線方向よりも拡径方向の傾斜角度が大きくされているボールベアリングを提供する。
前記開口部の内径は、前記主球の外径の60〜96%であることが好ましい。
前記主部には、前記副球の外方移動を阻止する移動阻止壁が形成されていることが好ましい。
前記主部の内面は、前記蓋部の軸方向に沿って形成されていることが好ましい。
前記支持凹部の内半径は、前記主球の外半径と前記副球の外半径の合計より大きくされていることが好ましい。
【0007】
本発明は、基台上に立設された板状の支持体に、上記ボールベアリングが設けられ、前記支持体は、被搬送物をボールベアリングにより支持可能である支持ユニットを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、内方延出部は、内面の傾斜角度が接線の傾斜角度より大きくなるように形成されているので、延出端のみにおいて主球に接する。
主球に対する接触面積が小さくなるため、高温条件下で主球が熱膨張しても、開口部にはまり込んだ状態となりにくい。
従って、主球の回転しやすさが低下することがなく、主球の跡が被搬送物に残ったり、主球の摩耗が大きくなるのを防ぐことができる。
高温条件下において被搬送物を縦置き状態とすると主球が回転しにくくなるという問題が、主球が熱膨張により開口部にはまり込むことを原因として起きていることは、本願発明者によって初めて見出された知見であるため、本発明の技術的意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態であるボールベアリングを示す一部断面図である。
【図2】ボールベアリングの要部を拡大した断面図である。
【図3】ボールベアリングが使用された支持ユニットの概略構成を示す図である。
【図4】主球が内方延出部の延出端に当接した状態のボールベアリングの要部を拡大した断面図である。
【図5】主球が延出端に当接した状態のボールベアリングの要部をさらに拡大した断面図である。
【図6】従来のボールベアリングの一例が使用された支持ユニットの概略構成を示す図である。
【図7】従来のボールベアリングの一例を示す一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態であるボールベアリング10を示す一部断面図である。図2は、ボールベアリング10の要部を拡大した断面図である。図3は、ボールベアリング10が使用された支持ユニット23の概略構成を示す図である。図4は、主球2が延出端13aに当接した状態のボールベアリング10の要部を拡大した断面図である。図5は、主球2が延出端13aに当接した状態のボールベアリング10の要部をさらに拡大した断面図である。
【0011】
図3に示すように、支持ユニット23は、基台21上に立設された板状の支持体22に、1または複数のボールベアリング10が設けられて構成されている。
支持体22は、ガラス基板1をボールベアリング10で支持できるようにされている。
支持体22の角度は、特に限定されず、支持されるガラス基板1の水平面に対する角度α(水平面に対する一方面1aの角度)は0〜360°の範囲で任意に設定できる。
図示例では、支持体22は、基台21に対し垂直よりやや傾いて形成され、ガラス基板1の水平面に対する角度αは、例えば70〜90°とすることができる。
ボールベアリング10は、支持体22の一方面22aに互いに所定の間隔をおいて設けられている。
【0012】
図1および図2に示すように、ボールベアリング10は、ガラス基板1(被搬送物)を支持する主球2を支持する本体部3と、開口部7を有する蓋部4と、本体部3から延出するネジ固定部8とを備えている。
以下の説明において、図1における左方を前方といい、右方を後方と言うことがある。
【0013】
主球2は、複数の副球5を介して、本体部3の支持凹部6に回転自在に支持されている。
主球2は、樹脂製とされる。樹脂製とすることによりガラス基板1の損傷を防止できる。
主球2を構成する樹脂としては、PAI(ポリアミドイミド)、PBI(ポリベンゾイミダゾール)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、メラミン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂(アラミド樹脂)等を採用できる。また、LCP(液晶ポリマー)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルサルフォン)、その他の樹脂を用いることができる。
副球5は、主球2より径が小さい球体であり、ステンレス鋼等の金属、セラミック、樹脂などで形成することができる。副球5は、支持凹部6内に転動自在に設けられている。
【0014】
本体部3は、略円柱状に形成されており、支持凹部6は、本体部3の前面側に形成された球面状の凹部である。
支持凹部6の内半径は、主球2の外半径と副球5の外半径の合計より大きくすることが好ましい。これによって、主球2の外径が熱膨張により大きくなった場合でも主球2の回転が制限されることが起こらない。
【0015】
図2に示すように、本体部3の外面には、周方向に沿う環状係止溝3aと、スパナなどの工具に対応できる一対の平面部3bが形成されている。
図1に示すように、ネジ固定部8は、本体部3の後面側から後方に延出しており、その外周面にネジ部8aが形成され、支持体22の一方面22aに形成された固定孔部22bにネジ込み固定される。
【0016】
図2に示すように、蓋部4は、円環状に形成された主部11と、主部11から後方に延出する円筒状の固定部12と、主部11の前端から内方に延出する内方延出部13とを備えている。
蓋部4は、樹脂、金属などで構成することができる。蓋部4を構成する樹脂としては、PAI、PBI、PCTFE、PEEK、PEI、PI、PPS、メラミン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂(アラミド樹脂)、LCP、PBT、PESなどが挙げられ、主球2と同じ材質であることが好ましい。
固定部12の後端部の内面には、内方に突出した係止部12aが形成され、係止部12aが本体部3の環状係止溝3aに嵌合することによって蓋部4が本体部3に固定される。
【0017】
主部11の内径は支持凹部6の内径より小さくされているため、主部11の下面11aは、支持凹部6の内部空間に臨んで形成されている。
このため、下面11aは、副球5が外方移動により脱落するのを阻止する移動阻止壁となっている。
下面11aは、軸方向(図2における前後方向)に対しほぼ垂直に形成することができる。
下面11aは、副球5の中心が、球面状の支持凹部6の後半球範囲6a内に位置するように形成するのが好ましい。すなわち、半球面をなす支持凹部6の中心6bを通り、かつ軸方向に垂直な平面14と支持凹部6とで構成される空間である後半球範囲6a内に副球5の中心が位置するように、副球5の移動を制限できるように形成することができる。これによって、副球5どうしが離間して主球2の動作が不安定になるのを防ぐことができる。
【0018】
主部11の内面11bは、ほぼ一定の径とし、軸方向に沿って形成するのが好ましい。主部11の内径は主球2の外径より大きくされているため、主球2が延出端13aに当接している状態(図4参照)では主部11は主球2に当接しない。
【0019】
内方延出部13は、主部11の前端から全周にわたり一定長さで内方に延出しており、延出端13aの内側である開口部7は円形となる。
図2に示すように、開口部7の内径R1は主球2の外径R2より小さくされるため、開口部7を通して外方(前方)に突出している主球2は、内方延出部13によって外方移動が制限される。
図4に示すように、内方延出部13は、主球2が延出端13aに当接して外方(前方)移動が阻止されるように形成されている。延出端13aは、内方延出部13の最前部またはそれに近い位置に形成するのが好ましい。
内方延出部13は、主球2が図2に示す後方位置から図4に示す前方位置まで前後方向に移動可能となるように形成されている。
図2に示す後方位置では、主球2は延出端13aから離間しているが、図4に示す前方位置では、主球2は延出端13aに全周にわたって当接している。
【0020】
図2に示すように、開口部7の内径R1は、主球2の外径R2の96%以下とすると、高温条件になっても主球2が開口部7に固定されることが起こりにくくなる。これは、開口部7の内径R1と主球2の外径R2との差が大きいため、主球2が熱膨張しても開口部7にはまり込んだ状態となりにくいためであると考えられる。
開口部7の内径R1は、主球2の外径R2の60%以上とすると、開口部7からの主球2の突出量が十分に確保されるため好ましい。
よって、開口部7の内径R1は、主球2の外径R2に対し60〜96%とすると、主球2の突出量を十分にし、かつ高温条件下での主球2の回転しやすさを確保できる。
【0021】
図5に示すように、内方延出部13の内面13bは、延出端13bから基端部13cにかけて形成された面であり、その軸方向に対する傾斜角度βは、延出端13aに当接した主球2の当接位置P1の接線L1方向よりも拡径方向の傾斜角度が大きくされている。
すなわち、内面13bの傾斜角度βは、接線L1の傾斜角度γより大きくされている。
このため、主球2が延出端13aに当接した状態においては、内方延出部13は延出端13aにおいてのみ主球2に当接する。
【0022】
以下、ボールベアリング10を使用した支持ユニット23の使用方法の例を説明する。
図3に示す支持ユニット23は、例えば液晶ディスプレイパネルやプラズマディスプレイパネルなどの製造工場において、成膜、レジスト塗布、露光、エッチング等の処理を行う処理室(チャンバー)におけるガラス基板の処理、および処理室に対するガラス基板の搬送(搬入、搬出)の際に使用できる。
例えば、処理室の内部や、処理室へのガラス基板の搬入経路または搬出経路などに設置できる。
上記処理は、高温条件下(例えば100℃以上、特に200℃以上(例えば200〜300℃))で行われる。上記処理は、通常、真空環境下で行われる。
【0023】
支持ユニット23では、ガラス基板1がボールベアリング10に支持される。ボールベアリング10はガラス基板1の一方面1aに当接する。
主球2は任意の方向に小さな摩擦抵抗で回転自在であるため、主球2に点接触で支持されたガラス基板1は、一方面1a(搬送面)に沿って任意の方向に小さな摩擦抵抗で移動できる。
【0024】
図3に示す支持ユニット23では、ボールベアリング10は略側方を向くことになるため、上向きとする場合に比べ、主球2は前方移動しやすい(図4参照)。
例えば図7に示すボールベアリング20をこのような使用形態で用いる場合には、主球2が前方移動して開口部27にはまり込むことが起こり得るが、以下に説明するように、本発明に係るボールベアリング10ではこのようなことは起こらない。
【0025】
ボールベアリング10では、内方延出部13は、内面13bの傾斜角度βが接線L1の傾斜角度γより大きくなるように形成されているので、延出端13aのみにおいて主球2に接する。
主球2に対する接触面積が小さくなるため、開口部27の周縁部内面が広い面積で主球2に当接し得るボールベアリング20(図7参照)とは異なり、高温条件下で主球2が熱膨張しても、開口部7にはまり込んだ状態となりにくい。
従って、主球2の回転しやすさが低下することがなく、主球2の跡がガラス基板1に残ったり、主球2の摩耗が大きくなるのを防ぐことができる。
【0026】
本願発明者は、高温条件下においてガラス基板を縦置き状態とすると、主球が開口部にはまり込むことを原因として主球が回転しにくくなることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
高温条件下においてガラス基板を縦置き状態とすると主球が回転しにくくなるという問題が、主球が熱膨張により開口部にはまり込むことを原因として起きていることは、本願発明者によって初めて見出された知見であり、本発明の技術的意義は大きい。
【0027】
本発明の作用効果を確認するため、図1に示すボールベアリング10を下向き(図1に示す前方を下方に向けた状態)として、ボールベアリング10を100℃から徐々に温度を高め、300℃に到達させる条件下に置く試験を行った。
主球2の外径は9.52mm(常温)とし、蓋部4の開口部7の内径は7.6mm(常温)とした。主球2および蓋部4はいずれもPI製とした。
内方延出部13の内面13bの傾斜角度βは50.2°であり、当接位置P1における接線L1の傾斜角度より大きいことが確認された。
この試験の結果、主球2は開口部7にはまり込む状態にならず、主球2の回転性が良好な状態に維持されたことが確認された。
【0028】
なお、本発明のボールベアリングの適用対象としては、液晶ディスプレイパネルやプラズマディスプレイパネル用のガラス基板に限らず、シリコン基板、セラミック基板、金属基板などであってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1・・・ガラス基板(被搬送物)、1a・・・一方面(搬送面)、2・・・主球、3・・・本体部、4・・・蓋部、5・・・副球、6・・・支持凹部、7・・・開口部、10・・・ボールベアリング、11・・・主部、11a・・・主部の下面(移動阻止壁)、11b・・・主部の内面、13・・・内方延出部、13a・・・延出端、13b・・・内方延出部の内面、21・・・基台、22・・・支持体、23・・・支持ユニット、L1・・・当接位置における接線、P1・・・当接位置、R1・・・開口部の内径、R2・・・主球の外径、β・・・内方延出部の内面の傾斜角度、γ・・・当接位置における接線の傾斜角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被搬送物をその搬送面に沿って任意の方向に変位可能に支持するボールベアリングであって、
前記被搬送物を支持する樹脂製の主球を複数の副球を介して回転自在に支持する球面状の支持凹部を有する本体部と、前記主球を外方に突出させる開口部を有する蓋部とを備え、
前記蓋部は、環状に形成された主部と、前記主部から内方に延出して延出端の内側が前記開口部となる内方延出部とを有し、
前記内方延出部は、前記主球が前記延出端に当接することで外方移動が阻止されるように形成され、
前記内方延出部の前記延出端から基端側の内面は、前記延出端に当接した主球の当接位置の接線方向よりも拡径方向の傾斜角度が大きくされていることを特徴とするボールベアリング。
【請求項2】
前記開口部の内径は、前記主球の外径の60〜96%であることを特徴とする請求項1に記載のボールベアリング。
【請求項3】
前記主部には、前記副球の外方移動を阻止する移動阻止壁が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のボールベアリング。
【請求項4】
前記主部の内面は、前記蓋部の軸方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のボールベアリング。
【請求項5】
前記支持凹部の内半径は、前記主球の外半径と前記副球の外半径の合計より大きくされていることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のボールベアリング。
【請求項6】
基台上に立設された板状の支持体に、請求項1〜5のうちいずれか1項に記載のボールベアリングが設けられ、
前記支持体は、被搬送物をボールベアリングにより支持可能であることを特徴とする支持ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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